説明

フレキシブルシートのエッジを封入するための改良法

本発明は、フレキシブル基材上にオーバーモールドエッジ部を作成する本発明の方法を前提とするもので、前記エッジ部には前記金型キャビティ中の支持具に起因する開口領域がない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー省によって授与された契約DE−FC36−07G01754のもとで米国政府の援助によって行った。米国政府は本発明において一定の権利を有する。
優先権主張
本出願は、米国仮特許出願第61/050,341号(2008年5月5日出願)の出願日の利益を主張する。この特許出願の内容をここに引用することによってその全体を本明細書中に組み入れる。
発明の分野
本発明は、フレキシブルシートのエッジを封入するための改良法、より詳しくはオーバーモールド法によるフレキシブルシートの封入による改良法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、フレキシブルシートのエッジの封入を改良するための取り組みは、長年にわたって様々な形態で行われてきた。特に注目されているフレキシブルシートのタイプは、光起電力セルアセンブリである。これらの光起電力(photovolataic)(PV)セルアセンブリは一般に最初は、光起電装置を形成するための二次的方法によって更なる構成が加えられた積層板である。典型的には、PVセルアセンブリ全体がボックス中にシールされるか、又はフレームに接着される。PVセルアセンブリのエッジは少なくとも、湿度のような環境条件又は機械的荷重のような他の物理的条件(例えば風、デブリ(debris)など)から保護されるのが好ましい。
【0003】
建造物(例えば屋根板又は建物の前面。建物一体型光電池「BIPV」と称される場合もある)に配置されるPV装置に使用されるPVセルアセンブリの場合には、PV装置の幾何学的形状及び寸法をある範囲に保つことも重要であろう。BIPVの場合には、PV装置は、既存の屋根材によく似ている場合にこれらの既存の屋根材と共に最適に機能できる。BIPV屋根板の場合は、厚さ、ルーフデッキへのなじみやすさを一致させるのが理想的であろう。
【0004】
これらの構成と前述の特性を1つの装置に集約することは、難題である。これらの構成を統合する方法の1つとして考えられるのは、射出成形法を用いたPVセルアセンブリのオーバーモールドによるものである。この方法は、太陽電池に共通するPVセルシステム(積層板)と共に使用するには独自の問題がある。オーバーモールド領域を可能な限り小さくして、PVモジュールの不活性領域を最小化するのが望ましい。不活性領域に望ましい小さい面積は、積層構造への接着及び結合に関する問題を提起する。最小の不活性領域を得るためには、接着面積の増加、環境保護及び機械的保護のために積層板の両面で成形を行うのが望ましい。しかし、オーバーモールドのための既存の射出成形方式では、高圧プロセスによって積層板が不所望な位置に移動しないように、積層板を金型キャビティに対して押しつけ(enforce)なければならない。この際、従来の方法を用いて、積層構造の片面のみがオーバーモールド材料に接着されるであろう。
【0005】
この問題は、従来のフレキシブル屋根板によく似たフレキシブル積層板の場合には更に複雑になる。フレキシブル積層板の両面における射出成形は一般に、位置決め機能を用いて行われる。積層板は、ポリマーの圧力によって動くおそれがないように、これらの機能によってしっかりと保持される。溶融ポリマーの比較的高い圧力は、積層板をキャビティ壁の1つに押しつけるように働くであろう。これは、一般に「噴水(fountain)」流と称されるものによる。噴水流は、ポリマー流が金型キャビティの中央で最大であり且つキャビティ壁においては流れがほとんどないか又は全くない状態を表す。流れが金型の非充填領域に入ると、流れは「噴水」の形で分裂して、流れの半分が対応する壁のそれぞれに向かう。壁では、ポリマーは流れずに、より低い金属温度のために固化する。フレキシブルインサートのほとんどのインサート成形はこの方法で制御され、フレキシブル積層板はキャビティ壁の1つに押しやられる。
【0006】
このため、加工においては通常、金型の片面に積層板インサートを配置するのが望ましい。そうでない場合には、充分に堅い位置決めピン又はガイドが必要となるであろう。接着強さ及び積層板のエッジのシーリングに関しては、ポリマーが積層板の両面にあれば、より大きい効果が得られるであろう。
【0007】
