説明

バイオ燃料および5−(ヒドロキシメチル)−フルフラールなどの他の有用な生成物の調製

木材廃棄物、農業廃棄物、および古紙などの原料からポリカーボンバイオ燃料を製造することができる。原料は、疎水性の容易にペレット化可能な高いエネルギー密度を有するバイオ燃料に変換するように、原料中のセルロースおよび類似の材料を酸性条件下において加熱することができる。バイオ燃料は、従来のバーナー中で燃焼させうる混合燃料を提供するように、石炭または他の燃料と混合されてもよい。あるプロセスは、原料のスラリーを形成し、スラリー中に二酸化炭素を分散させて5未満のpHを達成させ、原料からポリカーボンバイオ燃料への変換が起こるまで、170℃〜300℃の範囲の温度でスラリーを加熱する。バイオ燃料はろ過によってスラリー中の液体から分離されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、いずれも参照により本願に組み込む、2009年4月30日に提出され、名称を「被覆された紙製品を再利用するための方法および装置(PROCESS AND APPARATUS FOR RECYCLING COATED PAPER PRODUCTS)」とする米国特許出願第61/174466号、および2009年5月29日に提出され、名称を「5−(ヒドロキシメチル)−フルフラール誘導体および他の生成物の調製(PREPARATION OF 5−(HYDROXYMETHYL)−FURFURAL DERIVATIVES AND OTHER PRODUCTS)」とする米国特許出願61/182378号に優先権を主張する。米国の目的で、本願は、35U.S.C.§119の下に、いずれも参照により本願に組み込む、2009年4月30日に提出され、名称を「被覆された紙製品を再利用するための方法および装置(PROCESS AND APPARATUS FOR RECYCLING COATED PAPER PRODUCTS)」とする米国特許出願第61/174466号、および2009年5月29日に提出され、名称を「5−(ヒドロキシメチル)−フルフラール誘導体および他の生成物の調製(PREPARATION OF 5−(HYDROXYMETHYL)−FURFURAL DERIVATIVES AND OTHER PRODUCTS)」とする米国特許出願第61/182378号に利益を主張する。
(技術分野)
本発明は、糖類、糖源、多糖類(たとえば、セルロース、セルロース誘導体)の化学変換によって有用な材料を生産する方法に関する。いくつかの実施形態は、木、紙、肥料、食品廃棄物などの炭素含有材料からバイオ燃料を生産するための方法および装置を提供する。いくつかの実施形態は、5−(ヒドロキシメチル)−フルフラールおよび関連する材料を、1種以上の糖類または1種以上の糖源から生産するための方法および装置を提供する。本発明は、廃多糖類を再利用するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
新しいエネルギー源が必要とされている。バイオ燃料は、石炭や石油などの化石燃料に替わりうるものとしてもてはやされている。たとえば、トウモロコシや他の種類の植物からエタノールを生産する技術の開発に、何百万ドルもの投資が行われてきた。しかしながら、エタノールは、生産に費用がかかりうるとともに、多く用途に対して理想的な燃料ではない。
【0003】
固形廃棄物の処理は、多くの市政機関や他の政府機関が直面する別の課題でもある。古紙からのセルロース繊維などの廃多糖類は、様々な理由により、再生利用プログラムから除外されることが多い。このことが、埋立地への廃棄物の蓄積をもたらす。埋立地が満杯になるにつれ、生ゴミの焼却がますます考慮されてきている。しかしながら、焼却は汚染をもたらす可能性があり、多くの場所で一般市民からの反対に直面している。生ゴミをエタノールまたは他の液体燃料に変換する計画が提案されている。しかしながら、上述のように、エタノールは多くの用途に対して理想的な燃料ではない。
【0004】
5−(ヒドロキシメチル)フラン−2−カルバルデヒドまたは5−(ヒドロキシメチル)−2−フルアルデヒド(HMF)としても知られる5−ヒドロキシメチル−フルフラールは、多くの工業的および商業的用途を有する。HMFは、多くの重合反応において前駆体として用いることができる。HMFは、界面活性剤、溶媒、薬剤および殺菌剤を生産するために用いることもできる。
【0005】
HMFは、炭水化物の脱水から生産することができる。しかしながら、従来技術において用いられる反応条件は、その後のHMFからレブリン酸やギ酸などの副生物への変換に有利に働き、結果としてHMFの収率が低くなることも多い。フミン類を生成する競合副反応もまた、HMFの収率を低下させる可能性がある。
【0006】
生ゴミを燃料に変換する分野におけるいくつかの公報として、特許文献1〜16が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7252691号明細書
【特許文献2】米国特許第3473494号明細書
【特許文献3】米国特許第3584587号明細書
【特許文献4】米国特許第3961913号明細書
【特許文献5】米国特許第4152119号明細書
【特許文献6】米国特許第4225457号明細書
【特許文献7】米国特許第4496365号明細書
【特許文献8】米国特許第4661119号明細書
【特許文献9】米国特許第5100066号明細書
【特許文献10】米国特許第5429645号明細書
【特許文献11】米国特許第5431702号明細書
【特許文献12】米国特許第5562743号明細書
【特許文献13】米国特許第5779164号明細書
【特許文献14】米国特許第5888256号明細書
【特許文献15】米国特許第6113662号明細書
【特許文献16】米国特許第6506223号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の問題に個別にまたは一括して取り組むための、費用効率が高く、環境に優しい方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、個別にまたは組み合わせて利用されてもよい多数の態様を有する。
本発明の一態様は、多糖類(セルロース、ヘミセルロースまたは関連材料など)、リグニン、糖類または糖前駆体のうちの1種以上からなる投入材料から、固形燃料を生産するための方法を提供する。本方法は、限定はされないが、原料として、たとえば、木材チップ(たとえば、おがくず、退廃した(decadent)ヘムロック、甲虫被害を受けた松の木、樹皮、およびマツ、ヘムロック、スギ、カバノキ、ハンノキ、アスペン、バルサムなどのチップ、森林伐採物、枝および葉、木材解体廃棄物)、パルプ、紙、植物バイオマス(たとえば、ホテイアオイ、ノコギリソウ雑草、限定はされないが海草を含む草、藻類、シアノバクテリア)、農業廃棄物(たとえば、麦わら、植物伐採物、トウモロコシ茎葉、トウモロコシの穂軸、限定はされないが、ウマ、ウシおよびブタの肥料を含む動物肥料、バガス、油やし幹、もみ殻)、都市ゴミ(たとえば、食品ゴミ、庭ゴミ、コーヒーの出し殻、台所ゴミ、使い捨ての紙コップおよび紙皿、古紙、古段ボール)、食品包装材(たとえば、ジュース容器、コーティングしたボール紙製のコップ)、下水汚泥、醸造所の廃棄物、上記のものの任意の混合物などのうちの1種以上を原料として使用してもよい。本方法は、原料のスラリーを提供する工程と、酸性条件下でスラリーを加熱する工程とを含む。いくつかの態様において、スラリー中には1種以上の弱有機酸が存在する。ある実施形態において、1種以上の弱有機酸は、1.5〜3.85の範囲のpKaを有する酸からなる。特定の実施形態において、酸はマレイン酸である。代替の特定の実施形態において、酸はマロン酸である。いくつかの実施形態において、スラリーの処理中にCOガスが存在する。たとえば、スラリーの加熱は、COガスからなる雰囲気、またはCOが豊富な雰囲気中で行ってもよいし、かつ/または、COガスをスラリーの加熱前または加熱中にスラリー中に分散させてもよい。いくつかの実施形態において、COと1種以上の弱有機酸の両方がスラリーの加熱中に存在する。
