説明

フィルタおよびデュプレクサ、ならびにフィルタの製造方法

【課題】 生産性を低下することなく挿入損失が少ない特性に優れた小型のフィルタおよびデュプレクサ、ならびにフィルタの製造方法を提供する。
【解決手段】 フィルタ1は、共振子10とキャパシタ30とを含み、キャパシタ30は、基板19の主面上に形成される第1キャパシタ用電極31と、第1キャパシタ用電極31上に形成される第1圧電膜12と同一材料からなる第2圧電膜32と、第1キャパシタ用電極31と対向する部分を有するように第2圧電膜32上に形成される第2キャパシタ用電極33とを含んで構成される。さらに、UBM層21と同時に、第2キャパシタ用電極33上に、ピークシフト層34を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタおよびデュプレクサ、ならびにフィルタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信および電気回路に用いられる電気信号の周波数の高周波化に伴い、高周波化された電気信号に対して用いられるフィルタについても高周波数に対応したものが開発されている。特に、無線通信においては2GHz近傍のマイクロ波が主流になりつつあり、また既に数GHz以上の規格策定の動きもあることから、それらの周波数に対応した、安価で高性能なフィルタが求められている。このようなフィルタとして、圧電性を示す薄膜の厚み縦振動モードを用いた共振子を用いたものが提案されている。
【0003】
圧電性を示す薄膜(以後、圧電体薄膜と記載する)の厚み縦振動モードを用いた共振子は、入力される高周波の電気信号に対して、圧電体薄膜が厚み縦振動を起こし、その振動が圧電体薄膜の厚さ方向において共振を起こすことによって、そのインピーダンスが変化する。このような圧電体薄膜の厚み縦振動モードを用いた共振子は、薄膜バルク音響波共振子(Film Bulk Acoustic Resonator:略称FBAR)と呼ばれている。FBARは、基板の一表面上に薄膜形成プロセスによって第1電極、圧電体薄膜および第2電極を順次積層して形成される共振部を有する。なお、ここで薄膜とは、通常の薄膜形成プロセスで形成されるものをいう。
【0004】
薄膜共振子は、SiおよびGaAsなどから成る基板と、AlNおよびZnOなどから成る圧電体薄膜と、厚み方向の両側から圧電体薄膜を挟む第1および第2電極とを含んで構成される。
【0005】
高周波回路には、フィルタ以外にも、インダクタやキャパシタなどの受動部品が数多く使われており、高周波回路を小型化し高周波特性を向上させるには、これらの受動部品をも小型化し、製造精度を高める必要がある。
【0006】
特許文献1記載の高周波集積回路装置は、第一の圧電膜を具備する薄膜圧電素子と、第一の圧電膜と同一材料からなる第二の圧電膜を具備し、薄膜圧電素子と同一の基板上に設けられる薄膜キャパシタとを有する。
【0007】
【特許文献1】特開2005−311511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1記載の高周波集積回路装置のように、薄膜圧電素子と薄膜キャパシタとを同一基板上に形成した場合にも、フィルタの通過帯域内において、挿入損失のピークが発生する。これは、キャパシタにおいて発生する不要な共振に起因するものである。特許文献1記載の高周波集積回路装置は、この問題を解決するためにピークの発生自体を抑えようとするものである。具体的には、下部電極を薄膜圧電素子と薄膜キャパシタとで異なる材料にしたり、材料を同じにした場合は、下部電極の表面状態を変えている。
【0009】
しかしながら、このような構成を実現するためには、異なる材料を設けるための工程や、表面状態を変化させるための工程など、課題解決に必要な構成を設けるための工程が別途必要となり、製造に必要な工程数が増加し、フィルタの生産性が低下してしまう。
【0010】
本発明の目的は、生産性を低下することなく挿入損失が少ない特性に優れた小型のフィルタおよびデュプレクサ、ならびにフィルタの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、基板と、前記基板との間に空隙を有するように前記基板の主面上に形成される第1共振子用電極と、前記第1共振子用電極上に形成される第1圧電膜と、前記第1共振子用電極と対向する部分を有するように前記第1圧電膜上に形成される第2共振子用電極と、を含んで構成される共振子と、前記基板の主面上に形成される第1キャパシタ用電極と、前記第1キャパシタ用電極上に形成される前記第1圧電膜と同一材料からなる第2圧電膜と、前記第1キャパシタ用電極と対向する部分を有するように前記第2圧電膜上に形成される第2キャパシタ用電極と、を含んで構成されるキャパシタと、前記基板上に形成され、前記第1共振子用電極または前記第2共振子用電極の一方と電気的に接続される外部導出用電極と、前記外部導出用電極の主面に設けられる第1金属層と、前記第1金属層と同一材料からなり、前記第2キャパシタ用電極の主面に設けられる第2金属層と、を備えたフィルタである。
