ハイブリッド車両の制御装置
【課題】動力伝達モードを切替可能なハイブリッド車両の運転効率を高める。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置(100)は、動力要素(200、MG1、MG2)と、駆動軸(500)と、動力伝達機構(300)と、第1クラッチ(710)と、第2クラッチ(720)と、ブレーキ(730)とを備えたハイブリッド車両を制御する。ハイブリッド車両の制御装置は、第1クラッチを切り離すと共に第2クラッチを係合する第1の動力伝達モード、及び第1クラッチを切り離すと共にブレーキで第2回転要素を固定する第2の動力伝達モードを相互に切替可能な切替手段(140)と、第1の動力伝達モード及び第2の動力伝達モードの動力損失を夫々推定する推定手段(120)と、動力損失が小さい方の動力伝達モードに切替えるように切替手段を制御する切替制御手段(130)とを備える。
【解決手段】ハイブリッド車両の制御装置(100)は、動力要素(200、MG1、MG2)と、駆動軸(500)と、動力伝達機構(300)と、第1クラッチ(710)と、第2クラッチ(720)と、ブレーキ(730)とを備えたハイブリッド車両を制御する。ハイブリッド車両の制御装置は、第1クラッチを切り離すと共に第2クラッチを係合する第1の動力伝達モード、及び第1クラッチを切り離すと共にブレーキで第2回転要素を固定する第2の動力伝達モードを相互に切替可能な切替手段(140)と、第1の動力伝達モード及び第2の動力伝達モードの動力損失を夫々推定する推定手段(120)と、動力損失が小さい方の動力伝達モードに切替えるように切替手段を制御する切替制御手段(130)とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多様な動力伝達態様を実現可能に構成されたハイブリッド車両を制御するハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のハイブリッド車両では、エンジンから出力された動力を全て電動機の駆動電力に変換して駆動軸に出力するシリーズモードと、エンジンから出力された動力を機械的な動力のまま駆動軸に出力すると共に残余を電力に変換して駆動軸へと出力するパラレルモードとが、運転状況等に応じて自動的に切替えられる。
【0003】
上述した動力伝達モードの切替動作は、動力伝達機構として構成されるプラネタリギヤ等に、係合及び解放が可能なクラッチ等を設けることで実現される。例えば特許文献1では、プラネタリギヤを構成するキャリア及びリングギヤ間に設けられたクラッチを係合し、出力軸及びリングギヤ間のクラッチを解放することで、シリーズモードを実現しようとする技術が提案されている。また特許文献2では、リングギヤを固定し、出力軸及びリングギヤ間のクラッチを解放することで、同様にシリーズモードを実現しようとする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−078106号公報
【特許文献2】特開2003−237392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したキャリア及びリングギヤ間のクラッチを係合して実現するシリーズモードと、リングギヤを固定して実現するシリーズモードとは、複数のクラッチを組み合わせることで両立させることが可能であり、相互に切替えて実現させることができる。しかしながら、上述した2種類のシリーズモードは、車両の走行状況に応じて動力損失に違いが生じる。よって、仮に2種類のシリーズモードを両立させることができたとしても、適切な条件下でのモード切替動作が行われなければ、運転効率の悪化を招いてしまうおそれがあるという技術的問題点を有している。
【0006】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、動力伝達モードを切替可能なハイブリッド車両の運転効率を効果的に高めることが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関、並びに第1電動機及び第2電動機を含む動力要素と、前記第2電動機に連結されており、車軸に動力を出力すると、前記第1電動機に連結された第1回転要素、前記駆動軸に連結された第2回転要素、及び前記内燃機関に連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力伝達機構と、前記第2回転要素及び前記駆動軸間の連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、前記第1回転要素、第2回転要素及び前記第3回転要素を互いに結合して一体回転させることが可能な第2クラッチと、前記第2回転要素の固定及び解放が可能なブレーキとを備えたハイブリッド車両を制御する装置であって、前記第1クラッチを切り離すと共に前記第2クラッチを係合し前記ブレーキから前記第2回転要素を解放する第1の動力伝達モード、及び前記第1クラッチを切り離すと共に前記第2クラッチを解放し前記ブレーキで前記第2回転要素を固定する第2の動力伝達モードを相互に切替可能な切替手段と、前記第1の動力伝達モード及び前記第2の動力伝達モードへと動力伝達モードを切替えた場合の動力損失を夫々推定する推定手段と、前記第1の動力伝達モード及び前記第2の動力伝達モードのうち、前記推定された動力損失が小さい方の動力伝達モードに切替えるように前記切替手段を制御する切替制御手段とを備える。
【0008】
本発明に係るハイブリッド車両は、駆動軸に対し動力を供給可能な動力要素として、例えば燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る内燃機関、並びにモータジェネレータ等の電動発電機として構成され得る第1電動機及び第2電動機を少なくとも備えた車両である。上述した各動力要素のうち、内燃機関及び第1電動機は、複数の回転要素(好適には、ギヤである)を含む動力伝達機構を介して駆動軸に連結されている。
【0009】
動力伝達機構は、第1電動機に連結される第1回転要素、駆動軸に連結された第2回転要素、及び内燃機関に連結された第3回転要素を含んでおり、各回転要素の状態(端的には、回転態様を規定する物理状態であり、回転可能であるか否か及び他の回転要素と連結された状態にあるか否か等を含む)に応じて定まる各種の動力伝達モードに従って動力伝達を行う。動力伝達機構は、一又は複数の遊星歯車機構等のギヤ機構を好適な一形態として採り得、複数の遊星歯車機構を含む場合には、各遊星歯車機構を構成する回転要素の一部が複数の遊星歯車機構相互間で適宜共有され得る。
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両には、上述した動力伝達機構及び駆動軸間の連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチが備えられている。第1クラッチは、例えばドグクラッチ等として構成され、回転可能とされた2つの係合部が互いに係合することによって動力伝達機構から駆動軸への動力伝達を実現し、切り離されることによって動力伝達機構から駆動軸への動力伝達を遮断する。
【0011】
また本発明に係るハイブリッド車両には、動力伝達機構における第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素を互いに結合して一体回転させることが可能な第2クラッチが備えられている。第2クラッチは、例えばドグクラッチ等として構成され、回転可能とされた2つの係合部が互いに係合することによって第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素を互いに結合して一体的に回転させることが可能とされている。
【0012】
尚、第2クラッチは、第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素の全てを互いに結合させるものである必要はなく、少なくとも2つの回転要素を結合すれば、各回転要素を一体的に回転させることができる。即ち、第2クラッチは、第1回転要素及び第2回転要素を互いに結合するものでもよいし、第2回転要素及び第3回転要素を互いに結合するものでもよいし、第3回転要素及び第1回転要素を互いに結合するものでもよい。
【0013】
本発明に係るハイブリッド車両には更に、第2回転要素の固定及び解放が可能なブレーキが備えられている。ブレーキは、第2回転要素を固定及び解放することで、その回転動作を制御できる。即ち、ここでの「固定」及び「解放」とは、第2回転要素の回転動作(言い換えれば、動力を伝達するための動作)を対象とするものである。
【0014】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、このようなハイブリッド車両を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0015】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、上述した第1クラッチ、第2クラッチ及びブレーキのそれぞれ制御することで、動力伝達モードを切替える切替手段を備えている。切替手段は、第1クラッチを切り離すと共に第2クラッチを係合しブレーキから第2回転要素を解放する第1の動力伝達モードと、第1クラッチを切り離すと共に第2クラッチを解放しブレーキで第2回転要素を固定する第2の動力伝達モードとを相互に切替可能とされている。尚、切替手段は、典型的には第1の動力伝達モード及び第2の動力伝達モード以外の動力伝達モード(例えば、第1クラッチを係合する動力伝達モード)への切替も可能に構成される。
