説明

ハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペースト

【課題】ファインピッチ化を実現するハンダ用ペーストに好適な微細なハンダ粉末であって、リフロー時の溶融性及び濡れ性に優れ、しかもハンダバンプ形成時の組成制御が容易であり、ペーストの印刷性も向上させ得るハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストを提供する。
【解決手段】中心核21、31と中心核21、31を被覆する被覆層22、32で構成される平均粒径5μm以下の金属粉末からなるハンダ粉末10において、中心核21、31はCo、Bi、Ge、Ni、In、Ag、Cu又はAuの単一の金属からなり、被複層22、32はSnからなり、中心核21、31の金属種が異なる2種以上の金属粉末を含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファインピッチ用鉛フリーのハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストに関する。更に詳しくは、平均粒径が5μm以下の微細なSn系ハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の接合に用いられるハンダは環境の面から鉛フリー化が進められ、現在では、錫を主成分としたハンダ粉末が採用されている。ハンダ粉末のような微細な金属粉末を得る方法としては、ガスアトマイズ法や回転ディスク法等のアトマイズ法の他に、メルトスピニング法、回転電極法、機械的プロセス、化学的プロセス等が知られている。ガスアトマイズ法は、誘導炉やガス炉で金属を溶融した後、タンディッシュの底のノズルから溶融金属を流下させ、その周囲より高圧ガスを吹き付けて粉化する方法である。また回転ディスク法は、遠心力アトマイズ法とも呼ばれ、溶融した金属を高速で回転するディスク上に落下させて、接線方向に剪断力を加えて破断して微細粉を作る方法である。
【0003】
一方、電子部品の微細化とともに接合部品のファインピッチ化も進んでおり、より微細な粒径のハンダ粉末が求められているため、こうしたファインピッチ化に向けた技術の改良も盛んに行われている。例えば、ガスアトマイズ法を改良した技術として、ガスを巻き込ませた状態の金属溶湯をノズルから噴出させ、このノズルの周囲から高圧ガスを吹き付ける金属微粉末の製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の方法では、溶湯がノズルを通過する際にガスを巻き込ませることによって、ノズルから出湯した時点で溶湯がすでに分断され、より小さな粉末を製造することができる。
【0004】
また、錫化合物溶液として塩化第一錫溶液を用い、還元剤として2価クロムイオン溶液を用いて、ポリビニルピロリドン等の保護剤の存在下、非酸化性雰囲気下で上記2価クロムイオン溶液と錫化合物溶液とを混合して錫を還元析出させる金属錫の製造方法が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2に記載の方法は、従来の湿式還元法における課題を克服し、100nmレベルの超微粒子金属錫、及びサブミクロンからナノメータレベルの超微粒子金属錫を湿式還元法で簡単、かつ効率よく製造できる方法である。
【0005】
また、体積累積頻度が50%に達する粒径(D50)が5μm以下の範囲内にある錫粉末に、銀、銅、ニッケル又はゲルマニウム等の、錫とは異なる金属から構成され、体積累積頻度が50%に達する粒径(D50)が錫粉末の粒径(D50)よりも小さい0.5μm以下の範囲内にある金属粉末を少なくとも1種以上添加混合して得られたハンダ粉末が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。このハンダ粉末は、近年のファインピッチ化に対応するとともに、ファインピッチ用基板への印刷性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−18956号公報(請求項1、段落[0014])
【特許文献2】特開2003−306707号公報(請求項2〜4、段落[0006])
