説明

チタン酸バリウムおよびその製造方法ならびにコンデンサ

【課題】 粒径が小さく、不要な不純物が少なく、電気的特性の優れたチタン酸バリウム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 Sn,Zr,Ca,Sr,Pb等からなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiOに対して5mol%以下(0mol%を含む)含むペロブスカイト型チタン酸バリウムであり、ペロブスカイト構造をABXと表したとき、A原子とB原子のモル比が1.001以上1.025以下であり、比表面積xと、リートベルト法で算出したc軸とa軸の長さの比yが、(1)式を満たすチタン酸バリウムを採用する。
y>1.0083−6.53×10−7×x (1)(ただし、y=c軸長/a軸長であり、6.6<x≦20である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電材料、積層セラミックコンデンサ、圧電材料等に用いられるチタン酸バリウムおよびその製造方法ならびにコンデンサに関し、詳しくは、微細でありかつ正方晶化率の高いチタン酸バリウムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウムは誘電材料、積層セラミックコンデンサ、圧電材料等の機能材料として広く用いられている。電子部品の小型化、軽量化が進んでいることから、より粒径が小さく、かつ、誘電率が高い等の電気的特性の優れるチタン酸バリウムを得る方法の開発が望まれている。
正方晶化率が高いチタン酸バリウムは、誘電率が高いことが知られているが、十分に粒径を小さくすることができず、また、粒径の小さいチタン酸バリウムは、正方晶化率を高くできず、十分に誘電率を高くできなかった。
【0003】
チタン酸バリウム等のチタン含有複合酸化物粒子を製造する方法としては、酸化物や炭酸塩を原料とし、それらの粉末をボールミル等で混合した後、約800℃以上の高温で反応させて製造する固相法や、まず蓚酸複合塩を調製し、これを熱分解してチタン含有複合酸化物粒子を得る蓚酸塩法、金属アルコキシドを原料とし、それらを加水分解して前駆体を得るアルコキシド法、原料を水溶媒中で高温高圧として反応させて前駆体を得る水熱合成法等がある。また、チタン化合物の加水分解生成物と水溶性バリウム塩とを強アルカリ水溶液中で反応させる方法(特許文献1)や、酸化チタンゾルとバリウム化合物をアルカリ水溶液中で反応させる方法(特許文献2)等がある。
【特許文献1】特許第1841875号公報
【特許文献2】国際公開第00/35811号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、固相法は製造コストが低いものの、生成したチタン含有複合酸化物粒子の粒径が大きくなり、誘電材料、圧電材料等の機能材料には適さないという問題がある。
粉砕を行えば粒径が小さくなるものの、粉砕の影響により歪みが生じる場合があり、正方晶化率が高く、誘電率の高いチタン酸バリウムが得られないという問題がある。
また蓚酸塩法は、固相法よりも小さな粒子が得られるものの、蓚酸に由来する炭酸が残留する。そのため電気的特性に優れたチタン酸バリウムが得られないという欠点がある。
更にアルコキシド法と水熱合成法では、微細な粒径のチタン酸バリウムが得られるが、内部に取り込まれた水に起因する水酸基の残留が多い。そのため電気的特性に優れたチタン酸バリウムが得られない。またアルコキシド法では炭酸が残留し、水熱合成法では高温高圧条件下で行うため、いずれの方法においても専用設備が必要となり、コストが高くなるという問題がある。
更にまた、特許文献1および2に記載の方法では、アルカリとして水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを用いているため、反応後それらのアルカリを除去する工程が必要である。しかしアルカリの除去工程においてバリウムの溶解と水酸基の取り込みが起こりやすく、正方晶化率の高いチタン酸バリウムが得られにくい。
【0005】
本発明は、電子機器の小型化を可能とする小型のコンデンサに必要な薄膜の誘電体磁器を形成可能な、粒径が小さく、不要な不純物が少なく、電気的特性の優れたチタン酸バリウム及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
本発明者らは、前述の課題を鋭意検討した結果、アルカリ成分の存在するアルカリ性溶液中で、酸化チタンゾルとバリウム化合物とをバリウム過剰な条件下で反応させ、反応後、アルカリ成分を気体として除去し、焼成することにより、従来の製造方法では得ることができなかったほどの大きな比表面積を有し、かつ正方晶化率の高いチタン酸バリウムが得られることを見いだし、発明を完成した。
【0007】
本発明は以下の手段を提供する。すなわち、
[1] Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,Ho,Y及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiOに対して5mol%以下(0mol%を含む)含むペロブスカイト型チタン酸バリウムであり、ペロブスカイト構造をABXと表したとき(12個のX原子がA原子を囲み、6個のX原子がB原子を囲む)、A原子とB原子のモル比が1.001以上1.025以下であり、比表面積x(m/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸とa軸の長さの比yが、下記(1)式を満たすことを特徴とするチタン酸バリウム。
y>1.0083−6.53×10−7×x (1)(ただし、y=c軸長/a軸長であり、6.6<x≦20である)
[2] 前記チタン酸バリウムが、比表面積x(m/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸とa軸の長さの比yが、下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のチタン酸バリウム。
y>1.0083−6.53×10−7×x (1)(ただし、y=c軸長/a軸長であり、7.0<x≦20である)
[3] 前記チタン酸バリウムが、粉体であることを特徴とする前項1または前項2に記載のチタン酸バリウム。
[4] 前項1または前項2に記載のチタン酸バリウムの製造方法であって、
炭酸基の濃度がCO換算で500質量ppm以下であって塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で、酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させてチタン酸バリウムを合成する工程と、
前記反応後に前記塩基性化合物を気体として除去する工程と、
前記チタン酸バリウムを焼成する工程と、を含むことを特徴とするチタン酸バリウムの製造方法。
