説明

タングステン配線半導体用洗浄剤

【課題】研磨剤由来の研磨粒子残渣の除去性や絶縁膜上の金属残渣の除去性に優れかつ、タングステン配線のタングステン腐食抑制性能に優れたタングステンおよびタングステン合金配線半導体用洗浄剤を提供することを目的とする。
【解決手段】有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)および水(W)を必須成分とし、pHが7.0〜14.0であることを特徴とするタングステンおよびタングステン合金配線半導体用洗浄剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造工程における化学的機械的研磨(以下、「化学的機械的研磨」をCMPと略称する。)工程の後の洗浄工程に用いられる洗浄剤(以下、CMP後洗浄剤と略記する。)に関するものであって、特に表面にタングステンまたはタングステン合金の配線が施された半導体のCMP後洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン半導体に代表される半導体素子は、高性能化、小型化等の市場ニーズに対応して微細化、高集積化が進んでいる。これに伴い微細な配線パターンを作成するための高度な平坦化技術が必須となり、半導体の製造工程において、ウェハ表面をアルミナやシリカの微粒子を含む研磨スラリー(以下、CMPスラリーと略称する。)を用いて研磨するCMP工程が導入されている。
【0003】
しかしながらこのCMP工程では、CMPスラリー中のアルミナやシリカなどの研磨微粒子(以下、「研磨微粒子」を砥粒と略記する。)、研磨を促進するために添加された硝酸鉄水溶液、金属腐食抑制目的で添加されている防食剤、研磨されたタングステン配線金属、タングステン配線のサイドで用いられる亜鉛やマグネシウム金属の残渣などが、研磨後のウェハ上に残留しやすい。これら残留物は配線間の短絡など半導体の電気的な特性に悪影響を及ぼすため、これら残留物を除去し、ウェハ表面を清浄化する必要がある。
従来より、このCMP工程後の洗浄方法として、アンモニア・過酸化水素水溶液や塩酸・過酸化水素水溶液を希フッ酸水溶液と組合せて用いる方法が知られている。しかしこれらの方法では、配線金属に対する腐食が大きいために、微細化の進んだ近年の配線形成プロセスには適用できなくなっている。
【0004】
この腐食を改善するため、より金属に対して腐食性の小さいクエン酸やシュウ酸等の有機酸とアミノポリカルボン酸類等のキレート剤とを含む洗浄剤を用いる洗浄プロセスが提案されている(特許文献1)。
この方法によれば金属配線を腐食させることなく砥粒や金属残渣を除去できるとされており、近年多くのCMPプロセスに適用されているが、ウェハ表面の構成材料によっては砥粒の除去性が十分でないという課題が顕在化してきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−72594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、タングステン配線などの金属配線を腐食させることなく、CMP工程後のウェハ上に残留する成分(CMPスラリー中のアルミナやシリカなどの砥粒、研磨を促進するために添加された硝酸鉄水溶液、配線金属の腐食抑制の目的で添加されている防食剤、および研磨されたタングステン配線金属やタングステン配線のサイドで用いられる亜鉛、マグネシウム金属の残渣)の除去性に優れるタングステンおよびタングステン合金配線半導体用洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成するべく検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、タングステンまたはタングステン合金配線を形成する半導体製造工程におけるCMP工程の後の工程において使用される洗浄剤であって、有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)、および水(W)を必須成分とし、pHが7.0〜14.0であることを特徴とする半導体工程用洗浄剤(D)である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタングステンおよびタングステン合金配線半導体用洗浄剤は、研磨剤由来の砥粒の除去性や絶縁膜上の金属残渣の除去性に優れ、かつタングステン配線の耐腐食性に優れている。
