説明

フォトマスク及びフォトマスクの製造方法

【課題】露光による回路パターン(素子)の寸法変動を抑制することにある。
【解決手段】透光性基板10´上に遮光機能膜21´,22´及びレジスト膜23が形成されたフォトマスク用ブランクに、少なくとも描画、エッチング及びレジスト剥離等の処理を行って所望の回路パターンが形成されるフォトマスクであって、
エッチング雰囲気中の不活性ガスもしくは硫黄を含まないエッチャントを使用して前記エッチング処理を行って前記回路パターンを形成し、かつ、前記レジスト剥離洗浄もしくは最終洗浄、或いはその両方の洗浄する際に硫酸溶液以外の洗浄液を用いて洗浄し前記回路パターンの寸法変動を抑制するフォトマスクである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスを製造するときに用いられるフォトマスク及びフォトマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)等の半導体デバイスの高集積化に伴って、回路パターン(素子とも呼ぶ)のさらなる微細化が進んでいる。このような微細な回路パターンを実現するためには、回路を構成する配線パターンやコンタクトホールパターンの細線化が要求されている。このような回路パターンのパターニングは、フォトマスクを用いた光リソグラフィにより形成することから、原版となるフォトマスクパターンも微細、かつ高精度に作製する技術が求められている。
【0003】
半導体デバイスを製造する光リソグラフィは、通常,ステッパーやスキャナーと呼ばれる縮小投影露光装置を用いて、フォトマスクパターンを例えば4分の1に縮小投影し、二次元的に移動できるステージ上に固定された半導体デバイスへパターン転写するのが一般的である。そのため、フォトマスクのパターンサイズは、半導体デバイスパターンの4倍程度の大きさとなる。
【0004】
しかしながら、近年の光リソグラフィで転写される回路パターンのサイズは、露光波長(先端の露光装置では波長193nm)以下のサイズとなっている。その結果、露光の際に生じる光の干渉、回折、収差などの影響を受けるため、半導体基板上のレジスト膜にフォトマスクパターン通りの形状を転写することが困難となっている(非特許文献1)。
【0005】
そこで、実際の半導体デバイスパターンよりも複雑な形状のフォトマスクパターンの微細成形に貢献するOPC(Optical Proximity Correction:光近接効果補正)技術や半導体デバイスに直接転写されることのない微細な補助パターン(例えば、SRAF:Sub Resolution Assist Feature)などが用いられている。これにより、実際には、フォトマスクパターンは、半導体パターンと同等もしくはそれ以上の高いパターン加工精度(寸法精度)と解像性が求められる(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】菊地 正典著 入門ビジュアルテクノロジー 半導体のすべて、日本実業出版社、1998年発行。
【非特許文献2】田辺 功、外2名、入門フォトマスク技術、工業調査会、2006発行。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、以上のような方法で作製されたフォトマスクは、193nmの波長の光を使って露光を繰り返すうちに遮光膜の回路パターン(素子)寸法が太くなるなどの変動を起していることが確認されており、それに伴ってフォトマスクを使用してパターンを形成する半導体デバイスのパターン寸法も変動する問題が報告されている。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、露光による回路パターン(素子)の寸法変化が生じさせないようにするフォトマスク及びフォトマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、透光性基板上に遮光機能膜及びレジスト膜が形成されたフォトマスク用ブランクに、少なくとも描画、エッチング及びレジスト剥離等の処理を実施し、所望の回路パターンが形成されるフォトマスクであって、
