説明

ハイブリッド車両用動力伝達システムの制御方法

【課題】第1及び第2中間軸と連結する第1クラッチ又は第2クラッチ、複数の変速用クラッチのいずれか一つが係合不能に陥った場合でも、他のクラッチを経由してエンジンの動力を伝達して、通常の運転特性をできる限り満足できる制御方法を提供する。
【解決手段】第1クラッチ16が係合不能になった場合、第2クラッチ17を前進(又は後進)の方向に係合し、固定クラッチ31を開放し、第3クラッチ23を第1変速ギア段19側にシフトする。出力軸18及び接続ギア列30が停止した停車状態で、エンジン1のアイドル回転力は第2中間軸15及び差動装置25を経て発電電動機29に伝えられている。エンジン1の出力を上昇させつつ発電電動機29の発電負荷を増加させると、発電トルクの反力は、差動装置25、接続ギア列30、第1中間軸14及び第1変速ギア段19を介して出力軸18に出力されて発進することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関と電動機よりなるハイブリッド車両に係り、特に電動機により変速動作を行う有段ギア変速機を備えたハイブリッド車両用動力伝達システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から周知の気動車の駆動システムは、ディーゼルエンジンのような内燃機関の出力を、トルクコンバータ付の変速機に入力し、該変速機の出力をドライブシャフトを介して車輪に伝達するシステムがある(非特許文献1参照)。この変速機は湿式多板クラッチにより変速ギア段を切り替えるもので、クラッチを滑らせることで変速時の回転数変化を吸収しながら、ギアからギアへエンジンの駆動力を移し変えるものである。この方式においては摩擦クラッチを用いるので変速時の回転数変化による発熱があり、またクラッチ開放時においてもクラッチ板の連れ回りによる損失がある。
【0003】
この問題を解決するため、二つの中間軸を持つブリッジ型変速機を用い、両中間軸に電動機から互いに逆向きのトルクを印加することで変速動作を行うと共に、加速アシスト・回生制動などのハイブリッド制御機能を有するアクティブシフト変速機が開発されている(特許文献1,2参照)。この変速機は摩擦クラッチの代わりに噛み合いクラッチのみで構成されており、変速時の回転数変化や駆動力の移し替えは電動機の制御により行われるため、摩擦発熱の無い高効率変速を行うことができる。
【非特許文献1】エンジンテクノロジー、May2000、pp28−29
【特許文献1】特開2005−76875号公報
【特許文献2】WO01/66971
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アクティブシフト変速機は、変速機の中に二つの中間軸とこれらを接続する差動装置及び発電電動機を設けた変速機であり、摩擦部材が無く経年変化や劣化部材の少ない構成であるが、噛み合いクラッチの係合/開放を行うためのクラッチアクチュエータを備えており、クラッチアクチュエータは可動部分を含むので故障の可能性が残る。軌条車両は交通機関として高い信頼性が要求されており、1箇所の故障で走行不能になることは避けなければならないので、従来は故障しにくい高信頼性部品を用いていた。しかしこのような高信頼性部品は高価でありコスト高を招く。
【0005】
そこで、エンジン出力及び電動機により変速動作を行う有段ギア変速機を備えたハイブリッド車両用動力伝達システムにおいて、1箇所のクラッチアクチュエータが故障したときであっても、故障したクラッチを回避して他の正常なクラッチを経由してエンジン駆動力を車輪に伝達させる走行可能なモードを確立する点で解決すべき課題がある。
【0006】
本発明の目的は、たとえ1箇所のクラッチアクチュエータが故障したとしても他のクラッチを用いて走行可能なモードをあらかじめ用意しておくことにより、高価な高信頼性部品を用いることなく安価で信頼性の高いシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、目的を達成するため、この発明による車両用動力伝達システムの制御方法は、エンジン、該エンジンの出力を入力する変速機、該変速機の出力軸により駆動される車輪より構成される車両の動力伝達システムにおいて、前記変速機の入力軸と並列に設けられた第1中間軸及び第2中間軸、前記入力軸と前記両中間軸との間に設けられて前記入力軸の回転を伝達する前進用ギア列及び後進用ギア列、前記前進用ギア列又は前記後進用ギア列の回転を選択的に前記第1中間軸に伝達する第1クラッチ、前記前進用ギア列又は前記後進用ギア列の回転を選択的に前記第2中間軸に伝達する第2クラッチ、前記第1中間軸又は前記第2中間軸と前記出力軸との間に噛み合って設けられた複数組の変速ギア段、前記第1中間軸又は前記第2中間軸の回転を選択的に前記複数組の変速ギア段に伝達する複数の変速用クラッチ、前記第1中間軸及び前記第2中間軸に接続されると共に前記両中間軸の回転数の差に応じた回転数で回転する回転部を備えた差動装置、及び
