説明

ターゲット

【課題】ターゲットの結晶配向の組織を改善し、スパッタリングを実施した際の、膜の均一性(ユニフォーミティ)を良好にし、スパッタ成膜の品質を向上させ、さらに製造歩留まりを著しく向上させることができるスパッタリング用ターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】平板状のターゲットにおいて、ターゲット材料の中心面から半分に切断し2枚のターゲットとし、またさらに切断前のターゲット材料の中心面に位置する結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えるターゲットを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、膜の均一性(ユニフォーミティ)を良好にし、スパッタ成膜の品質を向上させることができ、さらに製造歩留まりを著しく向上させることができるスパッタリング用ターゲットの製造方法及びターゲットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクス分野、耐食性材料や装飾の分野、触媒分野、切削・研磨材や耐摩耗性材料の製作等、多くの分野に金属やセラミックス材料等の被膜を形成するスパッタリングが使用されている。
スパッタリング法自体は上記の分野で、よく知られた方法であるが、最近では、特にエレクトロニクスの分野において、複雑な形状の被膜の形成や回路の形成に適合する金属又は合金等のスパッタリングターゲットが要求されている。
【0003】
一般に、このような金属又は合金ターゲットは、金属又は合金原料を電子ビーム等の溶解手段により溶解・鋳造したインゴット又はビレットの鍛造、焼鈍(熱処理)を行い、さらに圧延及び仕上げ(機械、研磨等)加工してターゲットに加工されている。
このような製造工程において、インゴット又はビレットの鍛造は、鋳造組織を破壊し、気孔や偏析を拡散、消失させ、さらにこれを焼鈍することにより再結晶化し、組織の緻密化と強度を高めることができる。
溶解鋳造された金属又は合金インゴット又はビレットは、50mm程度の結晶粒径を有している。インゴット又はビレットの鍛造と再結晶焼鈍により、鋳造組織が破壊され、おおむね均一かつ微細(100μm以下の)結晶粒が得られるが、この粗大結晶が最終製品にまで持続するという問題があった。
【0004】
スパッタリングを実施する場合、ターゲットの結晶が細かくかつ均一であるほど均一な成膜が可能であり、安定した特性を持つ膜を得ることができる。
したがって、鍛造、圧延及びその後の焼鈍において発生するターゲット中の不規則な結晶粒の存在は、スパッタレートを変化させるので、膜の均一性(ユニフォーミティ)に影響を与え、スパッタ成膜の品質を低下させるという問題が発生する可能性がある。
また、歪みが残存する鍛造品をそのまま使用することは品質の低下を引き起こすので、極力避けなければならない。
【0005】
一方、マグネトロンスパッタリング装置を用いて金属又は合金ターゲットをスパッタリングすると、磁力線に沿った特定区域のみが特にエロージョンされ(一般にドーナツ型にエロージョンが進む)、それがスパッタリングの終点までエロージョンの進行と共に、次第に急峻となって行く。
エロージョンが特に進行する部分ではターゲットの表面積が増加し、他区域との表面積の差が著しくなる。この表面積の差異は、スパッタレートの差異となり、表面積の増加しスパッタが集中する部分に対面する位置の基板(ウエハー)個所では、膜が厚く形成され、逆にスパッタが少ない部分では、薄く形成されるという傾向にある。
これは、単一のウエハーにおける不均一な膜の形成になるだけでなく、スパッタされる多数枚のウエハーの初期から終端にかけて膜の厚さが変動するという問題が発生する。すなわち、スパッタ成膜のユニフォーミティの低下となる。
このようなスパッタ成膜のユニフォーミティを改善する方法として、一般にできるだけ組織を均一にすること、特にターゲットの厚み方向の全てに亘って結晶方位を揃えることが提案された。しかし、結晶方位を揃えただけでは、前記の表面積の変動に起因するスパッタ膜のユニフォーミティの低下を解決できないという問題があった。
【0006】
ターゲットには一般に4N〜8N程度の高純度金属や合金が使用されているが、この様な高純度金属は極めて高価である。例えば材料によっては、1Nアップすると5倍〜10倍の値段になってしまうこともある。このようなことから、ターゲットの製造工程において歩留まりの向上は極めて重要な課題である。
また、金属系ターゲットはスパッタ膜の特性を向上させるため、上記のように金属学的に組織を制御する必要があり、これは鍛造、圧延などの塑性加工と焼鈍や再結晶などの熱処理工程によって達成される。
鉄やタンタルなどは冷間で塑性加工できるが酸化(酸素が拡散)し易く、真空中あるいは非酸化性雰囲気で熱処理をしなければならないが、たとえ高真空中(10−4〜10−6torr程度)で熱処理しても、ターゲットとしての品質を保証しなければならないので、熱処理前後で機械的あるいは化学的(酸洗など)に表面の汚染層(酸化層)を除去しなければならない。