この問題を更に複雑化することに、製品は、従来の屋根板の場合と同様に、ルーフデッキにシールできるように平らな裏面を有するのが一般に望ましい。これは、オーバーモールドは全て、屋根板の上面にしか行うべきでないことを示唆している。屋根板の上面は一般に、ETFE又はガラスのような表面エネルギーの低い材料で覆われている。このような表面エネルギーの低い材料は、日光を遮断し且つ装置の能力を低下させるダストや水分汚れを防ぐのに必要である。この防汚特性が、射出成形用材料の上面への接着を極めて困難にする。これはまた、タイ層の追加及びそのトレランスにより、表面領域の効率低下を招く。装置の不活性面の表面領域を利用することによって、適正な接着強さ及び封入が実現できれば、はるかに望ましいであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
装置の両面にオーバーモールド法を用いれば、活性PV領域を犠牲にすることなく、接着強さ及びエッジのシーリングを改善できる。次に射出成形法を用いて、他の屋根材料コンポーネントに対してBIPVを配置する手段を施し且つ従来のコネクター、リード線、接続箱及びダイオードを一体型コンポーネントとして装置に組み込むことができるように電気装置を封入することによって、装置の機能性を更に改善できる。
【0009】
課題は、セルのエッジをシール及び保護するように、積層されたセルアセンブリの両面に熱可塑性樹脂を配置し(金型のエッジまで積層板を押しつけない)且つ成形用具キャビティの中央に積層板を浮かせるピン及びガイドの使用を必要としないオーバーモールド法を開発することである。場合によっては、この方法によって装置の裏面(屋根側)が平なPV装置を製造することが好ましく、そのために金型キャビティ中の積層板のオフセットセンタリングが必要である。
【0010】
前記記載はPVセル及びPV装置に的を絞ったが、以下に説明する本発明は、封入が必要と考える任意のフレキシブルシート(単層又は多層)に適用できると考えられる。
【0011】
この技術に関連すると考えられる文献としては、以下の特許文献:
欧州特許出願公開第677369A1号;
米国特許第7,462,077号;
米国特許第6,926,858号;
米国特許第6,342,176号;
米国特許第4,826,598号;
米国特許出願公開公報第2002/0171169号;
米国特許出願公開公報第2001/0042946号;
米国仮特許出願第61/050,341号(2008年5月5日出願);
米国仮特許出願第61/098,941号(2008年9月22日出願);
米国仮特許出願第61/149,451号(2009年2月3日出願);並びに
本出願と同時出願された、代理人整理番号第67558−WO−PCT(1062A−016WO);代理人整理番号第66746−WO−PCT(1062A−012WO);代理人整理番号第67666−WO−PCT(1062A−017WO);及び代理人整理番号第68428−WO−PCT(1062A−019WO)の同時出願PCT出願
が挙げられる。これら全てをあらゆる目的のために引用することによって本明細書中に組み入れる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、このような課題の解決に関し、特に、射出成形法を用いてフレキシブル積層板又はシートのエッジの両面を封入する方法に関する。フレキシブル積層板又はシート、金型キャビティ及び射出システムを本明細書中に記載したように設計することにより、ポリマー流は、フレキシブル積層板又はシートの対向面間の力の不均衡が最小となる。このような力の均衡がフレキシブル物品の両面にポリマーをもたらす。これは、当業界で一般的な、フレキシブル物品をしっかり保持する剛性ピン又は剛構造の代わりに、前記方法を用いることによって達成できる。
【0013】
従って、本発明の第1の面によれば、:
オーバーモールドしようとする基材を用意し(ここで基材は、150〜1500MPaのヤング率を有し、上方面、下方面、及び前記上方面と前記下方面を接続する側面並びに前記上方面及び前記下方面から等距離の中心線を有する);
キャビティを規定する第1のセクション及び第2のセクションを含む金型キャビティを有する金型を用意し(前記金型キャビティは上方壁、下方壁、並びに前記上方壁及び前記下方壁を相互接続する内側壁及び外側壁を有し、前記上方壁と前記下方壁との距離によって規定されるキャビティ高さを有し、前記金型は金型キャビティ内部に、基材を支持するためのネスティング装置を本質的に有さない);
