説明

ディスクの製造方法及び製造装置

このディスクの製造方法は、ディスク基板Dを回転させながら皮膜材料wを塗布し、それを乾燥させることにより皮膜Wをディスク基板D上に形成する工程と、前記回転中の前記皮膜Wの乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程と、乾燥後の前記皮膜Wの膜厚分布を計測する工程と、前記検出された境界の移動と前記膜厚分布との関係に基づき、前記ディスク基板Dの回転数を制御する工程とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種ディスク基板上に所望の膜厚の皮膜を形成するためのディスクの製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディスク基板へ記録膜や保護膜などの皮膜を形成する際には、スピンコート法が用いられる。このスピンコート法は、ディスク基板を所定の回転数で回転させ、ディスク基板の外周側から内周側にノズルを移動させつつ、液状の皮膜材料をノズルから放出することによって、ディスク基板上に螺旋状に皮膜材料を供給し、遠心力によって皮膜材料を展延させて皮膜を形成する。
【0003】
例えば、光記録膜を形成する際に使用される皮膜材料は、溶剤と色素材料とからなり、溶剤を揮発させて皮膜を形成する。この場合、記録膜は展延につれ内周側から外周側に向かって乾燥する。なお、通常この際の乾燥は完全ではなく、数%程度の溶剤が記録膜中に残留しており、後の乾燥工程でほぼ完全に溶剤を除去することが行われている。本件明細書でいう「乾燥」は、スピンコート中に生じる乾燥を意味するものとする。
【0004】
前述のように形成された記録膜は、回転によって皮膜材料をディスク基板の内周から外周に向かって展延することによって形成される。その際、回転数を一定に保つだけでは、内周から外周に向かって膜厚が厚くなる傾向を呈する。
【0005】
このような膜厚の変化を是正して、一様な膜厚の記録膜をディスク基板全面に形成するために、今までに種々のスピンパターンが提案されている。例えば、一定の低速の初期速度からある一定の勾配で時間と共に回転数を上昇させるスピンパターン、あるいは一定の低速の初期速度からある一定の勾配で時間と共に回転数を上昇させた後に、ある短い期間一定の回転数を保持し、その後さらに一定の勾配で回転数を上昇又は下降させるスピンパターン(特許文献1を参照)、又は時間に対して回転数がある範囲の2次曲線に従って上昇するスピンパターン(特許文献2を参照)などが既に提案されている。
特許文献1:特開平06-004910号公報
特許文献2:特開2000-285533号公報
【0006】
スピンパターンは、予め各種の測定結果から求められた記録膜の膜厚変化とディスク基板の回転数との関係などを入力したスピンプログラムから得られるが、実際の製造装置にあっては、スピンプログラムに制御ファクタとして組み込むことが非常に困難な製造環境(温度、湿度)、ディスク基板の状態(その温度、吸水程度)、ディスク基板の成形条件などによって、ディスク基板における記録膜の膜厚が異なってくる。したがって、同一のスピンプログラムで記録膜をディスク基板に形成しても、光ディスクの品質が変化し、一様な品質の光ディスクを製造することは困難であった。
【0007】
従来、条件が変化したと判断されたときには、前述のようにして形成される記録膜の形成終了時点までの所要時間を求めて記録膜の乾燥速度を求め、そのデータと記録膜の測定データとを基にスピンプログラムを変更することによって、記録膜の膜厚の不均一性を是正する努力を行っていた。
【0008】
しかし、記録膜の膜厚の不均一性を是正するためには、製造環境の状態を厳密に一定にし、ディスク基板の成形状態を含めてその温度、吸水程度などの状態を一定に保持しなければ、是正を行ったとしても再び膜厚の変化が起こる位置が変動してしまうという問題点があった。
【0009】
また、スピンプログラムを変更するためには、各種データの取り直しなど、変更に要する所要時間が多大なものとなり、そのスピンプログラムの良し悪しがオペレータの能力によって変わってしまうという問題もあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、スピンコート法によって皮膜をディスク基板に形成する際に、ディスク基板の回転数を皮膜乾燥状態の検出結果に基づいて変更することによって、成膜条件が変化した場合にも、皮膜を設定膜厚範囲内に維持することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のディスクの製造方法は、ディスク基板を回転させながら皮膜材料を塗布し、それを乾燥させることにより皮膜を前記ディスク基板上に形成する工程と、前記回転中の前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程と、乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する工程と、前記検出された境界の移動と、前記膜厚分布との関係に基づき、前記ディスク基板の回転数を制御する工程とを具備する。
【0012】
この発明によれば、乾燥境界の移動と、膜厚分布との関係に基づき、ディスク基板の回転数を制御して、ディスク基板の半径方向各位置における塗膜厚さを調整できるから、最終的に得られる皮膜の膜厚を所望の膜厚範囲に維持できる。なお、本発明でいうディスクは、光ディスクに限定されず、円形の基板上に皮膜材料を塗布し、それを乾燥させて皮膜を形成するものであれば、いかなるものであっても該当する。
【0013】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程では、前記ディスク基板の半径方向の2以上の測定位置における皮膜乾燥時間を測定してもよい。また、前記ディスク基板の回転数を制御する工程では、前記ディスクの回転開始から前記各測定位置に対応した皮膜乾燥時間を経過する際に、前記ディスク基板の回転数を変更してもよい。この構成によれば、予め決めた測定位置における乾燥状態を検出すればよいので、制御が容易である。