前記差動装置の前記回転部に接続された発電電動機を備え、前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、複数の前記変速用クラッチのいずれか一つが係合不能に陥ったときには、前記エンジンの出力を正常な二つのクラッチと前記差動装置を介して前記出力軸に伝達することを特徴とする。
【0008】
この変速機は二つの中間軸を備えており、発電電動機の反力を利用して一方の中間軸から他方の中間軸にエンジンからのトルクを伝達することができる。この特徴を活かし、一方の中間軸に関して設けられているクラッチが係合不能に陥った場合には、エンジンの出力トルクを差動装置から他方の中間軸に伝達し、更に当該他方の中間軸上の正常なクラッチを介して変速ギアに伝達させることで、故障したクラッチを回避してエンジン駆動力を伝達させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法によれば、1箇所のクラッチアクチュエータが故障したとしても他のクラッチを用いて走行可能になり、運休を回避するという交通機関としての信頼性を損なうことなく車両のコストを低減することができるので産業上極めて有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、この発明によるハイブリッド車両用動力伝達システム及びその制御方法の実施例を説明する。
【実施例1】
【0011】
本発明の第1の実施例を図1〜10により説明する。図1は二つの中間軸を持つアクティブシフト変速機の構成を模式的に示したスケルトン図である。エンジン1の出力軸は変速機2の入力軸3に接続されている。入力軸3には前進用ギア列4と後進用ギア列5が並列に配置されており、入力軸3が回転駆動されている状態では、両ギア列4,5は常に駆動されている。前進用ギア列4は、入力軸3に固着された入力ギア6、該入力ギア6と噛み合う第1ギア7及び第2ギア8を備えている。後進用ギア列5は、入力軸3に固着された入力ギア9、該入力ギア9にそれぞれ噛み合う同じ仕様の反転ギア10,11、該反転ギア10,11にそれぞれ噛み合う第3ギア12及び第4ギア13を備えている。
【0012】
入力軸3に並行に、第1中間軸14と第2中間軸15とが配置されている。第1ギア7と第3ギア12とは第1中間軸14に相対回転可能に嵌合しており、第2ギア8と第4ギア13とは第2中間軸15に相対回転可能に嵌合している。第1中間軸14と第2中間軸15とには、前進用ギア列4と後進用ギア列5との間において、それぞれ、選択的に係合可能な第1クラッチ16と第2クラッチ17とが配設されている。これらの第1クラッチ16及び第2クラッチ17は、それぞれの軸に設けられたスプライン上を軸方向にシフトするスリーブの歯が、前記第1〜第4ギアに設けられた歯に噛み合うことで係合/開放するものである。したがって、第1中間軸14には第1クラッチ16の選択的なシフトによって係合した側のギア(7又は12)から前進回転又は後進回転が与えられ、第2中間軸15には第2クラッチ17の選択的なシフトによって係合した側のギア(8又は13)から前進回転又は後進回転が与えられる。
【0013】
第1中間軸14と第2中間軸15と並行に、出力軸18が配置されている。第1中間軸14と出力軸18との間には第1変速ギア段19と第3変速ギア段21が配置されており、第2中間軸15と出力軸18との間には第2変速ギア段20と第4変速ギア段22が配置されている。各変速ギア段19〜22においては、予め定められた変速比で出力軸18に回転出力を生じさせるために、相異なるギア径(歯数)が定められている。また、各変速ギア段19〜22において、中間軸14、15上に配置されているギアは中間軸14,15に対して相対回転自在であるが、出力軸18に配置されているギアは出力軸18に固着嵌合されている。
【0014】
第1中間軸14において、第1変速ギア段19と第3変速ギア段21との間には選択的に係合可能な第3クラッチ23が配設されている。また、第2中間軸15において、第2変速ギア段20と第4変速ギア段22との間には選択的に係合可能な第4クラッチ24が配設されている。
【0015】
上記の変速ギア段の構成によって、第1クラッチ16を前進用ギア列4側にシフトした状態で、第3クラッチ23を第1変速ギア段19側にシフトしたときには、入力軸3の回転は第1中間軸14及び第1変速ギア段19を介して出力軸18に前進第1変速段で出力され、第3クラッチ23を第3変速ギア段21側にシフトしたときには、入力軸3の回転は第1中間軸14及び第3変速ギア段21を介して出力軸18に前進第3変速段で出力される。このとき、第2クラッチ17は中立位置に置かれる。また、第2クラッチ17を前進用ギア列8側にシフトした状態で、第4クラッチ24を第2変速ギア段20側にシフトしたときには、入力軸3の回転は第2中間軸15及び第2変速ギア段20を介して出力軸18に前進第2変速段で出力され、第4クラッチ24を第4変速ギア段22側にシフトしたときには、入力軸3の回転は第2中間軸15及び第4変速ギア段22を介して出力軸18に前進第4変速段で出力される。このとき、第1クラッチ16は中立位置に置かれる。
