ノズル基板、ノズル基板の製造方法、液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置
【課題】アルカリ性のインク(吐出液)に対して耐久性をもつようにノズル孔を被覆・保護すること。
【解決手段】液滴を吐出するノズル部11aと、このノズル部より断面積が大きくノズル部と同軸上に設けられた導入部11bとを少なくとも備えたノズル孔11を複数備えたノズル基板1であって、少なくともノズル孔11の内壁に複数層の耐吐出液保護膜12〜14を形成する。
【解決手段】液滴を吐出するノズル部11aと、このノズル部より断面積が大きくノズル部と同軸上に設けられた導入部11bとを少なくとも備えたノズル孔11を複数備えたノズル基板1であって、少なくともノズル孔11の内壁に複数層の耐吐出液保護膜12〜14を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド等に用いられるノズル基板に関し、特にアルカリ性の吐出液からノズル孔を保護するための被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板を備え、このノズル基板に吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板(流路基板とも呼ばれる)を接合し、駆動部により吐出室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用する方式等がある。
【0003】
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が強まり、そのためノズル列を複数にしたり、1列当たりのノズル数を増加して多ノズル化・長尺化するなど、ノズル密度の高密度化と吐出性能の向上が図られている。このような背景から、インクジェットヘッドのノズル部に関して、従来より様々な工夫、提案がなされている。このうち、ノズル基板に形成されたノズル孔の内面および液滴の吐出面やその反対側の液流路に接する面(接合面)に対する被覆処理として、以下のような従来技術がある。
例えば、特許文献1では、チャンネルウェハとヒータウェハとから構成されるノズル孔の内面からノズル面(吐出面)にかけて疎水性被膜を連続して形成し、さらにノズル孔の内面にのみその疎水性被膜上に親水性被膜を形成する。
特許文献2では、ノズル孔の内面にインク保護膜をスパッタで形成し、吐出面に中間膜をスパッタで形成し、続いて吐出面の中間膜上に撥水膜をスプレー塗布で形成する。
また、特許文献3のように、ステンレス製のノズル基板にフッ素系高分子共析メッキを行い、吐出面からノズル孔の内面にかけて共析メッキによる撥水性被膜を形成する方法もある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−124200号公報
【特許文献2】特開2006−341506号公報
【特許文献3】特開平7−314694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術には以下のような課題があった。
(1)特許文献1の場合
(a)チャンネルウェハとヒータウェハを接着剤で接合した後に、チャンネルウェハに形成されたインク流路の内壁にウェット処理で疎水性被膜を形成し、続いて親水性被膜を形成しているため、それらの被膜を焼結する際のべーク温度に制約がある。
(b)インク流路の内壁に親水性被膜を形成した後で、ダイシングによりノズル孔を開口し、ノズル面に撥水膜を形成しているが、ノズル面に露出しているインク流路内壁の撥水膜(疎水性被膜)の断面は僅かであるため、新たにノズル面に形成した撥水膜との結合が不十分となり、ノズル孔口縁での撥水膜の耐久性を確保することができない。このため、アルカリ性のインクによりノズル孔の内壁が浸食されやすい。
(c)ノズル面に撥水膜を形成する際に、インク流路内への回り込みを制御することができない。
【0006】
(2)特許文献2の場合
ノズル孔内壁への保護膜成膜にスパッタ法を用いているが、スパッタには指向性があるため、ノズル孔内壁という狭くて垂直な壁面を均一に被膜するのは困難である。従って、アルカリ性インクに対する被覆・保護が十分でない。
【0007】
(3)特許文献3の場合
(a)共析メッキではノズル面のみに撥水膜を形成することは困難であり、ノズル孔内壁まで撥水膜が形成される。本来、ノズル孔内壁は親水性であることが望ましいが、ノズル孔内壁のメッキ被膜を後処理で親水化することは困難である。
(b)共析メッキ被膜はアルカリ性のインクに対する耐久性が不十分である。
(c)メッキ被膜の厚みは数μm必要で、ノズル径精度を確保するのが困難である。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑み、特にアルカリ性のインク(吐出液)に対して耐久性をもつようにノズル孔を被覆・保護することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るノズル基板は、液滴を吐出するノズル部と、このノズル部より断面積が大きくノズル部と同軸上に設けられた導入部とを少なくとも備えたノズル孔を複数備えたノズル基板であって、少なくともノズル孔の内壁に複数層の耐吐出液保護膜を形成したものである。
このように構成することにより、ノズル孔の内壁は複数層の耐吐出液保護膜で被覆され耐吐出液保護膜同士の結合が十分なため、アルカリ性の吐出液に対する耐性が向上し、ノズル孔の内壁の浸食を防止することができる。
【0010】
また、本発明のノズル基板は、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面に形成された第1の耐吐出液保護膜と、吐出面、及びノズル孔の内壁上の第1の耐吐出液保護膜の上に、形成された第3の耐吐出液保護膜とを有するものである。
これによって、ノズル基板の両面から耐吐出液保護膜が形成され、ノズル孔の内壁は少なくとも2層の耐吐出液保護膜で被覆されるため、アルカリ性の吐出液に対する耐性が向上し、ノズル孔の内壁の浸食を防止することができる。
【0011】
また、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面で第1の耐吐出液保護膜の上に形成された第2の耐吐出液保護膜を有する構成とすることが望ましい。
これによって、ノズル孔の内壁は3層の耐吐出液保護膜で被覆されるため、アルカリ性の吐出液に対する耐性がさらに向上し、ノズル孔の内壁の浸食を防止することができる。
【0012】
また、本発明のノズル基板は、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面を除く吐出面側で第3の耐吐出液保護膜上に撥水膜を有するものである。
撥水膜は、吐出面側の第3の耐吐出液保護膜上にのみ形成され、ノズル孔の吐出口縁部を境界にしてノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面には形成されない。従って、ノズル孔の内面は親水性であり、吐出面はノズル孔の出口縁部まで撥水性であるため、吐出時ノズル孔の先端より液滴をノズル基板に対して垂直にスムーズに離脱させることができ、液滴の吐出安定性が向上する。また、撥水膜により、吐出面のワイピング(クリーニング)に対する耐久性が向上する。
【0013】
また、第1の耐吐出液保護膜は、シリコン酸化膜である。この場合、シリコンの熱酸化膜とするのが望ましい。膜厚の均一性、皮膜性の高い保護膜を安価に得ることができるからである。
【0014】
また、第2の耐吐出液保護膜及び第3の耐吐出液保護膜は、金属酸化物を主成分とするものである。この場合、金属酸化物は、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、または酸化ジルコニウムのいずれかとするものである。これらの金属酸化物は、アルカリ性の吐出液に対する耐性が高いからである。
【0015】
また、撥水膜は、フッ素含有有機ケイ素化合物を主成分とするものである。これにより、第3の耐吐出液保護膜表面のヒドロキシル基がフッ素含有有機ケイ素化合物のメトキシ基等の加水分解基と強固に結合するため、第3の耐吐出液保護膜とその上の撥水膜との密着性が向上する。
【0016】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、シリコン基板に、ノズル部と、このノズル部より断面積が大きくノズル部と同軸上に位置する導入部とからなるノズル孔を異方性ドライエッチングにより複数形成する工程と、ノズル孔が形成されたシリコン基板に対し、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面に第1の耐吐出液保護膜を形成する工程と、吐出面、及びノズル孔の内壁上の第1の耐吐出液保護膜の上に、第3の耐吐出液保護膜を形成する工程と、を少なくとも有するものである。
この製造方法により、ノズル孔の内壁を複数層の耐吐出液保護膜で被覆することができ、アルカリ性吐出液に対する耐性の高いノズル基板を製造することができる。
【0017】
また、本発明のノズル基板の製造方法では、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面で第1の耐吐出液保護膜の上に第2の耐吐出液保護膜を形成する工程をさらに有するものである。
これにより、アルカリ性吐出液に対する耐性がさらに向上したノズル基板を製造することができる。
【0018】
また、本発明のノズル基板の製造方法では、第1の耐吐出液保護膜は、熱酸化で成膜する。従って、膜厚の均一性、皮膜性の高い保護膜を安価に得ることができる。
【0019】
また、本発明のノズル基板の製造方法では、第2の耐吐出液保護膜及び第3の耐吐出液保護膜は、CVDで成膜する。これにより、被覆性がより良好な保護膜を得ることができる。
この場合、CVDは、160℃以下の低温領域で実施する。ノズル基板の製造の際、ノズル基板に樹脂等でサポート基板を接着した状態で成膜でき、ハンドリング性や処理効率が向上し、コスト低減が可能になる。
【0020】
また、上記と同様の理由から、第2の耐吐出液保護膜及び第3の耐吐出液保護膜は、スパッタで成膜してもよい。
