説明

ハイブリッド車両

【課題】ハイブリッド車両において遊星歯車機構のロック状態の誤判定を抑制する。
【解決手段】エンジンと、第1のモータジェネレータと、エンジンの出力軸と第1のモータジェネレータの入出力軸と車両駆動用動力出力軸とを接続する遊星歯車機構と、エンジンと第1モータジェネレータとの回転数を調整する制御部と、を備えるハイブリッド車両であって、制御部は、車両走行中に各軸の相対回転数差が遊星歯車機構のロック判定を行う閾値以下となった際に、その状態が所定時間以上継続しないようにエンジンまたは第1のモータジェネレータの回転数を変化させ、各軸の相対回転数差が前記閾値よりも大きくなるようにする回転数変化手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両の制御に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両は、エンジンとモータジェネレータの2種類の動力源を組み合わせて走行するものであり、エンジンの動力を動力分配統合機構により分割し、一方の動力で直接車輪を駆動、他方の動力でモータジェネレータを回しては発電し、その発電電力を二次電池に蓄電する。そして、高トルクが必要な場合に、二次電池からの出力によるモータジェネレータの動力とエンジンからの動力との双方の動力を動力分配統合機構により統合して車両駆動軸に出力させるものが多く用いられている。また、動力分配統合機構は、エンジンの出力軸とモータジェネレータの入出力軸と車両駆動用動力出力軸との3軸が遊星歯車機構によって接続され、3軸のうちのいずれかの2軸に入出力される動力に基づいて残余の軸に動力を入出力する3軸式のものが多く用いられている。
【0003】
遊星歯車機構は、サンギヤ、ピニオンギヤ、ピニオンギヤの公転運動を拾うプラネタリキャリヤ、リングギヤから構成され、サンギヤを中心として、複数のピニオンギヤが自転しつつ公転する構造を持った減速(増速)機構である。そして、サンギヤの回転、キャリヤの回転、リングギヤの回転の三つの要素の内、一つを固定、一つを入力、一つを出力に接続する。そして、それぞれのどれを入出力・固定に割り当てるかによって、一つのユニットで複数の減速比や回転方向の切り替えが可能となるものである。
【0004】
一方、遊星歯車機構の各ギヤは潤滑油によって潤滑されているが、潤滑不良に陥ると、ギヤが焼きつきを起こしてしまいロック状態となる場合がある。この場合、焼きつきによってピニオンギヤが自転できなくなるため、遊星歯車装置に接続されているエンジンの出力軸とモータジェネレータの入出力軸と車両駆動用動力出力軸との3軸が同期速度で回転してしまいエンジンを目標とするポイントで運転できなくなるという問題が発生する場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
ところが、ハイブリッド車両は、常に最適の運転状態となるように、エンジン、モータジェネレータの回転数を調整していることから、通常の運転状態においてもエンジンの出力軸とモータジェネレータの入出力軸と車両駆動用動力出力軸との3軸が同期速度で回転する場合があるので、3軸が同期速度となったことで遊星歯車機構がロック状態に陥ったと判断すると、ロック状態に陥っていないにもかかわらずロック状態と判定してしまう場合があるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−210459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、遊星歯車機構がロック状態となった場合には、エンジンが負荷運転状態と無負荷運転状態とを繰り返すことから、特許文献1では、遊星歯車機構に接続されている3軸の回転数が略同期回転数で、エンジンの負荷運転状態と無負荷運転状態との切り替え回数が所定の回数以上となった際にギヤのロックが発生したと判定する方法が提案されている。
【0008】
ところが、特許文献1に記載されている従来技術では、遊星歯車機構に接続されている3軸の回転数が略同期回転数となった後、エンジンの負荷運転状態と無負荷運転状態との切り替え回数が所定の回数以上となるまで待ってからロック状態を判定することから、ロック状態の判定に時間がかかるという問題があった。このため、ハイブリッド車両では、遊星歯車機構に接続されている3軸の回転数が略同期回転数であること、車速が所定値以下であること、および、3軸の回転数が略同期回転数の状態の持続時間に基づいて遊星歯車機構のロック判定を行うものが多く、ロック状態に陥っていないにもかかわらずロック状態と誤判定してしまうという問題は解決されていなかった。
【0009】
本発明は、ハイブリッド車両において遊星歯車機構のロック状態の誤判定を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のハイブリッド車両は、エンジンと、第1のモータジェネレータと、エンジンの出力軸と第1のモータジェネレータの入出力軸と車両駆動用動力出力軸とを接続する遊星歯車機構と、エンジンと第1モータジェネレータとの回転数を調整する制御部と、を備えるハイブリッド車両であって、制御部は、車両走行中に各軸の相対回転数差が遊星歯車機構のロック判定を行う閾値以下となった際に、各軸の相対回転数差が前記閾値よりも大きくなるように、エンジンまたは第1のモータジェネレータの回転数を変化させる回転数変化手段を備えること、を特徴とする。
【0011】
本発明のハイブリッド車両において、回転数変化手段は、各軸の回転数差が前記閾値以下となっている時間が所定時間以内となるようにエンジンまたは第1のモータジェネレータの回転数を変化させること、としても好適であるし、制御部は、モータジェネレータの使用可否を判断するモータジェネレータ使用可否判定手段を備え、回転変化手段は、モータジェネレータ使用可否判定手段によって第1のモータジェネレータが使用不可と判定された際に、エンジンの回転数を変化させること、としても好適である。
【0012】
