説明

トルク伝達カップリング

【課題】クラッチ・ハウジングの材質選択の自由度を拡げることを可能とする。
【解決手段】トルク伝達カップリング1では、相対回転可能に支持されたクラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61と、クラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61に回転方向に係合し締結制御によりトルク伝達制御を可能とするメイン・クラッチ63と、クラッチ・ハウジング59の側壁77に回転方向に係合すると共に側壁77及びクラッチ・ハブ61の軸方向間に配置されたワッシャ89とを備え、クラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61間に導入された潤滑剤をクラッチ・ハウジング59の側壁77の内周側の通路85を介してクラッチ・ハウジング59外へ流通させるトルク伝達カップリング1において、ワッシャ89に、側壁77の内周側の通路85をクラッチ・ハウジング59内に連通させる切欠部103をことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トルク伝達カップリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のトルク伝達カップリングとしては、例えば特許文献1に示すようなものがある。このトルク伝達カップリングでは、クラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブの軸方向間にワッシャが介設されている。従って、ワッシャによりクラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブ間の直接的な摺動摩擦を規制し、クラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブの耐久性を維持させることができる。
【0003】
しかし、クラッチ・ハウジング内からワッシャ周辺を通りクラッチ・ハウジング外へ潤滑オイルを流出させ、或いは流入させる通路を確保するために、ワッシャ外周とクラッチ・ハウジングとの間に空間を確保する必要があり、ワッシャがクラッチ・ハウジングに対して相対回転する構造となっていた。
【0004】
このため、スチール製のワッシャに対してクラッチ・ハウジングの材質選択の自由度が制約されるという問題を招いていた。
【0005】
【特許文献1】特開平6−72179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、クラッチ・ハウジング側の材質選択の自由度が制約される点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、クラッチ・ハウジング側の材質選択の自由度を拡げることを可能とするため、相対回転可能に支持されたクラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブと、前記クラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブに回転方向に係合し締結制御によりトルク伝達制御を可能とする多板クラッチと、前記クラッチ・ハウジングの側壁に回転方向に係合すると共に該側壁及び前記クラッチ・ハブの軸方向間に配置されたワッシャとを備え、前記クラッチ・ハウジング内に導入された潤滑剤を前記側壁の内周側の通路を介してクラッチ・ハウジング外へ流通させるトルク伝達カップリングにおいて、前記ワッシャに、前記側壁の内周側の通路を前記クラッチ・ハウジング内に連通させる切欠部を備えたことを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、相対回転可能に支持されたクラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブと、前記クラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブに回転方向に係合し締結制御によりトルク伝達制御を可能とする多板クラッチと、前記クラッチ・ハウジングの側壁に回転方向に係合すると共に該側壁及び前記クラッチ・ハブの軸方向間に配置されたワッシャとを備え、前記クラッチ・ハウジング内に導入された潤滑剤を前記側壁の内周側の通路を介してクラッチ・ハウジング外へ流通させるトルク伝達カップリングにおいて、前記ワッシャに、前記側壁の内周側の通路を前記クラッチ・ハウジング内に連通させる切欠部を備えたため、クラッチ・ハウジング内から切欠部を介し通路へ潤滑剤を流通させることができながら、ワッシャをクラッチ・ハウジングの側壁に回転方向に係合させると共に該側壁及び前記クラッチ・ハブの軸方向間に配置することができる。従って、ワッシャとクラッチ・ハウジング間に相対回転はなく、ワッシャとクラッチ・ハブ間で摺動させることができ、クラッチ・ハウジング側の材質選択の自由度を拡げることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
クラッチ・ハウジング側の材質選択の自由度を拡げることを可能にするという目的を、ワッシャに切欠部を設けて実現した。