半導体製造工程におけるCMP工程の後の工程において本発明の洗浄剤を用いることにより、接触抵抗に優れ、かつ配線の短絡がない半導体基板又は半導体素子が容易に得られる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤は、有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)、および水(W)からなる合計4つの成分を必須とし、pHが7.0〜14.0であることを特徴とする。
【0010】
本発明における有機アミン(A)としては、鎖状アミン、環状アミンが挙げられる。
鎖状アミンとしては、鎖状モノアミンと鎖状ポリアミンが挙げられる。
鎖状モノアミンとしては、炭素数1〜6の鎖状アルキルモノアミン、炭素数2〜6の鎖状アルカノールアミン(A1)があげられる。
また、鎖状ポリアミン(A2)としては、炭素数2〜5のアルキレンジアミン、炭素数2〜6のポリアルキレンポリアミン等が挙げられる。
【0011】
鎖状モノアミンのうち、炭素数1〜6の鎖状アルキルアミンとしては、アルキルアミン{メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン及びヘキシルアミン等}、のジアルキルアミン{ジメチルアミン、エチルメチルアミン、プロピルメチルアミン、ブチルメチルアミン、ジエチルアミン、プロピルエチルアミン及びジイソプロピルアミン等}、トリアルキルアミン{トリメチルアミン、エチルジメチルアミン、ジエチルメチルアミン、トリエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン等}が挙げられる。
【0012】
鎖状モノアミンのうち、炭素数2〜6の鎖状アルカノールアミン(A1)としては、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、N−(アミノエチル)エタノールアミン、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール及び2−(2−アミノエトキシ)エタノール等が挙げられる。
【0013】
鎖状ポリアミン(A2)のうち、炭素数2〜5のアルキレンジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン及びヘキサメチレンジアミン等が挙げられ、また水酸基で置換されているアルキル基を有するジアミンとしては、2−ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、ジエタノールアミノプロピルアミン等が挙げられる。
【0014】
鎖状ポリアミン(A2)のうち、炭素数2〜6のポリアルキレンポリアミンとしては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ヘキサメチレンヘプタミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン及びペンタエチレンヘキサミン等が挙げられる。
【0015】
環状アミンとしては、芳香族アミンと脂環式アミンが挙げられ、具体的にはC6〜20の芳香族アミン[アニリン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシリレンジアミン、メチレンジアニリン、ジフェニルエーテルジアミン、ナフタレンジアミン、アントラセンジアミン等];C4〜15の脂環式アミン[イソホロンジアミン、シクロヘキシレンジアミン等];C4〜15の複素環式アミン[ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、1,4−ジアミノエチルピペラジン等]等が挙げられる。
【0016】
これらの有機アミン(A)のうち、タングステン耐腐食性と砥粒除去性の観点から好ましくは下記一般式(1)で表されるアルカノールアミン(A1)、または下記一般式(2)で表される鎖状ポリアミン(A2)であり、金属残渣除去性の観点からより好ましくは鎖状ポリアミンであり、特に好ましくは、テトラエチレンペンタミンである。
【0017】
【化1】

【0018】
[式(1)中、R〜R3は、それぞれ独立して水素原子または一部が水酸基で置換されていてもよいアルキル基を示す。但し、R〜R3のうち少なくともいずれか1つは水酸基で置換されているアルキル基を示す。]
【0019】
【化2】

【0020】
[式(2)中、R4〜R8は、それぞれ独立して水素原子または一部が水酸基で置換されていてもよいアルキル基を示す。YとYはそれぞれ独立してアルキレン基を示す。nは0または1〜2の整数を示す。]
【0021】