また、本発明のハイブリッド車両において、車両駆動用動力出力軸に接続される第2のモータジェネレータを備え、制御部は、エンジンと第2のモータジェネレータとの出力により車両を走行させるハイブリッド走行からエンジンを停止させて第2のモータジェネレータの出力により車両を走行させる電動走行に移行するためにエンジン回転数を低下させている間に、各軸の相対回転数差が遊星歯車機構のロック判定を行う前記閾値以下となった場合、各軸の相対回転数差が前記閾値よりも大きくなるように、一旦、エンジンの回転数を上昇させた後にエンジンを停止させて電動走行に移行する電動走行移行手段を有すること、としても好適である。また、この場合、第1のモータジェネレータの回転数を上昇させた後にエンジンを停止させて電動走行に移行する電動走行移行手段を有すること、としても好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ハイブリッド車両において遊星歯車機構のロック状態の誤判定を抑制することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の構成を示す系統図である。
【図2】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の動作を示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の動作を示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の動作の際の共線図である。
【図5】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の動作の際の共線図である。
【図6】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の動作の際の共線図である。
【図7】本発明の実施形態におけるハイブリッド車両の動作の際の共線図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。図1に示すように、本実施形態のハイブリッド車両20は、エンジン22と、エンジン22の出力軸としてのクランクシャフト26にダンパ28を介して接続された3軸式の遊星歯車機構30と、遊星歯車機構30に接続された発電可能な第1モータジェネレータ41と、遊星歯車機構30に接続された車両駆動用動力出力軸としてのリングギヤ軸32aに取り付けられた減速ギヤ35と、この減速ギヤ35に接続された第2モータジェネレータ42と、動力出力装置全体をコントロールする制御部であるハイブリッド用電子制御ユニット70とを備える。
【0016】
エンジン22は、その内部に設けられたクランクポジションセンサ23等の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)24により燃料噴射、点火、吸入空気量等を制御されている。エンジンECU24は、ハイブリッド用電子制御ユニット70と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によりエンジン22を運転制御すると共に必要に応じてエンジン22の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0017】
遊星歯車機構30は、外歯歯車のサンギヤ31と、このサンギヤ31と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31に噛合すると共にリングギヤ32に噛み合う複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するプラネタリキャリヤ34とを備え、サンギヤ31とリングギヤ32とプラネタリキャリヤ34とを回転要素として差動作用を行なうものである。遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34にはエンジン22のクランクシャフト26が、サンギヤ31には第1モータジェネレータ41が、リングギヤ32にはリングギヤ軸32aがそれぞれ接続され、リングギヤ軸32aは減速ギヤ35を介して第2モータジェネレータ42が接続されている。第1モータジェネレータ41が発電機として機能するときにはプラネタリキャリヤ34から入力されるエンジン22からの動力をサンギヤ31側とリングギヤ32側にそのギヤ比に応じて分配し、第1モータジェネレータ41が電動機として機能するときにはサンギヤ31から入力される第1モータジェネレータ41からの動力とプラネタリキャリヤ34から入力されるエンジン22からの動力とを統合してリングギヤ32からリングギヤ軸32aに出力する。リングギヤ軸32aに出力された動力は、リングギヤ軸32aからギヤ機構60およびデファレンシャルギヤ62を介して、最終的には車両の駆動輪63a,63bに出力される。第2モータジェネレータ42が電動機として機能する場合には、第2モータジェネレータ42の動力は減速ギヤ35を介して直接リングギヤ軸32aに出力され、エンジン22から出力された動力と統合されてギヤ機構60から駆動輪63a,63bに出力される。ハイブリッド車両20が減速する際には、第2モータジェネレータを発電機として機能させ、駆動輪63a,63bからギヤ機構60を介して入力された動力によって発電し、その電力によってバッテリ50を充電する。また、エンジン22から出力される動力により図示しないオイルポンプドライブシャフトを介して図示しないオイルポンプを駆動することにより、遊星歯車機構30に潤滑オイルが供給される。
【0018】
第1モータジェネレータ41および第2モータジェネレータ42は、いずれも発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる同期発電電動機であり、インバータ43,44を介してバッテリ50と電力の授受を行なう。インバータ43,44とバッテリ50とを接続する電力ライン54は、各インバータ43,44が共用する正極母線および負極母線として構成されており、第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42のいずれかで発電される電力を他のモータジェネレータで消費することができるように構成されている。したがって、バッテリ50は、第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42のいずれかから生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42により電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリ50は充放電されない。