【実施例1】
【0010】
[四輪駆動車]
図1は、本発明の実施例1を適用した四輪駆動車のスケルトン平面図である。本発明の実施例1に係るトルク伝達カップリング1は、例えば動力伝達装置3に適用されている。動力伝達装置3には、エンジン5からトランスミッション7を介して駆動トルクの伝達が行われるようになっている。
【0011】
動力伝達装置3のケース9には、第1,第2伝動軸11,13が支持されている。第1伝動軸11には、トルク伝達カップリング1が配置されている。トルク伝達カップリング1には、スプロケット15が結合されている。スプロケット15には、他方のスプロケット17との間にチェーン18が掛け回されている。スプロケット17は、第2伝動軸13に固定されている。
【0012】
第2伝動軸13には、フロント側のプロペラ・シャフト19が連結され、プロペラ・シャフト19は、フロント・デフ21のドライブ・ピニオン・シャフト23に結合されている。フロント・デフ21は、デフ・キャリヤ25に回転自在に支持されている。フロント・デフ25のリング・ギヤ27は、ドライブ・ピニオン・シャフト23のドライブ・ピニオン・ギヤ29に噛み合っている。
【0013】
フロント・デフ21には、左右のアクスル・シャフト31,33を介して左右の前輪35,37が連動連結されている。
【0014】
第1伝動軸11には、リヤ側のプロペラ・シャフト39が連結され、プロペラ・シャフト39は、リヤ・デフ41のドライブ・ピニオン・シャフト43に結合されている。リヤ・デフ41は、デフ・キャリヤ45に回転自在に支持されている。リヤ・デフ45のリング・ギヤ47は、ドライブ・ピニオン・シャフト43のドライブ・ピニオン・ギヤ49に噛み合っている。
【0015】
リヤ・デフ41には、左右のアクスル・シャフト51,53を介して左右の後輪55,57が連動連結されている。
【0016】
従って、エンジン5から出力された駆動トルクは、トランスミッション7から動力伝達装置3の第1伝動軸11へ伝達される。第1伝動軸11からは、リヤ側のプロペラ・シャフト39へ直結でトルク伝達が行われる。一方、動力伝達装置3のトルク伝達カップリング1が接続状態であるときは、トランスミッション7からの駆動トルクが、トルク伝達カップリング1、スプロケット15、チェーン18、スプロケット17、第2伝動軸13を介してフロント側のプロペラ・シャフト19へもトルク伝達が行われる。
【0017】
リヤ側のプロペラ・シャフト39からは、リヤ・デフ41へトルク伝達が行われ、リヤ・デフ41から左右のアクスル・シャフト51,53を介して左右の後輪55,57へトルクが伝達される。
【0018】
フロント側のプロペラ・シャフト19からは、フロント・デフ21へトルク伝達が行われ、フロント・デフ21から左右のアクスル・シャフト31,33を介して左右の後輪35,37へトルクが伝達される。
【0019】
従って、トルク伝達カップリング1が接続状態であるときは、その締結制御状態に応じ、左右の前輪35,37及び後輪55,57によって、4輪駆動状態で走行することができる。
【0020】
トルク伝達カップリング1が切断状態であるとき、トランスミッション7から第1伝動軸11を介し、リヤ側のプロペラ・シャフト39側へのみトルク伝達が行われ、後輪55,57による2輪駆動状態で走行することができる。
【0021】
[トルク伝達カップリング]
図2,図3は、本発明の実施例1のトルク伝達カップリングに係り、図2は、図3のII−II線矢視断面図、図3は、図2のIII−III線矢視断面図である。
【0022】
トルク伝達カップリング1は、クラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61を備えている。クラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61間には、多板クラッチであるメイン・クラッチ63を備えている。トルク伝達カップリング1は、さらにパイロット・クラッチ65、推力変換機構67、アーマチャ69、ロータ71、電磁石73を備えている。
【0023】
クラッチ・ハウジング59は、円筒部75の一端側に側壁77が組み付けられ、他端側にロータ71がフローフォーミングにより一体的に取り付けられている。
【0024】
円筒部75には、メイン・クラッチ63及びパイロット・クラッチ65係合用のインナー・スプライン79が設けられている。
【0025】
側壁77は、アルミ合金等の軽金属で形成され、円筒部75のインナー・スプライン79にスプライン係合している。側壁77は、円筒部75の一端部内周に取り付けられたスナップ・リング81により位置決められている。
【0026】
側壁77の内周には、インナー・スプライン83が形成され、出力用のトルク伝達部材である前記スプロケット15がスプライン係合している。本実施例において、このスプライン係合の部分でクラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61間に導入された潤滑剤である潤滑オイルをクラッチ・ハウジング59外へ流通させる側壁77の内周側の通路85を構成している。スプロケット15は、第1伝動軸11にニードル・ベアリング87を介して相対回転可能に嵌合している。
【0027】
