説明

セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法、並びに、これを用いた偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置

【課題】 優れたレターデーションの発現性を有し、微細偏光異物および黄色味が少ないセルロースアシレートフィルムを提供する。
【解決手段】 炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有しており特定の置換度を満足するセルロースアシレートと、下記式で表される化合物とを含有する溶融流延によって形成したセルロースアシレートフィルム。
【化1】


(Ar1およびAr2はアリール基等、L1およびL2は−C(=O)O−または−C(=O)NR−、RはHまたはアルキル基、Xはビフェニレン基等を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は優れたレターデーション発現性を有し、フィルムの微細偏光異物の数および黄色味(イエローネスインデックス:YI値)が少ない溶融製膜されたセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。
また、本発明は液晶画像表示装置に有用な偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルムおよび反射防止フィルム、並びに、液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステルフィルムは、ハロゲン化写真感光材料の支持体、位相差板、位相差板の支持体、偏光板の保護フィルムおよび液晶表示装置などに使用されている。
従来、液晶画像表示装置に使用されるセルロースエステル光学補償フィルムを製造する際には、ジクロロメタンのような塩素系有機溶剤に溶解し、これを基材上に流延し、その後乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されている。前記塩素系有機溶剤として用いられるジクロロメタンは、従来からセルロースアシレートの良溶媒として用いられており、製造工程における製膜や乾燥工程において沸点が低い(沸点約40℃)ことから乾燥させ易いという利点を有し、好ましく用いられている。
【0003】
近年、環境保全の観点から低沸点である塩素系有機溶媒は、密閉設備での取り扱いを義務づけられるなど、その漏れを著しく低減するように要求されている。このため、ガス吸収塔を設置し、万が一外部に漏れても外気に排出される前に有機溶媒を吸着させて処理する方法や、排出する前に火力による燃焼または電子線ビームによる塩素系有機溶媒を分解する方法などで、殆ど有機溶媒を排出することはなくなったが、完全に塩素系有機溶媒の排出を防止するまでには更に研究する必要がある。
【0004】
塩素系有機溶媒の排出に対する対策としては、有機溶剤を用いない製膜法が考案されており、セルロースアシレートを溶融製膜する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法は、溶媒を用いずセルロースエステルを、流動性を示す温度まで加熱溶融し、その後流動性を示したセルロースエステルをエンドレスベルトおよびドラム上に押し出し製膜するものである。この技術では、セルロースアシレートとして、エステル基の炭素鎖を長くして融点を下げ溶融製膜しやすくしたものが好ましく用いられており、具体的には、セルロースアセテートを、セルロースプロピオネートやセルロースブチレート等に変えることで溶融製膜が容易となっている。
【0005】
一方、液晶表示装置用の光学フィルムとしては、偏光板の保護フィルムや、フィルムを延伸して面内のレターデーション(以下、「Re」と称する場合がある。)および厚み方向のレターデーション(以下、「Rth」と称する場合がある。)を発現させ、STN(Super Twisted Nematic)方式などの液晶表示装置の位相差膜として使用する方法が実施されている。このような、セルロースアシレートに適度な光学特性を付与することで、偏光板保護フィルムと兼用した液晶表示装置の位相差フィルム、光学補償フィルムとしても使用することが求められている。
【0006】
近年、STN型に比べてより高いReとRthとの位相差が要求されるVA(Vertical Alignment)方式やOCB(Optical Compensated Bend)方式の液晶表示素子が開発され、レターデーション発現性に優れた光学フィルム材料が要求されている。例えば、VA型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムのReを30〜150nmとし、Rthが70〜400nmの範囲の光学特性が求められている。
【0007】
しかしながら、前記特許文献1で開示された方法について鋭意検討した結果、該手法では、前述のReとRthとの発現範囲が小さく、ReとRthとをそれぞれ好ましい範囲内に制御することができなかった。このため、VAなど液晶表示装置に対して光学補償ができないという問題があることが判明した。また、この前記特許文献1に記載の方法で溶融製膜したフィルムを用いて偏光板を作製し液晶表示装置に組み込んだところ、偏光を用いてはじめて観察される異物(以下、「観測微細偏光異物」と称する場合がある。)がフィルム中に混在しており、この微細偏光異物のために表示ムラや画像ボケなどの問題が発生しており、その改良が望まれている。
【0008】
【特許文献1】特開2000−352620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の第1の目的は、光学特性であるRe(面内レターデーション)およびRth(厚み方向レターデーション)の発現領域が広く、且つOCB、VA等液晶モードに応じて、光学補償適宜なReとRthとをそれぞれ好ましい範囲内に制御することができるセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法、並びに、これを用いた偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置を提供することにある。
本発明の第2の目的は、溶融製膜したセルロースアシレートフィルム中に微細偏光異物の数および黄色味を低減させ、結果として、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いる液晶表示装置に組み込み黒表示時した時に発生する表示ムラや画像ボケなどの問題を解消することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題は、以下の構成により解決されることが見出された。
[1] 炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有し且つ下記式(A)〜(C)を満足するセルロースアシレートと、下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも1種とを含有し、溶融流延によって形成されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A): 2.5≦X+Y≦3.0
式(B): 0≦X≦2.5
式(C): 0.3≦Y<3
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【化1】

(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは下記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【化2】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【化3】

(式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0011】
[2] 前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(1−4)で表される化合物であり、且つ、前記一般式(1−4)で表される化合物の1種を、前記セルロースアシレートに対して0.1質量%〜15質量%含有することを特徴とする[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化4】

(式中、R22、R25、R26、R27、R28、R29、R30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R31は炭素数1〜12のアルキル基を表す。R32は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。R33は炭素数1〜4のアルキル基を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは前記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【0012】
[3] 微細偏光異物の含有量が0〜5〔個/5×10-2mm3〕であり、且つ、イエローネスインデックス(YI値)が0〜8であることを特徴とする[1]〜[2]に記載セルロースアシレートフィルム。
[4] 波長590nmにおける面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)とが、下記式(D)〜(F)を満足することを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルム。
式(D): 0≦Re≦300
式(E): 10≦Rth≦500
式(F): 1≦Rth/Re≦10
【0013】
[5] 25℃・相対湿度10%の面内のレターデーション(Re)と25℃・相対湿度80%の面内のレターデーション(Re)との差が15nm以下であり、且つ、25℃・相対湿度10%の厚み方向のレターデーション(Rth)と25℃・相対湿度80%の厚み方向のレターデーション(Rth)との差が25nm以下であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルム。
【0014】
[6] 前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法であって、溶融製膜の際に、スクリューの圧縮比が2.5〜4.5、スクリューの長さと直径との比(L/D)が20〜50、および、スクリューの回転数が60rpm〜400rpmの押出し機を用い、前記押出機内のスクリュー温度パターンを分割制御して供給部、圧縮部および計量部の順に段階的に温度を5℃〜50℃上げることを特徴とする請求項1〜5に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【0015】
[7] 前記[1]〜[5]のいずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムを、少なくとも一軸方向に10%〜300%延伸したことを特徴とする延伸セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法。
【0016】
[8] 偏光子の両側に保護フィルムが貼り合わされてなる偏光板であって、該保護フィルムの少なくとも1枚が[1]〜[7]いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムである偏光板。
[9] 偏光板の一方の保護フィルムの表面に、ハードコート層、防眩層、および反射防止層から選ばれる少なくとも一層を設けた[8]記載の偏光板。
[10] 液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる液晶表示装置であって、少なくとも1枚の偏光板が[8]または[9]に記載の偏光板である液晶表示装置。
[11] 液晶モードがOCBまたはVAモードである[10]記載の液晶表示装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、優れたレターデーション(Re、Rth)の発現性を有し、溶融しやすく、微細偏光異物および黄色味(イエローネスインデックス YI値)の少ないセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法、並びに、これを用いた偏光板、位相差フィルム、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムについて製膜手順に沿って説明する。また、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有し且つ下記式(A)〜(C)を満足するセルロースアシレートと、下記一般式(1)で表される化合物を少なくとも1種とを含有し、溶融流延によって形成されたことを特徴とする。
【0020】
式(A): 2.5≦X+Y≦3.0
式(B): 0≦X≦2.5
式(C): 0.3≦Y<3
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【0021】
【化5】

(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す(左側の結合手がAr1またはAr2に結合し、右側の結合手がXに結合することが好ましい)。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは下記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【0022】
【化6】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0023】
【化7】