【0014】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程は、前記皮膜が内周側から外周側に向かって複数の所定位置において乾燥する状態を順次検出する工程と、前記皮膜の膜厚を測定する工程と、前記皮膜の膜厚が設定範囲を外れる半径方向位置を検出する工程とを備えていてもよい。また、前記ディスク基板の回転数を制御する工程は、前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界が、前記設定範囲を外れる半径方向位置に達した際に、前記ディスク基板の回転数を変更してもよい。前記回転数を変更した後に、再び、前記記録膜の膜厚が前記設定範囲を外れるときには、再び前記回転数を変更してもよい。
【0015】
前記記録膜の形成中に、前記記録膜が内周側から外周側に向かって順次乾燥して行く状態を検出する乾燥検出工程と、前記記録膜の膜厚を測定する膜厚測定工程と、前記記録膜の膜厚が前記設定範囲を外れる位置を検出して前記位置の記録膜の乾燥時間を求める工程と、前記位置の前記乾燥時間で前記ディスク基板の回転数を変更する工程とを設けてもよい。この場合、皮膜の膜厚が上限値または下限値に達するときに、回転数を変更してその膜厚が設定範囲内に入るように制御できるので、環境条件の変化、ディスク基板の製造時に条件の変動などがあっても、皮膜の膜厚を設定膜厚範囲内に保持することができる。
【0016】
前記回転数の制御は、スピンプログラムの変更によって行なってもよい。この場合、ディスク基板の回転数の回転速度勾配を予め設定した多数のスピンパターンの中から、最適なスピンパターンを選ぶことができ、容易に所定の回転速度勾配を実現できる。
【0017】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程では、前記皮膜による光の反射率および透過率の少なくとも一方の変化を利用して前記境界を検出してもよい。ただし、本発明はこの構成に限定されず、乾燥によって生じる他の物理現象(たとえば皮膜の重量変化、静電容量変化、導電性変化、光以外の他のエネルギー線の反射率や透過率など)を検出して乾燥を検出してもよい。
【0018】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程、および乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する工程は、n枚目(nは1以上の任意の整数)のディスク基板に対して行い、前記ディスク基板の回転数を制御する工程は、n+a枚目(aは定数であり1以上の整数)のディスク基板に対して行ってもよい。この場合、処理が完了したディスク基板に基づいて得られたデータを用いて、そのディスク基板からa枚目後のディスク基板の回転を制御するので、装置の構成が単純化できる。aの値は皮膜形成工程と膜厚分布計測工程との間のタイムラグによって適宜設定すればよい。
【0019】
また、連続する一定枚数のディスク(例えばn,n+1,n+2…n+m(mは定数であり1以上の整数))に対しての膜厚分布計測結果を蓄積して平均化し、この平均データを用いて、一定枚数後のディスク基板(例えばn+r枚目(rはmより大きい整数))の回転を制御する構成としてもよい。こうすることにより、万一特定のディスク基板にのみ皮膜異常が生じたときにも、制御への影響を小さくすることができる。
【0020】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程、乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する工程、および前記ディスク基板の回転数を制御する工程は、同一のディスク基板に対して行ってもよい。この場合、同一のディスク基板について測定と回転制御を行うため、より急激な状況変化に対応できる。
【0021】
本発明のディスクの製造装置は、ディスク基板を回転させる回転機構と、前記ディスク基板に皮膜材料を塗布する塗布機構と、前記回転中の前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する乾燥検出機構と、乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する膜厚測定機構と、前記検出された境界の移動と、前記膜厚分布との関係に基づき、前記ディスク基板の回転数を制御する制御機構とを具備する。
【0022】
この装置によれば、乾燥境界の移動と、膜厚分布との関係に基づき、ディスク基板の回転数を制御して、ディスク基板の半径方向各位置における塗膜厚さを調整できるから、最終的に得られる皮膜の膜厚を所望の膜厚範囲に維持できる。
【0023】
前記制御機構は、ディスク基板の回転時間-回転数特性を示すスピンパターンを複数有するスピンプログラムが入力されているスピンプログラミング機構を備え、このスピンプログラミング機構は、前記皮膜の形成途中で前記回転数の変更が必要になったときに、前記回転数を変更すべき位置以降のスピンパターンを変更してもよい。
【0024】
前記回転機構は、ディスク基板が載置される載置台と、前記載置台を所望の回転数で回転させる回転駆動装置とを備えていてもよい。
【0025】
前記膜厚測定機構は、得られた膜厚データと、予め設定されている設定膜厚範囲とを比較し、前記膜厚が前記ディスク基板の半径方向の前記設定膜厚範囲内又は範囲外であるかを示す判定信号を出力する判定機構を具備していてもよい。前記スピンプログラミング機構は、(i)前記判定信号と前記乾燥検出機構からの乾燥信号を受けると、前記スピンパターンを変更する前記皮膜の乾燥時間を求める乾燥検出機構と、(ii)前記皮膜の膜厚を測定して膜厚データを出力する膜厚測定機構と、(iii)前記膜厚データと設定膜厚範囲とから前記膜厚が前記ディスク基板の半径方向の前記設定膜厚範囲内又は範囲外であるかを示す判定信号を出力する膜厚判定機構と、(iv)前記ディスク基板の回転時間-回転数特性を示すスピンパターンを複数有するスピンプログラムが入力されているスピンプログラミング機構とを備えていてもよい。
【0026】
前記乾燥検出機構は、画像処理装置であってもよい。この場合、任意の位置の皮膜の乾燥状態を容易に検出できる。
【0027】
前記乾燥検出機構は、前記ディスク基板に前記皮膜を形成しているときに、前記皮膜に光を照射する発光機構と、前記皮膜に照射された前記光のうち、前記皮膜から反射した光又は前記皮膜を透過した光を受光する受光機構とからなる皮膜乾燥センサと、前記受光機構によって受光された光が設定レベル以上になるときに乾燥信号を出力する乾燥判定機構とを具備してもよい。この場合、装置のコストを抑えることができる。
【0028】
