説明

プラスチック成形品及び転動装置

【課題】耐摩耗性及び潤滑性に優れ転動装置の構成部品として使用可能なプラスチック成形品を提供する。また、耐摩耗性及び潤滑性に優れる転動装置を提供する。
【解決手段】アンギュラ玉軸受は、内輪1と、外輪2と、両軌道面間に転動自在に配置された複数の転動体3と、両軌道面間に転動体3を保持する保持器4と、を備えている。保持器4はポリエーテルエーテルケトン樹脂で構成されているとともに、超臨界二酸化炭素と極圧添加剤との相溶化物を接触させ、浸透した極圧添加剤及び超臨界二酸化炭素のうち超臨界二酸化炭素のみを除去する含浸処理が施されている。そして、このような含浸処理により、表面から深さ100μmまでの部分に極圧添加剤が含浸している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受,リニアガイド装置,ボールねじ,直動ベアリング,XYステージ等のような転動装置の構成部品として使用されるプラスチック成形品及び転動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超臨界二酸化炭素を用いてプラスチック成形品の改質を行う方法としては、例えば、特許文献1に開示のものがある。このプラスチック成形品の改質方法は、潤滑油を含有する超臨界二酸化炭素の中にプラスチック成形品を浸漬してプラスチック成形品中に潤滑油及び二酸化炭素を浸透させる工程と、プラスチック成形品の中に浸透した潤滑油及び二酸化炭素のうち二酸化炭素のみを除去する工程と、を備えるものである。
【0003】
このようにしてプラスチック成形品の表層部分に潤滑油が含浸されると、プラスチック成形品に優れた潤滑性が付与される。よって、潤滑油が含浸されたプラスチック成形品を転がり軸受等の転動装置の構成部品として使用すれば、転動装置の潤滑性及び耐久性が優れたものとなる(特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2005−60473号公報
【特許文献2】特開2005−299923号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、工作機械等に使用される転がり軸受は、dmn値が140万を超えるような高速回転条件で使用されるため、潤滑性とともに耐摩耗性も優れていることが望まれる。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、耐摩耗性及び潤滑性に優れ転動装置の構成部品として使用可能なプラスチック成形品を提供することを課題とする。また、本発明は、耐摩耗性及び潤滑性に優れる転動装置を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のプラスチック成形品は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置の構成部品として使用されるプラスチック成形品であって、超臨界流体と極圧添加剤との相溶化物を接触させて超臨界流体及び極圧添加剤を浸透させ、浸透した超臨界流体及び極圧添加剤のうち超臨界流体のみを除去することにより極圧添加剤を含浸してあり、表面から深さ100μmまでの部分に極圧添加剤が含浸していることを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る請求項2のプラスチック成形品は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置の構成部品として使用されるプラスチック成形品であって、超臨界流体と極圧添加剤との相溶化物を接触させて超臨界流体及び極圧添加剤を浸透させ、浸透した超臨界流体及び極圧添加剤のうち超臨界流体のみを除去することにより極圧添加剤を含浸してあり、表面から深さ20μmまでの部分に極圧添加剤が含浸していることを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明に係る請求項3のプラスチック成形品は、請求項1又は請求項2に記載のプラスチック成形品において、前記超臨界流体を超臨界二酸化炭素としたことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項4のプラスチック成形品は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラスチック成形品において、結晶性高分子で構成されていることを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明に係る請求項5のプラスチック成形品は、請求項4に記載のプラスチック成形品において、前記結晶性高分子が、ポリエチレン,ポリオキシメチレン,ポリフッ化ビニリデン,ポリアミド6,ポリアミド46,ポリアミド66,ポリフェニレンサルファイド,及びポリエーテルエーテルケトンