ハイブリッド車両の制御装置
【課題】回転磁界制御と固定磁界制御とを適切なタイミングにより切り替え、ショック等を発生させることなく回転電機をロック可能なハイブリッド車両の制御装置を提供する。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、車両に搭載され、内燃機関と、回転電機と、差動機構と、ロック手段と、制御手段と、を備える。ロック手段は、回転電機をロックする。制御手段は、ロック手段に回転電機をロックさせる場合であって当該回転電機を制御することで回転電機の回転数が略0になった時に、回転電機の制御を回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置は、車両に搭載され、内燃機関と、回転電機と、差動機構と、ロック手段と、制御手段と、を備える。ロック手段は、回転電機をロックする。制御手段は、ロック手段に回転電機をロックさせる場合であって当該回転電機を制御することで回転電機の回転数が略0になった時に、回転電機の制御を回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)に加えて、電動機や発電機として機能する回転電機(モータジェネレータ)を備えるハイブリッド車両が知られている。例えば、特許文献1には、ブレーキによって発電機を固定(ロック)する非発電機モードと、ブレーキを解除した発電モードとに切り替え走行可能な構成とし、発電機回転数をゼロに近づけてからブレーキを係合することで、係合時ショックの軽減を図ることが可能なハイブリッド車両が開示されている。また、特許文献2には、停車時に電動機を回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える点が開示されている。さらに、特許文献3には、電動機の回転制限用トルクが大きいほど大きな電流を当該電動機に通電させてステータの固定磁界を形成させる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−156387
【特許文献2】特開2008−259328
【特許文献3】特開2008−143467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1及び第2のモータジェネレータを有し、走行モードに応じて第1のモータジェネレータをロックさせるハイブリッド車両において、第1のモータジェネレータの回転数を0に近づけて、当該モータジェネレータをロックさせる場合、エンジンの反力トルクを正確に把握する必要がある。しかし、外乱等により当該反力トルクを正確に把握することができない場合があり、この場合には第1のモータジェネレータの回転数を0に収束させるのに時間がかかる。また、他の例として、当該回転数の変化中に固定磁界制御を実行して第1のモータジェネレータをロックさせる場合であっても、当該変化中での第1のモータジェネレータにかかるトルクが把握できないため、第2のモータジェネレータによる駆動力の補償ができず、ショックが発生する虞がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、回転磁界制御と固定磁界制御とを適切なタイミングにより切り替え、ショック等を発生させることなく回転電機をロック可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、内燃機関と、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転軸に動力を伝達可能な回転電機と、前記内燃機関に連結された第1回転要素と、前記回転電機に連結された第2回転要素と、駆動軸に連結された第3回転要素とを含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する差動機構と、前記回転電機の回転をロックするロック手段と、前記ロック手段に前記回転電機をロックさせる場合であって当該回転電機を制御することで前記回転電機の回転数が略0になった時に、前記回転電機の制御を、前記固定子の回転磁界により前記回転子が回転駆動されるよう前記回転電機を制御する回転磁界制御から、前記固定子の磁界の向きを固定して前記回転子の回転が制限されるよう前記回転電機を制御する固定磁界制御に切り替える制御手段と、を備える。
【0007】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、車両に搭載され、内燃機関と、回転電機と、差動機構と、ロック手段と、制御手段と、を備える。ロック手段は、例えば電磁ドグクラッチ機構、カムロック機構、ブレーキ機構であり、回転電機をロックする。制御手段は、例えばECU(Electronic Control Unit)であり、ロック手段により回転電機をロックさせる場合に当該回転電機を制御することで回転電機の回転数が略0になった時に、回転電機の制御を回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。ここで、「回転電機の回転数が略0」とは、0又は0に相当する値であり、例えば0の場合と同様の作用効果が奏する範囲に実験等に基づき予め定められる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、エンジン反力を正確に把握しなくても回転電機の回転数を0にすることができる。また、ハイブリッド車両の制御装置は、固定磁界制御への切り替え後に回転電機の回転数がハンチングすることを防ぎ、イナーシャトルクの変動に基づくショックを抑制することができる。
【0008】
上記のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合、前記回転電機の回転数の目標値を当該回転電機の回転数から0をまたぐ値に設定する。言い換えると、制御手段は、回転電機の回転数が負値の場合には回転電機の目標回転数を正値に設定し、回転電機の回転数が正値の場合には回転電機の目標回転数を負値に設定することで、回転電機の回転数を0にする。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、固定磁界制御への切り替えのタイミングが遅延するのを抑制することができる。
【0009】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記蓄電手段の放電許容電力が所定値以下の場合、前記回転電機の制御を、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる。「所定値」は、動的に定まる変動値であっても予め定められた固定値であってもよい。また、「蓄電手段の放電許容電力」とは、言い換えると蓄電手段の出力可能な電力の上限値である。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える場合に、固定磁界を発生させられなくなることを防ぐことができる。
【0010】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記蓄電手段の蓄電状態に対応する状態量が所定値以下の場合、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる。「所定値」は、動的に定まる変動値であっても予め定められた固定値であってもよい。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える場合に、固定磁界を発生させられなくなることを防ぐことができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記回転電機に流す電流の限界値が所定値以下の場合、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる。「所定値」は、動的に定まる変動値であっても予め定められた固定値であってもよい。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える場合に、固定磁界を発生させられなくなることを防ぐことができる。
【0012】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、前記固定磁界制御での前記固定子の磁界の強さを、前記固定磁界制御に切り替える前の前記回転軸にかかるトルクの変動幅が小さいほど弱く設定する。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、回転電機の磁界の強さを適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の各実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図の一例を示す。
【図2】ハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【図3】(a)無段変速モードの場合の動作共線図を示す。(b)固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。
【図4】第1実施形態におけるMG1回転数及びMG1トルクのタイムチャートの一例を示す。
【図5】(a)期間tw1のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図6】(a)時刻t2でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図7】(a)時刻t3でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図8】第1実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図9】第1比較例におけるタイムチャートの一例を示す。
【図10】(a)期間tw2のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図11】(a)期間tw3のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図12】(a)期間tw4のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図13】第2比較例におけるタイムチャートの一例を示す。
【図14】(a)第2比較例の時刻t3でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図15】(a)期間tw12のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図16】(a)ロック遷移制御時にMG1回転数が負の場合であって、目標回転数を「0」に設定した場合のMG1回転数の時間変化のグラフを示す。(b)ロック遷移制御時にMG1回転数が負値の場合であって、目標回転数を所定の正値に設定した場合のMG1回転数の時間変化のグラフを示す。
【図17】第2実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図18】(a)固定磁界での各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。(b)トルク変動幅が小さい場合における固定磁界での各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図19】制御切り替え後の固定磁界の強さとトルク変動幅との関係を示すテーブルである。
【図20】(a)高回転変化時補正テーブルの一例である。(b)低回転変化時補正テーブルの一例である。
【図21】第3実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図22】第3実施形態のトルク変動幅の取得処理の手順を示すフローチャートの一例である。
【図23】第4実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図24】制御切り替え実行可能判定処理の手順を示すフローチャートの一例である。
【図25】制御切り替え実行可能判定処理の他の例にかかる処理手順を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
[構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、及びハイブリッド駆動装置10を備える。
【0016】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における「制御手段」として機能する。なお、本発明に係る各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えば各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
【0017】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
【0018】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0019】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。バッテリ12は、本発明における「蓄電手段」の一例である。
【0020】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0021】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0022】
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0023】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸400、ロック機構500、MG2リダクション機構600及び減速機構700を備える。
【0024】
エンジン200は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する直列4気筒ガソリンエンジンである。エンジン200は、本発明における「内燃機関」の一例である。エンジン200は、公知のガソリンエンジンであり、ここでは、その詳細な構成を割愛するが、エンジン200の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸400に連結されている。ここで、「連結」とは、動力(回転)の伝達を直接的に行う構造を含むほか、1又は2以上の部材を介して動力の伝達を間接的に行う構造も含む。
【0025】
モータMG1は、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備えた電動発電機である。モータMG1は、本発明における「回転電機」の一例である。
【0026】
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備える。
【0027】
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。以後では、モータMG1のロータを「ロータRO」と呼び、モータMG1のステータを「ステータST」と呼ぶ。ロータROは、本発明の「回転子」の一例であり、ステータSTは、本発明の「固定子」の一例である。
【0028】
動力分割機構300は、遊星歯車機構であり、中心部に設けられたサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられたリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC1とを備える。動力分割機構300は、本発明における「差動機構」の一例である。
【0029】
ここで、サンギヤS1は、モータMG1のロータROに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。サンギヤS1は、本発明における「第2回転要素」の一例である。また、リングギヤR1は、減速機構700及びMG2リダクション機構600の後述するリングギヤR2に連結されており、その回転数は、駆動軸OUTの回転数(以後、「出力回転数Nout」と呼ぶ。)と等価である。リングギヤR1は、本発明における「第3回転要素」の一例である。更に、キャリアC1は、エンジン200のクランク軸に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)と等価である。キャリアC1は、本発明における「第1回転要素」の一例である。
【0030】
MG2リダクション機構600は、動力分割機構300と同様の遊星歯車機構である。MG2リダクション機構600は、中心部に設けられたサンギヤS2と、サンギヤS2の外周に同心円状に設けられたリングギヤR2と、サンギヤS2とリングギヤR2との間に配置されてサンギヤS2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC2とを備える。また、サンギヤS2には、モータMG2のロータが連結される。
【0031】
ここで、MG2リダクション機構600のリングギヤR2は、先に述べたように動力分割機構300のリングギヤR1と連結され、車軸と一義的な回転状態を呈する。また、キャリアC2は、固定要素により回転不能に固定されている。従って、残余の一回転要素たるサンギヤS2に固定されたモータMG2には、駆動軸OUTの回転がMG2リダクション機構600を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形で伝達される。このように、MG2リダクション機構600は、減速ギヤ機構として機能する。そして、MG2リダクション機構600と動力分割機構300とによって規定される複合型遊星歯車機構は、回転二自由度の差動機構である。よって、モータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。
【0032】
減速機構700は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤ(符号省略)と、デファレンシャル(符号省略)とを含むギヤ機構である。各車軸の回転数は、減速機構700により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。この駆動軸OUTには、先に述べたようにリングギヤR1及びリングギヤR2が連結されており、各リングギヤが、車速Vと一義的な回転状態を呈する構造となっている。
【0033】
尚、モータMG2は、モータMG1及びエンジン200と異なり、駆動軸OUTに対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTmg2」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも可能であり、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTmg1」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0034】
ハイブリッド駆動装置10は、図示破線枠A1及びA2に相当する部位に、レゾルバ等の回転センサが設けられている。これら回転センサは、ECU100と電気的に接続された状態にあり、検出された回転数(回転角速度)は、夫々ECU100に対し一定又は不定の周期で送出されている。補足すると、図示破線枠A1に相当する部位の回転数とは、MG2回転数Nmg2であり、図示破線枠A2に相当する部位の回転数とは、MG1回転数Nmg1である。
【0035】
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構300は、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比「P」を定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤS1に作用するトルク「Tes」は下記(1)式により、また駆動軸OUTに現れるトルク(以後、「エンジン直達トルクTer」と呼ぶ。)は下記(2)式により、夫々表される。
【0036】
Tes=−Te×P/(1+P)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+P)・・・(2)
ロック機構500は、サンギヤS1の状態を、回転不能なロック状態と回転可能な解放状態との間で選択的に切り替え可能に構成された係合装置であり、本発明における「ロック手段」の一例である。ここで、サンギヤS1は、既に述べた通りモータMG1に連結されており、サンギヤS1がロック状態にある場合、モータMG1もまた回転不能なロック状態となる。以後では、サンギヤS1がロック状態にあることを適宜「モータMG1がロック状態にある」と表現する。ロック機構500は、例えば、一対の係合要素の各々に形成された歯状部材を相互に噛合させることにより係合要素同士を係合させる電磁ドグクラッチ等の噛合式係合装置であってもよいし、所謂電磁カムロック式の係合装置であってもよい。他の例では、ロック機構500は、不図示の油圧制御機構により供給される制御油圧に応じて相互に係合及び解放可能に構成された複数の係合要素を備えた湿式多板型ブレーキ装置であってもよい。
【0037】
[制御方法]
以下では、ECU100が実行する制御方法について具体的に説明する。
【0038】
(各変速モードでの基本制御)
ハイブリッド車両1は、ロック対象となる動力分割機構300のサンギヤS1の状態に応じて、固定変速比モード及び無段変速モードを選択可能である。以下、各変速モードでの基本的な制御について説明する。