【0021】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のいずれかのノズル基板を備えたものである。これにより、良好な吐出特性と耐久性を兼ね備えた液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0022】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。従って、吐出特性と耐久性に優れた液滴吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のノズル基板を備えた液滴吐出ヘッドの一実施の形態について、図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、静電駆動方式のインクジェットヘッドについて図1〜図4を参照して説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、また、フェース吐出型に限らずエッジ吐出型にも適用することができる。さらには、液滴吐出のためのエネルギーを与える駆動方式についても静電駆動方式以外の他の異なる駆動方式(例えば、圧電素子や発熱素子を用いたもの)の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置にも適用することができる。
【0024】
まず、インクジェットヘッドの構成を図1〜図4に示す。図1は本発明の実施の形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図で、一部を断面で表してある。図2は組立状態を表した図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの部分断面図、図3は図2のノズル孔部分を拡大して示す断面図、図4は図2のインクジェットヘッドの上面図である。
【0025】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10は、図1、図2及び図4に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0026】
本発明が適用されるノズル基板1は、シリコン基板から作製される。一般には単結晶シリコン基板が用いられるが、多結晶シリコン(ポリシリコン)基板でもかまわない。このノズル基板1の製造方法については後で詳しく説明する。
【0027】
インク滴を吐出するためのノズル孔11は、液滴を吐出するノズル部11aと、インク(吐出液)を導入する導入部11bとから構成されている。ノズル部11aはノズル基板1の表面(インク吐出面)1aに対して垂直に小径の円筒状に形成されており、導入部11bはノズル部11aと同軸上に設けられ、ノズル部11aよりも断面積が大きく、断面形状が円筒状に形成されている。このようにノズル孔11を2段の垂直孔を持つ構造とすることにより、インク液滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク液滴の飛翔方向のばらつきがなくなり、またインク液滴の飛び散りがなく、インク液滴の吐出量のばらつきを抑制することができる。また、ノズル密度の高密度化も可能になる。なお、ここでは、ノズル孔11を、2段の孔を持つ構造とした例を示したが、更に段階的に複数段としてもよく、また、ノズル孔の断面積が吐出方向に向かって連続的に減少する形状としてもよい。また、ノズル部11aと導入部11bとの段差部をテーパ状に形成してもよい。
【0028】
ここで、ノズル基板1のキャビティ基板2との接合面1b(インク吐出面1aの反対面)およびノズル孔11の内壁には、図3に示すように、例えばSiO2からなる第1の耐インク保護膜(第1の耐吐出液保護膜)12が連続して形成されている。さらに、その耐インク保護膜12上には、例えば五酸化タンタル(Ta2O5)のような金属酸化物を主成分とする第2の耐インク保護膜(第2の耐吐出液保護膜)13が形成され、さらにまた、インク吐出面1aからノズル孔11の内壁上の第2の耐インク保護膜12上には、同様の金属酸化物を主成分とする第3の耐インク保護膜(第3の耐吐出液保護膜)14が形成されている。従って、ノズル孔11の内面は親水性を有するものとなる。そしてさらに、インク吐出面1aでの撥水性を向上させるために、ノズル孔11の内壁および接合面1bを除くインク吐出面1a側の第3の耐インク保護膜14上にのみ全面に撥水膜15が形成されている。撥水膜15はフッ素含有有機ケイ素化合物を主成分とするものが望ましい。その理由は、耐インク保護膜14表面のヒドロキシル基がフッ素含有有機ケイ素化合物のメトキシ基等の加水分解基と強固に結合するため、耐インク保護膜14とその表面上に形成される撥水膜15との密着性が向上するからである。
なお、第2の耐インク保護膜13は省略することも可能である。
【0029】
このように、少なくともノズル孔11の内壁には複数層の耐インク保護膜12〜14が形成されているので、特にアルカリ性の高いインクに対して耐インク保護膜12〜14がアルカリ性インクの侵入を防ぎ、シリコンからなるノズル孔11の内壁まで浸食させることがない。従って、ノズル孔11の形状及び寸法精度を高く維持することができ、吐出特性及び耐久性に優れたノズル孔11とすることができる。また、第2、第3の耐インク保護膜13、14として使用する金属酸化物は、五酸化タンタルのほか、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウムのいずれかを使用するとよい。これらの金属酸化物は、アルカリ性のインク(吐出液)に対する耐性が高いためである。
【0030】
上記のように構成されたノズル基板1が接着接合されるキャビティ基板2は、単結晶シリコン基板から作製される。キャビティ基板2には、ノズル孔11の各々に連通するインク流路溝が異方性ウェットエッチングにより形成される。このインク流路溝には、底壁を振動板22とし吐出室21となる吐出凹部210と、共通のインク室であるリザーバ23となるリザーバ凹部230と、リザーバ凹部230と各吐出凹部210とを連通するオリフィス24となるオリフィス凹部240が形成される。なお、振動板22はボロン拡散層で形成することにより厚み精度を高精度に形成することができる。また、オリフィス24はノズル基板1側に設けることもでき、この場合は接合面1bにリザーバ凹部230と各吐出凹部210とを連通する細溝状の凹部として形成される。
【0031】
また、キャビティ基板2には、電極基板3との接合面全面に短絡や絶縁破壊等を防止するための絶縁膜25が形成される。絶縁膜25としてはSiO2やSiN、あるいはAl2O3やHfO2等のいわゆるHigh−k材などが目的に応じて用いられる。特に、High−k材を用いると比誘電率がSiO2よりも大きいため、アクチュエータ発生圧力を高めることができ、更なる高密度化を図ることが可能となる。なお、絶縁膜25は必要に応じて個別電極31の対向面上に形成してもよい。また、インク流路溝側のキャビティ基板2全面には親水膜としてSiO2からなる耐インク保護膜26が熱酸化法やスパッタ法、CVD法等で形成され、さらにPt等の金属膜からなる共通電極27がキャビティ基板2上に形成される。
【0032】
このキャビティ基板2と陽極接合される電極基板3は、例えばホウ珪酸系のガラス基板から作製される。このガラス基板に振動板22と対向する位置にそれぞれ凹部32がエッチングにより形成され、さらに各凹部32の底面に一般にITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31がスパッタ法により形成される。また、インクを供給するためにリザーバ23と連通するインク供給口33がサンドブラスト法等により形成される。インク供給口33は図示しないインクタンクに接続される。
【0033】
この電極基板3と上記のキャビティ基板2とは、個別電極31と振動板22とが所定(例えば、0.1μm)のギャップ34を介して対向配置するように陽極接合される。これにより、ギャップ34を介して対峙する個別電極31と絶縁膜25を有する振動板22とで吐出室21に所要の圧力を加えることができる静電アクチュエータ4が構成される。なお、ギャップ34の開放端部は内部に水分や塵埃などが入らないようにエポキシ樹脂やスパッタ法による無機酸化物等の封止材35で気密に封止する。これにより、静電アクチュエータ4の駆動耐久性、信頼性が向上する。
そして、図2、図4に簡略化して示すように、静電アクチュエータ4を駆動するために、ドライバIC等の駆動手段5を搭載したFPC(Flexible Print Circuit)を、電極取り出し部36において、導電性接着剤により、各個別電極31の端子部31aと、キャビティ基板2上に設けられた金属製の共通電極27に配線接続する。以上のようにしてインクジェットヘッド10が完成する。
【0034】
ここで、インクジェットヘッド10の動作について説明する。任意のノズル孔11よりインク滴を吐出させるためには、そのノズル孔11に対応する静電アクチュエータ4を以下のように駆動する。
駆動手段5により当該個別電極31と共通電極である振動板22間にパルス電圧を印加する。パルス電圧の印加によって発生する静電気力により振動板22が個別電極31側に引き寄せられて当接し、吐出室21内に負圧を発生させ、リザーバ23内のインクを吸引し、インクの振動(メニスカス振動)を発生させる。このインクの振動が略最大となった時点で、電圧を解除すると、振動板22は個別電極31から離脱して、その時の振動板22の復元力によりインクを当該ノズル孔11から押出し、インク滴を吐出する。
【0035】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10によれば、ノズル基板1に形成されたノズル孔11の内壁が複数層の耐インク保護膜12〜14によって保護されているため、特にアルカリ性のインクに対する耐性を向上し、ノズル孔11の内壁の浸食を防止することができる。また、インク吐出面1a側の第3の耐インク保護膜14表面上にのみ撥水膜15が形成されているので、インク滴の吐出安定性が向上するとともに、ワイピング(クリーニング)に対する耐久性が向上する。
【0036】
次に、上記のように構成されたインクジェットヘッド10の製造方法について、図5〜図13を用いて説明する。図5〜図10はノズル基板1の製造工程を示す部分断面図、図11〜図12は電極基板3の製造と電極基板3上に接合したシリコン基板からキャビティ基板2を製造する工程を示す部分断面図、図13は図12に続くインクジェットヘッド10の製造工程を示す部分断面図である。なお、以下に記載する基板の厚さ、膜厚、エッチング深さ、温度、圧力等についての数値はその一例を示すもので、これに限定されるものではない。
【0037】
(a)まず、厚み280μmのシリコン基板100を用意し、このシリコン基板100を熱酸化装置(図示せず)にセットして、酸化温度1075℃、酸化時間4時間、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理し、シリコン基板100の表面に膜厚1μmのSiO2 膜101を均一に成膜する(図5(a))。
