ノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板
【課題】伝導ノイズおよび放射ノイズの発生が抑えられ、かつ薄肉化が可能なノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板を提供する。
【解決手段】第1の導体層11、第1の絶縁層14、ノイズ抑制層13、第2の絶縁層15、第2の導体層12を有し、ノイズ抑制層13が第1の導体層11と電磁結合する、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの層であり、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層13と第2の導体層12とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接するノイズ抑制構造体10;該ノイズ抑制構造体10を具備する多層プリント回路基板。
【解決手段】第1の導体層11、第1の絶縁層14、ノイズ抑制層13、第2の絶縁層15、第2の導体層12を有し、ノイズ抑制層13が第1の導体層11と電磁結合する、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの層であり、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層13と第2の導体層12とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接するノイズ抑制構造体10;該ノイズ抑制構造体10を具備する多層プリント回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット利用の普及に伴い、パソコン、情報家電、無線LAN、ブルートゥース、光モジュール、携帯電話、携帯情報端末、高度道路情報システム等、準マイクロ波帯(0.3〜10GHz)の高いクロック周波数を持つCPU、高周波バスを利用した電子機器、電波を利用した情報通信機器が普及してきており、高速デジタル化および低電圧駆動化によるデバイスの高性能化を必要とするユビキタス社会が訪れてきている。
【0003】
しかし、これら機器の普及に伴って、これら機器から放射される放射ノイズおよび機器内の導体を伝導する伝導ノイズがもたらす、自身または他の電子機器への誤作動が問題とされてきている。例えば、多層プリント回路基板においては、該基板に実装された半導体素子内の多数のトランジスタが同時に駆動すると、不要な高周波電流が電源層やグランド層に流れ込み、電位変動が発生する。該電位変動が原因となって、電源層やグランド層において同時スイッチングノイズが発生する。さらに、電源層およびグランド層が、周端部が開放した平行平板構造をとるため、電位変動が原因となって電源層とグランド層との間に共振が発生し、該周端部から放射ノイズが放射される。
【0004】
放射ノイズを抑制する方法としては、(i)電磁波を反射する電磁波シールド材を用いる方法、(ii)空間を伝搬する電磁波を吸収する電磁波吸収材を用いる方法がある。また、伝導ノイズおよび放射ノイズを抑制する方法としては、(iii)伝導ノイズおよび放射ノイズとなる前に、導体中を流れる高周波電流を抑制する方法がある。
【0005】
しかし、(i)の方法の場合、放射ノイズのシールド効果は得られるものの、シールド材による放射ノイズの不要輻射または反射によって放射ノイズが自身に戻ってきてしまう。(ii)の方法の場合、電磁波吸収材(例えば、特許文献1、2参照)が重く、厚く、かつ脆いため、小型化、軽量化が求められる機器には不向きである。また、(i)、(ii)の方法では、伝導ノイズを抑制できない。そのため、最近では(iii)の方法に注目が集まっている。
【0006】
特許文献3には、電源層およびグランド層を構成する銅箔上に、高抵抗金属膜を形成することが開示されている。高抵抗金属膜は、メッキにより形成された、銅よりも抵抗率の高いニッケル、コバルト、錫、タングステン等の単層膜または合金膜であり、半導体素子がスイッチングしたとしても、電源層およびグランド層の電位変動を安定化することができ、また、高周波電流を高抵抗金属膜により除去するため、外部に放射される不要な電磁波(放射ノイズ)を抑制できるとされている。
【0007】
しかし、例えばニッケル等の加工性のよい金属は抵抗が小さいため、充分な効果が得られない。また、タングステン等の抵抗の高い金属は、加工が非常に難しく、半導体素子周囲のように複雑かつ微細なパターンを形成する必要がある部位に用いることはできず、実用的ではない。また、放射ノイズの抑制も充分とは言えない。
【0008】
特許文献4には、電源層とグランド層との間で、かつ多層プリント回路基板の周端部に、カーボン、グラファイト等の抵抗体を設けた多層プリント回路基板が開示されている。
しかし、周端部に抵抗体を設けただけでは、周端部のインピーダンスが変化して共振周波数が変化するだけであり、多層プリント回路基板の別の箇所の電界強度、磁界強度が高まってしまう。よって、依然として共振に起因する放射ノイズ等を抑制できず、さらなる対策が必要となる。
【0009】
特許文献5には、誘電体シートを2つの導電性フォイルで挟んだコンデンサ積層体を備え、2つの導電性フォイルがそれぞれ異なるデバイスに電気的に接続された構造を有する容量性印刷配線基板が開示されている。
しかし、コンデンサ積層体はある程度の厚みを有するため、容量性印刷配線基板を厚くしなければならず、高密度実装には不向きである。また、容量性印刷配線基板を厚くすると、平行平板構造を有する導体間で共振が生じやすくなるため、放射ノイズを充分に抑制できない。
【特許文献1】特開平9−93034号公報
【特許文献2】特開平9−181476号公報
【特許文献3】特開平11−97810号公報
【特許文献4】特許第2867985号公報
【特許文献5】特許第2738590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって本発明の目的は、伝導ノイズおよび放射ノイズの発生が抑えられ、かつ薄肉化が可能なノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のノイズ抑制構造体は、第1の導体層と、第2の導体層と、第1の導体層と第2の導体層との間に設けられたノイズ抑制層と、第1の導体層とノイズ抑制層との間に設けられた第1の絶縁層と、第2の導体層とノイズ抑制層との間に設けられた第2の絶縁層とを有し、ノイズ抑制層が、第1の導体層と電磁結合する、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの層であり、ノイズ抑制層と第1の導体層とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層と第1の導体層とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層と第2の導体層とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接することを特徴とする。
【0012】
ノイズ抑制層の面積は、第2の導体層の面積と実質的に同じであることが好ましい。
本発明のノイズ抑制構造体は、第1の導体層11の周縁部に領域(I)を有し、第1の導体層11が存在する領域であって、かつ第1の導体層11とノイズ抑制層13とが対向しない領域である領域(III)を有することが好ましい。
第1の導体層は、複数に分割されていてもよい。
第1の絶縁層の厚さは、0.05〜25μmが好ましい。
第1の絶縁層の比誘電率は、2以上が好ましい。
ノイズ抑制層は、金属材料または導電性セラミックスが存在しない欠陥を有することが好ましい。
【0013】
下記式(1)から求めた領域(I)の平均幅は、0.1mm以上が好ましい。
領域(I)の平均幅〔mm〕=領域(I)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(1)。
下記式(2)から求めた領域(II)の平均幅は、1〜50mmが好ましい。
領域(II)の平均幅〔mm〕=領域(II)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(2)。
【0014】
本発明の多層プリント回路基板は、本発明のノイズ抑制構造体を具備することを特徴とする。
本発明の多層プリント回路基板においては、第1の導体および第2の導体のいずれか一方が電源層であり、他方がグランド層であることが好ましい。
本発明の多層プリント回路基板は、さらに信号伝送層を有し、信号伝送層とノイズ抑制層との間には、電源層またはグランド層が存在することが好ましい。
本発明の多層プリント回路基板においては、ノイズ抑制構造体が、容量性積層体としても機能することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板は、伝導ノイズおよび放射ノイズの発生が抑えられ、かつ薄肉化が可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<ノイズ抑制構造体>
図1は、本発明のノイズ抑制構造体の一例を示す断面図であり、図2は上面図である。ノイズ抑制構造体10は、第1の導体層11と、第2の導体層12と、第1の導体層11と第2の導体層12との間に設けられたノイズ抑制層13と、第1の導体層11とノイズ抑制層13との間に設けられた第1の絶縁層14と、第2の導体層12とノイズ抑制層13との間に設けられた第2の絶縁層15とを有する。
【0017】
ノイズ抑制構造体10においては、ノイズ抑制層13が、第1の導体層11と電磁結合する。電磁結合とは、第1の導体層11に流れる電流によって発生する磁束がノイズ抑制層13に鎖交することによって電圧を誘起する現象である。本発明においては、ノイズ抑制層13が、第1の導体層11と電気的に接続せず、第1の絶縁層14を介して電磁結合することが必要である。また、ノイズ抑制構造体10においては、ノイズ抑制層13が、第2の導体層12と電磁結合することが好ましい。
【0018】
また、ノイズ抑制構造体10においては、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層13と第2の導体層12とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接している。
【0019】
ノイズ抑制構造体10は、互いに隣接する領域(I)および領域(II)を有することにより、ノイズ抑制効果を発揮する。この理由は、以下のように考えられる。
ノイズ抑制層13は、後述のマイクロクラスターのような微細な導電パスを有している。該導電パスは、領域(II)においては第2の導体層12上に配置された微細かつ複雑な複数のオープンスタブ構造となる。該オープンスタブ構造が、隣接する領域(I)において第1の導体層11と電磁結合することによって、伝送線路フィルターとして機能しているものと考えられる。
【0020】
よって、領域(II)においては、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向せず、かつノイズ抑制層13と第2の導体層12とが対向している必要があり、また、領域(I)においては、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向し、かつノイズ抑制層13が第1の導体層11と電磁結合する必要がある。
【0021】
領域(I)において、ノイズ抑制層13が第1の導体層11と充分に電磁結合するためには、下記式(1)から求めた領域(I)の平均幅は、0.1mm以上が好ましい。
領域(I)の平均幅〔mm〕=領域(I)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(1)。
領域(I)の平均幅の上限は、第1の導体層11の大きさに依存し、任意の値となる。
【0022】