【0012】
また本発明は、前記フィルタと、電極パッドを備え、前記フィルタが実装される実装用基板と、前記電極パッドと前記第1金属層との間に介在される金属バンプと、を備えたデュプレクサである。
【0013】
また本発明は、基板と、前記基板との間に空隙を有するように前記基板の主面上に形成される第1共振子用電極と、前記第1共振子用電極上に形成される第1圧電膜と、前記第1共振子用電極と対向する部分を有するように前記第1圧電膜上に形成される第2共振子用電極と、を含んで構成される共振子と、前記基板の主面上に形成される第1キャパシタ用電極と、前記第1キャパシタ用電極上に形成される前記第1圧電膜と同一材料からなる第2圧電膜と、前記第1キャパシタ用電極と対向する部分を有するように前記第2圧電膜上に形成される第2キャパシタ用電極と、を含んで構成されるキャパシタと、前記基板上に形成され、前記第1共振子用電極または前記第2共振子用電極の一方と電気的に接続される外部導出用電極と、を備えたフィルタ前駆体を準備する工程と、前記外部導出用電極の主面に第1金属層を、前記第2キャパシタ用電極の主面に前記第1金属層と同一材料からなる第2金属層をそれぞれ形成する工程と、を含むフィルタの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のフィルタによれば、外部導出用電極の主面に設けられる第1金属層と、第1金属層と同一材料からなり、キャパシタを構成する第2キャパシタ用電極の主面に設けられる第2金属層とを備えることにより、フィルタの通過帯域内において、挿入損失のピークを通過帯域外にシフトさせ、挿入損失が少ない特性に優れた小型のフィルタを得ることができる。
【0015】
また本発明のデュプレクサは、フィルタ特性に優れたフィルタを用いて形成されるため電気特性に優れたものとなる。
【0016】
また本発明のフィルタの製造方法によれば、第2金属層は、第1金属層と同一材料から成るので、第1金属層の形成工程と同一工程で形成することができ、生産性をほとんど低下させることなくフィルタを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態であるフィルタ1の構成を示す断面図である。同図に示すフィルタ1は、共振子10と、キャパシタ30とを含んで構成される。図4は、図1に示すフィルタ1のように共振子10とキャパシタ30とを同一基板上に形成してなるフィルタの一例を示す平面図である。なお、図4の平面図では、電極のみを図示しており、圧電膜については図示していない。
【0018】
共振子10は、基板19と、基板19の主面上に形成される共振部11と、基板19および共振部11で囲まれる空隙16と、共振部11を貫通し、空隙16と連通するエッチングホール15とを含んで構成される。
【0019】
基板19は、共振子10のベース部材である。基板19は、略直方体形状を有し、厚みが0.05〜1.0mm程度に選ばれる。基板19は、Si(シリコン)、GaAs(ガリウムヒ素)などによって形成される。
【0020】
共振部11は、基板19との間に空隙を有するように基板19の主面上に形成される第1共振子用電極14と、第1共振子用電極14上に形成される第1圧電膜12と、第1共振子用電極14と対向する部分を有するように第1圧電膜12上に形成される第2共振子用電極13を含んで構成され、基板19の厚み方向一表面上に形成される。
【0021】
第1圧電膜12は、ZnO(酸化亜鉛)、AlN(窒化アルミニウム)およびPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)などの圧電材料からなり、第1共振子用電極14および第2共振子用電極13によって印加される高周波電圧に応じて伸縮し、電気的な信号を機械的な振動に変換する機能を有する。共振子10が必要な共振特性を発揮するために、第1圧電膜12の厚みは、第1圧電膜12を形成する材料の固有音響インピーダンスおよび密度、第1圧電膜12を伝播する音響波の音速および波長などを考慮して、精密に選ぶ必要がある。第1圧電膜12の最適な厚みは、共振子10を用いて構成される電子回路で使用する信号の周波数、共振子10の設計寸法、圧電膜材料、電極材料によって異なるが、例えば、0.2〜3.0μm程度に選ばれる。
