説明

プラズマ源を用いて酸化チタンを付着する方法

本発明は、基材上における酸化チタンのコーティング膜の付着方法において、光化学的性質を備えた該コーティング膜が、特に該金属酸化物の少なくとも1種の有機金属前駆体及び/又は金属ハロゲン化物を含むガス混合物から、気相において化学的に蒸着され、しかもこの蒸着がプラズマ源により援助されることを特徴とする方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒性質を有する酸化チタンベースコーティング膜を基材特に透明基材上に付着する方法に関する。それはまた、かくして得られた基材に関する。
【0002】
透明板ガラス又は様々な用品(実用透明板ガラス及び輸送機関又は建物用透明板ガラスのような)を製造するために、光触媒性質を有するコーティング膜を備えているところの、ガラス、セラミック又はガラス−セラミック基材をベースとした基材、より特にはガラス基材(特に、透明なガラス基材)をベースとした基材が知られている。
【0003】
酸化チタンベースコーティング膜の故に基材に付与された光触媒性質は、該基材に防汚機能を与える。より特には、基材の表面上に付着されるようになるようなそして付着されるようになった時の汚れ、特に、有機源の汚れ(指紋又は大気中に存在する揮発性有機物質のような)又はそれどころか曇りタイプの汚れを除去する能力があることにより、基材は外観及び表面特性を長期にわたって保持し、しかして特に清浄作業の間隔をあける及び/又は視認性を改善することを可能にする。
【0004】
金属酸化物(たとえば酸化チタンのような)をベースとした或る半導体物質は適当な波長(可視における及び/又は紫外における)の放射線の影響下で、有機物質を酸化させるラジカル反応を開始することが可能である(一般に、これらの物質は、「光触媒性」又は「光反応性」であると称される)という事実からこの清浄はもたらされることになる、ということが想起されるであろう。
【0005】
かかるコーティング膜を付着するために普通に用いられる方法の中に、数多くの公知技法があり、すなわち
【0006】
・たとえばチタンのような金属酸化物の前駆体の分解(熱分解技法:液体熱分解、粉末熱分解、CVD(化学蒸着)、ゾル−ゲル技法:浸漬又はディッピング、セル・コーティング、等)、
・真空技法(スパッタリング(反応性であろうとなかろうと))。
【0007】
第1技法すなわち熱分解による分解(安価である)は満足な結果を呈するが、しかし融通性の欠如の難点がある。これは、前駆体の分解が直接的にフロートガラスライン上で行われ、そしてコーティング膜が付着される基材の特質(組成又は性質)に関してのいかなる改変もフロートガラス原料装填条件がゆっくり適応されねばならないことを必然的に意味する故である。更に、この分解技法の欠点に関して、表面温度及び前駆体注入手段(ノズル)の温度を制御するのに或る困難性がある、ということが気づかれ得る(高温が、最適な光触媒性質を有する酸化チタンコーティング膜を得るための最も基本的なパラメーターの一つである)。加えて、熱処理の故、分解は、温度にあまり感受性でない基材(たとえば、プラスチックで作られたもの)上でのみしか行われ得ない。
【0008】
上記に挙げられた第2技法すなわち真空蒸着(たとえば、磁電管ラインを用いて)は、適当な結晶学的相を得るように、前もって真空蒸着された酸化チタンコーティング膜に関して行われる熱処理段階を必ず要求する。この加熱は直接的に磁電管(真空下にある)内で行うことは困難であり、そしてそれ故に蒸着室外で更なる操作を行うことが必要である。これは、該コーティング膜が光触媒性質を有するようにするために、酸化チタンが特に表面近くで(該性質はより大いに表面特性である)、少なくとも25%特に約30から80%の結晶化度でもって、アナターゼ形態にて、ルチル形態にて又はアナターゼ、ルチル及びブルッカイトの混合物の形態にて結晶化されることが必要である故である(用語「結晶化度」は、コーティング膜中のTiO2の重量による総量に関して結晶化TiO2の重量による量を意味すると理解される)。
【0009】
それ故、本発明の目的は、基材に関して顕著な「防汚」効果を示す且つ工業的やり方で製造され得る光触媒性コーティング膜を基材上に付着する方法であって、上記に挙げられた技法の欠点を有さない方法を開発することである。
【0010】
本発明者は、大いに驚くべきことに、光触媒性コーティング膜をガラス又は非ガラス基材上に付着するためにPECVD(プラズマ増進化学蒸着)技法を用いることが可能であることを発見した。
