説明

パワーユニットのマウント制御装置

【課題】たとえ加減速時においても振動騒音が悪化することなく、また加減速度の応答性も向上することができ運転性に優れたパワーユニットのマウント制御装置を提供する。
【解決手段】制御部20は、加減速操作検出センサ21で検出した加減速操作に応じてマウント5F、5Rの減衰率を高くして硬く維持する時間を設定し、この設定した時間に基づいて図示しないアクチュエータによってマウント5F、5Rの可変オリフィス13の流路面積を絞って設定された時間の間、マウント5F、5Rの減衰率を高くして硬く維持する制御を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体とパワーユニットとの間に設けられて減衰率が可変自在なパワーユニットのマウント制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両においては、搭載したパワーユニットと車体との間に、防振効果を有するマウントが介装されている。このようなマウントには、減衰率が可変なものも多く提案されており、例えば、特開平9−215104号公報(以下、特許文献1)では、電気自動車のパワーユニットのロール軸から離れたマウントを、可変オリフィスの制御によってマウントブッシュのバネ定数を変更可能とした液封可変オリフィスマウントとし、車両の減速時にそれらマウントの可変オリフィスを閉じ側に制御し、液封マウントブッシュのバネ定数を大きくすることによって、パワーユニットの振れを抑制し、回生制動の応答遅れを防ぐように制御する自動車のパワーユニットの支持装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−215104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に開示される自動車のパワーユニットの支持装置によれば、減速時にパワーユニットマウントを硬くすることでエンジンブレーキの応答性を改善することができるが、その間は、パワーユニットからの振動伝達を十分に遮断できず、振動騒音が悪化してドライバに違和感を与えるという問題がある。また、パワーユニットのロール動きだけを抑制しても、制駆動時にパワーユニットが車体に対して前後に動くことによって生じる加減速度の応答低下や車体の余計な前後振動を抑えることはできない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、たとえ加減速時においても振動騒音が悪化することなく、また加減速度の応答性も向上することができ、運転性に優れたパワーユニットのマウント制御装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、車体とパワーユニットとの間に設け、該パワーユニットの上記車体に対する前後方向の並進運動と回転運動の少なくとも一方の運動を抑制する減衰率が可変自在なマウントと、ドライバの加減速操作を検出する加減速操作検出手段と、上記加減速操作検出手段で検出した加減速操作に応じて上記マウントの減衰率を高くして硬く維持する時間を設定し、この設定した時間に基づいて上記マウントの減衰率を可変制御する制御手段とを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によるパワーユニットのマウント制御装置によれば、たとえ加減速時においても振動騒音が悪化することなく、また加減速度の応答性も向上することができ、運転性に優れるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施の第1形態に係る縦置きエンジンに採用されるパワーユニットのマウント制御装置の全体構成図である。
【図2】本発明の実施の第1形態に係るマウントの機能説明図である。
【図3】本発明の実施の第1形態に係るマウントの構造説明図である。
【図4】本発明の実施の第1形態に係るパワーユニットのマウント制御プログラムのフローチャートである。
【図5】本発明の実施の第1形態に係る加減速操作の変化量に対して設定するカウンタ値の一例を示す説明図である。
【図6】本発明の実施の第2形態に係る横置きエンジンに採用されるパワーユニットのマウント制御装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図5は、本発明の実施の第1形態に関し、図1において、符号1は、車体前部に搭載される縦置きエンジンを示し、このエンジン1の後方には自動変速機2が接続されて、パワーユニット3が構成されている。
【0010】
パワーユニット3は、重心点4よりやや後方の上部中央と、後端部の下部とにマウント5F、5Rとが設けられており、これらマウント5F、5Rを介して図示しない車体に支持されている。尚、図中、座標のX軸は、車両の前後方向軸を示し(前方が+)、Y軸は、車両の左右方向軸を示し(右方が+)、Z軸は車両の上下方向軸を示す(上方が+)。
【0011】
マウント5F、5Rは、減衰率が可変自在な流体封入式のマウントであり、例えば、図3に示すように、2つの液室11a、11bと、これら液室11a、11bを連通する通路12と、通路12の間に介装された可変オリフィス13とを備えて構成されている。可変オリフィス13は、通路12を介して液室11aと液室11bとの間を移動する液体または高粘性流体の流れを規制するもので、制御部20からの信号によって駆動される図示しないアクチュエータによって液体または高粘性流体の流れの規制量を変更して、マウント5F、5Rの減衰率を変更可能とするものである。
【0012】
