説明

ハイブリッド自動車

【課題】エンジン始動に関わる異常事態の発生を未然に防ぐこと。
【解決手段】エンジン10と走行用電動機12とが協働して走行し、走行用電動機12はエンジン10を始動可能なハイブリッド自動車1において、走行用電動機12によるエンジン10の始動が困難となるような所定の温度以下、または所定の温度未満の状況においてエンジン10を始動させるための始動用電動機15を走行用電動機12とは別に備え、走行用電動機12でエンジン10を始動可能であっても走行用電動機12のバッテリ18のSOCが所定値以下、または所定値未満のときには、始動用電動機15をエンジン10の始動に用いるHV−ECU21を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、エンジンと走行用電動機とが協働して走行するハイブリッド自動車では、エンジンを始動させる際に走行に用いる走行用電動機を使用している。その一方で、特許文献1,2,3のハイブリッド自動車では、エンジンの始動用に走行用電動機とは別の電動機(以下では、始動用電動機と呼ぶ)を併せて備えている。
【0003】
なお、始動用電動機は、ハイブリッド自動車ではない自動車において、スタータモータとして使用されているものに相当する。
【0004】
特許文献1のハイブリッド自動車では、走行用電動機によってエンジンを始動する際に、走行用電動機に供給される電力あるいは走行用電動機のみによるトルクでは不足する場合に始動用電動機を補助的に使用している。
【0005】
また、特許文献2のハイブリッド自動車では、運転者が始動スイッチを操作してエンジンを始動する際に、運転者による始動スイッチの操作が緩やかであり、走行用電動機による始動が行える状況が整ったと判断される場合には走行用電動機によってエンジンを始動し、運転者による始動スイッチの操作が急であり、走行用電動機による始動が行える状況が整はないと判断される場合には始動用電動機によってエンジンを始動している。
【0006】
また、特許文献3のハイブリッド自動車では、始動用電動機の駆動用電力の発電およびエンジンの始動を行うジェネレータと、このジェネレータとは別にエンジンのクランクシャフトに連結されこのエンジンの始動をジェネレータとは独立して行うスタータ手段と、ジェネレータによるエンジンの始動が困難である状態を検出する検出手段と、を設け、この検出手段がジェネレータによるエンジンの始動が困難である状態を検出したときにスタータ手段によってエンジンを始動させている。なお、検出手段の検出対象としては、ジェネレータ駆動用バッテリの充電異常状態、電気モータ駆動用バッテリの充電異常状態、極寒時にエンジンオイルの粘度が増大するなどによりジェネレータの駆動力ではクランクシャフトを回転させることができない状態、ジェネレータが故障している状態などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−339943号公報
【特許文献2】特開2007−237774号公報
【特許文献3】特開2000−64873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3のハイブリッド自動車では、スタータ手段を使用する条件を、スタータ手段以外の始動手段が使用不可能に陥った場合を条件としている。これによれば、たとえば極寒時のように潤滑油の粘度増大に伴いエンジンのクランクシャフトの回転抵抗が大きくなってしまいクランクシャフトを回転させることができない状態に陥る以前に、あるいはバッテリが充電異常状態に陥る以前に、事態を救済することはできない。
【0009】
本発明は、このような背景の下に行われたものであって、エンジン始動に関わる異常事態の発生を未然に防ぐことができるハイブリッド自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のハイブリッド自動車は、エンジンと走行用電動機とが協働して走行し、走行用電動機はエンジンを始動可能なハイブリッド自動車において、走行用電動機によるエンジンの始動が困難となるような所定の温度以下、または所定の温度未満の状況においてエンジンを始動させるための始動用電動機を走行用電動機とは別に備え、走行用電動機でエンジンを始動可能であっても走行用電動機のバッテリの充電状態を示す値が所定値以下、または所定値未満のときには、始動用電動機をエンジンの始動に用いる制御手段を備えるものである。
【0011】
また、始動用スイッチの操作が所定時間以下、または所定時間未満で行われたときには、始動用電動機をエンジンの始動に用いることが好ましい。
【0012】
