説明

ブレーキ制御装置

【課題】
従来技術によれば、ブレーキペダルの踏力を、マスタシリンダと電動倍力装置を用いて倍力しているが、油圧依存のマスタシリンダは応答性が遅く、電気依存の電動倍力装置は応答性が速いため、双方にギャップが生じ、ひいては、運転者に違和感を与えていた。
【解決手段】
ブレーキペダルの踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダを備えるブレーキ制御装置は、マスタシリンダの上流に設置された油圧式の倍力シリンダを備える。ECU、ECUに信号線を介して接続される電動モータ,ポンプを更に備え、電動モータとポンプの回転軸は直接的に契合され、電動モータは、ECUの指令に基づいて回転し、ポンプは、回転軸の回転にともなって駆動し、倍力シリンダは、ポンプに配管を介して接続され、ECUは、倍力シリンダが双方向に増減圧可能となるように指令を出力するようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキペダルの踏力を倍力する倍力装置を備えたブレーキ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車が必要十分な制動力を得るには、運転者のブレーキペダル踏力を倍力する必要があり、一般的に、エンジンの負圧を用いた倍力装置が用いられている。しかし、近年の更なる安全性要求の高まりに対し、電動アクチュエータにより踏力を倍力してマスタシリンダに出力する電動倍力装置が注目されている。例えば、電動モータとボールネジを用いて、倍力を生成する技術がある(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−112426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、マスタシリンダは油圧依存であり、電動倍力装置は電気依存である。即ち、油圧依存のマスタシリンダは応答性が遅く、電気依存の電動倍力装置は応答性が速いため、双方にギャップが生じ、ひいては、運転者に違和感を与える、という課題がある。
【0005】
そこで、本発明の目的は、マスタシリンダと倍力装置との応答性のギャップを少なくし、運転者の違和感を低減させるブレーキ制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の望ましい態様の一つは次の通りである。
【0007】
ブレーキペダルの踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダを備えるブレーキ制御装置は、マスタシリンダの上流に設置された油圧式の倍力シリンダを備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マスタシリンダと倍力装置との応答性のギャップを少なくし、運転者の違和感を低減させるブレーキ制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、実施例を、図面を用いて説明する。
【0010】
図1はブレーキ制御装置の平面図、図2はブレーキ制御装置の断面図である。
【0011】
ブレーキ制御装置は、ブレーキ倍力のための液圧を発生させる電動油圧式アクチュエータ1,ブレーキペダル(以下、ペダルと略す)2,ブレーキ圧配分装置3,ブレーキ配管4,5,ピストン(プライマリピストン,セカンダリピストン,倍力シリンダ内ピストン)7,タイヤ(キャリパ,ロータ,車輪を含む)8,リザーバタンク9,ストロークセンサ20,ロッド(入力ロッド,プッシュロッド,ピストンロッド)21、及び、スプリング22とからなる。又、電動油圧式アクチュエータ1は、マスタシリンダ10,マスタシリンダ10に上流に設置されブレーキ倍力を発生する油圧式の倍力シリンダ11,油圧を発生する双方向に正逆回転可能な可逆式で歯車式のポンプ12,油圧配管13,電動モータ14,モータドライバ15,ECU16、及び、各種の信号線17とからなる。
【0012】
