説明

ナノ多孔質薄膜、およびその製造方法

【課題】細孔の周囲を囲む細孔壁の材料が膜厚方向に任意に制御されたナノ多孔質薄膜、およびその製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明によるナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ多孔質薄膜およびその製造方法に関する。より詳しくは、触媒や機能性分子のような物質を担持する担持材料、物質を吸着する吸着材料、物質の分離、検出などに用いる分離、分子認識、センサ材料、物質の輸送、交換に利用される伝導材料、電子デバイスや光デバイス、マイクロデバイスなどに利用するナノ構造材料など、広い範囲で利用可能なナノ多孔質薄膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーの発展は目覚ましく、ナノメートルサイズの構造を持った様々なナノ構造材料が提案されている。中でもナノメートルサイズの空間を有したナノ多孔質材料は、吸着材料や触媒などの担体、物質の分離や認識材料など、多くの産業分野において利用されている。
【0003】
このナノ多孔質材料を作製する方法として、分子を鋳型として用いた製造方法がある。例えば、界面活性剤ミセルを鋳型として作製するメソポーラス材料や、認識対象の分子を鋳型として分子認識部位を形成するモレキュラーインプリンティング法が広く知られている。
【0004】
これらのナノ多孔質材料をさらに機能性材料分野に応用するためには、形態を制御する技術が重要である。例えば、デバイス応用に適した形態制御技術として、ナノ多孔質材料を基板上に薄膜状に形成する技術が重要である。特に、ナノ空間が単層で形成されるレベルの超薄膜形成技術は、機能性材料の担体や、高密度記録材料の実現につながる非常に重要な技術である。
【0005】
例えば、非特許文献1では、デンドリマーを鋳型とし表面ゾルゲル法を利用して多孔質膜を形成する方法が開示されている。この方法により、デンドリマーサイズの細孔を有した膜厚8−10nmの薄膜が基板上に形成されると記載されている。
【0006】
また、非特許文献2では、ペプチドを鋳型とし、表面ゾルゲル法を利用して多孔質膜を形成する方法が開示されている。ここでは、基板上へのペプチドの吸着およびチタニアゲル層の形成を10サイクル繰り返し、膜厚14±3nmの膜を形成し、その分子認識能を評価している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.Huang, Chemical Communications, p.2070 (2002)
【非特許文献2】I.Ichinose, Chemistry Letters, p.104 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1では、多孔質の材質は一種類のみであり、多孔質の形状や配置と多孔質材料のより複雑な制御はされていない。
非特許文献2においても、繰り返し処理により厚膜化が行われているものの、多孔質組織の形状や配置、および多孔質材料についてのより複雑な制御はされていない。
【0009】
そこで、本発明は、上記問題点を鑑みなされたもので、多孔質薄膜、特に細孔の周囲を囲む細孔壁の材料が膜厚方向に任意に制御されたナノ多孔質薄膜、およびその製造方法を提供することを目的とする。さらには、分子認識材料、およびセンサの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜であって、膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とする。尚、前記複数の層領域の少なくとも一つを構成する材料が無機酸化物からなることが好ましい。また、前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料の等電点が異なることが好ましい。また、前記第一の細孔と前記第二の細孔との空間の大きさが異なることが好ましい。
【0011】
また本発明は、認識対象分子と選択的に結合する分子認識材料であって、基体上に保持されたナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜を備え、前記ナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、前記第一の層領域と前記第二の層領域とは、前記基体上から前記膜厚方向に沿ってこの順で有し、前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とする。尚、前記第二の細孔の空間の大きさが前記第一の細孔の空間の大きさより大きいことが好ましい。
【0012】
また、本発明は、検体液中の認識対象分子の有無および/または濃度を検出するセンサであって、検出デバイス上に保持されたナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜を備え、前記ナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、前記第一の層領域と前記第二の層領域とは、前記基体上から前記膜厚方向に沿ってこの順で有し、前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とする。尚、前記検出デバイスがFETデバイスであることが好ましい。
【0013】
また本発明は、ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法であって、第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーとを含む第一の反応溶液を基体に接触させる工程と、前記第一の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーと第二の鋳型分子とを含む第二の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、前記第二の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とする。さらに、前記第一の鋳型分子と前記第二の鋳型分子とが異なる分子であることが好ましい。
【0014】
また本発明は、ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法であって、第一の鋳型分子を含む第一の溶液を基体に接触させ、前記基体上に前記第一の鋳型分子を固定化させた後、第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液を前記基体に接触させる工程と、前記第三の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーと第二の鋳型分子とを含む第二の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、 前記第二の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とする。さらに、前記第一の鋳型分子と前記第二の鋳型分子とが異なる分子であることが好ましい。
【0015】
また本発明は、ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法であって、第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーとを含む第一の反応溶液を基体に接触させる工程と、前記第一の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、第二の鋳型分子を含む第二の溶液を前記第一の重合膜に接触させ、前記第一の重合膜上に前記第二の鋳型分子を固定させた後、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーを含む第四の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、前記第四の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とする。さらに、前記第一の鋳型分子と前記第二の鋳型分子とが異なる分子であることが好ましい。
【0016】
