ブレーキ機構
【課題】部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板がスプライン嵌合される第2連結部材のケース固定を確保することができるブレーキ機構を提供すること。
【解決手段】共通キャリアCを係止可能な第5ブレーキR/Bであって、第1ドラム部材41と、第5ブレーキ用ドラム42と、中間壁21と、第5ブレーキピストン43と、第5ブレーキリターンスプリング45と、を備える。第1ドラム部材41は、共通キャリアCに連結され、摩擦板60がスプライン嵌合される。第5ブレーキ用ドラム42は、自動変速機ケースATCにスプライン嵌合し、摩擦相手板61がスプライン嵌合される。中間壁21は、第5ブレーキ用ドラム42のE方向側への移動を規制する。第5ブレーキピストン43は、摩擦相手板61をE方向側へ押圧可能に設けられる。第5ブレーキリターンスプリング45は、第5ブレーキ用ドラム42に対してE方向側への付勢力を発生し、第5ブレーキピストン43に対してF方向側への付勢力を発生する。
【解決手段】共通キャリアCを係止可能な第5ブレーキR/Bであって、第1ドラム部材41と、第5ブレーキ用ドラム42と、中間壁21と、第5ブレーキピストン43と、第5ブレーキリターンスプリング45と、を備える。第1ドラム部材41は、共通キャリアCに連結され、摩擦板60がスプライン嵌合される。第5ブレーキ用ドラム42は、自動変速機ケースATCにスプライン嵌合し、摩擦相手板61がスプライン嵌合される。中間壁21は、第5ブレーキ用ドラム42のE方向側への移動を規制する。第5ブレーキピストン43は、摩擦相手板61をE方向側へ押圧可能に設けられる。第5ブレーキリターンスプリング45は、第5ブレーキ用ドラム42に対してE方向側への付勢力を発生し、第5ブレーキピストン43に対してF方向側への付勢力を発生する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機等に適用され、摩擦板と摩擦相手板をピストン部材により押圧することで回転要素をケースに係止可能なブレーキ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第3ブレーキB3が配設されるブレーキハウジング40を、第1ブレーキB1が配設されるケース26と別体に構成するとともに、第3ブレーキB3の第1嵌合部42の先端を、第1ブレーキB1の第2嵌合部70の先端に僅かな隙間を隔てて対向させ、その第1ブレーキB1の摩擦板74と摩擦相手板72を第2ピストン78との間で挟圧する第2ストッパ部材として機能させるようにしたタンデム型摩擦係合装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−278562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されたブレーキ機構にあっては、摩擦相手板44がスプライン嵌合されるブレーキハウジング40が、ボルト39によって第2ケース部材36に固定されているため、ブレーキハウジング40のケース固定を確保するのに部品点数が増加する、という課題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板がスプライン嵌合される第2連結部材のケース固定を確保することができるブレーキ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、回転要素を係止可能なブレーキ機構であって、第1連結部材と、第2連結部材と、ストッパ部材と、ピストン部材と、弾性部材と、を備える。
前記第1連結部材は、前記回転要素に連結され、摩擦板が相対回転不能にスプライン嵌合される。
前記第2連結部材は、前記回転要素を収容するケースに相対回転不能にスプライン嵌合し、摩擦相手板が相対回転不能にスプライン嵌合される。
前記ストッパ部材は、前記第2連結部材の一方側への移動を規制する。
前記ピストン部材は、前記摩擦相手板を前記一方側へ押圧可能に設けられる。
前記弾性部材は、前記第2連結部材とピストン部材との間に配置され、前記第2連結部材に対して前記一方側への付勢力を発生し、前記ピストン部材に対して前記一方側の逆方向である他方側への付勢力を発生する。
【発明の効果】
【0007】
上記のように、回転要素を係止する第2連結部材をケースにスプライン嵌合させるため、第2連結部材を固定するボルト等の締結部品を要さない。
しかし、第2連結部材をケースにスプライン嵌合させただけでは、第2連結部材とケースとのスプライン嵌合に抜けが生じる可能性がある。このようなスプライン嵌合の抜けが生じると、ピストンが押圧していない状態であっても摩擦板と摩擦相手板とに引き摺りが生じてしまう。
これに対し、本発明は、第2連結部材とピストン部材との間に弾性部材を配置し、弾性部材の付勢力を、第2連結部材をケースに押し付ける一方側と、ピストン部材を元の位置に戻す他方側と、の両方に作用させる構成を採用している。すなわち、摩擦板と摩擦相手板の押圧を解除する位置までピストン部材を戻す弾性部材を、ケースにスプライン嵌合された第2連結部材の抜けを防止する抜け防止部材として兼用している。このため、ケースにスプライン嵌合された第2連結部材の抜けを防止するための追加部品が不要である。
この結果、部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板がスプライン嵌合される第2連結部材のケース固定を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機を示すスケルトン図である。
【図3】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機において5つの摩擦締結要素のうち二つの同時締結の組み合わせにより前進4速及び後退1速の締結作動を示す締結作動表図である。
【図4】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機において出力ギアより駆動源から遠い後方側を示す詳細断面図である。
【図5】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機において出力ギアより駆動源に近い前方側を示す詳細断面図である。
【図6】実施例1のブレーキ機構である第5ブレーキの周辺構成を示す拡大断面図である。
【図7】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における第1速(1st)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図8】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における第2速(2nd)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図9】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における第3速(3rd)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図10】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における第4速(4th)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図11】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における後退速(Rev)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図12】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機において各変速段における各摩擦締結要素のトルク分担比を示すトルク分担比表図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のブレーキ機構を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機の構成を、「全体構成」、「変速構成」、「後方側配置の摩擦締結要素構成」、「前方側配置の摩擦締結要素構成」、「第5ブレーキの周辺構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体構成]
図1は、実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機の全体構成を示す縦断面図であり、図2は、実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機を示すスケルトン図である。以下、図1及び図2に基づいて、自動変速機の遊星歯車構成と摩擦締結要素構成を説明する。
【0012】
実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機は、図1及び図2に示すように、ラビニオ式遊星歯車PGUと、入力軸INと、出力ギアOUTと、第1クラッチ13R/Cと、第2クラッチ234/Cと、第3ブレーキ12/Bと、第4ブレーキ4/Bと、第5ブレーキR/Bと、自動変速機ケースATCと、を備えている。
【0013】
前記ラビニオ式遊星歯車PGUは、2列の遊星歯車であるシングルピニオン式遊星歯車とダブルピニオン式遊星歯車を一体化した複合型遊星歯車である。このラビニオ式遊星歯車PGUは、図1及び図2に示すように、フロントサンギアSsと、リアサンギアSdと、リングギアRと、フロントサンギアSsとリングギアRに噛み合うロングピニオンPLと、リアサンギアSdとロングピニオンPLに噛み合うショートピニオンPSと、ロングピニオンPLとショートピニオンPSを回転可能に支持する共通キャリアCと、を有する。
【0014】
前記入力軸INは、図外のエンジン(駆動源)からの回転駆動トルクが、図1に示すように、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータT/Cを介して入力される軸である。この入力軸INに対し同軸配置によりフロントサンギア軸FSが設けられ、このフロントサンギア軸FSに、ラビニオ式遊星歯車PGUのフロントサンギアSsがスプライン嵌合されている。
【0015】
前記出力ギアOUTは、図1に示すように、リングギアRに常時連結する。この出力ギアOUTの出力回転は、カウンターギア1→カウンターシャフト2→終減速ギア3→ドライブギア4→デファレンシャルギアケース5へと伝達される。そして、デファレンシャルギアケース5に伝達された出力回転は、デファレンシャルギアケース5と一体に回転するピニオンメートシャフト6→ピニオン7,7を経過し、ピニオン7,7に噛み合う一対のサイドギア8,9から図外の左右のドライブシャフト及び左右の駆動輪へ伝達される。
【0016】
前記第1クラッチ13R/Cは、第1速(1st)と第3速(3rd)と後退速(Rev)において入力軸INとフロントサンギアSs(=フロントサンギア軸FS)を選択的に連結する多板摩擦締結クラッチである。
【0017】
前記第2クラッチ234/Cは、第2速(2nd)と第3速(3rd)と第4速(4th)において入力軸INと共通キャリアCを選択的に連結する多板摩擦締結クラッチである。
【0018】
前記第3ブレーキ12/Bは、第1速(1st)と第2速(2nd)においてリアサンギアSdを選択的に自動変速機ケースATCに固定する多板摩擦締結ブレーキである。
