説明

ブレーキ制御装置

【課題】ストロークセンサ特性の影響を低減して良好なブレーキ制御性を実現する。
【解決手段】ブレーキ制御装置は、運転者のブレーキ操作量とセンサ出力値との関係が該ブレーキ操作量に応じて遷移する出力特性を有するストロークセンサと、運転者のブレーキ操作が解除されているときのセンサ出力値をストロークセンサの零点に設定し、該零点において出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定する制御部と、を備える。制御部は、出力特性の遷移が生じ得ると判定した場合に零点の設定が異常であると決定してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロークセンサを備えるブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運転者によるブレーキペダルの踏み込みストロークを2つのストロークセンサで測定する制動装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−301463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、計測すべきストローク量の範囲が比較的広いために、ストロークセンサ内蔵の検出素子によっては検出値増幅用の増幅器を複数備えて検出値の大きさに応じて切り替える場合がある。例えば、非接触型のストロークセンサの一種であるホール素子を使用するタイプのストロークセンサにおいては増幅器を複数備える場合があり、このような増幅器の切替が生じる。増幅器の切替時には、実際のストローク変化とは別に当該増幅器の仕様の範囲内で増幅された出力値が飛ぶことがある。このような出力変化が生じると、実際のストローク量変動とは無関係に見かけ上ストローク量が変動したことになり、ブレーキ制御に影響を与えてしまう。例えば、制動要求の有無を判定するためのしきい値の近傍でセンサ出力値が飛ぶと、制動要求有無の判定精度の低下を招くおそれがある。
【0004】
そこで、本発明は、ストロークセンサの出力を利用してブレーキ制御を行う場合において、ストロークセンサ特性の影響を低減して良好なブレーキ制御性を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様のブレーキ制御装置は、運転者のブレーキ操作量とセンサ出力値との関係が該ブレーキ操作量に応じて遷移する出力特性を有するストロークセンサと、運転者のブレーキ操作が解除されているときのセンサ出力値をストロークセンサの零点に設定し、該零点において出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定する制御部と、を備える。
【0006】
この態様によれば、設定された零点においてストロークセンサ出力特性の遷移が生じ得るか否かが判定される。よって、判定結果を受けて、再組付により零点を再設定したり、制動オンオフ判定用の判定閾値を補正したりすることが可能となる。これにより、ブレーキ制御へのストロークセンサ内部特性の影響を低減することができる。
【0007】
制御部は、センサ出力値に基づいてブレーキ操作量が制動オン判定閾値を超えたか否かを判定し、超えたと判定された場合に制動要求が発生したと判定するものであってもよい。この場合、制御部は、零点から制動オン判定閾値までの間で出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定してもよい。
【0008】
制御部は、出力特性の遷移が生じ得ると判定した場合に零点の設定が異常であると決定してもよい。
【0009】
制御部は、センサ出力値に基づいてブレーキ操作量が制動オフ判定閾値を下回ったか否かを判定し、下回ったと判定された場合に制動要求が解除されたと判定するものであってもよい。この場合、制御部は、出力特性の遷移が生じ得ると判定した場合に制動オフ判定閾値を補正してもよい。
【0010】
制御部は、出力特性の遷移が生じ得ると判定した場合に制動オン判定閾値及び制動オフ判定閾値の双方を補正してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ストロークセンサの出力を利用する場合に良好なブレーキ制御性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置10を示す系統図である。同図に示されるブレーキ制御装置10は、車両用の電子制御式ブレーキシステムを構成しており、運転者によるブレーキ操作部材としてのブレーキペダル12への操作に応じて車両の4輪のブレーキを独立かつ最適に設定するものである。また、本実施形態に係るブレーキ制御装置10が搭載された車両は、4つの車輪のうちの操舵輪を操舵する図示されない操舵装置や、これら4つの車輪のうちの駆動輪を駆動する図示されない内燃機関やモータ等の走行駆動源等を備えるものである。
