説明

ナノファイバーの外径と屈折率の測定方法およびその測定装置

【課題】数nmから数10nm程度の外径を有するナノカーボンチューブや外径200nm以下のより細いナノファイバーの外径を精度良く測定する方法およびその測定装置を提供する。
【解決手段】ナノファイバーの長さ方向に対して垂直に偏向された垂直偏光を、前記ナノファイバーに投射して得られる所定散乱角度の散乱光による測定散乱光強度と、前記散乱角度から算出した計算散乱光強度とから、前記ナノファイバーの外径及び屈折率の関数で表される偏差指標を算出し、この偏差指標を最小とする前記ナノファイバーの外径および屈折率の組み合わせを求めることで、前記ナノファイバーの外径および屈折率を求めることを特徴とするナノファイバーの外径及び屈折率の測定方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノカーボンチューブ、極細繊維編素、金属系超電導線編素などの極めて細いナノファイバー状物体、特に外径が200nm以下の細径円柱体の外径、およびその屈折率の両者を同時に測定する方法およびその測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノカーボンチューブ、極細径繊維、金属系超電導線などの製造、或いはその特性に関して、これらの外径は大きな影響を与えることが知られている。そこで、その外径の測定方法が開発されてきている。
特許文献1では、繊維製造時の外径測定を、レーザ光の回折強度の比率を基に求める方法により行い、外径10μm程度の繊維が測定できることが示されている。
又、特許文献2、3では、レーザ光による被測定細線のフラウンフォーファ回折像の回折パターンからその外径を算出する方法によって、外径17.5μmの細線の測定ができることが開示されている。
【0003】
しかしながら、nmオーダーのナノファイバーの外径測定となると有効な測定方法がなかった。
そこで、本発明者らは非特許文献1に示すようにレーザ光を被測定物に対して垂直、或いは水平に偏光したレーザ光を用いて、被測定物による散乱強度を測定し、ある式の基に計算した計算値との偏差から、その外径および屈折率を測定する方法を開発した。この方法によれば、外径240nm程度の細い円柱体を測定できることを示した。
【0004】
【特許文献1】特開平5−45130号公報
【特許文献2】特開平6−288723号公報
【特許文献3】特開平6−241733号公報
【非特許文献1】但馬文昭、西山善郎、「約120nmのくもの糸の太さと屈折率の測定の可能性の検討」、平成16年春季第64回応用物理学会学術講演会講演予稿集、社団法人 応用物理学会、平成16年3月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記、本発明者らによる外径測定方法では、240nmと先の特許文献1から3で示された測定方法に比べて、より細径の円柱体の外径測定が可能であったが、ナノカーボンチューブなどの数nmから200nm程度のより細いナノファイバーの外径を精度良く測定することは難しかった。
そこで、本発明では数nmから数10nm程度の外径を有するナノカーボンチューブや外径200nm以下のより細いナノファイバーの外径を精度良く測定する方法およびその測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、ナノファイバーの長さ方向に対して垂直に偏向された垂直偏光を、前記ナノファイバーに投射して得られる所定散乱角度の散乱光による測定散乱光強度と、前記散乱角度から算出した計算散乱光強度とから、前記ナノファイバーの外径及び屈折率の関数で表される偏差指標を算出し、この偏差指標を最小とする前記ナノファイバーの外径および屈折率の組み合わせを求めることで、前記ナノファイバーの外径および屈折率を求めることを特徴とするナノファイバーの外径及び屈折率の測定方法である。
【0007】
請求項2記載の発明は、ナノファイバーの長さ方向に対して平行に偏向された平行偏光を、前記ナノファイバーに投射して得られる所定散乱角度の散乱光による測定散乱光強度と、前記散乱角度から算出した計算散乱光強度とから、前記ナノファイバーの外径及び屈折率の関数で表される偏差指標を算出し、この偏差指標を最小とする前記ナノファイバーの外径および屈折率の組み合わせを求めることで、前記ナノファイバーの外径および屈折率を求めることを特徴とするナノファイバーの外径及び屈折率の測定方法である。
【0008】
請求項3記載の発明は、外径および屈折率を測定する前記ナノファイバーの外径が200nm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のナノファイバーの外径および屈折率の測定方法である。
【0009】
請求項4記載の発明は、レーザ光を発光する光源部と、レーザ光を被測定物長さ方向に対して垂直な垂直偏光、若しくは水平な水平偏光とする光偏向部と、レーザ光の光軸上に、固定状態で備わる被測定物を支持固定する支持台と、被測定物により散乱されたレーザ光の散乱光強度を検出して外部に出力する検出器を有し、この検出器が所定散乱角度になるように回転し、その散乱角度を外部に出力する検出部と、前記検出部より出力される散乱角度および散乱光強度から計算散乱光強度と偏差指標を算出して被測定物の外径及び屈折率を算出する演算部とで、構成されることを特徴とするナノファイバーの外径および屈折率の測定装置である。
【0010】
請求項5記載の発明は、レーザ光を発光する光源部と、レーザ光を被測定物長さ方向に対して垂直な垂直偏光、若しくは水平な水平偏光とする光偏向部と、レーザ光の光軸上に、固定状態で備わる被測定物を支持固定する支持台と、被測定物により散乱されたレーザ光の散乱光強度を検出して外部に出力する検出器が前記支持台の周囲に円周上に、散乱角度となる所定角度で少なくとも2基以上備えられる検出部と、前記検出部より出力される散乱角度および散乱光強度から計算散乱光強度と偏差指標を算出して被測定物の外径及び屈折率を算出する演算部とで、構成されることを特徴とするナノファイバーの外径および屈折率の測定装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、200nm以下の外径を有するナノファイバーの外径およびその屈折率を効率良く且つ精度良く測定することを可能とするもので、工業上顕著な効果を奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係る外径および屈折率の測定方法は、図1のフローチャートに示すように進められる。
先ず、図2に示す外径・屈折率測定装置1で、被測定物2に対して、光源3から波長λnm(543.5nm)のレーザ光3aを発光し、そのレーザ光3aが偏向装置4で被測定物に対して垂直偏光、或いは水平偏光とされ、検出部5上面に支持台5bで支持された被測定物2に投射される。レーザ光3aは、被測定物2により一部が反射され、レーザ光3aの光軸に対して散乱角度θに配置された検出器6で、その測定散乱光強度Iが測定される。この手順で、散乱角度θ(i=0・・・n)を変化させてその時の測定散乱光強度I(i=0・・・n)を順次測定していく。
又は、図3のように複数の検出器6(図3の場合は28基)を、被測定物2を支持する支持台5bの円周上に配置し、各々の検出器6の散乱角度θで測定散乱光強度Iを測定することでも良い。
【0013】
これらの検出角度θと測定散乱光強度Iは、図1に記した外径・屈折率同時解析プログラムを搭載したパーソナルコンピュータのような演算部7に送られる。
この演算部7内で計算散乱光強度σが計算される。
本発明では、この計算散乱光強度を求める式として、種々検討を重ねた結果、第1種と第3種ベッセル関数を用いて表すことにより、これ以降の外径、屈折率の算出において精度の良い値が得られることを見出したものである。
その計算散乱光強度σの算出に際しては、垂直偏光で散乱させた場合は、数1を用いて計算し、水平偏光を散乱させた場合は、数2を用いて計算を行う。
【0014】
【数1】

