説明

ターボチャージャの異常判定装置

【課題】エンジンに装備されるターボチャージャにおいて、ベアリングのオイルコーキング発生量とベアリングの磨耗量の増大に起因するターボチャージャ異常を判定できるようにする。
【解決手段】現在のアイドル運転時のウエストゲートバルブ121の開閉によるターボチャージャ回転数の変化量Bが、経時劣化に基づいて想定される通常の範囲(A−C)よりも小さい場合にはターボチャージャ異常と判定して、例えば警告ランプ(MIL)を点灯する。このような構成により、オイルコーキング発生量とベアリングの磨耗量が大となって、ターボチャージャ100の経時劣化(ターボ回転数低下)が想定以上に大きくなった場合には、ターボチャージャ100が異常であると判定することが可能となり、そのターボチャージャ異常を警告ランプの点灯等によってユーザが知ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関に装備されるターボチャージャの異常判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関(以下、エンジンともいう)には、排気エネルギを利用したターボチャージャ(過給機)が装備されている。ターボチャージャは、一般に、エンジンの排気通路を流れる排気ガスによって回転するタービンホイールと、吸気通路内の空気を強制的にエンジンの燃焼室へと送り込むコンプレッサインペラと、これらタービンホイールとコンプレッサインペラとを連結する連結シャフトと、この連結シャフトを支持するベアリング(ターボベアリング)とを備えている。このような構造のターボチャージャにおいては、排気通路に配置のタービンホイールが排気のエネルギによって回転し、これにともなって吸気通路に配置のコンプレッサインペラが回転することによって吸入空気が過給され、エンジンの各気筒の燃焼室に過給空気が強制的に送り込まれる。
【0003】
この種のターボチャージャにおいて、過給圧を制御する方法として、例えば、タービンホイールをバイパスする排気バイパス通路を設けるとともに、その排気バイパス通路を開閉するウエストゲートバルブを設け、このウエストゲートバルブの開度を調整し、タービンホイールをバイパスする排気ガス量を調整することによって過給圧を制御する方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−056843号公報
【特許文献2】特開2009−228601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エンジンに装備されるターボチャージャにあっては、ターボチャージャの高回転時等においてターボベアリングが高温にさらされると、潤滑オイルのオイル成分がコーキング(炭化)しやすくなる。オイルコーキングが発生すると、ターボベアリングのフリクションが大きくなり、また、オイルコーキング物(塊)によってベアリング内周部が磨耗する場合がある。このようなオイルコーキングやベアリングの磨耗(劣化)は、運転時間(走行距離)の増大にともなって大きくなる傾向にあり、さらに、過度の加速や長時間の高速運転などのハードな運転が行われると劣化度合いが高くなる。そして、そのような劣化量つまりオイルコーキングの発生量やベアリングの磨耗量が大となると、ターボチャージャの過給効率の低下(排圧の上昇)につながり、エンジンの出力低下及び燃費(燃料消費率)悪化が懸念される。さらに、ドライバビリティが悪化するおそれもある。
【0006】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、エンジンに装備されるターボチャージャにおいて、ベアリングのオイルコーキング発生量とベアリングの磨耗量の増大に起因するターボチャージャ異常を的確に判定することが可能な異常判定装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車載の内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサインペラと、前記内燃機関の排気通路に設けられたタービンホイールと、前記タービンホイールの上流側と下流側とを連通する排気バイパス通路と、前記排気バイパス通路に設けられたウエストゲートバルブとを備えたターボチャージャの異常を判定する異常判定装置を前提としており、このようなターボチャージャの異常判定装置において、前記内燃機関のアイドル運転時に前記ウエストゲートバルブを開閉し、そのウエストゲートバルブ開閉による前記ターボチャージャの回転数の変化量が、当該ターボチャージャの経時劣化に基づいて想定される通常の範囲外である場合はターボチャージャ異常と判定する異常判定手段を備えていることを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、現在のアイドル運転時のウエストゲートバルブ開閉によるターボチャージャ回転数の変化量が、経時劣化(具体的には、通常運転状態での経時劣化)に基づいて想定される通常の範囲外である場合はターボチャージャ異常と判定するので、オイルコーキング発生量とベアリングの磨耗量が大となって、ターボチャージャの経時劣化(ターボ回転数低下)が想定以上になった場合には、ターボチャージャが異常であると判定することができる。