説明

セルロースアシレートフィルムおよびその製造方法、偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルム、並びに液晶表示装置

【課題】 液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示むらを改善することができるセルロースアシレートフィルムを提供すること。
【解決手段】 質量平均分子量(Mw)/数平均分子量が3〜6であるセルロースアシレートからなるセルロースアシレートフィルムであって、厚み方向の幅がフィルム厚の0.1〜10%であり且つ面内の幅が1〜20mmであるV字状の厚みむら(Vスジ)の数が、フィルムの長手方向100mあたり0箇所〜10箇所であることを特徴とする、セルロースアシレートフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面状態が良好なセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。特に、液晶表示装置に組み込んだ時に発生する表示むらが少ないセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法に関する。さらに、本発明は当該セルロースアシレートフィルムを用いた偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、従来より液晶画像表示装置などに使用されている。セルロースアシレートフィルムを製造する際には、ジクロロメタンのような塩素系有機溶剤に溶解し、これを基材上に流延し乾燥して製膜する溶液流延法が主に実施されている。塩素系有機溶剤の中でもジクロロメタンは、セルロースアシレートの良溶媒であるとともに、沸点が低く(約40℃)、製膜工程や乾燥工程において乾燥させ易いという利点を有することから、好ましく使用されている。
一方、近年では環境保全の観点から、塩素系有機溶媒を始めとする有機溶媒の排出を抑えることが強く求められるようになっている。このため、より厳密なクローズドシステムを採用して系から有機溶媒が漏れ出さないように努めたり、ガス吸収塔を通して有機溶媒を吸着させたり、火力により燃焼させたり、電子線ビームにより分解させたりするなどの処理を行って、殆ど有機溶媒を排出することがないように対策が講じられている。しかしながら、これらの対策を行っても完全な非排出にすることは困難であるため、さらなる改良が必要とされていた。
【0003】
塩素系有機溶剤を用いないセルロースアシレートの製膜法として、炭素数1〜4のアルコールを含有する非塩素系有機溶媒にセルロースアシレートを溶解したドープを用いて溶液製膜によりフィルムを製造する方法が開示されている(特許文献1参照)。この方法によれば、少なくとも塩素系有機溶剤の非排出は達成することができる。
【0004】
また、有機溶剤そのものを用いない製膜法として、セルロースアシレートを溶融製膜する方法が開示されている(特許文献2参照)。この方法では、セルロースアシレートのアシル炭素数を増加することで融点を下げ、溶融製膜しやすくしている。具体的には、セルロースアセテートをセルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレート等に変えることによって溶融製膜を可能にしている。
【特許文献1】特開2000−344904号公報
【特許文献2】特開2000−352620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの特許文献に記載される方法には、さらに改良すべき技術的課題が存在する。特許文献1に記載される方法によれば、確かに塩素系有機溶剤の非排出を達成することはできるが、非塩素系有機溶媒を多量に用いるために、有機溶媒の非排出を実現するには多大な設備投資と労力が必要である。また、特許文献1に記載される方法により製造されるセルロースアシレートフィルムは、経時保存後に打ち抜き加工するとひび割れが発生する場合があるという問題がある。
また、特許文献2に記載される方法によれば、有機溶媒の非排出を図り易いというメリットはあるが、製造されるセルロースアシレートフィルムを用いて作成した偏光板を液晶表示装置に組み込むと表示むらが発生する場合があるという問題がある。このような故障は25インチ以上の大型液晶表示板に組み込んだ場合に特に顕著であり、大型化が進む中で大きな課題となる可能性がある。また、湿度変化に伴い、視野特性が変動し易いという問題もある。
【0006】
これらの従来技術の課題に鑑みて、本発明は、液晶表示装置に組み込んだときに発生する表示むらを改善することができるセルロースアシレートフィルムを提供することを目的とする。また本発明は、そのような表示むら改善効果を示すとともに、経時保存後の加工適性にも優れているセルロースアシレートフィルムを提供することも目的とする。また本発明は、そのようなセルロースアシレートフィルムを効率よく製造することができる方法を提供することも目的とする。さらに本発明は、優れた光学特性を有する偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、以下の構成を有する本発明により上記目的を達成しうることを見いだした。
[1] 質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が3〜6であるセルロースアシレートからなるセルロースアシレートフィルムであって、残留溶剤量が0.01質量%以下であり、厚み方向の幅がフィルム厚の0.1〜10%であり且つ面内の幅が1〜20mmであるV字状の厚みむら(Vスジ)の数が、フィルムの長手方向100mあたり0箇所〜10箇所であることを特徴とする、セルロースアシレートフィルム。
[2] セルロースアシレートが下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする、[1]に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1): 2.6≦X+Y≦2.95
式(2): 0.1≦X≦1.45
式(3): 0.3≦Y≦2.95
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
[3] セルロースアシレートが下記式(4)〜(6)を満足することを特徴とする、[1]または[2]に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(4): 2.6≦X+Y≦2.95
式(5): 0.3≦X≦0.7
式(6): 1.0≦Y≦2.4
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基の置換度を表す。)
[4] セルロースアシレートの質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が4〜5であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[5] 溶融押出し機を用いて溶融製膜したことを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
[6] [1]〜[5]のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1方向に、1%〜300%延伸したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【0008】
[7] 質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が3〜6であるセルロースアシレートを、供給部と圧縮部の長さの比が0.5〜10のスクリューを備えた溶融押出し機を用いて溶融製膜したことを特徴とする、セルロースアシレートフィルムの製造方法。
[8] スクリューの上流部から、スクリュー全長の5〜34%までの範囲を、セルロースアシレートのTg以下の温度に冷却することを特徴とする、[7]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
[9] セルロースアシレートが下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする、[7]または[8]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(1): 2.6≦X+Y≦2.95
式(2): 0.1≦X≦1.45
式(3): 0.3≦Y≦2.95
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
[10] セルロースアシレートが下記式(4)〜(6)を満足することを特徴とする、[7]または[8]に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(4): 2.6≦X+Y≦2.95
式(5): 0.3≦X≦0.7
式(6): 1.0≦Y≦2.4
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基の置換度を表す。)
[11] [7]〜[10]のいずれか一項に記載の製造方法により製造されるセルロースアシレートフィルム。
【0009】
[12] 偏光膜に[1]〜[6]および[11]のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
[13] [1]〜[6]および[11]のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを基材として用いた液晶表示板用光学補償フィルム。
[14] [1]〜[6]および[11]のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを基材として用いた反射防止フィルム。
[15] [1]〜[6]および[11]のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルロースアシレートフィルムを組み込んで液晶表示装置を製造すれば、表示むらを改善することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、経時保存後の加工適性にも優れているため、経時後に打ち抜き加工などを行ってもひび割れ等が発生しにくい。
【発明の実施の形態】
【0011】
以下において、本発明のセルロースアシレートフィルムおよびその製造方法等について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
<セルロースアシレートフィルムのVスジ発生抑制>
従来の溶液製膜法により製造されるセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に組み込むと、表示むらが発生する。表示むらは、一方向に向いた幅1〜20mmのV字状のスジとして観察される。本発明者は、このような表示むらがセルロースアシレートフィルムの表面に存在するVスジに起因することを見いだした。本発明で言うVスジとは、フィルム表面にフィルムの全幅にわたって横断するように観察されるV字状の厚みむらであって、厚み方向の幅がフィルム厚の0.1〜10%であり且つ面内の幅が1〜20mmであるものを指す。V字の角度は5〜150°である。また、V字の深さ(V字の両端部を結ぶ直線とV字の折返点との距離)は、V字の両端部の距離(フィルムの幅)の5%〜100%である。Vスジの数は1本でも複数本でもよいが、3本以上のVスジが観察される場合、そのV字の折返点は直線上に並ぶ。
【0013】
本発明者は、セルロースアシレートフィルムにVスジが発生する原因を検討した結果、以下の事実を解明した。
セルロースアシレートフィルムは、溶融押出し機からダイ(好ましくはT−ダイ)へ導いたメルト(溶融したセルロースアシレート)をダイ先端のスリットを通してキャスティングドラム等の上に押し出す工程を経て製造される。このとき、溶融押出し機内で脈動(押出量のむら)が発生し、その脈動がダイ先端のスリットから押し出されてキャスティングドラムの上に導かれるメルトを伝わるために、フィルム幅を横断するようにスジ(凹凸)が発生することが判明した。スジは、ダイ先端のスリットに脈動が同時に到達すれば直線状になるが、ダイは入口に比べて先端が幅広になっていて脈動がスリットの両端よりも入口からの距離が短い中央に速く伝わるため、結果として凹凸はフィルムの中央から形成されてドラムの回転とともに両端に向かって斜め方向に伸長する。その結果、ダイ中央に対応する点をV字の折返点とするVスジが形成される。
【0014】
このようなVスジの発生は、一般的なセルロースアシレート樹脂を用いてフィルムを製造する際に特有の問題であり、セルロースアシレートの溶融粘度の温度依存性が大きいことが主たる原因となっていると考えられる。本発明では、このようなセルロースアシレートの溶融粘度の温度依存性を、その質量平均分子量(Mw)/数平均分子量の値を3〜6、好ましくは3.2〜6、さらに好ましくは3.5〜5、特に好ましくは4〜5とすることによって改善し、Vスジが少ないセルロースアシレートフィルムを提供することを可能にした。本発明のセルロースアシレートフィルムは、Vスジが0箇所/100m〜10箇所/100mであり、好ましくは0箇所/100m〜8箇所/100m、より好ましくは0箇所/100m〜5箇所/100mである。
【0015】
<セルロースアシレート樹脂>
(セルロースアシレートの構造)
本発明に用いるセルロースアシレート(以下、本発明のセルロースアシレートという)について詳細に記載する。
セルロースを構成する、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部をエステル化した重合体(ポリマー)である。水酸基のエステル化の割合を示すために、本願では置換度および全置換度を用いる。置換度は、2位、3位および6位のそれぞれについて、セルロースがエステル化している割合(100%エステル化しているときは置換度1)を意味し、全置換度はその合計(100%エステル化しているときは全置換度3)を意味する。
【0016】
本発明のセルロースアシレートの種類は、本発明の条件を満たすものであれば特に制限されないが、下記式(1)〜(3)を満足するものを用いることが好ましい。
式(1): 2.6≦X+Y≦2.95
式(2): 0.1≦X≦1.45
式(3): 0.3≦Y≦2.95
式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。Yとして好ましくはプロピオニル基、ブチリル基であり、さらに好ましくはプロピオニル基である。
【0017】
Yの置換度の1/2以上がプロピオニル基の場合(例えば、Yがプロピオニル基単独であるとき、あるいは、Yがプロピオニル基と他のアシル基から構成され、プロピオニル置換度がYの1/2以上であるとき)の好ましい置換度は、下記式(7)〜(9)で示される範囲である。
式(7): 2.6≦X+Y≦2.95
式(8): 0.1≦X≦1.45
式(9): 0.3≦Y≦2.95
より好ましくは、下記式(10)〜(12)で示される範囲である。
式(10): 2.6≦X+Y≦2.95
式(11): 0.2≦X≦1.0
式(12): 1.0≦Y≦2.85
さらに好ましくは、下記式(4)〜(6)で示される範囲である。
式(4): 2.6≦X+Y≦2.95
式(5): 0.3≦X≦0.7
式(6): 1.0≦Y≦2.4
特に好ましくは、下記式(13)〜(15)で示される範囲である。
式(13): 2.7≦X+Y≦2.95
式(14): 0.3≦X≦0.7
式(15): 1.5≦Y≦2.4
【0018】
Yの置換度の1/2未満がプロピオニル基の場合(例えば、Yがブチリル基単独であるとき、あるいは、Yがプロピオニル基と他のアシル基から構成され、プロピオニル置換度がYの1/2に満たないとき)の好ましい置換度は、下記式(16)〜(18)を満たすことが好ましい。
式(16):2.6≦X+Y≦2.95
式(17):0.5≦X≦1.45
式(18):0.7≦Y≦2.7
より好ましくは、下記式(19)〜(21)で示される範囲である。
式(19):2.6≦X+Y≦2.95
式(20):0.5≦X≦1.45
式(21):1.0≦Y≦2.5
さらに好ましくは、下記式(22)〜(24)で示される範囲である。
式(22): 2.7≦X+Y≦2.95
式(23): 0.7≦X≦1.45
式(24): 1.0≦Y≦2.0
【0019】
本発明のセルロースアシレートは、1分子中に複数種のエステルを有する混合エステルである。好ましい混合エステルの例として、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートブチレートプロピオネート、セルロースアセテートヘキサノエートなどを挙げることができる。さらに好ましい例としては、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどを挙げることができる。特に好ましい例としては、セルロースアセテートプロピオネートを挙げることができる。
【0020】
これらのセルロースアシレートの中でも、Yで表されるアシル基がプロピオニル基であると、特にVスジの発生が少ない。
【0021】
次に、本発明のセルロースアシレートの製造方法について詳細に説明する。本発明のセルロースアシレートの、原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)7頁〜12頁にも詳細に記載されている。
【0022】
(原料および前処理)
セルロース原料としては、広葉樹パルプ、針葉樹パルプ、綿花リンター由来のものが好ましく用いられる。セルロース原料としては、α−セルロース含量が92質量%〜99.9質量%である高純度の原料を用いることが好ましい。
セルロース原料がフレーク状や塊状である場合は、あらかじめ解砕しておくことが好ましく、セルロースの形態はフラッフ状、羽毛状、綿状あるいは粉末状になるまで解砕が進行していることが好ましい。
【0023】
(活性化)
セルロース原料はアシル化に先立って、活性化剤と接触させる処理(活性化)を行うことが好ましい。活性化剤としては、カルボン酸または水を用いることができるが、水を用いる場合には、活性化の後に酸無水物を過剰に添加して脱水を行ったり、水を置換するためにカルボン酸で洗浄したり、アシル化の条件を調節したりする工程を含むことが好ましい。活性化剤はいかなる温度に調節して添加してもよく、添加方法は噴霧、滴下、浸漬などの方法から選択することができる。
【0024】
活性化剤として好ましいカルボン酸は、炭素数2〜6のカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸など)であり、より好ましくは、酢酸、プロピオン酸、または酪酸であり、特に好ましくは酢酸である。
【0025】
活性化の際は、必要に応じてさらに硫酸などのアシル化の触媒を加えることもできる。しかし、硫酸のような強酸を添加すると、解重合が促進されることがあるため、その添加量はセルロースに対して0.1質量%〜10質量%程度に留めることが好ましい。また、2種類以上の活性化剤を併用したり、炭素数2〜6のカルボン酸の酸無水物を添加してもよい。
【0026】
活性化剤の添加量は、セルロースに対して5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが特に好ましい。活性化剤の量が該下限値以上であれば、セルロースの活性化の程度が低下するなどの不具合が生じないので好ましい。活性化剤の添加量の上限は生産性を低下させない限りにおいて特に制限はないが、セルロースに対して質量で100倍以下であることが好ましく、20倍以下であることがより好ましく、10倍以下であることが特に好ましい。活性化剤をセルロースに対して大過剰加えて活性化を行い、その後、ろ過、送風乾燥、加熱乾燥、減圧留去、溶媒置換などの操作を行って活性剤の量を減少させてもよい。
【0027】
活性化の時間は20分以上であることが好ましく、上限については生産性に影響を及ぼさない範囲内であれば特に制限はないが、好ましくは72時間以下、さらに好ましくは24時間以下、特に好ましくは12時間以下である。また、活性化の温度は0℃〜90℃が好ましく、15℃〜80℃がさらに好ましく、20℃〜60℃が特に好ましい。セルロースの活性化の工程は加圧または減圧条件下で行うこともできる。また、加熱の手段として、マイクロ波や赤外線などの電磁波を用いてもよい。
【0028】
(アシル化)
本発明におけるセルロースアシレートを製造する方法においては、セルロースにカルボン酸の酸無水物を加え、ブレンステッド酸またはルイス酸を触媒として反応させることで、セルロースの水酸基をアシル化することが好ましい。
6位置換度の大きいセルロースアシレートの合成については、特開平11−5851号、特開2002−212338号や特開2002−338601号各公報などに記載がある。
セルロースアシレートの他の合成法としては、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、炭酸ナトリウム、ピリジン、トリエチルアミン、tert−ブトキシカリウム、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)の存在下に、カルボン酸無水物やカルボン酸ハライドと反応させる方法、アシル化剤として混合酸無水物(カルボン酸・トリフルオロ酢酸混合無水物、カルボン酸・メタンスルホン酸混合無水物など)を用いる方法も用いることができ、特に後者の方法は、炭素数の多いアシル基や、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒によるアシル化法が困難なアシル基を導入する際には有効である。
セルロース混合アシレートを得る方法としては、アシル化剤として2種のカルボン酸無水物を混合または逐次添加により反応させる方法、2種のカルボン酸の混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を用いる方法、カルボン酸と別のカルボン酸の酸無水物(例えば、酢酸とプロピオン酸無水物)を原料として反応系内で混合酸無水物(例えば、酢酸・プロピオン酸混合酸無水物)を合成してセルロースと反応させる方法、置換度が3に満たないセルロースアシレートを一旦合成し、酸無水物や酸ハライドを用いて、残存する水酸基をさらにアシル化する方法などを用いることができる。
【0029】
(酸無水物)
カルボン酸の酸無水物として好ましいものは、カルボン酸としての炭素数が2〜6のものであり、例えば、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物、吉草酸無水物、ヘキサン酸無水物などを挙げることができる。より好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物、酪酸無水物などであり、特に好ましくは、無水酢酸、プロピオン酸無水物である。
【0030】
混合エステルを調製する目的で、これらの酸無水物を併用して使用することが好ましく行われる。その混合比は目的とする混合エステルの置換比に応じて決定することが好ましい。酸無水物は、セルロースに対して、通常は過剰当量添加する。すなわち、セルロースの水酸基に対して1.2〜50当量添加することが好ましく、1.5〜30当量添加することがより好ましく、2〜10当量添加することが特に好ましい。
【0031】
(触媒)
本発明におけるセルロースアシレートの製造に用いるアシル化の触媒には、ブレンステッド酸またはルイス酸を使用することが好ましい。ブレンステッド酸およびルイス酸の定義については、例えば、「理化学辞典」第五版(2000年)に記載されている。好ましいブレンステッド酸の例としては、硫酸、過塩素酸、リン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸などを挙げることができる。好ましいルイス酸の例としては、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アンチモン、塩化マグネシウムなどを挙げることができる。
触媒としては、硫酸または過塩素酸がより好ましく、硫酸が特に好ましい。触媒の好ましい添加量は、セルロースに対して0.1〜30質量%であり、より好ましくは1〜15質量%であり、特に好ましくは3〜12質量%である。
【0032】
(溶媒)
