説明

ハンダ性に優れた表面処理Al板及びその製造方法

【課題】めっき層の密着性、ハンダの濡れ性、ハンダ強度に優れるとともに放熱性に優れ、ハンダ付けが可能であるヒートシンクに好適に適用可能な表面処理Al板、およびその表面処理Al板を安価に製造する方法を提供する。
【解決手段】Al基板表面に置換めっきによりZn層を形成させ、その上にNi層とSn層をめっきにより形成させ、前記Zn層が前記Niめっき後の状態で5〜500mg/mの皮膜量、前記Ni層が0.2〜50g/mの皮膜量、前記Sn層が0.2〜20g/mの皮膜量となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理Al板とその製造方法に関わり、特にハンダの濡れ性、ハンダ強度に優れるとともに熱伝導率や熱放射率が大きく、ハンダ付けが可能で優れた放熱性が求められるヒートシンクに好適に適用可能な表面処理Al板、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や高密度化にともなって、狭い筐体内部や間隙が殆ど無い状態で装填された部品の温度上昇を抑制する必要が生じている。プリント基板においては、部品の温度上昇を抑制するために、放熱用のヒートシンクを取り付けた基板が用いられている。ヒートシンクは、例えば図1に示すように、プリント基板のような発熱体1の少なくとも1面に密着して設けられる。密着した面積が大きいほど熱伝導が大きくなる。ヒートシンクに用いる材料としては発熱体から急速に熱を吸収できるように、熱伝導性に優れた材料を用いることが好ましい。また、図1に示すように、ヒートシンク2を発熱体1から離れた部分まで延ばして設け、延長部分から放熱するのでヒートシンクの表面は熱放射性に優れていることが好ましい。なお、図1において、矢印3は熱伝導の方向を示し、矢印4は熱放射の方向を示している。
【0003】
鋼板ベースの材料からなるヒートシンクの場合は、プリント基板に直接ハンダ付けして接合することができる。放熱性がさらに要求される場合は、ヒートシンクとして鋼板よりも熱伝導性に優れたAlをベースとする材料を用いることが好ましいが、プリント基板に直接ハンダ付けして接合することが困難であるので、Alベースのヒートシンクに専用のピンを取り付け、ピンを介してプリント基板にハンダ付けしている。このようなピンを介して接合する場合は、ピンとヒートシンクの強固な密着状態が得られず、またヒートシンクとプリント基板が直接密着する面積が少なくなるために熱伝導性が低下し、高い熱伝導性を有するAlの特性が十分に活かされていない。そのため、良好なハンダ性を有するAl板を得るために、以下に示すような試みが行われている。
【0004】
例えば、Al板またはAl系合金金属材にNi系めっき層を介してSnめっき層が形成されたハンダ付け性及びめっき密着性に優れたAl系合金金属板を開示されている(例えば特許文献1参照)。このAl系合金金属板においては、溶融Alめっき鋼板などの基材に真空蒸着法を用いてNiめっきした後、続いてSnめっきを施す。この方法による場合、NiおよびSnをめっきするために真空蒸着法を用いるが、真空装置などの大掛かりな装置が必要であり、また製膜速度が小さく生産性に乏しいため、安価に製造することが困難である。
また、アルミニウム基材上に錫又は錫合金層が、アルミニウム基材と錫又は錫合金層との界面に錫の濃度勾配層を形成して被覆されたことを特徴とする半田付性に優れる錫又は錫合金層を被覆したアルミニウム材料が開示されている(例えば特許文献2参照)。このアルミニウム材料においてはアルミニウム合金板に錫を電気めっきした後に加熱する、または溶融した錫合金中にアルミニウム合金板を通すことにより、アルミニウム基材と錫又は錫合金層との界面に錫の濃度勾配層を形成して錫めっきするが、アルミニウム基材と錫めっき層との密着性が不十分であり、特に曲げ加工を施した場合に、錫めっき被膜がアルミニウム基材から剥離しやすい欠点を有している。
【0005】
【特許文献1】特開平05−345969号公報
