説明

パターンを有する塗膜の製造方法及びその方法により得られた塗膜

【課題】塗膜表面に異物や汚れなどをもたらすことなく、塗膜表面の所定位置に正確に、かつ簡単な手段により凹凸状のパターンを、フィラーを用いないで形成し得る方法を提供する。
【解決手段】基材上に、塗工液を塗布して塗布層を形成後、乾燥処理し、場合によりさらにエネルギーを印加して塗膜を形成させるに際し、前記塗布層の形成後、加熱面に温度分布を有する所定形状のパターンが設けられた加熱板を、前記基材の裏面側に接触させることにより、該塗布層を乾燥すると共に、その表面に凹凸状のパターンを形成させることにより、パターンを有する塗膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パターンを有する塗膜の製造方法、その方法により得られたパターンを有する塗膜及び該塗膜が設けられてなる物品に関する。さらに詳しくは、本発明は、塗膜表面に異物や汚れなどをもたらすことなく、塗膜表面の所定位置に正確に、かつ簡単な手段により凹凸状のパターンを、フィラーを用いないで形成し得る方法、その方法により製造され、例えば粘着剤層、光学用ハードコート層、艶調整層などとして有用な表面に凹凸状のパターンを有する塗膜、及び基材上に該塗膜が設けられてなる物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表面に凹凸状のパターンが設けられた塗膜は、種々の分野において利用されている。例えば粘着シートの分野においては、粘着シートの面積がある程度広い場合には、粘着剤層と被着体との間に空気の留まりが残留しやすく、その部分がふくれとなって、粘着シートを被着体にきれいに貼付できにくいという問題が生じる。
このような問題を解決するために、これまで、粘着剤層面に空気の流通経路を設け、粘着シートの貼付時に、空気をこの流通経路を介して逃がし、空気の留まりが残留しないようにすることが種々試みられている。例えば独立した多数の小凸部を散点状に配置した粘着剤層を有する粘着加工シート(例えば、特許文献1参照)、複数の凸部と、隣接する凸部間に溝部を形成した粘着剤層を有する粘着シート(例えば、特許文献2参照)などが開示されている。しかしながら、これらの技術を用いて粘着剤層に凹凸状のパターンを形成するには操作がやっかいで、作業性が悪いなどの問題があった。
一方、CRTや液晶表示体などのディスプレイにおいては、画面に外部から光が入射し、この光が反射して(グレアーあるいはギラツキなどといわれる)表示画像を見難くすることがあり、特に近年、ディスプレイの大型化に伴い、上記問題を解決することが、ますます重要な課題となってきている。
このような問題を解決するために、これまで種々のディスプレイに対して、様々な防眩処置がとられている。その一つとして、例えば液晶表示体における偏光板に使用されるハードコートフィルムや各種ディスプレイ保護用ハードコートフィルムなどに対し、その表面を粗面化する防眩処理が施されている。このハードコートフィルムの防眩処理方法としては、一般に、ハードコート層形成用のハードコート剤にフィラーを混入する方法がとられている。しかしながら、フィラーとして、通常のシリカ粒子を用いた場合、コート剤中での均質な分散が難しく、シリカ粒子の沈降や、凝集などが生じ、安定した防眩性ハードコート層を形成することは困難である。
また、化粧シート分野においては、通常艶調整層を設けることが多く行われている。この艶調整層は、一般に光の反射率を適度に抑制したものが多く、通常艶調整層形成用塗料に、適度の艶消し剤を分散させたものを塗布することにより作製される。
艶消し剤としては、例えばマイカ、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、ケイソウ土、ケイ砂、あるいはシラスバルーンのような中空体粒子などの無機系粒子や、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等の合成樹脂の粒子が用いられる。
しかしながら、このような艶消し剤を用いた場合、表面に艶消し剤の粒子による凹凸が形成されるため、表面粗度が大きく、きめの細い表面が得られにくいという問題があった。
このような塗工液にフィラーを分散させて、塗膜表面に露出させる方法は、分散状態、乾燥条件などにおいて技術的な課題が多く、また塗工液のレオロジー特性に左右されるため、材料設計に時間がかかることも問題点として挙げられる。
