説明

フェールセーフ装置

【課題】パワートレインに所定以上のトルクが作用し、動力源とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物との動力伝達が遮断された場合に、制限された範囲でトルクの伝達が可能なフェールセーフ装置を提供する。
【解決手段】動力源2とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物Wとが連結軸9によって連結されたフェールセーフ装置において、連結軸9は、動力源2に許容されるトルク以上のトルクが掛かった場合に破断するように構成され、かつその連結軸9を軸線方向に押圧して、連結軸9が破断した場合の破断面同士13を接触させる弾性力を連結軸9に付与する弾性機構14が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動力源とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物とが連結軸によって連結された機構のフェールセーフ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、動力源として、内燃機関と電動機とを備えたいわゆるハイブリッド車両や、車輪のホイール内部もしくはその近傍に電動機を配置してその電動機により車輪を直接駆動するいわゆるインホイールモータ方式の車両(インホイールモータ車)などが開発されている。このようなインホイールモータ車は、電動機が駆動輪のホイール内部もしくはその近傍に設けられて駆動輪に直接動力を伝達するものであるから、従来の車両に設けられている変速機やデファレンシャルなどの動力伝達機構を設ける必要がなくなり、車両の構成を簡素化することができる。
【0003】
内燃機関や電動機などの動力源を備えた車両は、例えば、凹凸が大きい悪路や障害物がある路面を走行する際に、走行路面からの過大なトルクの入力や、動力源と車輪との間の駆動系統におけるギヤの噛み込みなどのフェールが生じた場合に、パワートレインの負荷が大きくなってしてしまうおそれがある。
【0004】
特許文献1には、何らかの原因によりパワートレインに作用する負荷が急増したときでも、最小のコストにより修理することができることを目的としたモータ駆動車両に関する発明が記載されている。この特許文献1に記載された発明は、モータとそのモータの出力を変速する減速機とを連結するジョイント部材とその減速機の出力により回転する駆動輪とを備え、パワートレインに所定以上のトルクが作用した場合に、ジョイント部材の脆弱部が破断することにより減速機とモータとの間の動力伝達が遮断されるように構成されている。
【0005】
また、特許文献2には、ホイールが外力を受けて変形した場合であっても、減速機への外力の作用を緩和し、減速機およびモータを確実に保護することを目的としたインホイールモータに関する発明が記載されている。この特許文献2に記載された発明は、モータと、そのモータの出力を変速する減速機と、その減速機の出力により回転するホイールと、それら減速機とホイールとを連結する連結軸とを備え、減速機がモータを中心にホイールと反対側に配置されるとともに、ホイールに所定以上の外力が作用した場合に、減速機とホイールとの間の動力伝達が遮断されるように構成されている。
【0006】
さらに、特許文献3には、各輪が独立駆動される車両において、駆動源に異常が発生したとき、車両の走行安定性への影響を軽減しつつ駆動源の制御を停止するように構成された制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−192044号公報
【特許文献2】国際公開第2005/023575号
【特許文献3】特開2006−067669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1や特許文献2に記載されているようなモータ駆動車両は、動力源と駆動対象物との動力伝達が遮断されるように構成されているため、パワートレインに過剰なトルクが掛かることを防止することができる。しかし、その反面、モータから車輪へと動力が伝わらないことにより、動力遮断後の車両を移動させるためには、車両はけん引されるか、または他の駆動経路を設けて自走させるなどの必要があり、この点での改善の余地がある。また、特許文献3に記載されている制御装置に関する発明は、駆動源に異常が生じた車両を安全に停止させるものであるが、動力源と駆動対象物との動力伝達が遮断されるように構成されていない。