さらに、エンジンの始動前の温度が所定の温度以下、または所定の温度未満でなく、且つバッテリの充電状態を示す値が所定値以下、または所定値未満でないときには、その旨を表示する表示手段を備えることもできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンジン始動に関わる異常事態の発生を未然に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第一の実施の形態に係るハイブリッド自動車の全体構成図である。
【図2】図1のハイブリッド自動車における主にHV−ECUの動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の第二の実施の形態に係るハイブリッド自動車の全体構成図である。
【図4】図3の状態表示部の構成図である。
【図5】図3の状態表示部の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(本発明の第一の実施の形態に係るハイブリッド自動車1の構成について)
本発明の第一の実施の形態に係るハイブリッド自動車1の構成について図1を参照して説明する。図1は、ハイブリッド自動車1の全体構成図である。
【0016】
ハイブリッド自動車1は、始動用電動機15を有し、走行用電動機12によってはエンジン10の始動が困難になるような極寒時には、始動用電動機15によってエンジン10の始動を行う。さらに、ハイブリッド自動車1は、走行用電動機15でエンジン10を始動可能であってもバッテリ18の充電状態を示す値(以下では、SOC:State of Chargeという)が所定値以下のときには、始動用電動機15をエンジン10の始動に用いる。
【0017】
ハイブリッド自動車1は、図1に示すように、エンジン10、クラッチ11、走行用電動機12、トランスミッション13、車輪14、始動用電動機15、補機バッテリ16、インバータ17、バッテリ18、温度センサ19(制御手段の一部)、エンジンECU(Electric Control Unit)20(制御手段の一部)、HV(Hybrid Vehicle)−ECU21(制御手段の一部)、キー始動位置スイッチ22、キーON位置スイッチ23、リレー接点24(制御手段の一部)、オルタネータ(発電機)25を有して構成されている。
【0018】
エンジン10は、ガソリンまたは軽油によって駆動する内燃機関である。
【0019】
クラッチ11は、エンジン10の出力を走行用電動機12、トランスミッション13を介して車輪14に伝達するものである。なお、クラッチ11は、運転者がペダルを操作して動かすクラッチとは異なるものでありHV−ECU21の制御によって動くものである。たとえばクラッチ11は、エンジン11によってハイブリッド自動車1が走行し、またこれにより走行用電動機12が発電を行っている場合、走行用電動機12によってエンジン10がアシストされる場合、および走行用電動機12によってエンジン10が始動される場合などに接続される。また、クラッチ11は、エンジン10が停止され、走行用電動機12によってハイブリッド自動車1が走行している場合、およびエンジン10が停止され、ハイブリッド自動車1が下り坂を走行中であり走行用電動機12が発電している場合などに切断される。
【0020】
走行用電動機12は、エンジン10と協働してハイブリッド自動車1を走行させるものである。また、走行用電動機12がエンジン10によって駆動されている期間、あるいは、ハイブリッド自動車1が下り坂を走行中などで無動力で走行している期間においては、走行用電動機12がバッテリ18に電力を供給する発電機として機能する。
【0021】
トランスミッション13は、変速機構(不図示)およびトルクコンバータ機構(不図示)などを備え、エンジン10の出力および/または走行用電動機12の出力を車輪14に伝達するものである。なお、トランスミッション13がマニュアル仕様の場合は、運転者の操作に従う変速機構(不図示)とクラッチ機構(不図示)を備える。
【0022】
車輪14は、ハイブリッド自動車1が路面を走行する際の駆動輪である。なお、車輪14は1つのみ図示するが実際には、ハイブリッド自動車1は、複数の車輪14を有する。
【0023】
始動用電動機15は、始動前のエンジン10に関わる温度が所定の温度(たとえば−40℃〜−45℃)以下であって走行用電動機12によるエンジン10の始動が困難となる状況下においてエンジン10を始動させるために設けられた寒冷地仕様の電動機である。走行用電動機12と比較すると、エンジン10の始動時のようにごく短い時間においては、走行用電動機12よりも大きなトルクを発揮することができる。
【0024】
