説明

プライマー組成物及び該組成物を用いた光半導体装置

【課題】光半導体素子を実装した基板と、この光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物との接着性を向上させるとともに、基板上に形成された金属電極の腐食を防止することが可能なプライマー組成物、及び該組成物を用いた高信頼性の光半導体装置を提供する。
【解決手段】光半導体素子を実装した基板と、前記光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを接着するプライマー組成物であって、
(A)1分子中に少なくとも1個のシラザン結合を有したシラザン化合物又はポリシラザン化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とするプライマー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばLED(発光ダイオード)などの光半導体素子を実装した基板と、この光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを強固に接着するプライマー組成物及び該組成物を用いた光半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光半導体装置として知られるLEDランプは、光半導体素子として発光ダイオード(LED)を有し、基板に実装されたLEDを透明な樹脂からなる封止材で封止した構成である。このLEDを封止する封止材としては、従来からエポキシ樹脂ベースの組成物が汎用されていた。
しかし、エポキシ樹脂ベースの封止材では、近年の半導体パッケージの小型化やLEDの高輝度化にともなう発熱量の増大や光の短波長化によってクラッキングや黄変が発生しやすく、信頼性の低下を招いていた。
【0003】
そこで、優れた耐熱性を有する点から、封止材としてシリコーン組成物が使用されている(例えば特許文献1:特開2000−198930号公報参照)。特に、付加反応硬化型のシリコーン組成物は、加熱により短時間で硬化するため生産性がよく、LEDの封止材として適している(例えば特許文献2:特開2004−292714号公報参照)。
しかしながら、LEDを実装する基板と、付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物からなる封止材との接着性は十分と言えるものではない。
【0004】
LEDを実装する基板として、機械的強度に優れる点からポリフタルアミド樹脂が多用されており、そこでその樹脂に対して有用なプライマーが開発されている(例えば特許文献3:特開2008−179694号公報参照)。しかしながら、ハイパワーな光量を必要とするLEDに関してはポリフタルアミド樹脂では耐熱性がもたず変色してしまい、最近はポリフタルアミド樹脂よりも耐熱性に優れるアルミナに代表されるセラミックスが基板となる場合が多くなってきている。アルミナセラミックスから構成される基板と、該付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物との間では剥離を生じやすい。
【0005】
また、シリコーン組成物は、一般に気体透過性に優れるため、外部環境からの影響を受けやすい。LEDランプが大気中の硫黄化合物や排気ガスなどに曝されると、硫黄化合物などがシリコーン組成物の硬化物を透過して、該硬化物で封止された基板上の金属電極、特にAg電極を経時的に腐食して黒変させる。
なお、本発明に関連する従来技術として、上述した文献と共に下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−198930号公報
【特許文献2】特開2004−292714号公報
【特許文献3】特開2008−179694号公報
【特許文献4】特開2010−168496号公報
【特許文献5】特開2004−339450号公報
【特許文献6】特開2005−93724号公報
【特許文献7】特開2007−246803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、光半導体素子を実装した基板と、この光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物との接着性を向上させるとともに、基板上に形成された金属電極の腐食を防止することが可能なプライマー組成物、及び該組成物を用いた高信頼性の光半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、1分子中に少なくとも1個のシラザン結合を含有するシラザン化合物、又はポリシラザン化合物を組成物に配合することで、光半導体素子を実装した基板、なかでもアルミナセラミックス基板と、この光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを強固に接着させるとともに、基板上に形成された金属電極、特にAg電極の腐食を防止可能なプライマー組成物が得られ、更に該組成物を用いた光半導体装置は高信頼性を有するものとなることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記に示すプライマー組成物及び該組成物を用いた光半導体装置を提供する。
