説明

チョウセンアザミ抽出物、その使用及びそれを含む配合物

本発明は、樹脂上での分画により得られるチョウセンアザミ抽出物の調製に関する。本発明の方法により、3種の活性成分、即ち、ジカフェオイルキナ酸、ルテオリン及びシナロピクリン配糖体を一定の比で含む、植物のチョウセンアザミの地上部から出発して、抽出物を入手することができる。シナロピクリンは、正確な量の硫化アミノ酸又は適切なチオ誘導体の添加により安定化される。これらの抽出物は、脂質低下活性、抗消化不良活性及び血管抗炎症活性を有する。この抽出物は、マツヨイグサ油中に、又は血管作用を増強するω−3及びω−6酸の多い油中に主として配合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂上での分画により得られる有棘品種(Cynara scolymus thorny varieties)の抽出物の調製、及びその製造方法に関する。
【0002】
本発明の方法により、3種の活性成分、即ち、ジカフェオイルキナ酸、ルテオリン及びシナロピクリン(cynaropicrin)配糖体を一定の比で含む、チョウセンアザミの有棘品種の地上部から出発して、抽出物を入手することができる。シナロピクリンは、正確な量の硫化アミノ酸又は適切なチオ誘導体の添加により安定化される。これらの抽出物は、脂質低下、抗消化不良及び血管抗炎症活性を有する。この抽出物は、血管作用を増強するω−3及びω−6酸の多い油中に主として配合される。
【0003】
技術的背景
水性又は水−アルコール性チョウセンアザミ抽出物が、コレステロール低下、胆汁分泌促進及び抗消化不良活性を有することは文献から知られている。コレステロール低下活性は、長年知られており、そして2種の物質に関係する:合成により調製され、そして70年代まで治療に使用されたジカフェオイルキナ酸である、サイナリン(cynarin)、及び肝臓のコレステロール合成に対するインビトロの阻害活性を有することが判明したフラボノイド。全体の活性は、チョウセンアザミ抽出物に特有の胆汁分泌促進作用に関連しており、そしてこれが、胆汁酸の除去によりコレステロール除去を促進する。
【0004】
チョウセンアザミの活性成分は、植物材料を乾燥すると容易に分解する、強力な酸化防止剤である。よって植物バイオマスの調製は、活性成分が高含量の抽出物を入手するのに決定的に重要である。
【0005】
シナロピクリンは、抗炎症活性及び穏やかなコレステロール低下作用を有するテルペンである。全メチレン−γラクトン環セスキテルペン類と同様に、シナロピクリンは、安定性に乏しく、そしてこのことが、抽出物及び配合物中にこの化合物が存在していない理由の1つである。その一方で、血管炎症を調節することができる、抗炎症作用を持つ生物学的に利用可能な物質(NFkB及び反応性プロテインC)は、アテローム動脈硬化症及び心疾患の予防及び治療に特に適しているため、抽出物中のこの化合物の存在は決定的に重要である。
【0006】
発明の開示
本発明は、3種の活性成分である、ジカフェオイルキナ酸、ルテオリン及びシナロピクリン配糖体を一定の比で含む、チョウセンアザミ有棘品種、好ましくはチョウセンアザミのスピノーゾ・サルド種(Cynara scolymus var. Spinoso sardo)又はチョウセンアザミのテマ種(Cynara scolymus var. tema)の新規な抽出物に関する。本発明は更に、該抽出物の製造方法に関する。
【0007】
驚くべきことに、抽出工程又はこれに続くチョウセンアザミ抽出物の精製若しくは濃縮過程での、硫化アミノ酸、好ましくはシステインの添加により、なお高濃度のシナロピクリンを含む最終抽出物(そしてこれは、治療用配合物中で安定なままである)が提供されることが見い出された。実際には、硫化アミノ酸から、セスキテルペンを安定化し、かつその吸収を促進するアダクトが生じる。血漿では、これらのアダクトは、タンパク質のスルヒドリル基との交換反応を受けることにより、シナロピクリン比活性を回復させる。
【0008】
本発明の抽出物の重要な治療的使用は、西洋諸国人口の最大9%が罹患している疾患である、過敏性大腸の処置に関する。NFkB、TNF−α及び幾つかのインターロイキン類の調節に関連して提案された抗炎症作用は、過敏性大腸の症状の軽減に関係する機序の1つでありうる。