パワーユニット3の前方に設けられるマウント5Fは、図2(a)に示すように、バネSとダンパDの関係がX軸方向に作用するように設けられている。このため、マウント5Fが配設される位置関係(重心点4よりやや後方の上部中央)から、パワーユニット3の車体に対する前後方向の並進運動に加え、パワーユニット3の重心点4を中心とした車体に対する前後方向の回転運動を抑制可能になっている。
【0013】
また、パワーユニット3の後方に設けられるマウント5Rは、図2(b)に示すように、バネSとダンパDの関係がZ軸方向に作用するように設けられている。このため、マウント5Rが配設される位置関係(後端部の下部)から、パワーユニット3の重心点4を中心とした車体に対する前後方向の回転運動を抑制可能になっている。
【0014】
制御部20には、ドライバの加減速操作を検出する加減速操作検出手段としての加減速操作検出センサ21が接続されている。この加減速操作検出センサ21は、具体的には、ドライバの加速操作量であるアクセル開度を検出するアクセル開度センサと、ドライバの減速操作量であるブレーキ液圧を検出するブレーキ液圧センサ、或いは、ドライバのブレーキ操作であるブレーキペダルのON−OFFを検出するブレーキスイッチである。
【0015】
そして、制御部20は、後述のパワーユニットのマウント制御プログラムに従って、加減速操作検出センサ21で検出した加減速操作に応じてマウント5F、5Rの減衰率を高くして硬く維持する時間を設定し、この設定した時間に基づいて図示しないアクチュエータによってマウント5F、5Rの可変オリフィス13の流路面積を絞り、設定された時間の間、マウント5F、5Rの減衰率を高くして硬く維持する制御を行うようになっている。このように、制御部20は、制御手段として設けられている。
【0016】
次に、制御部20で実行されるパワーユニットのマウント制御プログラムを、図4のフローチャートで説明する。
【0017】
まず、ステップ(以下、「S」と略称)101で、必要パラメータ、すなわち、アクセル開度と、ブレーキ液圧、或いは、ブレーキスイッチのON−OFFを読み込む。
【0018】
次いで、S102に進み、S102で読み込んだ加減速操作について加減速操作の変化量ΔOPを、アクセル開度、及び、ブレーキ液圧等の操作量の場合については、例えば、以下の(1)式により、演算する。
ΔOP=OPk−Σni=1(OPk-i)/n …(1)
ここで、OPkは、サンプリング毎の加減速操作量であり、nは平均化するサンプリング数である。すなわち、(1)式は、今回の値OPkと前回までの所定回数(n回)の移動平均との差を求める式となっている。
【0019】
一方、加減速操作がブレーキスイッチのON−OFFの場合は、例えば、以下の(2)式により、加減速操作の変化量ΔOPを演算する。
ΔOP=OPk−OPk-1 …(2)
ここで、OPk、OPk-1の値は、ブレーキスイッチのONの場合を1、OFFの場合を0とした今回の値と前回の値である。
【0020】
次に、S103に進み、S102で算出した加減速操作の変化量ΔOPに基づいて、予め実験、演算等により設定しておいた図5に示すようなマップを参照して制御ON時間(カウンタ値)を設定する。
【0021】
ここで、カウンタ値は、アクセル開度、及び、ブレーキ液圧等の操作量の場合は、例えば、図5(a)に示すような、加減速操作の変化量の絶対値|ΔOP|に対して設定され、|ΔOP|が大きい程、大きなカウンタ値に設定されるようになっている。また、|ΔOP|の小さな領域には不感帯が設定されている。
【0022】
また、ブレーキスイッチのON−OFF操作で設定されるカウンタ値は、例えば、図5(b)のマップのように設定され、加減速操作の変化量の絶対値|ΔOP|、すなわち、前回と今回とでブレーキペダルがONからOFFへ、或いは、OFFからONへ操作されている場合には、カウンタ値はTc1(例えば、0.5秒)に設定される。
【0023】
このように設定されるカウンタ値は、アクセル開度とブレーキ液圧(或いはブレーキスイッチ)とで設定する場合は、アクセル開度から設定されるカウンタ値とブレーキ液圧から設定されるカウンタ値(或いはブレーキスイッチのON−OFFから設定されるカウンタ値)の大きい方の値がカウンタ値として設定される。
【0024】
そして、S104に進むと、カウンタ値が0より大きいか否か判定される。この判定の結果、カウンタ値>0の場合は、S105に進み、アクチュエータに出力してマウント5F、5Rの可変オリフィス13の流路面積を絞り、マウント5F、5Rの減衰率を高くして硬く維持させる。
【0025】
その後、S106に進んで、カウンタ値をデクリメントして、再びS104に戻って、カウンタ値が0より大きいか否か判定し、カウンタ値≦0の場合は、S107に進んで、アクチュエータに対する出力をOFFして、減衰率を高くして硬く維持させる制御を終了してプログラムを抜ける。
【0026】
このように、本発明の実施の第1形態によれば、加減速操作検出センサ21で検出した加減速操作に応じてマウント5F、5Rの減衰率を高くして硬く維持する時間を設定し、この設定した時間に基づいて、マウント5F、5Rの減衰率を高くして硬く維持する制御を行う。このため、加減速時には、パワーユニット3の車体に対する前後方向の並進運動と、パワーユニット3の重心点4を中心とした車体に対する前後方向の回転運動を確実に抑制することができ、車体に影響を及ぼす前後方向の振動を抑制しつつ、加減速度の応答性を向上することができ、運転性を向上させることが可能となる。また、マウント5F、5Rの減衰率を高くして硬く維持する時間は、加減速操作に応じて可変設定されるので、振動騒音の悪化を最小にすることができ、ドライバに違和感を与えることもない。また、本実施の第1形態では、今回の値と前回までの所定回数の移動平均との差を操作の変化量として算出し、この操作の変量を基にカウンタ値を設定するようになっているので、たとえ突発的な信号入力の誤差が生じたとしても、この誤差に影響されることなく、安定した制御システムとすることができる。
