説明

ブロー成形方法

【課題】既存設備の若干の手直しにより、ブロー成形品の軽量化を図っても、必要箇所に充分な肉厚を確保してその強度を確保出来るブロー成形方法を提供する。
【解決手段】ブロー成形温度に加熱したプリフォームをブロー成形金型内に組み込んだ後、金型を閉じ、この金型に設けた吹出孔からブロー成形温度になっているプリフォームの特定部位に冷却媒体を吹き付けて、この特定部位を他の部位よりも冷却して所定の温度差ΔTをつけ、その後プリフォームをブロー成形して成形品である樹脂製把手付容器にする。冷却媒体の吹き付け位置は、成形された樹脂製把手付容器における特定部位を予め設定した位置になるようにし、且つその肉厚も予め設定した厚みになるようにしたことで、既存設備の若干の手直しで、ブロー成形品の軽量化を図っても、必要箇所を充分な肉厚にしてその強度を確保することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロー成形時の樹脂の偏在を避け、ブロー成形品の必要箇所を充分な肉厚にして強度を確保し、ブロー成形品の軽量化を実現出来るブロー成形方法に関し、より詳しくは、プリフォームを金型内に組み込み、プリフォームをブロー成形温度に加熱すると共に、金型に設けた吹出孔からプリフォームの特定部位に冷却媒体を吹き付けることによって、最終形状が複雑な成形品であっても、部分的に偏肉を生じない成形品を得るためのブロー成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のブロー成形品、例えば、樹脂製把手付容器をブロー成形する場合、金型内でブロー成形温度まで加熱したプリフォームを、既に金型に組み込んである別体の把手と位置決めして、加熱されたプリフォームを延伸ロッドで縦延伸を行い、高圧エアーを送り込んで周方向に延伸し金型に密着するようにブロー成形して、成形品である樹脂製把手付容器を得ている。
【0003】
ところが、得られた樹脂製把手付容器は、把手の取付部分にプリフォームの樹脂が多く流れて、把手下に位置する容器壁には樹脂があまり流れず、薄肉となってしまう。そして、この樹脂製把手付容器内に清涼飲料水や調味料などの液体内容物を充填し、商品販売ルートに載せた際、運送効率上液体内容物入りの樹脂製把手付容器を何段にも積み上げることになる。このため、樹脂製把手付容器の把手下の薄肉となった容器壁に荷重が集中し、座屈する虞が生じる。その結果、プリフォームの樹脂量を増やし、把手下の容器壁が薄肉にならないようにせざるを得ないため、この把手下の薄肉発生が樹脂製把手付容器の軽量化を図る上で大きな課題となっている。
【0004】
このような状況から、把手の取付部分にプリフォームの樹脂が必要量だけ流れ、把手下に位置する容器壁にも樹脂が流れて、その容器壁が必要とする肉厚になる技術が知られている。この技術は、金型にインサートピース、例えば、把手をインサートした状態で、プリフォームを二軸延伸吹込成形して樹脂製把手付容器を得るのに際し、その二軸延伸吹込成形工程前に、プリフォームの側壁のうち、二軸延伸吹込成形の結果把手と接触する領域を、他の領域よりも低い温度に局所的に温度調節しておくものである(例えば、特許文献1参照)。すなわち、この温度調節の手法は、この特許文献1で開示されている範囲で言えば、ブロー成形温度まで加熱したプリフォームに内側から冷却する温調コアや外側から冷却する温調ポットにより、あるいは温調気体を吹き付けることにより、把手と接触するプリフォームの領域を、他の領域よりも低い温度に局所的に温度調節した後、その状態のプリフォームを、既に金型に組み込んである別体の把手にその局所冷却領域を位置決めして、金型内に組み込んだ後、二軸延伸吹込成形工程を実施して、樹脂製把手付容器を得ているのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平06−102358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1の温度調節の手法では、プリフォームを回転状態でブロー成形温度まで加熱するような加熱装置を使用している場合では、把手と接触するプリフォームの領域を特定出来ないことになり、加熱装置内に冷却手段を組み込むことは出来ず、これとは別に新たに冷却設備を設置しなればならないという問題がある。また、上記の冷却設備により把手と接触するプリフォームの領域を低い温度に局所的に温度調節したとしても、今度は局所的に温度調節したプリフォームを、既に金型に組み込んである別体の把手に正確に位置決めして金型内に組み込むことが出来る、信頼性の高い搬送設備が別途必要になってしまう。