そして、ターボチャージャ異常と判定した場合には、例えば、警告ランプ(MIL)を点灯し、ユーザに対して異常を知らせてディーラ等での点検・修理等を促すことによって、ターボチャージャ(エンジン)の故障を未然に防止することができる。
【0009】
本発明において、ターボチャージャ異常判定の具体的な構成として、初期のアイドル運転時のウエストゲートバルブ開閉でのターボチャージャ回転数の変化量をA、アイドル運転時におけるターボチャージャ回転数の経時劣化量をC、現在のアイドル運転時のウエストゲートバルブ開閉によるターボチャージャ回転数の変化量をBとすると、[A−C>B]である場合、つまり、現在のターボチャージャ回転数の変化量Bが通常の範囲[A−C]よりも小さい場合にはターボチャージャ異常であると判定する、という構成を挙げることができる。
【0010】
この場合、上記ターボチャージャ回転数の経時劣化量Cについては、初期(出荷時等)からの車両の走行距離に応じて、アイドル運転時におけるターボチャージャ回転数の経時劣化量を予測(想定)した値が設定されたマップを用い、現在の走行距離に基づいて上記マップからターボチャージャ回転数の経時劣化量Cを求めるようにしてもよい。また、初期(出荷時等)からの機関運転時間の積算値に応じて、アイドル運転時におけるターボチャージャ回転数の経時劣化量を予測(想定)した値が設定されたマップを用い、現在の走行距離に基づいて上記マップからターボチャージャ回転数の経時劣化量Cを求めるようにしてもよい。
【0011】
ここで、本発明において、ターボチャージャ異常判定のためのウエストゲートバルブ開閉操作を、アイドル運転時に行う理由は、走行時のドライバビリティなどに影響を与えないようにするためである。さらに、アイドル運転時には、後述するISC制御等によって機関回転(エンジン回転)が安定しているので、アイドル運転時の異常判定を行うことにより、ウエストゲートバルブ開閉によるターボ回転数の変化量を安定して取得することができ、ターボチャージャ異常をより的確に判定することができる。
【0012】
なお、このようなアイドル運転時の条件に加えて、「内燃機関の冷却水温が完全暖機温度以上であること」という条件を設定してもよいし、さらに、「内燃機関に連結される変速機の変速段がニュートラルポジションまたはパーキングポジションであること」を条件に加えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ベアリングのオイルコーキング発生量とベアリングの磨耗量の増大に起因するターボチャージャ異常を的確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明を適用するターボチャージャが搭載されたエンジンの一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明を適用するターボチャージャの一例を示す縦断面図である。
【図3】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図4】ECUが実行するターボチャージャ異常判定処理の内容を示すフローチャートである。
【図5】ターボ回転数の経時劣化量Cを求めるためのマップである。
【図6】アイドル運転時にウエストゲートバルブを開閉した際のターボ回転数の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
−エンジン−
この例のエンジン1は、車両に搭載される4気筒ガソリンエンジンである。エンジン1には、各気筒ごとに吸気ポート(図示せず)が設けられており、その各吸気ポート内に燃料を噴射するインジェクタ2(図3参照)が配置されている。また、エンジン1の各気筒(燃焼室)には点火プラグ(図示せず)が配置されている。点火プラグの点火タイミングはイグナイタ20(図3参照)によって調整される。イグナイタ20は後述するECU200によって制御される。
