説明

スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物、該組成物の塗布方法及び該組成物を用いた電界放出ディスプレイ素子

【課題】スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物、塗布方法、及びFED素子を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(R〜RはH、低級アルキル基、R、RはH、アリール基、アルキル基またはアルケニル基、nは5〜2000の整数)であるポリマーと20体積%以上が、150℃以上の沸点を有する有機溶媒から構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコーンラダーポリマー薄膜を大型基板、高段差を有する基板、多数の貫通パターンを有する基板上に、スプレー塗布法により形成するためのシリコーン樹脂組成物、該樹脂組成物の塗布方法、及び該樹脂組成物でゲート絶縁膜を形成したカーボンナノチューブを電子放出源とする電界放出ディスプレイ(FED)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコーンラダーポリマー薄膜は、耐熱性ポリマーとして知られている。例えば、特許文献1には、フェニル基を有するラダー型オルガノシリコーンポリマーと、オルトジメトキシベンゼン55〜99wt%(質量%)、融点が20℃以下で沸点が185℃〜225℃であり、しかも水と相溶しない溶媒1〜50wt%(質量%)の組成を有する混合溶媒とからなることを特徴とする塗膜形成用塗布液や、フェニル基を有するラダー型オルガノシリコーンポリマーと、オルトジメトキシベンゼン50〜99wt%(質量%)、融点が20℃以下で沸点が185℃〜225℃であり、しかも水と相溶しない溶媒1〜50wt%(質量%)の組成を有する混合溶媒と、表面活性剤とからなることを特徴とする塗膜形成用塗布液が開示されている。また、特許文献1の第6頁13〜14行目には、溶媒として使用されるオルトジメトキシベンゼンの沸点が207℃であることも開示されている。しかしながら、特許文献1に記載されている塗膜形成用塗布液は、溶媒に不溶な耐溶剤性を得るためには、高温での熱処理が必須となる。
【0003】
特許文献1の塗膜形成用塗布液における問題点を解決するため、例えば特許文献2には、下記一般式
【0004】
【化1】

【0005】
(式中、R〜Rはそれぞれ水素原子または低級アルキル基、R、Rはそれぞれアリール基、アルキル基またはアルケニル基で、2n個のRおよびRのうちの2%以上がアルケニル基で、nは5〜1600の整数を示す)で表わされるシリコーンラダーポリマーに対して0.2〜20.0重量%(質量%)のアルケニル基硬化触媒および有機溶媒からなる、150〜270℃の低温で熱硬化が可能なシリコーン樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2の段落[0017]には、溶媒としてアニソール、キシレン等の芳香族系炭化水素、メチルイソブチルケトン、アセトン等のケトン系溶剤、テトラヒドロフラン、イソプロピルエーテル等のエーテル系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド等が例示されている。
【0006】
【特許文献1】特開昭55−94955号公報
【特許文献2】特許第2991786号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されているシリコーン樹脂組成物は、スピナーを用いる回転塗布法、スクリーン印刷法、ポッティング法などを用いてシリコーンラダーポリマー薄膜を形成することを意図したものである。このシリコーンラダーポリマー薄膜は、高耐熱性で電気絶縁性も高いポリマーであり、シリコンデバイスの絶縁膜として用いられている。シリコーンラダーポリマー薄膜の形成は、特許文献2に記載されているようなシリコーン樹脂組成物を用い、回転塗布法により基板上に成膜することにより行なうのが主流である。しかしながら、FPD(Flat Panel Display)などの大面積基板への塗布用途では、シリコーン樹脂組成物を多量に必要とすることから材料コストの制約の面で適用が難しいという問題がある。また、多数の貫通パターンがある基板や、数百μmの高段差パターンを有する基板に対しては、回転塗布法ではカバレッジ良く成膜できないという問題もある。
【0008】
すなわち、従来の回転塗布法では、シリコーン樹脂組成物中に使用される溶剤の種類により成膜できないということは殆どないが、スプレー塗布において、回転塗布法に使用されているような従来のシリコーン樹脂組成物を使用すると、表面に凹凸のある不透明な薄膜が形成され、その凹凸による局所的な応力により、基板から薄膜が剥離し、クラックに至るという問題が発生するのである。そのため、スプレー塗布によりシリコーンラダーポリマー薄膜を形成するのに適したシリコーン樹脂組成物の開発が望まれている。