【0019】
前記第4ブレーキ4/Bは、第4速(4th)においてフロントサンギアSs(=フロントサンギア軸FS)を選択的に自動変速機ケースATCに固定する多板摩擦締結ブレーキである。
【0020】
前記第5ブレーキR/Bは、後退速(Rev)において共通キャリアCを選択的に自動変速機ケースATCに固定する多板摩擦締結ブレーキである。
【0021】
前記自動変速機ケースATCは、図1に示すように、ケース内部空間にラビニオ式遊星歯車PGUと5つの摩擦締結要素13R/C,234/C,12/B,4/B,R/B等を収納している。この自動変速機ケースATCの駆動源側には、コンバータハウジング10が連結され、コンバータハウジング10内にトルクコンバータT/Cが配置される。また、自動変速機ケースATCとコンバータハウジング10の連結部には、エンジン(駆動源)により回転駆動されるオイルポンプO/Pが配置されている。
【0022】
[変速構成]
図3は、実施例1のブレーキ機構において5つの摩擦締結要素のうち二つの同時締結の組み合わせにより前進4速及び後退1速を達成する締結作動表を示す。以下、図3に基づいて、実施例1のブレーキ機構の各変速段を成立させる変速構成を説明する。
【0023】
第1速(1st)の変速段は、図3に示すように、第1クラッチ13R/Cと第3ブレーキ12/Bの同時締結により、入力軸INとフロントサンギアSsを連結し、リアサンギアSdをケース固定することで達成する。
【0024】
第2速(2nd)の変速段は、図3に示すように、第2クラッチ234/Cと第3ブレーキ12/Bの同時締結により、入力軸INと共通キャリアCを連結し、リアサンギアSdをケース固定することで達成する。
【0025】
第3速(3rd)の変速段は、図3に示すように、第1クラッチ13R/Cと第2クラッチ234/Cの同時締結により、入力軸INとフロントサンギアSsと共通キャリアCを互いに連結することで達成する。
【0026】
第4速(4th)の変速段は、図3に示すように、第2クラッチ234/Cと第4ブレーキ4/Bの同時締結により、入力軸INと共通キャリアCを連結し、フロントサンギアSsをケース固定することで達成する。
【0027】
後退速(Rev)の変速段は、図3に示すように、第1クラッチ13R/Cと第5ブレーキR/Bの同時締結により、入力軸INとフロントサンギアSsを連結し、共通キャリアCをケース固定することで達成する。
【0028】
そして、図3の締結作動表から明らかなように、第1速(1st)から第4速(4th)までの隣接変速段でのアップ変速及びダウン変速は、所謂、2つの摩擦締結要素の掛け替え変速により行われる。ここで、掛け替え変速とは、変速前の変速段において同時締結されている2つの摩擦締結要素のうち、1つの摩擦締結要素を締結状態のまま維持し、他の1つの摩擦締結要素を解放し、新たに1つの摩擦締結要素を締結して変速後の変速段に移行することをいう。例えば、第1速(1st)から第2速(2nd)へのアップ変速は、第3ブレーキ12/Bを締結状態のまま維持し、第1クラッチ13R/Cを解放し、第2クラッチ234/Cを締結することで行われる。
【0029】
[後方側配置の摩擦締結要素構成]
5つの摩擦締結要素は、図1及び図2に示すように、出力ギアOUTを境とし、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域と、出力ギアOUTより駆動源から遠い後方側の領域に分けて配置している。以下、図4に基づいて、出力ギアOUTより駆動源から遠い後方側の領域に配置された摩擦締結要素の構成を説明する。
【0030】
前記出力ギアOUTより駆動源から遠い後方側の領域には、図4に示すように、自動変速機ケースATCの内部空間に、ラビニオ式遊星歯車PGUと第3ブレーキ12/Bと第4ブレーキ4/Bの2つの摩擦締結要素を配置している。
【0031】
前記出力ギアOUTは、中間壁21の円筒部21bにベアリング22を介して支持されている。中間壁21は、出力ギアOUTの前方側に配置されるとともに、自動変速機ケースATCに連結され、径方向に伸びる壁部21aと、該壁部21aから軸方向の前記後方側に伸びる円筒部21bと、からなる。なお、出力ギアOUTは、後方側がリングギアRに常時連結され、前方側がパーキングギア23に常時連結される。このパーキングギア23には、パーキングポール24が噛み合い可能に配置される。
【0032】
前記ラビニオ式遊星歯車PGUは、出力ギアOUTの後方側に隣接した位置であって、フロントサンギア軸FSの外周位置に配置される。ラビニオ式遊星歯車PGUの外径寸法は、リングギアRの外径により規定され、ラビニオ式遊星歯車PGUの軸方向寸法は、共通キャリアCの軸方向長さにより規定される。フロントサンギア軸FSの外周位置には、フロントサンギアSsがスプライン結合され、リアサンギアSdが回転可能に支持される。共通キャリアCは、ロングピニオンPLを支持するロングピニオン軸25と、ショートピニオンPSを支持するショートピニオン軸26(図1参照)と、両ピニオン軸25,26を両端位置にて支持するフロントキャリアプレート27及びリアキャリアプレート28と、により構成される。
【0033】
前記第3ブレーキ12/Bは、ラビニオ式遊星歯車PGUより径方向外周位置であって、ラビニオ式遊星歯車PGUと径方向に重なる位置に配置される。第3ブレーキ12/Bの4枚の摩擦板36は、共通キャリアCの後方側を通ってリアサンギアSdにスプライン結合された第2ハブ部材29の外周側にスプライン嵌合される。第3ブレーキ12/Bの4枚の摩擦相手板37は、自動変速機ケースATCにスプライン嵌合される。第3ブレーキ12/Bの第3ブレーキピストン30は、交互に配置された摩擦板36と摩擦相手板37による第3ブレーキ12/Bの後方側であって、自動変速機ケースATCと、その内側の軸方向突出ケース部31と、により形成した大円環溝のピストンシリンダに配置される。自動変速機ケースATCと第3ブレーキピストン30の間には、第3ブレーキリターンスプリング32が介装される。
【0034】
前記第4ブレーキ4/Bは、第3ブレーキ12/Bの径方向内側位置であって、第3ブレーキピストン30と径方向に重なる位置に配置される。第4ブレーキ4/Bの2枚の摩擦板38は、第2ハブ部材29の後方側及びリアサンギアSdの内周側を通るフロントサンギア軸FSにスプライン結合された第3ハブ部材33の外周側にスプライン嵌合される。第4ブレーキ4/Bの2枚の摩擦相手板39は、軸方向突出ケース部31にスプライン嵌合される。第4ブレーキ4/Bの第4ブレーキピストン34は、第4ブレーキ4/Bの後方側であって、自動変速機ケースATCにより形成した小円環溝のピストンシリンダに配置される。自動変速機ケースATCと第4ブレーキピストン34の間には、第4ブレーキリターンスプリング35が介装される。
【0035】
前記自動変速機ケースATCは、上記のように、出力ギアOUTとラビニオ式遊星歯車PGUと第3ブレーキ12/Bと第4ブレーキ4/Bをレイアウトしたことに対応した形状としている。すなわち、図4に示すように、出力ギアOUTの位置のケース径Dfから第3ブレーキ12/Bの位置へ向かってケース径を徐々に小さく絞り込み、第3ブレーキピストン30と第4ブレーキ4/Bが配置される後端側のケース径Dr(<Df)を小径にする形状設定としている。
【0036】
[前方側配置の摩擦締結要素構成]
5つの摩擦締結要素は、図1及び図2に示すように、出力ギアOUTを境とし、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域と、出力ギアOUTより駆動源から遠い後方側の領域に分けて配置している。以下、図5に基づいて、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域に配置された摩擦締結要素の構成を説明する。
【0037】
前記出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域には、図5に示すように、自動変速機ケースATCの内部空間に、第1クラッチ13R/Cと第2クラッチ234/Cと第5ブレーキR/Bの3つの摩擦締結要素を配置している。これら3つの摩擦締結要素の径方向の配置関係は、径方向外側に第5ブレーキR/Bを配置し、第5ブレーキR/Bより径方向内側に第2クラッチ234/Cを配置し、第2クラッチ234/Cより径方向内側に第1クラッチ13R/Cを配置している。
【0038】
前記第5ブレーキR/Bは、図5に示すように、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域に配置される3つの摩擦締結要素のうち、最外周位置に配置される。第5ブレーキR/Bの3枚の摩擦板60は、共通キャリアCの前方側端部のフロントキャリアプレート27に対し円筒状連結プレート40を介して連結する第1ドラム部材41の外周側にスプライン嵌合される。第5ブレーキR/Bの3枚の摩擦相手板61及びリテーニングプレート62は、中間壁21の壁部21aに固定された第5ブレーキ用ドラム42にスプライン嵌合される。第5ブレーキR/Bの第5ブレーキピストン43は、第5ブレーキR/Bの前方側であって、自動変速機ケースATCに固定した隔壁44に形成した環状溝によるピストンシリンダに配置される。第5ブレーキ用ドラム42と第5ブレーキピストン43の間には、第5ブレーキリターンスプリング45が介装される。
【0039】
前記第2クラッチ234/Cは、図5に示すように、第5ブレーキR/Bより径方向内側位置であって、かつ、第5ブレーキR/Bとは少なくとも一部が径方向に重なる位置に配置される。第2クラッチ234/Cの3枚の摩擦板63は、入力軸INにスプライン結合により連結固定された第2ドラム部材46の外周側にスプライン嵌合される。第2クラッチ234/Cの3枚の摩擦相手板64及びリテーニングプレート65は、第1ドラム部材41の内周側にスプライン嵌合される。第2クラッチ234/Cの第2クラッチピストン47は、第2クラッチ234/Cの後方側であって、第1ドラム部材41に形成したピストンシリンダに配置される。第1ドラム部材41と第2クラッチピストン47の間には、第2クラッチリターンスプリング48が介装される。つまり、第1ドラム部材41は、内周側に第2クラッチ234/Cが配置されるとともに、外周側に第5ブレーキR/Bが配置される兼用ドラム部材である。
【0040】
前記第1クラッチ13R/Cは、図5に示すように、第2クラッチ234/Cより径方向内側位置であって、かつ、第2クラッチ234/Cとは少なくとも一部が径方向に重なる位置に配置される。第1クラッチ13R/Cの3枚の摩擦板66は、第1ドラム部材41の内周側を通ってフロントサンギア軸FSを介してフロントサンギアSsに連結する第1ハブ部材49の外周側にスプライン嵌合される。第1クラッチ13R/Cの3枚の摩擦相手板67及びリテーニングプレート68は、入力軸INにスプライン結合により連結固定された第2ドラム部材46の内周側にスプライン嵌合される。第1クラッチ13R/Cの第1クラッチピストン50は、第1クラッチ13R/Cの前方側であって、第2ドラム部材46に形成したピストンシリンダに配置される。第2ドラム部材46と第1クラッチピストン50の間には、第1クラッチリターンスプリング51が介装される。つまり、第2ドラム部材46は、内周側に第1クラッチ13R/Cが配置されるとともに、外周側に第2クラッチ234/Cが配置される兼用ドラム部材である。
【0041】