領域(I)と領域(II)との境界線の長さは、ノイズ抑制層13および第2の導体層12がノイズ抑制構造体10全面に存在する場合、図3に示すように、第1の導体層11が存在する領域(I)と、第1の導体層11が存在しない、第1の絶縁層14が表面に露出した領域(II)との境界線(図中、太線の符号16)の長さである。
【0023】
また、下記式(2)から求めた領域(II)の平均幅は、1〜50mmが好ましい。
領域(II)の平均幅〔mm〕=領域(II)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(2)。
領域(II)の平均幅が1mm以上であれば、充分なノイズ抑制効果が得られる。また、100MHz以下の低周波におけるノイズ抑制効果が発揮される。なお、領域(II)の平均幅が50mmを超えても、ノイズ抑制効果の割には、領域(II)の面積が増えすぎ、ノイズ抑制構造体10が必要以上に大きくなりすぎて、高密度実装に影響を与える。また、第1の導体層11のインピーダンスが上昇するおそれがある。
【0024】
また、ノイズ抑制層13だけ、または第2の導体層12だけが広くても、領域(II)の面積を充分に確保できず、ノイズ抑制効果は小さい。領域(II)の面積を充分に確保するためには、ノイズ抑制構造体10において、ノイズ抑制層13および第2の導体層12の両方が最大限の広さとなることが好ましい。また、領域(II)の面積を充分に確保するためには、ノイズ抑制層13の面積は、第2の導体層12の面積と実質的に同じ(第2の導体層12の面積の80〜100%)であることが好ましい。
【0025】
図4のノイズ抑制構造体10は、第1の導体層11の周縁部に領域(I)を有し、第1の導体層11が存在する領域であって、かつ第1の導体層11とノイズ抑制層13とが対向しない領域である領域(III)を有する例である。第1の導体層11に流れる高周波電流は、縁端効果により周縁部に集中しているため、ノイズ抑制層13は、第1の導体層11の周縁部において効率よく電磁結合できる。また、領域(III)を有すれば、ノイズ抑制層13と絶縁されたスルーホールまたはビアホールを形成しやすくなる。また、スルーホールまたはビアホールによって領域(I)の面積、すなわちノイズ抑制効果が影響を受けない。
【0026】
図5のノイズ抑制構造体10は、第1の導体層11が2分割されて、第1の導体層11aと第1の導体層11bとなった例である。このように第1の導体層11が分割されていれば、領域(II)が狭い場合であっても、第1の導体層11aにおいては、第1の導体層11bの領域を領域(II)と見なすことができ、領域(II)に制約がある場合でも、充分なノイズ抑制効果を得ることができる。同様に、第1の導体層11bにおいても、第1の導体層11aの領域を領域(II)と見なすことができる。第1の導体層11の分割は、デジタル回路とアナログ回路との違い、周波数の違い、電圧の違い、機能の違い等により実施される。
【0027】
(導体層)
各導体層としては、金属箔;金属粒子を高分子バインダー、ガラス質バインダー等に分散させた導電粒子分散体膜等が挙げられる。金属としては、銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、タングステン等が挙げられる。
各導体層は、多層プリント回路基板においては、信号伝送層、電源層またはグランド層となる層あり、通常、銅箔である。銅箔の厚さは、通常3〜35μmである。銅箔は、絶縁層との接着性を向上させるために、粗面化処理、またはシランカップリング剤等による化成処理が施されていてもよい。
【0028】
(ノイズ抑制層)
ノイズ抑制層13は、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの薄膜である。
ノイズ抑制層13の厚さが5nm以上であれば、充分なノイズ抑制効果が得られる。ノイズ抑制層13の厚さが300nm以下であれば、後述のマイクロクラスターが成長して金属材料等からなる均質な薄膜が形成されることがない。均質な薄膜が形成された場合、表面抵抗が小さくなって、金属反射が強まり、ノイズ抑制効果も小さくなる。
ノイズ抑制層13の厚さは、ノイズ抑制層の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像(例えば、図8)をもとにして、5箇所のノイズ抑制層(色の濃い部分)の厚さを電子顕微鏡像上で測定し、平均することにより求める。
【0029】
ノイズ抑制層13の表面抵抗は、1×100 〜1×104 Ωが好ましい。ノイズ抑制層13が均質な薄膜の場合、体積抵抗率の高い限られた材料が必要となるが、材料の体積抵抗率がそれほど高くない場合は、ノイズ抑制層13に金属材料または導電性セラミックスが存在しない物理的な欠陥を設け、不均質な薄膜とすること、または後述のマイクロクラスターの連鎖物とすることによって、表面抵抗を上昇させることができる。ノイズ抑制層13の表面抵抗は、以下のように測定する。
石英ガラス上に金等を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、該電極上に被測定物を置き、被測定物上に、大きさ10mm×20mmを50gの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定する。この値を持って表面抵抗とする。
【0030】
金属材料としては、強磁性金属、常磁性金属が挙げられる。強磁性金属としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル;これらの合金等が挙げられる。常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、それらの合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。これらのうち、酸化に対して抵抗力のある点で、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、貴金属が好ましい。しかし、貴金属は高価であるため、実用的にはニッケル、鉄クロム合金、タングステンが好ましく、ニッケルまたはニッケル合金が特に好ましい。
【0031】
導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素とからなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、窒化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化タングステン、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ケイ化クロム、ケイ化ジルコニウム等が挙げられる。
【0032】
導電性セラミックスは、金属よりも体積抵抗が高いため、導電性セラミックスを含むノイズ抑制層は、特性インピーダンスを低下させ過ぎない。よって、ノイズ抑制層における金属反射が少なくなる。また、導電性セラミックスは、特定の共鳴周波数を有さないため、ノイズ抑制効果を発揮する周波数が広帯域化する。さらに、化学安定性が高く、保存安定性が高い等の利点を有する。導電性セラミックスとしては、後述の物理的蒸着法において、窒素ガス、メタンガス等の反応性ガスを用いることによって容易に得られる窒化物または炭化物が、特に好ましい。
【0033】
ノイズ抑制層13の形成方法としては、通常の湿式メッキ法、物理的蒸着法、化学的蒸着法等が挙げられる。これらの方法においては、条件や用いる材料によっても異なるが、薄膜の成長を初期の段階で終了することにより、均質な薄膜とならず、微細な物理的な欠陥を有する不均質な薄膜を形成できる。または、均質な薄膜を酸等によりエッチングして欠陥を形成する方法、レーザーアブレーションにより均質な薄膜に欠陥を形成する方法によっても、不均質な薄膜を形成できる。
【0034】
図6は、絶縁層の表面に物理的蒸着法によって形成された金属材料からなるノイズ抑制層の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像であり、図7は、その模式図である。ノイズ抑制層13は、複数のマイクロクラスター17の集合体として観察される。マイクロクラスター17は、第1の絶縁層14(または第2の絶縁層15)上に金属材料等が非常に薄く物理的に蒸着されて形成されたものであり、マイクロクラスター17の間には物理的な欠陥があって均質な薄膜になっていない。マイクロクラスター17が互いに接触して集団化して連鎖を形成しているものの、集団化したマイクロクラスター17の間には、金属材料等の存在しない欠陥が多く存在している。
【0035】
図8は、ノイズ抑制層の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。図6、図8から、非常に小さな結晶として数Å間隔の金属原子が配列された結晶格子(マイクロクラスター)、および非常に小さい範囲で金属材料等が存在しない欠陥が認められる。すなわち、マイクロクラスター同士の間隔が空いた状態であり、金属材料等からなる均質な薄膜には成長していない。このような物理的な欠陥を有する状態は、ノイズ抑制層13の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1 (Ω・cm)と金属材料(または導電性セラミックス)の体積抵抗率R0 (Ω・cm)(文献値)との関係から確認できる。すなわち、体積抵抗率R1 と体積抵抗率R0 とが、0.5≦logR1 −logR0 ≦3を満足する場合に、優れたノイズ抑制効果が発揮される。
【0036】
ノイズ抑制層13は、所望の形状にパターン加工されていてもよく、スルーホール等のアンチビアが形成されていてもよい。ノイズ抑制層13は、通常のエッチング法、レーザーアブレーション法等により所望のパターン形状に加工できる。
【0037】
(絶縁層)
絶縁層は、表面抵抗が1×106 Ω以上の誘電体からなる層である。
絶縁層の材料は、誘電体であれば、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。
【0038】
無機材料としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、発泡セラミックスが挙げられる。なお、絶縁層が、セラミックス等の硬い材料の場合、マイクロクラスターが凝集し、均質な薄膜を形成しやすい状態にあるが、金属材料等の質量を低く抑えて薄膜を形成することにより、マイクロクラスターが凝集しにくくなり、欠陥を有する不均質な薄膜となる。
【0039】
有機材料としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリシラザン、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリレート、塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレン等の樹脂;天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム;ブチル系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の非ジエン系ゴム等が挙げられる。有機材料は、熱可塑性であっても、熱硬化性であってもよく、その未硬化物であってよい。また、上記の樹脂、ゴム等の変性物、混合物、共重合体であってもよい。
【0040】
絶縁層が有機材料からなる場合は、有機高分子のモルフォロジーによりナノレベルで複雑な表面構造を有しているため、マイクロクラスターの凝集が抑えられ、不均一なマイクロクラスターの集合体の構造を維持しやすく、ノイズ抑制効果の大きいノイズ抑制層を得ることができる。