【0009】
従って、本発明の目的は、表面均一性が高く、透明で、膜剥がれやクラックの発生を伴わないシリコーンラダーポリマー薄膜を形成可能なスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物、該樹脂組成物の塗布方法、及び該樹脂組成物でゲート絶縁膜を形成したカーボンナノチューブを電子放出源とするFED素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
即ち、本発明は、一般式(1)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、R〜Rは、それぞれ水素原子または低級アルキル基を示し、R及びRは、それぞれ水素原子、アリール基、アルキル基またはアルケニル基を示し、nは、5〜2000の整数を示す)で表わされるシリコーンラダーポリマー及び有機溶媒から構成されるスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物であって、前記有機溶媒の20体積%以上が、150℃以上の沸点を有する少なくとも1種の有機溶媒から構成されるスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物である。
【0013】
また、本発明は、前記スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物が塗布される基板の温度を25〜80℃の範囲内に設定するスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物の塗布方法である。
【0014】
また、本発明は、下地基板及び前記下地基板上に積層された電子放出源としてのカーボンナノチューブ層を有するカソード電極部と、電子通過孔が設けられたゲート電極及び前記ゲート電極のカソード電極部に対向する面に形成された絶縁膜を有するゲート電極部と、上面基板の前記ゲート電極部に対向する面に形成され、上面リブによって分離された蛍光体膜及び反射膜を有するアノード電極部とを備えてなる電界放出ディスプレイ素子において、前記絶縁膜が、前記スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物から形成されたシリコーンラダーポリマー薄膜であることを特徴とする電界放出ディスプレイ素子である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、比較的低温での熱処理でもシリコーンラダーポリマー薄膜を形成可能で、且つ耐熱性に劣る基板上にも表面状態が良好で、均一性が良好で、クラック及び膜剥がれのないシリコーンラダーポリマー薄膜をスプレー塗布により形成可能なスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を構成するシリコーンラダーポリマーは、上記一般式(1)で表わされる化合物である。このシリコーンラダーポリマーは、骨格にシロキサン結合の梯子形構造を有するために剛直で、それ故、優れた耐熱性を有するものである。また、電気絶縁性が高く、シリコンデバイスやディスプレイの絶縁膜として有効である。
【0017】
上記一般式(1)において、R〜Rは、それぞれ水素原子または低級アルキル基を表わす。ここで、低級アルキル基は、炭素数1〜3のアルキル基を表わし、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。また、R及びRは、それぞれ水素原子、アリール基、アルキル基またはアルケニル基を表わす。ここで、アリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられ、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられ、アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基等が挙げられる。また、nは、5〜2000の整数、好ましくは50〜1500の整数を表わす。ここで、nが5より小さいと、成膜性が低下するため好ましくなく、また、2000を超えると、有機溶媒への溶解性が低下するため好ましくない。
【0018】
このようなシリコーンラダーポリマーの具体例としては、例えば、ポリフェニルシルセスキオキサン、ポリメチルシルセスキオキサン、ポリフェニルビニルシルセスキオキサン、ポリアリルフェニルシルセスキオキサン、ポリメチルビニルシルセスキオキサン、ポリアリルメチルシルセスキオキサン、ポリエチルビニルシルセスキオキサン、ポリアリルエチルシルセスキオキサン等が挙げられる。
