説明

ハイブリッド車両の駆動力制御装置

【課題】複数の変速モードに切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両において、ショックの発生回数を少なくすることが可能なハイブリッド車両の駆動力制御装置を提供する。
【解決手段】複数の変速モードに切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両の駆動力制御装置であって、走行環境に基づいて原動機による出力トルクを変更する手段(S001)と、前記変速機の前記変速モードの切り替えタイミングを、前記走行環境に基づく前記原動機による出力トルクの変更タイミングに合わせる手段(S005)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の駆動力制御装置に関し、特に、複数の変速モードに切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両の駆動力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の変速モード(変速段)に切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両が知られている。
【0003】
例えば、特開2005−186736号公報(特許文献1)には、ハイブリッド車両において、要求トルクの増加があったときにLo−Hi切り替えを予測し、事前に予備動作を行う点が開示されている。
【0004】
上記特許文献1の技術によれば、シーケンシャルシフトに応じてペラトルクを変える制御を行った場合、変速機の変速段切り替えによるトルク変動とペラトルク変動の双方が起こり、運転者に違和感を与える虞がある。
【0005】
【特許文献1】特開2005−186736号公報
【特許文献2】特開2006−20481号公報
【特許文献3】特開2004−150334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複数の変速モードに切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両において、ショックの発生回数が少ないことが望まれている。特に、走行環境に基づいて原動機による出力トルクが変更されるハイブリッド車両において、ショックの発生回数が少ないことが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、複数の変速モードに切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両において、ショックの発生回数を少なくすることが可能なハイブリッド車両の駆動力制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のハイブリッド車両の駆動力制御装置は、複数の変速モードに切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両の駆動力制御装置であって、走行環境に基づいて原動機による出力トルクを変更する手段と、前記変速機の前記変速モードの切り替えタイミングを、前記走行環境に基づく前記原動機による出力トルクの変更タイミングに合わせる手段と
を備えている。
【0009】
本発明のハイブリッド車両の駆動力制御装置において、現在の車速に現在の加速度を考慮した車速と、前記変速モードの切り替えの判断に用いられる車速との差に基づいて、前記変速機の前記変速モードの切り替えタイミングを、前記走行環境に基づく前記原動機による出力トルクの変更タイミングに合わせるか否かが判定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の変速モードに切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両において、ショックの発生回数を少なくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本実施形態は、アクセル開度と車速(ペラシャフト回転数)から決まるドライバー要求ペラシャフトトルク(ドライブシャフトトルク)または駆動力を実現するようにエンジン回転数、エンジントルク、MG1回転数、MG1トルク、MG2トルク等を決定し、MG2回転数を低下させるためのLo−Hi切り替え可能なハイブリッド用変速機において、変速点制御実施可能領域では、Lo⇔Hi切り替えタイミングを変速点制御のペラトルク変更タイミングに合わせる。変速点制御開始、復帰時に車速、減速度、MG2回転数からHi⇔Lo変速前出し可能か否かを判断し、Hi⇔Lo変速の前出しを実施する。
【0012】
次に、本発明の実施の形態を実施例を用いて説明する。図2は、本発明の一実施例であるハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、図示するように、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の動力分配統合機構30と、動力分配統合機構30に接続された発電可能なモータMG1と、変速機60を介して動力分配統合機構30に接続されたモータMG2と、車両の駆動系全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0013】
エンジン22は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン22の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射制御や点火制御,吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0014】
