説明

ドクターブレード

本発明は、長手方向に作業エッジ領域(130、230、…、730)が形成された平坦な細長い本体(110、210、…、710)を備えた、特に印刷版の表面から印刷インキを掻き取るためのドクターブレード(100、200、…、700)であって、作業エッジ領域(130、230、…、730)が、少なくともニッケル-リン合金を基材とする第1の被膜(150、250、…、750)により被覆されたドクターブレードに関し、第1の被膜(150、250、…、750)が、ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための少なくとも1つの添加成分(160、360、460、660、760、761)を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に印刷版の表面から印刷インキを掻き取るためのドクターブレードであって、長手方向に形成された作業エッジ(working edge)領域を有する平坦な細長いベース要素を備え、作業エッジ領域がニッケル-リン合金を基材とした少なくとも第1の被膜により被覆されたドクターブレードに関する。本発明はさらに、ドクターブレードを製造するためのプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷業界において、ドクターブレードは、特に印刷シリンダまたは印刷ローラの表面から余分な印刷インキを掻き取るために使用される。特にグラビア印刷およびフレキソ印刷の場合、ドクターブレードの品質が、印刷結果に重大な影響を及ぼす。印刷シリンダに接触しているドクターブレードの作業エッジに凹凸または不規則形状がある場合、例えば、印刷シリンダのリッジからの印刷インキの掻取りが不完全になる。これにより、印刷キャリア上へ印刷インキが制御されずに放出される結果となり得る。
【0003】
掻落とし中に、ドクターブレードの作業エッジが印刷シリンダまたは印刷ローラの表面に押し付けられて、この表面に対して移動する。このため、特に輪転印刷機の場合には、作業エッジは、高い機械応力を受けることにより、それ相応に摩耗する。したがって、ドクターブレードは、基本的に消耗品であり、定期的に交換が必要である。
【0004】
通常、ドクターブレードは、特別な形状の作業エッジを有する鋼製のベース要素を基にしている。ドクターブレードの耐用寿命を長くするために、ドクターブレードの作業エッジに金属および/またはプラスチックの被膜または表面材を追加で設けることができる。金属被膜はニッケルまたはクロムを含むことが多く、これらは任意選択として、他の原子および/または化合物と混合または合金化されている。材料の点で、被膜の特性は、特に、ドクターブレードの機械的特性およびトライボロジー特性に重大な影響を及ぼす。
【0005】
国際公開第2003/064157号(日本ニュークローム(株))は、例えば、粒子が中に分散された化学ニッケルからなる第1の層と、表面エネルギーの低い第2の層とを有する、印刷技術用のドクターブレードについて記載している。第2の層は、好ましくは、フッ素ベース樹脂の粒子または純有機樹脂を含む化学ニッケルからなる被膜を含む。
【0006】
しかし、このように被覆されたドクターブレードは、耐用寿命および耐摩耗性について、依然として十分に満足のいくものではない。加えて、このようなドクターブレードを使用した場合に、特にならし運転段階において縞を制御できないことがあり得ることがわかっており、これもまた同様に望ましいものではない。
【0007】
したがって、特に、より長い耐用寿命を有し、かつ最適な掻落としが可能な、改良されたドクターブレードが、依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2003/064157号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、耐摩耗性が向上し、その耐用寿命の間中にわたって特に印刷インキの正確な掻落としが可能な、冒頭に述べた技術分野で使用されるタイプのドクターブレードを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本目的は、請求項1の特徴により達成される。本発明によれば、第1の被膜は、ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための少なくとも1つの添加成分を含む。
【0011】
本発明の目的で、ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための添加成分は、特に、第1の被膜に分散された粒子および/または混入された化学物質である。
【0012】
分散粒子状の添加成分の場合、第1の被膜は、特に、母材としてのニッケル-リン合金中に粒子が分散された不均質構造を有する。このような被膜は、混合物として説明することもできる。粒子は、第1の被膜中に基本的に均一に分散されていることが有利である。分散粒子は、特に、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物、セラミック、および/または金属間層とすることができる。粒子に適切な材料は、とりわけ、Al、Cu、Pb、W、Ti、Zr、ZnCu、Mo、鋼、WSi2、Al2O3、Cr2O3、Fe2O3、TiO2、ZrO2、ThO2、SiO2、CeO2、BeO2、MgO、CdO、UO2、SiC、TiC、WC、VC、ZrC、TaC、Cr3C2、B4C、BN、ZrB2、TiN、Si3N4、ZrB2および/またはTiB2からなる群から選択された1または複数とすることができる。しかし、他の、例えば完全に非金属の粒子および/または有機金属粒子も、ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための添加成分として可能である。完全に非金属の粒子は、例えば、ダイヤモンドの形で存在し得る。
【0013】
この文脈において、粒径は、特に、粒子の最大寸法および/または外形寸法である。粒径に関して、粒子は、一般に、ある分布または分散を有する。この文脈で粒径について言及するときは、特に平均粒径を意味する。
【0014】
混入された化学物質状の添加成分は、特に、均質な混合物および/または合金として存在する。混入化学物質は、例えば、金属とすることができる。金属の例として、とりわけ、Al、Cu、Pb、W、Ti、Zrおよび/またはZnがある。しかし、原理上、有機金属および/または非金属成分を第1の被膜に混入することも考えられる。
【0015】
この文脈において、第1の被膜の基材となるニッケル-リン合金は、ニッケルとリンの混合物であり、リン含有率は、特に1〜15重量%である。
【0016】
「ニッケル-リン合金を基材とした」という表現は、ニッケル-リン合金が第1の被膜の主成分を形成することを意味する。ニッケル-リン合金、およびドクターブレードの摩耗挙動を改善するための添加成分に加えて、好ましくは、第1の被膜中に、他のタイプの原子および/または化合物をニッケル-リン合金よりも少ない割合で良好に存在させることができる。第1の被膜中のニッケル-リン合金の割合は、好ましくは、少なくとも50重量%、特に好ましくは、少なくとも70重量%、非常に特に好ましくは、少なくとも80重量%である。第1の被膜が、不可避の不純物を除いて、ニッケル-リン合金、およびドクターブレードの摩耗挙動を改善するための1または複数の添加成分のみから構成されることが理想的である。
【0017】
本発明のドクターブレードは、高い耐摩耗性を有し、したがって長い耐用寿命を有することがわかっている。さらに、本発明のドクターブレードの作業エッジは、最適に安定化される。これにより、ドクターブレードと印刷シリンダまたは印刷ローラとの間の接触区域が明確に画定されるため、非常に正確に印刷インキを掻き落とすことができるようになる。接触区域は、印刷プロセスの間中にわたって、おおむね安定した状態に留まる。
【0018】
加えて、印刷プロセスのならし運転段階の際に、本発明のドクターブレードは、ほとんど縞を形成せず、または印刷プロセスを悪化させる他の影響も生じないことがわかっている。したがって、本発明のドクターブレードにより、印刷プロセス全体にわたって実質的に一定の印刷品質を達成することが可能となる。
【0019】
さらに、本発明のドクターブレードは、通常使用される印刷シリンダまたは印刷ローラ上で非常に有利な摺動特性を有する。これによっても、本発明のドクターブレードを掻落としに使用するときに、印刷シリンダまたは印刷ローラ上の摩耗が低減される。
【0020】
本発明の好ましい変形形態では、第1の被膜が、無電解法により堆積されたニッケル-リン合金である。無電解法により堆積されたニッケル-リン合金は、電力または外部電流を加えることなく堆積されており、化学的にニッケルと呼ぶこともできる。このようなニッケル-リン合金は、ドクターブレードの作業エッジに対して、またはドクターブレードのベース要素に対して、特に高い輪郭精度および非常に均一な層厚さ分布を有して形成することができる。このようにして、第1の被膜は、ドクターブレードの作業エッジまたはベース要素の外形を最適になぞることができ、これはドクターブレードの品質に決定的に寄与する。また、無電解法により堆積されたニッケル-リン合金は、微細構造および弾性に関して、電気化学的に堆積されたニッケル-リン合金とは異なる。無電解法により堆積されたニッケル-リン合金は、プラスチックからなるベース要素と、金属、例えば鋼からなるベース要素との両方に適合し、特に異なるベース要素に良好に接着する。
【0021】
しかし、適用によっては、第1の被膜を電気化学的に堆積されたニッケル-リン合金とすることが有利なこともあり得る。この場合、第1の被膜は、電解質槽からドクターブレードの作業エッジおよび/またはベース要素に、電流により電気化学的に堆積される。電気化学的に堆積された層の場合、層厚さを、特に非常に正確に制御することができ、これは薄層の場合には特に有利である。
