説明

スロットルバルブの製造方法

【課題】ゲート跡突起を除去する際のバルブ体の欠損を避けられ、樹脂密度が高く寸法精度の良好なスロットルバルブの製造方法を提供する。
【解決手段】円筒状のシャフト被覆部13と、半円板部14・14とを有するバルブ体11を射出成形する際に、スロットルシャフト12をインサート成形する。金型40において、シャフト被覆部13cの両頂部に台座15cを設け、これに射出ゲート45を左右から連通させる。そのうえで、射出ゲート45及び台座15cは、応力集中部となる角部を有する釣鐘形状であり、両射出ゲート45及び台座15cは、水平方向の中心線L1を挟んで互いに上下反対側へ位置ズレしていることを特徴とする。溶融樹脂の硬化後、ゲート跡突起20は折ることで除去される。その後、台座15をエンドミルにて切削することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関への吸入空気量を制御するスロットル装置に配設されるスロットルバルブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等の内燃機関においては、軽量化を目的として周辺部品の樹脂化が図られている。その一環として、スロットル装置の吸気通路内に回動可能に配設され、該吸気通路を開閉するスロットルバルブ(バタフライバルブ)の樹脂化も図られている。このような樹脂製のスロットルバルブの製造方法として、例えば特許文献1がある。特許文献1では、樹脂製のスロットルバルブを射出成形により製造しており、円板状の樹脂製のバルブ体の中央部に、金属製のスロットルシャフトがインサート成形されている。すなわち、バルブ体は、軸回動中心となるスロットルシャフトの外周を被覆するシャフト被覆部と、該シャフト被覆部を挟んで相対する方向に延在する半円板状の半円板部とを有する。そして、特許文献1では、スロットルシャフトの軸方向と直交する方向において対向する2つの射出ゲートを介して、シャフト被覆部用のキャビティから溶融樹脂を射出充填することで、スロットルバルブを射出成形している。各射出ゲートはそれぞれシャフト被覆部の頂部に直接臨んでおり、対向する2つの射出ゲートは同軸上にある。溶融樹脂の硬化後、残存するゲート跡突起は切除される。
【0003】
一方、スロットルバルブではないが、射出成形後にメッキ処理される成形品の射出成形方法として、特許文献2がある。特許文献2は、デジタルカメラ等の電子機器のシャッターボタン等の製造方法であって、成形品の本体部表面に突出する台座を設け、当該台座部分に射出ゲートを設けている。これにより、溶融樹脂硬化後にゲート跡突起を折ることで除去しても、メッキ剥がれを台座部分のみに留めることができるとされている。
【0004】
同様に、スロットルバルブ用としてではなく、精密プラスチック製品の射出成形方法として、特許文献3がある。当該特許文献3では、射出ゲートの形状を三角形状としておき、ゲート跡突起の切断を、幅の小さな部分(頂部側)から行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−140061号公報
【特許文献2】特開2009−34970号公報
【特許文献3】特開平1−234220号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、射出ゲートがバルブ体に直接臨んでいるので、溶融樹脂の硬化後にゲート跡突起を折ることで除去しようとすると、ゲート跡突起と共にその周辺部も一緒にもぎ取られたような、いわゆる身食いが生じてしまう。これに対し特許文献2では、射出ゲートと成形品との間に台座を設けている。特許文献2では、ゲート跡突起を折った際のメッキ剥がれに着目したもので、身食いに関しては特に考慮していないが、台座を設けることで成形品本体の身食い防止にも有効であろう。しかし、特許文献2では射出ゲートの形状に関しては特に考慮しておらず、従来のような一般的な円形のゲートではゲート跡突起を折る際に応力が分散するので、広い範囲で身食いが発生する可能性がある。この場合、台座のみならず成形品本体部分にまで身食いが及ぶ可能性がある。一方、特許文献3では、射出ゲートの形状を三角形状としているので、仮にゲート跡突起を折った場合には、応力集中が生じ得る。しかし、特許文献3ではゲート跡突起はあくまで切断することを前提としており、ゲート跡突起を折る際の応力集中を利用するものではない。しかも、台座を設けていないので、仮にゲート跡突起を折ろうとすると、成形品本体に身食いが生じることは避けられない。
【0007】