【0038】
(b)次に、シリコン基板100の接合面(キャビティ基板2と接合される面をいう)100bにレジスト102をコーティングし、導入部11bとなる部分110bをパターニングする(図5(b))。
(c)そして、このシリコン基板100を、例えば緩衝フッ酸水溶液(フッ酸水溶液:フッ化アンモニウム水溶液=1:6)でハーフエッチングし、SiO2 膜101を薄くする。このとき、インク吐出側の面1aのSiO2 膜101もエッチングされ、SiO2 膜101の厚みが減少する(図5(c))。
(d)ついで、シリコン基板100のレジスト102を硫酸洗浄などにより剥離する(図5(d))。
【0039】
(e)次に、シリコン基板100の接合面100b側にレジスト103をコーティングし、ノズル部11aとなる部分110aをパターニングする(図6(e))。
(f)そして、シリコン基板100を緩衝フッ酸水溶液(フッ酸水溶液:フッ化アンモニウム水溶液=1:6)でエッチングし、ノズル部11aとなる部分110aのSiO2 膜101を開口する。このとき、インク吐出側の面110aのSiO2 膜101はエッチングされ、完全に除去される(図6(f))。
(g)シリコン基板100の接合面100b側に設けたレジスト103を、硫酸洗浄などにより剥離する(図6(g))。
【0040】
(h)次に、Deep−RIE(Reactive Ion Etching)ドライエッチング装置(図示せず)により、SiO2 膜101の開口部を、深さ60μmまで垂直に異方性ドライエッチングし、ノズル部11aを形成する(図7(h))。この場合のエッチングガスとしては、C4F8、SF6 を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用すればよい。ここで、C4F8は形成される孔の側面のエッチングが進行しないように孔側面を保護するために使用し、SF6 は孔の垂直方向のエッチングを促進させるために使用する。
(i)次に、導入部11bとなる部分110bのSiO2 膜101のみがなくなるように、緩衝フッ酸水溶液でハーフエッチングする(図7(i))。
(j)再度、Deep−RIEドライエッチング装置により、SiO2 膜101の開口部を深さ20μmまで垂直に異方性ドライエッチングし、導入部11bを形成する(図7(j))。
【0041】
(k)そして、シリコン基板100の表面に残るSiO2 膜101をフッ酸水溶液で除去した後、シリコン基板100を熱酸化装置(図示せず)にセットし、酸化温度1000℃、酸化時間2時間、酸素雰囲気中の条件で熱酸化処理を行い、シリコン基板100の接合面100b及びインク吐出側の面100aと、ノズル部11a及び導入部11bの内壁に、第1の耐インク保護膜12となるSiO2 膜12aを膜厚0.1μm成膜する。さらに、このSiO2 膜12aの上に、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)もしくはプラズマCVDにより第2の耐インク保護膜13となるTa2O5膜13aを膜厚0.2μm成膜する(図7(k))。但し、Ta2O5膜13aは、プラズマCVDの場合にはインク吐出側の面100aには成膜されない。なお、第2の耐インク保護膜13となるTa2O5膜13aの成膜を省略してもよい。
【0042】
(l)次に、シリコン基板100の上下を逆転し、ガラス等の透明材料の支持基板120に、紫外線または熱などの刺激で容易に接着力が低下する自己剥離層51を持った両面テープ50を貼り合わせる(図8(l))。支持基板120に貼り合わせた両面テープ50の自己剥離層51の面と、シリコン基板100の接合面100bとを向かい合わせ、真空中で貼り合わせると、接着界面に気泡が残らずにきれいに接着される。ここで、接着界面に気泡が残ると、研磨加工で薄板化したときに、シリコン基板100の板厚がばらつく原因となる。両面テープ50は、例えば、SELFA−BG(登録商標:積水化学工業製)を用いる。
【0043】
(m)シリコン基板100のインク吐出側の面100aをバックグラインダー(図示せず)によって研削加工し、ノズル部11aの先端が開口するまでシリコン基板100を薄くする(図8(m))。さらに、ポリッシャー、CMP装置によってインク吐出側の面100aを研磨し、ノズル部11aの先端部の開口を行っても良い。このとき、ノズル部11a及び導入部11bの内壁は、ノズル内の研磨材の水洗除去工程などによって洗浄する。
あるいは、ノズル部11aの先端部の開口を、ドライエッチングで行っても良い。例えば、SF6 をエッチングガスとするドライエッチングで、ノズル部11aの先端部までシリコン基板100を薄くし、表面に露出したノズル部11aの先端部のSiO2 膜12aを、CF4 又はCHF3 等のエッチングガスとするドライエッチングによって除去してもよい。
【0044】
(n)薄板化されたシリコン基板100のインク吐出側の面100aとノズル部11a及び導入部11bの内壁に、160℃以下の低温プラズマCVDにより、第3の耐インク保護膜14となるTa2O5膜14aを膜厚0.2μm成膜する(図8(n))。これにより、ノズル部11a及び導入部11bの内壁はシリコン基板100の両面から2回成膜されるため、Ta2O5膜13a、14aの被覆性が向上する。また、Ta2O5膜14aからなる金属系酸化膜の成膜は、自己剥離層51が反応しない温度(160℃程度)以下で実施できる低温プラズマCVDとするのが適している。
【0045】
(o)さらに、第3の耐インク保護膜14となるTa2O5膜14aの上に、ディッピングによりフッ素含有有機ケイ素化合物を主成分とする撥水膜15を形成する(図8(o))。このとき、ノズル部11a及び導入部11bの内壁側の面にも撥水膜15が形成される。
【0046】
(p)シリコン基板100の上下を再度逆転し、撥水膜15が形成されたインク吐出側の面100aに、保護フィルム60を貼り付ける(図9(p))。ここでは、例えば、E−MASK(登録商標:日東電工製)を用いる。
(q)そして、支持基板120側からUV光を照射する(図9(q))。
(r)両面テープ50の自己剥離層51をシリコン基板100の接合面100bから剥離させ、支持基板120をシリコン基板100から取り外す(図9(r))。
【0047】
(s)ArスパッタもしくはO2 プラズマ処理によって、シリコン基板100の接合面100b側、およびノズル部11a、導入部11bの内壁側の面に余分に形成された撥水膜15を除去するか、もしくは撥水機能を有しない膜15aにする(図9(s))。すなわち、撥水膜15のフッ素原子を消失させることによって撥水機能を有しない膜15aとなる。
その後、ノズル基板100の接着強度を上げるため、プライマー処理液に1時間浸漬した後、純水でリンスし、80℃で1時間の条件でベーキングする。このとき、プライマー処理液として、例えば、シランカップリング剤(型番:SH6020、東レダウ製)を用いる。
【0048】
(t)次に、シリコン基板100の上下を再度逆転し、シリコン基板100の接合面100b(保護フィルム60が貼り付けられているインク吐出側の面100aと反対側の面)を吸着治具70に吸着固定し、インク吐出側の面100aにサポートテープとして貼り付けられている保護フィルム60を剥離する(図10(t))。
【0049】
(u)吸着治具70の吸着固定を解除する。こうして、接合面100bとノズル孔11の内壁とに、SiO2からなる第1の耐インク保護膜12とTa2O5からなる第2の耐インク保護膜13とが積層して形成されるとともに、インク吐出面100a側には、Ta2O5からなる第3の耐インク保護膜14と撥水膜15とが積層して形成され、かつ、ノズル孔11の内壁には、SiO2からなる第1の耐インク保護膜12と、Ta2O5からなる第2、第3の耐インク保護膜13、14とが積層して形成されたノズル基板1が作製される(図10(u))。
以上の工程を経ることにより、シリコン基板100よりノズル基板1が作製される。
【0050】
本実施形態に係るノズル基板1の製造方法よれば、ノズル孔11の内壁が複数層の耐インク保護膜12〜14によって十分に保護されているため、特にアルカリ性のインクに対して耐性が高く、吐出特性及び耐久性に優れたノズル基板1を製造することができる。
また、接合面100bに、両面テープ50を介して支持基板120を貼り合わせ、シリコン基板100をインク吐出側の面100aより薄板化してノズル孔11を開口するようにしたので、ノズル孔11の製造工程において、シリコン基板100が割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易で、歩留まりが向上する。
さらに、上記の製造工程において、シリコン基板100のインク吐出側の面100aに、耐インク性の高い酸化タンタル等からなる金属系酸化膜すなわち第3の耐インク保護膜14を形成し、そのうえに撥水膜15を形成するようにしたので、下地材が侵食されることによって起こる撥水膜15の剥れがなくなる。このことにより、長期にわたり、インク吐出側の面100aの撥水性を保持することができ、インク吐出の安定性を確保することができる。
【0051】
なお、第2、第3の耐インク保護膜13、14として、酸化タンタル(Ta2 O5 )を使用した場合について説明したが、特にアルカリ性インクに対する耐性の高い金属酸化物として、酸化ハフニウム(HfO2 )、酸化ニオブ(NbO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)を使用することもできる。
【0052】
次に、キャビティ基板2および電極基板3の製造方法について説明する。
ここでは、電極基板3に単結晶シリコン基板(以下、シリコン基板という)200を接合した後、そのシリコン基板200からキャビティ基板2を製造する方法について、図11、図12を用いて説明する。
【0053】
(a)まず、硼珪酸ガラス等からなるガラス基板300に、金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより、凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極31ごとに複数形成される。そして、凹部32の内部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。その後、ドリル等によってインク供給孔33となる孔部33aを形成することにより、電極基板3を作製する(図11(a))。
【0054】