【0010】
いくつかの実施形態において、原料の処理は、バッチ式で行われる。原料を含む水性スラリーを圧力容器に導入する。酸(いくつかの実施形態においては、弱有機酸)は、原料中に存在するか、原料中に混合し、かつ/またはCOを圧力容器中に導入する。圧力容器は、原料中のセルロースおよび/または他の多糖類および/または糖類が反応して高分子固体材料を形成するのに十分な時間加熱されて高い温度および圧力に維持される。その後、圧力容器の内容物をろ過して、固体材料を回収し、これを乾燥させペレット化させて、固形燃料を提供することができる。他の実施形態は、連続プロセスを提供する。
【0011】
いくつかの実施形態において、高分子固体材料は、石炭または別の固体燃料材料とともにペレット化されて、ハイブリッド燃料を提供する。有益には、高分子固形燃料は疎水性であってもよい。有益には、高分子固形燃料は酸素を含んでいてもよい。
【0012】
いくつかの実施形態において、処理温度は、300℃未満である。いくつかの実施形態において、処理圧力は、5520kPa(800psi)未満である。
いくつかの実施形態において、高分子固形燃料は、500℃以下の温度において実質的に完全に揮発する。いくつかの実施形態において、高分子固形燃料の、空気中での燃焼後の残留灰分は、1/2重量%未満である。
【0013】
いくつかの実施形態において、高分子固形燃料は、少なくとも25GJ/トンのエネルギー密度を有する。
いくつかの実施形態において、低い含水率(たとえば、5%以下の含水率)への乾燥は、固形高分子燃料の疎水性によって易化されるが、ろ過、加圧および風乾などの実用的なエネルギー効率の高い脱水工程によって行ってもよい。
【0014】
本発明の別の態様は、HMFの調製方法を提供する。本方法は、1種以上の糖類を1種以上の弱有機酸とともに、該糖類を脱水してHMFを生成するのに十分な温度で十分な時間加熱する工程を含む。ある実施形態において、1種以上の弱有機酸は、1.5〜3.85の範囲のpKaを有する酸からなる。特定の実施形態において、酸はマレイン酸である。代替の特定の実施形態において、酸はマロン酸である。HMFは、もしあれば他の副生物から分離してもよいし、および/または精製してもよい。
【0015】
本発明の別の態様は、HMFの調製方法を提供する。本方法は、1種以上の糖源を1種以上の弱有機酸とともに、該糖源を脱水して1種以上の糖類を生成した後に該1種以上の糖類を脱水してHMFを生成するのに十分な温度で十分な時間加熱する工程を含む。糖源は、たとえば1種以上の多糖類からなるものであってよい。ある実施形態において、1種以上の弱有機酸は、1.5〜3.85の範囲のpKaを有する酸からなる。たとえば、1種以上の弱有機酸は、マレイン酸および/またはマロン酸からなるものであってよい。HMFは、もしあれば他の副生物から分離してもよいし、および/または精製してもよい。
【0016】
本発明の別の態様は、本明細書中に開示されるような方法によって、固形燃料、HMF、および/またはレボグルコサン(1,6−アンヒドロ−b−D−グルコピラノース)などの他の材料の調製において使用するための装置を提供する。
【0017】
本発明のさらなる態様および本発明の具体的な例示的実施形態を以下に記載、および/または添付の図面中に示す。
添付の図面は、本発明の非限定的な例示的実施形態を示す。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の例示的実施形態によるブロックプロセス図。
【図2】本発明の第2の例示的実施形態によるブロックプロセス図。
【図3】図2の加水分解/脱水段階に対する1つの可能性のある構成に含まれる反応を示す図。
【図4】固形燃料および/または有用な化学物質を製造するためのバッチプラントの概略図。
【図5】固形燃料および/または有用な化学物質を製造するための連続プラントの概略図。
【図6】2つの処理容器を有するバッチプラントの概略図。
【図7】一実施形態によって生産されたバイオ燃料を含む様々な燃料に対する、温度の関数としての重量損失のプロット。
【図8】木材チップおよび木材チップから製造したバイオ燃料のFTIRスペクトル。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の説明全体を通して、本発明のより徹底的な理解を与えるために、具体的な詳細を挙げる。しかしながら、本発明は、これらの詳細以外で実施してもよい。他の例において、開示を不必要に曖昧にすることを避けるために、周知の要素については図示または詳細な記載をしない場合もある。したがって、説明と図面は、限定的ではなく説明的なものとしてみなされるべきである。
【0020】
図1は、本発明の例示的実施形態による方法10のブロックプロセス図である。脱水段階32において、糖類102を酸106と混合し、任意で、1種以上の溶媒108と混合する。その混合物を、糖類を脱水してHMFを含む混合物112を生成するのに十分な温度で十分な時間加熱する。任意で、分離/精製段階34において、混合物112を分離および/または精製して、HMF114を生成してもよい。レブリン酸116、ギ酸118およびフミン類120などの他の生成物があれば、任意で回収してもよい。いくつかの実施形態において、最終生成物質は、固形燃料として有用な高分子炭素含有化合物からなる。
【0021】
糖類102は、1種以上のヘキソースからなるものであってもよい。ある例示的実施形態において、糖類102は、大部分がグルコースからなる。しかしながら、糖類102は、追加的または代替的に、フルクトース、マンノース、ガラクトースまたはそれらの組み合わせなどの他のヘキソースからなるものであってよい。代替的または追加的に、糖類102は、1種以上のペントースからなるものであってよい。糖類102が1種以上のペントースからなる場合には、混合物112はフルフラールを含んでいてもよい。
【0022】
任意の溶媒108は、1種以上の液体からなるものであってよい。ある例示的実施形態において、溶媒108は水からなる。しかしながら、溶媒108は追加的または代替的に、適切な有機溶媒などの他の液体からなるものであってよい。適切な非水溶媒のいくつかの例として、メチルエチルケトンおよび酢酸エチルが挙げられる。
【0023】
酸106は、1種以上の弱有機酸からなるものであってよい。例示的実施形態において、酸106は、マレイン酸からなる。他の実施形態において、1.5〜3.85の範囲のpKaを有する他の有機酸が用いられる。特定の実施形態において、酸106は、1.85〜3.0の範囲のpKaを有する酸からなる。たとえば、酸106は、代替的または追加的に、マロン酸からなるものであってよい。