特に、最終熱処理後は表面の汚染層は完全に除去する必要があるので、かなりの厚さをターゲット両面から除去しなければならず歩留まりが著しく低下するという問題があった。
【0007】
従来の金属又は合金パッタリングターゲット又は高純度金属又は合金の製造方法として、面心立方格子(FCC)をもつアルミニウム、金、白金、銅、ニッケル、パラジウム及びこれらの合金からなるターゲットが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、圧延及び鍛造工程により製造された(100)の等軸晶構造を持ちかつ最大粒径が50ミクロン以下の99.95wt%タンタルスパッタリングターゲットが開示されている(例えば、特許文献2参照)。
また、均一なスパッタリングが可能な微細構造をもつ高純度タンタルターゲット、特に平均結晶粒径が100μm以下で、ターゲットの厚さ方向に均一にかつ(111)<uvw>が優先的に配向している結晶構造の高純度タンタルターゲットが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特表平5−508509号公報
【特許文献2】特表2002−518593号公報
【特許文献3】米国特許第6331233号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するために、ターゲットの結晶配向の組織を改善し、スパッタリングを実施した際の、膜の均一性(ユニフォーミティ)を良好にし、スパッタ成膜の品質を向上させ、さらに製造歩留まりを著しく向上させることができるスパッタリング用ターゲット及びその製造方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、
1.平板状のターゲットにおいて、ターゲット材料厚みの中心面から半分に切断し2枚のターゲットとすることを特徴とするターゲットの製造方法
2.半分に切断後、切削・研磨等の表面仕上げによりターゲットとすることを特徴とする上記1記載のターゲットの製造方法
3.主たる結晶構造が体心立方格子(BCC)である金属又は合金であることを特徴とする上記1又は2記載のターゲットの製造方法
4.鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、バナジウムから選択した金属又はこれらの金属を主成分とする合金であることを特徴とする上記1〜3のそれぞれに記載のターゲットの製造方法
5.切断した2枚のターゲットが、切断面を面対称として結晶配向が厚さ方向に変化していることを特徴とする上記1〜4のそれぞれに記載のターゲットの製造方法
6.切断前のターゲット材料の中心面に位置する結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えていることを特徴とする上記1〜5のそれぞれに記載のターゲットの製造方法
7.切断前のターゲット材料の厚さの30%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織を備えていることを特徴とする上記1〜6のそれぞれに記載のターゲットの製造方法
8.切断前のターゲット材料の厚さの20%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織を備えていることを特徴とする上記1〜6のそれぞれに記載のターゲットの製造方法
9.切断前のターゲット材料の厚さの10%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織を備えていることを特徴とする上記1〜6のそれぞれに記載のターゲットの製造方法、を提供する。
【0011】
また、本発明は、
10.ターゲットのスパッタ表面からその裏面に向かって、結晶配向が変化していることを特徴とするターゲット
11.ターゲットのスパッタ表面からその裏面に向かって、結晶配向が変化しているターゲットであり、該ターゲットのスパッタ表面又はその裏面の結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えていることを特徴とするターゲット
12.ターゲット材料の中心面から半分に切断し2枚の平板状のターゲットであり、該切断した2枚のターゲットが、切断面を面対称として結晶配向が厚さ方向に変化していることを特徴とするターゲット
13.ターゲット材料の中心面から半分に切断し2枚の平板状のターゲットであり、該切断した2枚のターゲットが、切断面を面対称として結晶配向が厚さ方向に変化しており、かつ該ターゲットのスパッタ表面又はその裏面の結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えていることを特徴とするターゲット。