【特許文献3】特開2009−190072号公報(請求項1,2、段落[0009]、段落[0010])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の特許文献1示された、いわゆるアトマイズ法により微細な粉末を得るためには、この方法によって得られた金属粉末を更に分級して、ファインピッチ化に対応する5μm以下の微細なものを採取する必要がある。このため、歩留まりが非常に悪くなる。一方、7μm程度の粉末であれば、この方法でも歩留まりは良くなるものの、この程度の粒径のものでは、近年のファインピッチ化には十分に対応できない。また、上記特許文献2に示された方法では、ナノメータレベルの粒子を得るには非常に効果的であるが、錫粒子の凝集や粒度分布の幅が比較的広いことから、粒径制御の精度について課題が残されている。また、上記従来の特許文献3に示されたハンダ粉末の場合、近年のファインピッチ化には十分に対応できるものの、錫よりも融点が高い銀等の単一金属からなる金属粉末がそのまま添加されているため、リフロー時の溶融性及び濡れ性の面で更なる改良が望まれていた。
【0008】
本発明の目的は、ファインピッチ化を実現するハンダ用ペーストに好適な微細なハンダ粉末であって、リフロー時の溶融性及び濡れ性に優れ、しかもハンダバンプ形成時の組成制御が容易であり、ペーストの印刷性も向上させ得るハンダ粉末及びこの粉末を用いたハンダ用ペーストを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、中心核と中心核を被覆する被覆層で構成される平均粒径5μm以下の金属粉末からなるハンダ粉末において、中心核が銀、銅、ビスマス、ゲルマニウム、ニッケル、インジウム、コバルト又は金の単一の金属からなり、被複層が錫からなり、中心核の金属種が異なる2種以上8種以下の金属粉末を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に最も含有割合の高い金属粉末と、その他の種類の金属粉末の平均粒径の差が±3μmの範囲内であることを特徴とする。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、更に中心核の金属種が異なる金属粉末の各含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対し、それぞれ10質量%以上であることを特徴とする。
【0012】
本発明の第4の観点は、第1ないし第3の観点に基づく発明であって、更に銀を含むとき銀の含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であり、銅を含むとき銅の含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜2.0質量%であり、ビスマスを含むときビスマスの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であり、ゲルマニウムを含むときゲルマニウムの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.01〜0.5質量%であり、ニッケルを含むときニッケルの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.01〜0.5質量%であり、インジウムを含むときインジウムの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であり、コバルトを含むときコバルトの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であり、金を含むとき金の含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して1〜90質量%であることを特徴とする。
【0013】
本発明の第5の観点は、第1ないし第4の観点に基づく発明であって、更に中心核が銅、被複層がSnからなる金属粉末と、中心核が銀、被複層がSnからなる金属粉末の2種類を含有することを特徴とする。
【0014】
本発明の第6の観点は、第1ないし第5の観点に基づくハンダ粉末とハンダ用フラックスを混合してペースト化することにより得られたハンダ用ペーストである。
【0015】
本発明の第7の観点は、第6の観点に基づく発明であって、更に電子部品の実装に用いられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1の観点のハンダ粉末は、中心核と中心核を被覆する被覆層で構成される平均粒径5μm以下の金属粉末からなるハンダ粉末において、中心核が銀、銅、ビスマス、ゲルマニウム、ニッケル、インジウム、コバルト又は金の単一の金属からなり、被複層が錫からなり、中心核の金属種が異なる2種以上8種以下の金属粉末を含有する。このように、本発明のハンダ粉末では、含有する2種以上の金属粉末は、いずれも中心核が融点の低い錫によって被覆されているため、融点が高い単一金属からなる金属粉末がそのまま添加された従来のハンダ粉末に比べ、リフロー時における粉末同士の接触面積が非常に大きくなる。そのため、従来のハンダ粉末に比べて溶融性及び濡れ性が非常に良い。また、個々の粒子がそれぞれ錫と他の金属元素を含有するため、単一金属からなる金属粉末を混合して得られた従来のハンダ粉末よりも、ハンダ粉末中における局所的な組成の偏りが非常に少ない。そのため、この粉末を原料としたハンダ用ペーストでハンダバンプを形成すれば、ハンダバンプにおける組成もより均一にすることができ、組成制御を容易に行うことができる。また、平均粒径5μm以下と微細な粉末であるため、この粉末を原料としたハンダ用ペーストを基板等に印刷する際に、ファインピッチパターンで印刷できる。