なお、始動前のエンジン10に関わる温度の情報を得るには、エンジン10を構成する部材の温度を直接計測する以外にも、たとえばエンジンオイルの油温または冷却水の水温を計測することによって得ることができる。
【0025】
また、図1ではエンジン10と始動用電動機15とを一体化して図示したが、エンジン10と始動用電動機15との間には、図示しないクラッチ機構を有し、キー始動位置スイッチ22が閉じられたときにだけ、図示しないクラッチ機構によってエンジン10と始動用電動機15とが機械的に接続される。なお、このような機構は、従来から一般の自動車に適用されている機構である。
【0026】
補機バッテリ16は、始動用電動機15、エンジンECU20およびHV−ECU21に電力を供給するために設けられたバッテリである。補機バッテリ16は、たとえば12ボルトまたは24ボルトの鉛蓄電池である。
【0027】
一般的に、走行用電動機12のためのバッテリ18は、数百ボルトの高電圧を出力する。これに対し、始動用電動機15は、(直流)12ボルトまたは(直流)24ボルトで動作する。したがって、バッテリ18によって始動用電動機15を動作させるためにはDC−DCコンバータ(直流電圧変換器)を用いる必要がある。しかしながら始動用電動機15は大電流を必要とする。したがって大電流用のDC−DCコンバータは高価であるため大電流用のDC−DCコンバータと比較して安価な補機バッテリ16が用いられている。
【0028】
また、エンジンECU20およびHV−ECU21についても(直流)12ボルトまたは(直流)24ボルトで稼働する。このため、エンジンECU20およびHV−ECU21の電源についても補機バッテリ16の直流電源が用いられている。
【0029】
また、始動用電動機15は、上述のように、寒冷地仕様であるため、始動用電動機15のための補機バッテリ16についても寒冷地仕様とすることが好ましい。
【0030】
インバータ17は、交流電動機である走行用電動機12に対し、バッテリ18の直流電力を交流電力に変換して供給するものである。また、走行用電動機12が発電機として動作しているときには、バッテリ18に直流電力を供給するための整流器としての役割も果たす。
【0031】
バッテリ18は、走行用電動機12に電力を供給するものである。上述したように、バッテリ18は、走行用電動機12が発電機として動作しているときには、走行用電動機12が発電する電力によって充電される。
【0032】
温度センサ19は、始動前のエンジン10に関わる温度を測定するためのセンサであり、検出出力はHV−ECU21に取り込まれる。なお、上述したように、始動前のエンジン10に関わる温度の情報を得るには、エンジン10を構成する部材の温度を直接計測する以外にも、たとえばエンジンオイルの油温または冷却水の水温を計測することによって得ることができる。したがって温度センサ19の取付位置についてもこれらの温度の測定を行う上で好適な位置にすることが好ましい。
【0033】
エンジンECU20は、エンジン10およびリレー接点24を制御するためのコンピュータ装置である。
【0034】
HV−ECU21は、クラッチ11およびインバータ17を制御すると共に、エンジンECU20と連携してエンジン10の制御にも関わるコンピュータ装置である。
【0035】
これらのECU(エンジンECU20、HV−ECU21)は、内部に不図示の演算部、メモリ、およびI/Oポートなどを有する。この演算部は、たとえばCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)、DSP(Digital Signal Processor)などにより構成される。
【0036】
キー始動位置スイッチ22は、運転者のキー操作によって補機バッテリ16からの電力を始動用電動機15に供給するスイッチである。一般的にはスタートスイッチと呼ばれている。
【0037】
キーON位置スイッチ23は、運転者がキー操作を行ったことをエンジンECU20およびHV−ECU21が検出するためのものである。
【0038】
キー始動位置スイッチ22およびキーON位置スイッチ23は、運転者のキー操作に連動して開閉する。具体的には、運転者がキー操作を行うと、まず、キーON位置スイッチ23が閉じられる。続けて運転者がキー操作を行うと(さらに回転させると)、キー始動位置スイッチ22が閉じられる。
【0039】
リレー接点24は、エンジンECU20によって制御されるリレーの接点であり、非制御時には導通状態を保つスイッチ機構(ノーマルクローズスイッチ機構)を有する。
【0040】
オルタネータ25は、補機バッテリ16を充電するための発電機であり、エンジン10の稼働中に、エンジン10の動力によって発電を行う。オルタネータ25は、従来から一般の自動車に適用されているものである。
