説明

ターボチャージャー制御システム及び制御方法

【課題】 ターボ前置きの脱硝反応装置を備えたエンジン機関において、バイパス経路を設けずにハンチングを防止する。
【解決手段】 掃気室6内の掃気圧Psを検出する圧力計7aと、ターボチャージャー2の駆動をアシスト又は制動可能なモータ8aと、モータ8aの回生電力を蓄電装置11に充電可能な発電機8bと、制御装置9とを設ける。制御装置9は、掃気圧データベース9a1と、目標掃気圧tPsを求める目標掃気圧計算手段9a2と、掃気圧Psと目標掃気圧tPsを比較する圧力比較部9a3と、この圧力比較部9a3の比較結果に応じてモータ8a又は発電機8bを制御する主指令部9a4と、を少なくとも備えた構成とする。
【効果】 排気ガスは常に全量浄化処理される。排気ガスのエネルギを損失することなくモータの駆動電力として有効に利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャーのタービンの上流側の排気通路に、排気ガス中の窒素酸化物(以下「NOx 」という。)を還元除去する脱硝反応装置を設けたエンジン機関に適用される、ターボチャージャー制御システム及び制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図4(a)に示すように、一般にターボチャージャー101は、回転軸101aの両端にタービン101bとコンプレッサー101cを備え、エンジン103の排気ポート103bから排気通路104に排出される高温の排気ガスの排気流でタービン101bを回転させ、その動力でコンプレッサー101cを駆動する。そして、コンプレッサー101cにより圧縮された空気は、掃気室102を介してエンジン103の掃気ポート103aに供給される。
【0003】
このように、排気ポート103bとタービン101bの間が排気通路104のみである場合は、ターボチャージャー101はエンジン103の負荷の増減に対してほぼ同期して作動し、エンジン103に適切なタイミングで過給が行われる。
【0004】
これに対し、例えば舶用ディーゼル機関では、図4(b)に示すように、排気ポート103bとタービン101bの間の排気通路104に、脱硝反応装置106を設ける場合がある(例えば、非特許文献1、p42の図1)。脱硝反応装置106には、排気ガス中のNOx をアンモニアガス等の還元剤と選択的に還元反応させて窒素と水に分解して無害化するSCR触媒等が組み込まれている。なお、NOx を除去した後の排気ガスは煙突105から放出される。
【0005】
ところが、このような、ターボ前置きの脱硝反応装置106を備えたエンジン機関の場合、大きな熱容量を有するSCR触媒が昇温又は冷却されるのにはある程度の時間を要するため、排気ポート103bから排出される排気ガスの温度(以下、第1排気温度Te1という。)はエンジンの負荷に応じて直ぐに変化しても、脱硝反応装置106の出口106aから排出される排気ガスの温度(以下、第2排気温度Te2という。)が変化するまでには時間の遅れが生じていた。
【0006】
そのため、脱硝反応装置106をタービン101bの上流側に設ける舶用ディーゼル機関では、エンジン103の負荷を下げるときに掃気室102の掃気圧Psが必要以上に高くなって過給過剰となったり(非特許文献1、p43の図3参照)、エンジン103の負荷を上げるときに必要な掃気圧Psが得られずに過給不足となるハンチング現象が生じていた。以下、このハンチングが生じる原因について、図5を参照して詳細に説明する。
【0007】
図5(a)はオペレータがエンジンの負荷(回転数)を下げた場合の説明図である。エンジンの負荷が下がると、排気ポート103bにおける第1排気温度Te1は、符号Xで示すように直ぐに下降するが、脱硝反応装置106を通過する間にSCR触媒に蓄えられていた熱によって排気ガスが再び加熱されるので、脱硝反応装置106の出口106aにおける第2排気温度Te2は、符合X1’で示すように下降が遅れる。
【0008】