【0022】
第1共振子用電極14は、第1圧電膜12の厚み方向他表面上に少なくとも一部が積層される。つまり、第1共振子用電極14は、共振部11において最下層となり、基板19の厚み方向一表面上に形成される。第1共振子用電極14は、第1圧電膜12に高周波電圧を印加する機能を有する部材であり、W(タングステン)、Mo(モリブデン)、Au(金)、Al(アルミニウム)およびCu(銅)などの金属材料を用いて形成される。また第1共振子用電極14は、電極としての機能と同時に、共振部11を構成する機能も有するので、共振子10が必要な共振特性を発揮するために、その厚みは、第1共振子用電極14を形成する材料の固有音響インピーダンスおよび密度、第1共振子用電極14を伝播する音響波の音速および波長などを考慮して、精密に選ぶ必要がある。第1共振子用電極14の最適な厚みは、共振子10を用いて構成される電子回路で使用する信号の周波数、共振子10の設計寸法、圧電膜材料、電極材料によって異なるが、0.03〜1.0μm程度に選ばれる。第2共振子用電極13は、第1共振子用電極14とともに、第1圧電膜12に高周波電圧を印加する機能を有する部材であり、第1共振子用電極14と同様に構成される。
【0023】
空隙16は、基板19と共振部11とで囲まれる空洞であり、第1圧電膜12の振動を可能にする共振領域であるキャビティとなっている。空隙16を形成する共振部11の壁面と基板19の厚み方向一表面との間隙は、1.0〜4.0μm程度に設定されている。
【0024】
共振部11は、第1圧電膜12と第1共振子用電極14と第2共振子用電極13とが重なる部分のうち、空隙16に臨む部分の内壁面によって形成される。共振部11の厚みは、おおむねλ/2(λは使用する信号の周波数での音響波の波長)となるように設計される。共振部11の厚み方向から見た形状、すなわち平面形状は、略矩形状である。なおスプリアス抑制のために共振部11の平面形状を非対称の形状にしてもよい。本実施の形態では、共振部11は直方体形状に形成される。また共振部11の厚み方向に垂直な断面における面積は、共振器1のインピーダンスを決定する要素となるので、厚みと同様に精密に設計する必要がある。50Ωのインピーダンス系で共振子10を使用する場合は、共振部11の電気的なキャパシタンスが、使用する信号の周波数でおおむね50Ωのリアクタンスを持つように選ばれる。本実施の形態では、共振子10の厚み方向に垂直な断面における面積は、たとえば2GHzの共振子10の場合であれば、200μm×200μm程度に選ばれる。
【0025】
また、本実施の形態では、共振部11において、第2共振子用電極13上に、共振周波数を調整するための調整層17が形成され、さらにその上に保護膜18が形成されている。つまり、共振部11における最上層は、保護膜18である。調整層17および保護膜18は、この分野で常用される材料、方法で形成される。保護膜18は、第2共振子用電極13上、すなわち、共振部11を覆うように形成されており、SiNx(窒化シリコン)などの誘電体材料からなる。
【0026】
共振子10に設けられるエッチングホール15は、共振部11を、基板19主面に直交する方向に貫通し、空隙16を形成する共振部11の壁面に開口して形成される。エッチングホール15の孔径は、たとえば10μm程度である。
【0027】
共振子10に対して、第1共振子用電極14または第2共振子用電極13にフィルタ1の外部から高周波信号を供給するための外部導出用電極20が設けられ、この外部導出用電極20の主面には、第1金属層であるアンダーバンプメタル(UBM)層21が設けられている。
【0028】
外部導出用電極20およびUBM層21は、Ni(ニッケル)などこの分野で常用される材料、成膜方法で形成することができる。ICチップなどの外部回路素子と共振子10との接続は、外部導出用電極20およびUBM層21を介して行われる。外部回路素子の電極パッドとUBM層21との間は導電性部材である半田によって接合される。
【0029】
キャパシタ30は、基板19の主面上に形成される第1キャパシタ用電極31と、第1キャパシタ用電極31上に形成される第1圧電膜12と同一材料からなる第2圧電膜32と、第1キャパシタ用電極31と対向する部分を有するように第2圧電膜32上に形成される第2キャパシタ用電極33とを含んで構成される。