【0016】
第1クラッチ16又は第2クラッチ17を後進側に係合した場合は、それぞれ後進方向に各変速段で出力される。
【0017】
第2中間軸15の端部には差動装置25が配設されており、差動装置25のリングギア26と噛み合う取り出しギア27の取り出し軸28は発電電動機29に接続されている。第1中間軸14と差動装置25との間には接続ギア列30が配設され、差動装置25のリングギア26は、第1中間軸14と第2中間軸15の回転数の差の2分の1の回転速度で回転するように接続ギア列が構成されており、この接続ギア列30の中間ギアの一つには変速機2のケースとの間に固定クラッチ31が配設され、固定クラッチ31を係合することにより接続ギア列30の回転が止められるようになっている。この実施例では、リングギア26が両中間軸14,15の回転数の差に応じた回転数(回転数差の半分の回転速度)で回転する回転部を構成している。
【0018】
図1の変速機において故障の可能性があるのは各クラッチの可動部である。これらのクラッチ可動部は、外部の図示しないクラッチアクチュエータからリンク機構により推力を与えられてシフトするが、アクチュエータの故障も含めて、クラッチ可動部が動作不能になった場合の救済制御方法を以下に説明する。
【0019】
まず第1クラッチ16が動作不能になり、第1クラッチ16は中立位置から動かせない場合について示す。停車状態からの発進には二つの方法がある。
モータ発進の方法の態様が図2に示されている。第2クラッチ17を中立位置とし、固定クラッチ31を係合し、第4クラッチ24を第2変速ギア段20側にシフトした停車状態において、発電電動機29を電動機として付勢すると電動トルクはリングギア26から差動装置25に伝えられるが、接続ギア列30は固定されているので、差動装置25から第2中間軸15に回転力が伝わり、第2変速ギア段20を介して出力軸18に駆動力が現れて発進する。車速が上昇して第2中間軸15の回転数がエンジンのアイドル回転数以上になれば、第2クラッチ17を進行方向に合わせて前進/後進いずれかの方向に係合することができ、発電電動機29のトルクを0にして固定クラッチ31を開放すれば、図3に示すように2速エンジン走行に移行する。
【0020】
エンジン動力で発進する方法態様が図4に示されている。第2クラッチ17を前進/後進いずれかの方向に係合し、固定クラッチ31を開放し、第3クラッチ23を第1変速ギア段19側にシフトした停車状態においては、出力軸18は停止しているので接続ギア列30も停止しており、発電電動機29にはエンジン1のアイドル回転力が第2中間軸15及び差動装置25を経て伝えられている。エンジン1の出力を上昇させつつ発電電動機29の発電負荷を増加させると、発電トルクの反力が差動装置25を介して接続ギア列30に伝わり、さらに第1中間軸14及び第1変速ギア段19を介して出力軸18に出力されて発進する。車速が上昇して第1中間軸14の回転数が第2中間軸15の回転数に等しくなると、発電電動機29の回転数は0になり、発電はしないでエンジントルクの反力を受け持つだけの状態になる。発電電動機29の回転を逆転すると、発電電動機29は電動機として付勢されさらに車速が上昇する。
【0021】
1→2変速すべき車速に達したとき電動機の回転速度を調整して第2中間軸15の回転数を2速回転数に合わせると、図5のように第4クラッチ24を第2変速ギア段20側にシフトすることができる。発電電動機29のトルクを0にして第3クラッチ23を開放すれば、図3と同じく2速エンジン走行に移行する。
【0022】
図6は2速走行時に3速への変速準備状態を示す。2速エンジン走行時に第3クラッチ23を操作して第3変速ギア段21側にシフトしておく。これは発電電動機29により第3クラッチ23の回転数を第3変速ギア段21の回転数と合わせる同期制御を行うことで簡単にシフトすることができる。
【0023】
図7は図6の準備ができたところで発電トルクを増加させ、2速から3速へのアップシフト変速中の状態を示す。この状態では第1中間軸14の回転数は第2中間軸15の回転数より低いので、エンジン出力の一部が差動装置25を介して発電電動機29を回転させることで発電している。発電トルクの反力が差動装置25を介して接続ギア列30に伝わり、さらに第1中間軸14及び第3変速ギア段21を介して出力軸18に出力される。その分、エンジン1から第2変速ギア段20に伝わっていたトルクが減少する。
【0024】