第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42は、いずれもモータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)40により駆動制御されている。モータECU40には、第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42を駆動制御するために必要な信号、例えば第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42の回転数を検出する回転数センサ45,46からの信号やリングギヤ軸32aの回転数を検出する回転数センサ47、図示しない電流センサにより検出される第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42に印加される相電流などが入力されており、モータECU40からは、インバータ43,44へのスイッチング制御信号が出力されている。モータECU40は、ハイブリッド用電子制御ユニット70に接続されており、ハイブリッド用電子制御ユニット70からの制御信号によって第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42を駆動制御すると共に必要に応じて第1モータジェネレータ41,第2モータジェネレータ42の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。
【0019】
バッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)52によって管理されている。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な信号、例えば、バッテリ50の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ50の出力端子に接続された電力ライン54に取り付けられた電流センサ53からの充放電電流,バッテリ50に取り付けられた温度センサ51からの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリ50の状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット70に出力する。なお、バッテリECU52では、バッテリ50を管理するために電流センサ53により検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
【0020】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、CPU72を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU72の他に処理プログラムを記憶するROM74と、データを一時的に記憶するRAM76と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット70には、イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号,シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP,アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ88からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。ハイブリッド用電子制御ユニット70は、前述したように、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU24やモータECU40,バッテリECU52と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット70はダイアグ装置90に接続されており、ハイブリッド車両20の各部のデータを蓄積、送信することができるよう構成されている。
【0021】
こうして構成された本実施形態のハイブリッド車両20は、運転者によるアクセルペダル83の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて駆動軸としてのリングギヤ軸32aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸32aに出力されるように、エンジン22と第1モータジェネレータ41と第2モータジェネレータ42とが運転制御される。エンジン22と第1モータジェネレータ41と第2モータジェネレータ42の運転制御としては、エンジン22と各モータジェネレータ41,42を協調して制御して走行する通常運転モードの他に、エンジン22の運転を停止して第2モータジェネレータ42から要求動力に見合う動力をリングギヤ軸32aに出力して走行するモータ走行モードや、第1、第2モータジェネレータ41,42が異常の際にエンジン22の出力のみで走行する直行走行モード、バッテリ50からの充放電が禁止された際にバッテリ50を切り離し、エンジン22から出力される動力で一方のモータジェネレータを使って発電し、その発電電力をそのまま他の一方のモータジェネレータに供給して走行するバッテリレス走行モードなどの走行モードがある。
【0022】
次に、このように構成された実施例のハイブリッド車両20において、車両走行中に共線図が水平となった際の動作について図2から図7を参照して説明する。まず、図4を参照しながら、ハイブリッド車両20が始動してから、共線図が水平となるような走行状態となるまでの動作について説明する。なお、共線図が水平となるような動作状態は図4を参照して説明する以外にもさまざまな状態が考えられるので、以下の説明はその一例を示すものである。ここで、共線図とは、遊星歯車機構30のプラネタリキャリヤ34に接続されたエンジン22の回転数Ne(rpm)、サンギヤ31に接続された第1モータジェネレータ41の回転数Ng(rpm)、リングギヤ32に接続されたリングギヤ軸32aの回転数Np(rpm)をそれぞれ縦軸にとり、各縦軸の間隔をサンギヤ31とリングギヤ32とのギヤ比ρとなるように配置したもので、プラネタリキャリヤ34に接続されたエンジン22の回転数Ne(rpm)、サンギヤ31に接続された第1モータジェネレータ41の回転数Ng(rpm)、リングギヤ32に接続されたリングギヤ軸32aの回転数Np(rpm)は共線図上で常に直線となる。従って、共線図が水平とは、回転数Ng,Ne,Npがすべて同一で各回転軸が同期して回転している状態をいう。また、本実施形態のハイブリッド車両20では、第2モータジェネレータ42はリングギヤ軸32aと減速ギヤ35を介して接続されているので、第2モータジェネレータ42の回転数はリングギヤ軸32aの回転数Npに減速ギヤ35の減速比Grを掛けたものとなる。