【0039】
図3(a)、(b)は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。具体的には、図3(a)は、無段変速モードの場合の動作共線図を示す。また、図3(b)は、固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0040】
図3(a)において、縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順にモータMG1(一義的にサンギヤS1)、エンジン200(一義的にキャリアC1)及びモータMG2(一義的に駆動軸OUT)を表す。
【0041】
ここで、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素を備えた回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギヤS1、キャリアC1及びリングギヤR1のうち二要素の回転数が定まった場合に、残余の一回転要素の回転数が必然的に定まる。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表される。
【0042】
図3(a)において、車速V及び出力回転数Noutと一義的な関係にあるモータMG2の動作点が動作点「m1」であるとする。この場合、モータMG1の動作点が動作点「g1」であれば、残余の回転要素の一たるキャリアC1に連結されたエンジン200の動作点は、動作点「e1」となる。この際、ECU100は、出力回転数Noutを維持したままモータMG1の動作点を動作点「g2」及び動作点「g3」に変化させた場合、エンジン200の動作点は、夫々動作点「e2」及び動作点「e3」へと変化する。
【0043】
即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を回転数制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させる。この状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点(以後、「エンジン動作点」と呼ぶ。)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となるエンジン動作点(以後、「最適燃費動作点」と呼ぶ。)に制御される。なお、この場合のエンジン動作点とは、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する。
【0044】
ここで、無段変速モードでは、MG1回転数Nmg1は可変である必要がある。このため、ECU100は、無段変速モードを選択する場合、ロック機構500を、サンギヤS1が非ロック状態となるように制御する。
【0045】
また、駆動軸OUTにエンジン直達トルクTerを供給するため、ECU100は、エンジントルクTeに応じてサンギヤS1の回転軸であるサンギヤ軸310に現れる先述のトルクTesと大きさが等しく且つ符号が反転した(即ち、負トルクである)反力トルクを、モータMG1からこのサンギヤ軸310に供給する。この場合、動作点g1或いは動作点g2といった正回転領域の動作点で、モータMG1は正回転負トルクの電力回生状態(即ち、発電状態)となる。このように、ECU100は、無段変速モードでは、モータMG1を反力要素として機能させることにより、駆動軸OUTにエンジントルクTeの一部を供給しつつ、サンギヤ軸310に分配されるエンジントルクTeの一部で電力回生(発電)を行う。駆動軸OUTに対し要求されるトルクがエンジン直達トルクTerで不足する場合、ECU100は、この回生電力を利用する形で、或いは適宜バッテリ12から電力を持ち出して、モータMG2から駆動軸OUTに対し適宜アシストトルクとしてのMG2トルクTmg2を供給する。
【0046】
一方、例えば高速軽負荷走行時等、例えば出力回転数Noutが高い割にエンジン回転数Neが低く済むような運転条件では、モータMG1が、例えば動作点g3の如き負回転領域の動作点となる。モータMG1は、エンジントルクTeの反力トルクとして負トルクを出力しているから、この場合、モータMG1は、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータMG1の入出力トルクであるMG1トルクTmg1は、ハイブリッド車両1の駆動トルクとして駆動軸OUTに伝達される。他方、ECU100は、エンジン直達トルクTerとMG2トルクTmg2との総和がドライバの要求するトルクに合致するように、エンジン200、モータMG1及びモータMG2が相互に協調的に制御する。従って、このようにモータMG1が力行状態に陥った場合、モータMG2は、駆動軸OUTに供給される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータMG2は、正回転負トルクの状態となって電力回生状態となる。このような状態においては、モータMG1からの駆動力をモータMG2での電力回生に利用し、この回生電力によりモータMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される非効率な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置10のシステム効率が低下する。
【0047】
そこで、ECU100は、予めこのような動力循環が生じ得るものとして定められた運転領域において、ロック機構500によりサンギヤS1をロック状態に制御する。以後、ECU100がサンギヤS1を非ロック状態からロック状態に遷移させる制御を「ロック遷移制御」とも呼ぶ。その様子が図3(b)に示される。ロック機構500によりサンギヤS1がロック状態に移行すると、モータMG1の動作点は、回転数「0」に対応する図示動作点「g4」に固定される。
【0048】
この場合、出力回転数Noutとこの0回転とにより、残余のエンジン回転数Neは一義的に固定され、その動作点は図示動作点「e4」となる。即ち、サンギヤS1がロックされた場合、エンジン回転数Neは、車速Vと一義的なMG2回転数Nmg2により一義的に決定される。即ち、この場合、変速比が一定となる。この状態に対応する変速モードが固定変速比モードである。
【0049】
固定変速比モードでは、ECU100は、本来モータMG1が負担すべきエンジントルクTeの反力トルクを、ロック機構500の物理的な係合力により代替させる。即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を電力回生状態にも力行状態にも制御する必要がないため、モータMG1を停止させる。従って、基本的には、モータMG2を稼動させる必要もなくなり、モータMG2は、言わば空転状態となる。結局、固定変速比モードでは、駆動軸OUTに現れる駆動トルクが、エンジントルクTeのうち、動力分割機構300により駆動軸OUT側に分割された直達トルクTerのみとなり、ハイブリッド駆動装置10は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、その伝達効率が向上する。
【0050】
尚、固定変速比モードにおいて、ECU100は、モータMG2を必ずしも停止させる必要はない。例えば、ハイブリッド車両1には、各種の電装補器類が備わっており、それら電装補器類の駆動には然るべき駆動電力が必要となる。モータMG2は、この駆動電力に対応する電力をバッテリ12に供給するために、小規模の電力回生を行ってもよい。この場合、ECU100は、エンジントルクTeの直達成分がハイブリッド車両1を走行させるために要求されるトルクに対し余剰となるようにエンジントルクTeを制御し、余剰分のトルクをモータMG2で回生させる。また、ECU100は、エンジン直達トルクTerのみでは駆動トルクが不足する場合、モータMG2を力行駆動させ、MG2トルクTmg2によって駆動トルクを適宜アシストする。
【0051】
(モータMG1の回転制御)
次に、モータMG1をロック状態にする場合に、ECU100が行うMG1回転数Nmg1の制御方法について具体的に説明する。ECU100は、ロック遷移制御時に以下に示す第1実施形態乃至第4実施形態の少なくともいずれか一つを実行することで、MG1回転数Nmg1を0rpmに固定する。そして、その後、ECU100は、ロック機構500を係合させることで、モータMG1をロック状態にする。
【0052】
なお、以後では、「回転磁界制御」とは、ステータSTの回転磁界によってロータROが回転駆動されるようにモータMG1を制御することを指し、「固定磁界制御」とは、ステータSTの磁界の向きを固定してロータROの回転が制限されるようにモータMG1を制御することを指す。
【0053】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態に係るECU100の制御について説明する。概略的には、第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0rpmになるタイミングに基づき、回転磁界制御から固定磁界制御への切り替え(単に「制御切り替え」とも呼ぶ。)を行う。これにより、ECU100は、エンジン200の反力を正確に把握できなくてもモータMG1を速やかにロック状態に遷移させると共に、イナーシャトルクの変動に伴うショックの発生を抑制する。
【0054】
1.タイムチャート
図4は、第1実施形態におけるMG1回転数Nmg1及びMG1トルクTmg1のタイムチャートの一例を示す。図4において、グラフ「A1」は、第1実施形態におけるMG1回転数Nmg1の時間変化を示し、グラフ「A2」は、第1比較例、具体的には回転磁界制御を継続したままMG1回転数Nmg1のフィードバック制御によりモータMG1をロック状態にする場合のMG1回転数Nmg1の時間変化を示す。また、グラフ「A3」は、第1実施形態におけるMG1トルクTmg1の時間変化を示す。なお、グラフA2に相当する第1比較例の詳細は、後述する「3.効果」のセクションで詳しく説明する。
【0055】
まず、ロック遷移制御の開始後時刻「t2」までの期間「tw1」の一時点でのモータMG1の状態について図5(a)、(b)を用いて説明する。図5(a)は、時刻tw1の一時点でのステータSTの磁極(ステータ磁極)LstとロータROの永久磁石(ロータ磁石)Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図5(b)は、ステータ磁極Lstに対するロータ磁石Lroの位相(「ロータ磁石位相」とも呼ぶ。)に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P1」は、図5(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0056】
期間tw1では、ECU100は、回転磁界制御を実行しつつMG1回転数Nmg1を「0」に近づける。具体的には、ECU100は、図5(a)に示すように、矢印「Y3」により示される正回転方向に作用するエンジン200の反力トルクであるトルクTes(「エンジン反力トルクTes」とも呼ぶ。)よりも矢印「Y2」により示される負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を小さくする。これにより、矢印Y2及び矢印Y3に相当するトルクが互いに打ち消し合い、結果として、ロータROには正回転方向に矢印「Y4」により示される所定のトルクが作用することになる。なお、矢印Y4に相当するトルクは、図5(b)の矢印「Y5」が示す幅である。
【0057】
また、期間tw1では、負回転方向に慣性エネルギーが発生している。従って、期間tw1では、慣性エネルギーが矢印Y4に示すトルクにより減少しつつ、慣性エネルギーによりロータROが負回転方向に回転している(矢印Y1参照)。
【0058】
次に、制御切り替えの実行直前の時間帯に該当する時刻「t2」でのモータMG1の状態について図6(a)、(b)を用いて説明する。図6(a)は、時刻t2でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図6(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P2」は、図6(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0059】
時刻t2では、ECU100は、引き続き回転磁界制御を継続している。そして、この場合、回転磁界により生じるMG1トルクTmg1とエンジン反力トルクTesとのトルク差だけロータROに正回転方向のトルクが作用する(矢印Y6、Y7参照)。なお、時刻t2では、MG1回転数Nmg1が0近傍であるため、慣性エネルギーが無いか無視できる程度に小さい。
【0060】
次に、制御切り替え実行直後の時刻に該当する時刻「t3」でのモータMG1の状態について図7(a)、(b)を用いて説明する。図7(a)は、時刻t3でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図7(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。このMG1トルクTmg1は、固定磁界によりモータMG1に発生するトルクである。そして、動作点「P3」は、図7(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0061】
ECU100は、時刻t3でMG1回転数Nmg1が「0」になったことを検出する。そして、この場合、ECU100は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替え、ステータ磁極Lstを固定する。これにより、MG1トルクTmg1とエンジン反力トルクTesとが釣り合ってロータROが停止する。具体的には、MG1トルクTmg1は、負回転方向、言い換えると、ロータ磁石LroのN極又はS極がステータ磁極LstのS極とに対向する方向に作用する(矢印Y8参照)。一方、エンジン反力トルクTesがロータROの正回転方向に発生する(矢印Y9参照)。そして、図7(b)に示すように、矢印Y8及び矢印Y9に示す両者のトルクが釣り合っている。
【0062】
また、時刻t3では、MG1回転数Nmg1が「0」であるため慣性エネルギーがない。そして、時刻t3以降では、MG1トルクTmg1とエンジン反力トルクTesとが引き続き釣り合い、MG1回転数Nmg1がハンチングせずイナーシャトルクは変動しない。このように、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」になった場合に回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、エンジン反力トルクTesを正確に把握しなくてもモータMG1を速やかにロック状態にすることができると共に、制御切り替え後のイナーシャトルクの変動によるショックを抑制することができる。
【0063】
なお、上述のタイムチャートの説明では、ECU100は、MG1回転数Nmg1を負値から「0」に向かって収束させる場合に、制御切り替えを行った。これに限らず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を正値から「0」に向かって収束させる場合であっても同様に、MG1回転数Nmg1が「0」になるタイミングで制御切り替えを行う。
【0064】
2.処理フロー
次に、第1実施形態の処理手順について図8を参照して説明する。図8は、第1実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図8に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0065】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を取得する(ステップS101)。具体的には、ECU100は、上述した図2に示す破線枠A2に相当する回転センサの検出信号に基づきMG1回転数Nmg1を取得する。
【0066】
次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であるか否か判定する(ステップS102)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であると判断した場合(ステップS102;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS103)。これにより、ECU100は、ステータSTの磁界の向きを固定してロータROの回転を制限し、エンジン反力トルクTesを正確に把握することなく、MG1回転数Nmg1を速やかに0に収束させることができる。
【0067】
一方、MG1回転数Nmg1が0でないと判断した場合(ステップS102;No)、MG1回転数Nmg1を0へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS104)。この場合、ECU100は、回転磁界制御を継続する。
【0068】
3.効果
次に、第1実施形態の効果について、第1比較例及び第2比較例を参照して説明する。
【0069】
図9は、第1比較例におけるMG1回転数Nmg1及びMG1トルクTmg1のタイムチャートの一例を示す。第1比較例では、ECU100は、ロック遷移制御中では、回転磁界制御を継続しつつ、MG1回転数Nmg1の目標値と実値との偏差に基づくフィードバック制御を行う。ここで、ECU100は、エンジン反力トルクTesを推定し、MG1回転数Nmg1が上昇する場合、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesより小さいと判断する。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が下降する場合、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesより大きいと判断する。
【0070】
まず、モータMG1をロックする制御を開始後、MG1回転数Nmg1が0に達するまでの期間「tw1」では、ECU100は、第1実施形態の図5と同様、MG1回転数Nmg1を「0」に近づけるため、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を小さくする。これにより、ロータROは、負回転方向に回転しつつ、正回転方向に所定のトルクが加えられる。一方、期間tw1では、慣性エネルギーが負回転方向に発生している。
【0071】
次に、MG1回転数Nmg1が「0」を通過後、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesを通過するまでの期間「tw2」でのモータMG1の状態について図10(a)、(b)を用いて説明する。図10(a)は、期間tw2のある時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図10(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P4」は、図10(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0072】
図10(b)に示すように、期間tw2では、エンジン反力トルクTesによる正回転方向の力がMG1トルクTmg1による負回転方向の力より強い。よって、図10(a)、(b)に示すように、そのトルク差(矢印Y12参照)に相当するMG1回転数Nmg1を正回転方向に増加させる力がロータROに作用する(矢印Y10参照)。その結果、期間tw2では、ロータROは正回転方向に回転する(矢印Y11参照)と共に、慣性エネルギーが正回転方向に発生している。
【0073】
次に、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesを通過後、負回転方向のMG1トルクTmg1が正回転方向のエンジン反力トルクTesより大きい期間「tw3」でのモータMG1の状態について図11(a)、(b)を用いて説明する。図11(a)は、期間tw3のある時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図11(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P5」は、図11(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0074】
図11(b)に示すように、期間tw3では、エンジン反力トルクTesによる正回転方向の力よりもMG1トルクTmg1による負回転方向の力の方が強い。これにより、図11(a)、(b)に示すように、そのトルク差(矢印Y15参照)に相当するMG1回転数Nmg1を負回転方向に遷移させる力がロータROに作用する(矢印Y13参照)。また、期間tw3では、正回転方向の慣性エネルギーが期間tw2から引き続き存在し、これにより、ロータROは、徐々に減少しつつも正回転方向に回転する(矢印Y14参照)。
【0075】
次に、MG1回転数Nmg1が「0」に収束後の期間「tw4」でのモータMG1の状態について図12(a)、(b)を用いて説明する。図12(a)は、期間tw4のある時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図12(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P6」は、図12(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0076】