(式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0024】
(1)レターデーションRe、Rthの発現性向上
本発明によれば、セルロースアシレートフィルム中に前記一般式(1)で表されるように芳香族環4個を有し、異方性が大きく、且つセルロースアシレートとの相溶性がよい長軸棒状化合物を添加することにより、ReおよびRthの発現領域を広げることができる。また、横縦延伸倍率の制御に加え、各液晶モード(OCB、VA等)に応じて、光学補償適宜なReとRthとをそれぞれ好ましい範囲内に制御することができる。
【0025】
(2)表示ムラおよび画像ボケの解消
また、本発明者は前記液晶表示装置の表示ムラおよび画像ボケの発生原因を鋭意検討した結果、溶融製膜したセルロースアシレートフィルムに偏光顕微鏡でしか見えない微細偏光異物が存在していることを確認し、混在した「微細偏光異物」が光を散乱させることによって、表示ムラや画像ボケを発生させることを解明した。このような微細偏光異物の大きさは、その直径が1〜10μm程度で、クロスニコル下の偏光顕微鏡で観察されるものを指す。本発明のセルロースアシレートフィルムにおける微細偏光異物の含有量としては、好ましくは0〜5〔個/5×10-2mm3〕であり、より好ましくは0〜4〔個/5×10-2mm3〕であり、さらに好ましくは0〜3〔個/5×10-2mm3〕、さらにより好ましくは0〜2〔個/5×10-2mm3〕である。
【0026】
前記微細偏光異物は、溶液流延法で製膜したセルロースアシレートフィルムでも故障となる場合があるが、溶融製膜法で作製したフィルムにおいてより頻繁に発生する問題である。微細偏光異物の発生原因を解析したところ、セルロースアシレートを製造する際に発生する未反応物であることが解かった。即ち、セルロースアシレートはセルロースをアシル化して調製するが、アシル化が不均一に進みアシル化率の低いセルロースアシレートが生成することがある。溶液製膜法では、このような低アシル化物も溶剤に溶解するため微細偏光異物は発生しないが、従来の溶融製膜法ではこのような低アシル化物は溶融しきれず微細異物となって残り、上述の微細偏光異物となっていた。
【0027】
このような微細偏光異物の発生を、本発明ではセルロースアシレートの樹脂組成と溶融製膜工程との両方アプローチから対策したことを特徴としている。即ち、このような微細な異物は濾過では取りきれないことから、根源から対処した(微細偏光異物となる低アシル化物を十分に融解させた)ことを特徴とする。
具体的には、セルロースアシレート樹脂に一般式(1)で表される化合物(芳香族環4個を有する棒状化合物)を添加することにより、セルロースアシレートの溶融粘度を低下させると同時に、微細偏光異物を融解させる促進効果をも奏することができる。
【0028】
また、詳細については後述するが溶融製膜の際に用いられる単軸または2軸押し出し機のスクリューを高回転とし、図2に示すようにスクリューの温度パターンを、上流の供給部41(入口側)から、圧縮部42(中間部)、下流の計量部43(出口側)に従って、5℃〜50℃の範囲で段階的に上げることで本発明のセルロースアシレートフィルムを作製することができる。
【0029】
従来の溶融製膜工程においては、微細偏光異物を溶かす為に、スクリュー温度を200〜280℃一定あるいはそれ以上の高温とし、スクリューの回転は、低速回転10〜50rpmまたはそれ以下の低速で行われていた。また、押出し機における滞留時間は5分〜10分またはそれ以上という長時間をかけて実施されていた。しかし、このような高温でゆっくり剪断力を加えず(低回転で)溶融方法では、得られたフィルムが熱劣化により、着色し、黄色味(YI値)が大きいという欠点がある。
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、低溶融粘度の樹脂組成、および短時間、高剪断力(高回転)、段階的に高温化のスクリュー温度パターンの溶融製膜条件を用いることにより、樹脂中に混在する未溶微細偏光異物を十分に融解させ、しかも溶融熱履歴を最低限に抑えることで、製膜したセルロースアシレートの微細偏光異物および黄色味(YI値)を両立できるようにした。
【0030】
本発明におけるセルロースアシレートフィルムは、レターデーション発現性が良好であり、且つ微細偏光異物および黄色味が少ないため、位相差フィルムや偏光膜の保護フィルムとして好適に用いることができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いた偏光板を液晶表示装置に組み込むことで、表示ムラや視認性変化等の発生を防止することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いると、液晶表示装置、特にVA方式の液晶表示装置の画像について極めて良好にすることができる。
【0031】
《セルロースアシレートフィルム》
(1)素材
[セルロースアシレート]
まず、本発明に用いられるセルロースアシレートについて説明する。本発明に用いられるセルロースアシレートは2種類以上のアシル基を有し、且つ、アシル基の炭素数は2〜6であり、更に、アシル置換度が2.5〜3.0であることを特徴とする。
また、本発明におけるセルロースアシレートは、アシル基の置換度(以下、「アシル化度」ともいう)が、下記の置換度(式(A)〜(C))を満足する。
式(A): 2.5≦X+Y≦3.0
式(B): 0≦X≦2.5
式(C): 0.3≦Y<3
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【0032】
本発明におけるセルロースアシレートは下記の置換度(式(A1)〜(C1))を満たすことが好ましく、式(A2)〜(C2)を満たすことが特に好ましい。
【0033】
式(A1): 2.5≦X+Y≦2.99
式(B1): 0≦X≦2.0
式(C1): 0.5≦Y≦2.95
【0034】
式(A2): 2.55≦X+Y≦2.95
式(B2): 0≦X≦1.5
式(C2): 0.8≦Y≦2.95
【0035】
前記各式で表される置換度設定のように、本発明におけるセルロースアシレートは、アセチル基の置換度を少なくし、炭素数3〜6のアシル基置換度の総和を多くすることにより、結晶融解温度(Tm)を下げることができる。また、溶融熱による分解で発生する黄変を抑制することもできる。すなわち、本発明におけるセルロースアシレートは、溶融製膜に適した構造となる。
【0036】
本発明におけるセルロースアシレートのアシル基の平均置換度は、ASTM D−817−91に準じた方法;セルロースアシレートを完全に加水分解し、遊離したカルボン酸またはその塩をガスクロマトグラフィーあるいは高速液体クロマトグラフィーで定量する方法;1H−NMRあるいは13C−NMRによる方法などを単独で、または組み合わせることにより決定することができる。
【0037】
本発明においては、異なる2種類以上のセルロースアシレートを混合して用いてもよいし、含有する層を分けて用いてもよい。また、セルロースを構成する、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。このため、セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をエステル化した重合体(ポリマー)である。従って、アシル置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%のエステル化は置換度1)の合計を意味する。
【0038】
本発明においては、セルロースの2位、3位および6位のそれぞれの水酸基の置換度は特に限定されないが、セルロースアシレートの6位での置換度が、好ましくは0.8以上であり、さらに好ましくは0.85以上であり、特に好ましくは0.90以上である。
【0039】
次に、本発明におけるセルロースアシレートの製造方法について詳細に説明する。本発明のセルロースアシレートの、原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7頁〜12頁にも詳細に記載されている。
【0040】
(原料および前処理)
本発明におけるセルロースアシレートの原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のセルロース原料が好ましく用いられる。前記セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%〜99.9質量%の高純度のものを用いることが好ましい。
セルロース原料がフィルム状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、セルロース原料の形態は微細粉末−羽毛状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0041】
(活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いた場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりするといった工程を含むことが好ましい。活性化剤はいかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法としては噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。
【0042】
前記活性化剤として好ましいカルボン酸は、炭素数2〜7のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸、ヘプタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸など)であり、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。
【0043】
活性化の際は、必要に応じて更に硫酸などのアシル化の触媒を加えることもできる。しかし、硫酸のような強酸を添加すると、解重合が促進されることがあるため、その添加量はセルロースに対して0.1質量%〜10質量%程度に留めることが好ましい。また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2〜7のカルボン酸の酸無水物を添加したりしてもよい。
【0044】
前記活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。活性化剤の量が前記下限値以上であれば、セルロースの活性化の程度が低下するなどの不具合が生じないので好ましい。活性化剤の添加量の上限は生産性を低下させない限りにおいて特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。活性化剤をセルロースに対して大過剰加えて活性化を行い、その後、ろ過、送風乾燥、加熱乾燥、減圧留去、溶媒置換などの操作を行って活性剤の量を減少させてもよい。
【0045】
活性化の時間は20分間以上であることが好ましい。活性化の時間の上限については生産性に影響を及ぼさない範囲であれば特に制限はないが、好ましくは72時間以下、更に好ましくは24時間以下であり、特に好ましくは12時間以下である。また、活性化の温度は0℃〜90℃が好ましく、15℃〜80℃が更に好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。セルロースの活性化の工程は加圧または減圧条件下で行うこともできる。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。
【0046】
(アシル化)
本発明におけるセルロースアシレートを製造する方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。
6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851、特開2002−212338号や特開2002−338601号各公報などに記載がある。
【0047】
セルロースアシレートの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、t−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下で、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができる。特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒によるアシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
【0048】
セルロース混合アシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法;2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法;カルボン酸とそれ以外のカルボン酸との酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法;置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基を更にアシル化する方法などを用いることができる。
【0049】
(カルボン酸の酸無水物)
カルボン酸の酸無水物としては、カルボン酸としての炭素数が2〜7の酸無水物が好ましく、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、2−メチルプロピオン酸無水物、吉草酸無水物、3−メチル酪酸無水物、2−メチル酪酸無水物、2,2−ジメチルプロピオン酸無水物(ピバル酸無水物)、ヘキサン酸無水物、2−メチル吉草酸無水物、3−メチル吉草酸無水物、4−メチル吉草酸無水物、2,2−ジメチル酪酸無水物、2,3−ジメチル酪酸無水物、3,3−ジメチル酪酸無水物、シクロペンタンカルボン酸無水物、ヘプタン酸無水物、シクロヘキサンカルボン酸無水物、安息香酸無水物などを挙げることができる。
【0050】
カルボン酸の酸無水物としてより好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物、ヘプタン酸無水物などの無水物であり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物である。
【0051】
また、混合エステルを調製する目的で、これらの酸無水物を併用して使用することが好ましく行われる。その混合比は目的とする混合エステルの置換比に応じて決定することが好ましい。酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量添加することが好ましい。すなわち、セルロースの水酸基に対して1.2〜50当量添加することが好ましく、1.5〜30当量添加することがより好ましく、2〜10当量添加することが特に好ましい。
【0052】
(触媒)
本発明におけるセルロースアシレートの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。好ましいルイス酸の例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。
前記触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0053】
(溶媒)
セルロースのアシル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることもできるが、好ましくはカルボン酸であり、例えば、炭素数2〜7のカルボン酸{例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、2−メチルプロピオン酸、吉草酸、3−メチル酪酸、2−メチル酪酸、2,2−ジメチルプロピオン酸(ピバル酸)、ヘキサン酸、2−メチル吉草酸、3−メチル吉草酸、4−メチル吉草酸、2,2−ジメチル酪酸、2,3−ジメチル酪酸、3,3−ジメチル酪酸、シクロペンタンカルボン酸}などを挙げることができる。更に好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸などを挙げることができる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0054】
(アシル化の条件)
セルロースのアシル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、または、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調製してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。該冷却温度としては、−50℃〜20℃が好ましく、−35℃〜10℃がより好ましく、−25℃〜5℃が特に好ましい。アシル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、またはブロック状の固体として添加してもよい。
【0055】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。アシル化剤を分割して添加する場合は、同一組成のアシル化剤を用いても、複数の組成の異なるアシル化剤を用いてもよい。好ましい例として、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する、などを挙げることができる。
【0056】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明におけるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化の際の最高到達温度が50℃以下であることが好ましい。反応温度が50℃以下であれば、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースアシレートを得難くなるなどの不都合が生じないため好ましい。アシル化の際の最高到達温度は、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、特に好ましくは35℃以下である。反応温度は温度調節装置を用いて制御しても、アシル化剤の初期温度で制御してもよい。反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。アシル化の際の発熱は反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。アシル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察などの手段により決定することができる。
【0057】
前記アシル化反応の際の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。好ましいアシル化時間は0.5時間〜24時間であり、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜6時間が特に好ましい。0.5時間以下では通常の反応条件では反応が十分に進行せず、24時間を越えると、工業的な製造のために好ましくない。
【0058】
(反応停止剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。
前記反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものでもよい。前記反応停止剤の好ましい例としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)またはこれらを含有する組成物などを挙げることができる。反応停止剤には、後述の中和剤を含んでいてもよい。また、反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースアシレートの重合度を低下させる原因となったり、セルロースアシレートが望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましい。この際のカルボン酸としては酢酸が特に好ましい。また、カルボン酸と水との組成比は任意の割合で用いることができるが、水の含有量が5質量%〜80質量%であることが好ましく、10質量%〜60質量%であることが更に好ましく、15質量%〜50質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0059】
前記反応停止剤は、アシル化の反応容器に添加しても、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。反応停止剤は3分〜3時間かけて添加することが好ましい。反応停止剤の添加時間が3分以上であれば、発熱が大きくなりすぎて重合度低下の原因となったり、酸無水物の加水分解が不十分になったり、セルロースアシレートの安定性を低下させたりするなどの不都合が生じないので好ましい。また反応停止剤の添加時間が3時間以下であれば、工業的な生産性の低下などの問題も生じないため好ましい。反応停止剤の添加時間として、好ましくは4分間〜2時間であり、より好ましくは5分間〜1時間であり、特に好ましくは10分間〜45分間である。反応停止剤を添加する際には反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0060】
(中和剤)
アシル化の反応停止工程あるいはアシル化の反応停止工程後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸およびエステル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)またはその溶液を添加してもよい。中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、およびこれらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0061】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分間〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートのアシル置換度を所望の程度まで減少させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
【0062】
(部分加水分解の停止)
所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0063】
(ろ過)
セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的として、反応混合物(ドープ)のろ過を行うことが好ましい。ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる工程において行ってもよい。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0064】
(再沈殿)
このようにして得られたセルロースアシレート溶液を、水もしくはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースアシレート溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースアシレートを再沈殿させ、洗浄および安定化処理により目的のセルロースアシレートを得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースアシレート溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースアシレートの置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースアシレートの形態や分子量分布を制御することも好ましい。
また、精製効果の向上、分子量分布や見かけ密度の調節などの目的から、一旦再沈殿させたセルロースアシレートをその良溶媒(例えば、酢酸やアセトンなど)に再度溶解し、これに貧溶媒(例えば、水など)を作用させることにより再沈殿を行う操作を、必要に応じて1回ないし複数回行ってもよい。
【0065】
(洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理を施すことが好ましい。洗浄処理に用いられる洗浄溶媒としては、セルロースアシレートの溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものでもよいが、通常は水または温水が用いられる。洗浄溶媒(洗浄水)の温度は、好ましくは25℃〜100℃であり、更に好ましくは30℃〜90℃であり、特に好ましくは40℃〜80℃である。洗浄処理はろ過と洗浄液の交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行っても、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。
洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行ってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。
このような処理により、セルロースアシレート中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物など)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができる。係る観点から、セルロースアシレートの安定性を高めるために有効である。
【0066】
(安定化)
温水処理による洗浄後のセルロースアシレートは、安定性を更に向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理し、残存不純物の量を低減することも好ましい。
残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。本発明においては、残留硫酸根量(硫黄原子の含有量として)が0〜500ppmになるようにアシル化、部分加水分解および洗浄の条件を設定することが好ましい。
【0067】
(乾燥)
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは50〜160℃である。本発明におけるセルロースアシレートは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、0.7質量%以下であることが特には好ましい。
【0068】
(形態)
本発明におけるセルロースアシレートは粒子状、粉末状、繊維状、塊状など種々の形状を取ることができるが、フィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましい。このため、乾燥後のセルロースアシレートは、粒径の均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行ってもよい。セルロースアシレートが粒子状である場合、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子径を有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子径を有することが好ましい。
【0069】
本発明におけるセルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。また、セルロースアシレートの粒子は、見かけ密度が0.5〜1.3であることが好ましく、0.7〜1.2であることが更に好ましく、0.8〜1.15であることが特に好ましい。見かけ密度の測定法に関しては、JIS K−7365に規定されている。
本発明におけるセルロースアシレートの粒子は安息角が10〜70°であることが好ましく、15〜60°であることが更に好ましく、20〜50°であることが特に好ましい。
【0070】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、平均重合度が150〜700であることが好ましく、180〜550が更に好ましく、200〜400であることが特に好ましく、200〜350であることが最も好ましい。前記平均重合度は、宇田らの「極限粘度法」(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)に記載されるように、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定方法等により測定できる。更に平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
本発明においては、セルロースアシレートのGPCによる重量平均重合度/数平均重合度が1.6〜3.6であることが好ましく、1.7〜3.3であることが更に好ましく、1.8〜3.2であることが特に好ましい。
【0071】
(セルロースアシレート中の微細異物)
セルロースアシレート中の微細異物(前述のように微細偏光異物とも称する)とは、未反応のセルロース繊維に由来するものである。この微細異物が光学フィルム中に残存すると、2枚の偏光板をクロスニコルにして、この光学フィルムを挟んだとき、輝点として見える。この輝点は、液晶表示装置において光漏れの原因となる。従って、セルロースアシレートに含まれる微細異物はできるだけ少ないほうが好ましい。具体的には、以下のように、微細異物の数を見積もることができる。
【0072】
まず、セルロースアシレートのサンプル約10mgを、大きさ1cm2厚み150μmのスライドガラス2枚に挟み、これを溶融させて、スライドガラス間のセルロースアシレートの透明な薄膜を、厚み約50μmとする。このセルロースアシレートの薄膜の厚みは、セルロースアシレート薄膜をはさんだ2枚のスライドガラスの厚みから、もとのスライドガラスの厚みを差し引けばよい。なお、厚みが50μmから大きく異なる場合には、後で誤差を換算すればよい。このようにして作製した、スライドガラスに挟んだ状態のセルロースアシレート薄膜の任意の1mm2の部位を、顕微鏡で観察し、1mm2×50μm=5×10-2mm3当たりの微細異物数をカウントする。このときに観察される径が10μm以下の微細異物(上述の微細偏光異物)は、5×10-2mm3当たり好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、さらに好ましくは3個以下、もっとも好ましくは0である。なお、長さ10μm以上の微細異物も含まれることがあるが、その数は10μm以下の微細異物の数とほぼ比例することから、本発明では、長さ10μm以下の微細異物を基準としている。
【0073】
(セルロースアシレート中の残留硫黄分)
上述のセルロースアシレート製法において、触媒に硫酸を用いた場合、最終的に得られるセルロースアシレート中に硫酸エステルが残存することがある。この残存硫酸エステルによって、セルロースアシレートの熱安定性が左右されることがある。このため、本発明におけるセルロースアシレートに含まれる硫黄分は、セルロースアシレートに対して、硫黄原子換算で、0〜100ppmが好ましく、10〜80ppmであることが好ましく、10〜60ppmであることがさらに好ましい。
【0074】
(セルロースアシレートの融点)
本発明におけるセルロースアシレートは溶融製膜に用いることから、実用に適した融点を有することが必要である。融点が高すぎると、溶融前に分解が進行してしまい、低すぎると、実用上の光学フィルムとして、使用ができなくなる。したがって、本発明におけるセルロースアシレートの融点は160℃〜260℃が好ましく、170℃〜260℃がさらに好ましく、170℃〜250℃がもっとも好ましい。
【0075】
本発明で用いられるセルロースアシレートは、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、より好ましくは2.0〜5.0であり、更に好ましくは2.5〜5.0であり、特に好ましくは3.0〜5.0のセルロースアシレートである。
【0076】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合してもよい。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。また、混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましい。本発明におけるセルロースアシレートはフィルムにしたときの透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることが更に好ましく、92%以上であることが特に好ましい。
【0077】
(セルロースアシレートの合成例)
以下に本発明に使用されるセルロースアシレートの合成例について、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
[合成例1]
(セルロースアセテートプロピオネートの合成)
セルロース(広葉樹パルプ)150質量部、酢酸75質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で2時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。
【0079】
別途、アシル化剤としてプロピオン酸無水物1545質量部、硫酸10.5質量部の混合物を作製し、−30℃に冷却した後に、前記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10℃、2時間後に内温が23℃になるように調節し、内温を23℃に保ってさらに3時間攪拌した。その後、内温を5℃まで冷却し、5℃に冷却した25質量%含水酢酸120質量部を1時間かけて添加した。内温を40℃に上昇させ、1.5時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に、等質量の水と、等質量の酢酸とを加えて溶解した混合溶液を作製し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸1000質量部、33質量%含水酢酸500質量部、50質量%含水酢酸1000質量部および水1000質量部をこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートは温水にて十分に洗浄した。洗浄後、20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、洗浄液のpHが7になるまで、さらに水で洗浄を行った後、70℃で真空乾燥させた。
【0080】
1H−NMRおよび、GPC測定によれば、得られたセルロースアセテートプロピオネートは、アセチル化度0.30、プロピオニル化度2.63、重合度320であった。硫酸根の含有量は、ASTM D−817−96により測定した。
【0081】
[合成例2]
(セルロースアセテートブチレートの合成)
セルロース(広葉樹パルプ)100質量部、酢酸135質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で2時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。
【0082】
別途、アシル化剤として酪酸無水物1080質量部と硫酸10質量部との混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。30分経過後、内温を20℃まで上昇させ、5時間反応させた。その後、内温を5℃まで冷却し、約5℃に冷却した12.5質量%含水酢酸2400質量部を1時間かけて添加した。内温を30℃に上昇させ、1時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に等質量の水と、等質量の酢酸とを加えて溶解した混合溶液を作製し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。酢酸1000質量部および50質量%含水酢酸2500質量部を徐々に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて十分に洗浄を行った。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、さらに、洗浄液のpHが7になるまで水で洗浄を行った後、70℃で乾燥させた。得られたセルロースアセテートブチレートはアセチル化度0.84、ブチリル化度2.12、重合度268であった。
【0083】
[レターデーション上昇剤]
次に本発明に使用する一般式(1)で表される化合物(光学調整剤;以下「レターデーション上昇剤」と称する場合もある。)に関して詳細に説明する。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、下記一般式(1)で表される化合物(レターデーション上昇剤)を少なくとも1種含有することを特徴とする。
【0084】
【化8】