14.主たる結晶構造が体心立方格子(BCC)である金属又は合金であることを特徴とする上記10〜13のそれぞれに記載のターゲット
15.鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、バナジウムから選択した金属又はこれらの金属を主成分とする合金であることを特徴とする上記10〜14のそれぞれに記載のターゲット
16.ターゲットの平均結晶粒径が250μm以下であることを特徴とする上記10〜15のそれぞれに記載のターゲット
17.ターゲットの平均結晶粒径が80μm以下であることを特徴とする上記10〜15のそれぞれに記載のターゲット
18.ターゲットの平均結晶粒径が30〜60μmであることを特徴とする上記10〜15のそれぞれに記載のターゲット
19.上記1〜9の製造方法によって得られたターゲット、を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、平板状のターゲットにおいて、ターゲット材料の中心面から半分に切断し2枚のターゲットとし、またさらに切断前のターゲット材料の中心面に位置する結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えるターゲットを製造することにより、ターゲットの結晶配向の組織を改善し、スパッタリングを実施した際の、膜の均一性(ユニフォーミティ)を良好にし、スパッタ成膜の品質を向上させ、さらに製造歩留まりを著しく向上させることができるスパッタリング用ターゲット及びその製造方法を得ることができるという優れた効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のターゲットの製造方法は、平板状のターゲットにおいて、ターゲット材料の中心面から半分に切断し2枚のターゲットとする。半分に切断後のターゲット材料は、切削・研磨等の表面仕上げによりターゲットとする。すなわち、最終熱処理等の終了後(金属学的組織制御完了後)、半分に分割するものであり、その後塑性加工は実施しない。
歩留まりを向上させる手段として、例えばターゲットを柱状(とくに円柱状)素材に製造し、これをスライスして製造することが考えられる。しかし、近年益々ターゲット直径が大きくなってきており、柱状で結晶粒径が微細なターゲット素材を製造することは鍛造装置などの制約もあり殆ど不可能である。
【0014】
したがって、圧延やプレスなどで平板化することが必要である。この平板化によって特に体心立方晶(BCC)の金属は中心面近傍に(222)面を配向させることが可能であり、このようなターゲットはエロージョンの進行に伴う膜のユニフォーミティの変動に対して抑制効果があり、スパッタライフを通じてのユニフォーミティが安定することが判明した。この有効な発明については、本発明者が既に特許出願を行っている(特願2002−274308参照)。ユニフォーミティに関する本発明の作用効果に関する詳細は後述する。
このユニフォーミティが良好という効果と歩留まり向上という困難な問題を解決するためには半分に切断(2等分)することが重要であり、3等分、4等分・・・では、ターゲット素材が大きくなり結晶粒径が制御できないだけでなく、結晶配向の変化が同様であるターゲットを製造できない。
【0015】
切断方法に関しては特に限定しないが、熱影響の少ない切断方法でなければならない。熱影響が多いとこの熱影響層(汚染層)の切削量が増加してしまい逆に歩留まりが低下してしまう。きりしろが少なく、同時に複数枚切断できるワイヤー切断、ウォータジェット切断、放電切断などの方法を用いることができる。
本発明のスパッタリングターゲットの製造方法は、特に主たる結晶構造が体心立方格子(BCC)である金属又は合金に有効である。具体的には、鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、バナジウムから選択した金属又はこれらの金属を主成分とする合金に適用できる。
【0016】
本発明の切断された2枚のターゲットは、切断面を面対称として結晶配向が厚さ方向に変化して構造のスパッタリングターゲットとすることができる。また、切断前のターゲット材料の中心面に位置する結晶配向を(222)優先である結晶組織を備えているターゲットとすることができる。
また、この条件として、切断前のターゲット材料の厚さの30%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織、また切断前のターゲット材料の厚さの20%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織、さらには切断前のターゲット材料の厚さの10%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織を備えている前記切断された2枚のターゲットとすることができる。これらの組織は、スパッタライフを通じてのユニフォーミティが安定するという効果を有する。
