説明

ダンパー及びその製造方法並びにディスクブレーキのシム板

【課題】耐寒性及び耐熱性に優れたダンパー及びその製造方法並びにディスクブレーキのシム板を提供する。
【解決手段】本発明のダンパー76bは、エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散されたゴム組成物からなる。ダンパー76bのエラストマーは、アクリルゴムとエチレン−プロピレンゴムとを含む。ダンパー76bのエラストマーにおけるアクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐寒性及び耐熱性に優れたダンパー及びその製造方法並びにディスクブレーキ用のシム板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、機械部品や構造体等に伝達される振動エネルギーを吸収し減少させるダンパーとして、ゴム組成物からなるダンパーが知られている。例えば、モータなどの振動体を内蔵した機械部品と構造体との間に用いられるダンパーは、機械部品の微小振動を吸収し、構造体へ伝わる振動を減少させていた。また、例えば、自動車のエンジンルーム内で使用されるエンジンマウントなどの自動車用防振ゴムとしてのダンパーは、冬場の低温から走行中のエンジンルーム内の高温雰囲気における環境で使用されていた。近年、自動車、事務機器、家庭用電気製品、建築物等の様々な分野で用いられるダンパーは、防振性、制振性、免振性が要求されている。
【0003】
従来、このようなダンパーには、天然ゴム(NR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)などが用いられていた。天然ゴム(NR)及びブチルゴム(IIR)は耐熱性に問題がある。そこで、低温領域から高温領域まで損失正接(tanδ)が0.35を超え、かつ1.0未満であるエチレン−プロピレンゴム(EPDM)のダンパーが提案された(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、耐寒性、耐熱性及び高減衰性が要求されるダンパーの用途として、例えば、車両のディスクブレーキ用のシム板があった(例えば、特許文献2参照)。ディスクブレーキ用のシム板(以下、単にシム板と呼ぶ)は、ディスクブレーキの制動時に発生する鳴きと呼ばれる異音を防止するために、パッドとピストンとの間に配設された金属製等の薄板である。パッドとディスクロータとの摩擦は、常に、制動時において両者間には細かな振動が発生する。この振動がディスクロータやキャリパボディ等と共振してディスクブレーキの異音となり、鳴きが発生すると考えられる。このようなシム板は、パッドに装着され、例えば薄いステンレス製の金属板と、金属板の両面もしくは片面に加硫接着されたニトリルゴム(NBR:アクリロニトリル−ブタジエンゴム)等の合成ゴムからなるシート状のダンパーと、を有していた。ダンパーに採用されるゴム材としては、ニトリルゴム(NBR)の他、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)等が例示されているが、一般的には、ガラス転移点(Tg)が高く減衰特性(損失正接(tanδ))に優れたニトリルゴム(NBR)が用いられていた。
【0005】
しかしながら、ニトリルゴム(NBR)を用いたダンパーを有するシム板は、高温例えば120℃以上での減衰特性(損失正接(tanδ))が低く、劣化開始温度が低かった。そのため、ディスクブレーキが高温になると鳴きが発生しやすく、また高温によるダンパーの劣化によって減衰特性が低下してシム板の寿命がディスクブレーキの他の部品に比べて比較的短かった。
【0006】
また、一般に、カーボンナノファイバーはマトリックスに分散させにくいフィラーであった。本発明者等が先に提案した炭素繊維複合材料の製造方法によれば、これまで困難とされていたカーボンナノファイバーの分散性を改善し、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献3参照)。このような炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーの分散性を向上させている。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料のフィラーとして用いることができるようになった。
【特許文献1】特開2007−9073号公報
【特許文献2】特開平6−94057号公報
【特許文献3】特開2005−97525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐寒性及び耐熱性に優れたダンパー及びディスクブレーキ用のシム板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかるダンパーは、
エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散されたゴム組成物からなるダンパーであって、
前記エラストマーは、アクリルゴムとエチレン−プロピレンゴムとを含み、アクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である。
【0009】
本発明にかかるダンパーによれば、耐寒性及び耐熱性に優れるダンパーとすることができる。
【0010】
本発明にかかるダンパーにおいて、前記ゴム組成物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることができる。
【0011】
本発明にかかるダンパーにおいて、前記エチレン−プロピレンゴムは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体であることができる。
【0012】
本発明にかかるダンパーにおいて、前記ゴム組成物は、前記エラストマー100重量部に対して、前記カーボンナノファイバー5〜100重量部を含むことができる。
【0013】
本発明にかかるダンパーにおいて、前記ゴム組成物は、ゲーマンねじり試験におけるT5が−30℃以下であることができる。
【0014】
本発明にかかるダンパーにおいて、前記ゴム組成物は、動的粘弾性試験における損失正接(tanδ)のピークの温度が−40℃以下もしくはピークが無いことができる。
【0015】
本発明にかかるダンパーにおいて、前記ゴム組成物は、熱機械分析における劣化開始温度が200℃〜300℃であることができる。
【0016】
本発明にかかるディスクブレーキ用のシム板は、前記ダンパーと、該ダンパーが少なくとも一方の表面に形成された金属板と、を有する。
【0017】
本発明にかかるディスクブレーキ用のシム板によれば、シム板のダンパーが耐寒性及び耐熱性に優れるため、高温から低温まで幅広い温度領域で減衰特性を得ることができ、鳴きの発生を効果的に抑えることができる。また、本発明にかかるディスクブレーキ用のシム板によれば、ディスクブレーキが高温になっても、シム板のダンパーの劣化開始温度が高く耐熱性に優れるため、シム板の長寿命化も達成できる。