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項6のプラスチック成形品は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプラスチック成形品において、前記極圧添加剤が、金属ジアルキルジチオフォスフェート,金属ジアルキルジチオカーバメイト,及びナフテン酸塩のうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明に係る請求項7の転動装置は、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置において、構成部品のうち少なくとも1つが、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプラスチック成形品で構成されていることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項8の転動装置は、請求項7に記載の転動装置において、アンギュラ玉軸受又は円筒ころ軸受であることを特徴とする。
【0010】
このようなプラスチック成形品は、極圧添加剤が表面から所定の深さまでの部分に含浸されているので、優れた耐摩耗性及び潤滑性を有している。所定の深さを超えて極圧添加剤が含浸されていても、耐摩耗性や潤滑性の向上にはつながらず、コストの上昇やプラスチック成形品の変形及び強度低下がおこりやすくなる。
なお、本発明は種々の転動装置に適用することができる。例えば、転がり軸受,リニアガイド装置,ボールねじ,直動ベアリング,XYテーブル等である。
【0011】
また、本発明における内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
さらに、本発明における構成部品とは、転動装置を構成する部品を意味し、例えば内方部材,外方部材,転動体,セパレータ,保持器,密封装置があげられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプラスチック成形品は、耐摩耗性及び潤滑性に優れるとともに、転動装置の構成部品として使用可能である。また、本発明の転動装置は、耐摩耗性及び潤滑性に優れている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係るプラスチック成形品及び転動装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
〔極圧添加剤の含浸処理について〕
転動装置の構成部品として使用されるプラスチック成形品に対する極圧添加剤の含浸処理は、浸漬処理工程と蒸発除去工程とからなる。浸漬処理工程は、極圧添加剤を含有する超臨界二酸化炭素の中にプラスチック成形品を浸漬する工程である。超臨界状態の二酸化炭素は極圧添加剤と相溶状態となり、プラスチック成形品の表面から内側に浸透する。
【0014】
具体例をあげて説明すると、圧力容器内に乾燥させたプラスチック成形品及び極圧添加剤を入れ、さらに二酸化炭素を内部圧力が4.5〜6.5MPaになるまで充填する。そして、内部圧力を減圧バルブ等で臨界圧力以上に維持しながら、圧力容器内の温度を臨界温度以上に上昇させる。なお、超臨界二酸化炭素とは、臨界温度以上の温度を有し且つ臨界圧力以上の圧力を有する領域にある二酸化炭素である。ちなみに、二酸化炭素の臨界温度は31℃で、臨界圧力は72.8気圧(7.38MPa)である。
【0015】
浸漬処理工程における浸漬温度は、二酸化炭素の臨界温度以上であり、より好ましくは二酸化炭素の臨界温度以上且つプラスチック成形品を構成する樹脂の融点未満である。また、樹脂はガラス転移温度を超える温度になると、分子主鎖のミクロブラウン運動が可能になるまで自由体積が増加し、超臨界状態の二酸化炭素はプラスチック成形品内部まで、より浸透しやすくなる。よって、浸漬処理工程における浸漬温度は、プラスチック成形品を構成する樹脂のガラス転移点以上とすることが好ましい。
【0016】
また、浸漬処理工程における圧力は二酸化炭素の臨界圧力以上であり、より高い圧力である方が、超臨界二酸化炭素の樹脂への浸透度が向上し、改質の効率が向上するため好ましい。ただし、浸漬処理工程に使用する装置(以降は浸漬処理装置と記す)を高圧に耐え得るようにする必要が生じるため、該浸漬処理装置が大掛かりで高額なものになってしまう。したがって、浸漬処理装置の操作性や設備費等を考慮すると、圧力は100気圧以上300気圧以下(10.13MPa以上30.4MPa以下)の範囲が適当である。
さらに、浸漬処理工程における浸漬時間は特に限定されるものではなく、プラスチック成形品の厚さや大きさ等を考慮して適宜設定される。
【0017】
次に、蒸発除去工程について説明する。蒸発除去工程に使用する装置(以降は蒸発除去装置と記す)内を、二酸化炭素の臨界温度未満(例えば30℃),臨界圧力未満とした後に、二酸化炭素を徐々に排出することにより蒸発除去装置内の圧力をゆっくり下げて、大気圧に戻す。これにより、プラスチック成形品の中に浸透した極圧添加剤及び二酸化炭素のうち二酸化炭素のみが蒸発して除去され、極圧添加剤はプラスチック成形品中に残される。