[5] 前記酸化チタンゾルが、チタン化合物を酸性下で加水分解して得たものであることを特徴とする前項4記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[6] 前記酸化チタンゾルが、ブルーカイト型結晶を含有するものであることを特徴とする前項4または前項5に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[7] 前記塩基性化合物が、焼成温度以下で、かつ、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華、熱分解のうちのいずれか1種以上の手段により気体となる物質であることを特徴とする前項4乃至前項6のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[8] 前記塩基性化合物が、有機塩基化合物であることを特徴とする前項7に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[9] 前記アルカリ性溶液のpHが11以上であることを特徴とする前項4乃至前項8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[10] 前記塩基性化合物を気体として除去する工程が、室温以上焼成温度以下の温度範囲で、大気圧下または減圧下で行われることを特徴とする前項4乃至前項9のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[11] 前記塩基性化合物を気体として除去する工程が、焼成工程に含まれることを特徴とする前項4乃至前項9のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[12] 前記焼成工程が、300℃以上1200℃以下の範囲で行われることを特徴とする前項4乃至前項11のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[13] 酸化チタンゾルとバリウム化合物との反応工程において、Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,Ho,Y,Dyよりなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物を添加することを特徴とする前項4乃至前項12のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
[14] 前項4乃至前項13のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とするチタン酸バリウム。
[15] 前項1乃至前項3、または前項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とする誘電材料。
[16] 前項1乃至前項3、または前項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とするペースト。
[17] 前項1乃至前項3、または前項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とするスラリー。
[18] 前項1乃至前項3、または前項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とする薄膜状形成物。
[19] 前項1乃至前項3、または前項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを用いて製造されたことを特徴とする誘電体磁器。
[20] 前項1乃至前項3、または前項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを用いて製造されたことを特徴とする焦電体磁器。
[21] 前項1乃至前項3、または前項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを用いて製造されたことを特徴とする圧電体磁器。
[22] 前項19に記載の誘電体磁器を含むことを特徴とするコンデンサ。
[23] 前項18乃至前項22のいずれかに記載の薄膜状形成物、磁器及びコンデンサからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする電子機器。
[24] 前項18乃至前項21のいずれかに記載の薄膜状形成物または磁器を一種または二種以上含むことを特徴とするセンサー。
[25] 前項1乃至前項3、または前項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とする誘電体フィルム。
[26] 前項25に記載の誘電体フィルムを用いて製造されたことを特徴とするコンデンサ。
【発明の効果】
【0008】
本発明の好ましい実施態様におけるチタン酸バリウムは、比表面積xと、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸とa軸の長さの比yが上記(1)式の関係にあるので、粒径が小さく、かつ、誘電率が高く電気的特性の優れたものとなり、これから得られる誘電体磁器等の誘電材料を用いることにより積層セラミックコンデンサ等の小型の電子部品が得られ、さらにこれらを電子機器に用いることにより、電子機器の小型化、軽量化が可能となる。携帯電話機をはじめとする、携帯機器類の小型化、軽量化への貢献も大である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳しく説明する。
ここで本発明の好ましい実施態様であるチタン酸バリウムは、一般式ABX(12個のX原子がA原子を囲み、6個のX原子がB原子を囲む)で表されるペロブスカイト型化合物であり、AをBa(バリウム)が占めるとともにBをTi(チタン)が占め、更にXをO(酸素)が占めるBaTiOをいう。また本発明の好ましい実施態様であるチタン酸バリウムは、比表面積x(m/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸とa軸の長さ(単位:nm)の比yとが、下記式を満たすものである。なお、比表面積xはBET法により測定されたものが望ましい。
cとaが正方晶結晶のc軸長及びa軸長とすると、c/a比、すなわち下記(1)式におけるyが大きいほど正方晶化率が大きくなるため、誘電率が大きくなる。
【0010】
y>1.0083−6.53×10―7×x(ただし、y=c軸長/a軸長であり、6.6<x≦20である)
【0011】
一般に電子機器の小型化のためには、BET法比表面積が大きいほど有効であり、本発明の好ましい実施態様におけるチタン酸バリウムは、比表面積が6.6〜20m/g、好ましくは7〜20m/g、より好ましくは9.7〜20m/gの範囲にある。
比表面積が6.6m/gより大きく20m/g以下の範囲では、c/a比をy、比表面積をxとしたときに、上記(1)式を満たすと有効となる。なお、比表面積の測定法は特に限定されず、公知の方法がいずれも採用可能であるが、好ましくは窒素吸着法を用い、BET式で算出された、いわゆるBET法比表面積を採用する。
【0012】
また、上記の一般式ABXにおいて、A原子(Ba)とB原子(Ti)のモル比が1.001以上1.025以下であることが小粒径かつ高誘電率にするために有効である。
より好ましいモル比は1.001以上1.02以下であり、特に好ましいモル比は1.001以上1.015以下である。
また本発明の好ましい実施態様であるチタン酸バリウムには、Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,Ho,Y,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素が、BaTiOに対して5mol%以下含んでいても良い。
【0013】
このようなチタン酸バリウムは、粒径が小さく、かつ、誘電率が高く電気的特性の優れたものであり、これから得られる誘電体磁器等の誘電材料を用いることにより積層セラミックコンデンサ等の小型の電子部品が得られ、さらにこれらを電子機器に用いることにより、電子機器の小型化、軽量化が可能となる。
【0014】
次に本発明の好ましい実施態様であるチタン酸バリウムの製造方法について説明する。
この製造方法は、炭酸基の濃度がCO換算で500質量ppm以下、好ましくは50質量ppm以下であって、塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で、酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させてチタン酸バリウムを合成する工程と、前記反応後に前記塩基性化合物を気体として除去する工程と、前記チタン酸バリウムを焼成する工程と、を含むものである。
【0015】
