説明

タイヤ形状計測方法及びタイヤ形状計測装置

【課題】タイヤが走行しているときの接地形状及び接地面近傍を含むタイヤの表面形状を精度よく計測する。
【解決手段】タイヤTを路面11の走行路11aを構成する透明な強化ガラス板G上に接地させるとともに、強化ガラス板Gの表面に設けられた路面プールに白色の液体Lを投入し、移動機構163のボールねじ163aを回転させて路面11を保持するガイド部材162をガイドレール161に沿って前後方向に移動させながら、強化ガラス板GのタイヤTが接地する側とは反対側に設けられたCCDカメラ14により液体L中を走行するタイヤTの形状を撮影し、この撮影された画像からタイヤTの形状を計測するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ形状を計測する方法とその装置に関するもので、特に、路面との接地境界面を中心とするタイヤ形状の計測に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの接地面近傍の形状を測定する方法として、タイヤのトレッド面を台座上に接地させて、タイヤの側面または前後方向からレーザー変位計によりトレッドの溝形状を検出する方法(例えば、特許文献1参照)や、タイヤを透明な強化ガラス板の上面に押し付けるとともに強化ガラス板の下面側から光を照射し、強化ガラス板の上面で全反射された光の反射光量から強化ガラス板に作用するタイヤの圧力分布を求めてタイヤの接地面形状を推定する方法(例えば、特許文献2参照)、あるいは、タイヤのトレッドパターンを模した測定パッドに所定の荷重をかけてガラス板に押し付けるとともに、この測定パッドをガラス板上に置かれた所定水準の不透明度を有する液体中で様々な速度で通過させてトレッドの接地部分の不透明度をガラス板を通して観察し、トレッドの浮き量からタイヤの接地面形状を推定する方法(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−122098号公報
【特許文献2】実開平7−2944号公報
【特許文献3】特開平10−239136号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーザー変位計を用いる方法では、タイヤのサイド部分は問題なく計測できるものの、接地境界面では測定対象面とレーザー光の入射方向とがほぼ平行なのでレーザー光が反射しなくなる。そこで、特許文献1では、台座のレーザー光の入射する側を透明板で構成するとともに、台座内に反射板を設けてレーザー光を屈曲させてタイヤ接地面に照射してトレッド面の変形状態を検出するようにしている。そのため、台座の一部を透明な材料で構成するとともに、台座に反射板を収納するための収納孔を形成し反射板を設置する必要があった。
また、レーザー変位計による計測は、変位計1個に付き計測点が1点であり、ラインレーザーを用いたとしても、1個に付き1ラインしか同時に計測できないので、タイヤ接地面の周辺全体の形状計測を同時に行うことができなかった。すなわち、レーザー変位計による計測は、タイヤが走行している状態での接地面形状の計測には不向きである。
また、強化ガラス板に作用するタイヤの圧力分布からタイヤの接地面形状を推定する方法でも、光源が点光源であり、かつ、全反射光を光電子増倍管で検出する構成なので、レーザー変位計による計測と同様に、タイヤが走行している状態での接地面形状を計測することは困難であった。
【0005】
また、トレッドの接地部分の不透明度からトレッドの浮き量を推定する方法では、測定パッドの速度、すなわち、液体の流速による測定パッドの浮き量を計測しているが、この場合も、測定パッドに所定の荷重をかけてガラス板に押し付ける構成であるため、測定パッドは移動することはできても回転することはできない。したがって、この従来例においてもタイヤが走行している状態での接地面形状を計測することは困難であった。
なお、タイヤが走行している状態における接地面形状の測定方法としては、従来、感圧紙などの上にタイヤを押し付ける方法が知られているが、この方法では、タイヤにスリップ角や制駆動力を付与したときに紙に皺が寄るなどして正しい接地面形状を計測することは困難であった。更に、この方法では、接地面形状は獲得できるが、接地面近傍のタイヤ形状は計測することができないといった問題点がある。
また、タイヤの走行中の形状については、FEMなどによるモデル計算により接地面形状を含む接地形状やタイヤの変形を予測する試みも行われているが、結局のところ計算が正しいかどうかは最終的に実測して比較しないと分からないので、実測が困難な現状では計算の正しさを証明することは難しい。