【0085】
(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは下記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【0086】
【化9】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0087】
【化10】

(式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【0088】
一般式(1)中、Ar1、Ar2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表す。Ar1およびAr2で表されるアリール基としては、好ましくは炭素数6〜30のアリール基である。また、該アリール基は、単環であってもよいし、更に他の環と縮合環を形成してもよい。更に、可能な場合には置換基を有してもよく、該置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
一般式(1)中、Ar1およびAr2で表されるアリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が更に好ましく、炭素数6〜12のアリール基が特に好ましい。前記アリール基としては、例えば、フェニル、p−メチルフェニル、ナフチルなどが挙げられる。
【0089】
一般式(1)中、Ar1およびAr2で表される芳香族ヘテロ環としては、酸素原子、窒素原子および硫黄原子のうち少なくとも1つを含む芳香族ヘテロ環であれば特に限定はないが、5または6員環の酸素原子、窒素原子および硫黄原子のうち少なくとも1つを含む芳香族ヘテロ環が好ましい。また、前記芳香族ヘテロ環は、可能な場合には更に置換基を有してもよい。該置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
【0090】
一般式(1)中、Ar1、Ar2で表される芳香族ヘテロ環の具体例としては、例えば、フラン、ピロール、チオフェン、イミダゾール、ピラゾール、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、トリアゾール、トリアジン、インドール、インダゾール、プリン、チアゾリン、チアゾール、チアジアゾール、オキサゾリン、オキサゾール、オキサジアゾール、キノリン、イソキノリン、フタラジン、ナフチリジン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プテリジン、アクリジン、フェナントロリン、フェナジン、テトラゾール、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾール、テトラザインデン、ピロロトリアゾール、ピラゾロトリアゾールなどが挙げられる。前記芳香族ヘテロ環として好ましいものは、ベンズイミダゾール、ベンズオキサゾール、ベンズチアゾール、ベンゾトリアゾールである。
【0091】
一般式(1)中、L1およびL2は−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表し、どちらも同様に好ましい。前記−C(=O)NR−中のRは水素原子またはアルキル基を表す。前記Rは、好ましくは水素原子または炭素数1〜6アルキル基であり、より好ましくは水素原子または炭素数1〜4のアルキル基であり、更に好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に好ましくは水素原子である。
【0092】
一般式(1)におけるXは、前記一般式(2)または(3)で表される。
前記一般式(2)中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。該置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
また、前記R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8として好ましくは、水素原子、アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、さらに好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、フッ素原子であり、特に好ましくは水素原子、フッ素原子であり、最も好ましくは水素原子である。
【0093】
前記一般式(3)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。該置換基としては後述の置換基Tが適用できる。
前記R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18として好ましくは、水素原子、アルキル基、アミノ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子であり、さらに好ましくは水素原子、メチル基、メトキシ基、ヒドロキシ基、塩素原子、フッ素原子であり、特に好ましくは水素原子、フッ素原子であり、最も好ましくは水素原子である。
【0094】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(1−1)で表される化合物であることが好ましい。
【化11】

(式中、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29およびR30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。L1、L2およびXは前記一般式(1)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。)
【0095】
一般式(1−1)中、R21およびR26はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R21およびR26としては、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基がより好ましく、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)が更に好ましく、メトキシ基が特に好ましい。
【0096】
一般式(1−1)中、R22およびR27はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R22およびR27としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基が好ましく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基がより好ましく、水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4、より好ましくはメチル基である。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8が更に好ましく、炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)が特に好ましく、水素原子、メチル基、メトキシ基が最も好ましい。
【0097】
一般式(1−1)中、R23およびR28はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R23およびR28としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基が好ましく、アルキル基、アルコキシ基が更に好ましく、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)が特に好ましく、n−プロポキシ基、エトキシ基、メトキシ基が特に好ましい。
【0098】
一般式(1−1)中、R24およびR29はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R24およびR29としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基が好ましく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、さらに好ましくは炭素数1〜6、特に好ましくは炭素数1〜4)が更に好ましく、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、炭素数1〜4のアルコキシ基が特に好ましく、水素原子、メチル基、メトキシ基が最も好ましい。
【0099】
一般式(1−1)中、R25およびR30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R25およびR30としては、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、水酸基が好ましく、水素原子、アルキル基、アルコキシ基がより好ましく、水素原子、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4より好ましくはメチル基である。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜8、炭素数1〜6特に好ましくは炭素数1〜4)が更に好ましく、水素原子、メチル基、メトキシ基が特に好ましい。
【0100】
一般式(1)で表される化合物としては、下記一般式(1−2)で表される化合物が更に好ましい。
【0101】
【化12】

(式中、R21、R22、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、L1、L2およびXは前記一般式(1−1)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。R31は炭素数1〜12のアルキル基を表す。)
【0102】
一般式(1−2)中、R31は炭素数1〜12のアルキル基を表す。R31は表されるアルキル基は直鎖でも分岐があってもよく、またさらに置換基を有してもよい。R31としては、炭素数1〜12のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜6のアルキル基が更に好ましく、炭素数1〜4のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などが挙げられる)が特に好ましい。
【0103】
一般式(1)で表される化合物としては、下記一般式(1−3)で表される化合物が特に好ましい。
【0104】
【化13】