【0011】
この特定の技法は、導波管用品について(米国特許第5,295,220号明細書)又は核分裂トラッピング用品について(仏国特許発明第2,695,507号明細書)、酸化チタンを付着するために知られている。
【0012】
それ故、本発明の対象は、コーティング膜に光触媒性質を付与するように、有機物質の酸化を引き起こすラジカル反応を開始することが適当な波長の放射線の影響下で可能であるところの金属酸化物特に酸化チタンをベースとした半導体物質をベースとしたコーティング膜を、基材上に付着する方法において、化学蒸着により、特に該金属酸化物の少なくとも1種の有機金属前駆体及び/又は金属ハロゲン化物を含むガス混合物から、光触媒性質を備えた該コーティング膜を付着し、しかも該蒸着をプラズマ源により増進することを特徴とする方法である。
【0013】
これらの規定により、特に金属酸化物の前駆体を解離するべきプラズマ源の使用により、付着中又は付着に引き続いての、所望性質を発現させるための高温(300〜350℃を超える)における熱処理を必ずしも要求しない光触媒性コーティング膜を得ることが可能であり、しかもこれは非常に融通性もあり、また最適付着条件はもはやすぐ近くの(フロート)熱源の存在に依存しない。
【0014】
本発明の好ましい具体的態様において、次の規定の一つ又はそれ以上も随意に利用することが可能である。すなわち
− 空気、窒素、ヘリウム及びアルゴンから選ばれた少なくとも1種のキャリヤーガス又はキャリヤーガスの混合物が、前駆体を含有する混合物に並行して注入される;
− 酸化剤又は酸化剤の混合物が、ガス混合物中に組み込まれる;
− 還元剤又は還元剤の混合物が、ガス混合物中に組み込まれる;
【0015】
− 反応・付着段階が、減圧にて行われる;
− 反応・付着段階が、大気圧にて行われる;
− 光触媒性質を備えたコーティング膜に別の機能性質を付与する及び/又は該コーティング膜の該性質を強化することを可能にするように、光触媒性質を備えたコーティング膜の付着に先だって、少なくとも1層の下層が付着される;
− 少なくとも金属酸化物の有機金属前駆体及び/又は金属ハロゲン化物を含むガス混合物中に、少なくとも1つの他のタイプの無機物質、特に無定形又は部分結晶化酸化物の形態のもの、たとえば酸化ケイ素(又は酸化物の混合物)、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化コバルト、酸化ニッケル又は酸化アルミニウム(これらの酸化物は随意に混合される又はドーピングされる)が組み込まれる;
− 光触媒性質を備えたコーティング膜が、実プラズマ放電内で基材上に付着される;並びに
− 光触媒性質を備えたコーティング膜が、プラズマ放電外で基材上に付着される。
【0016】
本発明の別の側面によれば、本発明の対象はまた、上記の方法を用いて得られた基材及びまたその変型である。
【0017】
少なくとも部分的に結晶化された酸化チタンを含む光触媒性質を備えたコーティング膜が基材の諸面の少なくとも一つの少なくとも一部上に備えられているところの、ガラス、セラミック、ガラス−セラミック又はプラスチックをベースとした本基材は、該結晶化酸化チタンがアナターゼ形態に、ルチル形態に、ブルッカイト形態に又はアナターゼ、ルチル及びブルッカイトの混合物の形態にあることを特徴とする。
【0018】
好ましい具体的態様において、次の規定の一つ又はそれ以上も随意に利用することが可能である。すなわち
− 結晶化酸化チタンが、0.5と60nmの間好ましくは1から50nmの平均サイズを有する微結晶の形態にある;
− コーティング膜が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化バナジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化コバルト又は酸化ニッケルタイプの無機物質、特に無定形若しくは部分結晶化酸化物又は酸化物の混合物の形態のものも含み、しかもこれらの酸化物は混合酸化物又はドープド酸化物であることが可能である;
【0019】
− コーティング膜が、特に酸化チタンの結晶格子をドーピングすることによって又はコーティング膜の表面ドーピングによってコーティング膜の吸収バンドを増大することにより及び/又は電荷担体の数を増加することにより並びに/あるいはコーティング膜の少なくとも一部を触媒で覆うことによって光触媒反応の効率及び速度を増加することにより、酸化チタンに因る光触媒効果を拡大することの可能な添加剤を含む;
