説明

チップ保護用フィルム

【課題】保護膜硬化時の作業性及び生産性に優れるとともに、硬度の向上とチップに対する密着性の向上とを両立するチップ保護用フィルムを提供すること。
【解決手段】本発明のチップ保護用フィルムは、チップに貼り合わされる低硬度層1aと、低硬度層1a上に直接又は他の層を介して設けられた高硬度層1bとを有し、高硬度層1bは、バインダーポリマー成分と、エネルギー線硬化性成分と、光重合開始剤とを含有するエネルギー線硬化型樹脂層である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップ保護用フィルムに関し、特に、フェースダウン(face down)方式で実装される半導体チップの裏面を保護するためのチップ保護用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集積回路等の半導体素子の実装技術として、ダイシング前のウエハ状態のままでパッケージングを行い、最終段階で、チップ単位に切断されるWL−CSP(Wafer Level Chip Size Package)の実用化が進んでいる。WL−CSPにおいては、ベアチップとほぼ同サイズで配線長が短いことから、小型・薄型・高速という特徴を有しており、例えば携帯電話向けのCSPとして採用されている。
【0003】
このようなWL−CSPでは、半導体パッケージ基板(再配線、あるいはInterposerともいう)としてバンプ付きテープ基板が用いられ、このテープ基板に形成されたバンプと、半導体ウエハの回路形成面に形成されたバンプとが直接接続される。このとき、半導体ウエハは、その回路形成面がテープ基板に向いた、いわゆるフェースダウン方式でテープ基板に実装される。
半導体ウエハが実装されたテープ基板は、ダイシングソーによりチップ単位で切断(ダイシング)され、これにより、半導体チップと同サイズのCSPを得ることができる。
【0004】
上記のようなCSPは、チップの裏面が樹脂封止されておらず、外部に露出した状態となる。そこで、チップの裏面を保護・補強するために、種々のチップ保護用フィルムが提案されている。チップ保護用フィルムは、ダイシング前のウエハ裏面に貼り付けることにより、ダイシングの際のチッピングを抑制する機能を併せ持つ。
【0005】
例えば、特許文献1には、剥離シートと、剥離シートの剥離面上に形成された熱硬化性成分またはエネルギー線硬化性成分と、バインダーポリマーとからなる保護膜形成層とを有するチップ用保護膜形成用シートが開示されている。特許文献1では、このチップ用保護膜形成用シートの保護膜形成層を半導体ウエハ裏面に貼り付け、保護膜形成層から剥離シートを剥離した後、加熱またはエネルギー線照射により保護膜形成層を硬化し、ウエハ全面に保護膜を形成する。これにより、ウエハ単独の場合と比べて強度が向上するので、取扱い時のウエハの破損が低減される。
【0006】
また、特許文献2には、特許文献1と同様、熱硬化性成分及び/又はエネルギー線硬化性成分からなる硬化性保護膜を有するチップ用保護膜形成用シートが開示されており、さらに、保護膜の強度、硬度の向上や、保護膜に品番等のレーザーマーキングを行う際のマーク認識性向上、及び外観向上等を目的として、保護膜形成層にフィラーや、顔料及び染料等を添加することが開示されている。
【特許文献1】特開2004−260190号公報
【特許文献2】特開2004−214288号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1及び2に記載されているように、保護膜を硬化させる方法としては、熱硬化性成分を含む保護膜形成層を加熱して硬化させる方法と、エネルギー線硬化性成分を含む保護膜形成層をエネルギー線照射により硬化させる方法とがある。
【0008】
一般に、熱硬化は、100〜200℃で1〜3時間程度の加熱処理が必要とされる。このような熱硬化の場合、保護膜が流動しながらゆっくりと硬化することから、チップに対する密着性に優れ、しかも、高硬度の保護膜を得ることができる。しかしながら、熱硬化は処理時間が長く、作業性及び生産性が悪いという問題がある。
【0009】
これに対し、エネルギー線硬化では、例えば紫外線によって10〜300秒程度で瞬時に硬化させることが可能であり、熱硬化に比べて処理時間が格段に短く、作業性及び生産性に優れる。また、硬化設備がコンパクトである点においても有利である。しかしながら、保護膜が瞬間的に硬化することから、硬化後の保護膜はチップに対する密着性が低く、剥がれやすいという問題がある。特に、保護膜の強度、硬度の向上を目的として、保護膜形成層にシリカ等のフィラーを添加する場合には、フィラーの添加量が多いほど保護膜が剥がれやすい。すなわち、保護膜の硬度の向上とチップに対する密着性の向上とはトレードオフの関係にあり、これらを両立するチップ保護用フィルムの開発が望まれている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、保護膜硬化時の作業性及び生産性に優れるとともに、硬度の向上とチップに対する密着性の向上とを両立するチップ保護用フィルムを提供することにある。
【0011】
本発明の第1の態様は、チップに貼り合わされる低硬度層と、該低硬度層上に直接又は他の層を介して設けられた高硬度層とを有し、前記高硬度層は、バインダーポリマー成分と、エネルギー線硬化性成分と、光重合開始剤とを含有するエネルギー線硬化型樹脂層であることを特徴とするチップ保護用フィルムである。
【0012】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るチップ保護用フィルムにおいて、前記低硬度層は、バインダーポリマー成分と、エネルギー線硬化性成分及び/又は熱硬化性成分とを含有することを特徴とする。
【0013】
本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様に係るチップ保護用フィルムにおいて、前記エネルギー線硬化性成分は、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、及びオリゴエステルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