上記の製造方法において用いられる酸化チタンゾルは、特に制限はないが、ブルーカイト型結晶を含有する酸化チタンを含有するものが望ましい。ブルーカイト型結晶を含有するものであればブルーカイト型結晶の酸化チタン単独、またはルチル型結晶やアナターゼ型結晶の酸化チタンを含んでもよい。ルチル型結晶やアナターゼ型結晶の酸化チタンを含む場合、酸化チタン中のブルーカイト型結晶の割合は特に制限はないが、通常、1〜100質量%であり、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは50〜100質量%である。これは、溶媒中において酸化チタン粒子が分散性に優れたものとするためには、不定形よりも結晶性であることが単粒化しやすいことから好ましく、特にブルーカイト型結晶の酸化チタンが分散性に優れているためである。この理由は明らかではないが、ブルーカイト型結晶の酸化チタンのゼータ電位が、ルチル型結晶、アナターゼ型結晶よりも高いことと関係していると考えられる。
【0016】
ブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子の製造方法としては、アナターゼ型結晶の酸化チタン粒子を熱処理してブルーカイト型結晶を含む酸化チタン粒子を得る製造方法や、四塩化チタン、三塩化チタン、チタンアルコキシド、硫酸チタン等のチタン化合物の溶液を中和したり、加水分解したりすることによって、酸化チタン粒子が分散した酸化チタンゾルとして得る液相での製造方法等が好ましい。
ブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子を原料として、チタン含有複合酸化物粒子(チタン酸バリウム)を製造する方法としては、その粒子の粒径が小さく分散性に優れていることから、チタン塩を酸性溶液中で加水分解して酸化チタンゾルとして得る方法が好ましい。すなわち、75〜100℃の熱水に四塩化チタンを加え、75℃以上であって溶液の沸点以下の温度で、塩素イオン濃度をコントロールしながら四塩化チタンを加水分解して、酸化チタンゾルとしてブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子を得る方法(特開平11−43327号公報)や、75〜100℃の熱水に四塩化チタンを加え、硝酸イオン、燐酸イオンのいずれか一方または双方の存在下に、75℃以上であって溶液の沸点以下の温度で、塩素イオン、硝酸イオンおよび燐酸イオンの合計の濃度をコントロールしながら四塩化チタンを加水分解して、酸化チタンゾルとしてブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子を得る方法(国際公開第99/58451号パンフレット)が好ましい。
【0017】
こうして得られたブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子の大きさは、1次粒子径が通常5〜50nmである。これは、50nmを越えると、これを原料として製造したチタン含有複合酸化物粒子(チタン酸バリウム)の粒径が大きくなり、誘電材斜、圧電材料等の機能材料には適さないものとなるので好ましくない。5nm未満では、酸化チタン粒子を製造する工程での取り扱いが困難になるので工業的でない場合がある。
【0018】
本発明の好ましい実施態様であるチタン酸バリウムの製造方法において、チタン塩を酸性溶液中で加水分解して得られた酸化チタンゾルを用いる場合は、得られたゾル中の酸化チタン粒子の結晶型に制限はなく、ブルーカイト型結晶に限定されるものではない。
四塩化チタンや硫酸チタン等のチタン塩を酸性溶液中で加水分解すると、中性やアルカリ性の溶液中で行うよりも反応速度が抑制されるので粒径が単粒化し、分散性に優れた酸化チタンゾルが得られる。また、塩素イオン、硫酸イオン等の陰イオンが、生成した酸化チタン粒子の内部に取り込まれにくいので、チタン含有複合酸化物粒子を製造した際にその粒子への陰イオンの混入を低減することができる。
一方、中性やアルカリ性の溶液中で加水分解すると、反応速度が大きくなり、初期に多くの核発生が起こる。そのため、粒径は小さいが分散性が悪い酸化チタンゾルとなり、粒子が蔓状に凝集してしまう。このような酸化チタンゾルを原料として、チタン含有複合酸化物粒子(チタン酸バリウム)を製造した場合、得られた粒子は粒径が小さくても、分散性が悪いものとなる場合がある。また、陰イオンが酸化チタン粒子の内部に混入しやすくなり、その後の工程でこれらの陰イオンを除去することが難しくなる。
【0019】
チタン塩を酸性溶液中で加水分解し酸化チタンゾルを得る方法は、溶液が酸性に保持される方法であれは特に制限はないが、四塩化チタンを原料とし、還流冷却器を取り付けた反応器内で加水分解し、その際発生する塩素の逸出を抑制し、溶液を酸性に保持する方法(特開平11−43327号公報)が好ましい。
また、原料のチタン塩の酸性溶液中の濃度は0.01〜5mol/Lであることが好ましい。これは、濃度が5mol/Lを越えると、加水分解の反応速度が大きくなり、粒径が大きく分散性の悪い酸化チタンゾルが得られるためであり、0.01mol/L未満では、得られる酸化チタン濃度が少なくなり生産性が悪くなるためである。
【0020】
次に、上記の製造方法で用いられるバリウム化合物は、水溶性であることが好ましく、通常、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、塩化物等が好ましい。また、これらは1種類単独で用いてもよく、2種以上の化合物を任意の比率で混合して用いてもよい。具体的には、例えば、水酸化バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウム等を用いることができる。
【0021】
本発明の好ましい実施態様であるチタン酸バリウムは、ブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子とバリウム化合物を反応させる方法、またはチタン塩を酸性溶液中で加水分解して得られた酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させる方法で製造することが出来るが、アルカリ性溶液中で酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させる方法が最も好ましい。
【0022】
酸化チタンゾルとバリウム化合物の反応条件としては、塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で反応させることが望ましい。溶液のpHは、好ましくは11以上であり、より好ましくは13以上であり、特に好ましくは14以上である。pHを14以上とすることで、より粒径の小さなチタン酸バリウムを製造することができる。具体的には、反応溶液に有機塩基化合物を添加してpH11以上のアルカリ性を保つのが望ましい。
【0023】
添加する塩基性化合物としては特に制限はないが、後述する焼成温度以下で、かつ、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華、及び/または熱分解により気体となる物質が好ましく、例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、コリン等を好ましく用いることができる。水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を添加すると、得られたチタン含有複合酸化物粒子中にアルカリ金属が残存してしまい、成形し、焼結し、誘電材料、圧電材料等の機能材料とした際にその特性が劣る可能性があるので、水酸化テトラメチルアンモニウム等の前記塩基性化合物を添加することが好ましい。
【0024】
さらに、反応溶液中の炭酸基(炭酸種としてCO、HCO、HCO、及びCO2−を含む)の濃度を制御することにより、c/aの大きいチタン酸バリウムを安定に製造することが出来る。反応溶液中の炭酸基の濃度(CO換算値。以下、特に断りのない限り同様である。)は、好ましくは500質量ppm以下でありより好ましくは1〜200質量ppmであり、特に好ましくは1〜100質量ppmである。炭酸基の濃度がこの範囲外ではy値(c/a)の大きなチタン酸バリウムが得られにくい。