金属除去性およびタングステン耐腐食性の観点から、タングステン配線を形成する半導体製造工程におけるCMP工程の後の洗浄工程で使用時の有機アミン(A)の含有量は、有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)および水(W)の合計重量に基づいて0.01〜0.3重量%であり、好ましくは0.03〜0.25重量%、さらに好ましくは0.05〜0.2重量%、特に好ましくは0.07〜0.15重量%である。
【0022】
本発明の半導体工程用洗浄剤(D)の必須成分である第4級アンモニウムヒドロキシド(B)としては、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルヒドロキシアルキルアンモニウム塩、ジアルキル−ビス(ヒドロキシアルキル)アンモニウム塩及びトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルアンモニウム塩などが挙げられる。
【0023】
これらの第4級アンモニウムヒドロキシド(B)のうち、砥粒除去性の観点から、下記一般式(3)で表される第4級アンモニウムヒドロキシド(B1)が好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
[式(3)中、R〜R12はそれぞれ独立して一部が水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基を示す。]
【0026】
具体的には、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、(ヒドロキシアルキル)トリアルキルアンモニウムヒドロキシド、ビス(ヒドロキシアルキル)ジアルキルアンモニウムヒドロキシド及びトリス(ヒドロキシアルキル)アルキルアンモニウムヒドロキシドなどが挙げられる。
【0027】
さらに、タングステン耐腐食性の観点からテトラアルキルアンモニウムヒドロキシドおよび(ヒドロキシアルキル)トリアルキルアンモニウムヒドロキシドが好ましく、より好ましくは、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、(ヒドロキシエチル)トリメチルアンモニウムヒドロキシド(コリン)が好ましく、特に好ましくはテトラメチルアンモニウムヒドロキシドである。
【0028】
タングステン配線を形成する半導体製造工程におけるCMP工程の後の洗浄工程で使用時の第4級アンモニウムヒドロキシド(B)の含有量は、砥粒除去性およびタングステン耐腐食性の観点から、有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)および水(W)の合計重量に基づいて、通常0.005〜10重量%であり、好ましくは0.01〜2重量%、さらに好ましくは0.02〜1重量%である。
【0029】
また、有機アミン(A)と第4級アンモニウムヒドロキシド(B)のモル比(B)/(A)は、金属残渣除去性と砥粒除去性の観点から、0.1〜5.0が好ましく、さらに好ましくは0.5〜2.0である。
【0030】
本発明の半導体工程用洗浄剤(D)の必須成分であるキレート剤(C)としては、公知のキレート剤が使用でき、リン系キレート剤(C1)、アミン系キレート剤(C2)、アミノカルボン酸系キレート剤(C3)、カルボン酸系キレート剤(C4)、ケトン系キレート剤(C5)、高分子キレート剤(C6)などが挙げられる。
【0031】
リン系キレート剤(C1)としては、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、トリメタリン酸カリウム、テトラメタリン酸ナトリウム、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸などが挙げられる。
アミン系キレート剤(C2)としては、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルグリオキシム、8−オキシキノリン、ポルフィリンなどが挙げられる。
アミノカルボン酸系キレート剤(C3)としては、エチレンジアミン二酢酸およびその金属塩(金属は、ナトリウム、カリウムなど)中和物、エチレンジアミン四酢酸およびその金属塩中和物、ヘキシレンジアミン二酢酸およびその金属塩中和物、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸およびその金属塩中和物、ニトリロ三酢酸三ナトリウム、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸三ナトリウム、ジエチレントリアミン五酢酸五ナトリウム、トリエチレントトラミン六酢酸六ナトリウム、ジヒドロキシエチルグリシン、グリシン、L−グルタミン酸二酢酸四ナトリウムなどが挙げられる。