【0009】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであって、パワートレインに所定以上のトルクが作用し、動力源とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物との動力伝達が遮断された場合に、制限された範囲でトルクの伝達が可能なフェールセーフ装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、動力源とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物とが連結軸によって連結されたフェールセーフ装置において、前記連結軸は、前記動力源に許容されるトルク以上のトルクが掛かった場合に破断するように構成され、かつその連結軸を軸線方向に押圧して、前記連結軸が破断した場合の破断面同士を接触させる弾性力を前記連結軸に付与する弾性機構が設けられていることを特徴とするフェールセーフ装置である。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記連結軸は、その軸線方向における中間部で予め定めた箇所に、他の箇所より捩り破断強度が低い脆弱部を備えていることを特徴とするフェールセーフ装置である。
【0012】
また、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記動力源は、モータを含み、前記駆動対象物は、車両における車輪を含み、前記モータは車輪毎に設けられていることを特徴とするフェールセーフ装置である。
【0013】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記弾性機構は、前記連結軸の少なくとも一端部側に配置され、かつその連結軸を軸線方向に押圧する弾性部材を含み、その弾性部材の弾性係数は、前記連結軸が破断した場合の前記破断面同士を互いに圧着させ、かつ前記動力源と前記駆動対象物とが互いにトルクを少なくとも伝達させるように、前記連結軸を軸線方向に押圧するよう構成されていることを特徴とするフェールセーフ装置である。
【0014】
さらに、請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかの発明において、前記連結軸の破断を判断する連結軸破断検出手段と、この連結軸破断検出手段における判断結果に基づいて、前記動力源で発生するトルクを停止させる動力源停止制御手段と、この動力源停止制御手段に基づいて、車両の停止を判断する車両停止検出手段と、前記車両停止検出手段における車両の停止判断に基づいて、前記動力源で発生するトルクを制限する動力源トルク制御手段とを備えていることを特徴とするフェールセーフ装置である。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、動力源とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物とが連結軸によって連結され、その連結軸は、動力源に許容されるトルク以上のトルクが掛かった場合に破断するように構成されている。さらに、その連結軸を軸線方向に押圧して、連結軸が破断した場合の破断面同士を接触させる弾性力を連結軸に付与する弾性機構が設けられている。したがって、例えば、凹凸が大きい悪路や障害物がある路面を車両が走行する際に、走行路面からの過大なトルクの入力が生じた場合に、連結軸が破断することで動力源と車輪との動力伝達は遮断されるため、パワートレインの負荷が急増することを防止することができる。また、連結軸が破断した場合、連結軸の破断面同士を接触させる弾性機構が設けられているため、動力源と車輪との動力伝達は可能となり、その結果、車輪を駆動させることができる。
【0016】
特に、請求項5の発明によれば、連結軸破断検出手段と動力源停止制御手段と車両停止検出手段と動力源トルク制御手段とを備えている。したがって、例えば、走行中に連結軸が破断した場合に、車両の停止が確認されるまで駆動源の制御を停止させることができ、その結果、連結軸の破断面同士による摩耗を抑制することができる。また、車両の停止が確認された場合、駆動源の制御を限定的に復帰させることができるため、車両を自走させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明におけるフェールセーフ装置の一例を示す模式図である。
【図2】この発明における制御を実行可能な車両の構成例を示す概念図である。
【図3】この発明におけるフェールセーフ装置の一例における破断状態を示す模式図である。
【図4】この発明におけるフェールセーフ装置の他の例を示す模式図である。
【図5】この発明における制御の一例を示すフローチャートである。
【図6】この発明により動力源の出力を制限した領域と制限していない領域とを示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、この発明を具体例を参照して説明する。図2には、この発明におけるフェールセーフ装置を適用したインホイールモータ車の一例を模式的に示している。そのインホイールモータ1は、車両を走行させる駆動トルクを出力するためのものであり、誘導モータなどのモータ2がケーシング3の内部に収納されている。すなわち、このインホイールモータ1のモータ2は、車両の駆動力源であって、出力トルクを、車両を前進させる際の回転方向である正転方向と、その正転方向とは反対の回転方向である逆転方向とに選択的に切り替えることができる電動機である。