説明

デファレンシャル装置の潤滑構造

【課題】別部品を必要とせず、軸受や差動ギヤを効率よく潤滑できるデファレンシャル装置の潤滑構造を得る。
【解決手段】デフリングギヤ31の一方側と対向するハウジング5cに、デフリングギヤの側面と近接する第1内壁部50と、デフリングギヤの外周面と近接し、デフリングギヤでかき上げられたオイルを内壁面に沿って上昇可能とする第2内壁部51とを形成し、第1内壁部であってデフリングギヤの回転中心より上部に軸方向に凹んだオイル溜まり部52を形成し、オイル溜まり部の直上部に、デフリングギヤでかき上げられ第2内壁部に沿って流れるオイルの流れを変更してオイル溜まり部へ落下させるガイドリブ55を形成する。軸受36の外周部を保持しているハウジングの軸受保持部53に、オイルを軸受の外側面へ供給するためのオイル導入溝57を形成し、オイル溜まり部の下面にオイル導入溝に向かって下方へ傾斜する傾斜面52bを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はデファレンシャル装置の潤滑構造、特にデフリングギヤでかき上げたオイルで軸受やデフ差動ギヤを潤滑するための構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
FF式の自動変速機や無段変速機において、トランスミッションケースの底部に形成されたデフハウジング内に、差動ギヤ機構を備えたデフケースを収容し、このデフケースの軸方向両端部を軸受を介してデフハウジングにより支持するとともに、デフケースの外周部にデフリングギヤを設けたデファレンシャル装置が知られている。デフハウジング内にはオイルが溜まっているので、このオイルをデフリングギヤでかき上げ、かき上げたオイルを利用して各部を潤滑するのが望ましい。しかしながら、オイルはデフケースの遠心力によって外周方向へはね上げられるため、デフケースの内部に配置されている差動ギヤ機構に十分なオイルが供給されず、潤滑不良になる可能性がある。
【0003】
特許文献1には、軸受の外周部を保持しているデフハウジングの軸受保持部にオイル導入穴を形成し、デフハウジングの内面に、デフリングギヤの側面に付着したオイルをかき落として、オイル導入穴へオイルを導くための油かき集め板を固定したものが提案されている。油かき集め板でかき集められたオイルは、オイル導入穴を通って軸受の外側面へ導かれるので、軸受及び出力軸とデフケースとの隙間を潤滑できる。
【0004】
特許文献2には、デフケースの外周部に軸方向中心部より一方側へ偏位させてデフリングギヤを設け、デフケースの他側と対向するデフハウジングの内側面に、リブを形成すると共に、セパレートプレートを固定してかき上げオイルの貯留部を形成したものが提案されている。デフハウジングの他方側の軸受保持部にオイル導入溝を形成し、オイル貯留部で溜められたオイルをオイル導入溝を通ってデフケースを支持する軸受の外側面に導くようになっている。
【0005】
しかしながら、特許文献1,2はいずれも油かき集め板あるいはセパレートプレートという別部品を必要とし、これら部品をデフハウジングの内面に固定するためにボルト等の締結部品を必要とするため、部品数が増えるという問題がある。また、特許文献2の場合には、セパレートプレートとデフハウジングとの間に油室を形成するため、セパレートプレートが少なくともデフケースの下半分を覆う大型部品となり、コスト上昇を招く可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59−208268号公報
【特許文献2】特開2006−275164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、別部品を必要とせず、軸受や差動ギヤを効率よく潤滑できるデファレンシャル装置の潤滑構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、ハウジング内に差動ギヤ機構を備えたデフケースを収容し、このデフケースの軸方向両端部を軸受を介してハウジングにより支持するとともに、前記デフケースの外周部に軸方向中心部より一方側へ偏位させてデフリングギヤを設けたデファレンシャル装置において、前記デフリングギヤの一方側と対向する前記ハウジングに、前記デフリングギヤの側面と近接する第1内壁部と、前記デフリングギヤの外周面と近接し、前記デフリングギヤでかき上げられたオイルを内壁面に沿って上昇可能とする第2内壁部とを形成し、前記ハウジングの第1内壁部であって、前記デフリングギヤの回転中心より上部に、前記デフリングギヤでかき上げられたオイルを溜めるための軸方向に凹んだオイル溜まり部を形成し、前記オイル溜まり部の直上部に、前記デフリングギヤでかき上げられ前記第2内壁部に沿って流れるオイルの流れを変更して前記オイル溜まり部へ落下させるガイドリブを前記ハウジングに形成し、前記軸受の外周部を保持しているハウジングの軸受保持部に、オイルを前記軸受の外側面へ供給するためのオイル導入通路を形成し、前記オイル溜まり部の下面に、前記オイル導入通路に向かって下方へ傾斜する傾斜面を形成したことを特徴とするデファレンシャル装置の潤滑構造を提供する。