アシル化を行う際には、粘度、反応速度、攪拌性、アシル置換比などを調整する目的で、溶媒を添加してもよい。このような溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、カルボン酸、アセトン、エチルメチルケトン、トルエン、ジメチルスルホキシド、スルホランなどを用いることもできるが、好ましくはカルボン酸であり、例えば、炭素数2〜6のカルボン酸{例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸}などを挙げることができる。さらに好ましくは、酢酸、プロピオン酸、酪酸、特に好ましくは、酢酸、プロピオン酸などを挙げることができる。これらの溶媒は混合して用いてもよい。
【0033】
(アシル化の条件)
アシル化を行う際には、酸無水物と触媒、さらに、必要に応じて溶媒を混合してからセルロースと混合してもよく、またこれらを別々に逐次セルロースと混合してもよいが、通常は、酸無水物と触媒との混合物、または、酸無水物と触媒と溶媒との混合物をアシル化剤として調製してからセルロースと反応させることが好ましい。アシル化の際の反応熱による反応容器内の温度上昇を抑制するために、アシル化剤は予め冷却しておくことが好ましい。冷却温度としては、−50℃〜20℃が好ましく、−35℃〜10℃がより好ましく、−25℃〜5℃が特に好ましい。アシル化剤は液状で添加しても、凍結させて結晶、フレーク、またはブロック状の固体として添加してもよい。
【0034】
アシル化剤はさらに、セルロースに対して一度に添加しても、分割して添加してもよい。また、アシル化剤に対してセルロースを一度に添加しても、分割して添加してもよい。アシル化剤を複数回に分けて添加する場合は、それぞれ同一組成のアシル化剤を添加してもよいし、複数の組成の異なるアシル化剤をそれぞれ添加してもよい。好ましい例として、1)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒を添加する、2)酸無水物、溶媒と触媒の一部の混合物をまず添加し、次いで、触媒の残りと溶媒の混合物を添加する、3)酸無水物と溶媒の混合物をまず添加し、次いで、触媒と溶媒の混合物を添加する、4)溶媒をまず添加し、酸無水物と触媒との混合物あるいは酸無水物と触媒と溶媒との混合物を添加する、などを挙げることができる。
【0035】
セルロースのアシル化は発熱反応であるが、本発明のセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化の際の最高到達温度を50℃以下にすることが好ましい。反応温度がこの温度以下であれば、解重合が進行して本発明の用途に適した重合度のセルロースアシレートを得難くなるなどの不都合が生じないため好ましい。アシル化の際の最高到達温度は、好ましくは45℃以下であり、より好ましくは40℃以下であり、特に好ましくは35℃以下である。反応温度は温度調節装置を用いて制御しても、アシル化剤の初期温度で制御してもよい。反応容器を減圧して、反応系中の液体成分の気化熱で反応温度を制御することもできる。アシル化の際の発熱は反応初期が大きいため、反応初期には冷却し、その後は加熱するなどの制御を行うこともできる。アシル化の終点は、光線透過率、溶液粘度、反応系の温度変化、反応物の有機溶媒に対する溶解性、偏光顕微鏡観察などの手段により決定することができる。
【0036】
反応の最低温度は−50℃以上が好ましく、−30℃以上がより好ましく、−20℃以上が特に好ましい。好ましいアシル化時間は0.5時間〜24時間であり、1時間〜12時間がより好ましく、1.5時間〜6時間が特に好ましい。0.5時間以上であれば反応が十分に進行しやすく、24時間以内であれば工業的に利用しやすい。
【0037】
(重合度の制御)
セルロースアシレートの酸触媒アシル化は通常は解重合を伴うため、反応の温度と時間を精密に制御することにより所望の重合度のものを得ることができる。一般的にはアシル化の温度を高くすると解重合が促進され、低重合度のセルロースアシレートが得られる。アシル化が終了した後にさらに酸触媒存在下での保持を続け、所望の重合度に達した時点で反応を停止しても良い。
【0038】
(反応停止剤)
本発明に用いられるセルロースアシレートを製造する方法においては、アシル化反応の後に、反応停止剤を加えることが好ましい。
反応停止剤としては、酸無水物を分解するものであればいかなるものであってもよく、好ましい例として、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)またはこれらを含有する組成物などを挙げることができる。また、反応停止剤は、後述の中和剤を含んでいてもよい。反応停止剤の添加に際しては、反応装置の冷却能力を超える大きな発熱が生じて、セルロースアシレートの重合度を低下させる原因となったり、セルロースアシレートが望まない形態で沈殿したりする場合があるなどの不都合を避けるため、水やアルコールを直接添加するよりも、酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸と水との混合物を添加することが好ましく、カルボン酸としては酢酸が特に好ましい。カルボン酸と水の組成比は任意の割合にすることができるが、水の含有量が5質量%〜80質量%、さらには10質量%〜60質量%、特には15質量%〜50質量%の範囲内であることが好ましい。
【0039】
反応停止剤の添加方法は特に制限されない。反応停止剤は、アシル化の反応容器に添加してもよいし、反応停止剤の容器に反応物を添加してもよい。反応停止剤を添加する際には反応容器を冷却しても冷却しなくてもよいが、解重合を抑制する目的から、反応容器を冷却して温度上昇を抑制することが好ましい。また、反応停止剤を冷却しておくことも好ましい。
【0040】
(中和剤)
アシル化の反応停止工程あるいはアシル化の反応停止工程後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解、カルボン酸およびエステル化触媒の一部または全部の中和のために、中和剤(例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)またはその溶液を添加してもよい。中和剤の溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール、メタノール、プロパノール、イソプロピルアルコールなど)、カルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、ケトン(例えば、アセトン、エチルメチルケトンなど)、ジメチルスルホキシドなどの極性溶媒、およびこれらの混合溶媒を好ましい例として挙げることができる。
【0041】
(部分加水分解)
このようにして得られたセルロースアシレートは、全置換度がほぼ3に近いものであるが、所望の置換度のものを得る目的で、少量の触媒(一般には、残存する硫酸などのアシル化触媒)と水との存在下で、20〜90℃に数分〜数日間保つことによりエステル結合を部分的に加水分解し、セルロースアシレートの全置換度を所望の程度まで減少させること(いわゆる熟成)が一般的に行われる。部分加水分解の過程でセルロースの硫酸エステルも加水分解されることから、加水分解の条件を調節することにより、セルロースに結合した硫酸エステルの量を削減することができる。
【0042】
(部分加水分解の停止)
所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を、前記のような中和剤またはその溶液を用いて完全に中和し、部分加水分解を停止させることが好ましい。反応溶液に対して溶解性が低い塩を生成する中和剤(例えば、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウムなど)を添加することにより、溶液中あるいはセルロースに結合した触媒(例えば、硫酸エステル)を効果的に除去することも好ましい。
【0043】
(ろ過)
セルロースアシレート中の未反応物、難溶解性塩、その他の異物などを除去または削減する目的で、反応混合物(ドープ)をろ過することが好ましい。ろ過は、アシル化の完了から再沈殿までの間のいかなる段階において行ってもよい。ろ過圧や取り扱い性の制御の目的から、ろ過に先立って適切な溶媒で希釈することも好ましい。
【0044】
(再沈殿)
このようにして得られたセルロースアシレート溶液を、水またはカルボン酸(例えば、酢酸、プロピオン酸など)水溶液のような貧溶媒中に混合するか、セルロースアシレート溶液中に、貧溶媒を混合することにより、セルロースアシレートを再沈殿させ、洗浄および安定化処理により目的のセルロースアシレートを得ることができる。再沈殿は連続的に行っても、一定量ずつバッチ式で行ってもよい。セルロースアシレート溶液の濃度および貧溶媒の組成をセルロースアシレートの置換様式あるいは重合度により調整することで、再沈殿したセルロースアシレートの形態や分子量分布を制御することも好ましい。
また、精製効果の向上、分子量分布や見かけ密度の調節などの目的から、一旦再沈殿させたセルロースアシレートをその良溶媒(例えば、酢酸やアセトンなど)に再度溶解し、これに貧溶媒(例えば、水など)を作用させることにより再沈殿を行う操作を、必要に応じて1回ないし複数回行ってもよい。
【0045】
(洗浄)
生成したセルロースアシレートは洗浄処理することが好ましい。洗浄溶媒はセルロースアシレートの溶解性が低く、かつ、不純物を除去することができるものであればいかなるものであってもよいが、通常は水または温水が用いられる。洗浄水の温度は、好ましくは25℃〜100℃であり、さらに好ましくは30℃〜90℃であり、特に好ましくは40℃〜80℃である。洗浄処理はろ過と洗浄液の交換を繰り返すいわゆるバッチ式で行っても、連続洗浄装置を用いて行ってもよい。再沈殿および洗浄の工程で発生した廃液を再沈殿工程の貧溶媒として再利用したり、蒸留などの手段によりカルボン酸などの溶媒を回収して再利用することも好ましい。
洗浄の進行はいかなる手段で追跡を行ってよいが、水素イオン濃度、イオンクロマトグラフィー、電気伝導度、ICP、元素分析、原子吸光スペクトルなどの方法を好ましい例として挙げることができる。
このような処理により、セルロースアシレート中の触媒(硫酸、過塩素酸、トリフルオロ酢酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、塩化亜鉛など)、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物など)、中和剤と触媒との反応物、カルボン酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)、中和剤とカルボン酸との反応物などを除去することができ、このことはセルロースアシレートの安定性を高めるために有効である。
【0046】
(安定化)
温水処理による洗浄後のセルロースアシレートは、安定性をさらに向上させたり、カルボン酸臭を低下させるために、弱アルカリ(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、アルミニウムなどの炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物、酸化物など)の水溶液などで処理することも好ましい。
残存不純物の量は、洗浄液の量、洗浄の温度、時間、攪拌方法、洗浄容器の形態、安定化剤の組成や濃度により制御できる。
本発明においては、残留硫酸根量(硫黄原子の含有量として)が0〜500ppmになるようにアシル化、部分加水分解および洗浄の条件を設定することが特に好ましい。
【0047】
(乾燥)
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されないが、加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい。乾燥温度として好ましくは0〜200℃であり、さらに好ましくは40〜180℃であり、特に好ましくは50〜160℃である。本発明のセルロースアシレートは、その含水率が2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがさらに好ましく、0.7質量%以下であることが特には好ましい。また、残存硫酸根に対して当量以上の対金属カチオンが存在していることが、熱安定性の向上のために好ましい。
【0048】
(形態)
本発明のセルロースアシレートは粒子状、粉末状、繊維状、塊状など種々の形状をとることができるが、フィルム製造の原料としては粒子状または粉末状であることが好ましいことから、乾燥後のセルロースアシレートは、粒子サイズの均一化や取り扱い性の改善のために、粉砕や篩がけを行っても良い。セルロースアシレートが粒子状であるとき、使用する粒子の90質量%以上は、0.5〜5mmの粒子サイズを有することが好ましい。また、使用する粒子の50質量%以上が1〜4mmの粒子サイズを有することが好ましい。セルロースアシレート粒子は、なるべく球形に近い形状を有することが好ましい。また、本発明のセルロースアシレート粒子は、見かけ密度が好ましくは0.5〜1.3、さらに好ましくは0.7〜1.2、特に好ましくは0.8〜1.15である。見かけ密度の測定法に関しては、JIS K−7365に規定されている。
本発明のセルロースアシレート粒子は安息角が10〜70度であることが好ましく、15〜60度であることがさらに好ましく、20〜50度であることが特に好ましい。
【0049】
(重合度)
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの数平均重合度は70〜400、さらに好ましくは90〜300、特に好ましくは100〜250である。数平均重合度および質量平均重合度は、ゲル浸透クロマトグラフィー (GPC)による分子量分布測定などの方法により測定できる。また、重合度の指標として、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)による粘度平均重合度を用いても良い。さらに、特開平9−95538号公報にも詳細に記載されている。
【0050】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは92%以上である。
【0051】
(分子量分布の制御)
本発明の質量平均分子量(Mw)/数平均分子量の値が3〜6であるセルロースアシレートは、エステル化、解重合の際の条件を適切に選択することや、平均分子量の異なるセルロースアシレートを混合することなどにより得ることができる。平均分子量の異なるセルロースアシレートを混合する場合、平均分子量の異なる2〜50種類のセルロースアシレートを混合することが好ましく、2〜25種類のセルロースアシレートを混合することがさらに好ましく、2〜10種類のセルロースアシレートを混合することが特に好ましい。また、混合する各セルロースアシレートの質量は同一でも異なっていても良いが、所望の分子量分布を与えるように分配比を考慮して混合することが好ましい。
【0052】
セルロースアシレートを混合する際の、各セルロースアシレートの置換度は同一でも異なっていても良いが、なるべく近接した置換度であることが好ましい。各セルロースアシレート間のXあるいはYの差の最大値は、好ましくは0.0〜0.3、さらに好ましくは0.0〜0.2、特に好ましくは0.0〜0.1である。
平均分子量の異なるセルロースアシレートの混合は、固体(例えば、粉体、ペレット、繊維、布状、ブロック状など)、溶液(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、アニソール、アセトニトリル、酢酸、プロピオン酸、酪酸、水などの単独または混合溶媒)、溶融物、ウエットケーキなど任意の形態で行なうことができる。混合したものを、さらに溶液あるいは分散物にして混合を行なっても良い。溶液で混合した場合は、混合後に再沈殿を行って固体として得ても良い。
【0053】
<セルロースアシレートフィルムの製造と処理>
(好ましい製造条件)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が3〜6であるセルロースアシレートからなるセルロースアシレートフィルムであって、幅が1〜20mmである厚みむらの数が、フィルムの長手方向100mあたり0箇所〜10箇所であればその製造条件の詳細は特に制限されないが、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法を用いれば当該セルロースアシレートフィルムを好ましく製造することができる。本発明の製造方法では、以下の(1)に記載されるスクリューの供給部と圧縮部の長さの比を特定の範囲内にする点に特徴があり、さらに(2)〜(4)に記載される条件と組み合わせることによって、より好ましくセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
【0054】
(1)押出し機各部の設計調整
押出し機内の僅かな温度差に応じて局所的な粘度差が発現し易い。この結果、僅かな温度むらによって押出し機内に局所的な高粘度領域が形成され、そこでメルトの流動が妨げられる。その結果、メルトの押出し量にむらが発生して、セルロースアシレートフィルムのVスジの発生原因となる。
そこで、本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法では、供給部と圧縮部の長さの比(供給部/圧縮部)を0.5〜10とする。好ましくは1.2〜10、より好ましくは1.5〜8、さらに好ましくは1.8〜6である。図1に示すように、一般に溶融押出し機1は、スクリュー直径が一定の供給部A、スクリュー直径が増加する圧縮部B、再びスクリュー径が一定となる計量部Cの3箇所からなる。ここでいう一定とは、直径の変化が直径の平均値の10%以下であることを意味する。通常のスクリューの供給部と圧縮部の長さの比は0.5〜1である。これは、ペレットを溶融する圧縮部をなるべく長くするためである。これに対し、供給部と圧縮部の長さの比を上記の範囲に調整すれば、上述の温度変動に伴う局所的な濃度むらが発生しても、急激に圧縮することで強制的に押出すことができるため、押出し量の変動を抑制することができる。
【0055】
なお、本発明で用いる押出し機は、圧縮部の圧縮比が2〜15であるのが好ましく、より好ましくは3〜12、さらに好ましくは4〜10である。ここでいう圧縮部の圧縮比とは、(供給部におけるスクリューの溝の深さ)/(圧縮部におけるスクリューの溝の深さ)を意味する。また、計量部と圧縮部の長さの比(計量部/圧縮部)は0.5〜10が好ましく、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1.4〜3.5である。
【0056】
(2)押出し機入口における温度制御
図1に示すように、ペレットはホッパー2から押出機1内に矢印の方向に導入される。加熱されたスクリュー3にペレットが接触するとペレット表面は直ちに加熱されるが、ペレット内部は熱伝導の遅れから温度が低い。セルロースアシレートは溶融粘度の温度依存性が大きいため、ペレット表面は液状となるが、内部は粘度が高く固体に近い状態で存在する。この結果、ペレット表面の溶融樹脂が糊のように働きスクリューに纏わりつき、一方ペレット内部は硬い固体のため、これが押し出し機内を閉塞しホッパーからのペレットの供給を妨げる。しかし時間とともに閉塞したペレット内部に熱が伝わるとセルロースアシレート樹脂は流動を開始し、再度ホッパーからペレットの供給が開始される。このような繰り返しの結果生じる樹脂供給の脈動が、セルロースアシレートフィルムのVスジの発生原因となる。
このようなVスジの発生は、本発明のセルロースアシレートを用いることにより効果的に抑制することができる。さらに、スクリュー上流部(入口側)をスクリュー全長の好ましくは5〜34%、より好ましくは10〜34%、さらに好ましくは16〜34%の長さだけ、セルロースアシレートのTg以下の温度に冷却することによりスクリューへのペレットの粘着を防止し、押出し機入口でのペレットの閉塞が改良される。本明細書では、この長さを冷却長とも呼ぶ。このようなスクリュー上流部の温度制御は、スクリュー内部を中空にし、この部分に温調した冷媒(水等の液体や空気)を導入する冷媒導入手段4などを用いることにより行うことができる。
【0057】
(3)溶融押出し機内の溶融セルロースアシレートの粘弾性の制御
さらに本発明では、溶融押出し機内の溶融セルロースアシレートの粘弾性に勾配を与えることが好ましい。これにより、入口側から出口側に向かってメルトが硬くなり、入口から出口に向かって押し出す力が強くなる結果、押し出し機内でメルトの流動がスムースになり、Vスジの発生を抑えることができる。溶融押出し機内の溶融セルロースアシレートの粘弾性は、貯蔵剛性率(G')、損失剛性率(G”)、tanδ、粘度(η)を下記のように制御することによって好ましい状態に調整することができる。
【0058】
溶融押出し機内の溶融セルロースアシレートの貯蔵剛性率(G')の最大値と最小値の比を好ましくは2〜500、より好ましくは4〜100、さらに好ましくは6〜50にする。好ましい G'の最小値は100Pa〜50000Pa、より好ましくは500Pa〜30000Pa、さらに好ましくは1000Pa〜10000Paである。 本発明では、溶融押出し機入口側のG'を大きくすることが好ましい。
溶融押出し機内の溶融セルロースアシレートの損失剛性率(G”)の最大値と最小値の比を好ましくは3〜100、より好ましくは4〜80、さらに好ましくは5〜50にする。好ましいG”の最小値は1000Pa〜80000Pa、より好ましくは2000Pa〜40000Pa、さらに好ましくは5000Pa〜20000Paである。本発明では、溶融押出し機の入口側のG”を大きくすることが好ましい。
溶融押出し機内の溶融セルロースアシレートのtanδ(G”/G')の最大値と最小値の比を好ましくは1.5〜12、より好ましくは2〜10、さらに好ましくは2.5〜5にする。好ましいtanδの最大値は0.5〜6、より好ましくは1〜5、さらに好ましくは1.2〜4である。本発明では、溶融押出し機の出口側の溶融セルロースアシレートのtanδは大きくすることが好ましい。tanδの最大値と最小値は、各温度で G'とG”を測定し、求めた各温度でのtanδの中から最大の値と最小の値を選択することにより求められる。すなわち、G”の最大値と G'の最小値、 G'の最大値と G”の最小値から求められるものではない。
溶融押出し機内の溶融セルロースアシレートの粘度(η)の最大値と最小値の比を好ましくは1.2〜30、より好ましくは1.5〜20、さらに好ましくは2〜12にする。最大値は好ましくは1000Pa・s〜23000Pa・s、より好ましくは2000Pa・s〜15000Pa・s、さらに好ましくは3000Pa・s〜10000Pa・sである。本発明では、溶融押出し機の出口側の溶融セルロースアシレートのηを大きくすることが好ましい。
【0059】
このような溶融セルロースアシレートの粘弾性およびその勾配は、溶融押出し機のスクリューを内包するバレルに温度勾配を付与することにより達成できる。この際、入口側に比べ出口側の温度を高くすることが好ましい。好ましい溶融温度は170℃〜250℃、より好ましくは175℃〜240℃、さらに好ましくは180℃〜230℃であり、入口側に比べ出口側を5℃〜80℃、より好ましくは10℃〜60℃、さらに好ましくは15℃〜40℃高くする。このようにして溶融粘弾性に勾配を付与することができ、上記(2)の方法と組み合わせることにより、相乗効果でVスジを大幅に減らすことができる。
【0060】
(4)低分子化合物の添加
また本発明では、芳香環を2つ以上含み、分子量が100〜1000であり、且つ融点が55℃〜250℃である低分子化合物(ここでは「低分子化合物」と呼ぶ)をペレットまたはメルト(溶融物)に混合して用いることが好ましい。低分子化合物の使用量は、好ましくは1質量%〜20質量%、より好ましくは2質量%〜10質量%、さらに好ましくは3質量%〜8質量%含ませる。これらの低分子化合物はメルトとスクリューの間の粘着を防止し、メルトの流動をスムースにしVスジの発生を抑制する効果がある。
【0061】
低分子化合物の好ましい具体例としては、特開2001−166144号公報の段落番号[0016]〜[0107]に記載の化合物、特開2002−296421号公報の段落番号[0007]〜[0043]に記載の化合物を挙げることができる。
また、2つの芳香環の間を−COO−で連結した以下のような化合物を好ましく用いることもできる。
【0062】
【化1】