また、特許文献1では、射出ゲートをシャフト被覆部に設けているが、当該シャフト被覆部は、スロットルシャフトの存在とバルブ体の肉厚制限等により、最も薄肉となる部位である。したがって、シャフト被覆部における射出充填した溶融樹脂の流動抵抗は大きい。しかも、射出ゲートはシャフト被覆部の頂部にあるため、当該射出ゲートから射出された溶融樹脂は、スロットルバルブにまともに衝突してから両方向へ均等に分岐するように流動していくので、圧力損失も大きい。これでは、射出成形時のキャビティ内圧力を高く保持するには限界があるので、射出成形品であるスロットルバルブの樹脂密度も低下する。スロットルバルブの密度が低いと、溶融樹脂の硬化に伴う収縮の程度も大きくなり、寸法精度が悪化する。スロットルバルブは、円板状のバルブ体とスロットルボディとの隙間の大小によって吸入空気量を制御するものなので、スロットルバルブの寸法精度悪化は、吸入空気量の制御不良に直結する。
【0008】
ここで、特許文献2では射出ゲートと成形品本体との間に台座を設けているが、当該特許文献2はデジタルカメラのシャッターボタン等の製造方法であって、射出成形時の流動抵抗や圧力損失の向上を図るものではなく、スロットルシャフトをインサートしてその周りに樹脂を充填形成して製造されるスロットルバルブの製造方法に対して直接応用できるものではない。一方、このような問題を解決する手段として、特許文献1におけるキャビティ容量を大きくすることで溶融樹脂の流動抵抗及び保圧力を向上し、スロットルバルブの密度を上げることも考えられるが、それには金型のサイズを大きくする必要があり、コスト増となって現実的ではない。
【0009】
また、特許文献2の台座の側面は本体部に対して垂直面となっている。ここで、溶融樹脂の硬化後に台座を回転切削工具にて切削しようとすると、台座には回転工具の接線方向にせん断力が作用する。しかし、特許文献2の台座の側面は本体部に対して垂直面となっているので、せん断力が作用する方向での肉厚は小さい。したがって、回転切削に伴うせん断力に対して耐久性が充分でなく、台座が欠損するおそれがある。当該欠損が台座部分に留まれば大きな問題は生じないが、当該欠損が台座を超えて本体部(スロットルバルブの場合バルブ体)にまで及ぶことも想定される。このように、台座を回転切削工具によって切削することでバルブ体に欠損が生じれば、吸入空気量の制御不良につながる。
【0010】
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、ゲート跡突起を除去するに際してバルブ体の欠損を避けられ、樹脂密度が高く寸法精度の良好なスロットルバルブを製造可能なスロットルバルブの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、内燃機関(エンジン)への吸入空気量を制御するスロットル装置へ軸回動自在に配設され、円筒状のシャフト被覆部と、該シャフト被覆部を挟んで相対する方向に延在する半円板状の半円板部とを有する樹脂製のバルブ体に、回動中心となるスロットルシャフトをインサート成形してなるスロットルバルブの製造方法に関する。すなわち、スロットルバルブは、射出成形される。このとき、前記シャフト被覆部の表面に台座が形成されるように金型のキャビティを形成したうえで、溶融樹脂を射出充填する射出ゲートを前記台座用のキャビティに連通する。そして、前記射出ゲートが、少なくとも1つの角部を有する断面形状であることを特徴とする。ここでの角部とは、大きくは非直線形状を意味し、鋭角な角部のほか、湾曲形状の緩やかな角部も含む。
【0012】
これによれば、射出成形直後のシャフト被覆部の表面には、台座を介してゲート跡突起が残存している。したがって、後処理としてゲート跡突起を除去する必要がある。そこで、例えばゲート跡突起を折ることで除去した場合、当該ゲート跡突起の周辺部位も同時にもぎ取られる所謂身食いの発生が問題となる。しかし、本発明ではゲート跡突起が台座上に形成されているので、身食いは台座部分を中心に発生し、バルブ体自体が破損することを有効に避けられる。しかも、ゲート跡突起は少なくとも1つの角部を有する断面形状となっている。したがって、当該角部に応力集中が生じるので、身食いの発生範囲を小さく抑制することができる。この意味において、角部は応力集中部ということもできる。これにより、身食いの発生を台座部分のみに留めることができ、確実にバルブ体の破損を防止できる。このように、ゲート跡突起を折ることで問題なく除去できれば、ゲート跡突起を切除する場合よりも簡便であり、生産性が向上する。
【0013】
前記射出ゲートの断面積は、該射出ゲートへ溶融樹脂を供給するランナーの断面積と同等とすることもできるが、ランナーの断面積より小さくすることが好ましい。つまり、射出ゲートはランナーより細い。射出ゲートの断面積がランナーの断面積より小さいということは、ランナーの先端部は先窄まり形状となっていることになる。これによれば、ゲート跡突起を除去する際の応力ないし労力が小さくなり、ゲート跡突起の除去が容易となる。また、身食いの発生範囲もより小さく抑制することができる。