ところで、フィラーを用いないで、塗膜表面に凹凸状のパターンを形成する方法として、エンボスロールにより押圧する方法が知られている。例えば、表面に規則的な微細凹凸パターンが形成された反射防止効果等を有するエンボスシート等のシート状物を製造する方法として、表面に接着剤と樹脂とが順次塗布されることにより、接着剤層と樹脂層(塗膜)とが2層以上に形成されている帯状可撓性のシート状体を連続走行させ、前記シート状体を、回転する前記凹凸ロールに巻き掛け、前記樹脂層に前記凹凸ロール表面の凹凸を転写し、前記シート状体が前記凹凸ロールに巻き掛けられている状態で前記樹脂層を硬化させることを特徴とする凹凸状シートの製造方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、このようなエンボスロールを用いて、凹凸を転写する方法においては、塗膜表面にロールを接触させる必要があるため、ロールに付着した異物が塗膜表面に定着することによる品質不良が問題となる場合がある。
【特許文献1】実用新案登録第2503717号公報
【特許文献2】特開平11−209704号公報
【特許文献3】特開2005−161531号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、このような事情のもとで、塗膜表面に異物や汚れなどをもたらすことなく、塗膜表面の所定位置に正確に、かつ簡単な手段により凹凸状のパターンを、フィラーを用いないで形成し得る方法、その方法により製造され、例えば粘着剤層、光学用ハードコート層、艶調整層などとして有用な表面に凹凸状のパターンを有する塗膜を提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、塗工液を塗布して塗布層を形成後、加熱面に温度分布を有する所定形状のパターンが設けられた加熱板を、前記基材の裏面側に接触させることにより、該塗布層を乾燥すると共に、その表面に凹凸状のパターンを形成させることにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)基材上に、塗工液を塗布して塗布層を形成後、乾燥処理し、場合によりさらにエネルギーを印加して塗膜を形成させるに際し、前記塗布層の形成後、加熱面に温度分布を有する所定形状のパターンが設けられた加熱板を、前記基材の裏面側に接触させることにより、該塗布層を乾燥すると共に、その表面に凹凸状のパターンを形成させることを特徴とする、パターンを有する塗膜の製造方法、
(2)加熱板が、加熱部と非加熱部が存在するパターンを有し、かつそれらの温度差が10℃以上である上記(1)項に記載のパターンを有する塗膜の製造方法、
(3)加熱板が、熱伝導性金属板に、複数の孔あけ加工を施したものである上記(1)又は(2)項に記載のパターンを有する塗膜の製造方法、
(4)孔の形状が実質的に円形状であって、該孔の直径が0.3〜4.0mmであり、孔間のピッチ(隣接する孔の中心点と中心点との距離)が0.5〜6.0mmである上記(3)項に記載のパターンを有する塗膜の製造方法、
(5)塗工液の温度23℃における粘度が、10〜3500mPa・sである上記(1)〜(4)項のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法、
(6)パターンを有する塗膜が、粘着剤層である上記(1)〜(5)項のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法、
(7)パターンを有する塗膜が、光学用ハードコート層である上記(1)〜(5)項のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法、
(8)パターンを有する塗膜が、艶調整層である上記(1)〜(5)項のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法、
(9)塗工液が、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂又は活性エネルギー線重合性化合物を含むものである上記(1)〜(8)項のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法、
(10)上記(1)〜(9)項のいずれかに記載の方法で製造されたことを特徴とする、表面に凹凸状のパターンを有する塗膜、及び
(11)基材上に、上記(10)項に記載の表面に凹凸状のパターンを有する塗膜が設けられていることを特徴とする物品、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、塗膜表面に異物や汚れなどをもたらすことなく、塗膜表面の所定位置に正確に、かつ簡単な手段により凹凸状のパターンを、フィラーを用いないで形成することができる。