【特許文献2】特開平09−291394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、めっき層の密着性、ハンダの濡れ性、ハンダ強度に優れるとともに熱伝導率や熱放射率が大きく、ハンダ付けが可能で優れた放熱性を有するヒートシンクに好適に適用可能な表面処理Al板、およびその表面処理Al板を安価に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の表面処理Al板は、Al基板表面に、基板表面側から順にZn層、Ni層、Sn層を形成させてなり、Zn層が前記Ni層形成後の状態で5〜500mg/mの皮膜量、Ni層が0.2〜50g/mの皮膜量、Sn層が0.2〜20g/mの皮膜量で設けられてなることを特徴とするものである。Al基板は、純Al板に限らずAl合金板であってもよい。前記表面処理Al板において、熱放射率が0.05以上であることが望ましい。
【0008】
さらに、本発明の表面処理Al板の製造方法は、Al基板にZnを置換めっきし、次いでNiめっきし、その後Snめっきすることで製造し、Zn層が前記Niめっき後の状態で5〜500mg/mの皮膜量、Ni層が0.2〜50g/mの皮膜量、Sn層が0.2〜20g/mの皮膜量で設けられてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の表面処理Al板は、Al基板表面に置換めっきによりZn層を形成させ、その上にNi層とSn層をめっきにより形成させ、前記Zn層が前記Ni層形成後の状態で5〜500mg/mの皮膜量、前記Ni層が0.2〜50g/mの皮膜量、前記Sn層が0.2〜20g/mの皮膜量で設けられていることによって、Al基板とめっき層の密着性に優れている表面処理Al板が得られる。特に、最表面にSn層を設けているので、ハンダ濡れ性に優れるとともに、高いハンダ強度が得られる。さらに基板がAl板であるので、熱伝導率が大きく、放熱性に優れている。そのため、本発明の表面処理Al板は、ハンダ付けが可能な放熱性に優れたヒートシンクとして好適に適用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の表面処理Al板の基板となるAl板としては、純Al板およびJIS規格の1000系、2000系、3000系、5000系、6000系、7000系のいずれのAl合金板も用いることができる。これらのAl合金板を脱脂し、次いで酸性エッチングし、次いでスマットを除去した後、Znを置換めっきする。Znの置換めっきは、硝酸浸漬処理、第一Zn置換処理、硝酸亜鉛剥離処理、第二Zn置換処理の工程を経ておこなう。この場合、各工程の処理後には水洗処理を実施する。この第一Zn置換処理および第二Zn置換処理により形成するZn層は、この置換処理後にNiめっきを施す際にわずかに溶解するので、Zn層の皮膜量としてはNiめっき後の状態で5〜500mg/mであることが好ましく、30〜300mg/mであることがより好ましい。
皮膜量は処理液中のZnイオンの濃度および第二Zn置換処理において処理液中に浸漬する時間を適宜選択して調整する。皮膜量が5mg/m未満であるとZn層の上に形成させるNiめっき層との密着性に乏しくなり、曲げ加工を施した際にめっき層が剥離しやすくなる。一方、皮膜量が500mg/mを超えるとNiめっきが不均一になり、ハンダ強度が低下する。
【0011】
次いで、このようにして形成されたZn層の上にNi層をめっきする。Niめっき層は、電気めっき法または無電解めっき法のいずれのめっき法を用いて形成させてもよい。無電解めっき法を用いる場合は、還元剤としてP化合物やB化合物を用いるので、Niめっき膜はNi−P合金やNi−B合金からなる皮膜として形成するが、電気めっき法による純ニッケルからなる皮膜と同様に、めっき皮膜のAl基板に対する優れた密着性や、優れたハンダ濡れ性およびハンダ強度が得られる。このようにして得られるNi層は、皮膜量として0.2〜50g/mであることが好ましく、1〜10g/mであることがより好ましい。皮膜量が0.2g/m未満であるとNi層がZn層の全面を均一に被覆することができないので十分なハンダ強度が得られない。一方、皮膜量が50g/mを超えるとハンダ濡れ性およびハンダ強度の向上効果が飽和し、コスト的に有利でなくなる。
【0012】
次いでNi層の上にSn層をめっきする。Snめっき層は、電気めっき法または無電解めっき法のいずれのめっき法を用いて形成させてもよい。Sn層は、皮膜量として0.2〜20g/mであることが好ましく、1〜10g/mであることがより好ましい。皮膜量が0.2g/m未満であると非活性のフラックスを用いた場合にハンダが濡れにくくなる。一方、皮膜量が20g/mを超えてもハンダ濡れ性およびハンダ強度の向上効果が飽和し、コスト的に有利でなくなる。このようにしてAl板にZn層、Ni層、Sn層を形成させることにより、本発明の表面処理Al板が得られる。また、この表面処理Al板の最表面のSn層が下層のNi層やAl基板と合金化して全て失われることなく遊離Snが残存する程度に加熱して、Al基板とZn層、Zn層とNi層、およびNi層とSn層、またはAl基板とZn層とNi層、Zn層とNi層とSn層を拡散させることにより、Al基板とめっき層および各めっき層同士の密着強度を向上させることもできる。