(式中、R22、R24、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、L1、L2およびXは前記一般式(1−2)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。R32は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0105】
一般式(1−2)中、R32は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。前記R32としては、好ましくは水素原子または炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、エチル基であり、さらに好ましくは水素原子またはメチル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0106】
一般式(1)で表される化合物としては、一般式(1−4)で表される化合物が最も好ましい。
【0107】
【化14】

(式中、R22、R25、R26、R27、R28、R29、R30、R31、R32、L1、L2およびXは一般式(1−3)におけるそれらと同義であり、また好ましい範囲も同様である。R33は炭素数1〜4のアルキル基を表す。)
【0108】
一般式(1−4)中、R33は炭素数1〜4のアルキル基を表す。R33としては、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基であり、より好ましくはメチル基、エチル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
【0109】
以下に上述の置換基Tについて説明する。
置換基Tとしては例えばアルキル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えば、メチル、エチル、iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどが挙げられる。)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニルなどが挙げられる。)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜12、特に好ましくは炭素数2〜8であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニルなどが挙げられる。)、アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニル、p−メチルフェニル、ナフチルなどが挙げられる。)、置換または未置換のアミノ基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜10、特に好ましくは炭素数0〜6であり、例えば、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜12、特に好ましくは炭素数1〜8であり、例えば、メトキシ、エトキシ、ブトキシなどが挙げられる。)、アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えば、フェニルオキシ、2−ナフチルオキシなどが挙げられる。)、アシル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイルなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニルなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜10であり、例えば、フェニルオキシカルボニルなどが挙げられる。)、アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えば、アセトキシ、ベンゾイルオキシなどが挙げられる。);
【0110】
アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノなどが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜20、より好ましくは炭素数2〜16、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜20、より好ましくは炭素数7〜16、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノなどが挙げられる。)、スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノなどが挙げられる。)、スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜20、より好ましくは炭素数0〜16、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイルなどが挙げられる。)、カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイルなどが挙げられる。)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオなどが挙げられる。)、アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜20、より好ましくは炭素数6〜16、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオなどが挙げられる。)、スルホニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシルなどが挙げられる。)、スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニルなどが挙げられる。)、ウレイド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイドなどが挙げられる。)、リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜20、より好ましくは炭素数1〜16、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミドなどが挙げられる。);
【0111】
ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、ピペリジル、モルホリノ、ベンゾオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリルなどが挙げられる。)、シリル基(好ましくは、炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは、炭素数3〜24であり、例えば、トリメチルシリル、トリフェニルシリルなどが挙げられる)などが挙げられる。これらの置換基は更に置換されてもよい。
【0112】
また、置換基が二つ以上ある場合は、同じでも異なってもよい。さらに、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。
【0113】
以下に一般式(1)で表される化合物の具体例(例示化合物A−1〜A−23)を挙げる。但し、本発明は以下の具体例によって何ら限定されることはない。
【0114】
【化15】