また本発明は、ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法であって、第一の鋳型分子を含む第一の溶液を基体に接触させ、前記基体上に前記第一の鋳型分子を固定化させた後、第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液を前記基体に接触させる工程と、前記第三の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、第二の鋳型分子を含む第二の溶液を前記第一の重合膜に接触させ、前記第一の重合膜上に前記第二の鋳型分子を固定させた後、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーを含む第四の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、前記第四の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とする。さらに、前記第一の鋳型分子と前記第二の鋳型分子とが異なる分子であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、多孔質薄膜、特に細孔の周囲を囲む細孔壁の材料が細孔形状もしくは細孔配置と共に、膜厚方向に任意に制御されたナノ多孔質薄膜、およびその製造方法を提供する。さらには、分子認識材料、およびセンサの提供が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る薄膜の膜構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る細孔を模式的に示す図である。
【図3】本発明に係る細孔配列を模式的に示す図である。
【図4】本発明に係る細孔形状を模式的に示す図である。
【図5】本発明に係る基体上に形成されるナノ多孔質薄膜を模式的に示す図である。
【図6】本発明に係る分子認識材料を搭載したセンサデバイスを模式的に示した図である。
【図7】本発明に係るナノ多孔質薄膜の製造方法を模式的に示した図である。
【図8】検量線を模式的に示した図である。
【図9】FETデバイスの構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、詳細に説明する。
【0020】
まず、ナノ多孔質薄膜について詳細に説明する。
【0021】
本発明に係るナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とする。
【0022】
(ナノ多孔質薄膜の構成)
本発明におけるナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜とは、空間の大きさがナノメートルサイズの細孔を複数有した薄膜である。
【0023】
本発明における細孔は、後述するように分子を鋳型とすることで形成可能となる。この結果、空間の大きさがナノメートルサイズ、すなわち最大径が0.1nm〜1μm、より好ましくは、0.2nm〜100nm、さらに好ましくは0.2nm〜10nmの細孔が形成される。このようなナノメートルサイズの空間は、いわゆる超微粒子や分子のサイズに相当し、これらの物質を細孔内に導入することにより、機能性材料としての応用が可能となる。
【0024】
本発明におけるナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って積層した複数の層領域からなり、前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含む。そして、前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なる。
【0025】
本発明におけるナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って積層した複数の層領域からなる。各々の層領域は単層薄膜からなる。図1は本発明におけるナノ多孔質薄膜の膜構成を模式的に示す断面図である。単層薄膜は膜厚方向に沿って連続的に形成され積層される。積層した複数の層領域とは、図1(a)のように一つの層領域が膜厚方向に沿って連続して形成され、全体として層領域を形成している状態を意味する。尚、複数の層領域とは一対以上の層領域から構成されることを意味し、図1(a)のような一対の構成でも、図1(b)のような一対以上の層領域を有する構成でも構わず、この中に第一の層領域1と第二の層領域2が含まれればよい。また、図1(c)のように、それぞれの膜厚が異なっていてもよい。また、第一の層領域1や第二の層領域2は、それぞれ第一の膜3や第二の膜4からなる。こうした複数の層領域の少なくとも一つを構成する材料は無機酸化物からなることが好ましい。
【0026】
図2(a)のように、第一の膜3は第一の細孔5を、第二の膜4は第二の細孔6を有する。これらの細孔の空間の大きさは前述のナノメートルサイズである。
【0027】
尚、本発明においては、一つの膜内に存在する細孔の大きさは実質的に同一とすることが可能である。つまり、第二の膜には、第一の膜と同じ大きさの細孔が存在する構成にすることも、第二の膜には第一の膜と同じ大きさの孔は存在しない構成にすることもできる。尚、本発明における第一の膜と第二の膜は、積層した複数の膜に含まれていればよく、図2(b)のように該当する部分が複数含まれていてもよい。
【0028】
また、一つの膜内に存在する細孔の配列が図2のように実質的に単層化されている構成とすることも可能である。単層化されている構成とは、薄膜の膜厚方向に、細孔の配置が一列ごとに任意に制御された構成であり、基板表面からの距離と感度が関係するようなセンサに搭載する場合、最も感度の高い領域を効率よく使用することが可能である。
尚、このような細孔配列の単層化は第一の膜、第二の膜両方に適用されている構成(図2)でも、図3のように一方の膜にのみ適用され、もう一方の膜の細孔配列が複層化していても構わない。
【0029】
さらに、第一の細孔と第二の細孔は貫通している。
貫通とは、図2(a)のように一方の膜内に存在する細孔と他方の膜内に存在する細孔とがつながった部位が存在することを意味する。第一の細孔と第二の細孔とは一対一の関係で貫通していても、複数対一、複数対複数で貫通していてもよく、その使用用途に合わせて適宜決めればよい。例えば物質を細孔内に導入し利用する場合は、アクセスパスを増やす観点から複数箇所で貫通していることが好ましい。
【0030】
さらに、本発明においては、第一の膜と第二の膜は材料が異なる。
本発明における異なる材料とは、膜を構成する成分の成分比率や結合状態、官能基などの分布が異なることを指す。これらが異なること、つまり材料が異なることにより、膜により異なる特性を付与することが可能となり、その異なる特性を利用することが可能となる。例えば、等電点の異なる材料によって第一の膜、第二の膜を形成すれば、それぞれの表面電位の組み合わせ(正電荷と正電荷、正電荷と負電荷、負電荷と負電荷)をpHによって自在に制御することが可能となる。例えば、無機酸化物はそれぞれ固有の等電点を有しており、膜を構成する材料に好適である。また、膜ごとの材料が異なることによって、選択的に膜の表面処理を行うことも可能である。このように、薄膜を構成する膜ごとに材料特性を変化させられるという機能は、細孔内に物質を担持、放出する際に好適に利用できる。特に、本発明を分子認識材料に用いセンサに搭載して使用する場合、検体液中の認識対象分子を特異的に認識して細孔内に捕捉した後、さらに非特異吸着物質を除去する際に、この材料特性の差を好適に使用することができる。さらには、導電性、非導電性のような物理的性質の異なる材料を用いることにより、機能性材料としての利用も可能となる。このような材料が異なる膜は後述の本発明によるナノ多孔質薄膜の製造方法において、異なる重合性モノマーを用いることによって形成可能となる。
【0031】
また、異なる鋳型分子を用いても、膜を構成する成分の結合状態、官能基の分布を変えることが可能となる。例えば、後述するモレキュラーインプリンティング法の概念を利用し、鋳型分子と結合(共有結合、または非共有結合)可能な官能基を持ったモノマー(機能性モノマー)を含む重合性モノマーを使用する。その場合、鋳型分子の形状、大きさに対応し、相補的な官能基が相補的な位置に配置された認識サイト(細孔)が形成される。つまり、鋳型分子における官能基配置が異なる場合は、細孔表面の官能基の配置、すなわち官能基の分布も異なる。本発明におけるナノ多孔質薄膜は膜ごとに、このような違いを持つものも含まれる。例えば、光学異性体分子を鋳型分子として用い、第一の膜と第二の膜を作製すれば、膜全体としての組成はほぼ同じであるが、細孔表面の官能基の分布が異なる、つまり、第一の膜と第二の膜とを構成する材料が異なるナノ多孔質薄膜が形成される。多種類の認識対象分子を位置制御しつつ捕捉したい際に好適である。