【0019】
なお、本発明のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を半導体の周辺材料として利用する場合、前記シリコーンラダーポリマー中のアルカリ金属、鉄、鉛、銅及びハロゲン化水素の含有量はそれぞれ1ppm以下、更には0.8ppm以下であることが好ましい。該含有量が1ppmを超えると、シリコーンラダーポリマー中の不純物量が多くなりすぎ、半導体の周辺材料として利用し難くなることがある。また、ウラン及びトリウムの含有量はそれぞれ1ppb以下、更には0.8ppb以下出あることが好ましい。該含有量が1ppbを超えると、前述と同様、シリコーンラダーポリマー中の不純物量が多くなりすぎ、半導体の周辺材料として利用し難くなることがある。
【0020】
前記シリコーンラダーポリマーは、例えば、トリクロロシラン化合物を有機溶媒に溶解し、加水分解してプレポリマーを合成し、次に、プレポリマーを含む有機層に、重合触媒を加えて加熱し、粗ポリマーを合成し、更に、精製するなどして得ることができる。
【0021】
本発明のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物は、上記一般式(1)で表わされるシリコーンラダーポリマーと、有機溶媒から構成される。シリコーンラダーポリマーと有機溶媒との割合は、シリコーンラダーポリマー1質量部に対して有機溶媒2〜20質量部、好ましくは5〜15質量部の範囲内である。ここで、シリコーンラダーポリマー1質量部に対する有機溶媒の割合が2質量部未満であると、粘度が高く、霧化しにくくなることがあるために好ましくなく、また、有機溶媒の割合が20質量部を超えると、固形分濃度が低く、形成膜厚が小さくなり過ぎることがあるために好ましくない。
【0022】
本発明のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物は、上記有機溶媒として、有機溶媒の20体積%以上、好ましくは30体積%以上、更に好ましくは50体積%以上に、沸点が150℃以上の有機溶媒の少なくとも1種を使用するところに特徴がある。即ち、前記シリコーンラダーポリマーを溶解することができれば、スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物沸点が150℃以上の有機溶媒の1種以上を単独で用いても、他の有機溶媒との混合溶媒として用いてもよい。なお、沸点が150℃以上の有機溶媒を20体積%以上使用することにより、スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を基板にスプレー塗布する際に、スプレーノズルから噴霧されたシリコーン樹脂組成物の粒子が基板に到達するまで、該粒子の粘性が確保、即ち、溶媒分の著しい低下が抑制され、成膜表面の凹凸を低減し、表面平坦性が高く、且つクラックや膜剥がれを発生することなしにシリコーンラダーポリマー薄膜を形成することができる。
【0023】
ここで、沸点が150〜200℃の範囲内にある有機溶媒としては、例えば、アニソール(沸点:154℃)、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点:165〜175℃、DMAc)、ジメチルスルホオキシド(沸点:189℃、DMSO)、安息香酸メチル(沸点:200℃)等が挙げられる。また、他の有機溶媒としては、例えばトルエン(沸点:111℃)、キシレン(沸点:139℃)、メチルイソブチルケトン(沸点:116℃)、アセトン(沸点:56℃)、酢酸ブチル(沸点:126℃)等のケトン系溶媒、テトラヒドロフラン(沸点:66℃)、イソプロピルエーテル(沸点:69℃)等のエーテル系溶媒が挙げられる。
【0024】
また、有機溶媒の10体積%以上、好ましくは20体積%以上、更に好ましくは30体積%以上を沸点が200℃を超える有機溶媒とすることにより、スプレー塗布時の気流による溶媒の揮発を抑制することができ、より平坦性の高い成膜を再現性良く行なうことができる。また、スプレー塗布時の基板の温度を上げることができるため、得られる薄膜と基板との密着性を向上させることも可能となる。なお、沸点が200℃を超える有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2−フェノキシエチルアセタート、サリチル酸メチル、o−ニトロアニソール、2,2−チオジエタノール、N−ブチルジエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、アセトアミド、N−メチルトルイジン、o−トルイジン、N,N−ジエチルアニリン、ブチルフェニルエーテル、ジヘキシルエーテル、ペンチルベンゼン、ベンジルアルコール、テトラメチレングリコール、ベラトロール等が挙げられるが、沸点が200℃を超えて、併用される他の有機溶剤と相溶性があれば、ここに挙げた以外の有機溶媒も使用することができる。特に、芳香族系溶媒や複素環を有する溶媒が、前記シリコーンラダーポリマーとの相溶性の観点から好ましく用いられる。