この位置は、タンタルターゲットの寸法若しくは形状又は目的とする成膜の条件によって適宜調節することができる。
【0017】
ターゲット材料の中心面から半分に切断した2枚の平板状(円盤状)のスパッタリングターゲットの使用に際しては、スパッタ面からその裏面に向かって、結晶配向が変化しているターゲットとして使用できる。
特に、2枚のターゲットが切断面を面対称として結晶配向が厚さ方向に変化しているターゲットとして使用できる。この場合、ターゲットのスパッタ面又はその裏面の結晶配向が(222)優先である結晶組織を有する構造とすることができる。
結晶の配向については、上記のように(222)を優先配向とすることができるが、ターゲットの周縁部にまで(222)配向としなくても良い。ターゲットの周縁部はエロージョンが少なく、スパッタ後期までエロージョンが到達することがないので、特に影響を受けることがない。
ターゲットの平均結晶粒径は、250μm以下、特に80μm以下、さらには30〜60μmとすることができる。
【0018】
従来のターゲットにおいて(110)、(200)、(211)が主配向となっている場合、成膜速度(デポレート)が比較的速いので生産性が向上し、むしろ好ましいと言える。しかし、スパッタリング開始後、ほぼ磁力線に沿ってエロージョンが進む。すなわちターゲットの平面上ではドーナツ型にエロージョンが進み、次第に急峻となって行くが、エロージョンが特に進行する部分ではターゲットの表面積が増加し、他区域との表面積の差が著しくなる。
この表面積の差異は、スパッタされる量、すなわちスパッタレートの差異となり、表面積の増加しスパッタが集中する部分に対面する基板(ウエハー)の位置又はその近傍では膜が厚く形成され、逆にスパッタが少ない部分では薄く形成されるという問題が生じ、スパッタ膜のユニフォーミティの低下となる。
【0019】
しかし、本発明の表面(初期エロージョン面)に(222)優先配向の結晶組織を持つターゲットは、このようなスパッタ膜のユニフォーミティの低下を著しく減少させることができる。このような現象は必ずしも解明された訳ではないが、次のように考えられる。
本発明のターゲットの(222)配向の組織は、他の配向に比べ成膜速度(デポレート)が遅いという特性をもつ。
この意味は非常に大きく(222)配向の組織が、スパッタ初期に基板に形成される膜の総厚およびウエハー内の膜厚分布を均一化し、ユニフォーミティの低下を防止する役割をする。
【0020】
他方、本発明の裏面側に(222)優先配向の結晶組織を持つターゲットを使用した場合、表面(初期エロージョン面)には(110)、(200)、(211)が主配向となっているので、磁力線に沿い、ターゲット面上においてドーナツ型にエロージョンが急速に進行する。
これは従来のエロージョンと差異がなく、さらにエロージョンを受けて、エロージョン部は次第に急峻なる。また、これによってターゲットの平面的にスパッタレートが変化し、スパッタ膜のユニフォーミティが低下する。
そして、エロージョン面は上記のように起伏が大きくなるので、その部分のターゲット表面積がさらに増加し、ユニフォーミティの低下は加速度的に大きくなる傾向がある。
【0021】
しかし、本発明の裏面側に(222)配向の組織を持つターゲットを使用した場合には、ある程度エロージョンが進行した途中からエロージョン面に(222)配向の組織が現れる。この(222)配向の組織は、上記のように他の配向に比べ成膜速度(デポレート)が遅いという特性を持つ。
したがって、途中から出現する(222)配向の組織が、急峻かつ不均一(部分的)なエロージョンの急速な進行はするものの成膜速度(デポレート)の遅い(222)配向の組織が相殺して基板に形成される膜の総厚およびウエハー内の膜厚分布を均一化し、ユニフォーミティの低下を防止する役割をする。
ターゲット表面のエロージョンはある程度進んでいるので、ターゲットの外観は、従来のそれとはそれほど差があるようには見えない。しかし、成膜の均一性には大きな差異が見られることが確認できた。
【0022】
(222)配向が優先的である結晶組織を、ターゲット厚さのどの地点から配置するかについては、ターゲットの厚さ、面積等のサイズ及び求められる成膜の条件によって変えることができるが、ターゲットの中心面に向かって30%の位置若しくは厚さの20%の位置又は厚さの10%の位置から、(222)配向を任意に選択できる。
エロージョンがある程度進行した情況で、(222)配向の結晶組織とすることが望ましい。表面から中心部にかけて均一な組織を有するターゲットでは、上記のように表面のエロージョンが不均一に起こるので、むしろ成膜の均一性は確保できないと言える。