電動モータ14は、ポンプ12を駆動して、倍力シリンダ11を所望の方向に増圧する。増圧された作動油は、マスタシリンダ10,ブレーキ配管4A,4Bを介して、ブレーキ圧配分装置3に流入する。ブレーキ圧配分装置3は必要に応じて、前後の左右輪にブレーキ圧を配分する。右前輪を例に取ると、ブレーキ圧配分装置3からブレーキ配管5FRを介して、キャリパ8CFRが増圧され、ロータ8BFRが押圧され、車輪8AFRが制動される。
【0013】
次に、ブレーキ倍力発生の仕組みについて説明する。車体前後方向に延設された倍力シリンダ11内を、プライマリピストン7Aに連結したピストンロッド21Cが貫通しており、このピストンロッド21Cに倍力シリンダ11内を摺動する倍力シリンダ内ピストン7Cが固定されている。倍力シリンダ11内には、倍力シリンダ内ピストン11Dにより左右に油圧室11Aと油圧室11Bが形成されている。
【0014】
ポンプ12には、油圧配管13A,13Bが接続され、それぞれが油圧室11A,11Bに接続されていると共に、作動油を貯蔵したオイルタンク12Aを備えている。このオイルタンク12Aは、ポンプ12から漏れた作動油を回収する。ポンプ12の回転軸は、直接電動モータ14に契合されており、ECU16の指令に基づくモータドライバ15からの指令電流を受けて、電動モータ14が回転することによって正逆回転(時計回りあるいは反時計回りに)可能な状態で駆動される。結果として、倍力シリンダ11の双方向に増減圧させることができる。
【0015】
ここで、油圧式の倍力シリンダを用いることにより、ブレーキ制御装置を小型化することができる。油圧式倍力シリンダと従来の電動倍力装置(モータ及び減速装置)を比較すると、前者は後者と同等の出力が得られるにもかかわらず小型だからである。尚、倍力シリンダ11内に満たされる作動油を、マスタシリンダ10に用いられるブレーキフルードよりも粘性を高くすると、漏れが少なくなり、圧力損失を抑えることができるため、より効果的である。
【0016】
ECU16は、ペダルストローク信号線17Eを介してストロークセンサ20と、指令値信号線17C及びモータ回転速度信号線17Dを介してモータドライバ15とそれぞれ接続されている。ECU16は、ペダルストローク信号線17Eを介して受信したペダルストローク情報に基づいて、電動モータ14への指令値を算出する。生成された指令値は、指令値信号線17Cを介してモータドライバ15へ伝達され、更に、ドライバ出力信号線17Aを介して電動モータ14へ入力される。
【0017】
以上のように、運転者がペダル2を踏み込むと、踏力が入力ロッド21Aに伝達され、プッシュロッド21Bを押し込み、圧力室10Aが増圧される。一方、ストロークセンサ20がストロークを検出することで、ポンプ12が作動し、ピストンロッド21Cが稼動する。従って、ピストンロッド21Cに連結したプライマリピストン7Aが変位し、圧力室10Bが増圧される。セカンダリピストン7Bは、スプリング22A,22Bと圧力室10A,10Bの内圧とのバランスにより変位し、圧力室10Cも同様に増圧される。増圧された結果、油路10F,10Gを通って、下流にブレーキ圧が伝達される。尚、圧送されたことによる不足分のブレーキフルードは、リザーバタンク9より油路10D,10Eを介してマスタシリンダ10に供給される。
【0018】
図3は図1の制御ブロックを示す図、図4はペダルストロークと倍力ブレーキ圧の関係を示す図である。ここで、ECU16における電動モータ14への指令値生成方法について説明する。
【0019】
ECU16は、ストロークセンサ20からのストローク(絶対変位)信号30と、上位ECU31からの制御パターン信号が、倍力指令値算出部16Aに入力され、これらの情報に基づいて目標倍力ブレーキ圧を算出する。ここで、ペダルストロークと倍力ブレーキ圧の関係は、図4の曲線イで示すような関係(倍力ブレーキ圧要求特性)があり、予め当該特性をECU16に記憶させておくとよい。上位ECU31は、車両速度情報,緊急停止情報など上位の情報に基づいて、倍力ブレーキ圧要求特性を決定する。