【0032】
さらに、第一の細孔と第二の細孔は空間の大きさが異なるとよい。
空間の大きさとは、細孔における径の最大値や最小値、形状のいずれかを意味する。空間の大きさが異なる細孔は、後述の製造方法において異なる鋳型分子を用いることで形成される。また、第一の細孔と第二の細孔の空間の大きさの大小関係は限定されるものではなく、例えば本発明によるナノ多孔質薄膜には、図4(a)、(b)どちらの構成も含まれる。細孔の空間の大きさを変えることで、細孔の大きさによって異なる機能を同時に利用することが可能である。例えば、分子認識サイトと分子が通過するパス、物質担持サイトと原料導入パスというように利用することが可能である。また、膜ごとに細孔の大きさが制御されることにより余計な空間を減らせるため、機能分離、高密度化に優れている。
【0033】
本発明に係るナノ多孔質薄膜は、基体上に形成されていることが好ましい。基体上に形成されることにより、強度、耐久性を向上させることが可能である。また、センサや電極など、ナノ多孔質薄膜を保持する基体自体がデバイスであってもよく、基体とは、その形状に制限されるものではない。例えば、平板状のみならず、表面に凹凸を有する基板や粒子形状のものでも構わない。さらには、ナノ多孔質薄膜の搭載量を増やすために、マクロポーラス材料といった細孔サイズの大きな多孔質材料を基体として用いても構わない。また基体上にナノ多孔質薄膜が形成される場合、第一の膜、第二の膜の配置順、第一の細孔と第二の細孔の空間の大きさの大小関係は限定されるものではなく、図5(a)、(b)、(c)のように、いかなる配置も可能である。また、図5(d)のように、基体7上に下地膜8が形成され、その上にナノ多孔質薄膜が保持されていてもよい。また、下地膜を合わせて基体とみなしてもよい。下地膜として、保護膜や密着膜を用いることで、強度、耐久性を上げることができる。
【0034】
次に本発明によるナノ多孔質薄膜を備えた分子認識材料について説明する。
【0035】
(分子認識材料)
特定の分子を特異的に識別、結合する分子認識材料は分離、センサ材料などに広く利用されている。この分子認識材料には、遺伝子、抗体、糖鎖などいわゆる生体材料のみならず、近年では人工的に合成された材料も数多く提案されている。この手法の一つとして、モレキュラーインプリンティング法(分子鋳型重合法)という技術がある。モレキュラーインプリンティング法とは、特異的に認識したい分子(以下、認識対象分子)を鋳型分子として利用する方法である。この方法の一般的な手順を以下に示す。まず、鋳型分子、そしてこの鋳型分子と結合(共有結合、または非共有結合)可能な官能基を持ったモノマー(機能性モノマー)を、反応溶液中で自己集合させ、鋳型分子/機能性モノマーの複合体を作る。その後、機能性モノマーに対して重合反応を行い、鋳型分子との相補性を保ったまま官能基の位置を固定する。最後に、得られた重合体から鋳型分子を抽出、除去する。この結果、鋳型分子の形状、大きさに対応し、さらには相補的な官能基が相補的な位置に配置された認識サイト(細孔)が、重合体に構築される。そして、この認識サイトにより、特異的な分子認識能が発揮されるのである。このモレキュラーインプリンティング法は、原理上、所望の認識対象分子に合わせて容易に認識材料を構築できるという特徴を有し、人工抗体、人工レセプターの製造方法として期待されている。
【0036】
一方、これらの分子認識材料により特異的に結合捕捉された検体液中の認識対象分子を検出するデバイスもQCM、SPR、LSPR、FETなど数多く提案されている。これらの検出デバイスは、分子認識材料が検体液中の認識対象分子を選択的に捕捉したことによる重量変化や屈折率変化、ポテンシャル変化のような物理量変化を捉え、その捕捉を検知する。
【0037】
これらの検出デバイスと分子認識材料を組み合わせることで、いわゆるケミカルセセンサが構築される。
しかしながら上述の検出デバイスは、その検出領域に、非特異的に吸着する非特異吸着物質が存在すると、それによる物理量変化も検知し、結果としてノイズが多くなってしまうという問題があった。また、ケミカルセンサに用いられるこれら検出デバイスの中には、その検出機構により、検体液中の認識対象分子を捕捉する位置がセンサの検出デバイス表面に近ければ近いほどその検出感度が上がるものがある。SPR、LSPR、FETなどがその代表例である。これらの検出デバイスにおいては、センサの検出デバイス表面から離れたところに認識対象分子を捕捉しても感度が上がらない。また、センサの検出デバイス表面に上記非特異吸着物質が存在すると非常に大きなノイズが発生するという問題があった。よって、このような検出デバイスに対してノイズを軽減できる分子認識材料が望まれている。
【0038】
本発明による分子認識材料は、認識対象分子と選択的に結合する分子認識材料であって、基体上に保持されたナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜を備え、前記ナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、前記第一の層領域と前記第二の層領域とは、前記基体上から前記膜厚方向に沿ってこの順で有し、前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とする。
【0039】
図6は、本発明による認識対象分子と選択的に結合する分子認識材料を搭載したセンサデバイスを模式的に示した図である。本発明における基体は検出デバイスである。この検出デバイス上に、上記モレキュラーインプリンティングの概念を利用して第一の細孔を有する第一の膜を形成する。認識対象分子を鋳型分子として形成された認識サイトが、本発明における第一の細孔となる。本発明では、検出デバイス上に保持されたナノ多孔質薄膜内に形成される第一の細孔と第二の細孔は貫通し、前記第一の膜と第二の膜は材料が異なる。
【0040】
例えば、無機酸化物はそれぞれ固有の等電点を有しており、膜を構成する材料に好適である。また、膜ごとの材料が異なることによって、選択的に膜の表面処理を行うことも可能である。このように、薄膜を構成する膜ごとに材料特性を変化させられるという機能は、細孔内に物質を担持、放出する際に好適に利用できるである。特に、本発明を分子認識材料に用いセンサに搭載して使用する場合、検体液中の認識対象分子を特異的に認識して細孔内に捕捉した後、さらに非特異吸着物質を除去する際に、この材料特性の差を好適に使用することができる。さらには、導電性、非導電性のような物理的性質の異なる材料を用いることにより、機能性材料としての利用も可能となる。
【0041】
このように、膜を構成する材料によって異なる特性を利用することが可能となる。例えば、等電点の異なる材料によって第一の膜、第二の膜を形成すれば、それぞれの膜の表面電位の組み合わせ(正電荷と正電荷、正電荷と負電荷、負電荷と負電荷)をpHによって自在に制御することが可能となる。分子認識反応を行う際には、認識対象分子に対して、第一および第二の膜が異なる電荷になるように制御することで、認識対象分子と本発明による分子認識材料は静電的に引き合うことになり、分子認識の反応促進効果を得ることができる。そして、認識反応完了後には、認識対象分子に対して、第二の膜のみ同じ電荷になるようにする。こうして、第二の膜の表面に吸着した認識対象分子と同符号の電荷を有する非特異吸着物質を、電荷反発により除去することができる。その結果、非特異吸着物質による検出デバイスのノイズを低減することが可能となる。
【0042】
尚、第二の細孔の存在も、ノイズ低減効果に寄与する。分子認識反応は、認識対象分子が入った検体液中にこの分子認識材料を接触させることで行われる。この際、基体と反対側に形成された第二の細孔を通過して、選択的に認識対象分子は第一の細孔、即ち認識サイトに捕捉される。よって、第二の細孔が存在することにより非特異吸着物質の多く、特に第二の細孔の空間の大きさより大きな物質は第二の細孔を通過できない。よって、非特異吸着物質によるノイズの低減効果が得られる。こうして、検体液中の認識対象分子の有無および/または濃度を検出できる。また、前述のセンサの検出デバイス表面近傍の感度が高いセンサデバイスを基体に用いた場合は、図6(b)のように検出デバイス上に保持された第二の膜の細孔を多層化し、膜厚を適宜制御するとよい。第二の膜厚を制御し、第二の膜表面とセンサデバイス表面との距離をセンサ感度が低下する距離以上にすることにより、分子認識材料表面、即ち、第二の膜の表面に非特異吸着物質が吸着しても、ノイズを低減することが可能となる。SPRを用いた場合、この距離は以上300nm以上、より好ましくは1μm以上、LSPRを用いた場合は、この距離は50nm以上、より好ましくは100nm以上、FETを用いた場合は、この距離は50nm以上より好ましくは100nm以上である。