【0115】
【化16】

【0116】
【化17】

【0117】
【化18】

【0118】
【化19】

【0119】
本発明の一般式(1)および一般式(1−1)〜一般式(1−4)で表される化合物は、置換安息香酸とフェノールまたはアニリン誘導体の一般的なエステル化反応、または、アミド化反応によって合成でき、エステル結合形成反応であればどのような反応を用いてもよい。前記一般式(1)の合成に用いられる方法としては、例えば、置換安息香酸を酸ハロゲン化物に官能基変換した後、フェノールまたはアニリン誘導体と縮合する方法;縮合剤または触媒を用いて置換安息香酸とフェノールまたはアニリン誘導体を脱水縮合する方法などが挙げられる。
製造プロセス等を考慮すると、置換安息香酸を酸ハロゲン化物に官能基変換した後、フェノールまたはアニリン誘導体と縮合する方法が好ましい。
【0120】
前記一般式(1)の合成に用いられる反応溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒(好ましくはトルエン、キシレンが挙げられる。)、エーテル系溶媒(好ましくはジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる)、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。これらの溶媒は単独でも数種を混合して用いてもよい。前記反応溶媒としては、トルエン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドが好ましい。
【0121】
前記一般式(1)の合成における反応温度としては、好ましくは0〜150℃であり、より好ましくは0〜100℃であり、更に好ましくは0〜90℃であり、特に好ましくは20℃〜90℃である。
本反応には塩基を用いないのが好ましい。また、本反応に塩基を用いる場合には有機塩基または無機塩基のどちらでもよく、好ましくは有機塩基であり、ピリジン、3級アルキルアミン(好ましくはトリエチルアミン、エチルジイソプルピルアミンなどが挙げられる)が更に好ましい。
【0122】
以下に一般式(1−1)〜一般式(1−4)で表される化合物の合成方法を述べる。以下の合成例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0123】
[合成例3]
(例示化合物A−1の合成)
2,4,5−トリメトキシ安息香酸40.1g(189ミリモル)、4、4'−ジヒドロキシビフェニル16.75g(90ミリモル)、トルエン200mL、および、ジメチルホルムアミド2mLを混合し70℃に加熱した後、塩化チオニル23.6g(198ミリモル)をゆっくりと滴下し、70℃で2.5時間加熱攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、メタノール300mLを加え、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物を8.4g(収率94%)を得た。また、化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3)δ3.93(s,6H),3.95(s,6H),3.99(s,6H),6.58(s,2H),7.28(d,4H),7.62(m,6H)
得られた化合物の融点は227〜229℃であった。
【0124】
[合成例4]
(例示化合物A−2の合成)
2,4,5−トリメトキシ安息香酸34g(160ミリモル)、4、4'−ジヒドロキシ−3−フルオロビフェニル15g(73ミリモル)、トルエン110mL、および、ジメチルホルムアミド1.6mLを混合し70℃に加熱した後、塩化チオニル20.9g(176ミリモル)をゆっくりと滴下し、70℃で2.5時間加熱攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、メタノール300mLを加え、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物37g(収率86%)を得た。また、化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3)δ3.93(s,6H),3.95(s,6H),4.00(s,6H),6.59(s,2H),7.26−7.45(m,5H),7.63(m,4H)
得られた化合物の融点は197〜199℃であった。
【0125】
[合成例5]
(例示化合物A−3の合成)
2,4,5−トリメトキシ安息香酸23.3g(110ミリモル)、4、4'−ジヒドロキシ−3−クロロビフェニル15g(50ミリモル)、トルエン75mL、および、ジメチルホルムアミド1.1mLを混合し70℃に加熱した後、塩化チオニル14.4g(121ミリモル)をゆっくりと滴下し、80℃で2.5時間加熱攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、メタノール250mLを加え、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物26g(収率85%)を得た。また化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3)δ3.90−4.00(m,18H),6.59(s,2H),7.26−7.70(m,9H)
得られた化合物の融点は168〜170℃であった。
【0126】
[合成例6]
(例示化合物A−4の合成)
2,4,5−トリメトキシ安息香酸30.3g(143ミリモル)、4、4'−ジヒドロキシ−3−メチルビフェニル15g(65ミリモル)、トルエン100mL、および、ジメチルホルムアミド1.4mLを混合し70℃に加熱した後、塩化チオニル18.7g(157ミリモル)をゆっくりと滴下し、70℃で2.5時間加熱攪拌した。その後、反応液を室温まで冷却し、メタノール300mLを加え、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物27.4g(収率72%)を得た。また、化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3)δ2.31(s,3H),3.95(s,6H),4.00(s,6H),6.60(s,2H),7.10(m,2H),7.27(m,3H),7.40(m,2H),7.63(d,2H)
マススペクトル:m/z 589(M+H)+
得られた化合物の融点は188〜189℃であった。
【0127】
[合成例7]
(例示化合物A−6の合成)
2,4,5−トリメトキシ安息香酸5.72g(26.9ミリモル)、ジイソプロピルエチルアミン3.5g(27ミリモル)、および、テトラヒドロフラン20mLを混合し氷水で冷却した後、メタンスルホニルクロリド3.1g(27ミリモル)をゆっくりと滴下し、滴下後2時間室温で攪拌した。その後、氷水に冷却し、あらかじめビス(4−ヒドロキシフェニル)アセチレン2.9g(13.7ミリモル)、ジイソプロピルエチルアミン3.5g(27ミリモル)をテトラヒドロフラン40mLに溶解させた溶液をゆっくり添加し、滴下後、室温で3時間、50℃1時間攪拌した。その後水160mLを添加し、得られた結晶をろ過回収し、メタノール100mLを加え、再結晶操作を行い、析出した結晶をろ過回収し、白色の結晶として目的化合物3.0g(収率19%)を得た。また、化合物の同定は1H−NMR(400MHz)により行った。
1H−NMR(CDCl3)δ3.93(s,6H),3.95(s,6H),3.99(s,6H),6.57(s,2H),7.24(m,4H),7.58(m,6H)
マススペクトル:m/z 599(M+H)+
得られた化合物の融点は201〜203℃であった。
【0128】
前記一般式(1)および(1−1)〜(1−4)で表される化合物は、光学フィルム用レターデーション制御剤として用いることができ、特に延伸によるRe発現性に優れたフィルムを得るためのレターデーション制御剤として好適に用いることができる。前記一般式(1)〜一般式(1−4)で表される化合物は、特にセルロースアシレートフィルム用レターデーション制御剤として有用である。
【0129】
本発明においては、一般式(1)で表される化合物(一般式(1)〜(1−4)を含む。)の少なくとも1種をセルロースアシレートに対して0.1〜15質量%添加することが好ましく、0.5〜12質量%添加することがより好ましく、1〜10質量%添加することが更に好ましく、1〜8質量%添加することが最も好ましい。特に(1−4)で表される化合物の少なくとも1種をセルロースアシレートに対して0.1〜15質量%添加することが好ましく、0.5〜12質量%添加することがより好ましく、1〜10質量%添加することが更に好ましく、1〜8質量%添加することが最も好ましい。
【0130】
[その他添加剤]
本発明のセルロースアシレートフィルムには、セルロースアシレートおよび前記一般式(1)で表される化合物のほかに、各調製工程において用途に応じた種々の添加剤(例えば、可塑剤、酸化防止剤、劣化防止剤、マット剤、紫外線防止剤、波長分散調整剤、赤外吸収剤、界面活性剤、帯電防止剤など)を加えることができる。これらは固体でもよく油状物でもよく、その融点や沸点において特に限定されるものではない。これらの添加剤の混合は、例えば、融点が20℃以下と20℃以上との紫外線吸収材料の混合や、同様に可塑剤の混合などが挙げられ、これらは、例えば、特開2001−151901号公報などに記載されている。また、前記赤外吸収染料としては、例えば、特開2001−194522号公報に記載されている。さらに、これらの素材の詳細としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0131】
また前記各添加剤の添加時期は、セルロースアシレート合成終了後の段階でもよいが、セルロースアシレートのペレット作製工程において添加してもよく、更にセルロースアシレートの溶融製膜工程中に添加してもよい。
【0132】
各素材の添加量は本発明の機能が発現する限りにおいて特に限定されない。また、本発明におけるセルロースアシレートを含む組成物からなるセルロースアシレートフィルムが多層で形成される場合、各層の添加物の種類や添加量が異なってもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムにおいては、分子量が200以上の各添加剤化合物の総量は、セルロースアシレートの質量に対して1〜30%であることが好ましく、2〜25%であることが更に好ましく、2〜20%であることが特に好ましい。
分子量が200以上の各添加剤化合物としては、上述したように、光学異方性を低下する化合物、波長分散調整剤、紫外線防止剤、可塑剤、劣化防止剤、微粒子、剥離剤、赤外吸収剤などが挙げられる。
また、これらの添加剤を180〜250℃の溶融セルロースアシレートに添加するためには、該添加剤が蒸散や熱劣化等に耐性を有することが必要である。前記蒸散を防止するためには、分子量は大きいほうが好ましい。一方で、分子量が大きすぎるとセルロースアシレートとの相溶性が低下し、またセルロースアシレート中の移動性が低下する。このため前記添加剤の分子量は、好ましくは200〜3000であり、さらに好ましくは250〜3000であり、特に好ましくは300〜3000である。
【0133】
以下に本発明のセルロースアシレートに使用されるその他の添加剤について、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0134】
[可塑剤]
本発明では可塑剤を添加することにより、湿度に伴うRe、Rth変化を軽減することができる。前記可塑剤としては、例えば、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、リン酸エステルやカルボン酸エステル等が挙げられる。前記可塑剤は固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。
【0135】
前記アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えば、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0136】
前記リン酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。さらに特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることが好ましい。
【0137】
前記カルボン酸エステルとしては、例えば、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類;クエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類;ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステルを挙げることができる。また、その他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0138】
前記可塑剤としては、揮発性不揮発性を有するものが特に好ましく使用され、例えば、特表平6−501040号公報の6〜7頁に記載される1,4−フェニレン−テトラフェニル燐酸エステル、トリナフチルホスフェート、トリスオルトービフェニルホスフェート等を用いることができる。
【0139】
これらの可塑剤の含有量は、前記セルロースアシレートフィルムの総量に対し0質量%〜15質量%が好ましく、より好ましくは1質量%〜12質量%であり、さらに好ましくは1質量%〜10質量%である。これらの可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0140】
[酸化・劣化防止剤]
本発明では、セルロースアシレートの熱酸化劣化を防止すべく、酸化・劣化防止剤を添加することが好ましく、例えば、フェノール系化合物を添加し、必要に応じてチオエーテル系化合物もしくはリン系化合物を共に添加することで、劣化防止に相乗効果が見られる。その他の酸化・劣化防止剤の詳細としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0141】
[マット剤微粒子]
本発明のセルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。前記微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができるためより好ましい。前記微粒子の見かけ比重としては90〜200g/リットル以上であることが好ましく、100〜200g/リットル以上であることがさらに好ましい。微粒子の見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0142】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成してフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在する。このため、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成することができる。前記微粒子の2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。前記微粒子の1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒径とした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0143】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、商品名アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、本発明に好適に使用することができる。
【0144】
これらの中でもアエロジル200V、アエロジルR972Vが、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0145】
(2)溶融製膜工程
本発明のセルロースアシレートフィルムは、本発明におけるセルロースアシレートを溶融流延によって製膜することで製造される。以下、溶融製膜工程について詳細に述べる。
【0146】
(ペレット化)
セルロースアシレートを溶融製膜する場合、用いられるセルロースアシレートの形態は粉体よりもペレットであることが好ましい。ペレットの作製は次のようにして行う。
初めに、セルロースアシレートを十分予備乾燥(80℃〜150℃で0.1時間〜24時間)させる。次に充分乾燥した上述の各添加剤(レターデーション上昇剤(本発明における一般式(1)で表される化合物を含む。)、可塑剤、劣化防止剤、紫外線防止剤、マット剤、波長分散調整剤、赤外吸収剤、界面活性剤など)をセルロースアシレートに、必要な量を添加する。
【0147】
次いで、得られた混合物を攪拌付きのホッパー内に投入する。この際、窒素等の不活性ガスを置換封入することがより好ましい。投入後、二軸混練押出機を用い、150℃〜240℃、より好ましくは160℃〜240℃、さらに好ましくは170℃〜235℃で、スクリュー回転数100rpm〜800rpm、より好ましくは150rpm〜600rpm以上、さらに好ましくは200rpm〜400rpmで、滞留時間5秒間〜3分間、より好ましくは10秒間〜2分間、さらに好ましくは20秒間〜90秒間でペレットを作製する。
上述のようにペレット作製は、劣化を抑制するため、不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。不活性ガスは窒素であることが好ましい。窒素の純度は95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が最も好ましい。
【0148】
二軸混練押出機の出口側にはベントを設け、真空排気しながらペレットを作製することが好ましい。これは、混合セルロースアシレート粉体は親水的であるため、0.2質量%程度の残留水分が残り、低アセチル化体は水の存在で分解が促進されて架橋性の異物となり易いためである。ベント部の好ましい真空度は、0.9気圧〜0.001気圧の範囲であり、より好ましくは0.8気圧〜0.01気圧、さらに好ましくは0.7気圧〜0.1気圧である。このような真空排気は、2軸混練押出し機のスクリューのケーシングに排気口をつけ、これを真空ポンプに配管することで達成できる。セルロースアシレートは溶融後30℃〜90℃、より好ましくは35℃〜80℃、さらに好ましくは37℃〜60℃以上の温水中でストランド状に固化させた後、裁断、乾燥する。
【0149】
セルロースアシレートのペレットの大きさは1mm3〜10cm3が好ましく、より好ましくは5mm3〜5cm3、さらに好ましくは10mm3〜3cm3である。この際、前記添加剤も一緒にペレット化するのが好ましい。この後、含水量を0.1%以下になるように乾燥することが好ましい。
【0150】
(溶融押出)
次いで、上述のペレット化したセルロースアシレートと、一般式(1)で表される化合物(レターデーション上昇剤)と、必要に応じてその他の添加剤(可塑剤、劣化防止剤、紫外線防止剤、マット剤、波長分散調整剤、赤外吸収剤など)を、溶融押出機のホッパーに投入する。なお、前述のようにセルロースアシレート合成段階およびペレット化工程で各添加剤を加えた場合は、溶融製膜工程中に添加しなくてもよい。ホッパーの温度を、用いられるセルロースアシレートのTgより50℃低い温度以上で該Tgより30℃高い温度以下(以下、「Tg−50〜Tg+30℃」とも記載する。その他の温度範囲についても同様である。)、より好ましくはTg−40℃〜Tg+10℃、さらに好ましくはTg−30℃〜Tgにする。これによりホッパー内での水分の再吸着を抑制し、前記乾燥の効率をより発現し易くできる。
【0151】
本発明の発明者らは鋭意検討した結果、低溶融粘度の樹脂組成、および短時間、高剪断力(高回転)、ステップ高温化のスクリュー温度パターンの溶融製膜条件を用いることにより、樹脂中に混在する微細偏光異物を十分に融解させ、しかも溶融熱履歴を最低限に抑えることで、製膜したセルロースアシレートの微細偏光異物および黄色味(YI値)を両立できるようにした。
【0152】
具体的には、セルロースアシレート樹脂に一般式(1)で表される化合物やその他可塑剤および酸化防止剤等などを添加することにより、セルロースアシレートの溶融粘度を低下させる。また、本発明においては、溶融製膜する際に用いる単軸または2軸押し出し機のスクリューが高回転し、スクリューの温度パターンが上流側から供給部(ホッパー側)、圧縮部(中間部)、下流の計量部(T−ダイ側)までのスクリュー温度を段階的に上げることが好ましい。図2を用いて説明すると、押出し機31におけるスクリュー33は、ペレットの供給側(入口側)から、メルト(溶融樹脂)の流れ方向に従って、上流の供給部41、中間の圧縮部42、下流の計量部43(T−ダイ側(出口側))に分けられる。本発明においては、スクリュー温度を分割して制御し、上流の供給部から、下流の計量部(T−ダイ側)までの温度を段階的に上げることにより、未溶微細異物を溶融促進することができ、また溶融必要とする最低限の熱履歴を抑えることにより、樹脂の熱劣化や黄色味着色を低減することができる。
本発明においては、スクリュー温度パターンが、上流の供給部から下流の計量部までに、段階的に5℃〜50℃高くする設定が好ましく、5℃〜30℃高くする設定が更に好ましく、10℃〜20℃高くする設定が特に好ましい。
上流の供給部の好ましい温度は150〜190℃、より好ましくは160〜190℃、更に好ましくは170〜190℃である。中間の圧縮部の好ましい温度は170〜220℃、より好ましくは180〜220℃、更に好ましくは190〜220℃である。下流ダイ側の計量部の好ましい温度は190〜240℃、より好ましくは200〜240℃、更に好ましくは210〜240℃である。
【0153】
また、本発明において、溶融押出におけるスクリューの回転数は、好ましくは60〜400rpmであり、より好ましくは70〜350rpmであり、さらに好ましくは80〜300rpmである。また、押出し機内の滞留時間を、好ましくは5秒間〜8分間、より好ましくは10秒間〜7分間、さらに好ましくは30秒間〜6分間としてセルロースアシレートを溶融押し出しする。溶融押出し機内を不活性(窒素等)気流中で実施するのも好ましい。不活性ガスは窒素であることが好ましい。該窒素の純度は95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が最も好ましい。
【0154】
また、溶融押出段階において本発明に用いるスクリュー圧縮比(供給部におけるスクリューの溝の深さ)/(圧縮部におけるスクリューの溝の深さ)が、小さすぎると、十分に混練されず、未溶解部分が発生したり、結晶の融解が不十分となり、後の延伸行程で、延伸性を阻害し、配向を十分に上げることができなくなる。また圧縮比が大きすぎると、発熱により樹脂を熱劣化させ、溶融製膜したフィルムの黄色味が大きくなるという問題が発生する。また、L/D(スクリューの総長と最大の直径(スクリューを収納しているバレルの内径)との比)も小さいと混練不足となり、圧縮比が小さい場合と同様の問題を発生させ、L/Dが大きすぎると滞留時間が長くなり過ぎ、樹脂の劣化を起こしやすくなる。このため、スクリューの圧縮比は2.5〜4.5が好ましく、より好ましくは2.8〜4.2であり、さらに好ましくは3〜4である。またL/Dは20〜50が好ましく、より好ましくは22〜45であり、さらに好ましくは24〜40である。
【0155】
このように、高剪断力(高回転)、短時間、段階的に高温化のスクリュー温度パターンの溶融製膜条件を用いることにより、樹脂中に混在する未溶微細偏光異物を十分に融解させ、しかも溶融熱履歴を最低限に抑えることで、製膜したセルロースアシレートの微細偏光異物および黄色味(YI値)の低減を両立することができる。
【0156】
本発明のセルロースアシレートフィルムの黄色味(YI値)は、0〜8が好ましく、0〜6がさらに好ましく、0〜4が最も好ましい。
【0157】
本発明のセルロースアシレートフィルム中の微細偏光異物の含有量は後述の測定により、0〜5〔個/5×10-2mm3〕が好ましく、0〜4〔個/5×10-2mm3〕がさらに好ましく、0〜3〔個/5×10-2mm3〕が最も好ましい。
【0158】
(ろ過)
次に、溶融したセルロースアシレート(以下、「溶融セルロースアシレート」と称する場合がある。)をギヤポンプに通し、押出機の脈動を除去した後、金属メッシュフィルターや焼結金属のリーフディスク等で濾過を行う。メッシュの目の大きさは2〜30μmが好ましく、より好ましくは2〜20μm、さらに好ましくは2〜10μmである。この時、加圧を行い、濾過に要する時間をできるだけ短縮することが好ましい。濾過圧は、0.5MPa〜15MPa以下が好ましく、2Pa〜15MPaがさらに好ましく、10Pa〜15MPaがもっとも好ましい。濾過圧は、高いほうが濾過時間を短くすることができるので好ましいが、フィルターの破損が起こらない範囲の高圧を用いることが好ましい。
【0159】
濾過時の温度は180℃〜230℃が好ましく、180℃〜220℃がさらに好ましく、190〜220℃がさらに好ましい。濾過時の温度が前記上限値以下であれば、熱劣化が進行するなどの問題が生じにくいので好ましく、前記下限値以上であれば、濾過に時間がかかりすぎて熱劣化が進行するなどの不都合が生じにくいので好ましい。濾過に要する時間はできるだけ短くして、フィルムの黄変を防止するのがよい。フィルター1cm2当たり1分間の濾過量は、0.05〜100cm3が好ましく、0.1〜100cm3がさらに好ましく、0.5〜100cm3がもっとも好ましい。
【0160】
(溶融流延キャスト)
濾過した溶融セルロースアシレートは、フィルターのうしろに取り付けたT型のダイから押し出す。押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層押出してもよい。この時、ダイのリップの間隔を調整することで、幅方向の厚みむらを調整することができる。この後キャスティングドラム上に溶融セルロースアシレート押出す。この際、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートとの密着性を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施してもよい。
【0161】