【0017】
図1に示すように、エンジン1の出力軸であるクランクシャフト10はトルクコンバータ301介して自動変速機(AT)302に連結されており、この自動変速機302においてエンジン1と駆動輪との間の変速比が自動的に変速されて、デファレンシャルギヤ及びドライブシャフト等を介して駆動輪に伝達されるようになっている。クランクシャフト10の近傍には、クランクポジションセンサ(エンジン回転数センサ)21が配置されている。クランクポジションセンサ21の出力信号はECU200に入力される。
【0018】
なお、自動変速機302については、クラッチ及びブレーキなどの摩擦係合装置と遊星歯車装置とを用いてギヤ段を設定する有段式(遊星歯車式)の自動変速機であってもよいし、変速比を無段階に調整するベルト式無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)などであってもよい。
【0019】
エンジン1には、各気筒に吸入空気を分配するためのインテークマニホールド11と、各気筒から排出される排気ガスを集合させるエキゾーストマニホールド12とが接続されている。
【0020】
インテークマニホールド11には、空気を大気中から取り込んで当該インテークマニホールド11に導くための吸気通路3が接続されている。吸気通路3には、吸入空気(新気)を濾過するエアクリーナ7、エアフロメータ24、後述するターボチャージャ100のコンプレッサインペラ102、ターボチャージャ100での過給によって昇温した吸入空気を強制冷却するためのインタークーラ6、及び、スロットルバルブ5などが配置されている。また、インテークマニホールド11に、吸気温センサ27及びインマニ圧センサ28が配置されている。
【0021】
エアフロメータ24は、吸入空気量(新規空気量)を検出する。吸気温センサ27は、インタークーラ6にて冷却された後であって、エンジン1に吸入される前の空気の温度(吸気温)を検出する。インマニ圧センサ28は、インテークマニホールド11内の圧力つまり過給圧(吸気圧)を検出する。
【0022】
スロットルバルブ5のスロットル開度はECU200によって駆動制御される。具体的には、クランクポジションセンサ21の出力信号から算出されるエンジン回転数、及び、ドライバのアクセルペダル踏み込み量(アクセル開度)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ5のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ25を用いてスロットルバルブ5の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ5のスロットルモータ51をフィードバック制御している。
【0023】
このようなスロットルバルブ5の制御システムは、「電子スロットルシステム」と称されており、アイドル運転時などにおいて、ドライバのアクセルペダルの操作とは独立してスロットル開度を制御することができる。例えば、ECU200は、アイドル運転時の実際のアイドル回転数が目標アイドル回転数に一致するようにスロットルバルブ5の開度を調整してエンジン1への吸入空気量をフィードバック制御する、いわゆるISC(Idle Speed Control)制御を実行する。こうしたISC制御を実行することにより、アイドル運転時のエンジン回転数を一定に保つことができる。
【0024】
一方、エキゾーストマニホールド12には排気通路4が接続されている。排気通路4には、ターボチャージャ100のタービンホイール101が配置されている。また、排気通路4には、タービンホイール101の下流側(排気流れの下流側)に三元触媒9が配置されている。三元触媒9においては、エンジン1の燃焼室から排気通路4に排気された排気ガス中のCO、HCの酸化及びNOxの還元が行われ、それらを無害なCO2、H2O、N2とすることで排気ガスの浄化が図られている。
【0025】
三元触媒9の上流側(排気流れの上流側)の排気通路4に空燃比(A/F)センサ29が配置されている。空燃比センサ29は、空燃比に対してリニアな特性を示すセンサである。また、三元触媒9の下流側の排気通路4にはO2センサ30が配置されている。O2センサ30は、排気ガス中の酸素濃度に応じて起電力を発生するものであって、理論空燃比に相当する電圧(比較電圧)よりも出力が高いときはリッチと判定し、逆に比較電圧よりも出力が低いときはリーンと判定する。
【0026】
−ターボチャージャ−
エンジン1には、排気圧を利用して吸入空気を過給するターボチャージャ(過給機)100が装備されている。
【0027】
