説明

スピンドルモータ、及びこのスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置

【課題】 スピンドルモータの低価格化を実現すると共に、使用環境の変化に関わらず、スピンドルモータの消費電力量を増大させることなく安定した軸受剛性を確保し、且つ高温環境下でのオイルのモータ外部への流出を防止して信頼性並びに耐久性を向上させる。
【解決手段】 フルフィル構造の流体動圧軸受を有するスピンドルモータであって、軸受ハウジング4の上部外周面と、ロータ上壁部16aに固定された環状部材30の内周面との間の半径方向微少間隙にテーパシール部32を構成する。また、環状部材30をプレス加工によって成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体動圧軸受を用いたスピンドルモータ、及びこのスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ハードディスク駆動装置、リムーバブルディスク駆動装置等において、記録ディスクを駆動するモータの軸受として、モータ回転時に、シャフトとスリーブとの間隙に保持されるオイル等の潤滑流体に発生させた動圧を利用する流体動圧軸受が用いられ、種々提案されている。
【0003】
この従来のモータは、図9に示すように、シャフト102の外周面とスリーブ104の内周面との間の間隙に軸線方向に離設された一対のラジアル軸受部106を形成すると共に、シャフト102に一体に固定されたスラストプレート108の上下端面とこれと軸線方向に対向するスリーブ104の下面及びカウンタープレート110の上面との間隙に、それぞれ上部及び下部スラスト軸受部112、113を形成している。
【0004】
更に、この従来のモータは、スリーブ104の内周面とシャフト102の外周面との内、シャフト102の上部外周面をラジアル軸受部106から離れるに従い漸次縮径させることで、シャフト102とシャフト102の上部に固定されるロータハブ114との嵌合部116とラジアル軸受部106との間にキャピラリーシール部118を形成している。キャピラリーシール部118は、このキャピラリーシール部118内に保持されるオイルの気液界面の形成位置によって毛細管力に格差を生じさせ、ラジアル軸受部106及び上部及び下部スラスト軸受部112、113で保持するオイルの量が減少した場合には、キャピラリーシール部118からラジアル軸受部106と上部及び下部スラスト軸受部112、113へとオイルを供給する。また、キャピラリーシール部118は、モータの回転に伴うスピンドルモータの温度上昇によって、ラジアル軸受部106と上部及び下部スラスト軸受部112、113内に保持されるオイルの体積が増加した場合には、その増加分を収容する。
【0005】
このように、ラジアル軸受部106と上部及び下部スラスト軸受部112、113とキャピラリーシール部118とを形成する微小間隙には、オイルが途切れることなく連続して保持されている(このようなオイル保持構造を、以下「フルフィル構造」と記す)。モータが回転すると、ラジアル軸受部106と上部及び下部スラスト軸受部112、113において動圧が発生し、スリーブ104がシャフト102及びロータハブ114を非接触にて回転自在に支持する(このような従来のモータの一例として、特許文献1を参照)。
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0197975号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、パソコン等の機器に使用されていた記録ディスク駆動装置は、より小型で持ち運べる情報端末への適用が開始されており、スピンドルモータに対しては、これまでの高速且つ高精度な回転に加え、より小型且つ薄型並びに低消費電力化が望まれるようになってきた。
【0008】
しかしながら、スピンドルモータを小型且つ薄型化しようとした場合、上述の構成では、嵌合部116と、キャピラリーシール部118と、一対のラジアル軸受部106と上部及び下部スラスト軸受部112、113とが軸線方向に並列に構成されているため、スピンドルモータを小型且つ薄型化することは困難である。
【0009】
即ち、スピンドルモータの小型且つ薄型化の要求に対し、一対のラジアル軸受部106の軸受剛性を確保しようとすると、嵌合部116と上部及び下部スラスト軸受部112、113との軸線方向寸法の確保が困難となる。嵌合部116の軸線方向寸法が短くなると、シャフト102とロータハブ114との締結強度が弱まり、モータ回転時にロータハブ114の平行度が失われロータハブ114が振れ回ってしまい、安定した回転が得られなくなる。
【0010】
一方、嵌合部116の軸線方向寸法を確保しようとすると、一対のラジアル軸受部106の軸線方向寸法が短くなり、軸受剛性が弱まり、安定してシャフト102を支持できなくなる。シャフト102及びロータハブ114の回転精度や姿勢の保持は、専ら一対のラジアル軸受部106に依存するため、一対のラジアル軸受部106の軸線方向間隔を十分にとる必要がある。従って、前述のモータでは、要求される回転精度を維持しながらスピンドルモータを小型且つ薄型化することは非常に困難である。
【0011】
加えて、一対のラジアル軸受部106と嵌合部116との軸線方向寸法を確保しようとすると、上部及び下部スラスト軸受部112、113の軸受剛性の確保が困難となる。前述のモータではシャフト102の端部にスラストプレート108が固定されており、このスラストプレート108の上下端面に形成される上部及び下部スラスト軸受部112、113で発生する軸線方向の荷重支持力によって、シャフト102及びロータハブ114の軸線方向の移動が規制されシャフト102及びロータハブ114の浮上が安定する。
【0012】
ところが、上部及び下部スラスト軸受部112、113を薄型化しようとして、スラストプレート108の軸線方向寸法を薄くすると、上部及び下部スラスト軸受部112、113で安定した軸線方向の荷重支持力を得ることができず、上部及び下部スラスト軸受部112、113の軸受剛性が低下してしまうため、シャフト102及びロータハブ114の過浮上等が発生して、シャフト102及びロータハブ114を安定して支持することが困難となる。
【0013】