カルボン酸系キレート剤(C4)としては、シュウ酸、マレイン酸ニナトリウム、エチレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、グルコン酸、グルコン酸ナトリウムなどが挙げられる。
ケトン系キレート剤(C5)としては、アセチルアセトン、ヘキサン−2,4−ジオン、3−エチルノナン−4,7−ジオンなどが挙げられる。
高分子キレート剤(C6)としては、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリ[2−ヒドロキシアクリル酸ナトリウム]などが挙げられる。
【0032】
これらのキレート剤(C)のうち、金属残渣除去性の観点から、アミン系キレート剤(C2)、アミノカルボン酸系キレート剤(C3)、およびカルボン酸系キレート化剤(C4)が好ましく、さらに好ましいのはアミノカルボン酸系キレート化剤(C3)であり、特に好ましいのはアミノカルボン酸系キレート化剤(C3)のうち、エチレンジアミン四酢酸、ヘキシレンジアミン二酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸である。
【0033】
タングステン配線を形成する半導体製造工程におけるCMP工程の後の洗浄工程で使用時のキレート剤(C)の含有量は、タングステン耐腐食性と金属残渣除去性の観点から、有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)および水(W)の合計重量に基づいて0.0001〜0.2重量%であり、好ましくは0.0005〜0.1重量%であり、特に好ましくは0.001〜0.05重量%である。
【0034】
また、有機アミン(A)と該キレート剤(C)のモル比(C)/(A)は、タングステン耐腐食性と金属残渣除去性の観点から、好ましくは0.001〜5であり、より好ましくは0.003〜3、特に好ましくは0.005〜1である。
【0035】
本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤は、水(W)が必須成分であり、具体的には、電気伝導率(μS/cm;25℃)が小さいものが挙げられる。具体的には、電気伝導率が、金属残渣除去性、入手のしやすさ、およびタングステン配線の再汚染(水中の金属イオンのタングステン配線への再付着)防止の観点から、通常0.055〜0.2、好ましくは0.056〜0.1、さらに好ましくは0.057〜0.08である。このような電気伝導率が小さい水としては、超純水が好ましい。
なお、電気伝導率は、JIS K0400−13−10:1999に準拠して測定される。
【0036】
本発明における半導体工程用洗浄剤(D)の25℃におけるpHは、7.0〜14.0であり、砥粒除去性の観点ならびにタングステン耐腐食性の観点から10.0〜13.5が好ましく、さらに好ましくは12.0〜13.0である。
【0037】
本発明において、半導体工程用洗浄剤(D)のpHは、希釈せずにJIS Z8802−1984に準拠して、市販のpHメーターを用いて25℃で測定される。
【0038】
本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤は、必須成分である有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)および水(W)以外に、必要に応じて、その他の成分(E)として界面活性剤(E1)、還元剤(E2)などを添加してもよい。
【0039】
界面活性剤(E1)は、金属残渣除去性や砥粒除去性向上の観点から添加することができる。
このような界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤及び両性界面活性剤が挙げられる。
界面活性剤を添加する場合、界面活性剤の含有量は、洗浄剤の表面張力を低下させるのに必要な量でよく、本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.0001〜1重量%、好ましくは0.001〜0.1重量%、特に好ましくは0.001〜0.01重量%である。
【0040】