本件発明者らは、先の出願(特願2002−274308)において、ターゲット厚さの30%の位置からターゲットの中心面に向かって、(222)配向が優先的である結晶組織をもつスパッタリングターゲットを提案した。これは膜の均一性(ユニフォーミティ)を良好にする上で、従来よりも優れたものであるが、スパッタの後期、つまり最もエロージョン表面が急峻で、表面積が大きい時期に(222)配向の部分をスパッタしきって(使い切って)しまい、表面と同様の配向が出現することで、(222)配向のユニフォーミティ悪化抑制効果がなくなるということがあった。
しかし、本発明は接合面まで(222)配向が持続するため、(222)配向の効果が持続したままライフエンドまで使用できる特徴を持つ。
上記の通り、本発明の表面(初期エロージョン面)に(222)優先配向の結晶組織を持つターゲット及び裏面側に(222)配向の組織を持つターゲットを使用した場合いずれも、基板に形成される膜の総厚およびウエハー内の膜厚分布を均一化し、ユニフォーミティの低下を防止する効果を有する。
本発明のターゲットは、製造歩留まりを著しく向上させることができる構造なので、上記のような(222)優先配向のターゲットの使用形態に固執することなく使用できることは言うまでもない。
【0023】
本発明のスパッタリングターゲットは、次のような工程によって製造する。この製造工程は、他の金属又は合金材料に応じて適宜変更できるものであり、下記の製造条件に制限されるものではない。
まず金属又は合金原料(通常、4N5N以上の高純度金属を使用する)を電子ビーム溶解等により溶解し、これを鋳造してインゴット又はビレットを作製する。
次に、このインゴット又はビレットをターゲット厚さの30%の位置若しくは厚さの20%の位置又は厚さの10%の位置からターゲットの中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織が形成されるように、熱間鍛造、冷間鍛造、圧延、焼鈍(熱処理)、仕上げ加工等の一連の加工を行う。
また、これによってターゲットの中心部において、すなわちターゲットの初期エロージョン部位の直下又はスパッタリングが進行した場合のエロージョン部位となる位置又はこれらの近傍位置において、円盤状に(222)配向が優先的である結晶組織を形成することができる。
【0024】
鍛造、再結晶焼鈍及び圧延加工を行って(222)配向が優先的である結晶組織をターゲット中心部に形成した場合、これらの形成鍛造、再結晶焼鈍及び圧延加工条件を調整してもターゲットの周縁部まで(222)配向が優先的である結晶組織を形成することが難しい。
ターゲットの(222)配向の無い部分を切除することもできるが、歩留まりが低下するという問題がある。しかし、この周縁部はエロージョンが殆ど進行せず、成膜に特に影響を与える部分ではないので、周縁部を除いて円盤状に(222)配向させることができる。
【0025】
さらに、鍛造の条件については、鍛造及び再結晶焼鈍を2回以上繰返すことによって、上記の組織を持つ金属又は合金ターゲット材料を効率良く製造することができる。また、(222)配向が優先的である結晶組織を形成するのに十分な鍛造が要求されるが、据えこみと鍛伸を繰り返すこねくり鍛造を行うことが特に有効である。
さらに、鍛造後クロス圧延(マルチ方向圧延)及び熱処理により平板状のターゲットに加工することが有効である。焼鈍条件としては、金属材料によっても異なるが、一般にインゴット又はビレットを鍛造した後に、再結晶化温度〜1673Kの温度で再結晶焼鈍することが望ましい。再結晶開始温度〜1673Kの温度での再結晶焼鈍は1回でも良いが、2回繰返すことによって目的とする鋳造組織をより効果的に得ることができる。
【0026】
焼鈍温度は1673Kを超えると温度ロスが大きく、無駄となるので1673K以下とするのが望ましい。
これらによって、ターゲット厚さの30%の位置若しくは厚さの20%の位置又は厚さの10%の位置からターゲット材料の中心面に向かって、(222)配向が優先的である結晶組織を備えた金属又は合金スパッタリングターゲット材料を得ることができ、またターゲット材料の平均結晶粒径を250μm以下、80μm以下、さらには30〜60μmの微細結晶粒とするタンタルターゲット材料を製造することができる。
【0027】
次に、このように製造したターゲット材料を中心面から半分に切断し2枚のターゲットを得る。勿論、以上の工程においては、2枚取りに十分な厚さのターゲット材料として製造する。この切断の前又は後において、ターゲット材料の上面及び下面は研削及び又は研磨し汚染層及び加工変質層等を除去し、清浄面とする。
切断面の切り代は通常0.15〜0.4mm程度であり、これは表面の研削面に比べ、極めて少ない量であり、また切断面それ自体が清浄に近いので、これを研削する場合も極めて少量で済む。したがって、総合的にはほぼ片面の研削で済むと言える程度のものである。これによって、1個当たりのターゲット歩留まりは著しく向上する。
【実施例】
【0028】
次に、実施例について説明する。なお、本実施例は発明の一例を示すためのものであり、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。すなわち、本発明の技術思想に含まれる他の態様及び変形を含むものである。