【0063】
【化2】

【0064】
【化3】

【0065】
【化4】

【0066】
【化5】

【0067】
【化6】

【0068】
また、3つの芳香環を−COO−や−CONR’−で連結した以下ような化合物を好ましく用いることもできる。
【0069】
【化7】

【0070】
【化8】

【0071】
【化9】

【0072】
【化10】

【0073】
【化11】

【0074】
また、以下のようなトリアジン誘導体に3つのアリールアミノ基が置換した化合物も好ましく用いることができる。
【化12】

【0075】
さらに、以下のように多数の芳香環が線状に連結された化合物を例示することができる。
【化13】

【0076】
【化14】

【0077】
【化15】

【0078】
【化16】

【0079】
【化17】

【0080】
【化18】

【0081】
【化19】

【0082】
【化20】

【0083】
これらの低分子量化合物は、単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。これらの化合物はVスジの発生抑制効果のほかに、光学異方性(レターデーション)の制御の目的で添加しても良い。
【0084】
(添加物)
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する際には、セルロースアシレートに下記のような添加剤を加えてもよい。本発明でいう「セルロースアシレートからなるセルロースアシレートフィルム」には、このような添加剤等を含むセルロースアシレートフィルムが包含される。
【0085】
(1)可塑剤
可塑剤としては、例えば、アルキルフタリルアルキルグリコレート系、リン酸エステル系、カルボン酸エステル系、多価アルコール系可塑剤等が挙げられる。
アルキルフタリルアルキルグリコレート類として、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
リン酸エステルとしては、例えばトリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、フェニルジフェニルホスフェート等を挙げることができる。さらに特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることが好ましい。上述のようにリン酸エステルはセルロースアシレートの結晶化を促しスジを発生させる効果があるが、本発明の低分子化合物と併用することでこの効果は抑制される。このため、本発明の低分子化合物とリン酸エステルと併用することも可能である。
カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステルを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0086】
多価アルコール系可塑剤も好ましく用いることができる。多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。これらの多価アルコール系可塑剤も、メルトとスクリューの間の粘着を防止し、メルトの流動をスムースにしVスジの発生を抑制する効果がある。
具体的なグリセリンエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい。
【0087】
ジグリセリンエステルの具体的な例としては、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0088】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンアセテート、ポリオキシエチレンプロピオネート、ポリオキシエチレンブチレート、ポリオキシエチレンバリレート、ポリオキシエチレンカプロエート、ポリオキシエチレンヘプタノエート、ポリオキシエチレンオクタノエート、ポリオキシエチレンノナネート、ポリオキシエチレンカプレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンミリスチレート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシエチレンリノレート、ポリオキシプロピレンアセテート、ポリオキシプロピレンプロピオネート、ポリオキシプロピレンブチレート、ポリオキシプロピレンバリレート、ポリオキシプロピレンカプロエート、ポリオキシプロピレンヘプタノエート、ポリオキシプロピレンオクタノエート、ポリオキシプロピレンノナネート、ポリオキシプロピレンカプレート、ポリオキシプロピレンラウレート、ポリオキシプロピレンミリスチレート、ポリオキシプロピレンパルミテート、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシプロピレンオレート、ポリオキシプロピレンリノレートなどが挙げられるがこられに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0089】
これらの可塑剤の使用量は、セルロースアシレートフィルムに対して0質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは1質量%〜20質量%、さらに好ましくは2質量%〜15質量%である。これらの可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0090】
(2)マット剤
本発明のセルロースアシレートフィルムにはマット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができるため、より好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
これらの微粒子は、通常平均粒子サイズが0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子サイズは0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子サイズは、フィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとする。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子サイズとした。
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0091】
(3)その他の添加剤
上記以外に種々の添加剤(例えば、紫外線防止剤、劣化防止剤、光学異方性コントロール剤、微粒子、赤外吸収剤、界面活性剤、臭気トラップ剤(アミン等)など)を加えることができる。赤外吸収染料としては例えば特開平2001−194522号公報のものが使用でき、紫外線吸収剤は例えば特開平2001−151901号公報に記載のものが使用でき、それぞれセルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。微粒子は、平均粒子サイズが5〜3000nmのものを使用することが好ましく、金属酸化物や架橋ポリマーから成るものを使用でき、セルロースアシレートに対して0.001〜5質量%含有させることが好ましい。劣化防止剤はセルロースアシレートに対して0.0001〜2質量%含有させることが好ましい。光学異方性コントロール剤は例えば特開2003−66230号公報、特開2002−49128号公報記載のものを使用でき、セルロースアシレートに対して0.1〜15質量%含有させることが好ましい。
熱劣化防止用、着色防止用の安定剤として、エポキシ化合物、有機カルボン酸、リン酸エステル、チオホスフェイト系化合物、亜リン酸エステル(例えば特開昭51−70316、特開平10−306175、特開昭57−78431号、特開昭54−157159号、特開昭55−13765号各公報に記載のもの)、ホスファイト系化合物(特開2004−182979号公報に記載のもの)を用いることができる。これらは単独で使用しても良く2種類以上混合して添加してもよい。
【0092】
(ペレット化)
上記セルロースアシレートと添加物は溶融製膜に先立ちペレット化するのが好ましい。ペレット化はこれらを2軸混練押出し機を用い150℃〜250℃で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作成することができる。好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2〜300mm2、長さが1mm〜30mmである。
【0093】
(製膜法)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、上記のようにして作製したセルロースアシレートのペレットを用いて溶融製膜法により好ましく製膜することができる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、溶融製膜法により製膜することにより、長期保存後の加工適性に優れたフィルムとすることができる。従来の溶液製膜法によるセルロースアシレートフィルムは、半年以上の長期保存後に打ち抜きを行うとひび割れが生じ、加工適性の低下が顕在化していた。本発明者がその原因を調べた結果、溶液製膜法では製造されるフィルム中に溶剤がある程度残留してしまい、長期保存中にセルロースアシレート分子の結晶化を促進してしまうことにあることが判明した。セルロースアシレートフィルムはロールで巻かれて保存されることが多いため、残留している溶剤が揮発しにくく、長時間にわたってこのような結晶化促進効果を発現する。このような問題は、溶融製膜法により解決することが可能である。
【0094】
本発明のセルロースアシレートフィルムの残留溶剤量は0.01質量%以下(0質量%〜0.01質量%)にすることが好ましく、より好ましくは0質量%〜0.005質量%、さらに好ましくは0質量%〜0.001質量%である。
ここでいう残留溶剤とは、一般的な有機溶剤であれば特にその種類は限定されるものではない。例えば、炭素数1〜10のハロゲン系有機溶媒(例えば、ジクロロメタン、クロロホルムなど)、炭素原子数が3〜12のエステル類(例えば、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、および酢酸ペンチルなど)、炭素原子数が3〜12のケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンなど)、炭素原子数が3〜12のエーテル類(例えば、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールなど)、二種類以上の官能基を有する有機溶媒(例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールなど)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなど)、飽和又は不飽和の炭化水素(例えば、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなど)を挙げることができる。セルロースアシレートフィルムの溶液製膜に一般的に用いられる溶剤についてさらに詳細には、発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)12頁〜16頁に記載されている。
【0095】
(ホッパーへの投入)
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する際には、上述の方法でペレット化したセルロースアシレートフィルムを用いるのが好ましい。特に、溶融製膜に先立ちペレット中の含水率を1%以下、より好ましくは0.5%以下にした後、溶融押出し機のホッパーに投入することが好ましい。このときホッパーの温度を好ましくは20℃〜110℃、より好ましくは40℃〜100℃、さらに好ましくは50℃〜90°にする。この際、ホッパー内を窒素等の不活性ガスを封入することがより好ましい。
【0096】
(溶融押出し)
上述の条件で溶融押出しを行う。なお、好ましいスクリューの直径は10mm〜300mm、より好ましくは20mm〜200mm、さらに好ましくは30mm〜100mmであり、スクリュー長(L)とスクリューの出口側の直径(D)の比(L/D)は10〜200が好ましく、より好ましくは15〜100、さらに好ましくは20〜70である。さらに上述のように押出し機内でG'、G” 、tanδ、ηに最大値、最小値を持たせるために、押出し機のバレルを3〜20に分割したヒーターで加熱し溶融することが好ましい。好ましい溶融温度は170℃〜250℃、より好ましくは175℃〜240℃、さらに好ましくは180℃〜230℃である。好ましい混練時間は2分〜60分であり、より好ましくは3分〜40分であり、さらに好ましくは4分〜30分である。さらに、溶融押出し機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。
【0097】
(キャスト)
溶融した樹脂をギヤポンプに通し、フィルター等で濾過を行い、この後ろに取り付けたT型のダイから冷却ドラム上にシート状に押し出す。押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層押出しても良い。この時、ダイのリップの間隔を調整することで幅方向の厚みむらを調整することができる。
この後キャスティングドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施しても良い。
キャスティングドラムの温度は60℃〜160℃が好ましく、より好ましくは70℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜140℃である。この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分〜100m/分が好ましく、より好ましくは15m/分〜80m/分、さらに好ましくは20m/分〜70m/分である。
製膜幅は好ましくは0.7m〜5m、さらに好ましくは1m〜4m、さらに好ましくは1.3m〜3mである。このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは30μm〜250μmが好ましく、より好ましくは40μm〜200μm、さらに好ましくは50μm〜180μmである。厚みが250μmより厚いと、メルトの供給量が増加する。この場合には、上述の押し出し量のムラ(変動)が発生しても影響が少なく、V字状のムラになりにくいので、本発明は押し出し量が少ない場合において有効である。
このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。好ましい巻き取り張力は1kg/m幅〜50kg/m幅、より好ましくは2kg/m幅〜40kg/m幅である。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料としてまたは異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0098】
(未延伸セルロースアシレートフィルムの物性)
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムはRe=0〜20nm,Rth=0〜80nmが好ましく、より好ましくはRe=0〜15nm,Rth=0〜70nm、さらに好ましくはRe=0〜10nm,Rth=0〜60nmである。Re、Rthは各々面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。
厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%〜4%が好ましく、より好ましくは0%〜3%、さらに好ましくは0%〜2%である。
【0099】
(延伸)
上記の方法で製膜した後、延伸を行うことが好ましい。これにより、セルロースアシレートフィルムのRe,Rthを制御できる。
延伸はTg〜(Tg+50℃)で実施するのが好ましく、より好ましくは(Tg+3℃)〜(Tg+30℃)、さらに好ましくは(Tg+5℃)〜(Tg+20℃)である。好ましい延伸倍率は少なくとも一方に1%〜300%、より好ましくは10%〜200%、さらに好ましくは15%〜150%である。これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。ここでいう延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)
延伸倍率(%)= ――――――――――――――――― ×100
延伸前の長さ
【0100】
このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸することにより行ってもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手方向と直角方向)に広げることにより行っても良い(横延伸)。また、特開2000−37772号、特開2001−113591号、特開2002−103445号各公報に記載の同時2軸延伸法を用いても良い。
さらにRe、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することで達成できる。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。横延伸の場合、直交方向に延伸すると同時に縦方向にも延伸したり、逆に緩和させることで制御することができる。即ち縦方向に延伸することでRth/Re比を大きくすることができ、逆に縦方向に緩和することでRth/Re比を小さくすることができる。さらに縦延伸と横延伸を組み合わせることで、Reを小さくしながら(縦と横の延伸倍率を近づける)、Rthを大きくする(面積倍率(縦倍率×横倍率)を上げる)ことで、Re,Rthを制御することができる。本発明では縦、横の延伸倍率の差を好ましくは10%〜100%、より好ましくは20%〜80%、さらに好ましくは25%〜60%にし、縦横非対称に延伸するのがより好ましい。この時、横方向の延伸倍率を高くすることがさらに好ましい。
このような延伸速度は10%/分〜10000%/分が好ましく、より好ましくは20%/分〜1000%/分、さらに好ましくは30%/分〜800%/分である。
【0101】
このようにして延伸したセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは好ましくは下記式(1a)〜(1c)を満足する。
式(1a): Re≦Rth
式(1b): 0≦Re≦200
式(1c): 30≦Rth≦500
より好ましくは下記式(2a)〜(2c)を満足する。
式(2a): Re×1.1≦Rth
式(2b): 10≦Re≦150
式(2c): 50≦Rth≦400
さらに好ましくは下記式(3a)〜(3c)を満足する。
式(3a): Re×1.2≦Rth
式(3b): 20≦Re≦100
式(3c): 80≦Rth≦350
【0102】
なお本発明において、Re、Rthは各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは前記Re、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値、および面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレターデーション値の計3つの方向で測定したレターデーション値を基にKOBRA 21ADHが算出する。ここで平均屈折率の仮定値は ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する: セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。
【0103】
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θは0°、+90°または−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±2°、さらに好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±2°あるいは−90±2°、さらに好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。