【0009】
セスキテルペン−ラクトンはまた、直接又は間接に、腸疾患に関係する中枢神経系メディエーターと相互作用する。
【0010】
本発明によれば、硫化アミノ酸が、抽出及び/又は濃縮工程において安定化剤として使用されない場合、この抽出物を、配合物への硫化アミノ酸の添加により安定化することができる。
【0011】
本抽出物は、ジカフェオイルキナ酸割合の高い頭状花序;フラボノイド及び全てのシナロピクリンを主として含む葉などの、植物の地上部を用いて調製される。
【0012】
本発明により、新鮮な又は脱水された丸ごとの植物、好ましくは新鮮な植物は、20:80〜40:60の範囲、好ましくは30:70の頭状花序と残りの地上部との間の固定比で使用することができる。
【0013】
既に言及されたように、植物バイオマスの調製は、植物材料を乾燥するときの活性成分の分解を回避するために決定的に重要である。
【0014】
本発明により、植物材料は、植物中に天然に存在する多数のオキシダーゼ及びヒドロラーゼの作用を低下させるために、収集直後に凍結することができる。凍結バイオマスは、−30℃で粉砕して、直ちに抽出アルコール溶媒に浸漬することにより、酵素の不活化、更には活性成分の抽出を完了させる。水−アルコール溶液、好ましくは種々の成分間の最良の比を提供する70%溶液が、活性成分の全てを抽出するために使用される。
【0015】
抽出中に、シナロピクリンの化学量論量より10%多い量のシステインを溶媒に加える。生じる水−アルコール抽出液は、25〜55℃の範囲、好ましくは35℃の低温で、水式真空下で濃縮する。濃縮中に、植物材料中に通常存在するクロロフィル及びある種のカロテノイドのような水難溶性不活性物質が沈殿するが、これらは、本発明の抽出物が示すいかなる活性も示さないため、除去する。この水溶液を濾過して、溶媒及び不要物質を除去し、生じる溶液を真空下で濃縮して、抽出植物材料の容量に相当する容量にして、次いでポリスチレン樹脂、アンバーライト、デュオライト及びXAD1180のような吸着樹脂で精製する。この樹脂を水で徹底的に洗浄して、樹脂が涸渇するまで所望の抽出物を90%エタノールで溶出する。
【0016】
得られた本発明の抽出物は、先行技術の抽出物と比較して新規な組成を有し、特にシナロピクリン含量>5%、1:0.2〜1:0.8の範囲(好ましくは1:0.6)のカフェオイルキナ酸対シナロピクリンの比、及び20〜60%の範囲(好ましくは50%)のルテオリン配糖体対シナロピクリンの比を有する。
【0017】
本発明の抽出物は、一連の薬理学的試験において生物学的研究に付した。本発明の抽出物は、エタノール誘導高脂質血症試験において、それぞれ40及び35%のコレステロール及びトリグリセリドの減少を、またカラゲニン浮腫試験において最大75%の浮腫の用量依存的減少を誘導した。
【0018】
ラットにおける胆汁分泌促進作用により、文献に報告されたデータを確認した。
【0019】
この抽出物は、錠剤、糖衣錠、軟及び硬ゼラチンカプセル剤並びにセルロースカプセル剤のような製剤に組み込むのに適している。この抽出物は、好ましくは、マツヨイグサ(Enothera biennis)油又はアマ(Linum usitatissimum)油(亜麻油(flax oil))のような、ω−3及びω−6多価不飽和酸の多い油中に配合されよう。
【0020】
ヒトにおける有効用量は、処置すべき疾患の重篤度により、1日に50〜1000mgの範囲である。
【0021】
本発明は、以下の実施例において更に詳細に記述される。
【0022】
実施例1:チョウセンアザミのスピノーザ種の抽出物の調製
アーティチョークの植物丸ごと(頭状花序、茎及び葉)4.12kgを、この植物材料が涸渇するまでパーコレーター中で70%エタノールにより70℃で抽出する。およそ50lの浸出液を回収し、次に減圧下で濃縮してエタノールを除去する。生じた水性濃縮液(約1.5kg)を遠心分離して不溶物を分離する。生じた清澄な溶液を、前もって水中で調整した、XAD1180樹脂(約1400ml)を含むクロマトグラフィーカラムに装填する。このカラムを水約2.8lで洗浄し、溶出液を廃棄して、精製した抽出物を90%v/vエタノール3.5lでの溶出により回収する。