距離de、長さdl及び厚さdhで規定される基材のエッジ部が前記金型キャビティ内に配置され且つ前記エッジ部が前記金型キャビティ内の前記上方壁又は前記下方壁から距離dwに配置されるように、前記金型キャビティの第1のセクション上に基材のエッジを配置し且つ整列させ(dwは、前記基材の側面の任意の点において前記キャビティ高さの少なくとも10%である);
前記金型キャビティの第2のセクションを閉じてその間に基材を挟み(前記基材のエッジ部は支持されず、前記金型キャビティ中に突出する);
前記金型キャビティが流動性ポリマーで実質的に充填され且つ前記エッジ部が前記ポリマーによって完全にシールされるまで、前記金型キャビティ中に流動性ポリマーを射出してポリマー流を生成せしめ;
前記ポリマーが固化するまで、前記金型を閉じておき;
前記金型セクションを開け;そして
オーバーモールドされた物品を取り出す
を含むオーバーモールド品(例えばフレキシブル積層板又はシート)の製造方法が企図される。
【0014】
本発明の第一の面は、金型キャビティがクリアゾーン及び基材ゾーンを有するものと更に定義される;ポリマー流がフローフロント(flow front)を有するものと更に定義される(前記フローフロントは、クリアゾーンを少なくとも部分的に充填してから前記基材ゾーンを充填する);金型キャビティが、前記内側壁及び前記外側壁からの距離であるキャビティ幅、キャビティ高さ並びにキャビティ長さによって規定される;距離deがキャビティ幅の最大0.5倍であり、長さdlがキャビティ幅の少なくとも2倍であり且つ厚さdhがキャビティ高さの最大0.75倍である;前記フローフロントが、クリアゾーンと基材ゾーンと間に角度αで角度づけられた(angled)フロント面を有する(αは約5°〜60°の値を有する);前記厚さdhが約1.0〜5.0mmである;前記距離deが約2.0〜10.0mmである;前記流動性ポリマーが、ASTM D3835−2002によって測定した場合に、10,000sec-1において150Pa−s未満の粘度を有する;前記金型が突起部を有する;前記エッジ部の上下の前記流動性ポリマーの圧力勾配が、エッジ部をキャビティ壁のいずれかに押しつけるのに必要とされる圧力勾配よりも小さい;前記圧力勾配が1400KPa未満であるといった、本明細書中に記載した構成の1つ又は任意の組合せによって更に特徴付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従ってオーバーモールドされたエッジ部を説明する一例の側面図である。
【図2】本発明に従ってオーバーモールドされたエッジ部を説明する別の例の側面図である。
【図3】図1の物品を製造するための金型の一部分を説明する一例の側面図である。
【図4】図2の物品を製造するための金型の一部分を説明する一例の側面図である。
【図5】図3の金型の一部分を説明する一例の別の側面図である。
【図6】図3の金型の一部分を説明する一例の別の側面図である。
【図7】ポリマー流を含む、図3及び5の金型の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、フレキシブルシート又は積層板(「基材」30)のエッジを封入又はオーバーモールドすることによって、図1及び図2に図示されるようなオーバーモールド品20を製造する方法である。基材の可撓性(フレキシビリティ)、基材の寸法及び幾何学的形態、金型キャビティ40の寸法、流れ方向並びに加工(従って、ポリマー粘度)の一部又は全てを制御することによって、金型キャビティ40内部に基材を支持するネスティング構成(例えば位置決めピン又は剛性インサート)を用いずに、基材をそのエッジ(例えばエッジ部70)で封入できる。以下において、基材30、金型60及び成形方法について詳述する。
【0017】
フレキシブル積層板(基材)
基材30は、少なくとも封入しようとする領域において、流動性ポリマーが基材と最初に接触する際のキャビティ壁への初期撓みを防ぐ最小剛性(例えばヤング率)を有すると考えられる。この剛性は、ポリマーが基材30と接触する際のポリマーの「噴水流」を破壊するのに充分なものでなければならない。好ましい一態様において、基材30は、少なくとも約100メガパスカル(MPa)であって最大約2000MPa、より好ましくは少なくとも約150MPaであって最大約1500MPa、最も好ましくは少なくとも約250MPaであって最大600MPaのヤング率を有する。
【0018】