【0014】
本発明の第4の態様は、前記第2又は第3の態様に係るチップ保護用フィルムにおいて、前記低硬度層のエネルギー線硬化性成分は、ビスフェノールA型エポキシアクリレートであることを特徴とする。
【0015】
本発明の第5の態様は、前記第2から第4の態様のいずれかに係るチップ保護用フィルムにおいて、前記低硬度層のエネルギー線硬化性成分は、重量平均分子量1000以上のエポキシアクリレートであることを特徴とする。
【0016】
本発明の第6の態様は、前記第2から第5の態様のいずれかに係るチップ保護用フィルムにおいて、前記低硬度層は、さらに光重合開始剤を含有することを特徴とする。
【0017】
本発明の第7の態様は、前記第1から第6の態様のいずれかに係るチップ保護用フィルムにおいて、前記高硬度層のエネルギー線硬化性成分は、ノボラック型エポキシアクリレートであることを特徴とする。
【0018】
本発明の第8の態様は、前記第1から第7の態様のいずれかに係るチップ保護用フィルムにおいて、前記高硬度層のエネルギー線硬化性成分は、重量平均分子量1000未満のエポキシアクリレートであることを特徴とする。
【0019】
本発明の第9の態様は、前記第1から第8の態様のいずれかに係るチップ保護用フィルムにおいて、前記高硬度層は、3H以上の鉛筆硬度を有し、前記低硬度層は、高硬度層の鉛筆硬度よりも相対的に低いことを条件に、4H以下の鉛筆硬度を有することを特徴とする。
【0020】
本発明の第10の態様は、前記第1から第9の態様のいずれかに係るチップ保護用フィルムにおいて、前記光重合開始剤は、350nm以上の長波長領域の光を吸収する光重合開始剤であることを特徴とする。
【0021】
本発明の第11の態様は、前記第10の態様に係るチップ保護用フィルムにおいて、前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキシドであることを特徴とする。
【0022】
本発明の第12の態様は、前記第11の態様に係るチップ保護用フィルムにおいて、下記の構造式(1)で表される2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドであることを特徴とする。

構造式(1)
【0023】
本発明の第13の態様は、前記第1から第12のいずれかの態様に係るチップ保護用フィルムにおいて、前記高硬度層は、さらにフィラーを含有することを特徴とする。
【0024】
本発明の第14の態様は、前記第1から第13のいずれかの態様に係るチップ保護用フィルムにおいて、前記高硬度層は、さらに染料及び/又は顔料を含有することを特徴とする。
【0025】
本発明の第15の態様は、前記第1から第14のいずれかの態様に係るチップ保護用フィルムにおいて、前記低硬度層の下面及び高硬度層の上面のいずれか一方又は両方に、剥離可能な剥離シートを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明のチップ保護用フィルムは、チップに貼り合わされる低硬度層と、エネルギー線硬化型の樹脂層である高硬度層とを含む積層構造を有しており、低硬度層でチップに対する密着性を確保し、最表層である高硬度層で保護フィルムの硬度を確保する。これにより、作業性及び生産性に優れたエネルギー線硬化法を用いて、従来、両立が困難であった保護フィルムの硬度とチップに対する密着性の向上を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明のチップ保護用フィルムの一例を示す断面図である。本発明のチップ保護用フィルムは、図1に示すように、チップに貼り合わされる低硬度層1aと、低硬度層1a上に設けられた高硬度層1bとを含む積層構造の保護膜形成層1を有する。また、必要に応じて、低硬度層1a上に第1の剥離シート2、高硬度層1b上に第2の剥離シート3がそれぞれ仮着されていてもよい。また、保護膜形成層1は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、低硬度層1aと高硬度層1bとの間に、例えば接着層などの他の層を介在させてもよい。以下に、各層について詳細に説明する。
【0028】
<保護膜形成層>
保護膜形成層1は、低硬度層1aと高硬度層1bとを含む積層構造を有する。低硬度層1aとは、硬化後の硬度が高硬度層1bよりも相対的に低い層であり、例えば、JIS K 5600−5−4に基づく鉛筆硬度が、高硬度層1bより低い層である。硬化後の高硬度層1bの鉛筆硬度としては、3H以上であることが好ましく、5H以上であることが特に好ましい。一方、硬化後の低硬度層1aの鉛筆硬度としては、高硬度層の鉛筆硬度よりも相対的に低いことを条件に、4H以下であることが好ましい。このような低硬度層1aと高硬度層1bを含むチップ保護用フィルムを使用することで、チップに対する密着性の向上と硬度の向上の両立を図ることができる。
【0029】
(高硬度層)
高硬度層1bは、バインダーポリマー成分、エネルギー線硬化性成分、及び光重合開始剤を含有するエネルギー線硬化型樹脂層である。ここでエネルギー線とは、紫外線のような光線、又は電子線などの電離性放射線をいう。また、高硬度層1bは、必要に応じて、上記成分の他に、染料及び/又は顔料、フィラー、及びその他成分を含んでいてもよい。これらの成分について、以下に説明する。
【0030】
−ポリマー成分−
本発明では、フィルムとしての可とう性や操作性を向上させるために、ポリマー成分を使用する。ポリマー成分としては、例えば、アクリル系共重合体、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系ポリマー等が用いられる。これらの中でも、特にアクリル系共重合体が好ましい。
【0031】
アクリル系共重合体の中でも、エポキシ基含有アクリル共重合体を使用することが好ましい。このエポキシ基含有アクリル共重合体は、エポキシ基を有するグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートを0.5〜6質量%含む。ウエハとの高い接着力を得るためには、0.5質量%以上が好ましく、6質量%以下であればゲル化を抑制できる。上記エポキシ基含有アクリル共重合体のTgとしては、−10℃以上30℃以下であることが好ましい。