【0023】
図4に示すように、ハイブリッド車両20が停止している状態では、エンジン22、第1モータジェネレータ41、第2モータジェネレータ42は停止している。また、バッテリ50は十分に充電されている状態となっている。このときの共線図は図4の線aに示すように、回転数ゼロの水平状態となっている。
【0024】
運転者がハイブリッド車両20に搭乗してシフトレバー81をドライブ位置にするとその位置はシフトポジションセンサ82によって検出されハイブリッド用電子制御ユニット70に入力される。そして、運転者がアクセルペダル83を踏み込むと、アクセルペダルポジションセンサ84によりアクセルポジションが検出されハイブリッド用電子制御ユニット70に入力される。ハイブリッド用電子制御ユニット70はこれらの信号から、ハイブリッド車両20を始動させるよう第2モータジェネレータ42の回転数、トルクを上昇させる指令を出力する。第2モータジェネレータ42の回転数が上昇すると第2モータジェネレータ42と減速ギヤ35を介して接続されているリングギヤ軸32aの回転数Npが上昇し、駆動輪63a,63bが始動してハイブリッド車両20が走行を開始する。この始動の際にはエンジン22を停止したままである。
【0025】
ハイブリッド車両20が始動し、第2モータジェネレータ42の回転数が上昇し、ハイブリッド車両が加速していくとリングギヤ軸32aの回転数Npは図4に示すNp1となる。エンジン22は停止しているのでその回転数NeはゼロのNe0のままなので、第1モータジェネレータ41の回転数Ngは共線図上でリングギヤ軸32aの回転数Np1とエンジン22の回転数Ne0で決定される直線と第1モータジェネレータ41の回転数を示す縦軸との交点であるNg1となる。そして共線図は始動前の線aから図4の二点鎖線a1に示すようなNe=0を通る右上がりの直線に移行する。このように共線図上では、各軸の回転数は1つ直線の上にのってくるので、いずれか2つの軸の回転数が決まると、他の軸は共線図から決定される。
【0026】
その後、さらに運転者がアクセルペダル83を踏み込むと、ハイブリッド用電子制御ユニット70は加速のためにより大きい駆動力が必要であると判断し、エンジン22の始動指令を出力する。この指令によって、モータECU40は第1モータジェネレータ41の回転数Ngを図4の線bに示すように、エンジン22の回転方向と同方向でリングギヤ軸32aの回転数Np1よりも大きい回転数Ng11まで急速に上昇させる。エンジン22の回転数Neは、リングギヤ軸32aの回転数Np1を梃子の中心として第1モータジェネレータ41の回転数の上昇に従って上昇し、エンジン22は第1モータジェネレータ41によってクランキングされる。そして、エンジン22は、燃料の吸入、着火により始動し、その後エンジン22の回転数Neは自立回転可能回転数まで達した後、加速に必要なトルク出力を効率よく出力できる回転数Ne1まで上昇する。第1モータジェネレータ41、エンジン22はそれぞれリングギヤ軸32aの回転数Np1よりも低い回転数から回転数Np1よりも高い回転数Ng11、Ne1まで上昇するので、その回転数上昇の途中で第1モータジェネレータ41の回転数Ngとリングギヤ軸32aの回転数Npとエンジン22の回転数Neとが等しく、共線図が水平となる状態を通過する。
【0027】
エンジン22の始動は短時間で行われるので、エンジン22の始動中のハイブリッド車両20の速度はほとんど変化せず、リングギヤ軸32aの回転数NpはNp1のままほとんど変化しない。そして、エンジン22の始動が終了したら、エンジン22の出力と第2モータジェネレータ42からの出力によってハイブリッド車両20は加速され、次第にリングギヤ軸32aの回転数Npが上昇していく。この際、エンジンの回転数Neは、エンジン22の出力、燃費を考慮した最適の回転数Ne1に固定されるので、リングギヤ軸32aの回転数Npと第1モータジェネレータ41の回転数Ngとは図4に示す共線図上でエンジン22の回転数Ne1を中心とした梃子の関係となる。このため、ハイブリッド車両20の加速によってリングギヤ軸32aの回転数Npが上昇すると、反対に第1モータジェネレータ41の回転数Ngは低下してくる。そして、図4の一点鎖線cに示すように、リングギヤ軸32aの回転数Npがエンジン22の回転数Ne1と同様の回転数Np2となると、第1モータジェネレータ41の回転数Neもエンジン22の回転数Ne1と同一の回転数Ng2となり、共線図が水平となる。この様に共線図が水平状態となった運転状態では、サンギヤ31の回転数とリングギヤ32の回転数とが同一回転数となるので、サンギヤ31とリングギヤ32とに噛み合っているピニオンギヤ33の公転速度と自転速度とが同一となり、ピニオンギヤ33はサンギヤ31、リングギヤ32に対して静止した状態となる。
【0028】
そして、運転者がアクセルペダル83の踏み込みを続けると、ハイブリッド車両20はさらに加速し、リングギヤ軸32aの回転数NpはNp3まで上昇し、逆に第1モータジェネレータの回転数はNg2からNg3に低下する。そして、サンギヤ31、リングギヤ32に対して静止した状態となっていたピニオンギヤ33は静止前とは逆方向に回転を開始する。そして、共線図は、図4の点線dで示すようにエンジン回転数Ne1を通り、第1モータジェネレータ41の回転数Ng1とリングギヤ軸32aの回転数Np3とを結ぶ右上がりの直線となる。この状態を保つように運転者がアクセルペダル83の踏み込みを緩めると、ハイブリッド車両20は定常走行となる。
【0029】