【0014】
前記射出ゲートの断面形状は、少なくとも1つの角部を有する形状であれば特に限定されないが、例えば釣鐘状とすることが好ましい。釣鐘状とは、四角形の一面が円弧面となっている形状である。角部が鋭角であれば、必要以上に応力集中して反って身食いが大きくなるおそれがあるが、釣鐘状の湾曲した角部(頂部)に応力集中させれば、必要以上に応力集中することを避けられる。また、釣鐘状であれば、鋭角な角部を有する形状と比べて溶融樹脂の流動性が良く、流動抵抗や圧力損失の面でも有利である。
【0015】
前記射出ゲート及び台座は、1箇所のみに設けることもできるが、前記スロットルシャフトの軸方向と直交する方向からスロットルシャフトを挟んで対向する2箇所に設けることが好ましい。このとき、前記各台座及び射出ゲートは、前記シャフト被覆部の頂部に臨ませておく。この場合、両射出ゲートは、前記スロットルシャフトの軸中心を通り前記半円板部の延在方向と直交する方向の中心線を挟んで、前記半円板部が延在する方向へ互いに反対側へ位置ズレ(オフセット)した位置に設けることが好ましい。
【0016】
1つの射出ゲートからシャフト被覆部へ溶融樹脂が射出充填される場合は、インサートされたスロットルシャフトを回り込んで反対側にまで充填されなければならず、圧力損失が大きくなる。これに対し、スロットルシャフトを挟んで対向する2箇所から溶融樹脂が射出充填されれば、スロットルシャフトの反対側まで充填する必要はないので、圧力損失を低減できる。このとき、射出ゲートはシャフト被覆部の頂部に臨んでいるので、半円板部が延在する方向の双方へ樹脂を流動させることができ、確実にシャフト被覆部を形成できる。そのうえで、射出ゲートを中心線から位置ズレさせていると、シャフト被覆部では溶融樹脂の多くが位置ズレ方向に流動し、位置ズレ方向と反対側への流動量は少なくなる。これにより、位置ズレ方向への流動抵抗が低減すると共に、射出ゲートから射出された溶融樹脂がスロットルシャフトへまともに衝突することも軽減されるので、圧力損失も低減する。これにより、キャビティ内の保圧力及び保圧時間を従来よりも高められる。而して、バルブ体の樹脂密度を向上できると共に、硬化に伴う収縮の程度も小さく、寸法精度も向上する。このとき、1つの射出ゲートによって一方向への流動抵抗等を低減できるのみであるが、2つの射出ゲートを互いに反対側へ位置ズレさせていることで、双方向において流動抵抗を低減でき、バルブ体全体に亘って確実に樹脂密度を高められる。
【0017】
このとき、前記各台座は、前記シャフト被覆部の頂部からそれぞれ前記射出ゲートが位置ズレした方向へ向けて形成することが好ましい。これによれば、溶融樹脂が主に流動していく方向への射出ゲート直下の流路幅が台座の存在によって大きくなるので、さらに流動抵抗を低減できる。しかも、台座が延在する方向への流路幅とその反対側への流路幅とに差があるので、反対側への流量を効果的に抑制できる。
【0018】
前記台座の断面形状は、必ずしも前記射出ゲートの断面形状に合わせる必要は無いが、前記台座の断面形状と前記射出ゲートの断面形状とを同じ形状とすることが好ましい。これにより、射出ゲートから射出された溶融樹脂は円滑に台座を通して流動でき、流動抵抗及び圧力損失をより低減できる。なお、同じ形状とは、相似形状を含む。
【0019】
また、前記バルブ体の両半円板部は、従来からある一般的なスロットルバルブのように、互いに同軸上(同一平面)にあっても上記作用効果を充分に得られるが、両半円板部も、前記スロットルシャフトの軸中心を通る半円板部の延在方向の中心線を挟んで、互いに反対側へ位置ズレ(オフセット)した状態で形成することが好ましい。この場合、前記各半円板部と前記各射出ゲートとは、それぞれ互いに近接する方向に位置ズレさせる。これによれば、射出ゲート直下において溶融樹脂が主に流動する方向への流路幅がより大きくなるので、さらに流動抵抗及び圧力損失を低減することができる。
【0020】
また、スロットルシャフトは、従来からある一般的なスロットルシャフトのように軸方向の全体に亘って一様な直径でも、上記作用効果を充分に得られるが、前記射出ゲートが臨む前記スロットルシャフトの部位は、他の部位よりその軸径を小さくすることが好ましい。これによれば、射出ゲートに臨む部位におけるシャフト被覆部の肉厚が大きくなることで、射出ゲート直下の流路幅がより大きくなり、さらに流動抵抗及び圧力損失を低減することができる。しかも、シャフト被覆部の肉厚が大きくなることで、当該部位における強度も高くなる。これにより、半円板部の板厚を薄くできるので、スロットルバルブの全開状態において、吸入空気の流路開口面積の減少を抑えられる。
