説明

フィルム基板及びそれを用いたフィルム型太陽電池

【課題】フィルム基板の張り付きを防止し、良好な搬送性を有するフィルム基板を提供すること。
【解決手段】フィルム基板11を送り出す巻き出し室2と、フィルム基板11を巻き取る巻き取り室3と、巻き出し室2と巻き取り室3との間に位置し、フィルム基板11の表面に製膜する製膜室4とを備えたロールツーロール方式のフィルム基板の製造装置において、巻き出し室2に配置されたレーザ照射部15によりフィルム基板11の一方の面にレーザ光を照射する。このレーザ光15aにより、フィルム基板11の表面に突起16を形成し、フィルム基板11の張り付きを防止し、フィルム基板11の搬送性を改善する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル性を有するフィルム基板に関し、特に太陽電池向けのフィルム基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池等の薄膜デバイスの基板として、フィルム基板が用いられている。フィルム基板は、従来のガラス基板や金属基板に比べ安価であり、軽量化、モジュールの薄型化や折り曲げが可能であることから、広範囲に適用できる。フィルム基板は、製造時のフィルム基板上の薄膜デバイスの破損のため、平坦な表面を有することが必要とされる。このような、フィルム基板の製造方法としては、フィルム基板を搬送しながら薄膜デバイスを形成するロールツーロール生産方式を用い、フィルム基板の表面へ凹凸を有するコーティング膜を形成する例が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
フィルム基板の製造時には、フィルム基板の平坦な表面同士またはフィルム基板巻き取り時のフィルム基板とフィルムロールとの張り付きによる搬送障害が問題となる。このため、特許文献1記載の例では、フィルム基板の表面に熱硬化性樹脂を塗布してフィルム表面に凹凸を形成することにより、フィルム基板の張り付きを防止し、搬送障害を改善している。この他、フィルム基板の搬送障害の改善のため、フィルム基板の表面に粒状の有機系または無機系滑剤(フィラー)を混練し、フィルム基板の表面に凹凸を設ける例、フィルム基板の巻き取り時に凹凸を有する別のフィルムを挟む例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−254332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載のようにフィルム基板の表面上にコーティング膜を形成する場合、コーティング材料及びコーティング工程の増加によるタクトタイムの増加が懸念される。また、フィルム基板の巻き取り時に凹凸を有する別のフィルムを挟む場合、使用する別のフィルムの搬送など、作業が煩雑となる。
【0006】
また、フィラー混練法は、フィラー自身が周辺雰囲気の極わずかな水分等で容易に凝集する。このため、フィラー粒径のバラつきが大きく、フィルム表面の凹凸高さや凹凸形状の制御が困難であった。また、フィラーが顕著に凝集した場合、デバイス膜厚を超えるような巨大突起が形成されるため、突起先端が搬送時の巻き取り時にフィルム表面が擦られてデバイスが破壊され、デバイスのリークポイントとなることが懸念される。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、フィルム基板の張り付きを防止し、良好な搬送性を有するフィルム基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフィルム基板は、フレキシブル性を有し、一対の表面を有するフィルム基板本体と、前記フィルム基板の一方の表面に形成される薄膜デバイスと、前記フィルム基板の他方の表面に形成される突起と、を有するフィルム基板であって、前記突起は、前記薄膜デバイスを形成する前にレーザ光を用いた局所加熱により形成されることを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、フィルム基板の表面に突起を設けることにより、フィルム基板の張り付きを防止することができるので、フィルム基板の滑りを向上させることができ、フィルム基板の搬送性を向上できる。また、突起をレーザ光によるフィルム基板の局所加熱によって形成するので、ロールツーロール方式などのフィルム基板の連続生産に対応することができる。さらに、突起をフィルム基板の薄膜デバイスが形成される面の反対側に形成するので、薄膜デバイスの形成に影響することなくフィルム基板の搬送性を改善できる。
【0010】