絶縁層としては、クラスターとの密着性の点、およびマイクロクラスターの凝集、成長を阻害し、マイクロクラスターの分散を安定化させる点から、金属との共有結合が可能となる酸素、窒素、硫黄等の元素を含む基を表面に有するもの、表面に紫外線、プラズマ等を照射して表面を活性化したものが好ましい。酸素、窒素、硫黄等の元素を含む基としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、アミド基、チオール基、スルホン基、カルボニル基、エポキシ基、イソシアネート基、アルコキシ基等の親水性基が挙げられる。
【0041】
第1の絶縁層14の厚さは、第1の導体層11をノイズ抑制の対象とするためには、第2の絶縁層15より薄くすることが好ましい。また、第1の絶縁層14の厚さは、0.05〜25μmが好ましい。第1の絶縁層14の厚さが0.05μm以上であれば、ノイズ抑制層13と第1の導体層11との絶縁性が確保され、ノイズ抑制効果が充分に発揮される。また、分割された第1の導体層11(例えば図5の第1の導体層11aおよび11b)が短絡することがない。また、第1の導体層11をエッチングする際、ノイズ抑制層13をエッチング液等から保護できる。第1の絶縁層14の厚さが25μm以下であれば、ノイズ抑制層13が第1の導体層11と充分に電磁結合する。また、ノイズ抑制構造体10を薄肉化できる。
【0042】
第1の絶縁層14の比誘電率は、2以上が好ましく、2.5以上がより好ましい。第1の絶縁層14の比誘電率が2以上であれば、第1の絶縁層14の誘電率が大きくなり、ノイズ抑制層13が第1の導体層11と充分に電磁結合する。現在利用可能な材料において、比誘電率の最大値は100000である。
また、第2の絶縁層15にも、高い誘電率を有する材料を用いた場合、ノイズ抑制構造体10を、第1の導体層11と第2の導体層12とからなる容量性積層体と見なすことができる。容量性積層体としての機能も有すれば、1GHz以下等の低周波側においては、従来から効果があるバイパスコンデンサを併用した場合と同様の効果が得られる、よって、ノイズ抑制構造体10は、低い周波数から十数GHzの高い周波数まで幅広い範囲でノイズ抑制効果を発揮できる。誘電率を大きくする以外の方法で容量性積層体の容量を大きくするためには、第1の導体層11の面積を広くする、または第1の導体層11と第2の導体層12との間隔を狭くすればよい。
【0043】
絶縁層の形成方法は、材料にあった通常の方法を用いることができる。セラミックスの場合は、ゾルゲル法、スパッタリング等のPVD法、CVD法等が挙げられる。有機材料の場合は、樹脂溶液を導体層上に直接スピンコート法、スプレーコート法等によりコートする方法、離型性のある基材にグラビアコートした絶縁層を導体層上に転写する方法等が挙げられる。
【0044】
以上説明したノイズ抑制構造体10にあっては、ノイズ抑制層13が、第1の導体層11と電磁結合する、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの層であり、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層13と第2の導体層12とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接するため、優れたノイズ抑制効果が発揮される。
また、ノイズ抑制層13は非常に薄いため、ノイズ抑制構造体10が嵩張ることがなく、ノイズ抑制構造体10を薄肉化できる。
【0045】
本発明のノイズ抑制構造体を電子部品中に組み込むことによって、伝導ノイズの原因となる、電子部品の導体層中を流れる高周波電流を抑制でき、その結果、放射ノイズも未然に抑制できる。電子部品とは、信号伝送、電源、グランド等に用いられる導体を具備するものであり、電子部品としては、例えば、半導体素子、該半導体素子等の電子素子が実装されたシステムインパッケージ(SIP)などの半導体パッケージ、およびプリント回路基板等が挙げられる。特に、半導体素子を実装した多層プリント回路基板においては、信号伝送層に流れる波形の品質(SI、Signal Integrity)を維持することが求められている一方、低消費電力化に伴い、電源電圧の低下が求められており、伝送信号のSN比が悪くなってきている。このため電源を安定化すること(PI、Power Integrity)が必要となり、高周波電流の抑制が求められている。本ノイズ抑制構造体を多層プリント回路基板に適用することは有用である。
【0046】
<多層プリント回路基板>
本発明の多層プリント回路基板は、本発明のノイズ抑制構造体を具備するものである。ノイズ抑制構造体における導体は、多層プリント回路基板においては、信号伝送層、電源層またはグランド層である。ノイズ抑制効果を充分に発揮させるためには、第1の導体層および第2の導体層のいずれか一方が電源層であり、他方がグランド層であることが好ましい。また、ノイズ抑制層は、高周波成分を抑制するため、信号伝送層の高速パルス信号を劣化させてしまうおそれがある。よって、信号伝送層とノイズ抑制層との間には、電源層またはグランド層が存在することが好ましい。
【0047】
信号伝送層、電源層、グランド層の厚さは、通常、銅箔の厚さであり、3〜35μmである。第2の絶縁層となるプリプレグまたは接着シートの厚さは、通常、3μm〜1.6mmである。多層プリント回路基板の薄肉化の要求から、いずれの層も薄くなる傾向にある。
【0048】
多層プリント回路基板は、例えば以下のようにして製造される。
銅箔上にエポキシ系ワニス等を塗布し、乾燥、硬化させ、第1の絶縁層が形成された電源層を得る。第1の絶縁層上にノイズ抑制層を形成し、該ノイズ抑制層を、所望のパターン形状となるようエッチングする。
ついで、ノイズ抑制層上に、エポキシ樹脂等をガラス繊維等に含浸させてなるプリプレグおよび銅箔を積層し、プリプレグを硬化させ、電源層とグランド層とを有するコア(ノイズ抑制構造体)を作製する。
ついで、フォトリソグラフィー法等により、コア上の電源層またはグランド層を、所望のパターン形状となるようにエッチングする。その後、電源層およびグランド層の両外面に銅箔をプリプレグで貼り合わせ信号伝送層をそれぞれ形成し、4層のプリント回路基板を完成させる。
【0049】
図9は、本発明の多層プリント回路基板の一例を示す断面図である。該多層プリント回路基板20は、上から順に、信号伝送層21、絶縁層22、グランド層23(第2の導体層12)、絶縁層24(第2の絶縁層15)、ノイズ抑制層13、絶縁層25(第1の絶縁層14)、電源層26(第1の導体層11)、絶縁層27、信号伝送層28を有して構成される。信号伝送層21と信号伝送層28とは、スルーホール31を介して接続され、電源ライン32と電源層26とは、ビアホール33を介して接続され、グランドライン34とグランド層23とは、ビアホール35を介して接続されている。電源ライン32およびグランドライン34には、半導体素子等の電子部品41およびバイパスコンデンサ42が搭載されている。
【0050】
多層プリント回路基板20にあっては、ノイズ抑制構造体10を具備するため、ノイズ抑制層13と電源層26(第1の導体層11)とが対向している領域が領域(I)となり、ノイズ抑制層13と電源層26(第1の導体層11)とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層13とグランド層23(第2の導体層12)とが対向している領域が領域(II)となる。そして、領域(I)および領域(II)が隣接しているため、高周波電流が抑えられて電源層26の電位が安定化し、結果、同時スイッチングノイズ等の伝導ノイズ、および共振による放射ノイズが抑えられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示す。
(ノイズ抑制層の厚さ)
日立製作所製、透過型電子顕微鏡H9000NARを用いてノイズ抑制層の断面を観察し、5箇所のノイズ抑制層の厚さを測定し、平均した。
【0052】
(S21パラメーター測定)
アンリツ社製、ベクトルネットワークアナライザー37247Dを用いて、試験片のSMAコネクタ間のSパラメーターを測定した。
【0053】
(電圧測定)
アドバンテスト社製、トラッキングジェネレータ付スペクトラムアナライザーR3132を用い電源層の電圧を測定した。
【0054】
(実施例1)
厚さ18μmの銅箔(第1の導体層)上にエポキシ系ワニスを塗布し、乾燥、硬化させ、厚さ3μmの第1の絶縁層を形成した。第1の絶縁層の表面抵抗は8×1012Ωであった。
ついで、第1の絶縁層の全面に、窒素ガス雰囲気下でニッケル金属を反応性スパッタリング法により物理的に蒸着し、窒化ニッケルを含む厚さ30nmの不均質なノイズ抑制層を形成した。ノイズ抑制層の表面抵抗は97Ωであった。
【0055】
ノイズ抑制層上に、厚さ100μmのエポキシ系プリプレグ(第2の絶縁層、表面抵抗6×1014Ω)および厚さ18μmの銅箔(第2の導体層)を積層し、プリプレグを硬化させ、2層基板を作製した。
該2層基板から74mm×160mmの大きさの試験片を切り出し、該試験片の第1の導体層の銅箔の長手方向に沿った両側部をエッチングし、図10に示すような、領域(II)の平均幅(L)が1.5mmのノイズ抑制構造体10を得た。
【0056】
図11に示すように、ノイズ抑制構造体10の長手方向の両末端に、第1の導体層11および第2の導体層12に繋がるSMAコネクタ51を搭載し、SMAコネクタ51にベクトルネットワークアナライザー52を接続して、周波数50MHzから10GHzまでの400点でSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図12に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。
【0057】
(比較例1)
ノイズ抑制層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。実施例1と同様にして該2層基板から試験片を切り出し、実施例1と同様にして第1の導体層の銅箔をエッチングした。実施例1と同様にして該試験片のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図12に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。実施例1の擬似積分値と比較例1の疑似積分値の差(絶対値)を表1に示す。該絶対値が大きい程、実施例1のノイズ抑制構造体10のノイズ抑制効果が高い。
【0058】
(実施例2)
図10に示す領域(II)の平均幅(L)を9mmとした以外は、実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10を得た。実施例1と同様にして該ノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図13に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。
【0059】
(比較例2)
ノイズ抑制層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。実施例1と同様にして該2層基板から試験片を切り出し、実施例2と同様にして第1の導体層の銅箔をエッチングした。実施例1と同様にして該試験片のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図13に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。実施例2の擬似積分値と比較例2の疑似積分値の差(絶対値)を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
図10に示す領域(II)の平均幅(L)を18mmとした以外は、実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10を得た。実施例1と同様にして該ノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図14に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。