【0022】
第1の被膜のリン含有率は、好ましくは7〜12重量%である。このような被膜は、摩耗挙動を改善するための添加成分と組み合わせると特に有用であることがわかっている。このようにすることにより、特に、ドクターブレードの耐用寿命の間中、さらに高い耐摩耗性が得られるからである。加えて、7〜12重量%のリン含有率により、第1の被膜のニッケル-リン合金の耐腐食性、開始抵抗(startup resistance)、および不活性が高まる。7〜12重量%のリン含有率は、同様に、ドクターブレードの摺動特性および作業エッジの安定性に対して良好な効果をもたらし、これにより、印刷インキの特に正確な拭落としまたは掻落としが可能になる。さらに、7〜12重量%のリン含有率で、ドクターブレードに通常使用されるベース要素、例えば鋼および/またはプラスチックに対して非常に良好な接着性が達成される。
【0023】
しかし、原理上、リン含有率は7重量%未満または12重量%超とすることもできる。しかし、結果として、前述した良好な効果は低下し得る。一方、このようなリン含有率により、特定の添加成分および/または被膜の実施形態の場合に利点をもたらすこともできる。
【0024】
有利には、第1の被膜は、750〜1400HVの硬度を有する。これにより、ドクターブレードの耐摩耗性が特に向上する。750HV未満の硬度も可能であるが、ドクターブレードの耐摩耗性は低下する。1400HV超の硬度の場合には、印刷シリンダまたは印刷ローラが損傷する場合があり、その結果、印刷品質が低下する。
【0025】
有利には、第1の被膜の層厚さは1〜30μmである。第1の被膜の厚さは、より好ましくは5〜20μm、特に好ましくは5〜10μmである。このような第1の被膜の厚さにより、ドクターブレードの作業エッジが最適に保護される。加えて、このような寸法を有する第1の被膜は、固有の安定性が高く、例えば印刷シリンダから印刷インキを掻き落とす際に、第1の被膜の部分的または完全な剥離を効果的に低減する。
【0026】
1μm未満の厚さが可能であるが、この場合、作業エッジまたはドクターブレードの耐摩耗性は、急速に低下する。30μm超の厚さも可能である。しかし、これは、一般に経済的ではなく、作業エッジの品質に悪影響を及ぼすことがあり得る。しかし、1μm未満または30μm超の厚さは、ドクターブレードの使用の特定の分野については有利になり得る。
【0027】
さらなる有利な変形形態では、ニッケルを基材とした第2の被膜が、第1の被膜上に配置される。ニッケルを基材とした第2の被膜は、特に、第1の被膜の保護層としての機能を果たすことができ、結果として、ドクターブレードの作業エッジの耐摩耗性および安定性がさらに高まる。加えて、第2の被膜は、さらなる添加剤のための安定した母材として機能し、本発明のドクターブレードによる掻落としに有効な効果を与えることができる。
【0028】
「ニッケルを基材とした」という表現は、ニッケルが第2の被膜の主成分を形成することを意味する。第2の被膜中に、ニッケルに加えて、他のタイプの原子および/または化合物をニッケルよりも少ない割合で完全に良好に存在させることができる。第2の被膜中のニッケルの割合は、好ましくは、少なくとも50重量%、特に好ましくは、少なくとも75重量%、非常に特に好ましくは、少なくとも95重量%である。特に有用な実施形態では、第2の被膜が、不可避の不純物を除いて、ニッケルのみから構成される。
【0029】
しかし、異なる組成を有する第2の被膜、例えば、別の金属を主成分とする第2の被膜も、原理上あり得る。また、第2の被膜を完全に省略することもできる。
【0030】
好ましい変形形態では、第2の被膜が、ニッケルを基材とした、電気化学的に堆積された被膜である。このような被膜は、第1の被膜に対して比較的軟質の保護層を形成する。その結果、ドクターブレードの接触区域における摩擦および摩耗を、多くの適用において低減することができる。摩擦の低減と、関連する掻落とし時の低抵抗とにより、多くの適用において、ドクターブレードの作業エッジの特に高い特に耐摩耗性および安定性が得られる。
【0031】
しかし、他の適用について、無電解法により堆積された被膜を第2の被膜とすることが有利なこともあり得る。
【0032】
さらに、第2の被膜は、好ましくは、さらなるニッケル-リン合金を基材としている。第1の被膜に関連して説明したように、「さらなるニッケル-リン合金を基材とした」という表現は、さらなるニッケル-リン合金が第2の被膜の主成分を形成することを意味する。ここで、第2の被膜中に、さらなるニッケル-リン合金に加えて、他のタイプの原子および/または化合物をさらなるニッケル-リン合金よりも少ない割合で完全に良好に存在させることができる。第2の被膜中のさらなるニッケル-リン合金の割合は、好ましくは、少なくとも50重量%、特に好ましくは、少なくとも70重量%、非常に特に好ましくは、少なくとも80重量%である。第2の被膜が、不可避の不純物を除いて、ニッケル-リン合金、およびドクターブレードの摩耗挙動を改善するための1または複数の添加成分のみから構成されることが理想的である。
【0033】
有利な変形形態では、第2の被膜が、電気化学的に堆積されたニッケル-リン合金を含む。これは、無電解法により堆積されたニッケル-リン合金を基材とした第1の被膜と組み合わせると特に有利である。この場合、作業エッジは、無電解法により堆積されたニッケル-リン合金からなり、ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための少なくとも1つの添加成分を含む第1の被膜と、電気化学的に堆積されたニッケル-リン合金を基材とした第2の被膜との組合せにより、最適に安定化される。これにより、ドクターブレードと印刷シリンダまたは印刷ローラとの間の接触区域が特に明確に画定されるため、非常に正確に印刷インキを掻き落とすことができるようになる。接触区域は、印刷プロセスの間中にわたって、おおむね安定した状態に留まる。
【0034】
第2の被膜のさらなるニッケル-リン合金は、有利な変形形態では、12〜15%のリン含有率を有する。これは、第2の被膜が、不可避の不純物を除いて、さらなるニッケル-リン合金のみから構成され、電気化学的に堆積されるときに特に当てはまる。
【0035】
特に、さらなるニッケル-リン合金を基材とした第2の被膜があり、加えて、ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための少なくとも1つのさらなる添加成分を含むとき、第2の被膜のリン含有率は、有利には、第1の被膜のリン含有率よりも低い。言い換えると、第2の被膜のさらなるニッケル-リン合金のリン含有率は、有利には、第1の被膜のニッケル-リン合金のリン含有率よりも低い。異なるリン含有率を有する被膜の組合せにより、特に、作業エッジの摩耗保護が強化されると同時に、作業エッジがさらに安定する。第2の被膜のさらなるニッケル-リン合金のリン含有率が6〜9重量%であると、ここでは特に有用であることがわかっている。
【0036】
第2の被膜のさらなるニッケル-リン合金のリン含有率は、原理上、6重量%未満または9重量%超とすることもできる。同様に、原理上、第1の被膜および第2の被膜のリン含有率を同程度にすることができ、または第1の被膜のリン含有率よりも第2の被膜のリン含有率を高くすることができる。ドクターブレードの使用目的によっては、これはさらに有利となり得る。
【0037】
特に、第2の被膜の層厚さは、第1の被膜の層厚さよりも小さく、有利には0.5〜3μmである。このような層厚さにより、特に、第2の被膜の高い固有の安定性と同時に、第1の被膜の良好な保護効果が保証され、このことは作業エッジの安定性について全体的に好ましい。
【0038】
しかし、本発明の文脈で、層厚さが0.5μm未満または3μm超の第2の被膜を実現することもできる。原理上、第1の被膜の層厚さと等しいか、またはこれよりも大きい第2の被膜の層厚さを選択することもできる。
【0039】
第2の被膜を設けるか否か、およびどのような組成を第2の被膜が有するかは、基本的にドクターブレードの使用目的によって決まる。ここでは、例えば、印刷シリンダまたは印刷ローラの表面の材料および性質が、重要な役割を果たす。ニッケル-リン合金を含む第2の被膜は、一般に、基本的にリンを含まないニッケルを基材とした被膜と比べて硬度および耐腐食性がいくらか高くなる。
【0040】
2つ以上の被膜を有するドクターブレードの場合、以下の異なる実施形態が特に有利であることがわかっている。
【0041】
本発明の第1の好ましい実施形態では、本発明のドクターブレードが、無電解法により堆積された、硬質材料粒子が中に分散されたニッケル-リン合金を基材とした第1の被膜と、特に電気化学的に堆積されたニッケルを基材とした第2の被膜、または電気化学的に堆積されたニッケル-リン合金を基材とした、第1の被膜に隣接する第2の被膜とを含む。
【0042】
さらなる有利な実施形態では、ドクターブレードが、無電解法により堆積された、第1のタイプの硬質材料粒子が中に分散されたニッケル-リン合金を基材とした第1の被膜と、無電解法により堆積された、第2のタイプの硬質材料粒子が中に分散されたニッケル-リン合金を基材とした、第1の被膜に隣接する第2の被膜とを有する。2つのタイプの硬質材料粒子は、特に、材料組成および/または粒径に関して異なる。
【0043】
加えて、ドクターブレードが、無電解法により堆積された、硬質材料粒子が中に分散されたニッケル-リン合金を基材とした第1の被膜と、無電解法により堆積された、潤滑粒子、特に六方晶BNの粒子を含むニッケル-リン合金を基材とした、第1の被膜に隣接する第2の被膜とを含む実施形態が、特に有用であることがわかっている。ここでは、2つ以上のタイプの異なる硬質材料粒子が、第1の被膜中に存在していてもよい。