更に、近年記録ディスク駆動装置は、カーナビゲーションシステムに代表される車載用機器にも搭載が開始されてきている。ところが車載用機器の場合、記録ディスク駆動装置が様々な環境下での使用が予想されることから、記録ディスク駆動装置に対しても非常に広い温度範囲で安定して動作することが要求されている。例えば、記録ディスク駆動装置に対しては、温度差が100℃以上の環境下においても使用が可能である、というこれまでに無い厳しい温度環境下での使用が要求される。
【0014】
周知のとおり、高温環境下ではオイルの粘性が低下するので発生する動圧も低下し、結果的に所定の軸受剛性を得ることが困難である。このようなオイルの粘性低下を回避するために高粘度のオイルを使用すると、低温環境下では粘性過多となりモータの回転負荷が増大するのでモータの消費電力量が増大してしまう。従って、幅広い温度範囲で流体動圧軸受を用いたモータを適用可能とするためには、低温環境下でのモータの消費電力量の増加を抑制しながら高温環境下における軸受剛性の低下を防止するという相反する課題を同時に解決する必要がある。また高温環境下では、オイルの粘性が低下すると共に熱膨張によってオイルの体積が増加する。そのため、各流体動圧軸受部に保持されていたオイルは、体積増加した分だけ各流体動圧軸受部からキャピラリーシール部118へと押し出される。この時、モータの小型且つ薄型化という寸法上の制約から、キャピラリーシール部118の軸線方向寸法が制限され容積を十分に確保することができない場合、キャピラリーシール部118内に流入するオイルを収容しきれずに、オイルがキャピラリーシール部118の外部に流出する場合がある。流出したオイルが、駆動装置側のハードディスクやこれに近接配置された磁気ヘッドに付着すると、リード/ライトエラーを引き起こす原因となる。
【0015】
これに対し、キャピラリーシール部118の軸線方向寸法を十分に確保して前述の体積増加した分のオイルを保持しようとすると、キャピラリーシール部118と軸線方向に並列配置されている一対のラジアル軸受部106の軸線方向寸法が制約され、ラジアル軸受部106の軸受剛性の確保が困難となる。加えて、同じくキャピラリーシール部118と軸線方向に並列配置されているシャフト102とロータハブ114との嵌合部116の軸線方向寸法の確保も困難となる。
【0016】
上記従来技術の有していた様々な問題点を鑑み、本発明は、以下の技術的課題を解決することを目的とする。
【0017】
(1)ラジアル動圧軸受部及びスラスト動圧軸受部の軸受剛性、及びキャピラリーシール部の軸線方向寸法を確保し、且つモータ全体の小型且つ薄型化を実現する。
【0018】
(2)スピンドルモータの低価格化を実現する。
【0019】
(3)使用環境の変化に関わらず、モータの消費電力量を増大させることなく安定した軸受剛性を確保し、且つ高温環境下でのオイルのモータ外部への流出を防止して信頼性並びに耐久性を向上する。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するために本発明の請求項1のスピンドルモータは、シャフトとロータハブと環状部材を含むロータ部と、軸受部材とブラケットとステータを含む固定部とから構成され、前記ロータ部が回転中心軸と略同軸上で回転するスピンドルモータであって、
ロータハブは、シャフトの上端部に固定されたロータ上壁部と、ロータ上壁部の外周縁から円筒状に垂下するロータ周壁部とを有し、環状部材は、ロータ上壁部の下面に固定され、下方に垂下する略円錐面状のプレス成形部材であって、
軸受部材の外周下部にはステータが固定されるブラケットが固定配置され、軸受部材は、シャフトの外周面と第一の微小間隙を介して対向する軸受部材内周面と、ロータ上壁部の下面の一部と第二の微小間隙を介して対向する軸受部材上端面と、環状部材の内周面に第三の微小間隙を介して対向する軸受部材外周面と有し、第一乃至第三の微小間隙には連続して潤滑流体により満たされることで軸受部を構成しており、第三の微小間隙は軸線方向下方に向かうに従って半径方向の間隙幅が徐々に広くなるキャピラリーシール部を有しており、且つ軸受部内の潤滑流体はキャピラリーシール部内にて空気との界面を有していることを特徴とする。
【0021】
請求項2記載のスピンドルモータは、キャピラリーシール部を構成する環状部材の内周面は、回転中心軸からの距離が、ロータ上壁部から軸線方向下方に向かって漸次減少する部分を含んでいることを特徴とする。
【0022】
請求項3記載のスピンドルモータは、軸受部材の外周部には、キャピラリーシール部より軸線方向上方に位置すると共に、キャピラリーシール部より半径方向外方に張り出したフランジ部が形成され、環状部材には、ロータハブが軸受部材から離れる方向に移動した際にフランジ部と当接する係止部が形成されていることを特徴とする。
【0023】
請求項4記載のスピンドルモータは、ブラケットは、環状部材の外周面と第4の微少間隙を介し対向する円筒部を有し、第4の微少間隙は、軸線方向上方に向かうに従って半径方向の間隙幅が徐々に狭くなるラビリンスシール部を有していることを特徴とする。
【0024】
請求項5記載のスピンドルモータは、環状部材は、軸受部材より熱膨張係数の高い部材によって形成されていることを特徴とする。
【0025】
請求項6記載のスピンドルモータは、ロータハブの上壁部下面の環状部材より半径方向外方には、上壁部から下方に突出する突出部が形成され、突出部を半径方向内方に塑性変形させることにより、環状部材はロータハブに固定されていることを特徴とする。
【0026】
請求項7記載のスピンドルモータは、ロータハブのロータ上壁部下面の環状部材より半径方向外方には、ロータ上壁部から下方に突出する突出部が形成され、環状部材を突出部に指向性エネルギービームを照射することにより溶接して固定したことを特徴とする。
【0027】
請求項8記載のスピンドルモータは、ロータ上壁部下面の環状部材より半径方向外方には、ロータ上壁部から下方へ突出し、環状部材と当接する締結部を有する突出部が形成され、締結部は、接着剤により封止されていることを特徴とする。
【0028】
請求項9記載のスピンドルモータは、軸受部材は、軸受穴を有しオイルを含浸した多孔質焼結体のスリーブと、スリーブの外周部に位置する有底円筒状の軸受ハウジングとから構成され、スリーブ及び軸受ハウジングの上端面とロータハブのロータ上壁部の下面から、スリーブの内周面とシャフトの外周面、並びにスリーブの下端面と軸受ハウジングの底面との間には、キャピラリーシール部に連続する微少間隙が形成され、該微少間隙内には、オイルが途切れることなく連続して充填されており、
