説明

ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受

【課題】予圧付与方法として定位置予圧が採用された場合においてもターボチャージャの回転軸の振れが発生しないターボチャージャ用アンギュラ玉軸受を提供すること。
【解決手段】内輪31の軌道溝の片側のみに肩部52を形成すると共に、外輪32の軌道溝の片側のみに肩部52を形成し、内輪31の肩部51と外輪32の肩部52とを、玉33の中心Pを含むと共に外輪32の中心軸70に垂直な平面に対して互いに反対側に配置する。外輪32の中心軸70を含む断面において、外輪32の軌道溝を、肩部52側の略同一曲率を有する曲線部57と、それに連なる中心軸70に略平行な直線部58とから構成し、内輪31の軌道溝を、肩部51側の略同一曲率を有する曲線部55と、それに連なる中心軸70に略平行な直線部56とから構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ターボチャージャの回転軸を支持する軸受としては、特開平10−19045号公報(特許文献1)に記載されているアンギュラ玉軸受がある。
【0003】
上記アンギュラ玉軸受は、内輪、外輪および玉を備え、内輪および外輪の夫々の軌道溝は、上記内輪の中心軸を含む断面において、略同一の曲率を有している。
【0004】
しかしながら、上記従来のアンギュラ玉軸受は、内輪および外輪の軌道溝が、内輪の中心軸を含む断面において、略同一の曲率を有しているので、上記従来のアンギュラ玉軸受に予圧を付与する方法として、定位置予圧、すなわち、ターボチャージャの運転状態(運転前状態よりもアキシアル隙間が小さい高温状態)で軸受に所定の予圧が付与されるように、運転前状態の軸受のアキシアル隙間を内外輪の位置に基づいて設定する予圧付与方法を採用した場合、運転前状態のアキシアル隙間が大きいことに起因してラジアル隙間が大きくなってラジアル方向のガタが大きくなって、ターボチャージャの回転軸の振れが発生するという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開平10−19045号公報(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の課題は、予圧付与方法として定位置予圧が採用された場合においてもターボチャージャの回転軸の振れが発生しないターボチャージャ用アンギュラ玉軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明のターボチャージャ用アンギュラ玉軸受は、
軌道溝の片側のみに肩部を有する内輪と、
軌道溝の片側のみに肩部を有する外輪と、
上記内輪および上記外輪の上記軌道溝の間に配置された玉と
を備え、
上記内輪の肩部と上記外輪の肩部とは、上記玉の中心を含むと共に上記外輪の中心軸に垂直な平面に対して互いに反対側に位置し、
上記外輪の中心軸を含む断面において、上記外輪の軌道溝が、上記肩部側の略同一曲率を有する曲線部と、それに連なる上記中心軸に略平行な直線部とからなると共に、上記内輪の軌道溝が、上記肩部側の略同一曲率を有する曲線部と、それに連なる上記中心軸に略平行な直線部とからなることを特徴としている。
【0008】
本発明によれば、上記外輪の中心軸を含む断面において、上記外輪の軌道溝が、上記肩部側の略同一曲率を有する曲線部と、それに連なる上記中心軸に略平行な直線部とからなると共に、上記内輪の軌道溝が、上記肩部側の略同一曲率を有する曲線部と、それに連なる上記中心軸に略平行な直線部とからなるので、従来の内外輪の軌道溝の曲率が同一であるアンギュラ玉軸受と比較して、ラジアル隙間を小さくすることができる。したがって、ラジアル方向のガタが発生することを防止できて、ターボチャージャの回転軸の振れが発生することを防止できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明のターボチャージャ用アンギュラ玉軸受によれば、外輪の中心軸を含む断面において、上記外輪の軌道溝が、肩部側の略同一曲率を有する曲線部と、それに連なる上記中心軸に略平行な直線部とからなると共に、内輪の軌道溝が、肩部側の略同一曲率を有する曲線部と、それに連なる上記中心軸に略平行な直線部とからなっているので、ラジアル方向のガタが発生することがなくて、ターボチャージャの回転軸の振れが発生することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0011】
図1は、この発明の一実施形態のターボチャージャ用アンギュラ玉軸受を備えたターボチャージャの軸方向の断面図である。
【0012】
このターボチャージャは、鋼製の回転軸2と、回転軸2の一端に固定されたアルミ合金製のタービン3と、回転軸2の他端に固定されたアルミ合金製のインペラ4と、回転軸6を収容するハウジング6と、ハウジング6の内側に回転軸2を回転自在に支持するこの発明の一実施形態の第1および第2ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7,8とを備える。上記第1ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7(以下、玉軸受7という)は、回転軸2上のタービン3側に配置され、第2ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受8(以下、玉軸受8という)は、回転軸2上のインペラ4側に配置されている。
【0013】
上記第1ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7は、内輪31、外輪32および玉33を有し、第2ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受8は、内輪35、外輪36および玉37を有する。