【0061】
(比較例3)
ノイズ抑制層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。実施例1と同様にして該2層基板から試験片を切り出し、実施例3と同様にして第1の導体層の銅箔をエッチングした。実施例1と同様にして該試験片のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図14に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。実施例3の擬似積分値と比較例3の疑似積分値の差(絶対値)を表1に示す。
【0062】
(比較例4)
実施例1における試験片の第1の導体層の銅箔をエッチングしなかった。図10に示す領域(II)の平均幅(L)が0mmである試験片について、実施例1と同様にしてSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図15に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。
【0063】
(比較例5)
ノイズ抑制層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。実施例1と同様にして該2層基板から試験片を切り出した。試験片の第1の導体層の銅箔をエッチングしなかった。実施例1と同様にして該試験片のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図15に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。比較例4の擬似積分値と比較例5の疑似積分値の差(絶対値)を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果から、第1の導体層11が小さく、領域(II)の平均幅(L)が大きくなるほど、ノイズ抑制効果が高いことがわかる。領域(II)がない比較例4では、ノイズ抑制効果が全く認められない。
【0066】
(実施例4)
ノイズ抑制層の厚さを20nmにした以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。該2層基板から100mm×200mmの大きさの試験片を切り出し、該試験片の第1の導体層の銅箔の長手方向に沿った両側部をエッチングし、図10に示すような、領域(II)の平均幅(L)が30mmのノイズ抑制構造体10を得た。なお、各層を積層する前には、第1の導体層、第2の導体層およびノイズ抑制層に、スルーホールと接触しないためのアンチビアをあらかじめ形成しておいた。
【0067】
ノイズ抑制構造体10の第1の導体層11を電源層とし、第2の導体層12をグランド層とした。電源層およびグランド層の両外面に、厚さ18μmの銅箔を、厚さ50μmのエポキシ系プリプレグで貼り合わせ信号伝送層をそれぞれ形成し、図16および図17に示すように、信号伝送層を所定形状にエッチングした。
図16および図17に示すように、アンチビアにスルーホール31を形成することによって、信号伝送層21からスルーホール31を通って信号伝送層28に渡り、再びスルーホール31を通って信号伝送層21に戻る構造を有するインピーダンス50Ωの信号ライン60を形成し、多層プリント回路基板20を得た。
入力用SMAコネクタを信号ライン60およびグランド層23に接続し、出力用SMAコネクタを電源層26およびグランド層23に接続した。トラッキングジェネレータ付のスペクトラムアナライザーを用いて、信号ライン60に50MHzから3GHzの信号を入力し、そのときの電源層26の電圧変動を測定した。測定結果を図18に示す。
【0068】
(比較例6)
領域(II)の平均幅(L)を0mmとした以外は、実施例4と同様にして多層プリント回路基板を得た。実施例4と同様にして電源層の電圧変動を測定した。測定結果を図18に示す。
実施例4と比較例6とを比較すると、電源層(第1の導体層)が小さく、領域(II)の平均幅(L)が大きい場合は、高周波信号による電源層の励振を抑制できた。領域(II)がない比較例6では、ノイズ抑制効果が全く認められなかった。
【0069】
(実施例5)
図19の断面図に示すように、幅25mm×長さ60mm×厚さ12μmの第1の導体層11と、幅60mm×長さ60mm×厚さ12μmの第2の導体層12と、幅60mm×長さ60mm×厚さ0.1μmの第1の絶縁層14(表面抵抗2×109 Ω)と、幅60mm×長さ60mm×厚さ50μmの第2の絶縁層15(表面抵抗3×1014Ω)とを有するノイズ抑制構造体10を作製した。
ノイズ抑制層13は、領域(II)の平均幅(L)が3mmとなり、領域(III)の平均幅(M)が0mmとなり、厚さが15nmとなるように、第1の絶縁層14上に銀をエレクトロンビーム(EB)蒸着法により物理的に蒸着させて形成した。ノイズ抑制層13の表面抵抗は55Ωであった。
実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図20に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。該擬似積分値と、ノイズ抑制層を形成しなかった場合の疑似積分値との差(絶対値)を表2に示す。
【0070】
(実施例6)
領域(III)の平均幅(M)が15mmとなるようにノイズ抑制層13を形成した以外は、実施例5と同様にしてノイズ抑制構造体10を得て、実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図20に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。該擬似積分値と、ノイズ抑制層を形成しなかった場合の疑似積分値との差(絶対値)を表2に示す。
【0071】
(実施例7)
領域(III)の平均幅(M)が23mmとなるようにノイズ抑制層13を形成した以外は、実施例5と同様にしてノイズ抑制構造体10を得て、実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図20に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。該擬似積分値と、ノイズ抑制層を形成しなかった場合の疑似積分値との差(絶対値)を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2の結果から、少なくとも第1の導体層11の周縁部に領域(I)を有すれば、領域(I)の平均幅(N)の大きさに影響されることなく、ノイズ抑制効果を発揮することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板は、IC、LSI等の半導体素子、電子部品内の電源層、これら電子部品に電源供給や信号伝送を行う多層プリント回路基板として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のノイズ抑制構造体の一例を示す断面図である。
【図2】図1のノイズ抑制構造体の上面図である。
【図3】領域(I)と領域(II)との境界線を説明するためのノイズ抑制構造体の上面図である。
【図4】本発明のノイズ抑制構造体の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明のノイズ抑制構造体の他の例を示す断面図である。
【図6】ノイズ抑制層の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像である。
【図7】図6の模式図である。
【図8】図6のノイズ抑制層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図9】本発明の多層プリント回路基板の一例を示す断面図である。
【図10】実施例におけるノイズ抑制構造体を示す断面図である。
【図11】Sパラメーター測定システムを示す構成図である。
【図12】実施例1および比較例1におけるS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図13】実施例2および比較例2におけるノイズ抑制構造体のS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図14】実施例3および比較例3におけるS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図15】比較例4および比較例5におけるS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図16】実施例における多層プリント回路基板を示す断面図である。
【図17】図16におけるXVII−XVII断面図である。
【図18】実施例4および比較例6の電源層の電圧変動を示すグラフである。
【図19】実施例におけるノイズ抑制構造体の他の例を示す断面図である。
【図20】実施例5〜7におけるS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
10 ノイズ抑制構造体
11 第1の導体層
12 第2の導体層
13 ノイズ抑制層
14 第1の絶縁層
15 第2の絶縁層
20 多層プリント回路基板
23 グランド層
24 絶縁層
25 絶縁層
26 電源層
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インターネット利用の普及に伴い、パソコン、情報家電、無線LAN、ブルートゥース、光モジュール、携帯電話、携帯情報端末、高度道路情報システム等、準マイクロ波帯(0.3〜10GHz)の高いクロック周波数を持つCPU、高周波バスを利用した電子機器、電波を利用した情報通信機器が普及してきており、高速デジタル化および低電圧駆動化によるデバイスの高性能化を必要とするユビキタス社会が訪れてきている。
【0003】
しかし、これら機器の普及に伴って、これら機器から放射される放射ノイズおよび機器内の導体を伝導する伝導ノイズがもたらす、自身または他の電子機器への誤作動が問題とされてきている。例えば、多層プリント回路基板においては、該基板に実装された半導体素子内の多数のトランジスタが同時に駆動すると、不要な高周波電流が電源層やグランド層に流れ込み、電位変動が発生する。該電位変動が原因となって、電源層やグランド層において同時スイッチングノイズが発生する。さらに、電源層およびグランド層が、周端部が開放した平行平板構造をとるため、電位変動が原因となって電源層とグランド層との間に共振が発生し、該周端部から放射ノイズが放射される。
【0004】
放射ノイズを抑制する方法としては、(i)電磁波を反射する電磁波シールド材を用いる方法、(ii)空間を伝搬する電磁波を吸収する電磁波吸収材を用いる方法がある。また、伝導ノイズおよび放射ノイズを抑制する方法としては、(iii)伝導ノイズおよび放射ノイズとなる前に、導体中を流れる高周波電流を抑制する方法がある。
【0005】
しかし、(i)の方法の場合、放射ノイズのシールド効果は得られるものの、シールド材による放射ノイズの不要輻射または反射によって放射ノイズが自身に戻ってきてしまう。(ii)の方法の場合、電磁波吸収材(例えば、特許文献1、2参照)が重く、厚く、かつ脆いため、小型化、軽量化が求められる機器には不向きである。また、(i)、(ii)の方法では、伝導ノイズを抑制できない。そのため、最近では(iii)の方法に注目が集まっている。
【0006】
特許文献3には、電源層およびグランド層を構成する銅箔上に、高抵抗金属膜を形成することが開示されている。高抵抗金属膜は、メッキにより形成された、銅よりも抵抗率の高いニッケル、コバルト、錫、タングステン等の単層膜または合金膜であり、半導体素子がスイッチングしたとしても、電源層およびグランド層の電位変動を安定化することができ、また、高周波電流を高抵抗金属膜により除去するため、外部に放射される不要な電磁波(放射ノイズ)を抑制できるとされている。