− 酸化チタンの結晶格子が、特に金属又は非金属元素の少なくとも一つにより、ドーピングされる;
− コーティング膜の厚さが、5nmと1ミクロンの間好ましくは5から100nmである;
− コーティング膜の光触媒活性が、TAS試験により測定して少なくとも5×10-3cm-1・min-1である;
− 光触媒性コーティング膜のrms粗さが、2と20nmの間特に5と20nmの間にある;
【0020】
− 光触媒性コーティング膜の光反射が、無彩色に関して30%より少なく、好ましくは20%より少ないか又は等しい;
− 光触媒性コーティング膜の吸収が、10%より少ない好ましくは5%より少ない;
− 帯電防止の、熱的若しくは光学的機能を有する又は基材由来のアルカリ金属の移行に対するバリヤーを形成する少なくとも1つの薄膜が、光触媒性質を備えたコーティング膜の下に置かれる;
− 可能的に制御分極でもっての帯電防止機能を有する並びに/あるいは熱的及び/又は光学的機能を有する該薄膜が、金属タイプの又はドープド金属酸化物タイプ(ITO、F:SnO2、Sb:SnO2、In:ZnO、F:ZnO、Al:ZnO又はSn:ZnOのような)若しくは酸素が化学量論量未満の金属酸化物(SnO2-x又はZnO2-x(ここで、x<2)のような)の導電性物質をベースとしている;
【0021】
− 光学的機能を有する該薄膜が酸化物又は酸化物の混合物をベースとしており、しかもその屈折率がコーティング膜の屈折率と基材の屈折率の中間にあり、特に、次の酸化物すなわちAl23、SnO2及びIn23から選ばれたもの、又はオキシ炭化ケイ素若しくはオキシ窒化ケイ素をベースとしたもの、あるいは随意に高屈折率の物質と低屈折率の物質の混合物(Al23/TiO2、Al23/SiO2、Al23/SnO2、SnO2/TiO2、等)をベースとしたものである。
【0022】
− アルカリ金属バリヤー機能を有する該薄膜又は多層膜が、たとえばケイ素の酸化物、窒化物、オキシ窒化物若しくはオキシ炭化物、F:Al23又はF:SnO2、窒化アルミニウム又は窒化ケイ素をベースとしている;
− 基材が、透明で、平らな又は湾曲した基材である;
− 基材が、ガラス基材である;並びに
− 基材が、ポリマー特にPMMA、ポリカーボネート又はPENをベースとした基材である。
【0023】
本発明の別の側面によれば、本発明の対象は、有機及び/又は無機汚れに関して「セルフクリーニング性」、防曇性及び/又は防汚性である透明板ガラスの製品のために上記に記載されたとおりの基材が組み込まれている「防汚性及び/又は防曇性」の、モノリシック、多重(二重)又は合わせ透明板ガラスアセンブリー、特に、二重透明板ガラスタイプの建物用窓、自動車、列車及び航空機用のウインドシールド、リヤウインドウ若しくはサイドウインドウタイプの輸送機関用窓、又は水槽用、陳列窓用、温室用、室内装備品用、都市設備用のガラスのような実用透明板ガラス、あるいは鏡、テレビスクリーン、又は電気制御可変吸収性を備えた透明板ガラス、等である。
【0024】
本発明の他の特徴及び利点は、その具体的態様の一つ(これは非限定的例として与えられている)の以下の説明の進行中に明らかになる。
【0025】
好ましい具体的態様によれば、ガラス、セラミック若しくはガラス−セラミック(特にガラス)をベースとした透明基材又はポリマーをベースとした基材上に付着して、その諸面の少なくとも一つの少なくとも一部上に、光触媒性質を有するコーティング膜(たとえば、少なくとも部分的に結晶化された酸化チタンを含む)が備えられることが意図されている。酸化チタンは、好ましくは、コーティング膜が基材上に形成されつつある間に「その場で」結晶化される。本発明によれば、基材由来のアルカリ金属の移行に対するバリヤーを形成する少なくとも1つの薄膜もまた、本コーティング膜の下に置かれる。
【0026】
酸化チタンは、実際に、可視又は紫外範囲の光の作用に暴露された場合、表面上に付着されている有機物質を分解する半導体の一つである。それ故、「防汚」効果を備えた透明板ガラスの製造のために酸化チタンの選択が特に指摘され、しかもこの酸化物は良好な機械及び化学抵抗を示すのでなおさらそうである。長時間有効であるために、数多くの形態の攻撃に直接的に暴露される場合でさえ、特に透明板ガラスが現場で(建物について)又は生産ラインで(輸送機関について)取り付けられつつある場合(機械式又は空気式掴み手段により繰り返し取り扱われることを伴う)に、及びまたいったん透明板ガラスが摩耗の危険性(ウインドシールドのワイパー又は研磨布により)又は攻撃性化学薬品(SO2タイプの大気汚染物質、清浄製品、等)との接触の危険性のある所定場所に置かれた場合に、コーティング膜がその完全な状態を保持することが無論重要である。