還元剤(E2)としては、有機還元剤及び無機還元剤が挙げられる。有機還元剤としては、カテコールやヒドロキノン、没食子酸などのポリフェノール系還元剤、シュウ酸またはその塩、C6〜9のアルデヒド等が挙げられ、無機還元剤としては、亜硫酸またはその塩、チオ硫酸またはその塩等が挙げられる。
【0041】
これらの還元剤のうち、タングステン耐腐食性の観点から、有機還元剤が好ましく、さらに好ましくはポリフェノール系還元剤、特に好ましくは没食子酸である。
【0042】
これらの還元剤を添加する場合、還元剤の含有量は、タングステンの耐腐食性向上の観点から、本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤の重量に基づいて、通常0.0001〜1.0重量%、さらに好ましくは0.001〜0.5重量%、特に好ましくは0.01〜0.1重量%である。還元剤の含有量が1.0重量%より多くなるとタングステンの耐腐食性が逆に低下してしまう。
【0043】
本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤は、有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)、必要によりその他の成分(E)を水(W)と混合することによって製造することができる。
混合する方法としては、特に限定されないが、容易かつ短時間で均一に混合できるという観点等から、水(W)と有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロシキド(B)を混合し、続いてキレート剤(C)、必要によりその他の成分(E)を混合する方法が好ましい。
混合装置としては、撹拌機又は分散機等が使用できる。撹拌機としては、メカニカルスターラー及びマグネチックスターラー等が挙げられる。分散機としては、ホモジナイザー、超音波分散機、ボールミル及びビーズミル等が挙げられる。
【0044】
本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤は、タングステンまたはタングステン合金配線を有する半導体基板、半導体素子の他にも、タングステンとは異なる金属、例えば銅配線を有する半導体基板や半導体素子、また記録媒体磁気ディスク用のアルミニウム基板、ガラス状炭素基板、ガラス基板、セラミックス基板など、また液晶用ガラス基板、太陽電池用ガラス基板などを洗浄する洗浄方法に使用することができる。
【0045】
タングステン配線を有する半導体基板又は半導体素子などを洗浄する洗浄方法としては、枚葉方式とバッチ方式が挙げられる。枚葉方式は、一枚ずつ半導体基板又は半導体素子を回転させ、タングステン配線半導体用洗浄剤を注入しながら、ブラシを用いて洗浄する方法であり、バッチ方式とは複数枚の半導体基板又は半導体素子をタングステン配線半導体用洗浄剤に漬けて洗浄する方法である。
【0046】
本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤は、タングステンまたはタングステン合金配線を有する半導体基板又は半導体素子を製造する過程において、レジスト現像後、ドライエッチング後、ウェットエッチング後、ドライアッシング後、レジスト剥離後、CMP処理前後及びCVD処理前後等の洗浄工程に使用できる。特に、金属残渣除去性と砥粒除去性の観点から、CMP工程後の洗浄工程に用いることが好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、部は重量部を示す。
【0048】
以下に、実施例1〜5と比較例1〜4のタングステン配線半導体用洗浄剤の調製について説明をする。
【0049】
実施例1
ポリエチレン製300ml容器に、テトラエチレンペンタミン(A−1)(商品名:AFR−AN6、純度99.2%、東ソー株式会社製)0.14部、25%水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液(B−1)(商品名:25%テトラメチルアンモニウムヒドロキシド溶液、純度25%水溶液、多摩化学社製)0.240部、エチレンジアミン四酢酸(C−1)(商品名:キレスト3A、純度98.0%、キレスト株式会社製)0.002部を加えた後、合計重量が100部になるように水(W)99.8部加えた。マグネチックスターラーで撹拌し、本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤(D−1)を得た。得られた洗浄剤のpHは、13.2であった。
【0050】
実施例2