ターボチャージャ100は、図1及び図2に示すように、排気通路4に配置されたタービンホイール101、吸気通路3に配置されたコンプレッサインペラ102、これらタービンホイール101とコンプレッサインペラ102とを回転一体に連結する連結シャフト103、及び、連結シャフト103を支持するフローティングベアリング104,104などによって構成されており、排気通路4に配置のタービンホイール101が排気のエネルギによって回転し、これに伴って吸気通路3に配置のコンプレッサインペラ102が回転する。そして、コンプレッサインペラ102の回転により吸入空気が過給され、エンジン1の各気筒の燃焼室に過給空気が強制的に送り込まれる。なお、連結シャフト103を支持するベアリングは他の形式のベアリングであってもよい。
【0028】
タービンホイール101はタービンハウジング111内に収容されており、コンプレッサインペラ102はコンプレッサハウジング112内に収容されている。また、連結シャフト103を支持するフローティングベアリング104,104はセンターハウジング113内に収容されており、このセンターハウジング113の両側に上記タービンハウジング111とコンプレッサハウジング112とが取り付けられている。
【0029】
この例のターボチャージャ100には、タービンホイール101(またはコンプレッサインペラ102等)の回転数(ターボ回転数)に応じた信号を出力するターボ回転数センサ31が配置されている。このターボ回転数センサ31の出力信号はECU200に入力される。
【0030】
また、この例のターボチャージャ100には、図1に示すように、タービンホイール101の上流側と下流側とを連通(タービンホイール101をバイパス)する排気バイパス通路120と、この排気バイパス通路120を開閉するウエストゲートバルブ(WGV)121とが設けられており、そのウエストゲートバルブ121の開度を調整し、タービンホイール101をバイパスする排気ガス量を調整することにより過給圧を制御することができる。WGVアクチュエータ122の駆動(ウエストゲートバルブ121の開閉)はECU200によって制御される。
【0031】
なお、WGVアクチュエータ122は、負圧源から供給される負圧を動力源として作動する負圧アクチュエータであってもよいし、正圧アクチュエータであってもよい。また、WGVアクチュエータ122は、電動モータを駆動源とする電動式アクチュエータなど、他の形式(駆動源)のアクチュエータであってもよい。
【0032】
−EGR装置−
また、エンジン1にはEGR装置8が装備されている。EGR装置8は、吸入空気に排気ガスの一部を導入することで、気筒内(燃焼室内)の燃焼温度を低下させてNOxの発生量を低減させる装置である。
【0033】
EGR装置8は、図1に示すように、ターボチャージャ100のタービンホイール101よりも上流側(排気ガス流れの上流)の排気通路4と、インタークーラ6(ターボチャージャ100のコンプレッサインペラ102)の下流側(吸入空気流れの下流側)の吸気通路3とを連通するEGR通路81、このEGR通路81に設けられたEGRクーラ82及びEGRバルブ83などによって構成されている。そして、このような構成のEGR装置8において、EGRバルブ83の開度を調整することにより、EGR率[EGR量/(EGR量+吸入空気量(新規空気量))(%)]を変更することができ、排気通路4から吸気通路3に導入されるEGR量(排気還流量)を調整することができる。
【0034】
なお、EGR装置8には、EGRクーラ82をバイパスするEGRバイパス通路及びEGRバイパス切替バルブを設けておいてもよい。
【0035】
−ECU−
ECU(Electronic Control Unit)200は、図3に示すように、CPU(Central Processing Unit)201、ROM(Read Only Memory)202、RAM(Random Access Memory)203、及び、バックアップRAM204などを備えている。
【0036】
ROM202は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU201は、ROM202に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。また、RAM203は、CPU201での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM204は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0037】