基材30は単一構造を有する(例えば単層から作られる)こともできるし、厚さdhを有する結合された多層構造(例えば複合材シート)であることもできると考えられる。好ましい一態様において、基材30は、米国仮特許出願第61/050,341号(2008年5月5日出願)(これをここに引用することによってあらゆる目的のために本明細書中に組み入れる)に記載されたような層(例えば保護層、光起電力セルアセンブリ又はそれらの任意の組合せ)の少なくとも一部から形成された多層複合材である。最も好ましい態様において、基材は、予め組み立てられた(例えば積層され又は他の方法で少なくとも緩く接着され且つオーバーモールド法の圧力によってそれほど分離しない)層のアセンブリである。基材層は、以下:かなりの塑性伸び及び弾性伸びを有する薄膜又は可塑性材料、例えば熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂、合成及び天然ゴム、フィルム、エラストマー、ガラス板又はポリマーシート若しくは”Plexiglas”、珪素、セレン化銅インジウムガリウム(CIGS)材料、エチレン酢酸ビニル、金属箔、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリエステルアミド、ポリスルホン、アセタール樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、ナイロン、ポリカーボネート、フェノール樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンテレフタレート、エポキシ樹脂、並びにガラス及び無機物充填複合材料或いはそれらの任意の組合せの一部又は全てを含むことができる。この場合もやはり、基材組成を問わず、基材30は前述の範囲の剛性特性を示す。
【0019】
金型
前記基材と併せて金型60を用いることによって、基材のエッジ部周囲にポリマー材料の帯を導入できると考えられる。金型60は、図3〜6に示されるように、金型キャビティ40を含むものと更に定義できる。キャビティ40は、キャビティ40を規定する第1のセクション42及び第2のセクション52を少なくとも含むことができる。第1のセクション42は、下方壁43、第1の内側壁44及び第1の外側壁45を有する。第2のセクション52は、上方壁53、第2の内側壁54及び第2の外側壁55を有する。キャビティ高さ57は、上方壁53と下方壁43との距離によって規定されることができる。キャビティ幅56は、内側壁44−45及び外側壁54−55間の距離の小さい方と定義できる。キャビティ40はまた、リブ(rib)付け又は他の望ましい構成のような構成のために局所的により高いセクション及びより幅広いセクション(図示せず)を含むこともできる。また、金型60は、金型キャビティ40の内部に、基材30を支持するための任意のネスティング装置(例えば固定又は別の方法で設けられる)を本質的に含まないと考えられる。
【0020】
金型60は、工具鋼(tool steel)、ベリリウム−銅、軟鋼、アルミニウム、ニッケル、エポキシ樹脂又はそれらの任意の組合せのような、任意の数の材料から構成することができる。金型は、完成品に望ましい表面仕上げをもたらすためにメッキされていてもザラザラしていてもよい。金型60は、望まれる成形方法(例えば冷成形又は熱成形)によっては、冷却手段(例えば水ライン)(図示せず)又は加熱手段(図示せず)を含むことができる。金型60は、それがなければダイロック状態として知られる状態を引き起こすであろう構成をもたらすために、滑動部(slides)又は可動部(actions)(パーツが金型から放出できるように動く射出成形用具の金属片)(図示せず)を含むことができる。また、物品の突き出しを助ける突き出しピン又は当業界で知られた、射出成形用具の他の装置(図示せず)を含むこともできる。
【0021】
突起部
金型60は、例えば図4〜5に示されるような、1つの突起部62又は一連の突起部を含むことができると考えられる。突起部62は、基材30に対してシール補助及び/又は幾何学的位置決め(location)機能を提供できる。シール機能は、成形用具によって引き起こされる圧迫力が溶融ポリマーの圧力よりも高くなるように、突起部距離Lp及び突起部高さHp上に基材を圧迫することによって提供でき、その結果、溶融ポリマーが突起部の周囲領域に入ることがなくなる。圧迫ゾーンの形状は長方形断面で示してあるが、三角形(テーパー)断面、円筒(丸形)断面又は積層板を圧迫する任意の他の突起部とすることもできる。別法として、この圧迫は、基材表面全体に行うこともでき、その場合には突起部高さHpはゼロである。突起部62は、第1の内側壁44若しくは第2の内側壁54のいずれか又は両者と同一の広がりを有していると考えられる(図には、第1の内側壁44と同一の広がりを有するものとして示してある)。好ましい一態様において、Hpはdhの約0〜0.5倍の範囲であり、Lpはdhの約0〜約30倍の範囲であり、最も好ましくはHpはdhの約0.5〜0.2倍の範囲であり、Lpはdhの約5〜約10倍の範囲である。