【0041】
(ハイブリッド自動車1の動作について)
次に、ハイブリッド自動車1の動作について図2のフローチャートを参照して説明する。図2は、主にHV−ECU21の動作を示すフローチャートである。
【0042】
START:ハイブリッド自動車1に運転者が搭乗し、キーを所定のキー穴に差し込むとステップS1の処理へ移行する。なお、この時点では、未だHV−ECU21は起動していない。
【0043】
ステップS1:運転者の操作によりキーON位置スイッチ23が閉じられるとステップS2の処理へ移行する。
【0044】
ステップS2:ステップS1でキーON位置スイッチ23が閉じられたことによりHV−ECU21が立ち上がっていれば(ステップS2でYes)、ステップS3の処理へ移行する。一方、ステップS1でキーON位置スイッチ23が閉じられたが未だHV−ECU21が立ち上がっていなければ(ステップS2でNo)、ステップS7の処理へ移行する。
【0045】
ステップS3:HV−ECU21は、温度センサ19が検出する始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12によるエンジン10の始動可能温度を超えているか否かを判断する。HV−ECU21は、温度センサ19が検出する始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12によるエンジン10の始動可能温度を超えている場合(ステップS3でYes)、ステップS4の処理へ移行する。一方、HV−ECU21は、温度センサ19が検出する始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12によるエンジン10の始動可能温度以下の場合(ステップS3でNo)、ステップS8の処理へ移行する。
【0046】
エンジン10の始動性に関わる要因の1つであるエンジンオイルの粘度は、温度が低ければ低いほど増大し、エンジン10の始動性は悪くなる。そこで、ここでは、エンジン10に関わる温度によって走行用電動機12によるエンジン10の始動の可否が判断される。
【0047】
なお、いずれの温度情報(エンジン10を構成する部材の温度、エンジンオイルの油温、または冷却水の水温)を採用したとしても当該温度情報の示す温度とエンジンオイルの粘度との対応関係により、走行用電動機12によるエンジン10の始動性の良否を判断することができる。
【0048】
ステップS4:HV−ECU21は、バッテリ18のSOCが所定値より大きいか否かを判断する。HV−ECU21は、バッテリ18のSOCが所定値より大きい場合(ステップS4でYes)、ステップS5の処理へ移行する。一方、HV−ECU21は、バッテリ18のSOCが所定値以下の場合(ステップS4でNo)、ステップS8の処理へ移行する。
【0049】
ここでSOCの所定値について説明する。バッテリ18が正常な充電状態を保つことができるSOCの範囲を、たとえば40%〜70%とすると、上述のSOCの所定値は、たとえば50%程度に設定することができる。すなわち、バッテリ18のSOCが異常状態に陥る下限値よりも大きな値が上記所定値として設定される。
【0050】
ステップS5:HV−ECU21は、キー始動位置スイッチ22が閉じられたか否かを判断する。HV−ECU21は、キー始動位置スイッチ22が閉じられた場合(ステップS5でYes)、ステップS6の処理へ移行する。一方、HV−ECU21は、キー始動位置スイッチ22が閉じられていない場合(ステップS5でNo)、ステップS5の処理を繰り返し実行する。
【0051】
ステップS6:HV−ECU21は、エンジンECU20に対してリレー接点24の開放を指示すると共に、走行用電動機12によるエンジン10の始動を実行して処理を終了する(END)。
【0052】
ステップS7:キー始動位置スイッチ22が閉じられた場合(ステップS7でYes)、ステップS9の処理へ移行する。一方、キー始動位置スイッチ22が閉じられていない場合(ステップS7でNo)、ステップS2の処理へ戻る。
【0053】
ステップS8:HV−ECU21は、キー始動位置スイッチ22が閉じられたか否かを判断する。HV−ECU21は、キー始動位置スイッチ22が閉じられた場合(ステップS8でYes)、ステップS9の処理へ移行する。一方、HV−ECU21は、キー始動位置スイッチ22が閉じられていない場合(ステップS8でNo)、ステップS8の処理を繰り返し実行する。
【0054】