(b)シリコン基板200の両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板200の片面に、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって、TEOS(TetraEthylorthosilicate)からなるシリコン酸化膜(絶縁膜)25を形成する(図11(b))。なお、シリコン基板200を形成する前に、エッチングストップ技術を用いて、振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0055】
(c)このシリコン基板200と、図11(a)のようにして作製された電極基板3とを360℃に加熱し、シリコン基板200を陽極に、電極基板3を陰極に接続して800V程度の電圧を印加して、図11(c)に示すように、陽極接合により接合する。
【0056】
(d)シリコン基板200と電極基板3を陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基板200をエッチングし、シリコン基板200を薄板化する(図11(d))。
【0057】
(e)シリコン基板200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面に、プラズマCVDによって、TEOS膜260を形成する。そして、このTEOS膜260に、吐出室21となる凹部210、オリフィス24となる溝部240およびリザーバ23となる凹部230を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のTEOS膜260をエッチング除去する。
その後、シリコン基板200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングすることにより、吐出室21となる凹部210、オリフィス24となる溝部240及びリザーバ23となる凹部230を形成する(図12(e))。このとき、配線のための電極取り出し部36となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、ウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後、3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0058】
(f)シリコン基板200のエッチングが終了した後に、フッ酸水溶液でエッチングし、図13(f)に示すように、シリコン基板200の上面に形成されているTEOS膜260を除去する(図12(f))。
【0059】
(g)シリコン基板200の吐出室21となる凹部210等が形成された面に、プラズマCVDによりTEOS膜(絶縁膜)26を形成する(図12(g))。
【0060】
(h)RIE(Reactive Ion Etching)等によって、電極取り出し部29を開放する。また、電極基板3のインク供給口33となる孔部にレーザ加工を施して、シリコン基板200のリザーバ23となる凹部230の底部を貫通させ、インク供給口33を形成する。また、振動板22と個別電極31の間のギャップ34の開放端部にエポキシ樹脂等の封止材35を充填して封止する。さらに、共通電極27をスパッタにより、シリコン基板200の端部に形成する(図12(h))。
【0061】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基板200からキャビティ基板2が作製される。
最後に、キャビティ基板2に、前述のようにして作製されたノズル基板1を接着等により接合することにより、図13に示したインクジェットヘッド10が完成する。
【0062】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10の製造方法によれば、キャビティ基板2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基板200から作製するので、その電極基板3によりシリコン基板200を支持した状態となり、シリコン基板200を薄板化しても割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。従って、キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0063】
上記の実施形態では、ノズル基板及びインクジェットヘッド、ならびにこれらの製造方法について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、本発明の思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、ノズル孔より吐出される液状材料を変更することにより、図14に示すインクジェットプリンタ400のほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)及び液滴吐出装置に、本実施形態のノズル基板の製造方法で製造されたノズル基板を搭載することにより、良好な吐出特性と耐久性を兼ね備えた液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】組立状態における図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの部分断面図。
【図3】図2のノズル孔部分の拡大断面図。
【図4】図2のインクジェットヘッドの上面図。
【図5】ノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図6】図5に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図7】図6に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図8】図7に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図9】図8に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図10】図9に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図11】電極基板の製造と電極基板上に接合したシリコン基板からキャビティ基板を製造する工程を示す部分断面図。
【図12】図11に続くキャビティ基板の製造工程を示す部分断面図。
【図13】図12に続くインクジェットヘッドの製造工程を示す部分断面図。
【図14】本発明の一実施の形態に係るインクジェットヘッドを使用したインクジェットプリンタの斜視図。
【符号の説明】
【0065】
1 ノズル基板、1a インク吐出面、1b 接合面、2 キャビティ基板、3 電極基板、4 静電アクチュエータ、5 駆動手段、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、11a ノズル部、11b 導入部、12 第1の耐インク保護膜(第1の耐吐出液保護膜)、13 第2の耐インク保護膜(第2の耐吐出液保護膜)、14 第3の耐インク保護膜(第3の耐吐出液保護膜)、15 撥水膜、21 吐出室、22 振動板、23 リザーバ、24 オリフィス、25 絶縁膜、26 耐インク保護膜、27 共通電極、31 個別電極、32 凹部、33 インク供給口、34 ギャップ、35 封止材、36 電極取り出し部、100 シリコン基板、400 インクジェットプリンタ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッド等に用いられるノズル基板に関し、特にアルカリ性の吐出液からノズル孔を保護するための被覆構造に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置に搭載されるインクジェットヘッドは、一般に、インク滴を吐出するための複数のノズル孔が形成されたノズル基板を備え、このノズル基板に吐出室、リザーバ等のインク流路が形成されたキャビティ基板(流路基板とも呼ばれる)を接合し、駆動部により吐出室に圧力を加えることによりインク滴を選択されたノズル孔より吐出するように構成されている。駆動手段としては、静電気力を利用する方式や、圧電素子による圧電方式、発熱素子を利用する方式等がある。
【0003】
近年、インクジェットヘッドに対して、印字、画質等の高品位化の要求が強まり、そのためノズル列を複数にしたり、1列当たりのノズル数を増加して多ノズル化・長尺化するなど、ノズル密度の高密度化と吐出性能の向上が図られている。このような背景から、インクジェットヘッドのノズル部に関して、従来より様々な工夫、提案がなされている。このうち、ノズル基板に形成されたノズル孔の内面および液滴の吐出面やその反対側の液流路に接する面(接合面)に対する被覆処理として、以下のような従来技術がある。
例えば、特許文献1では、チャンネルウェハとヒータウェハとから構成されるノズル孔の内面からノズル面(吐出面)にかけて疎水性被膜を連続して形成し、さらにノズル孔の内面にのみその疎水性被膜上に親水性被膜を形成する。
特許文献2では、ノズル孔の内面にインク保護膜をスパッタで形成し、吐出面に中間膜をスパッタで形成し、続いて吐出面の中間膜上に撥水膜をスプレー塗布で形成する。
また、特許文献3のように、ステンレス製のノズル基板にフッ素系高分子共析メッキを行い、吐出面からノズル孔の内面にかけて共析メッキによる撥水性被膜を形成する方法もある。
【0004】
【特許文献1】特開平5−124200号公報
【特許文献2】特開2006−341506号公報
【特許文献3】特開平7−314694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術には以下のような課題があった。
(1)特許文献1の場合
(a)チャンネルウェハとヒータウェハを接着剤で接合した後に、チャンネルウェハに形成されたインク流路の内壁にウェット処理で疎水性被膜を形成し、続いて親水性被膜を形成しているため、それらの被膜を焼結する際のべーク温度に制約がある。
(b)インク流路の内壁に親水性被膜を形成した後で、ダイシングによりノズル孔を開口し、ノズル面に撥水膜を形成しているが、ノズル面に露出しているインク流路内壁の撥水膜(疎水性被膜)の断面は僅かであるため、新たにノズル面に形成した撥水膜との結合が不十分となり、ノズル孔口縁での撥水膜の耐久性を確保することができない。このため、アルカリ性のインクによりノズル孔の内壁が浸食されやすい。