ターボチャージャー101の回転速度は、基本的にタービン101bに導入される排気ガスの温度に比例する。よって、第2排気温度Te2が下がらない間は、エンジン103の負荷が下降しているにも拘わらず、ターボチャージャー101の回転速度がエンジン負荷に見合う速度よりも速い状態となり、それに伴いコンプレッサー101cから送り込まれる空気量も過剰になるので、掃気室102の掃気圧Psは、符合X1”で示すように高い状態が維持される。よって、必要以上の空気が掃気室102を介して掃気ポート103aに導入されるため、エンジン103が過給過剰の状態となり、第1排気温度Te1がさらに低下する。
【0009】
このような過給過剰の状態がしばらく続くと、一定の時間遅れの後、第2排気温度Te2は符合Y1’で示すように過剰に低下し、それに伴いターボチャージャー101の回転速度が低下し、掃気圧Psも符合Y1”で示すように過剰に低下する。
【0010】
この結果、コンプレッサー101cから送られる空気量がエンジンの負荷に見合う量よりも少なくなり、符合Y1で示すように、第1排気温度Te1が上昇してしまう。エンジンの負荷を下げるときは、このような現象が起き、しばらく繰り返され、収束するまで時間を要する。
【0011】
図5(b)はオペレータがエンジンの負荷(回転数)を上げた場合の説明図であり、(a)とは逆の現象が生じる。先ず、エンジンの負荷が上がると、第1排気温度Te1は、符号X2で示すように直ぐに上昇するが、脱硝反応装置106内のSCR触媒は大きな熱容量を有し昇温するのに時間がかかるので、第2排気温度Te2は、符合X2’で示すように上昇が遅れる。
【0012】
よって、第2排気温度Te2が上がらない間は、エンジン103の負荷が上昇しているにも拘わらず、ターボチャージャー101の回転速度がエンジン負荷に見合う速度よりも遅い状態となり、それに伴いコンプレッサー101cから送り込まれる空気量も不足するので、掃気室102の掃気圧Psは、符合X2”で示すように低い状態が維持される。よって、必要な空気が掃気ポート103aに導入されず、エンジン103が過給不足の状態となり、燃料も多く投入されているため、第1排気温度Te1がさらに上昇する。
【0013】
このような過給不足の状態がしばらく続くと、一定の時間遅れの後、第2排気温度Te2は符合Y2’で示すように過剰に上昇し、それに伴いターボチャージャー101の回転速度が速くなり、掃気圧Psも符合Y2”で示すように過剰に上昇する。
【0014】
この結果、コンプレッサー101cから送られる空気量がエンジンの負荷に見合う量よりも多くなり、符合Y2で示すように、第1排気温度Te1が下降してしまう。エンジンの負荷を上げるときは、このような現象が繰り返される。
【0015】
このようなハンチング現象が起きている間は、ターボチャージャー101の本来の機能が十分に発揮されず、エンジン機関の運転に支障をきたすことになる。
【0016】
そこで、従来、例えば図6に示すように、バイパス弁108aにより開閉可能なバイパス導管108を、脱硝反応装置106の上流側の排気通路104aと下流側の排気通路104bを接続するように設け、エンジンの負荷を上げるときはバイパス弁108aを開いて排気ガスの一部が脱硝反応装置106を通過しないように構成したターボチャージャー制御システム100が提案されている(例えば、非特許文献1、p46の図8、特許文献1、第2図)。
【0017】
これは、エンジンの負荷を上げるときは、エンジン103が過給不足となるため、脱硝反応装置106に導入される排気ガスの一部をタービン101bの上流へバイパスして、タービン101bの回転速度を上昇させるものである。
【0018】
また、従来、タービン101bの上流側の排気通路104bと下流側の排気通路107を接続するバイパス導管109をさらに設け、エンジンの負荷を下げるときはバイパス弁109aを開放して排気ガスの一部をタービン101bに供給しない構成も提案されている(例えば、非特許文献1、p44の図4、特許文献1、第1図)。
【0019】
これは、エンジンの負荷を下げるときは、エンジン103が過給過剰となるため、タービン101bに供給される排気ガスの一部をタービン101bの下流へバイパスして、タービン101bの回転速度の上昇を抑制するものである。
【0020】
しかしながら、従来のターボチャージャー制御システム100は、バイパス弁108aを開いている間は、排気ガスの一部が脱硝反応装置106を通過しないため、NOx が還元浄化されていない未処理のガスが煙突105から大気中に放出され、環境を汚染するという問題があった。
【0021】