前記発光機構は、レーザ光を発生するレーザ発生機構又は発光ダイオードであってもよい。この場合、光の反射又は透過を利用して皮膜の乾燥を正確に測定できる。
【0029】
前記受光機構は、CCDカメラを備える画像処理装置、又は前記ディスク基板の内周と外周との間を延びる短冊状のCCDセンサであってもよい。この場合、画像処理によって正確に任意の位置の皮膜の乾燥状態を測定できる。また、前記受光機構は、ディスク基板の半径に沿って配列された1または複数のフォトダイオードであってもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明のディスクの製造方法及び製造装置によれば、各種の条件が変化しても皮膜の膜厚を設定範囲内に保持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1A】本発明のディスクの製造方法において、スピンコート中の皮膜乾燥の進行状態を説明するための図面である。
【図1B】スピンコート中の皮膜乾燥の進行状態を説明するための図面である。
【図1C】スピンコート中の皮膜乾燥の進行状態を説明するための図面である。
【図1D】スピンコート中の皮膜乾燥の進行状態を説明するための図面である。
【図1E】スピンコート中の皮膜乾燥の進行状態を説明するための図面である。
【図2】本発明の一実施形態であるディスクの製造装置のブロック図である。
【図3A】同実施形態での境界検出機構を示す平面図である。
【図3B】図3A中のIIIB−IIIB線視断面図である。
【図3C】図3A中のIIIC−IIIC線視断面図である。
【図4】ディスク半径方向に対する皮膜膜厚の変化を示すグラフである。
【図5】ディスク基板の回転数の経時変化を示すグラフである。
【図6】他の実施形態におけるディスク半径方向位置に対する皮膜膜厚の変化を示すグラフである。
【図7】ディスク半径方向に対する皮膜の膜厚の変化を示すグラフである。
【図8】ディスク基板の回転数の経時変化を示すグラフである。
【図9】他の実施形態であるディスクの製造装置を示すブロック図である。
【図10】乾燥検出機構の一例を示す断面図である。
【図11】乾燥検出機構の他の例を示す断面図である。
【図12】乾燥検出機構の他の例を示す断面図である。
【図13】他の実施形態に係るディスクの製造装置のブロック図である。
【図14】他の実施形態における乾燥検出機構の他の例を示す断面図である。
【図15】他の実施形態における乾燥検出機構の他の例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0032】
1…スピンナ装置(回転機構)
3…コーターハウス
5…ノズル(塗布機構)
7…載置台
9…回転駆動装置
11…回転柱
13…回転制御装置(制御機構)
15…発光機構
17…受光機構
19…皮膜乾燥センサ(乾燥検出機構)
23…膜厚測定機構
25…膜厚判定機構
27…スピンプログラミング機構
31…乾燥判定機構
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
次に、本発明を実施するための最良に形態を説明する。ただし、本発明は以下の各実施形態のみに限定されるものではなく、請求項に記載した範囲内においていかなる形態もとり得るものとする。例えば、以下の各実施形態の構成を適宜組み合わせても良いし、各実施形態の構成を公知の他の構成に置換してもよい。
【0034】
実施形態1
本発明は、スピンコート法によって形成される皮膜はスピン中に内周側から外周側に向けて順次乾燥するという知見と、スピン工程中に乾燥した皮膜はその後のスピンによる遠心力によっても移動することがなく、膜厚が変化しないという知見とを利用する。
【0035】
ディスク基板Dに皮膜(この場合は記録膜)2をスピンコート法によって形成する例について、図1A〜図1Eにより説明する。図1Aに示すように、所定の速度で回転しているディスク基板D上に、その上方に位置してディスク基板Dの外周から内周方向に移動するノズルNが液状の皮膜材料を供給することにより、螺旋状に外周から内周まで皮膜材料wが供給される。液状の記録材料は溶剤とその溶剤中に溶融されている有機色素などとからなる通常のものである。
【0036】
ノズルNがディスク基板Dの内周まで矢印方向に移動すると、ノズルNは皮膜材料wの供給を停止して元の位置に戻り、一方、ディスク基板Dは予め決められた勾配で増大する回転数で高速回転を行う。これによって皮膜材料はディスク基板上に展延され、余剰の皮膜材料wは振り切られる(図1B)。
【0037】
皮膜材料wをディスク基板D上に展延している途中で、内周側の皮膜材料wは乾燥を開始し、皮膜Wとなっていく。これは前述したように、ディスク基板Dの回転による遠心力で皮膜材料w中の溶剤が外周方向に移動することに起因する(図1C〜図1E)。ディスク基板Dに形成された皮膜Wの全面が乾燥すると、ディスク基板Dの回転は停止され、不図示の移載機構(図示略)でスピンナ装置(図示略)から取り出される。
【0038】
図2ないし図5を用いて、本発明の一実施形態を説明する。図2は本発明の一実施形態を示す光ディスクの皮膜形成装置100のブロック図であり、図3はディスク基板Dの回転中における皮膜乾燥の検出方法及び装置を説明する図である。図4はディスク半径方向に対する皮膜の膜厚変化を説明する図であり、図5は皮膜の所要乾燥時間に対するディスク基板の回転数との関係を示す図である。
【0039】
スピンナ装置1自体は一般的なものでよく、高速回転時に振り切られる皮膜材料が飛散するのを防ぐためのコーターハウス3、ディスク基板D上に皮膜材料を供給するノズル機構5、ディスク基板Dを載置する載置台7、載置台7を回転させるための回転駆動装置9、載置台7と回転駆動装置9とを結合する回転柱11、及び回転駆動装置9の回転を制御する回転制御装置13を有する。
【0040】
回転制御装置13は、ディスク基板D上に供給された皮膜材料を遠心力で展延させるために、初期制御指令Pを回転駆動装置9に与えることによって、載置台7を先ず所定の低回転数で回転させる。その後、回転制御装置13は、例えば一定の回転数、あるいは時間と共に回転数が所定の割合で増加する回転数、又は予め決められた時間の2次関数で上昇する回転数などからなるスピンパターンで載置台7を回転させる。回転制御装置13は従来の制御装置が備えていない後述の機能を有する。
【0041】