【0018】
蒸発除去装置内のほぼ全ての二酸化炭素が蒸発すると、蒸発除去装置内には極圧添加剤のみが残るので、プラスチック成形品を取り出す。このとき、必要に応じて、プラスチック成形品の表面に付着した極圧添加剤を洗浄により除去してもよい。この後、真空デシケータ等に一定期間(例えば10日間)保持すれば、二酸化炭素の除去をより完全に行うことができる。
【0019】
以上のような2つの工程によって、プラスチック成形品の内部に極圧添加剤の分子が浸透し、樹脂の分子間の自由体積に安定に存在することとなる。このことにより、高温,高圧等の条件下でプラスチック成形品を極圧添加剤に浸漬する処理、いわゆる単純な含浸処理とは異なり、プラスチック成形品の表面近傍に限らず、比較的内部にまで極圧添加剤が浸透する。元々有していた自由体積に極圧添加剤が存在することとなるから、極圧添加剤が外部に滲出することはほとんどなく、改質効果が半永久的に持続すると同時に、機械的強度の低下を引き起こすおそれがほとんどない。
【0020】
極圧添加剤の含浸量は、浸漬温度,圧力,浸漬時間等の条件により変化するが、極圧添加剤の含浸量に対する影響の大きさは、上記3つの条件の中では浸漬温度が最も大きく、続いて浸漬時間,圧力の順である。これらの条件を、プラスチック成形品の厚さや大きさ等に応じて設定すれば、極圧添加剤が含浸される深さを制御することができる。
【0021】
また、極圧添加剤が含浸する深さは、極圧添加剤の含浸処理の操作手順を変更することによっても制御することが可能である。例えば、前述の例では、蒸発除去工程において蒸発除去装置内を二酸化炭素の臨界温度未満,臨界圧力未満とした後に、二酸化炭素を徐々に排出して蒸発除去装置内の圧力をゆっくり大気圧に戻すという操作手順であったが、蒸発除去装置内の圧力を30秒程度の短時間で急激に大気圧に戻すことにより、蒸発除去装置内の温度を急激に下げて蒸発除去装置内を超臨界状態から通常状態にするという操作手順にすると、極圧添加剤が含浸する深さを変えることができる。また、プラスチック成形品の内部にまで極圧添加剤を含浸させる方法をさらに組み合わせることによって、極圧添加剤が含浸する深さをさらに変えることができる。
【0022】
〔超臨界流体について〕
本発明においては、種々の超臨界流体を用いることができる。例えば、二酸化炭素,二酸化窒素,アンモニア,エタン,プロパン,エチレン,メタノール,エタノール等があげられる。ただし、二酸化炭素は比較的穏和な条件で超臨界流体となり、しかも毒性がなく不燃性であるため最も好ましい。
【0023】
〔極圧添加剤について〕
本発明において使用可能な極圧添加剤の種類は特に限定されるものではなく、例えば金属ジチオフォスフェート,金属ジチオカーバメイト,及びナフテン酸塩があげられる。
金属ジチオフォスフェートが金属ジアルキルジチオフォスフェートである場合は、そのアルキル基は、炭素数が4以上20以下であることが好ましい。金属ジチオフォスフェートの例としては、亜鉛ジメチルジチオフォスフェート,亜鉛ブチルイソオクチルジチオフォスフェート,亜鉛ジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオフォスフェート,亜鉛ジ(テトラプロペニルフェニル)ジチオフォスフェート,亜鉛(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオフォスフェート,亜鉛イソオクチルジチオフォスフェート,亜鉛エチルフェニルジチオフォスフェート,亜鉛アミルジチオフォスフェート,亜鉛ジヘキシルジチオフォスフェートがあげられる。金属の種類は亜鉛(Zn)に限定されるものではなく、鉛(Pb),カドミウム(Cd),アンチモン(Sb),モリブデン(Mo)等も好ましい。
【0024】
また、金属ジチオカーバメイトが金属ジアルキルジチオカーバメイトである場合は、そのアルキル基は、炭素数が4以上20以下であることが好ましい。金属ジチオカーバメイトの例としては、亜鉛ジメチルジチオカーバメイト,亜鉛ブチルイソオクチルジチオカーバメイト,亜鉛ジ(4−メチル−2−ペンチル)ジチオカーバメイト,亜鉛ジ(テトラプロペニルフェニル)ジチオカーバメイト,亜鉛(2−エチル−1−ヘキシル)ジチオカーバメイト,亜鉛イソオクチルジチオカーバメイト,亜鉛エチルフェニルジチオカーバメイト,亜鉛アミルジチオカーバメイト,亜鉛ジヘキシルジチオカーバメイトがあげられる。金属の種類は亜鉛(Zn)に限定されるものではなく、鉛(Pb),カドミウム(Cd),アンチモン(Sb),モリブデン(Mo)等も好ましい。
【0025】
さらに、ナフテン酸塩は、ナフテン酸の金属塩等が好ましく、例としてはナフテン酸鉛があげられる。
なお、使用する極圧添加剤の種類は、樹脂製の構成部品を潤滑する際に用いる潤滑剤中の極圧添加剤の種類に合わせて選択するとよい。