【0007】
そこで、本発明の目的は、新たな設備を創設すること無く、既存の設備の若干の手直しにより、ブロー成形時の樹脂の偏在を避け、ブロー成形品の必要箇所を充分な肉厚にして強度を確保し、ブロー成形品の軽量化を実現出来るブロー成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために提案されたものであって、下記の構成からなることを特徴とするものである。
すなわち、本発明によれば、ブロー成形温度に加熱したプリフォームをブロー成形金型内に組み込み、該ブロー成形金型を閉じた後、該ブロー成形金型に設けた吹出孔からブロー成形温度のプリフォームの特定部位に冷却媒体を吹き付けて、該特定部位を他の部位よりも冷却し、その後プリフォームをブロー成形して成形品にすると共に、該特定部位がその成形品の予め設定した位置になるようにし、且つその肉厚も予め設定した厚みになるようにしたことを特徴とするブロー成形方法 が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、前記プリフォームの加熱は、ブロー成形温度までプリフォームを回転させながら行う上記ブロー成形方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、前記プリフォームは把手付樹脂製容器用であり、前記特定部位はブロー成形後の前記樹脂製容器における把手下に位置する容器壁である上記ブロー成形方法が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、前記吹出孔は前記把手を把持する前記金型パートに設けられている上記ブロー成形方法が提供される。
【0012】
上記第1の課題解決手段による作用は、次の通りである。すなわち、ブロー成形温度に加熱したプリフォームをブロー成形金型(以下、単に金型という)に組み込んだ後、該金型に設けてある吹出孔からプリフォームの特定部位に冷却媒体を吹き付けて、他の部位よりも冷却して所定の温度差とするから、特にプリフォームの冷却した部分の位置決めをすることなく、金型にプリフォームを組み込み出来、その後プリフォームをブロー成形しても、特定部位の温度が低いからその部分の樹脂が流れすぎず、予め設定した位置に留まり、その肉厚も予め設定した厚みになったブロー成形品を得ることが出来る。特に、プリフォームを回転させながらブロー成形温度まで加熱する場合でも、位置決めや搬送のための特別な設備は不要である。
なお、プリフォームに吹き付ける冷却媒体としては、最も簡単には、常温のエアーを吹き付ければよく、エアーを温調して用いたり、液化炭酸ガス、液体窒素などを吹き付けたり、水を噴霧することなども出来る。
【0013】
また、上記第3の課題解決手段による作用は、把手付樹脂製容器用のプリフォームを金型内に組み込み、該プリフォームをブロー成形温度に加熱すると共に、金型にある吹出孔からプリフォームの特定部位に冷却媒体を吹き付けて、他の部位よりも冷却して所定の温度差とすることにより、特にプリフォームの冷却した部分の位置決めをすることなく、金型にプリフォームを組み込んで、その後プリフォームをブロー成形すれば、把手付樹脂製容器を得ることができ、冷却媒体を吹き付けた特定部位が把手下の容器壁に留まることになり、その容器壁の肉厚も予め設定した厚みになる。
【0014】
また、上記第4の課題解決手段による作用は、金型を閉じている状態でも、把手を把持する金型パートに設けた吹出孔から、金型内に組み込んだプリフォームの特定部位に冷却媒体を吹き付けて、特定部位を他の部位よりも冷却して所定の温度差に出来る。
【発明の効果】
【0015】
本発明のブロー成形方法は、新たな設備を創設すること無く、既存の設備の若干の手直しにより、ブロー成形時の樹脂の偏在を避け、ブロー成形品の必要箇所を充分な肉厚にして強度を確保し、ブロー成形品の軽量化を実現出来る効果がある。
【0016】
また、本発明のブロー成形方法は、上記と同じ効果の把手付樹脂製容器を得ることが出来、したがって、液状内容物が充填された把手付樹脂製容器を予め設定した数量を積み上げても、座屈することがない効果がある。
【0017】
また、本発明のブロー成形方法は、金型内に組み込まれたプリフォームの特定部位に、外部から金型パートに設けられた吹出孔を通して、エアー等の冷却媒体を確実に吹き付けることが出来て、上記と同じ把手付樹脂製容器を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態を示すブロー成形方法における第1段階の説明図である。
