説明

プラズマ処理方法およびプラズマ処理装置

【課題】被処理物に形成された酸化膜に対して、酸化膜中に含まれる酸素原子を分離させるために必要な量以上の水素ラジカルを照射して酸化膜を高速に除去するとともに、前記水素ラジカルを含むプラズマの温度を調整して被処理物等へダメージフリーな酸化膜除去方法を提供することを目的とする。
【解決手段】被処理物の表面の原子が酸素原子、窒素原子または硫黄原子のうち少なくとも1種類と結合することにより形成された被膜に対して、プラズマ生成用ガスに電圧を印加することにより発生したプラズマを照射して前記被膜中の前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理方法およびプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子製品の小型化に伴い、部品の微細化要望がますます高まっている。これに対応するべく、部品の表面状態が製品の品質に与える影響が考慮されるようになり、超精密洗浄技術が求められている。このような電子部品などの被処理物の表面には、表面部分の原子が酸素原子、窒素原子または硫黄原子のうち少なくとも1種類と結合することにより被膜が形成している。
【0003】
特許文献1においては、ワイヤーボンディング前のアルミニウムや銅の金属電極の表面に形成された酸化膜を除去するために、水素を0.5〜50体積%含有させたプラズマ生成用ガスが供給され、一対の対向電極の少なくとも一方の対向面に固定誘電体が設置されたプラズマ源にパルス化された電界を印加することにより発生したプラズマをアルミニウムや銅などの被処理物に照射して、酸化膜を除去している。
【0004】
この他にも、はんだの表面に形成された酸化膜に対して、水素ガスを含むプラズマ生成用ガスを用いて発生させたプラズマを照射することによって、プラズマ中に生成された水素プラズマを用いて酸化膜を還元する酸化膜の除去方法が記載されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−151543号公報
【特許文献2】特開2008−041980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、水素ガスが50体積%を超えると大気放出時の爆発限界を超えるため、0.5〜50体積%という水素ガスの添加量に制限を設けており、生成されるプラズマ中の水素ラジカルの濃度を一定量以上とすることができない。
また、プラズマ源に誘電体を設置しているために、プラズマ生成用ガスに印加される電力が弱くなり、生成されるプラズマのパワーが弱くなる。さらに、パルス化された電界によってプラズマ源に電力を印加しているため、プラズマ生成用ガスへの時間平均的な入力電力が小さくなる。その結果、ラジカル化される水素原子および/または水素分子の数が少なり、生成されたプラズマに含まれる水素ラジカルの濃度が薄くなって、処理時間が長くなるという問題を有している。
【0007】
また、特許文献2による被膜の除去方法においては、水素プラズマによる酸化膜の還元作用を促進させるために、被処理物を加熱ステージによって常温よりも高くかつ、はんだの融点よりも低い温度、例えば約150℃に加熱している。このような加熱は、はんだに対してはダメージを与えないものの、部品が電子基板上に配設された状態で酸化膜除去を行う場合には、基板に用いられる樹脂板やその他の部品にダメージを与えるため、被処理物が基板上の部品とされる際には加熱することができず、処理時間が長くなるという問題を有している。
【0008】
さらに、プラズマ中の水素ラジカルの濃度を高くするために、プラズマに印加する電力を増加すると、電力の増加に伴って発生するプラズマの温度が高くなり、酸化膜を除去するだけでなく、被処理物さらには被処理物が載置される基材に対してもダメージを与えてしまうという問題を有している。
【0009】
そこで、本発明においては、金属や合金などの被処理物の表面の原子が酸素原子、窒素原子または硫黄原子のうち少なくとも1種類と結合することにより形成された被膜に対して、プラズマ生成用ガスに放電することにより発生したプラズマを照射して被膜を高速に除去するとともに、プラズマ処理時における被処理物等へのプラズマの熱によるダメージの発生を防止することのできるプラズマ処理方法およびプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様のプラズマ処理方法は、被処理物の表面の原子が酸素原子、窒素原子または硫黄原子のうち少なくとも1種類と結合することにより形成された被膜に対して、プラズマ生成用ガスに放電することにより発生したプラズマを照射して前記被膜中の前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子を除去するプラズマ処理方法であって、前記プラズマは、前記プラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルと、前記プラズマ生成用ガスそのものとを含み、前記プラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルは、前記被膜に含まれる前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子を被処理物から分離させることのできる水素ラジカルを少なくとも含み、前記被膜の除去は、除去するべき被膜中に含まれるすべての前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子を分離させるために必要な量以上の前記水素ラジカルを前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子に接触させて行うことを特徴とする。