【0021】
このように、本発明の製造方法によれば上記作用効果を得られるので、溶融樹脂の硬化後は、ゲート跡突起を折ることで除去することが好ましい。ゲート跡突起を折ることで除去する場合は、切除する場合よりも効率的である。
【0022】
また、前記台座の側面を、前記射出ゲート側からシャフト被覆部に向けて拡がる斜面としたうえで、溶融樹脂の硬化後、前記台座を回転切削工具にて切削することもできる。台座を切削するのは、ゲート跡突起を折った後に仕上げ処理として行っても良いし、ゲート跡突起を含めて台座を切削してもよい。台座を切削すれば、台座の突出量が小さくなると共に切削面が平坦となるので、吸入空気の流動が阻害され難い。また、回転切削工具にて切削する場合、台座には回転切削工具の接線方向にせん断応力が作用するが、台座の側面が末拡がりの斜面となっていれば、せん断力が作用する方向の長さ(厚み)が大きくなり切削に伴う台座の欠損を有効に防止できる。
【0023】
なお、台座を回転切削工具によって切削することを必須とし、これに伴う台座の欠損防止のみに着目すれば、射出ゲートや台座の形状は特に限定されない。すなわち、射出ゲートや台座は、必ずしも角部を有する形状とする必要は無く、例えば円形でもよい。この場合の発明として、内燃機関への吸入空気量を制御するスロットル装置へ軸回動自在に配設され、円筒状のシャフト被覆部と、該シャフト被覆部を挟んで相対する方向に延在する半円板状の半円板部とを有する樹脂製のバルブ体に、回動中心となるスロットルシャフトをインサート成形してなるスロットルバルブの製造方法であって、前記シャフト被覆部の表面に台座が形成されるように金型のキャビティを形成して、溶融樹脂を射出充填する射出ゲートを前記台座用のキャビティに連通し、前記台座の側面は、前記射出ゲート側からシャフト被覆部に向けて拡がる末拡がりの斜面となっており、溶融樹脂の硬化後、前記台座を回転切削工具にて切削することを特徴とする、スロットルバルブの製造方法を提案することもできる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、射出成形直後に残存するゲート跡突起を折ることで除去しても、ゲート跡突起の形状に基づく応力集中によって身食いが生じる範囲が狭くなる。したがって、仮に身食いが生じたとしてもその範囲は台座部分のみに留まるので、バルブ体本体の欠損を防止できる。また、溶融樹脂を射出充填する際の流動抵抗及び圧力損失が小さいので、キャビティ内の保圧力を増大でき、バルブ体の樹脂密度を向上できる。同時に、内圧を高いレベルで保圧できる時間も長くなる。而して、樹脂密度が高く寸法精度の良好なスロットルバルブを製造することができる。また、台座の側面を末拡がりの斜面としていれば、当該台座を回転切削工具によって切削する場合でも、台座の欠損を有効に回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】スロットル装置の斜視図である。
【図2】スロットルバルブの斜視図である。
【図3】金型の断面図である。
【図4】射出ゲートを正面から見た金型の断面図である。
【図5】溶融樹脂の流れを示す模式図である。
【図6】ゲート跡突起が残存している状態のスロットルバルブの側面図である。
【図7】台座を切削する場合の模式図である。
【図8】実施例2における溶融樹脂の流れを示す模式図である。
【図9】実施例3のスロットルバルブの斜視図である。
【図10】実施例4における金型の要部拡大断面図である。
【図11】実施例4のスロットルバルブの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の代表的な複数の実施例について説明するが、これに限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0027】
(実施例1)
本発明の製造方法によって製造されるスロットルバルブ10は、図1に示すように、スロットル装置1へ軸回動自在に配設される。スロットル装置1は、自動車等の車両に搭載され、図外の内燃機関(エンジン)の各気筒への吸入空気量を制御する装置である。スロットル装置1のスロットルボディ2は樹脂製であり、円筒形のボア部3と、モータハウジング部4と、ギアボックス部5とを有する。ボア部3の内部空間が、吸入空気が流動していく吸気通路となり、当該ボア部3の内部にスロットルバルブ10が正逆回転自在に配設されている。スロットルバルブ10の軸両端は、ボア部3の対向位置に設けられた軸受部6において支承されている。スロットルバルブ10は、図外のアクセルペダルの踏み込み量等に応じて回動制御される。スロットルバルブ10が回動することで、当該スロットルバルブ10の外周縁部とボア部3の内壁面との間の隙間(クリアランス)寸法が変化し、このクリアランスのサイズ変化によって、内燃機関へ導入される吸入吸気量が制御される。図1に示す状態が、スロットルバルブ10の全開状態である。一方、スロットルバルブ10が吸入空気の流動方向に対して略直角となる角度(図1に示す方向を基準として略水平な角度)にあるとき、吸気通路が全閉される。モータハウジング部4の内部には、スロットルバルブ10を回転駆動させる駆動手段であるモータ(図示せず)が配されている。ギアボックス部5の内部には、モータの駆動力をスロットルバルブ10へ伝達するギア機構(図示せず)が配されている。