【0017】
本発明の第2の観点のハンダ粉末では、最も含有割合の高い金属粉末と、その他の種類の金属粉末の平均粒径の差が±3μmの範囲内である。即ち、ハンダ粉末中の最も含有割合の高い金属粉末と、その他の種類の金属粉末の平均粒径差を制御することにより、金属粉末がより均一に混合され、ハンダ粉末における局所的な組成の偏りが更に低減される。また、平均粒径の差が小さい粉末同士が混合されているため、リフロー後に形成されるハンダバンプにおいて、高さのバラツキを低減することができる。即ち、基板への印刷性が非常に優れる。
【0018】
本発明の第3の観点のハンダ粉末では、中心核の金属種が異なる金属粉末の各含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対し、それぞれ10質量%以上である。そのため、この粉末を原料としたハンダ用ペーストを用いてハンダバンプを形成すれば、一つのハンダバンプ中に、ハンダ粉末が含有するすべての種類の金属粉末を十分に含ませることができるため、組成が均一なハンダバンプとすることができる。
【0019】
本発明の第6の観点のハンダ用ペーストは、上記本発明のハンダ粉末を用いて得られる。そのため、このハンダ用ペーストは、リフロー時の溶融が速く、濡れ性が非常に良いため、ハンダバンプ形成時に溶融したペーストが微細な球状になって飛散する、いわゆるソルダボールの発生を大幅に抑制することができる。また、形成後のハンダバンプにおける組成をより均一にできるため、溶け残りが生じないハンダバンプを形成することができる。更にハンダ粉末は5μm以下と微細であるため、このハンダ用ペーストを用いれば、基板等にファインピッチパターンで印刷でき、より微細な電子部品を実装できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明実施形態のハンダ粉末を模式的に表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
本発明のハンダ粉末は、中心核と、この中心核を被覆する被覆層により構成され、平均粒径が5μm以下、好ましくは0.1〜5μmの粉末である。ハンダ粉末の平均粒径を5μm以下に限定したのは、5μmを越えるとハンダ用ペーストを基板等にファインピッチパターンで印刷できず、微細な電子部品をハンダ用ペーストにより実装できないからである。なお、本明細書において、粉末の平均粒径とは、レーザー回折散乱法を用いた粒度分布測定装置(堀場製作所社製、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950)にて測定した体積累積中位径(Median径、D50)をいう。そして、本発明のハンダ粉末の特徴ある構成は、中心核が銀、銅、ビスマス、ゲルマニウム、ニッケル、インジウム、コバルト又は金の単一の金属からなり、被複層が錫からなり、中心核の金属種が異なる2種以上8種以下、好ましくは2種以上4種以下の金属粉末を含有するところにある。
【0023】
図1は、銀からなる中心核21とこの中心核21を被覆する錫からなる被複層22により構成される金属粉末Aと、銅からなる中心核31とこの中心核31を被覆する錫からなる被複層32により構成される金属粉末Bの2種類を混合することによって得られた3元系のハンダ粉末を模式的に示したものである。
【0024】