上記のように、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域に配置された3つの摩擦締結要素は、次のような関係に設定している。第1クラッチ13R/Cの摩擦板66及び摩擦相手板67の外径を、第2クラッチ234/Cの摩擦板63及び摩擦相手板64の内径より小さくしている。第2クラッチ234/Cの摩擦板63及び摩擦相手板64の外径を、第5ブレーキR/Bの摩擦板60及び摩擦相手板61の内径より小さくしている。そして、第1クラッチ13R/Cの摩擦板66、第2クラッチ234/Cの摩擦板63、第5ブレーキR/Bの摩擦板60、を同じ枚数である3枚に設定している。同様に、第1クラッチ13R/Cの摩擦相手板67、第2クラッチ234/Cの摩擦相手板64、第5ブレーキR/Bの摩擦相手板61、を同じ枚数である3枚に設定している。
【0042】
なお、本明細書において、「摩擦板」とは、ドラム部材又はハブ部材の外周に設けられたスプラインと嵌合するクラッチ用プレート又はブレーキ用プレートをいう。この「摩擦板」は、両面に摩擦材が貼り付けられていても、片面にのみ摩擦材が貼り付けられていてもよい。また、「摩擦相手板」とは、ドラム部材又はハブ部材の内周に設けられたスプラインと嵌合するクラッチ用プレート又はブレーキ用プレートをいう。この「摩擦相手板」は、摩擦材が貼り付けられていなくても良いし、摩擦材が貼り付けられていても良い。
【0043】
[第5ブレーキの周辺構成]
図6は、実施例1のブレーキ機構である第5ブレーキR/Bの周辺構成を示す。以下、図6に基づいて、第5ブレーキR/Bの周辺構成を詳しく説明する。
【0044】
前記第5ブレーキR/Bは、共通キャリアC(回転要素)を自動変速機ケースATCに係止可能なブレーキ機構であって、図6に示すように、第1ドラム部材41(第1連結部材)と、第5ブレーキ用ドラム42(第2連結部材)と、中間壁21(ストッパ部材)と、第5ブレーキピストン43(ピストン部材)と、第5ブレーキリターンスプリング45(弾性部材)と、を備える。
【0045】
前記第1ドラム部材41は、円筒状連結プレート40を介して共通キャリアCのフロントキャリアプレート27に連結される。この第1ドラム部材41の外周に設けられたスプラインには、3枚の摩擦板60が相対回転不能にスプライン嵌合される。
【0046】
前記第5ブレーキ用ドラム42は、共通キャリアCを収容する自動変速機ケースATC(ケース)に連結された中間壁21に設けられたスプライン21cに対し相対回転不能にスプライン嵌合することで設けられる。この第5ブレーキ用ドラム42の内周に設けられたスプラインには、3枚の摩擦相手板61及び1枚のリテーニングプレート65が相対回転不能にスプライン嵌合される。さらに、第5ブレーキ用ドラム42には、摩擦板60及び摩擦相手板61よりも後方側にスナップリング69が設けられるとともに、摩擦板60及び摩擦相手板61よりも前方側にスナップリング70が設けられている。このスナップリング70は、第5ブレーキピストン43を戻すための第5ブレーキリターンスプリング45の反力を受ける。
【0047】
前記中間壁21は、第5ブレーキ用ドラム42の後方側を内側に折り曲げたドラム底部42aを、壁部21aのドラム当接面21dに当接させることで、第5ブレーキ用ドラム42の一方側(矢印E方向側)への移動を規制する。なお、中間壁21は、自動変速機ケースATCに連結固定されたケース側部材であり、径方向に伸びる壁部21aを有する。
【0048】
前記第5ブレーキピストン43は、自動変速機ケースATCに固定した隔壁44に形成した環状溝によるピストンシリンダに配置される。そして、交互に配置された摩擦板60と摩擦相手板61のうち、他方側(矢印F方向側)の摩擦相手板61を一方側(矢印E方向側)へ押圧可能に設けられる。この第5ブレーキピストン43には、スプリング支持板71が設けられ、このスプリング支持板71は、スナップリング70と同様に、第5ブレーキピストン43を戻すための第5ブレーキリターンスプリング45の反力を受ける。
【0049】
前記第5ブレーキリターンスプリング45は、第5ブレーキ用ドラム42に設けられたスナップリング70と、第5ブレーキピストン43に設けられたスプリング支持板71と、の間に配置される。つまり、第5ブレーキリターンスプリング45は、第5ブレーキ用ドラム42に対して一方側(矢印E方向側)への付勢力を発生し、第5ブレーキピストン43に対して一方側の逆方向である他方側(矢印F方向側)への付勢力を発生する配置としている。
【0050】
次に、作用を説明する。
実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における「各変速段での変速作用」を説明する。続いて、実施例1のブレーキ機構における作用を、「第5ブレーキ用ドラムの必要性」、「第5ブレーキのドラム保持作用」に分けて説明する。
【0051】
[各変速段での変速作用]
実施例1のラビニオ式遊星歯車PGUは、速度線図上で回転速度関係が直線上に並ぶ4つの回転要素として、フロントサンギアSsとリアサンギアSdとリングギアRと共通キャリアCを備えている。以下、図7〜図11に基づいて、4つの回転要素の回転速度関係を異ならせることにより得られる各変速段での変速作用を説明する。
【0052】
(第1速の変速段)
第1速(1st)の変速段では、図7(a)のハッチングに示すように、第1クラッチ13R/Cと第3ブレーキ12/Bが同時締結され、第3ブレーキ12/Bの締結によりリアサンギアSdが自動変速機ケースATCに固定される。
したがって、入力軸INを経過してフロントサンギアSsに入力回転数が入力されると、図7(b)に示すように、リアサンギアSdの固定により、フロントサンギアSsと共通キャリアCとリングギアRとリアサンギアSdの回転速度関係が一つの直線により規定される。つまり、共通キャリアCの回転数がフロントサンギアSsより減速され、リングギアRの回転数が共通キャリアCよりさらに減速される。このように、フロントサンギアSsへの入力回転数を減速したリングギアRの回転数が出力ギアOUTにそのまま伝達され、第1速の変速段(ファーストアンダードライブ変速段)が達成される。
【0053】
(第2速の変速段)
第2速(2nd)の変速段では、図8(a)のハッチングに示すように、第2クラッチ234/Cと第3ブレーキ12/Bが同時締結され、第3ブレーキ12/Bの締結によりリアサンギアSdが自動変速機ケースATCに固定される。
したがって、入力軸INを経過して共通キャリアCに入力回転数が入力されると、図8(b)に示すように、リアサンギアSdの固定により、共通キャリアCとリングギアRとリアサンギアSdの回転速度関係が一つの直線により規定される。つまり、リングギアRの回転数が共通キャリアCより減速される。このように、共通キャリアCへの入力回転数を減速したリングギアRの回転数が出力ギアOUTにそのまま伝達され、第2速の変速段(セカンドアンダードライブ変速段)が達成される。
【0054】
(第3速の変速段)
第3速(3rd)の変速段では、図9(a)のハッチングに示すように、第1クラッチ13R/Cと第2クラッチ234/Cが同時締結される。
したがって、入力軸INを経過してフロントサンギアSsと共通キャリアCに入力回転数が入力されると、図9(b)に示すように、ラビニオ式遊星歯車PGU2の三つの回転要素であるフロントサンギアSsと共通キャリアCとリングギアRが一体となって回転する。このように、フロントサンギアSsと共通キャリアCへの入力回転数と同じリングギアRの回転数(=入力回転数)が出力ギアOUTにそのまま伝達され、第3速の変速段(ダイレクトドライブ変速段)が達成される。
【0055】
(第4速の変速段)
第4速(4th)の変速段では、図10(a)のハッチングに示すように、第2クラッチ234/Cと第4ブレーキ4/Bが同時締結され、第4ブレーキ4/Bの締結によりフロントサンギアSsが自動変速機ケースATCに固定される。
したがって、入力軸INを経過して共通キャリアCに入力回転数が入力されると、図10(b)に示すように、フロントサンギアSsの固定により、フロントサンギアSsと共通キャリアCとリングギアRの回転速度関係が一つの直線により規定される。つまり、リングギアRの回転数が共通キャリアCの回転数(=入力回転数)より増速される。このように、共通キャリアCへの入力回転数を増速したリングギアRの回転数が出力ギアOUTにそのまま伝達され、第4速の変速段(オーバードライブ変速段)が達成される。
【0056】
(後退速の変速段)
後退速(Rev)の変速段では、図11(a)のハッチングに示すように、第1クラッチ13R/Cと第5ブレーキR/Bが同時締結され、第5ブレーキR/Bの締結により共通キャリアCが自動変速機ケースATCに固定される。
したがって、入力軸INを経過してフロントサンギアSsに入力回転数が入力されると、図11(b)に示すように、共通キャリアCの固定により、フロントサンギアSsと共通キャリアCとリングギアRの回転速度関係が一つの直線により規定される。つまり、リングギアRの回転が、フロントサンギアSsの入力回転方向と逆回転方向で、かつ、減速される。このように、フロントサンギアSsへの入力回転数を逆転減速したリングギアRの回転数が出力ギアOUTにそのまま伝達され、後退速の変速段(リバース変速段)が達成される。
【0057】
[第5ブレーキ用ドラムの必要性]
実施例1では、第5ブレーキR/Bに本発明のブレーキ機構を採用しているが、“そもそも第5ブレーキ用ドラム42がなぜ必要なのか”という、第5ブレーキ用ドラム42の必要性について説明する。
【0058】
まず、第5ブレーキの摩擦相手板を自動変速機ケースで保持しようとしても、第5ブレーキの全周にわたってケース側にスプラインを形成できるとは限らない。したがって、摩擦相手板の一部のスプラインは、自動変速機ケースとスプライン嵌合することができない場合がある。この場合、第5ブレーキの係合時における摩擦相手板の保持が不十分となり大きなトルクを伝達できない可能性がある。
また、第5ブレーキの摩擦相手板を自動変速機ケースで保持しようとすると、第5ブレーキの外径が不要に大きくなり、そのためにハブ等の部材も大きくなり、重量が増加し、コストアップしてしまう。
【0059】
これに対し、第5ブレーキ用ドラム42を設けることによって、第5ブレーキR/Bの摩擦相手板61と噛み合うスプラインを、第5ブレーキ用ドラム42の全周にわたって形成することができる。つまり、自動変速機ケースにより第5ブレーキの摩擦相手板を保持する場合に比べ、第5ブレーキR/Bの係合時における摩擦相手板61の保持を十分に確保することができる。加えて、自動変速機ケースにより第5ブレーキの摩擦相手板を保持する場合に比べ、第5ブレーキR/Bの外径が小さく抑えられることで、重量増加・コストアップを抑制することができる。
【0060】
上記のように、第5ブレーキR/Bで第5ブレーキ用ドラム42を設ける理由は、下記の2点にある。
(1) 第5ブレーキR/Bの摩擦相手板61を、自動変速機ケースATCで保持しようとしても、第5ブレーキR/Bの全周にわたって自動変速機ケースATCにスプラインを形成できるとは限らない。つまり、摩擦相手板61は、全周で自動変速機ケースATCとスプライン嵌合することができない場合があり、この場合、第5ブレーキR/Bの係合時の摩擦相手板61の保持が不十分となり、大きなトルクを伝達できない可能性がある。
(2) 仮に自動変速機ケースATC側に設けることが可能なスプラインだけで必要なトルクを伝達できた場合であっても、自動変速機ケースATCに摩擦相手板61をスプライン嵌合させようとすると第5ブレーキR/Bの外径が不要に大きくなる。そのため、第1ドラム部材41等の部材も大きくなり、重量が増加し、コストアップしてしまう。