【0007】
しかし、例えばニッケル等の加工性のよい金属は抵抗が小さいため、充分な効果が得られない。また、タングステン等の抵抗の高い金属は、加工が非常に難しく、半導体素子周囲のように複雑かつ微細なパターンを形成する必要がある部位に用いることはできず、実用的ではない。また、放射ノイズの抑制も充分とは言えない。
【0008】
特許文献4には、電源層とグランド層との間で、かつ多層プリント回路基板の周端部に、カーボン、グラファイト等の抵抗体を設けた多層プリント回路基板が開示されている。
しかし、周端部に抵抗体を設けただけでは、周端部のインピーダンスが変化して共振周波数が変化するだけであり、多層プリント回路基板の別の箇所の電界強度、磁界強度が高まってしまう。よって、依然として共振に起因する放射ノイズ等を抑制できず、さらなる対策が必要となる。
【0009】
特許文献5には、誘電体シートを2つの導電性フォイルで挟んだコンデンサ積層体を備え、2つの導電性フォイルがそれぞれ異なるデバイスに電気的に接続された構造を有する容量性印刷配線基板が開示されている。
しかし、コンデンサ積層体はある程度の厚みを有するため、容量性印刷配線基板を厚くしなければならず、高密度実装には不向きである。また、容量性印刷配線基板を厚くすると、平行平板構造を有する導体間で共振が生じやすくなるため、放射ノイズを充分に抑制できない。
【特許文献1】特開平9−93034号公報
【特許文献2】特開平9−181476号公報
【特許文献3】特開平11−97810号公報
【特許文献4】特許第2867985号公報
【特許文献5】特許第2738590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
よって本発明の目的は、伝導ノイズおよび放射ノイズの発生が抑えられ、かつ薄肉化が可能なノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のノイズ抑制構造体は、第1の導体層と、第2の導体層と、第1の導体層と第2の導体層との間に設けられたノイズ抑制層と、第1の導体層とノイズ抑制層との間に設けられた第1の絶縁層と、第2の導体層とノイズ抑制層との間に設けられた第2の絶縁層とを有し、ノイズ抑制層が、第1の導体層と電磁結合する、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの層であり、ノイズ抑制層と第1の導体層とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層と第1の導体層とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層と第2の導体層とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接することを特徴とする。
【0012】
ノイズ抑制層の面積は、第2の導体層の面積と実質的に同じであることが好ましい。
本発明のノイズ抑制構造体は、第1の導体層11の周縁部に領域(I)を有し、第1の導体層11が存在する領域であって、かつ第1の導体層11とノイズ抑制層13とが対向しない領域である領域(III)を有することが好ましい。
第1の導体層は、複数に分割されていてもよい。
第1の絶縁層の厚さは、0.05〜25μmが好ましい。
第1の絶縁層の比誘電率は、2以上が好ましい。
ノイズ抑制層は、金属材料または導電性セラミックスが存在しない欠陥を有することが好ましい。
【0013】
下記式(1)から求めた領域(I)の平均幅は、0.1mm以上が好ましい。
領域(I)の平均幅〔mm〕=領域(I)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(1)。
下記式(2)から求めた領域(II)の平均幅は、1〜50mmが好ましい。
領域(II)の平均幅〔mm〕=領域(II)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(2)。
【0014】
本発明の多層プリント回路基板は、本発明のノイズ抑制構造体を具備することを特徴とする。
本発明の多層プリント回路基板においては、第1の導体および第2の導体のいずれか一方が電源層であり、他方がグランド層であることが好ましい。
本発明の多層プリント回路基板は、さらに信号伝送層を有し、信号伝送層とノイズ抑制層との間には、電源層またはグランド層が存在することが好ましい。
本発明の多層プリント回路基板においては、ノイズ抑制構造体が、容量性積層体としても機能することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板は、伝導ノイズおよび放射ノイズの発生が抑えられ、かつ薄肉化が可能なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
<ノイズ抑制構造体>
図1は、本発明のノイズ抑制構造体の一例を示す断面図であり、図2は上面図である。ノイズ抑制構造体10は、第1の導体層11と、第2の導体層12と、第1の導体層11と第2の導体層12との間に設けられたノイズ抑制層13と、第1の導体層11とノイズ抑制層13との間に設けられた第1の絶縁層14と、第2の導体層12とノイズ抑制層13との間に設けられた第2の絶縁層15とを有する。
【0017】
ノイズ抑制構造体10においては、ノイズ抑制層13が、第1の導体層11と電磁結合する。電磁結合とは、第1の導体層11に流れる電流によって発生する磁束がノイズ抑制層13に鎖交することによって電圧を誘起する現象である。本発明においては、ノイズ抑制層13が、第1の導体層11と電気的に接続せず、第1の絶縁層14を介して電磁結合することが必要である。また、ノイズ抑制構造体10においては、ノイズ抑制層13が、第2の導体層12と電磁結合することが好ましい。
【0018】
また、ノイズ抑制構造体10においては、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層13と第2の導体層12とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接している。
【0019】
ノイズ抑制構造体10は、互いに隣接する領域(I)および領域(II)を有することにより、ノイズ抑制効果を発揮する。この理由は、以下のように考えられる。
ノイズ抑制層13は、後述のマイクロクラスターのような微細な導電パスを有している。該導電パスは、領域(II)においては第2の導体層12上に配置された微細かつ複雑な複数のオープンスタブ構造となる。該オープンスタブ構造が、隣接する領域(I)において第1の導体層11と電磁結合することによって、伝送線路フィルターとして機能しているものと考えられる。
【0020】
よって、領域(II)においては、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向せず、かつノイズ抑制層13と第2の導体層12とが対向している必要があり、また、領域(I)においては、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向し、かつノイズ抑制層13が第1の導体層11と電磁結合する必要がある。
【0021】
領域(I)において、ノイズ抑制層13が第1の導体層11と充分に電磁結合するためには、下記式(1)から求めた領域(I)の平均幅は、0.1mm以上が好ましい。
領域(I)の平均幅〔mm〕=領域(I)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(1)。
領域(I)の平均幅の上限は、第1の導体層11の大きさに依存し、任意の値となる。
【0022】
領域(I)と領域(II)との境界線の長さは、ノイズ抑制層13および第2の導体層12がノイズ抑制構造体10全面に存在する場合、図3に示すように、第1の導体層11が存在する領域(I)と、第1の導体層11が存在しない、第1の絶縁層14が表面に露出した領域(II)との境界線(図中、太線の符号16)の長さである。
【0023】
また、下記式(2)から求めた領域(II)の平均幅は、1〜50mmが好ましい。
領域(II)の平均幅〔mm〕=領域(II)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(2)。
領域(II)の平均幅が1mm以上であれば、充分なノイズ抑制効果が得られる。また、100MHz以下の低周波におけるノイズ抑制効果が発揮される。なお、領域(II)の平均幅が50mmを超えても、ノイズ抑制効果の割には、領域(II)の面積が増えすぎ、ノイズ抑制構造体10が必要以上に大きくなりすぎて、高密度実装に影響を与える。また、第1の導体層11のインピーダンスが上昇するおそれがある。
【0024】
また、ノイズ抑制層13だけ、または第2の導体層12だけが広くても、領域(II)の面積を充分に確保できず、ノイズ抑制効果は小さい。領域(II)の面積を充分に確保するためには、ノイズ抑制構造体10において、ノイズ抑制層13および第2の導体層12の両方が最大限の広さとなることが好ましい。また、領域(II)の面積を充分に確保するためには、ノイズ抑制層13の面積は、第2の導体層12の面積と実質的に同じ(第2の導体層12の面積の80〜100%)であることが好ましい。
【0025】
図4のノイズ抑制構造体10は、第1の導体層11の周縁部に領域(I)を有し、第1の導体層11が存在する領域であって、かつ第1の導体層11とノイズ抑制層13とが対向しない領域である領域(III)を有する例である。第1の導体層11に流れる高周波電流は、縁端効果により周縁部に集中しているため、ノイズ抑制層13は、第1の導体層11の周縁部において効率よく電磁結合できる。また、領域(III)を有すれば、ノイズ抑制層13と絶縁されたスルーホールまたはビアホールを形成しやすくなる。また、スルーホールまたはビアホールによって領域(I)の面積、すなわちノイズ抑制効果が影響を受けない。
【0026】
図5のノイズ抑制構造体10は、第1の導体層11が2分割されて、第1の導体層11aと第1の導体層11bとなった例である。このように第1の導体層11が分割されていれば、領域(II)が狭い場合であっても、第1の導体層11aにおいては、第1の導体層11bの領域を領域(II)と見なすことができ、領域(II)に制約がある場合でも、充分なノイズ抑制効果を得ることができる。同様に、第1の導体層11bにおいても、第1の導体層11aの領域を領域(II)と見なすことができる。第1の導体層11の分割は、デジタル回路とアナログ回路との違い、周波数の違い、電圧の違い、機能の違い等により実施される。
【0027】
(導体層)
各導体層としては、金属箔;金属粒子を高分子バインダー、ガラス質バインダー等に分散させた導電粒子分散体膜等が挙げられる。金属としては、銅、銀、金、アルミニウム、ニッケル、タングステン等が挙げられる。
各導体層は、多層プリント回路基板においては、信号伝送層、電源層またはグランド層となる層あり、通常、銅箔である。銅箔の厚さは、通常3〜35μmである。銅箔は、絶縁層との接着性を向上させるために、粗面化処理、またはシランカップリング剤等による化成処理が施されていてもよい。
【0028】
(ノイズ抑制層)
ノイズ抑制層13は、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの薄膜である。
ノイズ抑制層13の厚さが5nm以上であれば、充分なノイズ抑制効果が得られる。ノイズ抑制層13の厚さが300nm以下であれば、後述のマイクロクラスターが成長して金属材料等からなる均質な薄膜が形成されることがない。均質な薄膜が形成された場合、表面抵抗が小さくなって、金属反射が強まり、ノイズ抑制効果も小さくなる。
ノイズ抑制層13の厚さは、ノイズ抑制層の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像(例えば、図8)をもとにして、5箇所のノイズ抑制層(色の濃い部分)の厚さを電子顕微鏡像上で測定し、平均することにより求める。