本発明は、上記フィルム基板において、前記突起は、前記フィルム基板の他方の表面からの最大高さが前記薄膜デバイスの最大厚さより小さいことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、フィルム基板の表面の突起を薄膜デバイスの最大厚さより小さくするので、フィルム基板の製造時において、突起による薄膜デバイスの破損を抑制できると共に、フィルム基板の搬送性を向上させることができる。
【0012】
本発明のフィルム型太陽電池は、フレキシブル性を有し、一対の表面を有するフィルム基板と、前記フィルム基板の一方の表面に形成される薄膜太陽電池と、前記フィルム基板の他方の表面に形成される突起と、を有するフィルム型太陽電池であって、前記突起は、前記薄膜太陽電池を形成する前にレーザ光を用いた局所加熱により、形成されることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、フィルム型太陽電池の表面に突起を設けることにより、フィルム型太陽電池の張り付きを防止することができるので、フィルム型太陽電池の滑りを向上させることができ、フィルム型太陽電池の搬送性を向上できる。また、突起をレーザ光によるフィルム型太陽電池の局所加熱によって形成するので、ロールツーロール方式などのフィルム型太陽電池の連続生産に対応することができる。さらに、突起をフィルム型太陽電池の薄膜デバイスが形成される面の反対側に形成するので、フィルム型太陽電池の形成に影響することなくフィルム型太陽電池の搬送性を改善できる。
【0014】
本発明は、上記フィルム型太陽電池において、前記突起は、前記フィルム基板の他方の表面からの最大高さが前記薄膜太陽電池より小さいことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、フィルム型太陽電池の表面の突起を薄膜太陽電池の最大厚さより小さくするので、フィルム型太陽電池の製造時において、突起による薄膜太陽電池の破損を抑制できると共に、フィルム型太陽電池の搬送性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フィルム基板の張り付きを防止し、良好な搬送性を有するフィルム基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)本発明の実施の形態に係る搬送装置を側面から見た時の模式図であり(b)本発明の実施の形態に係る搬送装置を下面からみた際の透過視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るフィルム基板の突起の形態の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るレーザ照射部の模式図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るレーザ照射部の要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1(a)は、本発明の実施の形態に係る搬送装置を側面から見た時の模式図であり、図1(b)は、図1(a)を下面からみた際の透過視図である。
【0019】
本実施の形態に係るフィルム搬送装置1は、フィルム基板11を送り出す巻き出し室2と、フィルム基板11を巻き取る巻き取り室3と、巻き出し室2と巻き取り室3との間に位置し、フィルム基板11の表面に薄膜デバイスを製膜する製膜室4とを備えて構成される。巻き出し室2と製膜室4との間及び製膜室4と巻き取り室3の間には、フィルム基板11を通過させる開口部(図示せず)が形成され、巻き出し室2から製膜室4を介して巻き取り室3までフィルム基板11を搬送できるように構成されている。
【0020】
巻き出し室2は、巻き出し側フィルムロール12と、フィルム基板11を巻き取り室3に向けて搬送する搬送用ロール13と、フィルム基板11の静電気を除電する静電気除去装置14と、フィルム基板11の表面に凹凸を形成するレーザ照射部15とを備える。
【0021】
フィルム基板11は、巻芯によって巻き出し側フィルムロール12に巻きつけられている。巻き出し側フィルムロール12は、回転軸が水平になるように配置され、フィルム基板11を水平に搬送用ロール13に向けて巻き出しする。搬送用ロール13は、フィルム基板11の下面側に、搬送用ロール13の回転軸が巻き出し側フィルムロール12の回転軸と同一になるように配置される。また、搬送用ロール13は、フィルム基板11下面から支持し、巻き取り室3に向けてフィルム基板11を水平に支持するように搬送する。
【0022】
静電気除去装置14は、巻き出し側ロール12と搬送用ロール13との間に配置され、フィルム基板11の巻き出しの際に、フィルム基板11同士が引き剥されることにより発生する静電気を除去する。この静電気除去装置14は、例えば、オゾンをフィルム基板11に吹き付けることで、フィルム基板11の表面に帯電した静電気を速やかに除去する機構を有する。
【0023】