ディスク基板Dの上方には、発光機構15と受光機構17とからなる皮膜乾燥センサ19が設けられている。本発明者は、皮膜が乾燥するとその色が変化し、光の反射率と透過率との双方が皮膜の乾燥前後で異なることを確認した。市販されている各種の皮膜材料について実験を行った結果、皮膜材料によって異なるが、特定の波長領域では10%以上光の反射量と透過量とが増大することを確認した。
【0042】
この実施形態では、ディスク基板Dの回転中における皮膜の乾燥を、主に光の反射率を利用して検出するために、皮膜Wに光を照射する発光機構15と、皮膜から反射された光を受光する受光機構17とを備えている。
【0043】
なお、発光機構15から照射した光線は、図10に示すように、その一部が皮膜Wで直接反射され、残りの一部は皮膜Wを透過して、さらに基板材料(例えばポリカーボネート)を透過して、その一部が載置台7の表面で反射し、再び皮膜Wとディスク基板Dを通って受光機構17に至ると考えられる。
【0044】
この場合、載置台7の表面は鏡面であってもよいが、反射率を所定値まで落とした状態であってもよい。さらに、載置台7の表面を黒い艶消し加工とし、図12に示すように反射率をほぼ0に押さえることも可能である。この場合、皮膜Wからの反射率のみを検出することになる。光の波長にあわせて、適切な反射率が得られるように、載置台7の表面の色を調整してもよい。
【0045】
本発明者らの実験によれば、載置台7の表面の反射率は、使用する検出光の波長において、0〜30%であると乾燥境界の検出がいっそう容易に行えることが判明した。より好ましい載置台7の表面の反射率は、0〜15%である。皮膜Wから戻ってくる光を効率よく検出するためには、図11に示すように、受光素子17の直前にマスク28を設け、他からの光を遮断するようにしてもよい。マスク28の代わりにレンズ等を設けて同様の光選択効果を得てもよい。
【0046】
図3A〜図3Cを用いて、ディスク基板Dの回転中における皮膜乾燥の検出方法及び装置について説明する。この実施形態の皮膜乾燥センサ19は、ディスク基板Dの上方、例えば、3〜10mm程度の位置に設置されている。ただし、この高さに限定はされない。皮膜乾燥センサ19は、あるレベルの光を発生してディスク基板D上の皮膜Wに照射する発光機構15と、その反射光を受光して電気信号に変換する受光機構17とを有する。発光機構15は複数の発光ダイオード又はレーザ素子を、図3Bおよび図3Cに示すようにディスク基板の半径方向に沿う1列に配置したもの、あるいは単一または複数のランプなどからなる。この実施形態では、受光機構17は、小幅のCCDアレイを備えるCCDラインカメラまたはフォトダイオードアレイであり、そのCCDがディスク基板D上の皮膜Wの予め決められた小さい単位面積から反射される光を受光する。
【0047】
受光機構17としてのCCDラインカメラは、ディスク基板D上の皮膜Wの内周部から外周部までの予め決められた小幅の面域から反射された光を受けて、画像処理機構21がその小幅の面域からの光に対し画像処理を行う。CCDラインカメラの画像によれば、乾燥前の皮膜Wの色は濃いねずみ色であるが、乾燥すると、薄いねずみ色、つまり白色に近い色に変化する。画像処理機構21はこの色の変化を画像処理し、皮膜Wの色が濃いねずみ色のときにはゼロ(0)の信号を出力し、薄いねずみ色、つまり白色に近い色に変化すると、1の信号を出力する。
【0048】
図3Cにおいて、皮膜Wが全域に亘って乾燥していなければ、受光機構17であるCCDアレイ(または各受光素子)の図面左端の(a)の部分から右端の(r)の部分まで、すべて0信号を出力する。一方、乾燥が進み、皮膜Wが内周側からX点まで乾燥すると、受光機構17であるCCDアレイの(a)、(b)、(c)の部分は1信号を出力し、(d)〜(r)の部分は0信号を出力する。つまり、乾燥前の皮膜からの反射光を受けるときには0信号を出力し、乾燥した皮膜からの反射光を受けるときには1信号を出力する。
【0049】
画像処理機構21がこれら2値信号を画像処理することによって、ディスク基板Dの皮膜Wにおける乾燥位置までの時間が、展延させるためにディスク基板Dをスピン開始した時刻からどの程度の時間長であるのかが求まる。つまり、ディスク基板の乾燥したところまでの乾燥所要時間を容易に求めることができる。
【0050】
詳しく説明すると、ディスク基板Dを1分間当たりn回転(rpm)の回転数で、皮膜材料を展延させて皮膜Wを形成し、更に乾燥させたとする。前述のように、皮膜の乾燥中にCCDラインカメラ17で得た乾燥状態を画像処理し、例えばディスク基板Dの内周から放射外方向のr1、r2、r3、r4(mm)の位置における乾燥所要時間を測定することによって、それらの乾燥時間t1、t2、t3、t4を容易に求めることができ、その時点で、画像処理機構21は皮膜の乾燥を示す乾燥信号S1を出力する。したがって、画像処理機構21は、皮膜の乾燥の判定を行う機能を有すると共に、皮膜の放射方向の位置の乾燥所要時間を測定又は演算して求める機能をも有する。
【0051】
皮膜の形成されたディスク基板Dは、スピンナ装置1から取り出され、ほぼ室温の状態で、図示しない検査装置の膜厚測定機構23によって皮膜の膜厚の測定が行われる。この皮膜の膜厚測定は従来の検査装置でも行われているので、詳しくは説明しないが、ここでは半径方向、つまり皮膜の内周から外周までの選択された点での膜厚が複数の所定点で又は連続して測定が行われる。この膜厚測定データは、図2における膜厚信号S2として膜厚判定機構25に送られる。膜厚判定機構25は、膜厚測定機構23から送られてくる皮膜の膜厚データが設定膜厚範囲に入っているか否かを判定する。
【0052】
判定信号S3は、前記皮膜の膜厚が設定膜厚範囲の上限値又は下限値に達するときにほぼ同時に、あるいは1枚又は所定枚数の前記ディスク基板Dの検査終了後に出力される。このように、検査終了後に判定信号S3が発生される場合、判定信号S3は、例えば、0と1とで示される2値信号であり、前記皮膜の膜厚が設定膜厚範囲にあるときは0、その範囲を外れると1である。
【0053】
前記設定膜厚範囲は、通常、所望の膜厚を中心に1〜2%程度の範囲で決められることが多い。ただし、この範囲に限定されることはなく、任意に設定できる。膜厚判定機構25から判定信号S3を受けると、スピンプログラミング機構27は、内蔵されている複数のスピンプログラムから回転数を上昇させるスピンプログラムに変更する。
【0054】
スピンプログラムの具体例について、図4および図5によって説明する。図4に示すように、皮膜の内周から外周近傍までを放射方向に等間隔で分割、例えば4分割する(ただし、4分割に限定はされず2分割以上の任意の分割数でよい)。内周からr1、r2、r3、r4とした場合、内周側から外周側に向けて領域をI、II、III、IVとする。また、図5における横軸の皮膜の乾燥時間t1、t2、t3、t4は、それぞれ図4の皮膜の位置(点)r1、r2、r3、r4における乾燥所要時間を示す。