【0006】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、タイヤが走行しているときの接地面形状及び接地面近傍を含むタイヤの表面形状を精度よく計測する方法とその装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の請求項1に記載の発明は、路面に接地しているときにタイヤ形状を計測する装置であって、タイヤを回転可能に保持するタイヤ保持手段と、少なくとも前記タイヤが接地する部分が光を透過させる材料で構成された透過部を備え前記タイヤの前後方向に延長する路面と、前記透過部の前記タイヤが接地する側とは反対側に設置されて前記タイヤの形状を撮影する撮像手段と、前記撮像手段と同じ側に設置されて前記タイヤに光を照射する投光手段と、前記撮像手段で撮影したタイヤの画像を画像処理して各画素の輝度データを算出する画像処理手段と、前記算出された輝度データから前記タイヤの形状を計測する形状計測手段と、前記路面を、前記タイヤと前記撮像手段とに対して、前記タイヤの前後方向に相対的に移動させる移動手段とを備えたことを特徴とする。
これにより、タイヤが路面を走行する状態を実現できるので、タイヤの接地面の状態や接地面近傍のタイヤの変形状態を精度良く計測することができる。また、タイヤにスリップ角やキャンバー角を与えることで、タイヤに横力が入力したときのタイヤの変形状態についても計測することができるので、実際の走行状態におけるタイヤの形状を精度よく再現することができる。
前記移動手段は、路面を移動させる手段であってもよいし、タイヤと撮像手段とを同時に移動させる手段であってもよい。また、投光手段はタイヤと撮像手段とともに固定されるか、タイヤと撮像手段とともに移動するように設置される構成としてもよいし、路面ととともに固定されるか、路面ととともに移動するように設置してもよい。
【0008】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のタイヤ形状計測装置であって、前記路面のタイヤ側に設けられた枠体と、当該路面と前記枠体とにより形成された空間に収納されて前記透過部の上面に液体層を形成する液体とを備えることを特徴とする。
これにより、タイヤ踏面内における液体の浸入量や液体に漬かっているタイヤ部分の形状についても精度よく計測することができるので、スリップ状態などのWET路におけるタイヤの走行状態を精度よく把握することができる。
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載のタイヤ形状計測装置において、前記液体として、白色の液体、もしくは、白色に着色された液体を用いたことを特徴とする。
このように、液体をタイヤの色である黒色とは対極色である白色とし、撮影された画像の白色の濃淡で、タイヤ踏面内における液体の浸入深さや実際にタイヤの液体に漬かっている深さを精度よく計測することができるようにしたので、タイヤ形状の計測精度を更に向上させることができる。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のタイヤ形状計測装置であって、前記タイヤに制動力及び駆動力のいずれか一方もしくは両方を付与する機構を備えることを特徴とする。
これにより、制動時や駆動時におけるスリップ率の違いによるタイヤの接地面の状態や接地面近傍のタイヤの変形状態を精度良く計測することができる。
【0010】
請求項5に記載の発明は、タイヤを透明板上に接地させ、前記透明板の前記タイヤが接地する側とは反対側から前記タイヤに光を照射して前記タイヤの形状を撮影し、この撮影された画像から前記タイヤの形状を計測するタイヤ形状計測方法において、タイヤを回転可能に保持するとともに、前記透明板の表面に、白色の液体、もしくは、白色に着色された液体から成る液体層を設け、前記透明板を前記タイヤの前後方向に移動させながら前記タイヤの形状を撮影することを特徴とする。
これにより、タイヤを液体層が設けられた路面上を回転しながら走行させることができるので、タイヤ踏面内における液体の浸入量や地面との接地境界面を中心とするタイヤの形状を精度良く計測することができる。したがって、タイヤの運動性能を考察する上での指標となるデータを提供することができる。
【0011】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施の形態に係るタイヤ形状計測装置の構成を示す側面図である。
【図2】本実施の形態に係るタイヤ形状計測装置の構成を示す正面図である。
【図3】校正用のデータ(深さと濃淡)の取得方法を示す図である。
【図4】画像の濃淡と液体深度との関係を説明するための図である。
【図5】光量のばらつきを補正する方法を示す図である。