【0027】
特にアナターゼ形態における結晶化の場合において、基材上で成長するTiO2結晶の配向がこの酸化物の光触媒性能特性に影響を及ぼすことも観察され、しかして光触媒反応を明らかに利する(110)配向が好ましい。
【0028】
コーティング膜は、それが含有する結晶化酸化チタンが少なくとも表面近くで0.5と100nmの間好ましくは1から50nmの平均サイズを有する「微結晶」すなわち単結晶の形態になるように生成され、何故なら酸化チタンが最適光触媒効果を有するように思えるのはこのサイズ範囲にあるからである(たぶんこのサイズの微結晶が大きい活性表面積を発現する故に)。
【0029】
コーティング膜はまた、結晶化酸化チタンは別として、少なくとも1つの他のタイプの無機物質、特に無定形又は部分結晶化酸化物の形態のもの、たとえば酸化ケイ素(又は酸化物混合物)、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム又は酸化アルミニウムを含み得る。この無機物質もまた、結晶化TiO2の光触媒効果と比較してわずかであるけれども単独で或る光触媒効果を有するので、結晶化酸化チタンの光触媒効果に寄与し得る(無定形酸化チタン又は酸化スズについて当てはまる)。
【0030】
かくして少なくとも部分的に結晶化された酸化チタンと少なくとも1種の他の酸化物とを併せ持つ「混合」酸化物膜は、より特にはかかるその他の酸化物(1種又は複数種)がTiO2の屈折率より低い屈折率を有するように選ばれる場合、光学的観点から有益であり得、しかして「総合」屈折率を下げることにより、コーティング膜を備えた基材の光反射を変動すること、特にこの反射を下げることが可能である。これは、たとえばTiO2/Al23膜(この膜を得る一つのやり方が欧州特許第0,465,309号明細書に記載されている)又はTiO2/SiO2膜が選ばれる場合に当てはまる。しかしながら、コーティング膜が認められ得る光触媒活性を保持するのに十分なTiO2含有率を有すること、並びにTiO2が結晶化されたままであることが無論必要である。かくして、コーティング膜がコーティング膜中の酸化物の総重量に関して少なくとも40重量%特に少なくとも50重量%のTiO2を含有することが、好ましいと考えられる。
【0031】
本発明によるコーティング膜の酸化チタンの光触媒効果を増すために、第1に、他の元素、特に随意にドーピングされたカドニウム、スズ、タングステン、亜鉛、セリウム又はジルコニウムをベースとした金属元素及び非金属元素をコーティング膜中に組み込むことにより、コーティング膜の吸収バンドを増大することが可能である。
【0032】
電荷担体の数もまた、次の金属元素、すなわちニオブ、タンタル、鉄、ビスマス、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、セリウム、モリブデン、等、又は非金属元素(窒素、炭素、フッ素)の少なくとも一つを酸化チタンの結晶格子中に挿入することによって酸化チタンの結晶格子をドーピングすることにより増加され得る。
【0033】
非常に驚くべきことに、コーティング膜は、実際に、それが可視及び/又は紫外範囲においてのような適当な放射線(太陽放射線のような)に暴露される場合、1つではなくて2つの性質を有する。既に分かっているように、光触媒性酸化チタンの存在は、蓄積するようなそして蓄積した時の有機源のいかなる汚染についても漸進的消失に通じる(それをラジカル酸化プロセスによって分解させることにより)。いかなる無機汚れも、このプロセスにより分解されない。それ故にそれは表面上に残存し、そして或る結晶化形態は別として、それは部分的に容易に除去され得、何故なら接着性有機作用物質が光触媒反応により分解されているのでそれはもはや表面に固着するべきいかなる根拠も有さないからである。
【0034】
しかしながら、本発明の永続的にセルフクリーニング性のコーティング膜はまた、好ましくは、3つの高度に有利な効果を引き起こすところの顕著な親水性及び/又は親油性を示す外面を有する。すなわち
【0035】
・親水性は、コーティング膜上に付着され得る水の完全なヌレを可能にする。水が凝縮する時、それは視認性を妨げる曇りの形態の水滴の付着物としてではなくて、実際にはコーティング膜の表面上に形成する且つ全く透明である薄い連続的な水膜として凝縮する。この「防曇」効果は、特に、光への暴露後に5゜より小さい測定水接触角により実証される;並びに