【0028】
図2に示すように、スロットルバルブ10は、略円板形状の樹脂製のバルブ体11と、軸回動中心となる棒状の金属製のスロットルシャフト12とを有する。スロットルシャフト12は、バルブ体11の中央部において円板平面内の径方向に貫通しており、その両端部がスロットルボディ2のボア部3に設けられた軸受部6で支承される。バルブ体11はスロットルシャフト12を被覆する円筒状のシャフト被覆部13と、当該シャフト被覆部13を挟んで相対する方向に延在する半円板状の半円板部14・14とを一体的に有する。シャフト被覆部13の軸方向中央部であって、シャフト被覆部13の円弧面の両頂部には、釣鐘状の台座15・15がシャフト被覆部13の表面から突出した状態で一体的に形成されている。両台座15・15は、互いに半円板部14・14の延在方向(図面基準では上下方向)で反対側へ向けて形成されている。なお、図示していないが、半円板部14・14の表面には、スロットルシャフト12の軸方向と直交する方向に、複数の補強用のリブが等間隔で一体的に並設されている。
【0029】
スロットルボディ2及びバルブ体11は、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエーテルイミド(PEI)などの耐熱性が良好な熱可塑性樹脂により射出成形されている。
【0030】
そこで、図3〜7を参照しながら、スロットルバルブ10の製造方法について説明する。基本的には、図3に示すように、所定形状のキャビティを有する成形金型40内にスロットルシャフト12をインサートした状態で、バルブ体11を射出成形する。バルブ成形金型40は、固定金型41、可動金型42、スライドコア43・43等によって構成され、それぞれを型締めした状態においてキャビティが画定される。具体的には、固定金型41及び可動金型42には、それぞれシャフト被覆部13用のキャビティ13c(以下、金型の説明に関して単にシャフト被覆部13cと称す)と、これに連続する半円板部14用のキャビティ14c(以下、金型の説明に関して単に半円板部14cと称す)が形成されている。したがって、固定金型41と可動金型42とを当接型締めしたとき、スロットルシャフト12の軸中心(シャフト被覆部13cの軸中心)を通り、半円板部14cの延在方向(本実施例では上下方向)と直交する方向(本実施例では水平方向)の中心線L1は、固定金型41と可動金型42との当接面Sに一致する。また、シャフト被覆部13cの両頂部には、台座15用のキャビティ15c(以下、金型の説明に関して単に台座15cと称す)が形成されている。
【0031】
固定金型41には、溶融樹脂の流路となる2本のランナー44・44が半円板部14cを挟んで設けられており、その先端部に開口する射出ゲート45が台座15cに連通されて、シャフト被覆部13cの円弧面の頂部に臨んでいる。すなわち、射出ゲート45は、スロットルシャフト12(シャフト被覆部13c)の軸方向と直交する方向(本実施例では左右方向)からスロットルシャフト12を挟んで対向するように2箇所設けられている。なお、両射出ゲート45・45は、半円板部14cの延在方向とも直交する。ランナー44の先端部は先窄まり状となっており、射出ゲート45の断面積はランナー44の断面積より小さい。符号3cは、スロットルボディ2のボア部3形成用のキャビティである。ボア部3用のキャビティ3cには、図示していない別の射出ゲートから溶融樹脂が射出充填される。
【0032】