【0014】
上記内輪31,35および外輪32,36は、片側の肩部が存在しない形状であり、カウンタボアを有する形状になっている。
【0015】
上記玉33は、外輪32の軌道溝と内輪31の軌道溝との間に、冠型保持器(図示せず)によって保持された状態で、周方向に一定の間隔を隔てられて複数配置され、玉37は、外輪36の軌道溝と内輪35の軌道溝との間に、冠型保持器(図示せず)によって保持された状態で、周方向に一定の間隔を隔てられて複数配置されている。
【0016】
上記第1、第2玉軸受7,8の夫々は、ハウジング6の内側に設けた軸受支持部16に、円環状の押圧環17,18を介して支持されている。詳しくは、上記軸受支持部16の両端部内側に押圧環17,18をそれぞれ内嵌し、押圧環17,18の夫々の内側に玉軸受7,8の夫々の外輪32,36を内嵌している。また、上記玉軸受7,8の夫々の内輪31,35を回転軸2の両端部に外嵌固定する事により、回転軸2をハウジング6に対し回転自在に支持している。
【0017】
第1および第2玉軸受7,8の夫々のターボチャージャの運転前のアキシアル隙間は、ターボチャージャの運転状態(運転前状態よりも温度が高い状態)で所定の値になるように、内外輪の位置に基づいて設定されている。すなわち、第1および第2玉軸受7,8に予圧を付与する方法として定位置予圧が採用されている。
【0018】
詳しくは、上記回転軸2の外周面上における軸方向の内輪31と内輪35の間には、スペーサ40が嵌合固定されており、第1、第2玉軸受7,8は、軸受支持部16の内周面上における軸方向の外輪32と外輪35との間には、スペーサ41が配置されている。上記スペーサ40およびスペーサ41は、ターボチャージャの使用前における第1および第2玉軸受7,8のアキシアル方向の存在位置を位置決めする役割を担っている。
【0019】
ターボチャージャの使用時においては、回転軸2、タービン3およびインペラ4の温度が高温になるので、回転軸2、タービン3およびインペラ4の夫々は、ターボチャージャの使用前の状態から膨張しようとする。しかしながら、アルミ合金の膨張の方が鋼の膨張よりも大きいので、タービン3およびインペラ4の膨張の方が、回転軸2の膨張よりも大きくなって、結果的に、第1および第2ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7,8を、ターボチャージャの軸方向の両端から締め上げる力が大きくなって、第1および第2ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7,8のアキシアル隙間が小さくなる。上記定位置予圧とは、ターボチャージャの使用時において、所定の予圧を実現するように、ターボチャージャの使用前の第1および第2ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7,8の内輪31,35および外輪32,36の位置を位置決めする予圧付与方法である。
【0020】
上記ハウジング6内には、給油通路19が設けられ、この給油通路19を通過する潤滑油で玉軸受7,8を潤滑するようになっている。詳しくは、潤滑油は、エンジンの運転時に、給油通路19の上流端に設けたフィルタ20により異物を除去された後、軸受支持部16の内周面と押圧環17,18の外周面との間に存在する環状の隙間空間(図示せず)に送り込まれるようになっている。そして、上記隙間空間を潤滑油で満たす事により、押圧環17,18の外周面と軸受支持部16の内周面との間に全周に亘って油膜(オイルフィルム)を形成し、押圧環17,18の振動を軸受支持部16に伝わりにくくしている。このように、上記隙間空間に満たされた潤滑油によって、回転軸2の回転に基づく振動を減衰させ、オイルフィルムダンパを形成している。
【0021】
上記隙間空間に送り込まれた潤滑油の一部は、押圧環17,18に設けたノズル孔22から、第1、第2玉軸受7,8の内輪31,35の外周面に向けて、径方向外方から斜めに噴出するようになっており、第1、第2の玉軸受7,8をオイルジェット潤滑するようになっている。また、第1、第2の玉軸受7,8に向けて噴出した潤滑油は、排油口23より排出されるようになっている。尚、上記隙間空間は、軸受支持部16と押圧環17,18とを隙間嵌めにする事により設けられている。
【0022】
上記押圧環17,18の外周面には、複数本(図示の例では2本)の凹部が、径方向内方に凹入する状態で全周に亘って設けられている。このことから、潤滑油を、上記隙間空間に上記凹部を設けた分だけ多く供給することができて、押圧環17,18の振動を抑制できるようになっている。また、上記第1、第2の玉軸受7,8の外輪32,36の外周面と、押圧環17,18の内周面との間にも、隙間空間(図示せず)が設けられている。この隙間空間にも潤滑油が満たされており、回転軸2の回転に基づく振動が減衰するようになっている。
【0023】
また、上記ハウジング6内には、ウォータジャケット(冷却水通路)25が設けられており、ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受を冷却するようになっている。すなわち、ターボチャージャを装着したエンジンの運転時に、エンジン内を循環する冷却水の一部がウォータジャケット25を流通するようになっており、第1、第2の玉軸受7,8を含む構成各部の温度上昇を抑えるようになっている。このような冷却を行うことにより、比較的低温の空気に曝されるインペラ4側に設けられた第2の玉軸受8は勿論のこと、最高で1000℃近くの高温の排気に曝されるタービン3側に設けられた第1の玉軸受7についても十分に冷却できるようになっている。
【0024】