【0022】
幾何学的位置決め機能は、基材が成形用具キャビティ40内でエッジ部70の位置を変化させる(例えばエッジ部70を、金型の上方壁若しくは下方壁に向かって又は上方壁若しくは下方壁から遠ざけるように曲げる)ように、応力を誘発するか又は圧迫される基材の中心線を移動させることによって提供できる。幾何学的位置は、突起部高さHp、突起部長さLp及び突起部位置Lpcを変化させることによって左右できると考えられる。図示されるように、好ましい態様においては、突起部位置Lpcは基材30の厚さdhの約1.0倍、より好ましくはdhの約0.5倍以内、最も好ましくはdhの約0.2倍であることができる。
【0023】
成形方法
一般に、射出成形法、具体的には、比較的堅い物品(又は基材)(例えば1500MPa超のヤング率を有する物品)のオーバーモールド法は当業界でよく知しられていると言うことができる。比較的フレキシブルな物品(例えば1500MPa未満のヤング率を有する物品)のエッジ部のオーバーモールドには、極めて低いキャビティ圧(例えば約5バール未満の圧力)又は物品をエッジ近くで支持する(金型キャビティ内に)少なくとも局所的なネスティング構成(nesting feature)(例えばネスティングピン又はエッジ部の完全な封入を防ぐ構成)の組合せが少なくとも必要であったと考えられる。標準的な射出成形キャビティ圧(例えば約100〜約2000バール)の場合には、フレキシブル物品のエッジのオーバーモールドに更に多くのこれらの前記ネスティング構成が必要であると考えられている。
【0024】
本発明方法が適用できる他の既知の射出成形法の一部として、同時射出(サンドイッチ)成形;可融性(ロスト、可溶性)コア射出成形;ガスアシスト射出成形;成形同時加飾及び成形同時積層;射出圧縮成形;層状(ミクロ層)射出成形;ミクロ射出成形;微細発泡成形(microcellular molding);多重供給射出成形(multiple live-feed injection molding);粉体射出成形;プッシュプル射出成形;反応射出成形;樹脂トランスファー成形;レオモールディング(rheomolding);構造発泡射出成形;構造反応射出成形;振動ガス射出成形(vibration gas injection molding);水アシスト射出成形;ゴム射出(rubber injection);及び液体シリコーンゴムの射出成形が挙げられる。
【0025】
本発明は、前述のネスティング構成及び比較的低いキャビティ圧を使用する必要性を減少させることができる。意外なことに、キャビティ40の適切な設計及びキャビティ中へのエッジ部の配置によって、ネスティング構成も低いキャビティ圧も必要とすることなく、エッジ部70の完全な封入を実現できる。
【0026】
図3に示すように、キャビティ40におけるフレキシブル基材30のエッジ部70(例えば封入しようとする基材部分)の配置は、本発明の方法の好ましい一つの面である。基材30のエッジ部70は距離de、長さdl及び厚さdhを有するものと定義できると考えられる。エッジ部70は金型キャビティ40中の、金型キャビティ40の上方壁53又は下方壁43から距離dwに配置できる。好ましくは、dwは基材30の側面32上の任意の点においてキャビティ高さ54の少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約15%、最も好ましくは約10%である。
【0027】
本発明の方法の別の好ましい面において、距離deは、キャビティ幅56の最大約0.75倍、より好ましくは約0.50倍であり、長さdlはキャビティ幅56の少なくとも約2倍、より好ましくは3倍又はそれ以上であり、厚さdhはキャビティ高さ57の最大約0.85倍、より好ましくは約0.75倍であることができる。
【0028】
本発明の方法の更に別の好ましい面において、厚さdhは約1.0〜5.0mm、より好ましくは約2.0〜5.0mm、最も好ましくは約2.5〜4.5mmであることができる。更に、距離deは約1.0〜15.0mm、より好ましくは約2.0〜12.0mm、最も好ましくは約2.0〜10.0mmであることができる。
理論によって束縛されるものではないが、本発明者らは以下のことが正しいと考える。