【0043】
さらに、本発明に係る分子認識材料は、第二の細孔6の空間の大きさが第一の細孔5の空間の大きさより大きいことが望ましい(図6(c))。この構成にすることによって、前述のノイズ低減効果を得つつ、認識対象分子の第一の細孔へのアクセシビリティを確保することが可能となる。
【0044】
次に、ナノ多孔質薄膜の製造方法について詳細に説明する。
【0045】
(ナノ多孔質薄膜の製造方法)
本発明に係るナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法は、第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーとを含む第一の反応溶液を基体に接触させる工程と、前記第一の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーと第二の鋳型分子とを含む第二の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、前記第二の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とする。
【0046】
本発明に係るナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法は、第一の鋳型分子を含む第一の溶液を基体に接触させ、前記基体上に前記第一の鋳型分子を固定化させた後、第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液を前記基体に接触させる工程と、前記第三の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーと第二の鋳型分子とを含む第二の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、前記第二の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とする。
【0047】
本発明に係るナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法は、第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーとを含む第一の反応溶液を基体に接触させる工程と、前記第一の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、第二の鋳型分子を含む第二の溶液を前記第一の重合膜に接触させ、前記第一の重合膜上に前記第二の鋳型分子を固定させた後、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーを含む第四の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、前記第四の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とする。
【0048】
本発明に係るナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法は、第一の鋳型分子を含む第一の溶液を基体に接触させ、前記基体上に前記第一の鋳型分子を固定化させた後、第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液を前記基体に接触させる工程と、前記第三の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、第二の鋳型分子を含む第二の溶液を前記第一の重合膜に接触させ、前記第一の重合膜上に前記第二の鋳型分子を固定させた後、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーを含む第四の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、前記第四の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とする。
このような製造方法により、本発明に係るナノ多孔質薄膜の製造が可能となる。
【0049】
図7は、本発明に係るナノ多孔質薄膜の製造方法を模式的に示した図である。ナノ多孔質薄膜は膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、この複数の層領域の少なくとも一つを構成する材料が無機酸化物からなることが好ましい。
【0050】
(第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーとを含む第一の反応溶液を基体に接触させる工程)
図7(a)が本工程に相当する模式図である。
本製造方法における鋳型分子とは、後に細孔となる空間を占める分子である。
したがって、第一の鋳型分子は第一の細孔の所望のサイズに合わせて適宜選ばれる。所望のサイズを有する鋳型分子としては、デンドリマーやデンドロンが好適である。ポリアミドアミン(PAMAM)構造をもつデンドリマーは、様々なサイズのデンドリマーが市販されており、1nm〜30nm程度の大きさの細孔を形成する場合に好適に用いられる。また生体材料であるタンパク質分子も様々な大きさを有しており、数nm〜数十nmの大きさの細孔を形成する際に、好適に用いられる。
【0051】
また、前述の認識対象分子と選択的に結合する分子認識材料として本発明によるナノ多孔質薄膜を使用する場合は、第一の細孔は分子認識サイトとして働くものであり、第一の鋳型分子は検体中の認識対象分子そのもの、もしくはその認識対象分子の大きさ、化学構造等に合わせて選択される。
【0052】
第一の重合性モノマーとは、第一の重合膜を形成する原料である。重合により、薄膜状の第一の重合膜16が形成される。よって、この重合法には薄膜形成が可能な方法が好ましく、有機反応であれば、反応を制御できるリビングラジカル重合、無機反応であれば、ゾルゲル法や液相析出法が好ましく用いられる。特にゾルゲル法は、スピンコート法、ディップコート法、表面ゾルゲル法により薄膜化可能な方法であり、好適である。ゾルゲル法に用いられる重合モノマーとしては、金属アルコキシド、金属有機酸塩、硝酸塩、塩化物のような金属化合物が挙げられ、本発明においても好適に用いられる。
尚、第一の重合膜は本発明によるナノ多孔質薄膜の第一の膜となるものである。
【0053】
そして、前述の認識対象分子と選択的に結合する分子認識材料に、本発明によるナノ構造薄膜を使用する場合は、第一の膜に形成される第一の細孔は分子認識サイトとして働くことが好ましい。よって、第一の重合性モノマーは、鋳型分子に対して相補的な官能基を有し、機能性モノマーとしても働くものであることが好ましい。例えば、シラン剤は種々の官能基を有する化合物が市販されており、ゾルゲル法に使用する重合性モノマーとして好適である、例示すると、アルキルアルコキシシラン、アミノアルコキシシラン、ビニルアルコキシシランなどが挙げられる。尚、これらのモノマーや前述の重合性モノマーを複数混合し、その混合体を第一の重合性モノマーとして用いてもよい。
【0054】
本工程においては、第一の鋳型分子10の存在下で、第一の重合性モノマーを含む第一の反応溶液12を基体7に接触させればよい。よって、第一の鋳型分子10と第一の重合性モノマーとを混合した第一の反応溶液12を基体7に塗布するとよい(図7(a))。この場合、溶媒に対する第一の鋳型分子および第一の重合性モノマーの濃度、第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーとの混合比を適宜調整することで、第一の膜の厚さ、および第一の膜内の細孔の配列(単層もしくは複層)、細孔密度が制御可能となる。
【0055】
また、第一の鋳型分子10を含む第一の溶液を基体7に接触させ、基体7上に第一の鋳型分子10を固定化させた後、第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液14を基体7に塗布してもよい(図7(b))。この場合、第一の鋳型分子を基体に固定化する際は、単なる吸着反応により行ってもよく、基体と第一の鋳型分子とをスペーサ―分子を介して化学結合させてもよい。