【0032】
官能基モノマーとして用いるグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートの量は0.5〜6質量%の共重合体比であるが、その残部はメチルアクリレート、メチルメタクリレートなどの炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、およびスチレンやアクリロニトリルなどの混合物を用いることができる。これらの中でもエチル(メタ)アクリレート及び/又はブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。混合比率は、共重合体のTgを考慮して調整することが好ましい。重合方法は特に制限が無く、例えば、パール重合、溶液重合等が挙げられ、これらの方法により共重合体が得られる。このようなエポキシ基含有アクリル共重合体としては、例えば、HTR−860P−3(ナガセケムテックス株式会社製、商品名)が挙げられる。
【0033】
アクリル系共重合体の重量平均分子量は、5万以上、特に20万〜100万の範囲にあるのが好ましい。分子量が低すぎるとシート形成が不十分となり、高すぎると他の成分との相溶性が悪くなり、結果としてフィルム形成が妨げられる。
【0034】
−エネルギー線硬化性成分−
エネルギー線硬化性成分は、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する化合物からなるものである。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、重量平均分子量が100〜30,000の範囲、より好ましくは300〜10,000の範囲にあるものが用いられる。また、高硬度層1bのエネルギー線硬化性成分としては、硬度を高くするために、特に、重量平均分子量(Mw)が1000未満であるものが好ましい。硬度を高くするためには、硬化後の架橋密度を上げることが有効であり、1000Mw以下の低分子量のエネルギー線硬化性成分を使用することで硬化後の架橋密度を上げることができる。
【0035】
エネルギー線硬化性成分としては、例えば、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートあるいは1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、オリゴエステルアクリレート、ポリエステル型またはポリエーテル型のウレタンアクリレートオリゴマー、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート、エポキシアクリレート等が挙げられる。
【0036】
これらの中でも、紫外線硬化型樹脂が特に好ましい。具体的には、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマー、及びオリゴエステルアクリレート等が好ましく、硬度、耐熱性、接着性等の面からエポキシアクリレートが特に好ましい。
【0037】
高硬度層1bに用いるエポキシアクリレートとしては、ノボラック型エポキシアクリレート等の多官能型エポキシアクリレートが特に好ましい。このように反応性の高い多官能型エポキシアクリレートを用いることで、硬化後の硬度に優れた高硬度層を得ることができる。
【0038】
−染料および顔料−
高硬度層1bは、着色されていてもよい。高硬度層1bの着色は、顔料、染料等を配合することで行われる。高硬度層1bを着色することで、高硬度層1bに品番等のレーザーマーキングを行う際のマークの認識性の向上、及び外観の向上を図ることができる。このような顔料としては、カーボンブラックや、各種の無機顔料が例示できる。またアゾ系、インダスレン系、インドフェノール系、フタロシアニン系、インジゴイド系、ニトロソ系、ザンセン系、オキシケトン系などの各種有機顔料があげられる。
【0039】
これらの添加量は、その種類により様々であるが、エネルギー線硬化性成分、ポリマー、フィラーの合計100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは0.5〜3質量部程度が適当である。また、硬化前の凝集力を調節するために、有機多価イソシアナート化合物、有機多価イミン化合物、有機金属キレート化合物等の架橋剤を添加することもできる。
【0040】
−フィラー−
フィラーとしては、結晶シリカ、合成シリカ等のシリカや、アルミナ、ガラスバルーン等の無機フィラーがあげられる。高硬度層1bに無機フィラーを添加することにより、高硬度層1bの硬度を向上させることができる。また、硬化後の層の熱膨張係数をウエハの熱膨張係数に近づけることができ、これによって加工途中のウエハの反りを低減することができるようになる。フィラーとしては合成シリカが好ましく、特に半導体装置の誤作動の要因となるα線の線源を極力除去したタイプの合成シリカが最適である。フィラーの形状としては、球形、針状、無定型タイプのものいずれも使用可能であるが、特に最密充填の可能な球形のフィラーが好ましい。
【0041】
また、高硬度層1bに添加するフィラーとしては、上述した無機フィラーの他にも、下記のような機能性のフィラーが配合されていてもよい。たとえば、ダイボンド後の導電性の付与を目的として、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、カーボン、またはセラミック、あるいはニッケル、アルミニウム等を銀で被覆したもののような導電性フィラーを添加してもよく、また熱伝導性の付与を目的として、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、ステンレス、ケイ素、ゲルマニウム等の金属材料やそれらの合金等の熱伝導性物質を添加してもよい。
【0042】
高硬度層1bに配合されるフィラーの添加量は、フィラーの種類により様々であるが、エネルギー線硬化性成分、ポリマー、フィラーの合計100質量部に対して、30〜90質量部、好ましくは7〜85質量部程度が適当である。高硬度層1b中のフィラーをこのような配合比で添加し、エネルギー線照射することによって、硬化後の鉛筆硬度を調整することができる。また、硬化後の保護膜の熱膨張係数をウエハの熱膨張係数に近づけることができる。