【0011】
このような、本発明の第1の態様のプラズマ処理方法によれば、除去するべき被膜に対して、当該被膜中に含まれる全ての酸素原子、窒素原子または硫黄原子を分離させるために十分な量の水素ラジカルを被膜に接触させることができるので、当該被膜中に含まれる酸素原子、窒素原子または硫黄原子を被膜から効率よく分離することを可能とし、被処理物から当該被膜を高速に除去することを実現する。
【0012】
本発明の第2の態様のプラズマ処理方法は、前記水素ラジカルによる前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子の分離は、前記水素ラジカルが前記被膜に衝突して当該被膜から前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子をはじき出すことによる分離および/または前記水素ラジカルと前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子との化学反応によって前記被膜を還元することによる分離であることを特徴とする。
【0013】
このような、本発明の第2の態様のプラズマ処理方法によれば、水素ラジカルによって、被膜中から酸素原子、窒素原子または硫黄原子を物理的および化学的に分離することができるので、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0014】
本発明の第3の態様のプラズマ処理方法は、前記水素ラジカルの量は、前記プラズマ生成用ガス中の水素原子および水素分子の濃度と、前記プラズマ生成用ガスに印加される電圧値とを制御することによって調整することを特徴とする。
【0015】
このような、本発明の第3の態様のプラズマ処理方法によれば、除去するべき被膜の様態によって、常に最適な水素ラジカルの量へ調整することができるので、被処理物から当該被膜を高速に除去することを可能とする。
【0016】
本発明の第4の態様のプラズマ処理方法は、前記プラズマが、前記プラズマ生成用ガスの温度を制御することにより、所定温度に調整されることを特徴とする。
【0017】
このような、本発明の第4の態様のプラズマ処理方法によれば、プラズマの温度を、例えば、被処理物に熱損傷を与えない温度、または、被処理物が配設された基板等に熱損傷を与えない温度に調整することにより、プラズマを被処理物に照射する際に、被処理物または前記基板などに対して、プラズマの熱により熱損傷などのダメージが発生することを防止できる。
【0018】
本発明の第5の態様のプラズマ処理方法は、前記プラズマの温度が、前記被処理物にダメージを与えない温度に調整されることを特徴とする。
【0019】
このような、本発明の第5の態様のプラズマ処理方法によれば、被処理物に熱損傷を与えることなく、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0020】
本発明の第6の態様のプラズマ処理方法は、前記プラズマが、前記プラズマ生成用ガスに高周波電圧を印加して発生させることを特徴とする。
【0021】
このような、本発明の第6の態様のプラズマ処理方法によれば、時間平均的な入力電力を大きくすることができるので、プラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルを大量に生成することができる。その結果、水素ラジカルの濃度が高いプラズマとすることで、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0022】
本発明の第7の態様のプラズマ処理方法は、前記プラズマ生成用ガスが、水素ガスであることを特徴とする。
【0023】
このような、本発明の第7の態様のプラズマ処理方法によれば、プラズマ中のプラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルを水素ラジカルのみとすることができるので、水素ラジカルの濃度が高いプラズマとすることで、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0024】
本発明の第8の態様のプラズマ処理方法は、前記プラズマ生成用ガスが、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスおよび空気から少なくとも1つ選ばれるベースガスと、水素ガス、メタン系ガスおよびエタン系ガスから少なくとも1つ選ばれる添加ガスとの混合ガスであることを特徴とする。
【0025】
このような、本発明の第8の態様のプラズマ処理方法によれば、プラズマ生成用ガスを混合ガスとすることにより、プラズマ化したベースガスによって、添加ガス中に含まれる水素原子および/または水素分子に対してエネルギーを与えてラジカル化させることができるので、水素ラジカルを高濃度に含むプラズマとすることができるとともに、水素ラジカルの寿命を長く保つことをができるので、水素ラジカルを多く含むプラズマを被膜に照射して、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0026】
本発明の第9の態様のプラズマ処理方法は、前記被処理物が金属であることを特徴とする。
【0027】
このような、本発明の第9の態様のプラズマ処理方法によれば、金属に形成された酸素膜、窒化膜または硫化膜を高速に除去することを可能とする。
【0028】