動力分配統合機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリア34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とキャリア34とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構30は、キャリア34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31にはモータMG1が、リングギヤ32には変速機60を介してモータMG2がそれぞれ連結されており、モータMG1が発電機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、モータMG1が電動機として機能するときにはキャリア34から入力されるエンジン22からの動力とサンギヤ31から入力されるモータMG1からの動力を統合してリングギヤ32に出力する。リングギヤ32は、ギヤ機構37,デファレンシャルギヤ38を介して車両前輪の駆動輪39a,39bに機械的に接続されている。したがって、リングギヤ32に出力された動力は、ギヤ機構37,デファレンシャルギヤ38を介して駆動輪39a,39bに出力されることになる。なお、駆動系として見たときの動力分配統合機構30に接続される3軸は、キャリア34に接続されたエンジン22の出力軸であるクランクシャフト26,サンギヤ31に接続されモータMG1の回転軸となるサンギヤ軸31aおよびリングギヤ32に接続されると共に駆動輪39a,39bに機械的に接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aとなる。
【0015】
モータMG1およびモータMG2は、共に発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ41,42を介してバッテリ50と電力のやりとりを行なう。インバータ41,42とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ41,42が共用する正極母線および負極母線として構成されており、モータMG1,MG2の一方で発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリ50は、モータMG1,MG2から生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、モータMG1とモータMG2とにより電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。モータMG1,MG2は、共にモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えばモータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの信号や図示しない電流センサにより検出されるモータMG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ41,42へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44から入力した信号に基づいて図示しない回転数算出ルーチンによりモータMG1,MG2の回転子の回転数Nm1,Nm2を計算している。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によってモータMG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じてモータMG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0016】
変速機60は、モータMG2の回転軸48とリングギヤ軸32aとの接続および接続の解除を行なうと共に両軸の接続をモータMG2の回転軸48の回転数を2段に減速してリングギヤ軸32aに伝達できるよう構成されている。変速機60の構成の一例を図3に示す。この図3に示す変速機60は、ダブルピニオンの遊星歯車機構60aとシングルピニオンの遊星歯車機構60bと二つのブレーキB1,B2とにより構成されている。ダブルピニオンの遊星歯車機構60aは、外歯歯車のサンギヤ61と、このサンギヤ61と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ62と、サンギヤ61に噛合する複数の第1ピニオンギヤ63aと、この第1ピニオンギヤ63aに噛合すると共にリングギヤ62に噛合する複数の第2ピニオンギヤ63bと、複数の第1ピニオンギヤ63aおよび複数の第2ピニオンギヤ63bを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア64とを備えており、サンギヤ61はブレーキB1のオンオフによりその回転を自由にまたは停止できるようになっている。シングルピニオンの遊星歯車機構60bは、外歯歯車のサンギヤ65と、このサンギヤ65と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ66と、サンギヤ65に噛合すると共にリングギヤ66に噛合する複数のピニオンギヤ67と、複数のピニオンギヤ67を自転かつ公転自在に保持するキャリア68とを備えており、サンギヤ65はモータMG2の回転軸48に、キャリア68はリングギヤ軸32aにそれぞれ連結されていると共にリングギヤ66はブレーキB2のオンオフによりその回転が自由にまたは停止できるようになっている。