【0036】
・光触媒性膜で処理されていない表面を水特に雨が流れた後、雨水の数多くの滴が表面にくっついたままであり、そしてそれらが蒸発すると、それらは魅力のない不快な跡(主として無機源のもの)を残す。これは、周囲空気に暴露された表面が急速に汚れの膜で覆われるようになり、しかして水により濡らされるべきその能力を制限する故である。かかる汚れに続いて、他の汚れ、特に透明板ガラスが浸される雰囲気によって供給される無機(結晶化されたもの、等)タイプの汚れが生じる。光反応性表面の場合において、この無機汚れは、直接的には光触媒反応により分解されない。実際には、それは、光触媒活性によって誘起される親水性に因り非常に大部分除去される。この親水性は、雨滴が完全に広がるようにする。それ故、もはや蒸発の跡は何ら存在しない。加えて、表面上に存在するいかなる他の無機汚れも水膜により洗い流されるか又は結晶化の場合においては溶解され、そしてそれ故大部分除去される。達成されるものは「無機防汚」効果(特に雨により誘起される)であり、また
【0037】
・親水性と一緒に、コーティング膜はまた親油性を示し得、しかしていかなる有機汚れについても「ヌレ」を可能にし、そして該有機汚れは水の場合においてのように、この場合には、高度に局在された「染み」よりも見えにくい連続膜の形態にてコーティング膜上に付着される傾向にある。かくして達成されるものは、2つの段階で起こる「有機防汚」効果である。すなわち、該汚れがコーティング膜上に付着されるとすぐに、それは既にかろうじてしか見え得なくなり、そしてその後にそれは光触媒誘起ラジカル分解により漸進的に消失する。
【0038】
コーティング膜は比較的平滑な表面を有するように選ばれ得るが、しかし或る粗さが望ましくあり得る。すなわち
【0039】
・それにより、より高い光触媒活性表面積が発現するようにされ、そしてそれ故光触媒活性は増加される;
【0040】
・粗さはヌレに対して直接的影響を及ぼし、何故ならそれは湿潤性を高めるからである。平滑な親水性表面は、それが粗くされると更に一層親水性になる。用語「粗さ」は、本明細書において、表面粗さ、及びその厚さの少なくとも一部内の層又は下層における多孔性によって引き起こされた粗さの両方を意味するように理解されるべきである。
【0041】
上記の効果は、コーティング膜が多孔質で粗くなればなるほど一層顕著になる(従って、粗い光反応性表面に対する超親水性効果)。しかしながら、あまりにも顕著である場合は、粗さは、汚れの殻生成及び蓄積に通じることにより及び/又は光学的に受容され得ないレベルのヘーズの出現により有害であり得る。
【0042】
かくして、TiO2コーティング膜が約2から20nm好ましくは5から15nmの粗さを有するようにそれらが付着されるやり方を適応させることが有益であることが判明し、しかしてこの粗さは、原子間力顕微鏡法により、1ミクロン平方の表面にわたって根平均二乗(rms)偏差を測定することによって決定される。かかる粗さの場合には、コーティング膜は親水性であると共に、1゜くらいに低くあり得る水接触角を有する。コーティング膜の厚さ内に或る程度の多孔性を促進することが有利であることも分かった。かくして、コーティング膜がTiO2のみから成る場合、それは好ましくは約65から99%特に70から90%の多孔度を有し、しかして多孔度は本明細書において、約3.8であるTiO2の理論密度に対する百分率により間接的に定められる。
【0043】
本発明によるコーティング膜の厚さは変動し得、しかしてそれは好ましくは5nmと1ミクロンの間好ましくは5と100nmの間特に10と80nmの間又は15と50nmの間にある。実際には、厚さの選択は、様々なパラメーターに、特に、透明板ガラスタイプの基材の予定用途に又はコーティング膜中のTiO2微結晶のサイズに若しくは基材中の高アルカリ金属含有率の存在に依存し得る。
【0044】
高い及び低い屈折率の薄膜が交互にある「反射防止」薄膜多層もまた想定され得、しかして本発明によるコーティング膜が該多層の最後の膜を構成する。この場合において、コーティング膜が比較的低い屈折率を有することが好ましく、しかしてこれはそれが混合チタンケイ素酸化物から成る場合に当てはまる。
【0045】