本発明の第10の態様のプラズマ処理方法は、前記被処理物に対する前記プラズマの照射方向において、前記被処理物の下流側には、前記被処理物を載置もしくは前記被処理物が配設される部材を載置するベースを有し、前記プラズマ生成用ガスに電圧を印加するための電極と、前記ベースとにバイアス電圧を印加することにより、前記プラズマにエネルギーを加えるとともに、前記水素ラジカルを前記被膜に誘導することを特徴とする。
【0029】
このような、本発明の第10の態様のプラズマ処理方法によれば、バイアス電圧によって、電極とベースとの間の空間において発生したプラズマにエネルギーを加えるので、噴出されてから被処理物に到達するまでの間に水素ラジカルの活性が失われることを防止することができる。また、水素ラジカルを被処理物に対して誘導するので、照射後の水素ラジカルが拡散することを防止することができる。これらの作用によって、水素ラジカルを被膜に対して効率よく接触させることができるため、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0030】
本発明の第1の態様のプラズマ処理装置は、前記プラズマ生成用ガスをプラズマとするプラズマ源と、前記プラズマ源に供給するプラズマ生成用ガスの温度を調整するプラズマ生成用ガス温度制御部と、前記プラズマ源に供給するプラズマ生成用ガスの温度を測定するプラズマ生成用ガス温度測定部と、前記プラズマ源から噴出するプラズマの温度を測定するプラズマ温度測定部とを備え、前記プラズマ温度測定部で測定されたプラズマの温度を前記プラズマ生成用ガス温度制御部にフィードバックして、前記プラズマ生成用ガスの温度を制御することを特徴とする。
【0031】
このような、本発明の第1の態様のプラズマ処理装置によれば、水素ガスを含むプラズマ生成用ガスを前記プラズマ源に供給すると、生成されたプラズマに含まれる水素ラジカルによって被膜を高速に除去することができ、さらに、プラズマの温度を所望の温度とすることができ、例えば被処理物および被処理物が載置される樹脂材料などからなる基板等への熱損傷の発生を防止して、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0032】
本発明の第2の態様のプラズマ処理装置は、前記プラズマ源には、一対の対向電極が配設され、前記プラズマ源から前記被処理物に対してプラズマが照射される照射方向において、前記被処理物の下流側には、前記被処理物を載置もしくは前記被処理物が配設される部材を載置するベースが配設され、前記一対の対向電極の一方の電極と、前記ベースとにバイアス電圧を印加するための電源が配設され、前記バイアス電圧を印加して、前記プラズマ源と前記ベースとの間に電位差を設けることを特徴とする。
【0033】
このような、本発明の第2の態様のプラズマ処理装置によれば、前記電極と前記ベースとの間の空間において発生したプラズマに対し、バイアス電圧からエネルギーを与えることができる。また、プラズマ源とベースとの間に電位差を設けることによって、水素ラジカルを被処理物へ誘導することができる。この結果、被膜に対して水素ラジカルを効率よく接触させることができ、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【発明の効果】
【0034】
本発明のプラズマ処理方法およびプラズマ処理装置によれば、被処理物の表面に形成された被膜を高速に除去することができ、また、被処理物へプラズマの熱によるダメージを与えることなく処理することができる。
【0035】
さらに説明すれば、本発明のプラズマ処理方法によれば、被処理物の表面の原子が酸素原子、窒素原子および硫黄原子等と結合することにより形成された被膜に対して、除去するべき被膜中に含まれる全ての酸素原子、窒素原子または硫黄原子を分離させるために必要な量以上の水素ラジカルを照射するので、除去するべき被膜に含まれる酸素原子、窒素原子または硫黄原子に対して不足なく水素ラジカルが結合して被膜から分離し、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0036】
また、プラズマの温度を所定温度に調整して、被処理物および被処理物が載置される基材への熱損傷の発生を防止することができ、例えば、樹脂材料からなる基材上に配設された金属からなる被処理物に形成された被膜を除去する際にも、被処理物を基材上に配設した状態でプラズマを照射して被膜の除去を行うことを可能とする。
【0037】
またさらに、プラズマ源の電極とベースとにバイアス電圧を印加することによって、水素ラジカルの活性状態を長く持続させることができるとともに、プラズマ源とベースとの間に電位差を設けて、少なくとも水素ラジカルを被処理物へ誘導することができるので、被膜に対して水素ラジカルを効果的に接触させて被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のプラズマ処理方法による酸素原子の分離の概略説明図であって、(a)は酸化銅(II)の結晶構造のイメージ図(b)は水素ラジカルによって酸素原子がはじき出されるイメージ図(c)は水素ラジカルの侵入によって酸素原子が還元されるイメージ図
【図2】単位体積あたりに印加する電力量とプラズマ中の各ガスの密度との関係を示したグラフ
【図3】本発明のプラズマ処理装置の概略図を示すブロック図
【図4】本発明のプラズマ温度制御装置の一実施形態を示す構成図
【図5】本発明のプラズマ処理装置のバイアス電圧の印加方法を示す概略断面図
【図6】本発明のプラズマ処理装置のバイアス電圧の印加方法のその他の態様を示す概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に、本発明のプラズマ処理方法およびプラズマ処理装置の詳しい実施形態を図1乃至図6を用いて説明する。
【0040】