【0013】
本実施形態に係るブレーキ制御装置10は、例えば、走行駆動源として電動モータと内燃機関とを備えるハイブリッド車両に搭載される。このようなハイブリッド車両においては、車両の運動エネルギを電気エネルギに回生することによって車両を制動する回生制動と、ブレーキ制御装置10による液圧制動とのそれぞれを車両の制動に用いることができる。本実施形態における車両は、これらの回生制動と液圧制動とを併用して所望の制動力を発生させるブレーキ回生協調制御を実行することができる。
【0014】
制動力付与機構としてのディスクブレーキユニット21FR,21FL、21RRおよび21RLは、車両の右前輪、左前輪、右後輪、および左後輪のそれぞれに制動力を付与する。各ディスクブレーキユニット21FR〜21RLは、それぞれブレーキディスク22とブレーキキャリパに内蔵されたホイールシリンダ20FR〜20RLを含む。そして、各ホイールシリンダ20FR〜20RLは、それぞれ異なる流体通路を介してブレーキアクチュエータ80に接続されている。なお以下では適宜、ホイールシリンダ20FR〜20RLを総称して「ホイールシリンダ20」という。
【0015】
ブレーキ制御装置10においては後述の右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FL、増圧弁40FR〜40RL、減圧弁42FR〜42RL、オイルポンプ34、アキュムレータ50等を含んでブレーキアクチュエータ80が構成されている。ホイールシリンダ20にブレーキアクチュエータ80からブレーキフルードが供給されると、車輪と共に回転するブレーキディスク22に摩擦部材としてのブレーキパッドが押し付けられる。これにより、各車輪に制動力が付与される。
【0016】
なお、本実施形態においてはディスクブレーキユニット21FR〜21RLを用いているが、例えばドラムブレーキ等のホイールシリンダ20を含む他の制動力付与機構を用いてもよい。あるいは、流体力により摩擦部材の押圧力を制御するのではなく、例えば電動モータ等の電動の駆動機構を用いて摩擦部材の車輪への押圧力を制御する制動力付与機構を用いることもできる。
【0017】
ブレーキペダル12は、運転者による踏み込み操作に応じて作動液としてのブレーキフルードを送り出すマスタシリンダ14に接続されている。ブレーキペダル12には、その踏み込みストロークを検出するためのストロークセンサ46が設けられている。ストロークセンサ46は2系統のセンサすなわち出力系統が並列に設けられている。ストロークセンサ46のこれら2つの出力系統は、踏み込みストロークをそれぞれ独立かつ並列的に計測して出力する。複数の出力系統を備えることにより、いずれかの出力系統が故障したとしても踏み込みストロークを測定することができるのでフェイルセーフ性を高める上で有効である。また複数の出力系統からの出力を加味して(例えば平均して)ストロークセンサ46の出力とすることにより、一般に信頼性の高い出力を得ることができる。
【0018】
ストロークセンサ46としては例えば、踏み込みストロークの変動による磁場変化を電気信号に変換して検出するホール素子を搭載する非接触形式のセンサを用いてもよい。この種のセンサは非接触センサとしてはコスト及び信頼性に比較的優れているという点で好ましい。各出力系統においては検出素子の検出値を増幅器で増幅して計測値として出力する。ホール素子を検出素子とする場合には、検出された電圧値が増幅器により増幅され計測値として出力される。各出力系統から並列的に出力された計測値は、例えばECU200にそれぞれ入力され、ECU200は入力された計測値を利用してストローク量を演算する。演算されたストローク量は例えば目標減速度の演算に用いられる。なおストロークセンサ46は、3つ以上の出力系統を並列に備えていてもよい。
【0019】
マスタシリンダ14の一方の出力ポートには、運転者によるブレーキペダル12の操作力に応じた反力を創出するストロークシミュレータ24が接続されている。マスタシリンダ14とストロークシミュレータ24とを接続する流路の中途には、シミュレータカット弁23が設けられている。シミュレータカット弁23は、非通電時に閉状態にあり、運転者によるブレーキペダル12の操作が検出された際に開状態に切り換えられる常閉型の電磁開閉弁である。なお、シミュレータカット弁23を設置することは必須ではなく、ストロークシミュレータ24がシミュレータカット弁23を介することなくマスタシリンダ14に直接接続されていてもよい。