ダブルピニオンの遊星歯車機構60aとシングルピニオンの遊星歯車機構60bとは、リングギヤ62とリングギヤ66、キャリア64とキャリア68とによりそれぞれ連結されている。変速機60は、ブレーキB1,B2を共にオフとすることによりモータMG2の回転軸48をリングギヤ軸32aから切り離すことができ、図9に示すように、ブレーキB1をオフとすると共にブレーキB2をオンとしてモータMG2の回転軸48の回転を比較的大きな減速比で減速してリングギヤ軸32aに伝達し(以下、この状態をLoギヤの状態という)、ブレーキB1をオンとすると共にブレーキB2をオフ状態としてモータMG2の回転軸48の回転を比較的小さな減速比で減速してリングギヤ軸32aに伝達する(以下、この状態をHiギヤの状態という)。なお、ブレーキB1,B2を共にオンとする状態は回転軸48やリングギヤ軸32aの回転を禁止するものとなる。
【0017】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば,バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度などが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0018】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM75と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量に対応したアクセル開度を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速V、駆動輪39a,39bに取り付けられた車輪速センサ89a,89bからの車輪速Vwa,Vwbなどが入力ポートを介して入力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70からは、変速機60のブレーキB1,B2の図示しないアクチュエータに駆動信号などが出力されている。なお、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
【0019】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度と車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22とモータMG1とモータMG2とが運転制御される。エンジン22とモータMG1とモータMG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にエンジン22から出力される動力のすべてが動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリ50の充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン22から出力されるようにエンジン22を運転制御すると共にバッテリ50の充放電を伴ってエンジン22から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構30とモータMG1とモータMG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるようモータMG1およびモータMG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン22の運転を停止してモータMG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力するよう運転制御するモータ運転モードなどがある。なお、ブレーキB1,B2は、車速Vなどにより変速機60のギヤ比がモータMG2からの動力が効率よくリングギヤ軸32aに出力されるようオンオフ制御される。
【0020】
Loギヤ(モード)とHiギヤ(モード)の切り替え可能なハイブリッド車両の駆動力制御装置において、例えば、変速点制御開始(実行)、復帰によるペラトルク変化と、Lo⇔Hiの切り替えによるトルク変化が続いて起こる可能性がある。そこで、本実施形態では、以下の構成を採用している。
【0021】
本実施形態では、アクセル開度と車速(ペラシャフト回転数)から決まるドライバー要求ペラシャフトトルク(ドライブシャフトトルク)または駆動力を実現するようにエンジン回転数、エンジントルク、MG1回転数、MG1トルク、MG2トルク等を決定し、MG2回転数を低下させるためのLo−Hi切り替え可能なハイブリッド車両用変速機において、変速点制御実施可能領域では、Lo−Hi切り替えタイミングを変速点制御のペラトルク変更タイミングに合わせる。
【0022】
変速点制御開始時の車速、減速度、MG2回転数からHi→Lo変速の前出し(時期を早めること)が可能であるか否かを判断し、可能であると判断された場合に、Hi→Lo変速の前出しを実施する。
【0023】
変速点制御開始時の車速、減速度、MG2回転数からLo→Hi変速の前出し(時期を早めること)が可能であるか否かを判断し、可能であると判断された場合に、Lo→Hi変速の前出しを実施する。
【0024】
上記構成を採用することにより、出力軸に発生するトルク変化の発生回数を減少させることができ、ドライバビリティが向上する。また、MG2、エンジンの回転数変化が減少し、フィーリングが向上する。
【0025】
以下、図1を参照して、本実施形態の動作を説明する。
【0026】