【0013】
この本発明の表面処理Al板は60W/m・K以上の熱伝導率を有しており、熱伝導性に優れたヒートシンクとして発熱体から熱を好適に吸収して放熱することができるが、Sn層上に熱放射性を向上させる層を設けることにより、放熱性をさらに向上させることが可能となる。本発明の表面処理Al板の熱放射率は0.05〜0.1前後であるが、熱放射性を向上させる層を設けることにより、熱放射率は0.2〜0.9程度まで向上させることができる。熱放射性を向上させる層は以下のようにしてSn層上に形成させる。すなわち、Zn層、Ni層、Sn層を順に形成させた表面処理Al板、またはこの表面処理Al板に上記の加熱拡散処理を施した後、黒色顔料と水溶性ロジンを含有させた水系アクリル樹脂を塗布し、乾燥させて処理皮膜とする。この処理皮膜はフラックス効果を有しており、ハンダ濡れ性も向上させる。これらの水系樹脂の濃度は100〜900g/Lであることが好ましく、黒色顔料は樹脂中に樹脂の固形分に対して50重量%以下で含有させることが好ましい。50重量%を超えて含有させるとハンダ濡れ性およびハンダ強度が不良となる。乾燥後の処理皮膜の厚さは0.05〜10μmであることが好ましい。0.05μm未満では放熱性の向上効果に乏しく、10μmを超えると熱伝導性が損なわれるようになり、放熱性を向上させることが不可能になる。このようにSn層上に熱放射性を向上させる層を設けることにより、ヒートシンクの放熱性を向上させることができる。
【実施例】
【0014】
(供試板の作成)
Al合金板(JIS 5052H19、板厚0.5mm)をめっき基板として、アルカリ液で脱脂し、次いで硫酸中でエッチング処理を施し、次いで硝酸中で脱スマット処理を施した後、水酸化ナトリウム:150g/L、ロッシェル塩:50g/L、酸化亜鉛:25g/L、塩化第一鉄1.5g/Lを含む処理液中に浸漬して第一Zn置換処理を行い、次いで400g/Lの硝酸水溶液中に浸漬して置換析出したZnを除去した後、第一Zn置換処理で用いたのと同一の処理液中に浸漬して第二Zn置換処理を行った。この第二Zn置換処理において、浸漬する時間を種々変化させ、表1に示す皮膜量のZn層を形成させたZnめっきAl板を得た。
【0015】
次いで、ZnめっきAl板に無電解めっき法により、Zn層上にNi−12重量%P合金めっき皮膜を表1に示す皮膜量で形成させた。次いで、Zn層とNi層を形成させためっきAl板に電気めっき法により、Ni層上にSnめっき皮膜を表1に示す皮膜量で形成させ供試板とした。一部の供試板については、これらのめっきを施した後280℃に加熱し、Sn層を溶融させるとともに、最表面の遊離Snが失われない程度にAl基板とめっき層およびめっき層同士を拡散させる拡散熱処理を施した。また他の一部の供試板については、表2に示す液組成の処理液を用いて熱放射性を向上させる層を形成させた。
【0016】
また、比較用として、上記のAl合金板にZn置換めっき層を設けずに直接Niめっき層およびSnめっき層を設けた供試板、上記のAl合金板にZn置換めっき層を設けずにSnめっき層のみを設けた供試板、低炭素鋼板(板厚0.5mm)にSnめっき層のみを設けた供試板を作成した。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
(供試板の特性評価)
上記のようにして得られた供試板を、下記の特性について評価した。
[ハンダ濡れ性]
メニスコグラフ法(MIL−STD−883B)により、SOLDERCHECKER(MODEL SAT−5000、RHESCA製)を使用し、上記の各供試材から切り出した幅7mmの試片をフラックス(NA−200、タムラ化研製)に浸漬し、その後250℃に保持したハンダ浴(JISZ 3282:H60A)に前記のフラックスを塗布した試片を浸漬速度:2mm/秒で2mm浸漬し、ハンダが濡れるまでの時間ゼロクロスタイムを測定し、下記に示す基準でハンダ濡れ性を評価した。短時間であるほどハンダ濡れ性が良好であることを示す。
◎:5秒未満
○:5〜7秒未満
△:7〜10未満
×:10秒以上
【0020】
[ハンダ強度]