【0061】
ここで、第5ブレーキR/Bのトルク分担比について説明する。
実施例1のスケルトンで各変速段における各摩擦締結要素のトルク分担比は、図12に示す表のとおりである。なお、図12において、
αfは、フロント側(シングルピニオン側)の歯数比(αf=Zss/Zr)である。
ただし、Zss:フロントサンギアSsの歯数、Zr:リングギアRの歯数
αrは、リア側(ダブルピニオン側)の歯数比(αr=Zsd/Zr)である。
ただし、Zsd:リアサンギアSdの歯数、Zr:リングギアR歯数
通常、サンギアの歯数<リングギアの歯数であるため歯数比αf・αrは1より小さい値となるため、各クラッチの最大トルク分担比は、下記のとおりとなる。
第5ブレーキR/Bの最大トルク分担比:(1+αf)/αf
第2クラッチ234/Cの最大トルク分担比:αf+1
第1クラッチ13R/Cの最大トルク分担比:1
第3ブレーキ12/Bの最大トルク分担比:(αr(1+αf))/(αf(1-αr))
第4ブレーキ4/Bの最大トルク分担比:αf/(1+αf)
上記トルク分担比から明らかなとおり、出力ギアOUTの前方側に配置される3個の摩擦締結要素について、第5ブレーキR/Bの最大トルク分担比>第2クラッチ234/Cの最大トルク分担比>第1クラッチ13R/Cの最大トルク分担比、の関係が成立する。
このように、第5ブレーキR/Bの最大トルク分担比が、第2クラッチ234/Cや第1クラッチ13R/Cの最大トルク分担比より大きいため、第5ブレーキR/Bの係合時の摩擦相手板61の保持が不十分であると、大きなトルクを伝達できない。
【0062】
[第5ブレーキのドラム保持作用]
上記のように、高トルクを受ける第5ブレーキR/Bにおいて、摩擦相手板61を保持するために第5ブレーキ用ドラム42を用いた場合、第5ブレーキ用ドラム42のケース固定性を確保する必要がある。以下、図6に基づいて、第5ブレーキR/Bのドラム保持作用を説明する。
【0063】
まず、実施例1では、共通キャリアCが係止されるケース側部材である第5ブレーキ用ドラム42をケース固定部材である中間壁21に設けられたスプライン21cに対し相対回転不能にスプライン嵌合させる。このため、第5ブレーキ用ドラム42を固定するボルト等の締結部品を要さない。
【0064】
しかし、第5ブレーキ用ドラム42を中間壁21に設けられたスプライン21cに対し相対回転不能にスプライン嵌合させただけでは、第5ブレーキ用ドラム42と中間壁21とのスプライン嵌合に抜けが生じる可能性がある。このようなスプライン嵌合の抜けが生じると、第5ブレーキピストン43が押圧していない状態であっても摩擦板60と摩擦相手板61とに引き摺りが生じてしまう。
【0065】
これに対し、実施例1では、第5ブレーキ用ドラム42と第5ブレーキピストン43との間に第5ブレーキリターンスプリング45を配置した。そして、第5ブレーキリターンスプリング45の付勢力を、図6に示すように、第5ブレーキ用ドラム42を中間壁21に押し付ける一方側(矢印E方向側)と、第5ブレーキピストン43を元の位置に戻す他方側(矢印F方向側)と、の両方に作用させる構成を採用している。
【0066】
すなわち、摩擦板60と摩擦相手板61の押圧を解除する位置まで第5ブレーキピストン43を戻す第5ブレーキリターンスプリング45を、中間壁21にスプライン嵌合された第5ブレーキ用ドラム42の抜けを防止する抜け防止部材として兼用している。このため、中間壁21にスプライン嵌合された第5ブレーキ用ドラム42の抜けを防止するための追加部品が不要である。
【0067】
このように、(a) ボルト等の締結部品を要さない。(b) 第5ブレーキ用ドラム42の抜け防止のための作用力を、既存の第5ブレーキリターンスプリング45により得ることで、抜け防止のための追加部品が不要である。これら(a),(b)の2つの理由により、部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板61をスプライン嵌合する第5ブレーキ用ドラム4のケース固定が確保される。
【0068】
第5ブレーキ用ドラム42は、図6に示すように、中間壁21にスプライン嵌合して設けられ、後方側のドラム底部42aが中間壁21のドラム当接面21dに当接している。そして、第5ブレーキ用ドラム42には、摩擦板60及び摩擦相手板61よりも前方側にスナップリング70が設けられている。このスナップリング70は、第5ブレーキピストン43を戻すためのリターンスプリング45の反力を受ける。
【0069】
したがって、第5ブレーキR/Bの締結時には、摩擦板60と摩擦相手板61が第5ブレーキピストン43から押圧されることにより、摩擦板60と摩擦相手板61との間で動力が伝達する。この第5ブレーキピストン43に油圧が作用し、第5ブレーキピストン43が図6の矢印E方向側に移動する際に、リターンスプリング45及びスナップリング70を介して、第5ブレーキ用ドラム42には図6の矢印E方向側への付勢力が働く。この付勢力により、第5ブレーキ用ドラム42のドラム底部42aが、中間壁21のドラム当接面21dに押し付けられ、第5ブレーキ用ドラム42の抜けが確実に防止される。
【0070】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ機構にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0071】
(1) 回転要素(共通キャリアC)を係止可能なブレーキ機構(第5ブレーキR/B)であって、
前記回転要素(共通キャリアC)に連結され、摩擦板60が相対回転不能にスプライン嵌合される第1連結部材(第1ドラム部材41)と、
前記回転要素(共通キャリアC)を収容するケース(自動変速機ケースATC)に相対回転不能にスプライン嵌合し、摩擦相手板61が相対回転不能にスプライン嵌合される第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)と、
前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の一方側への移動を規制するストッパ部材(中間壁21)と、
前記摩擦相手板61を前記一方側へ押圧可能に設けられるピストン部材(第5ブレーキピストン43)と、
前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)とピストン部材(第5ブレーキピストン43)との間に配置され、前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)に対して前記一方側への付勢力を発生し、前記ピストン部材(第5ブレーキピストン43)に対して前記一方側の逆方向である他方側への付勢力を発生する弾性部材(第5ブレーキリターンスプリング45)と、
を備える。
このため、部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板61がスプライン嵌合される第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)のケース固定を確保することができる。
【0072】
(2) 前記ブレーキ機構(第5ブレーキR/B)は、自動変速機の回転要素(共通キャリアC)を係止可能なブレーキ機構であって、
前記ケース(自動変速機ケースATC)に連結され、径方向に伸びる壁部21aと、該壁部21aから軸方向の前記一方側に伸びる円筒部21bと、からなり、該円筒部21bで出力部材(出力ギアOUT)を支持する中間壁21と、を備え、
前記ストッパ部材は、前記中間壁21で構成され、前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の前記一方側の端部を前記中間壁21に当接させることで、前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の一方側への移動を規制する。
このため、上記(1)の効果に加え、第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の端部を、弾性部材(第5ブレーキリターンスプリング45)の付勢力により中間壁21に押し付けることで、第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の抜けを確実に防止することができる。
【0073】
以上、本発明のブレーキ機構を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0074】
実施例1では、第5ブレーキ用ドラム42(第2連結部材)の内周側に第1ドラム部材44(第1連結部材)を配置する例を示した。しかし、第1連結部材の内周側に第2連結部材を設け、前記第1連結部材に連結する回転要素を係止するものであってもよい。
【0075】
実施例1では、中間壁21に第5ブレーキ用ドラム42(第2連結部材)を当接させることで、第5ブレーキ用ドラム42(第2連結部材)の一方側への移動を規制する例を示した。しかし、中間壁等のケース側部材のスプラインにスナップリングを嵌め込み、このスナップリングによって第2連結部材の一方側への移動を規制するようにしてもよい。
【0076】
実施例1では、自動変速機の摩擦締結要素の一つである第5ブレーキR/Bのブレーキ機構について示した。しかし、自動変速機に適用されるブレーキ機構以外であっても、摩擦板・摩擦相手板をピストンで押圧して締結することによって回転要素を係止するブレーキ機構であれば適用可能である。
【0077】
実施例1では、全周にわたってスプラインを形成した第5ブレーキ用ドラム42を示した。しかし、全周にスプラインを形成しなくても第5ブレーキR/Bの係合時における摩擦相手板の保持を十分確保できればよい。
【符号の説明】
【0078】
PGU ラビニオ式遊星歯車
Ss フロントサンギア
Sd リアサンギア
R リングギア
PL ロングピニオン
PS ショートピニオン
C 共通キャリア(回転要素)
IN 入力軸
OUT 出力ギア(出力部材)
ATC 自動変速機ケース(ケース)
13R/C 第1クラッチ
234/C 第2クラッチ
12/B 第3ブレーキ
4/B 第4ブレーキ
R/B 第5ブレーキ(ブレーキ機構)
21 中間壁(ストッパ部材)
21a 壁部
21b 円筒部
21c スプライン
21d ドラム当接面
27 フロントキャリアプレート
40 円筒状連結プレート
41 第1ドラム部材(第1連結部材)
42 第5ブレーキ用ドラム(第2連結部材)
42a ドラム底部
43 第5ブレーキピストン(ピストン部材)
44 隔壁
45 第5ブレーキリターンスプリング(弾性部材)
60 第5ブレーキR/Bの摩擦板
61 第5ブレーキR/Bの摩擦相手板
70 スナップリング
71 スプリング支持板