【0024】
脱水段階32において、糖類102、酸106および任意で溶媒108を混合する。この混合物中には、糖類102が、たとえば一定の濃度範囲で存在していてもよい。酸106もまた、一定の濃度範囲で存在していてもよい。ある例示的実施形態において、酸106は、50mMの濃度で存在する。
【0025】
混合物を、糖類102を脱水してHMFに変換するのに十分な温度で十分な時間加熱する。ある例示的実施形態において、混合物を約345kPa〜約2070kPa(50p.s.i.〜300p.s.i)の範囲の圧力において、170℃〜220℃の範囲の温度で加熱する。しかしながら、混合物は、糖類102を所望のHMF収率に変換するのに十分な別の温度で十分な別の時間にわたり加熱してもよい。たとえば、いくつかの実施形態において、温度は170℃〜250℃の範囲であり、圧力は約345kPa〜約5520kPa(50psi〜800psi)の範囲である。混合物を、糖類102を所望の収量のHMF(または他の所望の最終産物)に変換するのに十分な時間加熱する。ある例示的実施形態では、混合物を、数分から数時間程度の時間加熱する。任意で、混合物をかき混ぜながらまたは攪拌しながら加熱してもよい。
【0026】
脱水段階32の産物はHMFを含む混合物112である。混合物112は、大部分がHMFからなるものであってよい。混合物112は、溶液であってもよい。混合物112は、レブリン酸、ギ酸およびフミン類などの他の生成物をさらに含んでいてもよい。任意で、混合物112を分離/精製段階34において分離および/または精製し、HMF114、および任意で、レブリン酸116、ギ酸118、フミン類120、酸106’および溶媒108’のうちの1種以上を生成してもよい。
【0027】
分離/精製段階34としては、たとえば、ろ過、溶媒抽出、カラムクロマトグラフィー、蒸留(たとえば、真空蒸留)、および/または高速クロマトグラフィーが挙げられる。HMF114、および任意でレブリン酸116、ギ酸118およびフミン類120のうちの1種以上を取り出してもよい。任意で、これらの生成物のうちの1種以上を取り出した後に精製してもよい。
【0028】
酸106’を、任意で脱水段階32に再循環させてもよい。任意で、酸106’を、再循環前に精製および/または再構成してもよい。たとえば、酸106’を、カラムクロマトグラフィーまたは高速クロマトグラフィーを用いて精製してもよい。溶媒108’を、任意で脱水段階32に再循環させてもよい。任意で、溶媒108’を、再循環前に精製してもよい。
【0029】
図2は、本発明の代替例示的実施形態による方法20のブロックプロセス図である。糖源104を、加水分解/脱水段階32’にかける。任意で、糖源104を、加水分解/脱水段階32’に先だって加工段階30において加工してもよい。加水分解/脱水段階32’において、糖源104を酸107および任意で1種以上の溶媒109と混合する。混合物を、糖源を加水分解して糖類を生成し、かつ糖類を脱水してHMFを含む混合物112’を生成するのに十分な温度で十分な時間加熱する。任意で、混合物112’を、分離/精製段階34’において分離および/または精製して、HMF114を生成してもよい。レブリン酸116、ギ酸118およびフミン類120などの他の生成物を任意で回収してもよい。
【0030】
糖源104は、1種以上の炭水化物からなるものであってよい。たとえば、糖源104は、1種以上の多糖類からなるものであってよい。ある例示的実施形態において、糖源104は、セルロース繊維からなる。たとえば、セルロース繊維は、古紙製品からの二次繊維からなるものであってよい。ある代替例示的実施形態において、糖源104は、木材チップまたは木くずから得られるセルロースまたはリグノセルロースからなる。別の代替例示的実施形態において、糖源104はデンプンからなる。糖源104は、分解されて糖類を生成する他の材料からなるものであってもよい。
【0031】
任意の加工段階30は、糖源104を、より加水分解されて糖類を生成しやすくするように変化させる。加工段階30は、1種以上の工程からなるものであってよい。たとえば、加工段階30は、たとえば、ナイフミル中で粉砕することにより、多糖繊維を短縮または切断する機械加工を含んでいてもよい。別の例示的実施形態において、加工段階30は、多糖繊維をたたく(beat)か精錬して、酸107および/または溶媒109の浸透を高めることを含む。
【0032】
酸107は、1種以上の弱有機酸からなるものであってよい。ある例示的実施形態において、酸107は、1.5〜3.85の範囲のpKaを有する弱有機酸からなる。特定の例示的実施形態において、酸107は、1.85〜3.0の範囲のpKaを有する弱有機酸からなる。糖源104、酸107および任意で溶媒109を脱水段階32において混合する。混合物を、糖源を加水分解して糖類を生成し、かつ糖類を脱水してHMFと潜在的に他の生成物とに変換するのに十分な温度で十分な時間加熱する。混合物112’中の生成物の相対収率は、酸107、加熱の温度および時間に依存するであろう。
【0033】
図3は、脱水段階32に対する1つの可能な構成に関与する反応スキーム12、および加水分解/脱水段階32’に対する1つの可能な構成に関与する反応スキーム22を、潜在的に競合する副反応とともに示している。これらの例示的実施形態において、糖源102はグルコースからなり、糖源104はセルロースからなる。
【0034】
反応スキーム22において、セルロースは、その構成要素であるグルコース単位に加水分解される。続いて、および/または同時に、グルコース単位が脱水されてHMFを生成する。反応スキーム12において、グルコースは脱水されてHMFを生成する。両スキームにおいて、レブリン酸が所望の生成物である場合、かつ/または、反応条件がHMF生産用に最適化されていない場合には、実質的な量のHMFを再水和させて、レブリン酸およびギ酸を生成させてもよい。反応条件がHMF生産用に最適化されていない他の例において、グルコースおよび/またはHMFの重合によりフミン類を生成してもよい。
【0035】
混合物112または112’中のHMF、レブリン酸およびフミン類の相対収率は、酸、加熱温度および時間を変えることによって調整してもよい。酸106または107が強酸(たとえば、1未満のpKaを有する酸)からなる場合、HMFからレブリン酸への変換比率は高く、優勢な生成物はレブリン酸となる。酸106または107が非常に弱い酸(たとえば、3.85より大きいpKaを有する酸)からなる場合、条件は、グルコースからフミン類への重合に有利に働く。この例示的実施形態において、酸106または107は、レブリン酸およびフミン類よりもHMFの生産に有利に働く、1.85〜3.0の範囲のpKaを有する弱有機酸からなる。そのような酸の1つとして、マレイン酸がある。特定の例示的実施形態において、マレイン酸は、無水マレイン酸と水を混合することによって得られる。別のそのような酸としてはマロン酸がある。
【0036】