ステップS9:HV−ECU21は、エンジンECU20に対してリレー接点24の開放の指示を行わないと共に、走行用電動機12によるエンジン10の始動は行わない。これにより、エンジン10は、始動用電動機15によって始動されて処理を終了する(END)。
【0055】
すなわち、運転者がハイブリッド自動車1に搭乗し、キーを所定のキー穴に指し込み、キーON位置スイッチ23が閉じられるとエンジンECU20およびHV−ECU21が起動を開始する。
【0056】
このときに、エンジンECU20およびHV−ECU21は、それぞれコンピュータ装置であるため、立ち上がりには若干の時間(たとえば約0.5秒)を要する。
【0057】
ここで、運転者がエンジンECU20およびHV−ECU21の立ち上がりを待つことなく、一気に、キー始動位置スイッチ22を閉じる急操作を行った場合、直ちに始動用電動機15によりエンジン10の始動が実行される。
【0058】
また、運転者がキーON位置スイッチ23を閉じた後、若干の時間を経た後に、キー始動位置スイッチ22を閉じた場合、既にエンジンECU20およびHV−ECU21は立ち上がっている。
【0059】
このときに、HV−ECU21は、始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12を用いた始動が可能な温度を超えており、さらに、バッテリ18のSOCが所定値よりも大きければ、リレー接点24を開放することにより始動用電動機15によるエンジン10の始動を禁止し、走行用電動機12によってエンジン10の始動を実行する。
【0060】
一方、HV−ECU21は、始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12を用いた始動が可能な温度以下である場合、あるいはバッテリ18のSOCが所定値以下の場合、エンジンECU20に対してリレー接点24の開放の指示を行わず、始動用電動機15によりエンジン10を始動させる。
【0061】
(本発明の第一の実施の形態に係る効果について)
キー始動位置スイッチ22の操作が所定時間未満(すなわちエンジンECU20およびHV−ECU21の立ち上がりに要する時間未満)で行われたときには、始動用電動機15をエンジン10の始動に用いる。これにより、急なキー操作によってエンジン10を始動する癖のある運転者にとっては、自分のキー操作に対する実際のエンジン10の始動開始に時間差が無いため、不快感を覚えることがない。
【0062】
また、始動前のエンジン10に関わる温度が所定温度以下であるときには、始動用電動機15をエンジン10の始動に用いる。これにより、走行用電動機12によってはエンジン10の始動が困難となる極寒時であってもエンジン10の始動を良好に行うことができる。
【0063】
また、バッテリ18のSOCが所定値以下の場合には、始動電動機15によりエンジン10を始動する。これによれば、エンジン10の始動には、補機バッテリ16の電力が使用されるため、バッテリ18のSOCがさらに低下することを回避できる。また、上記所定値は、バッテリ18が異常状態に陥るSOCの下限値よりも大きな値に設定されているので、バッテリ18が異常状態に陥る事態を回避することができる。
【0064】
(本発明の第二の実施の形態に係るハイブリッド自動車1Aの構成について)
次に、本発明の第二の実施の形態に係るハイブリッド自動車1Aの構成について図3および図4を参照して説明する。図3は、ハイブリッド自動車1Aの全体構成図である。図4は、状態表示装置30の構成図である。ハイブリッド自動車1Aは、ハイブリッド自動車1とは一部が異なる。以下では、第一の実施の形態と同一または同種の部材は同一または同一系の符号を用いて説明し、その説明を省略または簡略化し、かつ異なる部材について主として説明する。
【0065】
ハイブリッド自動車1Aは、状態表示部30(表示手段の一部)および状態表示ランプ31(表示手段の一部)を備える。状態表示部30は、HV−ECU21Aから状態情報としてバッテリ18のSOCの情報を取得する。また、状態表示部30は、温度センサ19Aからエンジン10の温度情報を取得する。
【0066】
なお、温度センサ19Aは、ハイブリッド自動車1AのキーON位置スイッチ23が開放された後も温度情報を検出し続けることができる。たとえば温度センサ19Aは、電源を必要としないセンサを用いる。あるいは温度センサ19Aは、補機バッテリ16から常時電源を供給されている。
【0067】
状態表示部30は、図4に示すように、セレクタ32,33を備えている。セレクタ32,33は、それぞれ接点40,41,50,51およびスイッチ42,52を備えている。
【0068】