【0043】
−光重合開始剤−
高硬度層1bに光重合開始剤を混入することにより、重合硬化時間ならびに光線照射量を少なくすることができる。
高硬度層1bで使用される光重合開始剤の使用量は、エネルギー線硬化性成分の合計100質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部程度とするのがよい。
【0044】
光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、アセトフェノン、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン安息香酸、ベンゾイン安息香酸メチル、ベンゾインジメチルケタール、2,4−ジエチルチオキサンソン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルジフェニルサルファイド、テトラメチルチウラムモノサルファイド、アゾビスイソブチロニトリル、ベンジル、ジベンジル、ジアセチル、β−クロールアンスラキノン、アシルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0045】
これらの中でも、350nm以上の長波長域の光も吸収し、染料及び顔料を添加した系でも硬化可能なアシルホスフィンオキシドが特に好ましい。アシルホスフィンオキシドとしては、特に、下記構造式(1)で表される2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドを用いることが好ましい。

構造式(1)
【0046】
−その他の成分−
高硬度層1bには、上記成分のほかに、必要に応じて、架橋剤、カップリング剤、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、応力緩和剤としてブタジエン系ゴムやシリコーンゴム等を含有させることができる。また、エポキシ樹脂やその熱硬化のためのフェノール樹脂及び潜在性硬化剤を含有させてもよい。
【0047】
架橋剤は、硬化前の凝集力を調節するためのものであり、有機多価イソシアナート化合物、有機多価イミン化合物、有機金属キレート化合物等が挙げられる。
【0048】
カップリング剤は、硬化被膜の耐熱性を損なわずに、接着性や密着性を向上させ、また耐水性(耐湿熱性)も向上させる。カップリング剤には、その汎用性とコスト面等から、シラン系(シランカップリング剤)が好ましい。
【0049】
高硬度層1bの厚さは、一定の硬度を確保するために、5〜20μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。
【0050】
(低硬度層)
低硬度層1aは、硬化後の硬度が高硬度層1bよりも相対的に低い硬化性樹脂層である。
低硬度層1aは、バインダーポリマー成分と、エネルギー線硬化性成分及び/又は熱硬化性成分と、光重合開始剤とを含有する硬化性樹脂層であることが好ましく、必要に応じて、さらに染料及び/又は顔料、シリカ、及びその他成分を含んでいてもよい。これら成分について、以下に説明する。
【0051】
−ポリマー成分−
低硬度層1aのポリマー成分としては、上記の高硬度層1bのポリマー成分と同様のものを用いることができる。
【0052】
−エネルギー線硬化性成分−
エネルギー線硬化性成分は、紫外線、電子線等のエネルギー線の照射を受けると重合硬化する化合物からなるものである。このような化合物は、分子内に少なくとも1つの重合性二重結合を有し、重量平均分子量が100〜30,000の範囲、より好ましくは300〜10,000の範囲にあるものが用いられる。また、低硬度層1aのエネルギー線硬化性成分としては、硬化後の靱性を向上させウエハとの密着性を確保するために、特に、重量平均分子量が1000以上であるものが好ましい。
【0053】
エネルギー線硬化性成分としては、上記高硬度層1bと同様のものを用いることができる。具体的には、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレートオリゴマー、及びオリゴエステルアクリレート等が好ましく、硬度、耐熱性、接着性等の面からエポキシアクリレートが特に好ましい。
【0054】
低硬度層1aに用いるエポキシアクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシアクリレートが特に好ましい。ビスフェノールA型エポキシアクリレートは、高硬度層1bにおいて好ましく使用される多官能型のノボラック型エポキシアクリレートに比べて反応性に劣り、硬化後の硬度が低い反面、柔軟性が高く、半導体チップに対する密着性に優れる。したがって、例えば、高硬度層1bにノボラック系エポキシアクリレートを用い、低硬度層1aにビスフェノールA系エポキシアクリレートを用いることで、保護膜形成層1の表層側の硬度を向上させるとともに、半導体チップと接触する下層側の密着性を向上させることができる。
【0055】
−熱硬化性成分−
低硬度層1aは、高硬度層1bよりも低い硬度を有する限り、上記エネルギー線硬化性成分に加えて、あるいはエネルギー線硬化性成分に代えて、熱硬化性成分を含んでいても良い。
【0056】
熱硬化性成分としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂等およびこれらの混合物が挙げられる。特に本発明では、エポキシ樹脂、フェノール樹脂ならびにこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0057】
本発明において使用されるエポキシ樹脂は、硬化して接着作用を呈するものであれば特に制限はないが、二官能基以上で、好ましくは重量平均分子量が5000未満、より好ましくは3000未満のエポキシ樹脂が使用できる。また、好ましくは重量平均分子量が500以上、より好ましくは800以上のエポキシ樹脂が使用できる。
【0058】
このようなエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジリエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジリエーテル化物、フェノール類のジグリシジリエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びこれらのアルキル置換体、ハロゲン化物、水素添加物などの二官能エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。また、多官能エポキシ樹脂や複素環含有エポキシ樹脂等、一般に知られているものを適用することもできる。これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。さらに、特性を損なわない範囲でエポキシ樹脂以外の成分が不純物として含まれていてもよい。
【0059】
より具体的には、例えば市販のものでは、エピコート807,エピコート815,エピコート825,エピコート827,エピコート828,エピコート834,エピコート1001,エピコート1002,エピコート1003,エピコート1055,エピコート1004,エピコート1004AF,エピコート1007,エピコート1009,エピコート1003F,エピコート1004F(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)、DER−330,DER−301,DER−361,DER−661,DER−662,DER−663U,DER−664,DER−664U,DER−667,DER−642U,DER−672U,DER−673MF,DER−668,DER−669(以上、ダウケミカル社製、商品名)、YD8125,YDF8170(以上、東都化成株式会社製、商品名)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂;YDF−2004(東都化成株式会社製、商品名)等のビスフェノールF型エポキシ樹脂;エピコート152,エピコート154(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)、EPPN−201(日本化薬株式会社製、商品名)、DEN−438(ダウケミカル社製、商品名)等のフェノールノボラック型エポキシ樹脂;エピコート180S65(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)、アラルダイトECN1273,アラルダイトECN1280,アラルダイトECN1299(以上、チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)、YDCN−701,YDCN−702,YDCN−703,YDCN−704(以上、東都化成株式会社製、商品名)、EOCN−102S,EOCN−103S,EOCN−104S,EOCN−1012,EOCN−1020,EOCN−1025,EOCN−1027(以上、日本化薬株式会社製、商品名)、ESCN−195X,ESCN−200L,ESCN−220(以上、住友化学工業株式会社製、商品名)等のクレゾールノボラック型エポキシ樹脂;エポン1031S,エピコート1032H60,エピコート157S70(以上、ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)、アラルダイト0163(チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)、デナコールEX−611,デナコールEX−614,デナコールEX−614B,デナコールEX−622,デナコールEX−512,デナコールEX−521,デナコールEX−421,デナコールEX−411,デナコールEX−321(以上、ナガセ化成株式会社製、商品名)、EPPN501H,EPPN502H(以上、日本化薬株式会社製、商品名)等の多官能エポキシ樹脂;エピコート604(ジャパンエポキシレジン株式会社製、商品名)、YH−434(東都化成株式会社製、商品名)、TETRAD−X,TETRAD−C(以上、三菱ガス化学株式会社製、商品名)、ELM−120(住友化学株式会社製、商品名)等のアミン型エポキシ樹脂;アラルダイトPT810(チバスペシャリティーケミカルズ社製、商品名)等の複素環含有エポキシ樹脂;ERL4234,ERL4299,ERL4221,ERL4206(以上、UCC社製、商品名)等の脂環式エポキシ樹脂などを使用することができ、これらは単独で又は二種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0060】
フェノール樹脂としては、吸湿時の耐電食性に優れることから、ノボラック型あるいはレゾール型の樹脂を用いることが好ましい。水酸基当量は、好ましくは150〜400g/eq、より好ましくは180〜300g/eq、さらに好ましくは180〜250g/eqである。水酸基当量が150g/eq未満であると、吸水率が増大し、耐リフロー性が悪化する傾向があり、400g/eqを超えると、ガラス転移点(Tg)が低下し、耐熱性が悪化する傾向がある。
【0061】
そのようなフェノール樹脂の具体例として、例えば、下記構造式(2)で表されるフェノール樹脂が挙げられる。

構造式(2)

(式中、R1は各々独立に同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素数3〜10の環状アルキル基、炭素数7〜10のアラルキル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、水酸基、又はハロゲン原子を表し、nは1〜3の整数を表し、そしてmは0〜50の整数を表す。)
【0062】
炭素数1〜10の直鎖若しくは分岐アルキル基としては、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、t−ブチル、n−オクチル等が挙げられる。炭素数3〜10の環状アルキル基としては、例えばシクロヘキシル、シクロペンチル等が挙げられる。炭素数7〜10のアラルキル基としては、例えば2−フェニルエチル、3−フェニルプロピルが挙げられる。