【0056】
第一、および第三の反応溶液には溶媒が含まれる。前者の方法であれば、第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーを、後者の方法であれば第一の重合性モノマーを溶解することが可能であり、基板に塗布可能な溶媒が適宜選ばれる。また、この溶媒は後述の図7(c)の工程において除去される。よって、乾燥によって容易に除去が可能なアルコール類、トルエン、アセトニトリルのような有機溶媒が含まれることが好ましい。
【0057】
尚、こうした工程を行う前に、基体表面に下地膜を形成してもよい。下地膜の形成により、後の工程で行う鋳型分子の固定化の効率が上がる。また、分子認識材料にも同一の材料を用いる場合、下地膜と細孔を形成する薄膜との材料が同一となることで、下地膜にも相互的な官能基を形成することが可能となり、細孔(分子認識サイト)と認識対象分子との親和性を上げることもできる。これらの場合、下地膜を形成した基体を基体として使用することが好ましい。
【0058】
(第一または第三の反応溶液の溶媒を除去し、第一の重合性モノマーを重合させ、基体上に第一の重合膜を形成する工程)
図7(c)が、本工程に相当する模式図である。
まず、基体7上に塗布された第一の反応溶液12または第三の反応溶液14の溶媒が除去される。溶媒除去は乾燥により行うことが好ましい。乾燥により、溶媒のみを選択的に除去することが可能となる。
さらに第一の重合性モノマーは基体7上で重合し、基体7上に第一の重合膜16を形成する。ゾルゲル法を用いた場合、前述の第一の重合性モノマーは、加水分解反応、縮合反応を経て、無機重合体を形成する。これらの反応速度は、温度、湿度などの環境やpH、水分量、用いる重合性モノマーの種類などの反応液の組成、混合比により制御することが可能である。
【0059】
尚、ゾルゲル法の中でも、基体上に重合性モノマーを付与し所定の溶剤を用いて洗浄する表面ゾルゲル法という方法がある。この表面ゾルゲル法はオングストローム、乃至はナノメートル単位の厚さの超薄膜層を形成することが可能であり、本発明にも好適に用いられる。特に、基体に第一の鋳型分子を含む第一の溶液を塗布し、基体上に第一の鋳型分子を固定化し、その後に第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液を基体に塗布する方法を用いる場合には、好適である。第一の鋳型分子を固定化した基体を、第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液に浸漬する。所定の時間後、基体を取り出し、所定の溶剤で基体表面を洗浄する。この洗浄によって、余分な第一の重合性モノマーは洗い流される。この後、乾燥により溶媒除去を行い、基体上に第一の重合膜を形成する。但し、この表面ゾルゲル法を用いる場合、一度に形成される重合膜の厚さは非常に薄く、鋳型分子の大きさによっては、十分に周りを取り囲めない。この場合、図7(a)または(b)の工程と図7(c)の工程とを、即ち第一の重合性モノマーを含む反応溶液への浸漬、洗浄、乾燥を複数回繰り返すとよい。
【0060】
(前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーと第二の鋳型分子とを含む第二の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程)
図7(d)が本工程に相当する模式図である。
本工程においては、第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーを用い、第二の鋳型分子の存在下で、第二の重合性モノマーを含む第二の反応溶液13を第一の重合層16の表面に接触させれば、本工程における操作は、図7(a)の工程と同様の操作でよい。よって、第二の鋳型分子と第二の重合性モノマーとを混合した第二の反応溶液を第一の重合膜に塗布するとよい。
【0061】
また、第二の鋳型分子11を含む第二の溶液を第一の重合膜16に接触させ、第一の重合膜16上に第二の鋳型分子11を固定化させた後、第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーを含む第四の反応溶液15を第一の重合膜16に塗布してもよい(図7(e)。
【0062】
また、第一の鋳型分子と第二の鋳型分子とは同一のものでも異なるものでもよい。
但し、分子認識材料として本発明によるナノ多孔質薄膜を使用する場合は、第二の鋳型分子は第一の鋳型分子より大きな分子であることが好ましい。
【0063】
(前記第二または第四の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程)
図7(f)が、本工程に相当する模式図である。
第一の重合膜16上に第二の重合膜17を形成すれば、本工程における操作は図7(c)の工程と同様の操作でよい。
【0064】
(前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程)
図7(g)が、本工程に相当する模式図である。
本工程は、第一および第二の鋳型分子10、11を第一および第二の重合膜16、17から除去する工程である。本工程により、これら重合膜内には第一および第二の細孔5、6が形成される。
【0065】
よって、本工程における除去法は鋳型分子を好適に除去できる手法であれば、限定されるものではない。例えば、光照射やオゾン曝露、熱処理による鋳型分子の分解などが挙げられる。これらの方法は鋳型分子の除去率が高く好ましい。
また、有機溶剤、酸、アルカリ液による抽出によっても除去は可能である。これらの溶剤抽出法は、重合膜の材料に合わせて適宜溶剤を選択することにより、重合膜を変質させないで鋳型分子を除去することが可能である。
【0066】
分子認識材料として本発明によるナノ多孔質薄膜を用いる場合は、鋳型分子の形状、大きさに対応して細孔(分子認識サイト)表面に配置された相補的な官能基の存在が重要である。よって、重合膜の変質の可能性の低い溶剤抽出法が好ましい。
また、これらの手法を複数組み合わせて用いても構わない。
【0067】
以下、実施例を用いてさらに詳細に本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、材料、組成条件、反応条件など、同様な機能、効果を有するナノ多孔質薄膜が得られる範囲で自由に変えることができる。
【実施例1】
【0068】
本実施例は、実質的に同一の大きさの細孔が単層化して配列した多孔質薄膜を形成する例である。本実施例で示す多孔質薄膜は、本発明によるナノ多孔質薄膜の構成の基本となる膜である。
【0069】
(薄膜作製)
本実施例では、2種類の基体を用いた。
1種類はシリコン基板である。まず、シリコン基板の表面をアセトン、イソプロピルアルコール、および純水で洗浄し、オゾン発生装置中で10分間UV照射し、基板表面をクリーニングした。
もう1種類はシリコン基板上に金をスパッタし表面に100nm厚の金層を形成した金基板である。この金基板に上記シリコン基板と同様な洗浄処理を行った。さらに、この金基板を10mMメルカプトエタノールのエタノール溶液に一晩浸漬し、エタノールで十分に洗浄し、さらに窒素ブローにより乾燥させた。以上の操作で、金基板表面に水酸基を形成した。
【0070】
次に反応溶液を調製した。鋳型分子には末端基がOH基であるPAMAMデンドリマーの第四世代を用い、重合性モノマーにはチタンブトキシドを用いた。
まず、トルエンとエタノールとの1:1混合溶媒を調製し、この混合溶媒に0.05mMの濃度でデンドリマーを混合し、撹拌した。次に、チタンブトキシドを10mMの濃度で混合した。こうして反応溶液を作製した。
【0071】
次に、スピンコート法によりこの反応溶液をシリコン基板、および金基板上に塗布し、これら基板表面と反応溶液とを接触させた。スピンコート条件は、500rpmで5秒間、続けて3000rpmで60秒間であった。このスピンコート操作の間に反応溶液の溶媒は蒸発し除去された。また、反応溶液に含まれていた水分や、空気中の水分により、チタンブトキシドの加水分解、脱水縮合が進み、シリコン基板、および金基板上には重合膜が形成された。
【0072】
次に、鋳型分子の除去処理として、重合膜が形成されたシリコン基板、金基板それぞれに対して、オゾン発生装置中で10分間UV照射を行った。
【0073】
(薄膜分析)