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機等に適用され、摩擦板と摩擦相手板をピストン部材により押圧することで回転要素をケースに係止可能なブレーキ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第3ブレーキB3が配設されるブレーキハウジング40を、第1ブレーキB1が配設されるケース26と別体に構成するとともに、第3ブレーキB3の第1嵌合部42の先端を、第1ブレーキB1の第2嵌合部70の先端に僅かな隙間を隔てて対向させ、その第1ブレーキB1の摩擦板74と摩擦相手板72を第2ピストン78との間で挟圧する第2ストッパ部材として機能させるようにしたタンデム型摩擦係合装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−278562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示されたブレーキ機構にあっては、摩擦相手板44がスプライン嵌合されるブレーキハウジング40が、ボルト39によって第2ケース部材36に固定されているため、ブレーキハウジング40のケース固定を確保するのに部品点数が増加する、という課題があった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板がスプライン嵌合される第2連結部材のケース固定を確保することができるブレーキ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明は、回転要素を係止可能なブレーキ機構であって、第1連結部材と、第2連結部材と、ストッパ部材と、ピストン部材と、弾性部材と、を備える。
前記第1連結部材は、前記回転要素に連結され、摩擦板が相対回転不能にスプライン嵌合される。
前記第2連結部材は、前記回転要素を収容するケースに相対回転不能にスプライン嵌合し、摩擦相手板が相対回転不能にスプライン嵌合される。
前記ストッパ部材は、前記第2連結部材の一方側への移動を規制する。
前記ピストン部材は、前記摩擦相手板を前記一方側へ押圧可能に設けられる。
前記弾性部材は、前記第2連結部材とピストン部材との間に配置され、前記第2連結部材に対して前記一方側への付勢力を発生し、前記ピストン部材に対して前記一方側の逆方向である他方側への付勢力を発生する。
【発明の効果】
【0007】
上記のように、回転要素を係止する第2連結部材をケースにスプライン嵌合させるため、第2連結部材を固定するボルト等の締結部品を要さない。
しかし、第2連結部材をケースにスプライン嵌合させただけでは、第2連結部材とケースとのスプライン嵌合に抜けが生じる可能性がある。このようなスプライン嵌合の抜けが生じると、ピストンが押圧していない状態であっても摩擦板と摩擦相手板とに引き摺りが生じてしまう。
これに対し、本発明は、第2連結部材とピストン部材との間に弾性部材を配置し、弾性部材の付勢力を、第2連結部材をケースに押し付ける一方側と、ピストン部材を元の位置に戻す他方側と、の両方に作用させる構成を採用している。すなわち、摩擦板と摩擦相手板の押圧を解除する位置までピストン部材を戻す弾性部材を、ケースにスプライン嵌合された第2連結部材の抜けを防止する抜け防止部材として兼用している。このため、ケースにスプライン嵌合された第2連結部材の抜けを防止するための追加部品が不要である。
この結果、部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板がスプライン嵌合される第2連結部材のケース固定を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機の全体構成を示す縦断面図である。
【図2】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機を示すスケルトン図である。
【図3】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機において5つの摩擦締結要素のうち二つの同時締結の組み合わせにより前進4速及び後退1速の締結作動を示す締結作動表図である。
【図4】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機において出力ギアより駆動源から遠い後方側を示す詳細断面図である。
【図5】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機において出力ギアより駆動源に近い前方側を示す詳細断面図である。
【図6】実施例1のブレーキ機構である第5ブレーキの周辺構成を示す拡大断面図である。
【図7】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における第1速(1st)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図8】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における第2速(2nd)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図9】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における第3速(3rd)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図10】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における第4速(4th)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図11】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における後退速(Rev)の変速段でのスケルトン図(a)と速度線図(b)を示す変速作用説明図である。
【図12】実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機において各変速段における各摩擦締結要素のトルク分担比を示すトルク分担比表図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のブレーキ機構を実現する最良の形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
まず、構成を説明する。
実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機の構成を、「全体構成」、「変速構成」、「後方側配置の摩擦締結要素構成」、「前方側配置の摩擦締結要素構成」、「第5ブレーキの周辺構成」に分けて説明する。
【0011】
[全体構成]
図1は、実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機の全体構成を示す縦断面図であり、図2は、実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機を示すスケルトン図である。以下、図1及び図2に基づいて、自動変速機の遊星歯車構成と摩擦締結要素構成を説明する。
【0012】
実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機は、図1及び図2に示すように、ラビニオ式遊星歯車PGUと、入力軸INと、出力ギアOUTと、第1クラッチ13R/Cと、第2クラッチ234/Cと、第3ブレーキ12/Bと、第4ブレーキ4/Bと、第5ブレーキR/Bと、自動変速機ケースATCと、を備えている。
【0013】
前記ラビニオ式遊星歯車PGUは、2列の遊星歯車であるシングルピニオン式遊星歯車とダブルピニオン式遊星歯車を一体化した複合型遊星歯車である。このラビニオ式遊星歯車PGUは、図1及び図2に示すように、フロントサンギアSsと、リアサンギアSdと、リングギアRと、フロントサンギアSsとリングギアRに噛み合うロングピニオンPLと、リアサンギアSdとロングピニオンPLに噛み合うショートピニオンPSと、ロングピニオンPLとショートピニオンPSを回転可能に支持する共通キャリアCと、を有する。
【0014】
前記入力軸INは、図外のエンジン(駆動源)からの回転駆動トルクが、図1に示すように、ロックアップクラッチ付きトルクコンバータT/Cを介して入力される軸である。この入力軸INに対し同軸配置によりフロントサンギア軸FSが設けられ、このフロントサンギア軸FSに、ラビニオ式遊星歯車PGUのフロントサンギアSsがスプライン嵌合されている。
【0015】
前記出力ギアOUTは、図1に示すように、リングギアRに常時連結する。この出力ギアOUTの出力回転は、カウンターギア1→カウンターシャフト2→終減速ギア3→ドライブギア4→デファレンシャルギアケース5へと伝達される。そして、デファレンシャルギアケース5に伝達された出力回転は、デファレンシャルギアケース5と一体に回転するピニオンメートシャフト6→ピニオン7,7を経過し、ピニオン7,7に噛み合う一対のサイドギア8,9から図外の左右のドライブシャフト及び左右の駆動輪へ伝達される。
【0016】
前記第1クラッチ13R/Cは、第1速(1st)と第3速(3rd)と後退速(Rev)において入力軸INとフロントサンギアSs(=フロントサンギア軸FS)を選択的に連結する多板摩擦締結クラッチである。
【0017】
前記第2クラッチ234/Cは、第2速(2nd)と第3速(3rd)と第4速(4th)において入力軸INと共通キャリアCを選択的に連結する多板摩擦締結クラッチである。
【0018】
前記第3ブレーキ12/Bは、第1速(1st)と第2速(2nd)においてリアサンギアSdを選択的に自動変速機ケースATCに固定する多板摩擦締結ブレーキである。
【0019】
前記第4ブレーキ4/Bは、第4速(4th)においてフロントサンギアSs(=フロントサンギア軸FS)を選択的に自動変速機ケースATCに固定する多板摩擦締結ブレーキである。
【0020】
前記第5ブレーキR/Bは、後退速(Rev)において共通キャリアCを選択的に自動変速機ケースATCに固定する多板摩擦締結ブレーキである。
【0021】
前記自動変速機ケースATCは、図1に示すように、ケース内部空間にラビニオ式遊星歯車PGUと5つの摩擦締結要素13R/C,234/C,12/B,4/B,R/B等を収納している。この自動変速機ケースATCの駆動源側には、コンバータハウジング10が連結され、コンバータハウジング10内にトルクコンバータT/Cが配置される。また、自動変速機ケースATCとコンバータハウジング10の連結部には、エンジン(駆動源)により回転駆動されるオイルポンプO/Pが配置されている。
【0022】
[変速構成]
図3は、実施例1のブレーキ機構において5つの摩擦締結要素のうち二つの同時締結の組み合わせにより前進4速及び後退1速を達成する締結作動表を示す。以下、図3に基づいて、実施例1のブレーキ機構の各変速段を成立させる変速構成を説明する。
【0023】
第1速(1st)の変速段は、図3に示すように、第1クラッチ13R/Cと第3ブレーキ12/Bの同時締結により、入力軸INとフロントサンギアSsを連結し、リアサンギアSdをケース固定することで達成する。
【0024】
第2速(2nd)の変速段は、図3に示すように、第2クラッチ234/Cと第3ブレーキ12/Bの同時締結により、入力軸INと共通キャリアCを連結し、リアサンギアSdをケース固定することで達成する。
【0025】
第3速(3rd)の変速段は、図3に示すように、第1クラッチ13R/Cと第2クラッチ234/Cの同時締結により、入力軸INとフロントサンギアSsと共通キャリアCを互いに連結することで達成する。
【0026】
第4速(4th)の変速段は、図3に示すように、第2クラッチ234/Cと第4ブレーキ4/Bの同時締結により、入力軸INと共通キャリアCを連結し、フロントサンギアSsをケース固定することで達成する。
【0027】