【0029】
ノイズ抑制層13の表面抵抗は、1×100 〜1×104 Ωが好ましい。ノイズ抑制層13が均質な薄膜の場合、体積抵抗率の高い限られた材料が必要となるが、材料の体積抵抗率がそれほど高くない場合は、ノイズ抑制層13に金属材料または導電性セラミックスが存在しない物理的な欠陥を設け、不均質な薄膜とすること、または後述のマイクロクラスターの連鎖物とすることによって、表面抵抗を上昇させることができる。ノイズ抑制層13の表面抵抗は、以下のように測定する。
石英ガラス上に金等を蒸着して形成した、2本の薄膜金属電極(長さ10mm、幅5mm、電極間距離10mm)を用い、該電極上に被測定物を置き、被測定物上に、大きさ10mm×20mmを50gの荷重で押し付け、1mA以下の測定電流で電極間の抵抗を測定する。この値を持って表面抵抗とする。
【0030】
金属材料としては、強磁性金属、常磁性金属が挙げられる。強磁性金属としては、鉄、カルボニル鉄;Fe−Ni、Fe−Co、Fe−Cr、Fe−Si、Fe−Al、Fe−Cr−Si、Fe−Cr−Al、Fe−Al−Si、Fe−Pt等の鉄合金;コバルト、ニッケル;これらの合金等が挙げられる。常磁性金属としては、金、銀、銅、錫、鉛、タングステン、ケイ素、アルミニウム、チタン、クロム、モリブデン、それらの合金、強磁性金属との合金等が挙げられる。これらのうち、酸化に対して抵抗力のある点で、ニッケル、鉄クロム合金、タングステン、貴金属が好ましい。しかし、貴金属は高価であるため、実用的にはニッケル、鉄クロム合金、タングステンが好ましく、ニッケルまたはニッケル合金が特に好ましい。
【0031】
導電性セラミックスとしては、金属と、ホウ素、炭素、窒素、ケイ素、リンおよび硫黄からなる群から選ばれる1種以上の元素とからなる合金、金属間化合物、固溶体等が挙げられる。具体的には窒化ニッケル、窒化チタン、窒化タンタル、窒化クロム、窒化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化バナジウム、炭化ジルコニウム、炭化モリブデン、炭化タングステン、ホウ化クロム、ホウ化モリブデン、ケイ化クロム、ケイ化ジルコニウム等が挙げられる。
【0032】
導電性セラミックスは、金属よりも体積抵抗が高いため、導電性セラミックスを含むノイズ抑制層は、特性インピーダンスを低下させ過ぎない。よって、ノイズ抑制層における金属反射が少なくなる。また、導電性セラミックスは、特定の共鳴周波数を有さないため、ノイズ抑制効果を発揮する周波数が広帯域化する。さらに、化学安定性が高く、保存安定性が高い等の利点を有する。導電性セラミックスとしては、後述の物理的蒸着法において、窒素ガス、メタンガス等の反応性ガスを用いることによって容易に得られる窒化物または炭化物が、特に好ましい。
【0033】
ノイズ抑制層13の形成方法としては、通常の湿式メッキ法、物理的蒸着法、化学的蒸着法等が挙げられる。これらの方法においては、条件や用いる材料によっても異なるが、薄膜の成長を初期の段階で終了することにより、均質な薄膜とならず、微細な物理的な欠陥を有する不均質な薄膜を形成できる。または、均質な薄膜を酸等によりエッチングして欠陥を形成する方法、レーザーアブレーションにより均質な薄膜に欠陥を形成する方法によっても、不均質な薄膜を形成できる。
【0034】
図6は、絶縁層の表面に物理的蒸着法によって形成された金属材料からなるノイズ抑制層の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像であり、図7は、その模式図である。ノイズ抑制層13は、複数のマイクロクラスター17の集合体として観察される。マイクロクラスター17は、第1の絶縁層14(または第2の絶縁層15)上に金属材料等が非常に薄く物理的に蒸着されて形成されたものであり、マイクロクラスター17の間には物理的な欠陥があって均質な薄膜になっていない。マイクロクラスター17が互いに接触して集団化して連鎖を形成しているものの、集団化したマイクロクラスター17の間には、金属材料等の存在しない欠陥が多く存在している。
【0035】
図8は、ノイズ抑制層の膜厚方向断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。図6、図8から、非常に小さな結晶として数Å間隔の金属原子が配列された結晶格子(マイクロクラスター)、および非常に小さい範囲で金属材料等が存在しない欠陥が認められる。すなわち、マイクロクラスター同士の間隔が空いた状態であり、金属材料等からなる均質な薄膜には成長していない。このような物理的な欠陥を有する状態は、ノイズ抑制層13の表面抵抗の実測値から換算した体積抵抗率R1 (Ω・cm)と金属材料(または導電性セラミックス)の体積抵抗率R0 (Ω・cm)(文献値)との関係から確認できる。すなわち、体積抵抗率R1 と体積抵抗率R0 とが、0.5≦logR1 −logR0 ≦3を満足する場合に、優れたノイズ抑制効果が発揮される。
【0036】
ノイズ抑制層13は、所望の形状にパターン加工されていてもよく、スルーホール等のアンチビアが形成されていてもよい。ノイズ抑制層13は、通常のエッチング法、レーザーアブレーション法等により所望のパターン形状に加工できる。
【0037】
(絶縁層)
絶縁層は、表面抵抗が1×106 Ω以上の誘電体からなる層である。
絶縁層の材料は、誘電体であれば、無機材料であってもよく、有機材料であってもよい。
【0038】
無機材料としては、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス、発泡セラミックスが挙げられる。なお、絶縁層が、セラミックス等の硬い材料の場合、マイクロクラスターが凝集し、均質な薄膜を形成しやすい状態にあるが、金属材料等の質量を低く抑えて薄膜を形成することにより、マイクロクラスターが凝集しにくくなり、欠陥を有する不均質な薄膜となる。
【0039】
有機材料としては、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリケトン、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリシラザン、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアクリレート、塩化ビニル系樹脂、塩素化ポリエチレン等の樹脂;天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム等のジエン系ゴム;ブチル系ゴム、エチレンプロピレンゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム等の非ジエン系ゴム等が挙げられる。有機材料は、熱可塑性であっても、熱硬化性であってもよく、その未硬化物であってよい。また、上記の樹脂、ゴム等の変性物、混合物、共重合体であってもよい。
【0040】
絶縁層が有機材料からなる場合は、有機高分子のモルフォロジーによりナノレベルで複雑な表面構造を有しているため、マイクロクラスターの凝集が抑えられ、不均一なマイクロクラスターの集合体の構造を維持しやすく、ノイズ抑制効果の大きいノイズ抑制層を得ることができる。
絶縁層としては、クラスターとの密着性の点、およびマイクロクラスターの凝集、成長を阻害し、マイクロクラスターの分散を安定化させる点から、金属との共有結合が可能となる酸素、窒素、硫黄等の元素を含む基を表面に有するもの、表面に紫外線、プラズマ等を照射して表面を活性化したものが好ましい。酸素、窒素、硫黄等の元素を含む基としては、水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミノ基、アミド基、チオール基、スルホン基、カルボニル基、エポキシ基、イソシアネート基、アルコキシ基等の親水性基が挙げられる。
【0041】
第1の絶縁層14の厚さは、第1の導体層11をノイズ抑制の対象とするためには、第2の絶縁層15より薄くすることが好ましい。また、第1の絶縁層14の厚さは、0.05〜25μmが好ましい。第1の絶縁層14の厚さが0.05μm以上であれば、ノイズ抑制層13と第1の導体層11との絶縁性が確保され、ノイズ抑制効果が充分に発揮される。また、分割された第1の導体層11(例えば図5の第1の導体層11aおよび11b)が短絡することがない。また、第1の導体層11をエッチングする際、ノイズ抑制層13をエッチング液等から保護できる。第1の絶縁層14の厚さが25μm以下であれば、ノイズ抑制層13が第1の導体層11と充分に電磁結合する。また、ノイズ抑制構造体10を薄肉化できる。
【0042】
第1の絶縁層14の比誘電率は、2以上が好ましく、2.5以上がより好ましい。第1の絶縁層14の比誘電率が2以上であれば、第1の絶縁層14の誘電率が大きくなり、ノイズ抑制層13が第1の導体層11と充分に電磁結合する。現在利用可能な材料において、比誘電率の最大値は100000である。
また、第2の絶縁層15にも、高い誘電率を有する材料を用いた場合、ノイズ抑制構造体10を、第1の導体層11と第2の導体層12とからなる容量性積層体と見なすことができる。容量性積層体としての機能も有すれば、1GHz以下等の低周波側においては、従来から効果があるバイパスコンデンサを併用した場合と同様の効果が得られる、よって、ノイズ抑制構造体10は、低い周波数から十数GHzの高い周波数まで幅広い範囲でノイズ抑制効果を発揮できる。誘電率を大きくする以外の方法で容量性積層体の容量を大きくするためには、第1の導体層11の面積を広くする、または第1の導体層11と第2の導体層12との間隔を狭くすればよい。
【0043】
絶縁層の形成方法は、材料にあった通常の方法を用いることができる。セラミックスの場合は、ゾルゲル法、スパッタリング等のPVD法、CVD法等が挙げられる。有機材料の場合は、樹脂溶液を導体層上に直接スピンコート法、スプレーコート法等によりコートする方法、離型性のある基材にグラビアコートした絶縁層を導体層上に転写する方法等が挙げられる。
【0044】
以上説明したノイズ抑制構造体10にあっては、ノイズ抑制層13が、第1の導体層11と電磁結合する、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの層であり、ノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層13と第1の導体層11とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層13と第2の導体層12とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接するため、優れたノイズ抑制効果が発揮される。
また、ノイズ抑制層13は非常に薄いため、ノイズ抑制構造体10が嵩張ることがなく、ノイズ抑制構造体10を薄肉化できる。
【0045】
本発明のノイズ抑制構造体を電子部品中に組み込むことによって、伝導ノイズの原因となる、電子部品の導体層中を流れる高周波電流を抑制でき、その結果、放射ノイズも未然に抑制できる。電子部品とは、信号伝送、電源、グランド等に用いられる導体を具備するものであり、電子部品としては、例えば、半導体素子、該半導体素子等の電子素子が実装されたシステムインパッケージ(SIP)などの半導体パッケージ、およびプリント回路基板等が挙げられる。特に、半導体素子を実装した多層プリント回路基板においては、信号伝送層に流れる波形の品質(SI、Signal Integrity)を維持することが求められている一方、低消費電力化に伴い、電源電圧の低下が求められており、伝送信号のSN比が悪くなってきている。このため電源を安定化すること(PI、Power Integrity)が必要となり、高周波電流の抑制が求められている。本ノイズ抑制構造体を多層プリント回路基板に適用することは有用である。
【0046】
<多層プリント回路基板>