【0020】
マスタシリンダ14の一方の出力ポートにはさらに右前輪用のブレーキ油圧制御管16が接続されており、ブレーキ油圧制御管16は、図示されない右前輪に対して制動力を付与する右前輪用のホイールシリンダ20FRに接続されている。また、マスタシリンダ14の他方の出力ポートには、左前輪用のブレーキ油圧制御管18が接続されており、ブレーキ油圧制御管18は、図示されない左前輪に対して制動力を付与する左前輪用のホイールシリンダ20FLに接続されている。
【0021】
右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右マスタカット弁27FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の中途には、左マスタカット弁27FLが設けられている。なお、以下では適宜、右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLを総称して、マスタカット弁27という。
【0022】
マスタカット弁27は、ON/OFF制御されるソレノイドおよびスプリングを有しており、規定の制御電流の供給を受けてソレノイドが発生させる電磁力により閉弁状態が保証され、ソレノイドが非通電状態にある場合に開とされる常開型電磁制御弁である。開状態とされたマスタカット弁27は、マスタシリンダ14と前輪側のホイールシリンダ20FR及び20FLとの間でブレーキフルードを双方向に流通させることができる。ソレノイドに規定の制御電流が通電されてマスタカット弁27が閉弁されるとブレーキフルードの流通は遮断される。
【0023】
また、右前輪用のブレーキ油圧制御管16の中途には、右前輪側のマスタシリンダ圧を検出する右マスタ圧力センサ48FRが設けられており、左前輪用のブレーキ油圧制御管18の途中には、左前輪側のマスタシリンダ圧を計測する左マスタ圧力センサ48FLが設けられている。ブレーキ制御装置10では、運転者によってブレーキペダル12が踏み込まれた際、ストロークセンサ46によりその踏み込み操作量が検出されるが、これらの右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLによって検出されるマスタシリンダ圧からもブレーキペダル12の踏み込み操作力(踏力)を求めることができる。このように、ストロークセンサ46の故障を想定して、マスタシリンダ圧を2つの圧力センサ48FRおよび48FLによって監視することは、フェイルセーフの観点からみて好ましい。なお、以下では適宜、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLを総称して、マスタシリンダ圧センサ48という。
【0024】
また、マスタシリンダ14には、ブレーキフルードを貯留するためのリザーバタンク26が接続されている。リザーバタンク26には、油圧給排管28の一端が接続されており、この油圧給排管28の他端には、モータ32により駆動されるオイルポンプ34の吸込口が接続されている。オイルポンプ34の吐出口は、高圧管30に接続されており、この高圧管30には、アキュムレータ50とリリーフバルブ53とが接続されている。本実施形態では、オイルポンプ34として、モータ32によってそれぞれ往復移動させられる2体以上のピストン(図示せず)を備えた往復動ポンプが採用される。また、アキュムレータ50としては、ブレーキフルードの圧力エネルギを窒素等の封入ガスの圧力エネルギに変換して蓄えるものが採用される。なお、モータ32、オイルポンプ34、及びアキュムレータ50は、ブレーキアクチュエータ80とは別体のパワーサプライユニットとして構成されてブレーキアクチュエータ80の外部に設けられていてもよい。
【0025】
アキュムレータ50は、オイルポンプ34によって例えば14〜22MPa程度にまで昇圧されたブレーキフルードを蓄える。また、リリーフバルブ53の弁出口は、油圧給排管28に接続されており、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力が異常に高まって例えば25MPa程度になると、リリーフバルブ53が開弁し、高圧のブレーキフルードは油圧給排管28へと戻される。更に、高圧管30には、アキュムレータ50の出口圧力、すなわち、アキュムレータ50におけるブレーキフルードの圧力を検出するアキュムレータ圧センサ51が設けられている。