本発明のプラズマ処理方法は、例えば、銅、鉄、スズ、鉛およびはんだ等の金属や合金からなる被処理物の表面の原子が、酸素原子、窒素原子および硫黄原子等の少なくとも1種類であって、金属や合金と結合して化合物を形成する原子と結合することにより形成された酸化物、窒化物または硫化物からなる被膜に対し、プラズマ生成用ガスに放電することにより発生したプラズマを照射して当該被膜を除去する方法である。この時、プラズマは、プラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルとプラズマ生成用ガスそのものとを含んでいる。
【0041】
プラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルは、酸素原子、窒素原子および硫黄原子等を被処理物から分離することのできる1個の水素原子からなる水素ラジカルHおよび/または1個の水素分子からなる水素ラジカルHを少なくとも含んでいる。
【0042】
具体的には、プラズマ生成用ガスを水素ガスのみとすることにより、発生するプラズマ生成用ガスである水素ガスに含まれる物質(水素)から生成されるラジカルに1個の水素原子からなる水素ラジカルHおよび/または1個の水素分子からなる水素ラジカルHが含まれるようにする。
【0043】
また、プラズマ生成用ガスを例えばアルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスおよび空気等のベースガスと、水素ガス、メタン系ガスおよびエタン系ガスなどの水素原子を含む添加ガスとの混合ガスとして、発生するプラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルに1個の水素原子からなる水素ラジカルHおよび/または1個の水素分子からなる水素ラジカルHが含まれるようにしてもよい。なお、添加ガスとして選択されるガスは、水素原子が含まれるものであれば、いかなるガスでもよい。
【0044】
<水素ラジカルによる被膜の除去方法>
本発明のプラズマ処理方法における被膜の除去においては、除去するべき被膜に含まれる酸素原子、窒素原子または硫黄原子に対して、これらを分離するために必要な量以上の水素ラジカルを接触させることにより、被処理物から当該酸素原子、窒素原子または硫黄原子を分離することによって除去する。
【0045】
ここで、被処理物を銅板とし、銅板の表面の銅原子と結合して被膜を形成する原子を酸素原子とした場合の分離の形態を図1を用いて詳しく説明する。
【0046】
酸化銅(II)は、図1(a)に示すように、銅原子同士の空隙に酸素原子が侵入した単斜晶系の結晶構造とされている。なお、図1(a)では、酸素原子に注目するべく、酸素原子の方が銅原子よりも大きく図示されているが、実際には、銅原子の原子半径の方が酸素原子の原子半径よりも大きいものとされている。
【0047】
まず、第1の態様の酸化銅(II)からの酸素原子の分離の形態は、図1(b)に示すように、銅原子および/または酸素原子に対して水素ラジカルを衝突させることによって結晶構造中から酸素原子を離脱させて分離するものである。さらに、水素ラジカルは、非常に活性が高く、分離された1個の酸素原子に対して、2個の水素ラジカルHまたは図示を省略した1個の水素ラジカルHが活発に化学反応を起こすことにより、水分子が生成される。なお、図1(b)において、内側のI層は銅原子のみからなる被処理物層であり、外側のII層は銅原子と酸素原子からなる酸化銅の被膜層である。
【0048】
また、第2の態様の酸化銅(II)からの酸素原子の分離の形態は、図1(c)に示すように、水素ラジカルが酸化銅の結晶格子内に侵入し、銅原子および酸素原子に接触して中間体不整合の状態となるとともに、酸素原子と結合してOHを形成する。このOHに対し、さらに水素ラジカルが化学反応を起こして水分子が生成され、酸化銅を還元することにより酸素原子を分離するものである。
【0049】
<理想状態における必要水素ラジカル数の算出>
具体的に、上記分離に必要とされる水素ラジカルの個数の算出を行う。例えば、タテ1mm×ヨコ1mm×厚さ1nmあたりの被膜中に含まれる酸素原子を全て分離するために必要な水素ラジカルの個数を算出する。なお、酸化銅(II)の密度は6.31g/cm、モル質量は79.55g/mol、アボガドロ数は6.02×1023である。
【0050】
1mm×1mm×1nmの酸化銅中に含まれる酸素原子の個数Xは、
【数1】

で求めることができ、X=2.39×1013個となる。この時、分離された酸素原子が全て水分子とされる反応は、2H+O→HOであるので、X=2.39×1013個の酸素原子を全て水分子とするために必要な水素ラジカルの個数Yは、Y=2Xで求めることができ、Y=4.78×1013個となる。
【0051】
したがって、1mm×1mm×1nmの酸化銅(II)中に含まれる酸素原子に対して、少なくとも4.78×1013個の水素ラジカルを被膜に接触させることで、酸化銅(II)中の酸素原子を全て水分子として分離することができる。
【0052】
同様に、被処理物を純鉄の板とし、表面に形成された酸化鉄(II)を分離するために必要な水素ラジカルの個数を算出する。なお、酸化鉄(II)の密度は5.24g/cm、モル質量は159.69g/mol、アボガドロ数は6.02×1023である。
【0053】
タテ1mm×ヨコ1mm×厚さ1nmあたりの酸化鉄(II)の被膜中に含まれる酸素原子の個数Xは、
【数2】

で求めることができ、X=1.19×1013個となる。この時、分離された酸素原子が全て水分子とされる反応は、2H+O→H2Oであるので、X=1.19×1013個の酸素原子を全て水分子とするために必要な水素ラジカルの個数Yは、Y=2Xで求めることができ、Y=2.37×1013個となる。