図12(b)に示すように、期間tw4では、エンジン反力トルクTesによる正回転方向の力(矢印Y16参照)とMG1トルクTmg1による負回転方向の力(矢印Y17参照)とがつり合い、これらのトルク差が「0」となっている。そして、期間tw4では、MG1回転数Nmg1は「0」となり、モータMG1はロック状態となる。
【0077】
このように、第1比較例では、ECU100は、エンジン反力トルクTesを推定しつつ、MG1回転数Nmg1の変化に基づき、モータMG1を制御する。しかし、第1比較例では、MG1回転数Nmg1の変化幅が大きい場合には、MG1回転数Nmg1が「0」に収束するのに時間を要する。同様に、エンジントルクTeの指令値と実値との偏差が大きい場合、エンジン反力トルクTesを正確に推定するのに時間を要するため、MG1回転数Nmg1が「0」に収束するのに時間を要する。
【0078】
以上を勘案し、第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」になるタイミングで回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、MG1回転数Nmg1を「0」に収束させる。従って、ECU100は、MG1回転数Nmg1の変化幅によらず、かつ、エンジントルクTeの指令値と実値との偏差によらず、即ち、エンジン反力トルクTesを正確に把握することなく、MG1回転数Nmg1を速やかに「0」に収束させることができる。
【0079】
次に、第2比較例について図13乃至図15を参照して説明する。
【0080】
図13は、第2比較例におけるMG1回転数Nmg1及びMG1トルクTmg1のタイムチャートの一例を示す。図13において、グラフ「A5」は、第2比較例におけるMG1回転数Nmg1の時間変化に相当し、グラフ「A6」は、第2比較例におけるMG1トルクTmg1の時間変化に相当する。第2比較例では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」ではないタイミングで制御切り替えを行う。
【0081】
まず、モータMG1をロックする制御を開始後、制御切り替えを行う直前までの期間「tw11」では、第1比較例の期間tw1と同様、ECU100は、MG1回転数Nmg1を「0」に近づけるため、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を小さくする。また、期間tw11では、慣性エネルギーが負回転方向に発生している。これにより、ロータROは、負回転方向に回転しつつ、正回転方向に所定のトルクが加えられる。
【0082】
次に、制御切り替えを実行した直後に相当する時刻「t4」でのモータMG1の状態について図14(a)、(b)を用いて説明する。図14(a)は、時刻t4でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図14(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P7」は、図14(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0083】
図14(b)に示すように、時刻t4では、エンジン反力トルクTesとMG1トルクTmg1とが等しくなる。一方、図14(a)に示すように、MG1回転数Nmg1は負であり(矢印Y21参照)、慣性エネルギーは、負回転方向に発生している。
【0084】
そして、時刻t4以後の期間「tw12」でのモータMG1の状態について図15(a)、(b)を用いて説明する。図15(a)は、期間tw12の初期の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図15(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P8」は、図15(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0085】
図15(a)に示すように、期間tw12の初期では、MG1回転数Nmg1が負である(矢印Y23参照)。従って、図15(b)に示すように、負回転方向の慣性エネルギーによって、ロータROが負側に回転し、固定磁界制御によって、ロータROにかかるMG1トルクTmg1が小さくなる。結果として、図15(a)に示すように、ロータROは、正回転方向のトルクが作用される(矢印Y22参照)。その後、MG1回転数Nmg1は、正となり、さらに期間tw12が終了するまでハンチングを続ける。
【0086】
なお、期間tw12では、ECU100は、図13に示すように、ステータSTの磁界方向を固定した状態でMG1回転数Nmg1を制御するため、モータMG1に発生するMG1トルクTmg1を把握することができない。従って、当該期間中では、ECU100は、MG1トルクTmg1に基づきエンジン直達トルクTerを算出して駆動力の不足分を特定することができない。従って、ECU100は、この期間でモータMG2を用いた当該駆動力の補償をすることができず、駆動力の変動を抑制できない。
【0087】
以上を勘案し、第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」になるタイミングで回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、ロック遷移制御時にMG1トルクTmg1が把握できなくなることを防ぎ、モータMG2による駆動力の補償を精度よく実行することができる。また、ECU100は、制御切り替え後にエンジン回転数Ne、MG1回転数Nmg1がハンチングすることを防ぎ、当該回転数変動に基づくイナーシャトルクの変動を抑制する。
【0088】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態に加えて、ECU100は、ロック遷移制御時に、MG1回転数Nmg1を「0」まで変化させるときに、現在のMG1回転数Nmg1から「0」をまたぐ値にMG1回転数Nmg1の目標値(以後、「目標回転数Nmg1*」と呼ぶ。)を設定する。これにより、ECU100は、ロック遷移制御開始から制御切り替えまでに要する時間を短縮し、速やかにモータMG1をロック状態にする。
【0089】
図16(a)は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が負の場合であって、目標回転数Nmg1*を「0」に設定した場合のMG1回転数Nmg1の時間変化のグラフを示す。図16(b)は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が負値の場合であって、目標回転数Nmg1*を所定の正値(例えば50rpm)に設定した場合のMG1回転数Nmg1の時間変化のグラフを示す。
【0090】
図16(a)に示すように、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたがない値に目標回転数Nmg1*が設定された場合、MG1回転数Nmg1は、緩やかに「0」に向かう。そして、時刻「t5」でMG1回転数Nmg1は「0」となり、ECU100は、制御切り替えを行う。
【0091】
一方、第2実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値に目標回転数Nmg1*を設定する。これにより、図16(b)に示すように、MG1回転数Nmg1はより速やかに「0」に向かって上昇する。この場合、時刻t5よりも早い時刻「t6」でMG1回転数Nmg1は「0」となり、ECU100は、時刻t6で制御切り替えを行う。
【0092】
このように、ECU100は、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値に目標回転数Nmg1*を設定する。目標回転数Nmg1*の具体的な値は、例えば実験等により定められECU100のメモリに予め記憶される。このようにすることで、ECU100は、ロック遷移制御に要する時間を短縮し、速やかにモータMG1をロック状態にすることができる。
【0093】
また、ECU100は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が正値の場合であっても、上述した負値の場合と同様、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値(例えば−50rpm)に目標回転数Nmg1*を設定する。これにより、ECU100は、MG1回転数Nmg1が正値から「0」に向かう場合であっても、ロック遷移制御に要する時間を短縮し、速やかにモータMG1をロック状態にすることができる。
【0094】
次に、第2実施形態における処理フローについて図17を参照して説明する。図17は、第2実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図17に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0095】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を取得する(ステップS201)。具体的には、ECU100は、上述した図2に示す破線枠A2に相当する回転センサの検出信号に基づきMG1回転数Nmg1を取得する。次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であるか否か判定する(ステップS202)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であると判断した場合(ステップS202;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS203)。これにより、ECU100は、ステータSTの磁界の向きを固定してロータROの回転を制限し、エンジン反力トルクTesを正確に把握することなく、MG1回転数Nmg1を速やかに0に収束させることができる。
【0096】
一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」でないと判断した場合(ステップS202;No)、MG1回転数Nmg1が0より大きいか否か判定する(ステップS204)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0より大きいと判断した場合(ステップS204;Yes)、目標回転数Nmg1*を負値に設定する(ステップS205)。言い換えると、ECU100は、MG1回転数Nmg1を負値へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0より大きくないと判断した場合(ステップS204;No)、即ちMG1回転数Nmg1が0より小さいと判断した場合、目標回転数Nmg1*を正値に設定する(ステップS206)。このように、ECU100は、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値に目標回転数Nmg1*を設定することで、制御切り替えのタイミングが遅れることを防ぎ、速やかにモータMG1をロック状態にすることができる。
【0097】
<第3実施形態>
第3実施形態では、第1、第2実施形態に加え、ECU100は、固定磁界制御でのステータSTの磁界の強さを、エンジン反力トルクTesなどのモータMG1の回転軸にかかるトルク(「MG1軸トルク」とも呼ぶ。)と、制御切り替え直前の当該トルクの変動幅(以後、「トルク変動幅Tw」と呼ぶ。)と、に基づき決定する。具体的には、ECU100は、固定磁界制御でのステータSTの磁界の強さを、制御切り替え直前のMG1軸トルクが小さいほど弱く設定すると共に、トルク変動幅Twが小さいほど弱く設定する。これにより、ECU100は、制御切り替え後の磁界を適切に設定してMG1回転数Nmg1を「0」に停止させると共に、磁界を不要に大きくすることによる損失を抑制する。
【0098】
これについて図18を参照して具体的に説明する。図18(a)、(b)は、固定磁界での各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。図18(b)は、図18(a)の場合より制御切り替えの直前の所定時間幅でのトルク変動幅Twが小さい場合に相当する。動作点「P10」、「P11」は、制御切り替え時(直前)の各MG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0099】
ECU100は、図18(b)の場合に設定する固定磁界の強さを、図18(a)の場合に設定する固定磁界よりも弱くなるように設定する。言い換えると、ECU100は、トルク変動幅Twが小さいほど、制御切り替え後のステータSTの磁界を弱く設定する。
【0100】
図19は、ECU100が制御切り替え後の固定磁界の強さとトルク変動幅Twとの関係を示すテーブルの一例である。図19に示すように、制御切り替え後の固定磁界の強さは、トルク変動幅Twが小さいほど弱く、トルク変動幅Twが大きいほど強く設定される。また、固定磁界の強さは、トルク変動幅Twの他、制御切り替え直前のMG1軸トルクが小さいほど弱く、MG1軸トルクが大きいほど強く設定される。
【0101】
以上を勘案し、ECU100は、制御切り替え直前のMG1軸トルクと、トルク変動幅Twと、固定磁界の強さとのマップ等をメモリに予め記憶しておく。上述のマップ等は、予め実験等に基づき作成される。そして、ECU100は、上述のマップ等を参照し、制御切り替え直前のMG1軸トルクとトルク変動幅Twとに基づき固定磁界の強さを設定する。これにより、ECU100は、制御切り替え後の磁界の強さを大きくしすぎることなく、安定してモータMG1を0rpmに停止させることができる。また、ECU100は、不要に固定磁界を強く設定することによるエネルギー損失を抑制することができる。
【0102】
ここで、トルク変動幅Twを求める方法について具体的に説明する。例えば、ECU100は、制御切り替え直前のMG1回転数Nmg1の変化率(単に「回転数変化率dN」とも呼ぶ。)の平均(単に「平均回転数変化率AdN」と呼ぶ。)に対する振れ(変動)幅(単に「回転数変動幅dNw」とも呼ぶ。)に基づきトルク変動幅Twを推定する。具体的には、ECU100は、MG1軸トルクを表す等式である式(3)を変形した式(4)を参照することで、トルク変動幅Twを求める。ここで、「Ig」は、モータMG1の慣性モーメントを示し、「Tx」は、エンジントルクTeのうち、エンジン回転数Neの変化に費やされるトルクを除いたトルクを示す。そして、式(4)は、式(3)の差分に相当する。
【0103】
Ig×dN=Tmg1+P/(1+P)×Tx 式(3)
Tw=P/(1+P)×(Txの変動幅)=Ig×dNw 式(4)
このように、ECU100は、式(4)を参照して、慣性モーメントIg及び回転数変動幅dNwによりトルク変動幅Twを求める。慣性モーメントIgは、例えば実験等に基づき予め定められ、ECU100のメモリに記憶される。
【0104】
次に、回転数変動幅dNwの算出方法の一例について説明する。まず、ECU100は、エンジン200の圧縮、膨張工程を1回以上含む期間の回転数変化率dNの平均、例えばエンジン200が一般的な直列4気筒エンジンであれば1/2エンジン回転以上の期間の回転数変化率dNの平均を平均回転数変化率AdNとして算出する。そして、ECU100は、回転数変動幅dNwを、エンジン200の圧縮、膨張工程を1回以上含む期間での回転数変化率dNの最大値及び最小値と平均回転数変化率AdNとの差分、即ち、平均回転数変化率AdNの算出に用いられた回転数変化率dNの最大値及び最小値と平均回転数変化率AdNとの差分に定める。具体的には、回転数変動幅dNwは、上述の最大値と平均回転数変化率AdNとの差分又は上述の最小値と平均回転数変化率AdNとの差分のうちいずれか一方、若しくは、これらの和に設定される。
【0105】
また、好適には、ECU100は、上述の処理に加え、エンジン200やダンパの設計により、エンジン回転数Neの低回転時には高回転時に比べてトルク変動幅Twが大きくなることを勘案し、トルク変動幅Twをエンジン回転数Neに基づき補正してもよい。この場合、トルク変動幅Twに乗じる補正率を「補正率Ra」とすると、ECU100は、式(4)に代えて以下の式(5)を参照してトルク変動幅Twを算出する。
【0106】
Tw=Ig×dNw×Ra 式(5)
図20(a)、(b)は、エンジン回転数Neに対応するトルク変動幅Twに乗じる補正率Raのテーブルを示す。具体的には、図20(a)は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を負値から「0」へ遷移させる場合に使用するテーブル(「高回転変化時補正テーブル」とも呼ぶ。)に相当し、図20(b)は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を正値から「0」へ遷移させる場合に使用するテーブル(「低回転変化時補正テーブル」とも呼ぶ。)に相当する。図20(a)、(b)に示すテーブルは、例えば実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに予め記憶される。
【0107】
そして、ECU100は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が負値の場合には、図20(a)に示す高回転変化時補正テーブルを参照し、エンジン回転数Neが低いほど補正率Raを小さく設定し、エンジン回転数Neが高いほど補正率Raを大きく設定する。また、この場合、補正率Raは、おおむね1以下の値に設定される。
【0108】
一方、ECU100は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が正値の場合には、図20(b)に示す低回転変化時補正テーブルを参照し、エンジン回転数Neが低いほど補正率Raを大きく設定し、エンジン回転数Neが高いほど補正率Raを小さく設定する。また、この場合、補正率Raは、おおむね1以上の値に設定される。
【0109】
このように、ECU100は、エンジン回転数Neに基づき補正率Raを設定する。また、ECU100は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を負値から「0」へ増加させる場合にはトルク変動幅Twが小さくなるように補正率Raを定め、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を正値から「0」へ減少させる場合にはトルク変動幅Twが大きくなるように補正率Raを定める。
【0110】
次に、第3実施形態の処理フローについて図21、22を参照して説明する。図21は、第3実施形態でECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図21に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0111】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を取得する(ステップS301)。次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であるか否か判定する(ステップS302)。
【0112】
そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であると判断した場合(ステップS302;Yes)、回転磁界の強さを決定する(ステップS303)。具体的には、ECU100は、後述するステップS305で求めたトルク変動幅Twが小さいほど、固定磁界制御時のステータSTの磁界を弱く設定する。そして、ECU100は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS304)。これにより、ECU100は、制御切り替え後の磁界の強さを大きくしすぎることなく、安定してモータMG1を0rpmに停止させることができ、不要に固定磁界を強く設定することによるエネルギー損失を抑制することができる。
【0113】
一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」ではないと判断した場合(ステップS302;No)、トルク変動幅Twの取得処理を行う(ステップS305)。この具体的な処理内容については、図22のフローチャートで説明する。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1を0へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS306)。
【0114】
図22は、ステップS305のトルク変動幅Twの取得処理の処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図22に示すフローチャートを、ステップS305へ処理を進めた場合に実行する。
【0115】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1の回転数変化率dNを算出する(ステップS401)。具体的には、ECU100は、一定間隔ごとに取得されたMG1回転数Nmg1の差分を算出することにより、回転数変化率dNを算出する。
【0116】
そして、ECU100は、回転数変化率dNの平均回転数変化率AdNを算出する(ステップS402)。例えば、ECU100は、エンジン200の圧縮、膨張工程を1回以上含む期間内での回転数変化率dNの平均値を平均回転数変化率AdNに定める。