実施例1において、(A−1)の代わりに、モノエタノールアミン(A−2)(純度99%、和光純薬製)0.14部を用い、(B−1)の配合量を0.200部に変更、(C−1)の配合量を0.004部に変更し、合計重量が100部になるように水を加えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤(D−2)を得た。得られた洗浄剤のpHは、12.5であった。
【0051】
実施例3
実施例1において、(B−1)の代わりに、25%水酸化テトラエチルアンモニウム水溶液(B−2)(商品名:25%テトラエチルアンモニウムヒドロキシド溶液、純度25%水溶液、和光純薬製)を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤(D−3)を得た。得られた洗浄剤のpHは、12.4であった。
【0052】
実施例4
実施例1において、(C−1)の代わりに、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(C−2)(純度98.0%、和光純薬製)を用い、0.004部とした以外は実施例1と同様の操作を行い、本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤(D−4)を得た。得られた洗浄剤のpHは、12.9であった。
【0053】
実施例5
実施例4において、(A−1)の配合量を0.07部、(B−1)の配合量を0.08部、(C−1)の配合量を0.006部にそれぞれ変更し、合計重量が100部になるように水を加えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤(D−5)を得た。得られた洗浄剤のpHは、9.2であった。
【0054】
比較例1
実施例1において、(A−1)を配合しない以外は、実施例1と同様な操作を行い、比較のためのタングステン配線半導体用洗浄剤(D’−1)を得た。得られた洗浄剤のpHは、10.4であった。
【0055】
比較例2
実施例1において、(B−1)を配合しない以外は、実施例1と同様な操作を行い、比較のためのタングステン配線半導体用洗浄剤(D’−2)を得た。得られた洗浄剤のpHは、9.1であった。
【0056】
比較例3
実施例1において、(C−1)を配合しない以外は、実施例1と同様な操作を行い、比較のためのタングステン配線半導体用洗浄剤(D’−3)を得た。得られた洗浄剤のpHは、13.4であった。
【0057】
比較例4
エチレンジアミン四酢酸(C−1)0.100部とシュウ酸(純度99%、和光純薬製)5.00部を加えた後、合計重量が100部になるように水を加えた以外は、実施例1と同様な操作を行い、比較のためのタングステン配線半導体用洗浄剤(D’−4)を得た。得られた洗浄剤のpHは、4.5であった。
【0058】
実施例1〜5で作成した本発明のタングステン配線用半導体用洗浄剤(D−1)〜(D−5)、および比較例1〜4で作成した比較のためのタングステン配線半導体用洗浄剤(D’−1)〜(D’−4)について、タングステン耐腐食性、金属残渣除去性、ならびに砥粒除去性を以下の方法で測定し、評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
<タングステン耐腐食性の評価方法>
タングステン耐腐食性の評価は、タングステン単層膜を有するウェハをタングステン配線半導体用洗浄剤中に浸漬させた後、洗浄剤中にウェハから溶出したタングステンの濃度を定量することによって行った。単位面積あたりのタングステンの溶出量が少ないほど、タングステン耐腐食性が優れていると判定した。
以下に、評価方法の手順を示す。
【0061】
(1)タングステン単層膜を有するウェハの前処理
タングステン単層膜を有するウェハ(アドバスマテリアルズテクノロジー製、シリコン基板にタングステン金属を膜厚2μmで蒸着したもの)を、縦1.0cm×横2.0cmの切片に切断し、10%酢酸水溶液に1分間浸漬した後、水で洗浄した。
【0062】
(2)タングステンの溶出
前処理したタングステン単層膜を有するウェハの切片を、タングステン配線半導体用洗浄剤各10gに浸漬し、25℃で3分間静置した後、洗浄剤から取り出した。
【0063】
(3)タングステンの溶出量の測定
タングステン単層膜を有するウェハの切片を浸漬させた後のタングステン配線半導体用洗浄剤を5g取り出し、硝酸水溶液でpHを3.0に調整した。その後、全量が10gになるまで水を加えて測定液とした。
測定液中のタングステンの濃度を、ICP−MS分析装置(誘導結合プラズマ質量分析装置)(アジレントテクノロジー社製、Agilent7500cs型)を用いて測定した。