(c)ノズル面に撥水膜を形成する際に、インク流路内への回り込みを制御することができない。
【0006】
(2)特許文献2の場合
ノズル孔内壁への保護膜成膜にスパッタ法を用いているが、スパッタには指向性があるため、ノズル孔内壁という狭くて垂直な壁面を均一に被膜するのは困難である。従って、アルカリ性インクに対する被覆・保護が十分でない。
【0007】
(3)特許文献3の場合
(a)共析メッキではノズル面のみに撥水膜を形成することは困難であり、ノズル孔内壁まで撥水膜が形成される。本来、ノズル孔内壁は親水性であることが望ましいが、ノズル孔内壁のメッキ被膜を後処理で親水化することは困難である。
(b)共析メッキ被膜はアルカリ性のインクに対する耐久性が不十分である。
(c)メッキ被膜の厚みは数μm必要で、ノズル径精度を確保するのが困難である。
【0008】
本発明は、上記のような課題に鑑み、特にアルカリ性のインク(吐出液)に対して耐久性をもつようにノズル孔を被覆・保護することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るノズル基板は、液滴を吐出するノズル部と、このノズル部より断面積が大きくノズル部と同軸上に設けられた導入部とを少なくとも備えたノズル孔を複数備えたノズル基板であって、少なくともノズル孔の内壁に複数層の耐吐出液保護膜を形成したものである。
このように構成することにより、ノズル孔の内壁は複数層の耐吐出液保護膜で被覆され耐吐出液保護膜同士の結合が十分なため、アルカリ性の吐出液に対する耐性が向上し、ノズル孔の内壁の浸食を防止することができる。
【0010】
また、本発明のノズル基板は、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面に形成された第1の耐吐出液保護膜と、吐出面、及びノズル孔の内壁上の第1の耐吐出液保護膜の上に、形成された第3の耐吐出液保護膜とを有するものである。
これによって、ノズル基板の両面から耐吐出液保護膜が形成され、ノズル孔の内壁は少なくとも2層の耐吐出液保護膜で被覆されるため、アルカリ性の吐出液に対する耐性が向上し、ノズル孔の内壁の浸食を防止することができる。
【0011】
また、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面で第1の耐吐出液保護膜の上に形成された第2の耐吐出液保護膜を有する構成とすることが望ましい。
これによって、ノズル孔の内壁は3層の耐吐出液保護膜で被覆されるため、アルカリ性の吐出液に対する耐性がさらに向上し、ノズル孔の内壁の浸食を防止することができる。
【0012】
また、本発明のノズル基板は、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面を除く吐出面側で第3の耐吐出液保護膜上に撥水膜を有するものである。
撥水膜は、吐出面側の第3の耐吐出液保護膜上にのみ形成され、ノズル孔の吐出口縁部を境界にしてノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面には形成されない。従って、ノズル孔の内面は親水性であり、吐出面はノズル孔の出口縁部まで撥水性であるため、吐出時ノズル孔の先端より液滴をノズル基板に対して垂直にスムーズに離脱させることができ、液滴の吐出安定性が向上する。また、撥水膜により、吐出面のワイピング(クリーニング)に対する耐久性が向上する。
【0013】
また、第1の耐吐出液保護膜は、シリコン酸化膜である。この場合、シリコンの熱酸化膜とするのが望ましい。膜厚の均一性、皮膜性の高い保護膜を安価に得ることができるからである。
【0014】
また、第2の耐吐出液保護膜及び第3の耐吐出液保護膜は、金属酸化物を主成分とするものである。この場合、金属酸化物は、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、または酸化ジルコニウムのいずれかとするものである。これらの金属酸化物は、アルカリ性の吐出液に対する耐性が高いからである。
【0015】
また、撥水膜は、フッ素含有有機ケイ素化合物を主成分とするものである。これにより、第3の耐吐出液保護膜表面のヒドロキシル基がフッ素含有有機ケイ素化合物のメトキシ基等の加水分解基と強固に結合するため、第3の耐吐出液保護膜とその上の撥水膜との密着性が向上する。
【0016】
また、本発明に係るノズル基板の製造方法は、シリコン基板に、ノズル部と、このノズル部より断面積が大きくノズル部と同軸上に位置する導入部とからなるノズル孔を異方性ドライエッチングにより複数形成する工程と、ノズル孔が形成されたシリコン基板に対し、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面に第1の耐吐出液保護膜を形成する工程と、吐出面、及びノズル孔の内壁上の第1の耐吐出液保護膜の上に、第3の耐吐出液保護膜を形成する工程と、を少なくとも有するものである。
この製造方法により、ノズル孔の内壁を複数層の耐吐出液保護膜で被覆することができ、アルカリ性吐出液に対する耐性の高いノズル基板を製造することができる。
【0017】
また、本発明のノズル基板の製造方法では、ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面で第1の耐吐出液保護膜の上に第2の耐吐出液保護膜を形成する工程をさらに有するものである。
これにより、アルカリ性吐出液に対する耐性がさらに向上したノズル基板を製造することができる。
【0018】
また、本発明のノズル基板の製造方法では、第1の耐吐出液保護膜は、熱酸化で成膜する。従って、膜厚の均一性、皮膜性の高い保護膜を安価に得ることができる。
【0019】
また、本発明のノズル基板の製造方法では、第2の耐吐出液保護膜及び第3の耐吐出液保護膜は、CVDで成膜する。これにより、被覆性がより良好な保護膜を得ることができる。
この場合、CVDは、160℃以下の低温領域で実施する。ノズル基板の製造の際、ノズル基板に樹脂等でサポート基板を接着した状態で成膜でき、ハンドリング性や処理効率が向上し、コスト低減が可能になる。
【0020】
また、上記と同様の理由から、第2の耐吐出液保護膜及び第3の耐吐出液保護膜は、スパッタで成膜してもよい。
【0021】
本発明に係る液滴吐出ヘッドは、上記のいずれかのノズル基板を備えたものである。これにより、良好な吐出特性と耐久性を兼ね備えた液滴吐出ヘッドを提供することができる。
【0022】
本発明に係る液滴吐出装置は、上記の液滴吐出ヘッドを搭載したものである。従って、吐出特性と耐久性に優れた液滴吐出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のノズル基板を備えた液滴吐出ヘッドの一実施の形態について、図面に基づいて説明する。ここでは、液滴吐出ヘッドの一例として、静電駆動方式のインクジェットヘッドについて図1〜図4を参照して説明する。なお、本発明は、以下の図に示す構造、形状に限定されるものではなく、また、フェース吐出型に限らずエッジ吐出型にも適用することができる。さらには、液滴吐出のためのエネルギーを与える駆動方式についても静電駆動方式以外の他の異なる駆動方式(例えば、圧電素子や発熱素子を用いたもの)の液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置にも適用することができる。
【0024】
まず、インクジェットヘッドの構成を図1〜図4に示す。図1は本発明の実施の形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を分解して示す分解斜視図で、一部を断面で表してある。図2は組立状態を表した図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの部分断面図、図3は図2のノズル孔部分を拡大して示す断面図、図4は図2のインクジェットヘッドの上面図である。
【0025】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10は、図1、図2及び図4に示すように、複数のノズル孔11が所定のピッチで設けられたノズル基板1と、各ノズル孔11に対して独立にインク供給路が設けられたキャビティ基板2と、キャビティ基板2の振動板22に対峙して個別電極31が配設された電極基板3とを貼り合わせることにより構成されている。
【0026】
本発明が適用されるノズル基板1は、シリコン基板から作製される。一般には単結晶シリコン基板が用いられるが、多結晶シリコン(ポリシリコン)基板でもかまわない。このノズル基板1の製造方法については後で詳しく説明する。
【0027】
インク滴を吐出するためのノズル孔11は、液滴を吐出するノズル部11aと、インク(吐出液)を導入する導入部11bとから構成されている。ノズル部11aはノズル基板1の表面(インク吐出面)1aに対して垂直に小径の円筒状に形成されており、導入部11bはノズル部11aと同軸上に設けられ、ノズル部11aよりも断面積が大きく、断面形状が円筒状に形成されている。このようにノズル孔11を2段の垂直孔を持つ構造とすることにより、インク液滴の吐出方向をノズル孔11の中心軸方向に揃えることができ、安定したインク吐出特性を発揮させることができる。すなわち、インク液滴の飛翔方向のばらつきがなくなり、またインク液滴の飛び散りがなく、インク液滴の吐出量のばらつきを抑制することができる。また、ノズル密度の高密度化も可能になる。なお、ここでは、ノズル孔11を、2段の孔を持つ構造とした例を示したが、更に段階的に複数段としてもよく、また、ノズル孔の断面積が吐出方向に向かって連続的に減少する形状としてもよい。また、ノズル部11aと導入部11bとの段差部をテーパ状に形成してもよい。
【0028】
ここで、ノズル基板1のキャビティ基板2との接合面1b(インク吐出面1aの反対面)およびノズル孔11の内壁には、図3に示すように、例えばSiO2からなる第1の耐インク保護膜(第1の耐吐出液保護膜)12が連続して形成されている。さらに、その耐インク保護膜12上には、例えば五酸化タンタル(Ta2O5)のような金属酸化物を主成分とする第2の耐インク保護膜(第2の耐吐出液保護膜)13が形成され、さらにまた、インク吐出面1aからノズル孔11の内壁上の第2の耐インク保護膜12上には、同様の金属酸化物を主成分とする第3の耐インク保護膜(第3の耐吐出液保護膜)14が形成されている。従って、ノズル孔11の内面は親水性を有するものとなる。そしてさらに、インク吐出面1aでの撥水性を向上させるために、ノズル孔11の内壁および接合面1bを除くインク吐出面1a側の第3の耐インク保護膜14上にのみ全面に撥水膜15が形成されている。撥水膜15はフッ素含有有機ケイ素化合物を主成分とするものが望ましい。その理由は、耐インク保護膜14表面のヒドロキシル基がフッ素含有有機ケイ素化合物のメトキシ基等の加水分解基と強固に結合するため、耐インク保護膜14とその表面上に形成される撥水膜15との密着性が向上するからである。