【図2】本発明のブロー成形方法により作製された把手付樹脂製容器を示す断面図である。
【図3】図2の把手付樹脂製容器の把手を示す断面図である。
【図4】図2の把手付樹脂製容器の把手を示す斜視図である。
【図5】本発明のブロー成形方法における第2段階の説明図である。
【図6】本発明のブロー成形方法における第3段階の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0020】
図面において、ブロー成形方法1は、回転させた状態でブロー成形温度に加熱したプリフォーム2を金型3内に組み込んだ後、金型3を閉じて、この金型3に設けた吹出孔4からブロー成形温度になっているプリフォーム2の特定部位5に冷却媒体を吹き付けて、この特定部位5を他の部位よりも冷却して所定の温度差ΔTをつけ、その後プリフォーム2をブロー成形して成形品である樹脂製把手付容器6にすると共に、その樹脂製把手付容器6の状態で、特定部位5を予め設定した位置になるようにし、且つその肉厚tも予め設定した厚みになるようにしたものである。この実施例においては、冷却媒体として常温のエアーを用いた。
【0021】
ここで、上記のブロー成形方法1により作製される樹脂製把手付容器6の説明をする。すなわち、樹脂製把手付容器6は、図2に示すように、胴部10にある凹部11に把手
取付突起部12を設けた容器本体13と、この容器本体13の把手取付突起部12に取り
付ける取付部14を有した把手15とからなる。
【0022】
前記容器本体13は、口部16、既述の胴部10、これらをつなぐ肩部17、並びに底部18を有し、口部16には蓋(図示せず)が螺着脱されて容器本体13が開閉される。そして、容器本体13の胴部10には既述のとおり凹部11があり、この凹部11には、前記把手15が収納且つ取り付けられる。
【0023】
この把手15は、図3、4に示すように、リング状の取付部14と、この取付部14を支持し且つ手指にてつかむことが出来る把持部20とで構成され、この取付部14は、容器本体13の把手取付突起部12を、嵌めることが出来るようになっている。なお、把手15には回り止めのための上部係合孔21及び下部係合孔22が開けられている。また、容器本体13の材質は、透明性、ガスバリアー性、耐衝撃性ならびに適度な剛性を備えた、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル樹脂が好ましく選択されるが、ブロー成形出来る樹脂であれば特に限定がない。また、把手15の材質も、通常、ポリエステル樹脂が選択されるが、耐衝撃性、適度な剛性且つ強度を有している樹脂であれば特に限定がない。
【0024】
次に、上記構成の樹脂製把手付容器6のブロー成形方法1について、詳細に説明する。
まず、金型3を開き把手15を金型パート3aに把持し、さらに、プリフォーム2を加熱装置(図示せず)によりブロー成形温度、例えば、110ないし120℃まで加熱して、そのブロー成形温度110ないし120℃にあるプリフォーム2を、そのまま金型3内に組み込み金型3を閉じる(図1参照)。その後、金型パート3aに設けられている吹出孔4からエアーを吹き出し、プリフォーム2の特定部位5に当てて、この特定部位5を他の部位よりも冷却し所定の温度差ΔT、例えば、約5ないし20℃程度の差をつける(図5参照)。
吹き出すエアーの温度はブロー成形温度よりも低ければ良く(例えば、15ないし80℃)、室温のままでも良い。なお、図示した例では、金型パート3aに把持された把手15の上部係合孔21を通してエアーを吹き付けるように吹出孔4が設けられている。
【0025】
そして、プリフォーム2内に延伸ロッド(図示せず)を挿入して、プリフォーム2の縦延伸を行うと、冷却された特定部位5は、把手15の上部係合孔21近辺から下部係合孔22近くまで移動する。縦延伸と同時または途中から、あるいは終了した後、プリフォーム2内に高圧エアー、例えば、10ないし40kg/cm2の高圧エアーを吹き付けプレブローを行うと、特定部位5はさらに移動して、把手15下まで移動する。さらに高圧のエアー(例えば、20ないし40kg/cm2)に切り換えてメインブローを行うと、プリフォーム2は完全に膨らみ金型3に密着状態となり、樹脂製把手付容器6がブロー成形される。この際、把手15下まで移動した特定部位5も延ばされるが、特定部位5は他の部位よりも冷却されているため、その部分の樹脂が流れすぎず、予め設定した位置に留まり、その肉厚も予め設定した厚みになる(図6参照)。把手15のリング状の取付部14の内側に流れ込んだ樹脂は、金型パート3aの可動部に押圧されてフランジ状に成形され、把手15を容器本体13に強固に固定する。なお、把手15の上部係合孔21及び下部係合孔22内にも樹脂が流れ込むから、回り止めとなり把手15が回りずれすることもない。