スリーブの内周面及びシャフトの外周面とのいずれか一方の面には、ロータ部を半径方向から回転支持する動圧発生溝が設けられ、ラジアル動圧軸受部が構成され、
軸受ハウジングの上端面及びロータハブのロータ上壁部の下面とのいずれか一方の面には、ロータ部を軸線方向から回転支持する動圧発生溝が設けられ、スラスト動圧軸受部が構成されていることを特徴とする。
【0029】
請求項10記載のスピンドルモータでは、ロータハブと軸受部材とを含むロータ部と、シャフトと環状部材とブラケットとステータとを含む固定部とから構成され、ロータ部が回転中心軸と略同軸上で回転するスピンドルモータであって、
ロータハブは、軸受部材の上端部に固定されたロータ上壁部と、該ロータ上壁部の外周縁から円筒状に垂下するロータ周壁部とを有し、環状部材は、ブラケットの上面に固定され、上方に伸びる略円錐面状のプレス成形部材であって、シャフトの外周下部にはステータが固定されるブラケットが固定配置され、軸受部材は、シャフトの外周面と第一の微小間隙を介して対向する軸受部材内周面と、ブラケットの上面の一部と第二の微小間隙を介して対向する軸受部材下端面と、環状部材の内周面に第三の微小間隙を介して対向する軸受部材外周面と有し、第一乃至第三の微小間隙には連続して潤滑流体により満たされることで軸受部を構成しており、
第三の微小間隙は軸線方向上方に向かうに従って半径方向の間隙幅が徐々に広くなるキャピラリーシール部を有しており、且つ軸受部内の潤滑流体はキャピラリーシール部内にて空気との界面を有していることを特徴とする。
【0030】
請求項11記載の記録ディスク駆動装置は、ハウジングと、ハウジング内部に固定され、記録媒体を回転させるスピンドルモータと、記録媒体の所要の位置に情報を書き込みまたは読み出すための情報アクセス手段と、を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0031】
請求項1及び10記載のスピンドルモータでは、環状部材をプレス加工によって成形することにより、製造コストを低減することができる。また、軸受部材の半径方向外方にキャピラリーシール部を形成することにより、回転中心軸と同一線上にキャピラリーシール部を形成する構造に比べ、モータ全体を薄型・小型化することができ、且つキャピラリーシール部の軸線方向寸法及び容積を十分に確保することができる。
【0032】
請求項2記載のスピンドルモータでは、環状部材の内周面の回転中心軸からの距離が、ロータハブのロータ上壁部から軸線方向下方に向かって漸次減少する部分を含んでいることにより、キャピラリーシール部に形成されるオイルの界面も、回転中心軸に対する傾斜角に応じ半径方向内方に向いて形成される。従って、モータの回転時には、遠心力によって界面がロータ上壁部側に押圧されることとなり、シール強度が強化される。結果、高速回転するスピンドルモータにおいても、キャピラリーシール部からのオイルの流出が阻止される。
【0033】
請求項3記載のスピンドルモータでは、軸受部材の外周部にはフランジ部が形成され、ロータハブが軸受部材から離れる方向に移動した際にフランジ部と環状部材に形成された係止部が当接することにより、ロータハブの抜け止めを構成することができる。
【0034】
このようにキャピラリーシール部だけでなく、ロータハブの抜け止めも軸受部材の外周部に形成することで、軸受部材の内周面と対向するシャフトの外周面全体を軸受として利用可能になるので、十分な軸受剛性を確保することができ、モータの更に小型・薄型化した場合であってもNRROの悪化を防止することができると共に、外乱に起因する歳差運動等のロータハブの触れ回りの回復を短時間で行うことができるようになる。
【0035】
請求項4記載のスピンドルモータでは、環状部材の外周面と、この外周面と半径方向に対向するブラケットの円筒部の内周面と、の間に規定される半径方向の第4の微小間隙の間隙寸法を、軸線方向上方に向かって漸次狭くなるように形成することにより、モータの回転時に、この半径方向の微小間隙における空気の流速とキャピラリーシール部に規定される半径方向の間隙における空気との流速との差が大きくなり、オイルが気化することによって生じた蒸気の外部への流出抵抗を大きくしてオイルの境界面近傍における蒸気圧を高く保ち、更なるオイルの蒸散を防止するよう、ラビリンスシールとして機能させることができる。
【0036】
請求項5記載のスピンドルモータでは、環状部材を、軸受部材より熱膨張係数の高い部材によって形成することにより、高温環境下では、環状部材は半径方向及び軸線方向に熱膨張する。この時、熱膨張係数の関係から環状部材の熱膨張量が軸受部材の熱膨張量を上回ることとなるので、環状部材と対向する軸受部材との間隙寸法が小となり、熱膨張によってオイルの粘性が低下しても、軸受剛性の低下を防止することが可能になる。従って、モータの消費電力量を増大させることなく軸受穴に形成される所定の軸受剛性を確保することができる。
【0037】
請求項6、7及び8記載のスピンドルモータでは、ロータ上壁部に環状部材を強固に固定することができる。
【0038】
請求項9記載のスピンドルモータでは、スラスト動圧軸受部をラジアル動圧軸受部の半径方向外方に設けることにより、限られた寸法内でラジアル動圧軸受部を設けることができるので薄型のモータであっても十分な軸保持力を確保することが可能になる。また、スラスト動圧軸受部を軸受ハウジングの上端面とロータハブの上壁部の下面との間に一つのみ設けることにより、構成される軸受の数が減少し、軸受部に保持されたオイルの粘性抵抗が低減され、モータの電気的効率向上させることができる。
【0039】
請求項11記載のディスク駆動装置では、薄型及び小型化並びに低消費電力化できると同時に、スピンドルモータの安定性及び信頼性並びに耐久性を改善されるので、信頼性の高いディスク駆動装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明に係るスピンドルモータ、及びこのスピンドルモータを備えたディスク駆動装置を図1乃至図8を参照して説明する。尚、本発明の説明の実施形態では便宜上各図面の上下方向を「上下方向」とするが、実際の取付状態における方向を限定するものではない。
【0041】
<第一実施形態>
<スピンドルモータの全体構造>
図1は本発明の第一実施形態を示すスピンドルモータの断面図である。図1に示すように、本実施形態に係るスピンドルモータは、基本的には、ブラケット2と、これに固定される軸受部材3と、この軸受部材3によって回転自在に支持されるロータ10とから構成されている。