【0016】
第1の動力伝達モードによれば、第2クラッチが係合されるため、動力伝達機構に含まれる第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素が夫々一体的に回転する。但し、第1クラッチが解放されているため内燃機関及び第1電動機から出力される動力は駆動軸には出力されず、駆動軸には、動力伝達機構を介さずに連結された第2電動機から動力が出力される。尚、第2電動機の動力としては、第1電動機の回生によって得られた電力を用いることができる。
【0017】
第2の動力伝達モードによれば、ブレーキによって第2回転要素が固定され、その回転が制止された状態となる。但し、第1クラッチが解放されているため駆動軸は回転可能であり、駆動軸には、第1の動力伝達モードと同様に、第2電動機から動力を出力させることができる。
【0018】
ここで本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は特に、上述した切替手段による動力伝達モードの切替が実行される前に、推定手段によって、動力伝達モードを第1の動力伝達モードに切替えた場合の動力損失及び第2の動力伝達モードに切替えた場合の動力損失が夫々推定される。尚、ここでの「動力損失」とは、動力要素の各々から出力される動力のうち、駆動軸に出力されるまでに損失されてしまう動力を意味している。
【0019】
推定手段は、例えば第1電動機の回転数及び出力トルクから求められる動力損失(即ち、第1電動機の動力損失)や、第1クラッチ、第2クラッチ及びブレーキの係合状態から求められる動力損失(即ち、動力伝達機構における動力損失)を推定する。但し、具体的にどのようなパラメータを用いて動力損失を推定するかは適宜設定可能であり、例えば各動力要素の温度等に基づいて補正を行ってもよい。また、動力損失は、記憶されたマップ等を用いて推定されてもよいし、リアルタイムな演算処理によって推定されてもよい。
【0020】
第1の動力伝達モード及び第2の動力伝達モードに切替えた場合の動力損失が推定されると、切替制御手段によって切替手段が制御され、第1の動力伝達モード及び第2の動力伝達モードのうち、動力損失の小さい動力伝達モードへの切替が行われる。即ち、第1の動力伝達モードへ切替えた際の動力損失の方が小さい値として推定されている場合は、ハイブリッド車両の動力伝達モードが第1の動力伝達モードへと切替えられる。一方、第2の動力伝達モードへ切替えた際の動力損失の方が小さい値として推定されている場合は、ハイブリッド車両の動力伝達モードが第2の動力伝達モードへと切替えられる。
【0021】
各動力伝達モードにおける動力損失は、ハイブリッド車両の走行状況に応じて変化する。このため、第1の動力伝達モードの動力損失の方が小さい場面があれば、第2の動力伝達モードの動力損失の方が小さい場面もある。本発明では、実際に動力伝達モードの切替動作を行う前に、予め切替後の動力伝達モードの動力損失を推定しているため、ハイブリッド車両の走行状況に応じて適切な動力伝達モードを選択することができる。
【0022】
以上説明したように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、ハイブリッド車両の運転効率を効果的に高めることが可能である。
【0023】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】エンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【図4】ECUの構成を示すブロック図である。
【図5】第1モードの動作点を示す共線図である。
【図6】第2モードの動作点を示す共線図である。
【図7】第3モードの動作点を示す共線図である。
【図8】第4モードの動作点を示す共線図である。
【図9】ハイブリッド車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】MG1の回転数及びトルクに関するマップである
【図11】動力分割機構における動力損失を示す共線図(その1)である。
【図12】動力分割機構における動力損失を示す共線図(その2)である。
【図13】動力分割機構における動力損失を示す共線図(その3)である。
【図14】動力分割機構における動力損失を示す共線図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0026】
先ず、本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0027】
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びECU100を備えて構成されている。
【0028】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両1における各種制御を実行可能に構成されている。
【0029】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給する。また、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能な不図示のインバータを含んでいる。即ち、PCU11は、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0030】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電手段である。
【0031】
アクセル開度センサ13はハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0032】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0033】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0034】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、主にエンジン200、動力分割機構300、MG2リダクション機構350、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、入力軸400、駆動軸500、減速機構600、クラッチ710を備えて構成されている。
【0035】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図3を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、エンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【0036】
尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。また、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図3においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。
【0037】
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介して、クランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0038】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転数NEが算出される構成となっている。
【0039】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
【0040】
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0041】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0042】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出される排気中のNOx(窒素酸化物)を還元すると同時に、排気中のCO(一酸化炭素)及びHC(炭化水素)を酸化可能に構成された触媒装置である。尚、触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
【0043】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0044】
図2に戻り、モータジェネレータMG1は、本発明に係る「電動機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、他の構成を有していてもよい。
【0045】
エンジン200及びMG1と駆動軸との間に設けられる動力分割機構300は、本発明の「動力伝達機構」の一例であり、プラネタリギヤとして構成されている。また、MG2と駆動軸500との間に設けられるMG2リダクション機構350も、同様にプラネタリギヤとして構成されている。
【0046】