【0026】
そして、高圧管30は、増圧弁40FR,40FL,40RR,40RLを介して右前輪用のホイールシリンダ20FR、左前輪用のホイールシリンダ20FL、右後輪用のホイールシリンダ20RRおよび左後輪用のホイールシリンダ20RLに接続されている。以下適宜、増圧弁40FR〜40RLを総称して「増圧弁40」という。増圧弁40は、リニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされる常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。増圧弁40は、上流側のアキュムレータ圧と下流側のホイールシリンダ圧との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。増圧弁40は、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。増圧弁40を通じて上流圧すなわちアキュムレータ圧が供給されホイールシリンダ20は増圧される。
【0027】
また、右前輪用のホイールシリンダ20FRと左前輪用のホイールシリンダ20FLとは、それぞれ前輪側の減圧弁42FRまたは42FLを介して油圧給排管28に接続されている。減圧弁42FRおよび42FLは、必要に応じてホイールシリンダ20FR,20FLの減圧に利用される常閉型の電磁流量制御弁(リニア弁)である。減圧弁42FRおよび42FLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に閉とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。減圧弁42FRおよび42FLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。
【0028】
一方、右後輪用のホイールシリンダ20RRと左後輪用のホイールシリンダ20RLとは、常開型の電磁流量制御弁である減圧弁42RRまたは42RLを介して油圧給排管28に接続されている。後輪側の減圧弁42RRまたは42RLは、それぞれリニアソレノイドおよびスプリングを有しており、何れもソレノイドが非通電状態にある場合に開とされ、それぞれのソレノイドに供給される電流に比例して弁の開度が調整される。また、電流の大きさがホイールシリンダ圧に応じて定まる所定の電流値を超えた場合には閉弁される。減圧弁42RRおよび42RLは、上流側のホイールシリンダ圧と下流側のリザーバ圧(大気圧)との差圧が当該弁を開弁させようとする力として作用するように設置されている。以下、適宜、減圧弁42FR〜42RLを総称して「減圧弁42」という。
【0029】
また、右前輪用、左前輪用、右後輪用および左後輪用のホイールシリンダ20FR〜20RL付近には、それぞれ対応するホイールシリンダ20に作用するブレーキフルードの圧力であるホイールシリンダ圧を検出するホイールシリンダ圧センサ44FR,44FL,44RRおよび44RLが設けられている。以下、適宜、ホイールシリンダ圧センサ44FR〜44RLを総称して「ホイールシリンダ圧センサ44」という。
【0030】
ブレーキアクチュエータ80は、本実施形態における制御部としての電子制御ユニット(以下「ECU」という)200によって制御される。ECU200は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、入出力インターフェース、メモリ等を備えるものである。
【0031】
上述のように構成されたブレーキ制御装置10は、例えばブレーキ回生協調制御を実行することができる。ブレーキ制御装置10は制動要求を受けて制動を開始する。制動要求は、例えば運転者がブレーキペダル12を操作した場合など、車両に制動力を付与すべきときに生起される。制動要求を受けてECU200はブレーキペダル12の踏み込みストロークとマスタシリンダ圧とから目標減速度すなわち要求制動力を演算する。ECU200は、要求制動力から回生による制動力を減じることによりブレーキ制御装置10により発生させるべき制動力である要求液圧制動力を算出する。ここで、回生による制動力は、上位のハイブリッドECU(図示せず)からブレーキ制御装置10に供給される。そして、ECU200は、算出した要求液圧制動力に基づいて各ホイールシリンダ20FR〜20RLの目標液圧を算出する。ECU200は、ホイールシリンダ圧が目標液圧となるように、フィードバック制御により増圧弁40や減圧弁42に供給する制御電流の値を決定する。ECU200は、目標減速度及び目標液圧の演算と各制御弁の制御とを制動中に所定周期で繰り返し実行する。