【0026】
〔樹脂について〕
本発明において構成部品を構成する樹脂の種類は特に限定されるものではないが、極圧添加剤の含浸処理を好適に適用可能な樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)が超臨界流体の臨界温度よりも高いものが好ましい。例えば、ポリエチレン,ポリオキシメチレン,ポリフッ化ビニリデン,ポリアミド6,ポリアミド66,ポリアミド46,芳香族ポリアミド,ポリフェニレンサルファイド,ポリエーテルエーテルケトンなどがあげられる。
【0027】
これらの樹脂は、ガラス繊維,カーボン繊維,アラミド繊維等の繊維状充填剤や、チタン酸カリウムウィスカー,ホウ酸アルミニウムウィスカー等のウィスカーを含有していても差し支えない。また、熱安定剤,酸化防止剤等の添加剤を含有していてもよい。ただし、前述の樹脂のうち汎用樹脂は前述の添加剤を含有するものが多く、極圧添加剤の含浸処理の条件によっては添加剤が抽出されることも予想されるので、含浸処理の処理温度や圧力には注意を要する。
【0028】
次に、前述のようにして極圧添加剤の含浸処理を施したプラスチック成形品を、アンギュラ玉軸受,円筒ころ軸受の構成部品として使用した例を説明する。
〔第一実施形態〕
図1は、本発明に係る転動装置の一実施形態であるアンギュラ玉軸受の構造を示す断面図である。
【0029】
図1のアンギュラ玉軸受は、外周面に軌道面を有する内輪(内方部材)1と、内輪1の軌道面に対向する軌道面を有し内輪1の外方に配置された外輪(外方部材)2と、両軌道面間に転動自在に配置された複数の転動体(玉)3と、両軌道面間に転動体3を保持する保持器4と、を備えている。
この保持器4は外輪案内タイプである。外輪2の内周面のうち軌道面以外の部分の軸方向両端部が、保持器4の案内面6となっており、保持器4の径方向の動きが外輪2によって規制されている。
【0030】
アンギュラ玉軸受の構成部品のうち内輪1,外輪2,及び転動体3は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440C等のような鋼で構成されている。また、このアンギュラ玉軸受の保持器4は、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス社製PEEK450G)を射出成形して製造したものであり、以下のような極圧添加剤の含浸処理が施されている。すなわち、超臨界二酸化炭素と極圧添加剤との相溶化物を接触させ、浸透した極圧添加剤及び超臨界二酸化炭素のうち超臨界二酸化炭素のみを除去する処理である。
【0031】
ここで、前記含浸処理の詳細な手順を説明する。まず、耐圧硝子工業株式会社製の超臨界二酸化炭素試験装置の圧力容器内に、極圧添加剤であるモリブデンジチオカーバメイトMoDTC(旭電化工業株式会社製のサクラルーブ515)と保持器とを装入した。さらに、圧力容器の内部圧力が6.5MPaになるまで、二酸化炭素を液化二酸化炭素ボンベから圧力容器にポンプを使用して充填した。
【0032】
次に、減圧バルブを用いて圧力容器の内部圧力を20MPaに保ちながら、圧力容器の内部温度を150℃に昇温させた。150℃で1時間保持した後、30℃まで放冷し、内部圧力を大気圧に戻して圧力容器から保持器を取り出した。このような含浸処理により、保持器の表層部には極圧添加剤が浸透し、耐摩耗性及び潤滑性が付与されるので、アンギュラ玉軸受の耐摩耗性及び潤滑性が向上する。
【0033】
〔第二実施形態〕
図2は、本発明に係る転動装置の第二実施形態であるアンギュラ玉軸受の構造を示す断面図である。なお、図2においては、図1と同一又は相当する部分には、図1と同一の符号を付してある。
図2のアンギュラ玉軸受の構造は、第一実施形態のアンギュラ玉軸受とほぼ同様であり、保持器4は外輪案内タイプであるが、外輪2の内周面のうち軌道面以外の部分の軸方向片側端部が、保持器4の案内面6となっており、保持器4の径方向の動きが外輪2によって規制されている。
【0034】
この保持器4は、炭素繊維を30質量%含有するポリフェニレンサルファイド樹脂(ポリプラスチックス社製のフォートロン2130A1)を射出成形して製造したものであり、第一実施形態と同様の含浸処理が施されている。よって、第一実施形態のアンギュラ玉軸受の場合と同様の効果が得られる。
【0035】
〔第三実施形態〕
図3は、本発明に係る転動装置の第三実施形態であるアンギュラ玉軸受の構造を示す断面図である。なお、図3においては、図1と同一又は相当する部分には、図1と同一の符号を付してある。
図3のアンギュラ玉軸受の構造は、第一実施形態のアンギュラ玉軸受とほぼ同様であるが、保持器4は内輪案内タイプである。内輪1の外周面のうち軌道面以外の部分の軸方向両端部が、保持器4の案内面6となっており、保持器4の径方向の動きが内輪1によって規制されている。
【0036】