2つある射出ゲート45・45及び台座15c・15cのうち、一方(本実施例では右側)の射出ゲート45及び台座15cは固定金型41に形成されており、他方(本実施例では左側)の射出ゲート45及び台座15cは可動金型42に形成されている。これにより、一方の射出ゲート45及び台座15cは、固定金型41と可動金型42との当接面Sの直下にあり、他方の射出ゲート45及び台座15cは固定金型41と可動金型42との当接面Sの直上にある。したがって、両射出ゲート45・45及び台座15c・15cは、固定金型41と可動金型42との当接面S、すなわちスロットルシャフト12(シャフト被覆部13c)の軸中心を通る中心線L1を挟んで、半円板部14cが延在する上下方向へ互いに反対側へ位置ズレ(オフセット)した関係にある。両台座15c・15cは、シャフト被覆部13cの頂部、すなわち中心線L1からそれぞれ射出ゲート45が形成されている方向(位置ズレ方向)へ向けて形成されている。図4に示すように、射出ゲート45の断面形状は釣鐘状であり、台座15cの断面形状も射出ゲート45の断面形状と同じ釣鐘状に形成されている。正確には、射出ゲート45の断面形状と台座15cの断面形状とは相似形状である。また、台座15cの側面は、射出ゲート45側からシャフト被覆部13cに向けて拡がる斜面となっている。
【0033】
次に、射出成形について説明する。まず、スロットルシャフト12を成形金型40内にインサートして、シャフト被覆部13cの中央部に配置されるよう固定したうえで、固定金型41や可動金型42等を型締めし、キャビティを画定する。そして、ランナー44を通して供給されてくる溶融樹脂を、シャフト被覆部13cに臨む射出ゲート45を介してキャビティ内へ射出充填する。すると、図5に示すように、溶融樹脂はシャフト被覆部13c内を分岐するように流動していく。このとき、台座15cの存在と、射出ゲート45及び台座15cが中心線L1を挟んで位置ズレしていることで、シャフト被覆部13c内の樹脂流量に差が生じる。具体的には、中心線L1の一方側(本実施例では下方)に位置ズレした一方(本実施例では右側)の射出ゲート45から射出された溶融樹脂は、スロットルシャフト12の若干下方部に衝突することで流動方向が下向きとなること、及び台座15cの存在によって流路幅が大きくなっていることにより、シャフト被覆部13c内を主に下方へ向けて流動し、上方への流動量は僅かとなる。一方、中心線L1の他方側(本実施例では上方)に位置ズレした他方(本実施例では左側)の射出ゲート45から射出された溶融樹脂は、スロットルシャフト12の若干上方部に衝突することで流動方向が上向きとなること、及び台座15cの存在によって流路幅が大きくなっていることにより、シャフト被覆部13c内を主に上方へ向けて流動し、下方への流動量は僅かとなる。
【0034】
これにより、一方(本実施例では下側)の半円板部14cへは一方(右側)の射出ゲート45から射出された溶融樹脂が充填されていき、他方(本実施例では上側)の半円板部14cへは他方(左側)の射出ゲート45から射出された溶融樹脂が充填されていくことになる。この場合、射出ゲート45から射出された溶融樹脂が上下方向へ略均等に分岐して流動するよりも流動抵抗及び圧力損失は低くなる。なお、射出ゲート45及び台座15cが同じ釣鐘形状であることも、流動抵抗及び圧力損失低下防止に寄与する。これにより、キャビティ内を従来よりも高い圧力で保持できると共に、より長時間高いレベルで保圧できるので、樹脂密度が向上してバルブ体11の寸法精度が向上する。
【0035】
溶融樹脂が硬化したら型抜きして、スロットルシャフト12がインサート形成されたスロットルバルブ10が得られる。但し、型抜きしただけでは、図6に示すように、台座15にゲート跡突起20が残存しており、このままでは製品として使用できない。そこで、ゲート跡突起20を折ることで除去する。このとき、ゲート跡突起20と共にその周辺部位も一緒にもぎ取られる、いわゆる身食いが発生する場合がある。しかし、本実施例ではゲート跡突起20が釣鐘状を呈するので、当該釣鐘の頂部に応力集中が生じ、身食い範囲が狭くなる。しかも、射出ゲート45はランナー44より断面積が小さいので、応力自体も小さい。そのうえで、ゲート跡突起20は台座15上に形成されている。したがって、仮に身食いが生じたとしても欠損するのは台座15部分のみに留まり、バルブ体11自体の欠損が確実に防がれる。
【0036】
ゲート跡突起20を除去できれば、そのままスロットルバルブ10をスロットル装置1へ組み込んで使用することもできる。しかし、ゲート跡突起20を折っただけでは台座15の突出量は大きく、しかもその上面(破断面)は平坦でないため、そのままでは吸入空気の流動が阻害される恐れがある。そこで、仕上げ処理として、台座15を切削することが好ましい。台座15の切削には、回転させながらスライド移動させることで、対象物を切削する回転切削工具を使用するとよい。代表的には、図7に示すように、公知のエンドミル21を使用できる。このとき、エンドミル21の回転切削により台座15にはエンドミル21の接線方向にせん断力Fが作用し、当該せん断力Fによって台座15が欠けることがある。最悪の場合、台座15の欠損がバルブ体11にも及ぶことがある。しかし、本実施例では台座15の側面が末広がりの斜面となっていることで、せん断力Fが作用する方向への肉厚が大きくなっており、台座15は欠損し難い。