エッチング雰囲気中の不活性ガスもしくは硫黄を含まないエッチャントを使用して前記エッチング処理により前記回路パターンを形成し、かつ、前記レジスト剥離洗浄もしくは最終洗浄、或いはその両方の洗浄時に硫酸溶液以外の洗浄液を用いて洗浄して前記回路パターンの寸法変動を抑制するフォトマスクである。
【0010】
また、本発明は、透光性基板上に遮光機能膜及びレジスト膜が形成されたフォトマスク用ブランクに、少なくとも描画処理を行う工程と、この描画処理工程の終了後にエッチング雰囲気中の不活性ガスもしくは硫黄を含まないエッチャントを使用して前記エッチング処理を行って所望の回路パターンを形成するエッチング工程と、このエッチング処理後のレジスト剥離処理時の洗浄もしくは最終洗浄、或いはその両方の洗浄時に硫酸溶液以外の洗浄液を用いて洗浄する洗浄工程とを有するフォトマスクの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エッチング処理時にエッチング雰囲気中の不活性ガスもしくはエッチャントに硫黄を含んでいないガスを使用して所望の回路パターンを形成し、また、エッチング処理後のレジスト剥離処理時の洗浄もしくは最終洗浄、或いはその両方の洗浄時に硫酸溶液以外の洗浄液を用いて洗浄し、露光による回路パターンの寸法変動を抑制したフォトマスクを作製することにより、長期にわたってフォトマスクを使用でき、品質の高い半導体デバイスを安定的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るフォトマスクの一実施の形態を示すフォトマスク用ブランクとフォトマスクの概略断面図。
【図2】本発明に係るフォトマスク及びフォトマスクの製造方法のうち、特にレジストパターン形成手順を具体的に説明する図。
【図3】本発明製造方法によって作製された2つのサンプルの硫酸イオン残渣量と素子寸法変動量との関係図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明に用いられるフォトマスクは、ガラス基板上に1000Å程度の金属膜を公知のドライエッチング等の方法によってパターニングすることで構成された部材であって、半導体装置において、シリコーンウエハー上に回路パターンを形成する際の露光処理時にその回路パターンの原版として使用される。
【0014】
フォトマスクは、使用される用途から非常に高精細、かつ高品質である必要がある。そのため、シリコーンウエハー上に形成する回路パターン(素子)は、設計値に対する寸法や位置の許容誤差が規格によって激しく決められている
しかし、規格に沿った仕様書を満たして作製されたフォトマスクであっても、これまで影響を受けていなかった要素が原因となって寸法変動が発生することがある。そのため、寸法変動の抑制はマスク技術の大きなテーマとなっている。
【0015】
過去の回路パターンである素子寸法変動の事例としては、露光を重ねる度に素子寸法の変動が大きくなることが報告されている。これは、半導体デバイスの高集積化に伴って短波長化された光のエネルギーと露光環境中の化学物質イオン、もしくはフォトマスク表面の化学物質イオン残渣が原因と考えられている。
【0016】
そこで、本発明者においては、露光におけるフォトマスクの素子寸法変動を抑えるためのマスク作製技術について、種々の実験を繰り返すことにより、素子寸法変動が起きないような技術を見出すに至った。
【0017】
以下、本発明に係るフォトマスクの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
図1はフォトマスクを説明する図であって、同図(a)はパターニングする前のマスク基板(ブランク)を示す断面図、同図(b)はペリクル付きフォトマスクの概略断面図である。
【0019】
本発明に係るフォトマスク用ブランクは、合成石英ガラスなどからなるガラス基板10と、このガラス基板10の上面部に形成される遮光機能膜20とで構成される。遮光機能膜20は、ガラス基板10上面部側からMoSiの半遮光性膜21とCrの遮光性膜22の順序で成膜される(図1(a)参照)。
【0020】