ここで、添字‖は水平偏光によるものを表し、kは波数、rは被測定物の半径(D/2)、J(x)は第一種ベッセル関数、H(1)(=J(x)+iY(x))は第三種ベッセル関数を表し、mは次数である。
【0015】
【数2】

ここで、添字⊥は垂直偏光によるものを表し、J(x)は第一種ベッセル関数を表し、H’(1)(=J(x)+iY(x))は第三種ベッセル関数を表し、mは次数である。
【0016】
ところで、数1、数2で示した計算散乱光強度の式は、繊維編素や蜘蛛の糸のような透明性の高い材質の外径、屈折率の測定に有効であるが、金属系超伝導線のような反射の強い金属などの場合や、カーボンナノチューブなどのような中空試料では、この計算散乱光強度式をより適した式に変えることで、本発明の外径、屈折率の同時測定を行うことができる。
【0017】
次に、測定した測定散乱光強度Iと検出角度θから算出した計算散乱光強度計算σを用いて、数3で示す外径Dと屈折率nを包含する形式の偏差指標U(n,D)を作成する。この偏差指標を外径Dと屈折率nの関数として、偏差指標が最小となる点(n,D)を求め、その場合の外径Dと屈折率nの組み合わせを被測定物の外径および屈折率とする。
【0018】
先ず、この計算は、偏差指標が外径D及び屈折率nの時、I(opt)=bσ(n,D)の場合に最適分布を示し、この最適分布における最適偏差指標U(opt)(n,D)を数3のように表す。
【0019】
【数3】

ここで、Nは測定数、bは入射波強度を表す。
【0020】
次いで、外径Dおよび屈折率nの関数としての偏差指標の集合Gを、G={n,D|U(opt)(n,D)≦U(n,D)}として、その範囲内において、数4からnmin、nmax、Dmin、Dmaxを求める。求めた各値とn、Dとの差、外径に関しては、(Dmin−D,D−D)、屈折率に関しては、(nmin−n,nmax−n)を不確実さと定義し、この値を最小とする点(n、D)を求めることにより、被測定物の外径、屈折率を算出する。
【0021】
【数4】