以上説明した走行では、ハイブリッド車両20は始動してから加速し、定常走行に入るまでの間に共線図が水平となる状態を2回通過する。エンジン22始動の際は第1モータジェネレータ41、エンジン22の各回転数Ng,Neの変化が大きいため、共線図が水平状態のまま保持される可能性はほとんどないが、エンジン起動後に定常状態に移行するまでの間は、運転者のアクセルペダル83の踏み込み状態によっては、共線図が水平状態を保持し、遊星歯車機構30がロックしたと判定される可能性がある。
【0030】
図2、図5を参照しながら、通常運転を行っている状態で共線図が水平状態となった場合の動作について説明する。図2のステップS101に示すように、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、ハイブリッド車両20の走行モードが先に説明したような通常走行モードまたは、直行走行モードであるか、バッテリレス走行モードであるかを判断する。これらの走行モードはいずれも電動走行モードではない走行モードである。そして、ハイブリッド車両20がこのような走行モードで走行している場合には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS102に示すように回転数センサ45の信号から第1モータジェネレータ41の回転数Ngを取得し、回転数センサ47の信号からリングギヤ軸32aの回転数Npを取得し、図2のステップS103に示すように、その差の絶対値を計算して、その回転数差Dが所定の閾値A以下であるかどうかを判断する。ここで、所定の閾値Aは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は遊星歯車機構30がロックしていると判定する回転数と同一の回転数差としてもよいし、これよりも大きな回転数としてもよく、たとえば、50rpm程度の値としてもよい。
【0031】
上記の回転数差Dが所定の閾値Aよりも小さい場合、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS104に示すように、回転数差Dが所定の閾値Aよりも小さくなっている時間をカウントし、その時間が所定の時間tを越えたかどうかを判断する。所定の時間tは、ハイブリッド用電子制御ユニット70の遊星歯車機構30がロックしていると判定する共線図の水平状態持続時間よりも短い時間であればよい。たとえば、ハイブリッド用電子制御ユニット70が共線図の水平状態が3秒間継続すると遊星歯車機構30にロックが発生したと判定するように設定されている場合には、所定の時間tは1秒程度に設定してもよい。そして、回転数差Dが所定の閾値Aよりも小さくなっている時間が所定の時間tを越えた場合には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS105に示すように、第1モータジェネレータ41の回転数Ngを変化させる処理を行う。処理の詳細については後で説明する。また、回転数差Dが所定の閾値Aよりも小さくなっている時間が所定の時間tに達しない場合には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は図2に示すステップS102に戻って第1モータジェネレータ41の回転数Ng、リングギヤ軸32aの回転数Npを取得し、回転数差Dを計算する。
【0032】
図5に示す一点鎖線cに示すように共線図が水平となった状態で、第1モータジェネレータ41の回転数Ng2と、エンジン22の回転数Ne1と、リングギヤ軸32aの回転数Np2とが略同一の回転数で、回転数Ng2と回転数Np2との回転数差が所定の閾値Aよりも小さい状態が所定時間tを超えて継続している場合、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図5に示すように第1モータジェネレータ41のトルク指令値Tm*1を増加または減少させる。すると、トルクと回転数とのバランスが崩れ、第1モータジェネレータ41の回転数Ngとリングギヤ軸32aの回転数Npはエンジン22の回転数Ne1を中心とした梃子の関係に従って変化する。たとえば、第1モータジェネレータ41の回転数Ngを減少させるとリングギヤ軸32aの回転数Npは上昇し、逆に第1モータジェネレータ41の回転数Ngを増加させるとリングギヤ軸32aの回転数Npは低下する。つまり、第1モータジェネレータ41の回転数Ngを回転数Ng2から増加または減少させるとそれに伴ってリングギヤ軸32aの回転数Npは減少または増加し、いずれの回転数Ng,Npもエンジン22の回転数Ne1と異なる回転数Ng21、Ng22およびNp21、Np22に移行し、共線図は図5の一点鎖線cから二点鎖線c1または二点鎖線c2に移行し、共線図の水平状態は解消される。この際、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、回転数Ng21と回転数Np21との回転数差D1または、回転数Ng22と回転数Np22との回転数差D2が所定の閾値Aよりも大きくなるように第1モータジェネレータ41のトルク指令値Tm*1を増加または減少させる。たとえば、回転数差D1またはD2によって指令値Tm*1に対してのフィードバックをかけることとしてもよい。
【0033】
ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS105に示すように、第1モータジェネレータ41の回転数Ngを増減する第1モータジェネレータ回転数変化処理をしたら、再度ステップS102に戻って第1モータジェネレータ41の回転数Ngとリングギヤ軸32aの回転数Npとを各センサ45,47から取得し、図4のステップS103に示すように回転数差Dを計算してその回転数差Dが所定の閾値Aよりも小さくなっているかどうかを判定する。そして、回転数差Dが所定の閾値Aよりも大きくなっている場合には、共線図が水平状態となった場合の処理を終了する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態によるハイブリッド車両20は、通常走行において共線図が水平となる状態となった場合でも、遊星歯車機構30のロックと判断される前に共線図を水平状態から変化させることで、遊星歯車機構30のロックの誤判断を抑制することができるという効果を奏する。なお、実際に遊星歯車機構30のロックが発生した場合には、本実施形態で説明したように第1モータジェネレータ41の回転数Ngを変化させることができないため所定の時間tの間に共線図の水平状態を解除できずにロック判定される。このため、本実施形態は、実際のロック判定動作を阻害することはない。