【0025】
また、反応溶液においては、酸化チタン粒子または酸化チタンゾルの濃度が、0.1〜5mol/Lであり、バリウムを含む金属塩の濃度が金属酸化物に換算して、0.1〜5mol/Lになるように調製されることが好ましい。さらに、Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,Ho,Y,及びDyよりなる群より選ばれた少なくとも一種の元素との化合物を、反応後のチタン酸バリウム中にこれらの元素が、BaTiOに対して5mol%以下含まれるように添加しても良い。これらの元素は、例えばコンデンサを製造する場合、その温度特性などの特性が希望する特性となるように、種類や添加量を調整すればよい。
【0026】
このように調製されたアルカリ溶液を、撹拌しながら常圧において、通常、40℃〜溶液の沸点温度、好ましくは80℃〜溶液の沸点温度に加熱保持して反応させる。反応時間は通常、1時間以上であり、好ましくは4時間以上である。
一般的にはここで、反応終了後のスラリーを電気透析、イオン交換、水洗、酸洗浄、浸透膜、などを用いる方法で不純物イオンを除去することが行なわれるが、不純物イオンと同時にチタン酸バリウムに含まれるバリウムもイオン化し一部溶解するため、所望の組成比への制御性が悪く、また結晶に欠陥が生じるためc/a比が小さくなる。塩基性化合物等の不純物の除去工程としては、このような方法を用いず、後述する方法を用いることが望ましい。
【0027】
次に、反応終了後のスラリーを焼成することにより、本発明の好ましい実施態様であるチタン酸バリウムを得ることができる。焼成では、チタン酸バリウムの結晶性を向上させるとともに、不純物として残存している塩素イオン、硫酸イオン、燐酸イオン等の陰イオンや、水酸化テトラメチルアンモニウム等の塩基性化合物等を、蒸発、昇華、及び/または熱分解により気体として除去する。焼成は通常、300℃〜1200℃の温度範囲で行われる。焼成雰囲気は特に制限はなく、通常、大気中で行われる。
なお、焼成前に、取り扱い等の必要に応じて、固液分離を行ってもよい。固液分離としては、例えば、沈降、濃縮、濾過、及び/または乾燥等の工程を用いることができる。沈降、濃縮、濾過工程では、沈降速度を変える、あるいは濾過速度を変えるために、凝集剤や分散剤を用いても良い。また乾燥工程は、液成分を蒸発または昇華する工程であり、例えば、減圧乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥などの方法が用いられる。
さらに、室温〜焼成温度の温度範囲で、大気圧下または減圧下であらかじめ塩基性化合物等を気体として除去してから焼成を行なっても良い。
【0028】
このようにして製造されるチタン酸バリウムは、比表面積x(m/g)とリートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが上記(1)式を満たすものとなり、電気的特性に優れたものとなる。またこうして得られたチタン酸バリウムは、誘電体磁器、焦電体磁器、圧電体磁器、薄膜状形成物に成形されて用いられる。更にこれらの磁器、薄膜状形成物は、コンデンサの材料、センサーなどに用いられる。
【0029】
また、チタン酸バリウム粉末は、単品、あるいは添加剤、その他の材料等と混合して、水、既存の無機系バインダ、既存の有機系バインダからなる一種以上の溶剤でスラリー化あるいはペースト化して用いることもできる。
【0030】
チタン酸バリウムの電気特性は、粉末に焼結助剤等の各種添加剤を加えてディスク状に成形したもの、あるいは該粉末を含むスラリー、ペースト等に各種添加剤を加えて薄膜状に成形したもの等を、適当な条件で焼成した後、インピーダンスアナライザー等を使用して評価可能である。
【0031】
また、チタン酸バリウムを含む充填材を、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも一種以上に分散させることにより高誘電率のフィルムを得ることが出来る。なお、チタン酸バリウム以外の充填材を含ませる場合には、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化タンタルなどからなる群より1種以上を選択して使用することが可能である。
また、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂は特に制限されず、通常使用されている樹脂を使用することが可能であるが、熱硬化性樹脂としては例えばエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ビストリアジン樹脂等が好適である。熱可塑性樹脂としては例えばポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、ポリアミド等が好適である。
【0032】
チタン酸バリウムを含む充填材を熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の少なくとも一種以上に均一に分散させるためには、予め充填材を溶剤または上記樹脂組成物と溶剤の混合物に分散させてスラリーを得るのが望ましい。スラリーを得る方法には特に限定されないが、湿式解砕の工程を含むのが望ましい。また溶剤としては特に制限されず、通常使用される溶剤であれば何でも使用可能であるが、例えば、メチルエチルケトン、トルエン、酢酸エチル、メタノール、エタノール、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、メチルセルソルブ、を単独で或いは二種以上を混合して用いることが出来る。
【0033】
また、充填材を溶剤または上記樹脂組成物と溶剤の混合物に分散させたスラリーを得るために、カップリング剤で処理しても良い。カップリング剤としては特に制限されるものではなく、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤があげられる。カップリング剤の親水基が、本発明のチタン酸バリウムを含む充填材表面の活性水素と反応し表面に被覆されるため、溶剤への分散性が良好になる。カップリング剤の疎水基は、その選択により樹脂への相溶性を高めることができる。
例えば、樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合には、モノアミノ、ジアミノ、カチオニックスチリル、エポキシ、メルカプト、アニリノ、ウレイドなどのいずれかを官能基の一つに有するシランカップリング剤や、ホスファイト、アミノ、ジアミノ、エポキシ、メルカプトなどのいずれかを官能基の一つに有するチタネート系カップリング剤が好適である。
樹脂としてポリイミド樹脂を用いる場合には、モノアミノ、ジアミノ、アニリノなどのいずれかを官能基の一つに有するシランカップリング剤や、モノアミノ、ジアミノなどのいずれかを官能基の一つに有するチタネート系カップリング剤が好適である。これらのうち一種を単独で用いたり、二種以上を混合して用いたりすることができる。
【0034】
カップリング材の配合量は、特に限定されず、チタン酸バリウム粉末の一部または全部が被覆されていれば良いが、多いと未反応のまま残り悪影響を与える場合があり、少なすぎるとカップリング効果が低くなる場合もある。したがって、チタン酸バリウム粉末を含む充填材の粒径及び比表面積、カップリング剤の種類によって、充填材が均一に分散できる配合量を選択することが好ましいが、チタン酸バリウム粉末を含む充填材の0.05〜20重量%程度の配合量が望ましい。
【0035】
カップリング剤の親水基とチタン酸バリウム粉末を含む充填材表面の活性水素との反応を完結させるため、スラリーにしてから加熱処理する工程を含むのが望ましい。加熱温度と時間に特に制限はないが、100〜150℃で1時間から3時間加熱処理することが好ましい。また、溶剤の沸点が100℃以下のときは、加熱温度は溶剤の沸点以下とし、加熱時間をそれに応じて長くするとよい。