【0026】
次に、本発明の優位性を実証するための試験をしたので、以下に示す。
〈試験例1〉
把手の基本形状は、図3、4の通りとするが上部係合孔のみとし、孔形状は角形6mm×8mm、断面積48mm2とする。容器本体のプリフォームは口部外径38.0mm、口部内径27.6mm、容量は1800ccとする。なお、把手及び容器本体の材質はポリエチレンテレフタレートとする。
別途成形した把手を金型に組み込み、さらに115℃の延伸適正温度に加熱したプリフォームを金型に組み込んで金型を閉じ、プリフォームの特定部位にエアー吹出孔から室温のエアーを0.7秒間吹き当てた後、2軸延伸ブロー成形した。得られた樹脂製把手付容器の側壁の厚みと、空状態の樹脂製把手付容器の縦圧縮強度を測定する。
肉厚の測定位置は、図2に○で示した部位である。
【0027】
〈比較例1〉
プリフォームの特定部位を冷却しないだけで、そのほかは上記試験例1と全く同じ条件にて樹脂製把手付容器を作製した。得られた樹脂製把手付容器の側壁の厚み及び縦圧縮強度を上記試験例1と全く同じ条件にて測定する。
試験例1,比較例1の表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
表1からも分かるように、本発明の試験例1は、比較例1と比べて明らかに、把手下の樹脂製把手付容器の容器壁の厚みが厚く、本発明の優位性を実証することが出来た。また、空状態の樹脂製把手付容器の縦圧縮強度も本発明の試験例1の方が高く、本発明の優位性を実証することが出来た。
【0030】
以上、本発明の実施例1を説明したが、具体的な構成はこれに限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲での変更は、適宜可能であることは理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のブロー成形方法は、ブロー成形品の必要箇所に充分な肉厚を確保して強度を保持し、ブロー成形品の軽量化を図りたいような場合に利用可能性が高く、さらに、既存の設備の若干の手直しにより、ブロー成形品の軽量化を実現したいような場合に、その利用可能性が極めて高くなる。また、別体の把手を取り付けた容器以外にも、容器本体に把持用の凹みを設けたり、くびれを形成した容器などに適用でき、特に縦軸周りに非対称な形状の容器を成形する場合に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 ブロー成形方法
2 プリフォーム
3 金型
3a 金型パート
4 吹出孔
5 特定部位
6 樹脂製把手付容器
10 胴部
11 凹部
12 把手取付突起部
13 容器本体
14 取付部
15 把手
16 口部
17 肩部
18 底部
20 把持部
21 上部係合孔
22 下部係合孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブロー成形温度に加熱したプリフォームをブロー成形金型内に組み込み、該ブロー成形金型を閉じた後、該ブロー成形金型に設けた吹出孔からブロー成形温度のプリフォームの特定部位に冷却媒体を吹き付けて、該特定部位を他の部位よりも冷却し、その後プリフォームをブロー成形して成形品にすると共に、該特定部位がその成形品の予め設定した位置になるようにし、且つその肉厚も予め設定した厚みになるようにしたことを特徴とするブロー成形方法。
【請求項2】
前記プリフォームの加熱は、ブロー成形温度までプリフォームを回転させながら行う請求項1記載のブロー成形方法。
【請求項3】
前記プリフォームは把手付樹脂製容器用であり、前記特定部位はブロー成形後の前記樹脂製容器における把手下に位置する容器壁である請求項1記載のブロー成形方法。
【請求項4】
前記吹出孔は前記把手を把持する前記金型パートに設けられている請求項1記載のブロー成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−11479(P2011−11479A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158342(P2009−158342)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】