さらに発電トルクを増大させ、エンジントルクの全部が差動装置25を伝わるようになると、図8に示すように第2変速ギア段20に伝わるトルクが0になり、第4クラッチ24を開放することができる。この状態ではエンジントルクの全部が差動装置25を伝わるものの、第1中間軸14の回転数は第2中間軸15の回転数より低いので、エンジン出力は第3変速ギア段21を介して車両を駆動すると共に、発電電動機29を駆動して電力を発生している。これが3速走行状態を示すものである。図8の状態から発電電動機29の回転数を0にすると発電出力は0になり、エンジン1の全出力が差動装置25を経て第3変速ギア段21から出力軸18に出力されるので3速走行状態になる。ただし、第1クラッチ16は係合できないので、エンジントルクを直接第3変速ギア段21に伝達することはできない。発電電動機29は全エンジントルクの反力だけを受け持っているが、回転していないので原理的にはパワー0の状態を保つ。
【0025】
図9は3速から4速へのアップシフトの途中段階を示す。図8の状態から発電電動機29の回転を反対方向に増加させると発電電動機29は電動機として動作し、エンジン出力と電動機出力の合計が第3変速ギア段21を介して車両を駆動することになる。
【0026】
車速が上昇して3→4変速すべき車速に達したとき、発電電動機29のトルクを調整して第2中間軸15の回転数を4速回転数に合わせると、第4クラッチ24を第4変速ギア段22側にシフトすることができる。発電電動機29のトルクを0にして第3クラッチ23を開放すれば、図10の4速エンジン走行に移行する。
【0027】
このように本実施例の方法によれば第1クラッチ16が係合不能になっても、発進から4速走行までほぼ通常に近い走行性能で走ることができる。
【実施例2】
【0028】
本発明の第2の実施例は第2クラッチ17が動作不能になった場合の救済制御方法である。第2クラッチ17は中立位置から動かせないものとする。停車状態からの発進は二つの方法がある。
図11はモータ発進の方法の態様を示している。第1クラッチ16を中立位置とし、固定クラッチ31を開放し、第3クラッチ23を第1変速ギア段19側にシフトし、第4クラッチ24を第4変速ギア段22側にシフトした停車状態において、発電電動機29を電動機として付勢すると電動トルクはリングギア26から差動装置25に伝えられて二つに分けられ、一方は接続ギア列30を介して第1中間軸14に、他方は第2中間軸15に回転力が伝わり、第1変速ギア段19及び第4変速ギア段22を介して出力軸18に駆動力が現れて発進する。車速が上昇して第1中間軸14の回転数がエンジンのアイドル時の回転数以上になれば、第1クラッチ16を進行方向に合わせて前進/後進いずれかの方向に係合することができ、発電電動機29のトルクを0にして第4クラッチ24を開放すれば、図12に示すように1速エンジン走行に移行する。
【0029】
図13はエンジン動力で発進する方法の態様を示している。第1クラッチ16を進行方向に合わせて前進/後進いずれかの方向に係合し、固定クラッチ31を開放し、第4クラッチ24を第2変速ギア段20側にシフトした停車状態においては、出力軸18は停止しているので第2中間軸15は停止しており、エンジン1のアイドル回転が第1中間軸14から接続ギア列30及び差動装置25を介して、発電電動機29に伝えられている。エンジン1の出力を上昇させつつ発電電動機29の発電負荷を増加させると、発電トルクの反力が差動装置25を介して第2中間軸15及び第2変速ギア段20を介して出力軸18に出力されて発進する。車速が上昇して第2中間軸15の回転数が第1中間軸14の回転数に等しくなると、発電電動機29の回転数は0になり、発電はしないでエンジントルクの反力を受け持つだけの状態になる。この状態が2速走行状態である。ただし、第2クラッチ17は係合できないので、エンジントルクを直接第2変速ギア段20に伝達することはできない。
【0030】
発電電動機29の回転を逆転すると、発電電動機29は電動機として付勢されさらに車速が上昇する。2→3変速すべき車速に達したとき電動機の回転速度を調整して第1中間軸14の回転数を3速回転数に合わせると、図14のように第3クラッチ23を第3変速ギア段21側にシフトすることができる。発電電動機29のトルクを0にして第4クラッチ24を開放すれば、図15に示す3速エンジン走行に移行する。
【0031】
図16は3速走行時に4速への変速準備状態を示す。3速エンジン走行時に第4クラッチ24を操作して第4変速ギア段22側にシフトしておく。これは発電電動機29により第4クラッチ24の回転数を第4変速ギア段22の回転数と合わせる同期制御を行うことで簡単にシフトすることができる。
【0032】