【0042】
固定部を構成するブラケット2の中央部には、軸受部材が嵌合固定される中心孔の周囲に環状のボス部2aが設けられており、このボス部2aには、円筒部2bが形成されている。円筒部2bの外周部にはステータ12が圧入及び/又は接着等によって固定され、内周部には軸受部材が圧入及び/又は接着によって固定されている。
【0043】
軸受部材3は、軸受ハウジング4とこの軸受ハウジング4の内周に固定されたスリーブ6とを備えている。軸受ハウジング4は、円板部材をプレス加工によって成形した一方開口の有底円筒状部材であり、軸受ハウジング4の内周面には、中心部に軸線方向に貫通する軸受穴を有する円筒状のスリーブ6が接着剤等の手段によって固定されている。このスリーブ6は、オイルが含浸された多孔質焼結体から成形され、その材質は特に限定するものではなく、各種金属粉末や金属化合物粉末、非金属粉末を原料として成型、焼結したものが使用される。原料としては、Fe−Cu、Cu−Sn、Cu−Sn−Pb、Fe−Cなどを含有する。尚、このような軸受ハウジング4及びスリーブ6の材質は上記に限定するものではなく、例えば銅や銅合金、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、樹脂等からも成形可能である。
【0044】
ロータ部であるロータ10は、スリーブ6の内周面と半径方向に間隙を介し対向するシャフト14と、このシャフト14の上端側に配置される略カップ状のロータハブ16とを備えている。ロータハブ16は、軸受ハウジング4及びスリーブ6の上端面と軸線方向に対向するロータ上壁部16aと、ロータ上壁部16aの外周部から軸線方向に垂下するロータ周壁部16bと、ロータ周壁部16bの下方に位置しロータ周壁部16bの外周面より半径方向外方に張り出した鍔部16cとを備えている。ロータ周壁部16bの外周面及び鍔部16cには、ハードディスク(図8において符号76と図示する)が当接及び載置され、またロータ周壁部16bの内周面には、ロータマグネット18が接着剤等により固着されている。このようなロータハブ18の材質は特に限定するものではなく、例えば、銅や銅合金、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等から成形可能である。
【0045】
このような構成においては、シャフト14の外周面とスリーブ6の内周面との微少間隙と、ロータハブ16のロータ上壁部16aの下面と軸受ハウジング4及びスリーブ6の上端面との微少間隙と、スリーブ6の下端面及びシャフト14の下端面と軸受ハウジング4の底面との微少間隙とは連続しており、その連続した微少間隙には、潤滑流体としてオイルが途切れることなく保持されておりフルフィル構造を構成する。
【0046】
<軸受構造>
スリーブ6の内周面とシャフト14の外周面との半径方向の第一微少間隙には、上部ラジアル動圧軸受部20及び下部ラジアル動圧軸受部22が軸線方向に離間されて設けられている。上部ラジアル動圧軸受部20及び下部ラジアル動圧軸受部22は、スリーブ6の内周面と、シャフト14の外周面と、半径方向に対向する両部材間に保持されているオイルとから構成されている。
【0047】
上部及び下部ラジアル動圧軸受部20、22を構成する部位には、相反する方向に傾斜する、一対のスパイラル溝部を連結して構成される断面略「く」の字状のヘリングボーン溝6a、6bがそれぞれ形成され、ロータ10が回転すると、オイルに上部及び下部ラジアル動圧軸受部20、22の軸線方向両端部から略中央部に向かう圧力が誘起される。この上部及び下部ラジアル動圧軸受部20、22では軸受部の中央部へと流動したオイルは、上部及び下部ラジアル動圧軸受部22の略中央部にて最大圧力となりロータ10を支持する。
【0048】
次にスラスト動圧軸受部24について図2を参照に説明する。図2は軸受部材3の上端面を示す図である。軸受部材3の上端面とロータハブ16のロータ上壁部16aの下面との第二微少間隙には、スラスト動圧軸受部24が設けられている。スラスト動圧軸受部24は、軸受ハウジング4の上端面及びスリーブ6の上端面と、ロータハブ16のロータ上壁部16aの下面と、これらの軸線方向に対向する両部材間の第二微少間隙に保持されているオイルとから構成されている。軸受ハウジング4の上端面には、図2に示すようにポンプイン形状のスパイラル溝4aが形成されている。従って、モータ回転時には、スラスト動圧軸受部24では、スパイラル溝4aにより半径方向内方への圧力が誘起され、スパイラル溝4aの中心部、即ちシャフト14の上部外周面付近にて最大圧力となると共に、この圧力によりオイルの内圧が高められ、ロータ10が軸線方向上方へ浮上するよう作用する流体動圧が発生する。
【0049】
このように、スラスト動圧軸受部24を上部及び下部ラジアル動圧軸受部20、22の半径方向外方に設けることにより、限られた寸法内で上部及び下部ラジアル動圧軸受部20、22を設けることができるので薄型のモータであっても十分な軸保持力を確保することが可能になる。また、スラスト動圧軸受部24を軸受ハウジング4の上端面とロータハブ16の上壁部16aの下面との間に一つのみ設けることにより、構成される軸受の数が減少し、軸受部に保持されたオイルの粘性抵抗が低減され、モータの電気的効率向上させることができる。
【0050】
<キャピラリーシール部32及び環状部材30の構成>
図3に示すように、軸受ハウジング4の上部外周面には、軸受ハウジング4の上端面から回転中心軸に向かって傾斜する傾斜面4bと、この傾斜面4bと軸受ハウジング4の上端面との間に配置され傾斜面4bより半径方向に張り出したフランジ部4cと、が形成されている。
【0051】
また、ロータハブ16のロータ上壁部16aの下面には、軸受ハウジング4より半径方向外方に配置されブラケット2側に突出する突出部16dが設けられている。そして、この突出部16dの内周部には、円板部材をプレス加工によって成形した略円錐状の環状部材30が固定されている。
【0052】
環状部材30は、軸受ハウジング4の傾斜面4bの外周面と半径方向に対向する内周面を有する柱部30aと、柱部30aより軸線方向上方に配置され柱部30aに連接する略L字状の係止部30bと、係止部30bの上部に位置し係止部30bに連接すると共にロータハブ16のロータ上壁部16aに固定される結合部30cとを備えている。
【0053】