セルロースを酸106または107、および任意で溶媒108または109とともに、セルロースをグルコースに加水分解し、かつグルコースをHMFに脱水するのには十分であるが、有意量のHMFをレブリン酸に脱水するには不十分な時間加熱する。たとえば、試薬は、170℃〜220℃の範囲の温度で数分から3時間加熱してもよい。ある例示的実施形態において、試薬は、200℃〜210℃の範囲の温度で30分〜1時間加熱する。特定の例示的実施形態において、セルロースを、マレイン酸とともに、200℃の温度で1時間加熱すると、HMFが30%〜40%の範囲の収率で生成する。
【0037】
反応スキーム22において、糖源104の特性もまた、混合物112’中のHMF、レブリン酸およびフミン類の相対収率に影響を与えるかもしれない。セルロースの加水分解により、糖類が反応溶液中へ比較的ゆっくりと放出され、これが、糖類のフミン類への重合よりも、HMFへの脱水に有利に働くことになる。
【0038】
例示的実施形態において、1.5gのセルロース繊維をナイフミル中で粉砕し、1mmの平均径と5mmの平均長を有するセルロース繊維を生成した。セルロース繊維を反応容器中で、2.5%の繊維濃度を得るために60mLの50mMマレイン酸と混合した。容器を210℃で45分間加熱し、HMFを含む混合物を生成した。混合物を、ろ過、溶媒抽出およびカラムクロマトグラフィーの組み合わせを用いて分離した。0.9gのHMFが得られた。
【0039】
代替実施形態において、反応スキーム22および/または12における条件を、大部分がフミン類を含む混合物を生産するように最適化してもよい。たとえば、より長い処理時間により、HMFをフミン類に変換する。特定の例示的実施形態において、5.7%の繊維濃度を得るために、古紙からの60gのセルロース繊維を反応容器中で1Lの50mMマレイン酸と混合した。容器を200℃の温度で5時間加熱し、大部分がフミン類を含む混合物を生成した。フミン類をWhatman(登録商標)42フィルタ紙を用いた真空ろ過により溶液から除去し、乾燥させたところ、48gのフミン類が得られた。このフミン類は、1キログラムあたり18.2メガジュールのエネルギー密度を有していた。このようなフミン類は、たとえば、固形バイオ燃料として用いられてもよい。
【0040】
本発明は、多様な実施形態において実施されうるが、いくつかの実施形態は一定の利点を有する。たとえば、セルロースおよびとりわけ廃セルロースからなる糖源104を用いて実施した方法20は、HMFを生成する経済的な方法を提供する。加水分解された無水マレイン酸からなる酸107を用いて実施した方法20もまた、経済的な利点を提供する。このような経済的な利点は、マレイン酸からなる酸107を加水分解/脱水段階32’に再循環させることによって、さらに実現される。
【0041】
ある例示的実施形態において、廃紙製品は、セルロースの供給源として用いられる。そのような実施形態において、廃紙は、シュレッダにかけるか、および/またはパルプにした後に、廃紙からセルロースを加水分解して糖類を生成する第1のプロセス工程に供してもよい。次に、糖類を上述のようにHMF、レブリン酸およびフミン類のうちの1種以上を生成する第2のプロセス工程に供する。いくつかの実施形態において、第2のプロセス工程における反応条件は、主にHMF、レブリン酸およびフミン類を選択的に生産するために、経時的に変更される。いくつかの実施形態において、第2のプロセス工程におけるプロセス条件は、主としてレブリン酸またはフミン類を生成する条件から、主としてHMFを生成するプロセス条件へ、またはその逆に切り換えられる。
【0042】
他の経済的利点は、フミン類を生産するように方法を最適化した時に実現される。たとえば、廃紙からのセルロースからなる糖源104と、フミン類の生産に有利に働く反応条件とを用いて実施される方法20は、廃製品から燃料を生産する方法を提供する。生産されるフミン類は、石炭燃焼発電所において発電のために用いられる褐炭と類似している。したがって、本明細書に記載の方法の1つの用途は、幅広い種類の原料から固形燃料を生産することである。
【0043】
原料(たとえば、上述の種類について)から固形燃料を生産するための例示的バッチ方法において、パルプ化された原料を圧力容器(反応器)に入れ、COの泡をパルプ化原料に通すか、パルプ化原料に酸を加えるかのいずれかまたはその両方を行う。いくつかの実施形態において、反応器を、加熱前に101kPa(1気圧)を超える圧力まで、COガスで加圧する。次に反応器を適切な温度(たとえば、少なくとも約180℃、および典型的には180℃〜250℃の範囲または300℃)に加熱する。望ましい温度は、加熱前のパルプ化原料のpHや、処理を完了するのに許容される時間などの要因に依存するであろう。酸が強ければ強いほど(すなわち、pHが低いほど)、低い温度しか要しない。温度が高ければ高いほど、処理時間は短くなる。いくつかの実施形態において、反応器は、加熱前に、101kPa(1気圧)を超える圧力までCOガスで加圧される。
【0044】
たとえば、COの泡をパルプスラリーに通して、約3から約4までの範囲のpHを与えるようにしてもよい。次に反応器を密封して、220℃で1時間加熱して、固形バイオ燃料材料を生産してもよい。バイオ燃料は、適切なろ過によって液体から分離し、乾燥させ、ペレット、ブリケットなどに圧縮してもよい。
【0045】
バイオ燃料が所望の最終産物である場合、グルコースおよび/または有機化合物などの使用可能な化学物質を任意で取り除いてもよい。有機化合物は、たとえば、レブリン酸、ギ酸、および/または5−ヒドロキシメチルフルフラールからなるものであってよい。これらの化合物を、分離および精製してから、販売または使用してもよい。グルコースを精製し、販売または使用してもよいし、たとえば、酵母菌(Saccharomyces cerevisiae)を用いて発酵させてもよい。
【0046】
図4はある例示的実施形態によるバッチ様式装置200の概略図である。原料202が破砕段階203に入り、ここで原料は粉砕状態に分割される。破砕段階203は、適切なチョッパ、シュレッダ、マルチャなどからなるものであってよい。粉砕された原料はパルパー205に導入され、ここで、水または別の水性溶媒と混合、攪拌されてスラリーを形成する。このスラリーは、ヒーター208を備えた圧力容器206に供給される。
【0047】
圧力容器206に入る前または後のいずれかに、スラリーを酸性にする。このことは、スラリーに酸211を加えること、およびスラリーをCOと接触させることの1種以上によって行ってもよい。いくつかの実施形態において、COガスを水中に沈めたスパージャ214からスラリー中に分散させる。圧力容器206を密封した後、圧力容器206中の雰囲気が大気圧または大気圧を超える圧力のCOを含むか、またはCOから構成されるまでCOガスを追加してもよい。いくつかの実施形態において、COは最初は約138kPa(約20psi)(大気圧より高い)の圧力にある。スラリーは、5以下のpHを有することが望ましい。
【0048】
装置200によって実施される処理の動作のいくつかまたは全局面を制御するために、処理制御装置を設けてもよい。図示の実施形態において、制御装置212は、圧力容器206のpH、温度および圧力を監視する。制御装置212は、スラリーの温度を約170℃〜300℃の範囲の温度に上昇させかつ維持するために、圧力容器206の内容物の加熱を制御するように連結されてもよい。制御装置212は、加熱された圧力容器206内の圧力をたとえば約345kPa〜約5520kPa(50psi〜800psi)の範囲に維持してもよい。加熱は、スラリー中の実質的にすべてのセルロースが糖類に加水分解され、該糖類が結合して有機ポリマーを形成するまで続けてもよい。制御装置212は、処理の間スラリーの流れを制御するために、任意でバルブなどに連結されてもよい。