本発明の多層プリント回路基板は、本発明のノイズ抑制構造体を具備するものである。ノイズ抑制構造体における導体は、多層プリント回路基板においては、信号伝送層、電源層またはグランド層である。ノイズ抑制効果を充分に発揮させるためには、第1の導体層および第2の導体層のいずれか一方が電源層であり、他方がグランド層であることが好ましい。また、ノイズ抑制層は、高周波成分を抑制するため、信号伝送層の高速パルス信号を劣化させてしまうおそれがある。よって、信号伝送層とノイズ抑制層との間には、電源層またはグランド層が存在することが好ましい。
【0047】
信号伝送層、電源層、グランド層の厚さは、通常、銅箔の厚さであり、3〜35μmである。第2の絶縁層となるプリプレグまたは接着シートの厚さは、通常、3μm〜1.6mmである。多層プリント回路基板の薄肉化の要求から、いずれの層も薄くなる傾向にある。
【0048】
多層プリント回路基板は、例えば以下のようにして製造される。
銅箔上にエポキシ系ワニス等を塗布し、乾燥、硬化させ、第1の絶縁層が形成された電源層を得る。第1の絶縁層上にノイズ抑制層を形成し、該ノイズ抑制層を、所望のパターン形状となるようエッチングする。
ついで、ノイズ抑制層上に、エポキシ樹脂等をガラス繊維等に含浸させてなるプリプレグおよび銅箔を積層し、プリプレグを硬化させ、電源層とグランド層とを有するコア(ノイズ抑制構造体)を作製する。
ついで、フォトリソグラフィー法等により、コア上の電源層またはグランド層を、所望のパターン形状となるようにエッチングする。その後、電源層およびグランド層の両外面に銅箔をプリプレグで貼り合わせ信号伝送層をそれぞれ形成し、4層のプリント回路基板を完成させる。
【0049】
図9は、本発明の多層プリント回路基板の一例を示す断面図である。該多層プリント回路基板20は、上から順に、信号伝送層21、絶縁層22、グランド層23(第2の導体層12)、絶縁層24(第2の絶縁層15)、ノイズ抑制層13、絶縁層25(第1の絶縁層14)、電源層26(第1の導体層11)、絶縁層27、信号伝送層28を有して構成される。信号伝送層21と信号伝送層28とは、スルーホール31を介して接続され、電源ライン32と電源層26とは、ビアホール33を介して接続され、グランドライン34とグランド層23とは、ビアホール35を介して接続されている。電源ライン32およびグランドライン34には、半導体素子等の電子部品41およびバイパスコンデンサ42が搭載されている。
【0050】
多層プリント回路基板20にあっては、ノイズ抑制構造体10を具備するため、ノイズ抑制層13と電源層26(第1の導体層11)とが対向している領域が領域(I)となり、ノイズ抑制層13と電源層26(第1の導体層11)とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層13とグランド層23(第2の導体層12)とが対向している領域が領域(II)となる。そして、領域(I)および領域(II)が隣接しているため、高周波電流が抑えられて電源層26の電位が安定化し、結果、同時スイッチングノイズ等の伝導ノイズ、および共振による放射ノイズが抑えられる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示す。
(ノイズ抑制層の厚さ)
日立製作所製、透過型電子顕微鏡H9000NARを用いてノイズ抑制層の断面を観察し、5箇所のノイズ抑制層の厚さを測定し、平均した。
【0052】
(S21パラメーター測定)
アンリツ社製、ベクトルネットワークアナライザー37247Dを用いて、試験片のSMAコネクタ間のSパラメーターを測定した。
【0053】
(電圧測定)
アドバンテスト社製、トラッキングジェネレータ付スペクトラムアナライザーR3132を用い電源層の電圧を測定した。
【0054】
(実施例1)
厚さ18μmの銅箔(第1の導体層)上にエポキシ系ワニスを塗布し、乾燥、硬化させ、厚さ3μmの第1の絶縁層を形成した。第1の絶縁層の表面抵抗は8×1012Ωであった。
ついで、第1の絶縁層の全面に、窒素ガス雰囲気下でニッケル金属を反応性スパッタリング法により物理的に蒸着し、窒化ニッケルを含む厚さ30nmの不均質なノイズ抑制層を形成した。ノイズ抑制層の表面抵抗は97Ωであった。
【0055】
ノイズ抑制層上に、厚さ100μmのエポキシ系プリプレグ(第2の絶縁層、表面抵抗6×1014Ω)および厚さ18μmの銅箔(第2の導体層)を積層し、プリプレグを硬化させ、2層基板を作製した。
該2層基板から74mm×160mmの大きさの試験片を切り出し、該試験片の第1の導体層の銅箔の長手方向に沿った両側部をエッチングし、図10に示すような、領域(II)の平均幅(L)が1.5mmのノイズ抑制構造体10を得た。
【0056】
図11に示すように、ノイズ抑制構造体10の長手方向の両末端に、第1の導体層11および第2の導体層12に繋がるSMAコネクタ51を搭載し、SMAコネクタ51にベクトルネットワークアナライザー52を接続して、周波数50MHzから10GHzまでの400点でSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図12に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。
【0057】
(比較例1)
ノイズ抑制層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。実施例1と同様にして該2層基板から試験片を切り出し、実施例1と同様にして第1の導体層の銅箔をエッチングした。実施例1と同様にして該試験片のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図12に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。実施例1の擬似積分値と比較例1の疑似積分値の差(絶対値)を表1に示す。該絶対値が大きい程、実施例1のノイズ抑制構造体10のノイズ抑制効果が高い。
【0058】
(実施例2)
図10に示す領域(II)の平均幅(L)を9mmとした以外は、実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10を得た。実施例1と同様にして該ノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図13に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。
【0059】
(比較例2)
ノイズ抑制層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。実施例1と同様にして該2層基板から試験片を切り出し、実施例2と同様にして第1の導体層の銅箔をエッチングした。実施例1と同様にして該試験片のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図13に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。実施例2の擬似積分値と比較例2の疑似積分値の差(絶対値)を表1に示す。
【0060】
(実施例3)
図10に示す領域(II)の平均幅(L)を18mmとした以外は、実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10を得た。実施例1と同様にして該ノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図14に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。
【0061】
(比較例3)
ノイズ抑制層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。実施例1と同様にして該2層基板から試験片を切り出し、実施例3と同様にして第1の導体層の銅箔をエッチングした。実施例1と同様にして該試験片のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図14に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。実施例3の擬似積分値と比較例3の疑似積分値の差(絶対値)を表1に示す。
【0062】
(比較例4)
実施例1における試験片の第1の導体層の銅箔をエッチングしなかった。図10に示す領域(II)の平均幅(L)が0mmである試験片について、実施例1と同様にしてSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図15に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。
【0063】
(比較例5)
ノイズ抑制層を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。実施例1と同様にして該2層基板から試験片を切り出した。試験片の第1の導体層の銅箔をエッチングしなかった。実施例1と同様にして該試験片のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図15に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。比較例4の擬似積分値と比較例5の疑似積分値の差(絶対値)を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
表1の結果から、第1の導体層11が小さく、領域(II)の平均幅(L)が大きくなるほど、ノイズ抑制効果が高いことがわかる。領域(II)がない比較例4では、ノイズ抑制効果が全く認められない。
【0066】
(実施例4)
ノイズ抑制層の厚さを20nmにした以外は、実施例1と同様にして2層基板を作製した。該2層基板から100mm×200mmの大きさの試験片を切り出し、該試験片の第1の導体層の銅箔の長手方向に沿った両側部をエッチングし、図10に示すような、領域(II)の平均幅(L)が30mmのノイズ抑制構造体10を得た。なお、各層を積層する前には、第1の導体層、第2の導体層およびノイズ抑制層に、スルーホールと接触しないためのアンチビアをあらかじめ形成しておいた。
【0067】
ノイズ抑制構造体10の第1の導体層11を電源層とし、第2の導体層12をグランド層とした。電源層およびグランド層の両外面に、厚さ18μmの銅箔を、厚さ50μmのエポキシ系プリプレグで貼り合わせ信号伝送層をそれぞれ形成し、図16および図17に示すように、信号伝送層を所定形状にエッチングした。
図16および図17に示すように、アンチビアにスルーホール31を形成することによって、信号伝送層21からスルーホール31を通って信号伝送層28に渡り、再びスルーホール31を通って信号伝送層21に戻る構造を有するインピーダンス50Ωの信号ライン60を形成し、多層プリント回路基板20を得た。
入力用SMAコネクタを信号ライン60およびグランド層23に接続し、出力用SMAコネクタを電源層26およびグランド層23に接続した。トラッキングジェネレータ付のスペクトラムアナライザーを用いて、信号ライン60に50MHzから3GHzの信号を入力し、そのときの電源層26の電圧変動を測定した。測定結果を図18に示す。
【0068】
(比較例6)
領域(II)の平均幅(L)を0mmとした以外は、実施例4と同様にして多層プリント回路基板を得た。実施例4と同様にして電源層の電圧変動を測定した。測定結果を図18に示す。
実施例4と比較例6とを比較すると、電源層(第1の導体層)が小さく、領域(II)の平均幅(L)が大きい場合は、高周波信号による電源層の励振を抑制できた。領域(II)がない比較例6では、ノイズ抑制効果が全く認められなかった。
【0069】
(実施例5)