溶融セルロースアシレートをダイから押し出しを行なう際も不活性ガス中が好ましい。不活性ガスは窒素であることが好ましい。窒素の純度は95%以上が好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が最も好ましい。
【0162】
好ましいダイのリップ間隔は製膜するフィルムの膜厚の1倍〜10倍が好ましく、より好ましくは2倍〜8倍、さらに好ましくは3倍〜7倍である。このように厚めにダイリップから押出したシートをキャスティングドラム(以下「CD」と称する場合がある。)の周速を調整することで所望の厚みに調整する。ダイリップの好ましい温度は180℃〜250℃、より好ましくは190℃〜240℃、さらに好ましくは200℃〜230℃である。
この後、メルト(溶融樹脂)をキャスティングドラム(CD)と呼ばれる金属流延支持体上に押出す。CDの表面温度はTg−50℃〜Tg+10℃、より好ましくはTg−30℃〜Tg+5℃、さらに好ましくはTg−20℃〜Tg℃である(「Tg」は、樹脂(セルロースアシレートと添加物との混合体)のTgを指す)。CDは1本〜10本が好ましく、より好ましくは2本〜5本である。
キャスティングドラム上でメルトを固化させたあと剥ぎ取り、さらにニップロールを経た後、巻き取る。巻き取り速度は10m/分〜100m/分が好ましく、より好ましくは15m/分〜80m/分、さらに好ましくは20m/分〜70m/分である。
メルトの製膜幅は0.5m〜5mが好ましく、さらに好ましくは0.7m〜4mであり、特に好ましくは1m〜3mである。
【0163】
セルロースアシレートフィルムは、製膜後、両端をトリミングした後、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後に、同じ品種のフィルム用原料として、または異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0164】
このようにして得たセルロースアシレートフィルムの弾性率は1.5kN/mm2〜2.9kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2〜2.8kN/mm2であり、さらに好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。得られたセルロースアシレートフィルムのTgは95℃〜145℃が好ましく、より好ましくは100℃〜140℃、さらに好ましくは105℃〜135℃である。
フィルムの厚みは50μm〜300μmが好ましく、より好ましくは70μm〜250μmであり、さらに好ましくは70μm〜230μmである。
【0165】
(3)延伸
延伸は溶融押出し後、オンライン実施してもよいが、溶融押出し後一旦巻き取って、オフライン実施してもよい。本発明においては図1に示すようにオンライン延伸がより好ましい。延伸温度は、Tg〜Tg+50℃で実施するのが好ましく、より好ましくはTg+3℃〜Tg+30℃であり、さらに好ましくはTg+5℃〜Tg+20℃である。好ましい延伸倍率は少なくとも一方に10%〜300%、より好ましくは15%〜200%、さらに好ましくは20%〜150%である。これらの延伸は一段で実施しても、多段で実施してもよい。ここで云う延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/延伸前の長さ
このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げてもよい(横延伸)。また、特開2000−37772号公報、特開2001−113591号公報、特開2002−103445号公報に記載の同時2軸延伸法を用いてもよい。
【0166】
さらにRe、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することで達成できる。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。横延伸の場合、直交方向に延伸すると同時に縦方向にも延伸したり、逆に緩和させることで制御することができる。即ち縦方向に延伸することでRth/Re比を大きくすることができ、逆に縦方向に緩和することでRth/Re比を小さくすることができる。さらに縦延伸と横延伸とを組み合わせることで、Reを小さくしながら(縦と横との延伸倍率を近づける)、Rthを大きくする(面積倍率(縦倍率×横倍率)を上げる)ことで、ReおよびRthを制御できる。本発明では縦と横との延伸倍率の差を10%〜100%、さらに好ましくは20%〜80%、さらに好ましくは25%〜60%にし、縦横非対称に延伸するのがより好ましい。この時、横方向の延伸倍率を高くすることがさらに好ましい。
【0167】
このような延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20%/分〜1000%/分であり、さらに好ましくは30%/分〜800%/分である。
また、このような延伸に引き続き、縦または横方向に0%〜10%緩和することも好ましい。さらに、延伸に引き続き、100℃〜160℃で1秒〜2分熱固定することも好ましい。
【0168】
延伸後のセルロースアシレートフィルムのReおよびRthは下記式を満足することが好ましい。
Re≦Rth (好ましくはRth≦10Re)
0≦Re≦300
10≦Rth≦500
また、下記式を満足することがより好ましい。
Re×1.1≦Rth (好ましくはRth≦10Re)
10≦Re≦200
50≦Rth≦400
また、下記式を満足することがさらに好ましい。
Re×1.2≦Rth (好ましくはRth≦10Re)
20≦Re≦150
80≦Rth≦350
【0169】
本発明のセルロースアシレートフィルムの波長590nmにおける25℃・相対湿度10%におけるReと25℃・相対湿度80%におけるReの差は15nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
また、波長590nmにおける25℃・相対湿度10%におけるRthと25℃・相対湿度80%におけるRthの差は25nm以下が好ましく、15nm以下がさらに好ましい。
【0170】
本明細書において、Re、Rthは各々、波長λにおける面内のリターデーションおよび厚さ方向のリターデーションを表す。ReとRthの測定は、セルロースエステルフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて25℃・相対湿度60%において行う。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定する。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して角度を変えて、傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定した複数のレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。本明細書においては、特に断らない限りλとして590±5nmを使用している。
【0171】
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θは、0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±2°、さらに好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±2°あるいは−90±2°、さらに好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。
【0172】
延伸後のセルロースアシレートフィルムの厚みはいずれも15μm〜200μmが好ましく、より好ましくは30μm〜170μm、さらに好ましくは40μm〜140μmである。厚みむらは未延伸、延伸後とも、厚み方向、幅方向いずれも0%〜2%が好ましく、より好ましくは0%〜1.5%、さらに好ましくは0%〜1%である。
【0173】
このようにして得られたセルロースアシレートフィルムの弾性率は1.5kN/mm2〜2.9kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2〜2.8kN/mm2、さらに好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2である。
【0174】
(4)応用
これらの未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムは単独で使用してもよく、これらと偏光板組み合わせて使用してもよく、これらの上に液晶層や屈折率を制御した層(低反射層)やハードコート層を設けて使用してもよい。
【0175】
(表面処理)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着性を向上させることができる。前記表面処理としては、例えば、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。
前記グロー放電処理とは、10-3〜20Torr(0.13〜2700Pa)の低圧ガス下でおこる低温プラズマ処理を含む。また、大気圧下でのプラズマ処理も好ましいグロー放電処理である。前記プラズマ励起性気体とは前記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンのようなフロン類およびそれらの混合物などが挙げられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000Kev下で20〜500kGyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500Kev下で20〜300kGyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0176】
前記アルカリ鹸化処理は、フィルムを鹸化液に浸漬してもよく(浸漬法)、鹸化液を塗布してもよい(塗布方法)。前記浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分間〜10分間通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0177】
アルカリ鹸化液の塗布方法としては、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の本発明のセルロースアシレートフィルムに対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって本発明のセルロースアシレートフィルム表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的に前記溶媒としては、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、前記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒〜5分が好ましく、5秒間〜5分間がさらに好ましく、20秒間〜3分間が特に好ましい。更にアルカリ鹸化反応後には、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜塗布を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開第02/46809号パンフレットに内容の記載が挙げられる。
【0178】
また、フィルム表面と機能層との接着性を向上させるために、下塗り層を設けることも好ましい。この層は前記表面処理をした後、塗設しても良く、表面処理なしで塗設してもよい。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0179】
(機能層付与)
本発明のセルロースアシレートフィルムには、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償フィルム)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)が好ましい。
【0180】
(1)偏光膜の付与(偏光板の作製)
[偏光膜の使用素材]
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。前記二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。前記二色性色素としては、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。前記二色性色素としては、例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会発行)58頁にに記載の化合物が挙げられる。
【0181】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。前記バインダーには、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。また、シランカップリング剤をポリマーとして用いることもできる。前記バインダーとしては、水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。また、前記バインダーとしては、重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、二種以上を併用してもよい。
【0182】
偏光膜の厚みの下限は、10μmであることが好ましい。また、厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よく、例えば、現在市販の偏光板の厚み(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が更に好ましく、20μm以下が特に好ましい。
【0183】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合してもよく、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与してもよい。架橋は、光、熱あるいはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許第23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
【0184】
[偏光膜の延伸]
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、もしくはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸はMD方向に平行に行っても良く(平行延伸)、斜め方向におこなってもよい(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。より好ましいのが斜め方向に10°〜80°の傾きを付けて延伸する斜め延伸である。
【0185】
(I)平行延伸法
平行延伸法について設明する。平行延伸法においては、延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後との質量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、15〜50℃、就中17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが、前記作用効果の点より、延伸倍率は1.2〜3.5倍が好ましく、1.5〜3.0倍がさらに好ましい。この後、50℃〜90℃において乾燥させて偏光膜を得ることができる。
【0186】
(II)斜め延伸法
斜め延伸法としては、特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。この延伸は空気中で延伸するため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必要である。好ましい含水率は5%〜100%、より好ましくは10%〜100%である。
延伸時の温度は40℃〜90℃が好ましく、より好ましくは50℃〜80℃である。湿度は相対湿度50%〜100%が好ましく、より好ましくは相対湿度70%〜100%、さらに好ましくは相対湿度80%〜100%である。長手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。
延伸の終了後、50℃〜100℃より好ましくは60℃〜90℃で、0.5分〜10分乾燥する。より好ましくは1分〜5分である。
このようにして得られた偏光膜の吸収軸は10°〜80°が好ましく、より好ましくは30°〜60°であり、さらに好ましくは実質的に45°(40°〜50°)である。
【0187】
[貼り合せ]
前記鹸化後のセルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光膜とを貼り合わせ偏光板を作製する。これらを張り合わせる方向は、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向とが45°になるように行うのが好ましい。
貼り合わせの際に用いられる接着剤は特に限定されないが、PVA系樹脂(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性PVAを含む)やホウ素化合物水溶液等が挙げられ、中でもPVA系樹脂が好ましい。接着剤層の乾燥後の厚みは0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。
このようにして得られた偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0188】
さらに、このようにして得られた偏光板はλ/4板と積層し、円偏光を作製することができる。この場合λ/4板の遅相軸と偏光板の吸収軸とを45°になるように積層する。この時、λ/4板は特に限定されないが、低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20°〜70°傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層からなるλ/4板を用いることが好ましい。
【0189】
(2)光学補償層の付与(光学補償フィルムの作製)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0190】
[配向膜]
光学補償フィルムを作製するには、前記表面処理したセルロースアシレートフィルム上に配向膜を設ける。この配向膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、光学補償フィルムの構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の光学補償フィルムを作製することも可能である。
前記配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
前記配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
【0191】
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例えば、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0192】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。前記ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることもできる。前記ポリマーとしては、水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0193】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基は、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ、ジアルコキシ、モノアルコキシ)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例としては、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0194】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償フィルムの強度を著しく改善することができる。
【0195】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0080]〜[0100]に記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、前記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
【0196】
前記架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。また、二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[0024]に記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0197】
前記配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である前記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体(本発明のセルロースアシレートフィルム)上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、上述のように、透明支持体上(本発明のセルロースアシレートフィルム)に塗布した後、任意の時期に行ってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水との混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1であることが好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、更には光学異方層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0198】
前記配向膜の塗布方法としては、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましく、特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の配向膜の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。また、加熱乾燥は、20℃〜110℃で行うことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は1分〜36時間で行うことができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、pH4.5〜5.5で、特に5が好ましい。
【0199】
配向膜は、透明支持体(本発明のセルロースアシレートフィルム)上または前記下塗層上に設けられる。前記配向膜は、上述のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
工業的に実施する場合、搬送している配向膜の付いたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90゜が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360゜以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1〜100m/minが好ましい。ラビング角は0〜60゜の範囲で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50゜が好ましい。45゜が特に好ましい。
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。
【0200】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0201】
[棒状液晶性分子]
前記棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0202】
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
前記棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲にあることが好ましい。
前記棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]に記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0203】
[円盤状液晶性分子]
前記円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
【0204】
前記円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。
【0205】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。また、円盤状コアと重合性基とは、連結基を介して結合している化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことが出来る。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜「0168]に記載の化合物等が挙げられる。
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0206】
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸配向方向の変化の程度も、前記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0207】
[光学異方性層の他の組成物]