【0037】
(実施例2)
上記実施例1では、2枚の半円板部14・14同士は、同軸状(同一平面)に形成されていたが、図8に示す実施例2のように、バルブ体11の両半円板部14・14を、スロットルシャフト12の軸中心を通る半円板部14の延在方向(本実施例では上下方向)の中心線L2を挟んで、互いに反対側へ位置ズレした状態で形成することが好ましい。この場合、各半円板部14・14は、それぞれ台座15・15が形成されている方向へ位置ズレさせる。すなわち、成形金型40のキャビティで言えば、各半円板部14c・14cと各射出ゲート45・45とが、それぞれ互いに近接する方向に位置ズレさせる。これによれば、射出ゲート45に臨む部位におけるシャフト被覆部13cの流路幅が実施例1より大きくなり、さらに流動抵抗及び圧力損失を低減することができる。その他は実施例1と同様なので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0038】
(実施例3)
また、上記実施例1では、軸方向両端に亘って直径が一様なスロットルシャフト12をインサートしたが、図9に示す実施例3のように、スロットルシャフト12の軸方向中央部、すなわち射出ゲート45が臨む部位に、他の部位より直径の小さい小径部12aを有するスロットルシャフト12をインサートすることも好ましい。これによれば、射出ゲート45に臨む小径部12aにおけるシャフト被覆部13cの流路幅が実施例1より大きくなり、さらに流動抵抗及び圧力損失を低減することができる。その他は実施例1と同様なので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0039】
(実施例4)
また、上記実施例1は、ゲート跡突起20を折ることを前提としながら、同時にバルブ体11の樹脂密度向上を図る形態であるが、これらの作用効果よりも台座の切削による欠損防止を主眼とするならば、台座の側面が射出ゲート側からシャフト被覆部に向けて拡がる斜面となっている限り、射出ゲートや台座の形状は特に限定されない。例えば、特許文献1のような従来技術に、末拡がりの斜面を有する台座を設けるのみでもよい。実施例4はこのような形態の実施例である。
【0040】
実施例4では、図11に示すように、シャフト被覆部13の表面に円形の台座16・16が形成されている。詳しくは、図10に示すように、シャフト被覆部13cの軸方向と直交する対向位置からシャフト被覆部13cの頂部に台座16を介して連通する射出ゲート45・45は、同軸(中心線L1)上にある。両射出ゲート45・45の断面形状も円形である。両台座16・16も中心線L1を中心に形成されているが、その側面は、射出ゲート45側からシャフト被覆部13cに向けて拡がる末拡がりの斜面となっている。そのうえで、溶融樹脂の硬化後に台座16・16を回転切削工具にて切削する。この場合も、台座16・16の側面が末広がりの斜面となっていることで、実施例1の図7と同様に、せん断力Fが作用する方向への肉厚が大きくなっており、台座16・16は欠損し難い。その他は実施例1と同様なので、同じ部材に同じ符号を付してその説明を省略する。
【0041】
(その他の変形例)
上記各実施例では、スロットルバルブ10とスロットルボディ2とを異なる射出ゲートによって別々に成形していたが、1つのランナー44をバルブ体11用のキャビティとスロットルボディ2用のキャビティとに連通させて、同時に射出成形することもできる。回転切削工具による台座の切削は、ゲート跡突起を折らずにゲート跡突起も含めて切削してもよい。回転切削工具としては、エンドミルの他に砥石などの研削工具も使用できる。
【0042】
また、上記各実施例は、好ましい形態として例示している。これらの実施例と比べれば、得られる作用効果の程度が劣るが、以下のような形態とすることもできる。射出ゲートの断面形状は、応力集中部となる少なくとも1つの角部を有する非真円形であれば、釣鐘形状に限られず、三角形、四角形等の多角形や、扇形、小判形など、種々の形状にすることができる。射出ゲートの断面積は、ランナーの断面積と同じでも構わない。少なくとも射出ゲートを互いに位置ズレさせていれば、同時に台座も位置ズレさせていなくてもよい。射出ゲートの断面形状と台座の断面形状が異なっていてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1 スロットル装置
2 スロットルボディ
3 ボア部
6 軸受部
10 スロットルバルブ
11 バルブ体
12 スロットルシャフト
12a 小径部
13 シャフト被覆部
14 半円板部
15・16 台座
20 ゲート跡突起
21 エンドミル
41 固定金型
42 可動金型