【0018】
本発明にかかるダンパーの製造方法は、アクリルゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第1のゴム組成物を得る工程と、
エチレン−プロピレンゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第2のゴム組成物を得る工程と、
前記第1のゴム組成物と前記第2のゴム組成物とを混合してゴム組成物からなるダンパーを得る工程と、
を含み、
前記ゴム組成物におけるアクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である。
【0019】
本発明にかかるダンパーの製造方法によれば、耐寒性及び耐熱性に優れるダンパーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明の一実施の形態のシム板及びパッドの組付状態を示す正面図である。図2は、図1のシム板のIII−III’縦断面図である。図3は、図2のシム板の部分拡大縦断面図である。図4は、車両のブレーキに用いられるディスクブレーキ50の一例を示す縦断面図である。
【0022】
本実施の形態にかかるダンパーは、エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散されたゴム組成物からなるダンパーであって、前記エラストマーは、アクリルゴムとエチレン−プロピレンゴムとを含み、前記エラストマーにおけるアクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である。
【0023】
本実施の形態にかかるディスクブレーキ用のシム板は、前記ダンパーと、該ダンパーが少なくとも一方の表面に形成された金属板と、を有する。
【0024】
本実施の形態にかかるダンパーの製造方法は、アクリルゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第1のゴム組成物を得る工程と、エチレン−プロピレンゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第2のゴム組成物を得る工程と、前記第1のゴム組成物と前記第2のゴム組成物とを混合してゴム組成物からなるダンパーを得る工程と、を含み、前記ゴム組成物におけるアクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である。
【0025】
(ディスクブレーキ用のシム板)
本実施の形態にかかるダンパーは、例えば図4に示すライニング材72を含むパッド70を円盤状のディスクロータ52に押し付けて制動力を発生させる車両のディスクブレーキ50用のシム板76に用いることができる。車両用のディスクブレーキ50は車体側に支持されるキャリパボディ60を有し、キャリパボディ60は、円盤状のディスクロータ52を挟んで、液圧室64が内部に形成された作用部60aと、作用部60aに対向して配設された反作用部60bと、を有する。液圧室64内には、ピストン62が配設されており、ピストンシール63によってブレーキ液が液密に保たれている。作用部60aと反作用部60bとの間には、ディスクロータ52の被圧接面(側面)に圧接可能な一対のパッド70,70が対向して配設されている。パッド70は、ライニング材72が金属製の裏板74のディスクロータ52側の面に一体に設けられている。したがって、ディスクブレーキ50は、液圧室64に外部より液圧を作用させると、ピストン62が図4の矢印B方向に移動して、ピストン62側(インナー側)のパッド70をディスクロータ52の一方の被圧接面52aに押し付け、同時にキャリパボディ60がスライドピン(図示せず)を介して図4の矢印C方向にスライドして、反作用部60bによりアウター側のパッド70をディスクロータ52の他方の被圧接面52bに押し付けることで制動力を発生する。そして、ディスクブレーキ50の作用部60a側ではパッド70とピストン62との間にシム板76を介在させ、反作用部60b側ではパッド70と反作用部60bとの間にシム板76を介在させることでディスクブレーキ50の鳴きを防止する。
【0026】
シム板76は、図1に示すように、複数の係止片76cによってパッド70の裏板74に装着された状態で、図4に示したディスクブレーキ50に組み付けられる。図2、3に示すように、シム板76は、例えば薄いステンレス製の金属板76aと、金属板76aの両面に加硫接着されたシート状のダンパー76bと、を有する。なお、本実施の形態においては、金属板76aの両面にダンパー76bが形成されているが、金属板76aの少なくとも一方の表面だけにダンパー76bが形成されていてもよく、また、シム板76を複数枚例えば2枚重ねて裏板74に装着してもよい。また、ディスクブレーキ50の形式は、本実施の形態のピンスライド式に限らず、ピストンがディスクロータの両側に配置された対向型ディスクブレーキでもよく、ピストンの数やシム板の形状も本実施の形態に限定されない。
【0027】
なお、本実施の形態にかかるダンパーは、シム板のダンパーに限らず、耐寒性及び耐熱性に優れ、例えば、防振性、制振性、免振性を要求されるダンパーに採用することができる。
【0028】
(ゴム組成物)
ダンパー76bに用いられるゴム組成物について説明する。ゴム組成物は、架橋体が好ましいが、カーボンナノファイバーで補強されているため無架橋体であってもよい。ゴム組成物は、マトリックスであるエラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散され、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。ゴム組成物は、架橋体において、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし2000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満であることが好ましい。
【0029】
ゴム組成物のT2n,fnnは、マトリックスであるエラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されていることを表すことができる。つまり、エラストマーにカーボンナノファイバーが均一に分散されているということは、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。この状態では、カーボンナノファイバーによって拘束を受けたエラストマー分子の運動性は、カーボンナノファイバーの拘束を受けない場合に比べて小さくなる。そのため、本実施の形態にかかるゴム組成物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)及びスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より短くなり、特にカーボンナノファイバーが均一に分散することでより短くなる。なお、架橋体におけるスピン−格子緩和時間(T1)は、カーボンナノファイバーの混合量に比例して変化する。