【0036】
次に図1には、コンデンサの一例である積層型セラミックコンデンサの断面模式図を示す。図1に示すように、この積層型セラミックコンデンサ1は、誘電体層2と内部電極3、4が順次積層されてなる積層体5と、この積層体5の側面に取り付けられた外部電極6、7とから構成されている。内部電極3,4はその一端部がそれぞれ積層体5の側面に露出しており、各一端部が外部電極6,7にそれぞれ接続されている。
誘電体層2は、チタン酸バリウムカルシウムの粉末がバインダ等により固化成形されてなるものである。また、内部電極3,4は例えばNi、Pd、Ag等から構成される。また外部電極6,7は例えば、Ag,Cu,Ni等の焼結体にNiメッキを施したもので構成される。
図1に示すコンデンサ1は、例えば、図2に示すように、携帯電話機10の回路基板11に実装されて用いられる。
【0037】
次に、上記の積層型セラミックコンデンサの製造方法の一例について説明する。
まず、チタン酸バリウム粉末と、バインダと、分散剤と、水とを混合してスラリーを製造する。スラリーは予め真空脱気しておくことが好ましい。
次にこのスラリーをドクターブレード法などで基板に薄く塗布した後、加熱して水を蒸発させることにより、チタン酸バリウム粉末を主成分とする誘電体層を形成する。
次に、得られた誘電体層にNi、Pd、Ag等の金属ペーストを塗布し、更に別の誘電体層を積層し、更に、内部電極となる金属ペーストを塗布する。この工程を繰り返し行うことにより、誘電体層と内部電極とが順次積層されてなる積層体が得られる。また積層体はプレスして誘電体層と内部電極とを密着させることが望ましい。
次に、積層体をコンデンサのサイズにカットしてから1000℃〜1350℃で焼成する。次に焼成後の積層体の側面に外部電極ペーストを塗布し、このペーストを600〜850℃で焼成する。最後に、外部電極の表面にNiメッキを施す。
このようにして、図1に示すような積層型セラミックコンデンサ1が得られる。
【0038】
上記の積層型セラミックコンデンサ1は、本発明の好ましい実施態様である誘電率の高いチタン酸バリウムを誘電体として用いているので、コンデンサの静電容量を高めることができる。また上記のコンデンサ1は、本発明の好ましい実施態様である粒径の小さなチタン酸バリウムを誘電体として用いているので、誘電体層を薄くすることができ、これによりコンデンサ自体を小型にできる。また誘電体層が薄くなることで、コンデンサの静電容量をより高めることができる。
このような小型の積層型セラミックコンデンサは、電子機器類、特に携帯電話機をはじめとする携帯型機器の部品として好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例および比較例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
濃度が0.25mol/Lの四塩化チタン(住友シチックス製:純度99.9%)の水溶液を還流冷却器つきの反応器に投入し、塩素イオンの逸出を抑制しつつ、酸性に保ちながら沸点付近まで加熱した。そして、その温度で60分間保持して四塩化チタンを加水分解することにより、酸化チタンゾル得た。
得られた酸化チタンゾルを110℃で乾燥し、X線回折装置(理学電機(株)製 RAD−B ローターフレックス)で結晶型を調べた結果、ブルーカイト型結晶の酸化チタンであることがわかった。
【0040】
次に、水酸化バリウム八水和物(バライト工業製)126gを、水酸化テトラメチルアンモニウム20質量%水溶液(セイケム昭和製)456gに加え、pHを14とし、還流冷却器付きの反応器で、95℃で加熱した。次に、前記の酸化チタンゾルを沈降濃縮して得た酸化チタン濃度15質量%のゾル211gを、反応器に7g/分の速度で滴下した。液温を110℃まで上昇し攪拌を続けながら4時間保持して反応を行い、得られたスラリーを50℃まで放冷した後濾過を行った。そして、ろ過して得られた固形分を300℃で5時間乾燥することにより、チタン酸バリウムの微粒子粉体を得た。
【0041】
反応に用いた酸化チタン量と水酸化バリウム量から算出される理論収量に対する実収量の割合は99.8%であった。
また、得られたチタン酸バリウム粉体のA原子とB原子のモル比を、蛍光X線分析装置(理学電機(株)製RIX3100)を用いガラスビード法で調べた結果、1.010であった。
【0042】
次にこのチタン酸バリウム粉体を結晶化するために、大気雰囲気下において900℃で2時間保持した。このときの昇温速度は毎分20℃とした。
【0043】
この熱処理後のチタン酸バリウム粉体のX線回折パターンを前出のX線回折装置で調べた結果、得られた粉体はペロブスカイト型のBaTiOであることがわかった。X線回折からリートベルト解析によりc/a比を求めたところ1.0093であった。BET法で求めた比表面積xは9.5m/gであった。この比表面積xの値(9.5m/g)を前記(1)式に代入して得られるy値は1.0077であり、この値は、リートベルト解析により求めたc/a比(1.0093)よりも小さいことがわかった。即ち、本実施例のチタン酸バリウムは上記(1)式を満たしていた。
【0044】
次に、チタン酸バリウム粉体に含まれる炭酸基の量を赤外分光分析法により定量した。
炭酸基が全て炭酸バリウムであるとすると1質量%に相当する量であった。同時に格子内に水酸基が存在すると3500cm−1付近に急峻な吸収ピークが現れる事が知られているが、本試料では現れなかった。
【0045】
次に、本試料および、本試料に対しMgOを0.5モル%、Hoを0.75モル%、BaSiOを2.0モル%になるように秤量した。次に秤量した原料に純水を加えて湿式ボールミルで混合した後、混合物を乾燥した。混合物に有機バインダ(ポリビニルアルコール)を加え、造粒粉を作製した。造粒粉を0.3g秤量し、内径11mmの金型で1t/cm(98MPa)圧力をかけて成型体を得た。成型体を電気炉にて450℃で1時間加熱してバインダ成分を除去した後、更に1180℃で2時間焼成した。焼成後の試料の直径、厚さ、重量を測定した後、両円板面に銀ペーストを塗布し、800℃で焼付け処理を行い、電極を形成し、電気特性測定用の試料を製造した。
得られた試料について、比誘電率および静電容量の温度特性を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例2)
実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を1000℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は7.7m/gであり、リートベルト解析で求めたc/aの比は1.0104であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(7.7m/g)を代入して算出されたc/a比1.0080より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例3)
実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を800℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は12.5m/gであり、リートベルト解析で求めたc/aの比は1.0074であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(12.5m/g)を代入して算出されたc/a比1.0070より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
(実施例4)
実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を650℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は19.5m/gであり、リートベルト解析で求めたc/aの比は1.0040であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(19.5m/g)を代入して算出されたc/a比1.0035より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0049】