【0030】
第1キャパシタ用電極31および第2キャパシタ用電極33は、第1共振子用電極14および第2共振子用電極13と同様にして設けることができる。このとき、第1共振子用電極14と第1キャパシタ用電極31、および第2共振子用電極13と第2キャパシタ用電極33は、同一の金属層として形成してもよく、それぞれを個別の金属層として形成してもよい。
【0031】
本実施形態にかかるフィルタでは、第2キャパシタ用電極33の主面に、UBM層21と同一材料から成るピークシフト層34(第2金属層)を設けることを特徴としている。
【0032】
第2キャパシタ用電極33の主面にピークシフト層34がない場合、基本的に共振子10とキャパシタ30との厚みは同じになる。この場合、共振子10とキャパシタ30とで同じような共振が起こるため、キャパシタ30の共振がフィルタの損失となって現れる。これに対し本実施形態のフィルタ1のようにキャパシタ30上の第2キャパシタ用電極33にピークシフト層34を設けることによって、ピークシフト層34を含めたキャパシタ30の厚みと共振子10の厚みとを異ならせることができる。これによりキャパシタ30の共振に起因する挿入損失のピークが通過帯域外にシフトするため、通過帯域内においてフィルタの挿入損失がほとんどなくなり、所望のフィルタ特性を得ることができる。より確実に挿入損失のピークを通過帯域外にシフトさせるためには、キャパシタ30の厚みを共振子10の厚みより12.5%以上厚くすることが好ましい。
【0033】
また、ピークシフト層34は、UBM層21と同一材料から成るので、UBM層21の形成工程と同一工程で形成することができ、生産性を大きく低下させることなくフィルタを製造することができる。
【0034】
ピークシフト層34による挿入損失ピークのシフト量は、ピークシフト層34の厚みに依存している。したがって、通過帯域外にシフトさせるためには、ピークシフト層34の厚み設定が重要である。
【0035】
ピークシフト層34の厚みをTmとし、第2キャパシタ用電極33の厚みをTcとしたとき、TmとTcとが、0.5Tc≦Tmの関係を満たすように形成されることが好ましい。
【0036】
TmとTcとがこのような関係を満たすようにピークシフト層34の厚みを設定することで、挿入損失ピークをほぼ確実に通過帯域外にシフトさせることができ、所望のフィルタ特性を得ることができる。
【0037】
一方、フィルタ1を実装基板に実装したときの低背化の観点から、Tm≦10Tcにすることが好ましい。したがって、ピークシフト及び低背化の両方を考慮すれば、TmとTcとは、0.5≦Tm/Tc≦10の関係を満たしていることが好ましい。
【0038】
さらに、本発明の第2の実施形態として、キャパシタ30に接続するインダクタを設ける。
【0039】
インダクタは、受動素子部品を実装してもよいし、共振子10およびキャパシタ30と同様に基板19上に設けてもよい。
【0040】
図2は、インダクタ40を基板19上に設けた場合の部分平面図を示す。
インダクタ40は、第1キャパシタ用電極31に接続する導電体パターンとして形成することができる。インダクタ40は、必要なインダクタンス成分に応じて、渦巻き形状、ミアンダ形状などのパターン形状により基板19上に形成することができる。
【0041】
インダクタ40は、キャパシタ30とともにローパスフィルタを構成する。本発明のような薄膜共振子を用いたフィルタでは、高周波帯域においてインピーダンスが部分的に高インピーダンスとなる、浮き上がりと呼ばれる現象が発生しやすい。
【0042】
インダクタ40とキャパシタ30とによりローパスフィルタを構成することにより、高周波帯域における浮き上がりを抑えることができ、通過帯域外における減衰特性に優れたフィルタを実現することができる。
【0043】
図3に、同一基板に共振子10とキャパシタ30とを形成したフィルタにより構成される回路の一例として送信回路100の等価回路図を示す。なお図4の平面図は、図3に示す送信回路100に対応している。
【0044】
送信回路100は、アンテナに接続するアンテナポートANTと、送信器に接続する送信ポートTxに直列的に接続される共振子1S〜3Sと、これらに並列的に接続される共振子1P〜3Pと、共振子1SとポートTx間に接続するキャパシタCとを含んで構成される。共振子1S〜3Sおよび共振子1P〜3Pはそれぞれ前述の共振子10に相当し、キャパシタCは前述のキャパシタ30に相当する。
【0045】