【0030】
また、エラストマー分子がカーボンナノファイバーによって拘束された状態では、以下の理由によって、非ネットワーク成分(非網目鎖成分)は減少すると考えられる。すなわち、カーボンナノファイバーによってエラストマーの分子運動性が全体的に低下すると、非ネットワーク成分は容易に運動できなくなる部分が増えて、ネットワーク成分と同等の挙動をしやすくなること、また、非ネットワーク成分(末端鎖)は動きやすいため、カーボンナノファイバーの活性点に吸着されやすくなること、などの理由によって、非ネットワーク成分は減少すると考えられる。そのため、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より小さくなる。なお、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する成分の成分分率(fn)は、fn+fnn=1であるので、カーボンナノファイバーを含まないエラストマー単体の場合より大きくなる。
【0031】
以上のことから、本実施の形態にかかるゴム組成物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって得られる測定値が上記の範囲にあることによってカーボンナノファイバーが均一に分散されていることがわかる。
【0032】
パルス法NMRを用いた反転回復法により測定されたスピン−格子緩和時間(T1)は、スピン−スピン緩和時間(T2)とともに物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、エラストマーのスピン−格子緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえ、そしてスピン−格子緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0033】
ゴム組成物は、ゲーマンねじり試験におけるT5が−30℃以下であることが好ましい。また、ゴム組成物は、動的粘弾性試験における損失正接(tanδ)のピークの温度が−40℃以下もしくはピークが無いことが好ましい。エラストマーのガラス転移点(Tg)付近の領域におけるゴム組成物の損失正接(tanδ)のピークは、このピークよりも低温の領域ではゴム組成物が硬くなりすぎてクッション性を失うので、ゴム組成物としての使用限界温度であって、使用最低温度ということができる。通常であれば、ゴム組成物は、エチレン−プロピレンゴムと、エチレン−プロピレンゴムよりも耐熱性には優れるが耐寒性に劣るアクリルゴムと、を含むため、損失正接(tanδ)のピークがダブルピークとなって現れ、アクリルゴムの耐寒性の影響を受ける。しかしながら、本実施の形態にかかるゴム組成物は、エチレン−プロピレンゴムとアクリルゴムとを所定重量比で含み、さらにカーボンナノファイバーが分散しているので、エチレン−プロピレンゴムのように優れた耐寒性を得ることができる。
【0034】
ゴム組成物は、熱機械分析における劣化開始温度が200℃〜300℃であることが好ましく、さらに好ましくは250℃〜300℃である。熱機械分析における劣化開始温度は、軟化劣化(膨張)及び硬化劣化(収縮)を含む劣化現象が開始する温度であって、熱機械分析によって得られた温度−線膨張係数微分値の特性グラフから劣化現象が開始した温度を測定して得られる。ゴム組成物の劣化開始温度が高いということは、高温においてもゴム組成物の劣化が始まらないので、耐熱性に優れていることを示し、したがって、ダンパーを使用することのできる最高温度が高くなるため望ましい。ゴム組成物は、エラストマーにカーボンナノファイバーが良好に分散されているため、エラストマーがカーボンナノファイバーによって拘束されている状態であるともいえる。したがって、エラストマーは、カーボンナノファイバーを含まない場合に比べて、その分子運動が小さくなり、その結果、劣化開始温度が高温側へ移動する。さらに、ゴム組成物は、エチレン−プロピレンゴムよりも耐熱性に優れるアクリルゴムを含むため、エチレン−プロピレンゴム単体に比べて劣化開始温度が高温側に移動し、耐熱性に優れる。
【0035】
(ゴム組成物の製造方法)
本実施の形態にかかるダンパーの製造方法は、アクリルゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第1のゴム組成物を得る工程と、エチレン−プロピレンゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第2のゴム組成物を得る工程と、前記第1のゴム組成物と前記第2のゴム組成物とを混合してゴム組成物からなるダンパーを得る工程と、を含み、前記ゴム組成物におけるアクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である。
【0036】
アクリルゴムもしくはエチレン−プロピレンゴムにカーボンナノファイバーを混合する方法としては、例えば、オープンロール、単軸あるいは2軸などの多軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーなど公知の混合機に供給し、混練する方法が挙げられる。カーボンブラックなどのカーボンナノファイバー以外の充填材は、カーボンナノファイバーを供給する前に混合機に供給することが好ましい。
【0037】
第1のゴム組成物を得る工程と第2のゴム組成物を得る工程とは、エラストマーが異なるが基本的に同じ工程を採用することができる。ここでは、第1のゴム組成物を得る工程について説明し、第2のゴム組成物を得る工程については説明を省略するが、第2のゴム組成物を得る工程もアクリルゴムをエチレン−プロピレンゴムにするだけで実施可能である。図5及び図6は、発明の一実施形態にかかるオープンロール法によるゴム組成物の製造方法を模式的に示す図である。
【0038】
図5に示すように、第1のロール100と第2のロール200とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.0mmの間隔で配置され、図5において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。オープンロールに投入されるアクリルゴムは、未架橋体であって、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、ネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒、より好ましくは200〜1000μ秒である。まず、第2のロール200に巻き付けられたアクリルゴム30の素練りを行ない、アクリルゴム分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。カーボンナノファイバーは、通常、側面は炭素原子の6員環で構成され、先端は5員環が導入されて閉じた構造となっているが、構造的に無理があるため、実際上は欠陥を生じやすく、その部分にラジカルや官能基を生成しやすくなっているため、素練りによってアクリルゴムのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