【0044】
任意選択として、このような実施形態におけるドクターブレードの耐摩耗性を、合金成分、例えば、W等の金属を第1の被膜および/または第2の被膜に混入させることにより、さらに向上させることができる。
【0045】
添加成分が潤滑剤、特に潤滑粒子を含む場合、潤滑剤は、好ましくは、最も外側の被膜中に配置される。このようにして、特に、本発明のドクターブレードに対して、初めから一定の摩耗改善が達成される。
【0046】
他の好ましい実施形態では、第2の被膜が、第1の被膜に隣接した、純ニッケルからなる下塗層と、その上に配置された、ニッケルおよび/またはニッケル-リン合金からなるカバー層とを含む。純ニッケルの下塗層は、好ましくは、不可避の不純物を除いて、ニッケルのみから構成される。下塗層の厚さは、好ましくは、0.2〜0.8μm、特に0.4〜0.6μmである。特に、カバー層も純ニッケルから構成されている場合、カバー層が、サッカリンおよび/またはサッカリン塩を追加で含むことが有利である。
【0047】
このようにして構成された第2の層は、第1に、第1の被膜と、おそらくはさらにベース要素とに対する良好な接着性を有する。加えて、第2の被膜は、サッカリンおよび/またはサッカリン塩を含むカバー層の場合、表面粗さの低い非常に均一な表面を有し、これにより、ドクターブレードと印刷シリンダまたは印刷ローラとの間の明確に画定された接触区域の形成を助ける。
【0048】
しかし、原理上、第2の被膜について下塗層およびカバー層の形成を省略して、単一の基本的に均質な層のみを設けることもできる。
【0049】
好ましい添加成分に関するさらなる詳細について以下に述べる。
【0050】
少なくとも1つの添加成分は、有利には、硬質材料粒子を含む。好ましい変形形態では、硬質材料粒子が金属粒子を含む。適切な金属粒子は、例えば、W、Ti、Zr、Moおよび/または鋼からなる金属粒子である。金属粒子を単独で使用しても、他の金属粒子、および/またはさらなる添加成分と組み合わせて使用してもよい。
【0051】
金属モリブデンからなる金属粒子が特に適切であることがわかっている。モリブデンの金属粒子が中に分散されたニッケル-リン合金を基材とした第1の被膜および/または第2の被膜を有するドクターブレードは、非常に高い耐摩耗性を有し、したがって長い耐用寿命を有する。このようなドクターブレードの作業エッジは、ドクターブレードと印刷シリンダまたは印刷ローラとの間に明確に画定された接触区域を有し、これにより、印刷インキのより正確な掻落としが可能になる。さらなる好ましい変形形態では、金属粒子が1〜2μmの粒径を有し、第1の被膜中の金属粒子の体積割合が5〜30%、特に好ましくは、15〜20%である。非常に特に好ましい実施形態では、第1の被膜が、不可避の不純物を除いて、ニッケル-リン合金と、中に分散された金属粒子、特にモリブデン粒子とのみから構成される。
【0052】
他の有利な実施形態では、硬質材料粒子が、金属粒子の代わりに、または金属粒子に加えて、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物、セラミックおよび/または金属間層を含む。これらは、例えば、WSi2、Al2O3、Cr2O3、Fe2O3、TiO2、ZrO2、ThO2、SiO2、CeO2、BeO2、MgO、CdO、UO2、SiC、TiC、WC、VC、ZrC、TaC、Cr3C2、B4C、立方晶BN、ZrB2、TiN、Si3N4、ZrB2、TiB2からなる群から選択された1つまたは2つ以上とすることができる。B4C(炭化ホウ素)は、最も厳密な意味では金属炭化物ではないが、この文脈では、金属炭化物と同様の材料特性を有するため、B4Cを金属炭化物に含めることができる。
【0053】
金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物、セラミックおよび/または金属間層が中に分散されたニッケル-リン合金を基材とした第1の被膜および/または第2の被膜を有するドクターブレードは、高い耐摩耗性を有し、したがって長い耐用寿命を有する。このような硬質材料粒子を第1の被膜中に非常に安定した状態で埋め込み、第1の被膜のニッケル-リン合金との強く安定した結合を形成することができる。このようにして、第1の被膜の強度を全体的に高めると同時に、このようなドクターブレードの作業エッジが、ドクターブレードと印刷シリンダまたは印刷ローラとの間に明確に画定された接触区域を示すことにより、印刷インキのより正確な掻落としが可能になる。
【0054】
以下の金属炭化物および/または金属窒化物、すなわちB4C、立方晶BN、TiC、WCおよび/またはSiCが特に有用であることがわかっている。金属酸化物の中では、Al2O3が特に有利である。
【0055】
しかし、硬質材料粒子は、必ずしも金属粒子、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物、セラミックおよび/または金属間層の形で存在する必要はない。原理上、他の材料の粒子も硬質材料粒子とすることができる。
【0056】
さらなる有利な変形形態では、硬質材料粒子がダイヤモンドを含む。単結晶および/または多結晶構造のダイヤモンドを使用することが好ましい。ダイヤモンドからなる硬質材料粒子は、本発明のドクターブレードにおいて特に有利であることがわかっており、特に、ドクターブレードの作業エッジの耐摩耗性および安定化がさらに向上する。これは、とりわけ、ダイヤモンドの高い硬度と、化学的安定性および機械的安定性とによるものである。しかし、ダイヤモンドを、グラファイト、ガラス状炭素、グラフェン、またはカーボンブラック等の他の形の炭素と混同してはいけない。このような形の炭素は、本発明による利点を限られた範囲でのみもたらすか、またはまったくもたらすことがない。
【0057】
判明しているように、原理上、単結晶および/または多結晶構造を有するダイヤモンドからなる硬質材料粒子の代わりに、またはこれに加えて、非晶質ダイヤモンド状炭素(DLC)の粒子を使用することもできる。しかし、非晶質ダイヤモンド状炭素は、有利には、十分な硬度が確保されるように、高い割合のsp3混成を有する。ドクターブレードの使用目的によっては、非晶質ダイヤモンド状炭素はさらに利点を有する。一般に、非晶質ダイヤモンド状炭素は、ダイヤモンドよりも安価である。
【0058】
粒径が5nm〜4μm、特に0.9〜2.5μm、特に好ましくは1.4〜2.1μmの硬質材料粒子が特に有用である。本発明のドクターブレードのトライボロジー特性を、このような粒径を使用することでさらに向上させることができる。
【0059】
硬質材料粒子の粒径は、硬質材料粒子の各材料に合わせることが有利である。
【0060】
したがって、金属粒子の形の硬質材料粒子は、特に好ましくは、0.5〜2.5μm、特に1〜2μmの粒径を有する。金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物、セラミックおよび/または金属間層の場合、1.0〜2.5μm、特に1.5〜2.0μmの粒径が、特に有利であることがわかっている。
【0061】
硬質材料粒子としてのダイヤモンド粒子は、有利には、5nm〜1.1μmの粒径を有する。さらに、ダイヤモンド粒子の粒径は、好ましくは300nm未満である。特に、ダイヤモンド粒子の粒径は、100〜200nmである。しかし、このような粒径が必ずしも必要なわけではない。ドクターブレードの特定の実施形態および/または使用の場合、5〜50nmの粒径を有するダイヤモンド粒子も有利であることがわかっている。
【0062】
粒径が5nm未満の硬質材料粒子を使用すると、特に、ドクターブレードの作業エッジの耐摩耗性が、通常低下し、その結果、ドクターブレードの耐用寿命が短くなる。粒径が4μm超の場合、ドクターブレードの表面粗さが高くなる可能性があり、一般に望ましくない。しかし、より大きい粒径が、特に、特定の使用および/またはドクターブレード構造に適切なこともあり得る。
【0063】
摩耗特性を向上させるための添加成分の体積割合は、特に粒子状添加成分の場合、好ましくは5〜30%、特に好ましくは15〜20%である。作業エッジの摩耗特性および安定性に関する重要な改良が、このような割合により達成される。
【0064】
同様に体積割合を低くすることができるが、一般に、耐摩耗性が十分に向上しない。添加成分の体積割合が高すぎると、同様に、ドクターブレードの特性に悪影響を及ぼす。しかし、特定の適用については、30%超の体積割合が適したものとなり得る。
【0065】
さらなる有利な変形形態では、硬質材料粒子が、少なくとも2つの異なる材料からなる異なる粒子を含む。判明しているように、これにより、ドクターブレードの耐摩耗性および品質を予想以上に向上させるように相乗効果が生じ得る。さらに、硬質材料粒子が少なくとも2つの異なる粒径を有する異なる粒子を含むことが有利となり得る。
【0066】
硬質材料粒子は、特に好ましくは、SiCとダイヤモンドとの両方を含み、SiCの粒径が、より好ましくはダイヤモンドの粒径よりも大きい。特に、硬質材料粒子は、粒径が1.4〜2.1μmのSiCと、粒径が5nm〜1.1μm、好ましくは200〜300nmのダイヤモンドとを含む。
【0067】
しかし、例えば、ダイヤモンドの粒径が、SiCの粒径以上となるように、SiCおよびダイヤモンドの粒径を異なるように選択することもできる。加えて、硬質材料粒子の他の組合せも可能であり、2つ以上、例えば、3つ、4つ以上の異なる硬質材料粒子を互いに組み合わせることもできる。
【0068】
本発明の別の好ましい変形形態では、硬質材料粒子が、例えば、SiCと立方晶BNとの両方を含み、BNの粒径が、好ましくはSiCの粒径にほぼ対応する。SiCおよび立方晶BNの粒径は、特に好ましくは約1.4〜2.1μmである。