【0025】
次に、本発明によるスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物の基板への塗布方法について説明する。例えば、ステージに固定した基板とスプレーノズルとの間を10〜100mmの距離に設定し、スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を噴霧しながらスプレーノズルをスキャンすることによりスプレー塗布することができる。また、電子通過孔のような穴が貫通した基板の表面のみにシリコーン樹脂薄膜を形成したい場合には、基板とスプレーノズルとの間を40〜100mmの距離に設定することにより、基板の裏面へのシリコーン樹脂組成物の回り込みや、穴の閉塞を防止することができる。なお、本発明の方法に使用されるスプレーノズルは、本発明のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を霧化することができるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、2流体式ノズルや超音波式ノズルを挙げることができる。
【0026】
前記スプレー塗布時の基板温度を室温(25℃)〜80℃の範囲に設定することにより、大型基板、高段差を有する基板、多数の貫通パターンを有する基板上に表面状態が良好で、均一性が良好で、クラック及び膜剥がれのない透明なシリコーンラダーポリマー薄膜を形成することが可能となる。ここで、基板温度が25℃未満では、塗布後の薄膜に多くの溶媒が含まれており、基板の取り外しの際に塗布液の流動が起こり、均一性が低下するために好ましくない。また、基板温度が80℃を超えると、噴霧粒子が基板に到着すると同時に、溶媒の揮発が起こり、薄膜表面に、塗布膜厚の50%前後の凹凸が生じ、この凹凸に起因するマクロ的な応力集中が発生し、後工程の熱処理でクラックや剥離を生ずることがあるために好ましくない。基板温度は、好ましくは室温(25℃)〜60℃である。
【0027】
スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を基板上にスプレー塗布後の熱処理としては、例えば50〜150℃、好ましくは70〜125℃の温度範囲で、1〜20分間、好ましくは5〜15分間にわたりホットプレート上でプレキュアを行ない、一部の有機溶媒を除去し、更に、クリーンオーブンにて、150〜400℃、好ましくは250〜350℃の温度範囲で、30〜120分間、好ましくは60〜90分間にわたり熱処理を行なうことにより、有機溶媒を完全に除去すると同時に、硬化させるなどの方法を使用することができる。クリーンオーブンでの熱処理は、室温から昇温し、設定温度で所要時間を保持した後、除冷するのが、クラック発生防止の観点から好ましい。オーブンの雰囲気は、酸化による膜質の劣化が考えられる場合は、窒素雰囲気で行なうのが好ましい。
【0028】
上述のようにして得られるシリコーンラダーポリマー薄膜は、絶縁層または表面保護膜として有用である。該シリコーンラダーポリマー薄膜が耐溶剤性を確保できる熱硬化温度は、使用するシリコーンラダーポリマーの側鎖や末端構造(R〜R)により異なり、250℃以上が必要であるが、150〜250℃の低温で熱処理を行なっても、耐溶剤性を除いた他の薄膜特性は得られるため、余り耐熱性を要求されない基板上に使用することができ、また、高純度のシリコーンラダーポリマー薄膜は、GaAsなどの化合物半導体デバイス、液晶、有機EL、電界放出ディスプレイ(フィールドエミッションディスプレイ:FED)などのフラットパネルディスプレイなどにも使用することができる。
【0029】
次に、本発明のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物の使用例を以下に示す。
図1〜4は、本発明の電界放出ディスプレイ素子の一実施態様を示す概略図である。
図1〜4において、電界放出ディスプレイ素子は、カソード電極部20A,20B、ゲート電極部21A,21B,21C及びアノード電極部22を備えている。
図1〜3の態様におけるカソード電極部20Aは、下地基板(ガラス)1と、この下地基板1上に積層された電子放出源である複数のカーボンナノチューブ層2と、複数のカーボンナノチューブ層2の間に設置された複数の下地リブ3とから構成されている。なお、図4の態様におけるカソード電極部20Bは、下地基板1と、この下地基板1上に積層されたカーボンナノチューブ層2とから構成されている。