側壁77及びクラッチ・ハブ61間には、ワッシャ89が介設されている。ワッシャ89とクラッチ・ハブ61とは、スチールで形成されている。
【0028】
側壁77には、ワッシャ89の外周面91を嵌合させてセンタリングする内周面93及び該内周面93の一部にワッシャ89回り止め用の凹部95が設けられている。側壁77の内周側端面に、段付き部97が形成され、側壁77の凹部95は、段付き部97に形成した軸方向の穴部99により形成されている。
【0029】
図4は、穴部周辺の拡大断面図であり、図2〜図4のように、穴部99は、側壁77のインナー・スプライン83には至らず、インナー・スプライン83の強度を維持することができる。
【0030】
図2,図3のようにワッシャ89は、前記凹部95に係合する凸部101を有し、側壁77に回転方向に係合している。このワッシャ89は、径方向の切欠部103を対称的に一対備えている。図5は、切欠部周辺の拡大断面図である。図2,図3,図5のように、切欠部103は、通路85をクラッチ・ハウジング59内に連通させるものであり、本実施例では通路85の一部を構成するインナー・スプライン83端部を前記クラッチ・ハウジング59内に連通させている。
【0031】
図2,図3のようにクラッチ・ハブ61は、第1伝動軸11にスプライン嵌合し、Cクリップ105により位置決められている。クラッチ・ハブ61の外周には、スプライン62が形成されている。クラッチ・ハブ61の内周には、環状凹部107が形成され、環状凹部107から径方向に貫通するハブ側油孔109がクラッチ・ハウジング59内に開口している。
【0032】
第1伝動軸11には、環状凹部107に開口した径方向の第1軸側油孔111と後述するボール・カム内径側に開口した径方向の第2軸側油孔112とが設けられている。第1軸側油孔111は、環状凹部107を介してハブ側油孔109にストレートに対向し、潤滑オイルが、径方向へストレートに移動できるようになっている。第1,第2軸側油孔111,112は、第1伝動軸11の軸心部に形成された軸孔113に連通している。軸孔113は、動力伝達装置3のケース9内に開放されている。ケース9内には、潤滑オイルが収容されている。
【0033】
ロータ71には、非磁性部115が設けられている。ロータ71の内周は、ブッシュ117により第1伝動軸11に相対回転自在に支持されている。ブッシュ117は、電磁石73が発生する磁力線をロータ71から第1伝動軸11に漏洩するのを防止できるように非磁性材である青銅や樹脂などで形成されている。
【0034】
メイン・クラッチ63は、クラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61に回転方向に係合し締結制御によりトルク伝達制御を可能とする。メイン・クラッチ63は、複数枚のインナー・プレート119及びアウター・プレート121を備え、両プレート119,121が交互に配置されている。インナー・プレート119には、孔122が設けられ、潤滑オイルの通路が形成されている。インナー・プレート119は、クラッチ・ハブ61のスプライン62にスプライン係合している。アウター・プレート121は、前記円筒部75のインナー・スプライン79にスプライン係合している。メイン・クラッチ63に対応して円筒部75には、径方向の油孔123が軸方向及び周方向所定間隔で複数設けられている。
【0035】
パイロット・クラッチ65は、メイン・クラッチ63を締結する起因となり電磁石73の通電制御により締結される。パイロット・クラッチ65は、インナー・プレートがカム・プレート125の外周にスプライン係合し、アウター・プレートが、クラッチ・ハウジング59のインナー・スプライン79にスプライン係合している。パイロット・クラッチ65に対応して円筒部75には、径方向の油孔126が周方向所定間隔で複数設けられている。
【0036】
電磁石73は、コア127にコイル128を支持している。コア127は、シール・ベアリング129を介してロータ71に相対回転自在に支持されている。コア127は、例えばケース9側に回転不能に係合している。なお、電磁石73は、車体側の電源及びコントローラに対してハーネス131を介し電気的に接続されている。
【0037】
アーマチャ69は、パイロット・クラッチ65に隣接して配置されている。アーマチャ69は、電磁石73に対してロータ71及びパイロット・クラッチ65を挟むように配置されている。アーマチャ69は、電磁石73の磁力によって引き付けられ、パイロット・クラッチ65を締結するようにロータ71側へ移動可能である。
【0038】
推力変換機構67は、カム・プレート125及び押圧プレート133と、カム・プレート125及び押圧プレート133間のボール・カム135とを含んでいる。
【0039】
カム・プレート125の背面側は、スラスト・ベアリング137を介して前記ロータ71側に当接する構成となっている。カム・プレート125及び押圧プレート133のカム面間には、カム・ボール139が介設されている。押圧プレート133は、前記クラッチ・ハブ61のスプライン62にスプライン係合している。押圧プレート133には、貯留凹部141が形成され、インナー・プレート119との間にオイル溜まりを形成する。貯留凹部141の外周側には、傾斜面143が形成されている。傾斜面143は、潤滑オイルを外周側へガイドする。押圧プレート133とクラッチ・ハブ61との間には、リターン・スプリング145が介設されている。