上記構成において、このターボチャージャは、排気流路(図示せず)を流通する排気により、回転軸2のタービン3を回転させ、回転動力を回転軸2の他端のインペラに4伝達するようになっている。そして、上記インペラ4を給気流路5内で数万乃至は十数万min−1(r.p.m.)の回転速度で回転させることによって、給気流路5の上流端開口から吸引された空気を圧縮して、ガソリン、軽油等の燃料と共にエンジンのシリンダ室内に送り込むようになっている。
【0025】
図2は、上記第1玉軸受7の模式図であり、内外輪31,32の軌道溝の形状を詳細に示すと共に、内輪31および外輪32の軌道溝と、玉33とのアキシアル隙間およびラジアル隙間を誇張して描いた模式図である。
【0026】
図2においては、簡単のため保持器を省略している。また、図2おいて、矢印aは、ターボチャージャの運転時において、外輪32にかかる力の方向を示し、矢印bは、ターボチャージャの運転時において、内輪31にかかる力の方向を示している。また、図2において、点線60は、従来のターボチャージャ用アンギュラ玉軸受の内輪の軌道溝の一部の位置を示し、点線62は、従来のターボチャージャ用アンギュラ玉軸受の外輪の軌道溝の一部の位置を示している。
【0027】
尚、上記第2ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受8は、その内輪35の肩部の形成位置が、玉の中心を含むと共に外輪の中心軸に垂直な平面に対して、第1ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7の内輪31の肩部51の形成位置と反対側であり、かつ、その外輪36の肩部の形成位置が、玉の中心を含むと共に外輪の中心軸に垂直な平面に対して、第1ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7の外輪32の肩部52の形成位置と反対側である点が、第1ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受8と異なっている。
【0028】
図2に示すように、内輪31は、軌道溝の片側のみに肩部51を有し、外輪32は、軌道溝の片側のみに肩部52を有する。上記内輪31の肩部51と外輪32の肩部52とは、玉33の中心Pを含むと共に外輪32の中心軸70(70は内輪31の中心軸でもある)に垂直な平面に対して互いに反対側の領域に位置している。
【0029】
また、上記外輪32の中心軸70を含む断面において、外輪32の軌道溝は、肩部52側の略同一曲率を有する曲線部57と、それに連なる中心軸70に略平行な直線部58とからなっており、内輪31の軌道溝は、肩部51側の略同一曲率を有する曲線部55と、それに連なる中心軸70に略平行な直線部56とからなっている。
【0030】
また、直線部56は点線60よりも径方向の外方に存在し、かつ、直線部58は点線62よりも径方向の内方に存在している。このことから、ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受7のラジアル隙間は、従来のターボチャージャ用アンギュラ玉軸受のラジアル隙間よりも小さくなっている。
【0031】
上記実施形態のターボチャージャ用アンギュラ玉軸受によれば、外輪32の中心軸70を含む断面において、外輪32の軌道溝が、肩部52側の略同一曲率を有する曲線部57と、それに連なる中心軸70に略平行な直線部58とからなると共に、内輪31の軌道溝が、肩部51側の略同一曲率を有する曲線部55と、それに連なる中心軸70に略平行な直線部56とからなるので、従来の内外輪の軌道溝の曲率が同一であるアンギュラ玉軸受と比較して、ラジアル隙間を小さくすることができる。したがって、ラジアル方向のガタが発生することを防止できて、ターボチャージャの回転軸2の振れが発生することを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施形態のターボチャージャ用アンギュラ玉軸受を備えたターボチャージャの軸方向の断面図である。
【図2】上記ターボチャージャが備える第1ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受の模式図である。
【符号の説明】
【0033】
2 回転軸
3 タービン
4 インペラ
7,8 ターボチャージャ用アンギュラ玉軸受
31,35 内輪
32,36 外輪
33,37 玉
肩部 51,52
曲線部 55,57
直線部 56,58
中心軸 70
P 玉の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道溝の片側のみに肩部を有する内輪と、
軌道溝の片側のみに肩部を有する外輪と、
上記内輪および上記外輪の上記軌道溝の間に配置された玉と
を備え、
上記内輪の肩部と上記外輪の肩部とは、上記玉の中心を含むと共に上記外輪の中心軸に垂直な平面に対して互いに反対側に位置し、
上記外輪の中心軸を含む断面において、上記外輪の軌道溝が、上記肩部側の略同一曲率を有する曲線部と、それに連なる上記中心軸に略平行な直線部とからなると共に、上記内輪の軌道溝が、上記肩部側の略同一曲率を有する曲線部と、それに連なる上記中心軸に略平行な直線部とからなることを特徴とするターボチャージャ用アンギュラ玉軸受。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−192303(P2007−192303A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−11106(P2006−11106)
【出願日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】