【0064】
(4)タングステン耐腐食性の評価判定
タングステンの濃度を下記数式(1)に代入し、タングステン溶出量(ng/cm)を算出した。
【0065】
【数1】

【0066】
con:ICP−MS分析で定量した測定液中のタングステン濃度(ppb(ng/g))
F1:試験片を浸漬させたタングステン配線半導体用洗浄剤の液量(g)
F2:pH調整前に取り出したタングステン配線半導体用洗浄剤の液量(g)
F3:測定液の液量(g)
W:タングステンの単層膜を有するウェハにおけるタングステン単層膜の面積(cm
【0067】
算出したタングステン溶出量から、以下の判定基準でタングステン耐腐食性を判定した。○:15ng/cm未満
△:15ng/cm〜20ng/cm
×:20ng/cm以上
【0068】
<金属残渣除去性の評価方法>
金属残渣除去性の評価は、酸化シリコン単層膜を有するウェハを、亜鉛、鉄、およびマグネシウム金属イオンを含有する水溶液に浸漬して汚染させた後、タングステン配線半導体用洗浄剤中に浸漬させることによって洗浄し、ウェハの表面から洗浄剤中に溶出した亜鉛、鉄、およびマグネシウム金属イオンの濃度をICP−MS分析装置(誘導結合プラズマ質量分析装置;アジレントテクノロジー社製、Agilent7500cs型)で定量することによって行った。
ウェハ単位面積あたりの金属イオンの溶出量が多いほど、金属残渣除去性が優れていると判定した。
【0069】
(1)酸化シリコン単層膜を有するウェハの前処理
酸化シリコン単層膜を有するシリコンウェハ(アドバンテック社製、「P−TEOS1.5μ」、酸化シリコンの膜厚=1.5μm。)を、縦1.0cm×横2.0cmの切片に切断し、10%酢酸水溶液に1分間浸漬した後、水で洗浄した。
【0070】
(2)金属イオンを含有する水溶液の調製
硝酸亜鉛0.1部、硝酸鉄0.1部および硝酸マグネシウム0.1部に、全量が100gになるように水を加え、亜鉛、鉄、マグネシウムの金属イオンをそれぞれ0.1%含有する水溶液を調製した。
【0071】
(3)金属イオン水溶液によるウェハの汚染処理
前処理した酸化シリコン単層膜を有するウェハの切片を、金属イオンを含有する水溶液10gに1分間浸漬した後、窒素ブローで乾燥させることにより、ウェハの表面に金属イオンを付着させた。
【0072】
(4)ウェハの洗浄
汚染処理した酸化シリコン単層膜を有するウェハの切片を、タングステン配線半導体用洗浄剤各10gに浸漬した。25℃で3分間静置した後、洗浄剤から取り出した。
【0073】
(5)ウェハの表面から洗浄剤中に溶出した金属イオン濃度の測定
浸漬させた後のタングステン配線半導体用洗浄剤を5g取り出し、硝酸水溶液でpHを3.0に調整した。その後、全量が10gになるまで水を加えて測定液とした。測定液中に含有する亜鉛、鉄、およびマグネシウム金属イオンの濃度を、ICP−MS分析装置を用いて測定した。
【0074】
(6)金属残渣除去性の評価判定
以下の式を用いて各金属イオンの溶出量を計算した。
【0075】
【数2】

【0076】
Metalcon:ICP−MS分析で定量した測定液中の各金属イオン濃度(ppb(ng/g))
G1:試験片を浸漬させたタングステン配線半導体用洗浄剤の液量(g)
G2:pH調整前に取り出したタングステン配線半導体用洗浄剤の液量(g)
G3:測定液の液量(g)
SiO2:酸化シリコンの単層膜を有するウェハにおける酸化シリコン膜の面積(cm
【0077】
算出した各金属イオン溶出量の合計量から、以下の判定基準で金属残渣除去性を判定した。
○:15ng/cm以上
△:10ng/cm〜15ng/cm
×:10ng/cm未満
【0078】
<砥粒除去性の測定方法>
砥粒除去性の評価は、窒化シリコン単層膜を有するウェハをタングステン配線のCMP工程で使用されているCMPスラリーに浸漬して汚染させた後、タングステン合金配線半導体用洗浄剤中に浸漬させた。
洗浄後のウェハを乾燥した後にSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて視野あたりの砥粒の残存度合いを観察した。視野あたりの残存砥粒数が少ないほど、砥粒除去性が優れていると判定した。
【0079】
(1)窒化シリコン単層膜を有するウェハの洗浄
窒化シリコン単層膜を有するウェハ(アドバスマテリアルズテクノロジー製、「PE−CVDSiN1.5μ」、窒化シリコンの膜厚=1.0μm。)を、10%酢酸水溶液に1分間浸漬した後、水で洗浄した。
【0080】
(2)CMPスラリーによる汚染処理