延伸後のセルロースアシレートフィルムの厚みはいずれも15μm〜200μmが好ましく、より好ましくは30μm〜170μm、さらに好ましくは40μm〜140μmである。厚みむらは未延伸、延伸後とも、厚み方向、幅方向いずれも0%〜2%が好ましく、より好ましくは0%〜1.5%、さらに好ましくは0%〜1%である。
【0104】
(フィルム物性)
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムおよび延伸セルロースアシレートフィルムの弾性率は1.5kN/mm2〜2.9kN/mm2が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2〜2.8kN/mm2、さらに好ましくは1.8kN/mm2〜2.6kN/mm2であり、破断伸度は好ましくは3%〜100%、より好ましくは5%〜80%、さらに好ましくは8%〜50%であり、Tg(フィルムのTg即ちセルロースアシレートと添加物の混合体のTgを指す)は95℃〜145℃が好ましく、より好ましくは100℃〜140℃、さらに好ましくは105℃〜135℃であり、厚みは30μm〜200μmが好ましく、より好ましくは40μm〜180μm、さらに好ましくは50μm〜150μmであり、ヘーズは好ましくは0%〜3%、より好ましくは0%〜2%、さらに好ましくは0%〜1%であり、全光線透過率は85%〜100%が好ましく、より好ましくは89%〜100%、さらに好ましくは91%〜100%であり、80℃1日での熱寸法変化は好ましくは0%〜±1%、より好ましくは0%〜±0.5%、さらに好ましくは0%〜±0.3%であり、40℃・相対湿度90%での透水率は好ましくは450g/m2・日〜1000g/m2・日、より好ましくは500g/m2・日〜900g/m2・日、さらに好ましくは550g/m2・日〜800g/m2・日であり、25℃・相対湿度80%での平衡含水率は好ましくは1質量%〜4質量%、より好ましくは1.2質量%〜3質量%、さらに好ましくは1.5質量%〜2.5質量%である。
【0105】
(表面処理)
セルロースアシレートフィルムは、場合により表面処理を行うことによって、セルロースアシレートフィルムと各機能層(例えば、下塗層およびバック層)との接着の向上を達成することができる。例えばグロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、酸またはアルカリ処理を用いることができる。ここでいうグロー放電処理とは、0.1〜3000Paの低圧ガス下でおこる低温プラズマでもよく、さらにまた大気圧下でのプラズマ処理も好ましい。プラズマ励起性気体とは上記のような条件においてプラズマ励起される気体をいい、アルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン、窒素、二酸化炭素、テトラフルオロメタンの様なフロン類およびそれらの混合物などがあげられる。これらについては、詳細が発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)30頁〜32頁に詳細に記載されている。なお、近年注目されている大気圧でのプラズマ処理は、例えば10〜1000keV下で20〜500kGyの照射エネルギーが用いられ、より好ましくは30〜500keV下で20〜300kGyの照射エネルギーが用いられる。これらの中でも特に好ましくは、アルカリ鹸化処理でありセルロースアシレートフィルムの表面処理としては極めて有効である。
【0106】
アルカリ鹸化処理は、鹸化液に浸漬しても良く、鹸化液を塗布しても良い。浸漬法の場合は、NaOHやKOH等のpH10〜14の水溶液を20℃〜80℃に加温した槽を0.1分〜10分通過させたあと、中和、水洗、乾燥することで達成できる。
【0107】
塗布方法の場合、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、バーコーティング法およびE型塗布法を用いることができる。アルカリ鹸化処理塗布液の溶媒は、鹸化液の透明支持体に対して塗布するために濡れ性が良く、また鹸化液溶媒によって透明支持体表面に凹凸を形成させずに、面状を良好なまま保つ溶媒を選択することが好ましい。具体的には、アルコール系溶媒が好ましく、イソプロピルアルコールが特に好ましい。また、界面活性剤の水溶液を溶媒として使用することもできる。アルカリ鹸化塗布液のアルカリは、上記溶媒に溶解するアルカリが好ましく、KOH、NaOHがさらに好ましい。鹸化塗布液のpHは10以上が好ましく、12以上がさらに好ましい。アルカリ鹸化時の反応条件は、室温で1秒〜5分が好ましく、5秒〜5分がさらに好ましく、20秒〜3分が特に好ましい。アルカリ鹸化反応後、鹸化液塗布面を水洗あるいは酸で洗浄したあと水洗することが好ましい。また、塗布式鹸化処理と後述の配向膜解塗設を、連続して行うことができ、工程数を減少できる。これらの鹸化方法は、具体的には、例えば、特開2002−82226号公報、国際公開第02/46809号パンフレットに内容の記載が挙げられる。
【0108】
機能層との接着のため下塗り層を設けることも好ましい。この層は上記表面処理をした後、塗設しても良く、表面処理なしで塗設しても良い。下塗層についての詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載されている。
これらの表面処理、下塗り工程は、製膜工程の最後に組み込むこともでき、単独で実施することもでき、後述の機能層付与工程の中で実施することもできる。
【0109】
<機能層付与>
本発明のセルロースアシレートフィルムに、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に詳細に記載されている機能性層を組み合わせることが好ましい。中でも好ましいのが、偏光膜の付与(偏光板)、光学補償層の付与(光学補償フィルム)、反射防止層の付与(反射防止フィルム)である。
本発明のセルロースアシレートフィルムの厚さはこれらの用途によって定まり、特に制限はないが、好ましくは30μm以上、より好ましくは30〜200μmである。
【0110】
(1)偏光膜の付与(偏光板の作成)
[偏光膜の使用素材]
現在、市販の偏光膜は、延伸したポリマーを、浴槽中のヨウ素もしくは二色性色素の溶液に浸漬し、バインダー中にヨウ素、もしくは二色性色素を浸透させることで作製されるのが一般的である。偏光膜は、Optiva Inc.に代表される塗布型偏光膜も利用できる。偏光膜におけるヨウ素および二色性色素は、バインダー中で配向することで偏光性能を発現する。二色性色素としては、アゾ系色素、スチルベン系色素、ピラゾロン系色素、トリフェニルメタン系色素、キノリン系色素、オキサジン系色素、チアジン系色素あるいはアントラキノン系色素が用いられる。二色性色素は、水溶性であることが好ましい。二色性色素は、親水性置換基(例えば、スルホ、アミノ、ヒドロキシル)を有することが好ましい。例えば、発明協会公開技法(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行)58頁に記載の化合物が挙げられる。
【0111】
偏光膜のバインダーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。バインダーには、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。変性ポリビニルアルコールについては、特開平8−338913号、同9−152509号および同9−316127号の各公報に記載がある。ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールは、二種以上を併用してもよい。
【0112】
バインダー厚みの下限は、10μmであることが好ましい。厚みの上限は、液晶表示装置の光漏れの観点からは、薄ければ薄い程よい。現在市販の偏光板(約30μm)以下であることが好ましく、25μm以下が好ましく、20μm以下がさらに好ましい。
【0113】
偏光膜のバインダーは架橋していてもよい。架橋性の官能基を有するポリマー、モノマーをバインダー中に混合しても良く、バインダーポリマー自身に架橋性官能基を付与しても良い。架橋は、光、熱あるいはpH変化により行うことができ、架橋構造をもったバインダーを形成することができる。架橋剤については、米国再発行特許第23297号明細書に記載がある。また、ホウ素化合物(例えば、ホウ酸、硼砂)も、架橋剤として用いることができる。バインダーの架橋剤の添加量は、バインダーに対して、0.1〜20質量%が好ましい。偏光素子の配向性、偏光膜の耐湿熱性が良好となる。
【0114】
架橋反応が終了後でも、未反応の架橋剤は1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このようにすることで、耐候性が向上する。
【0115】
[偏光膜の延伸]
偏光膜は、偏光膜を延伸するか(延伸法)、またはラビングした(ラビング法)後に、ヨウ素、二色性染料で染色することが好ましい。
延伸法の場合、延伸倍率は2.5〜30.0倍が好ましく、3.0〜10.0倍がさらに好ましい。延伸は、空気中でのドライ延伸で実施できる。また、水に浸漬した状態でのウェット延伸を実施してもよい。ドライ延伸の延伸倍率は、2.5〜5.0倍が好ましく、ウェット延伸の延伸倍率は、3.0〜10.0倍が好ましい。延伸はMD方向に平行に行っても良く(平行延伸)、斜め方向におこなっても良い(斜め延伸)。これらの延伸は、1回で行っても、数回に分けて行ってもよい。数回に分けることによって、高倍率延伸でもより均一に延伸することができる。より好ましいのが斜め方向に10度から80度の傾きを付けて延伸する斜め延伸である。
【0116】
(I)平行延伸法
延伸に先立ち、PVAフィルムを膨潤させる。膨潤度は1.2〜2.0倍(膨潤前と膨潤後の質量比)である。この後、ガイドロール等を介して連続搬送しつつ、水系媒体浴内や二色性物質溶解の染色浴内で、15〜50℃、就中17〜40℃の浴温で延伸する。延伸は2対のニップロールで把持し、後段のニップロールの搬送速度を前段のそれより大きくすることで達成できる。延伸倍率は、延伸後/初期状態の長さ比(以下同じ)に基づくが前記作用効果の点より好ましい延伸倍率は1.2〜3.5倍、就中1.5〜3.0倍である。この後、50℃から90℃において乾燥させて偏光膜を得る。
【0117】
(II)斜め延伸法
これには特開2002−86554号公報に記載の斜め方向に傾斜め方向に張り出したテンターを用い延伸する方法を用いることができる。この延伸は空気中で延伸するため、事前に含水させて延伸しやすくすることが必用である。好ましい含水率は5%〜100%、より好ましくは10%〜100%である。
延伸時の温度は40℃〜90℃が好ましく、より好ましくは50℃〜80℃である。相対湿度は50%〜100%が好ましく、より好ましくは70%〜100%、さらに好ましくは80%〜100%である。長手方向の進行速度は、1m/分以上が好ましく、より好ましくは3m/分以上である。
延伸の終了後、50℃〜100℃より好ましくは60℃〜90℃で、0.5分〜10分乾燥する。より好ましくは1分〜5分である。
このようにして得られた偏光膜の吸収軸は10度から80度が好ましく、より好ましくは30度から60度であり、さらに好ましくは実質的に45度(40度から50度)である。
【0118】
[貼り合せ]
上記鹸化後のセルロースアシレートフィルムと、延伸して調製した偏光膜を貼り合わせ偏光板を調製する。張り合わせる方向は、セルロースアシレートフィルムの流延軸方向と偏光板の延伸軸方向が45度になるように行うのが好ましい。また、0度、90度になるように貼り合せるのも好ましい。
好ましい貼り合せの層構成として、以下のようなものが挙げられる。
イ) A/P/A
ロ) A/P/B
ハ) A/P/T
ニ) B/P/B
ホ) B/P/T
【0119】
なお、Aは本発明の未延伸フィルム、Bは本発明の延伸フィルム、Tはセルローストリアセテートフィルム(特に好ましくは、富士写真フィルム製TACフィルム:フジタックTD80)、Pは偏光膜を指す。イ)の構成の場合、Pの上下に形成されるAは同一組成のセルロースアセテートでも異なる組成のセルロースアセテートでも良い。ロ)の構成の場合AとBは同一組成のセルロースアセテートでも異なる組成のセルロースアセテートでも良い。また、ニ)の構成の場合、Pの上下に形成されるBは同一組成のセルロースアセテートでも異なる組成のセルロースアセテートでも良く、また、同一延伸倍率でも異なる延伸倍率でも良い。また液晶表示装置に組み込んで使用する場合は、どちらを液晶面にしても良いが、構成ロ)、ホ)の場合はBを液晶側にするのがより好ましい。
液晶表示装置組み込む場合、通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のイ)〜ホ)および通常の偏光板(T/P/T)を自由に組み合わせることができる。しかし液晶表示装置の表示側最表面のフィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けることが好ましく、後述のものを用いることができる。
【0120】
張り合わせの方法は特に限定されず、一般的な方法で作製することができる。例えば、セルロースアシレートフィルムをアルカリ処理し、偏光膜の両面に完全ケン化ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリ処理の代わりに特開平6−94915号、特開平6−118232号各公報に記載されているような易接着加工を施してもよい。セルロースアシレートフィルム処理面と偏光膜を貼り合わせるために使用される接着剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール系接着剤(アセトアセチル基、スルホン酸基、カルボキシル基、オキシアルキレン基等の変性ポリビニルアルコールを含む)や、ブチルアクリレート等のビニル系ラテックス、ホウ素化合物水溶液等が挙げられる。好ましいのは、ポリビニルアルコール系接着剤である。接着剤層厚みは乾燥後に0.01〜10μmが好ましく、0.05〜5μmが特に好ましい。典型的な偏光板は偏光膜およびその両面を保護する保護フィルム(セルロースアシレートフィルム)で構成されており、さらに該偏光板の一方の面にプロテクトフィルムを、反対面にセパレートフィルムを貼合して構成される。プロテクトフィルムおよびセパレートフィルムは偏光板出荷時、製品検査時等において偏光板を保護する目的で用いられる。
【0121】
この場合、プロテクトフィルムは、偏光板の表面を保護する目的で貼合され、偏光板を液晶板へ貼合する面の反対面側に用いられる。又、セパレートフィルムは液晶板へ貼合する接着層をカバーする目的で用いられ、偏光板を液晶板へ貼合する面側に用いられる。液晶表示装置には通常2枚の偏光板の間に液晶を含む基板が配置されているが、本発明のセルロースアシレートフィルムを適用した偏光板保護フィルムはどの部位に配置しても優れた表示性が得られる。特に液晶表示装置の表示側最表面の偏光板保護フィルムには透明ハードコート層、防眩層、反射防止層等が設けられるため、該偏光板保護フィルムをこの部分に用いることが特に好ましい。
【0122】
上記のようにして得た偏光板の光線透過率は高い方が好ましく、偏光度も高い方が好ましい。偏光板の透過率は、波長550nmの光において、30〜50%の範囲にあることが好ましく、35〜50%の範囲にあることがさらに好ましく、40〜50%の範囲にあることが最も好ましい。偏光度は、波長550nmの光において、90〜100%の範囲にあることが好ましく、95〜100%の範囲にあることがさらに好ましく、99〜100%の範囲にあることが最も好ましい。
【0123】
さらに、このようにして得た偏光板はλ/4板と積層し、円偏光を作成することができる。この場合λ/4の遅相軸と偏光板の吸収軸を45度になるように積層する。この時、λ/4は特に限定されないが、より好ましくは低波長ほどレターデーションが小さくなるような波長依存性を有するものがより好ましい。さらには長手方向に対し20度〜70度傾いた吸収軸を有する偏光膜、および液晶性化合物からなる光学異方性層から成るλ/4板を用いることが好ましい。
【0124】
(2)光学補償層の付与(光学補償フィルムの作成)
光学異方性層は、液晶表示装置の黒表示における液晶セル中の液晶化合物を補償するためのものであり、セルロースアシレートフィルムの上に配向膜を形成し、さらに光学異方性層を付与することで形成される。
【0125】
[配向膜]
上記表面処理したセルロースアシレート光学フィルム上に配向膜を設ける。この膜は、液晶性分子の配向方向を規定する機能を有する。しかし、液晶性化合物を配向後にその配向状態を固定してしまえば、配向膜はその役割を果たしているために、本発明の構成要素としては必ずしも必須のものではない。即ち、配向状態が固定された配向膜上の光学異方性層のみを偏光子上に転写して本発明の偏光板を作製することも可能である。
配向膜は、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理、無機化合物の斜方蒸着、マイクログルーブを有する層の形成、あるいはラングミュア・ブロジェット法(LB膜)による有機化合物(例えば、ω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド、ステアリル酸メチル)の累積のような手段で設けることができる。さらに、電場の付与、磁場の付与あるいは光照射により、配向機能が生じる配向膜も知られている。
配向膜は、ポリマーのラビング処理により形成することが好ましい。配向膜に使用するポリマーは、原則として、液晶性分子を配向させる機能のある分子構造を有する。
【0126】
本発明では、液晶性分子を配向させる機能に加えて、架橋性官能基(例えば、二重結合)を有する側鎖を主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する架橋性官能基を側鎖に導入することが好ましい。
【0127】
配向膜に使用されるポリマーは、それ自体架橋可能なポリマーあるいは架橋剤により架橋されるポリマーのいずれも使用することができ、これらの組み合わせを複数使用することができる。ポリマーの例には、例えば特開平8−338913号公報の段落番号[0022]に記載のメタクリレート系共重合体、スチレン系共重合体、ポリオレフィン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリカーボネート等が含まれる。シランカップリング剤をポリマーとして用いることができる。水溶性ポリマー(例えば、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、カルボキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール)が好ましく、ゼラチン、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールがさらに好ましく、ポリビニルアルコールおよび変性ポリビニルアルコールが最も好ましい。重合度が異なるポリビニルアルコールまたは変性ポリビニルアルコールを2種類併用することが特に好ましい。ポリビニルアルコールの鹸化度は、70〜100%が好ましく、80〜100%がさらに好ましい。ポリビニルアルコールの重合度は、100〜5000であることが好ましい。
【0128】
液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖は、一般に疎水性基を官能基として有する。具体的な官能基の種類は、液晶性分子の種類および必要とする配向状態に応じて決定する。例えば、変性ポリビニルアルコールの変性基としては、共重合変性、連鎖移動変性またはブロック重合変性により導入できる。変性基の例には、親水性基(カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アミノ基、アンモニウム基、アミド基、チオール基等)、炭素数10〜100個の炭化水素基、フッ素原子置換の炭化水素基、チオエーテル基、重合性基(不飽和重合性基、エポキシ基、アジリニジル基等)、アルコキシシリル基(トリアルコキシ基、ジアルコキシ基、モノアルコキシ基)等が挙げられる。これらの変性ポリビニルアルコール化合物の具体例として、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0022]〜[0145]、同2002−62426号公報の段落番号[0018]〜[0022]に記載のもの等が挙げられる。