セレクタ32は、HV−ECU21Aから状態情報♯0を取得した場合、スイッチ42を接点40側に切替える。また、セレクタ32は、HV−ECU21Aから状態情報♯1を取得した場合、スイッチ42を接点41側に切替える。
【0069】
同様に、セレクタ33は、温度センサ19Aから温度情報♯0を取得した場合、スイッチ52を接点50側に切替える。また、セレクタ33は、温度センサ19Aから温度情報♯1を取得した場合、スイッチ52を接点51側に切替える。また、セレクタ33は、補機バッテリ16から電力を供給されており、キーON位置スイッチ23が開放された後も稼働を継続する。すなわち、上述したように、温度センサ19AもキーON位置スイッチ23が開放された後も温度を検出し続けられるので、ハイブリッド自動車1Aが休止中であっても温度センサ19Aおよびセレクタ33は稼働し続けることができる。
【0070】
たとえばHV−ECU21Aの状態情報♯0は、バッテリ18のSOCが所定値以下であるという情報である。一方、HV−ECU21Aの状態情報♯1は、バッテリ18のSOCが所定値を超えているという情報である。
【0071】
たとえば温度センサ19Aの温度情報♯0は、温度センサ19Aが検出する始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12によるエンジン10の始動可能温度以下であるという情報である。一方、温度センサ19Aの温度情報♯1は、温度センサ19Aが検出する始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12によるエンジン10の始動可能温度を超えているという情報である。
【0072】
セレクタ32のスイッチ42が接点41側に切替わっており、且つセレクタ33のスイッチ52が接点51側に切替わっているときに、キーON位置スイッチ23が閉じられると状態表示ランプ31が点灯する。
【0073】
また、セレクタ32におけるスイッチ42の切替え状態は、キーON位置スイッチ23が開放された後にも保持されている。
【0074】
(ハイブリッド自動車1Aの動作について)
次に、ハイブリッド自動車1Aの動作について図5のフローチャートを参照して説明する。図5は、主に状態表示部30の動作を示すフローチャートである。なお、第一の実施の形態で説明した図2のフローチャートの処理についても図5のフローチャートの処理と並行して実行されている。
【0075】
START:ハイブリッド自動車1に運転者が搭乗し、キーを所定のキー穴に差し込むとステップS11の処理へ移行する。
【0076】
ステップS11:運転者の操作によりキーON位置スイッチ23が閉じられるとステップS12の処理へ移行する。
【0077】
ステップS12:状態表示部30は、HV−ECU21Aから取得した状態情報に基づきセレクタ32のスイッチ42が状態情報♯1側(接点41側)に切替えられているか否かを判断する。上述したように、状態情報♯1とは、バッテリ18のSOCが所定値を超えているという情報である。状態表示部30は、HV−ECU21から取得した状態情報に基づきセレクタ32のスイッチ42が状態情報♯1側(接点41側)に切替えられている場合(ステップS12でYes)、ステップS13の処理へ移行する。一方、状態表示部30は、HV−ECU21Aから取得した状態情報に基づきセレクタ32のスイッチ42が状態情報♯1側(接点41側)に切替えられていない場合(ステップS12でNo)、ステップS15の処理へ移行する。
【0078】
ステップS13:状態表示部30は、温度センサ19Aから取得した温度情報に基づきセレクタ33のスイッチ52が温度情報♯1側(接点51側)に切替えられているか否かを判断する。上述したように、温度情報♯1とは、温度センサ19Aが検出する始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12によるエンジン10の始動可能温度を超えているという情報である。状態表示部30は、温度センサ19Aから取得した温度情報に基づきセレクタ33のスイッチ52が温度情報♯1側(接点51側)に切替えられている場合(ステップS13でYes)、ステップS14の処理へ移行する。一方、状態表示部30は、温度センサ19Aから取得した温度情報に基づきセレクタ33のスイッチ52が温度情報♯1側(接点51側)に切替えられていない場合(ステップS13でNo)、ステップS15の処理へ移行する。
【0079】
ステップS14:状態表示部30は、状態表示ランプ31を点灯させて処理を終了する(END)。
【0080】
ステップS15:状態表示部30は、状態表示ランプ31を消灯させて処理を終了する(END)。
【0081】