インダクタLは、共振子1SおよびキャパシタCとポートTxとの間に直列接続され、キャパシタCとともにローパスフィルタを構成する。前述のように、インダクタLは、受動素子部品を実装してもよいし、共振子10およびキャパシタ30と同様に基板19上に設けてもよい。
【0046】
次に、本発明のデュプレクサの一実施形態の例を説明する。図5は、本実施形態のデュプレクサ200の断面図である。同図に示すデュプレクサ200は、図1に示したフィルタ1と、フィルタ1が実装される実装用基板41とから主に構成されている。実装用基板41の主面には、電極パッド42が設けられており、この電極パッド42とフィルタ1のUBM層21とが、両者の間に介在されたはんだ等からなる金属バンプ43によって電気的に接続されている。これによりフィルタ1と実装用基板41とが電気的に且つ機械的に接続されている。またフィルタ1は、全体が封止樹脂44で覆われることにより保護されている。
【0047】
図6は、図5に示すデュプレクサ200により構成された等価回路図である。
図6に示すようにデュプレクサ200は、フィルタを2個備えて構成される。デュプレクサ200は、アンテナ共用器、分波器と呼ばれ、1つのアンテナに接続される送信用フィルタ51および受信用フィルタ52とを備える。アンテナと送信用フィルタ51および受信用フィルタ52との接続点には、送信用フィルタ51と受信用フィルタ52との整合をとる整合回路(図示せず)が設けられている。デュプレクサ200は、入出力ポートとして、アンテナに接続するアンテナポートANTと、送信器に接続する送信ポートTxと、受信器に接続する受信ポートRxとを備え、アンテナポートANTと送信ポートTxとの間に、送信用フィルタ51として上記のフィルタを接続し、アンテナポートANTと受信ポートRxとの間に、受信用フィルタ52として上記のフィルタを接続して構成される。
【0048】
本実施形態では送信用フィルタ51の通過周波数帯域よりも受信用フィルタの通過周波数帯域の方が高くなるように各フィルタが形成されている。デュプレクサ200が備える送信用フィルタ51および受信用フィルタ52に、優れたフィルタ特性を有する上述のフィルタが使用されるので、デュプレクサ200の特性も優れたものとなる。
【0049】
デュプレクサの他の実施形態としては、キャパシタCを共振子に対して並列に接続する構成がある。図7は、本実施形態のデュプレクサ300の等価回路図を示す。図7に示すデュプレクサは、図6に示したデュプレクサ200と比べて、キャパシタCと共振子1Sとの接続関係が異なっているである。
【0050】
図6に示したデュプレクサ200は、共振子1Sから送信ポートTxへの信号線とグランド線との間にキャパシタCが接続されていたのに対し、図7に示すデュプレクサ300は、共振子1Sに対してキャパシタCが並列に接続されている。図7に示すデュプレクサ300のように、ある共振子とキャパシタCとが並列接続される場合、両者の第1共振子用電極14と第1キャパシタ用電極31とが接続されるとともに両者の第2共振子用電極13と第2キャパシタ用電極33とが接続されることとなる。このとき、第1共振子用電極14と第1キャパシタ用電極31とを接続する導体を第1接続導体、第2共振子用電極13と第2キャパシタ用電極33とを接続する導体を第2接続導体とすれば、第1接続導体と第2接続導体とは、平面視したときに重ならないように配置されていることが好ましい。換言すれば、第1接続導体と第2接続導体とは、重ならない領域(非重なり領域)が出来る限り大きくなるように配置されていることが好ましい。
【0051】
図8は、図7に示すデュプレクサ300の送信用フィルタ51の平面図である。同図において、並列接続された共振子1SとキャパシタCに着目すると、共振子1Sの第2共振子用電極13とキャパシタCの第2キャパシタ用電極33とは直線状の第2接続導体35により接続され、共振子1Sの第1共振子用電極14とキャパシタCの第1キャパシタ用電極31とは、平面視したときに第2接続導体35と重ならないように迂回した第1接続導体36により接続されている。このように第1接続導体36と第2接続導体35とを形成することにより、共振子1SとキャパシタCとの並列接続経路において発生し得る容量成分が小さく抑えられるため、フィルタの特性に与える影響を小さくすることができ、所望の特性を得ることができる。
【0052】
このように共振子1Sに並列にキャパシタCを接続することで、フィルタ通過帯域近傍における急峻性を向上させることができる。
【0053】