図16の準備ができたところで発電トルクを増加させ、3速から4速へのアップシフト変速中の状態を図17に示す。この状態では第2中間軸15の回転数は第1中間軸14の回転数より低いので、エンジン出力の一部が差動装置25を介して発電電動機29を回転させ発電している。発電トルクの反力が差動装置25を介して第2中間軸15及び第4変速ギア段22を介して出力軸18に出力される。その分、エンジンから第3変速ギア段21に伝わっていたトルクが減少する。
【0033】
さらに発電トルクを増大させ、エンジントルクの全部が差動装置25を伝わるようになると、図18に示すように第3変速ギア段21に伝わるトルクが0になり、第3クラッチ23を開放することができる。この状態ではエンジントルクの全部が差動装置25を伝わるものの、第2中間軸15の回転数は第1中間軸14の回転数より低いので、エンジン出力は第4変速ギア段22を介して車両を駆動すると共に、発電機を回して電力を発生している。図18の状態から発電電動機29の回転数を0にすると発電出力は0になり、エンジン1の全出力が差動装置25を経て第4変速ギア段22から出力軸18に出力されるので4速走行状態になる。ただし、第2クラッチ17は係合できないので、エンジントルクを直接第4変速ギア段22に伝達することはできない。発電電動機29は全エンジントルクの反力だけを受け持っているが、回転していないので原理的にはパワー0の状態を保つ。
【0034】
本実施例の方法によれば第2クラッチ17が係合不能になっても、3速まではほぼ通常に近い状態で走行でき、4速は発電電動機29のトルク及び回転数制御を用いて走行することができる。
【実施例3】
【0035】
本発明の第3の実施例は第3クラッチ23が係合不能になった場合の救済制御方法である。第3の実施例では、第3クラッチ23が中立位置から動かせないものとする。停車状態からの発進は図2に示した方法で行い、図3の2速走行までは実施例1と同じである。しかし第3クラッチが動作しないので3速へのアップシフトはできない。したがって、4速へのアップシフトを行うが、2速段と4速段は同じ第4クラッチ24で切り替えるため、一旦駆動力を中断して切り替える必要がある。
【0036】
図3の2速走行状態から固定クラッチ31を係合し、エンジン1のトルクを落として第4クラッチ24及び第2クラッチ17を中立位置に戻したのが図19である。この状態で発電電動機29の速度を制御して、第4クラッチ24を4速段ギア22の回転数に同期させると係合することができる。
【0037】
ここで第2クラッチ17を中立位置に戻してエンジン1を切り離した理由を説明する。試作した変速機の例では2速段ギア列20のギア比=1. 468、4速段ギア列22のギア比=0. 611としたので、図3の2速走行状態でエンジン回転数が最高値である2100rpmまで加速すると車速は約40km/hに達している。ここで第4クラッチ24を2速段から4速段に切替えると第2中間軸15の回転数は874rpmに低下するので、エンジン1を接続したままではエンジン1がアイドル回転数以下になってエンストする。かかるエンストを回避するため、第2クラッチ17を開放しておく必要がある。
【0038】
第4クラッチ24を4速段に係合したら図20に示すように、発電電動機29を付勢して4速モータ走行を行う。モータ駆動により時速55km/hまで加速すれば、第2中間軸15の回転数は1200rpmに上昇するので、エンジン1を接続することができ、発電電動機29の付勢を停止させれば図21の4速エンジン走行状態になる。
【0039】
本実施例の方法によれば、第3クラッチ23が係合不能になっても、2速発進から駆動力の中断による乗り心地の低下はあるものの4速まで走行することができる。3速で走行できない部分を4速モータ走行で補って4速エンジン走行に移行できるので、運行不能に陥ることがない。
【実施例4】
【0040】
本発明の第4の実施例は、第4クラッチ24が係合不能になった場合の救済制御方法である。第4の実施例では、第4クラッチ24は中立位置から動かせないものとする。停車状態からの発進は図4に示した方法で行い、車速が上昇して発電電動機29の回転数が0になり、第1クラッチ16が同期したら進行方向に合わせて前進/後進いずれかの方向に係合してモータトルクを0にすれば図22の1速エンジン走行状態となる。このとき次の変速に備えて第2クラッチ17を開放せず係合したままにしておく。
【0041】
前記試作変速機の場合、車速が上昇して40km/hに達するとエンジン回転数は上限の2100rpmに達するのでアップシフトする必要がある。エンジントルクを0にして第3クラッチ23及び第1クラッチ16を中立にし、発電電動機29の速度を制御して第3クラッチ23を第3変速段ギア21に同期させて係合する。エンジン1の出力を上昇させつつ発電電動機29の発電負荷を増加させると、図23に示すように発電トルクの反力が差動装置25を介して接続ギア列30から第1中間軸14及び第3変速ギア段21を介して出力軸18に出力されて加速する。前記試作変速機の例では第3変速ギア段21のギア比=1. 018なので、40km/hで第3クラッチ23を第3変速ギア段21に係合すると第1中間軸14の回転数は703rpmとなる。エンジン回転数を1200rpmとするなら、その回転差は差動装置25を介して発電電動機29を発電機として作動させる。車速が上昇して48km/hに達したとき発電電動機29の回転数を0にすると、第1クラッチ16の前進/後進いずれかの方向が同期状態になるので、これを係合してモータトルクを0にすると図24の3速エンジン走行状態になる。