【図6】撮影画像の一例を示す図である。
【図7】タイヤ形状の計測結果の一例を示す図である。
【図8】本発明によるタイヤ形状計測方法を示す図である。
【図9】本発明によるタイヤ形状計測装置の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、実施の形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また、実施の形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0014】
図1,図2は本実施の形態に係るタイヤ形状計測装置10の構成を示す図で、各図において、11は路面、12はタイヤ保持手段、13は制駆動手段、14は撮像手段としてのCCDカメラ、15は投光手段としてのLEDライン光源、16は移動手段、17は画像処理手段、18は形状計測手段である。
本例では、CCDカメラ14と移動手段16とを固定部材である基台21に搭載し、タイヤ保持手段12を基台21に立設された取付フレーム22に取り付けた。また、路面11とLEDライン光源15とは路面保持部材23を介して移動手段16に取付けられる。
路面11は光を通す透明な素材で構成された走行部11aと、助走慣らし走行用の路面としての助走部11bとを備える。タイヤTは、タイヤ保持手段12により、前後方向(走行方向)が走行部11aの長手方向になるように接地する。以下、図1の左右方向を前後方向、紙面に垂直な方向を幅方向、図1の上下方向を上下方向という。
本例では、後述するように、路面11が移動するが、路面11が静止していると仮定したときのタイヤの移動方向を前側とすると、走行部11aが前側に位置し助走部11bが後側に位置している。また、助走部11bの上面の位置は走行部11aの上面よりも高い位置にある。
【0015】
走行部11aは、前後方向に長い透明な強化ガラス板Gで構成されており、強化ガラス板Gの幅方向の両側においてそれぞれ路面保持部材23に保持されている。
路面保持部材23としては、例えば、後述するガイド部材162に立設されたフレーム23aとこのフレーム23aに取付けられて強化ガラス板Gの幅方向端部を下側から支持する支持片23bとを備える。フレーム23aは上部において、強化ガラス板Gの幅方向の端部を規制する。
強化ガラス板Gの長手方向の長さから後述する路面プールを構成するための枠体19の厚さを除いた長さがタイヤTの走行する路面長となり、幅方向の長さから前記枠体19の厚さを除いた長さが路面幅となる。
路面長としては、タイヤTに前後力やスリップ角及びキャンバー角などを付与しない、いわゆる、フリーローリング状態でタイヤ形状を計測する場合には、タイヤTの転がり周長の1/4以上あれば十分である。しかし、タイヤTが制駆動されて前後力が発生した状態やスリップ角・キャンバー角の付与により横力が発生した状態でタイヤ形状を計測する場合には、タイヤの接地挙動を安定させるため、タイヤTの転がり周長の1/3〜1周分程度の路面長が必要である。
路面幅については、試験するタイヤTのタイヤ幅の1.5倍以上あれば十分である。路面幅が狭すぎると光源がカメラに写ってしまう虞れがある。また、路面幅が広すぎる場合には光源の光量を強くする必要があるが、そうすると、路面全体への光源の光の強度分布にムラができやすいので、タイヤ幅の2〜5倍とするのがよく、最大でも10倍以内とすることが好ましい。
なお、走行部11aを構成する材料である路面素材としては、本例で用いた強化ガラス板Gの他に、アクリルや透明プラスチックなどのような光の透過率の高い材料を用いてもよいが、いずれにしても、タイヤTに作用する荷重に耐えられる強度を有している必要がある。強度が弱いとタイヤ荷重や横力、前後力の付与によって路面11が変形したり傷ついてしまい、計測データの精度が低下する。
また、路面11の表面、特に、走行部11aの表面は凹凸のない平滑な面であることが好ましい。具体的な平滑度については計測する形状の必要精度により適宜決定される。例えば、必要精度が0.2mmであれば、路面11の最大凹凸は少なくともその半分である0.1mm以下にする必要がある。
【0016】
本例のタイヤ形状計測装置10の路面11には、走行部11aの表面に着色された液体Lが保持されている。
この液体Lは、走行部11aを構成する強化ガラス板Gと、強化ガラス板Gの上面に設けられた枠体19とで囲まれた路面プールに収納される。この液体Lが強化ガラス板G上に液体層を構成する。本例では、枠体19として、強化ガラス板Gの上面の前後の端部に立設された前壁19a及び後壁19bと、強化ガラス板Gの幅方向の両端部に立設された左壁19c及び右壁19dとから成る断面が長方形状のものを用いた。なお、枠体19に代えて、走行部11aを構成する強化ガラス板Gを、端部を高さのあるフレームで取り囲むような形態に加工して路面プールを形成してもよい。また、素材がアクリルや透明プラスチックなどである場合には、路面プールを成形時に形成してもよい。