環状部材30の柱部30aの内周面と軸受ハウジングの4の傾斜面4bの外周面との間の第三微少間隙に規定される間隙寸法は、ロータ上壁部16aの下面から回転中心軸に向かって拡径しており、つまり軸受ハウジング4の外周面と環状部材30の柱部30aの内周面とが協働してキャピラリーシール部32を構成している。そして、上述した各動圧軸受部に保持されるオイルは、このキャピラリーシール部32においてのみ、オイルの表面張力と外気圧とがバランスされ、オイルと空気との界面とがメニスカス状に形成されている。
【0054】
なお、本実施形態においては、軸受ハウジング4の傾斜面4bの傾斜角は、回転中心軸に対して約2度〜30度、好ましくは約10度〜20度の範囲に設定され、また環状部材30の柱部30aの内周面の傾斜角は、回転中心軸に対して約0度〜20度、好ましくは約5度〜15度の範囲に設定されている。
【0055】
上記のように、軸受ハウジング4の傾斜面4bの傾斜角と環状部材30の柱部30aの内周面の傾斜角とが、回転中心軸に対してそれぞれ異なる傾斜角を有することで、キャピラリーシール部32自体も半径方向内方に向かって傾斜した構成となる。
【0056】
従って、キャピラリーシール部32に形成されるオイルの界面も、キャピラリーシール部32の回転中心軸に対する傾斜角に応じて半径方向内方に向く構成となる。そのため、モータの回転時には、遠心力によってオイルの界面がロータハブ16のロータ上壁部16a側に押圧されることとなり、シール強度が強化される。従って、スピンドルモータの高速回転においても、キャピラリーシール部32からのオイルの流出を確実に防止することができる。
【0057】
加えて、キャピラリーシール部32を回転中心軸に対して傾斜させる構成とすることで、薄型のスピンドルモータにおいても、回転中心軸と同一線上にキャピラリーシール部を構成する場合に比べ、キャピラリーシール部32を構成するテーパ状の間隙を長く取ることが可能となりキャピラリーシール部30に保持されるオイルの容量を増大させることができ、モータの回転時においてキャピラリーシール部32内へのオイルの流入量が増大しても十分追随可能となる。
【0058】
また、環状部材30をプレス加工によって成形することにより、部品コスト及び部品を成形するコストを低減することができる。更に、環状部材30の柱部30aを結合部30cより内周側に設け、且つ回転中心軸に対し傾斜する形状とすることでプレス加工の工数を少なくすることができる。即ち、柱部30aは、複数回の絞り加工によって平板状の成形材の一部を立設させて形成されるが、例えば結合部30cに対し柱部30aをほぼ垂直に立設させるより、結合部30cに対し傾斜させて立設するほうが絞り加工の回数を低減できるためである。
【0059】
軸受ハウジング4のフランジ部4cと軸線方向及び半径方向に対向する部位には、前述の通り柱部30aと一体成形された係止部30bが設けられている。係止部30bは、柱部30aと連接しフランジ部4cの下端面と半径方向に略平行する平坦面30b1と、平坦面30b1に連接しフランジ部4cより半径方向外方に配置された軸線方向に伸びる内周面30b2と、を有している。フランジ部4cと係止部30bの内周面30b2との半径方向間隙、及びフランジ部4cの下面と係止部30bの平坦面30b1との軸線方向間隙にはオイルが連続して保持されていると共に、その保持されているオイルはキャピラリーシール部32及びスラスト動圧軸受部24に保持されたオイルと連続している。そして、係止部30bの平坦面30b1をフランジ部4cより軸線方向下方に配置させることにより、ロータ10の回転時、ロータ10が固定部から抜け出ることが防止される。
【0060】
このように、キャピラリーシール部32だけでなく、ロータ10の抜けを防止する機構も上部及び下部ラジアル動圧軸受部20,22の半径方向外方に設けることで、モータの更なる薄型化が可能になるばかりでなく、モータの薄型化が促進された場合であっても、上部及び下部ラジアル動圧軸受部20、22の軸線方向の間隙を長く設定することが可能となる。従って、シャフト4の外周面のうちスリーブ6の内周面に位置する部位全体を軸受部として利用できるため、十分な軸受剛性を得ることができ、ロータ10を一層安定して回転保持できる。
【0061】
加えて、オイルで満たされた領域にロータ10の抜けを防止する機構を構成することで、例えば、モータに外的な振動や衝撃等の外乱が加えられた場合であっても、オイルの持つダンピング特性によって外乱による衝撃が減衰され、平坦面30b1とフランジ部4cとの接触時の損傷を最小限に留めることができる。また、万一接触して摩耗粉等のパーティクルが生じたとしても、これらのパーティクルが直ちに軸受部の外へ飛散することはない。
【0062】
環状部材30の係止部30bの上部には、係止部30bより半径方向外方に延出する結合部30cが係止部30bと一体成形されて設けられている。ここで、結合部30cを有する環状部材30のロータハブ16への固定方法を図4を参照して説明する。図4は、環状部材30とロータハブ16との固定を示す、図1の一部を拡大した部分拡大断面図である。
【0063】
まず、環状部材30をロータ上壁部16aの突出部16dに嵌挿する。なお、このとき、結合部30cの下端面(図4では上端)を突出部16dの下端面(図4では上端)と半径方向に略面一に配置させる。
【0064】
次に、ロータハブ16を治具(不図示)に固定した状態で治具を回転させる。そしてこの回転状態で、結合部30cの外周面と突出部16dの内周面とが当接する締結部34に、その締結部34の軸線方向略延長線上に照射口50を配し、指向性エネルギービームとしてレーザを照射して、締結部34を周方向に溶接する。このレーザ溶接は他の溶接、例えばアーク溶接や抵抗溶接に比べて、少ない入熱で高い締結強度を確保でき、真空装置を必要としない点で取り扱いも容易であり、良好な指向性による局所的な溶接を可能にする。
【0065】
このように、環状部材30を突出部16dにレーザを照射して溶接することにより、接着剤等の固定手段に比べ高い部材間の締結強度を得ることができ、より強固に固定することができる。
【0066】
とりわけ、固定手段にレーザ溶接を用いることにより、環状部材30とロータハブ16とを熱膨張係数の異なる異種の部材から構成しても、安定した締結強度を得ることができるので、より強固に固定することができる。
【0067】