【0054】
つまり、1mm×1mm×1nmの酸化鉄(II)中に含まれる酸素原子に対して、少なくとも2.37×1013個の水素ラジカルを被膜に接触させることで、酸化鉄(II)中の酸素原子を全て水分子として分離することができる。
【0055】
さらに、被処理物をはんだとし、表面に形成された酸化膜のを分離するために必要な水素ラジカルの個数を算出する。なお、はんだはスズ96.5%、銀3%、銅0.5%の組成のものとし、密度は7.4g/cm、モル質量は118.11g/mol、アボガドロ数は6.02×1023である。
【0056】
はんだに形成されたタテ1mm×ヨコ1mm×厚さ1nmあたりの被膜が、完全結晶であるとすると、96.5%が酸化スズ、3%が酸化銀、0.5%が酸化銅であり、それぞれの酸化物に含まれる酸素原子の数XSn、XAgおよびXCuは、
【数3】

【数4】

【数5】

で求めることができ、XSn=1.57×1013個、XAg=3.24×1011個およびXCu=8.11×1010個となる。この時、分離された酸素原子が全て水分子とされる反応は、2H+O→H2Oであるので、XSn=1.57×1013個、XAg=3.24×1011個およびXCu=8.11×1010個の酸素原子を全て水分子とするために必要な水素ラジカルの個数YSn、YAgおよびYCuは、Y(Sn、Ag、Cu)=2X(Sn、Ag、Cu)で求めることができ、それぞれYSn=3.13×1013個、YAg=6.49×1011個およびYCu=1.62×1011個となる。
【0057】
よって、はんだに形成した1mm×1mm×1nmの酸化膜に含まれる酸素原子に対して、少なくともYSnとYAgとYCuとの合計である2.84×1013個の水素ラジカルを被膜に接触させることで、酸化膜中の酸素原子を全て水分子として分離することができる。
【0058】
また、被処理物をアルミニウムとし、表面のアルミニウム原子と結合して被膜を形成する原子を窒素原子とした場合において、表面に形成された窒化アルミニウムを分離するために必要な水素ラジカルの個数を算出する。なお、窒化アルミニウムの密度は、3.26g/cm、モル質量は40.99g/mol、アボガドロ数は6.02×1023である。
【0059】
タテ1mm×ヨコ1mm×厚さ1nmあたりの窒化アルミニウムの被膜中に含まれる窒素原子の個数Xは、
【数6】

で求めることができ、X=2.39×1013個となる。この時、分離された窒素原子が全てアンモニアとされる反応は、N+3H→NHであるので、X=2.39×1013個の窒素原子を全てアンモニアとするために必要な水素ラジカルの個数Yは、Y=3Xで求めることができ、Y=7.18×1013個となる。
【0060】
つまり、1mm×1mm×1nmの窒化アルミニウム中に含まれる窒素原子に対して、少なくとも7.18×1013個の水素ラジカルを被膜に接触させることで、窒化アルミニウム中の窒素原子を全てアンモニアとして分離することができる。
【0061】
また、被処理物を銅板とし、銅板の表面の銅原子と結合して被膜を形成する原子を硫黄原子とした場合において、表面に形成された硫化銅を分離するために必要な水素ラジカルの個数を算出する。なお、硫化銅の密度は、5.6g/cm、モル質量は159.16g/mol、アボガドロ数は6.02×1023である。
【0062】
タテ1mm×ヨコ1mm×厚さ1nmあたりの硫化銅の被膜中に含まれる硫黄原子の個数Xは、
【数7】

で求めることができ、X=7.06×1012個となる。この時、分離された硫黄原子が全て硫化水素とされる反応は、S+2H→HSであるので、X=7.06×1012個の硫黄原子を全て硫化水素とするために必要な水素ラジカルの個数Yは、Y=2Xで求めることができ、Y=1.41×1013個となる。
【0063】
つまり、1mm×1mm×1nmの硫化銅中に含まれる硫黄原子に対して、少なくとも1.41×1013個の水素ラジカルを被膜に接触させることで、硫化銅中の硫黄原子を全て硫化水素として分離することができる。
【0064】
同様に、被処理物を純鉄の板とし、表面に形成された硫化鉄を分離するために必要な水素ラジカルの個数を算出する。なお、硫化鉄の密度は4.84g/cm、モル質量は87.911g/mol、アボガドロ数は6.02×1023である。
【0065】
タテ1mm×ヨコ1mm×厚さ1nmあたりの硫化鉄の被膜中に含まれる硫黄原子の個数Xは、
【数8】

で求めることができ、X=1.72×1013個となる。この時、分離された硫黄原子が全て硫化水素とされる反応は、S+2H→HSであるので、X=1.72×1013個の硫黄原子を全て硫化水素とするために必要な水素ラジカルの個数Yは、Y=2Xで求めることができ、Y=3.43×1013個となる。
【0066】
つまり、1mm×1mm×1nmの硫化鉄中に含まれる硫黄原子に対して、少なくとも3.43×1013個の水素ラジカルを被膜に接触させることで、硫化鉄中の硫黄原子を全て硫化水素として分離することができる。
【0067】
このように、被膜によって必要とされる水素ラジカルの量(個数)は異なり、以下に、図2および図3を用いて、水素ラジカルの量の調整方法を詳しく説明する。
【0068】
例えば、ベースガスとしてのアルゴンガスと、添加ガスとしての水素ガスとの混合ガスからなるプラズマ生成用ガスに、電圧を印加すると
【数9】

のように電離し、この時のそれぞれの物質の存在数の関係は、以下であると考えられる。
【数10】

【0069】
つまり、プラズマ生成用ガス中における水素ガスの濃度を高くすることで、プラズマ生成用ガス中の水素原子および水素分子の量を増加させて、結果的に発生したプラズマに含まれる1個の水素原子からなる水素ラジカルHおよび/または1個の水素分子からなる水素ラジカルHの量を増加させることができる。