また、バイパス弁109aを開いている間は、排気流の一部を利用することなくタービン101bの下流の排気通路107に流すので、排気ガスのエネルギを損失していることになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】本村 収、外5名、「脱硝装置付き低速ディーゼル機関の運転動特性」、日本舶用機関学会誌、1999年1月、第34巻、第1号、p41−47
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特表平8−500170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
本発明が解決しようとする問題点は、従来のターボチャージャー制御システムは、脱硝反応装置をバイパスさせると排気ガス中のNOx が還元浄化されない点、及び、タービンをバイパスさせると排気流のエネルギが損失される点である。
【0025】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、ハンチングを防止可能なターボチャージャーの制御システム及び制御方法において、エンジンが過給不足のときでも脱硝反応装置をバイパスさせることなく排気ガスは常に全量浄化処理できると共に、エンジンが過給過剰のときでも排気ガスのエネルギを損失することなく有効に活用することができる制御システム及び制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明のターボチャージャー制御システムは、
ターボチャージャーのタービンの上流側の排気通路に脱硝反応装置を配置したエンジン機関において、
掃気室内の掃気圧を検出する圧力計と、
前記ターボチャージャーの駆動をアシスト又は制動可能なモータと、
前記モータの回生電力を蓄電装置に充電可能な発電機と、を設けると共に、
掃気圧データベースにアクセスして目標掃気圧を求める目標掃気圧計算手段と、前記圧力計が検出した掃気圧と前記目標掃気圧計算手段が求めた目標掃気圧を比較する圧力比較部と、この圧力比較部の比較結果に応じて前記モータ又は前記発電機を制御する主指令部と、を備えた制御装置を設けたこと、を最も主要な特徴点としている。
【0027】
上記本発明のターボチャージャー制御システムを使用したターボチャージャーの駆動制御は、
前記圧力比較部は、所定の時間毎に前記掃気圧と前記目標掃気圧の差を比較し、
前記主指令部は、
エンジンを加速時、前記掃気圧が前記目標掃気圧よりも小さい間は、前記モータの回転速度を加速するように指令して前記ターボチャージャーの駆動をアシストし、
エンジンを減速時、前記掃気圧が前記目標掃気圧よりも大きい間は、前記発電機に前記蓄電装置への充電を指令して前記ターボチャージャーの駆動を制動する。これが本発明のターボチャージャー制御方法である。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、オペレータがエンジンの負荷を上げて、エンジンが過給不足となるときは、制御装置の主指令部はモータに駆動電力を供給するように指令し、モータの回転によってターボチャージャーの駆動をアシストする。よって、脱硝反応装置をバイパスさせることなくエンジンの過給不足を解消し、ハンチングを防止することができる。
【0029】
また、本発明によれば、オペレータがエンジンの負荷を下げて、エンジンが過給過剰となるときは、制御装置の主指令部は発電機にモータからの回生電力を充電するように指令し、ターボチャージャーの回転トルクを電気エネルギに変換しながらターボチャージャーの駆動を制動する。また、発電機が発電した電力は、蓄電装置に蓄電しておき、エンジンの負荷を上げるときにモータの駆動電力として利用することができる。よって、排気ガスのエネルギを系外に捨てることなく有効利用を図りつつ、ハンチングを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明のターボチャージャー制御システムの構成を示した概略図である。
【図2】本発明のターボチャージャー制御システムの制御装置の構成を示したブロック図である。