【0030】
図1の態様におけるゲート電極部21Aは、電子通過孔4が設けられたゲート電極5と、このゲート電極5のカソード電極部20Aと対向する面に形成されたシリコーンラダーポリマー薄膜(絶縁膜)6とから構成されている。図2の態様におけるゲート電極部21Bは、電子通過孔4が設けられたゲート電極5と、このゲート電極5のカソード電極部20Aと対向する面に形成されたシリコーンラダーポリマー薄膜6と、ゲート電極5のアノード電極部22と対向する面に積層された電子通過孔4が設けられた絶縁基板11とから構成されている。また、図3及び4の態様におけるゲート電極部21Cは、電子通過孔4が設けられたゲート電極5と、このゲート電極5のカソード電極部20Aと対向する面に形成されたシリコーンラダーポリマー薄膜6と、ゲート電極5のアノード電極部22と対向する面に積層された電子通過孔4が設けられた絶縁基板11と、この絶縁基板11上に積層された電子通過孔4が設けられたフォーカス電極12とから構成されている。これらの態様の電界放出ディスプレイ素子において、シリコーンラダーポリマー薄膜6はスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物をスプレー塗布することにより形成されている。
【0031】
更に、図1〜4の態様におけるアノード電極部22は、上面基板7と、上面基板7のゲート電極部21A,21B,21Cと対向する面に形成され、上面リブ10で分離された蛍光体膜8と、この蛍光体膜8上に積層された反射膜9とから構成されている。なお、図中、Rは赤色の蛍光膜を、Gは緑色の蛍光膜を、Bは青色の蛍光膜をそれぞれ表す。
【0032】
このような構成の電界放出ディスプレイ素子は、カソード電極部20A,20Bから放出された電子がゲート電極部21A,21B,21Cの電子通過孔を通過してアノード電極部22に流れ、アノード電極部22に設けられた蛍光体膜8が発光する仕組みとなっている。このような構成の電界放出ディスプレイ素子では、カソード電極部20A,20Bのカーボンナノチューブ層2と、ゲート電極部21A,21B,21Cのゲート電極5との間を絶縁するために絶縁層が設けられている。従来の回転塗布法、スクリーン印刷法、ポッティング法等によって、電子通過孔4が設けられたゲート電極5面へ絶縁膜を成膜すると、基板裏面へのシリコーン樹脂組成物の回り込みや電子通過孔にシリコーン樹脂組成物が詰まる等の不具合が生ずるが、上記スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物をスプレー塗布して形成したシリコーンラダーポリマー薄膜6では、これらの不具合を解消することができる。
【0033】
次に、カーボンナノチューブを電子放出源とする電界放出ディスプレイ素子の作製方法について説明する。
電子放出源としてカーボンナノチューブを用いたカソード電極部20A,20Bは、ガラス基板などの下地基板1上に、カーボンナノチューブ粉末を含有するペーストをスクリーン印刷などの印刷技術を用いて、カーボンナノチューブ層2を形成することにより作製する。スクリーン印刷を用いれば、所要のパターンの電子放出源を容易に形成することができる。図1〜3のような、下地リブ3で分離されたカソード電極部20Aは、例えば、フリットガラスを含む感光性絶縁ペーストを用いて、所定のマスクを介して露光し、未露光部を溶解除去して作製することができる。その後、下地リブ3を形成した下地基板1上に、カーボンナノチューブ粉末を含有するペーストをスクリーン印刷すればよい。
【0034】
ゲート電極部21A,21B,21Cは、ガラスやセラミックなどの絶縁基板11上に、銀やカーボンなどを含む導電性ペーストをスクリーン印刷で、所定の帯状パターンを有するゲート電極5を形成した後、焼成することにより作製することができる。図1〜3では、下地リブ3と直交する方向にゲート電極5を形成している。また、ゲート電極5は、蒸着法やスパッタ法で形成されたアルミニウムや金などの金属膜であってもよい。帯状のゲート電極5は、平面ディスプレイの画素の列の数だけ互いに平行になるように絶縁基板11上に形成する。また、図3のように、絶縁基板11上のゲート電極5と対向する側に、銀やカーボンなどを含む導電性ペーストをスクリーン印刷したり、アルミニウムや金などの金属膜を蒸着やスパッタして、電界制御用のフォーカス電極12を設けてもよい。また、図4の場合には、ゲート電極5と直交する方向の引き出し電極13を絶縁基板11上に、ゲート電極と同様の材料で設けてある。