【0063】
炭素数2〜10のアルケニル基としては、例えばビニル、アリル等が挙げられる。炭素数6〜10のアリール基としては、例えばフェニル、p−トリル等が挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0064】
構造式(2)で表されるフェノール樹脂は、例えば、フェノール化合物と2価の連結基であるキシリレン化合物を、無触媒又は酸触媒の存在下に反応させて得ることができる。また市販品としては、例えば、ミレックスXLC−シリーズ,同XLシリーズ(以上、三井化学株式会社製、商品名)などを挙げることができる。
【0065】
熱硬化性成分としてエポキシ樹脂を用いる場合には、助剤として硬化促進剤等を使用することもできる。本発明に用いることができる硬化促進剤としては特に制限が無く、例えば、第三級アミン、イミダゾール類、第四級アンモニウム塩などを用いることができる。本発明において好ましく使用されるイミダゾール類としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテート等が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併用することもできる。イミダゾール類は、例えば、四国化成工業(株)から、2E4MZ,2PZ−CN,2PZ−CNSという商品名で市販されている。
【0066】
また、上記フェノール樹脂に含まれるフェノール性水酸基は、エポキシ樹脂のエポキシ基と加熱により容易に付加反応することから、上記フェノール樹脂をエポキシ樹脂の硬化剤として使用してもよい。
【0067】
−染料および顔料−
上記高硬度層1bと同様、低硬度1aに顔料及び/又は染料の添加により、着色されていてもよい。顔料及び染料としては、上記高硬度層1bと同様のものが例示できる。
【0068】
これらの添加量は、その種類により様々であるが、エネルギー線硬化性成分及び/又は熱硬化性成分、ポリマー、フィラーの合計100質量部に対して、0〜5質量分、好ましくは0.5〜2質量部程度が適当である。
【0069】
−フィラー−
高硬度層1bよりも低い硬度を有することを条件に、低硬度層1aにもフィラーを添加してもよい。これにより、硬化後の層の熱膨張係数をウエハの熱膨張係数に近づけることができ、加工途中において熱膨張係数の違いにより発生するウエハの反りを低減することができるようになる。低硬度層1aに添加するフィラーとしては、上述した高硬度層1bと同様のものが挙げられる。
【0070】
低硬度層1aに配合されるフィラーの添加量は、フィラーの種類により様々であるが、エネルギー線硬化性成分及び/又は熱硬化性成分、ポリマー、フィラーの合計100質量部に対して、0〜70質量部、好ましくは30〜60質量部程度が適当である。低硬度層1b中のフィラーをこのような配合比で添加してエネルギー線照射することによって、硬化後の鉛筆硬度を調整することができ、硬化後の保護膜の熱膨張係数をウエハの熱膨張係数に近づけることができる。
【0071】
−光重合開始剤−
低硬度層1aにも、光重合開始剤を混入させてもよい。光重合開始剤としては、上述した高硬度層1bと同様のものを挙げることができる。 低硬度層1aで使用される光重合開始剤の使用量は、エネルギー線硬化性成分及び/又は熱硬化性成分の合計100質量部に対して、0.1〜20質量部、好ましくは1〜10質量部程度とするのがよい。
【0072】
−その他の成分−
低硬度層1aにも、上記成分のほかに、必要に応じて、架橋剤、カップリング剤、酸化防止剤、難燃剤、応力緩和剤としてブタジエン系ゴムやシリコーンゴム等を含有させることができる。また、エポキシ樹脂やその熱硬化のためのフェノール樹脂及び潜在性硬化剤を含有させてもよい。
【0073】
低硬度層1aの厚さは、半導体チップに対する密着性を発揮させるために、1〜50μmであることが好ましく、3〜20μmであることがより好ましい。
【0074】
<剥離シート>
本発明のチップ保護用フィルムにおいては、チップ保護用フィルムの使用前に保護膜形成層1を保護するために、剥離シート2,3を保護膜形成層1の片面あるいは両面に仮着しておいてもよい。
剥離シートとしては、たとえば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ピニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体フィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。またこれらの架橋フィルムも用いられる。さらにこれらの積層フィルムであってもよい。
【0075】
特に、低硬度層1a及び高硬度層1bの硬化後に剥離シートの剥離を行う場合には、耐熱性に優れたポリメチルペンテンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルムが好適に用いることができる。
【0076】
剥離シートの表面張力は、40mN/m以下であることが好ましく、35mN/m以下であることがより好ましい。このような表面張力の低い剥離シートは、材質を適宜に選択して得ることが可能であり、またシートの表面にシリコーン樹脂等を塗布して離型処理を施すことで得ることもできる。
【0077】
剥離シートの膜厚は、通常は5〜300μm、好ましくは10〜200μm、特に好ましくは20〜150μm程度である。
【0078】
<製造方法>
次に、本発明のチップ保護用フィルムの製造方法の一例について説明する。
まず、剥離シート2の剥離面上に、上記の低硬度層を構成する各成分を含む組成物をロールナイフコーター、グラビアコーター、ダイコーター、リバースコーターなどの一般に公知の方法に準じて直接または転写によって塗布、乾燥させ、剥離シート2上に低硬度層1aを形成する。別途、剥離シート3の剥離面上に、上記の高硬度層を構成する各成分を含む組成物を、同様にして塗布、乾燥させ、剥離シート3上に高硬度層1bを形成する。各層の組成物は、必要により、溶剤に溶解しまたは分散させて塗布してもよい。次に、低硬度層1aと高硬度層1bとを加熱しながら貼り合わせることで、図1に示すチップ保護用フィルムを得ることができる。
【0079】