【0069】
さらに、耐摩耗性を向上させるための添加成分が潤滑剤、特に潤滑粒子を含むことが有利であることがわかっている。このようにして、掻落とし中の、潤滑効果がさらに達成されて、摩耗を低減する。考えられる潤滑剤または潤滑粒子は、原理上、ドクターブレードと印刷シリンダとの間の摺動摩擦を低減する物質であり、特に、印刷シリンダの損傷または汚染が起こらないよう十分に安定した物質である。
【0070】
考えられるものとして、例えば、高分子熱可塑性物質、例えば、ペルフルオロアルコキシアルカン、および/またはポリテトラフルオロエチレン、さらにグラファイト、モリブデンジスルフィド、ならびに/またはアルミニウム、銅、および/または鉛等の軟金属がある。
【0071】
六方晶BNは、特に粒子状で使用する際に、潤滑剤として特に有利であることがわかっている。判明しているように、潤滑剤、特に六方晶BNの潤滑粒子により、ドクターブレードの耐摩耗性を、異なる印刷シリンダを使用する多くの適用において向上させることができる。これは、特に、掻落とし中のプロセスパラメータからはおおむね独立している。言い換えると、六方晶BNは、非常に用途が広く有効な潤滑剤であることがわかっている。
【0072】
同様に適切な潤滑剤は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。ポリテトラフルオロエチレンは、好ましくは、潤滑粒子の形で使用される。
【0073】
潤滑粒子、特に六方晶BNの潤滑粒子は、有利には、50nm〜1μm、好ましくは80〜300nm、より好ましくは90〜110μmの粒径を有する。これにより、多くの適用について最適な効果が得られる。しかし、原理上、他の粒径も、特定の適用については適したものとなり得る。
【0074】
特に好ましい実施形態では、潤滑剤、特に潤滑粒子と、硬質材料粒子との両方が、耐摩耗性を向上させるための添加剤として、第1の被膜および/または第2の被膜中に存在する。六方晶BNからなる潤滑粒子は、この場合、SiCからなる硬質材料粒子とともに使用されることが理想的である。
【0075】
本発明のさらなる好ましい実施形態では、添加成分が、第1の被膜および/または第2の被膜中に追加の合金成分を含む。このようにして、第1の被膜および/または第2の被膜の物理的特性および化学的特性を、掻落とし中に生じる状態にさらに合わせることができる。特に第1の被膜および/または第2の被膜と完全に混合される追加の合金成分により、均質性に悪影響を与えることなく、被膜の特性を変更することができる。合金成分としては、例えば、金属を使用することができる。金属の例として、とりわけ、Al、Cu、Pb、W、Ti、Zrおよび/またはZnがある。しかし、原理上、有機金属および/または非金属成分を第1の被膜および/または第2の被膜に混入させることも考えられる。
【0076】
追加の合金成分は、特に好ましくは、遷移金属、特にタングステン(W)を含む。Wの混入により、特に、ドクターブレードの耐摩耗性を向上させることができる。同時に、このようなドクターブレードを使用するときに、作業エッジと印刷シリンダとの間に明確に画定された接触区域が得られ、印刷インキの特に正確な掻落としが可能になる。しかし、特定の適用について、例えば、他の合金成分を使用することもできる。
【0077】
第1の被膜中の合金成分の割合は、有利には、0.0001〜12重量%である。合金成分の割合は、より好ましくは0.5〜5重量%である。さらなる好ましい実施形態では、合金成分の割合が1〜3重量%である。
【0078】
追加の合金成分と硬質材料粒子との両方が添加成分として存在することも有利である。本発明による効果が、このようにしてさらに向上する。
【0079】
添加成分は、好ましくは、合金成分としての金属Wと、硬質材料成分としてのSiCおよびダイヤモンドとを含む。SiCの粒径は、特に、ダイヤモンドの粒径よりも大きい。粒径が1.4〜2.1μmのSiCと、粒径が10nm〜1.1μm、好ましくは200〜300nmのダイヤモンドとが存在することが特に好ましい。
【0080】
しかし、原理上、合金成分と硬質材料粒子との他の組合せも可能である。
【0081】
好ましい実施形態では、ドクターブレードのベース要素は、金属、特に鋼を含む。鋼は、機械的観点から、本発明のドクターブレードにとって特に頑丈で適切な材料であることが、わかっている。
【0082】
ここでは、長手方向に位置するベース要素の少なくとも1つの表面領域を、第1の被膜、第2の被膜および/またはさらなる被膜で全体的に完全に覆うことが好ましい。このようにして、少なくとも作業エッジ、上側、下側、およびベース要素の作業エッジの反対側に位置する後端面が、少なくとも1つの被膜で覆われる。長手方向に垂直なベース要素の側面は、被覆されない状態であってもよい。しかし、第2の被膜がベース要素を完全に全側面について覆うこと、すなわち長手方向に垂直なベース要素の側面も、被膜の1つで覆われることが、本発明の範囲内に含まれる。この場合、少なくとも1つの被膜がベース要素を全体的に囲む。
【0083】
ベース要素の長手方向に位置する表面領域の少なくとも1つが、少なくとも1つの被膜により完全におよび全体的に覆われるため、作用エッジの一部を形成しないベース要素の必須領域が、第2の被膜を施されることにもなる。これは、ドクターブレードと接触する水ベースまたは若干酸性の印刷インキおよび/あるいは他の液体からベース要素を保護するために特に有利である。特に鋼製のベース要素の場合には、このようにして、腐食に対する最適な保護が、ドクターブレードにもたらされる。したがって、印刷プロセスの際にドクターブレードと接触状態にある印刷シリンダまたは印刷ローラが、例えば、錆粒子によって汚染されないため、印刷プロセスの際の印刷品質の一貫性が、さらに向上する。さらに、表面領域に施される第2の被膜により、保管および/または輸送の際も、錆の形成に対してベース要素ができる限り保護される。
【0084】
しかし、例えば、他の金属または金属合金を、鋼の代わりにベース要素として使用することもできる。
【0085】
さらなる好ましい実施形態では、ベース要素が、プラスチック材料を含む。特定の適用について、機械的特性および化学的特性が異なるため、プラスチック製のベース要素が鋼製のベース要素よりも有利となる場合があることがわかっている。したがって、考えられるプラスチックの一部は、水ベースもしくは若干酸性の印刷インキに対して十分な化学的安定性または不活性を有し、その結果、鋼製のベース要素の場合と同様に、ベース要素を特に保護する必要がなくなる。
【0086】
考えられるプラスチック材料は、例えば、ポリマー材料である。これらは、とりわけ、熱可塑性物質、熱硬化性ポリマーおよび/または弾性ポリマー材料である。適切なプラスチックは、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリエステルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンおよび/またはポリウレタンである。ポリマー母材を強化するための繊維を有する複合構造も可能である。
【0087】
しかし、原理上、金属、特に鋼とプラスチックとの両方を含むベース要素を使用することもできる。他の材料、例えば、セラミックおよび/または複合材を含むベース要素も、特定の適用については適していることがある。
【0088】
ドクターブレード、特に本発明によるドクターブレードを製造するための有利なプロセスでは、第1のステップにおいて、ニッケル-リン合金を基材とした第1の被膜が、平坦な細長いベース要素の長手方向に形成された作業エッジ領域に堆積され、ここで、ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための少なくとも1つの添加成分が、第1の被膜に混入される。
【0089】
第1の被膜の堆積は、特に、無電解法により、有利には水溶液から実施される。このような摩耗挙動を改善するための添加成分の混入を伴うニッケル-リン合金の堆積により、特に、ドクターブレードの作業エッジに対する、またはドクターブレードのベース要素に対する高い輪郭精度と、非常に均一な層厚さ分布とを有する、高品質の第1の被膜を製造することが可能になる。言い換えると、均一に分布された添加成分を含み、ドクターブレードの作業エッジまたはベース要素の外形を最適になぞる、非常に均一なニッケル-リン合金が、無電解堆積により形成され、これはドクターブレードの品質に決定的に寄与する。さらに、特に、第1の被膜に施される、ニッケルを基材とした第2の被膜と、特にできる限り適合する第1の被膜を、無電解堆積により形成することができる。これにより、第1の被膜に対する第2の被膜の十分な接着が確保される。無電解被覆を実施するために、ドクターブレードの作業エッジ、または任意選択としてベース要素全体を、添加成分が混入された適切な電解質槽に浸漬させて、公知の方法で被覆する。電解質槽に混入された添加成分は、被覆プロセスまたは堆積プロセス中にニッケル-リン合金に組み込まれ、形成されたニッケル-リン合金中に基本的に不規則に分布される。
【0090】
ニッケル-リン合金の無電解堆積により、原理上、ドクターブレードのベース要素としてプラスチックを使用し、これに、ニッケル-リン合金および添加成分からなる第1の被膜を簡単な方法で設けることもできる。
【0091】
しかし、原理上、別の堆積プロセスを選択することもできる。例えば、目的に対して適切であると思われる場合には、第1の被膜を、電気化学的に、または気相プロセスにより堆積することもできる。
【0092】
第1の被膜は、有利には、水溶液中で、好ましくは、空気を吹き込んで堆積される。空気を吹き込むことにより、特に、堆積すべき物質の混合が改善され、第1の被膜の品質に有効な効果を与える。