また、環状部材30の下端面及びロータハブ16の突出部16dの下端面を半径方向に面一にすると共に、両部材の締結部34の軸線方向略延長線上からレーザを照射することにより、環状部材30の結合部30cの外周面と突出部16dの内周面との軸線方向当接面に沿って溶接されていくため、溶接による両部材の締結長を長く取ることができ、両部材の締結強度をより一層強固とすることができると共に、耐衝撃性を向上させることができる。また、レーザ溶接を締結部34に対して周方向に行うことにより、締結部34からオイルが飛散することを防ぐこともできる。また、ロータハブ16の突出部16dの半径方向内方及び半径方向外方には、上壁部16aの下面から上面へと窪む凹部16e、16eが形成されており、この凹部16e,16eにより、環状部材30の突出部16dへの圧入時の応力、及びレーザ溶接による歪みによるロータハブ16の偏心を防止することができる。
【0068】
なお、溶接は大きな入熱を伴うため、溶接部位を冷却する冷却手段として冷却用流体であるアルゴンガスを溶接時に送り冷却している。この冷却用流体は環状部材30やロータハブ16の金属表面との反応性が低い物質であり、ガス状であることが望ましい。冷却用流体としては、冷却効率の高いヘリウムや窒素などを用いることもできる。また、本実施形態では、ロータハブを回転させレーザ溶接を行ったが、これに限らず、照射口を周方向に回転させてレーザ溶接を行ってもよい。
【0069】
また、上記固定方法では、ロータハブ16の突出部16dに環状部材30を嵌挿した後、レーザにより溶接して固定しているが、これに限らず、所定の締結強度が得られる場合、環状部材30とロータハブ16との固定方法は圧入のみでもよく、また、結合部30cの外周面又は突出部16dの内周面に接着剤を塗布した後圧入により固定してもよく、更に、環状部材30を突出部16dに圧入した後、レーザにより溶接してもよい。
【0070】
加えて、環状部材30を突出部16dに圧入した後、両部材の締結部34を全周にわたり接着剤で封止してもよい。環状部材30の内周面はオイルに満たされた領域であるため、オイルが毛細管現象により締結部34を通って環状部材30の外部へ飛散してしまう恐れがある。しかし、締結部34の全周にわたって接着剤を塗布することにより、接着剤による固定強度を得られることに加え、オイルが環状部材30の外部に飛散することも防止できる。
【0071】
<ラビリンスシール>
環状部材30の柱部30aの外周部とブラケット2の円筒部2bの内周部とは、半径方向に第四微少間隙を介し対向し、その第四微少間隙の間隙寸法は、軸線方向上方に向かって漸次狭くなっている。このように、柱部30aの外周部と円筒部2bの内周部との間に形成される第四微少間隙の間隙寸法を可能な限り小さく設定することによって、モータ回転時に、この第四微少間隙における空気との流速の差が大きくなり、オイルが気化することによって生じた蒸気の外部への流出抵抗を大きくしてオイルの界面付近における蒸気圧を高く保ち、更なるオイルの飛散を防止するよう、ラビリンスシールとして機能させることができる。
【0072】
また、第四微少間隙の内、その一部を可能な限り小さく設定することで、換言するとその第四微少間隙が最も小さくなる部位のみ精度良くラビリンス機能を果たすよう設定するだけでよいため、ブラケット2の円筒部2bの内周部は回転中心軸と略平行となる形状に成形することができる。
【0073】
なお、このような環状部材30の材質としては、特に限定するものではなく、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等の材質から成形することが可能である。また、環状部材30を軸受ハウジング4より熱膨張係数の高い部材から成形することも可能であり、例えば、環状部材30をSUS303(熱膨張係数17.3×10-6/℃)、SUS304(熱膨張係数16.3×10-6/℃)等から成形し、軸受ハウジング4をSUS420(熱膨張係数10.4×10-6/℃)等から成形することも可能である。
【0074】
スピンドルモータが高速回転すると、各動圧軸受部も高温となり、そのような高温環境下にあっては、オイルは熱膨張によってその粘性が低下すると共に体積が増加する。そのため体積増加した分のオイルは、キャピラリーシール部32へと流入することとなり、キャピラリーシール部32の容量を十分に確保することができなければオイルはモータ外部へと漏れ出してしまうことになるので、モータの信頼性や耐久性が損なわれる。しかしながら、環状部材30の熱膨張係数は、環状部材30の半径方向内方に位置する軸受ハウジング4の熱膨張係数よりも大きいので、環状部材30の内周面と軸受ハウジング4の外周面との間で形成されるキャピラリーシール部32の半径方向の間隙寸法が大となる。従って、高温環境下ではキャピラリーシール部32のオイルの保持可能な容量を増加させることができ、オイルの体積が増加した分をキャピラリーシール部32内で十分に保持することが可能となる。
【0075】
これにより、オイルのモータ外部への流出を防止することができ、信頼性並びに耐久性に優れたスピンドルモータを提供することができる。
【0076】
<第二実施形態>
図5は、本発明の第二実施形態に係るスピンドルモータの要部拡大断面図である。第二実施形態のスピンドルモータは、前述の第一実施形態と基本的な構造は同等であるため、対応部品を百番台として対応を明示し、さらに異なる点についてのみ説明する。
【0077】
図5において、ロータハブ116のロータ上壁部116aの下面には、軸受ハウジング104より半径方向外方に配置され軸線線方向下方に突出する突出部116fが形成されている。そして、この突出部116fの内周部には、結合部130cを有する環状部材130が固定されている。
【0078】
環状部材130は、ロータハブ116の突出部116fの半径方向内方に嵌挿した後、突出部116fの先端部を半径方向内方に塑性変形させることにより、加締められ固定される。加締めは周方向の数カ所に行っても、全周に亘って行ってもよい。なお、その後、突出部116fと結合部130cとが締結する部位に接着剤を周方向に塗布してもよい。接着剤を塗布することにより、環状部材130とロータハブ116との締結強度をより一層強固とすることができると共に、オイルが環状部材130の外部に飛散することも防止できる。
【0079】
<第三実施形態>
図6は、本発明の第三実施形態に係るスピンドルモータの要部拡大断面図である。第三実施形態のスピンドルモータは、前述の第一実施形態と基本的な構造は同等であるため、対応部品の符号を二番台として対応を明示し、さらに異なる点についてのみ説明する。