【0055】
スピンプログラミング機構27は、前述したように、乾燥時間t1、t2、t3、t4で示される時刻に乾燥信号S1を画像処理機構21から受ける。スピンプログラミング機構27は、例えば、回転時間をtとすると、0≦t≦t1では回転数の勾配を示す回転速度勾配v1を選定し、t1<t≦t2では回転速度勾配v2を選定し、t2<t≦t3では回転速度勾配v3を選定し、t3<t≦t4では回転速度勾配v4を選定するプログラムを有している。したがって、スピンプログラミング機構27は、初期には回転速度勾配v1で動作させる信号S4を回転制御装置13に与え、時間t1で乾燥信号S1を画像処理機構21から受けると、回転速度勾配v2で動作させる信号S4を回転制御装置13に与え、時間t2で乾燥信号S1を画像処理機構21から受けると、回転速度勾配v3で動作させる信号S4を回転制御装置13に与え、時間t3’で乾燥信号S1を画像処理機構21から受けると、回転速度勾配v4で動作させる信号S4を回転制御装置13に与える。回転制御装置13は、前述のような判定信号S4に対応して回転速度勾配v1〜v4で回転駆動装置9を駆動する制御指令Qを出力する。
【0056】
スピンプログラムの具体例は前述のようになっているので、図5に示すスピンパターン(A)は、内周から位置(点)r1までの領域Iで最も小さな上昇率で増大する回転速度勾配v1で回転し、領域IIでは回転速度勾配v1よりも大きな上昇率の回転速度勾配v2、領域IIIでは回転速度勾配v2よりも大きな回転速度勾配v3’、領域IVでは回転速度勾配v3’よりも大きな回転速度勾配v4’で回転する(v1≦v2≦v3’≦v4’)。つまり、スピンパターン(A)に従って先ず回転速度勾配v1で回転させた後、位置(点)r1の乾燥時間t1まで回転速度勾配v1を保持し、時間t1の経過直後に回転速度勾配v2に変更する。位置(点)r2の乾燥時間t2まで回転速度勾配v2を保持し、時間t2の経過直後に回転速度勾配v3’に変更する。
【0057】
このように回転速度勾配が変化するスピンパターン(A)で、ディスク基板を回転させて皮膜を形成しているときの、皮膜の膜厚の変化は図4の曲線(X)で示されており、皮膜の膜厚が皮膜の位置r2とr3との間の位置r2’で上限を超えたとする。このとき、前述のように、膜厚判定機構25は図4の皮膜の位置(点)r2’における乾燥所要時間t3’にて、膜厚が設定範囲を外れたことを示す判定信号S3をスピンプログラミング機構27に与える。
【0058】
スピンプログラミング機構27は、前述の判定信号S3を受けると、以降に皮膜の形成されるディスク基板に対して、例えば、図5に示すスピンパターン(A)からスンパターン(B)ヘ変更するように、スピンパターン(B)に相当する信号S4を回転制御装置13に与える。したがって、回転制御装置13は、以降に皮膜の形成されるディスク基板に対して、スピンパターン(B)で回転させる。スピンパターン(B)は、領域Iでは回転速度勾配v1、領域IIでは回転速度勾配v2とスピンパターン(A)と同じであるが、領域IIIでは回転速度勾配v3’よりも上昇率の大きな回転速度勾配v3、領域IVでは回転速度勾配v4’よりも上昇率の大きな回転速度勾配v4で回転する(v1≦v2≦v3≦v4)。
【0059】
前述のように、スピンプログラミング機構27が、膜厚判定機構25から膜厚が設定範囲を外れたことを示す判定信号S3を受けると、回転駆動装置9は次のディスク基板からスピンパターン(B)で回転させるので、皮膜の膜厚が上限値を超えることがない。一般に、スピンパターンは、皮膜の膜厚を急激に変えないように、皮膜のある点で一気に回転数を大幅に変更することがないように設定される。しかし、スピンパターン(B)で回転させても、皮膜材料の特性などによって、例えば、皮膜の位置(点)r3とr4との中間の点で再び、皮膜の膜厚が上限値を超えるような場合もある。このような場合には、スピンパターン(B)よりも大きな回転速度勾配をもつ不図示のスピンパターン(C)に変更する。例えば、不図示のスピンパターン(C)は回転速度勾配v1〜v3は同じであり、皮膜の位置(点)r3とr4との間の回転速度勾配が前記回転速度勾配v4よりも大きな上昇率を有するように設定されている。
【0060】
以上述べた実施形態では、ディスク基板Dの位置r3〜r4間の領域IVにおける回転速度勾配をv4として予め決めて制御したが、基本的には、内周位置の回転速度勾配を変更すると、それよりも外周の皮膜の膜厚は影響を受けるから、領域IVの回転速度勾配も領域IIIの回転速度勾配v3と同じ回転速度勾配であるスピンパターン(B′)で制御し、皮膜の膜厚が設定膜厚範囲を超えない場合にはそのまま最後まで回転速度勾配v3で制御する。しかし、領域IVの途中で皮膜の膜厚が設定膜厚範囲を超えるときには、以後に皮膜の形成されるディスク基板について、領域IVの最初から回転速度勾配v4で制御するようにしても勿論よい。また、回転速度勾配は、必ずしも(v1≦v2≦v3≦v4)のように段段と上昇する回転速度勾配である必要は無く、それぞれ等しい回転速度勾配でも構わない。
【0061】
このように上昇率の大きな回転速度勾配の組み合わせのスピンパターンに一度変更することによって、ほとんどの場合には、皮膜の厚みを設定範囲内に保つことが可能である。また、皮膜材料の特性が特殊なものであっても、更に上昇率の大きな回転速度勾配の組み合わせのスピンパターンにもう一度変更することによって、以降に皮膜の形成されるディスク基板では、皮膜の厚みを設定範囲内に保つことができる。なお、本発明における皮膜の設定厚さは、ディスクの内周側から外周側にかけて一定である必要はなく、内周側から外周側に向けて厚くなるように、あるいは薄くなるように形成することも可能である。さらには、半径方向の特定位置においてのみ、厚くあるいは薄くなるように厚さをコントロールすることも可能である。
【0062】
また、この実施形態では、回転を開始してから回転を終了するまでの回転速度勾配を決めるスピンパターンをそのスピンパターンごと変更しているが、所定の領域のみ回転速度勾配を変更しても構わない。
【0063】