帯電防止機能及び/又は熱的(加熱(電流リード線を備えることにより)、低放射率、ソーラープロテクション、等)機能を備えた膜が、特に、銀のような金属タイプの導電性物質、あるいはスズドープド酸化インジウムITO、酸化スズであってしかもフッ素タイプのハロゲンでドーピングされた酸化スズF:SnO2若しくはアンチモンでドーピングされた酸化スズSb:SnO2、又はインジウムドープド酸化亜鉛In:ZnO、フッ素ドープド酸化亜鉛F:ZnO、アルミニウムドープド酸化亜鉛Al:ZnO若しくはスズドープド酸化亜鉛Sn:ZnOのようなドープド金属酸化物タイプの導電性物質をベースとするように選ばれ得る。それはまた、SnO2-x又はZnO2x(ここで、x<2)のような、酸素が化学量論量未満の金属酸化物であり得る。
【0046】
帯電防止機能を備えた膜は、好ましくは、20から1000オーム/□の表面抵抗値を有する。それはまた、それを分極するように電流リード線を備え得る(たとえば5と100Vの間の供給電圧)。この制御分極は、特に、コーティング膜上に付着されやすい1ミリメートル程度のサイズを有する塵埃粒子、特に静電効果によってくっつく乾燥塵埃粒子の付着を防除することを可能にする。膜の分極を突然逆にすることにより、この塵埃は「放逐」される。
【0047】
光学的機能を有する薄膜は、光反射を減じる及び/又は反射における基材の色をより無彩にするように選ばれ得る。この場合において、それは好ましくはコーティング膜の屈折率と基材の屈折率の中間の屈折率及び適切な光学的厚さを有し、そしてそれは酸化アルミニウムAl23、酸化スズSnO2、酸化インジウムIn23、オキシ炭化ケイ素又はオキシ窒化ケイ素タイプの酸化物又は酸化物の混合物から成り得る。反射における色の最大減衰を達成するために、この薄膜が、その両側にある二つの材料すなわち基材及び本発明によるコーティング膜の屈折率の平方の積の平方根に近い屈折率を有することが好ましい。同時に、λ/4(λは可視光におけるおおよそ平均波長、特に約500から550nmである)に近いその光学的厚さ(すなわち、その屈折率が乗じられたその幾何学的厚さ)を選ぶことが有利である。
【0048】
アルカリ金属バリヤー機能を備えた薄膜は、特に、ケイ素の酸化物、窒化物、オキシ窒化物若しくはオキシ炭化物をベースとする、フッ素含有酸化アルミニウムF:Al23をベースとする、又は窒化アルミニウムをベースとする、あるいはそうでなければSnO2をベースとするように選ばれ得る。実際に、これは基材がガラスから作られている場合に有用であることが判明し、何故なら本発明によるコーティング膜中へのナトリウムイオンの移行は或る条件下でその光触媒性質を損ない得るからである。
【0049】
基材の又は下層の特質もまた追加の有益性を有し、しかしてそれは、特にプラズマ増進CVD付着の場合において、好ましくは減圧にて又は更に一層好ましくはAPPECVD(大気圧プラズマ増進化学蒸着)による大気圧にて、付着される光触媒性膜の結晶化を促進する。
【0050】
これらの随意薄膜はすべて、公知のやり方で、スパッタリングタイプの真空技法により、又は固体、液体若しくは蒸気相における熱分解のような熱分解タイプの他の技法により付着され得る。上記に挙げられた膜の各々はいくつかの機能を併せ持ち得るが、しかしそれらを重ね合わせることも可能である。
【0051】
本発明の対象はまた、透明板ガラスがモノリシックであろうと、二重透明板ガラスタイプの絶縁性多重透明板ガラスであろうと又は合わせであろうと、「防汚性」(汚れが有機及び/又は無機であろうと)及び/又は「防曇性」の透明板ガラスアセンブリーであって、上記に記載された基材が組み込まれている透明板ガラスアセンブリーである。
【0052】
それ故、本発明は、ガラス、セラミック又はガラス−セラミック製品の製造、最も特には「セルフクリーニング性」の透明板ガラスアセンブリーの製造に関する。これらは、有利には、二重透明板ガラスのような建物用透明板ガラスであり得る(コーティング膜は、その場合には、「外側」に及び/又は「内側」に、すなわち面1に及び/又は面4に置かれ得る)。
【0053】
これは、屋根窓、空港の窓、等のような、清浄にされるための接近があまり可能でない及び/又は非常に頻繁に清浄にされねばならない窓の場合において、格別有益であることが判明する。それはまた、視認性の保持が必須の安全基準である輸送機関の窓用の透明板ガラスであり得る。かくして、本コーティング膜は、車のウインドシールド、サイドウインドウ又はリヤウインドウ上に、特に乗員室の内側に向けられる窓の面上に置かれ得る。それ故、本コーティング膜は、曇りの形成を防止し得る並びに/あるいは指紋、ニコチン、又は乗員室の内側に装備されているところのプラスチック特にフェーシアのプラスチックにより「放出」される揮発性可塑剤タイプの有機物質(かかる放出物は時には曇りとして知られている)を含むタイプの汚れの跡を除去し得る。