【0080】
図6において、ロータハブ216のロータ上壁部216aの下面には、軸受ハウジング204より半径方向外方に配置され軸線線方向下方に突出する突出部216fが形成されている。そして、この突出部216fの内周部には、係止部230b及び柱部230aを有する環状部材230が固定されている。
【0081】
環状部材230は、ロータハブ216の突出部216fの半径方向内方に嵌挿した後、突出部216fの先端部を半径方向内方に塑性変形させることにより、加締められ固定される。ロータハブ216上の突出部216dの半径方向内方には凹部216eが形成されている。凹部216eは、突出部216fの塑性変形時に発生する応力を凹部216e内に吸収するために形成されている。加締めは周方向の数カ所に行っても、全周に亘って行ってもよい。なお、その後、突出部216fと係止部230bとが締結する部位に接着剤を周方向に塗布してもよい。接着剤を塗布することにより、環状部材230とロータハブ216との締結強度をより一層強固とすることができると共に、オイルが環状部材230の外部に飛散することも防止できる。
【0082】
第三実施形態においては、上記第一実施形態と同様の作用効果を得ることができると共に、環状部材230を一層安価に成形することができる。
【0083】
<第四実施形態>
図7は、本発明の第四実施形態に係るスピンドルモータの断面図である。第四実施形態のスピンドルモータは、ブラケット302の中央部にはシャフト314が固定され、シャフト314は、流体動圧軸受を介しロータ310を支持している。ロータ310は、軸受部材303と、軸受部材303の上部外周部に固定された略カップ状のロータハブ316とを備えている。
【0084】
ブラケット302の上面の一部には、軸受部材303を構成する軸受ハウジング304より半径方向外方に配置されロータハブ316側に突出する突起302cが設けられている。そして、この突起302cの内周部には、円板部材をプレス加工によって成形した略円錐状の環状部材330が固定されている。
【0085】
環状部材330の内周面と軸受ハウジングの304の外周面と間の微少間隙に規定される間隙寸法は、ブラケット302の上面から回転中心軸に向かって拡径しており、つまり環状部材330の内周面と軸受ハウジング304の外周面とが協働してキャピラリーシール部332を構成している。そして、各動圧軸受部に保持されるオイルは、このキャピラリーシール部332においてのみ、オイルの表面張力と外気圧とがバランスされ、オイルと空気との界面とがメニスカス状に形成されている。
【0086】
第四実施形態では、第一実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0087】
次に、一般的な記録ディスク駆動装置70の内部構成について、図8を参照して説明する。
【0088】
記録ディスク駆動装置70は、矩形状をしたハウジング72からなり、ハウジング72の内部は、塵・埃等が極度に少ないクリーンな空間を形成しており、その内部には、情報を記録する円板状のハードディスク76が装着されたスピンドルモータ74が配設されている。
【0089】
また、ハウジング72の内部には、ハードディスク76に対して情報を読み書きするヘッド移動機構84が配置され、このヘッド移動機構84は、ハードディスク76上の情報を読み書きする磁気ヘッド82、この磁気ヘッド82を支えるアーム80及び磁気ヘッド82及びアーム80をハードディスク76上の所要の位置に移動させるアクチュエータ部78により構成される。
【0090】
このような記録ディスク駆動装置70のスピンドルモータ74として、図1乃至図7に図示されるスピンドルモータを適用することで、十分な機能を確保した上で記録ディスク駆動装置の小型且つ薄型化を実現できると共に、信頼性並びに耐久性の高い記録ディスク駆動装置を提供することができる。
【0091】
以上、本発明のスピンドルモータ、及びこのスピンドルモータを備えた記録ディスク駆動装置について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形乃至修正が可能である。
【0092】
例えば、本実施形態では、軸受部材を軸受ハウジングとスリーブとの2つの部材から構成したが、これに限らず、軸受部材を一つの部材にて構成することも可能である。その場合、軸受部材の内周面にはラジアル動圧軸受部が形成され、上端面にはスラスト動圧軸受部が形成され、外周部にはキャピラリーシール部が形成される。
【0093】
また、本発明の各実施形態のブラケットを記録ディスク駆動装置のハウジングと一体成形することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の第一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明の軸受部材の上端面を示す図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る要部拡大断面図である。
【図4】本発明の第一実施形態の溶接工程を示す断面図である。
【図5】本発明の第二実施形態に係る要部拡大断面図である。
【図6】本発明の第三実施形態を示す断面図である。
【図7】本発明の第四実施形態を示す断面図である。
【図8】本発明の記録ディスク駆動装置を示す断面図である。
【図9】従来のスピンドルモータを示す断面図である。
【符号の説明】
【0095】
4 軸受ハウジング
4b 傾斜面
4c フランジ部
6 スリーブ
16 ロータハブ
16a ロータ上壁部
16d 突出部
30 環状部材
30a 柱部
30b 係止部
30c 結合部
32 キャピラリーシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトとロータハブと環状部材を含むロータ部と、軸受部材とブラケットとステータを含む固定部とから構成され、前記ロータ部が回転中心軸と略同軸上で回転するスピンドルモータであって、
前記ロータハブは、前記シャフトの上端部に固定されたロータ上壁部と、該ロータ上壁部の外周縁から円筒状に垂下するロータ周壁部とを有し、
前記環状部材は、前記ロータ上壁部の下面に固定され、下方に垂下する略円錐面状のプレス成形部材であって、
前記軸受部材の外周下部には前記ステータが固定されるブラケットが固定配置され、