【0093】
しかし、空気を吹き込む代わりに、またはこれに加えて、混合を改善するための他の方法をとることもできる。これは、例えば、機械的撹拌機により達成することができる。
【0094】
有利な変形形態では、好ましくは金属および/または金属塩である合金成分が、添加成分として混入される。金属塩としてタングステン塩を使用することが特に好ましい。第1の被膜の堆積は、有利には、水溶液から無電解法により、好ましくは、実験式Na2WO4・2H2Oを有するタングステン酸ナトリウム二水和物をタングステン塩として使用して実施される。必要であれば、公知の錯化剤をタングステン塩とともに追加で導入してもよい。
【0095】
タングステン塩は、有利には、水溶液中に、約5〜20g/l、好ましくは10〜12g/lの割合で存在する。これは、水溶液中の元素タングステンの約2.7〜10.9g/l、特に5.5〜6.5g/lの割合に対応する。
【0096】
タングステン塩を混入した結果、タングステンが、特に、合金成分としてニッケル-リン合金に組み込まれる。これにより、耐摩耗性が向上した非常に均一なニッケル-リン合金を得ることができる。特に、ニッケル-リン合金の硬度および耐腐食性を、タングステンの組込みにより向上させることができる。
【0097】
合金成分に加えて、またはその代わりに、硬質材料粒子および/または潤滑粒子等の他の添加成分を混入してもよい。
【0098】
水溶液は、好ましくは、堆積中に8〜9のpHを有する。驚いたことに、このような高いpH値は、特に、合金成分の堆積中に、堆積された被膜の品質に良好な影響を与えることがわかっている。ドクターブレードの耐摩耗性は、これにより大きく向上し、ドクターブレードの作業エッジと印刷シリンダとの間の接触領域は、ドクターブレードの耐用寿命の間中、非常に一定した状態に留まる。これにより、印刷インキの正確な掻落としが促進される。
【0099】
第2の被膜を設ける場合、第2のステップにおいて、ニッケルを基材とした第2の被膜は、好ましくは、少なくとも第1の被膜のサブ領域に堆積される。第1の被膜は、好ましくは、第2の被膜により完全に覆われる。
【0100】
第1の有利な変形形態では、第2のステップにおいて、第2の被膜は、電気化学的方法で堆積される。これは、特に、粒子状添加成分のない第2の被膜について有利であることがわかっている。したがって、不可避の不純物を除いて、ニッケルまたはニッケル-リン合金のみから構成される第2の被膜は、電気化学的に堆積されることが有利である。
【0101】
第2のステップで実施することのできる電気化学的プロセスは、公知の方法で実施される。被覆すべきドクターブレードの領域、特に第1の被膜が設けられた作業エッジが、この場合、例えば、適切な電気化学的電解質槽に浸漬される。被覆すべき領域は陰極として機能するが、例えば、ニッケルを含む可溶性の消耗電極は陽極として機能する。しかし、原理上、堆積すべき材料に応じて、不溶性陽極を使用することもできる。陰極と陽極との間に適切な電位を加えることにより、電気化学的電解質槽を通る電流の流れが生じ、その結果、元素ニッケル、または例えば、ニッケル-リン合金が、被覆されるべきドクターブレードの領域に堆積して、第2の被膜を形成する。電気化学的プロセスにより生成された第2の被膜は、純で高品質である。原理上、第2の被膜の品質をさらに向上させるために、耐摩耗性を向上させるための添加成分および/または他の添加剤を電解質槽に加えることができ、これらを任意選択として、第2の被膜に組み込むこともできる。
【0102】
ニッケル-リン合金の電気化学的堆積は、無電解堆積よりも、プロセス工学的効果が高い。したがって、リン含有率を、例えば、非常に良好に制御することができ、堆積を高い堆積率で実施することができる。同様に、ニッケル-リン合金の電気化学的堆積は、不溶性陽極を使用可能なニッケルの電気化学的堆積よりも効果が高い。
【0103】
第2の有利な変形形態では、第2の被膜の堆積が、特に水溶液から無電解法により実施される。この手順は、特に、粒子状添加成分、例えば、硬質材料粒子および/または潤滑粒子を第2の被膜に組み込むときに有利である。特に、第2の被膜に組み込むべき粒子状添加成分の均一な分布が、無電解堆積により達成される。
【0104】
第1の被膜および任意選択として第2の被膜を硬化するための熱処理が、有利には、第1のステップおよび/または第2のステップの後に実施される第3のステップにおいて実施される。熱処理は、ニッケル-リン合金中で固相反応を生じさせることにより、ニッケル-リン合金の硬度を高める。熱処理は、影響を受けやすい第2の被膜を堆積または施した後にのみ実施されるため、酸化物形成が、特に、第1の被膜の表面において防止される。これにより、第1に、第1の被膜と、存在する第2の被膜との間に良好な接着性が得られ、第2に、作業エッジの領域におけるドクターブレードの均一性が全体的に向上する。
【0105】
原理上、熱処理を省略することもできる。しかし、これは、本発明により製造されるドクターブレードの耐摩耗性または耐用寿命を犠牲とする。
【0106】
特に、被覆されたベース要素は、熱処理の際に100〜500℃の温度にまで加熱され、特に好ましくは170〜300℃の温度にまで加熱される。特に、これらの温度は、0.5〜15時間の、好ましくは0.5〜8時間の保持時間にわたって維持される。このような温度および保持時間は、ニッケル-リン合金の十分な硬度を達成するために最適であることがわかっている。
【0107】
100℃未満の温度が、同様に可能である。しかし、この場合には、非常に長く、通常は非経済的な保持時間を必要とする。ベース要素の材料によっては、500℃超の温度も原理上は可能であるが、この場合には、ニッケル-リン合金の硬化プロセスは、制御がより難しくなる。
【0108】
他の有利な変形形態では、第2のステップにおける電気化学的プロセス中に、ニッケルの下塗層が、1.5未満のpH、特に1未満のpHで、電気化学的プロセスにより、最初に堆積される。さらなるステップでは、例えば、2〜5のpH、特に3.4〜3.9のpHのサッカリンを使用して、ニッケルのカバー層を続けて堆積することができる。
【0109】
酸性条件により、被覆すべき作業エッジの表面または第1の被膜の表面が化学的に活性化されて、下塗層は、作用エッジに対して非常に安定した結合を形成する。下塗層は、上に堆積されるべきカバー層のための最適な下地となる。2〜5のpHを維持し、サッカリンを使用することにより、平滑で平坦な表面を有する最適なカバー層が得られる。
【0110】
原理上、下塗層およびカバー層を、他の条件下で堆積することもできる。
【0111】
特に、電気化学的プロセスにより、1.5未満のpH、特に1未満のpHで、ニッケルからなる下塗層を堆積し、続いて、例えば、ニッケル-リン合金の形のカバー層を施すこともできる。ニッケル-リン合金は、この場合、例えば、ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための添加成分を含むこともできる。
【0112】
以下の詳細な説明、および特許請求の範囲全体から、本発明の特徴のさらに有利な実施形態および組合せが明らかになろう。
【0113】
例示の実施形態を説明するために、以下の図面が示される。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明による第1の層状ドクターブレードの作業エッジが、ニッケル-リン合金およびその中に分散された硬質材料粒子により被覆された、第1の層状ドクターブレードの横断面である。
【図2】本発明による第2の層状ドクターブレードの作業エッジが、ニッケル-リンタングステン合金により被覆された、第2の層状ドクターブレードの横断面である。
【図3】作業エッジの領域において、硬質材料粒子が中に分散された第1の被膜と、純ニッケルからなり、第1の被膜上に配置されて本発明による第3の層状ドクターブレードを完全に囲む第2の被膜とにより被覆された、第3の層状ドクターブレードの横断面である。
【図4】第2の被膜が第1の被膜の領域にのみ位置する、図3のドクターブレードの変形形態を示す図である。
【図5】作業エッジの領域において、硬質材料粒子が中に分散された第1の被膜と、第1の被膜上に配置された、ニッケルからなる二層の第2の被膜とにより被覆された、本発明による第5の層状ドクターブレードの横断面である。
【図6】作業エッジの領域において、硬質材料粒子が中に分散された第1の被膜と、第1の被膜上に配置され、六方晶窒化ホウ素の潤滑粒子が中に分散された第2の被膜とにより被覆された、本発明による第6の層状ドクターブレードの横断面である。
【図7】作業エッジの領域において、2つの異なるタイプの硬質材料粒子が中に分散された第1の被膜と、第1の被膜上に配置され、潤滑粒子が中に分散された第2の被膜とにより被覆された、本発明による第7の層状ドクターブレードの横断面である。
【図8】本発明による、ドクターブレードを製造するためのプロセスの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0115】
図面においては、基本的に、同一部分には同一の参照符号を付している。
【0116】
図1は、本発明による層状ドクターブレード100を横断面において示す。層状ドクターブレード100は、鋼製のベース要素110を備え、このベース要素110は図1の左側に、基本的に矩形の横断面をもつ後領域120を有する。後領域120は、例えば、印刷機の適切な保持装置内に層状ドクターブレードを保持するために、固定領域として設けられる。後領域の上側121から下側122へ測定されたドクターブレード厚さは、約0.2mmである。板面に垂直に測定された、ベース要素110または層状ドクターブレード100の長さは、例えば1000mmである。
【0117】