【0049】
加熱後、処理済みのスラリーを圧力容器から取り除き、ろ過段階220において固体ポリマーを残余液体から分離する。液体は、原料の別のバッチを処理する際に使用するために再循環させてもよい。固体は、下流の用途のために包装または加工されてもよい。たとえば、ろ過された固体221を、燃料として使用するために乾燥させて、ペレット化してもよい。
【0050】
いくつかの実施形態において、少なくとも部分的に、圧力容器内の監視されたグルコースの濃度に応答して、加熱中の制御が達成される。グルコースの濃度は、圧力容器内にある、または圧力容器内からの流体35が流出可能な場所にある、適切なセンサを用いて監視されてもよい。いくつかの実施形態において、グルコースは、圧力容器内の材料の近赤外スペクトル(連続スペクトルとして、またはグルコースの存在に特徴的な1種以上の周波数帯域において)をモニタリングすることにより監視される。溶液中のグルコース濃度は、最初に、セルロースがグルコースに変換する際に上昇することが予想される。すべての初期原料が処理されたところで、グルコース濃度が低下し始める。グルコース濃度を示す信号を受信するように連結された制御装置は、たとえば、グルコース濃度の低下を検出したこと、グルコース濃度の最初の上昇に続く低下を検出したこと、および/または、グルコース濃度が閾値未満に低下したことなどに応答して加熱を終了するように構成されてもよい。
【0051】
より具体的な例示的実施形態において、セルロース材料の水性スラリーを含む圧力容器を200℃〜300℃の範囲の温度で、数分から数時間加熱する。典型的な条件は、230℃で45分間である。反応条件下において、セルロースは水和されてグルコースになる。グルコースは反応して多数の化学物質および転換生成物になるが、これには、2,5−ヒドロキシメチルフルフラルデヒド、レボグルコサン、および2,5−HMFの多環誘導体が含まれていてもよい。HMFを、MEKなどの非水性相と接触させることによって除去することもできるし、疎水性かつ優れたエネルギー密度を有する固体を形成するHMFの多環誘導体を形成するようにさらに反応させることもできる。主たる所望の最終産物が固形燃料である場合には、生産されたあらゆるHMFの少なくとも大部分がさらに反応するのに十分な時間、反応条件を維持する。温度を均一に保ち、すべてのセルロース(および他の多糖類)が反応する機会を確保するために、処理の間中、スラリーをかき混ぜるか攪拌することが望ましい。
【0052】
図5は、別の例示的実施形態による連続様式装置300の概略図である。原料202は、破砕段階203に入り、ここで原料は粉砕状態に分割される。破砕段階203は、適切なチョッパ、シュレッダ、マルチャなどからなるものであってよい。粉砕された原料はパルパー205に導入され、ここで、水または別の水性溶媒と混合、攪拌されてスラリーを形成する。
【0053】
スラリーは変換段階310において容器に供給される。スラリーは、酸をスラリーと混合することにより、および/またはスラリーをCOと接触させることにより、酸性にされる。図示の装置300は、変換段階310の上流にある混合容器312を含み、該容器中に酸供給源313からの酸を混合させてもよい。スパージャ314をCOの供給源315に連結して、COの微気泡が混合容器312中のスラリー全体に分散できるようにする。混合容器312中に存在するスラリーを混合するために、攪拌機または他の混合機構を設けてもよい。
【0054】
酸性スラリーはポンプ317によって変換段階310に送達される。変換段階310は、1つ以上の圧力容器316からなる。酸性スラリーは、変換段階310において、スラリーを圧力容器316の一端から他端に通過させるのに要する時間加熱される。制御装置318は、容器316内のスラリーのpH、温度および圧力を監視する。
【0055】
pHが閾値よりも上昇すると、制御装置318が混合容器312および/または容器316への酸の添加を始動させるようにしてもよい。制御装置318は、スラリーの温度および圧力を、たとえば、容器316内においてそれぞれ175℃〜300℃および約345kPa〜約5520kPa(50psi〜800psi)の範囲に維持するように構成されてもよい。制御装置318は、溶媒、酸および/または二酸化炭素を処理に加えるための、制御ポンプ、バルブ、または他の計量装置に連結されていてもよい。制御装置318は、容器316の加熱を制御するように連結されていてもよい。
【0056】
容器316からの処理済みスラリーは冷却され、液体/固体分離に供されるが、たとえば、固体をろ過によって分離してもよい。ろ過段階320を図5に示す。液体はプロセス中で再循環させてもよい。図示の実施形態において、液体はライン323によって溶媒供給源322に戻される。ろ過後、固体を、たとえば風乾、加圧などによってさらに乾燥させてもよい。図5にはプレス機325が示されている。
【0057】
得られた固体を、燃料として使用するのに適した形状に加工してもよい。たとえば、固体を、ペレットまたはブリケットなどに圧縮してもよいし、石炭、木材または別の燃料材料の粒子同士を結合させるための結合剤として使用してもよいし、別の燃料材料と混合した後にペレットまたはブリケットなどに圧縮してもよい。
【0058】
図6は、上述のようなバイオ燃料の生産において適用可能な別の例示的装置400を示す。パルプ化された原料をスケール401によって2つの消化槽402のうちの一方に送る。消化槽402のそれぞれは、たとえば、3800Lの容量を有していてもよい。消化槽402は、協動させてもよいし、一方の消化槽を作動させて、他方を充満または空にしておくようにしてもよい。消化槽402の内容物を、循環ポンプ404Aおよび熱交換器404Bからなる加熱ループ404を介した循環によって加熱してもよい。熱交換器404Bは、たとえば水蒸気によって加熱されてもよい。
【0059】
赤外線ポート404Cは、循環中のスラリーの化学的構成を適切な機器(たとえば、赤外分光計)によって監視できるようにする。篩405は、より大きい固体が加熱ループ404を介して引き抜かれることを防止する。
【0060】
ガス供給源(たとえば、COガスの供給源407)を設けてもよい。供給源407のガスは、消化槽に含まれるスラリーのpHを調整するため、および/または、槽内の内容物を攪拌するために、槽402内へ選択的に導入されてもよい。
【0061】
消化槽402の内容物が十分に加熱された後に、内容物をスラリー槽415に移してもよい。細かいスクリーンフィルタ417により、スラリー中の液体から固体を分離する。固体は、ペレタイザ418を通過し、ここで固体は燃料としての使用に適したペレットに圧縮される。流体は、液体槽420を通過するが、消化槽402の充填工程の間に、流体はここから消化槽402へ戻されてもよい。
【0062】
触媒槽425は、原料をバイオ燃料としての使用に適したポリカーボン組成物に変換することを触媒もしくは易化する酸または他の材料を含む。プロセス全体またはその一部の動作を自動化するために、標準的な方法により、適切なプロセス制御装置(図6には示さず)を構成し、連結させてもよい。
【0063】