【0035】
また、以上説明した実施形態では、共線図が水平状態となっているかどうかの判断を第1モータジェネレータ41の回転数Ngとリングギヤ軸32aの回転数Npとによって行うこととして説明したが、この判断は、第1モータジェネレータ41の回転数Ngとエンジン22の回転数Neとによって行ってもよいし、エンジン22の回転数Neとリングギヤ軸32aの回転数Npとによって行うようにしてもよい。
【0036】
一方、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS101でハイブリッド車両20の走行モードが通常走行モードまたは、直行走行モードまたは、バッテリレス走行モードのいずれでもない走行モードとなっていると判断した場合には、ハイブリッド車両20は図2のステップS106に示すように、電動走行モードへの移行中であるかどうかを判断する。そして、ハイブリッド車両20の走行状態が電動走行モードへの移行途中であると判断した場合、図2のステップS107に示すように、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、電動走行モードへの移行原因として第1モータジェネレータ41あるいは第1モータジェネレータ41の回転数センサ45の故障、その他第1モータジェネレータ41を制御することが困難な状態に陥ったために、第2モータジェネレータ42の動力によってハイブリッド車両20を走行させる電動走行モードに移行している状態にあるかどうかを判断する。そして、第1モータジェネレータ41が制御困難な状態で電動走行モードに移行中であると判断した場合には、図2のステップS108以下の動作を行う。
【0037】
ここで、ステップS108以下の動作について説明する前に、回転数センサ45の異常によって第1モータジェネレータ41が制御困難な状態となって通常走行モードから電動走行モードに移行する際の第1モータジェネレータ41、エンジン22、リングギヤ軸32aの各回転数Ng,Ne,Npの変化について説明する。
【0038】
図6に示すように、ハイブリッド車両20が高速で走行している場合、第2モータジェネレータ42は電動機として機能し、その動力は減速ギヤ35を介して直接、リングギヤ軸32aに出力され、エンジン22から出力された動力と統合されてギヤ機構60から駆動輪63a,63bに出力される。リングギヤ軸32aの回転数Npは、ハイブリッド車両20が高速で走行しているので、先に説明した通常走行の際の回転数Np3よりも大きいNp5となっている。また、エンジン22の回転数Neは、高速走行に必要なトルクを出力するために最適となる回転数Ne5となっている。この回転数Ne5も通常走行モードの際のエンジン22の回転数Ne1よりも大きくなっている。ここで、リングギヤ軸32aの回転数Ne5は、エンジン22の回転数Ne5よりも大きい。そして、第1モータジェネレータ41の回転数Ngは、リングギヤ軸32aの回転数Np5,エンジン22の回転数Ne5を結んだ直線と第1モータジェネレータ41の回転数Ngの軸との交点のNg5となり、共線図は図6の線eに示すように右上がりの直線となる。
【0039】
このような高速走行状態で、回転数センサ45に異常が発生すると、その異常信号はモータECU40からハイブリッド用電子制御ユニット70に伝達され、ハイブリッド用電子制御ユニット70は第1モータジェネレータ41の制御が困難な状態となったと判断し、エンジン22を停止させて電動走行モードに移行する指令を出力する。この指令によって、エンジンECU24はエンジン22を停止させるよう、燃料の遮断等を行う。
【0040】
図6に示すように、エンジン22の停止動作が開始されると、エンジン22の回転数Neは高速走行の際の回転数Ne5からゼロに向かって低下を開始する。一方、運転者には第1モータジェネレータ41が制御困難となったことを知らせる警告ランプの点灯あるいは音声による警告アナウンスがされ、退避走行が指示される。そして、これに気づいた運転者がブレーキペダル85を踏み込んで、ハイブリッド車両20を減速させるとハイブリッド車両20の速度は急速に低下してくる。高速走行状態ではエンジン22の回転数Neはかなり高くなっていることから、燃料を遮断してエンジン22を停止しようとしても停止までに時間がかかる。このため、高速運転状態ではエンジン22の回転数Neよりも高い回転数であったリングギヤ軸32aの回転数Npのほうが回転数の低下速度が大きくなる場合がある。このため、高速運転状態でエンジン22を停止すると共に、運転者がブレーキペダル85を踏んでハイブリッド車両20を減速させた場合には、各回転数Ne,Npが低下している際にリングギヤ軸32aの回転数Npがエンジン回転数Neに追いついてしまい、リングギヤ軸32aの回転数Npとエンジン回転数Neとが略同一の回転数Np6,回転数Ne6となってしまう場合がある。リングギヤ軸32aの回転数Npと第1モータジェネレータ41の回転数Ngとは図6に示す共線図上で、常に直線上に乗る関係となるので、リングギヤ軸32aの回転数Npとエンジン回転数Neとが略同一の回転数Np6,回転数Ne6となると、第1モータジェネレータ41の回転数Ngもリングギヤ軸32aの回転数Np6、エンジン回転数Ne6と略同一の回転数Ng6となり、図6の一点鎖線fに示すように共線図が水平となる。この様に共線図が水平状態となった運転状態では、サンギヤ31の回転数とリングギヤ32の回転数とが同一回転数となるので、サンギヤ31とリングギヤ32とに噛み合っているピニオンギヤ33の公転速度と自転速度とが同一となり、ピニオンギヤ33はサンギヤ31、リングギヤ32に対して静止した状態となる。
【0041】
その後、運転者がブレーキペダル85の踏み込みをやめると、リングギヤ軸32aの回転数はNp7となり、エンジン22は停止してその回転数はゼロととなり、第1モータジェネレータ41の回転数Ngは第2モータジェネレータ42の回転と方向が逆方向の回転数Ng7となり、図6の点線gで示すように、共線図はエンジン22の回転数ゼロを通る右上がりの直線となる。以上説明したように、ハイブリッド車両20は高速走行状態で第1モータジェネレータ41の制御が困難な状態となってエンジン22を停止して退避の電動走行モードに移行する間に共線図が水平となる状態を通過することとなる。そして、この状態は運転者のブレーキペダル85の踏み込み状態等によっては保持されてしまい、ハイブリッド用電子制御ユニット70によって遊星歯車機構30がロックしたと判定される可能性がある。