この図1(a)に示すフォトマスク用ブランクに対して、マスクパターン情報を基に、電子線描画機などを用いて、露光・描画処理を行うとともに、引き続き、PEB、現像、エッチング処理を行ってフォトマスクを作製する(図1(b)参照)。
【0021】
本発明に係るフォトマスクは、半導体デバイスを作製するためのフォトマスクであって、図1(a)に示すブランクのMoSiの半遮光性膜21から、例えば線幅が数十nmから1000nm以上とさまざまなサイズと形状を有するMoSi半遮光性膜パターン21aが形成される。
【0022】
また、図1(a)に示すブランクの遮光性膜22からCr遮光性膜パターン22aが形成される。
【0023】
さらに、ガラス基板10の周縁部に異物保護膜となるペリクル30が設けられる。
【0024】
なお、図1(b)に示すフォトマスクの表面(フォトマスク全面)に表れる硫酸イオンや硫酸塩の残渣量は、以下に示すフォトマスクの製造方法によって、0.30ppb未満に抑えられる。
【0025】
本発明に係るフォトマスクの製造方法の一実施形態について説明する。
【0026】
このフォトマスクの製造方法は、前述した最終的に製造された図1(b)に示すフォトマスクにおいて、少なくとも遮光性膜パターン22aが形成された側のフォトマスク表面における硫酸イオンや硫酸塩の残渣量を0.30ppb未満にするため、遮光性膜22に遮光性膜パターン22aを形成した後、洗浄液を用いてレジスト剥離洗浄や最終洗浄を実施するが、この洗浄時に硫酸溶液を使用しない洗浄液を用いて洗浄を行うことが望ましい。
【0027】
また、硫酸イオンや硫酸塩の残渣量をより少なくするため、MoSiの半遮光性膜21をエッチングしてMoSi半遮光性膜パターン21を形成する工程において、硫黄を含んだエッチャントもしくは不活性ガス雰囲気中にてエッチングするよりも、硫黄を含まないエッチャントもしくは不活性ガス雰囲気中にてエッチングすることが望ましい。なお、本発明製造方法で用いられる不活性ガスとしては、窒素,ヘリウム,アルゴンガス等が挙げられる。
【0028】
さらに、硫酸イオンや硫酸塩の残渣量を少なくするため、フォトマスク用ブランクにレジストを塗布する際、その塗布前のブランク洗浄に硫酸溶液ではない洗浄液を使用することが望ましい。
【0029】
[実施例1]
以下、本発明の実施例について、図2を参照して具体的に説明する。
先ず、図2(a)に示すように、6インチ角の石英ガラス基板10´上にMoSi膜21´とCr膜22´を成膜することによってフォトマスク用ブランクを形成する。この形成したフォトマスク用ブランクをオゾン水を用いた洗浄液で洗浄する。
【0030】
次に、図2(a)に示すフォトマスク用ブランクのCr膜22´上面にレジストコーターを用いてレジスト膜23を施す(図2(b)参照)。
【0031】
しかる後、電子線描画機(JBX9000/日本電子製)を使ってパターンサイズ20〜2000nmのパターンを描画した。このパターン描画後、PEB(Post Exposure Bake:照射後ベーク)及び現像(SFG3000/シグマメルテック社)を行い、レジストパターン23aを形成する(図2(c)参照)。
【0032】
このようにしてレジスト膜23にレジストパターン23aを形成したフォトマスク用ブランクを、以下の2通りの方法を用いてCrエッチング処理及び最終洗浄を行う。
【0033】
(1) 1つの方法は、レジストパターン23aを形成したフォトマスク用ブランクを、ドライエッチング装置を用いてCr膜22´をエッチングした。次いで、フォトマスク用ブランクの表面に現れるレジスト膜層を硫酸溶液以外の洗浄液で除去した。
【0034】
引き続き、エッチングガスとしてSF6を用いたドライエッチング装置でMoSi膜21´をエッチングした。MoSi膜21´をエッチングした後、Cr膜22´を剥離し、最後に硫酸溶液以外の洗浄液を用いて最終洗浄を行った。
【0035】
(2) もう1つの方法は、レジストパターン23aを形成したフォトマスク用ブランクを、ドライエッチング装置を用いてCr膜をエッチングした。次いで、フォトマスク用ブランクの表面に現れるレジスト膜層を硫酸溶液以外の洗浄液で除去した。そして、MoSi膜21´を不活性ガスやエッチャントに硫黄成分を含んでいないガスを使用したドライエッチング装置でエッチングした。
【0036】