以上のCPU201、ROM202、RAM203及びバックアップRAM204は、バス207を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース205及び出力インターフェース206と接続されている。
【0038】
入力インターフェース205には、クランクポジションセンサ21、水温センサ23、エアフロメータ24、スロットル開度センサ25、アクセルペダルの踏み込み量に応じた検出信号を出力するアクセル開度センサ26、吸気温センサ27、インマニ圧センサ(過給圧センサ)28、空燃比センサ29、O2センサ30、及び、ターボチャージャ100の回転数(ターボ回転数)を検出するターボ回転数センサ31、車両の走行距離を検出するための走行距離センサ32などの各種センサ類が接続されている。また、入力インターフェース205には、自動変速機302のシフト位置(前進走行ポジション、リバースポジション、ニュートラルポジション、及び、パーキングポジションなお)を検出するシフトポジションセンサ22が接続されている。なお、車両の走行距離については、車速センサや車輪速センサの出力信号に基づいて算出するようにしてもよい。
【0039】
出力インターフェース206には、インジェクタ2、点火プラグのイグナイタ20、及び、スロットルバルブ5のスロットルモータ51、ウエストゲートバルブ121を開閉駆動するWGVアクチュエータ122、及び、後述するターボチャージャ異常をユーザに知らせるためのMIL(Malfunction Indicator Lamp)130などが接続されている。MIL130は、車室内のメータパネル上に配置されている。
【0040】
そして、ECU200は、上記した各種センサの検出信号に基づいて、燃料噴射量制御(インジェクタ2の開閉制御)、点火プラグ3の点火時期制御、及び、スロットルバルブ5のスロットルモータ51の駆動制御(吸入空気量制御)などを含むエンジン1の各種制御を実行する。さらに、ECU200は、下記の「ターボチャージャの異常判定処理」を実行する。
【0041】
以上のECU200及びターボ回転数センサ31などによって、本発明のターボチャージャの異常判定装置が実現される。
【0042】
−ターボチャージャの異常判定処理−
まず、上述したようにエンジンに装備されるターボチャージャにあっては、ターボチャージャの高回転時等においてターボベアリング(104)が高温にさらされると、潤滑オイルのオイル成分がコーキング(炭化)しやすくなる。オイルコーキングが発生すると、ターボベアリング(104)のフリクションが大きくなり、また、オイルコーキング物(塊)によってベアリング内周部が磨耗する場合がある。このようなオイルコーキングやベアリングの磨耗(劣化)は、運転時間の増大にともなって大きくなる傾向にあり、さらに過度の加速や長期の高速運転などのハードな運転が行われると劣化度合いが高くなる。そして、そのような劣化量つまりオイルコーキングの発生量やベアリングの磨耗量が大となると、ターボチャージャの過給効率の低下(排圧の上昇)につながり、エンジンの出力低下及び燃費悪化が懸念される。さらにドライバビリティが悪化するおそれもある。
【0043】
そのような点を考慮して、この例では、ベアリングのオイルコーキング発生量とベアリングの磨耗量の増大に起因するターボチャージャ異常を判定可能にすることを特徴している。その具体的な判定処理の一例について図4を参照して説明する。
【0044】
図4のターボチャージャ異常判定処理を説明する前に、「判定手法」、判定処理に用いる「初期のターボ回転数変化量A」及び「ターボ回転数の経時劣化量C」などについて説明する。
【0045】
<判定手法>
この例では、ウエストゲートバルブ121を開閉したときに、ターボチャージャ100の回転数(ターボ回転数)が変化する点を利用しており、エンジン1のアイドル運転時にウエストゲートバルブ121を開閉し、そのウエストゲートバルブ121の開閉によるターボチャージャ100の回転数の変化量(以下、ターボ回転数変化量ともいう)をモニタする。そして、そのターボ回転数の変化量が、経時劣化(通常運転状態での経時劣化)に基づいて想定される通常の範囲外になった場合に、ターボチャージャ異常であると判定するようにしている。
【0046】
<初期のターボ回転数変化量A>
初期のターボ回転数変化量Aについては下記の処理にて設定する。
【0047】