【0029】
(実施例1)
純度99.997%のタンタル原料を電子ビーム溶解し、これを鋳造して長さ 1000mm、直径200mmφのインゴットとした。この場合の結晶粒径は約50mmであった。次に、このインゴットを冷間で締め鍛造し、110mmφとした後、切断し、厚さ110mm、直径110mmφのビレットとした。このビレットを冷間でこねくり鍛造した後、1173Kの温度での再結晶焼鈍し、再度 冷間こねくり鍛造し、再び1173Kの温度で再結晶焼鈍を実施した。
次に、鍛造インゴットを冷間圧延(マルチ方向)し、1173Kでの歪取り兼再結晶熱処理を行い、厚さ25mm、380mmφのターゲット素材を得、仕上げ機械加工を行って、厚さ17.65mm、350mmφのターゲット材料とした。
【0030】
以上の工程により、ターゲット厚さの30%の位置からターゲットの中心面に向かって、(222)配向が優先的である結晶組織を備え、かつ平均結晶粒径45μmの微細結晶粒を持つ均一性に優れたタンタルターゲット材料を得ることができた。
この厚さ17.65mm、350mmφのターゲット材料の両面から1.825mmの汚染層を除去し、さらに中心面からワイヤー切断した。この切断の切り代は0.3mmであった。そして、切断した面を0.5mm面削して厚さ6.35mm厚さのターゲットを2枚作製した。
この2枚のターゲットを作製する場合に、切断と切削による材料の厚さのロスは合計で4.95mmであった。これは、比較例1に示す通常の1枚のターゲット材料を両面研削する場合に比べて約12%の歩留まり増加になっている。この結果を表1に示す。
【0031】
次に、この切断面をボンディング側としてCu−Cr合金バッキングプレートに拡散接合し、ターゲット/バッキングプレート組立体とした。
このタンタルターゲットを使用してスパッタリングを実施したところ、膜の均一性(ユニフォーミティ)が良好であり、スパッタ成膜の品質を向上させることができた。この結果を、表2に示す。
なお、ユニフォーミティの調査はシート抵抗の分布を調べたものである。シート抵抗は膜厚に依存するので、ウエハー(8インチ)内のシート抵抗の分布を測定し、それによって膜厚の分布状況を調べた。具体的には、ウエハー上の49点のシート抵抗を測定し、その標準偏差(σ)を算出した。
表2から明らかなように、実施例1においては、スパッタ初期から後期にかけてユニフォーミティが良好である。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
(実施例2)
実施例1と同様にして製造したタンタルターゲットについて、このターゲットの切断面をエロージョン側としてCu−Zn合金バッキングプレートに拡散接合し、ターゲット/バッキングプレート組立体とした。
このタンタルターゲットを使用してスパッタリングを実施したところ、膜の均一性(ユニフォーミティ)が良好であり、スパッタ成膜の品質を向上させることができた。この結果を、同様に表2に示す。
表2の実施例2に示す結果は、実施例1と同様にしてウエハー上の49点のシート抵抗を測定し、その標準偏差(σ)を算出した結果である。本実施例2では、スパッタ初期から後期にかけてシート内抵抗分布の変動が少ない、すなわち膜厚分布の変動が少ないことを示している。
【0035】
(比較例1)
実施例1と同様の工程によって厚さ17.65mm、350mmφのタンタルターゲット材料を1枚ずつ2枚製造し、同ターゲット材料の両面からそれぞれ表裏1.825mmの汚染層を除去した。この2枚のターゲットを作製する場合に、切削による材料の厚さのロスは合計で7.30mmであった。
実施例1に比べてターゲット2枚の厚さのロスは7.30mm−4.95mm=2.35mmになり大幅な増加となっている(1枚分のロス増は1.175mmである)。
次に、このタンタルターゲットをCu−Cr合金バッキングプレートに拡散接合し、ターゲット/バッキングプレート組立体とした。
このタンタルターゲットを使用してスパッタリングを実施したところ、膜の均一性(ユニフォーミティ)が実施例に比べやや劣る結果となった。この結果を、表2に示す。
表2の実施例2に示す結果は、実施例1と同様にしてウエハー上の49点のシート抵抗を測定し、その標準偏差(σ)を算出した結果である。本比較例1では、表2から明らかなように、概ね良好ではあるが実施例1及び2に比べ、スパッタ中期から後期にかけてユニフォーミティがやや悪くなっている。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、平板状のターゲットにおいて、ターゲット材料の中心面から半分に切断し2枚のターゲットとし、またさらに切断前のターゲット材料の中心面に位置する結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えるターゲットを製造することにより、ターゲットの結晶配向の組織を改善し、スパッタリングを実施した際の、膜の均一性(ユニフォーミティ)を良好にし、スパッタ成膜の品質を向上させ、さらに製造歩留まりを著しく向上させることができるので、スパッタリング用ターゲット及びその製造方法として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のターゲットにおいて、ターゲット材料厚みの中心面から半分に切断し2枚のターゲットとすることを特徴とするターゲットの製造方法。