【0054】
航空機又は列車のような他の輸送機関もまた、本発明のコーティング膜を備えた透明板ガラスの使用から利益を得り得る。
【0055】
数多くの他の適用が可能であり、特に、水槽用ガラス、陳列窓、温室及びポーチについて並びに室内装備品又は都市設備用に用いられるガラスについての適用、しかしまた鏡、スペクタクルメーキングの分野におけるテレビスクリーン、又はカーテン壁材、外装材若しくは屋根材タイプのいかなる建築材料(タイルのような)についても適用が可能である。
【0056】
かくして、本発明は、これらの公知製品に紫外線防止、防汚、殺細菌、反射防止、帯電防止、抗微生物、等の性質を付与することにより、それらを機能的にすることを可能にする。
【0057】
本発明によるコーティング膜の別の有利な適用は、エレクトロクロミック又は光起電性透明板ガラス、液晶透明板ガラス(可能的に二色性染料を有する)、懸濁粒子の系を有する透明板ガラス、ビオロゲンを基剤とした透明板ガラス、等を含むタイプの電気制御可変吸収性を有する透明板ガラスと組み合わせることに存する。かかる透明板ガラスはすべて一般に「活性」要素が間に置かれているところの複数の透明基材から成るので、その場合にはこれらの基材の少なくとも一つの外面上にコーティング膜を置くことが有利であり得る。
【0058】
特にエレクトロクロミック透明板ガラスの場合において、この透明板ガラスが着色状態にある場合、その吸収は或る量の表面加熱をもたらすことになり、しかしてその結果として、本発明によるコーティング膜上に付着された炭素質物質の光触媒分解を加速しがちである。エレクトロクロミック透明板ガラスの構造に関してのより多くの詳細については、読者は、有利には、エレクトロクロミック合わせ二重透明板ガラスを記載している欧州特許出願公開第0,575,207号明細書を参照し得、しかして本発明によるコーティング膜は好ましくは面1上に置かれることが可能である。
【0059】
それ故、この金属酸化物コーティング膜は、特に該金属酸化物(我々の場合においては、たとえば酸化チタン)の少なくとも1種の有機金属前駆体及び/又は金属ハロゲン化物を含むガス混合物を用いての、化学蒸着から成るAPPECVD技法を用いて、蒸着をプラズマ源によって増進することにより生成される。
【0060】
選ばれる光触媒性半導体物質は、酸化チタンである。用いられ得る他のかかる物質がある(読者は、本出願人の仏国特許発明第2,738,813号明細書を参照し得る)。半導体物質は、その光触媒性能を改善するために又は光学的ギャップを調整するためにドーピング(N、F、Pt、Pd、金属類、等でもって)され得、そしてかくして太陽スペクトルの様々な波長(UV、可視)に適合され得る。
【0061】
用いられるガス混合物は、有機金属前駆体及び/又は金属ハロゲン化物が組み込まれる。酸化チタンの場合において、TiCl4、TiPT、Tiエトキシド(ブトキシド、等)、Tiジイソプロポキシドビス(アセチルアセトネート)及びチタン(III)トリス(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオネート)が挙げられ得る。
【0062】
このガス混合物はまた少なくとも1種の酸化剤若しくは酸化剤の混合物(空気、O2、CO2、N2O、有機化合物(アルコール、エステルのような)、等)又は少なくとも1種の還元剤若しくは還元剤の混合物(H2、炭化水素、等)を含み得、そして用いられるキャリヤーガスは空気、窒素、ヘリウム若しくはアルゴン又はこれらのガスの混合物である。好ましくは、それは主としてヘリウム及び/又は窒素及び/又はアルゴンから成る。
【0063】
ドーパント又は混合ドーパントに関して、金属について用いられる前駆体(有機金属化合物/ハロゲン化物)の同じ範囲が用いられ得る。フッ素の場合において、たとえばトリフルオロ酢酸(TFA)、HF、NF3、等を用いることが可能である。窒素の場合において、NH3又はアミン(第1級、第2級又は第3級)を用いることが可能である。チタン及びドーパントの両方を含有する前駆体(たとえばテトラキス(ジエチルアミノ)チタン、テトラキス(ジメチルアミノ)チタン又はテトラクロロジアミノチタン、等)を用いることも可能である。
【0064】