【0009】
本発明では、デフケースを収容しているハウジングの内側面、特にデフリングギヤの側面と近接する第1内壁部にオイル溜まり部を一体に形成している。ハウジング下部に溜まったオイルは、デフリングギヤの回転に伴ってかき上げられる。かき上げられたオイルは、ハウジングの第1内壁部及び第2内壁部にそって流れ、その一部はオイル溜まり部に入るが、他のオイルは第2内壁部にそって上昇する。第2内壁部に沿って上昇したオイルは、オイル溜まり部の直上部に設けられたガイドリブに衝突し、エネルギーを失ってオイル溜まり部へと落下する。そのため、オイル溜まり部に十分な量のオイルが溜められ、ハウジング下部に溜められるオイル量を低減できるので、デフリングギヤによる攪拌抵抗を低減できる。オイル溜まり部に溜められたオイルは、傾斜面に沿って下方へながれ、最下部に位置するオイル導入通路へと入り込む。オイル導入通路へ入ったオイルは、軸受の外側面へ供給され、軸受を潤滑すると共に、デフケース内部に流入して差動ギヤを潤滑することができる。
【0010】
オイル溜まり部はデフリングギヤの側面と近接する第1内壁部に形成されているので、デフリングギヤ側の面は開放している。そのため、デフリングギヤの回転に伴ってオイル溜まり部からオイルが流出してしまい、オイル導入通路へと効率よく導入できない可能性がある。そこで、軸受保持部の外周面であって、オイル導入通路よりデフリングギヤの回転方向直後の位置に、デフリングギヤの回転方向のオイルの流れの一部を止めるためのリブを形成するのが望ましい。この場合には、デフリングギヤの側面に沿って回転方向に流れるオイルの流れをリブがせき止め、オイル導入通路へと効率よく送り込むことができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、オイル溜め用の専用部品を追加することなく、デフリングギヤでかき上げたオイルを溜めるオイル溜まり部やガイドリブをハウジングに一体形成したので、多くのオイルをオイル溜まり部に溜めることができ、オイルの攪拌抵抗を低減できると共に、オイル溜まり部に溜められたオイルをデフサイド部の潤滑に効率よく利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るデファレンシャル装置を備えた無段変速機の一例のスケルトン図である。
【図2】図1に示すデファレンシャル装置の詳細断面図である。
【図3】図1に示す無段変速機のトランスミッションケースの側面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1,図2は本発明に係るデファレンシャル装置を備えたベルト式無段変速機の一例を示す。この無段変速機はFF横置き式の車両用変速機であり、エンジン出力軸1によりトルクコンバータ2を介して駆動される入力軸(タービン軸)3、入力軸3の回転を正逆切り替えて駆動軸10に伝達する前後進切替装置4、駆動プーリ11と従動プーリ21との間にVベルト15を巻き掛けてなる無段変速装置9、従動軸20の動力をドライブ軸32,33に伝達するデファレンシャル装置30などで構成されている。入力軸3と駆動軸10とは同一軸線上に配置され、従動軸20とデファレンシャル装置30のドライブ軸32,33とが入力軸3に対して平行でかつ非同軸に配置されている。したがって、この無段変速機は全体として3軸構成とされている。
【0014】
無段変速機を構成する各部品はケーシング5の中に収容されている。ここで、ケーシング5は、後側(反エンジン側)のリヤカバー5aと、前側(エンジン側)のコンバータハウジング5bと、中間のトランスミッションケース5cとの3部品で構成されている。トルクコンバータ2はコンバータハウジング5b内に収容され、無段変速装置9はリヤカバー5aとトランスミッションケース5cとの間の空間に収容され、出力ギヤ27及びデファレンシャル装置30はコンバータハウジング5bとトランスミッションケース5cとの間の空間に収容されている。
【0015】
前後進切替装置4は、遊星歯車機構40と前進用ブレーキ41と後進用クラッチ42とで構成されており、後進用クラッチ42を解放して前進用ブレーキ41を締結すると前進駆動状態となり、前進用ブレーキ41を解放して後進用クラッチ42を締結すると、後進駆動状態となる。前後進切替装置4は、トランスミッションケース5cとコンバータハウジング5bとの間の空間に収容されている。