【0023】
水−アルコール溶出液を濃縮し、HPLCによりシナロピクリン含量をチェックして、少量の水に溶解したL−システインを加える(存在するシナロピクリンの化学量論に対して10%過剰で)。50℃で減圧下での更なる濃縮及び乾燥により、精製乾燥抽出物49.4gを得る(全カフェオイルキナ酸HPLC含量15.1%、全フラボノイドHPLC含量3.15%、全シナロピクリンHPLC含量7.64%)。
【0024】
実施例2:チョウセンアザミのテマ種の抽出物の調製
アーティチョークの植物丸ごと(頭状花序、茎及び葉)4.12kgを、活性成分が完全に抽出するまでパーコレーター中で70%エタノールにより70℃で抽出する。合わせた抽出液中のシナロピクリン含量を測定し、次にL−システインを化学量論に対して10%過剰で加える。水−エタノール抽出物を真空下で約30℃を超えない温度で濃縮する。この水性濃縮液を4℃で一晩静置し、次に主としてクロロフィル及びカロテノイドからなる固形残渣をデカントする。この溶液を濾過し、次にXAD1180樹脂に吸収させ、次に不要な不溶物が完全に除去されるまで、これを水で洗浄する。樹脂を90%エタノールで洗浄し、この溶出液を10%w/w残渣になるまで濃縮し、そしてこれをアトマイズすることにより、カフェオイルキナ酸15.8%、ルテオリン配糖体4.2%及びシナロピクリン8.6%を含む抽出物40gを得る。
【0025】
実施例3:チョウセンアザミのスピノーゾ・サルド種の抽出物の調製
アーティチョークの植物丸ごと(頭状花序、茎及び葉)4.12kgを、活性成分が完全に抽出するまでパーコレーター中で70%エタノールにより35℃で抽出する。合わせた抽出液を5lまで濃縮して、冷蔵庫で15時間静置する。生じた懸濁液を遠心分離する。この清澄な溶液をXAD1180樹脂に吸収させ、次にこれを水で洗浄して、0.01%未満の乾燥残渣(水洗浄液中)にする。この樹脂を90%エタノールで洗浄し、この溶出液を真空下で40℃未満の温度で濃縮することにより、カフェオイルキナ酸16.2%、ルテオリン配糖体4.02%及びシナロピクリン8.01%を含む抽出物40gを得る。
【0026】
実施例4:軟ゼラチンカプセル剤用の油性懸濁液にした抽出物の配合物
単位組成:
実施例1の抽出物 200mg
サラシミツロウ 15mg
大豆レシチン 20mg
大豆油 215mg
【0027】
実施例5:軟ゼラチンカプセル剤用の油性懸濁液にした抽出物の配合物
単位組成:
実施例2の抽出物 200mg
大豆レシチン 240mg
サラシミツロウ 6mg
マツヨイグサ油 215mg
【0028】
実施例6:硬ゼラチンカプセル剤にした抽出物の配合物
単位組成:
実施例1の抽出物 200mg
微結晶セルロース 200mg
乳糖 90mg
二酸化ケイ素 5mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
【0029】
実施例7:硬ゼラチンカプセル剤にした抽出物の配合物
単位組成:
実施例3の抽出物 200mg
L−システイン 100mg
微結晶セルロース 150mg
乳糖 90mg
二酸化ケイ素 5mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
【0030】
実施例8:軟ゼラチンカプセル剤用の油性懸濁液にした抽出物の配合物
単位組成:
実施例3の抽出物 200mg
大豆レシチン 240mg
サラシミツロウ 6mg
亜麻油 215mg

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョウセンアザミ有棘品種抽出物の製造方法であって、
a)この植物の新鮮又は脱水バイオマスをアルコール又は水−アルコール溶媒で抽出する工程;
b)工程a)からの水−アルコール抽出物を25〜55℃の範囲の低温で、好ましくは35℃で、水式真空下で濃縮する工程;
c)沈殿した水難溶性不活性物質を濾別する工程;
d)吸着樹脂カラムで抽出物を精製する工程
を含む方法。
【請求項2】