この保持器4は、ガラス繊維を30質量%含有するポリアミド66(宇部興産株式会社製のUBEナイロン2020GU6)を射出成形して製造したものであり、圧力容器の内部温度が100℃である点を除いては第一実施形態と同様の含浸処理が施されている。よって、第一実施形態のアンギュラ玉軸受の場合と同様の効果が得られる。
【0037】
〔第四実施形態〕
図4は、本発明に係る転動装置の第四実施形態である単列円筒ころ軸受の構造を示す断面図である。
図4の単列円筒ころ軸受は、外周面に軌道面を有する内輪(内方部材)1と、内輪1の軌道面に対向する軌道面を有し内輪1の外方に配置された外輪(外方部材)2と、両軌道面間に転動自在に配置された複数の転動体(円筒ころ)3と、両軌道面間に転動体3を保持する保持器4と、を備えている。
【0038】
この保持器4は外輪案内タイプである。外輪2の内周面のうち軌道面以外の部分の軸方向両端部が、保持器4の案内面6となっており、保持器4の径方向の動きが外輪2によって規制されている。
単列円筒ころ軸受の構成部品のうち内輪1,外輪2,及び転動体3は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440C等のような鋼で構成されている。また、この単列円筒ころ軸受の保持器4は、炭素繊維を30質量%含有する熱可塑性ポリイミド樹脂(三井化学株式会社製のAURUM JCN3030)を射出成形して製造したものであり、圧力容器の内部温度が100℃である点を除いては第一実施形態と同様の含浸処理が施されている。よって、第一実施形態のアンギュラ玉軸受の場合と同様の効果が得られる。
【0039】
〔第五実施形態〕
図5は、本発明に係る転動装置の第五実施形態である複列円筒ころ軸受の構造を示す断面図である。
図5の複列円筒ころ軸受の構造は、複列の円筒ころを備えることを除いては第四実施形態の円筒ころ軸受とほぼ同様であるが、保持器4は転動体案内タイプである。円筒ころ3の外周面が保持器4の案内面6となっており、保持器4の径方向の動きが円筒ころ3によって規制されている。
【0040】
複列円筒ころ軸受の構成部品のうち内輪1,外輪2,及び転動体3は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440C等のような鋼で構成されている。また、この複列円筒ころ軸受の保持器4は、炭素繊維を30質量%含有するポリフェニレンサルファイド樹脂(ポリプラスチックス社製のフォートロン2130A1)を射出成形して製造したものであり、第一実施形態と同様の含浸処理が施されている。よって、第一実施形態のアンギュラ玉軸受の場合と同様の効果が得られる。
【0041】
なお、この複列円筒ころ軸受は、保持器4が内輪1及び外輪2と接触しない構造となっている。このような場合には、保持器4の自重は、保持器4のポケットと円筒ころ3との間に加わるため、その部分の潤滑油膜が切やすく摩耗が増加する傾向がある。よって、前述のような含浸処理が施された保持器4を使用することによって、耐摩耗性及び潤滑性がより向上することとなる。
【0042】
なお、第一〜第五実施形態においては、転動装置の例としてアンギュラ玉軸受,円筒ころ軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、深溝玉軸受,自動調心玉軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。また、本発明は、転がり軸受に限らず、他の種類の様々な転動装置に対して適用することができる。例えば、ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング等である。
【0043】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
ポリフェニレンサルファイド樹脂(ポリプラスチックス社製のフォートロン2130A1)を射出成形して、直径30mm,厚さ3mmの円板を作製した。なお、円板内部の含浸状態の観察の妨げとなるおそれがあるため、炭素繊維等の充填剤を含有しないポリフェニレンサルファイド樹脂を用いた。そして、この円板に第三実施形態と同様の含浸処理を施して、極圧添加剤であるモリブデンジチオカーバメイト(旭電化工業株式会社製のサクラルーブ515)を含浸させた。
【0044】
次に、含浸処理を施した円板を切断し、ミクロトームにより厚さ1.5mmの断面切片を作製した。そして、その断面を走査型分析電子顕微鏡(SEM−EDX)で分析することにより、円板内に含浸しているモリブデンの深さ方向の分布状況を調査した。分析結果を図6に示す。
この図により、表面から深さ100μmまでの部分にモリブデンが存在していることが分かる。そして、表面から深さ20μmまでの部分に、モリブデンが高濃度に存在していることが分かる。
【0045】
次に、耐摩耗性の評価結果について説明する。炭素繊維を30質量%含有するポリフェニレンサルファイド樹脂(ポリプラスチックス社製のフォートロン2130A1)を射出成形して、直径30mm,厚さ3mmの円板を作製した。そして、この円板に第一実施形態と同様の含浸処理を施して、極圧添加剤であるモリブデンジチオカーバメイト(旭電化工業株式会社製のサクラルーブ515)を含浸させた。