後壁19bの上面は助走部11bの上面と同じ高さにあり、この後壁19bの前方には斜面部(スロープ)19kが設けられている。このスロープ19kは、タイヤTが助走部11bからスムースに走行部11aに移動するために設けられたもので、図1に示すように、後方である後壁19b側の高さが後壁19bの高さに等しく前方に行くに従って高さが減少する、縦断面が直角三角形の部材から構成される。
また、路面プール内に収納される液体Lの深さとしては、最低が0.1mmで、最大でもタイヤTの全体が浸る深さであればよい。実用的には、液体Lの深さが0.5mm〜10mmの範囲であれば、実際のWET路面でのタイヤの挙動を把握することができる。
液体Lの粘度としては、水と同程度がそれ以下の粘度を有することが好ましい。これは、液体の粘度が高すぎると接地特性に影響するためである。また、雨天時の走行を再現するためには、水と同じ粘度とすることが特に好ましい。
また、液体Lとしては、タイヤTの表面が黒色であるので、水を白い顔料または染料で着色したもの、もしくは、白色の液体を用いることが好ましい。
【0017】
更に、液体Lは完全に不透明ではなく、濃度もしくは着色剤の量を調整して接地面以外のタイヤ形状についても撮影できる透明度を有するようにしたものを用いることが好ましく、深さに対して線形に光を透過するものを用いることが特に好ましい。これにより、撮影した画像の白色から黒色に至る濃淡がそのままタイヤ形状になる。しかし、線形でなくとも、深さと濃淡との関係を予め調べて校正用のデータを取得しておけば、この校正用のデータを用いて濃淡からタイヤ形状を求めることができる。なお、線形であると予想される場合にも、深さと濃淡との関係を予め確認しておくことが好ましい。
校正用のデータの取得方法としては、例えば、図3に示すように、走行部11aを構成する強化ガラスと同じ材質のガラス板31の周囲に枠体32を設け、このガラス板31と枠体32とにより形成されたプールに液体Lを投入するとともに、液体Lの深さの半分の厚み(ここでは、0.5mm)を有し、計測するタイヤTと同じ黒色に着色した鉄板33と、厚さが1mm以上の四角柱の角材34とを準備し、鉄板33をガラス板31に密着させるとともに、角材34の一端34aを鉄板33上に載せ、他端34bをガラス板31の上に載せて、ガラス板31の下側から、CCDカメラ14を用いて鉄板33と角材34とを撮影する。ガラス板31と角材34との間の液体Lの厚さは鉄板33側で0.5mmで、角材34の他端34b側に行くに従って減少し、他端34bでは0mmとなる。したがって、図4に示すような、鉄板33の角材34側が載っている側とは反対側の端部33aを原点Oとし、原点Oから角材34の他端34b方向に向かって測った距離xと撮影した画像(撮影画像)の濃淡との関係(実線は測定例、一点鎖線は、深さに対して線形に光を透過する液体を用いた例)、及び、液体Lの深さ(液体深度)と前記距離xとの関係とから、液体の深さと撮影画像の濃淡との関係を示す校正用のデータを得ることができる。
【0018】
タイヤ保持手段12は、タイヤTのタイヤ軸Jを軸受け(図示せず)を介して回転可能に支持するタイヤ支持部材121と、タイヤ支持部材121を上下させることでタイヤTを路面11に押し付ける力(荷重)を調整するシリンダー装置122と、分力計123とを備える。
シリンダー装置122は、一端がタイヤ支持部材121に連結されるシリンダーロッド122aとシリンダーロッド122aの他端側に設けられた図示しないピストンを駆動してシリンダーロッド122aの長さを伸縮させるシリンダー本体122bとを備える。シリンダー本体122bが取付フレーム22に取り付けられる。本例では、シリンダー装置122としては油圧シリンダーを用いた。
分力計123は、タイヤ軸Jに取付けられてタイヤ軸Jに作用する前後方向の力であるタイヤ軸力を計測して記録する機能を有する。
本例では、基台21に立設された縦フレーム22aと、縦フレーム22aの上端から水平方向でかつタイヤ幅方向に平行な方向に突出する横フレーム22bとを備えた取付フレーム22の横フレーム22bにシリンダー本体122bを固定している。
このように、タイヤTはシリンダー装置122を備えたタイヤ保持手段12に回転可能に保持されているので、路面11に所定の荷重で接地するとともに、路面11が前後方向に移動すると、タイヤTは路面11との摩擦により回転する。これにより、路面11が後方(図1の右方向)に移動した場合、路面11上の観察者から見ると、タイヤTは回転しながら路面11上を前方(図1の左方向)に走行する。すなわち、本発明のタイヤ形状計測装置10は、タイヤTが回転しながら路面11上を走行する状態を再現できる。