前記の液晶性分子と共に、重合性モノマー、可塑剤界面活性剤、等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することが出来る。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0208】
前記重合性モノマーとしては、ラジカル重合性若しくはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、前記の重合性基含有の液晶化合物と共重合性のものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報の段落番号[0018]〜[0020]に記載のものが挙げられる。前記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲にあり、5〜30質量%の範囲にあることが好ましい。
【0209】
前記界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報の段落番号[0028]〜[0056]に記載の化合物が挙げられる。
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報の段落番号[0178]に記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、前記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲にあることがより好ましい。
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0210】
[光学異方性層の形成]
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0211】
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0212】
[液晶性分子の配向状態の固定]
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2,367,661号、同2,367,670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2,448,828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2,722,512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3,046,127号、同2,951,758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3,549,367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4,239,850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4,212,970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0213】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2の範囲にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2の範囲にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0214】
この光学補償フィルムと偏光膜とを組み合わせることも好ましい。具体的には、上述のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作製される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
偏光層と光学補償層との傾斜角度は、LCDを構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向とのなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45゜である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型LCDにおいて必ずしも45゜でない装置が開発されており、延伸方向はLCDの設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0215】
[液晶表示装置]
このような光学補償フィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。
【0216】
(TNモード液晶表示装置)
TNモード液晶表示装置は、カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0217】
(OCBモード液晶表示装置)
OCBモード液晶表示装置は、棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許第4,583,825号、同5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensatory Bend)液晶モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0218】
(VAモード液晶表示装置)
VAモード液晶表示装置は、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0219】
(IPSモード液晶表示装置)
IPSモード液晶表示装置は、電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号、特開2004−12731号、特開2004−215620号、特開2002−221726号、特開2002−55341号、特開2003−195333号各公報に記載のものなどを使用できる。
【0220】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードに対しても、上述と同様の考え方で光学的に補償することができる。
【0221】
(3)反射防止層の付与(反射防止フィルムの作製)
反射防止層は、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを透明基体(本発明のセルロースアシレートフィルム)上に設けてなる。
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜を形成する方法としては、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法が挙げられる。
【0222】
一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
上述したような塗布による反射防止フィルムに最上層表面が微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した反射防止層から成る反射防止フィルムも挙げられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは前記いずれの方式にも適用できるが、特に好ましいのが塗布による方式(塗布型)である。
【0223】
[塗布型反射防止フィルムの層構成]
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
また、透明支持体と中屈折率層との間に、ハードコート層を設けてもよい。
【0224】
前記塗布型反射防止フィルムは、中屈折率ハードコート層、高屈折率層および低屈折率層からなってもよい。
このような塗布型反射防止フィルムとしては、例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等が挙げられる。また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例えば、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。
【0225】
反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。また、反射防止膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0226】
[高屈折率層および中屈折率層]
反射防止膜のうち低屈折率層よりも高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子およびマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜からなることが好ましい。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
【0227】
このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(:特開2001−166104等)、特定の分散剤併用(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1号明細書、特開2002−2776069号公報等)等が挙げられる。
マトリックスバインダーを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0228】
更に、マトリックスバインダーとしては、ラジカル重合性および/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物およびその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物とから得られる硬化性膜も好ましい。このような硬化性膜は、例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。
【0229】
高屈折率層の屈折率は、一般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
さらに、中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0230】
[低屈折率層]
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
低屈折率層は耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーン化合物によるシリコーンの導入、含フッ素化合物によるフッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。
前記含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。
前記含フッ素化合物としては、例えば、特開平9−222503号公報の段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報の段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報の段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。
【0231】
前記シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
架橋または重合性基を有する含フッ素および/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
【0232】
また、前記低屈折率層としては、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0233】
低屈折率層は、前記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されてもよい。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0234】
[ハードコート層]
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体(本発明のセルロースアシレートフィルム)の表面に設けることが好ましく、特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成されることが好ましい。硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。
【0235】
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第O0/46617号パンフレット等記載のものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒径0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与することもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0236】
[前方散乱層]
前方散乱層は、前記反射防止フィルムを液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。また、前記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。
前記前方散乱層としては、例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0237】
[その他の層]
前記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0238】
[塗布方法]
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許第2,681,294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0239】
[アンチグレア機能]
また、反射防止層は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止膜がアンチグレア機能を有する場合、反射防止層のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0240】
反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層またはハードコート層)に比較的大きな粒子(粒径0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0241】
[用途]
本発明のセルロースアシレートフィルムの用途について以下に簡単に述べる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学フィルム、特に偏光板保護フィルム用、液晶表示装置の光学補償シート(位相差フィルムともいう)、反射型液晶表示装置の光学補償シート、ハロゲン化銀写真感光材料用支持体として有用である。
【0242】
本発明のセルロースアシレートフィルムを偏光板保護フィルムとして用いる場合、偏光板の作製方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。得られたセルロース誘導体フィルムをアルカリ処理し、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬延伸して作製した偏光子の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号各公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。保護フィルム処理面と偏光子とを貼り合わせるために使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス等が挙げられる。偏光板は偏光子およびその両面を保護する保護フィルムで構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルムおよびセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0243】
この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。また、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースアシレートフィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。
【0244】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な用途で用いることができ、液晶表示装置の光学補償シートとして用いると特に効果がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensatory Bend)、STN(Supper Twisted Nematic)、VA(Vertically Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、前記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。
【0245】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。本発明のセルロースアシレートフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。更に、本発明のセルロースアシレートフィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。
【0246】
一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360°の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(△n)とセルギャップ(d)との積(△nd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。
【0247】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くから良く知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号公報、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。本発明のセセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。
【0248】
その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。以上述べてきたこれらの詳細なセルロース誘導体フィルムの用途は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)45頁〜59頁に詳細に記載されている。
【0249】
以下に本発明で使用した測定法について記載する。
【0250】
(1)サンプリング
幅方向5点(中央1個所、端部2箇所(両端から全幅の5%の位置)、中央部と端部との中間部2箇所)を長手方向に10mごとに3回サンプリングし、3×3cmの大きさのサンプルを15枚取り出して測定する。以下に示すReおよびRthの値は15箇所測定値の平均値である。
【0251】
(2)面内レターデーションRe、厚み方向レターデーションRth
セルロースエステルフィルムを25℃・相対湿度60%にて24時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、サンプルフィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差を測定することにより、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出した。特に断らない場合ReおよびRthは、この値をさす。
【0252】
(3)ReおよびRthの湿度変動値の測定
前記測定で用いたサンプルフィルムを25℃・相対湿度10%で24時間以上調湿した後、25℃・相対湿度10%中で前記と同様にしてReおよびRthを測定する(Re(10%RH)、Rth(10%RH)とする)。
これと同じサンプルフィルムを用い、25℃・相対湿度80%で24時間以上調湿した後、25℃・相対湿度80%中で前記と同様にしてRe、Rthを測定する(Re(80%RH)、Rth(80%RH)とする)。Re、Rthの湿度変動値は下式に表れ、それぞれ25℃・相対湿度10%と25℃・相対湿度80%の測定平均値の絶対差である。
Re湿度変動値(nm)=|Re(10%RH)−Re(80%RH)|
Rth湿度変動値(nm)=|Rth(10%RH)−Rth(80%RH)|
【0253】
(4)溶融粘度η
溶融粘度ηは、本発明におけるセルロースアシレートの230℃における溶融粘度を指す。溶融粘度ηは、パラレルコーンを用いた粘弾性測定装置(例えばAnton Paar社製、モジュラーコンパクトレオメーター:Physica MCR301)を用い下記条件で測定する。
・樹脂を十分乾燥し含水率を0.1%以下とした後、窒素雰囲気中、ギャップ500μm、周波数1Hz、歪み1%で170℃から毎分5℃で昇温しながら250℃まで測定する。
・下記実施例において測定した230℃における溶融粘度η値を表3に記載した。
【0254】
(5)黄色味(YI;イエローネスインデックス)
本発明のセルロースアシレートフィルムの黄色味は、以下のように判定する。「Z−II OPTICAL SENSOR」を用い(JIS K7105 6.3)に従い黄色味(YI;イエローネスインデックス)を測定する。フィルムは透過法にて三刺激値、X、Y、Zを測定する。さらに三刺激値X、Y、Zを用い下記式によりYI値を算出する。
YI={(1.28X−1.06Z)/Y}×100
【0255】
さらにフィルムのYI値は前記式にて算出したYI値を、そのフィルムの厚みで割り、1mm当たりに換算して比較する。
本発明のセルロースアシレートフィルムのYI値は、0〜8が好ましく、0〜4がさらに好ましく、0〜3がさらに好ましい。
【0256】
(6)微細偏光異物
本発明のセルロースアシレートフィルム中における微細偏光異物の含有量は、偏光顕微鏡でフィルムの任意の1mm2の部位についてそのまま観察し、その数をカウントすることで評価することができる。例えば、フィルム膜厚を50μmとすると、観察される長さ10μm以下の微細偏光異物は、5個以下、好ましくは4個以下、さらに好ましくは3個以下、もっとも好ましくは0である。このときの単位は、個/(mm2×5μm)=個/5×10-2mm3とする。なお、長さ10μm以上の微細異物もフィルム中に含まれることがあるが、その数は10μm以下の微細異物の数とほぼ比例することから、長さ10μm以下の微細異物を基準としている。フィルムの厚みが異なる場合は、50μm換算して、単位を個/5×10-2mm3とする。
【0257】
(7)Tg測定と延伸温度との設定
溶融製膜後のフィルムを10mgサンプリングし、DSCの測定パンに入れる。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃〜250℃まで昇温した後(First−run)、30℃まで−20℃/分で冷却する。この後、再度0℃〜250℃まで、10℃/分で昇温する(Second−run)。TgはSecond−runのDSC曲線からで求めた。また、Tgは、ベースラインが低温側から偏奇し始める温度を指す。これを基づいて、Tg+10〜40℃の範囲で延伸温度を設定した。下記実施例における延伸温度を下記表3に記載した。
【0258】
(8)実装評価
VA型液晶セルを使用した22インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に設けられている観察者側の偏光板を剥がし、代わりに本発明に作製したセルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側に貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸とが直交するように配置して、液晶表示装置を作製した。実施例において黒表示時した時に発生する表示ムラや画像ボケ等を3段階で評価したものを、下記表3に記載した。
〔基準〕
○:黒表示時した時に発生する表示ムラや画像ボケ等が全く観測されず、高画質なパネルであった。
△:表示ムラや画像ボケ等が僅か観測され、高画質が要求されない用途のパネルとしては、十分な特性を有するものであった。
×:表示ムラや画像ボケ等が十分に確認でき、性能の劣るパネルであった。
【実施例】
【0259】
以下に実施例と比較例とを挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0260】
[実施例1]
1.セルロースアシレート樹脂
下記表2に記載のアシル基の種類、置換度の異なるセルロースアシレートの表面層およびコア層用の樹脂をそれぞれ、上述の記載の合成方法を用いて製造した。このようにして得られたセルロースアシレートの重合度を下記の方法で求め、下記表2に記載した。
【0261】
(重合度測定法)
絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
ηrel =T/T0
[η]=ln(ηrel)/C
DP=[η]/Km
[式中、Tは測定試料の落下秒数、T0は溶剤単独の落下秒数、lnは自然対数、Cは濃度(g/L)、Kmは6×10-4である。]
【0262】
得られた各セルロースアシレート(No.1〜No.17)に、下記表2の記載に従ってレターデーション上昇剤を添加した。
【0263】
次いで、可塑剤として、フェニルジフェニルホスフェートとトリスオルトービフェニルホスフェートとの混合物(質量比=1:1)を2質量%添加した。さらに、マット剤として、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V、日本アエロジル(株)製)0.05質量%を添加した。また、酸化・劣化防止剤として、下記化合物0.15質量%を添加した。
【0264】
【化20】