ケーシング3にアーム部材4を取り付けることで、インホイールモータ1は、そのアーム部材4を介して車体(図示せず)に連結されて支持されている。モータ2には、トルクを出力する出力軸5が設けられている。これらのモータ2と出力軸5とは、所定の変速比に設定された減速機などの伝動機構6を介して連結されている。さらに、その出力軸5とホイールハブ7(ホイール取付部)の軸部8とが連結部材9(連結軸)によって連結されており、そのホイールハブ7にホイール10が装着されている。また、ホイール10とその外周部に設けられているリム11とから構成され、そのリム11にタイヤ12を取り付けるように構成されている。そして、このホイール10の内周部分であって、ホイール10と同軸上にインホイールモータ1が配置されている。言い換えると、車輪Wのホイール10に、インホイールモータ1が内蔵されている。また、インホイールモータ1は、車輪毎に設けられている。なお、この発明は上述したインホイールモータ車のインホイールモータの構造に限定されない。さらに、この発明における動力源は内燃機関や電動機でもよく、つまり、電気自動車、ハイブリッド車、燃料電池自動車、ならびに通常エンジンを搭載したいわゆるコンベ車などにも適用することができる。
【0019】
この発明における連結軸は、動力源とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物とを連結するように構成されている。図1を用いて、この発明における連結軸をさらに具体的に説明する。この発明に係る連結軸9は、その一例として、出力軸5とホイールハブ7の軸部8とを連結するように構成されている。連結軸9は、動力源2に許容されるトルク以上のトルクが掛かった場合に破断するように形成されている。また、図3に示すように、その連結軸9を軸線方向に押圧して、連結軸9が破断した場合の破断面同士13を接触させる弾性力を連結軸9に付与する弾性機構14が設けられている。なお、連結軸9は、その軸線方向における中間部で予め定めた箇所に、他の箇所より捩り破断強度が低い脆弱部15を備えていてもよい。さらに、図4に示すように、連結軸9は、その軸線方向で中間部に破断容易部16が設けられていてもよい。
【0020】
この発明における弾性機構14は、連結軸9の少なくとも一端部側に配置され、かつその連結軸を軸線方向に押圧する弾性部材14(例えばスプリング)を含む。また、弾性部材14の弾性係数は、連結軸9が破断した場合の破断面同士13を互いに圧着させ、かつリンプホーム走行が可能な必要トルクを伝達できるように、連結軸9を軸線方向に押圧する必要圧着力が設定されている。その具体例をあげると、この発明に係る弾性部材(スプリング)のバネ定数Kは、一輪あたりの必要駆動力T、連結軸が破断した場合の破断面同士を圧着する必要圧着力Fs、ホイールの半径r、連結軸が破断した場合の破断面の摩擦係数μ、破断面平均半径Dm、連結軸が破断した場合のその半径方向の断面積A、ならびにスプリングの自由長から連結軸を押圧している時のスプリングの長さを差し引いた長さlより、
K=Fs/l …(1)
Fs=2T/(μ・Dm・A) …(2)
T=F・r …(3)
として表すことができる。なお、弾性機構は、連結軸の少なくとも一端部側に配置され、かつその連結軸を軸線方向に押圧するように構成されていればよく、例えば、油圧装置でもよい。
【0021】
つぎに、破断した場合のトルク制御を行う装置について説明する。この制御装置(図示せず)は、動力源から生じるトルクが駆動対象物へ伝達されている際に、動力源と駆動対象物とを連結する連結部材が破断した場合に、連結部材の破断部に摩耗が生じるのを抑制し、駆動源を制御するよう構成されている。フローチャートである図5を用いて制御の流れを説明すると、まず、連結軸の破断もしくはパワートレインの負荷の急増などを検知(測定または予測)するセンサやスイッチの信号が入力され、連結軸が破断しているかを判断する(ステップS1)。連結軸9が破断していることによりこのステップS1で肯定的に判断された場合には、動力源2の制御を停止する(ステップS2)。なお、連結軸9の破断が検知されないことによりステップS1で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくリターンする。制御装置は、この動力源停止制御(ステップS2)と動力源に生じるトルクもしくは回転数または駆動対象物の回転または車速もしくは車両停止の有無などを検知(測定または予測)するセンサやスイッチの信号入力とに基づいて、車両の停止を判断する(ステップS3)。車両停止検出(ステップS3)における車両の停止判断に基づいて、動力源で発生するトルクもしくは回転数を制限する(ステップS4)。なお、車両の停止判断が成立していないことによりステップS3で否定的に判断された場合には、ステップS2に戻って従前の制御状態を維持する。
【0022】