〔請求項1〕
光半導体素子を実装した基板と、前記光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを接着するプライマー組成物であって、
(A)1分子中に少なくとも1個のシラザン結合を有したシラザン化合物又はポリシラザン化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とするプライマー組成物。
〔請求項2〕
前記(A)成分が分岐した構造を持つポリシラザン化合物であり、前記(B)成分の配合量が組成物全体の70質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
〔請求項3〕
更に、(C)シランカップリング剤
を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプライマー組成物。
〔請求項4〕
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプライマー組成物により、光半導体素子を実装した基板と、前記光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とが接着されてなることを特徴とする光半導体装置。
〔請求項5〕
前記光半導体素子が、発光ダイオードであることを特徴とする請求項4に記載の光半導体装置。
〔請求項6〕
前記基板の構成材料が、ポリアミド、セラミックス又は液晶ポリマーであることを特徴とする請求項4又は5に記載の光半導体装置。
〔請求項7〕
前記付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物が、ゴム状であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の光半導体装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光半導体素子を実装した基板とこの光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物との接着性を向上させるとともに、基板上に形成された金属電極の腐食を防止することが可能なプライマー組成物が得られ、更に該組成物を用いた光半導体装置は高信頼性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る光半導体装置の一例を示すLEDランプの断面図である。
【図2】本発明の実施例における接着性試験用テストピースを説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<プライマー組成物>
本発明のプライマー組成物は、
(A)1分子中に少なくとも1個のシラザン結合を有したシラザン化合物又はポリシラザン化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とする。以下、このプライマー組成物について説明する。
【0013】
[(A)成分]
(A)成分の1分子中に少なくとも1個のシラザン結合を有したシラザン化合物、又はポリシラザン化合物は、本発明の特徴成分であり、例えばLEDを実装する基板、特にセラミックス基板やポリアミド樹脂基板に対して十分な接着性を与えるとともに、該基板上に形成された金属電極(特にAg電極)の経時的な腐食を抑制するものである。
【0014】
1分子中に少なくとも1個のシラザン結合を含有した化合物としては、下記に示す構造を有する化合物が挙げられる。
【化1】


(式中、Rは水素原子又は1価の有機基を示す。)
【0015】
ここで、Rの1価の有機基としては、炭素数1〜6、特に炭素数1〜3の非置換又は置換1価炭化水素基が好ましい。1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基などで置換されたもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフルオロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。Rとしては、水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0016】
ポリシラザン化合物としては、R'2Si(NR)2/2単位及び/又はR'Si(NR)3/2単位(ここで、Rは上記と同じであり、R'は1価の有機基である。)を有するものを用いることができ、特にR'Si(NR)3/2単位を有する分岐した構造を有するポリシラザン化合物であることが好ましい。
【0017】