本明細書に記載した処理によって生産可能な固体ポリカーボンバイオ燃料は、2,5−HMFの疎水性多環誘導体を含む。いくつかの実施形態において、固体ポリカーボンバイオ燃料は、1モルあたり約1000から1500または2000グラムの範囲の平均分子量を有する。いくつかのポリカーボン分子、特に1モルあたり約1000グラム未満のものは、アセトンに溶けやすく、アセトンまたは別の適切な溶媒中に溶解させることによって、分離することができる。いくつかの実施形態において、必要に応じて、液体バイオ燃料を生産するための加工のために、短鎖ポリカーボン分子を適切な溶媒中に溶解して、取り出す。
【0064】
ろ過されなかった短鎖ポリカーボン分子を、分離された液体とともにプロセスへ戻してもよい。新鮮な原料が、再循環された水および短鎖ポリカーボン分枝を含むスラリー中で処理される場合には、このような可溶性ポリカーボン鎖は、互いに、および新鮮な原料と反応して、固体を形成することができる。再循環によりエネルギーを節約することができ、廃水を処理する必要も低減または回避される。
【0065】
上述の方法において、上述の方法を用いて実施されるかどうかに拘わらず、最終産物の性質は、プロセス条件を変更することによって変えることができる。たとえば、
1.スラリーの固体の充填量を変えてもよい。いくつかの実施形態において、スラリーの固体含量は、固体重量で約1%〜20%の範囲である。固体の充填量が高いほど、処理中のセルロースの濃度が高く、より多くの多環固体が形成される。濃度が低いほど、反応産物としてグルコースとHMFが優勢となる。所望の最終産物が固形燃料である場合には、スラリーを相対的に濃縮されたものにしておく(たとえば、固形分が10%以上)ことが望ましく、原料のセルロースおよび/またはヘミセルロースの濃度が高いことが望ましい。
2.処理温度は、200℃かそれより幾分低い温度から、300℃または350℃までの範囲であってよい。220℃〜260℃の範囲のプロセス温度が典型的である。温度が低いほど、セルロースの最終産物への加水分解を完結するために必要な時間が長くなる。温度が高いほど、多環炭素化合物の形成が優勢となる。温度が低いほど、反応産物としてグルコースとHMFが優勢となる。所望の最終産物が固形燃料である場合、比較的高い、たとえば、少なくとも約250℃の温度を用いることが望ましい。pHが比較的高い場合には、pHが高まるにつれて反応速度が低下する傾向にあるため、範囲の上限にかけての加熱温度が望ましいかもしれない。
3.処理中の圧力容器内の雰囲気およびスラリーに酸を加えるか否かが、最終産物に影響を及ぼしうる。スラリー上の圧力容器内をCO雰囲気とした場合、COはスラリー中に溶解して、セルロース分子を水和し、得られるグルコースを2,5−HMFに変換するのに十分に強い酸であるHCOを与える。スラリー中に溶解したCOによって与えられる状態は、2,5−HMFをレブリン酸およびギ酸に変換するのに十分な酸性ではない。そのかわりに、この状態は、2,5−HMFが2,5−HMFの多環誘導体に分解しやすいというものである。所望の最終産物が固形燃料である場合、スラリーは、たとえばスラリーをCOと接触させることによって達成可能なように、弱い酸性(たとえば、pHが約3から約4まで)であることが望ましい。4.処理時間が長いほど、より多くの多環固体が形成される。処理時間が短いほど、形成される多環固体は少なくなる。処理時間が短いほど、グルコースおよび2,5−HMFの生産が優勢となる。所望の最終産物が固形燃料である場合、処理時間は短すぎないことが望ましい。
6.鉄または鋼などの二次触媒の導入が、ポリカーボン固体の生産を増加させるかもしれない。槽材料の選択も、ポリカーボン固体の生産に影響を及ぼすかもしれない。耐食性のステンレス鋼槽が、溶液中の材料のポリカーボン固体への触媒をさらに支援する。所望の最終産物が固形燃料である場合、鋼またはステンレス鋼圧力容器を用いるか、および/または、圧力容器中に鉄または鋼触媒部材などの触媒を提供することが望ましい。
【0066】
有益なことに、鉄含有触媒が、原料中に存在するかもしれない芳香族化合物の分解に有利に働くかもしれない(たとえば、原料がクレオソートまたは別の芳香族含有防腐剤で処理された木材からなる場合に起こりうる)。
実施例
実施例1:1240mLの240mM HCl溶液を150グラムのヘムロックパルプチップに加え、圧力容器中に密封した。圧力容器を200℃で2時間加熱した。63.4gのバイオ燃料が生成された。収率は45%であった。バイオ燃料のエネルギー密度は、30GJ/トンであった。
【0067】
実施例2:389グラムのセルロースと6000mLの100mMマレイン酸を圧力容器に入れた。この圧力容器を200℃で300分間加熱した。グルコース収量は65gであり、固形バイオ燃料ポリカーボンまたはフミン類の収量は75グラムであった。
【0068】
実施例3:200グラムの70%の固形分を含むヘムロックチップを、水にCOの気泡を5分間通すことによって作成した800mLの水性溶液とともに、圧力容器に入れた。固体の充填量は、15%固形分と算出された。圧力容器を密封し、COをフラッシングして、溶液の上方にCO雰囲気を与えた。密封した圧力容器を対流式オーブン中に置き、236℃で120分間加熱した。この温度において、圧力容器内の圧力は、約3100kPa(450psi)であった。その後、圧力容器を空気中で30℃まで冷却し、開封した。処理後のスラリーをろ過して、液体から固体を分離した。固体を乾燥させたところ、73.04グラムの重量があることがわかった。バイオ燃料に変換された乾燥固体の収率は61.2%であると算出された。乾燥固体を、独立実験室においてASTMD240を用いて調べたところ、約30.5GJ/kg(13,100BTU/lb)のエネルギー密度を有することがわかった。このことは、約19.8GJ/kg(8,500BTU/lb)のエネルギー密度を有するパウダー・リバー盆地石炭(低SO)および約29.1GJ/kg(12,500btu/lb)の平均エネルギー密度を有するアパラチア瀝青炭(高SO)によく匹敵する。生成されたバイオ燃料の硫黄含量は、315PPM未満であると測定された。原料物質を60℃の乾燥器中で絶乾まで乾燥させ、独立実験室においてASTMD240を用いてエネルギー密度を測定した。エネルギー密度は約21.1GJ/kg(9060BTU/lb)であると測定された。プロセスは、質量エネルギー密度を1.45倍増加させた。
【0069】
実施例4:70%固形分を含む213.672グラムのヘムロックチップを、水にCOの気泡を5分間通すことによって作成した800mLの水性溶液とともに、圧力容器に入れた。固体の充填量は、17%固形分と算出された。圧力容器を密封し、COをフラッシングして、スラリーの上方にCO雰囲気を与えた。密封した圧力容器を対流式オーブン中に置き、236℃(この温度において、圧力容器内の圧力は、約3100kPa(450psi)であった)で90分間加熱した。その後、圧力容器を空気中で30℃まで冷却し、この温度にて開封し、処理後のスラリーをろ過して、液体から固体を分離した。固体を乾燥させたところ、98.971グラムの重量があることがわかった。バイオ燃料に変換された乾燥固体の収率は72.3%であると算出された。乾燥固体を、独立実験室においてASTMD240を用いて調べたところ、約28GJ/kg(12,000BTU/lb)のエネルギー密度を有することがわかった。原料物質を60℃の乾燥器中で絶乾まで乾燥させ、独立実験室においてASTMD240を用いてエネルギー密度を測定した。プロセスは、質量エネルギー密度を1.33倍増加させた。