【0042】
本実施例の方法によれば第4クラッチ24が係合不能になっても、駆動力の中断による乗り心地の低下はあるものの、3速まではアップシフトすることができるので運転休止を回避できる。
【0043】
本発明の各実施例においては、クラッチのアクチュエータなどの可動部分が故障した場合として説明したが、本発明は、タイミング等に起因した故障までには至らない一時的な作動不良に対しても適用可能である。例えば、所定の短い時間内にクラッチの作動が確認されない場合には直ちに当該クラッチを回避した駆動経路に自動的に切り換えて、あたかも正常に作動したのと同等の動作を行わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は軌条車両に適用する場合について説明したが、同様のアクティブシフト変速機を用いるハイブリッドシステムであれば軌条車両に限定されるものではなく、自動車に適用する場合にも同様に実施することができる。また、差動装置25についても、リングギア26、即ち、遊星ギアを支持するキャリアの外周に歯が刻まれたギアを備える例を挙げたが、差動装置は、これ以外にも、例えばプラネタリギアのキャリアと外輪としてのリングギアとを入力部とし、サンギアを出力部として、両入力部の回転数の差に応じた回転数で回転する回転部とする構造も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の制御に用いるアクティブ変速機の構成を示すスケルトン図。
【図2】本発明の第1実施例における第1の発進方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図3】本発明の第1実施例における2速エンジン走行方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図4】本発明の第1実施例における第2の発進方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図5】本発明の第1実施例における変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図6】本発明の第1実施例における2速から3速への変速準備状態を示すトルク伝達経路説明図。
【図7】本発明の第1実施例における2速から3速への変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図8】本発明の第1実施例における2速から3速への変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図9】本発明の第1実施例における3速から4速への変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図10】本発明の第1実施例における4速エンジン走行方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図11】本発明の第2実施例における第1の発進方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図12】本発明の第2実施例における1速エンジン走行方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図13】本発明の第2実施例における第2の発進方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図14】本発明の第2実施例における2速から3速への変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図15】本発明の第2実施例における3速エンジン走行方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図16】本発明の第2実施例における3速から4速への変速準備状態を示すトルク伝達経路説明図。
【図17】本発明の第2実施例における3速から4速への変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図18】本発明の第2実施例における3速から4速への変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図19】本発明の第3実施例における2速から4速への変速準備状態を示すトルク伝達経路説明図。