次に、本発明におけるフィルタ1の製造方法の一実施形態について説明する。図9A〜図9Dは、フィルタ1の製造方法を示す工程図である。本実施形態におけるフィルタ1の製造方法は、半導体製造技術を利用するものである。
【0054】
[共振部形成工程]
共振部形成工程では、複数の共振部11が、厚み方向一表面上に形成された基板19を準備する。
【0055】
(a)基板19の準備および犠牲層の形成工程
基板19は、Si(シリコン)やGaAs(ガリウムヒ素)などからなる板状部材であり、本実施の形態では、シリコン基板を用いた例について説明する。また、犠牲層は、製造する共振子10の空隙16に対応する部分であり、本実施の形態では、2つの犠牲層である第1犠牲層61および第2犠牲層62を基板19表面上に形成する。
【0056】
まず、図9A(a)に示すように、基板19の厚み方向一表面の全面にわたって、SiO(二酸化珪素)からなる第1犠牲層61を形成する。SiOからなる第1犠牲層61は、基板19の表面を加熱処理し、熱酸化させることで形成することができる。第1犠牲層61の厚みは、加熱処理の処理条件、加熱温度、加熱時間などにより制御することが可能であり、本実施の形態では0.1〜1.0μmに設定される。
【0057】
次に、図9A(b)に示すように、第1犠牲層61上に、PSG(リンドープガラス)からなる第2犠牲層62を形成する。第2犠牲層62は、CVD(Chemical Vapor
Deposition)法によって形成することができる。第2犠牲層62の厚みは、CVD処理時の温度や時間などの処理条件により制御することが可能であり、本実施の形態では2.5〜3.0μmに設定される。このように第2犠牲層62は比較的厚く形成されるが、PSGはエッチング速度が速いため後述する犠牲層エッチング工程において比較的短時間でエッチングを行うことができる。また、第2犠牲層62とシリコンからなる基板19との間にSiOからなる第1犠牲層61を介在させることによって、第1犠牲層61が拡散バリアとして機能し、PSGのリンが基板19に拡散するのを抑制することができる。第1犠牲層61上に形成された第2犠牲層62の表面は、CMP(Chemical Mechanical
Polishing)装置を用いて表面平滑化される。
【0058】
(b)犠牲層のパターニング工程
図9A(c)に示すように、基板19の一表面の全面にわたって形成した第1犠牲層61および第2犠牲層62を、複数の共振子10のそれぞれの空隙16に対応した形状にパターニングする。第1犠牲層61および第2犠牲層62のパターニングは、半導体製造プロセスにおける酸化絶縁膜の公知のパターニング技術を利用することができ、たとえばフォトリソグラフィ技術により、容易に設けることができる。パターニングの一例としては、第2犠牲層62上にポジレジストをスピンコートなどにより塗布し、露光、現像してレジストをパターンニングしてマスクを形成する。そののちフッ酸水溶液に浸漬して、空隙16に対応した形状を有する第1犠牲層61および第2犠牲層62を得る。
【0059】
(c)共振部11の形成工程
図9B(d)に示すように、複数の共振子10のそれぞれの空隙16に対応した形状を有する第1犠牲層61および第2犠牲層62の上に、第1共振子用電極14、第1キャパシタ用電極31、第1圧電膜12、第2圧電膜32、第2共振子用電極13、第2キャパシタ用電極33を形成し、共振部11およびキャパシタ30を形成する。
【0060】
まず、基板19表面および第2犠牲層62表面の少なくとも一部に第1共振子用電極14および第1キャパシタ用電極31を形成する。第1共振子用電極14および第1キャパシタ用電極31は、スパッタリング法やCVD法などによって同時に形成することができる。次に、基板19の厚み方向から平面視したときの全面を覆うように第1圧電膜12および第2圧電膜32を形成する。第1圧電膜12および第2圧電膜32は、スパッタリング法やCVD法などによって同時に形成することができる。形成された第1圧電膜12は、複数の共振子10のそれぞれに対応してパターニングされ、形成された第2圧電膜32は、キャパシタ30に対応してパターニングされる。
【0061】
次に、第1圧電膜12および第2圧電膜32の表面の少なくとも一部に第2共振子用電極13および第2キャパシタ用電極33を形成する。このとき、第2共振子用電極13は、少なくとも一部が、第1圧電膜12および第1共振子用電極14を介して第2犠牲層62と対向するように形成され、第2キャパシタ用電極33は、少なくとも一部が、第2圧電膜32および第1キャパシタ用電極31と対向するように形成される。
【0062】