制駆動手段13は、出力軸がタイヤ軸Jに連結されたモーター13aと、このモーター13aの回転数と回転方向とを制御してタイヤ軸Jに付与する駆動力の大きさとブレーキ力の大きさとを制御することで、タイヤTのスリップ率を制御するスリップ率制御手段13bとを備える。
【0019】
CCDカメラ14は、路面11が移動を開始する前の状態である初期状態では、走行部11aの後方側の下方に位置して、タイヤTを接地面側から撮影する。CCDカメラ14のフレームレートとしては秒間30コマ(30fps)であれば通常の解析では問題ない。タイヤ接地挙動を高速度で撮影したい場合などには、CCDカメラ14に代えて高速度カメラを用いればよい。
LEDライン光源15は、透過部となる走行部11aの強化ガラス板Gの下側で、かつ、フレーム23aの内側に、光源取付部材15mを介して取付けられる。
本例では、投光手段を路面11ととともに移動させる構成であるので、LEDライン光源15のような、路面11の延長方向に延長する、透過部となる走行部11aの強化ガラス板G全体に均一に光を投射する長さの長い投光手段を用いている。また、光の照射角度としては強化ガラス板Gに対して入射角がほぼ45°になるように設置することが好ましく、これにより、走行部11a全体を均一な明るさで照らすことができる。このとき、LEDライン光源15がCCDカメラ14に映らないような位置にLEDライン光源15を設置することはいうまでもない。
なお、LEDライン光源15に代えてハロゲンランプをなど他の光源を用いてもよい。要は、光量の調節が可能で、試験中の光量が安定し、かつ、走行部11aに沿って光量がバラつかないものであればよい。
本発明においては、前記のように、走行部11a全体を均一な明るさで照らすようにしているが、実際には反射映り込み等による光ムラがあるため、撮影画像を数値化したときに色ムラが発生することがある。そこで、本例では、図5(a)に示すように、走行部11aの強化ガラス板G上にタイヤTと同質のゴムシート35を載せ、液体のない状態で疑似的に走行させて画像を撮影し、この撮影された画像に基づいて色ムラ(明るさのムラ)を補正するようにしている。本来は、強化ガラス板Gは黒色のゴムシートで覆われているので、路面全体が完全な接地領域になるはずである。しかしながら、実際に撮影した画像は、図5(b)に示すように、色ムラが発生している。暗い部分が完全接地領域で明るい部分が光量ムラが大きい部分である。そこで、撮影した画像全体の明るさをマップ化しておき、実際に撮影したデータから差分処理を行うことで、光量ムラ成分を除去し計測の精度を向上させることができる。
【0020】
移動手段16は2本のガイドレール161とガイド部材162と、移動機構163とを備える。ガイドレール161は前後方向に延長する部材で、基台21上に所定の間隔を隔てて設置される前後方向に延長する2本のレール保持台24上にそれぞれ設けられる。ガイド部材162は路面保持部材23を保持するブロック状の部材で、移動機構163により、ガイドレール161上を前後方向に走行する。
移動機構163は、ボールねじ163aとモーター163bとを備える。ボールねじ163aのネジ軸163jの一端側にはモーター163bの出力軸が連結されてボールねじ163aのナット部163nはガイド部材162に固定されている。モーター163bは基台21上に取付けられたモーター取付台25上に固定されているので、モーター163bの回転によりネジ軸163jが回転するとともに、ナット部163nが前後方向に移動することにより、路面保持部材23を介してガイド部材162に取付けられた路面11が前後方向に移動する。
移動速度はボールねじ163aの正確な位置制御により行われ、ボールねじ163aのナット部163nはガイド部材162に固定されているので、試験時にタイヤTに荷重や前後力、横力が発生しても、ガイド部材162の動きには影響はない。
【0021】
画像処理手段17と形状計測手段18とは、例えば、コンピュータのソフトウェアから構成される。画像処理手段17は、CCDカメラ14で撮影した画像の濃淡分布に対応する各画素の輝度分布を求め、形状計測手段18は、輝度分布からタイヤTと強化ガラス板Gとの間にある液体Lの深さである液体深度を算出し、この液体深度からタイヤTの形状を推定する。