以上述べた実施形態では、画像処理機構21で皮膜の乾燥を測定しながらスピンプログラムを変更し、自動的にスピンパターンを変更して回転速度勾配を変えていたが、必ずしも自動的にスピンプログラムを変更する必要は無く、コストを低減するためには、実際の装置では乾燥状態を測定しなくてもよい。この場合には、実際の皮膜形成装置には画像処理機構を備える必要はなく、前述のようにして予め求めた種々の回転速度勾配に対する乾燥時間データ、皮膜の膜厚データなどから形成したスピンプログラムをスピンプログラミング機構に入力して実際の皮膜形成装置を稼動させ、膜厚測定機構によって皮膜の膜厚が上限値(設定値)に達したときに、前述のようにスピンパターン、つまり載置台7の回転速度勾配を変更するようにしてもよい。
【0064】
上記実施形態では、皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程、および乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する工程を、n枚目(nは1以上の任意の整数)のディスク基板に対して行い、ディスク基板の回転数を制御する工程は、n+a枚目(aは定数であり1以上の整数)のディスク基板に対して行う。この場合、処理が完了したディスク基板に基づいて得られたデータを用いて、そのディスク基板からa枚目後のディスク基板の回転を制御するので、装置の構成が単純化できる。前記aの値は皮膜形成工程と膜厚分布計測工程との間のタイムラグによって適宜設定すればよい。
【0065】
また、連続する一定枚数のディスク(例えばn,n+1,n+2…n+m(mは定数であり1以上の整数))に対しての膜厚分布計測結果を蓄積して平均化し、この平均データを用いて、一定枚数後のディスク基板(例えばn+r(rはmより大きい整数))の回転を制御する構成としてもよい。
【0066】
実施形態2
次に、図6を用いて本発明の第2の実施形態について説明する。この実施形態でも前述したように、内周から位置(点)r1までの領域Iでは最も小さな上昇率で増大する回転速度勾配v1で回転し、領域IIでは回転速度勾配v1よりも大きな上昇率の回転速度勾配v2、領域IIIと領域IVでは回転速度勾配v2よりも大きな回転速度勾配v3で、ディスク基板Dを回転させて皮膜材料を展延する。
【0067】
図6に示すように、ディスク基板Dの内周からの位置(点)r2′で、皮膜の膜厚が設定範囲の上限値を越えた場合、実際の膜厚値と設定膜厚範囲の上限値とで囲まれる面積Y1、Y2を領域III、領域IVごとに求め、その面積の大きさを皮膜の膜厚の超過量として、所定の段階に、例えば1〜5段階に分けて数値化する。つまり、領域ごとに設定膜厚範囲の上限値を越えた膜厚値を時間積分して超過量として求める。
【0068】
各領域I〜IVの膜厚を測定した後、各領域の超過量を示す判定信号S3が出力される。判定信号S3が領域Iでは0、領域IIでは0、領域IIIでは1、領域IVでは5を表したとすると、領域IIIでは皮膜の膜厚の超過量1に相当する回転速度勾配に設定され、領域IVでは皮膜の膜厚の超過量5に相当する傾斜の大きな回転速度勾配に設定される。したがって、以降に皮膜の形成されるディスク基板に対しては、領域I、領域IIでは回転速度勾配を変更せず、領域IIIでは超過量1に相当する回転速度勾配に設定し、領域IVでは超過量5に相当する回転速度勾配に設定して、回転させる。このように回転速度勾配を設定することで、短時間でより高精度の膜厚の制御が可能となる。
【0069】
また、領域IIIで超過量1に相当する回転速度勾配でディスク基板Dを回転させることで、領域IVでの皮膜の膜厚も変化するから、領域IIIの回転速度勾配を、予め領域IVの超過量5を考慮した回転速度勾配に設定し、領域IVも領域IIIと同じ回転速度勾配で回転させてもよい。その変更した回転速度勾配でディスク基板Dを回転させて皮膜を形成した結果、領域IVの途中で皮膜の膜厚が設定範囲の上限値を越えた場合には、前述したようにして、再度、領域IVの回転速度勾配を変更すればよい。
【0070】
実施形態3
次に、図13によって本発明の他の実施形態を説明する。先に説明した図2の装置では、皮膜を形成した後に、後工程において膜厚測定を行っていたが、この実施形態では、皮膜形成と膜厚測定を同一の装置によって行うことを特徴としている。
【0071】
膜厚測定機構24は、載置台7上に配置されたディスク基板Dを回転させつつ、その上に形成された皮膜Wの膜厚を、ディスク基板Dの半径方向に連続的または複数の位置において間欠的に測定する。膜厚測定機構24による測定タイミングは、以下の2通りが可能である。
(1)皮膜Wの乾燥が全て完了した後、引き続き載置台7を回転させつつ、皮膜Wの膜厚測定を行う。
(2)皮膜Wの塗布乾燥と並行して、皮膜Wの乾燥境界よりも内側において、乾燥境界を追いかけるように皮膜Wの膜厚測定を行う。
上記(2)の場合には、測定結果を、次に塗膜を行うディスク基板に適用してもよいし、現在塗膜を行っているディスク基板のフィードバック制御に適用してもよい。
【0072】
図13の構成によれば膜厚測定機構24をスピンコート装置に組み込むことが可能であるから、スピンコート装置とは別個に膜厚測定機構24を設ける必要が無く、装置の小型化の点で有利である。
【0073】
膜厚測定機構24による測定結果を、現在塗膜を行っているディスク基板の回転制御にフィードバックする場合には、ディスク基板に皮膜を形成中にその形成途中における皮膜の膜厚を非接触で検出し、その膜厚が設定範囲を外れるときには、その時点でディスク基板Dの回転速度勾配をリアルタイムで変更する。この場合、同一のディスク基板に対する膜厚測定結果に基づいてそのディスク基板の皮膜厚さをフィードバック制御することが可能であるから、急な条件変化にも対応できる利点を有する。この場合の制御法方法を次に説明する。
【0074】
図7は皮膜の半径方向の皮膜の膜厚の変化を示す図、図8は皮膜の乾燥時間とディスク基板の回転数との関係を示す図である。膜厚検出機構24がディスク基板Dに形成されている皮膜Wの乾燥直後の膜厚を検出し、膜厚判定機構25に膜厚データを示す信号を送出する。図7に示すように、皮膜Wの膜厚がディスク基板Dの半径方向の位置L1で、設定膜厚範囲の上限を超えたとすると、膜厚判定機構25は膜厚が設定範囲の上限値を越えたことを示す判定信号S3を出力する。スピンプロミング機構27がこの判定信号S3を受けると、図8に示すように、ディスク基板の位置L1における皮膜の乾燥時間t1で回転速度勾配をv2に変更する。したがって、位置L1まで回転速度勾配v1で回転していたディスク基板は位置L1で回転速度勾配v2に切り替えられる。なお、ここで用いる膜厚検出機構は、光の反射を利用するものなど一般的なものでよく、ディスク基板Dに皮膜を形成している過程で、半径方向の膜厚を連続的に、あるいは複数の所定位置の膜厚を検出する。