動力分割機構300は、中心部に設けられた本発明の「第1回転要素」の一例たるサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられた本発明の「第2回転要素」の一例たるリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤP1と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支する本発明の「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備えている。
【0047】
ここで、サンギヤS1は、サンギヤ軸310を介してMG1のロータRT1に連結されており、その回転数はMG1の回転数Nmg1(以下、適宜「MG1回転数Nmg1」と称する)と等価である。また、リングギヤR1は、第1クラッチ710、駆動軸500及び減速機構600を介してMG2のロータRT2に結合されており、その回転数はMG2の回転数Nmg2(以下、適宜「MG2回転数Nmg2」と称する)と一義的な関係にある。更に、キャリアC1は、エンジン200の先に述べたクランクシャフト205に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の機関回転数NEと等価である。尚、ハイブリッド駆動装置10において、MG1回転数Nmg1及びMG2回転数Nmg2は、夫々レゾルバ等の回転センサにより一定の周期で検出されており、ECU100に一定又は不定の周期で送出されている。
【0048】
一方、駆動軸500は、ハイブリッド車両1の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFL(即ち、これらドライブシャフトは、本発明に係る「車軸」の一例である)と、各種減速ギヤ及び差動ギヤを含む減速装置としての減速機構600を介して連結されている。従って、モータジェネレータMG2から駆動軸500に供給されるモータトルクTmg2は、減速機構600を介して各ドライブシャフトへと伝達され、各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、同様に減速機構600及び駆動軸500を介してモータジェネレータMG2に入力される。従って、MG2回転数Nmg2は、ハイブリッド車両1の車速Vと一義的な関係にある。
【0049】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200からクランクシャフト205を介して入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1とピニオンギヤP1とによってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率(各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0050】
動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比ρを定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤ軸310に現れるトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるトルクTer(即ち、エンジン200からの直達トルク)は下記(2)式により夫々表される。
【0051】
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
本実施形態に係る動力分割機構300は更に、リングギヤR1及び駆動軸500間に、第1クラッチ710を備えており、その係合状態によって、リングギヤR1と駆動軸500及びMG2との連結を切り離し及び結合可能である。具体的には、第1クラッチ710が切り離された状態においては、エンジン200やMG1からリングギヤR1を介して出力される動力は、駆動軸500及びMG2には伝達されない。一方、第1クラッチ710が係合された状態においては、リングギヤR1を介して出力される動力が、駆動軸500及びMG2に伝達される。
【0052】
また、サンギヤS1及びリングギヤR1間には、第2クラッチ720が備えられており、その係合状態によって、サンギヤS1及びリングギヤR1間の連結を切り離し及び結合可能である。具体的には、第2クラッチ720が切り離された状態においては、サンギヤS1及びリングギヤR1はそれぞれ別々に回転する。一方、第2クラッチ720が係合された状態においては、サンギヤS1及びリングギヤR1が一体的に回転する。このため、動力伝達機構300における各回転要素が同一回転となる。尚、第2クラッチ720は、上述した構成に限られず、各回転要素のうち少なくとも2つの回転要素を連結させるようなものであればよい。具体的には、リングギヤR1及びキャリアC1間の連結を結合可能なものであってもよいし、サンギヤS1及びキャリアC1間の連結を結合可能なものであってもよい。各回転要素のうち2つを互いに連結させれば、各回転要素を一体的に回転させることができる。
【0053】
加えて、リングギヤR1には、その回転動作を固定するためのブレーキ730が備えられている。ブレーキ730は、一方が固定要素に固定されており、他方がリングギヤR1と係合することで、リングギヤR1の回転動作を固定する。
【0054】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の一例であるECU100の具体的な構成について、図4を参照して説明する。ここに図4は、ECUの構成を示すブロック図である。
【0055】
図4において、ECU100は、要求駆動力判定部110、動力損失推定部120、動力伝達モード決定部130及び動力伝達モード切替部140を備えて構成されている。
【0056】
要求駆動力判定部110は、入力される要求駆動力(即ち、駆動軸500に出力すべきトルク)が所定の閾値より小さいか否かを判定する。尚、ここでの「所定の閾値」とは、ハイブリッド車両1の動力伝達モードを、シリーズモードとするか、或いはパラレルモードとするか決定するための閾値であり、予め決定され、要求駆動力判定部110のメモリ等に記憶されている。
【0057】
動力損失推定部120は、本発明の「推定手段」の一例であり、入力されるMG1の運転情報(例えば、回転数や出力トルクを示す情報)に基づいて、動力伝達モードをシリーズモード(具体的には、後述する第1モード及び第2モード)に切替えた場合の動力損失を推定する。動力損失の具体的な推定方法については、後に詳述する。
【0058】
動力伝達モード決定部130は、本発明の「切替制御手段」の一例であり、動力損失推定部120において推定された動力損失に応じて、実現すべき動力伝達モードを決定する。具体的には、第1モード及び第2モードのうち動力損失の小さい方の動力伝達モードを、実現すべき動力伝達モードとして決定する。
【0059】
動力伝達モード切替部140は、本発明の「切替手段」の一例であり、動力伝達モード決定部130において決定された動力伝達モードを実現すべく、動力分割機構300を制御する。即ち、第1クラッチ710、第2クラッチ720及びブレーキ730の係合状態を夫々制御して、決定された動力伝達モードが実現されるように動力分割機構300の状態を変化させる。
【0060】
尚、ECU100は、上述した各手段を含んで構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各部位に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0061】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両において実現可能な4つの動力伝達モードについて、図5から図8を参照して説明する。ここに図5は、第1モードの動作点を示す共線図であり、図6は、第2モードの動作点を示す共線図である。また図7は、第3モードの動作点を示す共線図であり、図8は、第4モードの動作点を示す共線図である。
【0062】
図5において、第1モードでは、第1クラッチ710及び第2クラッチ720が切り離されていると共に、ブレーキ730によってリングギヤR1が固定されている。このため、リングギヤR1から駆動軸500へは動力が出力されない。第1モードでは、エンジン200から出力される動力がMG1において回生され電力となり、回生によって得られた電力を動力とするMG2から、駆動軸500へと動力が出力される。第1モードは、本発明の「第2の動力伝達モード」の一例である。
【0063】
図6において、第2モードでは、第1クラッチ710が切り離されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力されない。このため、駆動軸500にはMG2から出力される動力が伝達される。また第2モードでは、第2クラッチ720が係合されており、ブレーキ730からリングギヤR1が解放されている。よって、動力分割機構300の各回転要素(即ち、サンギヤS1、キャリアC1及びリングギヤR1)は一体的に回転する。第1モードは、本発明の「第1の動力伝達モード」の一例である。
【0064】
図7において、第3モードでは、第1クラッチ710が結合されているため、動力分割機構300のリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力される。このため、ハイブリッド車両1は、エンジン200からの動力により走行することになる。第3モードでは、第2クラッチが解放されているため、動力分割機構300の各回転要素は互いに異なる回転数となる。尚、第3モードでは、エンジン200からの動力の一部をMG1による回生に利用することが可能である。また、MG2から動力を出力して、エンジン200からの動力をアシストするような駆動も可能となる。