工程a)において、−30℃の温度で凍結された粉砕植物バイオマスが使用される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
植物バイオマスが、20:80〜40:60の範囲の頭状花序対残りの地上部の比を有する、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
植物バイオマスが、30:70の頭状花序対残りの地上部の比を有する、請求項3記載の方法。
【請求項5】
工程a)の抽出が、水−アルコール溶液で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項6】
70%水−アルコール溶液が使用される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
70%エタノール溶液が使用される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
工程a)の抽出が、10℃〜80℃の範囲の温度で、好ましくは25℃で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
工程b)において、溶液が抽出植物材料の容量に相当する容量まで真空下で濃縮される、請求項1記載の方法。
【請求項10】
工程d)において、クロマトグラフィー分離が、ポリスチレン、アンバーライト、デュオライト、XAD1180樹脂から選択される樹脂で行われる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
抽出工程a)において、又は続く精製若しくは濃縮工程b)〜d)において、硫化アミノ酸、好ましくはシステインが添加される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
システインが、シナロピクリンの化学量論量よりも10%多い量で添加される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
チョウセンアザミのスピノーゾ・サルド種が使用される、請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
チョウセンアザミのテマ種が使用される、請求項1〜12のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項記載の方法により得られる、シナロピクリン含量が高いチョウセンアザミ抽出物。
【請求項16】
5%を超えるシナロピクリン含量、1:0.2〜1:0.8の範囲、好ましくは1:0.6のカフェオイルキナ酸対シナロピクリンの比、及び20〜60%の範囲、好ましくは50%のルテオリン配糖体対シナロピクリン比を有する、請求項15記載の抽出物。
【請求項17】
ω−3及びω−6多価不飽和酸の多い油中に配合された、請求項15記載の抽出物。
【請求項18】
マツヨイグサ油中に配合された、請求項17記載の抽出物。
【請求項19】
亜麻油中に配合された、請求項15記載の抽出物。
【請求項20】
請求項15〜19のいずれか1項記載の抽出物を含む組成物。
【請求項21】
錠剤、糖衣錠、軟及び硬ゼラチンカプセル剤並びにセルロースカプセル剤の剤形の、請求項20記載の組成物。
【請求項22】
脂質異常症、アテローム動脈硬化症及び炎症性腸疾患の処置用の医薬の製造のための、請求項15〜19のいずれか1項記載の抽出物の使用。
【請求項23】
過敏性大腸症候群の処置のための、請求項22記載の抽出物の使用。

【公表番号】特表2009−501708(P2009−501708A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520736(P2008−520736)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005778
【国際公開番号】WO2007/006391
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(397068654)インデナ・ソチエタ・ペル・アチオニ (20)
【Fターム(参考)】