また、この方法で得られた表面に凹凸状のパターンを有する塗膜は、例えば粘着剤層、光学用ハードコート層、艶調整層などとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のパターンを有する塗膜の製造方法において用いられる塗工液としては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂又は活性エネルギー線重合性化合物を基本成分として含み、さらに必要に応じて架橋剤、粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、カップリング剤、難燃剤、着色剤、光安定剤、レベリング剤、消泡剤などを含む塗工液が挙げられる。
前記熱可塑性樹脂としては、例えばアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記熱可塑性エラストマー(ゴム状弾性体を含む)としては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、天然ゴム、共役ジエン系合成ゴムなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記熱硬化性樹脂としては、例えば炭素−炭素二重結合やグリシジル基を有するアクリレート系重合体、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの熱硬化性樹脂は、通常硬化剤が使用される。この硬化剤としては、例えば有機過酸化物、アゾ化合物、ポリイソシアネート化合物、ポリアミン類、酸無水物類、イミダゾール類やジシアンジアミド、ルイス酸、ホルムアルデヒドなどが挙げられ、使用する熱硬化性樹脂の種類に応じて適宜選択される。
【0007】
前記活性エネルギー線重合性化合物(電磁波又は荷電粒子線の中でエネルギー量子を有するもの、すなわち、紫外線又は電子線などを照射することにより、架橋、硬化する重合性化合物)としては、例えば活性エネルギー線重合性プレポリマー及び/又は活性エネルギー線重合性モノマーを挙げることができる。上記活性エネルギー線重合性プレポリマーには、ラジカル重合型とカチオン重合型があり、ラジカル重合型の活性エネルギー線重合性プレポリマーとしては、例えばポリエステルアクリレート系、エポキシアクリレート系、ウレタンアクリレート系、ポリオールアクリレート系などが挙げられる。
一方、カチオン重合型の活性エネルギー線重合性プレポリマーとしては、エポキシ系樹脂が通常使用される。このエポキシ系樹脂としては、例えばビスフェノール樹脂やノボラック樹脂などの多価フェノール類にエピクロルヒドリンなどでエポキシ化した化合物、直鎖状オレフィン化合物や環状オレフィン化合物を過酸化物などで酸化して得られた化合物などが挙げられる。
また、活性エネルギー線重合性モノマーとしては、例えば2官能以上の多官能アクリレート類を挙げることができる。
この活性エネルギー線重合性化合物には、所望により光重合開始剤が加えられる。この光重合開始剤としては、活性エネルギー線重合性のプレポリマーやモノマーの中でラジカル重合型の光重合性プレポリマーや光重合性モノマーに対しては、例えばベンゾイン類、ベンゾフェノン類、アセトフェノン類、α−ヒドロキシケトン類、α−アミノケトン類、α−ジケトン類、α−ジケトンジアルキルアセタール類、アントラキノン類、チオキサントン類などが挙げられる。
【0008】
また、カチオン重合型の光重合性プレポリマーに対する光重合開始剤としては、例えば芳香族スルホニウムイオン、芳香族オキソスルホニウムイオン、芳香族ヨードニウムイオンなどのオニウムと、テトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアンチモネート、ヘキサフルオロアルセネートなどの陰イオンとからなる化合物が挙げられる。なお、活性エネルギー線として電子線を用いる場合には、光重合開始剤は用いなくてもよい。
本発明においては、用途に応じて様々な種類の塗工液を使用することができ、例えば粘着剤用塗工液、光学用ハードコート形成用塗工液、艶調整層形成用塗工液などを用いることが可能である。
後で説明する本発明の方法により、例えば粘着剤用塗工液を用いた場合には、粘着剤層表面に、凹凸状の微細パターンが形成されるので、被着体に貼付する場合、空気の流通経路ができ、空気の留まりが生じにくくなり、貼付性が良好となる。