ここで、R’としては、上記Rの1価の有機基として例示した非置換又は置換1価炭化水素基と同様のものが例示できるほか、(メタ)アクリロキシプロピル基、(メタ)アクリロキシメチル基等の(メタ)アクリロキシ基含有基(本発明において「(メタ)アクリロキシ」は「アクリロイルオキシ」及び/又は「メタクリロイルオキシ」を示す。以下、同じ)、メルカプトプロピル基、メルカプトメチル基等のメルカプト基含有基、グリシドキシプロピル基、グリシドキシメチル基等のエポキシ基含有基などが例示される。これらの中で、(メタ)アクリロキシ基含有基、メルカプト基含有基、エポキシ基含有基、アルケニル基が好ましく、特に(メタ)アクリロキシ基含有基が好ましい。また、R’は異なる2種以上のものを分子中に有していてもよい。
【0018】
上記ポリシラザン化合物のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)測定による重量平均分子量は、200〜10,000であることが好ましく、より好ましくは500〜8,000、特に好ましくは1,000〜5,000である。分子量が小さすぎると被膜強度が不十分となることがあり、大きすぎると溶媒への溶解性が低下することがある。
【0019】
(A)成分の具体的な構造としては、例えば下記に示すものが挙げられる。
【化2】


(式中、mは3〜8の整数であり、Aは(メタ)アクリロキシ基含有基、メルカプト基含有基、エポキシ基含有基又はビニル基であり、a1、b1は0≦a1<1、0<b1≦1で、a1+b1=1を満足する数、a2、b2は0<a2<1、0<b2<1で、a2+b2=1を満足する数、a3、b3は0≦a3<1、0<b3≦1で、a3+b3=1を満足する数である。)
【0020】
中でも下記に示すものが好ましい。
【化3】


(式中、A、a1、b1は上記と同じ。)
【0021】
(A)成分は、公知の方法により調製することができ、例えば、上記有機基を有したクロロシランにアンモニアガスをクロルのモルに対して過剰に反応させることにより調製することができる。
【0022】
(A)成分の配合量は、(B)成分に対し溶解する量であれば特に限定されないが、組成物全体((A)、(B)成分の合計)の30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜20質量%であり、更に好ましくは0.1〜10質量%、特に好ましくは0.2〜5質量%である。(A)成分の含有量が少ないと金属電極、特にAg電極の腐蝕防止が不十分となることあり、多すぎると表面に凹凸ができ、プライマーとしての性能が不十分となることがある。
【0023】
[(B)成分]
(B)成分の溶剤は、本組成物を構成する上記(A)成分及び後述する任意成分を溶解するものであれば特に限定されるものではなく、公知の有機溶剤を使用することができる。該溶剤としては、例えば、キシレン、トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤、ヘプタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶剤、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶剤、リグロイン、シクロヘキサノン、ジエチルエーテル、ゴム揮発油、シリコーン系溶剤などが挙げられる。中でも酢酸エチル、へキサン、アセトンが好適に用いられる。
(B)成分は、プライマー塗布作業時の蒸発速度に応じて、1種を単独で用いても2種以上を組合せて混合溶剤として用いてもよい。
【0024】
(B)成分の配合量は、塗布時及び乾燥時の作業性に支障のない範囲であれば特に限定されないが、組成物全体((A)、(B)成分の合計)の70質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80〜99.99質量%、更に好ましくは90〜99.9質量%、特に好ましくは95〜99.8質量%である。(B)成分の配合量が少ないと表面に凹凸ができ、プライマーとしての性能が不十分となることがあり、多すぎると金属電極、特にAg電極の腐蝕防止が不十分となることがある。
【0025】
[(C)成分]
本発明においては、更に(C)シランカップリング剤を配合することができる。該シランカップリング剤としては、一般的なシランカップリング剤でよく、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のビニル基含有シランカップリング剤、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等の(メタ)アクリロキシ基含有シランカップリング剤、メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有シランカップリング剤などが挙げられる。中でもビニルトリメトキシシラン、メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0026】
(C)成分を使用する場合の配合量としては、組成物全体((A)〜(C)成分の合計)の0.05〜10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜3質量%である。(C)成分の配合量が少なすぎると接着性向上効果が不十分となることがあり、多すぎても更なる接着性向上効果が得られない場合がある。