[ステップS001]
ステップS001では、変速点制御の開始時であるか否かが判定される。ここで、変速点制御とは、通常の変速制御(例えばアクセル開度及び車速に基づく変速マップによる変速制御)とは異なる、車両の走行環境に基づく変速制御であり、例えば、いわゆるコーナー制御、登降坂制御、追従制御、合流路・退出路制御、信号、交差点、料金所などによる制御が広く含まれる。ステップS001の変速点制御は、ダウンシフト制御である。ステップS001の判定の結果、変速点制御の開始時であると判定された場合には、ステップS002に進み、そうでない場合には、ステップS006に進む。
【0027】
[ステップS002]
次に、ステップS002では、変速機60がHiモード(ギヤ)であるか否かが判定される。その判定の結果、Hiモードである場合には、ステップS003に進み、そうでない場合には、本制御フローはリターンされる。
【0028】
[ステップS003]
ステップS003では、Loに変速された場合のMG2回転数が、予め設定された上限回転数NMG2ULMT以下であるか否かが判定される。ステップS003では、Loモードにダウンシフトした場合にMG2の回転数がオーバーレブしないか否かが判定される。ステップS003の判定の結果、Loに変速された場合のMG2回転数が、予め設定された上限回転数NMG2ULMT以下であると判定された場合には、ステップS004に進み、そうでない場合には、本制御フローはリターンされる。
【0029】
[ステップS004]
ステップS004では、現在の車速に現在の加速度を考慮した車速と、Hi→Lo変速線(図4参照)との車速差が予め設定された所定閾値以下であるか否かが判定される。その判定の結果、上記車速差が上記所定閾値以下であると判定された場合には、ステップS005に進み、そうでない場合には本制御フローはリターンされる。
【0030】
仮に、ステップS004の判定がないとすると、Hi→Lo変速線から大きく乖離した車速でLoに変速することになり、その後のLoからHiへの変速が直ぐに行われ、その変速ショックが問題となる。ステップS004では、加速度を考慮し、どの程度Hi→Lo変速線に近い車速であるかを見て、許容範囲内の車速であるときのみ、ステップS005でHiからLoへの変速の前出しを実施するようにしている。これにより、変速ショックの発生回数を低減させることができる。
【0031】
[ステップS005]
ステップS005では、HiからLoへの変速の前出しが行われる。これにより、変速点制御(ステップS001)と、変速機60のHiからLoへの変速が実質的に同時期に実行され、変速点制御によるペラトルク変化と変速機60のHiからLoへの変速によるトルク変化が略同時期に発生する。これにより、従来、変速点制御と変速機60の変速とが別々に行われていた時と比べて、トルク変化(ショック)の発生回数を減少させることができる。ステップS005の次に、本制御フローはリターンされる。
【0032】
[ステップS006]
ステップS006では、変速点制御の復帰時であるか否かが判定される。ステップS006の変速点制御の復帰は、ダウンシフト制御の復帰(アップシフトの許可)である。ステップS006の判定の結果、変速点制御の復帰時であると判定された場合には、ステップS007に進み、そうでない場合には、本制御はリターンされる。
【0033】
[ステップS007]
次に、ステップS007では、変速機60がLoモード(ギヤ)であるか否かが判定される。その判定の結果、Loモードである場合には、ステップS008に進み、そうでない場合には、本制御フローはリターンされる。
【0034】
[ステップS008]
ステップS008では、現状のMG2回転数が、予め設定された上限回転数NMG2ULMT以下であるか否かが判定される。ステップS008の判定の結果、現状のMG2回転数が、予め設定された上限回転数NMG2ULMT以下であると判定された場合には、ステップS009に進み、そうでない場合には、本制御フローはリターンされる。現状のMG2の回転数が高過ぎる場合には、LoからHiに変速した方がよいことから、現状のMG2の回転数が所定値以上に高いか否かを判定している。
【0035】
[ステップS009]
ステップS009では、現在の車速に現在の加速度を考慮した車速と、Lo→Hi変速線(図4参照)との車速差が予め設定された所定閾値以下であるか否かが判定される。その判定の結果、上記車速差が上記所定閾値以下であると判定された場合には、ステップS010に進み、そうでない場合には本制御フローはリターンされる。
【0036】
[ステップS010]
ステップS010では、LoからHiへの変速の前出しが行われる。これにより、変速点制御(ステップS001)と、変速機60のLoからHiへの変速が実質的に同時期に実行され、変速点制御によるペラトルク変化と変速機60のLoからHiへの変速によるトルク変化が略同時期に発生する。これにより、従来、変速点制御と変速機60の変速とが別々に行われていた時と比べて、トルク変化(ショック)の発生回数を減少させることができる。ステップS010の次に、本制御フローはリターンされる。
【0037】
図10及び図11を参照して、本実施形態の動作について説明する。
図10は、変速点制御の開始時の動作を示すタイムチャートであり、図11は、変速点制御からの復帰時の動作を示すタイムチャートである。
【0038】
図10において、符号501はアクセル開度、符号502は変速規制フラグ、符号503は車速、符号504はHi→Lo変速線、符号505は目標ペラトルク、符号506は目標エンジン回転数、符号507はMG2回転数、符号508は前後G、符号509は従来のHi→Lo変速による前後Gの変化をそれぞれ示している。