フローフロントにおけるポリマー圧は、それが突き出した基材の任意のエッジ部(例えばエッジ部70)に最初に触れる場合には、ゼロである。積層板がもはやメルトの中央部に存在しないように積層板を曲げるのに必要な力の概算値は、最大1400KPa、又は最小10kPa(本発明の積層板系の場合)であり得るので、積層板を横切る流動性ポリマーの圧力勾配は、ポリマーの著しい粘度増加が起こるまでは、この圧力を超える可能性はない。著しい粘度増加が始まると、より高いポリマー粘度によって支持される部分のために、積層板のエッジ部を曲げるのに必要な力が増加する。従って、以下のパラグラフにおいて、流動性ポリマーは、ポリマーメルトの著しい粘度増加が起こる前の流動流(flow stream)を意味する。
【0029】
エッジ部上下における流動性ポリマーの圧力勾配は、約1400KPa(200psi)未満、より好ましくは700KPa(100psi)未満、更に好ましくは140KPa(20psi)未満、最も好ましくは極めてゼロに近くなければならないと考えられる。また、流動性ポリマーの粘度は、ASTM D3835−2002によって測定した場合に、10,000sec-1において約150Pa−s未満、より好ましくは約100Pa−s未満、最も好ましくは約50Pa−s未満であってよいと考えられる。
【0030】
好ましい流動性ポリマーの例としては、アクリロニトリルコポリマー、ポリプロピレン、ポリエチレン、ビニル系樹脂、ポリカーボネートポリマー、スチレン系ポリマー(スチレンアクリロニトリルコポリマー、ポリスチレン、スチレン−ブタジエンゴムコポリマー)、熱可塑性ウレタンポリマー、熱可塑性エラストマー(TPO、TPE、TPR)、ポリアミド、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂が挙げられる。
【0031】
図6に示すように、エッジ部70が適所に配置された密閉された金型キャビティ40は、クリアゾーン80及び基材ゾーン90を有するものとして示すこともできる。流動性ポリマーの射出の間に、キャビティを通るポリマー流100が生成される(図5残照)。ポリマー流100の前エッジ(例えばフロント面110又はフローフロント)は、基材ゾーン90を充填する前に、クリアゾーン80を少なくとも部分的に充填できるのが好ましい。図5に示されるように、ポリマー流(方向は→によって示される)のフロント面110は、クリアゾーン80及び基材ゾーン90に対して角度αで流れることができる。本発明の方法の好ましい一つの面において、角度αは、約2°〜75°、より好ましくは約3°〜70°、最も好ましくは約5°〜60°の値を有する。αが75°より大きい場合には、基材30のエッジ部70の封入前に、圧力勾配が増加し、前記圧力勾配は最終的にエッジ部70をキャビティ40の内側壁54、44に移動させる力を生じると考えられる。これらの角度は、絶対不変のものではあり得ず、基材の剛性及びポリマー流及び粘度による圧力勾配の結果によって決まると考えられる。
【実施例】
【0032】
本発明方法の非限定的な一例として、以下の工程が考えられる:
オーバーモールド品の製造方法は、
a)オーバーモールドしようとする基材を用意し(ここで基材は、150〜1500MPa(10,000psi〜10MMpsi;好ましい範囲は400〜500Mpsiである)のヤング率を有し、上方面、下方面及び前記上方面と前記下方面を接続する側面並びに前記上方面及び前記下方面から等距離の中心線を有する);
b)キャビティを規定する第1のセクション及び第2のセクションを含む金型キャビティを有する金型を用意し(ここで金型キャビティは上方壁、下方壁、並びに前記上方壁及び前記下方壁を相互接続する内側壁及び外側壁を有し、前記上方壁と前記下方壁との距離によって規定されるキャビティ高さを有し、前記金型は金型キャビティ内部に、基材を支持するためのネスティング装置を本質的に有さない);
c)距離de、長さdl及び厚さdhで規定される基材のエッジ部が前記金型キャビティ内に配置され且つ前記エッジ部が前記金型キャビティ内の前記上方壁又は前記下方壁から距離dwに配置されるように、前記金型キャビティの第1のセクション上に基材のエッジ部を配置し且つ整列させ(dwは、前記基材の側面の任意の点において前記キャビティ高さの少なくとも10%である);
d)前記金型キャビティの第2のセクションを閉じてその間に基材を挟み(ここで基材のエッジ部は支持されず、前記金型キャビティ中に突出する);
e)前記金型キャビティが流動性ポリマーで実質的に充填され且つ前記エッジ部が前記ポリマーによって完全にシールされるまで、前記金型キャビティ中に流動性ポリマーを射出してポリマー流を生成し;