【0265】
更に、UV吸収剤として、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジンを0.4質量%添加し、2(2'−ヒドロキシ−3',5'−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾールを0.2質量%添加した。
なお、本実施例で示す添加剤等の添加量(質量%)は全てセルロースアシレートに対する質量比を示す。例えば、"5質量%"はセルロースアシレート樹脂100質量部に対し、添加剤を5質量部使用したという意味である。
【0266】
2.溶融製膜
前記セルロースアシレートと添加剤とを混合し、直径3mm長さ5mmの円柱状のペレットとして成形したものを、110℃の真空乾燥機で乾燥し含水率を0.1%以下とした。
次いで、単軸押出機を用いて、下記表1に記載のスクリュー条件でセルロースアシレートを溶融押出した。
【0267】
【表1】

【0268】
次に、溶融したセルロースアシレートをギヤポンプに通し、押出機の脈動を除去した後、金属3μm金属メッシュフィルター濾過した。ろ過したメルトを、230℃に設定したダイリップを通してキャストドラムに流延した。次いで、Tg−5℃、Tg、Tg−10℃に設定した直径60cmのキャストドラムを3本連続して通し、固化させて厚み150μmのセルロースアシレートフィルムを得た。なお、ダイリップ先端から出たメルトがキャストドラム上に接地するまでの距離は5cmになるようにし、この間に3kVの電極をメルトから5cm離した所に設置して、両端5cmずつ静電印加処理によりトリミングを行った。両端5cmにトリミングをした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)を施し巻き取った。各水準とも、幅は1.5mで30m/分で2000m巻き取った。
【0269】
【表2】

【0270】
溶融製膜したフィルムNo.1〜No.17の残存溶媒量をガスクロマトグラフィー(GC−18A、島津製作所(株))にて測定したところ、全てフィルムの溶媒残存率が0%であり、溶媒を含有していないことを確認した。また、レターデーション上昇剤未含有のフィルムNo.16は本発明N0.1〜11(同じ樹脂組成)のフィルムと比べ、溶融粘度が高く、本発明における一般式(1)で表される化合物(レターデーション上昇剤)を用いることにより、セルロースアシレートの溶融粘度を低下させる効果を得られることが明らかであった。
また、アシレート置換基が本発明範囲外のもの(比較例 No.17)を用いて溶融製膜した結果、溶融粘度が非常に高く、十分な溶融流動性を示さず、溶融フィルムの作製が不可能であった。
【0271】
3.延伸
前記溶融製膜で得たセルロースアシレートフィルムを表3に記載の温度で、数本の予熱ロールを用い予熱したあと、ニップロールとクリップ横延伸テンターとを用い、下記表3に記載の縦横の延伸倍率で延伸した。なお、延伸温度はいずれも各水準の樹脂のTgに基づく、Tg〜Tg+40℃の温度範囲で延伸した、延伸温度は下記表3に記載した。また、縦延伸、横延伸は同じ温度で実施した。
【0272】
4.セルロースアセテートフィルムの物性測定
各セルロースアセテートフィルムの物性値について、上述の物性測定方法に基づいて、面内レターデーション値(Re)および厚み方向レターデーション値(Rth)、ReおよびRth湿度変動値、微細偏光異物数、黄色味、実装評価の評価をし、結果を表3に記載した。また、得られたこれらの測定結果を総合判断し、3段階の基準で評価して下記表3に記載した。「○」は商品として好ましいレベルであり、「△」は用途が限定されるレベルであり、「×」は商品としては好ましくないレベルである。
【0273】
【表3】

【0274】
表3の結果から分かるように、本発明の好ましい溶融製膜条件(表1の条件1〜3)で作製したN0.1〜No.13フィルムは、高いRe、Rthの発現性を有し、ΔRe、ΔRthの湿度変動が少なく、且つ微細偏光異物および黄色味(YI値)が小さく、優れる光学フィルムを得た。一方、本発明において好ましくない溶融製膜条件(表1の条件4および条件5)で作製したNo.14とNo.15のフィルムは、No.14のYI値がNo.1のフィルムと比べ大きく、フィルムの黄色味がやや強かった。また、No.15の異物数はNo.1のフィルムと比べ大きく、多いことがわかる。No.14とNo.15とのフィルムは実装評価において僅かな表示ムラや画像ボケ等が観測されたが、高画質が要求されない用途のパネルとしては、十分な特性を有するものであった。
一方、レターデーション上昇剤未含有のフィルムNo.16、は本発明No.1〜No.15のフィルムと比べ、Re、Rthの発現性が明らかに低かった。特にVA液晶セルに要求される高いRe値を満たすのは困難であることが分かった。また、低置換度のセルルースアシレートNo.17は、十分の溶融流動性を示さず、溶融フィルムの作製が不可能であった。
【0275】
[実施例2]
(偏光板の作製)
(1)セルロースアシレートフィルムの鹸化
未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムを下記のいずれかの方法で鹸化を行った。
(i)塗布鹸化
iso−プロパノール80質量部に水20質量部を加え、これにKOHを2.5mol/Lとなるように溶解し、これを60℃に調温したものを鹸化液として用いた。これを60℃のセルロースアシレートフィルム上に10g/m2塗布し、1分間鹸化した。この後、50℃の温水スプレーを用い、10L/m2・分で1分間吹きかけ洗浄した。
【0276】
(ii)浸漬鹸化
NaOHの3.0mol/L水溶液を鹸化液として用いた。
これを60℃に調温し、セルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。この後、0.mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0277】
(2)偏光膜の作製
特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0278】
(3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、前記鹸化処理した未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムおよび鹸化処理したフジタック(未延伸トリアセテートフィルム)を、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースアシレートフィルムの長手方向とが45°となるように下記組み合わせで張り合わせた。
【0279】
(A)偏光板Aタイプ:表3の各延伸セルロースアシレートNo.1〜17のフィルム/偏光層/表2の未延伸セルロースアシレートNo.10フィルム
(B)偏光板Bタイプ:表3の各延伸セルロースアシレートNo.1〜17のフィルム/偏光層/フジタック
なお、未延伸セルロースアシレートは同じ水準の延伸前のフィルムを使用した。
【0280】
[実施例3]
(光学補償フィルム・液晶表示素子の作製)
VA型液晶セルを使用した22インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に設けられている観察者側の偏光板を剥がし、代わりに実施例2で前記各種の位相差偏光板AタイプおよびBタイプを、セルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側に貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作製した。以上のようにして得られた液晶表示装置の視認性を目視にて確認した。さらに、相対湿度10%にて2週間保持したパネルと相対湿度80%にて2週間保持したパネルとを並べ、色味の違いを目視にて評価した。得られた結果を前記表3における実装評価の基準とした。レターデーションの湿度依存性の小さな本発明のNo.1〜No.15フィルムを用いた液晶表示装置は、色味変化が小さく、信頼性の高いものであることが分かった。また、本発明の微細偏光異物および黄色味が小さいNo.1〜No.13光学フィルムを用いた偏光板は、画像ボケなどの問題が発生せず、良好な視認性を有することがわかった。
【0281】
また、特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明の延伸セルロースアシレートNo.1〜No.13のフィルムを使用しても、良好な光学補償フィルムを作製できた。
さらに本発明の偏光板、位相差偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731の図11に記載のIPS型液晶表示装置に用いたところ、湿度変動に伴う表示ムラが無く、良好な視認性を有する液晶表示素子が得られた。
【0282】
[実施例4]
(低反射フィルムの作製)
本発明の延伸セルロースアシレートフィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745)の実施例47に従い本発明の延伸セルロースアシレートNo.1〜No.13のフィルムを用いて本発明の低反射フィルムを作製したところ、良好な光学性能が得られた。
さらに本発明の低反射フィルムを、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731の図11に記載のIPS型液晶表示装置の最表層に貼り評価を行ったところ、良好な液晶表示素子を得た。
【産業上の利用可能性】
【0283】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学フィルム、特に偏光板保護フィルム用、液晶表示装置の光学補償フィルム(位相差フィルムともいう)、反射型液晶表示装置の光学補償フィルム、ハロゲン化銀写真感光材料用支持体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0284】
【図1】オンライン工程を説明するための概略図である。
【図2】本発明のセルロースアシレートフィルムの製造において用いられるスクリューを備えた溶融押出し機の断面図である。
【符号の説明】
【0285】
31 溶融押出し機
32 ホッパー
33 スクリュー
34 冷媒導入手段
41 供給部
42 圧縮部
43 計量部
101 押出し機
102 流延Tダイ
103 メルトフィル
104 流延金属支持体(ドラム)
105 縦延伸ロール
106 横延伸ロール
107 巻取

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数2〜6のアシレート基を2種類以上有し且つ下記式(A)〜(C)を満足するセルロースアシレートと、下記一般式(1)で表される化合物の少なくとも1種とを含有し、溶融流延によって形成されたことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
式(A): 2.5≦X+Y≦3.0
式(B): 0≦X≦2.5
式(C): 0.3≦Y<3
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基およびヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【化1】

(式中、Ar1およびAr2はそれぞれ独立にアリール基または芳香族ヘテロ環を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは下記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【化2】

(式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【化3】

(式中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17およびR18はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物が下記一般式(1−4)で表される化合物であり、且つ、前記一般式(1−4)で表される化合物の1種を、前記セルロースアシレートに対して0.1質量%〜15質量%含有することを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
【化4】

(式中、R22、R25、R26、R27、R28、R29、R30はそれぞれ独立に水素原子または置換基を表す。R31は炭素数1〜12のアルキル基を表す。R32は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基を表す。R33は炭素数1〜4のアルキル基を表す。L1およびL2はそれぞれ独立に−C(=O)O−、または−C(=O)NR−を表す。Rは水素原子またはアルキル基を表す。Xは前記一般式(2)または一般式(3)を表す。)
【請求項3】
微細偏光異物の含有量が0〜5〔個/5×10-2mm3〕であり、且つ、イエローネスインデックス(YI値)が0〜8であることを特徴とする請求項1または2に記載セルロースアシレートフィルム。
【請求項4】
波長590nmにおける面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)とが、下記式(D)〜(F)を満足することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(D): 0≦Re≦300
式(E): 10≦Rth≦500
式(F): 1≦Rth/Re≦10
【請求項5】
25℃・相対湿度10%の面内のレターデーション(Re)と25℃・相対湿度80%の面内のレターデーション(Re)との差が15nm以下であり、且つ、25℃・相対湿度10%の厚み方向のレターデーション(Rth)と25℃・相対湿度80%の厚み方向のレターデーション(Rth)との差が25nm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法であって、溶融製膜の際に、スクリューの圧縮比が2.5〜4.5、スクリューの長さと直径との比(L/D)が20〜50、および、スクリューの回転数が60rpm〜400rpmの押出し機を用い、前記押出機内のスクリュー温度パターンを分割制御して供給部、圧縮部および計量部の順に段階的に温度を5℃〜50℃上げることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上用いたことを特徴とする位相差フィルム。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上用いたことを特徴とする光学補償フィルム。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上用いたことを特徴とする反射防止フィルム。
【請求項11】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1枚以上用いたことを特徴とする画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−183005(P2006−183005A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−381217(P2004−381217)
【出願日】平成16年12月28日(2004.12.28)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】