【0032】
その結果、ブレーキ制御装置10においては、ブレーキフルードがアキュムレータ50から増圧弁40を介して各ホイールシリンダ20に供給され、車輪に所望の制動力が付与される。また、各ホイールシリンダ20からブレーキフルードが減圧弁42を介して必要に応じて排出され、車輪に付与される制動力が調整される。このようにしていわゆるブレーキバイワイヤ方式の制動力制御が行われる。
【0033】
一方、このとき右マスタカット弁27FRおよび左マスタカット弁27FLは通常は閉状態とされる。ブレーキ回生協調制御中は、マスタカット弁27の上下流間には、回生制動力の大きさに対応する差圧が作用する。運転者によるブレーキペダル12の踏み込みによりマスタシリンダ14から送出されたブレーキフルードは、ストロークシミュレータ24に流入する。これにより適切なペダル反力が生成される。
【0034】
ECU200は、制動オン条件が成立した場合に、運転者によるブレーキ操作が開始され制動要求が発生したものと判定する。また、ECU200は、制動オフ条件が成立した場合に、運転者によるブレーキ操作が解除され制動要求も解除されたものと判定する。なお、以下では便宜上、制動要求の発生を「制動オン」、制動要求の解除を「制動オフ」と適宜称する。
【0035】
本実施形態において制動オン条件は、ペダルストロークを利用するように設定されている。ECU200は、運転者のブレーキ操作入力として例えばペダルストロークが制動オン判定閾値を超えたことを条件として制動オンであるとする。例えば、ECU200は、ストロークセンサ46の各出力系統の検出値に基づいてそれぞれ算出されるペダルストロークがともに制動オン判定閾値を超えたことを条件として制動オンであるとする。また、ECU200はブレーキ操作入力として例えば右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLのそれぞれの測定値を利用して制動オンか否かを判定する。ECU200は、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLのそれぞれの測定値がともに予め設定された液圧しきい値を超えたことを条件として制動オンであるとしてもよい。
【0036】
一方、ECU200は、ペダルストロークが制動中に制動オフ判定閾値を下回ったことを制動オフ条件とする。例えば、ECU200は、ストロークセンサ46の各出力系統の検出値に基づいてそれぞれ算出されるペダルストロークのいずれかが制動オフ判定閾値を下回ったことを条件として制動オフであるとする。算出された各ペダルストロークがすべて制動オフ判定閾値を下回ったことを条件として制動オフであるとしてもよい。また、ECU200は、右マスタ圧力センサ48FRおよび左マスタ圧力センサ48FLのそれぞれの測定値がともに予め設定された液圧しきい値を下回ったことを制動オフ条件に追加してもよい。
【0037】
ペダルストロークの制動オン判定閾値と制動オフ判定閾値とは同一の値であってもよいし、異なる値であってもよい。本実施形態では、制動オン判定閾値と制動オフ判定閾値とは異なる値であるものとし、制動オン判定閾値と制動オフ判定閾値との差を以下では「制動オンオフ判定ヒス値」と適宜称する。
【0038】
ところで、ストロークセンサ46の各出力系統は、検出素子の検出値の大きさに応じて切り替えて使用される複数の増幅器(アンプ)を内蔵している。計測対象であるストロークの範囲が比較的広いからである。各出力系統内部での検出値の増幅は、検出値の大きさに応じてこれら複数の増幅器を使い分けて行われる。例えば3つのアンプが用いられる。このため、運転者のペダル操作に伴って検出素子の検出値が変動する際にはストロークセンサ46の内部で増幅器の切替が生じることになる。
【0039】
図2は、本実施形態に係るストロークセンサ46の出力特性の一例を模式的に示す図である。図2の縦軸はストロークセンサ46の出力電圧を示し、横軸はブレーキペダル12に与えられたペダルストロークを示す。基本的にはストロークセンサ46の各出力系統での計測値と実際のストローク量とは線形の関係を有しており、ECU200は例えば予め記憶しているマップ等に基づいてセンサ計測値を適宜換算してストローク量を演算する。
【0040】