【0027】
[その他の成分]
本発明のプライマー組成物は、上記成分以外に、必要に応じて、その他任意成分を配合することができる。例えば、金属腐食抑制剤として、ベンゾトリアゾール、ブチルヒドロキシトルエン、ハイドロキノン又はその誘導体を配合することができる。ベンゾトリアゾール、ジブチルヒドロキシトルエン、ハイドロキノン又はその誘導体は、LEDランプが過酷な外部環境に曝されて、例えば大気中の硫黄化合物が光半導体装置の封止材(付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物)を透過した場合に、この封止材で封止された基板上の金属電極、特にAg電極の腐食をより効果的に抑制する成分である。
金属腐食抑制剤を添加する場合の配合量は、(A)、(B)成分の合計100質量部に対して0.005〜1質量部、特に0.01〜0.5質量部であることが好ましい。
【0028】
更に、その他の任意成分として、補強性充填剤、染料、顔料、耐熱性向上剤、酸化防止剤、接着促進剤等を本発明の目的を損なわない範囲で添加してもよい。
【0029】
[プライマー組成物の製造方法]
本発明のプライマー組成物の製造方法としては、上記(A)、(B)成分及び必要に応じて任意成分を常温下で混合撹拌機により均一に混合する方法等が挙げられる。
【0030】
<光半導体装置>
本発明の光半導体装置は、上記プライマー組成物により、光半導体素子を実装した基板と、前記光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とが接着されてなることを特徴とする。以下、本発明の光半導体装置について図面を参照して説明する。
【0031】
図1は、本発明に係る光半導体装置の一例を示すLED(発光ダイオード)ランプの断面図である。光半導体装置(LEDランプ)1は、上述したプライマー組成物2により、光半導体素子としてLED3を実装した基板4と、LED3を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物5とが接着されている。基板4には、Ag電極などの金属電極6が形成されており、ボンディングワイヤ7でLED3の電極端子(図示せず)と金属電極6とが電気的に接続されている。
【0032】
基板4を構成する材料としては、ポリアミド樹脂、各種繊維強化プラスチック、セラミックス、液晶ポリマー等が挙げられ、本発明においては、耐熱性が良好な点からセラミックスが好ましく、特にはアルミナセラミックスが好ましい。
【0033】
付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物5は、付加反応硬化型シリコーン組成物を硬化させることによって得られるものであり、透明な硬化物であることが好ましく、またゴム状であることが好ましい。該付加反応硬化型シリコーン組成物は、従来公知のビニル基含有オルガノポリシロキサン、架橋剤であるオルガノハイドロジェンポリシロキサン及び付加反応触媒である白金系触媒を少なくとも含有するものを用いることができ、また、該シリコーン組成物には、その他の任意成分として、反応抑制剤、着色剤、難燃性付与剤、耐熱性向上剤、可塑剤、補強性シリカ、接着性付与剤等を硬化物の透明性に影響を与えない範囲で添加してもよい。
【0034】
光半導体装置(LEDランプ)1の製造方法としては、予め、AgメッキでAg電極などの金属電極6が形成された基板4にLED3などの光半導体素子を接着剤で接合して、ワイヤボンディングによりLED3の電極端子(図示せず)と金属電極6とを電気的に接続しておき、この後、LED3が実装された基板4を必要に応じて清浄にしてから、スピンナー等の塗布装置や噴霧器などでプライマー組成物2を基板4に塗布した後、加熱、風乾などによりプライマー組成物2中の溶剤を揮発させ、好ましくは10μm以下、より好ましくは0.01〜1μmの厚さの被膜を形成する。プライマー処理した後、付加反応硬化型シリコーン組成物をディスペンサー等で塗布し、室温で放置又は加熱硬化させてゴム状の硬化物5でLED3を封止する。
【0035】
このように、上記(A)成分を配合した本発明のプライマー組成物を使用することで、LED等の光半導体素子を実装した基板と付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを強固に接着し、高い信頼性の光半導体装置、特にLEDランプを提供できる。
【0036】
また、LEDランプが過酷な外部環境に曝されて、大気中の硫黄化合物などが該シリコーン組成物の硬化物内に透過するような場合にも、このプライマー組成物を使用することで基板上の金属電極、特にAg電極の腐食を抑制することができる。
【0037】
なお、上記実施形態では、光半導体素子の一例としてLEDを用いて説明したが、これ以外に、例えば、フォトトランジスタ、フォトダイオード、CCD、太陽電池モジュール、EPROM、フォトカプラなどに適用することもできる。
【実施例】
【0038】
以下、合成例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0039】