【0046】
この円板上にポリα−オレフィン油1μLを滴下し、そこに直径6mmのSUJ2製円柱状部材を、円筒面が円板の板面に接触するように載置した。そして、上方から20Nの荷重を負荷しながら、回転速度6000〜12000rpm(摺動速度1.26〜3.77mm/s)で円柱状部材を1.5時間回転させた後に、円板の摩耗量を測定した。結果を図7のグラフに示す。
【0047】
このグラフから分かるように、含浸処理を施した円板は、未処理品と比べて、摩耗量が少なかった。特に、最も高い摺動速度3.77にmm/sにおいては、未処理品が限界摩耗量1000μmに達したため試験を中止したのに対して、含浸処理を施した円板は摩耗量が70μmと少なかった。このように、含浸処理を施すことにより、高速回転条件で良好な耐摩耗性と潤滑性を発現するので、工作機械の主軸を支持する転がり軸受等に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る転動装置の第一実施形態であるアンギュラ玉軸受の構造を示す断面図である。
【図2】本発明に係る転動装置の第二実施形態であるアンギュラ玉軸受の構造を示す断面図である。
【図3】本発明に係る転動装置の第三実施形態であるアンギュラ玉軸受の構造を示す断面図である。
【図4】本発明に係る転動装置の第四実施形態である単列円筒ころ軸受の構造を示す断面図である。
【図5】本発明に係る転動装置の第五実施形態である複列円筒ころ軸受の構造を示す断面図である。
【図6】含浸しているモリブデンの分布状況を示す模式図である。
【図7】摩耗試験における摺動速度と摩耗量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0049】
1 内輪
2 外輪
3 転動体
4 保持器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置の構成部品として使用されるプラスチック成形品であって、
超臨界流体と極圧添加剤との相溶化物を接触させて超臨界流体及び極圧添加剤を浸透させ、浸透した超臨界流体及び極圧添加剤のうち超臨界流体のみを除去することにより極圧添加剤を含浸してあり、表面から深さ100μmまでの部分に極圧添加剤が含浸していることを特徴とするプラスチック成形品。
【請求項2】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置の構成部品として使用されるプラスチック成形品であって、
超臨界流体と極圧添加剤との相溶化物を接触させて超臨界流体及び極圧添加剤を浸透させ、浸透した超臨界流体及び極圧添加剤のうち超臨界流体のみを除去することにより極圧添加剤を含浸してあり、表面から深さ20μmまでの部分に極圧添加剤が含浸していることを特徴とするプラスチック成形品。
【請求項3】
前記超臨界流体を超臨界二酸化炭素としたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプラスチック成形品。
【請求項4】
結晶性高分子で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のプラスチック成形品。
【請求項5】
前記結晶性高分子が、ポリエチレン,ポリオキシメチレン,ポリフッ化ビニリデン,ポリアミド6,ポリアミド46,ポリアミド66,ポリフェニレンサルファイド,及びポリエーテルエーテルケトンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のプラスチック成形品。
【請求項6】
前記極圧添加剤が、金属ジアルキルジチオフォスフェート,金属ジアルキルジチオカーバメイト,及びナフテン酸塩のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のプラスチック成形品。
【請求項7】
外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備える転動装置において、
構成部品のうち少なくとも1つが、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプラスチック成形品で構成されていることを特徴とする転動装置。
【請求項8】
アンギュラ玉軸受又は円筒ころ軸受であることを特徴とする請求項7に記載の転動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−128403(P2008−128403A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−315777(P2006−315777)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】