【0039】
次に、第2のロール200に巻き付けられたアクリルゴム30のバンク32に、平均直径が0.5ないし500nmのカーボンナノファイバー40を投入し、混練して混合物34を得る。アクリルゴム30とカーボンナノファイバー40とを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0040】
さらに、図6に示すように、第1のロール100と第2のロール200とのロール間隔dを、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0ないし0.5mmの間隔に設定し、混合物34をオープンロールに投入して薄通しを複数回行なう。薄通しの回数は、例えば5回〜10回程度行なうことが好ましい。第1のロール100の表面速度をV1、第2のロール200の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05ないし3.00であることが好ましく、さらに1.05ないし1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。薄通しして得られたゴム組成物36は、ロールで圧延されてシート状に分出しされる。この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の比較的低い温度に設定して行われ、アクリルゴム30の実測温度も0ないし50℃に調整されることが好ましい。このようにして得られた剪断力により、アクリルゴム30に高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバー40がアクリルゴム分子に1本づつ引き抜かれるように相互に分離し、アクリルゴム30中に分散される。特に、アクリルゴム30は、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバー40との化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバー40を容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバー40の分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れたゴム組成物を得ることができる。
【0041】
より具体的には、オープンロールでアクリルゴムとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するアクリルゴムがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、アクリルゴムの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。次に、アクリルゴムに強い剪断力が作用すると、アクリルゴム分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるアクリルゴムの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、アクリルゴム中に分散されることになる。本実施の形態によれば、ゴム組成物が狭いロール間から押し出された際に、アクリルゴムの弾性による復元力でゴム組成物はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用したゴム組成物をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをアクリルゴム中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、アクリルゴムとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0042】
アクリルゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第1のゴム組成物を得る工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をアクリルゴムに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。
【0043】
第1のゴム組成物を得る工程において、通常、アクリルゴムの加工で用いられる配合剤を加えることができる。配合剤としては公知のものを用いることができる。配合剤としては、例えば、架橋剤、加硫剤、加硫促進剤、加硫遅延剤、軟化剤、可塑剤、硬化剤、補強剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などを挙げることができる。これらの配合剤は、例えばオープンロールにおけるカーボンナノファイバーの投入前にアクリルゴムに投入することができる。
【0044】
なお、第1のゴム組成物を得る工程においては、ゴム弾性を有した状態のアクリルゴムにカーボンナノファイバーを直接混合したが、これに限らず、以下の方法を採用することもできる。まず、カーボンナノファイバーを混合する前に、アクリルゴムを素練りしてアクリルゴムの分子量を低下させる。アクリルゴムは、素練りによって分子量が低下すると、粘度が低下するため、凝集したカーボンナノファイバーの空隙に浸透しやすくなる。原料となるアクリルゴムは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、未架橋体における、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が100ないし3000μ秒のゴム状弾性体である。この原料のアクリルゴムを素練りしてアクリルゴムの分子量を低下させ、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒を越える液体状のアクリルゴムを得る。なお、素練り後の液体状のアクリルゴムの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料のアクリルゴムの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の5〜30倍であることが好ましい。この素練りは、アクリルゴムが固体状態のままで行なう一般的な素練りとは異なり、強剪断力を例えばオープンロール法で与えることによってアクリルゴムの分子を切断し分子量を著しく低下させ、混練に適さない程の流動を示すまで、液体状態になるまで行なわれる。この素練りは、例えばオープンロール法を用いた場合、ロール温度20℃(素練り時間最短60分)〜150℃(素練り時間最短10分)で行なわれロール間隔dは例えば0.1mm〜1.0mmで、素練りして液体状態のアクリルゴムにカーボンナノファイバーを投入する。しかしながら、アクリルゴムは液体状で弾性が著しく低下しているため、アクリルゴムのフリーラジカルとカーボンナノファイバーが結びついた状態で混練しても凝集したカーボンナノファイバーはあまり分散されない。