【0065】
図8において、第4モードでは、上述した第3モードと同様に第1クラッチ710が結合されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力される。このため、ハイブリッド車両1は、エンジン200からの動力により走行することになる。第4モードでは、第2クラッチが係合されているため、上述した第2モードと同様に動力分割機構300の各回転要素は一体的に回転する。
【0066】
以上のように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両の走行状況等に応じて動力伝達モードを適宜切替えることにより、効率の高い運転を実現できる。
【0067】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置による具体的な制御及びその効果について、図9を参照して説明する。ここに図9は、ハイブリッド車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0068】
図9において、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の動作時には、先ず要求駆動力判定部110において、要求駆動力が所定の閾値より小さいか否かが判定される(ステップS01)。ここで要求駆動力が閾値以上である場合(ステップS01:NO)、ハイブリッド車両1の動力伝達モードが、比較的高い駆動力を要する場合に適したパラレルHVモード(即ち、第3モード又は第4モード)へと切替えられる(ステップS02)。より具体的には、第1クラッチ710が係合される。
【0069】
一方、要求駆動力が閾値以上である場合(ステップS01:YES)、動力損失推定部120において、動力伝達モードを第1モードへ切替えた場合の動力損失及び第2モードへと切替えた場合の動力損失が夫々推定される(ステップS03)。
【0070】
続いて、動力伝達モード決定部130において、第1モードへ切替えた場合の動力損失と、第2モードへと切替えた場合の動力損失とが互いに比較され、いずれの動力伝達モードの動力損失が小さいかが判定される(ステップS04)。
【0071】
第1モードの動力損失の方が小さい場合(ステップS04:YES)、動力伝達モード切替部140によって、動力伝達モードが第1モードへと切替えられる(ステップS05)。具体的には、第1クラッチ710及び第2クラッチ720が解放され、ブレーキ730によってリングギヤR1が固定される。一方で、第2モードの動力損失の方が小さい場合(ステップS04:NO)、動力伝達モード切替部140によって、動力伝達モードが第2モードへと切替えられる(ステップS06)。具体的には、第1クラッチ710及びブレーキ730が解放され、第2クラッチ720が係合される。従って、本実施形態では、車両の走行状況に応じて、より動力損失の小さいシリーズモードを選択的に実現できる。
【0072】
以下では、より具体的な動力損失の推定方法について、図10から図14を参照して詳細に説明する。ここに、図10は、MG1の回転数及びトルクに関するマップであり、図11から図12は夫々、動力分割機構における動力損失を示す共線図である。
【0073】
図10において、MG1における動力損失は、回転数及び出力トルクが大きくなるほど増大する傾向にある。ここで、図中に示される発電電力の比較的小さい動作点である点A及び点A’、並びに発電電力の比較的大きい点B及び点B’における動力分割機構300のそれぞれの動作点を考える
図11及び図12において、点Aは第1モードの動作点、点A’は第2モードの動作点を夫々示しており、各動力要素及び駆動軸500からは夫々図中の矢印で示す動力が出力される(矢印の長さが動力の大きさに対応している)。
【0074】
図13及び図14において、点Bは第1モードの動作点、点B’は第2モードの動作点を夫々示しており、各動力要素及び駆動軸500からは夫々図中の矢印で示す動力が出力される。
【0075】
動力損失判定部110には、図10に示すようなMG1の動力損失に対して、図11から図14に示される動作点に基づいて導き出される動力損失(即ち、動力分割機構300における動力損失)が加算されたマップが記憶される。また、動力損失はMG1の温度によっても変化する場合があるため、検出した温度に応じた補正を行ってもよい。
【0076】
図10に戻り、点A及び点A’を比べると、点A’の動力損失の方が点Aの動力損失より小さいことが分かる。具体的には、点A’の方が点Aより動力損失の小さい領域に存在している(図中の実線で仕切られた領域を参照)。よって、比較的発電電力が小さい場合には、各動力要素の回転数が同じになる第2モードが実現される。
【0077】
一方で、点B及び点B’を比べると、点Bの動力損失の方が点B’の動力損失より小さいことが分かる。具体的には、点Bの方が点B’より動力損失の小さい領域に存在している。よって、比較的発電電力が大きい場合には、リングギヤR1が固定される第1モードが実現される。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、より動力損失の小さい動力伝達モードでの走行が可能となるため、ハイブリッド車両1の運転効率を効果的に高めることが可能である。
【0079】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0080】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、11…PCU、12…バッテリ、13…アクセル開度センサ、14…車速センサ、100…ECU、110…要求駆動力判定部、120…動力損失推定部、130…動力伝達モード決定部、140…動力伝達モード切替部、200…エンジン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、310…サンギヤ軸、350…MG2リダクション機構、S1…サンギヤ、C1…キャリア、R1…リングギヤ、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、400…入力軸、500…駆動軸、600…減速機構、710…第1クラッチ、720…第2クラッチ、730…ブレーキ
【技術分野】
【0001】
本発明は、多様な動力伝達態様を実現可能に構成されたハイブリッド車両を制御するハイブリッド車両の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のハイブリッド車両では、エンジンから出力された動力を全て電動機の駆動電力に変換して駆動軸に出力するシリーズモードと、エンジンから出力された動力を機械的な動力のまま駆動軸に出力すると共に残余を電力に変換して駆動軸へと出力するパラレルモードとが、運転状況等に応じて自動的に切替えられる。
【0003】
上述した動力伝達モードの切替動作は、動力伝達機構として構成されるプラネタリギヤ等に、係合及び解放が可能なクラッチ等を設けることで実現される。例えば特許文献1では、プラネタリギヤを構成するキャリア及びリングギヤ間に設けられたクラッチを係合し、出力軸及びリングギヤ間のクラッチを解放することで、シリーズモードを実現しようとする技術が提案されている。また特許文献2では、リングギヤを固定し、出力軸及びリングギヤ間のクラッチを解放することで、同様にシリーズモードを実現しようとする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−078106号公報
【特許文献2】特開2003−237392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したキャリア及びリングギヤ間のクラッチを係合して実現するシリーズモードと、リングギヤを固定して実現するシリーズモードとは、複数のクラッチを組み合わせることで両立させることが可能であり、相互に切替えて実現させることができる。しかしながら、上述した2種類のシリーズモードは、車両の走行状況に応じて動力損失に違いが生じる。よって、仮に2種類のシリーズモードを両立させることができたとしても、適切な条件下でのモード切替動作が行われなければ、運転効率の悪化を招いてしまうおそれがあるという技術的問題点を有している。
【0006】
本発明は、例えば上述した問題点に鑑みなされたものであり、動力伝達モードを切替可能なハイブリッド車両の運転効率を効果的に高めることが可能なハイブリッド車両の制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のハイブリッド車両の制御装置は上記課題を解決するために、内燃機関、並びに第1電動機及び第2電動機を含む動力要素と、前記第2電動機に連結されており、車軸に動力を出力すると、前記第1電動機に連結された第1回転要素、前記駆動軸に連結された第2回転要素、及び前記内燃機関に連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力伝達機構と、前記第2回転要素及び前記駆動軸間の連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、前記第1回転要素、第2回転要素及び前記第3回転要素を互いに結合して一体回転させることが可能な第2クラッチと、前記第2回転要素の固定及び解放が可能なブレーキとを備えたハイブリッド車両を制御する装置であって、前記第1クラッチを切り離すと共に前記第2クラッチを係合し前記ブレーキから前記第2回転要素を解放する第1の動力伝達モード、及び前記第1クラッチを切り離すと共に前記第2クラッチを解放し前記ブレーキで前記第2回転要素を固定する第2の動力伝達モードを相互に切替可能な切替手段と、前記第1の動力伝達モード及び前記第2の動力伝達モードへと動力伝達モードを切替えた場合の動力損失を夫々推定する推定手段と、前記第1の動力伝達モード及び前記第2の動力伝達モードのうち、前記推定された動力損失が小さい方の動力伝達モードに切替えるように前記切替手段を制御する切替制御手段とを備える。