しかし、図2において矢印A及びBで示されるように、増幅器が切り替わる時には実際のストローク変化とは無関係に出力値が飛ぶことがある。このような非線形の出力変化は当該増幅器の仕様の範囲内に限られるものの、実際のストローク変化とは独立の見かけ上のストローク変化を生じさせてしまう。この出力変化すなわち増幅器の切替は、常に同一の出力値において生じるわけではなく、ある程度のばらつきを有する。また、例えば温度等の環境条件の変化にも影響を受ける。複数の出力系統それぞれでも異なるタイミングで切替が生じる。
【0041】
つまり、ストロークセンサ46の出力特性は、ペダルストロークとセンサ出力値とが第1の関係を有する第1の領域aと、ペダルストロークとセンサ出力値とが第1の関係とは異なる第2の関係を有する第2の領域bと、第1の関係と第2の関係との間での遷移が生じる遷移領域Aとに区分される。第1の領域aは第1の増幅器に対応し、第2の領域bは第2の増幅器に対応する。同様に、ペダルストロークとセンサ出力値とが第3の関係を有する第3の領域cも存在し、図2では遷移領域Bにおいて第2の関係と第3の関係との間での遷移が生じる。このような出力特性の遷移は、ストロークセンサ内蔵の増幅器の切替によるものである。言い換えれば、本実施形態ではストロークセンサ46の出力特性は、ペダルストロークとセンサ出力値とが線形の関係を有するリニア領域と、ペダルストロークとセンサ出力値との関係が異なる関係へと遷移し得る非リニア領域とに区分される。第1乃至第3の領域はリニア領域であり、遷移領域A及びBは非リニア領域である。リニア領域及び非リニア領域はストロークセンサ46の仕様として与えられる。
【0042】
以下では便宜上、矢印Aのように、ペダルストロークが増えるときにストロークセンサ出力値が非連続的に大きくなる場合を、出力特性の「上方遷移」と称する。また、矢印Bのように、ペダルストロークが増えるときにストロークセンサ出力値が非連続的に小さくなる場合を、出力特性の「下方遷移」と称する。
【0043】
本実施形態においては、ストロークセンサ46及びブレーキペダル12を生産工程において車両に組み付けたとき、または整備等のために交換したときに、ECU200はストロークセンサ46の零点学習を行う。この零点学習においては、ECU200は運転者のブレーキ操作が解除されているときのセンサ出力値をストロークセンサ46の零点に設定する。
【0044】
ストロークセンサ46及びブレーキペダル12の組付位置のばらつきにより、ストロークセンサ46の零点近傍でのストローク範囲が上述の非リニア領域にオーバーラップする場合がある。そうすると、制動オン判定閾値または制動オフ判定閾値の近傍で出力特性の遷移が生じる可能性がある。出力特性の遷移が生じると、センサ出力値が飛んで制動オン判定または制動オフ判定に影響してしまう。以下に説明するように、例えば、出力特性の上方遷移が生じた場合には、運転者のブレーキ操作が解除されても制動オフ判定がなされない場合がありうる。また、出力特性の下方遷移が生じた場合には、ペダルストロークが増えているにもかかわらず一旦制動オンとなった後に一時的に制動オフと判定される場合がありうる。
【0045】
図3は、本実施形態に係るストロークセンサ46の出力特性の一例を模式的に示す図である。図3の縦軸はストロークセンサ46の出力電圧を示し、横軸はブレーキペダル12に与えられたペダルストロークを示す。図3には、零点の近傍で出力特性の上方遷移が生じ得るようにストロークセンサ46が組み付けられた場合が示されている。
【0046】
図3に示される出力特性においては、ストロークセンサ46の零点が遷移領域Aに含まれている。このため、零点の近傍で第1の関係aから第2の関係bへと出力特性の上方遷移が生じる。また、ペダルストロークの制動オン判定閾値SON及び制動オフ判定閾値SOFFが予め設定されている。この場合、制動オン判定閾値のほうが制動オフ判定閾値よりも大きな値に設定されているが、両者は同じ値に設定されていてもよいし、逆に制動オン判定閾値のほうが小さな値に設定されていてもよい。制動オン判定閾値SON及び制動オフ判定閾値SOFFのそれぞれに対応するセンサ出力電圧は、オン判定出力電圧VON及びオフ判定出力電圧VOFFである。
【0047】
図においては制動オン判定閾値SONと制動オフ判定閾値SOFFとの間でペダルストロークが増加するときに出力特性の遷移が生じている。しかし、常に同一のペダルストロークにおいて遷移するわけではなく、遷移領域Aのいずれかの位置で遷移する。例えば温度等の環境条件の変化により、遷移ストロークにはバラツキが生じる。図においては出力特性が遷移したときにストロークセンサ46の出力がオン判定出力電圧VONを超えるので、このときに制動オンと判定される。制動オン判定により、更なるペダルストロークの増加とともに適切なブレーキ制御がなされる。