【請求項2】
半分に切断後、切削・研磨等の表面仕上げによりターゲットとすることを特徴とする請求項1記載のターゲットの製造方法。
【請求項3】
主たる結晶構造が体心立方格子(BCC)である金属又は合金であることを特徴とする請求項1又は2記載のターゲットの製造方法。
【請求項4】
鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、バナジウムから選択した金属又はこれらの金属を主成分とする合金であることを特徴とする請求項1〜3のそれぞれに記載のターゲットの製造方法。
【請求項5】
切断した2枚のターゲットが、切断面を面対称として結晶配向が厚さ方向に変化していることを特徴とする請求項1〜4のそれぞれに記載のターゲットの製造方法。
【請求項6】
切断前のターゲット材料の中心面に位置する結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えていることを特徴とする請求項1〜5のそれぞれに記載のターゲットの製造方法。
【請求項7】
切断前のターゲット材料の厚さの30%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織を備えていることを特徴とする請求項1〜6のそれぞれに記載のターゲットの製造方法。
【請求項8】
切断前のターゲット材料の厚さの20%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織を備えていることを特徴とする請求項1〜6のそれぞれに記載のターゲットの製造方法。
【請求項9】
切断前のターゲット材料の厚さの10%の位置からターゲット材料の中心面に向かって(222)配向が優先的である結晶組織を備えていることを特徴とする請求項1〜6のそれぞれに記載のターゲットの製造方法。
【請求項10】
ターゲットのスパッタ表面からその裏面に向かって、結晶配向が変化していることを特徴とするターゲット。
【請求項11】
ターゲットのスパッタ表面からその裏面に向かって、結晶配向が変化しているターゲットであり、該ターゲットのスパッタ表面又はその裏面の結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えていることを特徴とするターゲット。
【請求項12】
ターゲット材料の中心面から半分に切断し2枚の平板状のターゲットであり、該切断した2枚のターゲットが、切断面を面対称として結晶配向が厚さ方向に変化していることを特徴とするターゲット。
【請求項13】
ターゲット材料の中心面から半分に切断し2枚の平板状のターゲットであり、該切断した2枚のターゲットが、切断面を面対称として結晶配向が厚さ方向に変化しており、かつ該ターゲットのスパッタ表面又はその裏面の結晶配向が(222)優先である結晶組織を備えていることを特徴とするターゲット。
【請求項14】
主たる結晶構造が体心立方格子(BCC)である金属又は合金であることを特徴とする請求項10〜13のそれぞれに記載のターゲット。
【請求項15】
鉄、タンタル、ニオブ、モリブデン、タングステン、バナジウムから選択した金属又はこれらの金属を主成分とする合金であることを特徴とする請求項10〜14のそれぞれに記載のターゲット。
【請求項16】
ターゲットの平均結晶粒径が250μm以下であることを特徴とする請求項10〜15のそれぞれに記載のターゲット。
【請求項17】
ターゲットの平均結晶粒径が80μm以下であることを特徴とする請求項10〜15のそれぞれに記載のターゲット。
【請求項18】
ターゲットの平均結晶粒径が30〜60μmであることを特徴とする請求項10〜15のそれぞれに記載のターゲット。
【請求項19】
請求項1〜9の製造方法によって得られたターゲット。

【公開番号】特開2009−108412(P2009−108412A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287512(P2008−287512)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【分割の表示】特願2003−4348(P2003−4348)の分割
【原出願日】平成15年1月10日(2003.1.10)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】