【0008】
本発明に係るハイブリッド車両は、駆動軸に対し動力を供給可能な動力要素として、例えば燃料種別、燃料の供給態様、燃料の燃焼態様、吸排気系の構成及び気筒配列等を問わない各種の態様を採り得る内燃機関、並びにモータジェネレータ等の電動発電機として構成され得る第1電動機及び第2電動機を少なくとも備えた車両である。上述した各動力要素のうち、内燃機関及び第1電動機は、複数の回転要素(好適には、ギヤである)を含む動力伝達機構を介して駆動軸に連結されている。
【0009】
動力伝達機構は、第1電動機に連結される第1回転要素、駆動軸に連結された第2回転要素、及び内燃機関に連結された第3回転要素を含んでおり、各回転要素の状態(端的には、回転態様を規定する物理状態であり、回転可能であるか否か及び他の回転要素と連結された状態にあるか否か等を含む)に応じて定まる各種の動力伝達モードに従って動力伝達を行う。動力伝達機構は、一又は複数の遊星歯車機構等のギヤ機構を好適な一形態として採り得、複数の遊星歯車機構を含む場合には、各遊星歯車機構を構成する回転要素の一部が複数の遊星歯車機構相互間で適宜共有され得る。
【0010】
本発明に係るハイブリッド車両には、上述した動力伝達機構及び駆動軸間の連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチが備えられている。第1クラッチは、例えばドグクラッチ等として構成され、回転可能とされた2つの係合部が互いに係合することによって動力伝達機構から駆動軸への動力伝達を実現し、切り離されることによって動力伝達機構から駆動軸への動力伝達を遮断する。
【0011】
また本発明に係るハイブリッド車両には、動力伝達機構における第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素を互いに結合して一体回転させることが可能な第2クラッチが備えられている。第2クラッチは、例えばドグクラッチ等として構成され、回転可能とされた2つの係合部が互いに係合することによって第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素を互いに結合して一体的に回転させることが可能とされている。
【0012】
尚、第2クラッチは、第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素の全てを互いに結合させるものである必要はなく、少なくとも2つの回転要素を結合すれば、各回転要素を一体的に回転させることができる。即ち、第2クラッチは、第1回転要素及び第2回転要素を互いに結合するものでもよいし、第2回転要素及び第3回転要素を互いに結合するものでもよいし、第3回転要素及び第1回転要素を互いに結合するものでもよい。
【0013】
本発明に係るハイブリッド車両には更に、第2回転要素の固定及び解放が可能なブレーキが備えられている。ブレーキは、第2回転要素を固定及び解放することで、その回転動作を制御できる。即ち、ここでの「固定」及び「解放」とは、第2回転要素の回転動作(言い換えれば、動力を伝達するための動作)を対象とするものである。
【0014】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、このようなハイブリッド車両を制御する制御装置であって、例えば、一又は複数のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、各種プロセッサ又は各種コントローラ、或いは更にROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、バッファメモリ又はフラッシュメモリ等の各種記憶手段等を適宜に含み得る、単体の或いは複数のECU(Electronic Controlled Unit)等の各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等の形態を採り得る。
【0015】
本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は、上述した第1クラッチ、第2クラッチ及びブレーキのそれぞれ制御することで、動力伝達モードを切替える切替手段を備えている。切替手段は、第1クラッチを切り離すと共に第2クラッチを係合しブレーキから第2回転要素を解放する第1の動力伝達モードと、第1クラッチを切り離すと共に第2クラッチを解放しブレーキで第2回転要素を固定する第2の動力伝達モードとを相互に切替可能とされている。尚、切替手段は、典型的には第1の動力伝達モード及び第2の動力伝達モード以外の動力伝達モード(例えば、第1クラッチを係合する動力伝達モード)への切替も可能に構成される。
【0016】
第1の動力伝達モードによれば、第2クラッチが係合されるため、動力伝達機構に含まれる第1回転要素、第2回転要素及び第3回転要素が夫々一体的に回転する。但し、第1クラッチが解放されているため内燃機関及び第1電動機から出力される動力は駆動軸には出力されず、駆動軸には、動力伝達機構を介さずに連結された第2電動機から動力が出力される。尚、第2電動機の動力としては、第1電動機の回生によって得られた電力を用いることができる。
【0017】
第2の動力伝達モードによれば、ブレーキによって第2回転要素が固定され、その回転が制止された状態となる。但し、第1クラッチが解放されているため駆動軸は回転可能であり、駆動軸には、第1の動力伝達モードと同様に、第2電動機から動力を出力させることができる。
【0018】
ここで本発明に係るハイブリッド車両の制御装置は特に、上述した切替手段による動力伝達モードの切替が実行される前に、推定手段によって、動力伝達モードを第1の動力伝達モードに切替えた場合の動力損失及び第2の動力伝達モードに切替えた場合の動力損失が夫々推定される。尚、ここでの「動力損失」とは、動力要素の各々から出力される動力のうち、駆動軸に出力されるまでに損失されてしまう動力を意味している。
【0019】
推定手段は、例えば第1電動機の回転数及び出力トルクから求められる動力損失(即ち、第1電動機の動力損失)や、第1クラッチ、第2クラッチ及びブレーキの係合状態から求められる動力損失(即ち、動力伝達機構における動力損失)を推定する。但し、具体的にどのようなパラメータを用いて動力損失を推定するかは適宜設定可能であり、例えば各動力要素の温度等に基づいて補正を行ってもよい。また、動力損失は、記憶されたマップ等を用いて推定されてもよいし、リアルタイムな演算処理によって推定されてもよい。
【0020】
第1の動力伝達モード及び第2の動力伝達モードに切替えた場合の動力損失が推定されると、切替制御手段によって切替手段が制御され、第1の動力伝達モード及び第2の動力伝達モードのうち、動力損失の小さい動力伝達モードへの切替が行われる。即ち、第1の動力伝達モードへ切替えた際の動力損失の方が小さい値として推定されている場合は、ハイブリッド車両の動力伝達モードが第1の動力伝達モードへと切替えられる。一方、第2の動力伝達モードへ切替えた際の動力損失の方が小さい値として推定されている場合は、ハイブリッド車両の動力伝達モードが第2の動力伝達モードへと切替えられる。
【0021】
各動力伝達モードにおける動力損失は、ハイブリッド車両の走行状況に応じて変化する。このため、第1の動力伝達モードの動力損失の方が小さい場面があれば、第2の動力伝達モードの動力損失の方が小さい場面もある。本発明では、実際に動力伝達モードの切替動作を行う前に、予め切替後の動力伝達モードの動力損失を推定しているため、ハイブリッド車両の走行状況に応じて適切な動力伝達モードを選択することができる。
【0022】
以上説明したように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、ハイブリッド車両の運転効率を効果的に高めることが可能である。
【0023】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する発明を実施するための形態から明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図2】ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【図3】エンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【図4】ECUの構成を示すブロック図である。
【図5】第1モードの動作点を示す共線図である。
【図6】第2モードの動作点を示す共線図である。
【図7】第3モードの動作点を示す共線図である。
【図8】第4モードの動作点を示す共線図である。
【図9】ハイブリッド車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【図10】MG1の回転数及びトルクに関するマップである
【図11】動力分割機構における動力損失を示す共線図(その1)である。
【図12】動力分割機構における動力損失を示す共線図(その2)である。