【0022】
このようにして計算した一例として、外径500nmの繊維編素の偏差指標U(n,D
)を図4(a)、図4(b)に外径Dと屈折率nの関数として示す。図4(a)は、グローバル座標で示したもので、図4(b)は、U(n,D)が最小点を示す座標(n、D)近傍を拡大して示したものである。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例を用いて本発明を説明する。
先ず、被測定物として、外径250nm、200nmの繊維編素、外径150nm、100nm、90nmの蜘蛛の糸を用いた。これらの外径は、予め走査電子顕微鏡(SEM)を用いて実測している。
これらの試料を図2の外径・屈折率測定装置1の支持台5bにセットして、波長λ=534.5nmのレーザ光を投射し、散乱角度θを0度から150度の間で、2度刻みに順次変化させ、その散乱強度を測定し、測定散乱光強度Iとした。
【0024】
次にパーソナルコンピュータに先の散乱角度θと測定散乱光強度Iを入力し、散乱角度θから計算散乱光強度σを求め、測定散乱光強度Iと求めた計算散乱光強度σから偏差指標U(n,D)を計算し、U(n,D)を最小とする値を最適値として求め、その時のDとnを各々外径及び屈折率とした。その結果を表1に実測値と共に記した。なお、測定は、垂直偏光及び水平偏光の両者で行なった。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から明らかなように、本発明により求められた外径は、90nmの細径のナノファイバーにおいても走査電子顕微鏡による実測値と数%以内の値が得られていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る測定方法フローチャート
【図2】外径・屈折率測定装置の一例
【図3】外径・屈折率測定装置の別の一例
【図4】外径500nm試料の外径Dと屈折率nによる偏差指標の変化
【符号の説明】
【0028】
1 外径・屈折率測定装置
2 被測定物(ナノファイバー)
3 光源
3a レーザ光
3b 散乱光
4 偏向装置
5a 検出部
5b 支持台
6 検出器
7 演算部
θ 散乱角度
測定光散乱強度
σ 計算散乱光強度
D 外径
n 屈折率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノファイバーの長さ方向に対して垂直に偏向された垂直偏光を、前記ナノファイバーに投射して得られる所定散乱角度の散乱光による測定散乱光強度と、
前記散乱角度から算出した計算散乱光強度とから、
前記ナノファイバーの外径及び屈折率の関数で表される偏差指標を算出し、この偏差指標を最小とする前記ナノファイバーの外径および屈折率の組み合わせを求めることで、前記ナノファイバーの外径および屈折率を求めることを特徴とするナノファイバーの外径及び屈折率の測定方法。
【請求項2】
ナノファイバーの長さ方向に対して平行に偏向された平行偏光を、前記ナノファイバーに投射して得られる所定散乱角度の散乱光による測定散乱光強度と、
前記散乱角度から算出した計算散乱光強度とから、
前記ナノファイバーの外径及び屈折率の関数で表される偏差指標を算出し、この偏差指標を最小とする前記ナノファイバーの外径および屈折率の組み合わせを求めることで、前記ナノファイバーの外径および屈折率を求めることを特徴とするナノファイバーの外径及び屈折率の測定方法。
【請求項3】
外径および屈折率を測定する前記ナノファイバーの外径が200nm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のナノファイバーの外径および屈折率の測定方法。
【請求項4】
レーザ光を発光する光源部と、
レーザ光を被測定物長さ方向に対して垂直な垂直偏光、若しくは水平な水平偏光とする光偏向部と、
レーザ光の光軸上に、固定状態で備わる被測定物を支持固定する支持台と、
被測定物により散乱されたレーザ光の散乱光強度を検出して外部に出力する検出器を有し、この検出器が所定散乱角度になるように回転し、その散乱角度を外部に出力する検出部と、
前記試料回転ステージと前記検出器より出力される散乱角度および散乱光強度から計算散乱光強度と偏差指標を算出して被測定物の外径及び屈折率を算出する演算部とで、
構成されることを特徴とするナノファイバーの外径および屈折率の測定装置。
【請求項5】
レーザ光を発光する光源部と、
レーザ光を被測定物長さ方向に対して垂直な垂直偏光、若しくは水平な水平偏光とする光偏向部と、
レーザ光の光軸上に、固定状態で備わる被測定物を支持固定する支持台と、
被測定物により散乱されたレーザ光の散乱光強度を検出して外部に出力する検出器が前記支持台の周囲に円周上に、散乱角度となる所定角度で少なくとも2基以上備えられる検出部と、
前記検出器より出力される散乱角度および散乱光強度から計算散乱光強度と偏差指標を算出して被測定物の外径及び屈折率を算出する演算部とで、
構成されることを特徴とするナノファイバーの外径および屈折率の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−242591(P2006−242591A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−54852(P2005−54852)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】