【0117】
次に、ECU100は、平均回転数変化率AdNに基づき回転数変動幅dNwを算出する(ステップS403)。具体的には、ECU100は、平均回転数変化率AdNを求めた期間での平均回転数変化率AdNに対する回転数変化率dNの振れ幅を、回転数変動幅dNwに定める。そして、ECU100は、エンジン回転数Neを取得する(ステップS404)。
【0118】
次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0未満であるか否か判定する(ステップS405)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0未満であると判断した場合(ステップS405;Yes)、即ち、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を負値から「0」へ遷移させる場合、高回転変化時補正テーブルを参照して補正率Raを算出する(ステップS406)。例えば、この場合、ECU100は、図20(a)に示すテーブルを参照し、エンジン回転数Neに基づき補正率Raを特定する。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0未満ではないと判断した場合(ステップS405;No)、即ち、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が正値から「0」へ遷移する場合、低回転変化時補正テーブルを参照して補正率Raを算出する(ステップS407)。具体的には、この場合、ECU100は、図20(b)に示すテーブルを参照し、エンジン回転数Neに基づき補正率Raを特定する。
【0119】
そして、ECU100は、ステップS406又はステップS407の実行後、トルク変動幅Twを算出する(ステップS408)。具体的には、ECU100は、式(5)を参照し、慣性モーメントIg、回転数変動幅dNw、及び補正率Raを乗じた値を、トルク変動幅Twと定める。これにより、ECU100は、トルク変動幅Twを精度よく推定することができ、図21のステップS303で回転磁界の強さを正確に設定することができる。
【0120】
<第4実施形態>
第4実施形態では、第1乃至第3実施形態に加え、ECU100は、運転者からの要求、車両の状態等に応じてMG1回転数Nmg1を「0」に変化させる際の制御切り替えを行うか否か判定する。そして、ECU100は、制御切り替え後の固定磁界を十分な強さで作れない可能性がある場合には、制御切り替えを行わない。これにより、ECU100は、予め制御切り替えによるロック遷移制御が可能か否か判断し、制御切り替え後に固定磁界を発生させられなくなることを防ぎ、MG1回転数Nmg1を「0」にできないことやロック遷移制御が長期化することを抑制する。
【0121】
これについて、具体例を2つ挙げてさらに詳しく説明する。
【0122】
第1の例では、ECU100は、バッテリ12の持ち出し可能な電力であるバッテリ12の出力の上限値(「放電許容電力Wout」とも呼ぶ。)が所定値よりも低い場合には、回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行う。これにより、ECU100は、制御切り替え後に固定磁界を発生させられなくなることを防ぐ。
【0123】
ここで、ECU100は、好適には、上述の所定値を、固定磁界制御時の消費電力の予測値に定める。そして、ECU100は、放電許容電力Woutが固定磁界制御時の消費電力の予想値より低い場合には、モータMG1で強い固定磁界を発生させるだけの電力をバッテリ12から持ち出せない可能性が高いと判断する。
【0124】
次に、固定磁界制御時の消費電力の予測値の算出方法について説明する。ECU100は、後述するように、固定磁界制御時のモータMG2での予想消費電力(以後、「予想モータ消費電力Wm」と呼ぶ。)と、固定磁界制御時のモータMG1での予想消費電力(以後、「予想発電機消費電力Wg」と呼ぶ。)との和を、固定磁界制御時の消費電力の予測値として求める。
【0125】
ここで、ECU100は、予想モータ消費電力Wmを算出するため、まず、車速V及びアクセル開度Taに基づき、所定のマップ等を参照し、運転者の操作に基づく要求パワー(ドライバ要求パワー)を求める。次に、ECU100は、所定のマップ等を参照し、エンジン200の出力パワーを、車速Vによって定まるMG1回転数Nmg1が「0」の時のエンジン回転数Ne及びドライバ要求パワーに基づき求める。そして、ECU100は、所定のマップ等を参照し、モータMG2の出力パワーをドライバ要求パワーとエンジン200の出力パワーに基づき求める。そして、ECU100は、所定のマップ等を参照し、当該モータ出力パワーに基づき予想モータ消費電力Wmを求める。上述のマップ等は、例えば実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0126】
また、ECU100は、モータMG1での必要な固定磁界の強さに基づき予想発電機消費電力Wgを算出する。ここで、ECU100は、必要な固定磁界の強さを決定するため、所定のマップ等を参照し、車速Vによって定まるMG1回転数Nmg1が「0」の時のエンジン回転数Ne、エンジン200の出力パワーに基づき、エンジントルクTeを求める。そして、ECU100は、所定のマップ等を参照し、当該エンジントルクTeに基づき必要な固定磁界の強さを決定し、当該固定磁界の強さに基づき予想発電機消費電力Wgを求める。上述のマップ等は、例えば実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0127】
第2の例では、ECU100は、モータMG1が許容可能な電流の限界値の予測値(以後、「予想発電機限界電流Iglim」と呼ぶ。)が所定値よりも小さい場合には、制御切り替えを行わず、回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行う。具体的には、ECU100は、所定のマップ等を参照し、各種センサから取得したモータMG1の温度、インバータ温度、インバータ冷却水温に基づき、予想発電機限界電流Iglimを求め、これが所定値よりも小さいか否か判定する。
【0128】
一般に、モータMG1の温度、インバータ温度、インバータ冷却水温などが高い場合には、モータMG1が許容可能な電流が小さく、固定磁界を発生するのに必要な電流をモータMG1に供給できない可能性が高まる。以上を勘案し、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが所定値よりも小さい場合には回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行うことで、制御切り替え後に固定磁界を発生させられないこと等を抑制する。
【0129】
また、好適には、ECU100は、上述の所定値を、固定磁界を発生させるために必要なモータMG1に流す電流の予測値(以後、「予想発電機必要電流Ig*」と呼ぶ。)に設定する。即ち、この場合、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが予想発電機必要電流Ig*よりも低い場合には、回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行う。
【0130】
ここで、予想発電機必要電流Ig*の算出方法について説明する。まず、ECU100は、ドライバ要求パワーを、車速V及びアクセル開度Taに基づき算出する。また、ECU100は、エンジン200の出力パワーを、車速Vによって決まるMG1回転数Nmg1が「0」のときのエンジン回転数Ne及びドライバ要求パワーにより求める。そして、ECU100は、エンジントルクTeを、車速Vによって定まるMG1回転数Nmg1が「0」のときのエンジン回転数Ne及びエンジン200の出力パワーにより求める。そして、ECU100は、必要な固定磁界の強さを、上述のエンジントルクTeにより求め、当該固定磁界の強さに基づき、予想発電機必要電流Ig*を定める。
【0131】
次に、第4実施形態の処理フローについて図23乃至図25を参照して説明する。
【0132】
図23は、第4実施形態でECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図23に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0133】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を取得する(ステップS501)。次に、ECU100は、制御切り替え実行可能判定を行う(ステップS502)。具体的には、ECU100は、この場合、図24に示すフローチャートの処理又は図25に示すフローチャートの処理のいずれかを実行する。これらの具体的な処理手順については後述する。
【0134】
そして、ECU100は、制御切り替え実行可能判定に基づき、制御切り替えが可能であるか否か判定する(ステップS503)。そして、ECU100は、制御切り替えが可能であると判断した場合(ステップS503;Yes)、ステップS504へ処理を進める。一方、ECU100は、制御切り替えが可能ではないと判断した場合(ステップS503;No)、MG1回転数Nmg1を「0」へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS506)。従って、この場合、ECU100は、ロック遷移制御中に制御切り替えを実行せず、回転磁界制御を継続する。
【0135】
次に、ECU100は、ステップS504でMG1回転数Nmg1が「0」であるか否か判定する(ステップS504)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であると判断した場合(ステップS504;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS505)。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」ではないと判断した場合(ステップS504;No)、MG1回転数Nmg1を「0」へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS506)。
【0136】
図24は、図23のステップS502の制御切り替え実行可能判定の処理手順の一例を示すフローチャートである。ECU100は、図24に示すフローチャートの処理を、ステップS502へ処理を進めた場合に実行する。
【0137】
まず、ECU100は、放電許容電力Woutを取得する(ステップS601)。例えば、ECU100は、例えば、バッテリ12に付設された温度センサやSOC(State Of Charge)センサの検出信号に基づき放電許容電力Woutを特定する。そして、ECU100は、予想モータ消費電力Wmを算出する(ステップS602)。次に、ECU100は、予想発電機消費電力Wgを算出する(ステップS603)。
【0138】
次に、ECU100は、放電許容電力Woutが予想モータ消費電力Wmと予想発電機消費電力Wgとの和以上であるか否か判定する(ステップS604)。これにより、ECU100は、固定磁界制御へ遷移した場合の消費電力が放電許容電力Woutを超えないか否か判定する。そして、ECU100は、放電許容電力Woutが予想モータ消費電力Wmと予想発電機消費電力Wgとの和以上であると判断した場合(ステップS604;Yes)、制御切り替えが可能であると判定する(ステップS605)。そして、その後、ECU100は、図23のフローチャートに示すように、MG1回転数Nmg1が「0」になった場合に(ステップS504;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS505)。これにより、ECU100は、速やかにかつ確実にロック遷移制御を実行することができる。
【0139】
一方、ECU100は、放電許容電力Woutが予想モータ消費電力Wmと予想発電機消費電力Wgとの和未満であると判断した場合(ステップS604;No)、制御切り替えが不可能であると判定する(ステップS605)。即ち、この場合、ECU100は、制御切り替え後にモータMG1に必要な固定磁界を発生させるだけの電力が不足する虞があると判断する。そして、この場合、ECU100は、図23のステップS506で回転磁界制御を継続し、MG1回転数Nmg1をフィードバック制御する。
【0140】
図25は、図23のステップS502の制御切り替え実行可能判定の処理手順の他の例を示すフローチャートである。ECU100は、図24に示すフローチャートの処理を、ステップS502へ処理を進めた場合に実行する。
【0141】
まず、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimを算出する(ステップS701)。次に、ECU100は、予想発電機必要電流Ig*を算出する(ステップS702)。そして、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが予想発電機必要電流Ig*以上であるか否か判定する(ステップS703)。これにより、ECU100は、固定磁界制御へ遷移した場合に十分な電流をモータMG1に流すことができるか否か判定する。そして、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが予想発電機必要電流Ig*以上であると判断した場合(ステップS703;Yes)、制御切り替えが可能であると判定する(ステップS704)。そして、その後、ECU100は、図23のフローチャートに示すように、MG1回転数Nmg1が「0」になった場合に(ステップS504;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS505)。これにより、ECU100は、速やかにかつ確実にロック遷移制御を実行することができる。
【0142】
一方、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが予想発電機必要電流Ig*未満であると判断した場合(ステップS703;No)、制御切り替えが不可能であると判定する(ステップS705)。即ち、この場合、ECU100は、制御切り替え後にモータMG1に必要な固定磁界を発生させるだけの電流を設定できない虞があると判断する。そして、この場合、ECU100は、図23のステップS506で回転磁界制御を継続し、MG1回転数Nmg1をフィードバック制御する。
【0143】
[変形例]
次に、第1実施形態乃至4実施形態の変形例について説明する。以下に示す変形例は、任意に組み合わされて上述の実施形態に適用されてもよい。
【0144】
(変形例1)
第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」になるタイミングで制御切り替えを行った。しかし、本発明が適用可能な方法はこれに限定されない。これに代えて、ECU100は、MG1回転数Nmg1が略0になるタイミングで制御切り替えを実行してもよい。具体的には、この場合、ECU100は、例えばMG1回転数Nmg1が0又は0に相当する値、即ちMG1回転数Nmg1が第1実施形態と同様の作用効果を奏する値の範囲内になった場合に制御切り替えを行う。上述の範囲は、例えば予め実験等に基づき定められECU100のメモリに記憶される。そして、ECU100は、制御切り替えを実行後、ロック機構500を係合させることで、モータMG1をロック状態にする。これによっても、ECU100は、エンジン200の反力を正確に把握できなくてもモータMG1を速やかにロック状態にすることができる。
【0145】
(変形例2)
第2実施形態では、ECU100は、ロック遷移制御時に、MG1回転数Nmg1が「0」をまたぐように目標回転数Nmg1*を設定した。この制御に加え、ECU100は、MG1回転数Nmg1の変化中に、当該回転数の変化率(回転数変化率dN)の変化に基づき、MG1回転数Nmg1が「0」をまたがないか否か判定してもよい。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」をまたがないと判断した場合にのみ、MG1回転数Nmg1が「0」をまたぐように目標回転数Nmg1*を設定する。
【0146】
例えば、ECU100は、ロック遷移制御時の直前の所定時間幅で回転数変化率dNを監視し、当該回転数変化率dNの変化が所定値以下の場合にのみMG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値に目標回転数Nmg1*を設定する。上述の所定時間幅及び所定値は、例えば予め実験等に基づき定められ、ECU100のメモリに記憶される。
【0147】
(変形例3)
第3実施形態では、ECU100は、平均回転数変化率AdNに対する振れ幅(回転数変動幅dNw)に基づきトルク変動幅Twを算出した。これに代えて、ECU100は、エンジン回転数Neの変化に基づきトルク変動幅Twを算出してもよい。この場合、ECU100は、例えば、図21のステップS305のトルク変動幅取得処理でエンジン回転数Neの変化率を算出し、当該変化率から所定のマップ等を参照してトルク変動幅Twを特定する。上述のマップ等は、例えば予め実験等に基づき定められ、ECU100のメモリに記憶される。
【0148】
(変形例4)
第4実施形態では、ECU100は、放電許容電力Woutが所定値以下の場合、制御切り替えを行わす回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行った。これに代えて、ECU100は、バッテリ12の充電状態(SOC)が所定値以下の場合、制御切り替えを行わす回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行ってもよい。上述の所定値は、実験等に基づき予め定められた値又は動的に定められた値のいずれであってもよい。後者の場合、所定値は、例えば、固定磁界制御を実行してMG1回転数Nmg1を「0」にするのに必要なSOCに定められる。なお、SOCは、本発明に係る「蓄電状態に対応する状態量」の一例であり、完全放電状態が0(%)、満充電状態が100(%)として定量化されている。これによっても、好適に、ECU100は、制御切り替え後に固定磁界を発生させられなくなることを防ぎ、MG1回転数Nmg1を「0」にできないことやロック遷移制御が長期化することを抑制する。
【符号の説明】
【0149】
1 ハイブリッド車両
10 ハイブリッド駆動装置
12 バッテリ
100 ECU
200 エンジン
300 動力分割機構
400 入力軸
500 ロック機構
600 MG2リダクション機構
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両に好適な制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関(エンジン)に加えて、電動機や発電機として機能する回転電機(モータジェネレータ)を備えるハイブリッド車両が知られている。例えば、特許文献1には、ブレーキによって発電機を固定(ロック)する非発電機モードと、ブレーキを解除した発電モードとに切り替え走行可能な構成とし、発電機回転数をゼロに近づけてからブレーキを係合することで、係合時ショックの軽減を図ることが可能なハイブリッド車両が開示されている。また、特許文献2には、停車時に電動機を回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える点が開示されている。さらに、特許文献3には、電動機の回転制限用トルクが大きいほど大きな電流を当該電動機に通電させてステータの固定磁界を形成させる点が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−156387
【特許文献2】特開2008−259328
【特許文献3】特開2008−143467
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
第1及び第2のモータジェネレータを有し、走行モードに応じて第1のモータジェネレータをロックさせるハイブリッド車両において、第1のモータジェネレータの回転数を0に近づけて、当該モータジェネレータをロックさせる場合、エンジンの反力トルクを正確に把握する必要がある。しかし、外乱等により当該反力トルクを正確に把握することができない場合があり、この場合には第1のモータジェネレータの回転数を0に収束させるのに時間がかかる。また、他の例として、当該回転数の変化中に固定磁界制御を実行して第1のモータジェネレータをロックさせる場合であっても、当該変化中での第1のモータジェネレータにかかるトルクが把握できないため、第2のモータジェネレータによる駆動力の補償ができず、ショックが発生する虞がある。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、回転磁界制御と固定磁界制御とを適切なタイミングにより切り替え、ショック等を発生させることなく回転電機をロック可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、内燃機関と、固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転軸に動力を伝達可能な回転電機と、前記内燃機関に連結された第1回転要素と、前記回転電機に連結された第2回転要素と、駆動軸に連結された第3回転要素とを含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する差動機構と、前記回転電機の回転をロックするロック手段と、前記ロック手段に前記回転電機をロックさせる場合であって当該回転電機を制御することで前記回転電機の回転数が略0になった時に、前記回転電機の制御を、前記固定子の回転磁界により前記回転子が回転駆動されるよう前記回転電機を制御する回転磁界制御から、前記固定子の磁界の向きを固定して前記回転子の回転が制限されるよう前記回転電機を制御する固定磁界制御に切り替える制御手段と、を備える。