【0039】
アクセル開度501が全閉の状態で、車両の走行環境(例えば車両前方のコーナー)に基づいて、t1の時点で変速点制御が開始されると(ステップS001−Y)、変速規制フラグ502がONとされる。t1の時点の変速点制御の実行により、目標ペラトルク505が小さな値に変更され、目標エンジン回転数506が高い値に変更される。このときに、MG2回転数507に関するステップS003の条件を満たしており、また、車速503に関するステップS004の条件を満たしていると、t1の時点にHi→Lo変速が前出しされ、変速点制御の実行と同時に変速機60のHiからLoへの変速が実行される。これにより、前後Gはt1の時点で変更されるだけで、それ以降の変更はなく、ショックの発生回数を減少させることができる。従来技術では、Hi→Lo変速線504に車速503が達した時点t2でHiからLoへの変速が行われていた。そのため、変速点制御が実行されたt1時点と、変速機60のHiからLoへの変速が行われたt2時点の2つの時点で、ショックが発生していた。
【0040】
図11において、符号601はアクセル開度、符号602は変速規制フラグ、符号603は車速、符号604はHi→Lo変速線、符号605は目標ペラトルク、符号606は目標エンジン回転数、符号607はMG2回転数、符号608は前後G、符号609は従来のHi→Lo変速による前後Gの変化をそれぞれ示している。
【0041】
アクセル開度601が全閉ではない状態で、車両の走行環境(例えばコーナーからの脱出)に基づいて、t4の時点で変速点制御から復帰すると(ステップS006−Y)、変速規制フラグ602がOFFとされる。t4の時点の変速点制御の復帰により、目標ペラトルク605が小さな値に変更され、目標エンジン回転数606が低い値に変更される。このときに、MG2回転数607に関するステップS008の条件を満たしており、また、車速603に関するステップS009の条件を満たしていると、t4の時点にLo→Hi変速が前出しされ、変速点制御の復帰と同時に変速機60のLoからHiへの変速が実行される。これにより、前後Gはt4の時点で変更されるだけで、それ以降の変更はなく、ショックの発生回数を減少させることができる。従来技術では、Lo→Hi変速線604に車速603が達した時点t5でLoからHiへの変速が行われていた。そのため、変速点制御が実行されたt4時点と、変速機60のLoからHiへの変速が行われたt5時点の2つの時点で、ショックが発生していた。
【0042】
実施例のハイブリッド自動車20やその変形例では、モータMG2の動力を変速してリングギヤ軸32aに出力する変速機として遊星歯車機構を有する変速機60を用いてLoとHiとの2段変速を可能としたが、複数の遊星歯車機構を組み合わせて3段以上の変速段を有するものとしてもよい。この場合、エンジン22の運転を停止する際には、モータMG2の回転数が最も減速してリングギヤ軸32aに伝達される変速段(最下段)にした後にエンジン22の運転を停止するものとしたり、変速機が最下段のときにエンジン22の運転停止の条件を判定してエンジン22の運転を停止するものとするのが好ましい。なお、このように3段以上の変速段を有するものとしたときには、エンジン22の運転を停止する際の変速機の変速段を最下段とする必要はなく、エンジン22の運転を停止する際には変速機の変速段を最下段の次の変速段など予め設定した所定の変速段にした後にエンジン22の運転を停止するものとしたり、変速機の変速段が上述の所定の変速段のときにエンジン22の運転停止の条件を判定してエンジン22の運転を停止するものとしてもよい。
【0043】
実施例のハイブリッド自動車20やその変形例では、モータMG2の動力を変速してリングギヤ軸32aに出力する変速機として遊星歯車機構を有する変速機60を用いたが、CVTなどの無段変速機を用いるものとしてもよい。この場合、エンジン22の運転を停止する際には、無段変速機が取り得る変速比の範囲のうちモータMG2の回転数が最も減速してリングギヤ軸32aに伝達される変速比(最大変速比)にした後にエンジン22の運転を停止するものとしたり、無段変速機が最大変速比のときにエンジン22の運転停止の条件を判定してエンジン22の運転を停止するものとすればよい。また、この無段変速機を用いる場合には、エンジン22の運転を停止する際に無段変速機の変速比を最大変速比にする必要はなく、エンジン22の運転を停止する際には無段変速機の変速比を最大変速比近傍の所定の変速比などのように予め設定した所定の変速比にした後にエンジン22の運転を停止するものとしたり、無段変速機の変速比が上述の所定の変速比のときにエンジン22の運転停止の条件を判定してエンジン22の運転を停止するものとしてもよい。
【0044】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2の動力を変速機60により変速してリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図5の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、モータMG2の動力を変速機60を介してリングギヤ軸32aが接続された車軸(駆動輪39a,39bが接続された車軸)とは異なる車軸(図5における車輪193a,193bに接続された車軸)に接続するものとしてもよい。