【図13】動力分割機構における動力損失を示す共線図(その3)である。
【図14】動力分割機構における動力損失を示す共線図(その4)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下では、本発明の実施形態について図を参照しつつ説明する。
【0026】
先ず、本実施形態に係るハイブリッド車両の全体構成について、図1を参照して説明する。ここに図1は、ハイブリッド車両の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0027】
図1において、本実施形態に係るハイブリッド車両1は、ハイブリッド駆動装置10、PCU(Power Control Unit)11、バッテリ12、アクセル開度センサ13、車速センサ14及びECU100を備えて構成されている。
【0028】
ECU100は、CPU、ROM及びRAM等を備え、ハイブリッド車両1の各部の動作を制御可能に構成された電子制御ユニットであり、本発明に係る「ハイブリッド車両の制御装置」の一例である。ECU100は、例えばROM等に格納された制御プログラムに従って、ハイブリッド車両1における各種制御を実行可能に構成されている。
【0029】
PCU11は、バッテリ12から取り出した直流電力を交流電力に変換して後述するモータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2に供給する。また、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2によって発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ12に供給することが可能な不図示のインバータを含んでいる。即ち、PCU11は、バッテリ12と各モータジェネレータとの間の電力の入出力、或いは各モータジェネレータ相互間の電力の入出力(即ち、この場合、バッテリ12を介さずに各モータジェネレータ相互間で電力の授受が行われる)を制御可能に構成された電力制御ユニットである。PCU11は、ECU100と電気的に接続されており、ECU100によってその動作が制御される構成となっている。
【0030】
バッテリ12は、モータジェネレータMG1及びモータジェネレータMG2を力行するための電力に係る電力供給源として機能する充電可能な蓄電手段である。
【0031】
アクセル開度センサ13はハイブリッド車両1の図示せぬアクセルペダルの操作量たるアクセル開度Taを検出可能に構成されたセンサである。アクセル開度センサ13は、ECU100と電気的に接続されており、検出されたアクセル開度Taは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0032】
車速センサ14は、ハイブリッド車両1の車速Vを検出可能に構成されたセンサである。車速センサ14は、ECU100と電気的に接続されており、検出された車速Vは、ECU100によって一定又は不定の周期で参照される構成となっている。
【0033】
ハイブリッド駆動装置10は、ハイブリッド車両1のパワートレインとして機能する動力ユニットである。ここで、図2を参照し、ハイブリッド駆動装置10の詳細な構成について説明する。ここに、図2は、ハイブリッド駆動装置の構成を概念的に表してなる概略構成図である。
【0034】
図2において、ハイブリッド駆動装置10は、主にエンジン200、動力分割機構300、MG2リダクション機構350、モータジェネレータMG1(以下、適宜「MG1」と略称する)、モータジェネレータMG2(以下、適宜「MG2」と略称する)、入力軸400、駆動軸500、減速機構600、クラッチ710を備えて構成されている。
【0035】
エンジン200は、本発明に係る「内燃機関」の一例たるガソリンエンジンであり、ハイブリッド車両1の主たる動力源として機能するように構成されている。ここで、図3を参照し、エンジン200の詳細な構成について説明する。ここに、図3は、エンジンの一断面構成を例示する模式図である。
【0036】
尚、本発明における「内燃機関」とは、例えば2サイクル又は4サイクルレシプロエンジン等を含み、少なくとも一の気筒を有し、当該気筒内部の燃焼室において、例えばガソリン、軽油或いはアルコール等の各種燃料を含む混合気が燃焼した際に発生する力を、例えばピストン、コネクティングロッド及びクランク軸等の物理的又は機械的な伝達手段を適宜介して駆動力として取り出すことが可能に構成された機関を包括する概念である。係る概念を満たす限りにおいて、本発明に係る内燃機関の構成は、エンジン200のものに限定されず各種の態様を有してよい。また、エンジン200は、紙面と垂直な方向に4本の気筒201が直列に配されてなる直列4気筒エンジンであるが、個々の気筒201の構成は相互に等しいため、図3においては一の気筒201についてのみ説明を行うこととする。
【0037】
図3において、エンジン200は、気筒201内において燃焼室に点火プラグ(符号省略)の一部が露出してなる点火装置202による点火動作を介して混合気を燃焼せしめると共に、係る燃焼による爆発力に応じて生じるピストン203の往復運動を、コネクティングロッド204を介して、クランクシャフト205の回転運動に変換することが可能に構成されている。
【0038】
クランクシャフト205近傍には、クランクシャフト205の回転位置(即ち、クランク角)を検出するクランクポジションセンサ206が設置されている。このクランクポジションセンサ206は、ECU100(不図示)と電気的に接続されており、ECU100では、このクランクポジションセンサ206から出力されるクランク角信号に基づいて、エンジン200の機関回転数NEが算出される構成となっている。
【0039】
エンジン200において、外部から吸入された空気は吸気管207を通過し、吸気ポート210を介して吸気バルブ211の開弁時に気筒201内部へ導かれる。一方、吸気ポート210には、インジェクタ212の燃料噴射弁が露出しており、吸気ポート210に対し燃料を噴射することが可能な構成となっている。インジェクタ212から噴射された燃料は、吸気バルブ211の開弁時期に前後して吸入空気と混合され、上述した混合気となる。
【0040】
燃料は、図示せぬ燃料タンクに貯留されており、図示せぬフィードポンプの作用により、図示せぬデリバリパイプを介してインジェクタ212に供給される構成となっている。気筒201内部で燃焼した混合気は排気となり、吸気バルブ211の開閉に連動して開閉する排気バルブ213の開弁時に排気ポート214を介して排気管215に導かれる。
【0041】
一方、吸気管207における、吸気ポート210の上流側には、図示せぬクリーナを経て導かれた吸入空気に係る吸入空気量を調節可能なスロットルバルブ208が配設されている。このスロットルバルブ208は、ECU100と電気的に接続されたスロットルバルブモータ209によってその駆動状態が制御される構成となっている。尚、ECU100は、基本的には不図示のアクセルペダルの開度(即ち、上述したアクセル開度Ta)に応じたスロットル開度が得られるようにスロットルバルブモータ209を制御するが、スロットルバルブモータ209の動作制御を介してドライバの意思を介在させることなくスロットル開度を調整することも可能である。即ち、スロットルバルブ208は、一種の電子制御式スロットルバルブとして構成されている。
【0042】
排気管215には、三元触媒216が設置されている。三元触媒216は、エンジン200から排出される排気中のNOx(窒素酸化物)を還元すると同時に、排気中のCO(一酸化炭素)及びHC(炭化水素)を酸化可能に構成された触媒装置である。尚、触媒装置の採り得る形態は、このような三元触媒に限定されず、例えば三元触媒に代えて或いは加えて、NSR触媒(NOx吸蔵還元触媒)或いは酸化触媒の各種触媒が設置されていてもよい。
【0043】
排気管215には、エンジン200の排気空燃比を検出することが可能に構成された空燃比センサ217が設置されている。更に、気筒201を収容するシリンダブロックに設置されたウォータージャケットには、エンジン200を冷却するために循環供給される冷却水(LLC)に係る冷却水温を検出するための水温センサ218が配設されている。これら空燃比センサ217及び水温センサ218は、夫々ECU100と電気的に接続されており、検出された空燃比及び冷却水温は、夫々ECU100により一定又は不定の検出周期で把握される構成となっている。
【0044】
図2に戻り、モータジェネレータMG1は、本発明に係る「電動機」の一例たる電動発電機であり、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。モータジェネレータMG2は、モータジェネレータMG1と同様に、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを備えた構成となっている。尚、モータジェネレータMG1及びMG2は、例えば同期電動発電機として構成され、例えば外周面に複数個の永久磁石を有するロータと、回転磁界を形成する三相コイルが巻回されたステータとを備える構成を有するが、他の構成を有していてもよい。
【0045】
エンジン200及びMG1と駆動軸との間に設けられる動力分割機構300は、本発明の「動力伝達機構」の一例であり、プラネタリギヤとして構成されている。また、MG2と駆動軸500との間に設けられるMG2リダクション機構350も、同様にプラネタリギヤとして構成されている。
【0046】