【0045】
そこで、液体状のアクリルゴムとカーボンナノファイバーとを混練して得られた混合物中におけるアクリルゴムの分子量を増大させ、アクリルゴムの弾性を回復させてゴム状弾性体の混合物を得た後、先に説明したオープンロール法の薄通しなどを実施してカーボンナノファイバーをアクリルゴム中に均一に分散させる。アクリルゴムの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって30℃で測定した、ネットワーク成分の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)が3000μ秒以下である。また、アクリルゴムの分子量が増大したゴム状弾性体の混合物の第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は、素練りする前の原料アクリルゴムの第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)の0.5〜10倍であることが好ましい。ゴム状弾性体の混合物の弾性は、アクリルゴムの分子形態(分子量で観測できる)や分子運動性(T2nで観測できる)によって表すことができる。アクリルゴムの分子量を増大させる工程は、混合物を加熱処理例えば40℃〜100℃に設定された加熱炉内に混合物を配置し、10時間〜100時間行なわれることが好ましい。このような加熱処理によって、混合物中に存在するアクリルゴムのフリーラジカル同士の結合などによって分子鎖が延長され、分子量が増大する。また、アクリルゴムの分子量の増大を短時間で実施する場合には、架橋剤を少量、例えば架橋剤の適量の1/2以下を混合させておき、混合物を加熱処理(例えばアニーリング処理)し架橋反応によって短時間で分子量を増大させることもできる。架橋反応によってアクリルゴムの分子量を増大させる場合には、この後の工程で混練が困難にならない程度に架橋剤の配合量、加熱時間及び加熱温度を設定することが好ましい。
【0046】
ここで説明した第1のゴム組成物を得る工程によれば、カーボンナノファイバーを投入する前にアクリルゴムの粘度を低下させることで、アクリルゴム中にカーボンナノファイバーを従来よりも均一に分散させることができる。より詳細には、先に説明した第1のゴム組成物を得る工程のように分子量が大きいアクリルゴムにカーボンナノファイバーを混合するよりも、分子量が低下した液体状のアクリルゴムを用いた方が凝集したカーボンナノファイバーの空隙にアクリルゴム分子が侵入しやすく、薄通しの工程においてカーボンナノファイバーをより均一に分散させることができる。また、アクリルゴムが分子切断されることで大量に生成されたアクリルゴムのフリーラジカルがカーボンナノファイバーの表面とより強固に結合することができるため、さらにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができる。したがって、ここで説明した第1のゴム組成物を得る工程によれば、先に説明した工程よりも少量のカーボンナノファイバーでも同等の性能を得ることができ、高価なカーボンナノファイバーを節約することで経済性も向上する。
【0047】
第2のゴム組成物を得る工程は、アクリルゴムの代わりにエチレン−プロピレンゴムを用いて第1のゴム組成物を得る工程と同様に実施することができる。なお、比較的細い、例えば平均直径が30nm以下のカーボンナノファイバーを用いた場合には、エチレン−プロピレンゴムのマトリックス中に凝集塊が残る場合がある。その場合には、第2のゴム組成物を得る工程は、エチレン−プロピレンゴムとカーボンナノファイバーとを第1の温度で混練する第1の混練工程と、前記第1の混練工程で得られた混合物を第2の温度で混練する第2の混練工程と、前記第2の混練工程で得られた混合物を薄通しする第3の混練工程と、を含む製造方法を実施することが好ましい。第1の混練工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、エチレン−プロピレンゴムとカーボンナノファイバーとの混合は、第2の混練工程より50〜100℃低い第1の温度で行なわれる。第1の温度は、好ましくは0ないし50℃、より好ましくは5ないし30℃の第1の温度である。第1の温度の設定は、密閉式混練機を用いた場合にはチャンバーの温度によって設定してもよく、オープンロール機を用いた場合にはロータの温度によって設定してもよく、あるいは混合物の温度を測定しながら速度比の制御や各種温度制御を行なってもよい。第2の混練工程では、エチレン−プロピレンゴム37の分子を切断してラジカルを生成させるため、第1の温度よりも50〜100℃高い第2の温度で混練が行なわれる。第2の温度は、用いられるエチレン−プロピレンゴムの種類によって適宜選択することができるが、50〜150℃が好ましい。第3の混練工程は、第1の組成物を得る工程で説明した薄通しと同様に行われることが好ましい。
【0048】
このようにして得られた第1のゴム組成物と第2のゴム組成物とを混合してゴム組成物からなるダンパーを得る工程は、第1のゴム組成物と第2のゴム組成物とを公知の混練機に投入し十分に混練することが好ましい。混練機は、バンバリミキサ、ニーダ、ブラベンダーなどの密閉式混練機、オープンロール機、1軸もしくは多軸押出機などを採用することができる。ゴム組成物の製造方法は、第1のゴム組成物と第2のゴム組成物との混練中に架橋剤を混合し、架橋して架橋体のゴム組成物とすることが好ましい。ゴム組成物は、オープンロール法によって得られたシート状のままでもよいし、得られたゴム組成物を一般に採用されるゴムの成形加工例えば、射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法、押出成形法、カレンダー加工法などによって所望の形状例えばシート状に成形してもよい。
【0049】
このようにして得られたゴム組成物を用いてシム板を成形するには、例えば図1〜図3に示すような金属板76aにゴム組成物のシートを重ねて架橋接着などで接着してダンパー76bを形成してもよいし、ゴム組成物を溶剤に溶かしてスプレー塗布、ローラ塗布、ディッピングなどで塗布し加熱処理してダンパー76bを形成してもよい。
【0050】
なお、本実施の形態にかかるダンパーの製造方法は、第1のゴム組成物を得る工程と、第2のゴム組成物を得る工程と、前記第1のゴム組成物と前記第2のゴム組成物とを混合してゴム組成物からなるダンパーを得る工程と、を含んだが、これに限らず、例えば、アクリルゴムとエチレン−プロピレンゴムとをあらかじめ混合した後にカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させてゴム組成物からなるダンパーを得ることもできる。
【0051】
(エラストマー)