【0020】
その後、指令値決定部16Bは、倍力ブレーキ圧要求特性と実ブレーキ圧取得部32から受信した実ブレーキ圧との差分にモータ指令ゲインを乗じることで、モータドライバ15への指令値を決定する。ここで、実ブレーキ圧取得部32は、実ブレーキ圧を、液圧センサから実測により取得してもよいし、推定により取得してもよい。
【0021】
モータドライバ15は、電動モータ14が所望の動きを実現するように指令電流を生成する。電動モータ14の出力軸14Aには、ポンプ12の駆動軸が結合されている。ポンプ12が生成する圧力が油圧配管13を介して倍力シリンダ11に伝達され、倍力シリンダ11内のピストンの変位に応じて倍力ブレーキ圧を生成する。
【0022】
尚、本実施例では、モータドライバ15とECU16を別体としているが、これらを一体にしてもよい。又、図3では、ECU16と上位ECU31を別体のように記載しているが、一体にしてもよい。このようにすることで、システムの小型化が図られるので車両への搭載性が向上する。
【0023】
以上のように、マスタシリンダと倍力シリンダが共に油圧系に依存した応答性を有するため、応答性のずれを小さくすることができ、ひいては、位相遅れの解消やハンチング現象を抑制すると共に、制御性や運転者の操作感が良好となる。又、倍力シリンダ内では、通常のブレーキフルードよりも粘性の高い作動油を用いることで、倍力シリンダの小型化が図れる。更に、ポンプ,電動モータ,ECUでは配管を用いることでレイアウトフリーとなり、多車種への拡張性が極めて良好となる。
【0024】
尚、本実施例が実施されていることを確認するためには、マスタシリンダ10の上流に倍力シリンダと双方向に増減圧可能なポンプが設けられているか目視によって確かめればよい。
【0025】
図5は回生ブレーキと摩擦ブレーキの関係を示す図、図6は回生ブレーキと摩擦ブレーキの装置要部の動きを示す図である。ここで、回生ブレーキと摩擦ブレーキを具備する車両に適用する場合の方法について説明する。
【0026】
ここで、回生ブレーキとは、例えば、ハイブリッド車において、車輪を加速するためのモータを、車輪に対する負荷として発電することで、車輪を制動するブレーキ、と定義する。尚、摩擦ブレーキは、車両に一般に用いられており、車輪とともに回転するロータに対し、これを挟み込むように取り付けられたパッドを、ブレーキ油圧によりロータへ押し付けることで摩擦力を発生させ、車輪を制動するブレーキである。
【0027】
モータは、減速時にエネルギーを回生しながら制動することが可能であるが、モータの特性上、車輪速が低い領域や、急激な減速が必要な場合には、回生ブレーキのみでは必要十分な制動力を得ることができない。
【0028】
図5は、ある速度でブレーキを開始し、一定の減速度で車両停止に至るまでのブレーキ力配分の典型的な履歴を模式的に示している。初期段階の回生ブレーキ区間では、破線で示す回生ブレーキ力を100%利用し、摩擦ブレーキを使うことなく制動を行う。やがて、第2段階の回生協調ブレーキ区間では、回生ブレーキ力の割合を徐々に減じ、その代わり実線で示す摩擦ブレーキ力の分担率を徐々に増加させる。やがて最終段階の、摩擦ブレーキ区間では、摩擦ブレーキ力が100%分担し、回生ブレーキは使用しなくなる。
【0029】
図6(a)は、回生ブレーキ時、及び、回生協調ブレーキ時の電動油圧式アクチュエータ1の動作を示す。この場合、ECU16は、ペダル2を運転者が踏んで、矢印ロの方向に踏力が入力されても摩擦ブレーキが発生しないように、即ち、倍力シリンダ11が倍力方向に増圧しないよう制御する。この時、電動油圧式アクチュエータ1は、矢印Aの方向に圧力を増圧することで、ピストン11Dを矢印ハの方向に変位させる。これにより、ブレーキ倍力は発生せず、代わりに、運転者に対するペダル反力が発生する。
【0030】
一方、図6(b)は、摩擦ブレーキ時の電動油圧式アクチュエータ1の動作を示す。この場合、ECU16は、運転者からのペダル踏力(矢印ニ)に応じて、矢印Bの方向に増圧することで、ピストン11Dが矢印ホの方向に変位してブレーキ倍力を発生するよう制御する。以上のように、ハイブリッド車などの特徴を活かしたブレーキの分担率の変更を、容易に実現することができる。