すなわち、状態表示部30は、HV−ECU21Aが稼働中に、状態情報として バッテリ18のSOCの情報を取得する。この状態情報は、バッテリ18のSOCが所定値以下の場合を状態情報♯0とし、バッテリ18のSOCが所定値を超えている場合を状態情報♯1とする。
【0082】
状態表示部30のセレクタ32は、HV−ECU21Aが稼働中に状態情報♯0または♯1を取得すると、状態情報♯0または♯1に応じてスイッチ42を接点40または41に切替える。この切替え状態は、キーON位置スイッチ23が開放された後も保持される。
【0083】
また、状態表示部30は、温度センサ19Aからの温度情報を常時取得し続けている。この温度情報は、始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12によるエンジン10の始動可能温度以下である場合を温度情報♯0とし、始動前のエンジン10に関わる温度が走行用電動機12によるエンジン10の始動可能温度を超えている場合を温度情報♯1とする。
【0084】
状態表示部30のセレクタ33は、温度情報♯0または♯1を取得すると、温度情報♯0または♯1に応じてスイッチ52を接点50または51に切替える。この切替え動作は、キーON位置スイッチ23の状態に関わらず常時行われる。
【0085】
そして、キーON位置スイッチ23が閉じられたときに、セレクタ32のスイッチ42が接点41側であり、且つセレクタ33のスイッチ52が接点51側である場合に限り、状態表示ランプ31が点灯する。
【0086】
なお、キーON位置スイッチ23が閉じられてから状態表示ランプ31が点灯するまでの時間は、補機バッテリ16の電流が、補機バッテリ16からキーON位置スイッチ23を経て状態表示ランプ31に到達するまでのごく短い時間であり、実質的には、キーON位置スイッチ23が閉じられると同時に状態表示ランプ31が点灯すると考えてよい。
【0087】
(本発明の第二の実施の形態に係る効果について)
始動前のエンジン10に関わる温度が所定温度を超えており、且つバッテリ18のSOCが所定値を超えているときには、その旨を表示する。これにより、キー操作を行う運転者が始動用電動機15を使用しなくてもエンジン10の始動が可能であることを瞬時に察知することができる。
【0088】
これにより、走行用電動機12によってエンジン10の始動が可能であるにも関わらず始動用電動機15がエンジン10の始動に使用される機会を減らすことができる。
【0089】
したがって、始動用電動機15の寿命を伸長させることができる。また、キーを急操作する癖のある運転者に対し、状態表示ランプ31が点灯することによって始動用電動機15を使用しないよう注意を喚起することもできる。これによっても始動用電動機15およびキースイッチそのものの寿命までも伸長させることができる。
【0090】
(その他の実施の形態)
本発明の実施の形態は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまに変更が可能である。たとえばオルタネータ25を省略してバッテリ18から補機バッテリ16に対して充電を行ってもよい。あるいは、オルタネータ25を省略して走行用電動機12が発電機として動作しているときに補機バッテリ16も走行用電動機12からの電力によって充電されるようにしてもよい。
【0091】
上述の実施の形態では、セレクタ33は補機バッテリ16から電力を供給されているとして説明した。これは、キーON位置スイッチ23が開放されていてもセレクタ33は稼働しているようにするためである。よって、セレクタ33が電力を供給され続けなくても(たとえば機械的なラッチ機構などにより)稼働を続けられるようなものであれば、補機バッテリ16からの電力の供給を省略することができる。
【0092】
また、セレクタ32,33は、説明を分り易くするために有接点スイッチのように図示して説明を行った。しかしながら実際には、無接点の記憶素子あるいはスイッチ素子を用いることが好ましい。
【0093】
また、図2のフローチャートで説明したHV−ECU21の動作において、ステップS3の「走行用電動機の始動可能温度を超えているか?」を「走行用電動機の始動可能範囲以上か?」とし、ステップS4の「SOCは所定値より大きいか?」を「SOCは所定値以上か?」と変えてもよい。この場合、ステップS3で、走行用電動機の始動可能温度以上の場合、ステップS4の処理へ移行し、走行用電動機の始動可能温度未満の場合、ステップS8の処理へ移行する。また、ステップS4で、SOCは所定値以上の場合、ステップS5の処理へ移行し、SOCは所定値未満の場合、ステップS8の処理へ移行する。
【0094】
(プログラムの実施の形態)