電子通過孔4は、ゲート電極5やフォーカス電極12を形成した絶縁基板11の所定の位置に炭酸ガスレーザやサンドブラスト法により形成される。絶縁膜としてのシリコーンラダーポリマー薄膜6は、電子通過孔4を形成した後、スプレー塗布法により塗布し、焼成することにより形成される。
【0035】
アノード電極部22は、上面基板7、上面リブ10で分離された赤、緑、青の3原色の蛍光体膜8及び反射膜(メタルバック膜)9により構成される。上面リブ10は、例えば、フリットガラスを含む感光性絶縁ペーストのフォトリソグラフィー法、ブラックマトリックスやガラスペーストのスクリーン印刷法を用いて形成することができる。図1〜3では、上面リブ10がゲート電極5と直交する方向で形成されており、図4では、上面リブ10が引き出し電極13と直交する方向で形成されている。そして、赤色発光蛍光体膜R、緑色発光蛍光体膜G、青色発光蛍光体膜Bをスクリーン印刷で形成した後、アルミニウムなどを蒸着して反射膜9を形成する。
【0036】
このようにして得られたカソード電極部20A,20Bとアノード電極部22との間にゲート電極部21A,21B,21Cを挟み込んで、低融点のフリットガラスを用いて封着することにより接合し、真空外囲器を構成する。この真空外囲器の内部は10−5Pa程度の真空度に保持される。このようにして、スペーサーレス構造を有するカーボンナノチューブを電子放出源とする電界放出ディスプレイ素子を作製することができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を更に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1及び比較例1)
500mlのフラスコに表1に示す有機溶媒を秤取した。次に、表1に示すシリコーンラダーポリマーを添加して撹拌することによりシリコーンラダーポリマーを完全に溶解させることにより本発明品1〜10及び比較品1〜2のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を得た。なお、スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物中のシリコーンラダーポリマー含量は5質量%(シリコーンラダーポリマー1質量部に対し有機溶媒19質量部)とした。
【0038】
【表1】

【0039】
表1中、NMPは、N−メチル−2−ピロリドン(沸点:202℃)を示し、DMSOは、ジメチルスルホオキシド(沸点:189℃)を示し、DMAcは、N,N’−ジメチルアセトアミド(沸点:165〜175℃)をそれぞれ示す。また、アニソールの沸点は154℃であり、テトラヒドロフランの沸点は66℃であり、酢酸ブチルの沸点は126℃であり、アセトンの沸点は56℃であり、キシレンの沸点は139℃、ベラトロールの沸点は207℃、安息香酸メチルの沸点は200℃である。
【0040】
(実施例2及び比較例2)
次に、表1に示す本発明品1〜10及び比較品1〜2を用い、表2に示す基板温度に設定した300mm×400mmのガラス基板上にスプレー塗布することによりシリコーンラダーポリマー薄膜を形成した。なお、スプレー塗布に際して、スプレーノズルとガラス基板間の距離は30mmとし、スプレーノズルのスキャンスピードは200mm/秒とした。スプレー塗布後、ガラス基板をホットプレート上で100℃で5分間プレキュアし、続いてクリーンオーブンにて、窒素気流下、300℃で1時間熱処理を施した。得られたシリコーンラダーポリマー薄膜の表面状態、均一性、クラック及び膜剥れの発生の有無を観察した結果を表2に併記する。
【0041】
【表2】

【0042】
実施例2−1〜2−9から明らかなように、沸点が150℃以上の有機溶媒の比率を20体積%以上にしたスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物では、基板温度を所定の温度範囲内に制御すれば、10%以下の高い均一性で、クラック及び膜剥れのない高透明性のシリコーンラダーポリマー薄膜を形成することができる。
これに対して、沸点が150℃未満のキシレンや酢酸ブチルを有機溶媒として用いた比較例2−1及び2−3においては、得られたシリコーンラダーポリマー薄膜の表面状態は白濁し、凹凸が生じたものとなり、クラックや膜剥がれを誘発した。
また、実施例2−7と比較例2−2との比較から明らかなように、有機溶媒として沸点が150℃以上のアニソールを用いたスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を用いても、基板温度が80℃を超えると、得られるシリコーンラダーポリマー薄膜の均一性が劣化し、膜剥がれを誘発するが、基板温度を本発明の範囲内に設定すれば良好なシリコーンラダーポリマー薄膜が得られる。