次に、図9B(e)に示すように、第2共振子用電極13上に、調整層17を形成する。調整層17は、蒸着法などによって形成することができる。次に、図9B(f)に示すように、複数の共振子10およびキャパシタ30に対応して、第2共振子用電極13および第2キャパシタ用電極33をパターニングする。第2共振子用電極13および第2キャパシタ用電極33のパターニングは、半導体製造プロセスにおける電極の公知のパターニング技術を利用することができ、たとえばフォトリソグラフィ技術により、容易に行うことができる。
【0063】
次に、図9C(g)に示すように、基板19の厚み方向一表面の全面に対応して、共振部11およびキャパシタ30を覆うように、保護膜18を形成する。保護膜18は、CVD法などによって形成することができる。次に、図9C(h)に示すように、複数の共振子10およびキャパシタ30に対応して、第1圧電膜12および保護膜18をパターニングする。第1圧電膜12および保護膜18のパターニングは、半導体製造プロセスにおける公知のパターニング技術を利用することができ、たとえばフォトリソグラフィ技術により、容易に設けることができる。
【0064】
(d)外部導出用電極20、UBM層21およびピークシフト層34の形成工程
図9C(i)に示すように、複数の共振子10およびキャパシタ30のそれぞれに対応して第1圧電膜12および保護膜18がパターニングされて、基板19の厚み方向一表面において第1共振子用電極14または第2共振子用電極13が露出した部分に、外部導出用電極20を形成する。これによりフィルタ前駆体が完成する。
【0065】
次に、外部導出用電極20上に、UBM層21およびピークシフト層34を同一材料を用いて同時に形成する。UBM層21およびピークシフト層34は、無電解めっき法などによって形成することができる。
【0066】
(e)エッチングホール15の形成工程
次に、図9D(j)に示すように、複数の共振子10のそれぞれに対応して、共振部11を、基板19表面に直交する方向に、第2犠牲層62表面まで到達するエッチングホール15を形成する。エッチングホール15の形成方法は、半導体製造プロセスにおけるビア形成技術を利用することができ、たとえばフォトリソグラフィ技術により、容易に設けることができる。
【0067】
(f)エッチング工程
図9D(k)に示すように、複数の共振子10のそれぞれに対応して、エッチングホール15を介してエッチング剤によって、第1犠牲層61および第2犠牲層62をエッチング除去して、空隙16を形成する。第1犠牲層61および第2犠牲層62のエッチング除去は、半導体製造プロセスにおけるエッチング技術を利用することができ、犠牲層の材質に応じたエッチング剤を用いて容易に行うことができる。エッチング剤は、エッチング液またはエッチングガスで、種々のエッチング条件に応じてウェットエッチング、ドライエッチングのいずれかを選択すればよい。以上の工程によりフィルタ1が完成する。
【実施例】
【0068】
実際にキャパシタ30上にピークシフト層34を設けた回路を作製し、インピーダンスおよび偏角の周波数特性を測定した。
【0069】
第1共振子用電極14、第2共振子用電極13、第1キャパシタ用電極31および第2キャパシタ用電極33は、それぞれ厚み0.45μmのMo(モリブデン)層により形成し、第1圧電膜12および第2圧電膜32は、厚み0.90μmのAlN膜により形成した。
【0070】
UBM層21については、Cr/Ni/Auがこの順序で積層された3層構造とし、Cr層の厚みを100Å、Ni層の厚みを10000Å、Au層の厚みを1000Åとした。
【0071】
周波数特性は、Hewlett−Packard社製ネットワークアナライザ8753Dを用いて25℃の温度条件下で測定した。
【0072】
図10は、インピーダンスおよび偏角の周波数特性を示すグラフである。横軸は、周波数(MHz)を示し、左側縦軸は、インピーダンス(Ω)を示し、右側縦軸は偏角(
degree)を示す。
【0073】
グラフからわかるように、高周波数領域での挿入損失のピークが見られず、通過周波数帯域(1850〜2115MHz)から外れたものと考えられる。これにより挿入損失のピークを通過帯域外にシフトさせ、挿入損失が少ない特性に優れた小型のフィルタを製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の第1実施形態であるフィルタ1の構成を示す断面図である。
【図2】インダクタ40を基板19上に設けた場合の部分平面図である。
【図3】本実施形態の送信回路100の等価回路図である。