艶調整層形成用塗工液を用いた場合には、塗膜表面に、凹凸状の微細パターンが形成され、光の乱反射により、艶調整効果が発揮されるため、化粧シートや壁紙などに用いることができる。
光学用ハードコート形成用塗工液を用いた場合には、塗膜表面に、凹凸状の微細パターンが形成されるため、防眩性ハードコート層などに用いることができる。
【0009】
本発明において用いられる前記各塗工液の溶媒については特に制限はなく、該塗工液に含まれる樹脂成分や重合性化合物の種類に応じて、例えばヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤などの中から適宜選択することができる。
当該塗工液の濃度に特に制限はないが、本発明の効果が好適に発揮される点から、温度23℃における粘度が、10〜3500mPa・s程度、好ましくは、50〜3000mPa・s、より好ましくは、100〜2500mPa・sになるような濃度が好適である。
【0010】
本発明の方法において用いられる基材については特に制限はなく、例えば紙基材、プラスチックフィルムやプラスチックシート、金属箔、金属シートなどが挙げられ、用途に応じて適宜選択することができる。これらの基材は、単独で用いてもよく、紙同士、あるいはプラスチックフィルムやプラスチックシート同士などの同種の素材の複合体、紙とプラスチックフィルムやプラスチックシートなどの異種の素材の複合体など、任意の素材を組み合わせた積層シートを用いることもできる。
前記紙基材としては、例えば薄葉紙、クラフト紙、コート紙、アート紙、硫酸紙、グラシン紙、パーチメント紙、パラフィン紙、和紙、チタン紙、リンター紙、板紙、石膏ボード用原紙、予め紙間の強化の目的で樹脂を含浸してなる樹脂含浸紙、紙の表面に塩化ビニル樹脂層を設けたビニル壁紙原反などが挙げられる。
プラスチックフィルムやプラスチックシートとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等、及びこれらの樹脂のシートなどを挙げることができる。
金属箔、又は金属シートとしては、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス鋼、又は銅等の素材からなるものが使用される。
基材として、プラスチックフィルムやプラスチックシートを用いる場合、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材の種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。また、プライマー処理を施すこともできる。
本発明においては、前記基材の厚さに特に制限はなく、用途に応じて広い範囲、例えば20μmないし10mm程度の範囲で適宜選択される。
【0011】
本発明のパターンを有する塗膜の製造方法においては、まず、前記基材上に、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂又は活性エネルギー線重合性化合物を含む塗工液を塗布して塗布層を形成後、乾燥処理する。
基材上に、当該塗工液を塗布する方法としては、従来公知の方法、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、プレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いることができる。この際、塗布層の厚さが、乾燥後で、通常3〜200μm、好ましくは5〜150μm、より好ましくは10〜100μmになるように塗布する。
次いで、このようにして形成された塗布層を、本発明においては、以下に示すように乾燥処理して、乾燥塗布層又は熱硬化塗布層表面に凹凸状の微細パターンを形成させる。
すなわち、加熱面に温度分布を有する所定形状のパターンが設けられた加熱板を、前記塗布層が設けられた基材の裏面側に接触させることにより、該塗布層を乾燥又は硬化させる。このように、当該加熱板を基材の裏面側に接触させることによって、該塗布層に表面張力匂配駆動流を誘発させると共に、溶媒蒸発による濃度匂配を誘発し、乾燥塗布層又は熱硬化塗布層表面に凹凸状の微細パターンを形成することができる。
このような現象を効果的に誘発させるためには、使用する塗工液の粘度は、前述のように23℃において10〜3500mPa・sの範囲にあることが好ましく、また、ウェット状態の塗布層の厚さが、40〜300μm程度であることが好ましい。