【図3】(a)はエンジンを加速時、掃気圧が目標掃気圧よりも小さい間、モータの回転速度を加速するように指令してターボチャージャーの駆動をアシストする制御を、(b)は、エンジンを減速時、掃気圧が目標掃気圧よりも大きい間、発電機に蓄電装置への充電を指令してターボチャージャーの駆動を制動する制御を説明する図である。
【図4】(a)は一般的なターボチャージャーの説明図、(b)はターボ前置きの脱硝反応装置を備えた舶用ディーゼル機関の説明図である。
【図5】ハンチング現象が発生しているときの、排気ポートにおける第1排気温度Te1、脱硝反応装置の出口における第2排気温度Te2、掃気室の掃気圧Psの変化を示したグラフで、(a)はエンジン負荷を下げたときの、(b)はエンジン負荷を上げたときの説明図である。
【図6】従来のターボチャージャー制御システムの構成を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を実施するための種々の形態を、図1〜図3を用いて詳細に説明する。図1において、1は、ターボチャージャー2のタービン2aの上流側の排気通路3に脱硝反応装置4を配置した舶用ディーゼルエンジンに適用した本発明のターボチャージャー制御システムであり、エンジン5の掃気ポート5aと接続される掃気室6内の掃気圧Psを検出するため掃気室6に設けた圧力計7aと、ターボチャージャー2の回転軸2bに設けられ、ターボチャージャー2の駆動をアシスト又は制動可能なモータ8aと、このモータ8aに駆動電力を供給する蓄電装置11と、前記モータ8aの回生電力を前記蓄電装置11に充電可能な発電機8bを備えている。なお、本実施例では、モータ8aの機能と発電機8bの機能を兼ね備えたモータ兼発電機8を使用している。また、10は、エンジン5に供給する燃料Fの噴射量を制御すると共にオペレータが設定したエンジン回転数のデータを制御装置9に伝達可能な回転数制御装置を、12は、NOx を還元浄化した後の排気ガスを放出する煙突を示している。
【0032】
脱硝反応装置4には、排気ガス中のNOx をアンモニアガス等の還元剤と選択的に還元反応させて窒素と水に分解して無害化するSCR触媒が組み込まれている。脱硝反応装置4の上流側の排気通路3aには、加水分解されるとアンモニアガスを生成する尿素水等の還元剤前駆体を噴霧するノズル(不図示)が設けられている。
【0033】
制御装置9は、図2に示すように、掃気圧データベース9a1にアクセスし、回転数制御装置10から取得したエンジン回転数のデータに応じて目標掃気圧tPsを求める目標掃気圧計算手段9a2と、圧力計7aが検出した掃気室6の掃気圧Psと目標掃気圧計算手段9a2が求めた目標掃気圧tPsを比較する圧力比較部9a3と、この圧力比較部9a3の比較結果に応じてモータ8aに供給する駆動電力を制御すると共に発電機8bに対してモータ8aの回生電力を蓄電装置11に充電することを指令する主指令部9a4と、を少なくとも備えている(本発明の第1の実施形態)。
【0034】
掃気圧データベース9a1は、エンジン5の回転数に対応した適切な掃気圧である目標掃気圧tPsを実験データから求めてテーブルにしたものであり、オペレータが設定したエンジン回転数のデータをキーとして検索可能なデータベースである。掃気圧データベース9a1に予め登録しておくデータの内容は、エンジン機関の種類や規模等によって異なるものである。
【0035】
この本発明の第1の実施形態を用いてターボチャージャーの駆動を制御する方法を、エンジンの負荷を上げる場合と下げる場合に分けて説明する。
【0036】
(1)エンジンの負荷を上げる場合の制御方法
オペレータがエンジン5を加速するためエンジン回転数を上げるように設定すると、回転数制御装置10は設定されたエンジン回転数に対応する噴射量の燃料Fをエンジン5に供給する。また、回転数制御装置10は、エンジン5の回転数の増加を検知し、制御装置9に本発明の制御方法を開始することを指令する。
【0037】
制御装置9の目標掃気圧計算手段9a2は、回転数制御装置10からオペレータが設定したエンジン回転数のデータを取得し、それをキーとして掃気圧データベース9a1を参照し、掃気圧データベース9a1のテーブルから設定回転数のデータに対応する目標掃気圧tPsのデータを取得する。
【0038】
なお、本実施例の目標掃気圧計算手段9a2は、掃気圧データベース9a1に登録されているデータをそのまま使用するが、目標掃気圧tPsは、掃気圧データベース9a1に登録されているデータを基礎データとして必要な補正を加えた値を使用しても良い。