このように、本発明のハンダ粉末は、被複層が錫であり、中心核の金属種が異なる金属粉末を2種以上を混合することによって得られる、錫と錫以外の金属を2種以上含む3元系以上のハンダ粉末である。通常、使用する目的や仕様等にあわせ、例えば融点を調整するために、種類の異なる第3種の金属粉末を添加して、ハンダ粉末の組成調整を行う。本発明のハンダ粉末は、3元系以上のハンダ粉末を構成するにあたり、混合する2種以上の金属粉末が、いずれも中心核の金属が錫によって被覆された構造を有する。即ち、本発明のハンダ粉末では、組成調整のために添加される金属粉末も、従来のように単一金属からなる金属粉末の状態ではなく、錫によって被覆された状態で添加されている。これは、錫よりも融点の高い金属を、融点の低い錫で被覆することにより、リフロー時における粉末同士の接触面積を大きくすることができるからである。本発明のハンダ粉末では、含有する2種以上の金属粉末は、いずれも融点の高い金属が融点の低い錫によって被覆されているため、融点の高い単一金属からなる金属粉末をそのまま含有する粉末に比べて、リフロー時における粉末同士の接触面積が非常に大きく、溶融性及び濡れ性が非常に良い。本発明のハンダ粉末は、一般的に使用されている鉛フリーのハンダ組成である、錫、銀、銅を構成元素として含むのが好ましく、図1に示すように、中心核が銀からなり、被複層が錫からなる金属粉末Aと、中心核が銅からなり、被複層が錫からなる金属粉末Bの2種類の金属粉末を含有する形態が最も好ましいが、この例に限定されるものではない。
【0025】
また、個々の粉末粒子がそれぞれ錫と他の金属元素を含有するため、1つの金属元素が一箇所に凝集することが少なく、単一金属からなる金属粉末を添加混合して得られる従来のハンダ粉末よりも、ハンダ粉末中における局所的な組成の偏りが非常に少ない。そのため、このハンダ粉末を原料としたハンダ用ペーストを用いれば、形成後のハンダバンプにおいても組成の偏りを低減することができ、組成制御が容易となる。組成の偏りが多いハンダバンプでは、融点がずれるため、ハンダバンプ中に一部溶け残りが生じる等の不具合を生じるが、本発明のハンダ粉末を原料としたハンダ用ペーストでハンダバンプを形成すれば、組成がより均一なハンダバンプを形成することができる。このため、形成後のハンダバンプにおける上記不具合もより低減することができる。
【0026】
また、本発明のハンダ粉末は、含有する中心核の金属種が異なる2種以上8種以下の金属粉末のうち、最も含有割合の高い金属粉末と、その他の種類の金属粉末の平均粒径の差が±3μmの範囲内であることが好ましい。例えば、図1に示す例では、含有する金属粉末は金属粉末Aと金属粉末Bの2種類であるため、金属粉末Aの平均粒径と金属粉末Bの平均粒径の差が上記範囲内であることが好ましい。一方、金属粉末A、金属粉末B以外の、例えば第3種以上の金属粉末を含有する場合は、最も含有割合の高い金属粉末と、その他の種類のすべての金属粉末の平均粒径の差が上記範囲内であることが好ましい。これは、粒径が大きな粒子と粒径が小さな粒子では、1粒子が含有する金属元素の量や割合等が大きく異なるため、均一に混合した場合でもハンダ粉末における局所的な組成の偏り、更には形成後のハンダバンプにおける組成の偏りが生じやすいからである。即ち、本発明のハンダ粉末では、混合される異種粉末間の粒径差も制御されているため、上記理由に起因する局所的な組成の偏りが非常に少なく、形成後のハンダバンプにおける組成の偏りもより低減することができる。また、平均粒径の差が小さい粉末同士が混合されているため、リフロー後に形成されるハンダバンプにおいて、高さのバラツキを低減することができる。即ち、基板への印刷性も非常に優れる。
【0027】
本発明のハンダ粉末では、中心核の金属種が異なる金属粉末の各含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対し、それぞれ10質量%以上であることが好ましい。これは、中心核の金属種が異なる金属粉末の各含有割合が10%未満では、一つのハンダバンプに対して、混合した一粉末粒子が組成に大きく影響し、これにより、形成後のハンダバンプにおいて、組成の均一性に問題が生じるからである。
【0028】
また、ハンダ粉末中の錫の含有割合は、ハンダ粉末の全体量100質量%に対して10質量%以上である。錫の含有割合が10質量%未満では、ハンダ粉末として必要とされる低融点を示さないからである。
【0029】
ハンダ粉末が銀を含むとき、即ちハンダ粉末が、中心核が銀からなる金属粉末を含有する場合、銀の含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。銅を含むとき銅の含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜2.0質量%であることが好ましい。ビスマスを含むときビスマスの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。ゲルマニウムを含むときゲルマニウムの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.01〜0.5質量%であることが好ましい。ニッケルを含むときニッケルの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.01〜0.5質量%であることが好ましい。