レーザ照射部15は、搬送用ロール13と静電気除去装置14との間に配置され、フィルム基板11の下面にレーザ光15aを照射することにより、フィルム基板11の下面の一部を溶融して突起16を形成する。このレーザ照射部15は、ビーム径や、レーザ光15aの照射面積などを任意に調整でき、突起16の形状を任意に調整できるように構成されている。
【0024】
このように、巻き出し室2は、フィルム基板11を巻き出し側ロール12より水平に巻き出しし、巻き出し室2内で、フィルム基板11の下面にレーザ光15aを照射してフィルム基板11の下面の一部を溶融して突起16を形成し、搬送ロール13を介してフィルム基板を製膜室4へ搬送するように構成されている。
【0025】
製膜室4では、巻き取り室2より水平に搬送されるフィルム基板11の上面に薄膜デバイスの製膜が行われる。薄膜デバイスの製膜は、製造するフィルム基板11の種類に応じて一回または複数回行われる。複数回薄膜デバイスの製膜を行う場合、複数の製膜室4を備えるように構成される。
【0026】
巻き取り室3は、搬送用ロール17と、巻き取り側フィルムロール18とを備えて構成される。搬送用ロール17は、フィルム基板11の下面に、搬送用ロール13と回転軸が同一になるように配置される。この搬送用ロール17により、フィルム基板11が製膜室4より巻き取り側フィルムロール18に向けて水平に搬送される。
【0027】
巻き取り側フィルムロール18は、巻芯を中心に回転軸が搬送用ロール17と同一になるように、水平方向に配置されている。この巻き取り用ロール18により、フィルム基板11が巻き取られ、フィルム基板11が製造される。
【0028】
このように、本実施の形態においては、フィルム基板11は、巻き出し側フィルムロール12と巻き取り側フィルムロール18との間に張り渡され、このフィルム基板11を2本の搬送用ロール13、17によって下面から支持して搬送するように構成されている。また、フィルム基板11の下面には、巻き出し室2においてレーザ照射部15によって突起16が形成され、フィルム基板11の上面には、製膜室4において薄膜デバイスが製膜される。
【0029】
また、巻き出し室2及び巻き取り室4には、フィルム基板11に一定の張力をかけるように、駆動機構(図示せず)が内蔵されている。駆動機構は、例えば、巻き取り室4にモータ及び減速機を内蔵し、一定の速度で巻き取りロールを回転させることにより実現することができる。また、巻き出し室2には、フィルム基板11が一定の張力を保持した状態で引き出されるように、一定の制動を加える機構を備えていても良い。巻き出し室2及び巻き取り室4は、制御機構(図示せず)によって一定の速度を維持するように制御されている。
【0030】
次に、以上のように構成された搬送装置の動作について説明する。まず、巻き出し室2において、フィルム基板11は、巻き出しロール12の巻芯に巻き取られた形で巻き出しロール12に装着される。次に、フィルム基板11は、巻き出しロール12より搬送ロール13に向けて水平に巻き出しされる。このとき、巻き出しロール12上でフィルム基板11同士がはく離するので、フィルム基板11の表面には静電気が帯電する。この静電気を静電気除去装置14によって徐電する。静電気を除電することにより、フィルム基板11同士の張り付きが防止できるので、円滑に巻き出しを行うことができる。また、静電気による異物の付着を抑制することができるので、薄膜デバイスの形成及び突起16の形成を正確に行うことができる。なお、本実施の形態において、静電気除去装置14は、フィルム基板11の下面側に設置しているが、フィルム基板11の上面に設置してもよい。
【0031】
次に、レーザ照射部15によってフィルム基板11の下面にレーザ光15aを照射する。レーザ光15aは、レーザ照射部15をフィルム基板11の搬送方向とフィルム基板11の面内で直交するフィルム基板11の幅方向にレーザ照射部15を往復運動させながら周期的に照射される。また、レーザ光15aは、フィルム基板11の下面側から、フィルム基板11の下面に向かって照射されて突起16を形成する。次いで、突起16が下面に形成されたフィルム基板11は、搬送用ロール13を介して製膜室4に搬送される。このように、本実施の形態においては、フィルム基板11の製膜面と反対側の面にレーザ光15aを照射してフィルム基板11の下面を溶融させ、突起16を形成する。次いで、製膜室4に突起16を有するフィルム基板11が搬送される。
【0032】
図2に本実施の形態に係る突起16の一例を示す。本実施の形態において、突起の形状は、搬送時のすべりが確保されれば特に限定されない。例えば、図2(a)に示すように、フィルム基板11下面から山状に隆起した形状16aのものとしても良いし、図2(b)に示すように、図2(a)の山状の突起の中央が陥没した形状16bのものであってもよい。この他にも、突起の形状は、矩形状の形状などを用いることもできる。これらの中でも、ロール巻き取り時に接触するフィルム基板11面の保護の観点から、突起の頂点が十分なだらかでることが望ましい。