例えば、車両の出荷時(工場)においてエンジン1のアイドル運転を行い、エンジン1が完全暖機状態になった後にウエストゲートバルブ121を開閉操作し、その開閉操作時においてウエストゲートバルブ121が閉(全閉状態)のときのターボ回転数(ターボ回転数センサ31の出力信号から採取)と、ウエストゲートバルブ121が開(全開状態)のときのターボ回転数との差(ターボ回転数変化量)を、初期のターボ回転数変化量AとしてECU200のROM202などに記憶しておく。
【0048】
<ターボ回転数の経時劣化量C>
ターボ回転数の経時劣化量Cについては下記の処理にて設定する。
【0049】
車両の走行距離をパラメータとして、予め実験・シミュレーション等によって、初期(出荷時等)からの通常運転状態での経時劣化量(上記したコーキングの発生量及びベアリングの磨耗量の経時劣化量)を、走行距離に基づいて予測してターボ回転数の経時劣化量(想定量)Cを取得し、その走行距離に応じたターボ回転数の経時劣化量Cをマップ化して、図5に示すようなマップを作成する。そして、車両の走行距離に基づいて図5のマップからターボ回転数の経時劣化量Cを求めるようにする。図5に示すマップはECU200のROM202内に記憶しておく。
【0050】
上記通常運転状態とは、過度の加速や長時間の高速運転など、ターボチャージャ100の回転数が過度になるような状況を除いた運転状態のことである。
【0051】
なお、以上のような車両の走行距離をパラメータとするマップに替えて、初期(出荷時等)からのエンジン1の運転時間の積算時間に応じて上記ターボ回転数の経時劣化量を予測した値が設定されたマップを用いて、ターボ回転数の経時劣化量Cを求めるようにしてもよい。このようにエンジン1の運転時間の積算時間をパラメータとする場合も、上記した走行距離をパラメータとする場合と同様な処理にてマップを作成すればよい。
【0052】
次に、この例のターボチャージャ異常判定処理について図4のフローチャートを参照すて説明する。図4の制御ルーチンはECU200において所定時間毎に繰り返して実行される。
【0053】
ステップST101では、水温センサ23の出力信号から得られるエンジン1の水温が完全暖機温度以上であるか否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST101の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST102に進む。なお、「完全暖機温度」とは、エンジン1が完全に暖機した状態にあるときの水温のことである。
【0054】
ステップST102では、シフトポジションセンサ22の出力信号に基づいて、エンジン1が連結されている自動変速機302の変速段が「ニュートラルポジション」または「パーキングポジション」であるか否かを判定する。その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST102の判定結果が肯定判定(YES)である場合はステップST103に進む。
【0055】
ステップST103では、アイドル運転時(ISC制御時)であるか否かを判定し、その判定結果が否定判定(NO)である場合はリターンする。ステップST103の判定結果が肯定判定(YES)である場合(アイドル運転時である場合)はステップST104に進む。なお、アイドル運転時には、ウエストゲートバルブ121が開状態(全開状態)に設定される。
【0056】
次に、ステップST104において、図6に示すように、ウエストゲートバルブ121を閉じ(全閉状態)、そのWGV閉中においてターボ回転数センサ31の出力信号からターボ回転数Nt1を採取する(ステップST105)。
【0057】
さらに、ステップST106において、図6に示すように、ウエストゲートバルブ121を開き(全開状態)、そのWGV開中においてターボ回転数センサ31の出力信号からターボ回転数Nt2を採取する(ステップST107)。
【0058】
ステップST108では、上記ステップST105で採取したターボ回転数Nt1と、ステップST107で採取したターボ回転数Nt2とを用いて、図6に示すターボ回転数の変化量、つまり、現在のアイドル運転時におけるウエストゲートバルブ121の開閉によるターボ回転数の変化量B[B=Tn1−Tn2]を算出する。その後にステップST109に進む。
【0059】
なお、上記ステップST104〜ステップST106の間において、ウエストゲートバルブ121を閉じる期間(WGV閉期間:図6参照)は、ターボ回転数Nt1(ターボ回転数の変化量B)を的確に計測できる程度の時間(例えば、1秒程度)とする。
【0060】
ステップST109では、上記した初期のターボ回転数変化量AをROM202から読み出すとともに、走行距離センサ32の出力信号から得られる現在の走行距離に基づいて図5のマップを参照してターボ回転数の経時劣化量Cを算出する。さらに、上記ターボ回転数変化量Aからターボ回転数の経時劣化量Cを差し引いた値[A−C]を算出する。