なお、第2の耐インク保護膜13は省略することも可能である。
【0029】
このように、少なくともノズル孔11の内壁には複数層の耐インク保護膜12〜14が形成されているので、特にアルカリ性の高いインクに対して耐インク保護膜12〜14がアルカリ性インクの侵入を防ぎ、シリコンからなるノズル孔11の内壁まで浸食させることがない。従って、ノズル孔11の形状及び寸法精度を高く維持することができ、吐出特性及び耐久性に優れたノズル孔11とすることができる。また、第2、第3の耐インク保護膜13、14として使用する金属酸化物は、五酸化タンタルのほか、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、酸化ジルコニウムのいずれかを使用するとよい。これらの金属酸化物は、アルカリ性のインク(吐出液)に対する耐性が高いためである。
【0030】
上記のように構成されたノズル基板1が接着接合されるキャビティ基板2は、単結晶シリコン基板から作製される。キャビティ基板2には、ノズル孔11の各々に連通するインク流路溝が異方性ウェットエッチングにより形成される。このインク流路溝には、底壁を振動板22とし吐出室21となる吐出凹部210と、共通のインク室であるリザーバ23となるリザーバ凹部230と、リザーバ凹部230と各吐出凹部210とを連通するオリフィス24となるオリフィス凹部240が形成される。なお、振動板22はボロン拡散層で形成することにより厚み精度を高精度に形成することができる。また、オリフィス24はノズル基板1側に設けることもでき、この場合は接合面1bにリザーバ凹部230と各吐出凹部210とを連通する細溝状の凹部として形成される。
【0031】
また、キャビティ基板2には、電極基板3との接合面全面に短絡や絶縁破壊等を防止するための絶縁膜25が形成される。絶縁膜25としてはSiO2やSiN、あるいはAl2O3やHfO2等のいわゆるHigh−k材などが目的に応じて用いられる。特に、High−k材を用いると比誘電率がSiO2よりも大きいため、アクチュエータ発生圧力を高めることができ、更なる高密度化を図ることが可能となる。なお、絶縁膜25は必要に応じて個別電極31の対向面上に形成してもよい。また、インク流路溝側のキャビティ基板2全面には親水膜としてSiO2からなる耐インク保護膜26が熱酸化法やスパッタ法、CVD法等で形成され、さらにPt等の金属膜からなる共通電極27がキャビティ基板2上に形成される。
【0032】
このキャビティ基板2と陽極接合される電極基板3は、例えばホウ珪酸系のガラス基板から作製される。このガラス基板に振動板22と対向する位置にそれぞれ凹部32がエッチングにより形成され、さらに各凹部32の底面に一般にITO(Indium Tin Oxide:インジウム錫酸化物)からなる個別電極31がスパッタ法により形成される。また、インクを供給するためにリザーバ23と連通するインク供給口33がサンドブラスト法等により形成される。インク供給口33は図示しないインクタンクに接続される。
【0033】
この電極基板3と上記のキャビティ基板2とは、個別電極31と振動板22とが所定(例えば、0.1μm)のギャップ34を介して対向配置するように陽極接合される。これにより、ギャップ34を介して対峙する個別電極31と絶縁膜25を有する振動板22とで吐出室21に所要の圧力を加えることができる静電アクチュエータ4が構成される。なお、ギャップ34の開放端部は内部に水分や塵埃などが入らないようにエポキシ樹脂やスパッタ法による無機酸化物等の封止材35で気密に封止する。これにより、静電アクチュエータ4の駆動耐久性、信頼性が向上する。
そして、図2、図4に簡略化して示すように、静電アクチュエータ4を駆動するために、ドライバIC等の駆動手段5を搭載したFPC(Flexible Print Circuit)を、電極取り出し部36において、導電性接着剤により、各個別電極31の端子部31aと、キャビティ基板2上に設けられた金属製の共通電極27に配線接続する。以上のようにしてインクジェットヘッド10が完成する。
【0034】
ここで、インクジェットヘッド10の動作について説明する。任意のノズル孔11よりインク滴を吐出させるためには、そのノズル孔11に対応する静電アクチュエータ4を以下のように駆動する。
駆動手段5により当該個別電極31と共通電極である振動板22間にパルス電圧を印加する。パルス電圧の印加によって発生する静電気力により振動板22が個別電極31側に引き寄せられて当接し、吐出室21内に負圧を発生させ、リザーバ23内のインクを吸引し、インクの振動(メニスカス振動)を発生させる。このインクの振動が略最大となった時点で、電圧を解除すると、振動板22は個別電極31から離脱して、その時の振動板22の復元力によりインクを当該ノズル孔11から押出し、インク滴を吐出する。
【0035】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10によれば、ノズル基板1に形成されたノズル孔11の内壁が複数層の耐インク保護膜12〜14によって保護されているため、特にアルカリ性のインクに対する耐性を向上し、ノズル孔11の内壁の浸食を防止することができる。また、インク吐出面1a側の第3の耐インク保護膜14表面上にのみ撥水膜15が形成されているので、インク滴の吐出安定性が向上するとともに、ワイピング(クリーニング)に対する耐久性が向上する。
【0036】
次に、上記のように構成されたインクジェットヘッド10の製造方法について、図5〜図13を用いて説明する。図5〜図10はノズル基板1の製造工程を示す部分断面図、図11〜図12は電極基板3の製造と電極基板3上に接合したシリコン基板からキャビティ基板2を製造する工程を示す部分断面図、図13は図12に続くインクジェットヘッド10の製造工程を示す部分断面図である。なお、以下に記載する基板の厚さ、膜厚、エッチング深さ、温度、圧力等についての数値はその一例を示すもので、これに限定されるものではない。
【0037】
(a)まず、厚み280μmのシリコン基板100を用意し、このシリコン基板100を熱酸化装置(図示せず)にセットして、酸化温度1075℃、酸化時間4時間、酸素と水蒸気の混合雰囲気中の条件で熱酸化処理し、シリコン基板100の表面に膜厚1μmのSiO2 膜101を均一に成膜する(図5(a))。
【0038】
(b)次に、シリコン基板100の接合面(キャビティ基板2と接合される面をいう)100bにレジスト102をコーティングし、導入部11bとなる部分110bをパターニングする(図5(b))。
(c)そして、このシリコン基板100を、例えば緩衝フッ酸水溶液(フッ酸水溶液:フッ化アンモニウム水溶液=1:6)でハーフエッチングし、SiO2 膜101を薄くする。このとき、インク吐出側の面1aのSiO2 膜101もエッチングされ、SiO2 膜101の厚みが減少する(図5(c))。
(d)ついで、シリコン基板100のレジスト102を硫酸洗浄などにより剥離する(図5(d))。
【0039】
(e)次に、シリコン基板100の接合面100b側にレジスト103をコーティングし、ノズル部11aとなる部分110aをパターニングする(図6(e))。
(f)そして、シリコン基板100を緩衝フッ酸水溶液(フッ酸水溶液:フッ化アンモニウム水溶液=1:6)でエッチングし、ノズル部11aとなる部分110aのSiO2 膜101を開口する。このとき、インク吐出側の面110aのSiO2 膜101はエッチングされ、完全に除去される(図6(f))。
(g)シリコン基板100の接合面100b側に設けたレジスト103を、硫酸洗浄などにより剥離する(図6(g))。
【0040】
(h)次に、Deep−RIE(Reactive Ion Etching)ドライエッチング装置(図示せず)により、SiO2 膜101の開口部を、深さ60μmまで垂直に異方性ドライエッチングし、ノズル部11aを形成する(図7(h))。この場合のエッチングガスとしては、C4F8、SF6 を使用し、これらのエッチングガスを交互に使用すればよい。ここで、C4F8は形成される孔の側面のエッチングが進行しないように孔側面を保護するために使用し、SF6 は孔の垂直方向のエッチングを促進させるために使用する。
(i)次に、導入部11bとなる部分110bのSiO2 膜101のみがなくなるように、緩衝フッ酸水溶液でハーフエッチングする(図7(i))。
(j)再度、Deep−RIEドライエッチング装置により、SiO2 膜101の開口部を深さ20μmまで垂直に異方性ドライエッチングし、導入部11bを形成する(図7(j))。
【0041】
(k)そして、シリコン基板100の表面に残るSiO2 膜101をフッ酸水溶液で除去した後、シリコン基板100を熱酸化装置(図示せず)にセットし、酸化温度1000℃、酸化時間2時間、酸素雰囲気中の条件で熱酸化処理を行い、シリコン基板100の接合面100b及びインク吐出側の面100aと、ノズル部11a及び導入部11bの内壁に、第1の耐インク保護膜12となるSiO2 膜12aを膜厚0.1μm成膜する。さらに、このSiO2 膜12aの上に、熱CVD(Chemical Vapor Deposition)もしくはプラズマCVDにより第2の耐インク保護膜13となるTa2O5膜13aを膜厚0.2μm成膜する(図7(k))。但し、Ta2O5膜13aは、プラズマCVDの場合にはインク吐出側の面100aには成膜されない。なお、第2の耐インク保護膜13となるTa2O5膜13aの成膜を省略してもよい。
【0042】
(l)次に、シリコン基板100の上下を逆転し、ガラス等の透明材料の支持基板120に、紫外線または熱などの刺激で容易に接着力が低下する自己剥離層51を持った両面テープ50を貼り合わせる(図8(l))。支持基板120に貼り合わせた両面テープ50の自己剥離層51の面と、シリコン基板100の接合面100bとを向かい合わせ、真空中で貼り合わせると、接着界面に気泡が残らずにきれいに接着される。ここで、接着界面に気泡が残ると、研磨加工で薄板化したときに、シリコン基板100の板厚がばらつく原因となる。両面テープ50は、例えば、SELFA−BG(登録商標:積水化学工業製)を用いる。
【0043】