【0033】
製膜室4では、フィルム基板11の上面にフィルム基板11の用途に応じて種々の材質が製膜され、薄膜デバイスが形成される。フィルム基板11の上面への薄膜デバイスの形成は、従来公知の手段で行うことができる。例えば、薄膜太陽電池を製膜する場合、フィルム基板11の上面にスパッタリングによって金属電極を積層し、次いで、CVD(化学起草蒸着)によって発電層を形成する。次にスパッタリングによって透明電極を形成することにより、薄膜太陽電池デバイスを形成することができる。このように、製膜室4で製膜されたフィルム基板11は、巻き取り室3へ搬出される。
【0034】
巻き取り室3では、搬送用ロール16を介して、製膜室4よりフィルム基板11が搬送される。巻き取り室3に搬入されたフィルム基板11は、巻芯を有する巻き取用フィルムロール17に巻き取される。このフィルム基板11巻き取りの際に、フィルム基板11の下に形成された突起16が大きい場合、この突起16とフィルム基板11の上面に形成された薄膜デバイスとが接触する。このような突起16と薄膜デバイスとの接触により、薄膜デバイスが破損する。また、突起16の大きさが適切に形成されることにより、搬送時及び巻き取り時におけるフィルム基板11同士の接触面積が低下し、フィルム基板11の張り付きが防止できるので、フィルム基板11の搬送性が向上する。さらに、突起16の大きさが適切に形成されることにより、突起16と薄膜デバイスとの接触による薄膜デバイスの破損を伴うことなく、フィルム基板11を製造することができる。
【0035】
このように、本実施の形態においては、フィルム基板11の搬送中にレーザ光15aを周期的に照射し、レーザ光15aのエネルギーを用いてフィルムを局所的に溶融することにより、フィルム基板11の表面に搬送性を確保可能な突起16を形成する。なお、本実施の形態において、用いるレーザ光15aの出力は、使用するフィルム基板11に応じて、フィルム製膜面側にダメージを与えないように調整する。また、突起の形状は、レーザ光15aの出力や発射条件の調整により、突起高さや幅などの形状が制御可能である。
【0036】
また、本実施の形態において、突起16の高さは特に制限されないが、nmオーダのものが好ましい。また、突起16による薄膜デバイスの破損防止の観点から、突起16の高さは、薄膜デバイスの合計膜厚を超えないことが望ましい。突起16の大きさは、おおむね10nm以上であれば、フィルム基板11の張り付きを防止し、フィルム基板11の搬送性を向上することができる。また、1000nm以下であれば、フィルム基板11製造時における薄膜デバイスの破損を抑制することができるが、より好ましくは800nm以下である。
【0037】
また、突起16の幅は、通常μmオーダのものが用いられる。突起16の幅が10μm以上であれば、フィルム基板11の張り付きを防止できる。
【0038】
また、本実施の形態において、フィルム基板11下面の突起16の平均面内個数密度には、通常2000個/mm〜10000個/mmの範囲で用いられるが、特に規定されるものではない。
【0039】
本実施の形態において、突起16は、レーザ光15aの出力や、照射条件の調整により、突起16の高さや幅等を任意に調整することができる。図3は、レーザ照射部15を示す模式図である。同図において、レーザ照射部15は、レーザ発振器31、このレーザ発振器31から誘導放出されたレーザ光を拡大するエキスパンダ32、拡大されたレーザ光を加工面上で結像させるための焦点調整レンズ33、レーザ光を任意の矩形状に整形するマスク34、整形されたレーザ光を加工面上でXY方向に走査するガルバノスキャナ35などから構成されている。
【0040】
レーザ発振器31としては、波長変換ユニットを含むNd:YAGレーザ発振器を用い、パルス状のNd:YAGレーザの2倍高調波(波長532nm)を出射する。本実施の形態においては、フィルム基板11にダメージを与えないように、波長は400nm〜650nmの範囲にすることが好ましい。また、加工材料の種類に応じて、YAG、YLF、YVO等のレーザ光を用いることもできる。
【0041】
ガルバノスキャナ35は、それぞれ加工面上におけるX軸方向、Y軸方向への走査に対応した一対のガルバノミラー36、37、および、それらを回動させるサーボモータ等の駆動機構38、39などから構成されており、ガルバノミラー36、37の回動角に応じてレーザ光の加工スポットを、加工面上でフィルム基板11の加工面上でXY方向に走査することができる。
【0042】