動力分割機構300は、中心部に設けられた本発明の「第1回転要素」の一例たるサンギヤS1と、サンギヤS1の外周に同心円状に設けられた本発明の「第2回転要素」の一例たるリングギヤR1と、サンギヤS1とリングギヤR1との間に配置されてサンギヤS1の外周を自転しつつ公転する複数のピニオンギヤP1と、これら各ピニオンギヤの回転軸を軸支する本発明の「第3回転要素」の一例たるキャリアC1とを備えている。
【0047】
ここで、サンギヤS1は、サンギヤ軸310を介してMG1のロータRT1に連結されており、その回転数はMG1の回転数Nmg1(以下、適宜「MG1回転数Nmg1」と称する)と等価である。また、リングギヤR1は、第1クラッチ710、駆動軸500及び減速機構600を介してMG2のロータRT2に結合されており、その回転数はMG2の回転数Nmg2(以下、適宜「MG2回転数Nmg2」と称する)と一義的な関係にある。更に、キャリアC1は、エンジン200の先に述べたクランクシャフト205に連結された入力軸400と連結されており、その回転数は、エンジン200の機関回転数NEと等価である。尚、ハイブリッド駆動装置10において、MG1回転数Nmg1及びMG2回転数Nmg2は、夫々レゾルバ等の回転センサにより一定の周期で検出されており、ECU100に一定又は不定の周期で送出されている。
【0048】
一方、駆動軸500は、ハイブリッド車両1の駆動輪たる右前輪FR及び左前輪FLを夫々駆動するドライブシャフトSFR及びSFL(即ち、これらドライブシャフトは、本発明に係る「車軸」の一例である)と、各種減速ギヤ及び差動ギヤを含む減速装置としての減速機構600を介して連結されている。従って、モータジェネレータMG2から駆動軸500に供給されるモータトルクTmg2は、減速機構600を介して各ドライブシャフトへと伝達され、各ドライブシャフトを介して伝達される各駆動輪からの駆動力は、同様に減速機構600及び駆動軸500を介してモータジェネレータMG2に入力される。従って、MG2回転数Nmg2は、ハイブリッド車両1の車速Vと一義的な関係にある。
【0049】
動力分割機構300は、係る構成の下で、エンジン200からクランクシャフト205を介して入力軸400に供給されるエンジントルクTeを、キャリアC1とピニオンギヤP1とによってサンギヤS1及びリングギヤR1に所定の比率(各ギヤ相互間のギヤ比に応じた比率)で分配し、エンジン200の動力を2系統に分割することが可能となっている。
【0050】
動力分割機構300の動作を分かり易くするため、リングギヤR1の歯数に対するサンギヤS1の歯数としてのギヤ比ρを定義すると、エンジン200からキャリアC1に対しエンジントルクTeを作用させた場合に、サンギヤ軸310に現れるトルクTesは下記(1)式により、また駆動軸500に現れるトルクTer(即ち、エンジン200からの直達トルク)は下記(2)式により夫々表される。
【0051】
Tes=−Te×ρ/(1+ρ)・・・(1)
Ter=Te×1/(1+ρ)・・・(2)
本実施形態に係る動力分割機構300は更に、リングギヤR1及び駆動軸500間に、第1クラッチ710を備えており、その係合状態によって、リングギヤR1と駆動軸500及びMG2との連結を切り離し及び結合可能である。具体的には、第1クラッチ710が切り離された状態においては、エンジン200やMG1からリングギヤR1を介して出力される動力は、駆動軸500及びMG2には伝達されない。一方、第1クラッチ710が係合された状態においては、リングギヤR1を介して出力される動力が、駆動軸500及びMG2に伝達される。
【0052】
また、サンギヤS1及びリングギヤR1間には、第2クラッチ720が備えられており、その係合状態によって、サンギヤS1及びリングギヤR1間の連結を切り離し及び結合可能である。具体的には、第2クラッチ720が切り離された状態においては、サンギヤS1及びリングギヤR1はそれぞれ別々に回転する。一方、第2クラッチ720が係合された状態においては、サンギヤS1及びリングギヤR1が一体的に回転する。このため、動力伝達機構300における各回転要素が同一回転となる。尚、第2クラッチ720は、上述した構成に限られず、各回転要素のうち少なくとも2つの回転要素を連結させるようなものであればよい。具体的には、リングギヤR1及びキャリアC1間の連結を結合可能なものであってもよいし、サンギヤS1及びキャリアC1間の連結を結合可能なものであってもよい。各回転要素のうち2つを互いに連結させれば、各回転要素を一体的に回転させることができる。
【0053】
加えて、リングギヤR1には、その回転動作を固定するためのブレーキ730が備えられている。ブレーキ730は、一方が固定要素に固定されており、他方がリングギヤR1と係合することで、リングギヤR1の回転動作を固定する。
【0054】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の一例であるECU100の具体的な構成について、図4を参照して説明する。ここに図4は、ECUの構成を示すブロック図である。
【0055】
図4において、ECU100は、要求駆動力判定部110、動力損失推定部120、動力伝達モード決定部130及び動力伝達モード切替部140を備えて構成されている。
【0056】
要求駆動力判定部110は、入力される要求駆動力(即ち、駆動軸500に出力すべきトルク)が所定の閾値より小さいか否かを判定する。尚、ここでの「所定の閾値」とは、ハイブリッド車両1の動力伝達モードを、シリーズモードとするか、或いはパラレルモードとするか決定するための閾値であり、予め決定され、要求駆動力判定部110のメモリ等に記憶されている。
【0057】
動力損失推定部120は、本発明の「推定手段」の一例であり、入力されるMG1の運転情報(例えば、回転数や出力トルクを示す情報)に基づいて、動力伝達モードをシリーズモード(具体的には、後述する第1モード及び第2モード)に切替えた場合の動力損失を推定する。動力損失の具体的な推定方法については、後に詳述する。
【0058】
動力伝達モード決定部130は、本発明の「切替制御手段」の一例であり、動力損失推定部120において推定された動力損失に応じて、実現すべき動力伝達モードを決定する。具体的には、第1モード及び第2モードのうち動力損失の小さい方の動力伝達モードを、実現すべき動力伝達モードとして決定する。
【0059】
動力伝達モード切替部140は、本発明の「切替手段」の一例であり、動力伝達モード決定部130において決定された動力伝達モードを実現すべく、動力分割機構300を制御する。即ち、第1クラッチ710、第2クラッチ720及びブレーキ730の係合状態を夫々制御して、決定された動力伝達モードが実現されるように動力分割機構300の状態を変化させる。
【0060】
尚、ECU100は、上述した各手段を含んで構成された一体の電子制御ユニットであり、上記各部位に係る動作は、全てECU100によって実行されるように構成されている。但し、本発明に係る上記手段の物理的、機械的及び電気的な構成はこれに限定されるものではなく、例えばこれら各手段は、複数のECU、各種処理ユニット、各種コントローラ或いはマイコン装置等各種コンピュータシステム等として構成されていてもよい。
【0061】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両において実現可能な4つの動力伝達モードについて、図5から図8を参照して説明する。ここに図5は、第1モードの動作点を示す共線図であり、図6は、第2モードの動作点を示す共線図である。また図7は、第3モードの動作点を示す共線図であり、図8は、第4モードの動作点を示す共線図である。
【0062】
図5において、第1モードでは、第1クラッチ710及び第2クラッチ720が切り離されていると共に、ブレーキ730によってリングギヤR1が固定されている。このため、リングギヤR1から駆動軸500へは動力が出力されない。第1モードでは、エンジン200から出力される動力がMG1において回生され電力となり、回生によって得られた電力を動力とするMG2から、駆動軸500へと動力が出力される。第1モードは、本発明の「第2の動力伝達モード」の一例である。
【0063】
図6において、第2モードでは、第1クラッチ710が切り離されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力されない。このため、駆動軸500にはMG2から出力される動力が伝達される。また第2モードでは、第2クラッチ720が係合されており、ブレーキ730からリングギヤR1が解放されている。よって、動力分割機構300の各回転要素(即ち、サンギヤS1、キャリアC1及びリングギヤR1)は一体的に回転する。第1モードは、本発明の「第1の動力伝達モード」の一例である。
【0064】
図7において、第3モードでは、第1クラッチ710が結合されているため、動力分割機構300のリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力される。このため、ハイブリッド車両1は、エンジン200からの動力により走行することになる。第3モードでは、第2クラッチが解放されているため、動力分割機構300の各回転要素は互いに異なる回転数となる。尚、第3モードでは、エンジン200からの動力の一部をMG1による回生に利用することが可能である。また、MG2から動力を出力して、エンジン200からの動力をアシストするような駆動も可能となる。
【0065】