(実施例5)
酸化チタンゾル滴下量を213gとした以外は実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。実施例1と同様にして調べたところ、A原子とB原子のモル比は1.001であった。
次に得られた粉体を880℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は7.0m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0105であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(7.0m/g)を代入して算出されたc/a比1.0081より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0050】
(実施例6)
実施例5と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を800℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は9.5m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0079であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(9.5m/g)を代入して算出されたc/a比1.0077より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
(実施例7)
酸化チタンゾル滴下量を212gとした以外は実施例1と同様にしてぺロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。実施例1と同様にして調べたところ、A原子とB原子のモル比は1.005であった。
またこの粉体を900℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は7.7m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0106であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(7.7m/g)を代入して算出されたc/a比1.0080より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
(実施例8)
実施例7と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を800℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は10.2m/gであり、リートベルト解析で求めたc/aの比は1.0080であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(10.2m/g)を代入して算出されたc/a比1.0076より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例9)
酸化チタンゾル滴下量を210gとした以外は実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。実施例1と同様にして調べたところA原子とB原子のモル比は1.015であった。
この粉体を1000℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は6.7m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0090であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(6.7m/g)を代入して算出されたc/a比1.0081より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0054】
(実施例10)
実施例9と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を900℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は11.5m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0090であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(11.5m/g)を代入して算出されたc/a比1.0073より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例11)
実施例9と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を800℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は13.3m/gであり、リートベルト解析で求めたc/aの比は1.0069であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(13.3m/g)を代入して算出されたc/a比1.0068より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0056】
(実施例12)
酸化チタンゾル滴下量を208gとした以外は実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。実施例1と同様にして調べたところ、A原子とB原子のモル比は1.025であった。
次にこの粉体を1200℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は7.4m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0081であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(7.4m/g)を代入して算出されたc/a比1.0080より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例13)
実施例12と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を1000℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は9.9m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0080であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(9.9m/g)を代入して算出されたc/a比1.0077より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例14)
実施例12と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を900℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は17.0m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0052であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(17.0m/g)を代入して算出されたc/a比1.0051より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0059】