<使用方法>
本発明のチップ保護用フィルムの使用用途としては、チップ保護用途であれば特に限定されないが、例えば、WL−CSP用のチップ裏面保護用途に用いることができる。
本発明のチップ保護用フィルムをWL−CSP用のチップ裏面保護に適用する場合のフィルムの使用方法について、図2及び図3を用いて説明する。まず、低硬度層1a側の剥離シート2を剥離し、チップ保護用フィルムを40℃以上、0.05〜0.5MPaで加熱・加圧した状態で、ウエハWの裏面に低硬度層1aを貼り合わせ、フィルムをウエハサイズに切断する。次に、図2に示すように、ウエハWに貼り合わせたフィルムに、UVランプ5を用いて、剥離シート3側から100〜2000mJ/cm2 の紫外線を照射し、低硬度層1a及び高硬度層1bを硬化する。これにより、ウエハ裏面に2層構造の保護膜を形成することができる。
その後、高硬度層1b側の剥離シート3を剥離し、図3に示すように、基材8及び基材8上に形成された粘着剤からなるダイシングテープ6を高硬度層1bに貼り合わせ、ウエハWをダイシングする。これにより、保護用フィルムで保護されたチップを得ることができる。
【0080】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
(実施例1〜4および比較例1〜6)
表1(実施例1〜4)および表2(比較例1〜6)に示した各成分の配合により、低硬度層および高硬度層の塗布液を調製した。
なお、表1および表2における数値の単位はいずれも質量部である。また、表1および表2における各成分の符号は下記のとおりである。
【0082】
A:ポリマー成分1(重量平均分子量80万、ガラス転移温度−10℃のアクリル系共重合体)
B1:エネルギー線硬化性成分1(ポリエーテル型ウレタンアクリレート系樹脂、重量平均分子量7000)
B2:エネルギー線硬化性成分2(ノボラック型エポキシアクリレート系樹脂、重量平均分子量700)
B3:エネルギー線硬化性成分3(ビスフェノールA型エポキシアクリレート系樹脂、重量平均分子量2000)
B4:熱硬化性成分(クレゾールノボラック型エポキシ樹脂)
C:染料及び顔料〔黒色顔料(アゾ系)〕
D:シリカ〔球状合成シリカ(平均粒径3μm)〕
E1:光重合開始剤1(2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、吸収波長250(334nm))
E2:光重合開始剤2(2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、吸収波長380〜410nm)
F1:エポキシ樹脂の硬化剤1〔フェノール樹脂(トリフェニルメタンノボラック)〕
F2:エポキシ樹脂の硬化剤2〔イミダゾール化合物(2−フェニル4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール)〕
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
次に、上記の比較例の各塗布液を、厚さが50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる剥離シートの上に、乾燥膜厚が40μmとなるように130℃/3分で塗布乾燥したのち、その上に上記と同じ別の剥離シートを貼り合わせ、剥離シート/保護膜形成層(1層)/剥離シートからなる3層構成のエネルギー線硬化型チップ保護用フィルムを作製した。
【0086】
一方、上記の実施例に関しては、高硬度層の各塗布液を、厚さが50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる剥離シートの上に、表1に示すような乾燥膜厚となるように塗布乾燥させた。別途、低硬度層の各塗布液を、厚さが25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムからなる剥離シートの上に、表1に示すような乾燥膜厚となるように塗布乾燥させた。次に、得られた高硬度層及び低硬度層とを70℃で加熱しながら貼り合わせ、剥離シート/エネルギー線硬化型保護膜形成層(高硬度層)/保護膜形成層(低硬度層)/剥離シートからなる4層構成のチップ保護用フィルムを作製した。
【0087】
各チップ保護用フィルムについて、下記の方法により、保護膜形成層の鉛筆硬度を測定した。また、下記の方法により、レーザーマーク認識性、実装信頼性、及びウエハに対する密着性を調べた。これらの結果を、表3及び表4に示す。
【0088】
<鉛筆硬度>
保護膜形成層をシリコンウエハに80℃で貼り合わせ、紫外線照射機を用いて紫外線を1,000mJ/cm2照射(照度40mW/cmを25秒)した。その後、JIS規格:K5600−5−4に基づき室温(25℃)での鉛筆硬度を測定した。
【0089】
<レーザーマーク認識性>
保護膜形成層の低硬度層側の剥離シートを剥離し、低硬度層をウエハに貼り合わせ、高硬度層側から紫外線照射機を用いて紫外線を1,000mJ/cm2照射(照度40mW/cmを25秒)した。その後、高硬度層側の剥離シートを剥離し、レーザーマーキングを行った(キーエンス製:ML−G9320使用、文字高さ0.75mm、文字幅0.5mm)。その後、レーザーマーキングの印字の認識性を顕微鏡により観察した。
認識性の評価は、顕微鏡搭載のCCDカメラを用いて行った。CCDカメラによるコントラスト値が85%を超えるものを◎、85%以下70%以上のものを○、70%未満30%以上のものを△、30%未満のものを×とした。
【0090】
<実装信頼性>
保護膜形成層の低硬度層側の剥離シートを剥離し、低硬度層をウエハに貼り合わせ、高硬度層側から紫外線照射機を用いて紫外線を1,000mJ/cm2照射(照度40mW/cmを25秒)した。その後、高硬度層側の剥離シートを剥離し、高硬度層にダイシングテープを貼り合わせ、10mm×10mmにダイシングした。分割された個々のシリコンチップを85℃/85%RHの恒温恒湿槽で168時間処理した後、IRリフロー炉で250℃/120秒加熱した。その後、得られたシリコンチップと保護膜層との剥離の有無をSAT(超音波映像装置:日立建機ファインテック株式会社製)で観察した。20個のサンプルのうち、剥離が発生したものをカウントした。