44 ランナー
45 射出ゲート
F せん断力
L1 バルブ体の延在方向と直交する方向の中心線
L2 バルブ体の延在方向の中心線
S 当接面




【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関への吸入空気量を制御するスロットル装置へ軸回動自在に配設され、円筒状のシャフト被覆部と、該シャフト被覆部を挟んで相対する方向に延在する半円板状の半円板部とを有する樹脂製のバルブ体に、回動中心となるスロットルシャフトをインサート成形してなるスロットルバルブの製造方法であって、
前記シャフト被覆部の表面に台座が形成されるように金型のキャビティを形成して、溶融樹脂を射出充填する射出ゲートを前記台座用のキャビティに連通し、
前記射出ゲートは少なくとも1つの角部を有する断面形状であることを特徴とする、スロットルバルブの製造方法。
【請求項2】
前記射出ゲートの断面積は、該射出ゲートへ溶融樹脂を供給するランナーの断面積より小さいことを特徴とする、請求項1に記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項3】
前記射出ゲートは、その断面形状が釣鐘状であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項4】
前記射出ゲート及び台座は、前記スロットルシャフトの軸方向と直交する方向からスロットルシャフトを挟んで対向する2箇所に設けられ、各台座及び射出ゲートは前記シャフト被覆部の頂部に臨んでおり、
両射出ゲートは、前記スロットルシャフトの軸中心を通り前記半円板部の延在方向と直交する方向の中心線を挟んで、前記半円板部が延在する方向へ互いに反対側へ位置ズレした位置に設けられていることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項5】
前記各台座は、前記シャフト被覆部の頂部からそれぞれ前記射出ゲートが位置ズレした方向へ向けて形成されていることを特徴とする、請求項4に記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項6】
前記台座の断面形状は、前記射出ゲートの断面形状と同じ形状であることを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項7】
前記バルブ体の両半円板部は、前記スロットルシャフトの軸中心を通る半円板部の延在方向の中心線を挟んで、互いに反対側へ位置ズレした状態で形成されており、
前記各半円板部と前記各射出ゲートとは、それぞれ互いに近接する方向に位置ズレしていることを特徴とする、請求項4ないし請求項6のいずれかに記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項8】
前記射出ゲートが臨む前記スロットルシャフトの部位は、他の部位よりその軸径が小さいことを特徴とする、請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項9】
溶融樹脂の硬化後、ゲート跡突起を折ることで除去することを特徴とする、請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項10】
前記台座の側面は、前記射出ゲート側からシャフト被覆部に向けて拡がる斜面となっており、
溶融樹脂の硬化後、前記台座を回転切削工具にて切削することを特徴とする、請求項1ないし請求項9のいずれかに記載のスロットルバルブの製造方法。
【請求項11】
内燃機関への吸入空気量を制御するスロットル装置へ軸回動自在に配設され、円筒状のシャフト被覆部と、該シャフト被覆部を挟んで相対する方向に延在する半円板状の半円板部とを有する樹脂製のバルブ体に、回動中心となるスロットルシャフトをインサート成形してなるスロットルバルブの製造方法であって、
前記シャフト被覆部の表面に台座が形成されるように金型のキャビティを形成して、溶融樹脂を射出充填する射出ゲートを前記台座用のキャビティに連通し、
前記台座の側面は、前記射出ゲート側からシャフト被覆部に向けて拡がる斜面となっており、
溶融樹脂の硬化後、前記台座を回転切削工具にて切削することを特徴とする、スロットルバルブの製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−98480(P2011−98480A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253841(P2009−253841)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】