(m)シリコン基板100のインク吐出側の面100aをバックグラインダー(図示せず)によって研削加工し、ノズル部11aの先端が開口するまでシリコン基板100を薄くする(図8(m))。さらに、ポリッシャー、CMP装置によってインク吐出側の面100aを研磨し、ノズル部11aの先端部の開口を行っても良い。このとき、ノズル部11a及び導入部11bの内壁は、ノズル内の研磨材の水洗除去工程などによって洗浄する。
あるいは、ノズル部11aの先端部の開口を、ドライエッチングで行っても良い。例えば、SF6 をエッチングガスとするドライエッチングで、ノズル部11aの先端部までシリコン基板100を薄くし、表面に露出したノズル部11aの先端部のSiO2 膜12aを、CF4 又はCHF3 等のエッチングガスとするドライエッチングによって除去してもよい。
【0044】
(n)薄板化されたシリコン基板100のインク吐出側の面100aとノズル部11a及び導入部11bの内壁に、160℃以下の低温プラズマCVDにより、第3の耐インク保護膜14となるTa2O5膜14aを膜厚0.2μm成膜する(図8(n))。これにより、ノズル部11a及び導入部11bの内壁はシリコン基板100の両面から2回成膜されるため、Ta2O5膜13a、14aの被覆性が向上する。また、Ta2O5膜14aからなる金属系酸化膜の成膜は、自己剥離層51が反応しない温度(160℃程度)以下で実施できる低温プラズマCVDとするのが適している。
【0045】
(o)さらに、第3の耐インク保護膜14となるTa2O5膜14aの上に、ディッピングによりフッ素含有有機ケイ素化合物を主成分とする撥水膜15を形成する(図8(o))。このとき、ノズル部11a及び導入部11bの内壁側の面にも撥水膜15が形成される。
【0046】
(p)シリコン基板100の上下を再度逆転し、撥水膜15が形成されたインク吐出側の面100aに、保護フィルム60を貼り付ける(図9(p))。ここでは、例えば、E−MASK(登録商標:日東電工製)を用いる。
(q)そして、支持基板120側からUV光を照射する(図9(q))。
(r)両面テープ50の自己剥離層51をシリコン基板100の接合面100bから剥離させ、支持基板120をシリコン基板100から取り外す(図9(r))。
【0047】
(s)ArスパッタもしくはO2 プラズマ処理によって、シリコン基板100の接合面100b側、およびノズル部11a、導入部11bの内壁側の面に余分に形成された撥水膜15を除去するか、もしくは撥水機能を有しない膜15aにする(図9(s))。すなわち、撥水膜15のフッ素原子を消失させることによって撥水機能を有しない膜15aとなる。
その後、ノズル基板100の接着強度を上げるため、プライマー処理液に1時間浸漬した後、純水でリンスし、80℃で1時間の条件でベーキングする。このとき、プライマー処理液として、例えば、シランカップリング剤(型番:SH6020、東レダウ製)を用いる。
【0048】
(t)次に、シリコン基板100の上下を再度逆転し、シリコン基板100の接合面100b(保護フィルム60が貼り付けられているインク吐出側の面100aと反対側の面)を吸着治具70に吸着固定し、インク吐出側の面100aにサポートテープとして貼り付けられている保護フィルム60を剥離する(図10(t))。
【0049】
(u)吸着治具70の吸着固定を解除する。こうして、接合面100bとノズル孔11の内壁とに、SiO2からなる第1の耐インク保護膜12とTa2O5からなる第2の耐インク保護膜13とが積層して形成されるとともに、インク吐出面100a側には、Ta2O5からなる第3の耐インク保護膜14と撥水膜15とが積層して形成され、かつ、ノズル孔11の内壁には、SiO2からなる第1の耐インク保護膜12と、Ta2O5からなる第2、第3の耐インク保護膜13、14とが積層して形成されたノズル基板1が作製される(図10(u))。
以上の工程を経ることにより、シリコン基板100よりノズル基板1が作製される。
【0050】
本実施形態に係るノズル基板1の製造方法よれば、ノズル孔11の内壁が複数層の耐インク保護膜12〜14によって十分に保護されているため、特にアルカリ性のインクに対して耐性が高く、吐出特性及び耐久性に優れたノズル基板1を製造することができる。
また、接合面100bに、両面テープ50を介して支持基板120を貼り合わせ、シリコン基板100をインク吐出側の面100aより薄板化してノズル孔11を開口するようにしたので、ノズル孔11の製造工程において、シリコン基板100が割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易で、歩留まりが向上する。
さらに、上記の製造工程において、シリコン基板100のインク吐出側の面100aに、耐インク性の高い酸化タンタル等からなる金属系酸化膜すなわち第3の耐インク保護膜14を形成し、そのうえに撥水膜15を形成するようにしたので、下地材が侵食されることによって起こる撥水膜15の剥れがなくなる。このことにより、長期にわたり、インク吐出側の面100aの撥水性を保持することができ、インク吐出の安定性を確保することができる。
【0051】
なお、第2、第3の耐インク保護膜13、14として、酸化タンタル(Ta2 O5 )を使用した場合について説明したが、特にアルカリ性インクに対する耐性の高い金属酸化物として、酸化ハフニウム(HfO2 )、酸化ニオブ(NbO)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)を使用することもできる。
【0052】
次に、キャビティ基板2および電極基板3の製造方法について説明する。
ここでは、電極基板3に単結晶シリコン基板(以下、シリコン基板という)200を接合した後、そのシリコン基板200からキャビティ基板2を製造する方法について、図11、図12を用いて説明する。
【0053】
(a)まず、硼珪酸ガラス等からなるガラス基板300に、金・クロムのエッチングマスクを使用してフッ酸によってエッチングすることにより、凹部32を形成する。なお、この凹部32は個別電極31の形状より少し大きめの溝状のものであり、個別電極31ごとに複数形成される。そして、凹部32の内部に、例えばスパッタによりITO(Indium Tin Oxide)からなる個別電極31を形成する。その後、ドリル等によってインク供給孔33となる孔部33aを形成することにより、電極基板3を作製する(図11(a))。
【0054】
(b)シリコン基板200の両面を鏡面研磨した後に、シリコン基板200の片面に、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)によって、TEOS(TetraEthylorthosilicate)からなるシリコン酸化膜(絶縁膜)25を形成する(図11(b))。なお、シリコン基板200を形成する前に、エッチングストップ技術を用いて、振動板22の厚みを高精度に形成するためのボロンドープ層を形成するようにしてもよい。エッチングストップとは、エッチング面から発生する気泡が停止した状態と定義し、実際のウェットエッチングにおいては、気泡の発生の停止をもってエッチングがストップしたものと判断する。
【0055】
(c)このシリコン基板200と、図11(a)のようにして作製された電極基板3とを360℃に加熱し、シリコン基板200を陽極に、電極基板3を陰極に接続して800V程度の電圧を印加して、図11(c)に示すように、陽極接合により接合する。
【0056】
(d)シリコン基板200と電極基板3を陽極接合した後に、水酸化カリウム水溶液等で接合状態のシリコン基板200をエッチングし、シリコン基板200を薄板化する(図11(d))。
【0057】
(e)シリコン基板200の上面(電極基板3が接合されている面と反対側の面)の全面に、プラズマCVDによって、TEOS膜260を形成する。そして、このTEOS膜260に、吐出室21となる凹部210、オリフィス24となる溝部240およびリザーバ23となる凹部230を形成するためのレジストをパターニングし、これらの部分のTEOS膜260をエッチング除去する。
その後、シリコン基板200を水酸化カリウム水溶液等でエッチングすることにより、吐出室21となる凹部210、オリフィス24となる溝部240及びリザーバ23となる凹部230を形成する(図12(e))。このとき、配線のための電極取り出し部36となる部分もエッチングして薄板化しておく。なお、ウェットエッチングの工程では、例えば初めに35重量%の水酸化カリウム水溶液を使用し、その後、3重量%の水酸化カリウム水溶液を使用することができる。これにより、振動板22の面荒れを抑制することができる。
【0058】
(f)シリコン基板200のエッチングが終了した後に、フッ酸水溶液でエッチングし、図13(f)に示すように、シリコン基板200の上面に形成されているTEOS膜260を除去する(図12(f))。
【0059】
(g)シリコン基板200の吐出室21となる凹部210等が形成された面に、プラズマCVDによりTEOS膜(絶縁膜)26を形成する(図12(g))。
【0060】
(h)RIE(Reactive Ion Etching)等によって、電極取り出し部29を開放する。また、電極基板3のインク供給口33となる孔部にレーザ加工を施して、シリコン基板200のリザーバ23となる凹部230の底部を貫通させ、インク供給口33を形成する。また、振動板22と個別電極31の間のギャップ34の開放端部にエポキシ樹脂等の封止材35を充填して封止する。さらに、共通電極27をスパッタにより、シリコン基板200の端部に形成する(図12(h))。
【0061】
以上により、電極基板3に接合した状態のシリコン基板200からキャビティ基板2が作製される。
最後に、キャビティ基板2に、前述のようにして作製されたノズル基板1を接着等により接合することにより、図13に示したインクジェットヘッド10が完成する。
【0062】
本実施形態に係るインクジェットヘッド10の製造方法によれば、キャビティ基板2を、予め作製された電極基板3に接合した状態のシリコン基板200から作製するので、その電極基板3によりシリコン基板200を支持した状態となり、シリコン基板200を薄板化しても割れたり欠けたりすることがなく、ハンドリングが容易となる。従って、キャビティ基板2を単独で製造する場合よりも歩留まりが向上する。
【0063】
上記の実施形態では、ノズル基板及びインクジェットヘッド、ならびにこれらの製造方法について述べたが、本発明は上記の実施形態に限定されるものでなく、本発明の思想の範囲内で種々変更することができる。例えば、ノズル孔より吐出される液状材料を変更することにより、図14に示すインクジェットプリンタ400のほか、液晶ディスプレイのカラーフィルタの製造、有機EL表示装置の発光部分の形成、遺伝子検査等に用いられる生体分子溶液のマイクロアレイの製造など様々な用途の液滴吐出装置として利用することができる。液滴吐出ヘッド(インクジェットヘッド)及び液滴吐出装置に、本実施形態のノズル基板の製造方法で製造されたノズル基板を搭載することにより、良好な吐出特性と耐久性を兼ね備えた液滴吐出ヘッド及び液滴吐出装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係るインクジェットヘッドの概略構成を示す分解斜視図。