【0007】
上記のハイブリッド車両の制御装置は、車両に搭載され、内燃機関と、回転電機と、差動機構と、ロック手段と、制御手段と、を備える。ロック手段は、例えば電磁ドグクラッチ機構、カムロック機構、ブレーキ機構であり、回転電機をロックする。制御手段は、例えばECU(Electronic Control Unit)であり、ロック手段により回転電機をロックさせる場合に当該回転電機を制御することで回転電機の回転数が略0になった時に、回転電機の制御を回転磁界制御から固定磁界制御に切り替える。ここで、「回転電機の回転数が略0」とは、0又は0に相当する値であり、例えば0の場合と同様の作用効果が奏する範囲に実験等に基づき予め定められる。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、エンジン反力を正確に把握しなくても回転電機の回転数を0にすることができる。また、ハイブリッド車両の制御装置は、固定磁界制御への切り替え後に回転電機の回転数がハンチングすることを防ぎ、イナーシャトルクの変動に基づくショックを抑制することができる。
【0008】
上記のハイブリッド車両の制御装置の一態様では、前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合、前記回転電機の回転数の目標値を当該回転電機の回転数から0をまたぐ値に設定する。言い換えると、制御手段は、回転電機の回転数が負値の場合には回転電機の目標回転数を正値に設定し、回転電機の回転数が正値の場合には回転電機の目標回転数を負値に設定することで、回転電機の回転数を0にする。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、固定磁界制御への切り替えのタイミングが遅延するのを抑制することができる。
【0009】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記蓄電手段の放電許容電力が所定値以下の場合、前記回転電機の制御を、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる。「所定値」は、動的に定まる変動値であっても予め定められた固定値であってもよい。また、「蓄電手段の放電許容電力」とは、言い換えると蓄電手段の出力可能な電力の上限値である。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える場合に、固定磁界を発生させられなくなることを防ぐことができる。
【0010】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記蓄電手段の蓄電状態に対応する状態量が所定値以下の場合、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる。「所定値」は、動的に定まる変動値であっても予め定められた固定値であってもよい。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える場合に、固定磁界を発生させられなくなることを防ぐことができる。
【0011】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記回転電機に流す電流の限界値が所定値以下の場合、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる。「所定値」は、動的に定まる変動値であっても予め定められた固定値であってもよい。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える場合に、固定磁界を発生させられなくなることを防ぐことができる。
【0012】
上記のハイブリッド車両の制御装置の他の一態様では、前記制御手段は、前記固定磁界制御での前記固定子の磁界の強さを、前記固定磁界制御に切り替える前の前記回転軸にかかるトルクの変動幅が小さいほど弱く設定する。このようにすることで、ハイブリッド車両の制御装置は、回転電機の磁界の強さを適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の各実施形態に係るハイブリッド車両の概略構成図の一例を示す。
【図2】ハイブリッド駆動装置の概略構成図の一例である。
【図3】(a)無段変速モードの場合の動作共線図を示す。(b)固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。
【図4】第1実施形態におけるMG1回転数及びMG1トルクのタイムチャートの一例を示す。
【図5】(a)期間tw1のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図6】(a)時刻t2でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図7】(a)時刻t3でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図8】第1実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図9】第1比較例におけるタイムチャートの一例を示す。
【図10】(a)期間tw2のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図11】(a)期間tw3のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図12】(a)期間tw4のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図13】第2比較例におけるタイムチャートの一例を示す。
【図14】(a)第2比較例の時刻t3でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図15】(a)期間tw12のある時点でのステータ磁極とロータ磁石との位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。(b)ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図16】(a)ロック遷移制御時にMG1回転数が負の場合であって、目標回転数を「0」に設定した場合のMG1回転数の時間変化のグラフを示す。(b)ロック遷移制御時にMG1回転数が負値の場合であって、目標回転数を所定の正値に設定した場合のMG1回転数の時間変化のグラフを示す。
【図17】第2実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図18】(a)固定磁界での各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。(b)トルク変動幅が小さい場合における固定磁界での各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するトルクのグラフを示す。
【図19】制御切り替え後の固定磁界の強さとトルク変動幅との関係を示すテーブルである。
【図20】(a)高回転変化時補正テーブルの一例である。(b)低回転変化時補正テーブルの一例である。
【図21】第3実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図22】第3実施形態のトルク変動幅の取得処理の手順を示すフローチャートの一例である。
【図23】第4実施形態の処理手順を示すフローチャートの一例である。
【図24】制御切り替え実行可能判定処理の手順を示すフローチャートの一例である。
【図25】制御切り替え実行可能判定処理の他の例にかかる処理手順を示すフローチャートの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0015】
[構成]
始めに、図1を参照し、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置を適用したハイブリッド車両1の構成の一例について説明する。図1は、ハイブリッド車両1の概略構成図である。ハイブリッド車両1は、ECU100、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14、及びハイブリッド駆動装置10を備える。
【0016】
ECU100は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)、A/D(Analog to Digital)変換器及び入出力インターフェイスなどを有し、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御する電子制御ユニットである。ECU100は、ROMに格納された制御プログラムに従って、後述する制御を実行する。そして、ECU100は、本発明における「制御手段」として機能する。なお、本発明に係る各手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えば各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等であってもよい。
【0017】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1の車軸たる左車軸SFL(左前輪FLに対応)及び右車軸SFR(右前輪FRに対応)に駆動力としての駆動トルクを供給することによりハイブリッド車両1を駆動するドライブユニットである。ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成については後述する。
【0018】
PCU11は、不図示のインバータを含み、バッテリ12と後述する各モータジェネレータとの間の電力の入出力を、或いはバッテリ12を介さない各モータジェネレータ相互間の電力の入出力を制御する制御ユニットである。具体的には、PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して各モータジェネレータに供給すると共に、各モータジェネレータによって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給する。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される。
【0019】
バッテリ12は、複数の単位電池セルを直列接続した構成を有し、各モータジェネレータを力行するための電力に係る電力供給源として機能する電池ユニットである。バッテリ12は、本発明における「蓄電手段」の一例である。
【0020】
アクセル開度センサ13は、ハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度「Ta」を検出することが可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0021】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速「V」を検出するセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される。
【0022】
ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。図2は、ハイブリッド駆動装置10の概略構成図である。尚、同図において、図1と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0023】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、エンジン200、動力分割機構300、モータジェネレータMG1(以下、適宜「モータMG1」と略称する。)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「モータMG2」と略称する。)、入力軸400、ロック機構500、MG2リダクション機構600及び減速機構700を備える。
【0024】
エンジン200は、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能する直列4気筒ガソリンエンジンである。エンジン200は、本発明における「内燃機関」の一例である。エンジン200は、公知のガソリンエンジンであり、ここでは、その詳細な構成を割愛するが、エンジン200の出力動力たるエンジントルク「Te」は、不図示のクランク軸を介してハイブリッド駆動装置10の入力軸400に連結されている。ここで、「連結」とは、動力(回転)の伝達を直接的に行う構造を含むほか、1又は2以上の部材を介して動力の伝達を間接的に行う構造も含む。
【0025】
モータMG1は、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備えた電動発電機である。モータMG1は、本発明における「回転電機」の一例である。
【0026】
モータMG2は、モータMG1よりも体格の大きい電動発電機であり、モータMG1と同様に、電気エネルギーを運動エネルギーに変換する力行機能と、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する回生機能とを備える。
【0027】
尚、モータMG1及びモータMG2は、同期電動発電機として機能し、外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える。以後では、モータMG1のロータを「ロータRO」と呼び、モータMG1のステータを「ステータST」と呼ぶ。ロータROは、本発明の「回転子」の一例であり、ステータSTは、本発明の「固定子」の一例である。
【0028】
動力分割機構300は、遊星歯車機構であり、中心部に設けられたサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられたリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC1とを備える。動力分割機構300は、本発明における「差動機構」の一例である。
【0029】
ここで、サンギヤS1は、モータMG1のロータROに、その回転軸を共有する形で連結されており、その回転数はモータMG1の回転数(以後、「MG1回転数Nmg1」と呼ぶ。)と等価である。サンギヤS1は、本発明における「第2回転要素」の一例である。また、リングギヤR1は、減速機構700及びMG2リダクション機構600の後述するリングギヤR2に連結されており、その回転数は、駆動軸OUTの回転数(以後、「出力回転数Nout」と呼ぶ。)と等価である。リングギヤR1は、本発明における「第3回転要素」の一例である。更に、キャリアC1は、エンジン200のクランク軸に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の回転数(以後、「エンジン回転数Ne」と呼ぶ。)と等価である。キャリアC1は、本発明における「第1回転要素」の一例である。
【0030】
MG2リダクション機構600は、動力分割機構300と同様の遊星歯車機構である。MG2リダクション機構600は、中心部に設けられたサンギヤS2と、サンギヤS2の外周に同心円状に設けられたリングギヤR2と、サンギヤS2とリングギヤR2との間に配置されてサンギヤS2の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤ(不図示)と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支するキャリアC2とを備える。また、サンギヤS2には、モータMG2のロータが連結される。
【0031】
ここで、MG2リダクション機構600のリングギヤR2は、先に述べたように動力分割機構300のリングギヤR1と連結され、車軸と一義的な回転状態を呈する。また、キャリアC2は、固定要素により回転不能に固定されている。従って、残余の一回転要素たるサンギヤS2に固定されたモータMG2には、駆動軸OUTの回転がMG2リダクション機構600を構成する各ギヤのギヤ比に応じて定まる減速比に応じて減速された形で伝達される。このように、MG2リダクション機構600は、減速ギヤ機構として機能する。そして、MG2リダクション機構600と動力分割機構300とによって規定される複合型遊星歯車機構は、回転二自由度の差動機構である。よって、モータMG2の回転数(以後、「MG2回転数Nmg2」と呼ぶ。)は、車速Vに応じて一義的に定まる。
【0032】
減速機構700は、車軸と一義的な回転状態を呈する駆動軸OUTと、この駆動軸OUTに連結された減速ギヤ(符号省略)と、デファレンシャル(符号省略)とを含むギヤ機構である。各車軸の回転数は、減速機構700により所定のギヤ比に従って減速された状態で駆動軸OUTに伝達される。この駆動軸OUTには、先に述べたようにリングギヤR1及びリングギヤR2が連結されており、各リングギヤが、車速Vと一義的な回転状態を呈する構造となっている。
【0033】
尚、モータMG2は、モータMG1及びエンジン200と異なり、駆動軸OUTに対し、その出力トルク(以後、「MG2トルクTmg2」と呼ぶ。)を作用させることが可能である。従って、モータMG2は、駆動軸OUTにトルクを付加してハイブリッド車両1の走行をアシストすることも可能であり、駆動軸OUTからのトルクの入力により電力回生を行うことも可能である。MG2トルクTmg2は、モータMG1の入出力トルク(以後、「MG1トルクTmg1」と呼ぶ。)と共に、PCU11を介してECU100により制御される。
【0034】
ハイブリッド駆動装置10は、図示破線枠A1及びA2に相当する部位に、レゾルバ等の回転センサが設けられている。これら回転センサは、ECU100と電気的に接続された状態にあり、検出された回転数(回転角速度)は、夫々ECU100に対し一定又は不定の周期で送出されている。補足すると、図示破線枠A1に相当する部位の回転数とは、MG2回転数Nmg2であり、図示破線枠A2に相当する部位の回転数とは、MG1回転数Nmg1である。
【0035】
動力分割機構300は、上述した構成の下で、エンジン200から入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1によってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率、具体的には各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率で分配する。即ち、動力分割機構300は、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能である。この際、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比「P」を定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤS1に作用するトルク「Tes」は下記(1)式により、また駆動軸OUTに現れるトルク(以後、「エンジン直達トルクTer」と呼ぶ。)は下記(2)式により、夫々表される。
【0036】
Tes=−Te×P/(1+P)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+P)・・・(2)
ロック機構500は、サンギヤS1の状態を、回転不能なロック状態と回転可能な解放状態との間で選択的に切り替え可能に構成された係合装置であり、本発明における「ロック手段」の一例である。ここで、サンギヤS1は、既に述べた通りモータMG1に連結されており、サンギヤS1がロック状態にある場合、モータMG1もまた回転不能なロック状態となる。以後では、サンギヤS1がロック状態にあることを適宜「モータMG1がロック状態にある」と表現する。ロック機構500は、例えば、一対の係合要素の各々に形成された歯状部材を相互に噛合させることにより係合要素同士を係合させる電磁ドグクラッチ等の噛合式係合装置であってもよいし、所謂電磁カムロック式の係合装置であってもよい。他の例では、ロック機構500は、不図示の油圧制御機構により供給される制御油圧に応じて相互に係合及び解放可能に構成された複数の係合要素を備えた湿式多板型ブレーキ装置であってもよい。
【0037】
[制御方法]
以下では、ECU100が実行する制御方法について具体的に説明する。
【0038】
(各変速モードでの基本制御)
ハイブリッド車両1は、ロック対象となる動力分割機構300のサンギヤS1の状態に応じて、固定変速比モード及び無段変速モードを選択可能である。以下、各変速モードでの基本的な制御について説明する。
【0039】
図3(a)、(b)は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態を例示する動作共線図である。具体的には、図3(a)は、無段変速モードの場合の動作共線図を示す。また、図3(b)は、固定変速比モードの場合の動作共線図を示す。尚、同図において、図2と重複する箇所には同一の符号を付してその説明を適宜省略する。
【0040】