【0129】
架橋性官能基を有する側鎖を配向膜ポリマーの主鎖に結合させるか、あるいは、液晶性分子を配向させる機能を有する側鎖に架橋性官能基を導入すると、配向膜のポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを共重合させることができる。その結果、多官能モノマーと多官能モノマーとの間だけではなく、配向膜ポリマーと配向膜ポリマーとの間、そして多官能モノマーと配向膜ポリマーとの間も共有結合で強固に結合される。従って、架橋性官能基を配向膜ポリマーに導入することで、光学補償フィルムの強度を著しく改善することができる。
【0130】
配向膜ポリマーの架橋性官能基は、多官能モノマーと同様に、重合性基を含むことが好ましい。具体的には、例えば特開2000−155216号公報の段落番号[0080]〜[0100]に記載のもの等が挙げられる。配向膜ポリマーは、上記の架橋性官能基とは別に、架橋剤を用いて架橋させることもできる。
【0131】
架橋剤としては、アルデヒド、N−メチロール化合物、ジオキサン誘導体、カルボキシル基を活性化することにより作用する化合物、活性ビニル化合物、活性ハロゲン化合物、イソオキサゾールおよびジアルデヒド澱粉が含まれる。二種類以上の架橋剤を併用してもよい。具体的には、例えば特開2002−62426号公報の段落番号[0023]〜[0024]に記載の化合物等が挙げられる。反応活性の高いアルデヒド、特にグルタルアルデヒドが好ましい。
架橋剤の添加量は、ポリマーに対して0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜15質量%がさらに好ましい。配向膜に残存する未反応の架橋剤の量は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このように調節することで、配向膜を液晶表示装置に長期使用、或は高温高湿の雰囲気下に長期間放置しても、レチキュレーション発生のない充分な耐久性が得られる。
【0132】
配向膜は、基本的に、配向膜形成材料である上記ポリマー、架橋剤を含む透明支持体上に塗布した後、加熱乾燥(架橋させ)し、ラビング処理することにより形成することができる。架橋反応は、前記のように、透明支持体上に塗布した後、任意の時期に行ってよい。ポリビニルアルコールのような水溶性ポリマーを配向膜形成材料として用いる場合には、塗布液は消泡作用のある有機溶媒(例えば、メタノール)と水の混合溶媒とすることが好ましい。その比率は質量比で水:メタノールが0:100〜99:1が好ましく、0:100〜91:9であることがさらに好ましい。これにより、泡の発生が抑えられ、配向膜、さらには光学異方性層の層表面の欠陥が著しく減少する。
【0133】
配向膜の塗布方法は、スピンコーティング法、ディップコーティング法、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロッドコーティング法またはロールコーティング法が好ましい。特にロッドコーティング法が好ましい。また、乾燥後の膜厚は0.1〜10μmが好ましい。加熱乾燥は、通常20℃〜110℃で行うことができる。充分な架橋を形成するためには60℃〜100℃が好ましく、特に80℃〜100℃が好ましい。乾燥時間は通常1分〜36時間にすることができるが、好ましくは1分〜30分である。pHも、使用する架橋剤に最適な値に設定することが好ましく、グルタルアルデヒドを使用した場合は、通常pH4.5〜5.5であり、特に5が好ましい。
【0134】
配向膜は、透明支持体上または上記下塗層上に設けられる。配向膜は、上記のようにポリマー層を架橋したのち、表面をラビング処理することにより得ることができる。
前記ラビング処理は、液晶表示装置を製造する際に行う液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を適用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより、配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さおよび太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
工業的に実施する場合、搬送している偏光膜のついたフィルムに対し、回転するラビングロールを接触させることで達成するが、ラビングロールの真円度、円筒度、振れ(偏芯)はいずれも30μm以下であることが好ましい。ラビングロールへのフィルムのラップ角度は、0.1〜90°が好ましい。ただし、特開平8−160430号公報に記載されているように、360°以上巻き付けることで、安定なラビング処理を得ることもできる。フィルムの搬送速度は1〜100m/minが好ましい。ラビング角は0〜60°の範囲内で適切なラビング角度を選択することが好ましい。液晶表示装置に使用する場合は、40〜50°が好ましく、45°が特に好ましい。
このようにして得た配向膜の膜厚は、0.1〜10μmの範囲内にあることが好ましい。
【0135】
次に、配向膜の上に光学異方性層の液晶性分子を配向させる。その後、必要に応じて、配向膜ポリマーと光学異方性層に含まれる多官能モノマーとを反応させるか、あるいは、架橋剤を用いて配向膜ポリマーを架橋させる。
光学異方性層に用いる液晶性分子には、棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子が含まれる。棒状液晶性分子および円盤状液晶性分子は、高分子液晶でも低分子液晶でもよく、さらに、低分子液晶が架橋され液晶性を示さなくなったものも含まれる。
【0136】
[棒状液晶性分子]
棒状液晶性分子としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類が好ましく用いられる。
なお、棒状液晶性分子には、金属錯体も含まれる。また、棒状液晶性分子を繰り返し単位中に含む液晶ポリマーも、棒状液晶性分子として用いることができる。言い換えると、棒状液晶性分子は、(液晶)ポリマーと結合していてもよい。
【0137】
棒状液晶性分子については、季刊化学総説第22巻液晶の化学(1994)日本化学会編の第4章、第7章および第11章、および液晶デバイスハンドブック日本学術振興会第142委員会編の第3章に記載がある。
棒状液晶性分子の複屈折率は、0.001〜0.7の範囲内にあることが好ましい。
棒状液晶性分子は、その配向状態を固定するために、重合性基を有することが好ましい。重合性基は、ラジカル重合性不飽基或はカチオン重合性基が好ましく、具体的には、例えば特開2002−62427号公報の段落番号[0064]〜[0086]に記載の重合性基、重合性液晶化合物が挙げられる。
【0138】
[円盤状液晶性分子]
円盤状(ディスコティック)液晶性分子には、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体およびJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルが含まれる。
円盤状液晶性分子としては、分子中心の母核に対して、直鎖のアルキル基、アルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基が母核の側鎖として放射線状に置換した構造である液晶性を示す化合物も含まれる。分子または分子の集合体が、回転対称性を有し、一定の配向を付与できる化合物であることが好ましい。円盤状液晶性分子から形成する光学異方性層は、最終的に光学異方性層に含まれる化合物が円盤状液晶性分子である必要はなく、例えば、低分子の円盤状液晶性分子が熱や光で反応する基を有しており、結果的に熱、光で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失った化合物も含まれる。円盤状液晶性分子の好ましい例は、特開平8−50206号公報に記載されている。また、円盤状液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載されている。
【0139】
円盤状液晶性分子を重合により固定するためには、円盤状液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。円盤状コアと重合性基は、連結基を介して結合する化合物が好ましく、これにより重合反応においても配向状態を保つことができる。例えば、特開2000−155216号公報の段落番号[0151]〜[0168]に記載の化合物等が挙げられる。
ハイブリッド配向では、円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)と偏光膜の面との角度が、光学異方性層の深さ方向でかつ偏光膜の面からの距離の増加と共に増加または減少している。角度は、距離の増加と共に減少することが好ましい。さらに、角度の変化としては、連続的増加、連続的減少、間欠的増加、間欠的減少、連続的増加と連続的減少を含む変化、あるいは、増加および減少を含む間欠的変化が可能である。間欠的変化は、厚さ方向の途中で傾斜角が変化しない領域を含んでいる。角度は、角度が変化しない領域を含んでいても、全体として増加または減少していればよい。さらに、角度は連続的に変化することが好ましい。
【0140】
偏光膜側の円盤状液晶性分子の長軸の平均方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは配向膜の材料を選択することにより、またはラビング処理方法の選択することにより、調整することができる。また、表面側(空気側)の円盤状液晶性分子の長軸(円盤面)方向は、一般に円盤状液晶性分子あるいは円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の種類を選択することにより調整することができる。円盤状液晶性分子と共に使用する添加剤の例としては、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマーおよびポリマーなどを挙げることができる。長軸配向方向の変化の程度も、上記と同様に、液晶性分子と添加剤との選択により調整できる。
【0141】
[光学異方性層の他の組成物]
上記の液晶性分子と共に、可塑剤、界面活性剤、重合性モノマー等を併用して、塗工膜の均一性、膜の強度、液晶分子の配向性等を向上することができる。液晶性分子と相溶性を有し、液晶性分子の傾斜角の変化を与えられるか、あるいは配向を阻害しないことが好ましい。
【0142】
重合性モノマーとしては、ラジカル重合性またはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーであり、上記の重合性基を有する液晶化合物に対して共重合性を示すものが好ましい。例えば、特開2002−296423号公報の段落番号[0018]〜[0020]に記載のものが挙げられる。上記化合物の添加量は、円盤状液晶性分子に対して一般に1〜50質量%の範囲内にあり、5〜30質量%の範囲内にあることが好ましい。
【0143】
界面活性剤としては、従来公知の化合物が挙げられるが、特にフッ素系化合物が好ましい。具体的には、例えば特開2001−330725号公報の段落番号[0028]〜[0056]に記載の化合物が挙げられる。
円盤状液晶性分子とともに使用するポリマーは、円盤状液晶性分子に傾斜角の変化を与えられることが好ましい。
ポリマーの例としては、セルロースエステルを挙げることができる。セルロースエステルの好ましい例としては、特開2000−155216号公報の段落番号[0178]に記載のものが挙げられる。液晶性分子の配向を阻害しないように、上記ポリマーの添加量は、液晶性分子に対して0.1〜10質量%の範囲内にあることが好ましく、0.1〜8質量%の範囲内にあることがより好ましい。
円盤状液晶性分子のディスコティックネマティック液晶相−固相転移温度は、70〜300℃が好ましく、70〜170℃がさらに好ましい。
【0144】
[光学異方性層の形成]
光学異方性層は、液晶性分子および必要に応じて後述の重合性開始剤や任意の成分を含む塗布液を、配向膜の上に塗布することで形成できる。
塗布液の調製に使用する溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒の例には、アミド(例えば、N,N−ジメチルホルムアミド)、スルホキシド(例えば、ジメチルスルホキシド)、ヘテロ環化合物(例えば、ピリジン)、炭化水素(例えば、ベンゼン、ヘキサン)、アルキルハライド(例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、テトラクロロエタン)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン)、エーテル(例えば、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン)が含まれる。アルキルハライドおよびケトンが好ましい。二種類以上の有機溶媒を併用してもよい。
【0145】
塗布液の塗布は、公知の方法(例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法)により実施できる。
光学異方性層の厚さは、0.1〜20μmであることが好ましく、0.5〜15μmであることがさらに好ましく、1〜10μmであることが最も好ましい。
【0146】
[液晶性分子の配向状態の固定]
配向させた液晶性分子を、配向状態を維持して固定することができる。固定化は、重合反応により実施することが好ましい。重合反応には、熱重合開始剤を用いる熱重合反応と光重合開始剤を用いる光重合反応とが含まれる。光重合反応が好ましい。
光重合開始剤の例には、α−カルボニル化合物(米国特許第2,367,661号、同2,367,670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2,448,828号明細書記載)、α−炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2,722,512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3,046,127号、同2,951,758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp−アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3,549,367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60−105667号公報、米国特許第4,239,850号明細書記載)およびオキサジアゾール化合物(米国特許第4,212,970号明細書記載)が含まれる。
光重合開始剤の使用量は、塗布液の固形分の0.01〜20質量%の範囲内にあることが好ましく、0.5〜5質量%の範囲内にあることがさらに好ましい。
【0147】
液晶性分子の重合のための光照射は、紫外線を用いることが好ましい。
照射エネルギーは、20mJ/cm2〜50J/cm2の範囲内にあることが好ましく、20〜5000mJ/cm2の範囲内にあることがより好ましく、100〜800mJ/cm2の範囲内にあることがさらに好ましい。また、光重合反応を促進するため、加熱条件下で光照射を実施してもよい。
保護層を、光学異方性層の上に設けてもよい。
【0148】
この光学補償フィルムと偏光膜を組み合わせることも好ましい。具体的には、上記のような光学異方性層用塗布液を偏光膜の表面に塗布することにより光学異方性層を形成する。その結果、偏光膜と光学異方性層との間にポリマーフィルムを使用することなく、偏光膜の寸度変化にともなう応力(歪み×断面積×弾性率)が小さい薄い偏光板が作成される。本発明に従う偏光板を大型の液晶表示装置に取り付けると、光漏れなどの問題を生じることなく、表示品位の高い画像を表示することができる。
偏光膜と光学補償層の傾斜角度は、液晶表示装置を構成する液晶セルの両側に貼り合わされる2枚の偏光板の透過軸と液晶セルの縦または横方向のなす角度にあわせるように延伸することが好ましい。通常の傾斜角度は45°である。しかし、最近は、透過型、反射型および半透過型液晶表示装置において必ずしも45°でない装置が開発されており、延伸方向は液晶表示装置の設計にあわせて任意に調整できることが好ましい。
【0149】
<液晶表示装置>
(液晶表示装置への適用)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な用途で用いることができ、特に液晶表示装置の光学補償シートとして用いると特に効果がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、様々な表示モードの液晶セルに用いることができる。TN(Twisted Nematic)、IPS(In−Plane Switching)、FLC(Ferroelectric Liquid Crystal)、AFLC(Anti−ferroelectric Liquid Crystal)、OCB(Optically Compensated Bend)、STN(Super Twisted Nematic)、VA(Vertical Aligned)およびHAN(Hybrid Aligned Nematic)のような様々な表示モードが提案されている。また、上記表示モードを配向分割した表示モードも提案されている。
【0150】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、いずれの表示モードの液晶表示装置においても有効である。また、透過型、反射型、半透過型のいずれの液晶表示装置においても有効である。本発明のセルロースアシレートフィルムを、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。本発明のセルロースアシレートフィルムを、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として用いてもよい。
【0151】
一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率異方性(△n)とセルギャップ(d)との積(△nd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、特開2000−105316号公報に記載がある。本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償シートの支持体として特に有利に用いられる。本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置あるいはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。
【0152】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償シートとしても有利に用いられる。これらの表示モードは古くから良く知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償シートについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。本発明のセセルロースアシレートフィルムは、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell )モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償シートの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スペーサーにより維持されているとの特徴がある。
【0153】