【0070】
実施例5:200gのヘムロックパルプチップ(60%乾燥固形分)を1.25Lバイオリアクタに入れ、800mLのカルボキシル化された水を加えた。チップの固体充填量は、15%乾燥固形分であった。このバイオリアクタにCOをフラッシングし、密封した。バイオリアクタを乾燥器に入れ、250℃に加熱した。加熱時間は合わせて3.5時間であった。バイオリアクタを放冷し、開封した。著しいガス発生が見られた。グルコース含量は、38mM/Lであった。固形分を乾燥させ、計量した。61グラムの黒色固体ポリカーボンバイオ燃料が生成した。ガスの発生は、加熱時間を短くすると、バイオ燃料の収率が高まるかもしれないことを示唆する。
【0071】
実施例6:上述のようにして生成された10gのバイオ燃料を10gの木炭と混合し、5トンプレス機を用いて圧縮し、直径約38mm(1.5インチ)および厚さ約6.4mm(1/4インチ)のペレットとした。固体ペレットは、粉塵を発することなくよく燃焼して、27GJ/トンのエネルギー密度を与えた。
【0072】
実施例7:上述のように生成されたバイオ燃料を炭塵と1:1で混合し、5トンプレス機を用いて圧縮し、直径約38mm(1.5インチ)および厚さ約6.4mm(1/4インチ)のペレットとした。この固体ペレットは、粉塵を発することはなかった。
【0073】
図7は、ヘムロック木材(曲線450A)、無煙炭(曲線450B)、セルロース(濾紙)(曲線450C)および上述のように生成されたバイオ燃料(曲線450D)について、温度の関数としての重量をプロットしたグラフである。曲線450Dからは、バイオ燃料が石炭よりも有意に低い揮発温度を有することがわかる。曲線400Aに見られるような低温における木材の質量の大幅な低下は、木材の乾燥によるものである。
【0074】
図8は、ヘムロック木材チップ(曲線452A)および、CO(炭酸)で飽和したスラリーと、230℃で3時間の処理を用いて上述のようにヘムロック木材チップから生産されたバイオ燃料(曲線452B)についてのフーリエ変換赤外分光法(FTIR)の結果を示す。バイオ燃料のエネルギー含量は、1トンあたり30GJであった。
【0075】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、少なくともいくつかの実施形態において生成されたバイオ燃料が、糖から環状エーテル化合物への脱水と、それに続くエーテル化合物から複合固体ポリマーへの重合を伴う機構によって形成されたと考えられる。
【0076】
いくつかの実施形態は、以下の利点の1種以上を提供しうる(いずれの特定の実施形態がこれらの利点のいずれを与えるかは強制的ではない)。
・温度および圧力の反応条件は、超臨界水(372℃を超える温度と、約22.2MPa(3216psi)を超える圧力)を与えるのに必要とされる反応条件の場合よりも遥かに穏和なものとなりうる。
・湿気の存在下で水の吸収または膨脹を生じにくい固形燃料製品が生産されうる。
・生産された固形燃料は、他の燃料材料のための結合剤として使用可能でありうる。
・固形燃料は、処理に先だって原料を乾燥させる必要なく生産可能でありうる。
・生産される固形バイオ燃料は容易にペレット化されうる。
・生産される固形バイオ燃料は、それ自体を燃焼させてもよいし、石炭、木材ペレットなどの他の燃料と混合してもよい。
・生産される固形バイオ燃料および上清流体は、プロセス条件によって滅菌される。原料中に存在しうる病原体、虫および他の望ましくない生物物質は、取り除かれうる。
・上清流体は、プロセスに再循環され、再度使用されてもよい。
・プロセスは、油脂やプラスチックなどの混入物に耐性であり、したがって、そのような物質をきめ細かく上流で除去する必要はない。
・生産される固形バイオ燃料は、石炭バーナーや木材ペレットバーナーなどの既存の設備において、それ自体をまたは他の燃料と混合されて燃焼させることができる。
・反応中にCOが存在する場合は、他の酸に対する要求を低減または除外することができ、処理されたスラリーを中和する必要もなくなりうる。
・生産される固形バイオ燃料は酸素を含み、きれいに燃焼しやすい。いくつかの実施形態において、バイオ燃料は、重量で約0.37の酸素含量を有する。いくつかの実施形態において、バイオ燃料は、6つの炭素原子のそれぞれに対して3つの酸素原子を含む元素組成を有する。
【0077】
本明細書に記載する技術は、いずれも参照により本願に組み込む2009年4月30日に提出され、名称を「被覆された紙製品を再利用するための方法および装置(PROCESS AND APPARATUS FOR RECYCLING COATED PAPER PRODUCTS)」とする米国特許出願第61/174466号、ならびにこれと同時に提出された同じ名称の対応するPCT特許出願と組み合わせて応用してもよい。バイオ燃料を生産することが望ましい場合には、原料中に存在していたかもしれない任意の被覆材料の粒子を分離することに強制はされない(このことは、いくつかの実施形態において行いうるが)。バイオ燃料は、小さいプラスチック被覆粒子(たとえば、約1mm〜2mm未満の寸法を有する塗膜の部分)を含んでいてもよい。バイオ燃料(任意のプラスチックを含む)は、適切なろ過によって分離し、乾燥および圧縮して、ペレットやブリケットなどにしてもよい。
【0078】
多数の例示的態様および実施形態を上述してきたが、当業者であれば、それらの特定の変更、置換、追加およびサブコンビネーションを認識するであろう。したがって、以下の添付の請求項および以下に紹介する請求項は、そのようなすべての変更、置換、追加およびサブコンビネーションを含むものと解釈される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖、ヘミセルロース、セルロースおよびリグニンのうちの1種以上からなる原料から、固形バイオ燃料を製造する方法であって、
原料の水性スラリーを提供する工程と、
スラリーを酸性にする工程と、
170℃〜300℃の範囲の温度および大気圧を超える圧力で、原料が反応して固体疎水性ポリカーボン化合物を生成するのに十分な時間、スラリーを加熱する工程と
を含む方法。
【請求項2】
スラリーを酸性にする工程は、スラリーにCOを分散させる工程を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
スラリーを加熱する工程は、圧力容器中で実施され、前記方法は、スラリーを加熱する工程の前に、圧力容器内のヘッドスペース領域をCOで充填する工程を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
スラリーを酸性にする工程は、スラリーに酸を加える工程を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
酸は有機酸からなる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
有機酸は、炭酸、ギ酸、マレイン酸、シュウ酸、およびそれらの1種以上の混合物からなる群より選択される酸からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