【0031】
図7は、ブレーキバイワイヤ(以下、BBWと称する)のブレーキ制御装置を示す図である。
【0032】
BBWでは、運転者の踏力を伝達する入力ロッド21Sは、踏力反力アクチュエータ28と直動的に連結されており、マスタシリンダのピストンと機械的に連結されていない。踏力反力アクチュエータ28は、ブレーキ圧などの下流の剛性変化を、入力ロッド21Sに返す。電動油圧式アクチュエータ1Sは、ペダル2からのストローク情報に基づいて、ブレーキ圧を生成する。ここでは、車輪、下流のブレーキ配管などから、ブレーキ反力を直接ペダルに伝達することがないため、運転者の操作感向上に有効である。
【0033】
本稿によれば、マスタシリンダの上流に倍力シリンダを設け、倍力シリンダの双方向に増減圧可能とする機構を設けることにより、マスタシリンダと倍力装置との応答性のギャップを少なくし、運転者の違和感を低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】ブレーキ制御装置の平面図。
【図2】ブレーキ制御装置の断面図。
【図3】図1の制御ブロックを示す図。
【図4】ペダルストロークと倍力ブレーキ圧の関係を示す図。
【図5】回生ブレーキと摩擦ブレーキの関係を示す図。
【図6】回生ブレーキと摩擦ブレーキの装置要部の動きを示す図。
【図7】BBWのブレーキ制御装置を示す図。
【符号の説明】
【0035】
1 電動油圧式アクチュエータ
2 ブレーキペダル
3 ブレーキ圧配分装置
4,5 ブレーキ配管
7 ピストン
8 タイヤ
9 リザーバタンク
10 マスタシリンダ
11 倍力シリンダ
12 ポンプ
13 油圧配管
14 電動モータ
15 モータドライバ
16 ECU
17 通信線
20 ストロークセンサ
21 ロッド
22 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキペダルの踏力に基づいてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダを備えるブレーキ制御装置において、
前記マスタシリンダの上流に設置された油圧式の倍力シリンダを備える、ブレーキ制御装置。
【請求項2】
ECU、当該ECUに信号線を介して接続される電動モータ、及び、ポンプを更に備え、
前記電動モータと前記ポンプの回転軸は直接的に契合され、
前記電動モータは、前記ECUの指令に基づいて回転し、
前記ポンプは、前記回転軸の回転にともなって駆動し、
前記倍力シリンダは、前記ポンプに配管を介して接続され、
前記ECUは、前記倍力シリンダが双方向に増減圧可能となるように前記指令を出力する、請求項1記載のブレーキ制御装置。
【請求項3】
前記ブレーキペダルの入力軸と前記マスタシリンダのピストンは、機械的に連結されていない、請求項1又は2記載のブレーキ制御装置。
【請求項4】
前記ECUは、前記ブレーキペダルの踏力に基づいて、目標倍力ブレーキ圧を算出する、請求項1乃至3何れか一に記載のブレーキ制御装置。
【請求項5】
前記倍力シリンダの作動油は、前記マスタシリンダのブレーキフルードよりも粘性が高い、請求項1乃至4何れか一に記載のブレーキ制御装置。
【請求項6】
前記ECUは、回生ブレーキと摩擦ブレーキが協調する際、予め設定された制御パターンに応じて、ブレーキ力が一定となるように、前記摩擦ブレーキの力を発生させる、請求項1記載のブレーキ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−23735(P2010−23735A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−189266(P2008−189266)
【出願日】平成20年7月23日(2008.7.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】