また、当該加熱板としては、加熱部と非加熱部が存在するパターンを有し、かつそれらの温度差が10℃以上であることが好ましく、12℃以上であることがより好ましい。この温度差の上限に特に制限はないが、通常25℃程度である。なお、加熱部の温度は、当該加熱板の表面温度であり、非加熱部の温度は、該非加熱部の中心部の温度である。
【0012】
このような加熱板としては、例えば熱伝導性金属板に、複数の孔あけ加工を施したものを用いることができる。前記熱伝導性金属板としては、特に制限はなく、例えばアルミニウム板やステンレス鋼板などが用いられる。加熱板の厚さは、100〜2000μmが好ましい。孔あけ加工における孔の形状に特に制限はなく、円、楕円、長円、多角形状など、様々な形状に孔あけ加工することができるが、一般的には円形状孔あけ加工が行われる。この場合、孔の直径は、通常0.3〜4.0mm程度、好ましくは0.5〜3.5mmであり、孔間のピッチ(隣接する孔の中心点と中心点との距離)は、通常0.5〜6.0mm、好ましくは0.7〜5.0mmである。また、隣接する孔と孔との間の最短距離は、通常0.2〜6.0mm程度、好ましくは0.5〜5.0mmである。例えば、図1に示すような孔間のピッチ(送りピッチ)と、孔の列の間隔(型ピッチ)を有し、60°チドリ配列状に並んだ孔パターンなどが適当である。
このように孔あけ加工された加熱板において、加熱部の温度(加熱板の表面温度)と非加熱部の温度(孔の中心部の温度)との差が、10℃未満の場合、特に塗工液の粘度が高くなるのに伴い、塗布層表面に形成された海島模様の輪郭線が不明瞭となる。加熱部の温度は50〜200℃が好ましい。温度が低すぎると、加熱部と非加熱部の温度差が小さく、表面張力流れが生じにくい。温度が高すぎると加熱時の基材の熱変形が懸念される。
塗布層形成から、当該加熱板に基材の裏面側を接触させるまでの時間は、塗工液中の溶媒の種類や膜厚にもよるが、通常0〜30秒間程度である。この時間が30秒を超えると、塗布層表面が固化してしまい、所定のパターン形状が得られなくなる場合がある。
また、塗布直後の塗布層表面は、溶媒の蒸発による温度低下が生じ、雰囲気中の水蒸気が塗布層表面に凝縮するおそれがあるため、予め塗布層表面の温度低下を非接触温度計などで測定し、雰囲気を調温調湿するなどの対策を施すことが好ましい。さらに、加熱板に基材の裏面側を接触させている時間は、15〜500秒間が好ましい。
なお、連続塗布装置を用いる場合には、前記の孔あけ加工を施した加熱板をロール状に加工し、加熱ロールとして用いることができる。
【0013】
このようにして、乾燥塗布層又は熱硬化塗布層の表面に凹凸状の微細パターンが形成されるが、本発明においては、前記塗布層に、必要に応じてさらにエネルギーを印加して、該塗布層を硬化させることができる。例えば活性光線硬化型重合性化合物を含む塗工液を用いた場合、前記のようにして、表面に凹凸状の微細パターンを有する乾燥塗布層を形成したのち、これに紫外線や電子線などの活性光線を照射して硬化樹脂層を形成させる。この硬化樹脂層の表面には、前記乾燥塗布層の表面に設けられた微細パターンが、そのまま残る。
また、熱エネルギー硬化型樹脂を含む塗工液を用いた場合、前記のようにして、表面に凹凸状の微細パターンを有する乾燥塗布層又は熱硬化塗布層を形成したのち、これらに熱エネルギーを印加し、完全熱硬化させることもできる。この完全熱硬化樹脂層の表面には、前記の乾燥塗布層又は熱硬化塗布層の表面に設けられた微細パターンが、そのまま残る。
このような本発明のパターンを有する塗膜の製造方法は、塗膜表面に異物や汚れなどをもたらすことなく、塗膜表面の所定位置に正確に、かつ簡単な手段により凹凸状のパターンを、フィラーを用いないで形成することができる。
本発明はまた、前述の本発明の方法で製造された、表面に凹凸状のパターンを有する塗膜、及び該塗膜が設けられた物品をも提供する。
前記の表面に凹凸状のパターンを有する塗膜は、例えば粘着剤層、光学用ハードコート層、艶調整層などとして有用である。
【実施例】
【0014】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1
厚さ1mmのアルミニウム板に、孔径0.75mmの丸孔を送りピッチ1.0mm、型ピッチ0.90mmで60°チドリ配列状に加工を施し、加熱板を作製した。図1に、加熱板の拡大模式図を示す。