【0040】
[トルク伝達]
電磁石73への通電制御によって、ロータ71、コア127、アーマチャ69間に磁路が形成される。この磁路の形成によって、アーマチャ69がロータ71側へ引き付けられ、パイロット・クラッチ65が締結される。この締結によって、カム・プレート125がクラッチ・ハウジング59側に回転方向に係合する。一方、クラッチ・ハブ61側にスプライン係合する押圧プレート133は、カム・プレート125に対して回転変位し、カム・ボール139がカム面に乗り上げる。このカム・ボール139の乗り上げによりボール・カム135が働く。
【0041】
ボール・カム135の働きでスラスト・ベアリング137を介して、ロータ71側へ力が伝達され、その反力として押圧プレート133に推力が作用する。この推力の作用によって、押圧プレート133が移動し、メイン・クラッチ63が締結される。メイン・クラッチ63は、締結力に応じ、クラッチ・ハブ61からクラッチ・ハウジング59へトルク伝達を行う。
【0042】
従って、エンジン5からのトルクを前輪35,37側へメイン・クラッチ63の締結力に応じて伝達することができ、前記のように4輪駆動状態にすることができる。
【0043】
電磁石73への通電制御が解除されると、パイロット・クラッチ65が滑り、ボール・カム135が働かなくなる。このため、押圧プレート133の押圧移動もなくなり、メイン・クラッチ63の締結が解除される。この解除によりメイン・クラッチ63はフリー状態となり、前記のように2輪駆動状態にすることができる。
【0044】
メイン・クラッチ63の締結が行われないときなど、クラッチ・ハウジング59とクラッチ・ハブ61とは相対回転する。このとき、ワッシャ89は、クラッチ・ハウジング59側の凹部95に凸部101が係合しているため、クラッチ・ハウジング59の側壁77と共に回転し、クラッチ・ハブ61に対して相対回転する。従って、相対回転の箇所は、ワッシャ89及びクラッチ・ハブ61間であり、アルミ合金などで形成された側壁77の摩耗を規制することができる。
【0045】
[潤滑]
トルク伝達カップリング1が回転すると、軸孔113内の潤滑オイルが遠心力の作用により第1軸側油孔111、環状凹部107、ハブ側油孔109を経てクラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61間内へ流入し、第2軸側油孔112を経てボール・カム135内周側へ流入する。
【0046】
クラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61間内では、メイン・クラッチ63の孔122を通り軸方向及び径方向に分散流通する。分散流通した潤滑オイルは、側壁77側においてワッシャ89の切欠部103からインナー・スプライン83端部に至り、側壁77とスプロケット15とのスプライン係合の隙間を経てケース9内へ戻る。
【0047】
ボール・カム135側では、潤滑剤がボール・カム135、パイロット・クラッチ65を通り、クラッチ・ハウジング59の外周側へ移動する。
【0048】
クラッチ・ハウジング59の外周側へ移動した潤滑オイルは、油孔123,126からケース9内へ戻る。
【0049】
こうして、メイン・クラッチ63、押圧プレート133、ボール・カム135、パイロット・クラッチ65等を十分に潤滑することができる。
【0050】
トルク伝達カップリング1の回転が停止しているときは、潤滑オイルが貯留凹部141に貯留される。潤滑オイルは、クラッチ・ハウジング59内のその他の空間にも貯留される。
【0051】
トルク伝達カップリング1が回転し始めると遠心力を受けた貯留凹部141内の潤滑オイルが傾斜面143のガイドにより外周側へ無理なく移動する。その他の空間に貯留された潤滑オイルも遠心力で移動し始める。従って、トルク伝達カップリング1の回転当初から円滑な潤滑を行わせることができる。
【0052】
[実施例の効果]
本発明実施例のトルク伝達カップリング1では、相対回転可能に支持されたクラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61と、前記クラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61に回転方向に係合し締結制御によりトルク伝達制御を可能とするメイン・クラッチ63と、前記クラッチ・ハウジング59の側壁77に回転方向に係合すると共に該側壁77及び前記クラッチ・ハブ61の軸方向間に配置されたワッシャ89とを備え、前記クラッチ・ハウジング59及びクラッチ・ハブ61間に導入された潤滑剤を前記側壁77の内周側の通路85を介してクラッチ・ハウジング59外へ流通させるトルク伝達カップリング1において、前記ワッシャ89に、前記側壁77の内周側の通路85を前記クラッチ・ハウジング59内に連通させる切欠部103を備えたため、クラッチ・ハウジング59内から切欠部103を介し通路85へ潤滑オイルを流通させることができながら、ワッシャ89をクラッチ・ハウジング59の側壁77に回転方向に係合させると共に該側壁77及び前記クラッチ・ハブ61の軸方向間に配置することができる。従って、ワッシャ89とクラッチ・ハウジング59間に相対回転はなく、ワッシャ89とクラッチ・ハブ61との間で摺動させることができ、クラッチ・ハウジング59の材質選択の自由度を拡げることができる。このため、側壁77をアルミ合金などの軽金属で形成することができ、全体として軽量化を図ることができる。