図3(a)において、縦軸は回転数を表しており、横軸は、左から順にモータMG1(一義的にサンギヤS1)、エンジン200(一義的にキャリアC1)及びモータMG2(一義的に駆動軸OUT)を表す。
【0041】
ここで、動力分割機構300は、相互に差動関係にある複数の回転要素を備えた回転二自由度の遊星歯車機構であり、サンギヤS1、キャリアC1及びリングギヤR1のうち二要素の回転数が定まった場合に、残余の一回転要素の回転数が必然的に定まる。即ち、動作共線図上において、各回転要素の動作状態は、ハイブリッド駆動装置10の一動作状態に一対一に対応する一の動作共線によって表される。
【0042】
図3(a)において、車速V及び出力回転数Noutと一義的な関係にあるモータMG2の動作点が動作点「m1」であるとする。この場合、モータMG1の動作点が動作点「g1」であれば、残余の回転要素の一たるキャリアC1に連結されたエンジン200の動作点は、動作点「e1」となる。この際、ECU100は、出力回転数Noutを維持したままモータMG1の動作点を動作点「g2」及び動作点「g3」に変化させた場合、エンジン200の動作点は、夫々動作点「e2」及び動作点「e3」へと変化する。
【0043】
即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を回転数制御機構として機能させることによって、エンジン200を所望の動作点で動作させる。この状態に対応する変速モードが、無段変速モードである。無段変速モードでは、エンジン200の動作点(以後、「エンジン動作点」と呼ぶ。)は、基本的にエンジン200の燃料消費率が最小となるエンジン動作点(以後、「最適燃費動作点」と呼ぶ。)に制御される。なお、この場合のエンジン動作点とは、エンジン回転数NeとエンジントルクTeとの組み合わせによって規定されるエンジン200の一動作条件を意味する。
【0044】
ここで、無段変速モードでは、MG1回転数Nmg1は可変である必要がある。このため、ECU100は、無段変速モードを選択する場合、ロック機構500を、サンギヤS1が非ロック状態となるように制御する。
【0045】
また、駆動軸OUTにエンジン直達トルクTerを供給するため、ECU100は、エンジントルクTeに応じてサンギヤS1の回転軸であるサンギヤ軸310に現れる先述のトルクTesと大きさが等しく且つ符号が反転した(即ち、負トルクである)反力トルクを、モータMG1からこのサンギヤ軸310に供給する。この場合、動作点g1或いは動作点g2といった正回転領域の動作点で、モータMG1は正回転負トルクの電力回生状態(即ち、発電状態)となる。このように、ECU100は、無段変速モードでは、モータMG1を反力要素として機能させることにより、駆動軸OUTにエンジントルクTeの一部を供給しつつ、サンギヤ軸310に分配されるエンジントルクTeの一部で電力回生(発電)を行う。駆動軸OUTに対し要求されるトルクがエンジン直達トルクTerで不足する場合、ECU100は、この回生電力を利用する形で、或いは適宜バッテリ12から電力を持ち出して、モータMG2から駆動軸OUTに対し適宜アシストトルクとしてのMG2トルクTmg2を供給する。
【0046】
一方、例えば高速軽負荷走行時等、例えば出力回転数Noutが高い割にエンジン回転数Neが低く済むような運転条件では、モータMG1が、例えば動作点g3の如き負回転領域の動作点となる。モータMG1は、エンジントルクTeの反力トルクとして負トルクを出力しているから、この場合、モータMG1は、負回転負トルクの状態となって力行状態となる。即ち、この場合、モータMG1の入出力トルクであるMG1トルクTmg1は、ハイブリッド車両1の駆動トルクとして駆動軸OUTに伝達される。他方、ECU100は、エンジン直達トルクTerとMG2トルクTmg2との総和がドライバの要求するトルクに合致するように、エンジン200、モータMG1及びモータMG2が相互に協調的に制御する。従って、このようにモータMG1が力行状態に陥った場合、モータMG2は、駆動軸OUTに供給される、要求トルクに対し過剰なトルクを吸収するため、負トルク状態となる。この場合、モータMG2は、正回転負トルクの状態となって電力回生状態となる。このような状態においては、モータMG1からの駆動力をモータMG2での電力回生に利用し、この回生電力によりモータMG1を力行駆動する、といった所謂動力循環と称される非効率な電気パスが生じることとなる。動力循環が生じた状態では、ハイブリッド駆動装置10のシステム効率が低下する。
【0047】
そこで、ECU100は、予めこのような動力循環が生じ得るものとして定められた運転領域において、ロック機構500によりサンギヤS1をロック状態に制御する。以後、ECU100がサンギヤS1を非ロック状態からロック状態に遷移させる制御を「ロック遷移制御」とも呼ぶ。その様子が図3(b)に示される。ロック機構500によりサンギヤS1がロック状態に移行すると、モータMG1の動作点は、回転数「0」に対応する図示動作点「g4」に固定される。
【0048】
この場合、出力回転数Noutとこの0回転とにより、残余のエンジン回転数Neは一義的に固定され、その動作点は図示動作点「e4」となる。即ち、サンギヤS1がロックされた場合、エンジン回転数Neは、車速Vと一義的なMG2回転数Nmg2により一義的に決定される。即ち、この場合、変速比が一定となる。この状態に対応する変速モードが固定変速比モードである。
【0049】
固定変速比モードでは、ECU100は、本来モータMG1が負担すべきエンジントルクTeの反力トルクを、ロック機構500の物理的な係合力により代替させる。即ち、この場合、ECU100は、モータMG1を電力回生状態にも力行状態にも制御する必要がないため、モータMG1を停止させる。従って、基本的には、モータMG2を稼動させる必要もなくなり、モータMG2は、言わば空転状態となる。結局、固定変速比モードでは、駆動軸OUTに現れる駆動トルクが、エンジントルクTeのうち、動力分割機構300により駆動軸OUT側に分割された直達トルクTerのみとなり、ハイブリッド駆動装置10は、機械的な動力伝達を行うのみとなって、その伝達効率が向上する。
【0050】
尚、固定変速比モードにおいて、ECU100は、モータMG2を必ずしも停止させる必要はない。例えば、ハイブリッド車両1には、各種の電装補器類が備わっており、それら電装補器類の駆動には然るべき駆動電力が必要となる。モータMG2は、この駆動電力に対応する電力をバッテリ12に供給するために、小規模の電力回生を行ってもよい。この場合、ECU100は、エンジントルクTeの直達成分がハイブリッド車両1を走行させるために要求されるトルクに対し余剰となるようにエンジントルクTeを制御し、余剰分のトルクをモータMG2で回生させる。また、ECU100は、エンジン直達トルクTerのみでは駆動トルクが不足する場合、モータMG2を力行駆動させ、MG2トルクTmg2によって駆動トルクを適宜アシストする。
【0051】
(モータMG1の回転制御)
次に、モータMG1をロック状態にする場合に、ECU100が行うMG1回転数Nmg1の制御方法について具体的に説明する。ECU100は、ロック遷移制御時に以下に示す第1実施形態乃至第4実施形態の少なくともいずれか一つを実行することで、MG1回転数Nmg1を0rpmに固定する。そして、その後、ECU100は、ロック機構500を係合させることで、モータMG1をロック状態にする。
【0052】
なお、以後では、「回転磁界制御」とは、ステータSTの回転磁界によってロータROが回転駆動されるようにモータMG1を制御することを指し、「固定磁界制御」とは、ステータSTの磁界の向きを固定してロータROの回転が制限されるようにモータMG1を制御することを指す。
【0053】
<第1実施形態>
まず、第1実施形態に係るECU100の制御について説明する。概略的には、第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0rpmになるタイミングに基づき、回転磁界制御から固定磁界制御への切り替え(単に「制御切り替え」とも呼ぶ。)を行う。これにより、ECU100は、エンジン200の反力を正確に把握できなくてもモータMG1を速やかにロック状態に遷移させると共に、イナーシャトルクの変動に伴うショックの発生を抑制する。
【0054】
1.タイムチャート
図4は、第1実施形態におけるMG1回転数Nmg1及びMG1トルクTmg1のタイムチャートの一例を示す。図4において、グラフ「A1」は、第1実施形態におけるMG1回転数Nmg1の時間変化を示し、グラフ「A2」は、第1比較例、具体的には回転磁界制御を継続したままMG1回転数Nmg1のフィードバック制御によりモータMG1をロック状態にする場合のMG1回転数Nmg1の時間変化を示す。また、グラフ「A3」は、第1実施形態におけるMG1トルクTmg1の時間変化を示す。なお、グラフA2に相当する第1比較例の詳細は、後述する「3.効果」のセクションで詳しく説明する。
【0055】
まず、ロック遷移制御の開始後時刻「t2」までの期間「tw1」の一時点でのモータMG1の状態について図5(a)、(b)を用いて説明する。図5(a)は、時刻tw1の一時点でのステータSTの磁極(ステータ磁極)LstとロータROの永久磁石(ロータ磁石)Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図5(b)は、ステータ磁極Lstに対するロータ磁石Lroの位相(「ロータ磁石位相」とも呼ぶ。)に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P1」は、図5(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するMG1トルクTmg1を示す。
【0056】
期間tw1では、ECU100は、回転磁界制御を実行しつつMG1回転数Nmg1を「0」に近づける。具体的には、ECU100は、図5(a)に示すように、矢印「Y3」により示される正回転方向に作用するエンジン200の反力トルクであるトルクTes(「エンジン反力トルクTes」とも呼ぶ。)よりも矢印「Y2」により示される負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を小さくする。これにより、矢印Y2及び矢印Y3に相当するトルクが互いに打ち消し合い、結果として、ロータROには正回転方向に矢印「Y4」により示される所定のトルクが作用することになる。なお、矢印Y4に相当するトルクは、図5(b)の矢印「Y5」が示す幅である。
【0057】
また、期間tw1では、負回転方向に慣性エネルギーが発生している。従って、期間tw1では、慣性エネルギーが矢印Y4に示すトルクにより減少しつつ、慣性エネルギーによりロータROが負回転方向に回転している(矢印Y1参照)。
【0058】
次に、制御切り替えの実行直前の時間帯に該当する時刻「t2」でのモータMG1の状態について図6(a)、(b)を用いて説明する。図6(a)は、時刻t2でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図6(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P2」は、図6(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0059】
時刻t2では、ECU100は、引き続き回転磁界制御を継続している。そして、この場合、回転磁界により生じるMG1トルクTmg1とエンジン反力トルクTesとのトルク差だけロータROに正回転方向のトルクが作用する(矢印Y6、Y7参照)。なお、時刻t2では、MG1回転数Nmg1が0近傍であるため、慣性エネルギーが無いか無視できる程度に小さい。
【0060】
次に、制御切り替え実行直後の時刻に該当する時刻「t3」でのモータMG1の状態について図7(a)、(b)を用いて説明する。図7(a)は、時刻t3でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図7(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。このMG1トルクTmg1は、固定磁界によりモータMG1に発生するトルクである。そして、動作点「P3」は、図7(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0061】
ECU100は、時刻t3でMG1回転数Nmg1が「0」になったことを検出する。そして、この場合、ECU100は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替え、ステータ磁極Lstを固定する。これにより、MG1トルクTmg1とエンジン反力トルクTesとが釣り合ってロータROが停止する。具体的には、MG1トルクTmg1は、負回転方向、言い換えると、ロータ磁石LroのN極又はS極がステータ磁極LstのS極とに対向する方向に作用する(矢印Y8参照)。一方、エンジン反力トルクTesがロータROの正回転方向に発生する(矢印Y9参照)。そして、図7(b)に示すように、矢印Y8及び矢印Y9に示す両者のトルクが釣り合っている。
【0062】
また、時刻t3では、MG1回転数Nmg1が「0」であるため慣性エネルギーがない。そして、時刻t3以降では、MG1トルクTmg1とエンジン反力トルクTesとが引き続き釣り合い、MG1回転数Nmg1がハンチングせずイナーシャトルクは変動しない。このように、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」になった場合に回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、エンジン反力トルクTesを正確に把握しなくてもモータMG1を速やかにロック状態にすることができると共に、制御切り替え後のイナーシャトルクの変動によるショックを抑制することができる。
【0063】
なお、上述のタイムチャートの説明では、ECU100は、MG1回転数Nmg1を負値から「0」に向かって収束させる場合に、制御切り替えを行った。これに限らず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を正値から「0」に向かって収束させる場合であっても同様に、MG1回転数Nmg1が「0」になるタイミングで制御切り替えを行う。
【0064】
2.処理フロー
次に、第1実施形態の処理手順について図8を参照して説明する。図8は、第1実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図8に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0065】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を取得する(ステップS101)。具体的には、ECU100は、上述した図2に示す破線枠A2に相当する回転センサの検出信号に基づきMG1回転数Nmg1を取得する。
【0066】
次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であるか否か判定する(ステップS102)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であると判断した場合(ステップS102;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS103)。これにより、ECU100は、ステータSTの磁界の向きを固定してロータROの回転を制限し、エンジン反力トルクTesを正確に把握することなく、MG1回転数Nmg1を速やかに0に収束させることができる。
【0067】
一方、MG1回転数Nmg1が0でないと判断した場合(ステップS102;No)、MG1回転数Nmg1を0へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS104)。この場合、ECU100は、回転磁界制御を継続する。
【0068】
3.効果
次に、第1実施形態の効果について、第1比較例及び第2比較例を参照して説明する。
【0069】
図9は、第1比較例におけるMG1回転数Nmg1及びMG1トルクTmg1のタイムチャートの一例を示す。第1比較例では、ECU100は、ロック遷移制御中では、回転磁界制御を継続しつつ、MG1回転数Nmg1の目標値と実値との偏差に基づくフィードバック制御を行う。ここで、ECU100は、エンジン反力トルクTesを推定し、MG1回転数Nmg1が上昇する場合、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesより小さいと判断する。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が下降する場合、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesより大きいと判断する。
【0070】
まず、モータMG1をロックする制御を開始後、MG1回転数Nmg1が0に達するまでの期間「tw1」では、ECU100は、第1実施形態の図5と同様、MG1回転数Nmg1を「0」に近づけるため、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を小さくする。これにより、ロータROは、負回転方向に回転しつつ、正回転方向に所定のトルクが加えられる。一方、期間tw1では、慣性エネルギーが負回転方向に発生している。
【0071】
次に、MG1回転数Nmg1が「0」を通過後、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesを通過するまでの期間「tw2」でのモータMG1の状態について図10(a)、(b)を用いて説明する。図10(a)は、期間tw2のある時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図10(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P4」は、図10(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0072】
図10(b)に示すように、期間tw2では、エンジン反力トルクTesによる正回転方向の力がMG1トルクTmg1による負回転方向の力より強い。よって、図10(a)、(b)に示すように、そのトルク差(矢印Y12参照)に相当するMG1回転数Nmg1を正回転方向に増加させる力がロータROに作用する(矢印Y10参照)。その結果、期間tw2では、ロータROは正回転方向に回転する(矢印Y11参照)と共に、慣性エネルギーが正回転方向に発生している。
【0073】
次に、MG1トルクTmg1がエンジン反力トルクTesを通過後、負回転方向のMG1トルクTmg1が正回転方向のエンジン反力トルクTesより大きい期間「tw3」でのモータMG1の状態について図11(a)、(b)を用いて説明する。図11(a)は、期間tw3のある時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図11(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P5」は、図11(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0074】
図11(b)に示すように、期間tw3では、エンジン反力トルクTesによる正回転方向の力よりもMG1トルクTmg1による負回転方向の力の方が強い。これにより、図11(a)、(b)に示すように、そのトルク差(矢印Y15参照)に相当するMG1回転数Nmg1を負回転方向に遷移させる力がロータROに作用する(矢印Y13参照)。また、期間tw3では、正回転方向の慣性エネルギーが期間tw2から引き続き存在し、これにより、ロータROは、徐々に減少しつつも正回転方向に回転する(矢印Y14参照)。
【0075】
次に、MG1回転数Nmg1が「0」に収束後の期間「tw4」でのモータMG1の状態について図12(a)、(b)を用いて説明する。図12(a)は、期間tw4のある時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図12(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P6」は、図12(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0076】
図12(b)に示すように、期間tw4では、エンジン反力トルクTesによる正回転方向の力(矢印Y16参照)とMG1トルクTmg1による負回転方向の力(矢印Y17参照)とがつり合い、これらのトルク差が「0」となっている。そして、期間tw4では、MG1回転数Nmg1は「0」となり、モータMG1はロック状態となる。
【0077】
このように、第1比較例では、ECU100は、エンジン反力トルクTesを推定しつつ、MG1回転数Nmg1の変化に基づき、モータMG1を制御する。しかし、第1比較例では、MG1回転数Nmg1の変化幅が大きい場合には、MG1回転数Nmg1が「0」に収束するのに時間を要する。同様に、エンジントルクTeの指令値と実値との偏差が大きい場合、エンジン反力トルクTesを正確に推定するのに時間を要するため、MG1回転数Nmg1が「0」に収束するのに時間を要する。
【0078】
以上を勘案し、第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」になるタイミングで回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、MG1回転数Nmg1を「0」に収束させる。従って、ECU100は、MG1回転数Nmg1の変化幅によらず、かつ、エンジントルクTeの指令値と実値との偏差によらず、即ち、エンジン反力トルクTesを正確に把握することなく、MG1回転数Nmg1を速やかに「0」に収束させることができる。