この加熱板は、マイクロヒートプレート[北里サプライ社製、「MP200DMSH」]上に設置し、加熱板の表面温度が135℃に保持されるように、温度を制御した。また、該加熱板の表面並びに孔中心部の温度を極細熱電対[アンベエス社製、「KFT−25−200−050」]で測定した。この際、加熱板における加熱部(加熱板の表面)と非加熱部(孔中心部)の温度差は19.5℃であった。
一方、アクリル酸エステル系共重合体[東洋インキ製造社製、商品名「BPS5750」、固形分45.5質量%]100質量部をトルエン40質量部で希釈し、固形分濃度32.5質量%の粘着剤塗工液を調製した。この塗工液の温度23℃における粘度は、2000mPa・sであった。
次に、基材として厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム[東レ(株)製、商品名「PET25 T−61Mトウレ」]上に、前記粘着剤塗工液を、ウェット厚さが120μm(乾燥後の厚さ約40μm)になるようにマイヤーバーで塗布して、塗布層を形成したのち、直ちに135℃に保持されている加熱板に、基材フィルムの裏面側を5分間接触させて粘着剤層を形成させた。
顕微鏡観察の結果、粘着剤層表面に、加熱板の孔パターンに応じた凹凸状の微細パターンが形成された。図2に、該微細パターンの拡大写真図を示す。
【0015】
実施例2
厚さ1mmのアルミニウム板に、孔径1.0mmの丸孔を送りピッチ2.0mm、型ピッチ1.8mmで60°チドリ配列状に加工を施し、加熱板を作製した。
この加熱板は、マイクロヒートプレート(前出)上に設置し、加熱板の表面温度が105℃に保持されるように、温度を制御した。また、該加熱板の表面並びに孔中心部の温度を極細熱電対(前出)で測定した。この際、加熱板における加熱部(加熱板の表面)と非加熱部(孔中心部)の温度差は12.5℃であった。
次に、基材として厚さ25μmのPETフィルム(前出)上に、実施例1と同じ粘着剤塗工液を、実施例1と同様に塗布して、塗布層を形成したのち、直ちに、105℃に保持されている加熱板に基材フィルムの裏面側を5分間接触させて粘着剤層を形成させた。
その結果、粘着剤層表面に、加熱板の孔パターンに応じた凹凸状の微細パターンが形成された。
実施例3
厚さ1mmのアルミニウム板に、孔径3.0mmの丸孔を送りピッチ4.0mm、型ピッチ3.6mmで60°チドリ配列状に加工を施し、加熱板を作製した。
この加熱板は、マイクロヒートプレート(前出)上に設置し、加熱板の表面温度が70℃に保持されるように、温度を制御した。また、該加熱板の表面並びに孔中心部の温度を極細熱電対(前出)で測定した。この際、加熱板における加熱部(加熱板の表面)と非加熱部(孔中心部)の温度差は13.2℃であった。
次に、基材として厚さ25μmのPETフィルム(前出)上に、実施例1と同じ粘着剤塗工液を、実施例1と同様に塗布して、塗布層を形成したのち、直ちに、70℃に保持されている加熱板に、基材フィルムの裏面側を5分間接触させて粘着剤層を形成させた。
その結果、粘着剤層表面に、加熱板の孔パターンに応じた凹凸状の微細パターンが形成された。
【0016】
実施例4
加熱板及び加熱条件は実施例1と同様にし、塗工液として、光学用ハードコート層に用いられる紫外線硬化型重合性化合物を含む塗工液を使用した。
すなわち、ペンタエリスリトールトリアクリレート[東亜合成(株)製、商品名「アロニックスM−305」]100質量部及び光重合開始剤である1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[チバ・スペシャルティー・ケミカルズ(株)製、商品名「イルガキュア184」]5.0質量部をプロピレングリコールモノメチルエーテル157.5質量部に加え、混合して固形分濃度40質量%の塗工液を調製した。この塗工液の温度23℃における粘度は200mPa・sであった。
次に、基材として厚さ25μmのPETフィルム(前出)上に、前記塗工液を塗布して塗布層を形成したのち、実施例1と同じ条件で乾燥処理した。なお、塗布層の厚さはウェット50μm、乾燥後20μmであった。
次いで、この乾燥塗布層に紫外光を230mJ/cm2の照射量で照射して硬化させ、ハードコート層を形成した。その結果、このハードコート層表面に、凹凸状の微細パターンが形成された。
【0017】
比較例1
実施例1において、丸孔を有する加熱板の代わりに、丸孔を有しない平滑な加熱板を用いた以外は、実施例1と同様に実施した。
得られた粘着剤層表面を、電子顕微鏡[キーエンス社製、「VHX−100」]で観察し、実施例1と比較した。その結果、粘着剤層表面に微細パターンは形成されなかった。
比較例2