[合成例1] ポリシラザン化合物の合成
蛇管冷却器、温度計を備えた2Lの四つ口フラスコに、酢酸エチル1,000gを入れ、ここに、メタクリロイルオキシプロピルトリクロロシラン3.8g(0.015mol)、メチルトリクロロシラン41.5g(0.28mol)を投入し、氷浴下にて撹拌した。系内が10℃以下になった時点でアンモニアガス15g(0.89mol)を吹き込み、吹き込んだ後に3時間撹拌した。撹拌終了後、副生成物である塩化アンモニウムをろ別し、酢酸エチルの4質量%ポリシラザン溶液として仕上げた。
【0040】
合成したポリシラザン化合物を29Si−NMR、1H−NMRにより測定したところ、該ポリシラザンの構造は、下記に示すものであり、GPC測定(THF溶媒)による重量平均分子量は2,000であった。
【化4】

【0041】
[合成例2] ポリシラザン化合物の合成
蛇管冷却器、温度計を備えた2Lの四つ口フラスコに、酢酸エチル1,000gを入れ、ここに、ジメチルジクロロシラン19g(0.15mol)、メチルトリクロロシラン22.5g(0.15mol)を投入し、氷浴下にて撹拌した。系内が10℃以下になった時点でアンモニアガス14g(0.83mol)を吹き込み、吹き込んだ後に3時間撹拌した。撹拌終了後、副生成物である塩化アンモニウムをろ別し、酢酸エチルの4質量%ポリシラザン溶液として仕上げた。
【0042】
合成したポリシラザン化合物を29Si−NMR、1H−NMRにより測定したところ、該ポリシラザンの構造は、下記に示すものであり、GPC測定(THF溶媒)による重量平均分子量は2,000であった。
【化5】

【0043】
[比較合成例1]
メタクリル酸メチル100質量部、酢酸エチル900質量部、AIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)0.5質量部を80℃で3時間加熱撹拌し、メタクリル酸メチル重合体を含有する溶液を調製した。
【0044】
[比較合成例2]
メタクリル酸メチル83質量部、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン17質量部、酢酸エチル900質量部、AIBN(2,2’−アゾビスイソブチロニトリル)0.5質量部を80℃で3時間加熱撹拌し、メタクリル酸メチル重合体を含有する溶液を調製した。
【0045】
[実施例1]
上記合成例1で調製したポリシラザン化合物の酢酸エチル溶液100質量部に、ビニルトリメトキシシラン1質量部、ハイドロキノン0.1質量部を添加、撹拌し、プライマー組成物を得た。
得られたプライマー組成物を用いて、各種物性(外観、透過率、接着性(接着強度)及び腐食性)を下記に示す評価方法により測定し、結果を表1に示した。なお、表1に示した物性は、23℃において測定した値である。
【0046】
[外観]
得られたプライマー組成物をアルミナセラミックス板上に厚さ2μmとなるように刷毛塗りし、23℃で30分放置して乾燥させた後、このプライマー組成物上に付加反応硬化型シリコーンゴム組成物(信越化学工業株式会社製、KER−2700)を2mm厚で塗布して150℃で1時間硬化させて、その外観を観察した。
【0047】
[透過率試験]
得られたプライマー組成物をスライドガラス上に厚さ2μmとなるように刷毛塗りし、23℃で30分放置して乾燥させ、プライマー組成物被膜を形成した。このプライマー組成物被膜が形成されたスライドガラスの波長400nmにおける透過率を、空気をブランクとして測定した。また、上記プライマー組成物被膜が形成されたスライドガラスを150℃×500時間耐熱劣化させ、この透過率を上記と同様に測定した。
【0048】
[接着性(接着強度)試験]
図2に示すような接着試験用のテストピース11を作製した。即ち、2枚のアルミナセラミックス基板12,13(ケーディーエス社製、幅25mm)のそれぞれの片面に、得られたプライマー組成物を厚さ0.01mmで塗布し、23℃で60分放置して乾燥させ、プライマー組成物被膜14,15を形成した。これらアルミナセラミックス基板をプライマー組成物被膜14,15が形成された面を対向させて、それらの端部が10mm重なるようにし、その間に付加反応硬化型シリコーンゴム組成物(信越化学工業株式会社製、KER−2700)を1mm厚で挟み込むようにして、150℃で2時間加熱することにより該付加反応硬化型シリコーンゴム組成物を硬化させ、シリコーンゴム組成物の硬化物16により接着(接着面積25mm×10mm=250mm2)された2枚のアルミナセラミックス基板からなるテストピースを作製した。
このテストピースのアルミナセラミックス基板12,13のそれぞれの端部を反対方向(図2の矢印方向)に、引っ張り試験機(島津製作所製、オートグラフ)を用いて引張速度50mm/分で引っ張り、単位面積あたりの接着強度(MPa)を求めた。
【0049】
[腐食性試験]