インジウムを含むときインジウムの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。コバルトを含むときコバルトの含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であることが好ましい。金を含むとき金の含有割合がハンダ粉末の全体量100質量%に対して1.0〜90質量%であることが好ましい。ここで、上記元素の含有割合をそれぞれ上記範囲に限定したのは、共晶点から組成がずれるのを防止してハンダ粉末の融点を低くするとともに、形成したハンダバンプにおけるハンダ合金の電気抵抗の増加を抑え、機械的強度を向上させるためである。
【0030】
続いて、上記本発明のハンダ粉末を製造する方法について説明する。先ず、溶媒に、中心核を構成する金属元素、即ち銀、銅、ビスマス、ゲルマニウム、ニッケル、インジウム、コバルト又は金を含む化合物と、被複層を構成する錫元素を含有する化合物及び分散剤とをそれぞれ添加して混合することにより、溶解液を調製する。溶解液中における中心核を構成する金属元素を含む化合物と、被複層を構成する錫元素を含有する化合物の含有割合は、各金属粉末製造後の混合時に、各金属元素の含有割合が上記範囲になるように調整する。溶媒としては、水、アルコール、エーテル、ケトン、エステル等が挙げられる。中心核を銀とする場合、使用される銀化合物としては、塩化銀又は硝酸銀等が挙げられる。銅化合物としては、塩化銅(II)、硫酸銅(II)又は酢酸銅等が挙げられる。ビスマス化合物としては、塩化ビスマス(III)、硫酸ビスマス(III)又は硝酸ビスマス(III)等が挙げられる。ゲルマニウム化合物としては、塩化ゲルマニウム(II)又はβ−カルボキシエチルゲルマニウム等が挙げられる。ニッケル化合物としては、塩化ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)六水和物又は硝酸ニッケル(II)六水和物等が挙げられる。インジウム化合物としては、塩化インジウム、硝酸インジウム又は硫酸インジウム等が挙げられる。コバルト化合物としては、塩化コバルト(II)又は硝酸コバルト(II)又は硫酸コバルト(II)等が挙げられる。金化合物としては、テトラクロロ金(III)酸等が挙げられる。一方、被覆層を構成する錫を含む化合物としては、塩化錫(II)、硫化錫(II)、酢酸錫(II)、シュウ酸錫(II)等が挙げられる。分散剤としては、セルロース系、ビニル系、多価アルコール等が挙げられ、その他にゼラチン、カゼイン等を用いることができる。調製した溶解液はpH調整する。溶解液のpHは、生成したハンダ粉末の再溶解等を考慮して、0〜2.0の範囲に調整するのが好ましい。なお、溶媒に中心核を構成する金属元素を含む化合物と被覆層を構成する金属元素を含む化合物をそれぞれ添加して溶解させた後、錯化剤を加えて、金属元素を錯体化した後に、分散剤を添加しても良い。錯化剤を加えることでpHがアルカリ側でも金属イオンが沈殿せず、広い範囲での合成が可能となる。錯化剤としては、コハク酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、フタル酸、リンゴ酸、クエン酸、シュウ酸、エチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸又はその塩等が挙げられる。
【0031】
次に、還元剤を溶解した水溶液を調製し、この水溶液のpHを、上記調製した溶解液と同程度に調整する。還元剤としては、テトラヒドロホウ酸ナトリウム、ジメチルアミンボラン等のホウ素水素化物、ヒドラジン等の窒素化合物、三価のチタンイオンや2価のクロムイオン等の金属イオン等が挙げられる。
【0032】
次に、上記溶解液に還元剤水溶液を添加して混合することにより、溶解液中の各金属イオンが還元され、液中に金属粉末が分散した分散液が得られる。この還元反応では、先ず、錫よりも貴な金属又は水素過電圧が低い金属が還元されて中心核が形成される。続いて錫が還元され、形成された中心核の表面に錫が析出することにより、中心核とこ中心核を被覆する錫で構成された、平均粒径5μm以下の金属粉末が形成される。このような反応は微細な粒径の粉末が製造し易いという効果がある。溶解液と還元剤水溶液を混合する方法としては、容器内の溶解液に所定の添加速度で還元剤水溶液を滴下し、スターラ等で攪拌する方法や、所定の径を有する反応チューブを用い、この反応チューブ内に両液を所定の流量で注ぎ込み、混合させる方法等が挙げられる。
【0033】