その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置については、クメ(Kume)他の論文(Kume et al., SID 98 Digest 1089 (1998))に記載がある。以上述べてきたこれらの詳細なセルロース誘導体フィルムの用途は発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)45頁〜59頁に詳細に記載されている。
【0154】
(TNモード液晶表示装置)
カラーTFT液晶表示装置として最も多く利用されており、多数の文献に記載がある。TNモードの黒表示における液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0155】
(OCBモード液晶表示装置)
棒状液晶性分子を液晶セルの上部と下部とで実質的に逆の方向に(対称的に)配向させるベンド配向モードの液晶セルである。ベンド配向モードの液晶セルを用いた液晶表示装置は、米国特許第4,583,825号、同5,410,422号の各明細書に開示されている。棒状液晶性分子が液晶セルの上部と下部とで対称的に配向しているため、ベンド配向モードの液晶セルは、自己光学補償機能を有する。そのため、この液晶モードは、OCB(Optically Compensated Bend) 液晶モードとも呼ばれる。
OCBモードの液晶セルもTNモード同様、黒表示においては、液晶セル中の配向状態は、セル中央部で棒状液晶性分子が立ち上がり、セルの基板近傍では棒状液晶性分子が寝た配向状態にある。
【0156】
(VAモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に垂直に配向しているのが特徴であり、VAモードの液晶セルには、(1)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直に配向させ、電圧印加時に実質的に水平に配向させる狭義のVAモードの液晶セル(特開平2−176625号公報記載)に加えて、(2)視野角拡大のため、VAモードをマルチドメイン化した(MVAモードの)液晶セル(SID97、Digest of tech. Papers(予稿集)28(1997)845記載)、(3)棒状液晶性分子を電圧無印加時に実質的に垂直配向させ、電圧印加時にねじれマルチドメイン配向させるモード(n−ASMモード)の液晶セル(日本液晶討論会の予稿集58〜59(1998)記載)および(4)SURVAIVALモードの液晶セル(LCDインターナショナル98で発表)が含まれる。
【0157】
(IPSモード液晶表示装置)
電圧無印加時に棒状液晶性分子が実質的に面内に水平に配向しているのが特徴であり、これが電圧印加の有無で液晶の配向方向を変えることでスイッチングするのが特徴である。具体的には特開2004−365941号、特開2004−12731号、特開2004−215620号、特開2002−221726号、特開2002−55341号、特開2003−195333号各公報に記載のものなどを使用できる。
【0158】
(その他液晶表示装置)
ECBモードおよびSTNモードに対しても、上記と同様の考え方で光学的に補償することができる。
【0159】
<反射防止フィルム>
反射防止フィルムは、一般に、防汚性層でもある低屈折率層、および低屈折率層より高い屈折率を有する少なくとも一層の層(即ち、高屈折率層、中屈折率層)とを透明支持体上に設けてなる。
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜の形成方法として、化学蒸着(CVD)法、物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法等が挙げられる。
【0160】
一方、生産性が高い反射防止フィルムとして、無機粒子をマトリックスに分散した分散物を塗布することにより薄膜を積層した反射防止フィルムも各種提案されている。塗布による反射防止フィルムとして、表面に微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した層を最上層に形成した反射防止フィルムも挙げられる。
本発明のセルロースアシレートフィルムは上記いずれの方式で製造する反射防止フィルムにも適用できるが、塗布による方式(塗布型)で製造する反射防止フィルムに適用することが特に好ましい。
【0161】
[塗布型反射防止フィルムの層構成]
透明支持体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)を順に形成した層構成からなる反射防止フィルムは、屈折率が以下の関係を満足するように設計される。
高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率
また、透明支持体と中屈折率層の間には、ハードコート層を設けてもよい。
【0162】
また、中屈折率ハードコート層、高屈折率層および低屈折率層からなるものであってもよい。
例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等に記載されるものが挙げられる。また、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例えば、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等に記載されるもの)等が挙げられる。
【0163】
反射防止フィルムのヘイズは、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがさらに好ましい。また、膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0164】
[高屈折率層および中屈折率層]
反射防止フィルムの高い屈折率を有する層は、平均粒子サイズ100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子およびマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜からなる。
高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.9以上の無機化合物が挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。
【0165】
このような超微粒子とするためには、粒子表面を表面処理剤で処理する技術(例えば、特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報に記載されるシランカップリング剤で処理する技術や、特開2001−310432号公報等に記載されるアニオン性化合物或は有機金属カップリング剤で処理する技術)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とする技術(例えば、特開2001−166104号公報等に記載される技術)、特定の分散剤を併用する技術(例えば、特開平11−153703号公報、米国特許第6,210,858B1号明細書、特開2002−2776069号公報等に記載される技術)等を利用することができる。
マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。
【0166】
さらに、ラジカル重合性および/またはカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上有する多官能性化合物を含有する組成物、加水分解性基を有する有機金属化合物およびその部分縮合体の組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。これらの組成物に用いる化合物として、例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。
また、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシド組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載される硬化性膜を挙げることができる。
【0167】
高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。
中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0168】
[低屈折率層]
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層してなる層である。低屈折率層の屈折率は一般に1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。
低屈折率層は、耐擦傷性や防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させるためには表面に滑り性を付与することが有効であり、具体的には従来公知のシリコーン化合物や含フッ素化合物を導入した薄膜層の形成法を適用することができる。
含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲内で含む架橋性または重合性の官能基を含む化合物であることが好ましい。
例えば、特開平9−222503号公報の段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報の段落番号[0019]〜[0030]、特開2001−40284号公報の段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報、特開2003−26732号公報の段落番号[0012]〜[0077]、特開2004−45462号公報の段落番号[0030]〜[0047]等に記載の化合物が挙げられる。
【0169】
シリコーン化合物はポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を有し、膜中で橋かけ構造を形成しているものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例えば、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基を有するポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。
架橋または重合性基を有する含フッ素および/またはシロキサンのポリマーの架橋または重合反応は、重合開始剤や増感剤等を含有する最外層形成用の塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。
【0170】
また、シランカップリング剤等の有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基を有するシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応させて硬化したゾルゲル硬化膜も好ましい。
例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報等に記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ(パーフルオロアルキルエーテル)基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報に記載の化合物等)等が挙げられる。
【0171】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820号公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。
低屈折率層が最外層の下層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成してもよい。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。
低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0172】
[ハードコート層]
ハードコート層は、反射防止フィルムに物理強度を付与するために、透明支持体の表面に設けることができる。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。
ハードコート層は、光および/または熱の硬化性化合物の架橋反応、または、重合反応により形成することが好ましい。 硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、また加水分解性官能基を有する有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物であることが好ましい。
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したものと同様のものが挙げられる。
【0173】
ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、国際公開第00/46617号パンフレット等に記載されるものが挙げられる。
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層の説明で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。
ハードコート層は、平均粒子サイズ0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。
ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。
ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。また、JIS K5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0174】
[前方散乱層]
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等に記載される技術を用いることができる。
【0175】
[その他の層]
上記の層以外に、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0176】
[塗布方法]
反射防止フィルムの各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許第2,681,294号明細書)により、塗布により形成することができる。
【0177】
[アンチグレア機能]
反射防止フィルムは、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止フィルムの表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止フィルムがアンチグレア機能を有する場合、反射防止フィルムのヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。
【0178】
反射防止フィルム表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層またはハードコート層)に比較的大きな粒子(粒子サイズ0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0179】
<測定法>
以下に本発明で使用した測定法について記載する。
【0180】
(1)残留溶剤量
サンプルフィルム300mgを溶解溶剤30mlに溶解した。塩素系溶剤で溶液製膜した場合は酢酸メチルに溶解し、非塩素系溶剤で溶液製膜した場合、溶融製膜した場合はジクロロメタンに溶解した。
これを下記条件でガスクロマトグラフィー(GC)を用い測定し、溶解溶剤以外のピークの面積から、検量線を用い定量し、この総和を残留溶剤量とした。
・カラム:DB−WAX(0.25mmφ×30m、膜厚0.25μm)
・カラム温度:50℃
・キャリアーガス:窒素
・分析時間:15分間
・サンプル注入量:1μl
【0181】
(2)セルロースアシレートの置換度
セルロースアシレートのアシル置換度は、Carbohydr.Res.273(1995)83−91(手塚他)に記載の方法で13C−NMRにより求めた。
【0182】
(3)Re,Rth
フィルムの幅方向に等間隔で10点サンプリングし、これを25℃、・相対湿度60%にて4時間調湿後、自動複屈折計(KOBRA−21ADH:王子計測機器(株)製)を用いて、25℃・相対湿度60%において、位相差値を測定することによって、面内レターデーション値(Re)と膜厚方向のレターデーション値(Rth)とを算出した。
【0183】
(4)重合度測定法
絶乾したセルロースアシレート約0.2gを精秤し、メチレンクロリド:エタノール=9:1(質量比)の混合溶剤100mlに溶解した。これをオストワルド粘度計にて25℃で落下秒数を測定し、重合度を以下の式により求めた。
ηrel =T/T0 T :測定試料の落下秒数
[η]=(1nηrel)/C T0 :溶剤単独の落下秒数
DP=[η]/Km C :濃度(g/l)
Km:6×10-4
【0184】
(5)Tg測定
DSCの測定パンにサンプルを20mg入れた。これを窒素気流中で、10℃/分で30℃から250℃まで昇温した後、30℃まで−10℃/分で冷却した。その後、再度30℃から250℃まで昇温して、ベースラインが低温側から変移し始める温度をTgとした。
【実施例】
【0185】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0186】
<合成例1> (セルロースアセテートプロピオネートの合成)
セルロース(広葉樹パルプ)100質量部、酢酸71.5質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で2時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。
【0187】
別途、アシル化剤として、酢酸28.2質量部、無水酢酸36.8質量部、プロピオン酸483.6質量部、プロピオン酸無水物651.4質量部、硫酸7質量部の混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、上記の前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。アシル化剤の添加から0.5時間後に内温が10℃、2時間後に内温が23℃になるように調節し、内温を23℃に保ってさらに3時間攪拌した。この後、内温を30℃に上昇させ、攪拌をさらに1時間、2時間、3時間継続した試料も同様にして作成した。これらの試料にそれぞれ、5℃に冷却した25質量%含水酢酸326.4質量部を添加した。内温を40℃に上昇させ、1.5時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に、等質量の水と、等質量の酢酸を加えて溶解した混合溶液を作成し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。25質量%含水酢酸4000質量部、50質量%含水酢酸4000質量部、75質量%含水酢酸4000質量部、水3000質量部をこの順に加え、セルロースアセテートプロピオネートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートプロピオネートは温水にて十分に洗浄した。洗浄後、20℃の0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、ろ過を行なった後に70℃で真空乾燥させてCAP−1、2、3、4を合成した。
【0188】
さらに、アシル化剤のアシル基組成を変化させ、解重合条件を制御することにより、CAP−5、6、7、8を合成した。
1H−NMRおよび、GPC測定による、セルロースアセテートプロピオネートの物性値は表1のとおりである。ここで、DSAcはアセチル基の置換度を示し、DSPrはプロピオニル基の置換度を示す。また、DPn、DPwは、GPC法による数平均分子量、質量平均分子量の値を、置換度から求めた繰り返し単位の平均分子量で序した平均重合度である。
【0189】
【表1】