さらに、図5に示すフローチャートの動力源トルク制御(ステップS4)に対応するモータ制御の一例を図6に基づいて説明する。図6は動力源の回転数とトルクを模式的に表しており、その横軸は動力源の回転数Nを、その縦軸は動力源のトルクTを表している。制御装置は、連結軸が破断していない場合は、動力源の回転数とトルクとを通常領域Aで制御しているが、連結軸が破断し車両が停止した場合は、動力源を低速かつ低負担で稼動させるため、動力源の回転数とトルクとを制限領域Bで制御するように構成されている。
【0023】
次に、この発明に係るフェールセーフ装置の作用について説明する。この発明におけるフェールセーフ装置を適用したインホイールモータ車が、例えば、凹凸が大きい悪路や障害物がある路面を走行する際に、車輪Wを介して走行路面からの過大なトルク(動力源2に許容されるトルク以上のトルク)の入力が生じた場合、そのトルクがホイールハブ7の軸部8を介して出力軸5に伝達される。ホイールハブ7の軸部8と出力軸5とを連結する連結軸9は、動力源2に許容されるトルク以上のトルクが掛かった場合に破断するため、その結果、動力源2と車輪Wとの動力伝達は遮断することができ、パワートレインの負荷が急増することを防止することができる。
【0024】
さらに、制御装置は、連結軸破断検出(ステップS1)における判断結果に基づいて、動力源の制御を停止させる(ステップS2)ため、車両の停止が確認されるまで駆動源の制御を停止させることができ、その結果、連結軸の破断面同士による摩耗を抑制することができ、また安全に車両を停止させることができる。
【0025】
また、連結軸9が破断し、かつ車両の停止が制御装置によって確認された(ステップS3)場合に、その連結軸9を軸線方向に押圧して破断面同士13を接触させる弾性機構14が設けられているため、動力源2と車輪Wとの動力伝達は少なからず可能となり、その結果、車輪Wを駆動させることができる。さらに、制御装置によってトルクもしくは回転数を制限しつつ動力源2を復帰させる(ステップS4)ため、連結軸9の破断面同士13による摩耗を抑制しながら、車両を自走させることができる。
【0026】
なお、この発明は上述した具体例に限定されず、動力源とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物とが連結軸によって連結されたフェールセーフ装置に適用することができる。この発明に係るフェールセーフ装置は、要は、車両や航空機、船舶、産業用機械など、回転することにより動力を伝達する機械・装置類に用いることができる。
【符号の説明】
【0027】
2…動力源、 9…連結軸(連結部材)、 13…破断面、 14…弾性機構、 W…駆動対象物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源とその動力源が出力するトルクによって駆動される駆動対象物とが連結軸によって連結されたフェールセーフ装置において、
前記連結軸は、前記動力源に許容されるトルク以上のトルクが掛かった場合に破断するように構成され、かつ
その連結軸を軸線方向に押圧して、前記連結軸が破断した場合の破断面同士を接触させる弾性力を前記連結軸に付与する弾性機構が設けられている
ことを特徴とするフェールセーフ装置。
【請求項2】
前記連結軸は、その軸線方向における中間部で予め定めた箇所に、他の箇所より捩り破断強度が低い脆弱部を備えていることを特徴とする請求項1に記載のフェールセーフ装置。
【請求項3】
前記動力源は、モータを含み、
前記駆動対象物は、車両における車輪を含み、
前記モータは車輪毎に設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載のフェールセーフ装置。
【請求項4】
前記弾性機構は、前記連結軸の少なくとも一端部側に配置され、かつその連結軸を軸線方向に押圧する弾性部材を含み、
その弾性部材の弾性係数は、前記連結軸が破断した場合の前記破断面同士を互いに圧着させ、かつ前記動力源と前記駆動対象物とが互いにトルクを少なくとも伝達させるように、前記連結軸を軸線方向に押圧するよう構成されている
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のフェールセーフ装置。
【請求項5】
前記連結軸の破断を判断する連結軸破断検出手段と、
この連結軸破断検出手段における判断結果に基づいて、前記動力源で発生するトルクを停止させる動力源停止制御手段と、
この動力源停止制御手段に基づいて、車両の停止を判断する車両停止検出手段と、
前記車両停止検出手段における車両の停止判断に基づいて、前記動力源で発生するトルクを制限する動力源トルク制御手段と
を備えていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のフェールセーフ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−145173(P2012−145173A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4474(P2011−4474)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】