図1の右側では、ベース要素110が後領域120の上側121から段階的に先細になり、作業エッジ130を形成する。作業エッジ130の上側131は、後領域120の上側121の面よりも下方の面に位置するが、基本的に後領域120の上側121に平行である。後領域120と作業エッジ130との間には、凹状移行領域125がある。後領域120の下側122と作業エッジ130の下側132とは同一平面にあり、この平面は、後領域120の上側121に平行であり、かつ作業エッジ130の上側131に平行である。後領域の端部から作業エッジ130の前面140まで測定されたベース要素110の幅は、例えば40mmである。作業領域130の上側131から下側132まで測定された作業領域130の厚さは、例えば、0.060〜0.150mmであり、これは、後領域120におけるドクターブレードの厚さの約半分に相当する。前面140から移行領域125まで、作業領域130の上側131から測定された作業領域130の幅は、例えば0.8〜5mmである。
【0118】
作業エッジ130の自由端の自由前面140は、作業エッジ130の上側131から作業エッジ130の下側132へ斜め下方に延びる。前面140は、作業エッジ130の上側131および作業エッジ130の下側132に対してそれぞれ約45°および135°の角度をなす。作業エッジ130の上側131と前面140との間の上部移行領域が、丸みをつけられている。同様に、作業エッジ130の前面140と下側132との間の下部移行領域が、丸みをつけられている。
【0119】
さらに、層状ドクターブレード100の作業エッジ130は、第1の被膜150によって囲まれている。第1の被膜150は、作業エッジ130の上側131、移行領域125、およびベース要素110の後領域120の上側121の隣接するサブ領域を完全に覆う。同様に、第1の被膜150は、前面140、作業エッジ130の下側132、作業エッジ130の下側に隣接する、ベース要素110の後領域120の下側122のサブ領域を覆う。
【0120】
第1の被膜150は、例えば、リン含有率が9重量%のニッケル-リン合金から構成される。硬質材料粒子160、例えば、炭化珪素(SiC)の粒子が、その中に分散される。硬質材料粒子160の体積割合は、例えば、16%であり、硬質材料粒子160の平均粒径は約1.6μmである。作業エッジ130の領域では、第1の被膜150の層厚さは、例えば、15μmであり、硬度は、例えば、1200HVである。第1の被膜150の層厚さは、後領域120の上側121および下側122の領域において連続的に減少し、第1の被膜150は、作業エッジ130から離れる方向に、楔状にその端部まで延びる。
【0121】
図2は、本発明による第2の層状ドクターブレード200を横断面において示す。第2の層状ドクターブレード200は、後領域220および作業エッジ領域230を有するベース要素210を備え、図1の第1の層状ドクターブレード100と基本的に同一の構成を有する。第2の層状ドクターブレード200の場合、作業エッジ230の上側231、移行領域225、ベース要素210の後領域220の上側221の隣接するサブ領域、さらに前面240、作業エッジ230の下側232、および作業エッジ230の下側232に隣接する、ベース要素210の後領域220の下側222のサブ領域が、被膜250により同様に被覆される。
【0122】
第2の被膜は、タングステン(W)の形の混入合金成分を含むニッケル-リン合金から構成される。被膜250の総重量に基づいたそれぞれの場合において、リン含有率は、例えば10重量%であり、タングステンの割合は、例えば5重量%である。作業エッジ130の領域における被膜250の層厚さは、例えば15μmであり、硬度は、例えば1200HVである。
【0123】
図3は、本発明による第3の層状ドクターブレード300を横断面において示す。第3のドクターブレード300は、図1の第1のドクターブレードと同様に、作業エッジ330の領域において第1の被膜350により被覆されたベース要素310を備える。これに対応して、作業エッジ330の上側331、移行領域325、ベース要素310の後領域320の上側321の隣接するサブ領域、さらに前面340、作業エッジ330の下側332、および作業エッジ330の下側332に隣接する、ベース要素310の後領域320の下側322のサブ領域が、被膜350により被覆される。
【0124】
第3の層状ドクターブレード300の第1の被膜350は、第1の層状ドクターブレード100の被膜150と同一の組成および構造を有し、対応する硬質材料粒子360、例えば、炭化珪素粒子を含む。
【0125】
加えて、第3の層状ドクターブレードは、層状ドクターブレード300を完全に囲む第2の被膜370を有する。言い換えると、第2の被膜370は、第1の被膜350と、ベース要素310の後領域320の上側321と下側322の両方を完全に覆う。
【0126】
第2の被膜370は、例えば、例えば、約2μmの厚さを有する電気化学的に堆積されたニッケル層により形成される。第2の被膜370は、この場合、不可避の不純物を除いて、ニッケルのみから構成される。
【0127】
図4は、第4の層状ドクターブレード400を横断面において示す。第4の層状ドクターブレード400は、図3の第3の層状ドクターブレードと基本的に同一の構成を有する。しかし、第3のドクターブレード300に対して、第4のドクターブレード400は、第1の被膜450のみを覆う第2の被膜470を有する。このため、第2の被膜470は、作業エッジ430の上側431、移行領域425、ベース要素410の後領域420の上側421の隣接するサブ領域、さらに前面440、作業エッジ430の下側432、および作業エッジ430の下側432に隣接する、ベース要素410の後領域420の下側422のサブ領域のみを囲む。したがって、ベース要素410の後領域420は露出しており、第1の被膜450にも第2の被膜470にも覆われていない。
【0128】
後領域420の上側421および下側422の領域では、第2の被膜470の層厚さが連続的に減少し、第2の被膜470は、作業エッジ430から離れる方向に、楔状にその端部まで延びる。
【0129】
図5は、本発明による第5の層状ドクターブレード500を横断面において示す。後端部520および作業エッジ530を有するベース要素510は、図3の層状ドクターブレード300と基本的に同一の構成を有する。第5のドクターブレード500は、同様に、第3のドクターブレード300の被膜350と同じように構成された第1の被膜550を有する。これに対応して、第5のドクターブレード500の第1の被膜550が、作業エッジ530の上側531、移行領域525、ベース要素510の後領域520の上側521の隣接するサブ領域、さらに前面540、作業エッジ530の下側532、および作業エッジ530の下側532に隣接する、ベース要素510の後領域520の下側522のサブ領域を覆う。
【0130】
第3の層状ドクターブレード300の場合と同様に、第5のドクターブレード500も、層状ドクターブレード500を完全に囲む第2の被膜570を有し、第2の被膜570は、第1の被膜550、ベース要素410の後領域520の上側521およびさらに下側522を完全に囲む。第3のドクターブレードの第2の被膜370に対して、第5のドクターブレード500の第2の被膜570は、二層構造を有する。第2の被膜570は、第1の被膜550とベース要素510の後領域520とに電気化学的に直接施され、不可避の不純物を除いて純ニッケルのみから構成された下塗層(primer layer)571を有する。下塗層571の厚さは、例えば、約0.5μmである。下塗層571の上部に施されたカバー層572も、同様に、電気化学的に堆積された純ニッケルから構成されるが、純ニッケルにサッカリンを追加で混合する。第2の被膜570の層厚さ、すなわち、作業エッジ530の領域における下塗層571の層厚さおよびカバー層572の層厚さは、例えば、約4μmであり、後領域520の層厚さは、例えば、約2μmである。
【0131】
図6は、第6の層状ドクターブレード600を横断面において示す。後領域620と、第1の被膜650が設けられた作業エッジ630とを有するベース要素610は、図3の第3のドクターブレード300と基本的に同一の構成を有する。図2の第3のドクターブレード300に対して、第6のドクターブレード600を完全に囲む第2の被膜670は、無電解法により堆積され、六方晶窒化ホウ素(hex-BN)の潤滑粒子680が中に分散されたニッケル-リン合金から構成される。第2の被膜670のリン含有率は、例えば、7重量%であり、第2の被膜の厚さは約2μmである。潤滑粒子680は、約100nmの粒径と、約17%の体積割合とを有する。
【0132】
図7は、図6の第6のドクターブレード600の変形形態を表す第7の層状ドクターブレード700を横断面において示す。第7のドクターブレード700のベース要素710上における第1の被膜750および第2の被膜770の配置は、図6の第6のドクターブレード600と基本的に同一である。しかし、第6のドクターブレード600と第7のドクターブレード700とは、被膜の組成が異なる。
【0133】
実質的に作業エッジ730を囲む、第7のドクターブレード700の第1の被膜750は、無電解法により堆積されたニッケル-リン合金を基材とし、混入されたタングステン(W)の形の第1の添加成分を含む。言い換えると、これにより、第1の被膜750は、ニッケル-リン-タングステン合金を基材とする。作業エッジ730の領域における第1の被膜750の層厚さは、例えば、約12μmであり、リン含有率は約12重量%である。加えて、第1の硬質材料成分760および第2の硬質材料成分761の形のさらなる添加成分が、第1の被膜750に分散される。第1の硬質材料成分760は、例えば、100〜200nmの粒径と約10%の体積割合とを有するダイヤモンド粒子である。第2の硬質材料成分は、例えば、1.5〜2.0μmの粒径と約10%の体積割合とを有する炭化珪素(SiC)から構成される。したがって、第2の硬質材料成分761(SiC)の粒径は、第1の硬質材料成分760(ダイヤモンド)の粒径よりも大きい。第1の被膜750の硬度は、約1300HVである。