上記方法で金基板上に形成された薄膜に対し、高感度反射赤外分光測定(IRRAS)を行った。鋳型分子の除去処理前の薄膜については、デンドリマー由来の吸収ピークとチタン酸化物由来の吸収ピークが確認された。さらに、除去処理を行うことで、デンドリマーに由来する吸収ピーク強度が減少した。このことより、本実施例における鋳型分子の除去処理によって、鋳型分子が除去されることが確認される。
【0074】
(細孔観察)
上記方法でシリコン基板上に形成された薄膜の表面、および断面に対して電子顕微鏡観察を行った。直径約5nmの複数の細孔を有する薄膜がSi基板上に形成されることが確認された。さらに、それぞれの細孔が独立して存在している状態も確認された。また、細孔が薄膜に対して単層化している状態が観察された。
【0075】
以上の結果より、本実施例では、本発明によるナノ多孔質薄膜の構成の基本となる、実質的に同一の大きさの細孔が単層化して配列した多孔質薄膜が形成されることが確認された。
【実施例2】
【0076】
本実施例は、実質的に同一の大きさの細孔が単層化して配列した多孔質薄膜を形成する別の例である。本実施例で示す多孔質薄膜は、本発明によるナノ多孔質薄膜の構成の基本となる膜である。
【0077】
(薄膜作製)
本実施例では、実施例1と同様に2種類の基板を用いた。洗浄方法も実施例1と同様である。
次に下地膜形成用の反応溶液を調製した。まず、トルエンとエタノールとの1:1混合溶媒を調製し、チタンブトキシドを100mMの濃度で混合して反応溶液とした。
次にシリコン基板および金基板表面に下地膜を形成した。洗浄したシリコン基板、および金基板を前記反応溶液に3分間浸漬した。その後、トルエンに浸漬し、エタノールで洗浄することで、余分な反応溶液を除去した。さらに窒素ブローにより乾燥させた。反応溶液中に含まれる水や空気中の湿気から供給される水により、チタンブトキシドの加水分解は進み、さらに脱水縮合により重合が進む。尚、トルエンへの浸漬後、もしくは窒素ブロー後に、水や水飽和トルエンに1分程度浸漬して、より積極的にこの加水分解、縮合反応を進めてもよい。浸漬から乾燥までのプロセスを数回繰り返し、シリコン基板および金基板上にチタン酸化物からなる下地膜を形成した。
本実施例では、このような下地膜を表面に形成したシリコン基板と金基板を基体として用いる。
【0078】
次に、末端基がOH基であるPAMAMデンドリマーの第四世代を鋳型分子に用い、このデンドリマーの1wt%溶液(溶媒は、エタノール、メタノール混合溶媒)を調製した。基体をこのデンドリマー溶液に20分間浸漬してデンドリマーを基体表面に吸着させた。さらにメタノールによる洗浄、窒素ブローによる乾燥を行った。
【0079】
次に、下地膜形成に用いた反応溶液と同様な反応溶液を調製した。下地膜形成工程と同様な方法で、基体を反応溶液に浸漬し、トルエン、エタノールで洗浄した。さらに窒素ブローにより乾燥させた。この浸漬から乾燥までのプロセスを数回繰り返して、基体上に重合膜を形成した。
【0080】
次に、鋳型分子の除去処理として、重合膜が形成されたシリコン基板、金基板それぞれに対して、オゾン発生装置中で10分間UV照射を行った。
【0081】
(薄膜分析)
上記方法で金基板上に形成された薄膜に対し、高感度反射赤外分光測定(IRRAS)を行った。鋳型分子吸着後の薄膜については、デンドリマー由来の吸収ピークとチタン酸化物由来の吸収ピークが確認された。重合後、鋳型分子の除去処理前の薄膜については、デンドリマー由来の吸収ピークとチタン酸化物由来の吸収ピークが確認された。尚、チタン酸化物由来の吸収ピーク強度は、鋳型分子吸着後と比較して増大することも確認された。さらに、鋳型分子の除去処理を行うことで、デンドリマーに由来する吸収ピーク強度が減少することも確認された。このことより、本実施例では、鋳型分子存在下で重合膜が形成され、さらに鋳型分子除去処理によって、鋳型分子が除去されていることが確認された。
【0082】
(細孔観察)
上記方法でシリコン基板上に形成された薄膜の表面、および断面に対して電子顕微鏡観察を行った。直径約5nmの複数の細孔を有する薄膜がSi基板上に形成されることが確認される。さらに、それぞれの細孔が独立して存在している状態も確認された。また、細孔が薄膜に対して単層化している状態が観察された。
【0083】
以上の結果より、本実施例では、本発明によるナノ多孔質薄膜の構成の基本となる、実質的に同一の大きさの細孔が単層化して配列した多孔質薄膜が形成されることが確認された。
【実施例3】
【0084】
本実施例は、基体上にナノ多孔質薄膜を形成し、分子認識材料、およびセンサを作製する例である。
【0085】
(水晶発振子基板)
本実施例では、基体に水晶発振子(以下QCMチップ)を用いた。
QCMとは、水晶振動子をセンサとして微小重量変化を測定する方法であり、水晶振動子の電極表面に物質が付着すると、その物質の質量に応じて共振周波数が変動する(下がる)。本実施例では、金で被覆した水晶発振子を基体として用いた。
【0086】
(分子認識材料の作製)
まず、基体であるQCMチップの前処理を行った。濃硫酸:過酸化水素水を3:1で混合し、ピラニア洗浄液を調製した。次に、QCMチップの金表面にこのピラニア洗浄液を滴下した後、5分間静置し、純水で十分に洗浄した。この操作を3回繰り返し、窒素ブローにより乾燥させた。次に、このQCMチップを10mMメルカプトエタノールのエタノール溶液に一晩浸漬し、エタノールで十分に洗浄し、さらに窒素ブローにより乾燥させた。以上の操作で、金表面に水酸基を形成した。
【0087】
次に下地膜形成用の反応溶液を調製した。重合性モノマーをチタンブトキシドとし、実施例2の下地膜形成用の反応溶液と同様な方法で調製した。さらに、実施例2と同様な方法で、下地膜形成用の反応溶液をQCMチップの金表面上に塗布し、反応溶液の溶媒を除去した。チタンブトキシドを重合させ、QCMチップの金表面上に下地膜を形成した。
本実施例では、このような下地膜を表面に形成したQCMチップを基体として用いた。
【0088】
次に、第一の重合膜を形成した。後に認識対象分子となるアルギニンを第一の鋳型分子とした。アルギニンは等電点10.8の塩基性アミノ酸である。このアルギニンの水溶液を調製した。このアルギニン溶液に基体を10分間浸漬してアルギニンを基体の下地膜表面に吸着させた。この際、アルギニン水溶液を弱アルカリ性にし、先に形成した下地膜の表面を負電荷側に帯電させるとよい。さらに純水で洗浄し、乾燥させた。
【0089】
次に、下地膜形成に用いた反応溶液と同様な方法で第一の反応溶液を調製し、基体を第一の反応溶液に3分間浸漬した。トルエン、エタノールで洗浄した後に、水に1分間浸漬し、アルコキシドの加水分解縮合を促進させた。さらに窒素ブローにより第一の反応溶液を乾燥させた。この浸漬から乾燥までのプロセスを数回繰り返して、基体の下地膜上に第一の重合膜を形成した。
【0090】
次に第二の反応溶液を調製した。第二の反応溶液には、第二の鋳型分子に第一の鋳型分子と同じアルギニンを、第二の重合性モノマーにアルミニウムブトキシドを用いた。トルエンとエタノールとの1:1の混合溶媒にこのアルギニンを混合し、さらにアルミニウムブトキシドを混合することで第二の反応溶液を調製した。
【0091】
次にスピンコート法により、この第二の反応溶液を第一の重合膜が形成された基体上に塗布し、第二の反応溶液の溶媒を除去した。アルミニウムブトキシドを重合させ、第一の重合膜の表面に第二の重合膜を形成した。
【0092】
次に、上述のように、第一および第二の鋳型分子の除去処理として、オゾン発生装置中で10分間UV照射を行った。
【0093】
以上の操作により、基体上にナノ多孔質薄膜が形成された。尚、本実施例では、第一の重合性モノマーにチタンブトキシド、第二の重合性モノマーにアルミニウムブトキシドを使用している。それぞれの重合により形成されるチタン酸化物とアルミニウム酸化物とは異なる等電点を有し、チタン酸化物の等電点は6付近、アルミニウム酸化物の等電点は9付近である。
【0094】
(ケミカルセンサのノイズの検証)
比較例として、第二の重合膜を形成せずに第一の重合膜のみ形成し、鋳型分子の除去処理を行った多孔質膜1を同様な基体上に作製し、比較材料1とした。
【0095】
ケミカルセンサを使用する際のノイズについては、本実施例による分子認識材料と比較材料1を使用して、認識対象分子と非特異吸着物質との両方が混合された検体液中から認識対象分子の検出を行うことで検証される。本実施例では、検体液に、認識対象分子であるアルギニンと、非特異吸着物質として等電点が11付近で塩基性タンパクである卵白リゾチームとを混合した水溶液を用いた。
【0096】