【0190】
<合成例2> (セルロースアセテートブチレートの合成)
セルロース(リンター)80質量部、酢酸80質量部を、還流装置を付けた反応容器に入れ、内温40℃で3時間攪拌した。このような前処理を行ったセルロースは膨潤、解砕されて、微細粉末−羽毛状を呈した。
【0191】
別途、アシル化剤として酢酸3.5質量部、無水酢酸92.4質量部、酪酸241.7質量部、酪酸無水物542.5質量部、硫酸5.6質量部の混合物を作製し、−20℃に冷却した後に、前処理を行ったセルロースを収容する反応容器に加えた。30分経過後、内温を17℃まで3時間掛けて上昇させ、5時間反応させた。この後、内温を30℃に上昇させ、攪拌をさらに1時間、2時間、3時間継続した試料も同様にして作成した。その後、約5℃に冷却した12.5質量%含水酢酸2400質量部を添加した。内温を30℃に上昇させ、1時間攪拌した。硫酸触媒の2倍モル相当の酢酸マグネシウム4水和物に等質量の水と、等質量の酢酸を加えて溶解した混合溶液を作成し、反応容器に添加して、30分間攪拌した。酢酸1000質量部、50質量%含水酢酸2500質量部を徐々に加え、セルロースアセテートブチレートを沈殿させた。得られたセルロースアセテートブチレートの沈殿は温水にて十分に洗浄を行った。洗浄後、0.005質量%水酸化カルシウム水溶液中で0.5時間攪拌し、ろ過を行なった後に70℃で真空乾燥させてCAB−1、2、3、4を合成した。
【0192】
さらに、アシル化剤のアシル基組成を変化させ、解重合条件を制御することにより、CAB−5、6、7、8を合成した。
1H−NMRおよび、GPC測定による、セルロースアセテートブチレートの物性値は表2のとおりである。ここで、DSAcはアセチル基の置換度を示し、DSBuはブチリル基の置換度を示す。また、DPn、DPwは、GPC法による数平均分子量、質量平均分子量の値を、置換度から求めた繰り返し単位の平均分子量で序した平均重合度である。
【0193】
【表2】