上記の各供試材から切り出した幅7mm、長さ50mmの試片をL字型に折り曲げた2つの切り出し片を、評価面を向かい合わせてT字状になるように重ね、T字の縦棒の部分の間に厚さ:0.5mmの鋼板を挟み、T字の縦棒の下部に0.5mmの空隙部を形成させた試片を作成した。この試片の空隙部に上記のハンダ濡れ性の評価に用いたのと同様のフラックスを塗布した後、ソルダーチェッカー(SAT−5000、レスカ製)を用い、250℃に保持したハンダ浴(JISZ 3282:H60A)に試片の空隙部を10mmの深さまで浸漬し5秒間保持して空隙部にハンダを充填させた後取り出し、Tピール試験片とした。次いでテンシロンを用い、Tピール試験片のT字の横棒部をチャックで挟んで引張ってT字の縦棒部のハンダ充填部を引き剥がし、ハンダ強度を測定し、下記に示す基準でハンダ強度を評価した。
◎:4kgf/7mm以上
○:3〜4kgf/7mm未満
△:1〜3kgf/7mm未満
×:1kgf/7mm未満
【0021】
[めっき皮膜の密着性]
上記の各供試材から幅15mm、長さ50mmの試片を切り出し、90°折り曲げ、折り曲げ部にスコッチテープを貼り付け、次いで引き剥がした後、めっき皮膜の剥離の有無を肉眼観察し、下記の基準でめっき皮膜の密着性を評価した。
○:剥離は認められない。
×:剥離が認められる。
【0022】
[放熱性]
上記の各供試材から幅5mm、長さ10mmの試片を切り出し、光交流法熱定数測定装置(PIT−R2型、真空理工製)を用いて熱伝導率を測定した。また、放射率計(Dand S AERD放射率計、京都電子工業製)を用いて熱放射率を測定し、下記に示す基準で放熱性を評価した。
◎:熱伝導率60W/m・K以上でかつ熱放射率0.20以上
○:熱伝導率60W/m・K以上でかつ熱放射率0.05〜0.20未満
△:熱伝導率40〜60W/m・K未満
×:熱伝導率40W/m・K未満
【0023】
その結果、 表3に示すように、Al板にZn層、Ni層、Sn層を形成させた本発明の表面処理Al板はハンダの濡れ性に優れ、ハンダ強度が高く、かつ熱伝導率が大きく放熱性に優れている。また、この表面処理Al板のSn層上に熱放射性を向上させる層を設けることにより、放熱性がさらに向上していることが確認された。そのため、本発明は、ハンダ付けが可能な放熱性に優れたヒートシンクとして好適に適用できる。
【0024】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の表面処理Al板は、ハンダ濡れ性に優れるとともに、高いハンダ強度が得られ、さらに基板がAl板であるので、熱伝導率が大きく、耐熱性に優れているので、ハンダ付けが可能な放熱性に優れたAl板として種々の用途に適用でき、特にハンダ付けが可能な放熱性に優れたヒートシンクとして好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ヒートシンクと発熱体の接合状態の例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1 発熱体
2 ヒートシンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al基板表面に、基板表面側から順にZn層、Ni層、Sn層を形成させてなり、Zn層が前記Ni層形成後の状態で5〜500mg/mの皮膜量、Ni層が0.2〜50g/mの皮膜量、Sn層が0.2〜20g/mの皮膜量で設けられてなることを特徴とする表面処理Al板。
【請求項2】
熱放射率が0.05以上である、請求項1に記載の表面処理Al板。
【請求項3】
Al基板にZnを置換めっきし、次いでNiめっきし、その後Snめっきすることで製造し、Zn層が前記Niめっき後の状態で5〜500mg/mの皮膜量、Ni層が0.2〜50g/mの皮膜量、Sn層が0.2〜20g/mの皮膜量で設けられてなることを特徴とする表面処理Al板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−223147(P2008−223147A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155760(P2008−155760)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【分割の表示】特願2003−49689(P2003−49689)の分割
【原出願日】平成15年2月26日(2003.2.26)
【出願人】(390003193)東洋鋼鈑株式会社 (265)
【Fターム(参考)】