図8において、第4モードでは、上述した第3モードと同様に第1クラッチ710が結合されているため、動力分割機構300におけるリングギヤR1からは、駆動軸500に対して動力が出力される。このため、ハイブリッド車両1は、エンジン200からの動力により走行することになる。第4モードでは、第2クラッチが係合されているため、上述した第2モードと同様に動力分割機構300の各回転要素は一体的に回転する。
【0066】
以上のように、本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、車両の走行状況等に応じて動力伝達モードを適宜切替えることにより、効率の高い運転を実現できる。
【0067】
次に、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置による具体的な制御及びその効果について、図9を参照して説明する。ここに図9は、ハイブリッド車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
【0068】
図9において、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置の動作時には、先ず要求駆動力判定部110において、要求駆動力が所定の閾値より小さいか否かが判定される(ステップS01)。ここで要求駆動力が閾値以上である場合(ステップS01:NO)、ハイブリッド車両1の動力伝達モードが、比較的高い駆動力を要する場合に適したパラレルHVモード(即ち、第3モード又は第4モード)へと切替えられる(ステップS02)。より具体的には、第1クラッチ710が係合される。
【0069】
一方、要求駆動力が閾値以上である場合(ステップS01:YES)、動力損失推定部120において、動力伝達モードを第1モードへ切替えた場合の動力損失及び第2モードへと切替えた場合の動力損失が夫々推定される(ステップS03)。
【0070】
続いて、動力伝達モード決定部130において、第1モードへ切替えた場合の動力損失と、第2モードへと切替えた場合の動力損失とが互いに比較され、いずれの動力伝達モードの動力損失が小さいかが判定される(ステップS04)。
【0071】
第1モードの動力損失の方が小さい場合(ステップS04:YES)、動力伝達モード切替部140によって、動力伝達モードが第1モードへと切替えられる(ステップS05)。具体的には、第1クラッチ710及び第2クラッチ720が解放され、ブレーキ730によってリングギヤR1が固定される。一方で、第2モードの動力損失の方が小さい場合(ステップS04:NO)、動力伝達モード切替部140によって、動力伝達モードが第2モードへと切替えられる(ステップS06)。具体的には、第1クラッチ710及びブレーキ730が解放され、第2クラッチ720が係合される。従って、本実施形態では、車両の走行状況に応じて、より動力損失の小さいシリーズモードを選択的に実現できる。
【0072】
以下では、より具体的な動力損失の推定方法について、図10から図14を参照して詳細に説明する。ここに、図10は、MG1の回転数及びトルクに関するマップであり、図11から図12は夫々、動力分割機構における動力損失を示す共線図である。
【0073】
図10において、MG1における動力損失は、回転数及び出力トルクが大きくなるほど増大する傾向にある。ここで、図中に示される発電電力の比較的小さい動作点である点A及び点A’、並びに発電電力の比較的大きい点B及び点B’における動力分割機構300のそれぞれの動作点を考える
図11及び図12において、点Aは第1モードの動作点、点A’は第2モードの動作点を夫々示しており、各動力要素及び駆動軸500からは夫々図中の矢印で示す動力が出力される(矢印の長さが動力の大きさに対応している)。
【0074】
図13及び図14において、点Bは第1モードの動作点、点B’は第2モードの動作点を夫々示しており、各動力要素及び駆動軸500からは夫々図中の矢印で示す動力が出力される。
【0075】
動力損失判定部110には、図10に示すようなMG1の動力損失に対して、図11から図14に示される動作点に基づいて導き出される動力損失(即ち、動力分割機構300における動力損失)が加算されたマップが記憶される。また、動力損失はMG1の温度によっても変化する場合があるため、検出した温度に応じた補正を行ってもよい。
【0076】
図10に戻り、点A及び点A’を比べると、点A’の動力損失の方が点Aの動力損失より小さいことが分かる。具体的には、点A’の方が点Aより動力損失の小さい領域に存在している(図中の実線で仕切られた領域を参照)。よって、比較的発電電力が小さい場合には、各動力要素の回転数が同じになる第2モードが実現される。
【0077】
一方で、点B及び点B’を比べると、点Bの動力損失の方が点B’の動力損失より小さいことが分かる。具体的には、点Bの方が点B’より動力損失の小さい領域に存在している。よって、比較的発電電力が大きい場合には、リングギヤR1が固定される第1モードが実現される。
【0078】
以上説明したように、本実施形態に係るハイブリッド車両の制御装置によれば、より動力損失の小さい動力伝達モードでの走行が可能となるため、ハイブリッド車両1の運転効率を効果的に高めることが可能である。
【0079】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴うハイブリッド車両の制御装置もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0080】
1…ハイブリッド車両、10…ハイブリッド駆動装置、11…PCU、12…バッテリ、13…アクセル開度センサ、14…車速センサ、100…ECU、110…要求駆動力判定部、120…動力損失推定部、130…動力伝達モード決定部、140…動力伝達モード切替部、200…エンジン、205…クランクシャフト、300…動力分割機構、310…サンギヤ軸、350…MG2リダクション機構、S1…サンギヤ、C1…キャリア、R1…リングギヤ、MG1…モータジェネレータ、MG2…モータジェネレータ、400…入力軸、500…駆動軸、600…減速機構、710…第1クラッチ、720…第2クラッチ、730…ブレーキ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関、並びに第1電動機及び第2電動機を含む動力要素と、
前記第2電動機に連結されており、車軸に動力を出力する駆動軸と、
前記第1電動機に連結された第1回転要素、前記駆動軸に連結された第2回転要素、及び前記内燃機関に連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力伝達機構と、
前記第2回転要素及び前記駆動軸間の連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、
前記第1回転要素、第2回転要素及び前記第3回転要素を互いに結合して一体回転させることが可能な第2クラッチと、
前記第2回転要素の固定及び解放が可能なブレーキと
を備えたハイブリッド車両を制御する装置であって、
前記第1クラッチを切り離すと共に前記第2クラッチを係合し前記ブレーキから前記第2回転要素を解放する第1の動力伝達モード、及び前記第1クラッチを切り離すと共に前記第2クラッチを解放し前記ブレーキで前記第2回転要素を固定する第2の動力伝達モードを相互に切替可能な切替手段と、
前記第1の動力伝達モード及び前記第2の動力伝達モードへと動力伝達モードを切替えた場合の動力損失を夫々推定する推定手段と、
前記第1の動力伝達モード及び前記第2の動力伝達モードのうち、前記推定された動力損失が小さい方の動力伝達モードに切替えるように前記切替手段を制御する切替制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【請求項1】
内燃機関、並びに第1電動機及び第2電動機を含む動力要素と、
前記第2電動機に連結されており、車軸に動力を出力する駆動軸と、
前記第1電動機に連結された第1回転要素、前記駆動軸に連結された第2回転要素、及び前記内燃機関に連結された第3回転要素を含む相互に差動回転可能な複数の回転要素を有する動力伝達機構と、
前記第2回転要素及び前記駆動軸間の連結を切り離し及び結合可能な第1クラッチと、
前記第1回転要素、第2回転要素及び前記第3回転要素を互いに結合して一体回転させることが可能な第2クラッチと、
前記第2回転要素の固定及び解放が可能なブレーキと
を備えたハイブリッド車両を制御する装置であって、
前記第1クラッチを切り離すと共に前記第2クラッチを係合し前記ブレーキから前記第2回転要素を解放する第1の動力伝達モード、及び前記第1クラッチを切り離すと共に前記第2クラッチを解放し前記ブレーキで前記第2回転要素を固定する第2の動力伝達モードを相互に切替可能な切替手段と、
前記第1の動力伝達モード及び前記第2の動力伝達モードへと動力伝達モードを切替えた場合の動力損失を夫々推定する推定手段と、
前記第1の動力伝達モード及び前記第2の動力伝達モードのうち、前記推定された動力損失が小さい方の動力伝達モードに切替えるように前記切替手段を制御する切替制御手段と
を備えることを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−81793(P2012−81793A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227368(P2010−227368)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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