【0194】
<高分子量分布のセルロースアシレートの調整>
試料を表3で示すように混合し、質量の10倍の酢酸を加えて完全に溶解した後、含水酢酸と水を添加して再沈殿を実施することにより、Mw/Mnが本発明の範囲内である試料CAP−10〜13、CAB−10〜13を調整した。
【0195】
【表3】

【0196】
<実施例および比較例(I)>
(1)試料調整
本発明のセルロースアシレートとしてCAP−10〜13ならびにCAB−10〜13を用いた。また、比較用化合物として、CAP−3、CAP−7、CAB−3ならびにCAB−7を用いた。
(2)セルロースアシレートのペレット化
上記各セルロースアシレートを120℃で3時間乾燥して含水率を0.1質量%以下にしたものに、それぞれリン酸トリフェニル2質量%、下記構造を有する化合物L−1を5質量%、二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量%を添加した。
【化21】

【0197】
これら試料について、真空排気付き2軸混練押出し機を用い、スクリュー回転数300rpm、混練時間40秒、押出し量200kg/hrでダイから押出し60℃の水中で固化した後、裁断し直径2mm、長さ3mmの円柱状のペレットを得た。
【0198】
(3)溶融製膜
上記方法で調製したセルロースアシレートペレットを、110℃の真空乾燥機で3時間乾燥した。これを80℃のホッパーに投入し、図1に示す溶融押出し機を用いて溶融押出しを行った。なお、ここで用いたスクリューの直径(出口側)は60mm、L/Dは50、圧縮比は4、供給部と圧縮部の長さの比(供給部/圧縮部)は1.5であった。スクリューの入口側は全長の10%の長さだけスクリュー内部にペレットの(Tg−5℃)のオイルを循環して冷却した。また樹脂のバレル内の滞留時間は5分であった。バレルの温度は、出口が最高温度で入口が最低温度となるようにし、最低温度は180℃、最高温度は210℃に設定した。
溶融後、メルトを濾過しスリット間隔0.8mmのダイから押出し、(Tg−10℃)のキャスティングドラムで固化した。この時、各水準静電印加法(10kVのワイヤーをメルトのキャスティングドラムへの着地点から10cmのところに設置)を用いて、両端10cmずつ静電印加を行った。固化したメルトをキャスティングドラムから剥ぎ取り、巻き取り直前に両端(全幅の各5%)をトリミングした後、両端に幅10mm、高さ50μmの厚みだし加工(ナーリング)をつけた後、30m/分で3000m巻き取った。このようにして得た未延伸フィルムの幅は各水準とも1.5mで、厚みは120μmであった。
【0199】
(4)延伸
このようにして得たセルロースアシレートフィルムを表4に記載の倍率で延伸した。この後、両端各5%ずつトリミングした。なお、延伸は上記で測定したTgより10℃高い温度で、300%/分で実施した。
【0200】
このようにして得た未延伸および延伸フィルムを直交させた偏光板の間に置き、背面から光をあて全長に亘って目視評価を行い、Vスジの発生本数を数えた。100mあたりの発生本数に換算したものを表4に示した。併せてロール状で1年経時させたセルロースアシレートフィルムをサンプリングし、これを3枚重ねて10cm角のトムソン刃で打ぬき、発生するひび割れの数を顕微鏡で観察し、その総和を表4に示した。また、比較例13として、試料CAP−11を用いて特開2000−344904号公報の実施例1に準じて溶液製膜を実施した。
本発明を実施したものは良好な結果が得られたが、分子量分布の狭いCAP−3、CAP−7、CAB−3およびCAB−7を用いた比較用試料はVスジの発生本数が多かった。またひび割れも発生した。また、溶液製膜した比較例13は、Vスジは少ないが、ひび割れが多い。また、CABとCAPとを比較すると、CAPの方がVスジの発生が少ない。なお、表4に記載のTgは製膜後のフィルムをサンプリングして上記の方法で測定した値である。
【0201】
【表4】

【0202】
(5)偏光板の作成
(5−1)セルロースアシレートフィルムの鹸化
未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムを下記の浸漬鹸化法にしたがって鹸化した。なお、下記の塗布鹸化法を実施したものについてもほぼ同じ結果が得られた。
(i)塗布鹸化
イソプロピルアルコール80質量部に水20質量部を加え、これにKOHを2.5mol/Lとなるように溶解し、これを60℃に調温したものを鹸化液として用いた。これを60℃のセルロースアシレートフィルム上に10g/m2塗布し、1分間鹸化した。この後、50℃の温水スプレーを用い、10L/m2・分で1分間吹きかけて洗浄した。
【0203】
(ii)浸漬鹸化
60℃に調温したNaOHの2.5mol/L水溶液を鹸化液として、その中にセルロースアシレートフィルムを2分間浸漬した。その後、0.05mol/Lの硫酸水溶液に30秒浸漬した後、水洗浴を通した。
【0204】
(5−2)偏光膜の作成
特開平2001−141926号公報の実施例1に従い、2対のニップロール間に周速差を与え、長手方向に延伸し、厚み20μmの偏光膜を調製した。
【0205】
(5−3)貼り合わせ
このようにして得た偏光膜と、上記鹸化処理した未延伸、延伸セルロースアシレートフィルムを、PVA((株)クラレ製PVA−117H)3%水溶液を接着剤として、偏光軸とセルロースアシレートフィルムの長手方向が45度となるように下記組み合わせで張り合わせた(偏光板A)。本発明を実施したものはスジの発生が確認されず良好な性能を示した。
また上記未延伸セルロースアシレートフィルムに代わって鹸化処理したフジタックTD−80U(未延伸トリアセテートフィルム)を用いて調製した偏光板Bでも同様の結果が得られた。
【0206】
(6)光学補償フィルム・液晶表示素子の作成
VA型液晶セルを使用した22インチの液晶表示装置(シャープ(株)製)に設けられている観察者側の偏光板を剥がし、代わりに上記位相差偏光板A,Bを、セルロースアシレートフィルムが液晶セル側となるように粘着剤を介して、観察者側に貼り付けた。観察者側の偏光板の透過軸とバックライト側の偏光板の透過軸が直交するように配置して、液晶表示装置を作成した。全面黒表示し、暗室の中で明るくスジ状となる本数を数えた。これを上記の方法で作成した100枚の偏光板について行い、使用したセルロースアシレートの面積から、製膜時の全幅×100mあたりの本数に換算し表4に示した。Vスジが10本以下のものは液晶表示素子に組み込んだ場合、目視評価で検出されなかったが、これを超える水準では目視でスジがみえ許容されなかった。本発明の偏光板はVスジの発生が無く良好であった。表4には上記偏光板Aでの測定値を示したが、偏光板Bでも同様の結果が得られた。
本発明のセルロースアシレートフィルムは、特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式のVA型液晶表示装置でも同様の効果が得られた。
【0207】
さらに、特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムの代わりに、本発明セルロースアシレートフィルムを使用しても、良好な光学補償フィルムを作成できた。
特開平7−333433号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムに代わって、本発明セルロースアシレートフィルムに変更し光学補償フィルターフィルムを作製しても、良好な光学補償フィルムを作成できた。
【0208】
さらに本発明の偏光板、位相差偏光板を、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開平9−26572号公報の実施例1に記載のディスコティック液晶分子を含む光学的異方性層、ポリビニルアルコールを塗布した配向膜、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731号公報の図11に記載のIPS型液晶表示装置に用いたところ、湿熱に伴う表示むら無い良好な視認性を有する液晶表示素子が得られた。
【0209】
(7)低反射フィルムの作成
本発明のセルロースアシレートフィルムを発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)の実施例47に従い低反射フィルムを作成したところ、良好な光学性能が得られた。
さらに本発明の低反射フィルムを、特開平10−48420号公報の実施例1に記載の液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図2〜9に記載の20インチVA型液晶表示装置、特開2000−154261号公報の図10〜15に記載の20インチOCB型液晶表示装置、特開2004−12731号公報の図11に記載のIPS型液晶表示装置の最表層に貼り評価を行ったところ、良好な液晶表示素子を得た。
【0210】
<実施例および比較例(II)>
(1)セルロースアシレートの調製
表1〜3に記載の分子量分布の異なるセルロースアシレートを用いた。
【0211】
(2)セルロースアシレートのペレット化
上記セルロースアシレートを120℃で3時間乾燥して含水率を0.1質量%以下にしたものに、実施例および比較例(I)の化合物L−1、ならびに下記から選定した可塑剤を表5に記載のように加え、さらに全水準に二酸化珪素部粒子(アエロジルR972V)0.05質量%を添加した。
可塑剤A:ポリエチレングリコール(分子量600)
可塑剤B:グリセリンジアセテートオレート
可塑剤C:グリセリンテトラカプリレート
可塑剤D:グリセリンジアセテートラウレート
これらを真空排気付き2軸混練押出し機を用いて、スクリュー回転数300rpm、混練時間40秒、押出し量200kg/hrでダイから押出し、60℃の水中で固化した後、裁断し直径2mm、長さ3mmの円柱状のペレットを得た。
【0212】
(3)溶融製膜
上記方法で調製したセルロースアシレートペレットを、実施例および比較例(I)と同様にして溶融製膜を行い、30m/分で3000m巻き取った。このようにして得た未延伸フィルムの幅は各水準とも1.5mで、厚みは80μmであった。
【0213】
このようにして得たフィルムを、実施例および比較例(I)と同様にして、Vスジ、加工でのひび割れ、Tgを評価し表5に記載した。本発明を実施しいたものは良好な性能が得られた。
【0214】
(4)延伸
このようにして得たセルロースアシレートフィルムを表5に記載の倍率で、上記で測定したTgより10℃高い温度で、300%/分で延伸し、両端各5%ずつトリミングした。これを実施例および比較例(I)と同様にしてVスジ、Re,Rthを求め表5に記載した。本発明を実施したものは良好な性能が得られた。
【0215】
【表5】

【0216】
(5)偏光板の作成、光学補償フィルム・液晶表示素子の作成
実施例および比較例(I)と同様にして偏光板の作成、光学補償フィルム・液晶表示素子の作成を行った。本発明の偏光板はVスジの発生が無く良好であった。偏光板Aならびに偏光板Bのいずれの形態でも、同様の結果が得られた。
偏光板A: 未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/フジタック
偏光板B: 未延伸セルロースアシレートフィルム/偏光膜/未延伸セルロース
アシレートフィルム
本発明のセルロースアシレートフィルムは、特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式のVA型液晶表示装置において良好な効果が得られた。
さらに、実施例および比較例(I)と同様にして特開平11−316378号公報の実施例1の液晶層を塗布して光学補償フィルムを作成したところ、良好な性能を示した。
特開平7−333433号公報の実施例1の液晶層を塗布したセルロースアセテートフィルムに代わって、本発明セルロースアシレートフィルムに変更し光学補償フィルターフィルムを作製しても、良好な光学補償フィルムを作成できた。本発明の偏光板、位相差偏光板は、湿熱に伴う表示むらが無い良好な視認性を有していた。
また、本発明のセルロースアシレートフィルムを用いて実施例および比較例(I)と同様に低反射フィルムを作成したところ、良好な光学性能が得られた。このようにして得た本発明の低反射フィルムを、VA、OCB、IPS型液晶表示装置の最表層に貼り評価を行ったところ、良好な液晶表示素子が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明のセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置に組み込めば、液晶表示装置の表示故障を大幅に軽減することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、経時保存後の加工適性が優れている。さらに、当該セルロースアシレートフィルムを用いた本発明の偏光板、光学補償フィルム、反射防止フィルムおよび液晶表示装置は光学特性が優れている。したがって、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】スクリューを備えた溶融押出し機の断面図である。
【符号の説明】
【0219】
1 溶融押出し機
2 ホッパー
3 スクリュー
4 冷媒導入手段
A 供給部
B 圧縮部
C 計量部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が3〜6であるセルロースアシレートからなるセルロースアシレートフィルムであって、残留溶剤量が0.01質量%以下であり、厚み方向の幅がフィルム厚の0.1〜10%であり且つ面内の幅が1〜20mmであるV字状の厚みむらの数が、フィルムの長手方向100mあたり0箇所〜10箇所であることを特徴とする、セルロースアシレートフィルム。
【請求項2】
セルロースアシレートが下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする、請求項1に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(1): 2.6≦X+Y≦2.95
式(2): 0.1≦X≦1.45
式(3): 0.3≦Y≦2.95
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【請求項3】
セルロースアシレートが下記式(4)〜(6)を満足することを特徴とする、請求項1または2に記載のセルロースアシレートフィルム。
式(4): 2.6≦X+Y≦2.95
式(5): 0.3≦X≦0.7
式(6): 1.0≦Y≦2.4
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基の置換度を表す。)
【請求項4】
セルロースアシレートの質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が4〜5であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項5】
溶融押出し機を用いて溶融製膜したことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1方向に、1%〜300%延伸したことを特徴とするセルロースアシレートフィルム。
【請求項7】
質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)の値が3〜6であるセルロースアシレートを、供給部と圧縮部の長さの比が0.5〜10のスクリューを備えた溶融押出し機を用いて溶融製膜したことを特徴とする、セルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項8】
スクリューの上流部からスクリュー全長の5〜34%までの範囲をセルロースアシレートのTg以下の温度に冷却することを特徴とする、請求項7に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項9】
セルロースアシレートが下記式(1)〜(3)を満足することを特徴とする、請求項7または8に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(1): 2.6≦X+Y≦2.95
式(2): 0.1≦X≦1.45
式(3): 0.3≦Y≦2.95
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を表す。)
【請求項10】
セルロースアシレートが下記式(4)〜(6)を満足することを特徴とする、請求項7または8に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
式(4): 2.6≦X+Y≦2.95
式(5): 0.3≦X≦0.7
式(6): 1.0≦Y≦2.4
(式中、Xはアセチル基の置換度を表し、Yはプロピオニル基の置換度を表す。)
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか一項に記載の製造方法により製造したセルロースアシレートフィルム。
【請求項12】
偏光膜に、請求項1〜6および11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを少なくとも1層積層したことを特徴とする偏光板。
【請求項13】
請求項1〜6および11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを基材として用いた光学補償フィルム。
【請求項14】
請求項1〜6および11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを基材として用いた反射防止フィルム。
【請求項15】
請求項1〜6および11のいずれか一項に記載のセルロースアシレートフィルムを用いた液晶表示装置。

【図1】
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【公開番号】特開2006−348123(P2006−348123A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−174515(P2005−174515)
【出願日】平成17年6月15日(2005.6.15)
【出願人】(000005201)富士フイルムホールディングス株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】