【0039】
空気Aは、コンプレッサー2cにより圧縮され、掃気室6に送り込まれる。掃気室6に設けた圧力計7aは、掃気室6内の掃気圧Psを検出する。
【0040】
制御装置9の圧力比較部9a3は、所定の時間毎に圧力計7aが検出した掃気圧Psのデータを取得し、目標掃気圧計算手段9a2が求めた目標掃気圧tPsの値との差を求める。
【0041】
主指令部9a4は、図3(a)に示すように、エンジンを加速時、掃気圧Psが目標掃気圧tPsよりも小さい間(図の例では、時間0から時間Tまでの間)は、モータ8aの制御回路にモータ8aの回転速度を加速するように指令し、蓄電装置11から供給するモータ8aの駆動電力を大きくして、ターボチャージャー2の駆動をアシストする。このような制御は、所定の時間毎に掃気圧Psのデータを取得し、圧力比較部9a3において掃気圧Psが目標掃気圧tPsよりも小さいと判定されている間、繰り返される(図の例では、時間t1、t2、t3…のタイミングで繰り返している)。
【0042】
そして、掃気圧Psが目標掃気圧tPsに達すると、主指令部9a4は、モータ8aの制御回路に対し、それ以上モータ8aの回転速度を上げないように指令する。
【0043】
(2)エンジンの負荷を下げる場合の制御方法
オペレータがエンジン5を減速するためエンジン回転数を下げるように設定した場合、回転数制御装置10は設定されたエンジン回転数に対応してエンジン5に供給する燃料Fの噴射量を減少させる。また、回転数制御装置10は、エンジン5の回転数の減少を検知し、制御装置9に本発明の制御方法を開始することを指令する。
【0044】
制御装置9の目標掃気圧計算手段9a2は、回転数制御装置10からオペレータが設定したエンジン回転数のデータを取得し、それをキーとして掃気圧データベース9a1を参照し、掃気圧データベース9a1のテーブルから設定回転数のデータに対応する目標掃気圧tPsのデータを取得する。
【0045】
圧力比較部9a3は、所定の時間毎に圧力計7aが検出した掃気圧Psのデータを取得し、目標掃気圧計算手段9a2が求めた目標掃気圧tPsの値との差を求める。
【0046】
主指令部9a4は、図3(b)に示すように、エンジンを減速時、掃気圧Psが目標掃気圧tPsよりも大きい間(図の例では、時間0から時間Tまでの間)は、発電機8bの制御回路にモータ8aの回生電力を蓄電装置11へ充電するように指令し、それによってターボチャージャー2の駆動を制動する。このような制御は、所定の時間毎に掃気圧Psのデータを取得し、圧力比較部9a3において掃気圧Psが目標掃気圧tPsよりも大きいと判定されている間、繰り返される(図の例では、時間t1、t2、t3…のタイミングで繰り返している)。
【0047】
そして、掃気圧Psが目標掃気圧tPsに達すると、主指令部9a4は、発電機8bの制御回路に対しそれ以上発電を行わないように指令し、モータ8aの回転速度を下げないようにする。
【0048】
なお、エンジン5の回転数が一定のときは、回転数制御装置10は、エンジン回転数の増加や減少を検知しないので、制御装置9に本発明の制御方法の開始を指令することはない。
【0049】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。この第2の実施形態では、図1に示すように、エンジン5の排気ポート5bと脱硝反応装置4の間の排気通路3aに、圧縮、燃焼、膨張、給排気(掃気)のサイクルを経て排気ポート5bから排出された排気ガスGの温度である第1排気温度Te1を検出する第1温度計7bを設けている。
【0050】
そして、制御装置9は、図2に示すように、脱硝反応装置4内の触媒の劣化を防止するための上限温度uTe1と第1排気温度Te1の差を求める第1温度比較部9b1と、この第1温度比較部9b1で求めた温度差が所定の範囲内となったときにモータ8a回転速度を加速するように指令する副指令部9b2と、をさらに備えるように構成している。
【0051】
上限温度uTe1は、排気ガスGが脱硝反応装置4を通過する際、触媒を劣化させない上限の温度であり、制御装置9に予めデータを設定している。また、この上限温度uTe1を基準として監視すべき温度の範囲も、エンジンの種類や規模に応じて、制御装置9に予めデータを設定している。更に、荒天時などの海象によって、第1排気温度Te1が上限温度uTe1を超えることが想定される場合も、制御装置9に予めデータを設定している。