後退速(Rev)の変速段は、図3に示すように、第1クラッチ13R/Cと第5ブレーキR/Bの同時締結により、入力軸INとフロントサンギアSsを連結し、共通キャリアCをケース固定することで達成する。
【0028】
そして、図3の締結作動表から明らかなように、第1速(1st)から第4速(4th)までの隣接変速段でのアップ変速及びダウン変速は、所謂、2つの摩擦締結要素の掛け替え変速により行われる。ここで、掛け替え変速とは、変速前の変速段において同時締結されている2つの摩擦締結要素のうち、1つの摩擦締結要素を締結状態のまま維持し、他の1つの摩擦締結要素を解放し、新たに1つの摩擦締結要素を締結して変速後の変速段に移行することをいう。例えば、第1速(1st)から第2速(2nd)へのアップ変速は、第3ブレーキ12/Bを締結状態のまま維持し、第1クラッチ13R/Cを解放し、第2クラッチ234/Cを締結することで行われる。
【0029】
[後方側配置の摩擦締結要素構成]
5つの摩擦締結要素は、図1及び図2に示すように、出力ギアOUTを境とし、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域と、出力ギアOUTより駆動源から遠い後方側の領域に分けて配置している。以下、図4に基づいて、出力ギアOUTより駆動源から遠い後方側の領域に配置された摩擦締結要素の構成を説明する。
【0030】
前記出力ギアOUTより駆動源から遠い後方側の領域には、図4に示すように、自動変速機ケースATCの内部空間に、ラビニオ式遊星歯車PGUと第3ブレーキ12/Bと第4ブレーキ4/Bの2つの摩擦締結要素を配置している。
【0031】
前記出力ギアOUTは、中間壁21の円筒部21bにベアリング22を介して支持されている。中間壁21は、出力ギアOUTの前方側に配置されるとともに、自動変速機ケースATCに連結され、径方向に伸びる壁部21aと、該壁部21aから軸方向の前記後方側に伸びる円筒部21bと、からなる。なお、出力ギアOUTは、後方側がリングギアRに常時連結され、前方側がパーキングギア23に常時連結される。このパーキングギア23には、パーキングポール24が噛み合い可能に配置される。
【0032】
前記ラビニオ式遊星歯車PGUは、出力ギアOUTの後方側に隣接した位置であって、フロントサンギア軸FSの外周位置に配置される。ラビニオ式遊星歯車PGUの外径寸法は、リングギアRの外径により規定され、ラビニオ式遊星歯車PGUの軸方向寸法は、共通キャリアCの軸方向長さにより規定される。フロントサンギア軸FSの外周位置には、フロントサンギアSsがスプライン結合され、リアサンギアSdが回転可能に支持される。共通キャリアCは、ロングピニオンPLを支持するロングピニオン軸25と、ショートピニオンPSを支持するショートピニオン軸26(図1参照)と、両ピニオン軸25,26を両端位置にて支持するフロントキャリアプレート27及びリアキャリアプレート28と、により構成される。
【0033】
前記第3ブレーキ12/Bは、ラビニオ式遊星歯車PGUより径方向外周位置であって、ラビニオ式遊星歯車PGUと径方向に重なる位置に配置される。第3ブレーキ12/Bの4枚の摩擦板36は、共通キャリアCの後方側を通ってリアサンギアSdにスプライン結合された第2ハブ部材29の外周側にスプライン嵌合される。第3ブレーキ12/Bの4枚の摩擦相手板37は、自動変速機ケースATCにスプライン嵌合される。第3ブレーキ12/Bの第3ブレーキピストン30は、交互に配置された摩擦板36と摩擦相手板37による第3ブレーキ12/Bの後方側であって、自動変速機ケースATCと、その内側の軸方向突出ケース部31と、により形成した大円環溝のピストンシリンダに配置される。自動変速機ケースATCと第3ブレーキピストン30の間には、第3ブレーキリターンスプリング32が介装される。
【0034】
前記第4ブレーキ4/Bは、第3ブレーキ12/Bの径方向内側位置であって、第3ブレーキピストン30と径方向に重なる位置に配置される。第4ブレーキ4/Bの2枚の摩擦板38は、第2ハブ部材29の後方側及びリアサンギアSdの内周側を通るフロントサンギア軸FSにスプライン結合された第3ハブ部材33の外周側にスプライン嵌合される。第4ブレーキ4/Bの2枚の摩擦相手板39は、軸方向突出ケース部31にスプライン嵌合される。第4ブレーキ4/Bの第4ブレーキピストン34は、第4ブレーキ4/Bの後方側であって、自動変速機ケースATCにより形成した小円環溝のピストンシリンダに配置される。自動変速機ケースATCと第4ブレーキピストン34の間には、第4ブレーキリターンスプリング35が介装される。
【0035】
前記自動変速機ケースATCは、上記のように、出力ギアOUTとラビニオ式遊星歯車PGUと第3ブレーキ12/Bと第4ブレーキ4/Bをレイアウトしたことに対応した形状としている。すなわち、図4に示すように、出力ギアOUTの位置のケース径Dfから第3ブレーキ12/Bの位置へ向かってケース径を徐々に小さく絞り込み、第3ブレーキピストン30と第4ブレーキ4/Bが配置される後端側のケース径Dr(<Df)を小径にする形状設定としている。
【0036】
[前方側配置の摩擦締結要素構成]
5つの摩擦締結要素は、図1及び図2に示すように、出力ギアOUTを境とし、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域と、出力ギアOUTより駆動源から遠い後方側の領域に分けて配置している。以下、図5に基づいて、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域に配置された摩擦締結要素の構成を説明する。
【0037】
前記出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域には、図5に示すように、自動変速機ケースATCの内部空間に、第1クラッチ13R/Cと第2クラッチ234/Cと第5ブレーキR/Bの3つの摩擦締結要素を配置している。これら3つの摩擦締結要素の径方向の配置関係は、径方向外側に第5ブレーキR/Bを配置し、第5ブレーキR/Bより径方向内側に第2クラッチ234/Cを配置し、第2クラッチ234/Cより径方向内側に第1クラッチ13R/Cを配置している。
【0038】
前記第5ブレーキR/Bは、図5に示すように、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域に配置される3つの摩擦締結要素のうち、最外周位置に配置される。第5ブレーキR/Bの3枚の摩擦板60は、共通キャリアCの前方側端部のフロントキャリアプレート27に対し円筒状連結プレート40を介して連結する第1ドラム部材41の外周側にスプライン嵌合される。第5ブレーキR/Bの3枚の摩擦相手板61及びリテーニングプレート62は、中間壁21の壁部21aに固定された第5ブレーキ用ドラム42にスプライン嵌合される。第5ブレーキR/Bの第5ブレーキピストン43は、第5ブレーキR/Bの前方側であって、自動変速機ケースATCに固定した隔壁44に形成した環状溝によるピストンシリンダに配置される。第5ブレーキ用ドラム42と第5ブレーキピストン43の間には、第5ブレーキリターンスプリング45が介装される。
【0039】
前記第2クラッチ234/Cは、図5に示すように、第5ブレーキR/Bより径方向内側位置であって、かつ、第5ブレーキR/Bとは少なくとも一部が径方向に重なる位置に配置される。第2クラッチ234/Cの3枚の摩擦板63は、入力軸INにスプライン結合により連結固定された第2ドラム部材46の外周側にスプライン嵌合される。第2クラッチ234/Cの3枚の摩擦相手板64及びリテーニングプレート65は、第1ドラム部材41の内周側にスプライン嵌合される。第2クラッチ234/Cの第2クラッチピストン47は、第2クラッチ234/Cの後方側であって、第1ドラム部材41に形成したピストンシリンダに配置される。第1ドラム部材41と第2クラッチピストン47の間には、第2クラッチリターンスプリング48が介装される。つまり、第1ドラム部材41は、内周側に第2クラッチ234/Cが配置されるとともに、外周側に第5ブレーキR/Bが配置される兼用ドラム部材である。
【0040】
前記第1クラッチ13R/Cは、図5に示すように、第2クラッチ234/Cより径方向内側位置であって、かつ、第2クラッチ234/Cとは少なくとも一部が径方向に重なる位置に配置される。第1クラッチ13R/Cの3枚の摩擦板66は、第1ドラム部材41の内周側を通ってフロントサンギア軸FSを介してフロントサンギアSsに連結する第1ハブ部材49の外周側にスプライン嵌合される。第1クラッチ13R/Cの3枚の摩擦相手板67及びリテーニングプレート68は、入力軸INにスプライン結合により連結固定された第2ドラム部材46の内周側にスプライン嵌合される。第1クラッチ13R/Cの第1クラッチピストン50は、第1クラッチ13R/Cの前方側であって、第2ドラム部材46に形成したピストンシリンダに配置される。第2ドラム部材46と第1クラッチピストン50の間には、第1クラッチリターンスプリング51が介装される。つまり、第2ドラム部材46は、内周側に第1クラッチ13R/Cが配置されるとともに、外周側に第2クラッチ234/Cが配置される兼用ドラム部材である。
【0041】
上記のように、出力ギアOUTより駆動源に近い前方側の領域に配置された3つの摩擦締結要素は、次のような関係に設定している。第1クラッチ13R/Cの摩擦板66及び摩擦相手板67の外径を、第2クラッチ234/Cの摩擦板63及び摩擦相手板64の内径より小さくしている。第2クラッチ234/Cの摩擦板63及び摩擦相手板64の外径を、第5ブレーキR/Bの摩擦板60及び摩擦相手板61の内径より小さくしている。そして、第1クラッチ13R/Cの摩擦板66、第2クラッチ234/Cの摩擦板63、第5ブレーキR/Bの摩擦板60、を同じ枚数である3枚に設定している。同様に、第1クラッチ13R/Cの摩擦相手板67、第2クラッチ234/Cの摩擦相手板64、第5ブレーキR/Bの摩擦相手板61、を同じ枚数である3枚に設定している。
【0042】
なお、本明細書において、「摩擦板」とは、ドラム部材又はハブ部材の外周に設けられたスプラインと嵌合するクラッチ用プレート又はブレーキ用プレートをいう。この「摩擦板」は、両面に摩擦材が貼り付けられていても、片面にのみ摩擦材が貼り付けられていてもよい。また、「摩擦相手板」とは、ドラム部材又はハブ部材の内周に設けられたスプラインと嵌合するクラッチ用プレート又はブレーキ用プレートをいう。この「摩擦相手板」は、摩擦材が貼り付けられていなくても良いし、摩擦材が貼り付けられていても良い。
【0043】
[第5ブレーキの周辺構成]
図6は、実施例1のブレーキ機構である第5ブレーキR/Bの周辺構成を示す。以下、図6に基づいて、第5ブレーキR/Bの周辺構成を詳しく説明する。
【0044】
前記第5ブレーキR/Bは、共通キャリアC(回転要素)を自動変速機ケースATCに係止可能なブレーキ機構であって、図6に示すように、第1ドラム部材41(第1連結部材)と、第5ブレーキ用ドラム42(第2連結部材)と、中間壁21(ストッパ部材)と、第5ブレーキピストン43(ピストン部材)と、第5ブレーキリターンスプリング45(弾性部材)と、を備える。
【0045】
前記第1ドラム部材41は、円筒状連結プレート40を介して共通キャリアCのフロントキャリアプレート27に連結される。この第1ドラム部材41の外周に設けられたスプラインには、3枚の摩擦板60が相対回転不能にスプライン嵌合される。
【0046】