【0070】
また、プラズマに含まれる1個の水素原子からなる水素ラジカルHおよび/または1個の水素分子からなる水素ラジカルHの量すなわちプラズマ中における全ての水素ラジカルの密度は、図2に示すように、単位体積あたりに印加される電力量の増加に比例して高くなる。これは、プラズマ生成用ガスに与える電力を増加させることによって、電離または励起された水素電子および水素分子の割合が高くなるためである。
【0071】
さらに、ベースガスの成分に基づくプラズマがプラズマ全体中に存在することにより、ベースガスのプラズマが水素ラジカルのラジカル状態を保持するためのエネルギー源となって、水素ラジカルの寿命を長くすることができるので、プラズマ源から離れた部分においても、水素ラジカルを高濃度で被膜に接触させることができる。
【0072】
<水素ラジカル量の調整方法>
本発明のプラズマ処理方法においては、被膜に対して接触させる水素ラジカルの量(個数)を調整するべく、プラズマ生成用ガスをプラズマとするプラズマ源に対して供給されるプラズマ生成用ガス中の水素原子および水素分子の濃度と、プラズマ源に印加される電圧値とを制御するようにされている。
【0073】
具体的に、水素ラジカルの量を増加させる際には、例えば、ベースガスとしてのアルゴンガスと、添加ガスとしての水素ガスとの混合ガスを10L/minでプラズマ源に供給する場合において、水素ガスの流量を増加させるとともに、アルゴンガスの流量を当該増加させた分だけ減少させて、混合ガス中の水素ガスの割合を増やして水素ラジカルとなる水素原子および水素分子の存在割合を増加させる。
【0074】
さらに、プラズマ源に電力を入力する直流から交流、高周波およびマイクロ波などの電源からの電力量を増加させて、電離または励起される水素原子および水素分子の割合を増加させて、水素ラジカルの量を増加させる。特に、プラズマ源に電力を入力する電源として高周波電源を用いることが好ましく、20kHz以上の周波数の高周波電圧をプラズマを発生させるためのプラズマ発生室内の体積に対して60〜240W/cmの電力量となるように入力することが最も好ましい。
【0075】
なお、プラズマ生成用ガス中の水素ガス濃度の制御および高周波電源によるプラズマ源に印加する高周波電圧の電圧値の制御は、除去するべき被膜に応じて適宜行い、当該被膜に対して最適なプラズマを照射して水素ラジカルによる酸素原子、窒素原子および硫黄原子の分離を行うようにされている。具体的には、プラズマ源に入力される電力がプラズマ発生室内の体積に対して120W/cm程度となるように印加される電圧を制御し、プラズマ源に流入されるプラズマ生成用ガスが10L/min程度とされることが最も好ましい。
【0076】
このように、プラズマ生成用ガスの水素原子および水素分子の濃度と、プラズマ生成用ガスに印加される電圧値とを制御して、水素ラジカルの量を調整可能とすることにより、被膜に含まれる酸素原子、窒素原子および硫黄原子に対して不足なく水素ラジカルを接触させることができ、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0077】
<プラズマの温度調整方法および装置の形態>
上記のように、プラズマ中の水素ラジカルの量を増加させるべく、プラズマ生成用ガスに対して大量の電力を印加すると、印加される電力の増大に伴ってプラズマの温度が高くなる。
【0078】
そこで、本発明のプラズマ処理方法においては、プラズマ生成用ガスの温度を制御して、プラズマの温度を任意の温度に制御するようにされている。
【0079】
本発明のプラズマ処理装置の第1実施形態においては、図3に示すように、プラズマ生成用ガス供給部2、プラズマ生成用ガス温度制御部3、プラズマ源4、電源5などを備え、プラズマ生成用ガス温度制御部3においてプラズマ生成用ガス供給部2から供給されるプラズマ生成用ガスの温度を制御することによって、プラズマの温度を調整している。
【0080】
詳しく説明すると、多量の電力が入力されることにより高温となるプラズマの温度を低温とするべく、図4に示すように、プラズマ生成用ガスをガス配管6を介して、液体窒素を用いた冷却器7を通し、プラズマ生成用ガスの温度を低温にした状態でプラズマ源4に導入する。この状態で、プラズマ源4の手前のガス配管8でプラズマ生成用ガスの温度をプラズマ生成用ガス温度測定部9により測定するとともに、プラズマ源4のプラズマが噴出する噴出口10でプラズマの温度をプラズマ温度測定部11により測定し、プラズマ生成用ガス温度制御部3にプラズマ生成用ガスの温度およびプラズマの温度をフィードバックして、プラズマ生成用ガスの温度を適切に冷却するように制御することによってプラズマの温度を精密に調整している。
【0081】
また、特に、プラズマの温度は、被処理物にダメージを与えない温度とされることが好ましい。具体的には、プラズマ生成用ガスを零度以下の低温、例えば、−70℃に冷却しして、噴射口10におけるプラズマ温度を100℃程度とすることにより、被処理物12に接触する温度を被処理物の融点以下とする。
【0082】
このように、プラズマの温度を調整可能とすることにより、プラズマ処理を行う際に、被処理物12への熱損傷の発生をを防止することができるとともに、例えば、被処理物12が樹脂材料等の耐熱温度の低い基板上に載置された状態でプラズマ処理を行う際においても、被処理物12だけでなく、樹脂材料などの耐熱温度の低い基板に対しても熱損傷を与えることなく、被処理物12を基板に載置した状態で被処理物12から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0083】
<水素ラジカルの強化・誘導方法および装置>