まず、比較材料1が表面に形成されたQCMチップの乾燥状態での共振周波数を測定し、その値を初期値とした。次に、アルギニンと卵白リゾチームを混合し、pH10に調整した液に比較材料1を加えた。10分間浸漬した後に、比較材料1を洗浄液1(pH10に調整)で数回洗浄し、乾燥させた。そして、再び比較材料1の共振周波数を測定し、その周波数が安定したところで、その値を結合値1とし、初期値との差を算出した。この差を周波数変化ΔF1とし、ΔF1がアルギニンと卵白リゾチームとの吸着量に相当する。その後、比較材料1を洗浄液2(pH7.5に調整)で数回洗浄し、乾燥させた。そして、再度比較材料1の共振周波数を測定し、その周波数が安定したところで、その値を結合値2とし、初期値との差を算出した。この差を周波数変化ΔF2とし、ΔF2がアルギニンおよび卵白リゾチームの洗浄後の吸着量に相当する。その後、比較材料1をアルカリ(1wt%NH水溶液)、酸(pH5の塩酸)で洗浄し、吸着物質を除去した。除去の完了は、除去後の乾燥時の共振周波数が初期値に戻ることで確認される。
【0097】
以上の操作を卵白リゾチームの濃度は一定にし、アルギニンの濃度のみを変えて複数点測定を行い、アルギニンの濃度に対して結合値2をプロットした検量線を作成した。(図8)
【0098】
次に本実施例による分子認識材料が表面に形成されたQCMチップに対しても同様に検量線を作成した。
検量線において、濃度と結合値とが線形関係にある領域が濃度検出可能範囲、低濃度側でその関係性の崩れる領域が濃度検出不可能範囲、濃度検出可能範囲の低濃度側における濃度検出不可能範囲との境目の濃度が検出下限値である。
【0099】
比較材料1はチタン酸化物からなるため、洗浄液1(pH10)および、洗浄液2(pH7.5)による洗浄中は、その表面電位は負電荷である。一方、アルギニンの等電点は10.8付近、卵白リゾチームの等電点は11.2付近であるため、この洗浄液中では正電荷を帯びている。よって、これらの分子は、認識サイトに結合されたものも、認識サイト以外の表面に非特異的に結合したものも、除去されにくかった。
一方、本実施例による分子認識材料においては、第二の重合層がアルミニウム酸化物であり、洗浄液2(pH7.5)での洗浄中は正電荷を帯びる。よって、認識サイト以外の表面に非特異的に結合したものは、除去されやすくなる。この結果、非特異吸着量が減った。
これらは、本実施例による分子認識材料を用いた場合の検出下限値が、比較材料1を用いた場合の検出下限値より低いことから確認された。
【0100】
以上の操作により、本発明による分子認識材料によるノイズ低減の効果が確認された。
【実施例4】
【0101】
本実施例は基体上にナノ多孔質薄膜を形成し、分子認識材料、およびセンサを作製する例である。
【0102】
(FETデバイス基板)
本実施例では、基体にFETデバイス基板を用いた。
FETデバイス基板とは、半導体基板18に、ソース領域19、ドレイン領域20、チャネル領域21、ゲート絶縁膜22が形成されている図9のような構造を有するデバイスである。FETデバイス基板の製造方法には公知の方法を適用することが可能である。例えば、(100)の方位を有するp型シリコン基板を使用し、n型半導体を形成する不純物(例えばリン)を熱拡散法またはイオン注入法などにより拡散または注入しソース領域とドレイン領域とを形成し、乾燥酸素雰囲気中での熱処理やCVD法によるシリコン窒化膜の形成などによりゲート絶縁膜を形成する、といった一般的なFETの製造方法を用いることが可能である。
本実施例では、FETデバイス基板を基体として用い、ゲート絶縁膜上に本発明による分子認識材料を形成した。
【0103】
ソース領域、およびドレイン領域は図示しない電極、および電気回路に接続され、検体液中の認識対象分子がゲート絶縁膜上の分子認識材料に捕捉されると、ソース・ドレイン間の電流値が変化する。よって、この変化を測定することで、本実施例による分子認識材料を搭載したFETデバイスを検体液中の認識対象分子の有無および/または濃度を検出するケミカルセンサとして使用することが可能となる。
【0104】
(分子認識材料の作製)
まず、オゾン発生装置中で10分間UV照射しFETデバイス基板表面をクリーニングした。
次に下地膜形成用の反応溶液を調製した。重合性モノマーをチタンブトキシドとし、実施例2の下地膜形成用の反応溶液と同様な方法で調製した。
さらに、実施例2と同様な方法で、下地膜形成用の反応溶液をゲート絶縁膜上に塗布し、溶媒を除去した。チタンブトキシドを重合させ、ゲート絶縁膜上に下地膜を形成した。
本実施例では、このような下地膜を表面に形成したFETデバイス基板を基体として用いた。
【0105】
次に、後に認識対象分子となるアルギニンを第一の鋳型分子とした。アルギニンは等電点10.8の塩基性アミノ酸である。このアルギニンの水溶液を調製した。このアルギニン溶液に基体を10分間浸漬してアルギニンを基体表面に吸着させた。この際、アルギニン水溶液を弱アルカリ性にし、先に形成した下地膜の表面を負電荷側に帯電させるとよい。さらに純水で洗浄し、乾燥させる。
【0106】
次に、下地膜形成に用いた反応溶液と同様な方法で第一の反応溶液を調製し、基体を第一の反応溶液に3分間浸漬した。トルエン、エタノールで洗浄した後に、水に1分間浸漬し、チタンブトキシドの加水分解縮合を促進させた。さらに窒素ブローにより乾燥させた。こうして、第一の反応溶液の溶媒を除去した。この浸漬から乾燥までのプロセスを数回繰り返して、基体上に第一の重合膜を形成した。
【0107】
次に第二の反応溶液を調製した。第二の反応溶液は、第二の鋳型分子には末端基がOH基であるPAMAMデンドリマーの第二世代、および重合性モノマーにはアルミニウムブトキシドを用いた。トルエンとエタノール1:1の混合溶媒にこのデンドリマーを混合し、さらにアルミニウムブトキシドを混合することで第二の反応溶液を調製した。
【0108】
次に、スピンコート法により、この第二の反応溶液を第一の重合膜が形成された基体上に塗布し、第二の反応溶液の溶媒を除去した。アルミニウムブトキシドを重合させ、第一の重合膜の表面に第二の重合膜を形成した。
【0109】
以上の操作により、基体上にナノ多孔質薄膜が形成される。尚、本実施例では、第一の鋳型分子にアルギニン、第二の鋳型分子にPAMAMデンドリマーの第二世代を使用している。アルギニンは、第二世代デンドリマーより小さな分子であり、これら異なる鋳型分子を用いて重合膜を膜厚方向に沿って積層することにより、空間の大きさの異なる細孔が形成される。本実施例では、基体側に形成される第一の細孔はアルギニンを鋳型としており、基体と反対側に形成される第二の細孔は第二世代デンドリマーを鋳型としているため、第二の細孔の空間の大きさは第一の細孔の空間の大きさより大きい。これは電子顕微鏡観察により確認された。
また、第一の細孔は認識対象分子を鋳型として作製され、この第一の細孔が分子の認識サイトになる。特に本実施例では、基体、即ちFETデバイス基板の表面に近い領域に分子の認識サイトが形成される。これは表面に近い領域の感度が高いFETデバイスには好適である。
【0110】
(ケミカルセンサのノイズの検証)
比較例として、第二の重合膜を形成せずに第一の重合膜のみ形成し、鋳型分子の除去処理を行った多孔質膜2を同様な基体上に作製し、比較材料2とした。
【0111】
ケミカルセンサを使用する際のノイズについては、本実施例による分子認識材料と比較材料2を使用して、認識対象分子と非特異吸着物質との両方が混合された検体液中から認識対象分子の検出を行うことで検証される。本実施例では、検体液に、認識対象分子であるアルギニンと、非特異吸着物質として卵白リゾチームとを混合した水溶液を用いた。
【0112】
まず、比較材料2が表面に形成されたFETデバイスをリン酸緩衝溶液に浸漬した。このあと、緩衝溶液にアルギニン溶液を注入した。さらに、緩衝溶液に卵白リゾチーム溶液を注入した。この間、ソース・ドレイン間の電流変化を測定した。同様な操作を分子認識材料が表面に形成されたFETデバイスに対しても行った。アルギニン溶液を注入したときの電流変化量と卵白リゾチーム溶液を注入したときの電流変化量との比率を、比較材料2と本実施例による分子認識材料とについて比較することで、ノイズの影響が検証される。比較材料2では、卵白リゾチーム溶液を入れた際の電流変化(ノイズに相当)が大きいが、本実施例による分子認識材料では小さかった。
【0113】
以上の操作により、本発明による分子認識材料によるノイズ低減の効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0114】