また、エンジンECU20およびHV−ECU21,21Aは、所定のプログラムにより動作する汎用の情報処理装置(CPU、DSP、マイクロプロセッサ(マイクロコンピュータ)など)によって構成されてもよい。例えば、汎用の情報処理装置は、メモリ、CPU、入出力ポートなどを有する。汎用の情報処理装置のCPUは、メモリなどから所定のプログラムとして制御プログラムを読み込んで実行する。これにより、汎用の情報処理装置には、エンジンECU20およびHV−ECU21,21Aの機能が実現される。また、その他の機能(たとえば状態表示部30のセレクタ32,33など)についてもソフトウェアにより実現可能な機能については汎用の情報処理装置とプログラムとによって実現することができる。
【0095】
なお、汎用の情報処理装置が実行する制御プログラムは、エンジンECU20およびHV−ECU21,21Aの出荷前に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであっても、エンジンECU20およびHV−ECU21,21Aの出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。また、制御プログラムの一部が、エンジンECU20およびHV−ECU21,21Aの出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶されたものであってもよい。エンジンECU20およびHV−ECU21,21Aの出荷後に、汎用の情報処理装置のメモリなどに記憶される制御プログラムは、例えば、CD−ROMなどのコンピュータ読取可能な記録媒体に記憶されているものをインストールしたものであっても、インターネットなどの伝送媒体を介してダウンロードしたものをインストールしたものであってもよい。
【0096】
また、制御プログラムは、汎用の情報処理装置によって直接実行可能なものだけでなく、ハードディスクなどにインストールすることによって実行可能となるものも含む。また、圧縮されたり、暗号化されたりしたものも含む。
【0097】
このように、汎用の情報処理装置とプログラムによってエンジンECU20およびHV−ECU21,21Aの機能を実現することにより、大量生産や仕様変更(または設計変更)に対して柔軟に対応可能となる。
【符号の説明】
【0098】
1,1A…ハイブリッド自動車、10…エンジン、12…走行用電動機、15…始動用電動機、19,19A…温度センサ(制御手段の一部)、20…エンジンECU(制御手段の一部)、21,21A…HV−ECU(制御手段の一部)、24…リレー接点(制御手段の一部)、30…状態表示部(表示手段の一部)、31…状態表示ランプ(表示手段の一部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと走行用電動機とが協働して走行し、上記走行用電動機は上記エンジンを始動可能なハイブリッド自動車において、
上記走行用電動機による上記エンジンの始動が困難となるような所定の温度以下、または所定の温度未満の状況において上記エンジンを始動させるための始動用電動機を上記走行用電動機とは別に備え、
上記走行用電動機で上記エンジンを始動可能であっても上記走行用電動機のバッテリの充電状態を示す値が所定値以下、または所定値未満のときには、上記始動用電動機を上記エンジンの始動に用いる制御手段を備える、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド自動車であって、
始動用スイッチの操作が所定時間以下、または所定時間未満で行われたときには、前記始動用電動機を前記エンジンの始動に用いる、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。
【請求項3】
請求項1または2記載のハイブリッド自動車であって、
前記エンジンの始動前の温度が前記所定の温度以下、または前記所定の温度未満でなく、且つ前記バッテリの充電状態を示す値が前記所定値以下、または前記所定値未満でないときには、その旨を表示する表示手段を備える、
ことを特徴とするハイブリッド自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−179428(P2011−179428A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45401(P2010−45401)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(000005463)日野自動車株式会社 (1,484)
【Fターム(参考)】