図6(a)〜(c)は、深さ1mmの白く着色した水の層を有する走行部11aをタイヤTが走行したときの撮影画像の一例を示す図で、(a)図は駆動力が作用したときの画像で、(b)図はニュートラル状態(フリーローリング状態)、(c)図は制動力が作用したときの画像である。駆動力作用時のスリップ率は−20%、制動力作用時のスリップ率は20%である。各図において、中央の白い領域Pが水が浸入していない完全接地領域、領域Pの外側の領域Qが接地面から離れている部分(タイヤTと強化ガラス板Gとの間に液体Lの層がある部分)のタイヤTの形状を示す領域、領域Qの外側の領域Rが0.5mm以上の水がある領域である。
また、図7は図6の形状切り出し位置A−Aにおけるタイヤ形状を示す図で、横軸はタイヤ幅方向中心の位置を原点(y=0)としたときの走行部11aの幅方向位置で、縦軸は画像の濃淡から求めた液体深度である。液体深度が0mmの領域Pが完全接地領域である。液体深度が0mm〜0.5mmの領域QはタイヤTの接地面近傍での反射光による像である。領域RではタイヤTには光が当たっていない。
したがって、形状計測手段18にて、図7のようなタイヤ幅方向の液体深度分布をタイヤ前後方向に沿って繋げることにより、タイヤTの接地長だけでなく、タイヤ接地面近傍でのタイヤTの3次元形状を求めることができる。
また、タイヤ軸Jに制駆動力を加えることにより、スリップ率の違いによるタイヤ形状の違いについても計測することができる。
【0022】
次に、本発明のタイヤ形状計測装置10を用いて、タイヤ形状を計測する方法について説明する。
まず、走行部11aの強化ガラス板Gと枠体19とで構成した路面プールに白色の液体Lを所定の深さだけ入れ、校正用のデータを取得する。校正用のデータは、液体Lの深さ(以下、水深という)を変更する毎に行う。なお、前もって、複数の水深について校正用のデータを取得しておいてもよい。
そして、図8(a)に示すように、路面11を路面の進行方向の最後端部である助走部11bの後端側(初期位置)に設定する。この初期位置で図示しないシリンダー装置122のシリンダーロッド122aを伸長させて、タイヤTを助走部11bの後端側に接地させる。
次に、移動機構163のモーター163bを駆動してボールねじ163aのネジ軸163jを回転させて路面11を同図の右方向である後方に移動させる。タイヤTはタイヤ保持手段12に回転可能に取付けられているので、路面11との摩擦により回転しながら助走路11からスロープ19k方向に移動し、図8(b)に示すように、走行部11aの強化ガラス板Gの上面に着地する。
CCDカメラ14によるタイヤ接地面の撮影とタイヤ軸力の測定とは、タイヤTが走行部11aの強化ガラス板Gに着地した時点から開始する。なお、このとき、タイヤTには、シリンダー装置122により、所定の荷重がかけられているものとする。
ボールねじ163aのネジ軸163jの回転により、走行部11aと助走部11bとは同図の右側である後方に更に移動する。すなわち、走行部11aが静止していると考えると、タイヤTは水深の走行部11aを前方に回転しながら走行する。
CCDカメラ14は、回転しながら走行するタイヤTを透明な強化ガラス板GのタイヤTとは反対側からタイヤTの接地面と接地面近傍を撮影する。本例では、LEDライン光源15が透過部である走行部11aの強化ガラス板Gの全長に亘って設けられているので、走行部11a全体を均一な明るさで照らすことができる。
そして、図8(c)に示すように、タイヤTが路面11の前端部まで進んだ時点で撮影を終了し、路面11の移動を停止する。
CCDカメラ14で撮影された画像のデータは画像処理手段17に送られ、画像処理手段17にて画像の各画素の輝度分布が求められる。形状計測手段18では、輝度分布から液体深度を計算して、タイヤTの3次元形状を計測する。
これにより、従来1点もしくは1ラインしか同時に計測できなかったタイヤ接地面と接地面近傍の形状を同時に計測できるので、走行中のタイヤ形状と接地状態とを精度よく計測することができる。また、タイヤ軸力も同時に計測できるので、タイヤ軸力の変化と接地特性及びタイヤ形状との関係を考察することが可能となる。更に、タイヤ接地面に入り込んだ水の量についても計測できるので、タイヤのWET特性も考察できる。
【0023】
このように本実施の形態では、タイヤTを路面11の走行部11aを構成する透明な強化ガラス板G上に接地させるとともに、強化ガラス板Gの表面に設けられた路面プールに白色の液体Lを投入し、移動機構163のボールねじ163aを回転させて路面11を保持するガイド部材162をガイドレール161に沿って前後方向に移動させながら、強化ガラス板GのタイヤTが接地する側とは反対側に設けられたCCDカメラ14により液体L中を走行するタイヤTの形状を撮影し、この撮影された画像からタイヤTの形状を計測するようにしたので、タイヤTが回転しながら走行しているときの接地面の状態や接地面近傍のタイヤの変形状態を精度良く計測することができる。また、タイヤ接地面内における液体の浸入量や液体に漬かっているタイヤ部分の形状も精度よく計測することができるので、WET路におけるタイヤの走行状態についても精度よく把握することができる。