ダンパーのゴム組成物に用いられるエラストマーは、アクリルゴムとエチレン−プロピレンゴムとを含み、前記エラストマーにおけるアクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である。エチレン−プロピレンゴムは一般に耐熱性に優れたエラストマーであるが、アクリルゴムをブレンドすることによってダンパーの耐熱性をさらに向上させることができる。逆にアクリルゴムをブレンドすることによって、通常であればダンパーの耐寒性が悪くなるが、アクリルゴムとエチレン−プロピレンゴムとが所定の重量比で配合し、かつ、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることで耐寒性を向上させることができる。
【0052】
エラストマーは、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって、30℃で測定した、未架橋体におけるネットワーク成分のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)が好ましくは100〜3000μ秒である。上記範囲のスピン−スピン緩和時間(T2n/30℃)を有することにより、エラストマーは、柔軟で充分に高い分子運動性を有することができ、すなわちカーボンナノファイバーを分散させるために適度な弾性を有することができるため好ましい。また、エラストマーは粘性を有しているので、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合したときに、エラストマーは高い分子運動によりカーボンナノファイバーの相互の隙間に容易に侵入することができるため好ましい。
【0053】
パルス法NMRを用いたハーンエコー法によって得られるスピン−スピン緩和時間は、物質の分子運動性を表す尺度である。具体的には、パルス法NMRを用いたハーンエコー法によりエラストマーのスピン−スピン緩和時間を測定すると、緩和時間の短い第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)を有する第1の成分と、緩和時間のより長い第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する第2の成分とが検出される。第1の成分は高分子のネットワーク成分(骨格分子)に相当し、第2の成分は高分子の非ネットワーク成分(末端鎖などの枝葉の成分)に相当する。そして、第1のスピン−スピン緩和時間が短いほど分子運動性が低く、エラストマーは固いといえる。また、第1のスピン−スピン緩和時間が長いほど分子運動性が高く、エラストマーは柔らかいといえる。
【0054】
パルス法NMRにおける測定法としては、ハーンエコー法でなくてもソリッドエコー法、CPMG法(カー・パーセル・メイブーム・ギル法)あるいは90゜パルス法でも適用できる。ただし、本発明にかかるエラストマーは中程度のスピン−スピン緩和時間(T2)を有するので、ハーンエコー法が最も適している。一般的に、ソリッドエコー法および90゜パルス法は、短いT2の測定に適し、ハーンエコー法は、中程度のT2の測定に適し、CPMG法は、長いT2の測定に適している。
【0055】
第1のゴム組成物のマトリックス原料となるアクリルゴム(ACM)は、エチレン−プロピレンゴムよりも耐熱性に優れた、アクリル酸エステルを主体としエチレンとの共重合体を含むアクリル酸エステル共重合体を用いることが好ましい。
【0056】
第2のゴム組成物のマトリックス原料となるエチレン−プロピレンゴムは、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体)を用いることが好ましい。また、本実施の形態にかかるエチレン−プロピレンゴムは、耐熱性、耐寒性を得るため、エチリデンノルボルネンなどの第3成分を含み、かつ、エチレンとプロピレンの共重合比は、エチレン含量の重量比率で40%〜80%のEPDMが好ましい。エチレン−プロピレンゴムの平均分子量は、通常5万以上のものが望ましく、より好ましくは7万以上、特に好ましくは10〜50万程度のものを用いることができる。エチレン−プロピレンゴムの分子量がこの範囲であると、エチレン−プロピレンゴム分子が互いに絡み合い、相互につながっているので、エチレン−プロピレンゴムは、凝集したカーボンナノファイバーの相互に侵入しやすく、したがってカーボンナノファイバー同士を分離する効果が大きいため好ましい。
【0057】
(カーボンナノファイバー)
カーボンナノファイバーは、平均直径が0.5〜500nmであり、平均直径が0.5ないし100nmであることが好ましい。また、カーボンナノファイバーは、平均長さが0.01〜1000μmであることが好ましい。カーボンナノファイバーの配合量は、ダンパーに要求される耐熱性や減衰性などによって適宜設定できるが、エラストマー100重量部に対してカーボンナノファイバー5〜100重量部を含むことがダンパーの優れた耐熱性や減衰性を得るために好ましい。特に、ゴム組成物に補強剤としてのカーボンブラックを配合することでカーボンナノファイバーの配合量を少なくすることができる。
【0058】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWNT)、2層に巻いた2層カーボンナノチューブ(ダブルウォールカーボンナノチューブ:DWNT)、3層以上に巻いた多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)などが適宜用いられる。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブといった名称で称されることもある。また、カーボンナノファイバーは、ホウ素、炭化ホウ素、ベリリウム、アルミニウム、ケイ素等の黒鉛化触媒と共に約2300℃〜3200℃で黒鉛化処理したものを用いてもよい。
【0059】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。アーク放電法は、大気圧よりもやや低い圧力のアルゴンや水素雰囲気下で、炭素棒でできた電極材料の間にアーク放電を行うことで、陰極に堆積した多層カーボンナノチューブを得る方法である。また、単層カーボンナノチューブは、前記炭素棒中にニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜてアーク放電を行い、処理容器の内側面に付着するすすから得られる。レーザーアブレーション法は、希ガス(例えばアルゴン)中で、ターゲットであるニッケル/コバルトなどの触媒を混ぜた炭素表面に、YAGレーザーの強いパルスレーザー光を照射することによって炭素表面を溶融・蒸発させて、単層カーボンナノチューブを得る方法である。気相成長法は、ベンゼンやトルエン等の炭化水素を気相で熱分解し、カーボンナノチューブを合成するもので、より具体的には、流動触媒法やゼオライト担持触媒法などが例示できる。なお、カーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
(1)実施例1〜5及び比較例1〜10のサンプルの作製