次いで、この分散液を、デカンテーション等によって固液分離し、回収した固形分を水又はpHを0.5〜2に調整した塩酸水溶液、硝酸水溶液、硫酸水溶液、或いはメタノール、エタノール、アセトン等で洗浄する。洗浄後は、再度固液分離して固形分を回収する。洗浄から固液分離までの工程を、好ましくは2〜5回繰り返した後、回収した固形分を真空乾燥させることにより、金属粉末を得ることができる。
【0034】
このようにして、中心核の金属種が異なる金属粉末を2種以上得る。最後に、これらの金属粉末を、V型混合機等の一般的な粉末混合機を用いて混合することにより、中心核の金属種が異なる2種以上8種以下の金属粉末を含有する本発明のハンダ粉末が得られる。各金属粉末を混合する際には、上述のように、ハンダ粉末の全体量100質量%に対し、各金属粉末の含有割合が10質量%以上になるように、また、ハンダ粉末の全体量100質量%に対し、各金属元素の含有割合が上記範囲内になるように調整して混合する。
【0035】
以上の工程により、本発明のハンダ粉末を得ることができる。このハンダ粉末は、ハンダ用フラックスと混合してペースト化して得られるハンダ用ペーストの材料として好適に用いられる。ハンダ用ペーストの調製は、例えばハンダ用フラックスを、好ましくは10〜30質量%、更に好ましくは10〜25質量%混合してペースト化することにより行われる。ハンダ用フラックスの混合量を10〜30質量%とするのは、10質量%未満ではフラックス不足でペースト化できず、30質量%を越えるとペースト中のフラックスの含有割合が多すぎて金属の含有割合が少なくなってしまい、ハンダ溶融時に所望のサイズのハンダバンプを得ることができないからである。
【0036】
このハンダ用ペーストは、上記本発明のハンダ粉末を材料としているため、溶融性及び濡れ性が非常に良く、ソルダボールが生じにくい点で優れる。また、形成後のハンダバンプにおける組成をより均一できるため、これを用いて形成されるハンダバンプは、溶け残りが生じない点で優れる。更に5μm以下の微細なハンダ粉末によって調製されるため、このハンダ用ペーストを用いれば、基板等にファインピッチパターンで印刷でき、高さのバラツキが少ないハンダバンプを形成することができる。そのため、このハンダ用ペーストは、より微細な電子部品の実装に好適に用いることができる。
【実施例】
【0037】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0038】
<実施例1>
先ず、水50mlに塩化銅(II)を4.93×10-4mol、塩化錫(II)を2.6×10-2mol加え、スターラを用いて回転速度300rpmにて5分間攪拌し、溶解液を調製した。この溶解液を塩酸にてpHを0.5に調整した後、分散剤としてポリビニルアルコール500(平均分子量が500のポリビニルアルコール)を0.5g加え、更にスターラを用いて回転速度300rpmにて10分間攪拌した。次いで、この溶解液にpHを0.5に調整した1.58mol/Lの2価クロムイオン水溶液50mlを、添加速度50ml/secにて加え、回転速度500rpmにて10分間攪拌して各金属イオンを還元し、液中に金属粉末が分散する分散液を得た。この分散液を60分間静置して生成した金属粉末を沈降させた後、上澄み液を捨て、ここに水100mlを加えて回転速度300rpmにて10分間攪拌する操作を4回繰返し、洗浄を行った。これを真空乾燥機にて乾燥することにより、Cuを中心核、Snを被複層とする平均粒径2.88μmの金属粉末を得た。
【0039】
また、硝酸銀(I)1.73×10-3mol、硫化錫(II)2.48×10-2mol、pH調整に硫酸を用い、上記と同じ手順で還元、洗浄、乾燥を行うことにより、Agを中心核、Snを被複層とする平均粒径2.98μmの金属粉末を得た。
【0040】
上記得られた両粉末を質量比で1:1で混合することにより、混合後の粉末の全体量100質量%に対し、各金属粉末がそれぞれ50質量%ずつ含まれるハンダ粉末を得た。得られたハンダ粉末を元素分析したところ、Snが96.5質量%、Agが3質量%、Cuが0.5質量%であった。
【0041】
<実施例2>
先ず、水50mlに塩化銅(II)を4.93×10-4mol、塩化錫(II)を2.6×10-2mol加え、スターラを用いて回転速度300rpmにて5分間攪拌し、溶解液を調製した。この溶解液を塩酸にてpHを0.5に調整した後、分散剤としてポリビニルアルコール500(平均分子量が500のポリビニルアルコール)を0.5g加え、スターラを用いて回転速度300rpmにて10分間攪拌した。次いで、この溶解液にpHを0.5に調整した1.58mol/Lの2価クロムイオン水溶液50mlを、添加速度50ml/secにて加え、回転速度500rpmにて10分間攪拌して各金属イオンを還元し、液中に金属粉末が分散する分散液を得た。この分散液を60分間静置して生成した金属粉末を沈降させた後、上澄み液を捨て、ここに水100mlを加えて回転速度300rpmにて10分間攪拌する操作を4回繰返し、洗浄を行った。これを真空乾燥機にて乾燥することにより、Cuを中心核、Snを被複層とする平均粒径2.78μmの金属粉末を得た。