【0052】
このように構成する場合は、脱硝反応装置4に導入される排気ガスGの第1排気温度Te1を監視し、これが予め設定した上限温度uTe1を越える危険性が高い範囲に入ったときは、副指令部9b2がモータ8a回転速度を加速するように補正することができる。よって、ターボチャージャー2の回転数が上昇し、掃気ポート5aに供給する掃気量を上げることで第1排気温度Te1を下げることができるので、触媒の劣化を防止できて、好適である。
【0053】
この本発明の第2の実施形態を用いてターボチャージャーの駆動を制御する方法について説明する。
【0054】
第1温度比較部9b1は、所定の時間毎に、第1温度計7bが検出した第1排気温度Te1のデータを取得し、上限温度uTe1との差を比較する。
【0055】
制御装置9は、第1排気温度Te1と上限温度uTe1の差が所定の範囲内であるときは、副指令部9b2から指令する加速度分だけモータ8aの回転速度を加速する。
【0056】
また、制御装置9は、第1排気温度Te1と上限温度uTe1の差が所定の範囲内であり、かつ、掃気圧Psが目標掃気圧tPsよりも小さいときは、主指令部9a4から指令する加速度分と副指令部9b2から指令する加速度分を足し合わせてモータ8aの回転速度を加速する。
【0057】
よって、エンジン5を加速中に第1排気温度Te1が上限温度uTe1を超える危険性が高い状況が発生した場合でも、主指令部9a4及び副指令部9b2から同時にモータ8aの回転数を上げるように指令し、両方を考慮した加速度分だけターボチャージャー2の回転軸2bの回転を加速するので、ハンチングの防止と触媒の劣化防止を共に図れて、好適である。
【0058】
上記のような制御を所定の時間毎に繰り返し、第1排気温度Te1と上限温度uTe1の温度差が所定の範囲外になると、副指令部9b2は、モータ8aの制御回路に対する指令を停止する。
【0059】
さらに、本発明の他の実施形態について説明する。この第3の実施形態は、図1に示すように、脱硝反応装置4の出口4aとタービン2aの間の排気通路3bに、出口4aから排出されたNOx 浄化処理後の排気ガスの温度である第2排気温度Te2を検出する第2温度計7cを設けている。
【0060】
制御装置9は、図2に示すように、出口温度データベース9c1にアクセスし、回転数制御装置10から取得したエンジン回転数のデータに応じて目標第1排気温度tTe1と目標第2排気温度tTe2を夫々求める目標排気温度計算手段9c2と、第1排気温度Te1と目標第1排気温度tTe1の差及び第2排気温度Te2と目標第2排気温度tTe2の差を夫々求める第2温度比較部9c3と、この第2温度比較部9c3で求めた温度差が共に所定の範囲内となったときは、モータ8a又は発電機8bの駆動を停止するように指令する停止指令部9c4と、をさらに備えるように構成している。
【0061】
出口温度データベース9c1は、エンジン5の回転数に対応した排気ポート5bにおける理想の出口温度である目標第1排気温度tTe1と、脱硝反応装置4の出口4aにおける目標第2排気温度tTe2を、夫々実験データから求めてテーブルにしたものであり、オペレータが設定したエンジン回転数のデータをキーとして検索可能なデータベースである。出口温度データベース9c1に予め登録しておくデータの内容は、エンジン機関の種類や規模等によって異なるものである。
【0062】
上記のように構成する場合は、第1排気温度Te1と第2排気温度Te2を監視し、これらの温度の差が予め設定した範囲内に収まるときは、停止指令部9c4がモータ8a及び発電機8bに対し、制御停止を指令することができる。よって、脱硝反応装置4のSCR触媒の熱容量の影響による温度差(第1排気温度Te1と第2排気温度Te2の差)がなくなったタイミングで、ターボチャージャー2に対するアシスト又は制動を中止して通常の運転に戻ることができるので、好適である。
【0063】
この本発明の第3の実施形態を用いてターボチャージャーの駆動を制御する方法について説明する。
【0064】