前記第5ブレーキ用ドラム42は、共通キャリアCを収容する自動変速機ケースATC(ケース)に連結された中間壁21に設けられたスプライン21cに対し相対回転不能にスプライン嵌合することで設けられる。この第5ブレーキ用ドラム42の内周に設けられたスプラインには、3枚の摩擦相手板61及び1枚のリテーニングプレート65が相対回転不能にスプライン嵌合される。さらに、第5ブレーキ用ドラム42には、摩擦板60及び摩擦相手板61よりも後方側にスナップリング69が設けられるとともに、摩擦板60及び摩擦相手板61よりも前方側にスナップリング70が設けられている。このスナップリング70は、第5ブレーキピストン43を戻すための第5ブレーキリターンスプリング45の反力を受ける。
【0047】
前記中間壁21は、第5ブレーキ用ドラム42の後方側を内側に折り曲げたドラム底部42aを、壁部21aのドラム当接面21dに当接させることで、第5ブレーキ用ドラム42の一方側(矢印E方向側)への移動を規制する。なお、中間壁21は、自動変速機ケースATCに連結固定されたケース側部材であり、径方向に伸びる壁部21aを有する。
【0048】
前記第5ブレーキピストン43は、自動変速機ケースATCに固定した隔壁44に形成した環状溝によるピストンシリンダに配置される。そして、交互に配置された摩擦板60と摩擦相手板61のうち、他方側(矢印F方向側)の摩擦相手板61を一方側(矢印E方向側)へ押圧可能に設けられる。この第5ブレーキピストン43には、スプリング支持板71が設けられ、このスプリング支持板71は、スナップリング70と同様に、第5ブレーキピストン43を戻すための第5ブレーキリターンスプリング45の反力を受ける。
【0049】
前記第5ブレーキリターンスプリング45は、第5ブレーキ用ドラム42に設けられたスナップリング70と、第5ブレーキピストン43に設けられたスプリング支持板71と、の間に配置される。つまり、第5ブレーキリターンスプリング45は、第5ブレーキ用ドラム42に対して一方側(矢印E方向側)への付勢力を発生し、第5ブレーキピストン43に対して一方側の逆方向である他方側(矢印F方向側)への付勢力を発生する配置としている。
【0050】
次に、作用を説明する。
実施例1のブレーキ機構が適用された自動変速機における「各変速段での変速作用」を説明する。続いて、実施例1のブレーキ機構における作用を、「第5ブレーキ用ドラムの必要性」、「第5ブレーキのドラム保持作用」に分けて説明する。
【0051】
[各変速段での変速作用]
実施例1のラビニオ式遊星歯車PGUは、速度線図上で回転速度関係が直線上に並ぶ4つの回転要素として、フロントサンギアSsとリアサンギアSdとリングギアRと共通キャリアCを備えている。以下、図7〜図11に基づいて、4つの回転要素の回転速度関係を異ならせることにより得られる各変速段での変速作用を説明する。
【0052】
(第1速の変速段)
第1速(1st)の変速段では、図7(a)のハッチングに示すように、第1クラッチ13R/Cと第3ブレーキ12/Bが同時締結され、第3ブレーキ12/Bの締結によりリアサンギアSdが自動変速機ケースATCに固定される。
したがって、入力軸INを経過してフロントサンギアSsに入力回転数が入力されると、図7(b)に示すように、リアサンギアSdの固定により、フロントサンギアSsと共通キャリアCとリングギアRとリアサンギアSdの回転速度関係が一つの直線により規定される。つまり、共通キャリアCの回転数がフロントサンギアSsより減速され、リングギアRの回転数が共通キャリアCよりさらに減速される。このように、フロントサンギアSsへの入力回転数を減速したリングギアRの回転数が出力ギアOUTにそのまま伝達され、第1速の変速段(ファーストアンダードライブ変速段)が達成される。
【0053】
(第2速の変速段)
第2速(2nd)の変速段では、図8(a)のハッチングに示すように、第2クラッチ234/Cと第3ブレーキ12/Bが同時締結され、第3ブレーキ12/Bの締結によりリアサンギアSdが自動変速機ケースATCに固定される。
したがって、入力軸INを経過して共通キャリアCに入力回転数が入力されると、図8(b)に示すように、リアサンギアSdの固定により、共通キャリアCとリングギアRとリアサンギアSdの回転速度関係が一つの直線により規定される。つまり、リングギアRの回転数が共通キャリアCより減速される。このように、共通キャリアCへの入力回転数を減速したリングギアRの回転数が出力ギアOUTにそのまま伝達され、第2速の変速段(セカンドアンダードライブ変速段)が達成される。
【0054】
(第3速の変速段)
第3速(3rd)の変速段では、図9(a)のハッチングに示すように、第1クラッチ13R/Cと第2クラッチ234/Cが同時締結される。
したがって、入力軸INを経過してフロントサンギアSsと共通キャリアCに入力回転数が入力されると、図9(b)に示すように、ラビニオ式遊星歯車PGU2の三つの回転要素であるフロントサンギアSsと共通キャリアCとリングギアRが一体となって回転する。このように、フロントサンギアSsと共通キャリアCへの入力回転数と同じリングギアRの回転数(=入力回転数)が出力ギアOUTにそのまま伝達され、第3速の変速段(ダイレクトドライブ変速段)が達成される。
【0055】
(第4速の変速段)
第4速(4th)の変速段では、図10(a)のハッチングに示すように、第2クラッチ234/Cと第4ブレーキ4/Bが同時締結され、第4ブレーキ4/Bの締結によりフロントサンギアSsが自動変速機ケースATCに固定される。
したがって、入力軸INを経過して共通キャリアCに入力回転数が入力されると、図10(b)に示すように、フロントサンギアSsの固定により、フロントサンギアSsと共通キャリアCとリングギアRの回転速度関係が一つの直線により規定される。つまり、リングギアRの回転数が共通キャリアCの回転数(=入力回転数)より増速される。このように、共通キャリアCへの入力回転数を増速したリングギアRの回転数が出力ギアOUTにそのまま伝達され、第4速の変速段(オーバードライブ変速段)が達成される。
【0056】
(後退速の変速段)
後退速(Rev)の変速段では、図11(a)のハッチングに示すように、第1クラッチ13R/Cと第5ブレーキR/Bが同時締結され、第5ブレーキR/Bの締結により共通キャリアCが自動変速機ケースATCに固定される。
したがって、入力軸INを経過してフロントサンギアSsに入力回転数が入力されると、図11(b)に示すように、共通キャリアCの固定により、フロントサンギアSsと共通キャリアCとリングギアRの回転速度関係が一つの直線により規定される。つまり、リングギアRの回転が、フロントサンギアSsの入力回転方向と逆回転方向で、かつ、減速される。このように、フロントサンギアSsへの入力回転数を逆転減速したリングギアRの回転数が出力ギアOUTにそのまま伝達され、後退速の変速段(リバース変速段)が達成される。
【0057】
[第5ブレーキ用ドラムの必要性]
実施例1では、第5ブレーキR/Bに本発明のブレーキ機構を採用しているが、“そもそも第5ブレーキ用ドラム42がなぜ必要なのか”という、第5ブレーキ用ドラム42の必要性について説明する。
【0058】
まず、第5ブレーキの摩擦相手板を自動変速機ケースで保持しようとしても、第5ブレーキの全周にわたってケース側にスプラインを形成できるとは限らない。したがって、摩擦相手板の一部のスプラインは、自動変速機ケースとスプライン嵌合することができない場合がある。この場合、第5ブレーキの係合時における摩擦相手板の保持が不十分となり大きなトルクを伝達できない可能性がある。
また、第5ブレーキの摩擦相手板を自動変速機ケースで保持しようとすると、第5ブレーキの外径が不要に大きくなり、そのためにハブ等の部材も大きくなり、重量が増加し、コストアップしてしまう。
【0059】
これに対し、第5ブレーキ用ドラム42を設けることによって、第5ブレーキR/Bの摩擦相手板61と噛み合うスプラインを、第5ブレーキ用ドラム42の全周にわたって形成することができる。つまり、自動変速機ケースにより第5ブレーキの摩擦相手板を保持する場合に比べ、第5ブレーキR/Bの係合時における摩擦相手板61の保持を十分に確保することができる。加えて、自動変速機ケースにより第5ブレーキの摩擦相手板を保持する場合に比べ、第5ブレーキR/Bの外径が小さく抑えられることで、重量増加・コストアップを抑制することができる。
【0060】
上記のように、第5ブレーキR/Bで第5ブレーキ用ドラム42を設ける理由は、下記の2点にある。
(1) 第5ブレーキR/Bの摩擦相手板61を、自動変速機ケースATCで保持しようとしても、第5ブレーキR/Bの全周にわたって自動変速機ケースATCにスプラインを形成できるとは限らない。つまり、摩擦相手板61は、全周で自動変速機ケースATCとスプライン嵌合することができない場合があり、この場合、第5ブレーキR/Bの係合時の摩擦相手板61の保持が不十分となり、大きなトルクを伝達できない可能性がある。
(2) 仮に自動変速機ケースATC側に設けることが可能なスプラインだけで必要なトルクを伝達できた場合であっても、自動変速機ケースATCに摩擦相手板61をスプライン嵌合させようとすると第5ブレーキR/Bの外径が不要に大きくなる。そのため、第1ドラム部材41等の部材も大きくなり、重量が増加し、コストアップしてしまう。
【0061】
ここで、第5ブレーキR/Bのトルク分担比について説明する。
実施例1のスケルトンで各変速段における各摩擦締結要素のトルク分担比は、図12に示す表のとおりである。なお、図12において、
αfは、フロント側(シングルピニオン側)の歯数比(αf=Zss/Zr)である。
ただし、Zss:フロントサンギアSsの歯数、Zr:リングギアRの歯数
αrは、リア側(ダブルピニオン側)の歯数比(αr=Zsd/Zr)である。
ただし、Zsd:リアサンギアSdの歯数、Zr:リングギアR歯数
通常、サンギアの歯数<リングギアの歯数であるため歯数比αf・αrは1より小さい値となるため、各クラッチの最大トルク分担比は、下記のとおりとなる。
第5ブレーキR/Bの最大トルク分担比:(1+αf)/αf
第2クラッチ234/Cの最大トルク分担比:αf+1
第1クラッチ13R/Cの最大トルク分担比:1
第3ブレーキ12/Bの最大トルク分担比:(αr(1+αf))/(αf(1-αr))
第4ブレーキ4/Bの最大トルク分担比:αf/(1+αf)
上記トルク分担比から明らかなとおり、出力ギアOUTの前方側に配置される3個の摩擦締結要素について、第5ブレーキR/Bの最大トルク分担比>第2クラッチ234/Cの最大トルク分担比>第1クラッチ13R/Cの最大トルク分担比、の関係が成立する。
このように、第5ブレーキR/Bの最大トルク分担比が、第2クラッチ234/Cや第1クラッチ13R/Cの最大トルク分担比より大きいため、第5ブレーキR/Bの係合時の摩擦相手板61の保持が不十分であると、大きなトルクを伝達できない。
【0062】
[第5ブレーキのドラム保持作用]
上記のように、高トルクを受ける第5ブレーキR/Bにおいて、摩擦相手板61を保持するために第5ブレーキ用ドラム42を用いた場合、第5ブレーキ用ドラム42のケース固定性を確保する必要がある。以下、図6に基づいて、第5ブレーキR/Bのドラム保持作用を説明する。
【0063】
まず、実施例1では、共通キャリアCが係止されるケース側部材である第5ブレーキ用ドラム42をケース固定部材である中間壁21に設けられたスプライン21cに対し相対回転不能にスプライン嵌合させる。このため、第5ブレーキ用ドラム42を固定するボルト等の締結部品を要さない。
【0064】