さらに、MoSi膜21´をエッチングした後、Cr膜22´を剥離し、最後に硫酸溶液以外の洗浄液を用いて最終洗浄を行った。
【0037】
以上のように2通りの方法を用いてフォトマスクサンプル1,2を作製した。この作製後、露光前にターゲットパターンの素子寸法をCD−SEM(Critical Dimension −Scanning Electron Microscope)にて測定した。しかる後、これらサンプル1,2を露光加速評価機(リソテック・ジャパン製)にて露光の加速評価を行った。
【0038】
この加速露光を行った後、露光前にCD−SEMにて測定した同一箇所のパターンを再度測定した。そして、素子寸法の測定後、イオンクロマトグラフにてマスク表面における残渣物質の分析を行った。分析は、フォトマスクのMoSi膜面を100ccの純水で残渣物質を洗い流し、その流水をイオンクロマトグラフにかけて分析し、硫酸イオンの残渣量を取得した。
【0039】
ちなみに、フォトマスクサンプル1,2のイオンクロマトグラフにおける硫酸イオンの残渣量の結果と、フォトマスクサンプル1,2に50KJ露光した後の素子寸法変動量との関係を図3に示す。
【0040】
この図3によれば、サンプル1は外部より報告された素子寸法変動量よりも小さな素子太り量が得られた。その時の硫酸イオンの残渣量は、0.04ppbであった。
【0041】
一方、サンプル2は、素子寸法変動量は、+0.6nmとなり、サンプル1よりもさらに変動量が小さくなり、その時の硫酸イオンの残渣量は検出限界以下であった。
【0042】
すなわち、洗浄として、硫酸溶液以外の洗浄液を使用すると共に、遮光性膜をエッチングする際にエッチング雰囲気中の不活性ガス、もしくはエッチャントに硫黄分を含んでいないガスを使用することで、素子太りが効果的に抑制することが分った。
【0043】
その結果、半導体デバイスやフォトマスク製造において、品質の高いフォトマスクを安定的に生産することができる。
【0044】
その他、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されることなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。
【符号の説明】
【0045】
10…ガラス基板、10´…石英ガラス基板、20…遮光機能膜、21…MoSiの半遮光性膜21´…MoSi膜、21a…MoSi半遮光性膜パターン、22…Crの遮光性膜、22´…Cr膜、22a…Cr遮光性膜パターン、23…レジスト膜、23a…レジストパターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板上に遮光機能膜及びレジスト膜が形成されたフォトマスク用ブランクに、少なくとも描画、エッチング及びレジスト剥離等の処理を行って所望の回路パターンが形成されるフォトマスクであって、
エッチング雰囲気中の不活性ガスもしくは硫黄を含まないエッチャントを使用して前記エッチング処理を行って前記回路パターンを形成し、かつ、前記レジスト剥離洗浄もしくは最終洗浄、或いはその両方の洗浄時に硫酸溶液以外の洗浄液を用いて洗浄し前記回路パターンの寸法変動を抑制することを特徴とするフォトマスク。
【請求項2】
透光性基板上に遮光機能膜及びレジスト膜が形成されたフォトマスク用ブランクに、少なくとも描画処理を行う工程と、
この描画処理工程の終了後にエッチング雰囲気中の不活性ガスもしくは硫黄を含まないエッチャントを使用して前記エッチング処理を行って所望の回路パターンを形成するエッチング工程と、
このエッチング処理後のレジスト剥離処理時の洗浄もしくは最終洗浄、或いはその両方の洗浄時に硫酸溶液以外の洗浄液を用いて洗浄する洗浄工程とを有することを特徴とするフォトマスクの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−221250(P2011−221250A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−89749(P2010−89749)
【出願日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】