第2温度比較部9c3は、所定の時間毎に、第1温度計7bが検出した第1排気温度Te1のデータと第2温度計7cが検出した第2排気温度Te2のデータを取得し、目標第1排気温度tTe1との差及び目標第2排気温度tTe2との差を夫々比較する。
【0065】
停止指令部9c4は、第2温度比較部9c3で求めた温度差が共に所定の範囲内となっている状態が一定の時間継続したときは、モータ8a又は発電機8bの駆動を停止するように指令する。
【0066】
よって、脱硝反応装置4のSCR触媒の熱容量の影響による温度差を所定の時間間隔でリアルタイムに検知しながら、その温度差が許容範囲となり、かつ、その状態が所定の時間維持されている最も適切なタイミングで、ターボチャージャー2のアシスト又は制動を行わない通常運転へ戻すことができるので、モータ8a及び発電機8bの駆動を必要な範囲に限定できて、好適である。
【0067】
上記第3の実施形態による制御方法は、回転数制御装置10がエンジン5の回転数の増加又は減少を検知したときに開始され、制御装置9の停止指令部9c4が停止指令を行ったときに終了する。
【0068】
以上説明したように、本発明では、オペレータがエンジンの負荷を上げるときは、制御装置の主指令部がモータに駆動電力を供給するように指令し、モータの回転によってターボチャージャーの駆動をアシストするので、脱硝反応装置をバイパスすることなくエンジンの過給不足を解消できる。よって、未処理のガスはなく、排気ガスは常に全量浄化処理できる。
【0069】
また、本発明では、オペレータがエンジンの負荷を下げるときは、制御装置の主指令部が発電機にモータからの回生電力を充電するように指令し、ターボチャージャーの駆動を制動する。発電機が発電した電力は蓄電装置に蓄電し、モータの駆動電力として利用することができる。よって、排気ガスのエネルギを系外に捨てることなく、有効に利用することができる。
【0070】
このように、本発明は、ターボチャージャーの回転軸にモータ兼発電機を接続することでエネルギの供給と回収を行うことで、ハンチングを防止し、ターボ前置きの脱硝反応装置を備えたエンジン機関の運転を安定させることができる。
【0071】
本発明は、前記の実施例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範囲内において、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0072】
例えば、前記の実施例では、目標排気温度計算手段9c2は、出口温度データベース9c1に登録されているデータを使用する例を開示したが、目標第1排気温度tTe1と目標第2排気温度tTe2は、出口温度データベース9c1に登録されているデータを基礎データとして必要な補正を加えた値を使用しても良い。
【0073】
また、オペレータはエンジンの負荷を変えるように指令していないが、荒天時など海象によってエンジンの負荷が変動する場合についても、前記各実施例において制御装置9に予め設定する閾値を越えるか否かによって、本発明のシステムの作動または不作動を適宜制御すれば良い。海象によるハンチングも、一定の閾値以上に大きくなる場合は、オペレータがエンジンの負荷を大きく変えた状況と同じになると考えられるからである。
【符号の説明】
【0074】
1 ターボチャージャー制御システム
2 ターボチャージャー
2a タービン
3,3a,3b 排気通路
4 脱硝反応装置
4a 出口
5 エンジン
5b 排気ポート
6 掃気室
7a 圧力計
7b 第1温度計
7c 第2温度計
8a モータ
8b 発電機
9 制御装置
9a1 掃気圧データベース
9a2 目標掃気圧計算手段
9a3 圧力比較部
9a4 主指令部
9b1 第1温度比較部
9b2 副指令部
9c1 出口温度データベース
9c2 目標排気温度計算手段
9c3 第2温度比較部
9c4 停止指令部
11 蓄電装置
Ps 掃気圧
tPs 目標掃気圧
Te1 第1排気温度
Te2 第2排気温度
uTe1 上限温度
tTe1 目標第1排気温度
tTe2 目標第2排気温度
G 排気ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ターボチャージャーのタービンの上流側の排気通路に脱硝反応装置を配置したエンジン機関において、
掃気室内の掃気圧を検出する圧力計と、
前記ターボチャージャーの駆動をアシスト又は制動可能なモータと、