【0048】
ところが、図3に示されるように、運転者のブレーキ操作が解除されようとしてペダルストロークが減少する場合に出力特性が第2の関係bから第1の関係aに戻らないことがありうる。この場合、ペダルストロークがゼロとなっているにもかかわらずセンサ出力電圧がオフ判定出力電圧VOFFを超えてしまう。そうすると、ブレーキ操作が解除されているのに制動オフ判定がされないことになってしまう。
【0049】
図4は、本実施形態に係るストロークセンサ46の出力特性の一例を模式的に示す図である。図4の縦軸はストロークセンサ46の出力電圧を示し、横軸はブレーキペダル12に与えられたペダルストロークを示す。図4には、零点の近傍で出力特性の下方遷移が生じ得るようにストロークセンサ46が組み付けられた場合が示されている。図4では簡単のため、オン判定出力電圧VON及びオフ判定出力電圧VOFFが同一の判定電圧Vに設定されているものとする。この場合、図示されるように、出力特性の遷移によりペダルストロークが増えているにもかかわらず一旦制動オンと判定された後に一時的に制動オフと判定されてしまう。そうすると、ブレーキアクチュエータ80内部の各制御弁の開閉頻度が不必要に増加して、各制御弁の耐用期間が低下してしまうことになる。またブレーキフィーリングにも影響が生じてしまう。
【0050】
そこで、本実施形態においては、ECU200は、ストロークセンサ46の零点近傍で出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定する。ECU200は例えばストロークセンサ46の零点において出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定する。あるいは、ECU200は例えば制動オン判定閾値において出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定する。または、ECU200は例えば零点から制動オン判定閾値までの間で出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定する。出力特性の遷移が生じ得ると判定された場合には、ECU200は例えば零点の設定が異常であると判定する。この場合、ECU200は零点設定異常を表す情報(いわゆるダイアグ)を記憶する。
【0051】
図5は、本実施形態に係る処理の一例を説明するためのフローチャートである。図5に示される処理は例えば、車両の生産工程においてストロークセンサ46及びブレーキペダル12が組み付けられたときにECU200により実行される。また、メンテナンス作業等の際にストロークセンサ46等が交換されたときに実行されてもよい。
【0052】
処理が開始されると、まずECU200は、ストロークセンサ46の零点学習を行う(S10)。この零点学習においては、運転者のブレーキ操作が解除されているときのセンサ出力値をストロークセンサ46の零点に設定する。そして、ECU200は、設定された零点の近傍に非リニア領域があるか否かを判定する(S12)。零点近傍に非リニア領域がある場合には、出力特性の遷移が制動オン判定または制動オフ判定に影響しうる。ECU200は例えば、零点から制動オン判定閾値までの間に非リニア領域があるか否かを判定する。非リニア領域は例えばストロークセンサ46の仕様として与えられる。よって、ECU200は例えば、零点でのセンサ出力値から制動オン判定閾値でのセンサ出力値までの出力範囲に非リニア領域がオーバーラップしているか否かを判定する。
【0053】
なお、ECU200は、零点を含む所定範囲と非リニア領域とがオーバーラップしているか否かを判定してもよいし、制動オン判定閾値または制動オフ判定閾値を含む所定範囲と非リニア領域とがオーバーラップしているか否かを判定してもよい。
【0054】
零点近傍に非リニア領域がないと判定された場合には(S12のNo)、ECU200は、ストロークセンサの零点設定は正常であると判定し記憶する(S14)。逆に、零点近傍に非リニア領域があると判定された場合には(S12のYes)、ECU200は、ストロークセンサ零点の設定は異常であると判定し記憶する(S16)。すなわちECU200は、生産工程やメンテナンス作業で使用される専用のダイアグツール等により読取可能な形式で零点設定異常が発生したことをダイアグデータとして記憶する。この場合、ECU200は、ストロークセンサ46等の再組み付けを促す警告を出す処理を更にしてもよい。組み付けがやり直されることにより、良好な制動オンオフ判定及びブレーキフィーリングが実現される。