【0024】
なお、前記実施の形態では、タイヤTとして、トレッドパターンのないスムースタイヤを用いたが、トレッド表面にトレッドパターンが形成されているタイヤを用いれば、溝に対応する部分及び水に浸っている部分は反射光の輝度が低下するので、図6(a)〜(c)の中央の白い領域Pはトレッドパターンに対応する濃淡の画像になる。また、水に浸っている部分も入り込んだ液体の深さ(液体深度)に対応した濃淡として画像上に現れるので、接地面内におけるトレッドパターンの変形状態や流体の浸入量などについても精度良く計測することができる。
また、前記例では、路面プールに白色の液体Lを投入してタイヤ接地面の形状を計測したが、DRY路走行時おける接地面のみの形状を計測するのであれば、路面プール及び液体Lを省略してもよい。これにより、従来は計測できなかった、タイヤTを回転させながらDRY路を走行させたときのタイヤ接地面の形状を計測することができる。
また、前記例では、走行部11aを全て透明な強化ガラスで構成したが、路面幅を広くとれる場合には、幅方向中央のみを透明な強化ガラスで構成し、幅方向外側を金属板等で構成してもよい。但し、強化ガラス部分の幅としては、試験するタイヤTのタイヤ幅の2〜5倍とすることが好ましい。
また、路面11を長くする場合などには、前後方向に強化ガラスと金属板とを交互に接合した構成にしてもよい。この場合、金属板の役割は隣接する強化ガラスを連結することなので、前後方向の長さはできるだけ短い方が好ましい。
【0025】
また、前記構成のタイヤ形状計測装置10にタイヤTにスリップ角やキャンバー角を付与する機構を追加すれば、横力が入力したときのタイヤ形状についても計測することができる。スリップ角を付与するには、例えば、取付フレーム22の水平方向に突出する横フレーム22bの延長方向をタイヤ幅方向に対して傾けるか、基台21を水平面内で回転させて路面11の延長方向をタイヤの前後方向に対して傾けるなどすればよい。一方、キャンバー角を付与するには、例えば、タイヤ軸Jをタイヤ支持部材121に取付ける角度を変更するなどすればよい。
実用的には、スリップ角としては±10°程度まで付与できれば十分であり、キャンバー角としては±5°程度まで付与できれば十分である。
【0026】
また、前記例では、移動機構163としてボールねじ163aを用いたが、リニア・アクチュエータやラックピニオン機構など、他の移動機構を用いてもよい。
また、前記例では、路面11を移動させたが、路面を固定してタイヤTとCCDカメラ14とを移動させるような構成としてもよい。
また、図9(a)に示すように、投光手段であるLEDライン光源15sを、光源固定部材15nを介して基台21に固定した構成としてもよい。この場合はLEDライン光源15sの長さは、図9(b),(c)に示すように、CCDカメラ14の撮影範囲をカバーする長さがあれば十分である。
【実施例】
【0027】
本発明によるタイヤ形状計測装置を用いてタイヤ形状を測定した。
走行路は、長さ2000mm×幅800mm×厚さ50mmの透明な強化ガラス板を用い、この強化ガラス板を、ゴム層を介して、樹脂製の枠に固定した。また、樹脂とガラス板との界面は接着剤で接着するとともに、水漏れ防止のためコーキング処理を行った。樹脂製の枠は、実施の形態の枠体19と路面保持部材23とを一体化したものである。
助走路の幅は走行路の幅と同じく800mmとし、長さを1mとした。
そして、走行路と助走路とを、長さ8mのガイドレール上に設置される金属製のガイド部材に固定した。
ガイド部材には長さ8mのボールねじが設置されており、ボールねじのネジ軸はモーターに回転する。本実施例では、路面を0〜10m/min.の範囲で走行させるようにした。
CCDカメラはタイヤ軸の中心軸直下で、強化ガラス板の1m下方に設置した。撮影は、1秒に30枚(30fps)実施した。
樹脂製の枠と強化ガラスで囲まれた路面プール内には、蒸留水に顔料を加えて白く着色した水を水深が1mmになるよう入れ、試験前に校正用のデータを取得した。校正用のデータの取得方法は、実施の形態に記載した通りである。
試験タイヤは、195/65R15のパターンのないスムースタイヤを用いた。
試験タイヤの空気圧は200kPaで、荷重は4kNに設定し、スリップ角とキャンバー角とをともに0°とした。
路面速度は5m/min.の一定条件とし、スリップ率を0、±20%と振った状態でタイヤ形状計測試験を実施した。
また、撮影と同時に、タイヤ軸力を分圧計で計測した。
計測の結果、荷重4kNに対して、発生した前後力は1kNであった。また、路面μは約0.25であった。