図19の断面図に示すように、幅25mm×長さ60mm×厚さ12μmの第1の導体層11と、幅60mm×長さ60mm×厚さ12μmの第2の導体層12と、幅60mm×長さ60mm×厚さ0.1μmの第1の絶縁層14(表面抵抗2×109 Ω)と、幅60mm×長さ60mm×厚さ50μmの第2の絶縁層15(表面抵抗3×1014Ω)とを有するノイズ抑制構造体10を作製した。
ノイズ抑制層13は、領域(II)の平均幅(L)が3mmとなり、領域(III)の平均幅(M)が0mmとなり、厚さが15nmとなるように、第1の絶縁層14上に銀をエレクトロンビーム(EB)蒸着法により物理的に蒸着させて形成した。ノイズ抑制層13の表面抵抗は55Ωであった。
実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図20に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。該擬似積分値と、ノイズ抑制層を形成しなかった場合の疑似積分値との差(絶対値)を表2に示す。
【0070】
(実施例6)
領域(III)の平均幅(M)が15mmとなるようにノイズ抑制層13を形成した以外は、実施例5と同様にしてノイズ抑制構造体10を得て、実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図20に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。該擬似積分値と、ノイズ抑制層を形成しなかった場合の疑似積分値との差(絶対値)を表2に示す。
【0071】
(実施例7)
領域(III)の平均幅(M)が23mmとなるようにノイズ抑制層13を形成した以外は、実施例5と同様にしてノイズ抑制構造体10を得て、実施例1と同様にしてノイズ抑制構造体10のSパラメーターを測定し、グラフを作成した。グラフを図20に示す。また、擬似積分値として400点の測定値の総和を求めた。該擬似積分値と、ノイズ抑制層を形成しなかった場合の疑似積分値との差(絶対値)を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
表2の結果から、少なくとも第1の導体層11の周縁部に領域(I)を有すれば、領域(I)の平均幅(N)の大きさに影響されることなく、ノイズ抑制効果を発揮することがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明のノイズ抑制構造体および多層プリント回路基板は、IC、LSI等の半導体素子、電子部品内の電源層、これら電子部品に電源供給や信号伝送を行う多層プリント回路基板として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明のノイズ抑制構造体の一例を示す断面図である。
【図2】図1のノイズ抑制構造体の上面図である。
【図3】領域(I)と領域(II)との境界線を説明するためのノイズ抑制構造体の上面図である。
【図4】本発明のノイズ抑制構造体の他の例を示す断面図である。
【図5】本発明のノイズ抑制構造体の他の例を示す断面図である。
【図6】ノイズ抑制層の表面を観察したフィールドエミッション走査電子顕微鏡像である。
【図7】図6の模式図である。
【図8】図6のノイズ抑制層の断面の高分解能透過型電子顕微鏡像である。
【図9】本発明の多層プリント回路基板の一例を示す断面図である。
【図10】実施例におけるノイズ抑制構造体を示す断面図である。
【図11】Sパラメーター測定システムを示す構成図である。
【図12】実施例1および比較例1におけるS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図13】実施例2および比較例2におけるノイズ抑制構造体のS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図14】実施例3および比較例3におけるS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図15】比較例4および比較例5におけるS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【図16】実施例における多層プリント回路基板を示す断面図である。
【図17】図16におけるXVII−XVII断面図である。
【図18】実施例4および比較例6の電源層の電圧変動を示すグラフである。
【図19】実施例におけるノイズ抑制構造体の他の例を示す断面図である。
【図20】実施例5〜7におけるS21(透過減衰量)を示すグラフである。
【符号の説明】
【0076】
10 ノイズ抑制構造体
11 第1の導体層
12 第2の導体層
13 ノイズ抑制層
14 第1の絶縁層
15 第2の絶縁層
20 多層プリント回路基板
23 グランド層
24 絶縁層
25 絶縁層
26 電源層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導体層と、
第2の導体層と、
第1の導体層と第2の導体層との間に設けられたノイズ抑制層と、
第1の導体層とノイズ抑制層との間に設けられた第1の絶縁層と、
第2の導体層とノイズ抑制層との間に設けられた第2の絶縁層とを有し、
ノイズ抑制層が、第1の導体層と電磁結合する、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの層であり、
ノイズ抑制層と第1の導体層とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層と第1の導体層とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層と第2の導体層とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接する、ノイズ抑制構造体。
【請求項2】
ノイズ抑制層の面積が、第2の導体層の面積と実質的に同じである、請求項1に記載のノイズ抑制構造体。
【請求項3】
第1の導体層11の周縁部に領域(I)を有し、
第1の導体層11が存在する領域であって、かつ第1の導体層11とノイズ抑制層13とが対向しない領域である領域(III)を有する、請求項1または2に記載のノイズ抑制構造体。
【請求項4】
第1の導体層が、複数に分割されている、請求項1〜3のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
【請求項5】
第1の絶縁層の厚さが、0.05〜25μmである、請求項1〜4のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
【請求項6】
第1の絶縁層の比誘電率が、2以上である、請求項5に記載のノイズ抑制構造体。
【請求項7】
ノイズ抑制層が、金属材料または導電性セラミックスが存在しない欠陥を有する、請求項1〜6のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
【請求項8】
下記式(1)から求めた領域(I)の平均幅が、0.1mm以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
領域(I)の平均幅〔mm〕=領域(I)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(1)。
【請求項9】
下記式(2)から求めた領域(II)の平均幅が、1〜50mmである、請求項1〜8のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
領域(II)の平均幅〔mm〕=領域(II)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(2)。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のノイズ抑制構造体を具備する、多層プリント回路基板。
【請求項11】
第1の導体および第2の導体のいずれか一方が電源層であり、他方がグランド層である、請求項10記載の多層プリント回路基板。
【請求項12】
さらに信号伝送層を有し、
信号伝送層とノイズ抑制層との間には、電源層またはグランド層が存在する、請求項11記載の多層プリント回路基板。
【請求項13】
ノイズ抑制構造体が、容量性積層体である、請求項10〜12のいずれかに記載の多層プリント回路基板。
【請求項1】
第1の導体層と、
第2の導体層と、
第1の導体層と第2の導体層との間に設けられたノイズ抑制層と、
第1の導体層とノイズ抑制層との間に設けられた第1の絶縁層と、
第2の導体層とノイズ抑制層との間に設けられた第2の絶縁層とを有し、
ノイズ抑制層が、第1の導体層と電磁結合する、金属材料または導電性セラミックスを含む厚さ5〜300nmの層であり、
ノイズ抑制層と第1の導体層とが対向している領域である領域(I)、およびノイズ抑制層と第1の導体層とが対向していない領域であり、かつノイズ抑制層と第2の導体層とが対向している領域である領域(II)を有し、かつ領域(I)および領域(II)が隣接する、ノイズ抑制構造体。
【請求項2】
ノイズ抑制層の面積が、第2の導体層の面積と実質的に同じである、請求項1に記載のノイズ抑制構造体。
【請求項3】
第1の導体層11の周縁部に領域(I)を有し、
第1の導体層11が存在する領域であって、かつ第1の導体層11とノイズ抑制層13とが対向しない領域である領域(III)を有する、請求項1または2に記載のノイズ抑制構造体。
【請求項4】
第1の導体層が、複数に分割されている、請求項1〜3のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
【請求項5】
第1の絶縁層の厚さが、0.05〜25μmである、請求項1〜4のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
【請求項6】
第1の絶縁層の比誘電率が、2以上である、請求項5に記載のノイズ抑制構造体。
【請求項7】
ノイズ抑制層が、金属材料または導電性セラミックスが存在しない欠陥を有する、請求項1〜6のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
【請求項8】
下記式(1)から求めた領域(I)の平均幅が、0.1mm以上である、請求項1〜7のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
領域(I)の平均幅〔mm〕=領域(I)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(1)。
【請求項9】
下記式(2)から求めた領域(II)の平均幅が、1〜50mmである、請求項1〜8のいずれかに記載のノイズ抑制構造体。
領域(II)の平均幅〔mm〕=領域(II)の面積〔mm2 〕/領域(I)と領域(II)との境界線の長さ〔mm〕 ・・・(2)。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のノイズ抑制構造体を具備する、多層プリント回路基板。
【請求項11】
第1の導体および第2の導体のいずれか一方が電源層であり、他方がグランド層である、請求項10記載の多層プリント回路基板。
【請求項12】
さらに信号伝送層を有し、
信号伝送層とノイズ抑制層との間には、電源層またはグランド層が存在する、請求項11記載の多層プリント回路基板。
【請求項13】
ノイズ抑制構造体が、容量性積層体である、請求項10〜12のいずれかに記載の多層プリント回路基板。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2008−28165(P2008−28165A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−199286(P2006−199286)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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