図4に示すように、マスク34は、X軸方向に沿って光軸の両側から進退可能に設けられた一対のスリット板41a、41bと、それらにX軸方向と直交するY軸方向に沿って光軸の両側から進退可能に設けられたもう一対のスリット板42a、42bとで構成されている。これら4つのスリット板41a、41b、42a、42b(遮光部材)は、矩形状のスリット40を画成しており、図4に破線で示されるような楕円形状のエネルギー強度分布を持つレーザ光の加工スポットを矩形状に整形可能に構成されている。
【0043】
また、本実施の形態において、突起16の形状は、レーザ照射部15を調整することにより任意に調整することができる。例えば、レーザ照射部15のマスク34の開口部を4つのスリット板41a、41b、42a、42bの位置を移動させることで、開口部の形状を正方形や長方形といった所定の矩形に変化させることができる。スリット板41a、41b、42a、42bの移動は、それぞれサーボモータ43a、43b、44a、44bを用いて行うことができる。このようにして、突起16を任意の形状に形成することができる。
【0044】
レーザ発振器31から出射されたレーザ光15aは、エキスパンダによって、ビーム径が拡大されたレーザ光15aとなる。このビーム径が拡大されたレーザ光15aは、マスクの開口部によりその周縁部が遮られ、断面形状が略矩形のレーザ光15aとなる。この断面形状が略矩形のレーザ光15aは、反射ミラーで反射され、集光レンズを経て、フィルム基板11上に照射される。このようにして、フィルム基板11の表面に略矩形の加工スポットが結像される。これにより、この加工スポット部分のフィルム上に突起16が形成される。この加工スポットの形状は、集光レンズの形状を調整することにより、任意に調整することができる。また、加工スポットの寸法は、突起の形態およびレーザ光の出力に応じて適宜調整する。
【0045】
また、本実施の形態においては、レーザ照射部15をフィルム基板11の幅方向に移動させる構成としたが、レーザ光15aの出射方向を調整によりフィルム基板11の下面に突起16を形成してもよい。この場合、例えば、ファイバ光学系を用い、レーザ光15aの出射方向を調整することにより、加工スポットを移動させることができる。また、加工スポットの移動については、ガルバノミラー36、37を駆動させて調整してもよい。
【0046】
なお、ガルバノミラー36、37を駆動させた場合、レーザ光15aの基板への入射角度が変化するため、加工スポットの形状が変形する。このように、ガルバノミラー36、37の駆動に応じて、スリット40の形状をさせることによっても、加工スポットの形状を任意に調整することができるので、突起16の形状を任意に調整することができる。
【0047】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例)
搬送装置1において、フィルムの製膜面と反対側にレーザ光15aを照射して突起16を形成した。このとき、レーザ光15aは、出力4kw、加工スポット径10μm、レーザ光出力部移動速度1m/secとした。さらに、突起16の平均面内個数密度が2600個/mmになるようにレーザ光照射間隔を調整した。なお、このときの突起16の形態は、図2の(a)のような山状であった。
【0049】
(比較例)
使用したフィルムは、幅50cm厚さ50μmのポリイミドフィルムとした。従来通りフィルム中にリン酸水素ナトリウム製フィラーを混入した。このとき、フィラーの平均面内個数密度が2600個/mmとなるようにフィラー混入量を調整した。
【0050】
(太陽電池の作製)
実施例で作製したフィルムと比較例で作製したフィルムのそれぞれを用いて2段タンデム型薄膜アモルファス太陽電池を積層した。まず、スパッタ方式にて金属電極Ag(膜厚300nm)、ZnO(膜厚60nm)を積層し、次いで、CVD(化学気相蒸着)方式にてボトムn層(a−Si及びa−SiO、膜厚60nm)、ボトムi層(a−SiGe、膜厚130nm)、ボトムp層(a−SiO及び微結晶Si、膜厚40nm)、トップn層(a−Si、膜厚30nm)、トップi層(a−Si、膜厚200nm)、トップp層(a−SiO、膜厚20nm)からなる発電層を積層した。最後にスパッタ方式で透明電極(ITO)を積層した(膜厚70nm)。なお、この時の総膜厚は、合計で約900nmであった。
【0051】
このように作成した実施例及び比較例の2種類のフィルム及びそれぞれのフィルムを用いて作成した太陽電池について、以下のような評価を行った。
【0052】
まず、薄膜アモルファス太陽電池積層前のフィルムについて、非接触式3次元形状測定装置(WYKO HD−2000、Veeco社製)にて表面の突起高さを調査した。さらに、太陽電池に逆バイアス電圧(−2V)を印加し、その時のリーク電流を測定した。
【0053】
その結果、フィルムの突起形状及びリーク電流について表1のような結果を得た。表1に示すように、実施例のフィルムは、比較例のフィルムに比べ、平均突起高さ、平均突起径、フィルム突起面内密度はほぼ同等であるが、それらのバラつきが小さい傾向が見られた。さらに、太陽電池層膜厚を超える大きな高さの突起は0であることが分かった。また、リーク電流も、比較例のフィルムは、リーク電流が100mA以上であるのに対し、実施例のフィルムは、約10mAであり、1桁リーク電流が下がっていることが分かった。