得られたプライマー組成物を銀メッキ板上に厚さ2μmとなるように刷毛塗りし、23℃で30分放置して乾燥させた後、この上に付加反応硬化型シリコーンゴム組成物(信越化学工業株式会社製、KER−2700)を1mm厚で塗布し、150℃で1時間硬化させてシリコーンゴム層を有するテストピースを作製した。このテストピースを硫黄結晶0.1gとともに100ccガラス瓶に入れ、密閉して70℃で放置し、1日後、8日後、及び12日後の各時点でテストピースのシリコーンゴム層を剥がして、銀メッキ板の該シリコーンゴム層を剥がした部分の腐食の程度を目視で観察し、下記基準で評価した。
○:腐食(変色)なし
△:多少の腐食(変色)
×:黒変
【0050】
[実施例2]
上記合成例2で調製したポリシラザン化合物の酢酸エチル溶液100質量部をそのまま使用し、プライマー組成物を得た。この組成物を用いて、各種物性を実施例1と同様にして測定し、結果を表1に示した。
【0051】
[比較例1]
プライマー組成物を塗布せずに直接付加反応硬化型シリコーンゴム組成物(信越化学工業株式会社製、KER−2700)をアルミナセラミックス板及び銀メッキ板に塗布した。この物性(接着性及び腐食性)を実施例1と同様にして測定し、結果を表1に示した。
【0052】
[比較例2]
比較合成例1で調製したメタクリル酸メチルエステル重合体の酢酸エチル溶液100質量部に、ビニルトリメトキシシラン1質量部、ハイドロキノン0.1質量部を添加、撹拌し、プライマー組成物を得た。この組成物を用いて、各種物性を実施例1と同様にして測定し、結果を表1に示した。
【0053】
[比較例3]
比較合成例2で調製したメタクリル酸メチルエステル重合体の酢酸エチル溶液100質量部に、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン1質量部、テトラ−n−ブチルチタネート1質量部を添加、撹拌し、プライマー組成物を得た。この組成物を用いて、各種物性を実施例1と同様にして測定し、結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果から明らかなように、ポリシラザン化合物を配合した実施例1,2のプライマー組成物は、アルミナセラミックスと付加反応硬化型シリコーンゴム組成物のゴム状硬化物とを強固に接着している。
スライドガラスに塗布したプライマー組成物被膜の耐熱性試験では、変色がなく、被膜自体の変化もなく、耐熱性も優れていた。
また、アルミナセラミックスの代わりに、銀メッキ板を使用した腐食性試験では、実施例1,2のいずれも1日経過後で変色がなく、12日経過しても変色(腐食)抑制の効果があった。
【符号の説明】
【0056】
1 光半導体装置(LEDランプ)
2 プライマー組成物
3 LED
4 基板
5 付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物
6 金属電極
7 ボンディングワイヤ
11 テストピース
12、13 アルミナセラミックス基板
14、15 プライマー組成物被膜
16 付加反応硬化型シリコーンゴム組成物の硬化物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光半導体素子を実装した基板と、前記光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とを接着するプライマー組成物であって、
(A)1分子中に少なくとも1個のシラザン結合を有したシラザン化合物又はポリシラザン化合物
(B)溶剤
を含有することを特徴とするプライマー組成物。
【請求項2】
前記(A)成分が分岐した構造を持つポリシラザン化合物であり、前記(B)成分の配合量が組成物全体の70質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載のプライマー組成物。
【請求項3】
更に、(C)シランカップリング剤
を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のプライマー組成物。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプライマー組成物により、光半導体素子を実装した基板と、前記光半導体素子を封止する付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物とが接着されてなることを特徴とする光半導体装置。
【請求項5】
前記光半導体素子が、発光ダイオードであることを特徴とする請求項4に記載の光半導体装置。
【請求項6】
前記基板の構成材料が、ポリアミド、セラミックス又は液晶ポリマーであることを特徴とする請求項4又は5に記載の光半導体装置。
【請求項7】
前記付加反応硬化型シリコーン組成物の硬化物が、ゴム状であることを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の光半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−144652(P2012−144652A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4483(P2011−4483)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】