f)前記ポリマーが固化するまで、前記金型を閉じておき;
g)前記金型セクションを開け;そして
h)オーバーモールドされた物品を取り出す
工程を含むことができる。
【0033】
特に断らない限り、本明細書中に記載した種々の構造の寸法及び幾何学的形状は本発明を限定を意図するものではなく、他の寸法又は幾何学的形状も可能である。複数の構造コンポーネントは単一の一体構造によって提供することができる。或いは、単一の一体構造が、別個の複数のコンポーネントに分割される可能性もある。更に、本発明の構成を、図示した態様の1つのみに関連して記載したが、このような構成は、任意の特定用途に関して、他の態様の1つ又はそれ以上の他の構成と組み合わされることができる。また、前記から、本明細書中の特異構造の製造及びその動作も本発明に係る方法を構成することがわかるであろう。
【0034】
本発明の好ましい態様を開示したが、当業者ならば、若干の変更形態が本発明の教示の範囲に入ることがわかるであろう。従って、本発明の真の範囲及び内容を特定するためには、添付した特許請求の範囲を検討しなければならない。
【0035】
任意の下限値と任意の上限値とが少なくとも2単位離れているならば、本出願中に記載した任意の数値は、下限値から上限値まで1単位刻みの全ての値を含む。一例として、成分の量又は例えば温度、圧力、時間などのようなプロセス変数の値が、例えば1〜90、好ましくは20〜80、より好ましくは30〜70であると記載する場合には、本明細書中において15〜85、22〜68、43〜51、30〜32などのような値を明示的に列挙することを意味する。1未満の値に関しては、1単位は適宜0.0001、0.001、0.01又は0.1と考える。これらは具体的に意味するものの例に過ぎず、最低値と最高値の間の数値の考えられる全ての組合せを同様に本明細書中に明示的に記載するものと考えることができる。
【0036】
特に断らない限り、範囲は全て、両端点と両端点間に全ての数を含む。範囲に関する「約」又は「およそ」の使用はその範囲の両端点に適用される。従って、「約20〜30」は、少なくとも明記した端点を含めて「約20〜約30」を網羅するものとする。
【0037】
特許出願及び公報を含む全ての論文及び参考文献の開示を、あらゆる目的のために引用することによって本明細書中に組み入れる。
【0038】
組合せを説明するための用語「〜から本質的になる(consisting essentially of)」は、特定されたエレメント、成分、コンポーネント又は工程と、この組合せの基本的及び新規特性に実質的に影響を与えない他のエレメント、成分、コンポーネント又は工程を含むものとする。
【0039】
本明細書中においてエレメント、成分、コンポーネント又は工程の組合せを説明するための用語「含んでなる(comprising)」又は「含む(including)」の使用は、エレメント、成分、コンポーネント又は工程から本質的になる態様も意味する。
【0040】
複数のエレメント、成分、コンポーネント又は工程は、単一の一体化されたエレメント、成分、コンポーネント又は工程によって提供されることができる。或いは、単一の一体化されたエレメント、成分、コンポーネント又は工程が別個の複数のエレメント、成分、コンポーネント又は工程に分割される可能性もある。単数(「a」又は「one」)のエレメント、成分、コンポーネント又は工程の開示は、追加のエレメント、成分、コンポーネント又は工程を除外を意図するものではない。本明細書中における特定の族に属する元素又は金属への言及は全て、CRC Press,Inc.が1989年に発行し且つ著作権を有する元素周期律表に基づく。1つ又は複数の族への言及は全て、族への番号付与にIUPAC系を用いてこの元素周期律表に示される1つ又は複数の族に関するものとする。
【0041】
エレメント番号:
20…オーバーモールド品
30…基材
32…側面
40…金型キャビティ
42…第1のセクション
43…下方壁
44…第1の内側壁
45…第1の外側壁
52…第2のセクション
53…上方壁
54…第2の内側壁
55…第2の外側壁
57…キャビティ高さ
56…キャビティ幅
60…金型
62…突起部
70…エッジ部
80…クリアゾーン
90…基材ゾーン
100…ポリマー流
110…フロント面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)オーバーモールドしようとする基材を用意し(ここで基材は、150〜1500MPaのヤング率を有し、上方面、下方面及び前記上方面と前記下方面を接続する側面並びに前記上方面及び前記下方面から等距離の中心線を有する);