また、本発明のプラズマ処理装置の第2実施形態においては、図5に示すように、プラズマ源4から被処理物12に対するプラズマの照射方向(図5における下方向)において、被処理物12を挟んだ下流側に、当該被処理物12を載置もしくは被処理物12が配設された部材を載置するベース13を備えている。
【0084】
この時、プラズマ源4は、中空状のハウジング14と、前記ハウジング14の内周面に嵌合されたアルミナからなる絶縁パイプ15と、前記ハウジング14の先端部に連結され、噴出口10が形成された一方の対向電極16と、前記ハウジング14および一方の対向電極16内に収容された他方の対向電極17とを備えている。この時、一方の対向電極16と他方の対向電極17とは、一対の対向電極とされている。
【0085】
このようなプラズマ源4に対し、プラズマ生成用ガス供給部2から導入されたプラズマ生成用ガスは、ハウジング14内のガス流路18を通過した後、放電部19に供給される。さらに、一方の対向電極16と他方の対向電極17との間に電圧が印加されると、他方の対向電極17の球状部の中心部から放射状に延びる方向(以下、放電方向という。)に均一な放電が発生する。そして、噴射口10からジェット状のプラズマとして噴出されるようになっている。
【0086】
さらに、一方の対向電極16と他方の対向電極17との間には、プラズマ生成用ガスに電圧を印加するための電源5aが備えられ、一方の対向電極16とベース13との間には、バイアス電圧を印加するための電源5bが備えられている。
【0087】
本第2実施形態を用いた本発明のプラズマ処理方法は、電源5bにより、一方の対向電極16とベース13との間に、例えば、高周波電圧を印加することによってバイアス電圧を設け、電極とベースとの間の空間において発生したプラズマにエネルギーを加えることにより、噴出されてから被処理物に到達するまでの間に水素ラジカルの活性が失われることを防止することができる。また、一方の対向電極16とベース13との間に電位差を設けて、少なくとも水素ラジカルを被処理物12の方へ誘導するようにされていることにより、照射後の水素ラジカルが拡散することを防止することができる。これらの作用によって、水素ラジカルを被膜に対して効率よく接触させることができるため、被処理物から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0088】
このように、バイアス電圧によって、一方の対向電極16および他方の対向電極17とベース13との間の空間において発生したプラズマに対し、バイアス電圧によってエネルギーを与えるので、噴出されてから被処理物12に到達するまでの間に水素ラジカルの活性が失われることを防止して、水素ラジカルが高濃度な状態のプラズマを被処理物12に対して到達させることができる。
【0089】
また、バイアス電圧によってプラズマ源4とベース13とに電位差を設けて、少なくとも水素ラジカルが被処理物12の方へ誘導されるようにすることで、照射後の水素ラジカルが拡散することを防止して、水素ラジカルを被処理物12に形成した被膜に対して効率よく接触させるので、被処理物12から被膜を高速に除去することを可能とする。
【0090】
また、本発明のプラズマ処理装置の第3実施形態としては、図6に示すように、プラズマ源4に配設された他方の対向電極17に対して、電源5から正または負の電圧を印加する。さらに、電源5の他方の対向電極17が接続されていない負または正の電源5を2つに分岐するとともに、分岐された一方をコンデンサ20を介して一方の対向電極16に接続し、分岐された他方をベース13に接続して電圧を印加する。これにより、プラズマ源4とベース13との間にバイアス電圧をかけるように構成する。
【0091】
このような第3実施形態とすることにより、1つの電源5を用いてプラズマを生成するための電圧印加と、プラズマ源4とベース13との間のバイアス電圧の印加とを同時に行うことができるので、バイアス電圧を印加するための電源をさらに必要としない。
【0092】
なお、一方の対向電極16とベース13とに印加される電極を分岐する際には、コンデンサ20だけでなく、抵抗器やコイルなどを用いることも可能である。
【0093】
<実施例>
上記、本発明のプラズマ処理方法を用いて酸化被膜の除去を行った結果を以下に示す。
【0094】
被処理物12を銅板として、表面に形成した酸化被膜の除去を行った。なお、処理前の被膜の厚さは30nmであった。
【0095】
ベースガスとしてのアルゴンガス(流速5L/min)および添加ガスとして水素ガス(流速0.3L/min)を混合したプラズマ生成用ガスに対して、ヘリウムガス(流速4L/min)を添加し、高周波電源を用いて120W/cmの電力を印加して発生させたプラズマを用い、銅板を1μm/minの送りスピードで移動させた状態で前記プラズマを照射して酸化被膜の除去処理を行った。
【0096】
その結果、30nmあった酸化被膜は、1.5nmに減少しており、高速に酸化被膜の除去を実現した。この時のプラズマの温度は200℃とされており、銅板に熱損傷は認められなかった。
【符号の説明】
【0097】
1 プラズマ発生装置
2 プラズマ生成用ガス供給部
3 プラズマガス温度調整部
4 プラズマ源
5 電源
6 ガス配管
7 冷却器
8 ガス配管
9 プラズマ生成用ガス温度測定部
10 噴射口
11 プラズマ温度測定部
12 被処理物
13 ベース
14 ハウジング
15 絶縁パイプ
16 一方の対向電極
17 他方の対向電極
18 ガス流路
19 放電部
20 コンデンサ
I 被処理物層