【0053】
クラッチ・ハウジング59の側壁77内周にスプライン係合する出力用のスプロケット15を備え、前記切欠部103は、前記スプライン係合のインナー・スプライン79端部を前記クラッチ・ハウジング59内に連通させるため、潤滑オイルをクラッチ・ハウジング59内から通路85を介してクラッチ・ハウジング59外へ確実に流出させることができる。
【0054】
側壁77に、前記ワッシャ89の外周面を嵌合させてセンタリングすると共にワッシャ89回り止め用の凹部95を備えた内周面93を設け、前記ワッシャ89に、前記凹部95に係合する凸部101を設けたため、ワッシャ89と側壁77との相対回転を確実に規制することができる。
【0055】
側壁77の内周側端面に、段付き部97を形成し、前記側壁77の凹部95を、前記段付き部97に形成した軸方向の穴部99により形成したため、穴部99を、側壁77のインナー・スプライン83を避けて形成することができ、インナー・スプライン83の強度を維持することができる。
[その他]
トルク伝達カップリング1は、センターの動力伝達装置3の第1伝動軸11に配置するものに限らず、フロント側又はリヤ側のドライブ・ピニオン・シャフト23,43に配置
するもの等にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】四輪駆動車のスケルトン平面図である(実施例1)。
【図2】トルク伝達カップリングに係り図3のII−II線矢視拡大断面図である(実施例1)。
【図3】トルク伝達カップリングに係り図2のIII−III線矢視拡大断面図である(実施例1)。
【図4】穴部周辺の拡大断面図である(実施例1)。
【図5】切欠部周辺の拡大断面図である(実施例1)。
【符号の説明】
【0057】
1 トルク伝達カップリング
59 クラッチ・ハウジング
61 クラッチ・ハブ
63 メイン・クラッチ
77 側壁
85 通路
89 ワッシャ
103 切欠部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対回転可能に支持されたクラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブと、
前記クラッチ・ハウジング及びクラッチ・ハブに回転方向に係合し締結制御によりトルク伝達制御を可能とする多板クラッチと、
前記クラッチ・ハウジングの側壁に回転方向に係合すると共に該側壁及び前記クラッチ・ハブの軸方向間に配置されたワッシャとを備え、
前記クラッチ・ハウジング内に導入された潤滑剤を前記側壁の内周側の通路を介してクラッチ・ハウジング外へ流通させるトルク伝達カップリングにおいて、
前記ワッシャに、前記側壁の内周側の通路を前記クラッチ・ハウジング内に連通させる切欠部を備えた
ことを特徴とするトルク伝達カップリング。
【請求項2】
請求項1記載のトルク伝達カップリングであって、
前記クラッチ・ハウジングの側壁内周にスプライン係合する入力又は出力用のトルク伝達部材を備え、
前記切欠部は、前記スプライン係合のインナー・スプライン端部を前記クラッチ・ハウジング内に連通させる
ことを特徴とするトルク伝達カップリング。
【請求項3】
請求項1又は2記載のトルク伝達カップリングであって、
前記側壁に、前記ワッシャの外周面を嵌合させてセンタリングすると共にワッシャ回り止め用の凹部を備えた内周面を設け、
前記ワッシャに、前記凹部に係合する凸部を設けた
ことを特徴とするトルク伝達カップリング。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載のトルク伝達カップリングであって、
前記側壁の内周側端面に、段付き部を形成し、
前記側壁の凹部を、前記段付き部に形成した軸方向の穴部により形成した
ことを特徴とするトルク伝達カップリング。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載のトルク伝達カップリングであって、
前記多板クラッチに推力変換機構を働かせて押圧力を付与するパイロット・クラッチと、
前記パイロット・クラッチの一側に対向配置されたロータ及び同他側に対向配置されたアーマチャと、
前記ロータとパイロット・クラッチとアーマチャとを通じて磁路を形成し前記アーマチャを前記パイロット・クラッチの他方側に押し付けて前記推力変換機構を働かせる電磁石と
を備えたことを特徴とするトルク伝達カップリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−51156(P2008−51156A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225814(P2006−225814)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000225050)GKN ドライブライン トルクテクノロジー株式会社 (409)
【Fターム(参考)】