(実施例15)
TMAH添加量を減らしpHを11とした以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は98%であった。
また、900℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して、実施例1と同様に調べたところ、比表面積は9.8m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0088であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(9.8m/g)を代入して算出されたc/a比1.0077より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0060】
(実施例16)
TMAHの代わりにコリンを用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.9%であった。
また900℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して、実施例1と同様に調べたところ、比表面積は8.9m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0090であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(8.9m/g)を代入して算出されたc/a比1.0078より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0061】
(実施例17)
実施例1で合成したブルーカイト型結晶の酸化チタンゾルの代わりに、市販のアナターゼ型酸化チタンゾル(石原産業製ST−02)を用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.8%であった。
また900℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して、実施例1と同様に調べたところ比表面積は8.1m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0081であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(8.1m/g)を代入して算出されたc/a比1.0080より大きいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例1)
酸化チタンゾル滴下量を214gとした以外は実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。実施例1と同様にして調べたところ、A原子とB原子のモル比は0.995であった。
また、この粉体を830℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は7.1m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0080であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(7.1m/g)を代入して算出されたc/a比1.0081より小さいことがわかった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0063】
(比較例2)
蓚酸水溶液を攪拌しながら80℃に加熱しそこにBaClとTiClの混合水溶液を滴下し蓚酸チタニルバリウムを得た。これを880℃で熱分解することによりBaTiOを得た。
このBaTiOについて実施例1と同様に調べたところ、比表面積は7.2m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0064であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(7.2m/g)を代入して算出されたc/a比1.0081より小さいことがわかった。
また、この試料に含まれる炭酸基の量を赤外分光分析装置で定量したところ、炭酸バリウムに換算して8質量%の炭酸基が存在することがわかった。このように、不純物として働く炭酸基が大量に生成するために正方晶化率(c/a)が高くならない。すなわち誘電材料としての誘電特性に劣ることが推測される。実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
(比較例3)
実施例1で合成したブルーカイト型結晶の酸化チタンゾルを667gと、水酸化バリウム八水和物592g(Ba/Ti比1.5)と、イオン交換水を1lとを容積3Lのオートクレーブに入れた後、150℃で1時間保持することで、飽和蒸気圧下で水熱処理を行った。得られた試料を800℃で2時間保持することにより結晶化させた。
実施例1と同様に調べたところ比表面積は6.9m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0033であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(6.9m/g)を代入して算出されたc/a比1.0081より小さいことがわかった。
また、この試料を赤外分光分析装置で評価したところ3500cm−1付近に格子内水酸基の急峻な吸収がみられた。水熱合成法では格子内に水酸基を持ち込むために正方晶化率(c/a)が低くなると推測される。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。
結果を表1に示す。
【0065】
(比較例4)
実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO微粒子粉体を得た。この粉体を300℃で2時間保持することで結晶化した。
実施例1と同様にして調べたところ比表面積は45m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0030であった。また実施例1と同様にして電気特性を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
(比較例5)
TMAHを添加しないこと以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。反応液のpHは10.2であった。また理論収量に対する実収量の割合は86%であった。pHが低くなると収率が下がり実用的でないことがわかった。
【0067】
(比較例6)
TMAHの代わりにKOHを用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.9%であった。
次に濾過した試料を水洗しK濃度を100ppmとした。この試料を800℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して、実施例1と同様に調べたところ、比表面積は9m/gであり、リートベルト解析で求めたc/a比は1.0030であった。このc/a比は、前記(1)式に比表面積(9m/g)を代入して算出されたc/a比1.0078より小さいことがわかった。
また、この試料を赤外分光分析装置で評価したところ3500cm−1付近に格子内水酸基の急峻な吸収がみられた。更にBa/Ti比が洗浄前より0.007小さくなったことから、Kと同時にBaが溶出することが示唆された。
【0068】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の好ましい実施態様である積層型セラミックコンデンサの断面模式図である。
【図2】図1の積層型セラミックコンデンサを備えた携帯電話機の内部構造を示す分解図である。