前記モータの回生電力を蓄電装置に充電可能な発電機と、を設けると共に、
掃気圧データベースにアクセスして目標掃気圧を求める目標掃気圧計算手段と、前記圧力計が検出した掃気圧と前記目標掃気圧計算手段が求めた目標掃気圧を比較する圧力比較部と、この圧力比較部の比較結果に応じて前記モータ又は前記発電機を制御する主指令部と、を備えた制御装置を設けたこと、
を特徴とするターボチャージャー制御システム。
【請求項2】
エンジンの排気ポートと前記脱硝反応装置の間の排気通路に、前記排気ポートから排出された排気ガスの温度である第1排気温度を検出する第1温度計を設けると共に、
前記制御装置は、
前記脱硝反応装置内の触媒の劣化を防止するための上限温度と前記第1排気温度の差を求める第1温度比較部と、この第1温度比較部で求めた温度差が所定の範囲内となったときに前記モータの回転速度を加速するように指令する副指令部と、をさらに備えたことを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャー制御システム。
【請求項3】
前記脱硝反応装置と前記タービンの間の排気通路に、前記脱硝反応装置の出口から排出された排気ガスの温度である第2排気温度を検出する第2温度計を設けると共に、
前記制御装置は、
出口温度データベースにアクセスして目標第1排気温度と目標第2排気温度を夫々求める目標排気温度計算手段と、前記第1排気温度と前記目標第1排気温度の差及び前記第2排気温度と前記目標第2排気温度の差を夫々求める第2温度比較部と、前記第2温度比較部で求めた温度差が共に所定の範囲内となったときは、前記モータ又は前記発電機の駆動を停止するように指令する停止指令部と、をさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載のターボチャージャー制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載のターボチャージャー制御システムを用いてターボチャージャーの駆動を制御する方法であって、
前記圧力比較部は、所定の時間毎に前記掃気圧と前記目標掃気圧の差を比較し、
前記主指令部は、
エンジンを加速時、前記掃気圧が前記目標掃気圧よりも小さい間は、前記モータの回転速度を加速するように指令して前記ターボチャージャーの駆動をアシストし、
エンジンを減速時、前記掃気圧が前記目標掃気圧よりも大きい間は、前記発電機に前記蓄電装置への充電を指令して前記ターボチャージャーの駆動を制動すること、
を特徴とするターボチャージャー制御方法。
【請求項5】
請求項2に記載のターボチャージャー制御システムを用いてターボチャージャーの駆動を制御する方法であって、
前記第1温度比較部は、所定の時間毎に前記第1排気温度と前記上限温度を比較し、
前記第1排気温度と前記上限温度の差が所定の範囲内であるときは、前記副司令部から指令する加速度分だけ前記モータの回転速度を加速し、
前記第1排気温度と前記上限温度の差が所定の範囲内であり、かつ、前記掃気圧が前記目標掃気圧よりも小さいときは、前記主指令部から指令する加速度分と前記副指令部から指令する加速度分を足し合わせて前記モータの回転速度を加速すること、
を特徴とするターボチャージャー制御方法。
【請求項6】
請求項3に記載のターボチャージャー制御システムを用いてターボチャージャーの駆動を制御する方法であって、
前記第2温度比較部は、所定の時間毎に前記第1排気温度と前記目標第1排気温度の差及び前記第2排気温度と前記目標第2排気温度の差を夫々比較し、
前記停止指令部は、前記第2温度比較部で求めた温度差が共に所定の範囲内となっている状態が一定の時間継続したときは、前記モータ又は前記発電機の駆動を停止するように指令すること、
を特徴とするエンジンの過給機制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−21438(P2012−21438A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158950(P2010−158950)
【出願日】平成22年7月13日(2010.7.13)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】