【0016】
無段変速装置9の駆動プーリ11は、駆動軸10上に一体に形成された固定シーブ11aと、駆動軸10上に軸方向移動自在にかつ一体回転可能に支持された可動シーブ11bとを備えている。可動シーブ11bとシリンダ12との間に油圧室13が形成され、この油圧室13への油圧を制御することにより変速制御が実施される。従動プーリ21は、従動軸20上に一体に形成された固定シーブ21aと、従動軸20上に軸方向移動自在にかつ一体回転可能に支持された可動シーブ21bとを備えている。可動シーブ21bとピストン22との間に油圧室23が形成され、この油圧室23の油圧を制御することによりトルク伝達に必要なベルト推力が与えられる。油圧室23内には、初期ベルト推力を与えるバイアススプリング24が収容されている。駆動軸10の両端部は、それぞれ軸受(ボールベアリング)14,16を介してリヤカバー5aとトランスミッションケース5cとによって回転自在に支持され、従動軸20の両端部も、それぞれ軸受(ボールベアリング)25,26を介してリヤカバー5aとトランスミッションケース5cとによって回転自在に支持されている。
【0017】
従動軸20の一端部は、トランスミッションケース5cを貫通してエンジン側に向かって延び、この自由端部に出力ギヤ27が固定されている。従動軸20はコンバータハウジング5bには支持されていない。出力ギヤ27はデファレンシャル装置30のデフリングギヤ31に噛み合っており、デファレンシャル装置30から左右に延びるドライブ軸32,33に動力が伝達され、車輪が駆動される。
【0018】
ここで、デファレンシャル装置30の潤滑構造について、図2〜図4を参照しながら詳しく説明する。デファレンシャル装置30は、差動ギヤ35を収容したデフケース34を備えており、デフケース34の軸方向両端部が軸受(ボールベアリング)36,37を介してコンバータハウジング5bとトランスミッションケース5cとで回転自在に支持されている。デフリングギヤ31は、デフケース34の外周部の軸方向中心部よりトランスミッションケース5c側に偏位した位置に固定されている。デファレンシャル装置30のハウジングは、コンバータハウジング5bとトランスミッションケース5cとによって構成されており、その中に溜められたオイルのレベル(停車時)は図2にOLで示すように、デフリングギヤ31の下端部だけが漬かるレベルに設定するのが望ましい。
【0019】
トランスミッションケース5cは、デフリングギヤ31の側面と近接する第1内壁部50と、デフリングギヤ31の外周面と近接する第2内壁部51とを有しており、第2内壁部51は、図3に示すように、デフリングギヤ31の回転(A方向)に伴って、デフリングギヤ31でかき上げられたオイルが上昇できるように、デフリングギヤ31の接線方向、即ち斜め上方に延びる内壁面51aを有している。トランスミッションケース5cの第1内壁部50であって、デフリングギヤ31の回転中心より上部には、デフリングギヤ31でかき上げられたオイルを溜めるためのオイル溜まり部52が形成されている。このオイル溜まり部52は、図4に示すように、従動プーリ21側に向かって軸方向に凹んでおり、その最深部52aは従動プーリ21の可動シーブ21bと軸方向にオーバーラップする位置まで延びている。
【0020】
軸受36の外輪を嵌合保持しているトランスミッションケース5cの軸受保持部(ボス部)53の上方には、従動軸20のエンジン側端部を支持する軸受(ボールベアリング)26の外輪を嵌合保持する軸受保持部(ボス部)54が形成されている。この軸受保持部54の外周部とトランスミッションケース5cの内壁面51aとの間には、図3に示すように、半径方向の複数のガイドリブ55が形成されている。これらガイドリブ55は、オイル溜まり部52の上部に位置している。そのため、デフリングギヤ31でかき上げられたオイルが内壁面51aに沿って上昇したとき、ガイドリブ55に衝突して流れが止められ、オイル溜まり部52へと落下する。なお、内壁面51aに沿って上昇したオイルは、ガイドリブ55だけでなく出力ギヤ27にも衝突する。出力ギヤ27はデフリングギヤ31と逆方向(B方向)に回転するので、出力ギヤ27に衝突したオイルは下方へ振り落とされ、オイル溜まり部52へと落下する。
【0021】