しかし、第5ブレーキ用ドラム42を中間壁21に設けられたスプライン21cに対し相対回転不能にスプライン嵌合させただけでは、第5ブレーキ用ドラム42と中間壁21とのスプライン嵌合に抜けが生じる可能性がある。このようなスプライン嵌合の抜けが生じると、第5ブレーキピストン43が押圧していない状態であっても摩擦板60と摩擦相手板61とに引き摺りが生じてしまう。
【0065】
これに対し、実施例1では、第5ブレーキ用ドラム42と第5ブレーキピストン43との間に第5ブレーキリターンスプリング45を配置した。そして、第5ブレーキリターンスプリング45の付勢力を、図6に示すように、第5ブレーキ用ドラム42を中間壁21に押し付ける一方側(矢印E方向側)と、第5ブレーキピストン43を元の位置に戻す他方側(矢印F方向側)と、の両方に作用させる構成を採用している。
【0066】
すなわち、摩擦板60と摩擦相手板61の押圧を解除する位置まで第5ブレーキピストン43を戻す第5ブレーキリターンスプリング45を、中間壁21にスプライン嵌合された第5ブレーキ用ドラム42の抜けを防止する抜け防止部材として兼用している。このため、中間壁21にスプライン嵌合された第5ブレーキ用ドラム42の抜けを防止するための追加部品が不要である。
【0067】
このように、(a) ボルト等の締結部品を要さない。(b) 第5ブレーキ用ドラム42の抜け防止のための作用力を、既存の第5ブレーキリターンスプリング45により得ることで、抜け防止のための追加部品が不要である。これら(a),(b)の2つの理由により、部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板61をスプライン嵌合する第5ブレーキ用ドラム4のケース固定が確保される。
【0068】
第5ブレーキ用ドラム42は、図6に示すように、中間壁21にスプライン嵌合して設けられ、後方側のドラム底部42aが中間壁21のドラム当接面21dに当接している。そして、第5ブレーキ用ドラム42には、摩擦板60及び摩擦相手板61よりも前方側にスナップリング70が設けられている。このスナップリング70は、第5ブレーキピストン43を戻すためのリターンスプリング45の反力を受ける。
【0069】
したがって、第5ブレーキR/Bの締結時には、摩擦板60と摩擦相手板61が第5ブレーキピストン43から押圧されることにより、摩擦板60と摩擦相手板61との間で動力が伝達する。この第5ブレーキピストン43に油圧が作用し、第5ブレーキピストン43が図6の矢印E方向側に移動する際に、リターンスプリング45及びスナップリング70を介して、第5ブレーキ用ドラム42には図6の矢印E方向側への付勢力が働く。この付勢力により、第5ブレーキ用ドラム42のドラム底部42aが、中間壁21のドラム当接面21dに押し付けられ、第5ブレーキ用ドラム42の抜けが確実に防止される。
【0070】
次に、効果を説明する。
実施例1のブレーキ機構にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0071】
(1) 回転要素(共通キャリアC)を係止可能なブレーキ機構(第5ブレーキR/B)であって、
前記回転要素(共通キャリアC)に連結され、摩擦板60が相対回転不能にスプライン嵌合される第1連結部材(第1ドラム部材41)と、
前記回転要素(共通キャリアC)を収容するケース(自動変速機ケースATC)に相対回転不能にスプライン嵌合し、摩擦相手板61が相対回転不能にスプライン嵌合される第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)と、
前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の一方側への移動を規制するストッパ部材(中間壁21)と、
前記摩擦相手板61を前記一方側へ押圧可能に設けられるピストン部材(第5ブレーキピストン43)と、
前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)とピストン部材(第5ブレーキピストン43)との間に配置され、前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)に対して前記一方側への付勢力を発生し、前記ピストン部材(第5ブレーキピストン43)に対して前記一方側の逆方向である他方側への付勢力を発生する弾性部材(第5ブレーキリターンスプリング45)と、
を備える。
このため、部品点数の増加を抑制しながら、摩擦相手板61がスプライン嵌合される第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)のケース固定を確保することができる。
【0072】
(2) 前記ブレーキ機構(第5ブレーキR/B)は、自動変速機の回転要素(共通キャリアC)を係止可能なブレーキ機構であって、
前記ケース(自動変速機ケースATC)に連結され、径方向に伸びる壁部21aと、該壁部21aから軸方向の前記一方側に伸びる円筒部21bと、からなり、該円筒部21bで出力部材(出力ギアOUT)を支持する中間壁21と、を備え、
前記ストッパ部材は、前記中間壁21で構成され、前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の前記一方側の端部を前記中間壁21に当接させることで、前記第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の一方側への移動を規制する。
このため、上記(1)の効果に加え、第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の端部を、弾性部材(第5ブレーキリターンスプリング45)の付勢力により中間壁21に押し付けることで、第2連結部材(第5ブレーキ用ドラム42)の抜けを確実に防止することができる。
【0073】
以上、本発明のブレーキ機構を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0074】
実施例1では、第5ブレーキ用ドラム42(第2連結部材)の内周側に第1ドラム部材44(第1連結部材)を配置する例を示した。しかし、第1連結部材の内周側に第2連結部材を設け、前記第1連結部材に連結する回転要素を係止するものであってもよい。
【0075】
実施例1では、中間壁21に第5ブレーキ用ドラム42(第2連結部材)を当接させることで、第5ブレーキ用ドラム42(第2連結部材)の一方側への移動を規制する例を示した。しかし、中間壁等のケース側部材のスプラインにスナップリングを嵌め込み、このスナップリングによって第2連結部材の一方側への移動を規制するようにしてもよい。
【0076】
実施例1では、自動変速機の摩擦締結要素の一つである第5ブレーキR/Bのブレーキ機構について示した。しかし、自動変速機に適用されるブレーキ機構以外であっても、摩擦板・摩擦相手板をピストンで押圧して締結することによって回転要素を係止するブレーキ機構であれば適用可能である。
【0077】
実施例1では、全周にわたってスプラインを形成した第5ブレーキ用ドラム42を示した。しかし、全周にスプラインを形成しなくても第5ブレーキR/Bの係合時における摩擦相手板の保持を十分確保できればよい。
【符号の説明】
【0078】
PGU ラビニオ式遊星歯車
Ss フロントサンギア
Sd リアサンギア
R リングギア
PL ロングピニオン
PS ショートピニオン
C 共通キャリア(回転要素)
IN 入力軸
OUT 出力ギア(出力部材)
ATC 自動変速機ケース(ケース)
13R/C 第1クラッチ
234/C 第2クラッチ
12/B 第3ブレーキ
4/B 第4ブレーキ
R/B 第5ブレーキ(ブレーキ機構)
21 中間壁(ストッパ部材)
21a 壁部
21b 円筒部
21c スプライン
21d ドラム当接面
27 フロントキャリアプレート
40 円筒状連結プレート
41 第1ドラム部材(第1連結部材)
42 第5ブレーキ用ドラム(第2連結部材)
42a ドラム底部
43 第5ブレーキピストン(ピストン部材)
44 隔壁
45 第5ブレーキリターンスプリング(弾性部材)
60 第5ブレーキR/Bの摩擦板
61 第5ブレーキR/Bの摩擦相手板
70 スナップリング
71 スプリング支持板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転要素を係止可能なブレーキ機構であって、
前記回転要素に連結され、摩擦板が相対回転不能にスプライン嵌合される第1連結部材と、
前記回転要素を収容するケースに相対回転不能にスプライン嵌合し、摩擦相手板が相対回転不能にスプライン嵌合される第2連結部材と、
前記第2連結部材の一方側への移動を規制するストッパ部材と、
前記摩擦相手板を前記一方側へ押圧可能に設けられるピストン部材と、
前記第2連結部材とピストン部材との間に配置され、前記第2連結部材に対して前記一方側への付勢力を発生し、前記ピストン部材に対して前記一方側の逆方向である他方側への付勢力を発生する弾性部材と、
を備えることを特徴とするブレーキ機構。
【請求項2】
請求項1に記載されたブレーキ機構において、
前記ブレーキ機構は、自動変速機の回転要素を係止可能なブレーキ機構であって、
前記ケースに連結され、径方向に伸びる壁部と、該壁部から軸方向の前記一方側に伸びる円筒部と、からなり、該円筒部で出力部材を支持する中間壁と、を備え、
前記ストッパ部材は、前記中間壁で構成され、前記第2連結部材の前記一方側の端部を前記中間壁に当接させることで、前記第2連結部材の一方側への移動を規制する
ことを特徴とするブレーキ機構。
【請求項1】
回転要素を係止可能なブレーキ機構であって、
前記回転要素に連結され、摩擦板が相対回転不能にスプライン嵌合される第1連結部材と、
前記回転要素を収容するケースに相対回転不能にスプライン嵌合し、摩擦相手板が相対回転不能にスプライン嵌合される第2連結部材と、
前記第2連結部材の一方側への移動を規制するストッパ部材と、
前記摩擦相手板を前記一方側へ押圧可能に設けられるピストン部材と、
前記第2連結部材とピストン部材との間に配置され、前記第2連結部材に対して前記一方側への付勢力を発生し、前記ピストン部材に対して前記一方側の逆方向である他方側への付勢力を発生する弾性部材と、
を備えることを特徴とするブレーキ機構。
【請求項2】
請求項1に記載されたブレーキ機構において、
前記ブレーキ機構は、自動変速機の回転要素を係止可能なブレーキ機構であって、
前記ケースに連結され、径方向に伸びる壁部と、該壁部から軸方向の前記一方側に伸びる円筒部と、からなり、該円筒部で出力部材を支持する中間壁と、を備え、
前記ストッパ部材は、前記中間壁で構成され、前記第2連結部材の前記一方側の端部を前記中間壁に当接させることで、前記第2連結部材の一方側への移動を規制する
ことを特徴とするブレーキ機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−251646(P2012−251646A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−126824(P2011−126824)
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月7日(2011.6.7)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】
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