【0075】
回転速度勾配v2でディスク基板が回転し、皮膜の膜厚が設定範囲の上限を越えなければ、そのまま回転速度勾配v2で皮膜の形成が行われる。しかし、図7に示すように、皮膜の膜厚が位置L2で再び上限値を越えると、ディスク基板の位置L2における皮膜の乾燥時間t2で回転速度勾配をv3に変更する。以上述べたように、この実施形態では皮膜の形成工程で、皮膜を形成途中で皮膜の膜厚を検出し、設定範囲を超えた時には、皮膜の形成中におけるディスク基板の回転速度勾配をリアルタイムで変更する。
【0076】
この実施形態では、膜厚異常の検出から膜厚制御へのフィードバックまでにライムラグが生じるから、設定膜厚範囲を実際の許容膜厚範囲よりも小さく設定し、実際の許容膜厚範囲の上限または下限に達する前に回転を制御するようにして、余裕を持たせることが好ましい。
【0077】
実施形態4
図9は、本発明の他の実施形態に係る光ディスクの皮膜形成装置200を示す図である。図2と同一の符号で示される構成は図2と同じ構成を示す。この実施形態では、発光ダイオードのような発光素子を複数個一列に配列してなる発光機構15と、各発光素子から発生された光のうち、皮膜の所定小面域から反射する光をそれぞれ受光し、受光量に対応する電気信号を発生する受光素子17とからなる皮膜乾燥センサ19を用いている。皮膜の乾燥を検出するメカニズムについては、実施形態1で述べたので省略する。
【0078】
図2の実施形態では多数(例えば100〜2000個)の受光素子がディスク基板の半径方向に沿って一列に並んだ受光素子アレイを用いていたが、本発明では、例えば図15に示すように、回転制御を行う段階数に対応した個数(図示の例では3個)の乾燥検出機構のみを設けた構成としてもよい。乾燥検出機構によるディスク半径方向における乾燥検出位置は、特に限定されないが、一般には3以上であることが好ましい。乾燥検出位置を3点以上設けておけば、一般的なディスクでは十分な精度で膜厚制御が行える。なお、この実施形態では、発光素子として発光ダイオード等、受光素子としてフォトダイオード等が使用できる。
【0079】
予め決められた位置(点)からの反射光を受光する受光素子17が発生する信号は、皮膜の乾燥前と乾燥後とでは値が異なり、乾燥後には乾燥前の例えば10%以上大きくなる。乾燥判定機構31は、受光素子17からの信号値を設定値と比較し、前記信号値が前記設定値以上になると、その位置の皮膜が乾燥したことを示す乾燥信号S1を発生し、プログラミング機構27に入力する。
【0080】
この実施形態でも、実施形態1で用いたのと同様な機能を持つ膜厚測定機構23、膜厚判定機構25を用いており、これらの機能、動作については実施形態1で述べたので省略するが、発光機構15と受光素子17とからなる皮膜乾燥センサ19と、乾燥判定機構31とを用いて、前述したような方法とまったく同様な方法で皮膜の形成を実現することができる。
【0081】
なお、この実施形態において、発光素子と受光素子とは一定間隔をあけて配列してもよいし、互いに密着させて配列してもよい。発光素子はディスク基板の内周から外周にいたる長さにほぼ等しい長さの単一のランプでもよい。ただし、各受光素子は皮膜の所定の各小面域からの反射光だけを受光する。
【0082】
以上の実施形態では受光素子が皮膜からの反射光を受光する例について述べたが、図14に示すように、ディスク基板Dと皮膜Wとを透過した光を受光してもよい。一般に、ディスク基板Dは透明なポリカーボネート樹脂からなるものが多く、通常の波長領域の可視光線はほとんど透過する。また、皮膜Wの膜厚は通常0.1μm程度と薄いので、通常の波長領域の可視光線の一部分は透過する。皮膜Wを透過する光線の量は乾燥前と乾燥後で異なり、乾燥後には乾燥前に比べて多くなることを本発明者らは確認した。したがって、皮膜の透過光を検出する場合でも、実施形態1〜実施形態3と同様に、皮膜の乾燥を検出することができる。
【0083】
皮膜の透過光を利用する場合には、図2又は図9の装置において、載置台7を図14に示すように透明な材質(例えばガラス、セラミックスまたはプラスチック等)で形成し、発光機構15(または受光機構17)を載置台7の上方へ配置する一方、受光機構17(または発光機構15)を載置台7の下方に配置すればよい。あるいは、載置台7の内部に発光機構15(または受光機構17)を設ければよい。
【0084】
この場合、受光機構によって受光される光量が設定値以上になると、乾燥したものと判断することができる。また、発光機構又は受光機構の一方を横方向に配置し、ミラー又はプリズムによって光を屈折させても勿論よい。
【0085】
載置台7の内部に前述のような発光機構を設ける場合には、ディスク基板Dが搭載される上面を透明なガラス基板で構成し、載置台の内部に発光機構又は受光機構を設け、載置台の上方に受光機構又は発光機構を設けることによって実現できる。この場合、載置台の内部の発光機構又は受光機構に外部から電力を供給する構造としては、種々提案されている機構を用いることができ、例えば、図2又は図9における回転柱11の先端に不図示の回転摺動機構を取付け、回転柱11内部を通して外部から前記回転摺動機構の固定部に電力供給線(図示せず)を接続し、前記回転摺動機構の回転部(図示略)に、発光機構15又は受光機構に接続された電力供給線(図示せず)を接続すればよい。
【0086】
また、加熱された気体をディスク基板上の皮膜に吹き付ける、又は赤外線を照射して、乾燥を促進させると共に乾燥を検出してもよい。
【0087】
ディスク基板に塗布された皮膜材料の乾燥を検出する手段としては、上記のように反射率または透過率の変化を検出する手段だけでなく、他の物理特性、例えば、皮膜の静電容量の変化、重量の変化、導電性の変化、光以外のエネルギー線に対する反射率や透過率の変化を検出する手段を用いてもよい。例えば、静電容量を検出する場合には、皮膜に近接して1または複数の静電容量センサを設け、乾燥に伴う静電容量の変化から乾燥境界の位置を検出してもよい。また、重量変化を測定する場合には、載置台にロードセルを設けたり、載置台の回転モーメント変化を歪みセンサなどによって検出してもよい。
【0088】