【0079】
次に、第2比較例について図13乃至図15を参照して説明する。
【0080】
図13は、第2比較例におけるMG1回転数Nmg1及びMG1トルクTmg1のタイムチャートの一例を示す。図13において、グラフ「A5」は、第2比較例におけるMG1回転数Nmg1の時間変化に相当し、グラフ「A6」は、第2比較例におけるMG1トルクTmg1の時間変化に相当する。第2比較例では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」ではないタイミングで制御切り替えを行う。
【0081】
まず、モータMG1をロックする制御を開始後、制御切り替えを行う直前までの期間「tw11」では、第1比較例の期間tw1と同様、ECU100は、MG1回転数Nmg1を「0」に近づけるため、正回転方向に作用するエンジン反力トルクTesよりも負回転方向に作用するMG1トルクTmg1を小さくする。また、期間tw11では、慣性エネルギーが負回転方向に発生している。これにより、ロータROは、負回転方向に回転しつつ、正回転方向に所定のトルクが加えられる。
【0082】
次に、制御切り替えを実行した直後に相当する時刻「t4」でのモータMG1の状態について図14(a)、(b)を用いて説明する。図14(a)は、時刻t4でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図14(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P7」は、図14(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0083】
図14(b)に示すように、時刻t4では、エンジン反力トルクTesとMG1トルクTmg1とが等しくなる。一方、図14(a)に示すように、MG1回転数Nmg1は負であり(矢印Y21参照)、慣性エネルギーは、負回転方向に発生している。
【0084】
そして、時刻t4以後の期間「tw12」でのモータMG1の状態について図15(a)、(b)を用いて説明する。図15(a)は、期間tw12の初期の一時点でのステータ磁極Lstとロータ磁石Lroとの位置関係及び各種トルクの方向を示した図である。図15(b)は、各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。そして、動作点「P8」は、図15(a)に示すロータ磁石位相の場合にモータMG1に発生するトルクを示す。
【0085】
図15(a)に示すように、期間tw12の初期では、MG1回転数Nmg1が負である(矢印Y23参照)。従って、図15(b)に示すように、負回転方向の慣性エネルギーによって、ロータROが負側に回転し、固定磁界制御によって、ロータROにかかるMG1トルクTmg1が小さくなる。結果として、図15(a)に示すように、ロータROは、正回転方向のトルクが作用される(矢印Y22参照)。その後、MG1回転数Nmg1は、正となり、さらに期間tw12が終了するまでハンチングを続ける。
【0086】
なお、期間tw12では、ECU100は、図13に示すように、ステータSTの磁界方向を固定した状態でMG1回転数Nmg1を制御するため、モータMG1に発生するMG1トルクTmg1を把握することができない。従って、当該期間中では、ECU100は、MG1トルクTmg1に基づきエンジン直達トルクTerを算出して駆動力の不足分を特定することができない。従って、ECU100は、この期間でモータMG2を用いた当該駆動力の補償をすることができず、駆動力の変動を抑制できない。
【0087】
以上を勘案し、第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」になるタイミングで回転磁界制御から固定磁界制御に切り替えることで、ロック遷移制御時にMG1トルクTmg1が把握できなくなることを防ぎ、モータMG2による駆動力の補償を精度よく実行することができる。また、ECU100は、制御切り替え後にエンジン回転数Ne、MG1回転数Nmg1がハンチングすることを防ぎ、当該回転数変動に基づくイナーシャトルクの変動を抑制する。
【0088】
<第2実施形態>
第2実施形態では、第1実施形態に加えて、ECU100は、ロック遷移制御時に、MG1回転数Nmg1を「0」まで変化させるときに、現在のMG1回転数Nmg1から「0」をまたぐ値にMG1回転数Nmg1の目標値(以後、「目標回転数Nmg1*」と呼ぶ。)を設定する。これにより、ECU100は、ロック遷移制御開始から制御切り替えまでに要する時間を短縮し、速やかにモータMG1をロック状態にする。
【0089】
図16(a)は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が負の場合であって、目標回転数Nmg1*を「0」に設定した場合のMG1回転数Nmg1の時間変化のグラフを示す。図16(b)は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が負値の場合であって、目標回転数Nmg1*を所定の正値(例えば50rpm)に設定した場合のMG1回転数Nmg1の時間変化のグラフを示す。
【0090】
図16(a)に示すように、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたがない値に目標回転数Nmg1*が設定された場合、MG1回転数Nmg1は、緩やかに「0」に向かう。そして、時刻「t5」でMG1回転数Nmg1は「0」となり、ECU100は、制御切り替えを行う。
【0091】
一方、第2実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値に目標回転数Nmg1*を設定する。これにより、図16(b)に示すように、MG1回転数Nmg1はより速やかに「0」に向かって上昇する。この場合、時刻t5よりも早い時刻「t6」でMG1回転数Nmg1は「0」となり、ECU100は、時刻t6で制御切り替えを行う。
【0092】
このように、ECU100は、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値に目標回転数Nmg1*を設定する。目標回転数Nmg1*の具体的な値は、例えば実験等により定められECU100のメモリに予め記憶される。このようにすることで、ECU100は、ロック遷移制御に要する時間を短縮し、速やかにモータMG1をロック状態にすることができる。
【0093】
また、ECU100は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が正値の場合であっても、上述した負値の場合と同様、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値(例えば−50rpm)に目標回転数Nmg1*を設定する。これにより、ECU100は、MG1回転数Nmg1が正値から「0」に向かう場合であっても、ロック遷移制御に要する時間を短縮し、速やかにモータMG1をロック状態にすることができる。
【0094】
次に、第2実施形態における処理フローについて図17を参照して説明する。図17は、第2実施形態においてECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図17に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0095】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を取得する(ステップS201)。具体的には、ECU100は、上述した図2に示す破線枠A2に相当する回転センサの検出信号に基づきMG1回転数Nmg1を取得する。次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であるか否か判定する(ステップS202)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であると判断した場合(ステップS202;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS203)。これにより、ECU100は、ステータSTの磁界の向きを固定してロータROの回転を制限し、エンジン反力トルクTesを正確に把握することなく、MG1回転数Nmg1を速やかに0に収束させることができる。
【0096】
一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」でないと判断した場合(ステップS202;No)、MG1回転数Nmg1が0より大きいか否か判定する(ステップS204)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0より大きいと判断した場合(ステップS204;Yes)、目標回転数Nmg1*を負値に設定する(ステップS205)。言い換えると、ECU100は、MG1回転数Nmg1を負値へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0より大きくないと判断した場合(ステップS204;No)、即ちMG1回転数Nmg1が0より小さいと判断した場合、目標回転数Nmg1*を正値に設定する(ステップS206)。このように、ECU100は、MG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値に目標回転数Nmg1*を設定することで、制御切り替えのタイミングが遅れることを防ぎ、速やかにモータMG1をロック状態にすることができる。
【0097】
<第3実施形態>
第3実施形態では、第1、第2実施形態に加え、ECU100は、固定磁界制御でのステータSTの磁界の強さを、エンジン反力トルクTesなどのモータMG1の回転軸にかかるトルク(「MG1軸トルク」とも呼ぶ。)と、制御切り替え直前の当該トルクの変動幅(以後、「トルク変動幅Tw」と呼ぶ。)と、に基づき決定する。具体的には、ECU100は、固定磁界制御でのステータSTの磁界の強さを、制御切り替え直前のMG1軸トルクが小さいほど弱く設定すると共に、トルク変動幅Twが小さいほど弱く設定する。これにより、ECU100は、制御切り替え後の磁界を適切に設定してMG1回転数Nmg1を「0」に停止させると共に、磁界を不要に大きくすることによる損失を抑制する。
【0098】
これについて図18を参照して具体的に説明する。図18(a)、(b)は、固定磁界での各ロータ磁石位相に対応してモータMG1に発生するMG1トルクTmg1のグラフを示す。図18(b)は、図18(a)の場合より制御切り替えの直前の所定時間幅でのトルク変動幅Twが小さい場合に相当する。動作点「P10」、「P11」は、制御切り替え時(直前)の各MG1トルクTmg1の動作点を示す。
【0099】
ECU100は、図18(b)の場合に設定する固定磁界の強さを、図18(a)の場合に設定する固定磁界よりも弱くなるように設定する。言い換えると、ECU100は、トルク変動幅Twが小さいほど、制御切り替え後のステータSTの磁界を弱く設定する。
【0100】
図19は、ECU100が制御切り替え後の固定磁界の強さとトルク変動幅Twとの関係を示すテーブルの一例である。図19に示すように、制御切り替え後の固定磁界の強さは、トルク変動幅Twが小さいほど弱く、トルク変動幅Twが大きいほど強く設定される。また、固定磁界の強さは、トルク変動幅Twの他、制御切り替え直前のMG1軸トルクが小さいほど弱く、MG1軸トルクが大きいほど強く設定される。
【0101】
以上を勘案し、ECU100は、制御切り替え直前のMG1軸トルクと、トルク変動幅Twと、固定磁界の強さとのマップ等をメモリに予め記憶しておく。上述のマップ等は、予め実験等に基づき作成される。そして、ECU100は、上述のマップ等を参照し、制御切り替え直前のMG1軸トルクとトルク変動幅Twとに基づき固定磁界の強さを設定する。これにより、ECU100は、制御切り替え後の磁界の強さを大きくしすぎることなく、安定してモータMG1を0rpmに停止させることができる。また、ECU100は、不要に固定磁界を強く設定することによるエネルギー損失を抑制することができる。
【0102】
ここで、トルク変動幅Twを求める方法について具体的に説明する。例えば、ECU100は、制御切り替え直前のMG1回転数Nmg1の変化率(単に「回転数変化率dN」とも呼ぶ。)の平均(単に「平均回転数変化率AdN」と呼ぶ。)に対する振れ(変動)幅(単に「回転数変動幅dNw」とも呼ぶ。)に基づきトルク変動幅Twを推定する。具体的には、ECU100は、MG1軸トルクを表す等式である式(3)を変形した式(4)を参照することで、トルク変動幅Twを求める。ここで、「Ig」は、モータMG1の慣性モーメントを示し、「Tx」は、エンジントルクTeのうち、エンジン回転数Neの変化に費やされるトルクを除いたトルクを示す。そして、式(4)は、式(3)の差分に相当する。
【0103】
Ig×dN=Tmg1+P/(1+P)×Tx 式(3)
Tw=P/(1+P)×(Txの変動幅)=Ig×dNw 式(4)
このように、ECU100は、式(4)を参照して、慣性モーメントIg及び回転数変動幅dNwによりトルク変動幅Twを求める。慣性モーメントIgは、例えば実験等に基づき予め定められ、ECU100のメモリに記憶される。
【0104】
次に、回転数変動幅dNwの算出方法の一例について説明する。まず、ECU100は、エンジン200の圧縮、膨張工程を1回以上含む期間の回転数変化率dNの平均、例えばエンジン200が一般的な直列4気筒エンジンであれば1/2エンジン回転以上の期間の回転数変化率dNの平均を平均回転数変化率AdNとして算出する。そして、ECU100は、回転数変動幅dNwを、エンジン200の圧縮、膨張工程を1回以上含む期間での回転数変化率dNの最大値及び最小値と平均回転数変化率AdNとの差分、即ち、平均回転数変化率AdNの算出に用いられた回転数変化率dNの最大値及び最小値と平均回転数変化率AdNとの差分に定める。具体的には、回転数変動幅dNwは、上述の最大値と平均回転数変化率AdNとの差分又は上述の最小値と平均回転数変化率AdNとの差分のうちいずれか一方、若しくは、これらの和に設定される。
【0105】
また、好適には、ECU100は、上述の処理に加え、エンジン200やダンパの設計により、エンジン回転数Neの低回転時には高回転時に比べてトルク変動幅Twが大きくなることを勘案し、トルク変動幅Twをエンジン回転数Neに基づき補正してもよい。この場合、トルク変動幅Twに乗じる補正率を「補正率Ra」とすると、ECU100は、式(4)に代えて以下の式(5)を参照してトルク変動幅Twを算出する。
【0106】
Tw=Ig×dNw×Ra 式(5)
図20(a)、(b)は、エンジン回転数Neに対応するトルク変動幅Twに乗じる補正率Raのテーブルを示す。具体的には、図20(a)は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を負値から「0」へ遷移させる場合に使用するテーブル(「高回転変化時補正テーブル」とも呼ぶ。)に相当し、図20(b)は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を正値から「0」へ遷移させる場合に使用するテーブル(「低回転変化時補正テーブル」とも呼ぶ。)に相当する。図20(a)、(b)に示すテーブルは、例えば実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに予め記憶される。
【0107】
そして、ECU100は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が負値の場合には、図20(a)に示す高回転変化時補正テーブルを参照し、エンジン回転数Neが低いほど補正率Raを小さく設定し、エンジン回転数Neが高いほど補正率Raを大きく設定する。また、この場合、補正率Raは、おおむね1以下の値に設定される。
【0108】
一方、ECU100は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が正値の場合には、図20(b)に示す低回転変化時補正テーブルを参照し、エンジン回転数Neが低いほど補正率Raを大きく設定し、エンジン回転数Neが高いほど補正率Raを小さく設定する。また、この場合、補正率Raは、おおむね1以上の値に設定される。
【0109】
このように、ECU100は、エンジン回転数Neに基づき補正率Raを設定する。また、ECU100は、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を負値から「0」へ増加させる場合にはトルク変動幅Twが小さくなるように補正率Raを定め、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を正値から「0」へ減少させる場合にはトルク変動幅Twが大きくなるように補正率Raを定める。
【0110】
次に、第3実施形態の処理フローについて図21、22を参照して説明する。図21は、第3実施形態でECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図21に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0111】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を取得する(ステップS301)。次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であるか否か判定する(ステップS302)。
【0112】
そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であると判断した場合(ステップS302;Yes)、回転磁界の強さを決定する(ステップS303)。具体的には、ECU100は、後述するステップS305で求めたトルク変動幅Twが小さいほど、固定磁界制御時のステータSTの磁界を弱く設定する。そして、ECU100は、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS304)。これにより、ECU100は、制御切り替え後の磁界の強さを大きくしすぎることなく、安定してモータMG1を0rpmに停止させることができ、不要に固定磁界を強く設定することによるエネルギー損失を抑制することができる。
【0113】
一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」ではないと判断した場合(ステップS302;No)、トルク変動幅Twの取得処理を行う(ステップS305)。この具体的な処理内容については、図22のフローチャートで説明する。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1を0へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS306)。
【0114】
図22は、ステップS305のトルク変動幅Twの取得処理の処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図22に示すフローチャートを、ステップS305へ処理を進めた場合に実行する。
【0115】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1の回転数変化率dNを算出する(ステップS401)。具体的には、ECU100は、一定間隔ごとに取得されたMG1回転数Nmg1の差分を算出することにより、回転数変化率dNを算出する。
【0116】
そして、ECU100は、回転数変化率dNの平均回転数変化率AdNを算出する(ステップS402)。例えば、ECU100は、エンジン200の圧縮、膨張工程を1回以上含む期間内での回転数変化率dNの平均値を平均回転数変化率AdNに定める。
【0117】
次に、ECU100は、平均回転数変化率AdNに基づき回転数変動幅dNwを算出する(ステップS403)。具体的には、ECU100は、平均回転数変化率AdNを求めた期間での平均回転数変化率AdNに対する回転数変化率dNの振れ幅を、回転数変動幅dNwに定める。そして、ECU100は、エンジン回転数Neを取得する(ステップS404)。
【0118】
次に、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0未満であるか否か判定する(ステップS405)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0未満であると判断した場合(ステップS405;Yes)、即ち、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1を負値から「0」へ遷移させる場合、高回転変化時補正テーブルを参照して補正率Raを算出する(ステップS406)。例えば、この場合、ECU100は、図20(a)に示すテーブルを参照し、エンジン回転数Neに基づき補正率Raを特定する。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が0未満ではないと判断した場合(ステップS405;No)、即ち、ロック遷移制御時にMG1回転数Nmg1が正値から「0」へ遷移する場合、低回転変化時補正テーブルを参照して補正率Raを算出する(ステップS407)。具体的には、この場合、ECU100は、図20(b)に示すテーブルを参照し、エンジン回転数Neに基づき補正率Raを特定する。