有機酸は、炭酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸、リンゴ酸、マロン酸、およびシュウ酸、ならびにそれらの1種以上の混合物からなる群より選択される酸からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
有機酸は、1.5〜3.85の範囲のpKaを有する酸からなる、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
酸は無機酸からなる、請求項4に記載の方法。
【請求項10】
無機酸は、硫酸、塩酸、臭化水素酸、硝酸およびリン酸、ならびにそれらの組み合わせからなる群より選択される酸からなる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
加熱は、5〜180分間実施される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
スラリーの加熱中、スラリーを固体触媒に暴露する工程を含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
固体触媒は鉄または鋼からなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
原料は、多糖類、セルロース、ヘミセルロース、リグニン、糖、木材チップ、おがくず、樹皮、およびマツ、ヘムロック、スギ、モミ、トウヒ、カバノキ、ハンノキ、アスペンまたはバルサムのチップ、森林伐採物、枝、葉、木材解体廃棄物、パルプ、紙、植物バイオマス、ホテイアオイ、ノコギリソウ、草、海草、藻類、シアノバクテリア、農業廃棄物、麦わら、植物切断物、トウモロコシ茎葉、トウモロコシの穂軸、動物飼料、ウマ飼料、ウシ飼料、ブタ飼料、バガス、油やしの幹、もみ殻、都市ゴミ、食品ゴミ、庭ゴミ、コーヒーの出し殻、台所ゴミ、使い捨ての紙コップおよび紙皿、古紙、古段ボール、食品包装材、ジュース容器、コーティングしたボール紙製のコップ、下水汚泥、醸造所の廃棄物、およびそれらの1種以上の混合物のうちの1種以上からなる、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
ポリカーボン化合物をろ過によってスラリーから分離する工程、およびポリカーボン化合物をペレットに圧縮する工程を含む請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ポリカーボン化合物をペレットに圧縮する工程の前に、ポリカーボン化合物を粉砕燃料と混合する工程を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
粉砕燃料は石炭または木材からなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ポリカーボン化合物は、500℃未満の温度において実質的に完全に揮発性である、請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
糖類を脱水して環状エーテル化合物にし、続いて、エーテル化合物を重合させて複合固体ポリマーにする工程を含むプロセスの固形バイオ燃料生成物。
【請求項20】
バイオ燃料は疎水性である、請求項19に記載の固体バイオ燃料。
【請求項21】
5−ヒドロキシメチル−フルフラールの調製方法であって、
糖源を、1種以上の弱有機酸とともに、糖源をその構成要素である糖に加水分解するとともに前記糖を脱水して5−ヒドロキシメチル−フルフラールするのに十分な温度で十分な時間加熱する工程を含む方法。
【請求項22】
1種以上の酸は、1.5〜3.85の範囲のpKaを有する酸からなる、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
酸はマレイン酸からなる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
温度は170℃〜220℃の範囲である、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
時間は数分から3時間の範囲である、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
加熱の前に糖源を加工する工程をさらに含む、請求項21に記載の方法。
【請求項27】
糖源は多糖からなる、請求項21に記載の方法。
【請求項28】
糖源は、セルロース、デンプン、リグノセルロース、またはそれらの組み合わせからなる、請求項21に記載の方法。
【請求項29】
5−ヒドロキシメチル−フルフラールの調製方法であって、
1種以上の糖類を、1種以上の弱有機酸とともに、前記糖類を5−ヒドロキシメチル−フルフラールに脱水するのに十分な温度で十分な時間加熱する工程を含む方法。
【請求項30】
1種以上の糖類はヘキソースからなる、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
酸はマレイン酸からなる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
マレイン酸を再循環させる工程をさらに含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
1種以上の糖が、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、またはそれらの組み合わせからなる、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
炭素原子と酸素原子との比が約6:3であり、エネルギー密度が少なくとも25GJ/トンである高分子炭素からなる含酸素疎水性バイオ燃料組成物。
【請求項35】
本明細書に記載の任意の新規および進歩性のある工程、行為、工程および/または行為の組み合わせ、または工程および/または行為のサブコンビネーションからなる方法。
【請求項36】
本明細書に記載の任意の新規および進歩性のある要素、要素の組み合わせ、または要素のサブコンビネーションからなる装置。
【請求項37】
本明細書に記載の任意の新規および進歩性のある物質、物質および/または特性の組み合わせ、物質および/または特性のサブコンビネーションからなるものの組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−525447(P2012−525447A)
【公表日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507549(P2012−507549)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際出願番号】PCT/CA2010/000647
【国際公開番号】WO2010/124381
【国際公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(511264641)イヴ リサーチ インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】EVE RESEARCH INC.
【Fターム(参考)】