II 被膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の表面の原子が酸素原子、窒素原子または硫黄原子のうち少なくとも1種類と結合することにより形成された被膜に対して、プラズマ生成用ガスに放電することにより発生したプラズマを照射して前記被膜中の前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子を除去するプラズマ処理方法であって、
前記プラズマは、前記プラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルと、前記プラズマ生成用ガスそのものとを含み、
前記プラズマ生成用ガスに含まれる物質から生成されたラジカルは、前記被膜に含まれる前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子を被処理物から分離させることのできる水素ラジカルを少なくとも含み、
前記被膜の除去は、除去するべき被膜中に含まれるすべての前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子を分離させるために必要な量以上の前記水素ラジカルを前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子に接触させて行うことを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項2】
前記水素ラジカルによる前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子の分離は、前記水素ラジカルが前記被膜に衝突して当該被膜から前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子をはじき出すことによる分離および/または前記水素ラジカルと前記酸素原子、窒素原子または硫黄原子との化学反応によって前記被膜を還元することによる分離であることを特徴とする請求項1に記載のプラズマ処理方法。
【請求項3】
前記水素ラジカルの量は、前記プラズマ生成用ガス中の水素原子および水素分子の濃度と、前記プラズマ生成用ガスに印加される電圧値とを制御することによって調整することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプラズマ処理方法。
【請求項4】
前記プラズマは、前記プラズマ生成用ガスの温度を制御することにより、所定温度に調整されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項5】
前記プラズマの温度は、前記被処理物にダメージを与えない温度に調整されることを特徴とする請求項4に記載のプラズマ処理方法。
【請求項6】
前記プラズマは、前記プラズマ生成用ガスに高周波電圧を印加して発生させることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記プラズマ生成用ガスは、水素ガスであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
前記プラズマ生成用ガスは、アルゴンガス、ヘリウムガス、窒素ガスおよび空気から少なくとも1つ選ばれるベースガスと、水素ガス、メタン系ガスおよびエタン系ガスから少なくとも1つ選ばれる添加ガスとの混合ガスであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項9】
前記被処理物が金属であることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項10】
前記被処理物に対する前記プラズマの照射方向において、前記被処理物の下流側には、前記被処理物を載置もしくは前記被処理物が配設される部材を載置するベースを有し、
前記プラズマ生成用ガスに電圧を印加するための電極と、前記ベースとにバイアス電圧を印加することにより、前記プラズマにエネルギーを加えるとともに、前記水素ラジカルを前記被膜に誘導することを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項11】
前記プラズマ生成用ガスをプラズマとするプラズマ源と、
前記プラズマ源に供給するプラズマ生成用ガスの温度を調整するプラズマ生成用ガス温度制御部と、
前記プラズマ源に供給するプラズマ生成用ガスの温度を測定するプラズマ生成用ガス温度測定部と、
前記プラズマ源から噴出するプラズマの温度を測定するプラズマ温度測定部とを備え、
前記プラズマ温度測定部で測定されたプラズマの温度を前記プラズマ生成用ガス温度制御部にフィードバックして、前記プラズマ生成用ガスの温度を制御することを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記プラズマ源には、一対の対向電極が配設され、
前記プラズマ源から前記被処理物に対してプラズマが照射される照射方向において、前記被処理物の下流側には、前記被処理物を載置もしくは前記被処理物が配設される部材を載置するベースが配設され、
前記一対の対向電極の一方の電極と、前記ベースとにバイアス電圧を印加するための電源が配設され、前記バイアス電圧を印加して、前記プラズマ源と前記ベースとの間に電位差を設けることを特徴とする請求項11に記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−212803(P2012−212803A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78120(P2011−78120)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(308024018)
【出願人】(308024029)
【Fターム(参考)】