【0119】
そして、ECU100は、ステップS406又はステップS407の実行後、トルク変動幅Twを算出する(ステップS408)。具体的には、ECU100は、式(5)を参照し、慣性モーメントIg、回転数変動幅dNw、及び補正率Raを乗じた値を、トルク変動幅Twと定める。これにより、ECU100は、トルク変動幅Twを精度よく推定することができ、図21のステップS303で回転磁界の強さを正確に設定することができる。
【0120】
<第4実施形態>
第4実施形態では、第1乃至第3実施形態に加え、ECU100は、運転者からの要求、車両の状態等に応じてMG1回転数Nmg1を「0」に変化させる際の制御切り替えを行うか否か判定する。そして、ECU100は、制御切り替え後の固定磁界を十分な強さで作れない可能性がある場合には、制御切り替えを行わない。これにより、ECU100は、予め制御切り替えによるロック遷移制御が可能か否か判断し、制御切り替え後に固定磁界を発生させられなくなることを防ぎ、MG1回転数Nmg1を「0」にできないことやロック遷移制御が長期化することを抑制する。
【0121】
これについて、具体例を2つ挙げてさらに詳しく説明する。
【0122】
第1の例では、ECU100は、バッテリ12の持ち出し可能な電力であるバッテリ12の出力の上限値(「放電許容電力Wout」とも呼ぶ。)が所定値よりも低い場合には、回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行う。これにより、ECU100は、制御切り替え後に固定磁界を発生させられなくなることを防ぐ。
【0123】
ここで、ECU100は、好適には、上述の所定値を、固定磁界制御時の消費電力の予測値に定める。そして、ECU100は、放電許容電力Woutが固定磁界制御時の消費電力の予想値より低い場合には、モータMG1で強い固定磁界を発生させるだけの電力をバッテリ12から持ち出せない可能性が高いと判断する。
【0124】
次に、固定磁界制御時の消費電力の予測値の算出方法について説明する。ECU100は、後述するように、固定磁界制御時のモータMG2での予想消費電力(以後、「予想モータ消費電力Wm」と呼ぶ。)と、固定磁界制御時のモータMG1での予想消費電力(以後、「予想発電機消費電力Wg」と呼ぶ。)との和を、固定磁界制御時の消費電力の予測値として求める。
【0125】
ここで、ECU100は、予想モータ消費電力Wmを算出するため、まず、車速V及びアクセル開度Taに基づき、所定のマップ等を参照し、運転者の操作に基づく要求パワー(ドライバ要求パワー)を求める。次に、ECU100は、所定のマップ等を参照し、エンジン200の出力パワーを、車速Vによって定まるMG1回転数Nmg1が「0」の時のエンジン回転数Ne及びドライバ要求パワーに基づき求める。そして、ECU100は、所定のマップ等を参照し、モータMG2の出力パワーをドライバ要求パワーとエンジン200の出力パワーに基づき求める。そして、ECU100は、所定のマップ等を参照し、当該モータ出力パワーに基づき予想モータ消費電力Wmを求める。上述のマップ等は、例えば実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0126】
また、ECU100は、モータMG1での必要な固定磁界の強さに基づき予想発電機消費電力Wgを算出する。ここで、ECU100は、必要な固定磁界の強さを決定するため、所定のマップ等を参照し、車速Vによって定まるMG1回転数Nmg1が「0」の時のエンジン回転数Ne、エンジン200の出力パワーに基づき、エンジントルクTeを求める。そして、ECU100は、所定のマップ等を参照し、当該エンジントルクTeに基づき必要な固定磁界の強さを決定し、当該固定磁界の強さに基づき予想発電機消費電力Wgを求める。上述のマップ等は、例えば実験等に基づき予め作成され、ECU100のメモリに記憶される。
【0127】
第2の例では、ECU100は、モータMG1が許容可能な電流の限界値の予測値(以後、「予想発電機限界電流Iglim」と呼ぶ。)が所定値よりも小さい場合には、制御切り替えを行わず、回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行う。具体的には、ECU100は、所定のマップ等を参照し、各種センサから取得したモータMG1の温度、インバータ温度、インバータ冷却水温に基づき、予想発電機限界電流Iglimを求め、これが所定値よりも小さいか否か判定する。
【0128】
一般に、モータMG1の温度、インバータ温度、インバータ冷却水温などが高い場合には、モータMG1が許容可能な電流が小さく、固定磁界を発生するのに必要な電流をモータMG1に供給できない可能性が高まる。以上を勘案し、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが所定値よりも小さい場合には回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行うことで、制御切り替え後に固定磁界を発生させられないこと等を抑制する。
【0129】
また、好適には、ECU100は、上述の所定値を、固定磁界を発生させるために必要なモータMG1に流す電流の予測値(以後、「予想発電機必要電流Ig*」と呼ぶ。)に設定する。即ち、この場合、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが予想発電機必要電流Ig*よりも低い場合には、回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行う。
【0130】
ここで、予想発電機必要電流Ig*の算出方法について説明する。まず、ECU100は、ドライバ要求パワーを、車速V及びアクセル開度Taに基づき算出する。また、ECU100は、エンジン200の出力パワーを、車速Vによって決まるMG1回転数Nmg1が「0」のときのエンジン回転数Ne及びドライバ要求パワーにより求める。そして、ECU100は、エンジントルクTeを、車速Vによって定まるMG1回転数Nmg1が「0」のときのエンジン回転数Ne及びエンジン200の出力パワーにより求める。そして、ECU100は、必要な固定磁界の強さを、上述のエンジントルクTeにより求め、当該固定磁界の強さに基づき、予想発電機必要電流Ig*を定める。
【0131】
次に、第4実施形態の処理フローについて図23乃至図25を参照して説明する。
【0132】
図23は、第4実施形態でECU100が実行する処理手順を示すフローチャートの一例である。ECU100は、図23に示すフローチャートの処理を、所定の周期に従い繰り返し実行する。
【0133】
まず、ECU100は、MG1回転数Nmg1を取得する(ステップS501)。次に、ECU100は、制御切り替え実行可能判定を行う(ステップS502)。具体的には、ECU100は、この場合、図24に示すフローチャートの処理又は図25に示すフローチャートの処理のいずれかを実行する。これらの具体的な処理手順については後述する。
【0134】
そして、ECU100は、制御切り替え実行可能判定に基づき、制御切り替えが可能であるか否か判定する(ステップS503)。そして、ECU100は、制御切り替えが可能であると判断した場合(ステップS503;Yes)、ステップS504へ処理を進める。一方、ECU100は、制御切り替えが可能ではないと判断した場合(ステップS503;No)、MG1回転数Nmg1を「0」へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS506)。従って、この場合、ECU100は、ロック遷移制御中に制御切り替えを実行せず、回転磁界制御を継続する。
【0135】
次に、ECU100は、ステップS504でMG1回転数Nmg1が「0」であるか否か判定する(ステップS504)。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」であると判断した場合(ステップS504;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS505)。一方、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」ではないと判断した場合(ステップS504;No)、MG1回転数Nmg1を「0」へ変化させるようにMG1トルクTmg1を変更する(ステップS506)。
【0136】
図24は、図23のステップS502の制御切り替え実行可能判定の処理手順の一例を示すフローチャートである。ECU100は、図24に示すフローチャートの処理を、ステップS502へ処理を進めた場合に実行する。
【0137】
まず、ECU100は、放電許容電力Woutを取得する(ステップS601)。例えば、ECU100は、例えば、バッテリ12に付設された温度センサやSOC(State Of Charge)センサの検出信号に基づき放電許容電力Woutを特定する。そして、ECU100は、予想モータ消費電力Wmを算出する(ステップS602)。次に、ECU100は、予想発電機消費電力Wgを算出する(ステップS603)。
【0138】
次に、ECU100は、放電許容電力Woutが予想モータ消費電力Wmと予想発電機消費電力Wgとの和以上であるか否か判定する(ステップS604)。これにより、ECU100は、固定磁界制御へ遷移した場合の消費電力が放電許容電力Woutを超えないか否か判定する。そして、ECU100は、放電許容電力Woutが予想モータ消費電力Wmと予想発電機消費電力Wgとの和以上であると判断した場合(ステップS604;Yes)、制御切り替えが可能であると判定する(ステップS605)。そして、その後、ECU100は、図23のフローチャートに示すように、MG1回転数Nmg1が「0」になった場合に(ステップS504;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS505)。これにより、ECU100は、速やかにかつ確実にロック遷移制御を実行することができる。
【0139】
一方、ECU100は、放電許容電力Woutが予想モータ消費電力Wmと予想発電機消費電力Wgとの和未満であると判断した場合(ステップS604;No)、制御切り替えが不可能であると判定する(ステップS605)。即ち、この場合、ECU100は、制御切り替え後にモータMG1に必要な固定磁界を発生させるだけの電力が不足する虞があると判断する。そして、この場合、ECU100は、図23のステップS506で回転磁界制御を継続し、MG1回転数Nmg1をフィードバック制御する。
【0140】
図25は、図23のステップS502の制御切り替え実行可能判定の処理手順の他の例を示すフローチャートである。ECU100は、図24に示すフローチャートの処理を、ステップS502へ処理を進めた場合に実行する。
【0141】
まず、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimを算出する(ステップS701)。次に、ECU100は、予想発電機必要電流Ig*を算出する(ステップS702)。そして、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが予想発電機必要電流Ig*以上であるか否か判定する(ステップS703)。これにより、ECU100は、固定磁界制御へ遷移した場合に十分な電流をモータMG1に流すことができるか否か判定する。そして、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが予想発電機必要電流Ig*以上であると判断した場合(ステップS703;Yes)、制御切り替えが可能であると判定する(ステップS704)。そして、その後、ECU100は、図23のフローチャートに示すように、MG1回転数Nmg1が「0」になった場合に(ステップS504;Yes)、回転磁界制御から固定磁界制御へ切り替える(ステップS505)。これにより、ECU100は、速やかにかつ確実にロック遷移制御を実行することができる。
【0142】
一方、ECU100は、予想発電機限界電流Iglimが予想発電機必要電流Ig*未満であると判断した場合(ステップS703;No)、制御切り替えが不可能であると判定する(ステップS705)。即ち、この場合、ECU100は、制御切り替え後にモータMG1に必要な固定磁界を発生させるだけの電流を設定できない虞があると判断する。そして、この場合、ECU100は、図23のステップS506で回転磁界制御を継続し、MG1回転数Nmg1をフィードバック制御する。
【0143】
[変形例]
次に、第1実施形態乃至4実施形態の変形例について説明する。以下に示す変形例は、任意に組み合わされて上述の実施形態に適用されてもよい。
【0144】
(変形例1)
第1実施形態では、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」になるタイミングで制御切り替えを行った。しかし、本発明が適用可能な方法はこれに限定されない。これに代えて、ECU100は、MG1回転数Nmg1が略0になるタイミングで制御切り替えを実行してもよい。具体的には、この場合、ECU100は、例えばMG1回転数Nmg1が0又は0に相当する値、即ちMG1回転数Nmg1が第1実施形態と同様の作用効果を奏する値の範囲内になった場合に制御切り替えを行う。上述の範囲は、例えば予め実験等に基づき定められECU100のメモリに記憶される。そして、ECU100は、制御切り替えを実行後、ロック機構500を係合させることで、モータMG1をロック状態にする。これによっても、ECU100は、エンジン200の反力を正確に把握できなくてもモータMG1を速やかにロック状態にすることができる。
【0145】
(変形例2)
第2実施形態では、ECU100は、ロック遷移制御時に、MG1回転数Nmg1が「0」をまたぐように目標回転数Nmg1*を設定した。この制御に加え、ECU100は、MG1回転数Nmg1の変化中に、当該回転数の変化率(回転数変化率dN)の変化に基づき、MG1回転数Nmg1が「0」をまたがないか否か判定してもよい。そして、ECU100は、MG1回転数Nmg1が「0」をまたがないと判断した場合にのみ、MG1回転数Nmg1が「0」をまたぐように目標回転数Nmg1*を設定する。
【0146】
例えば、ECU100は、ロック遷移制御時の直前の所定時間幅で回転数変化率dNを監視し、当該回転数変化率dNの変化が所定値以下の場合にのみMG1回転数Nmg1の実値から「0」をまたぐ値に目標回転数Nmg1*を設定する。上述の所定時間幅及び所定値は、例えば予め実験等に基づき定められ、ECU100のメモリに記憶される。
【0147】
(変形例3)
第3実施形態では、ECU100は、平均回転数変化率AdNに対する振れ幅(回転数変動幅dNw)に基づきトルク変動幅Twを算出した。これに代えて、ECU100は、エンジン回転数Neの変化に基づきトルク変動幅Twを算出してもよい。この場合、ECU100は、例えば、図21のステップS305のトルク変動幅取得処理でエンジン回転数Neの変化率を算出し、当該変化率から所定のマップ等を参照してトルク変動幅Twを特定する。上述のマップ等は、例えば予め実験等に基づき定められ、ECU100のメモリに記憶される。
【0148】
(変形例4)
第4実施形態では、ECU100は、放電許容電力Woutが所定値以下の場合、制御切り替えを行わす回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行った。これに代えて、ECU100は、バッテリ12の充電状態(SOC)が所定値以下の場合、制御切り替えを行わす回転磁界制御を継続してロック遷移制御を行ってもよい。上述の所定値は、実験等に基づき予め定められた値又は動的に定められた値のいずれであってもよい。後者の場合、所定値は、例えば、固定磁界制御を実行してMG1回転数Nmg1を「0」にするのに必要なSOCに定められる。なお、SOCは、本発明に係る「蓄電状態に対応する状態量」の一例であり、完全放電状態が0(%)、満充電状態が100(%)として定量化されている。これによっても、好適に、ECU100は、制御切り替え後に固定磁界を発生させられなくなることを防ぎ、MG1回転数Nmg1を「0」にできないことやロック遷移制御が長期化することを抑制する。
【符号の説明】
【0149】
1 ハイブリッド車両
10 ハイブリッド駆動装置
12 バッテリ
100 ECU
200 エンジン
300 動力分割機構
400 入力軸
500 ロック機構
600 MG2リダクション機構
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転軸に動力を伝達可能な回転電機と、
前記内燃機関に連結された第1回転要素と、前記回転電機に連結された第2回転要素と、駆動軸に連結された第3回転要素とを含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する差動機構と、
前記回転電機の回転をロックするロック手段と、
前記ロック手段に前記回転電機をロックさせる場合であって当該回転電機を制御することで前記回転電機の回転数が略0になった時に、前記回転電機の制御を、前記固定子の回転磁界により前記回転子が回転駆動されるよう前記回転電機を制御する回転磁界制御から、前記固定子の磁界の向きを固定して前記回転子の回転が制限されるよう前記回転電機を制御する固定磁界制御に切り替える制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ロック手段に前記回転電機をロックさせる場合、前記回転電機の回転数の目標値を当該回転電機の回転数から0をまたぐ値に設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記蓄電手段の放電許容電力が所定値以下の場合、前記回転電機の制御を、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記蓄電手段の蓄電状態に対応する状態量が所定値以下の場合、前記回転電機の制御を、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記回転電機に流す電流の限界値が所定値以下の場合、前記回転電機の制御を、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記固定磁界制御での前記固定子の磁界の強さを、前記固定磁界制御に切り替える前の前記回転軸にかかるトルクの変動幅が小さいほど弱く設定する請求項1乃至5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項1】
内燃機関と、
固定子の回転磁界により回転子を回転駆動させて回転軸に動力を伝達可能な回転電機と、
前記内燃機関に連結された第1回転要素と、前記回転電機に連結された第2回転要素と、駆動軸に連結された第3回転要素とを含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する差動機構と、
前記回転電機の回転をロックするロック手段と、
前記ロック手段に前記回転電機をロックさせる場合であって当該回転電機を制御することで前記回転電機の回転数が略0になった時に、前記回転電機の制御を、前記固定子の回転磁界により前記回転子が回転駆動されるよう前記回転電機を制御する回転磁界制御から、前記固定子の磁界の向きを固定して前記回転子の回転が制限されるよう前記回転電機を制御する固定磁界制御に切り替える制御手段と、
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記ロック手段に前記回転電機をロックさせる場合、前記回転電機の回転数の目標値を当該回転電機の回転数から0をまたぐ値に設定する請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項3】
前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記蓄電手段の放電許容電力が所定値以下の場合、前記回転電機の制御を、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記蓄電手段の蓄電状態に対応する状態量が所定値以下の場合、前記回転電機の制御を、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項5】
前記回転電機に対し電力を供給可能かつ当該回転電機の回生電力により充電可能な蓄電手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記ロック手段により前記回転電機をロックさせる場合であって前記回転電機に流す電流の限界値が所定値以下の場合、前記回転電機の制御を、前記固定磁界制御に切り替えず、前記回転磁界制御により前記回転電機の回転を停止させる請求項1または2に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記固定磁界制御での前記固定子の磁界の強さを、前記固定磁界制御に切り替える前の前記回転軸にかかるトルクの変動幅が小さいほど弱く設定する請求項1乃至5のいずれか一項に記載のハイブリッド車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2012−51532(P2012−51532A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−197650(P2010−197650)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]