窒化シリコン単層膜を有するウェハを、CMPスラリー(キャボット製、W7000、砥粒の主成分SiO、平均粒子径0.2μm)に1分間浸漬した後、窒素ブローで乾燥させた。得られた汚染処理後ウェハを縦1.0cm×横1.5cmに切断した。
【0081】
(3)タングステン配線半導体用洗浄剤による洗浄
窒化シリコン単層膜を有するウェハを、本発明と比較用のタングステン配線半導体用洗浄剤各10gに浸漬し、25℃で3分間静置した後、窒化シリコン単層膜を有するウェハを洗浄剤から取り出し、窒素ブローにて乾燥させた。
【0082】
(4)洗浄後の窒化シリコン単層膜を有するウェハ表面のSEM観察
洗浄後の窒化シリコン単層膜を有するウェハの表面を、SEM(日立ハイテクノロジー社製、機種名S−4800)を用い、10,000倍の倍率で観察した。
【0083】
(5)砥粒除去性の評価
ウェハの表面のSEM画像から、視野あたりの残存砥粒数を確認し、以下の判定基準で砥粒除去性を判定した。
○:10個未満
△:10個〜20個
×:20個以上
【0084】
表1に示すように、実施例1〜5の本発明のタングステン配線半導体用洗浄剤は、評価した3つの項目すべてで良好な結果が得られた。
一方、有機アミン(A)を含まない比較例1は、金属残渣除去性が不良であり砥粒除去性も不十分であった。また、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)を含まない比較例2は砥粒除去性が不良であり、キレート剤(C)を含まない比較例3は、金属残渣除去性が不良であった。さらに、キレート剤(C)とシュウ酸しか含まない比較例4は、タングステン耐腐食性が不十分であり、また砥粒除去性能が不良であった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明のタングステンおよびタングステン合金配線半導体用洗浄剤は、研磨剤由来の砥粒の除去性や絶縁膜上の金属残渣の除去性に優れかつ、タングステン配線の耐腐食性に優れているため、タングステンまたはタングステン合金配線を形成する半導体製造工程中のCMP工程の後に続く工程において使用される洗浄剤として好適に使用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンまたはタングステン合金配線を形成する半導体製造工程中の化学的機械的研磨の後に続く工程において使用される洗浄剤であって、有機アミン(A)、第4級アンモニウムヒドロキシド(B)、キレート剤(C)、および水(W)を必須成分とし、pHが7.0〜14.0であることを特徴とする半導体工程用洗浄剤(D)。
【請求項2】
該有機アミン(A)が、下記一般式(1)で表されるアルカノールアミン(A1)、または下記一般式(2)で表される鎖状ポリアミン(A2)である請求項1記載の半導体工程用洗浄剤(D)。
【化1】

[式(1)中、R〜R3は、それぞれ独立して水素原子または一部が水酸基で置換されていてもよいアルキル基を示す。但し、R〜R3のうち少なくともいずれか1つは水酸基で置換されているアルキル基を示す。]
【化2】

[式(2)中、R4〜R8は、それぞれ独立して水素原子または一部が水酸基で置換されていてもよいアルキル基を示す。YとYはそれぞれ独立してアルキレン基を示す。nは0または1〜4の整数を示す。]
【請求項3】
該有機アミン(A2)がテトラエチレンペンタミンである請求項2記載の半導体工程用洗浄剤(D)。
【請求項4】
該第4級アンモニウムヒドロキシド(B)が、下記一般式(3)で表される第4級アンモニウムヒドロキシド(B1)である請求項1〜3いずれか記載の半導体工程用洗浄剤(D)。
【化3】

[式(3)中、R〜R12はそれぞれ独立して一部が水酸基で置換されていてもよい炭素数1〜3のアルキル基を示す。]
【請求項5】
該第4級アンモニウムヒドロキシド(B)と該有機アミン(A)のモル比(B)/(A)が、0.1〜5.0である請求項1〜4いずれか記載の半導体工程用洗浄剤(D)。
【請求項6】
該キレート剤(C)と該有機アミン(A)のモル比(C)/(A)が、0.001〜5.0である請求項1〜5いずれか記載の半導体工程用洗浄剤(D)。

【公開番号】特開2011−159658(P2011−159658A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17772(P2010−17772)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(599006351)アドバンスド テクノロジー マテリアルズ,インコーポレイテッド (141)
【Fターム(参考)】