このときのタイヤ形状は図6(a)〜(c)に示した通りである。
タイヤ形状は任意の部分け切り出し可能であり、その一部は図7に示した通りである。
図6(a)〜(c)に示すように、タイヤに制動力が付与されるとタイヤには進行方向に対して後ろ向きの力が働き、接地面が後方に移動し、駆動力が付与されると逆に接地面が前方に移動することがわかる。
このように、本発明によるタイヤ形状計測装置を用いることにより、タイヤ形状と接地状態とを精度よく計測することができることが確認された。
【0028】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に記載の範囲には限定されない。前記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者にも明らかである。そのような変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、タイヤが走行しているときの接地面形状及び接地面近傍を含むタイヤの表面形状を精度よく計測することができるので、タイヤの運動性能を含むタイヤ性能を向上するために有効な設計資料を提供することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 タイヤ形状計測装置、11 路面、11a 走行部、11b 助走部、
12 タイヤ保持手段、121 タイヤ支持部材、122 シリンダー装置、
123 分力計、13 制駆動手段、13a モーター、13b スリップ率制御手段、
14 CCDカメラ、15 LEDライン光源、15m 光源取付部材、
16 移動手段、161 ガイドレール、162 ガイド部材、163 移動機構、
163a ボールねじ、163b モーター、17 画像処理手段、
18 形状計測手段、19 枠体、19a〜19d 壁、19k スロープ、
21 基台、22 取付フレーム、23 路面保持部材、23a フレーム、
23b 支持片、24 レール保持台、25 モーター取付台、
T タイヤ、J タイヤ軸、G 強化ガラス板、L 液体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤを回転可能に保持するタイヤ保持手段と、
少なくとも前記タイヤが接地する部分が光を透過させる材料で構成された透過部を備え前記タイヤの前後方向に延長する路面と、
前記透過部の前記タイヤが接地する側とは反対側に設置されて前記タイヤの形状を撮影する撮像手段と、
前記撮像手段と同じ側に設置されて前記タイヤに光を照射する投光手段と、
前記撮像手段で撮影したタイヤの画像を画像処理して各画素の輝度データを算出する画像処理手段と、
前記算出された輝度データから前記タイヤの形状を計測する形状計測手段と、
前記路面を、前記タイヤと前記撮像手段とに対して、前記タイヤの前後方向に相対的に移動させる移動手段とを備えたことを特徴とするタイヤ形状計測装置。
【請求項2】
前記路面のタイヤ側に設けられた枠体と、当該路面と前記枠体とにより形成された空間に収納されて前記透過部の上面に液体層を形成する液体とを備えることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ形状計測装置。
【請求項3】
前記液体は、白色の液体、もしくは、白色に着色された液体であることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ形状計測装置。
【請求項4】
前記タイヤに制動力及び駆動力のいずれか一方もしくは両方を付与する機構を備えることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のタイヤ形状計測装置。
【請求項5】
タイヤを透明板上に接地させ、前記透明板の前記タイヤが接地する側とは反対側から前記タイヤに光を照射して前記タイヤの形状を撮影し、この撮影された画像から前記タイヤの形状を計測するタイヤ形状計測方法において、
前記タイヤを回転可能に保持するとともに、前記透明板の表面に、白色の液体、もしくは、白色に着色された液体から成る液体層を設け、前記透明板を前記タイヤの前後方向に移動させながら前記タイヤの形状を撮影することを特徴とするタイヤ形状計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−154858(P2012−154858A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−15692(P2011−15692)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】