前記軸受部材は、前記シャフトの外周面と第一の微小間隙を介して対向する軸受部材内周面と、前記ロータ上壁部の下面の一部と第二の微小間隙を介して対向する軸受部材上端面と、前記環状部材の内周面に第三の微小間隙を介して対向する軸受部材外周面と有し、
前記第一乃至第三の微小間隙には連続して潤滑流体により満たされることで軸受部を構成しており、
前記第三の微小間隙は軸線方向下方に向かうに従って半径方向の間隙幅が徐々に広くなるキャピラリーシール部を有しており、且つ前記軸受部内の潤滑流体は前記キャピラリーシール部内にて空気との界面を有していることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項2】
請求項1記載のスピンドルモータであって、
前記キャピラリーシール部を構成する前記環状部材の内周面は、前記内周面の前記回転中心軸からの距離が、前記ロータ上壁部から前記軸線方向下方に向かって漸次減少する部分を含んでいることを特徴とする。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載のスピンドルモータであって、
前記軸受部材外周部には、前記キャピラリーシール部より軸線方向上方に位置すると共に、前記キャピラリーシール部より半径方向外方に張り出したフランジ部が形成され、
前記環状部材には、前記ロータハブが前記軸受部材から離れる方向に移動した際に前記フランジ部と当接する係止部が形成されていることを特徴とする。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載のスピンドルモータであって、
前記ブラケットは、前記環状部材の外周面と第4の微少間隙を介し対向する円筒部を有し、前記第4の微少間隙は、軸線方向上方に向かうに従って半径方向の間隙幅が徐々に狭くなるラビリンスシール部を有していることを特徴とする。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のスピンドルモータであって、
前記環状部材は、前記軸受部材より熱膨張係数の高い部材によって形成されていることを特徴とする。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のスピンドルモータであって、
前記ロータハブの上壁部下面の前記環状部材より半径方向外方には、前記上壁部から下方に突出する突出部が形成され、
前記突出部を半径方向内方に塑性変形させることにより、前記環状部材は前記ロータハブに固定されていることを特徴とする。
【請求項7】
請求項1乃至5のいずれかに記載のスピンドルモータであって、
前記ロータハブのロータ上壁部下面の前記環状部材より半径方向外方には、前記ロータ上壁部から下方に突出する突出部が形成され、
前記環状部材を前記突出部に指向性エネルギービームを照射することにより溶接して固定したことを特徴とする。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載のスピンドルモータであって、
前記ロータハブのロータ上壁部下面の前記環状部材より半径方向外方には、前記ロータ上壁部から下方へ突出し、前記環状部材と当接する締結部を有する突出部が形成され、
前記締結部は、接着剤により封止されていることを特徴とする。
【請求項9】
請求項1記載のスピンドルモータであって、
前記軸受部材は、前記軸受穴を有し前記オイルを含浸した多孔質焼結体のスリーブと、該スリーブの外周部に位置する有底円筒状の軸受ハウジングとから構成され、
前記スリーブ及び軸受ハウジングの上端面と前記ロータハブのロータ上壁部の下面から、前記スリーブの内周面と前記シャフトの外周面、並びに前記スリーブの下端面と前記軸受ハウジングの底面との間には、前記キャピラリーシール部に連続する微少間隙が形成され、該微少間隙内には、オイルが途切れることなく連続して充填されており、
前記スリーブの内周面及び前記シャフトの外周面とのいずれか一方の面には、前記ロータ部を半径方向から回転支持する動圧発生溝が設けられ、ラジアル動圧軸受部が構成され、
前記軸受ハウジングの上端面及び前記ロータハブのロータ上壁部の下面とのいずれか一方の面には、前記ロータ部を軸線方向から回転支持する動圧発生溝が設けられ、スラスト動圧軸受部が構成されていることを特徴とする。
【請求項10】
ロータハブと軸受部材とを含むロータ部と、シャフトと環状部材とブラケットとステータとを含む固定部とから構成され、前記ロータ部が回転中心軸と略同軸上で回転するスピンドルモータであって、
前記ロータハブは、前記軸受部材の上端部に固定されたロータ上壁部と、該ロータ上壁部の外周縁から円筒状に垂下するロータ周壁部とを有し、
前記環状部材は、前記ブラケットの上面に固定され、上方に伸びる略円錐面状のプレス成形部材であって、
前記シャフトの外周下部には前記ステータが固定されるブラケットが固定配置され、
前記軸受部材は、前記シャフトの外周面と第一の微小間隙を介して対向する軸受部材内周面と、前記ブラケットの上面の一部と第二の微小間隙を介して対向する軸受部材下端面と、前記環状部材の内周面に第三の微小間隙を介して対向する軸受部材外周面と有し、
前記第一乃至第三の微小間隙には連続して潤滑流体により満たされることで軸受部を構成しており、
前記第三の微小間隙は軸線方向上方に向かうに従って半径方向の間隙幅が徐々に広くなるキャピラリーシール部を有しており、且つ前記軸受面内の潤滑流体は前記キャピラリーシール部内にて空気との界面を有していることを特徴とするスピンドルモータ。
【請求項11】
情報を記録できる円板状記録ディスクが装着される記録ディスク駆動装置において、
ハウジングと、
前記ハウジング内部に固定され、前記記録媒体を回転させるスピンドルモータと、
前記記録ディスクの所要の位置に情報を書き込みまたは読み出すための情報アクセス手段と、を有する記録ディスク駆動装置であって、
前記スピンドルモータは、請求項1乃至請求項10のいずれかに記載したモータであることを特徴とする記録ディスク駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−81274(P2006−81274A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−261239(P2004−261239)
【出願日】平成16年9月8日(2004.9.8)
【出願人】(000232302)日本電産株式会社 (697)
【Fターム(参考)】