軸受36の外輪を保持する軸受保持部53と、軸受26の外輪を嵌合保持する軸受保持部54との間には、図2,図3に示すように、両保持部を架橋するようにリブ56がトランスミッションケース5cと一体に形成されている。このリブ56は、デフリングギヤ31の回転方向と直交方向に延びており、後述するオイル導入溝57よりデフリングギヤ31の回転方向直後の位置に形成されている。そのため、両保持部53,54を補強する役割と、デフリングギヤ31の回転に伴ってデフリングギヤ31の側面にそって周方向に流れるオイルをせき止め、オイル導入溝57へ流し込む役割とを持つ。
【0022】
さらに、軸受保持部53の上端部であって、リブ56よりデフリングギヤ31の回転方向上流側の直前には、オイルを軸受36の外側面へ供給するための半径方向のオイル導入溝57が形成されている。オイル溜まり部52の下面は、オイル導入溝57に向かって下方へ傾斜する傾斜面52bとなっている。そのため、オイル溜まり部52に溜められたオイルは、傾斜面52bに沿って下方へ流れ、その最下部に位置するオイル導入溝57へと流れ込むことができる。オイル導入溝57へ流入したオイルは、図2に矢印で示すように、軸受36とオイルシール38との間の空間へ流れ込み、軸受36及びオイルシール38を潤滑した後、さらに軸受36の内輪を保持しているデフケース34の筒部34aとドライブ軸32との半径方向隙間を通って軸方向に流れ、差動ギヤ35やスラストワッシャ39などのデフケース34内に収容された部品を潤滑することができる。なお、筒部34aとドライブ軸32との間のオイル通路を確保するために、筒部34aの内周又はドライブ軸32の外周にスプライン溝を形成しておくのがよい。
【0023】
前記実施例では、オイル導入通路として、軸受保持部53に軸方向に切り欠かれた溝57を形成したが、穴であってもよい。また、ガイドリブ55やリブ56は、その一端が従動軸20を支持する軸受26の外周を保持する軸受保持部54を補強するリブを兼ねたが、軸受保持部54とは関係なくトランスミッションケース5cに突設したリブであってもよい。
【0024】
前記実施例では、本発明に係るデファレンシャル装置を無段変速機に適用した例を示したが、遊星歯車装置と複数の摩擦係合要素とを持つ有段式の自動変速機にも適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0025】
5 ケーシング
5a リヤカバー
5b コンバータハウジング
5c トランスミッションケース(ハウジング)
30 デファレンシャル装置
31 デフリングギヤ
32,33 ドライブ軸
34 デフケース
35 差動ギヤ
36 軸受
38 オイルシール
39 スラストワッシャ
50 第1内壁部
51 第2内壁部
51a 内壁面
52 オイル溜まり部
52b 傾斜面
53 軸受保持部
54 軸受保持部
55 ガイドリブ
56 リブ
57 オイル導入溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジング内に差動ギヤ機構を備えたデフケースを収容し、このデフケースの軸方向両端部を軸受を介してハウジングにより支持するとともに、前記デフケースの外周部に軸方向中心部より一方側へ偏位させてデフリングギヤを設けたデファレンシャル装置において、
前記デフリングギヤの一方側と対向する前記ハウジングに、前記デフリングギヤの側面と近接する第1内壁部と、前記デフリングギヤの外周面と近接し、前記デフリングギヤでかき上げられたオイルを内壁面に沿って上昇可能とする第2内壁部とを形成し、
前記ハウジングの第1内壁部であって、前記デフリングギヤの回転中心より上部に、前記デフリングギヤでかき上げられたオイルを溜めるための軸方向に凹んだオイル溜まり部を形成し、
前記オイル溜まり部の直上部に、前記デフリングギヤでかき上げられ前記第2内壁部に沿って流れるオイルの流れを変更して前記オイル溜まり部へ落下させるガイドリブを前記ハウジングに形成し、
前記軸受の外周部を保持しているハウジングの軸受保持部に、オイルを前記軸受の外側面へ供給するためのオイル導入通路を形成し、
前記オイル溜まり部の下面に、前記オイル導入通路に向かって下方へ傾斜する傾斜面を形成したことを特徴とするデファレンシャル装置の潤滑構造。
【請求項2】
前記軸受保持部の外周面であって、前記オイル導入通路よりデフリングギヤの回転方向直後の位置に、前記デフリングギヤの回転方向のオイルの流れの一部を止めるためのリブを前記ハウジングに形成したことを特徴とする請求項1に記載のデファレンシャル装置の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−21656(P2011−21656A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166245(P2009−166245)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】