【符号の説明】
【0070】
1…積層型セラミックコンデンサ(コンデンサ)、2…誘電体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,Ho,Y及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiOに対して5mol%以下(0mol%を含む)含むペロブスカイト型チタン酸バリウムであり、ペロブスカイト構造をABXと表したとき(12個のX原子がA原子を囲み、6個のX原子がB原子を囲む)、A原子とB原子のモル比が1.001以上1.025以下であり、比表面積x(m/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸とa軸の長さの比yが、下記(1)式を満たすことを特徴とするチタン酸バリウム。
y>1.0083−6.53×10−7×x (1)(ただし、y=c軸長/a軸長であり、6.6<x≦20である)
【請求項2】
前記チタン酸バリウムが、比表面積x(m/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸とa軸の長さの比yが、下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項1に記載のチタン酸バリウム。
y>1.0083−6.53×10−7×x (1)(ただし、y=c軸長/a軸長であり、7.0<x≦20である)
【請求項3】
前記チタン酸バリウムが、粉体であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のチタン酸バリウム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のチタン酸バリウムの製造方法であって、
炭酸基の濃度がCO換算で500質量ppm以下であって塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で、酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させてチタン酸バリウムを合成する工程と、
前記反応後に前記塩基性化合物を気体として除去する工程と、
前記チタン酸バリウムを焼成する工程と、を含むことを特徴とするチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項5】
前記酸化チタンゾルが、チタン化合物を酸性下で加水分解して得たものであることを特徴とする請求項4記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項6】
前記酸化チタンゾルが、ブルーカイト型結晶を含有するものであることを特徴とする請求項4または請求項5に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項7】
前記塩基性化合物が、焼成温度以下で、かつ、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華、熱分解のうちのいずれか1種以上の手段により気体となる物質であることを特徴とする請求項4乃至請求項6のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項8】
前記塩基性化合物が、有機塩基化合物であることを特徴とする請求項7に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ性溶液のpHが11以上であることを特徴とする請求項4乃至請求項8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項10】
前記塩基性化合物を気体として除去する工程が、室温以上焼成温度以下の温度範囲で、大気圧下または減圧下で行われることを特徴とする請求項4乃至請求項9のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項11】
前記塩基性化合物を気体として除去する工程が、焼成工程に含まれることを特徴とする請求項4乃至請求項9のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項12】
前記焼成工程が、300℃以上1200℃以下の範囲で行われることを特徴とする請求項4乃至請求項11のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項13】
酸化チタンゾルとバリウム化合物との反応工程において、Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,Ho,Y,Dyよりなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む化合物を添加することを特徴とする請求項4乃至請求項12のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項14】
請求項4乃至請求項13のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とするチタン酸バリウム。
【請求項15】
請求項1乃至請求項3、または請求項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とする誘電材料。
【請求項16】
請求項1乃至請求項3、または請求項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とするペースト。
【請求項17】
請求項1乃至請求項3、または請求項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とするスラリー。
【請求項18】
請求項1乃至請求項3、または請求項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とする薄膜状形成物。
【請求項19】
請求項1乃至請求項3、または請求項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを用いて製造されたことを特徴とする誘電体磁器。
【請求項20】
請求項1乃至請求項3、または請求項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを用いて製造されたことを特徴とする焦電体磁器。
【請求項21】
請求項1乃至請求項3、または請求項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを用いて製造されたことを特徴とする圧電体磁器。
【請求項22】
請求項18に記載の誘電体磁器を含むことを特徴とするコンデンサ。
【請求項23】
請求項18乃至請求項22のいずれかに記載の薄膜状形成物、磁器及びコンデンサからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むことを特徴とする電子機器。
【請求項24】
請求項18乃至請求項21のいずれかに記載の薄膜状形成物または磁器を一種または二種以上含むことを特徴とするセンサー。
【請求項25】
請求項1乃至請求項3、または請求項14のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムを含むことを特徴とする誘電体フィルム。
【請求項26】
請求項25に記載の誘電体フィルムを用いて製造されたことを特徴とするコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−96652(P2006−96652A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−247494(P2005−247494)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】