【図4】送信回路100の平面図である。
【図5】デュプレクサ200の断面図である。
【図6】本実施形態のデュプレクサ200の等価回路図である。
【図7】本実施形態のデュプレクサ300の等価回路図である。
【図8】図7に示すデュプレクサ300の送信用フィルタ51の平面図である。
【図9A】フィルタ1の製造方法を示す工程図である。
【図9B】フィルタ1の製造方法を示す工程図である。
【図9C】フィルタ1の製造方法を示す工程図である。
【図9D】フィルタ1の製造方法を示す工程図である。
【図10】インピーダンスおよび偏角の周波数特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0075】
1 フィルタ
10 共振子
11 共振部
12 第1圧電膜
13 第2共振子用電極
14 第1共振子用電極
15 エッチングホール
16 空隙
17 調整層
18 保護膜
19 基板
21 UBM層
31 第1キャパシタ用電極
32 第2圧電膜
33 第2キャパシタ用電極
34 ピークシフト層
35 第1接続導体
36 第2接続導体
41 実装用基板
42 電極パッド
43 金属バンプ
44 封止樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板との間に空隙を有するように前記基板の主面上に形成される第1共振子用電極と、前記第1共振子用電極上に形成される第1圧電膜と、前記第1共振子用電極と対向する部分を有するように前記第1圧電膜上に形成される第2共振子用電極と、を含んで構成される共振子と、
前記基板の主面上に形成される第1キャパシタ用電極と、前記第1キャパシタ用電極上に形成される前記第1圧電膜と同一材料からなる第2圧電膜と、前記第1キャパシタ用電極と対向する部分を有するように前記第2圧電膜上に形成される第2キャパシタ用電極と、を含んで構成されるキャパシタと、
前記基板上に形成され、前記第1共振子用電極または前記第2共振子用電極の一方と電気的に接続される外部導出用電極と、
前記外部導出用電極の主面に設けられる第1金属層と、
前記第1金属層と同一材料からなり、前記第2キャパシタ用電極の主面に設けられる第2金属層と、を備えたフィルタ。
【請求項2】
前記第2金属層の厚みをTmとし、前記第2圧電膜の厚みをTcとしたとき、TmとTcとが、0.5Tc≦Tmの関係を満たす請求項1記載のフィルタ。
【請求項3】
前記キャパシタに接続されるインダクタをさらに備える請求項1に記載のフィルタ。
【請求項4】
前記第1共振子用電極と前記第1キャパシタ用電極とが第1接続導体を介して接続され、
前記第2共振子用電極と前記第2キャパシタ用電極とが第2接続導体を介して接続され、
平面視したときに、前記第1接続導体と前記第2接続導体とが重ならないように配置されている請求項1に記載のフィルタ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のフィルタと、
電極パッドを備え、前記フィルタが実装される実装用基板と、
前記電極パッドと前記第1金属層との間に介在される金属バンプと、を備えたデュプレクサ。
【請求項6】
基板と、前記基板との間に空隙を有するように前記基板の主面上に形成される第1共振子用電極と、前記第1共振子用電極上に形成される第1圧電膜と、前記第1共振子用電極と対向する部分を有するように前記第1圧電膜上に形成される第2共振子用電極と、を含んで構成される共振子と、前記基板の主面上に形成される第1キャパシタ用電極と、前記第1キャパシタ用電極上に形成される前記第1圧電膜と同一材料からなる第2圧電膜と、前記第1キャパシタ用電極と対向する部分を有するように前記第2圧電膜上に形成される第2キャパシタ用電極と、を含んで構成されるキャパシタと、前記基板上に形成され、前記第1共振子用電極または前記第2共振子用電極の一方と電気的に接続される外部導出用電極と、を備えたフィルタ前駆体を準備する工程と、
前記外部導出用電極の主面に第1金属層を、前記第2キャパシタ用電極の主面に前記第1金属層と同一材料からなる第2金属層をそれぞれ形成する工程と、を含むフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−93398(P2010−93398A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258990(P2008−258990)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】