(a)6インチオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔1.5mm)に、表1〜表3に示す所定量のアクリルゴム(重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせ、5分間素練りした後、表1〜表3に示す量のカーボンナノファイバー及び/もしくはカーボンブラックを投入し、混合物をオープンロールから取り出した。そして、ロール間隔を1.5mmから0.3mmへと狭くして、混合物を再びオープンロールに投入して薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られた第1のゴム組成物を投入し、分出しした。この分出しされた第1のゴム組成物は90℃、5分間プレス成形し、それぞれ厚さ1mmのシート状の無架橋体の第1のゴム組成物サンプルに成形した。
(b)6インチオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔1.5mm)に、表1〜表3に示す所定量のエチレン−プロピレンゴム(重量部(phr))を投入して、ロールに巻き付かせ、5分間素練りした後、表1〜表3に示す量のカーボンナノファイバー及び/もしくはカーボンブラックを投入し、混合物をオープンロールから取り出した。そして、ロール間隔を1.5mmから0.3mmへと狭くして、混合物を再びオープンロールに投入して薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。さらに、ロール間隙を1.1mmにセットして、薄通しして得られた第2のゴム組成物を投入し、分出しした。この分出しされた第2のゴム組成物は90℃、5分間プレス成形し、それぞれ厚さ1mmのシート状の無架橋体の第2のゴム組成物サンプルに成形した。
(c)6インチオープンロール(ロール温度20℃、ロール間隔1.5mm)に、表1〜表3に示す配合量で第1のゴム組成物及び第2のゴム組成物を投入し、さらに所定量の架橋剤としてパーオキサイドを投入して2分間混練することで混合し、ゴム組成物をオープンロールから取り出した。
この分出しされたゴム組成物は90℃、5分間プレス成形し、それぞれ厚さ1mmのシート状の無架橋体のゴム組成物サンプルに成形した。さらに、また、分出しされたゴム組成物を175℃、20分間プレス架橋し、架橋体のゴム組成物サンプルを成形した。
【0062】
表1〜表3において、原料「EPDM」はJSR社製エチレン−プロピレンゴム(EPDM:エチレン−プロピレン−ジエン共重合ゴム)EP103AFであり、「MWNT」は平均直径が約87nmの気相成長マルチウォールカーボンナノチューブであり、「SRF」はSRFグレードのカーボンブラックである。なお、第1のゴム組成物の配合及び第2のゴム組成物のおおよその配合を参考までに表1〜表3に示した。
【0063】
(2)パルス法NMRを用いた測定
実施例1〜5及び比較例1〜10の原料ゴム、各無架橋体の第1のゴム組成物サンプル、第2のゴム組成物サンプル及びゴム組成物サンプルについて、パルス法NMRを用いてハーンエコー法による測定を行った。この測定は、日本電子(株)製「JMN−MU25」を用いて行った。測定は、観測核がH、共鳴周波数が25MHz、90゜パルス幅が2μsecの条件で行い、ハーンエコー法のパルスシーケンス(90゜x−Pi−180゜x)にて、Piをいろいろ変えて減衰曲線を測定した。また、サンプルは、磁場の適正範囲までサンプル管に挿入して測定した。測定温度は表1〜表3のカッコ内に示すように、30℃と150℃であった。この測定によって、原料ゴムの第1のスピンースピン緩和時間(T2n/30℃)と、第1のゴム組成物サンプル、第2のゴム組成物サンプル及びゴム組成物サンプルについて無架橋体における第1のスピン−スピン緩和時間(T2n/150℃)及び第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn/150℃)を有する成分の成分分率(fnn/150℃)とを求めた。測定結果を表1〜表3に示した。
【0064】
(3)静的物性の測定
実施例1〜5及び比較例1〜10の架橋体のゴム組成物サンプルについて、ゴム硬度(JIS−A)、引張強度(TB)および切断伸び(EB)を測定した。ゴム硬度(JIS−A)については、JIS K 6253によって測定した。TB及びEBについては、JIS K 6521−1993によって測定した。これらの結果を表1〜表3に示す。
【0065】
(4)熱機械分析(TMA)
実施例1〜5及び比較例1〜10の架橋体のゴム組成物サンプルを1.5mm×1.0mm×10mmに切り出した試験片について、SII社製熱機械分析機(TMA−SS6100)を用いて、側長荷重は25KPa、測定温度は−100〜300℃、昇温速度は3℃/分で大気中における線膨張係数を測定し、得られた線膨張係数の温度変化特性から軟化劣化もしくは硬化劣化が開始する劣化開始温度(℃)を測定した。より詳細に説明すると、劣化開始温度は、各ゴム組成物サンプルの温度(℃)−微分線膨張係数(ppm/K)のグラフにおいて、線膨張係数が極端に増大している点で架橋型の硬化劣化(収縮)または線膨張係数が極端に低下している点で鎖切断型の軟化劣化(膨張)が開始していると判断し、劣化開始温度とした。これらの結果を表1〜表3に示す。
【0066】
(5)動的粘弾性試験
実施例1〜5及び比較例1〜10の架橋体のゴム組成物サンプルを短冊形(40×1×5(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度−100〜260℃、動的ひずみ±0.05%、周波数10HzでJIS K6394に基づいて動的粘弾性試験を行い動的弾性率(E’、単位はMPa)と損失正接(tanδ)を測定した。測定温度が30℃と200℃における動的弾性率(E’)の測定結果を表1〜表3に示す。また、ガラス転移点(Tg)付近の領域における損失正接(tanδ)の第1のピーク及び第2のピークの温度を表1〜表3に示す。損失正接(tanδ)のピークがみられなかった場合は、表1に「無し」と示した。さらに、損失正接(tanδ)が0.2以上を維持する最低温度と最高温度を「tanδ=0.2の最低温度」及び「tanδ=0.2の最高温度」として表1〜表3に示す。図7は、実施例2(図中A)、比較例7(図中B)及び比較例8(図中C)の損失正接(tanδ)の温度変化を示す、温度(℃)−損失正接(tanδ)のグラフである。
【0067】
(6)ゲーマンねじり試験
実施例1〜5及び比較例1〜10の架橋体のゴム組成物サンプルを3mm幅の短冊状とし、JIS−K6261に準じて、ゲーマンねじり試験におけるT5(ねじり剛性が23℃での応力の5倍になる温度)を測定した。その測定結果を表1〜表3に示す。また、実施例1〜5及び比較例1〜10の架橋体のゴム組成物サンプルを3mm幅の短冊状とし、JIS−K6261に準じて、23℃〜−70℃に順次温度を下げて所定応力でゲーマンねじり試験を行い、サンプルの回転角の温度変化特性を得た。その測定結果を図8に示した。図8は、実施例1(図中L)、実施例2(図中M)、比較例6(図中N)、比較例7(図中O)、比較例8(図中P)、比較例9(図中Q)及び比較例10(図中R)の温度(℃)−回転角のグラフである。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【0071】