【0055】
また、零点近傍に非リニア領域があると判定された場合に、ECU200は、制動オン判定閾値及び制動オフ判定閾値の少なくとも一方を補正してもよい。例えば、ECU200は、制動要求判定への出力特性遷移の影響を補償するように制動オン判定閾値及び制動オフ判定閾値の少なくとも一方を補正してもよい。このようにすれば、ストロークセンサ46等の再組み付けをする必要が無くなるので、車両生産性及びメンテナンス作業性の向上に役立つ。
【0056】
例えば、ECU200は、出力特性の上方遷移によるセンサ出力値の増加量を加味して制動オフ判定閾値を補正してもよい。この場合、センサ出力値の増加量に対応させて制動オフ判定閾値は増加される。その結果、図3に示されるような出力特性の上方遷移が生じても、制動オフ判定閾値が大きくされているため、ブレーキ操作が解除されるときの制動オフ判定をより確実に行うことができる。
【0057】
また、ECU200は、制動オフ判定閾値の補正とともに制動オンオフ判定ヒス値を補正してもよい。この場合、制動オンオフ判定ヒス値は、出力特性の遷移によるセンサ出力値の変化量を加味して調整される。このようにすれば、制動オン判定閾値及び制動オフ判定閾値の双方を、出力特性の遷移の影響を補償するように補正することができる。その結果、図4に示されるような制動オンオフの反復を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態に係るブレーキ制御装置を示す系統図である。
【図2】本実施形態に係るストロークセンサの出力特性の一例を模式的に示す図である。
【図3】本実施形態に係るストロークセンサの出力特性の一例を模式的に示す図である。
【図4】本実施形態に係るストロークセンサの出力特性の一例を模式的に示す図である。
【図5】本実施形態に係る処理の一例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0059】
10 ブレーキ制御装置、 20 ホイールシリンダ、 27 マスタカット弁、 40 増圧弁、 42 減圧弁、 44 ホイールシリンダ圧センサ、 46 ストロークセンサ、 48 マスタシリンダ圧センサ、 51 アキュムレータ圧センサ、 80 ブレーキアクチュエータ、 200 ECU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者のブレーキ操作量とセンサ出力値との関係が該ブレーキ操作量に応じて遷移する出力特性を有するストロークセンサと、
運転者のブレーキ操作が解除されているときのセンサ出力値を前記ストロークセンサの零点に設定し、該零点において前記出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定する制御部と、を備えることを特徴とするブレーキ制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記センサ出力値に基づいて前記ブレーキ操作量が制動オン判定閾値を超えたか否かを判定し、超えたと判定された場合に制動要求が発生したと判定するものであって、
前記制御部は、前記零点から前記制動オン判定閾値までの間で前記出力特性の遷移が生じ得るか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記出力特性の遷移が生じ得ると判定した場合に前記零点の設定が異常であると決定することを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記センサ出力値に基づいて前記ブレーキ操作量が制動オフ判定閾値を下回ったか否かを判定し、下回ったと判定された場合に制動要求が解除されたと判定するものであって、
前記制御部は、前記出力特性の遷移が生じ得ると判定した場合に前記制動オフ判定閾値を補正することを特徴とする請求項1または2に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記出力特性の遷移が生じ得ると判定した場合に制動オン判定閾値及び制動オフ判定閾値の双方を補正することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−227091(P2009−227091A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−74492(P2008−74492)
【出願日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】