【0134】
第7のドクターブレード700を完全に囲む第2の被膜770は、例えば、無電解法により堆積され、六方晶BN(hex-BN)の潤滑粒子780が中に分散されたニッケル-リン合金を基材とする。第2の被膜のリン含有率は約6重量%、層厚さは約2μm、潤滑粒子780の体積割合は約18%である。潤滑粒子780の粒径は約100nmである。したがって、第2の被膜770のニッケル-リン合金のリン含有率は、第1の被膜750のニッケル-リン合金のリン含有率よりも低い。
【0135】
図1〜7に示す前記層状ドクターブレードは、実現可能な多くの実施形態の例に過ぎない。さらなる特定の実施形態を以下のTable 1(表1)に示す。表の理解を助けるために、「Chem.Ni-P」という略語は、化学的に、または無電解法により堆積されたニッケル-リン合金のことである。これに対応して、「Elect.」という略語は、電気化学的に堆積されたことを意味し、「Elect.Ni-P」は、電気化学的に堆積されたニッケル-リン合金を示す。「P含有率」は、ニッケル-リン合金のリン含有率である。
【0136】
【表1A】

【0137】
【表1B】

【0138】
【表1C】

【0139】
表にAで示す実施形態は、図1に示す第1の層状ドクターブレード100に対応する。実施形態「B」〜「G」は、層状ドクターブレード100に類似した構造の、表示された、場合によって異なる添加成分、粒径、体積割合および/または層厚さを示す。
【0140】
「H」で示された実施形態は、図2の第2の層状ドクターブレード200に対応し、「I」で示された実施形態は、図3の第3の層状ドクターブレード300に対応する。実施形態「J」は、第1の被膜中の異なる添加成分を除いて、図3の第3の層状ドクターブレード300と基本的に同一の構成である。
【0141】
図5に示す層状ドクターブレード500は、表に実施形態「K」として示され、したがって、ニッケルを基材とした、二層の電気化学的に堆積された第2の被膜を有する。実施形態「L」および「M」は、ニッケルを基材とした第2の被膜の代わりに、電気化学的に堆積されたニッケル-リン合金の形の第2の被膜を有する、実施形態「K」の変形形態を示す。
【0142】
実施形態「N」は、図6に示す第6の層状ドクターブレード600に対応する。実施形態「O」は、特に、第2の被膜中に、六方晶窒化ホウ素(hex-BN)の代わりに立方晶窒化ホウ素(cub-BN)を含む点で、実施形態「N」と異なる。立方晶窒化ホウ素の粒径は、六方晶窒化ホウ素の粒径よりも実質的に大きいことに注目すべきである。
【0143】
最後に、実施形態「P」は、図7の第7の層状ドクターブレード700に対応している。
【0144】
図8は、例えば図5に示す層状ドクターブレードを製造するためのプロセス800を示す。ここでは、第1のステップ801において、ニッケル-リン合金または第1の被膜550で被覆されるべきベース要素510の作業エッジ530が、例えば、硬質材料粒子560が中に懸濁した公知の適切な水性電解質槽に浸漬され、ニッケル塩、例えば、硫酸ニッケルのニッケルイオンが、水性環境において、還元剤、例えば、次亜リン酸ナトリウムにより元素ニッケルに還元され、作業エッジ530に堆積されて、ニッケル-リン合金を形成すると同時に、硬質材料粒子560を埋め込む。これは、強酸条件(pH4〜6.5)下において、例えば、70〜95℃の高温で、電位を加えることなく、完全に外部電流なしで行われる。
【0145】
第2のステップ802では、例えば、塩化ニッケルおよび塩酸を含み、pHが約1の水を基材とした第1の電気化学的電解質槽に、最初に装填する。第1のステップにおいて第1の被膜550が施されたベース要素510が、電解質槽に完全に浸漬され、第2の被膜570の下塗層571が、外部電流による公知の方法で堆積される。その後、ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸、およびサッカリンを含むpH3.7の水を基材とした第2の電気化学的電解質槽において、カバー層572が公知の方法で堆積される。
【0146】
第3のステップ803では、第1の被膜550および第2の被膜570が設けられたベース要素510は、300°Cの温度で、例えば、2時間熱処理を受ける。最後に、仕上がった層状ドクターブレード500を冷却することにより、使用可能な状態にする。
【0147】
第2の被膜のないドクターブレードを製造する場合、第2のステップ802を省略し、第3のステップを、これに対応して第2の被膜なしで実施する。無電解法により堆積されたニッケル-リン合金を基材とした第2の被膜を有するドクターブレードを製造するために、第1のステップ801に類似した被覆を第2のステップ802で実施する。摩耗挙動を改善するための添加成分としてタングステン(W)を設ける場合、各被膜の堆積が、第1のステップ801の通りに、特に8〜9のpHで行われる。
【0148】
試験が示すように、図1〜7に示す層状ドクターブレード100、200、300、400、500、600、700、およびTable 1(表1)に追加で示す層状ドクターブレードは、非常に高い耐摩耗性および安定性を有し、特に印刷インキの非常に正確な掻落としを可能にする。正確な掻落としは、ドクターブレードの耐用寿命の間中にわたって可能となる。
【0149】
比較として、図1の層状ドクターブレード100のベース要素と同一のベース要素は、第1の比較試験では、作業エッジの領域において純ニッケル-リン合金からなる第1の被膜のみが設けられ、耐摩耗性を向上させるためのSiCの硬質材料粒子状の添加成分はない。判明しているように、このようなドクターブレードは、図1〜7に示すドクターブレードよりも耐摩耗性および安定性がはるかに劣る。
【0150】
さらなる試験では、摩耗挙動を改善するための添加成分が、図3、5、6および7の層状ドクターブレード300、500、600、700において、それぞれの場合に省略される。このようなドクターブレードも、図3、5、6および7に示すドクターブレードよりも耐摩耗性がはるかに劣る。
【0151】
前述した実施形態および製造プロセスは例に過ぎず、本発明の範囲内で希望に応じて変更することができる。
【0152】
したがって、図1〜7のドクターブレードのベース要素110、210、310、410、510、610、710は、異なる材料、例えば、ステンレス鋼または炭素鋼から構成されていてもよい。この場合、被膜用材料の消費を減らすために、作業エッジ130、230、330、430、530、630、730の領域のみにおいて第2の被膜を施すことが、経済的な理由で有利となり得る。しかし、図1〜7のドクターブレードのベース要素は、原理上、非金属材料、例えば、プラスチックから構成されることもあり得る。これは、特に、フレキソ印刷における適用に有利となり得る。
【0153】
図1〜7に示すベース要素とは異なる形状のベース要素を使用することも可能である。特に、ベース要素は、楔形作業エッジ、または丸みをつけた作業エッジを有する、先細ではない横断面を有することができる。作業エッジ130、230、330、430、530、630、730の自由前面140、240、340、440、540、640、740は、例えば、完全に丸みをつけることもできる。
【0154】
さらに、図1〜7の本発明のドクターブレードは、異なる寸法を有していてもよい。したがって、例えば、各上側131…731から各下側132、232、…732へ測定された作業領域130、230、330、430、530、630、730の厚さを、例えば、0.040〜0.200mmの範囲で変化させることができる。
【0155】
図1〜7のドクターブレードの被膜は、同様に、さらなる合金成分、ならびに/または金属原子、非金属原子、無機化合物および/または有機化合物等の追加の材料を含む。追加の材料は、粒子状であってもよい。
【0156】
図1〜7に示すドクターブレードのすべてを、例えば、さらなる被膜で被覆してもよい。さらなる被膜は、作業エッジの領域および/または後領域に位置し、例えば、作業エッジの耐摩耗性を向上させ、かつ/または後領域を攻撃性のある化学物質による攻撃から保護することができる。原理上、これらをプラスチックからなる被膜とすることができる。
【0157】
図2のドクターブレード200の場合、既存の第1の被膜250に第2の被膜を施して、摩耗挙動を改善するための添加成分、例えば、粒子状添加剤成分を、第2の被膜に導入することも可能である。
【0158】
要約すると、非常に良好な耐摩耗性を表し、耐用寿命の間中にわたって、均一で縞を形成しない印刷インキの掻落としが可能な、新規のドクターブレードが設けられると言うことができる。同時に、本発明のドクターブレードは、特定の使用に特に適合可能なように、種々の実施形態において実現され得る。
【符号の説明】
【0159】
100、200、300、400、500、600、700 層状ドクターブレード
110、210、310、410、510、610、710 ベース要素
120、220、320、420、520 後領域
121、221、321、421、521 上側
122、222、322、422、522 下側
125、225、325、425、525 移行領域
130、230、330、430、530、630、730 作業エッジ
131、231、331、431、531 上側
132、232、332、432、532 下側
140、240、340、440、540、640、740 前面
150、250、350、450、550、650、750 第1の被膜