b)キャビティを規定する第1のセクション及び第2のセクションを含む金型キャビティを有する金型を用意し(ここで金型キャビティは上方壁、下方壁、並びに前記上方壁及び前記下方壁を相互接続する内側壁及び外側壁を有し、前記上方壁と前記下方壁との距離によって規定されるキャビティ高さを有し、前記金型は金型キャビティ内部に、基材を支持するためのネスティング装置を本質的に有さない);
c)距離de、長さdl及び厚さdhで規定される基材のエッジ部が前記金型キャビティ内に配置され且つ前記エッジ部が前記金型キャビティ内の前記上方壁又は前記下方壁から距離dwに配置されるように、前記金型キャビティの第1のセクション上に基材のエッジ部を配置し且つ整列させ(dwは前記基材の側面の任意の点において前記キャビティ高さの少なくとも10%である);
d)前記金型キャビティの第2のセクションを閉じてその間に基材を挟み(ここで基材のエッジ部は支持されておらず、前記金型キャビティ中に突出する);
e)前記金型キャビティが流動性ポリマーで実質的に充填され且つ前記エッジ部が前記ポリマーによって完全にシールされるまで、前記金型キャビティ中に流動性ポリマーを射出してポリマー流を生成せしめ;
f)前記ポリマーが固化するまで、前記金型を閉じておき;
g)前記金型セクションを開け;そして
h)オーバーモールドされた物品を取り出す
工程を含んでなるオーバーモールド品の製造方法。
【請求項2】
前記金型キャビティがクリアゾーン及び基材ゾーンを有するものと更に定義され、前記ポリマー流がフローフロントを有するものと更に定義され、前記フローフロントが、前記基材ゾーンを充填する前に、前記クリアゾーンを少なくとも部分的に充填する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金型キャビティが、前記内側壁及び前記外側壁からの距離であるキャビティ幅、キャビティ高さ並びにキャビティ長さによって規定される請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
距離deがキャビティ幅の最大0.5倍であり、長さdlがキャビティ幅の少なくとも2倍であり且つ厚さdhがキャビティ高さの最大0.75倍である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記フローフロントが、クリアゾーンと基材ゾーンとの間に角度αで角度づけられたフロント面を有し且つαが約5°〜60°の値を有する請求項2、3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記厚さdhが約1.0〜5.0mmである請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記距離deが約2.0〜10.0mmである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記流動性ポリマーが、ASTM D3835−2002によって測定した場合に、10,000sec-1において150Pa−s未満の粘度を有する請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記金型が突起部を有する請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記エッジ部の上下の前記流動性ポリマーの圧力勾配が、エッジ部をキャビティ壁のいずれかに押しつけるのに必要とされる圧力勾配よりも小さい請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記圧力勾配が1400KPa未満である請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2011−519755(P2011−519755A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507678(P2011−507678)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/042507
【国際公開番号】WO2009/137351
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ リミティド ライアビリティ カンパニー (1,383)
【Fターム(参考)】