【0061】
そして、その算出値[A−C]と、上記ステップST108で算出されたターボ回転数の変化量Bとを比較し、ターボ回転数の変化量Bが[A−C]以上である場合(現在のターボ回転数の変化量Bが通常範囲内であり、ステップST109の判定結果が否定判定(NO)である場合)は、ターボチャージャ100は正常であると判定してリターンする。
【0062】
一方、ステップST109の判定結果が肯定判定(YES)である場合、つまり、ターボ回転数の変化量Bが[A−C]よりも小さい場合(現在のターボ回転数の変化量Bが通常範囲外である場合)は、ターボチャージャ異常であると判定し、MIL130を点灯してユーザに異常を知らせる(ステップST110)。
【0063】
以上のように、この例によれば、現在のアイドル運転時のウエストゲートバルブ121の開閉によるターボ回転数の変化量Bが、ターボチャージャ経時劣化に基づいて想定される通常の範囲(A−C)から外れている場合にはターボチャージャ異常と判定するので、オイルコーキング発生量とベアリングの磨耗量が大となって、ターボチャージャ100の経時劣化(ターボ回転数低下)が想定以上になった場合には、ターボチャージャ100が異常であると判定することができる。そして、ターボチャージャ異常と判定した場合にはMIL(警告ランプ)130を点灯しているので、ユーザに対してディーラ等での点検・修理等を促すことができる。これによってターボチャージャ(エンジン)の故障を未然に防止することが可能になる。
【0064】
また、この例では、「エンジン1の水温が完全暖機温度以上であること」、「自動変速機302の変速段がニュートラルポジションまたはパーキングポジションであること」及び「アイドル運転時であること」を条件として、ターボチャージャ異常であるか否かを判定しているので、車両の走行(ドライバビリティ)等に関係ない状況のときに異常判定を行うことができる。さらに、エンジン1の回転が安定している状態で、ウエストゲートバルブ121の開閉によるターボ回転数の変化量を採取することができる。これによりターボチャージャ異常をより的確に判定することが可能になる。
【0065】
なお、この例において、異常判定の後に、ターボチャージャ100を修理・新品交換した場合には、その修理・交換を行った後の、エンジン1の最初のアイドル運転時などにおいて上記した初期のターボ回転数変化量Aを取得してECU200のROM202等に記憶しておく。また、ターボチャージャ異常判定に用いる走行距離をイニシャライズしておくことにより、修理・交換後のターボチャージャ100について異常判定を行うようにしてもよい。
【0066】
−他の実施形態−
以上の例では、車両の工場出荷時において、初期のターボ回転数変化量Aを取得しているが、本発明はこれに限定されない。例えば、工場出荷後であって、ディーラ等においてエンジン1をアイドル運転している状況のときに、初期のターボ回転数変化量Aを取得するようにしてもよい。この場合も、エンジン1が完全暖機状態になった後にウエストゲートバルブ121を開閉操作し、そのウエストゲートバルブ121が閉(全閉状態)のときのターボ回転数(ターボ回転数センサ31の出力信号から採取)と、ウエストゲートバルブ121が開(全開状態)のときのターボ回転数との差(ターボ回転数変化量)を、初期のターボ回転数変化量AとしてECU200のROM202等に記憶するようにすればよい。
【0067】
以上の例では、図5のマップを参照してターボ回転数の経時劣化量Cを求めて、ターボチャージャ異常の判定に用いる[A−C]を算出しているが、これに限定されない。例えば、走行距離(またはエンジン運転時間の積算値)をパラメータとして[A−C]自体を求めるマップを実験・シミュレーション等によって作成して記憶しておき、現在の走行距離(またはエンジン運転時間の積算値)に基づいて上記マップを参照して[A−C]を算出するようにしてもよい。
【0068】
以上の例では、EGR装置を備えたエンジンに装備されたターボチャージャに本発明を適用した例について説明したが、これに限られることなく、EGR装置を備えていないエンジンに装備されるターボチャージャにも本発明は適用可能である。
【0069】
以上の例では、4気筒のガソリンエンジンに装備されたターボチャージャに本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、例えば6気筒ガソリンエンジンなど他の任意の気筒数のガソリンエンジンに装備されるターボチャージャにも適用可能である。また、ポート噴射型ガソリンエンジンに限られることなく、筒内直噴型ガソリンエンジンに装備されるターボチャージャにも本発明は適用可能である。