【図2】組立状態における図1の右半分の概略構成を示すインクジェットヘッドの部分断面図。
【図3】図2のノズル孔部分の拡大断面図。
【図4】図2のインクジェットヘッドの上面図。
【図5】ノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図6】図5に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図7】図6に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図8】図7に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図9】図8に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図10】図9に続くノズル基板の製造工程を示す部分断面図。
【図11】電極基板の製造と電極基板上に接合したシリコン基板からキャビティ基板を製造する工程を示す部分断面図。
【図12】図11に続くキャビティ基板の製造工程を示す部分断面図。
【図13】図12に続くインクジェットヘッドの製造工程を示す部分断面図。
【図14】本発明の一実施の形態に係るインクジェットヘッドを使用したインクジェットプリンタの斜視図。
【符号の説明】
【0065】
1 ノズル基板、1a インク吐出面、1b 接合面、2 キャビティ基板、3 電極基板、4 静電アクチュエータ、5 駆動手段、10 インクジェットヘッド、11 ノズル孔、11a ノズル部、11b 導入部、12 第1の耐インク保護膜(第1の耐吐出液保護膜)、13 第2の耐インク保護膜(第2の耐吐出液保護膜)、14 第3の耐インク保護膜(第3の耐吐出液保護膜)、15 撥水膜、21 吐出室、22 振動板、23 リザーバ、24 オリフィス、25 絶縁膜、26 耐インク保護膜、27 共通電極、31 個別電極、32 凹部、33 インク供給口、34 ギャップ、35 封止材、36 電極取り出し部、100 シリコン基板、400 インクジェットプリンタ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出するノズル部と、前記ノズル部より断面積が大きく前記ノズル部と同軸上に設けられた導入部とを少なくとも備えたノズル孔を複数備えたノズル基板であって、
少なくとも前記ノズル孔の内壁に複数層の耐吐出液保護膜を形成したことを特徴とするノズル基板。
【請求項2】
前記ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面に形成された第1の耐吐出液保護膜と、前記吐出面、及び前記ノズル孔の内壁上の前記第1の耐吐出液保護膜の上に、形成された第3の耐吐出液保護膜とを有することを特徴とする請求項1記載のノズル基板。
【請求項3】
前記ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面で前記第1の耐吐出液保護膜の上に形成された第2の耐吐出液保護膜を有することを特徴とする請求項2記載のノズル基板。
【請求項4】
前記ノズル孔の内壁及び前記吐出面と反対側の面を除く前記吐出面側で前記第3の耐吐出液保護膜の上に撥水膜を有することを特徴とする請求項2記載のノズル基板。
【請求項5】
前記第1の耐吐出液保護膜は、シリコン酸化膜であることを特徴とする請求項2または3記載のノズル基板。
【請求項6】
前記第2の耐吐出液保護膜及び前記第3の耐吐出液保護膜は、金属酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のノズル基板。
【請求項7】
前記金属酸化物は、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、または酸化ジルコニウムのいずれかであることを特徴とする請求項6記載のノズル基板。
【請求項8】
前記撥水膜は、フッ素含有有機ケイ素化合物を主成分とすることを特徴とする請求項4記載のノズル基板。
【請求項9】
シリコン基板に、ノズル部と、このノズル部より断面積が大きく前記ノズル部と同軸上に位置する導入部とからなるノズル孔を異方性ドライエッチングにより複数形成する工程と、
前記ノズル孔が形成された前記シリコン基板に対し、前記ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面に第1の耐吐出液保護膜を形成する工程と、
前記吐出面、及び前記ノズル孔の内壁上の前記第1の耐吐出液保護膜の上に、第3の耐吐出液保護膜を形成する工程と、
を少なくとも有することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項10】
前記ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面で前記第1の耐吐出液保護膜の上に第2の耐吐出液保護膜を形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項9記載のノズル基板の製造方法。
【請求項11】
前記第1の耐吐出液保護膜は、熱酸化で成膜することを特徴とする請求項9または10記載のノズル基板の製造方法。
【請求項12】
前記第2の耐吐出液保護膜及び前記第3の耐吐出液保護膜は、CVDで成膜することを特徴とする請求項9または10記載のノズル基板の製造方法。
【請求項13】
前記CVDは、160℃以下の低温領域で実施することを特徴とする請求項12記載のノズル基板の製造方法。
【請求項14】
前記第2の耐吐出液保護膜及び前記第3の耐吐出液保護膜は、スパッタで成膜することを特徴とする請求項9または10記載のノズル基板の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至8のいずれかに記載のノズル基板を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項16】
請求項15記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項1】
液滴を吐出するノズル部と、前記ノズル部より断面積が大きく前記ノズル部と同軸上に設けられた導入部とを少なくとも備えたノズル孔を複数備えたノズル基板であって、
少なくとも前記ノズル孔の内壁に複数層の耐吐出液保護膜を形成したことを特徴とするノズル基板。
【請求項2】
前記ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面に形成された第1の耐吐出液保護膜と、前記吐出面、及び前記ノズル孔の内壁上の前記第1の耐吐出液保護膜の上に、形成された第3の耐吐出液保護膜とを有することを特徴とする請求項1記載のノズル基板。
【請求項3】
前記ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面で前記第1の耐吐出液保護膜の上に形成された第2の耐吐出液保護膜を有することを特徴とする請求項2記載のノズル基板。
【請求項4】
前記ノズル孔の内壁及び前記吐出面と反対側の面を除く前記吐出面側で前記第3の耐吐出液保護膜の上に撥水膜を有することを特徴とする請求項2記載のノズル基板。
【請求項5】
前記第1の耐吐出液保護膜は、シリコン酸化膜であることを特徴とする請求項2または3記載のノズル基板。
【請求項6】
前記第2の耐吐出液保護膜及び前記第3の耐吐出液保護膜は、金属酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載のノズル基板。
【請求項7】
前記金属酸化物は、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、または酸化ジルコニウムのいずれかであることを特徴とする請求項6記載のノズル基板。
【請求項8】
前記撥水膜は、フッ素含有有機ケイ素化合物を主成分とすることを特徴とする請求項4記載のノズル基板。
【請求項9】
シリコン基板に、ノズル部と、このノズル部より断面積が大きく前記ノズル部と同軸上に位置する導入部とからなるノズル孔を異方性ドライエッチングにより複数形成する工程と、
前記ノズル孔が形成された前記シリコン基板に対し、前記ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面に第1の耐吐出液保護膜を形成する工程と、
前記吐出面、及び前記ノズル孔の内壁上の前記第1の耐吐出液保護膜の上に、第3の耐吐出液保護膜を形成する工程と、
を少なくとも有することを特徴とするノズル基板の製造方法。
【請求項10】
前記ノズル孔の内壁及び吐出面と反対側の面で前記第1の耐吐出液保護膜の上に第2の耐吐出液保護膜を形成する工程をさらに有することを特徴とする請求項9記載のノズル基板の製造方法。
【請求項11】
前記第1の耐吐出液保護膜は、熱酸化で成膜することを特徴とする請求項9または10記載のノズル基板の製造方法。
【請求項12】
前記第2の耐吐出液保護膜及び前記第3の耐吐出液保護膜は、CVDで成膜することを特徴とする請求項9または10記載のノズル基板の製造方法。
【請求項13】
前記CVDは、160℃以下の低温領域で実施することを特徴とする請求項12記載のノズル基板の製造方法。
【請求項14】
前記第2の耐吐出液保護膜及び前記第3の耐吐出液保護膜は、スパッタで成膜することを特徴とする請求項9または10記載のノズル基板の製造方法。
【請求項15】
請求項1乃至8のいずれかに記載のノズル基板を備えたことを特徴とする液滴吐出ヘッド。
【請求項16】
請求項15記載の液滴吐出ヘッドを搭載したことを特徴とする液滴吐出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−184176(P2009−184176A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−24949(P2008−24949)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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