また、上記実施形態ではいずれも溶媒を含む皮膜材料を塗布して、溶媒を揮発させることにより乾燥させるものであったが、本発明でいう乾燥は、例えば硬化性樹脂が液状から固体へと変化する相変態をも含むものとする。したがって、本発明は、熱硬化性樹脂やエネルギー線硬化性樹脂をスピンコートした後に、内周から外周へ向けて硬化させる場合にも適用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスク基板を回転させながら皮膜材料を塗布し、それを乾燥させることにより皮膜を前記ディスク基板上に形成する工程と、
前記回転中の前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程と、
乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する工程と、
前記検出された境界の移動と、前記膜厚分布との関係に基づき、前記ディスク基板の回転数を制御する工程とを具備するディスクの製造方法。
【請求項2】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程では、前記ディスク基板の半径方向の2以上の測定位置における皮膜乾燥時間を測定し、
前記ディスク基板の回転数を制御する工程では、前記ディスクの回転開始から前記各測定位置に対応した皮膜乾燥時間を経過する際に、前記ディスク基板の回転数を変更する請求項1記載のディスクの製造方法。
【請求項3】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程は、前記皮膜が内周側から外周側に向かって複数の所定位置において乾燥する状態を順次検出する工程と、前記皮膜の膜厚を測定する工程と、前記皮膜の膜厚が設定範囲を外れる半径方向位置を検出する工程とを備え、
前記ディスク基板の回転数を制御する工程は、前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界が、前記設定範囲を外れる半径方向位置に達した際に、前記ディスク基板の回転数を変更する請求項1記載のディスクの製造方法。
【請求項4】
前記回転数の制御は、前記ディスク基板を回転するモータを制御するためのスピンプログラムの変更によって行われる請求項1記載のディスクの製造方法。
【請求項5】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程では、前記皮膜による光の反射率および透過率の少なくとも一方の変化を利用して前記境界を検出する請求項1記載のディスクの製造方法。
【請求項6】
前記ディスク基板の回転数を制御する工程では、前記回転数を、前記膜厚が設定膜厚範囲内に維持されるように制御する請求項1記載のディスクの製造方法。
【請求項7】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程、および乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する工程は、n枚目(nは1以上の任意の整数)のディスク基板に対して行い、
前記ディスク基板の回転数を制御する工程は、n+a枚目(aは定数であり1以上の整数)のディスク基板に対して行う請求項1記載のディスクの製造方法。
【請求項8】
前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域との境界の移動を検出する工程、乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する工程、および前記ディスク基板の回転数を制御する工程は、同一のディスク基板に対して行う請求項1記載のディスクの製造方法。
【請求項9】
ディスク基板を回転させる回転機構と、
前記ディスク基板に皮膜材料を塗布する塗布機構と、
前記回転中の前記皮膜の乾燥領域と未乾燥領域の境界の移動を検出する乾燥検出機構と、
乾燥後の前記皮膜の膜厚分布を計測する膜厚測定機構と、
前記検出された境界の移動と、前記膜厚分布との関係に基づき、前記ディスク基板の回転数を制御する制御機構とを具備するディスクの製造装置。
【請求項10】
前記制御機構は、ディスク基板の回転時間?回転数特性を示すスピンパターンを複数有するスピンプログラムが入力されているスピンプログラミング機構を備え、このスピンプログラミング機構は、前記皮膜の形成途中で前記回転数の変更が必要になったときに、前記回転数を変更すべき位置以降のスピンパターンを変更する請求項9記載のディスクの製造装置。
【請求項11】
前記膜厚測定機構は、得られた膜厚データと、予め設定されている設定膜厚範囲とを比較し、前記膜厚が前記ディスク基板の半径方向の前記設定膜厚範囲内又は範囲外であるかを示す判定信号を出力する判定機構を具備し、
前記スピンプログラミング機構は、前記判定信号と前記乾燥検出機構からの乾燥信号を受けると、前記スピンパターンを変更する請求項10記載のディスクの製造装置。
【請求項12】
前記乾燥検出機構は、画像処理装置である請求項9記載のディスクの製造装置。
【請求項13】
前記乾燥検出機構は、
前記皮膜に光を照射する発光機構と、前記皮膜から反射した光又は前記皮膜を透過した光を受光する受光機構とを備えた皮膜乾燥センサ、および
前記受光機構によって受光された光量が設定レベルに達すると乾燥信号を出力する乾燥判定機構を備える請求項9記載のディスクの製造装置。
【請求項14】
前記発光機構は、レーザ光を発生するレーザ発生機構、および発光ダイオードのいずれかである請求項13記載のディスクの製造装置。
【請求項15】
前記受光機構は、CCDカメラを備える画像処理装置、前記ディスク基板の内周と外周との間を延びる短冊状のCCDセンサ、前記ディスク基板の半径に沿って整列された複数のフォトダイオードのいずれかである請求項13記載のディスクの製造装置。


【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図1E】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【国際公開番号】WO2005/082550
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510481(P2006−510481)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003184
【国際出願日】平成17年2月25日(2005.2.25)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【Fターム(参考)】