【0070】
以上の例では、ガソリンエンジンに装備されたターボチャージャに本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、ディーゼルエンジンに装備されるターボチャージャにも適用可能である。
【0071】
以上の例では、トルクコンバータ及び自動変速機等を備えた車両に搭載されるターボチャージャに本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限られることなく、クラッチ装置(手動クラッチ)及び手動変速機等を備えた車両に搭載されるターボチャージャや、自動クラッチ装置及び自動化マニュアルトランスミッション等を備えた車両に搭載されるターボチャージャにも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、車載の内燃機関(エンジン)に装備されるターボチャージャに利用可能であり、さらに詳しくは、ターボチャージャの異常判定に有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 エンジン
3 吸気通路
4 排気通路
22 シフトポジションセンサ
23 水温センサ
31 ターボ回転数センサ
32 走行距離センサ
100 ターボチャージャ
101 タービンホイール
102 コンプレッサインペラ
120 排気バイパス通路
121 ウエストゲートバルブ
122 WGVアクチュエータ
130 MIL(警告ランプ)
200 ECU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載の内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサインペラと、前記内燃機関の排気通路に設けられたタービンホイールと、前記タービンホイールの上流側と下流側とを連通する排気バイパス通路と、前記排気バイパス通路に設けられたウエストゲートバルブとを備えたターボチャージャの異常を判定するターボチャージャの異常判定装置であって、
前記内燃機関のアイドル運転時に前記ウエストゲートバルブを開閉し、そのウエストゲートバルブ開閉による前記ターボチャージャの回転数の変化量が、当該ターボチャージャの経時劣化に基づいて想定される通常の範囲外である場合はターボチャージャ異常と判定する異常判定手段を備えていることを特徴とするターボチャージャの異常判定装置。
【請求項2】
請求項1記載にターボチャージャの異常判定装置において、
初期のアイドル運転時の前記ウエストゲートバルブ開閉でのターボチャージャ回転数の変化量をA、アイドル運転時におけるターボチャージャ回転数の経時劣化量をC、現在のアイドル運転時の前記ウエストゲートバルブ開閉によるターボチャージャ回転数の変化量をBとすると、[A−C>B]である場合はターボチャージャ異常であると判定することを特徴とするターボチャージャの異常判定装置。
【請求項3】
請求項2記載のターボチャージャの異常判定装置において、
車両の走行距離に応じて前記アイドル運転時におけるターボチャージャ回転数の経時劣化量Cを予測した値が設定されたマップを用い、現在の走行距離に基づいて前記マップから前記ターボチャージャ回転数の経時劣化量Cを求めることを特徴とするターボチャージャの異常判定装置。
【請求項4】
請求項2記載のターボチャージャの異常判定装置において、
機関運転時間の積算時間に応じて前記アイドル運転時におけるターボチャージャ回転数の経時劣化量Cを予測した値が設定されたマップを用い、現在の走行距離に基づいて前記マップから前記ターボチャージャ回転数の経時劣化量Cを求めることを特徴とするターボチャージャの異常判定装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つに記載のターボチャージャの異常判定装置において、
ターボチャージャ異常であると判定した場合には、警告ランプを点灯することを特徴とするターボチャージャの異常判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−19319(P2013−19319A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153200(P2011−153200)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】