【0091】
<密着性試験>
保護膜形成層の低硬度層をシリコンウエハに貼り合わせ、紫外線照射機を用いて紫外線を1,000mJ/cm2照射(照度40mW/cmを25秒)した。フィルム面に1mm×1mm四方の切り傷を入れた(ダイサーを使用してハーフカット)後、得られたサンプルを85℃/85%RHの恒温恒湿槽で168時間処理した。碁盤目を入れた所にセロハンテープ(登録商標)を強く密着させ、テープの端を45°の角度で急速に引き剥がし、碁盤目の状態を確認した。1mm×1mmのフィルムが70%以上剥がれたものを×、5〜70%を△、5%以下を○とした。
【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
比較例1では、硬化後の硬度及び密着性は問題ないが、顔料を含まないためレーザーマーク認識性が不足している。比較例2では、硬度及び密着性共に不足している。比較例3〜5では、硬度は高いものの、密着性に劣る。比較例6では、エネルギー線硬化性成分及び光重合開始剤が含まれていないため、紫外線では硬化せず、チップ保護用フィルムとして硬度が不足している。
これに対し、実施例1〜4では、フィルム表層である高硬度層の硬度、レーザーマーク認識性、実装信頼性、密着性のいずれにも問題はなかった。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明のチップ保護用フィルムの一例を示す断面図である。
【図2】本発明のチップ保護用フィルムの硬化方法を説明するための断面図である。
【図3】本発明のチップ保護用フィルム付きウエハのダイシング方法を説明するための断面図。
【符号の説明】
【0096】
1 保護膜形成層
1a 低硬度層
1b 高硬度層
2,3 剥離シート
5 UVランプ
6 ダイシングテープ
7 粘着剤
8 基材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップに貼り合わされる低硬度層と、該低硬度層上に直接又は他の層を介して設けられた高硬度層とを有し、
前記高硬度層は、バインダーポリマー成分と、エネルギー線硬化性成分と、光重合開始剤とを含有するエネルギー線硬化型樹脂層であることを特徴とするチップ保護用フィルム。
【請求項2】
前記低硬度層は、バインダーポリマー成分と、エネルギー線硬化性成分及び/又は熱硬化性成分とを含有することを特徴とする請求項1に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項3】
前記エネルギー硬化性成分は、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、及びオリゴエステルアクリレートからなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項4】
前記低硬度層のエネルギー線硬化性成分は、ビスフェノールA型エポキシアクリレートであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項5】
前記低硬度層のエネルギー線硬化性成分は、重量平均分子量1000以上のエポキシアクリレートであることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項6】
前記低硬度層は、さらに光重合開始剤を含有することを特徴とする請求項2から請求項5のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項7】
前記高硬度層のエネルギー線硬化性成分は、ノボラック型エポキシアクリレートであることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項8】
前記高硬度層のエネルギー線硬化性成分は、重量平均分子量1000未満のエポキシアクリレートであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項9】
前記高硬度層は、3H以上の鉛筆硬度を有し、前記低硬度層は、高硬度層の鉛筆硬度よりも相対的に低いことを条件に、4H以下の鉛筆硬度を有することを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項10】
前記光重合開始剤は、350nm以上の長波長領域の光を吸収する光重合開始剤であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項11】
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキシドであることを特徴とする請求項10に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項12】
前記光重合開始剤は、下記の構造式(1)で表される2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドであることを特徴とする請求項11に記載のチップ保護用フィルム。


構造式(1)

【請求項13】
前記高硬度層は、さらにフィラーを含有することを特徴とする請求項1から請求項12のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項14】
前記高硬度層は、さらに染料及び/又は顔料を含有することを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。
【請求項15】
前記低硬度層の下面及び高硬度層の上面のいずれか一方又は両方に、剥離可能な剥離シートを有することを特徴とする請求項1から請求項14のいずれか1項に記載のチップ保護用フィルム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−130233(P2009−130233A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305331(P2007−305331)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】