【図20】本発明の第3実施例における2速から4速への変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図21】本発明の第3実施例における4速エンジン走行方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図22】本発明の第4実施例における1速エンジン走行方法を示すトルク伝達経路説明図。
【図23】本発明の第4実施例における1速から3速への変速過程を示すトルク伝達経路説明図。
【図24】本発明の第4実施例における3速エンジン走行方法を示すトルク伝達経路説明図。
【符号の説明】
【0046】
1:エンジン、2:変速機、3:入力軸、4:前進用ギア列、5:後進用ギア列、14:第1中間軸、15:第2中間軸、16:第1クラッチ、17:第2クラッチ、18:出力軸、19〜22:変速ギア段、23〜24:変速用クラッチ、25:差動装置、26:リングギア、29:発電電動機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン、該エンジンの出力を入力する変速機、該変速機の出力軸により駆動される車輪より構成される車両の動力伝達システムにおいて、
前記変速機の入力軸と並列に設けられた第1中間軸及び第2中間軸、
前記入力軸と前記両中間軸との間に設けられて前記入力軸の回転を伝達する前進用ギア列及び後進用ギア列、
前記前進用ギア列又は前記後進用ギア列の回転を選択的に前記第1中間軸に伝達する第1クラッチ、
前記前進用ギア列又は前記後進用ギア列の回転を選択的に前記第2中間軸に伝達する第2クラッチ、
前記第1中間軸又は前記第2中間軸と前記出力軸との間に噛み合って設けられた複数組の変速ギア段、
前記第1中間軸又は前記第2中間軸の回転を選択的に前記複数組の変速ギア段に伝達する複数の変速用クラッチ、
前記第1中間軸及び前記第2中間軸に接続されると共に前記両中間軸の回転数の差に応じた回転数で回転する回転部を備えた差動装置、及び
前記差動装置の前記回転部に接続された発電電動機を備えるとともに、
前記第1クラッチ、前記第2クラッチ、複数の前記変速用クラッチのいずれか一つが係合不能に陥ったときには、前記エンジンの出力を正常な二つのクラッチと前記差動装置を介して前記出力軸に伝達する
ことを特徴とする車両用動力伝達システムの制御方法。
【請求項2】
請求項1記載の車両用動力伝達システムの制御方法において、
前記第1クラッチが係合不能に陥ったときには、前記第2クラッチを係合して前記エンジンの出力を前記第2中間軸に伝達するとともに、前記差動装置により前記第1中間軸に伝達される前記発電電動機のトルク反力を、前記第1中間軸に設けられた複数組の前記変速ギア段の一つを介して前記出力軸に伝達する
ことを特徴とする車両用動力伝達システムの制御方法。
【請求項3】
請求項1記載の車両用動力伝達システムの制御方法において、
前記第2クラッチが係合不能に陥ったときには、前記第1クラッチを係合して前記エンジンの出力を前記第1中間軸に伝達するとともに、前記差動装置により前記第2中間軸に伝達される前記発電電動機のトルク反力を、前記第2中間軸に設けられた複数組の前記変速ギア段の一つを介して前記出力軸に伝達する
ことを特徴とする車両用動力伝達システムの制御方法。
【請求項4】
請求項1記載の車両用動力伝達システムの制御方法において、
前記変速クラッチの一つが係合不能に陥ったときには、係合不能の当該変速クラッチが設置されている方の前記中間軸に設置されている前記第1クラッチ又は前記第2クラッチを係合して前記エンジンの出力を伝達するとともに、前記差動装置により前記発電電動機のトルク反力を、前記エンジンの出力が伝達されていない方の前記中間軸に設けられた複数組の前記変速ギア段の一つを介して前記出力軸に伝達する
ことを特徴とする車両用動力伝達システムの制御方法。
【請求項5】
請求項4記載の車両用動力伝達システムの制御方法において、
前記エンジンの出力が伝達されていない方の前記中間軸に設けられた前記第1クラッチ又は前記第2クラッチを係合して、前記エンジンの出力を前記両中間軸に伝達する
ことを特徴とする車両用動力伝達システムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−36354(P2009−36354A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203159(P2007−203159)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(590003825)北海道旅客鉄道株式会社 (94)
【出願人】(303025663)株式会社日立ニコトランスミッション (25)
【Fターム(参考)】