触媒や機能性分子のような物質を担持する担持材料、物質を吸着する吸着材料、物質の分離、検出などに用いる分離、分子認識、センサ材料、物質の輸送、交換に利用される伝導材料、電子デバイスや光デバイス、マイクロデバイスなどに利用するナノ構造材料などの広い範囲で利用可能である。
【符号の説明】
【0115】
1. 第一の層領域
2. 第二の層領域
3. 第一の膜
4. 第二の膜
5. 第一の細孔
6. 第二の細孔
7. 基体
8. 下地膜
9. 担持物質
10.第一の鋳型分子
11.第二の鋳型分子
12.第一の反応溶液
13.第二の反応溶液
14.第三の反応溶液
15.第四の反応溶液
16.第一の重合膜
17.第二の重合膜
18.半導体基板
19.ソース領域
20.ドレイン領域
21.チャネル領域
22.ゲート絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜であって、
膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、
前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、
前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、
前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とするナノ多孔質薄膜。
【請求項2】
前記複数の層領域の少なくとも一つを構成する材料が無機酸化物からなることを特徴とする請求項1に記載のナノ多孔質薄膜。
【請求項3】
前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料の等電点が異なることを特徴とする請求項1に記載のナノ多孔質薄膜。
【請求項4】
前記第一の細孔と前記第二の細孔との空間の大きさが異なることを特徴とする請求項1に記載のナノ多孔質薄膜。
【請求項5】
認識対象分子と選択的に結合する分子認識材料であって、
基体上に保持されたナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜を備え、
前記ナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、
前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、
前記第一の層領域と前記第二の層領域とは、前記基体上から前記膜厚方向に沿ってこの順で有し、
前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、
前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とする分子認識材料。
【請求項6】
前記第二の細孔の空間の大きさが前記第一の細孔の空間の大きさより大きいことを特徴とする請求項5に記載の分子認識材料。
【請求項7】
検体液中の認識対象分子の有無および/または濃度を検出するセンサであって、
検出デバイス上に保持されたナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜を備え、
前記ナノ多孔質薄膜は、膜厚方向に沿って複数の層領域を有し、
前記複数の層領域は、第一の細孔を有する第一の層領域と第二の細孔を有する第二の層領域とを含み、
前記第一の層領域と前記第二の層領域とは、前記基体上から前記膜厚方向に沿ってこの順で有し、
前記第一の細孔と前記第二の細孔は貫通し、
前記第一の層領域と前記第二の層領域とを構成する材料が異なることを特徴とするセンサ。
【請求項8】
前記検出デバイスがFETデバイスであることを特徴とする請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法であって、
第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーとを含む第一の反応溶液を基体に接触させる工程と、
前記第一の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、
前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーと第二の鋳型分子とを含む第二の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、
前記第二の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、
前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とするナノ多孔質薄膜の製造方法。
【請求項10】
ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法であって、
第一の鋳型分子を含む第一の溶液を基体に接触させ、前記基体上に前記第一の鋳型分子を固定化させた後、第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液を前記基体に接触させる工程と、
前記第三の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、
前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーと第二の鋳型分子とを含む第二の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、
前記第二の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、
前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とするナノ多孔質薄膜の製造方法。
【請求項11】
ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法であって、
第一の鋳型分子と第一の重合性モノマーとを含む第一の反応溶液を基体に接触させる工程と、
前記第一の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、
第二の鋳型分子を含む第二の溶液を前記第一の重合膜に接触させ、前記第一の重合膜上に前記第二の鋳型分子を固定させた後、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーを含む第四の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、
前記第四の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、
前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とするナノ多孔質薄膜の製造方法。
【請求項12】
ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質薄膜の製造方法であって、
第一の鋳型分子を含む第一の溶液を基体に接触させ、前記基体上に前記第一の鋳型分子を固定化させた後、第一の重合性モノマーを含む第三の反応溶液を前記基体に接触させる工程と、
前記第三の反応溶液の溶媒を除去し、前記第一の重合性モノマーを重合させ、前記基体上に第一の重合膜を形成する工程と、
第二の鋳型分子を含む第二の溶液を前記第一の重合膜に接触させ、前記第一の重合膜上に前記第二の鋳型分子を固定させた後、前記第一の重合性モノマーとは異なる第二の重合性モノマーを含む第四の反応溶液を前記第一の重合膜に接触させる工程と、
前記第四の反応溶液の溶媒を除去し、前記第二の重合性モノマーを重合させ、前記第一の重合膜上に第二の重合膜を形成する工程と、
前記第一および第二の鋳型分子を除去する工程とを含むことを特徴とするナノ多孔質薄膜の製造方法。
【請求項13】
前記第一の鋳型分子と前記第二の鋳型分子とが異なる分子であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載のナノ多孔質薄膜の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−246163(P2012−246163A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−117959(P2011−117959)
【出願日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】