【0042】
図7を参照しながら、上記のように共線図が水平となった際の動作について説明する。ハイブリッド車両20が上記のように電動走行モードに移行中である場合、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS108に示すようにクランクポジションセンサ23からの信号に基づいてエンジン22の回転数Neを取得するとともに、回転数センサ47の信号からリングギヤ軸32aの回転数Npを取得し、図2のステップS109に示すように、その差の絶対値を計算して、その回転数差Eが所定の閾値A以下であるかどうかを判断する。ここで、所定の閾値Aは、ハイブリッド用電子制御ユニット70は遊星歯車機構30がロックしていると判定する回転数と同一の回転数差としてもよいし、これよりも大きな回転数としてもよく、たとえば、50rpm程度の値としてもよい。
【0043】
上記の回転数差Eが所定の閾値Aよりも小さい場合、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS110に示すように、回転数差Eが所定の閾値Aよりも小さくなっている時間をカウントし、その時間が所定の時間tを越えたかどうかを判断する。所定の時間tは、ハイブリッド用電子制御ユニット70の遊星歯車機構30がロックしていると判定する共線図の水平状態持続時間よりも短い時間であればよい。たとえば、ハイブリッド用電子制御ユニット70が共線図の水平状態が3秒間継続すると遊星歯車機構30にロックが発生したと判定するように設定されている場合には、所定の時間tは1秒程度に設定してもよい。そして、回転数差Eが所定の閾値Aよりも小さくなっている時間が所定の時間tを越えた場合には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS112に示すように、エンジン22の回転数Neを一時的に増加させる処理を行う。
処理の詳細については後で説明する。また、回転数差Eが所定の閾値Aよりも小さくなっている時間が所定の時間tに達しない場合には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は図2に示すステップS108に戻ってエンジン22の回転数Ne、リングギヤ軸32aの回転数Npを取得し、回転数差Eを計算する。
【0044】
図2のステップS112に示すエンジン回転数一時増加処理について説明する。図7の一点鎖線fに示すように、各回転数Ng6,Ne6,Np6が略同一回転数の状態において、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、エンジン22の出力指令値を少し大きくする指令を出力する。この指令によってエンジンECU24は、エンジン22の出力を一時的に増大させてエンジン22の回転数Neを共線図が水平となる回転数Ne6から所定の回転数だけ大きな回転数Ne61となるようにする。この間、ハイブリッド車両20の速度は略一定に保たれるので、リングギヤ軸32aの回転数はNp6に保持される。第1モータジェネレータ41の回転数Ngは、リングギヤ軸32aの回転数Np6とエンジン22の回転数Np61を結ぶ直線と第1モータジェネレータ41の回転数Ngの軸との交点の回転数Ng61となり、図7の一点鎖線f1に示すように、共線図は左上がりの直線に移行し、共線図の水平状態は一端解除される。
【0045】
そして、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、再度図2のステップS108に示すように、エンジン22の回転数Neとリングギヤ軸32aの回転数Npを取得し、図2のステップS109に示すように、その差の絶対値を計算して、その回転数差Eが所定の閾値A以下であるかどうかを判断する。そして、エンジン回転数一時増加処理によってその回転数差Eが閾値Aよりも大きくなっている場合には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS113に示すように、エンジン停止処理を継続する。そしてハイブリッド用電子制御ユニット70は、図2のステップS114に示すように、エンジン22が停止した場合には、共線図が水平状態となった場合の処理を終了する。エンジン22が停止すると、エンジン22の回転数はゼロとなり、リングギヤ軸32aの回転数は退避走行の速度に応じた回転数Np7となり、第1モータジェネレータ41の回転数はNg7となる。
【0046】
一方、図2のステップS107で、第1モータジェネレータ41が正常で電動走行モードへの移行している場合には、図3のステップS115に示すように、先に説明した動作と同様、エンジン22の回転数Neとリングギヤ軸32aの回転数Npを取得し、図3のステップS116に示すように、その差の絶対値を計算して、その回転数差Eが所定の閾値A以下であるかどうかを判断する。
【0047】
上記の回転数差Eが所定の閾値Aよりも小さい場合、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、先に説明した動作と同様、図3のステップS117に示すように、回転数差Eが所定の閾値Aよりも小さくなっている時間をカウントし、その時間が所定の時間tを越えたかどうかを判断する。そして、回転数差Eが所定の閾値Aよりも小さくなっている時間が所定の時間tを越えた場合には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図3のステップS118に示すように、第1モータジェネレータ41の回転数Neを一時的に増加させる処理を行う。
【0048】