【0045】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22の動力を動力分配統合機構30を介して駆動輪39a,39bに接続された駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力するものとしたが、図6の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン22のクランクシャフト26に接続されたインナーロータ232と駆動輪39a,39bに動力を出力する駆動軸に接続されたアウターロータ234とを有し、エンジン22の動力の一部を駆動軸に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。また、図7の変形例にハイブリッド自動車320に例示するように、エンジン22からの動力を変速して駆動輪39a,39bの車軸に接続された駆動軸に出力する変速機330を備えるものとしてもよい。この場合、変速機330は有段変速機であっても無段変速機であってもよい。このようにエンジン22からの動力を変速して駆動輪39a,39bの車軸に接続された駆動軸に出力する変速機330を備える場合、図8の変形例のハイブリッド自動車420に例示するように、モータMG2から変速機60を介して出力される動力を更に変速機330で変速して駆動輪39a,39bに伝達するものとしてもよい。
【0046】
以上、本発明の実施の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施例の動作を示すフローチャートである。
【図2】本発明の一実施例に係るハイブリッド自動車の構成の概略を示す構成図である。
【図3】変速機60の構成の一例を示す構成図である。
【図4】本発明の一実施例の変速機の変速線を示す図である。
【図5】変形例のハイブリッド自動車の構成の概略を示す構成図である。
【図6】変形例のハイブリッド自動車の構成の概略を示す構成図である。
【図7】変形例のハイブリッド自動車の構成の概略を示す構成図である。
【図8】変形例のハイブリッド自動車の構成の概略を示す構成図である。
【図9】本発明の一実施例の変速機の動作を説明するための図である。
【図10】本発明の一実施例の動作を示すタイムチャートである。
【図11】本発明の一実施例の他の動作を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0048】
20,120,220,320,420 ハイブリッド自動車
22 エンジン
24 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)
26 クランクシャフト
28 ダンパ
30 動力分配統合機構
31 サンギヤ
31a サンギヤ軸
32 リングギヤ
32a リングギヤ軸
33 ピニオンギヤ
34 キャリア
37 ギヤ機構
38 デファレンシャルギヤ
39a,39b 駆動輪
40 モータ用電子制御ユニット(モータECU)
41,42 インバータ
43,44 回転位置検出センサ
50 バッテリ
52 バッテリ用電子制御ユニット(バッテリECU)
54 電力ライン
60 変速機
60a ダブルピニオンの遊星歯車機構
60b シングルピニオンの遊星歯車機構
61 サンギヤ
62 リングギヤ
63a 第1ピニオンギヤ
63b 第2ピニオンギヤ
64 キャリア
65 サンギヤ
66 リングギヤ
67 ピニオンギヤ
68 キャリア
70 ハイブリッド用電子制御ユニット
72 CPU
74 ROM
75 RAM
80 イグニッションスイッチ
81 シフトレバー
82 シフトポジションセンサ
83 アクセルペダル
84 アクセルペダルポジションセンサ
85 ブレーキペダル
86 ブレーキペダルポジションセンサ
88 車速センサ
89a,89b 車輪速センサ
193a,193b 駆動輪
230 対ロータ電動機
232 インナーロータ
234 アウターロータ
330 変速機
501 アクセル開度
502 変速規制フラグ
503 車速
504 Hi→Lo変速線
505 目標ペラトルク
506 目標エンジン回転数
507 MG2回転数
508 前後G
509 従来のHi→Lo変速による前後Gの変化
601 アクセル開度
602 変速規制フラグ
603 車速
604 Hi→Lo変速線
605 目標ペラトルク
606 目標エンジン回転数
607 MG2回転数
608 前後G
609 従来のHi→Lo変速による前後Gの変化
MG1,MG2 モータ
B1,B2 ブレーキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の変速モードに切り替え可能な変速機を有するハイブリッド車両の駆動力制御装置であって、
走行環境に基づいて原動機による出力トルクを変更する手段と、
前記変速機の前記変速モードの切り替えタイミングを、前記走行環境に基づく前記原動機による出力トルクの変更タイミングに合わせる手段と
を備えたことを特徴とするハイブリッド車両の駆動力制御装置。
【請求項2】
請求項1記載のハイブリッド車両の駆動力制御装置において、
現在の車速に現在の加速度を考慮した車速と、前記変速モードの切り替えの判断に用いられる車速との差に基づいて、前記変速機の前記変速モードの切り替えタイミングを、前記走行環境に基づく前記原動機による出力トルクの変更タイミングに合わせるか否かが判定される
ことを特徴とするハイブリッド車両の駆動力制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−23430(P2009−23430A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−186934(P2007−186934)
【出願日】平成19年7月18日(2007.7.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】