【0027】
尚、本実施の第1形態では、パワーユニット3の前方に設けられるマウント5Fと後方に設けられるマウント5Rの両方に対して、減衰率を高くして硬く維持させる制御を行う例を説明しているが、車両仕様によっては、前方に設けられるマウント5Fのみに本実施の形態を採用するようにしても良い。
【0028】
また、本実施の第1形態では、ドライバの加減速操作として、アクセル開度とブレーキ液圧、或いは、アクセル開度とブレーキペダルのON−OFFを検出するようにしているが、これに限ることなく、他の信号を用いても良い。
【0029】
次に、図6は、本発明の実施の第2形態を示し、本第2形態は、エンジンを横置きエンジンとした点が、前述の第1形態と異なり、他の構成、作用効果は、前述の第1形態と同様であるので、第1形態と同じ構成には同じ符号を記し、説明は省略する。
【0030】
すなわち、図6において、符号51は、車体前部に搭載される横置きエンジンを示し、このエンジン51の側部には自動変速機52が接続されて、パワーユニット53が構成されている。
【0031】
パワーユニット53は、重心点54の下方前部と、重心点54の下方後部とにマウント55F、55Rとが設けられており、これらマウント55F、55Rを介して図示しない車体に支持されている。
【0032】
マウント55F、55Rは、前述の第1形態におけるマウント5F、5Rと同様、減衰率が可変自在な流体封入式のマウントであり、制御部20からの信号によって駆動される図示しないアクチュエータによって液体または高粘性流体の流れの規制量を変更して、マウント55F、55Rの減衰率を変更可能とするものである。
【0033】
パワーユニット53の前方に設けられるマウント55Fは、図2(a)に示すように、バネSとダンパDの関係がX軸方向に作用するように設けられている。このため、マウント55Fが配設される位置関係(重心点54の下方前部)から、パワーユニット53の車体に対する前後方向の並進運動を抑制可能になっている。
【0034】
また、パワーユニット53の後方に設けられるマウント55Rは、図2(b)に示すように、バネSとダンパDの関係がZ軸方向に作用するように設けられている。このため、マウント55Rが配設される位置関係(重心点54の下方後部)から、パワーユニット53の重心点54を中心とした車体に対する前後方向の回転運動を抑制可能になっている。
【0035】
このように、前述の第1形態で説明した縦置きエンジンのパワーユニット3で得られる効果と同様に、加減速時には、パワーユニット53の車体に対する前後方向の並進運動と、パワーユニット53の重心点54を中心とした車体に対する前後方向の回転運動を確実に抑制することができ、車体に影響を及ぼす前後方向の振動を抑制しつつ加減速度の応答性を向上することができ、運転性を向上させることが可能となる。また、マウント55F、55Rの減衰率を高くして硬く維持する時間は、加減速操作に応じて可変設定されるので、振動騒音の悪化を最小にすることができ、ドライバに違和感を与えることもない。
【符号の説明】
【0036】
1 エンジン
2 自動変速機
3 パワーユニット
4 重心点
5F、5R マウント
11a、11b 液室
12 通路
13 可変オリフィス
20 制御部(制御手段)
21 加減速操作検出センサ(加減速操作検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体とパワーユニットとの間に設け、該パワーユニットの上記車体に対する前後方向の並進運動と回転運動の少なくとも一方の運動を抑制する減衰率が可変自在なマウントと、
ドライバの加減速操作を検出する加減速操作検出手段と、
上記加減速操作検出手段で検出した加減速操作に応じて上記マウントの減衰率を高くして硬く維持する時間を設定し、この設定した時間に基づいて上記マウントの減衰率を可変制御する制御手段と、
を備えたことを特徴とするパワーユニットのマウント制御装置。
【請求項2】
上記加減速操作検出手段は、少なくともアクセル開度を検出するものであって、
上記アクセル開度の今回の値と過去の所定回数の移動平均との差、若しくは、今回の値と過去の値との差を操作の変化量として算出し、該操作の変化量に応じて上記マウントの減衰率を高く維持する時間を設定することを特徴とする請求項1記載のパワーユニットのマウント制御装置。
【請求項3】
上記加減速操作検出手段は、少なくともブレーキ液圧を検出するものであって、
上記ブレーキ液圧の今回の値と過去の所定回数の移動平均との差、若しくは、今回の値と過去の値との差を操作の変化量として算出し、該操作の変化量に応じて上記マウントの減衰率を高く維持する時間を設定することを特徴とする請求項1記載のパワーユニットのマウント制御装置。
【請求項4】
上記加減速操作検出手段は、少なくともブレーキペダルのオンとオフとを検出するものであって、
上記ブレーキペダルの前回から今回の状態の変化に応じて上記マウントの減衰率を高く維持する時間を設定することを特徴とする請求項1記載のパワーユニットのマウント制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−126419(P2011−126419A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−286637(P2009−286637)
【出願日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】