【0054】
比較例のフィルムを用いた太陽電池について、リーク位置を特定し、断面観察したところ、フィルム中のフィラーにより、フィルム表面に太陽電池の総膜厚を超える突起が形成されていた。さらに、突起上部の積層膜が破壊され、突起の周囲で金属電極と透明電極とが導通してリークに至ったことが判明した。このことから、搬送時のロールやフィルム巻き取り部との接触により、突起に応力集中が生じ、薄膜が破壊されたと考えられる。一方、実施例のフィルムを用いた太陽電池は、製膜面に凹凸が形成されていないため、上記のような突起による膜破壊は発生しない。
【0055】
【表1】

【0056】
以上説明したように、本実施の形態においては、フィルム基板11搬送時にレーザ光15aを周期的に照射し、レーザ光15aのエネルギーを用いてフィルムを局所的に溶融させ、フィルム基板11表面にフィルム基板11の搬送性を確保可能な突起16を形成する。この突起16により、フィルム基板11の張り付きを防止することができるので、良好な搬送性を得ることができる。特に、本実施の形態においては、フィルム基板11の搬送を止めることなく突起16を形成することができるので、ロールツーロール方式など、フィルム基板11の連続製造装置に組み込むことができる。
【0057】
また、フィルム基板11の搬送性を向上する突起16を設ける機構は、フィルム基板11の製造装置1の初期段階に組み込むことができる。このため、製造後期において、フィルム基板11上へコーティング膜を形成する工程を設ける従来技術などによる比べ、コーティング工程が不要となるので、製造工程を簡略化することができる。更に、フィルム基板11の突起16形成にレーザ光15aを用いることで、フィラー等を用いた場合より、より均一な突起16を形成することができる。また、製膜面に凹凸をつけていないので、電流リークに繋がる膜の破損を防止することができる。
【0058】
本発明は上記実施の形態に限定されず種々変更して実施することが可能である。また、上記実施の形態で説明した数値、寸法、材質については特に制限はない。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば屋外用の太陽電池モジュール、あるいは薄型の太陽電池に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 搬送装置
2 巻き出し室
3 巻き取り室
4 製膜室
11 フィルム基板
12 巻き出し側フィルムロール
13、17 搬送用ロール
14 静電気除去装置
15 レーザ照射部
15a レーザ光
16 突起
16a、16b 突起の一例
18 巻き取り側フィルムロール
31 レーザ発振器
32 エキスパンダ
33 焦点調整レンズ
34 マスク
35 ガルバノスキャナ
36、37 ガルバノミラー
38、39 駆動機構
40 スリット
41a、41b、42a、42b スリット板
43a、43b、44a、44b サーボモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル性を有し、一対の表面を有するフィルム基板本体と、
前記フィルム基板の一方の表面に形成される薄膜デバイスと、
前記フィルム基板の他方の表面に形成される突起と、を有するフィルム基板であって、
前記突起は、前記薄膜デバイスを形成する前に、レーザ光を用いた局所加熱により形成されることを特徴とするフィルム基板。
【請求項2】
前記突起は、前記フィルム基板の他方の表面からの最大高さが前記薄膜デバイスの最大厚さより小さいことを特徴とする請求項1記載のフィルム基板。
【請求項3】
フレキシブル性を有し、一対の表面を有するフィルム基板と、
前記フィルム基板の一方の表面に形成される薄膜太陽電池と、
前記フィルム基板の他方の表面に形成される突起と、を有するフィルム型太陽電池であって、
前記突起は、前記薄膜太陽電池を形成する前に、レーザ光を用いた局所加熱により形成されることを特徴とするフィルム型太陽電池。
【請求項4】
前記突起は、前記フィルム基板の他方の表面からの最大高さが前記薄膜太陽電池より小さいことを特徴とする請求項3記載のフィルム型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−245149(P2010−245149A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89895(P2009−89895)
【出願日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】