図7の一点鎖線fに示すように、各回転数Ng6,Ne6,Np6が略同一回転数の状態において、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、第1モータジェネレータ41のトルク指令値を少し大きくする指令を出力する。この指令によってモータECU40は、トルクを一時的増大させて第1モータジェネレータ41回転数Ngを共線図が水平となる回転数Ng6から所定の回転数だけ大きな回転数Ng61となるようにする。この間、ハイブリッド車両20の速度は略一定に保たれるので、リングギヤ軸32aの回転数はNp6に保持される。エンジン22の回転数Neは、リングギヤ軸32aの回転数Np6と第1モータジェネレータ41の回転数Ng61を結ぶ直線とエンジン22の回転数Neの軸との交点の回転数Ne61となり、図7の一点鎖線f1に示すように、共線図は左上がりの直線に移行し、共線図の水平状態は一旦解除される。
【0049】
そして、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、再度図3のステップS115に示すように、エンジン22の回転数Neとリングギヤ軸32aの回転数Npを取得し、図3のステップS116に示すように、その差の絶対値を計算して、その回転数差Eが所定の閾値A以下であるかどうかを判断する。そして、第1モータジェネレータ回転数一時増加処理によってその回転数差Eが閾値Aよりも大きくなっている場合には、ハイブリッド用電子制御ユニット70は、図3のステップS119に示すように、エンジン停止処理を継続する。そしてハイブリッド用電子制御ユニット70は、図3のステップS120に示すように、エンジン22が停止した場合には、共線図が水平状態となった場合の処理を終了する。また、エンジン22が停止していない場合には、再度ステップS115に戻って処理を継続する。
【0050】
以上説明したように、本実施形態によるハイブリッド車両20は高速走行からのエンジン停止の場合において、共線図が水平となる状態となった場合でも、遊星歯車機構30のロックと判断される前に、共線図を水平状態から変化させることで、遊星歯車機構30のロックの誤判断を抑制することができるという効果を奏する。
【0051】
また、以上説明した実施形態では、共線図が水平状態となっているかどうかの判断をエンジン22の回転数Neとリングギヤ軸32aの回転数Npとによって行うこととして説明したが、この判断は、第1モータジェネレータ41の回転数Ngとリングギヤ軸32aの回転数Npとによって行うこととしてもよいし、第1モータジェネレータ41の回転数Ngとエンジン22の回転数Neとによって行うようにしてもよい。
【符号の説明】
【0052】
20 ハイブリッド車両、22 エンジン、23 クランクポジションセンサ、26 クランクシャフト、28 ダンパ、30 遊星歯車機構、31 サンギヤ、32 リングギヤ、32a リングギヤ軸、33 ピニオンギヤ、34 プラネタリキャリヤ、35 減速ギヤ、41 第1モータジェネレータ、42 第2モータジェネレータ、43,44 インバータ、45,46,47 回転数センサ、50 バッテリ、51 温度センサ、53 電流センサ、54 電力ライン、60 ギヤ機構、62 デファレンシャルギヤ、63a,63b 駆動輪、70 ハイブリッド用電子制御ユニット、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、88 車速センサ、90 ダイアグ装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
第1のモータジェネレータと、
エンジンの出力軸と第1のモータジェネレータの入出力軸と車両駆動用動力出力軸とを接続する遊星歯車機構と、
エンジンと第1モータジェネレータとの回転数を調整する制御部と、を備えるハイブリッド車両であって、
制御部は、
車両走行中に各軸の相対回転数差が遊星歯車機構のロック判定を行う閾値以下となった際に、各軸の相対回転数差が前記閾値よりも大きくなるように、エンジンまたは第1のモータジェネレータの回転数を変化させる回転数変化手段を備えること、
を特徴とするハイブリッド車両。
【請求項2】
請求項1に記載のハイブリッド車両であって、
回転数変化手段は、各軸の回転数差が前記閾値以下となっている時間が所定時間以内となるようにエンジンまたは第1のモータジェネレータの回転数を変化させること、
を特徴とするハイブリッド車両。
【請求項3】
請求項1または2に記載のハイブリッド車両であって、
制御部は、モータジェネレータの使用可否を判断するモータジェネレータ使用可否判定手段を備え、
回転変化手段は、モータジェネレータ使用可否判定手段によって第1のモータジェネレータが使用不可と判定された際に、エンジンの回転数を変化させること、
を特徴とするハイブリッド車両。
【請求項4】
請求項3に記載のハイブリッド車両であって、
車両駆動用動力出力軸に接続される第2のモータジェネレータを備え、
制御部は、
エンジンと第2のモータジェネレータとの出力により車両を走行させるハイブリッド走行からエンジンを停止させて第2のモータジェネレータの出力により車両を走行させる電動走行に移行するためにエンジン回転数を低下させている間に、各軸の相対回転数差が遊星歯車機構のロック判定を行う前記閾値以下となった場合、各軸の相対回転数差が前記閾値よりも大きくなるように、一旦、エンジンの回転数を上昇させた後にエンジンを停止させて電動走行に移行する電動走行移行手段を有すること、
を特徴とするハイブリッド車両。
【請求項5】
請求項3に記載のハイブリッド車両であって、
車両駆動用動力出力軸に接続される第2のモータジェネレータを備え、
制御部は、
エンジンと第2のモータジェネレータとの出力により車両を走行させるハイブリッド走行からエンジンを停止させて第2のモータジェネレータの出力により車両を走行させる電動走行に移行するためにエンジン回転数を低下させている間に、各軸の相対回転数差が遊星歯車機構のロック判定を行う前記閾値以下となった場合、各軸の相対回転数差が前記閾値よりも大きくなるように、一旦、第1のモータジェネレータの回転数を上昇させた後にエンジンを停止させて電動走行に移行する電動走行移行手段を有すること、
を特徴とするハイブリッド車両。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−46315(P2011−46315A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−197554(P2009−197554)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】