表1〜表3から、本発明の実施例1〜5によれば、以下のことが確認された。すなわち、本発明の実施例1〜5のゴム組成物サンプルの劣化開始温度は、カーボンナノファイバーを含まない比較例1〜3やアクリルゴムを含まない比較例6のゴム組成物サンプルの劣化開始温度よりも高く、260℃以上であった。したがって、ゴム組成物サンプルは、アクリルゴムを含むことによって耐熱性が向上したことがわかった。
【0072】
また、本発明の実施例1〜5のゴム組成物サンプルによれば、200℃における動的弾性率(E’)が40MPa以上であり、高温においても高い剛性を維持していることがわかった。
【0073】
本発明の実施例1〜5によれば、ゲーマンねじり試験におけるT5の温度が−30℃以下であり、動的粘弾性試験における損失正接(tanδ)のピークが無かった。図7に示すように、損失正接(tanδ)のピークは、通常2つのゴム組成物をブレンドしているので比較例7(図中B)及び比較例8(図中C)のようなダブルピークを示すが、実施例2(図中A)は2つのゴム組成物がアロイ化したかのようにピークを示さなかった。さらに、図8に示すように、比較例7(図中O)、比較例8(図中P)、比較例9(図中Q)及び比較例10(図中R)は−30℃付近で急激に回転角度が小さくなったが、本発明の実施例1(図中L)及び実施例2(図中M)は、アクリルゴムを含まない比較例6(図中N)と同様の特性を示し、−50℃付近で回転角度が小さくなった。したがって、比較例10(図中R)と実施例1(図中L)の間には臨界があり、エラストマーにおけるアクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比が少なくとも3/1以下においてはアクリルゴムの影響を受けてゴム組成物の耐寒性が低下することがわかった。
【0074】
さらに、本発明の実施例1〜5によれば、少なくとも−21℃〜133℃において、損失正接(tanδ)が0.2以上を維持し、優れた減衰性を有していた。
【0075】
したがって、実施例1〜5のゴム組成物によれば、耐寒性及び耐熱性に優れたダンパーを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の一実施の形態のパッド及びシム板の組付状態を示す正面図である。
【図2】図1のシム板のIII−III’縦断面図である。
【図3】図2のシム板の部分拡大縦断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態に係るディスクブレーキの構造を示す縦断面図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係るオープンロール法によるゴム組成物の製造方法を模式的に示す図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係るオープンロール法によるゴム組成物の製造方法を模式的に示す図である。
【図7】実施例2、比較例7及び比較例8の温度(℃)−損失正接(tanδ)のグラフである。
【図8】実施例1、実施例2、比較例6〜比較例10の温度(℃)−回転角のグラフである。
【符号の説明】
【0077】
30 アクリルゴム
40 カーボンナノファイバー
50 ディスクブレーキ
70 パッド
76 シム板
76a 金属板
76b ダンパー
76c 係止片

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマーに平均直径が0.5〜500nmのカーボンナノファイバーが均一に分散されたゴム組成物からなるダンパーであって、
前記エラストマーは、アクリルゴムとエチレン−プロピレンゴムとを含み、アクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である、ダンパー。
【請求項2】
請求項1において、
前記ゴム組成物は、パルス法NMRを用いてハーンエコー法によって150℃で測定した、無架橋体における、第1のスピン−スピン緩和時間(T2n)は100ないし3000μ秒であり、第2のスピン−スピン緩和時間(T2nn)を有する成分の成分分率(fnn)は0.2未満である、ダンパー。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記エチレン−プロピレンゴムは、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体である、ダンパー。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、
前記ゴム組成物は、前記エラストマー100重量部に対して、前記カーボンナノファイバー5〜100重量部を含む、ダンパー。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかにおいて、
前記ゴム組成物は、ゲーマンねじり試験におけるT5が−30℃以下である、ダンパー。
【請求項6】
請求項5において、
前記ゴム組成物は、動的粘弾性試験における損失正接(tanδ)のピークの温度が−40℃以下もしくはピークが無い、ダンパー。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかにおいて、
前記ゴム組成物は、熱機械分析における劣化開始温度が200℃〜300℃である、ダンパー。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかのダンパーと、該ダンパーが少なくとも一方の表面に形成された金属板と、を有する、ディスクブレーキ用のシム板。
【請求項9】
アクリルゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第1のゴム組成物を得る工程と、
エチレン−プロピレンゴムにカーボンナノファイバーを混合し、かつ、均一に分散させて第2のゴム組成物を得る工程と、
前記第1のゴム組成物と前記第2のゴム組成物とを混合してゴム組成物からなるダンパーを得る工程と、
を含み、
前記ゴム組成物におけるアクリルゴムに対するエチレン−プロピレンゴムの重量比(エチレン−プロピレンゴム/アクリルゴム)は、3/1を超えかつ10/1以下である、ダンパーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−280416(P2008−280416A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−124839(P2007−124839)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000226677)日信工業株式会社 (840)
【出願人】(392014748)宮坂ゴム株式会社 (5)
【Fターム(参考)】