160、360 硬質材料粒子
370、470、570、670、770 第2の被膜
571 下塗層
572 カバー層
680、780 潤滑粒子
760 第1の硬質材料成分
761 第2の硬質材料成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に作業エッジ領域(130、230、…、730)が形成された平坦な細長いベース要素(110、210、…、710)を備えた、特に印刷版の表面から印刷インキを掻き取るためのドクターブレード(100、200、…、700)であって、前記作業エッジ領域(130、230、…、730)が、少なくともニッケル-リン合金を基材とする第1の被膜(150、250、…、750)により被覆されたドクターブレードにおいて、前記第1の被膜(150、250、…、750)が、前記ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための少なくとも1つの添加成分(160、360、460、660、760、761)を含むことを特徴とするドクターブレード。
【請求項2】
前記第1の被膜(150、250、…、750)が、無電解法により堆積されたニッケル-リン合金であることを特徴とする、請求項1に記載のドクターブレード。
【請求項3】
前記第1の被膜(150、250、…、750)のリン含有率が7〜12重量%であることを特徴とする、請求項2に記載のドクターブレード。
【請求項4】
前記第1の被膜(150、250、…、750)が750〜1400HVの硬度を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項5】
前記第1の被膜(150、250、…、750)の厚さが1〜30μm、特に5〜10μmであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項6】
ニッケルを基材とした第2の被膜(370、470、570、670、770)が存在し、前記第2の被膜が、特に、前記第1の被膜(150、250、…、750)上に直接施されることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項7】
前記第2の被膜(370、470、570、670、770)が、電気化学的に堆積された被膜であることを特徴とする、請求項6に記載のドクターブレード。
【請求項8】
前記第2の被膜(370、470、570、670、770)がニッケル-リン合金を基材とすることを特徴とする、請求項6または7に記載のドクターブレード。
【請求項9】
前記第2の被膜(370、470、570、670、770)の前記ニッケル-リン合金が、12〜15%のリン含有率を有することを特徴とする、請求項8に記載のドクターブレード。
【請求項10】
前記第2の被膜(370、470、570、670、770)の層厚さが0.5〜3μmであることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項11】
前記少なくとも1つ添加成分(160、360、460、660、760、761)が硬質材料粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項12】
前記硬質材料粒子が、金属粒子、特に金属モリブデンからなる金属粒子を含むことを特徴とする、請求項11に記載のドクターブレード。
【請求項13】
前記硬質材料粒子が、金属炭化物、金属窒化物および/または金属炭窒化物を含むことを特徴とする、請求項11または12に記載のドクターブレード。
【請求項14】
前記硬質材料粒子が、B4C、立方晶BN、TIC、WCおよび/またはSiCを含むことを特徴とする、請求項13に記載のドクターブレード。
【請求項15】
前記硬質材料粒子が、金属酸化物、特にAl2O3を含むことを特徴とする、請求項11〜14のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項16】
前記硬質材料粒子がダイヤモンドを含むことを特徴とする、請求項11〜15のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項17】
前記硬質材料粒子が、5nm〜4μm、特に0.9〜2.5μm、特に好ましくは1.4〜2.1μmの粒径を有することを特徴とする、請求項11〜16のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項18】
前記硬質材料粒子が、少なくとも2つの異なる材料からなる粒子を含むことを特徴とする、請求項11〜17のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項19】
前記硬質材料粒子が、SiCとダイヤモンドとの両方を含み、前記SiCの粒径が、好ましくは前記ダイヤモンドの粒径よりも大きいことを特徴とする、請求項18に記載のドクターブレード。
【請求項20】
前記硬質材料粒子が、粒径が1.4〜2.1μmのSiCと、粒径が10nm〜1.1μmのダイヤモンドとを含むことを特徴とする、請求項19に記載のドクターブレード。
【請求項21】
前記硬質材料粒子が、SiCと立方晶BNとの両方を含み、前記BNの粒径が、好ましくは前記SiCの粒径にほぼ対応し、前記SiCおよび前記立方晶BNの粒径が、より好ましくは約1.4〜2.1μmであることを特徴とする、請求項11〜20のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項22】
前記添加成分(160、360、460、660、760、761)が潤滑粒子を含むことを特徴とする、請求項1〜21のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項23】
前記潤滑粒子が、六方晶BNおよび/またはポリテトラフルオロエチレンを含むことを特徴とする、請求項22に記載のドクターブレード。
【請求項24】
前記潤滑粒子が、50nm〜1μm、好ましくは80〜300nm、より好ましくは90〜110nmの粒径を有する六方晶BNを含むことを特徴とする、請求項23に記載のドクターブレード。
【請求項25】
前記添加成分(160、360、460、660、760、761)が追加の合金成分を含むことを特徴とする、請求項1〜24のいずれか一項に記載のドクターブレード。
【請求項26】
前記追加の合金成分がタングステンを含むことを特徴とする、請求項25に記載のドクターブレード。
【請求項27】
追加の合金成分と硬質材料粒子との両方が、添加成分(160、360、460、660、760、761)として存在することを特徴とする、請求項11〜26のいずれか一項に記載のドクターブレード(1)。
【請求項28】
前記添加成分が、合金成分としてのタングステンと、硬質材料成分としてのSiCおよびダイヤモンドとを含み、前記SiCの粒径が、好ましくは前記ダイヤモンドの粒径よりも大きく、粒径が1.4〜2.1μmのSiCと、粒径が10nm〜1.1μmのダイヤモンドとが存在することが特に好ましいことを特徴とする、請求項27に記載のドクターブレード。
【請求項29】
前記ベース要素(110、210、…、710)が鋼から構成されることを特徴とする、請求項1〜28のいずれか一項に記載のドクターブレード(1)。
【請求項30】
前記ベース要素(110、210、…、710)がプラスチックから構成されることを特徴とする、請求項1〜28のいずれか一項に記載のドクターブレード(1)。
【請求項31】
ドクターブレード(100、200、…、700)、特に請求項1〜30のいずれか一項に記載のドクターブレードを製造するためのプロセス(800)であって、第1のステップ(801)において、ニッケル-リン合金を基材とした少なくとも1つの第1の被膜(150、250、…、750)が、平坦な細長いベース要素(110、210、…、710)の長手方向に形成された前記ドクターブレードの作業エッジ領域(130、230、…、730)に堆積されるプロセスにおいて、前記ドクターブレードの摩耗挙動を改善するための少なくとも1つの添加成分(160、360、460、660、760、761)が、前記第1の被膜に混入されることを特徴とするプロセス。
【請求項32】
前記少なくとも第1の被膜(150、250、…、750)の堆積が、水溶液中で、好ましくは、空気を吹き込んで実施されることを特徴とする、請求項31に記載のプロセス。
【請求項33】
タングステン塩である合金成分を添加成分として混入することを特徴とする、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記堆積における前記水溶液が、8〜9のpHを有することを特徴とする、請求項32または33に記載のプロセス。
【請求項35】
第2のステップ(802)において、ニッケルを基材とした第2の被膜(370、470、570、670、770)が、少なくとも前記第1の被膜(150、250、…、750)に堆積されることを特徴とする、請求項31〜34のいずれか一項に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2013−517161(P2013−517161A)
【公表日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−549221(P2012−549221)
【出願日】平成22年1月20日(2010.1.20)
【国際出願番号】PCT/CH2010/000014
【国際公開番号】WO2011/088583
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(509058324)デートワイラー・スイステック・アーゲー (5)
【Fターム(参考)】