更に、比較例2−4から明らかなように、有機溶媒としてNMPを用いた本発明品8のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を用いても、基板温度を100℃とした場合には、シリコーンラダーポリマー薄膜の均一性が劣化し、膜剥がれを誘発する。
【0043】
(実施例3)
図4に示す構成を有する電界放出ディスプレイ素子の作製において、本発明品1のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物を用いて、電子通過孔4が設けられたゲート電極5のカソード電極部20Bに対向する面にシリコーンラダーポリマー薄膜6を形成した。シリコーンラダーポリマー薄膜6を形成する際には、ゲート電極5を空中に固定し、スプレーノズルを80mm離してスプレー塗布を行った。得られたゲート電極5を観察したところ、裏面へのシリコーン樹脂組成物の回り込みや電子通過孔4にシリコーン樹脂組成物が詰まる等の不具合は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第一実施態様に係る電界放出ディスプレイ素子を示す概略図である。
【図2】本発明の第二実施態様に係る電界放出ディスプレイ素子を示す概略図である。
【図3】本発明の第三実施態様に係る電界放出ディスプレイ素子を示す概略図である。
【図4】本発明の第四実施態様に係る電界放出ディスプレイ素子を示す概略図である。
【符号の説明】
【0045】
1 下地基板、2 カーボンナノチューブ層、3 下地リブ、4 電子通過孔、5 ゲート電極、6 シリコーンラダーポリマー薄膜、7 上面基板、8 蛍光体膜、9 反射膜、10 上面リブ、11 絶縁基板、12 フォーカス電極、13 引き出し電極、20A,20B カソード電極部、21A,21B,21C ゲート電極部、22 アノード電極部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ水素原子または低級アルキル基を示し、R及びRは、それぞれ水素原子、アリール基、アルキル基またはアルケニル基を示し、nは、5〜2000の整数を示す)で表わされるシリコーンラダーポリマー及び有機溶媒から構成されるスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物であって、
前記有機溶媒の20体積%以上が、150℃以上の沸点を有する少なくとも1種の有機溶媒から構成されることを特徴とするスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物。
【請求項2】
前記有機溶媒の10体積%以上が、200℃を超える沸点を有する少なくとも1種の有機溶媒から構成される請求項1に記載のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物の塗布方法において、
前記スプレー塗布用シリコーン樹脂組成物が塗布される基板の温度を、25〜80℃の範囲内に設定することを特徴とするスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物の塗布方法。
【請求項4】
スプレー塗布時のスプレーノズルと基板と間の距離が、10〜100mmの範囲内である請求項3に記載のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物の塗布方法。
【請求項5】
下地基板及び前記下地基板上に積層された電子放出源としてのカーボンナノチューブ層を有するカソード電極部と、電子通過孔が設けられたゲート電極及び前記ゲート電極のカソード電極部に対向する面に形成された絶縁膜を有するゲート電極部と、上面基板、前記上面基板の前記ゲート電極部に対向する面に形成され、上面リブによって分離された蛍光体膜及び前記蛍光体膜上に積層された反射膜を有するアノード電極部とを備えてなる電界放出ディスプレイ素子において、
前記絶縁膜が、請求項1又は2に記載のスプレー塗布用シリコーン樹脂組成物から形成されたシリコーンラダーポリマー薄膜であることを特徴とする電界放出ディスプレイ素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−306964(P2006−306964A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−129720(P2005−129720)
【出願日】平成17年4月27日(2005.4.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「地球温暖化防止新技術プログラム カーボンナノチューブFEDプロジェクト」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】