実施例3と同じ加熱板を用い、その表面温度が40℃に保持されるように、温度を制御した。また、該加熱板の表面並びに孔中心部の温度を極細熱電対(前出)で測定した。この際、加熱板における加熱部(加熱板の表面)と非加熱部(孔中心部)の温度差は8.1℃であった。
次に、基材として厚さ25μmのPETフィルム(前出)上に、実施例3と同じ粘着剤塗工液を実施例3と同様に塗布して、塗布層を形成したのち、直ちに40℃に保持されている加熱板に、基材フィルムの裏面側を5分間接触させて粘着剤層を形成させた。
得られた粘着剤層表面を、電子顕微鏡(前出)で観察し、実施例3と比較した。その結果、粘着剤層表面に微細パターンは形成されなかった。
以上、実施例1〜4及び比較例1、2の結果を第1表に示す。
【0018】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明のパターンを有する塗膜の製造方法は、塗膜表面に異物や汚れなどをもたらすことなく、塗膜表面の所定位置に正確に、かつ簡単な手段により凹凸状のパターンを、フィラーを用いないで形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】加熱板の拡大模式図である。
【図2】実施例1において、粘着剤層上に形成された微細パターンの拡大写真図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、塗工液を塗布して塗布層を形成後、乾燥処理し、場合によりさらにエネルギーを印加して塗膜を形成させるに際し、前記塗布層の形成後、加熱面に温度分布を有する所定形状のパターンが設けられた加熱板を、前記基材の裏面側に接触させることにより、該塗布層を乾燥すると共に、その表面に凹凸状のパターンを形成させることを特徴とする、パターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項2】
加熱板が、加熱部と非加熱部が存在するパターンを有し、かつそれらの温度差が10℃以上である請求項1に記載のパターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項3】
加熱板が、熱伝導性金属板に、複数の孔あけ加工を施したものである請求項1又は2に記載のパターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項4】
孔の形状が実質的に円形状であって、該孔の直径が0.3〜4.0mmであり、孔間のピッチ(隣接する孔の中心点と中心点との距離)が0.5〜6.0mmである請求項3に記載のパターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項5】
塗工液の温度23℃における粘度が、10〜3500mPa・sである請求項1〜4のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項6】
パターンを有する塗膜が、粘着剤層である請求項1〜5のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項7】
パターンを有する塗膜が、光学用ハードコート層である請求項1〜5のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項8】
パターンを有する塗膜が、艶調整層である請求項1〜5のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項9】
塗工液が、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、熱硬化性樹脂又は活性エネルギー線重合性化合物を含むものである請求項1〜8のいずれかに記載のパターンを有する塗膜の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の方法で製造されたことを特徴とする、表面に凹凸状のパターンを有する塗膜。
【請求項11】
基材上に、請求項10に記載の表面に凹凸状のパターンを有する塗膜が設けられていることを特徴とする物品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−203247(P2007−203247A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27237(P2006−27237)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】