【0042】
また、硝酸銀(I)2.32×10-3mol、硫化錫(II)2.43×10-2mol、pH調整に硫酸を用い、上記と同じ手順で還元、洗浄、乾燥を行うことにより、Agを中心核、Snを被複層とする平均粒径3.02μmの金属粉末を得た。
【0043】
上記得られた両粉末を質量比で1:1(50質量%:50質量%)で混合することにより、混合後の粉末の全体量100質量%に対し、各金属粉末がそれぞれ50質量%ずつ含まれるハンダ粉末を得た。得られたハンダ粉末を元素分析したところ、Snが95.5質量%、Agが4質量%、Cuが0.5質量%であった。
【0044】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明のハンダ粉末は、ファインピッチ用鉛フリーのハンダ粉末として利用でき、このハンダ粉末を原料として得られるハンダ用ペーストは、微細な電子部品の実装に好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
10 ハンダ粉末
21,31 中心核
22,32 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心核と前記中心核を被覆する被覆層で構成される平均粒径5μm以下の金属粉末からなるハンダ粉末において、
前記中心核が銀、銅、ビスマス、ゲルマニウム、ニッケル、インジウム、コバルト又は金の単一の金属からなり、
前記被複層が錫からなり、
前記中心核の金属種が異なる2種以上8種以下の金属粉末を含有することを特徴とするハンダ粉末。
【請求項2】
最も含有割合の高い金属粉末と、その他の種類の金属粉末の平均粒径の差が±3μmの範囲内である請求項1記載のハンダ粉末。
【請求項3】
前記中心核の金属種が異なる金属粉末の各含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対し、それぞれ10質量%以上である請求項1又は2項記載のハンダ粉末。
【請求項4】
銀を含むとき銀の含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であり、銅を含むとき銅の含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜2.0質量%であり、ビスマスを含むときビスマスの含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であり、ゲルマニウムを含むときゲルマニウムの含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.01〜0.5質量%であり、ニッケルを含むときニッケルの含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.01〜0.5質量%であり、インジウムを含むときインジウムの含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であり、コバルトを含むときコバルトの含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対して0.1〜10質量%であり、金を含むとき金の含有割合が前記ハンダ粉末の全体量100質量%に対して1〜90質量%である請求項1ないし3いずれか1項に記載のハンダ粉末。
【請求項5】
前記中心核が銅、前記被複層がSnからなる金属粉末と、前記中心核が銀、前記被複層がSnからなる金属粉末の2種類を含有する請求項1ないし4いずれか1項に記載のハンダ粉末。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載のハンダ粉末とハンダ用フラックスを混合してペ
ースト化することにより得られたハンダ用ペースト。
【請求項7】
電子部品の実装に用いられる請求項6記載のハンダ用ペースト。

【図1】
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【公開番号】特開2012−76086(P2012−76086A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−220813(P2010−220813)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】