反応性ガス混合物は、次いでプラズマ源により、直接的にプラズマ内で又は間接的に(移行式アーク又はブローンアークプラズマ)のどちらかにて解離される。基材とプラズマ源が組み込まれている付着帯域とが相対変位を受けながら、光触媒性質を有する金属酸化物が、基材の諸面の少なくとも一つの少なくとも一部にわたって、連続的に且つ一様に付着される。
【0065】
コーティング膜を単一工程にてでなくて少なくとも2つの順次工程にて付着することも有利であり得る。これは、コーティング膜が比較的厚くなるように選ばれる場合において、コーティング膜の全厚を通じて酸化チタンの結晶化を促進するように思える。
【0066】
同様に、TiO2が形成すると、光触媒性質を有するコーティング膜を、その結晶化度を改善するように、付着後の熱処理又はプラズマ処理に付すことが有利であり得る。選ばれる処理温度は、更に、酸化物の結晶化度及び結晶特質(アナターゼ及び/又はルチル)がより良好に制御されるようにし得る。
【0067】
プラズマ源が付着される金属酸化物の所望結晶学的性質を獲得するのに十分な熱エネルギー(基材を加熱する必要なしに)を、ガラス基材の場合においては実質的に300℃未満にてそしてプラスチック(たとえばPMMA、ポリカーボネート又はPEN)基材の場合においては実質的に130℃未満にて与え得るので、本発明の付着方法は有利である。この場合において、バリヤー層が、基材と光触媒性質を有する膜の間に置かれる。
【0068】
しかしながら、ソーダ石灰ガラス基材の場合において、数多くの及び長期のアニーリング処理は、基材から光反応性膜中へのアルカリ金属の過度の移行の故、光触媒活性を減衰し得る。基材(それが標準ガラスから作られている場合)とコーティング膜の間のバリヤー層の使用、又は適当な組成のガラスから作られた基材の選択、あるいはそうでなければ表面が脱アルカリされたソーダ石灰ガラスの選択が、この危険性を回避する。
【0069】
本発明の変型によれば、コーティング膜は、材料中の電荷担体の再結合を防止することにより、酸化チタンに因る光触媒効果を拡大することの可能な添加剤を含む。
【0070】
例として、厚さ4mmの清澄なシリカ−ソーダ石灰透明ガラス基材を用いた。本発明はこの特定タイプのガラスに限定されない、ということは言うまでもない。更に、ガラスは平らである必要はなくて、湾曲され得る。
【0071】
第1の具体的態様によれば、TiCl4から得られたTiO2膜が、大気圧にて操作する均質放電により付着された。
【0072】
260℃の温度に加熱された清浄なガラス基材上に、薄いTiO2膜を付着した。導入されたガス混合物は、ヘリウム(He)及び酸素(O2)から成っていた。これらのガスのそれぞれの流量は、14slpm及び1sccmであった。有機金属前駆体すなわち四塩化チタン(TiCl4)を、0.5リットルバブラー中に注いだ。有機金属蒸気を輸送するために、このバブラーを10℃に加熱し、そしてキャリヤーガス(He)を該バブラー中に140sccmの流量でもって注入した。平衡において、反応器中の総圧を1013mbar±50mbarに維持した。アルミナ誘電体バリヤー(0.5mm±0.1mm)で覆われた電極を5mm離し、そして25kHzの周波数でもって1.1ボルトrms正弦波AC電圧を供給した。これらの条件下で、一様なTiO2コーティング膜が付着された。
【0073】
上記の付着条件下で、厚さ220nmの薄いTiO2膜が得られた。この膜は、光触媒活性を有していた。
【0074】
TAS試験(10%以内まで正確)は、1時間後に50%ピーク空気低減と共に、12×10-3cm-1・min-1のKを与えた。この試験は、たとえば国際公開第01/32578号パンフレットに記載されている。
【0075】
ラマン分光分析は、TiO2がアナターゼ形態にて結晶化したことを示した。
【0076】
第2の例示的例によれば、TipTから得られたTiO2膜が、大気圧にて操作する均質放電により付着された。
【0077】
235℃の温度に加熱された清浄なガラス基材上に、薄いTiO2膜を付着した。導入されたガス混合物は、ヘリウム(He)及び酸素(O2)から成っていた。これらのガスのそれぞれの流量は、11slpm及び20sccmであった。有機金属前駆体すなわちTipT(チタンテトライソプロポキシド)を、0.5リットルバブラー中に注いだ。有機金属蒸気を輸送するために、このバブラーを50℃に加熱し、そしてキャリヤーガス(He)を該バブラー中に500sccmの流量でもって注入した。平衡において、反応器中の総圧を1013mbar±50mbarに維持した。アルミナ誘電体バリヤー(0.5mm±0.1mm)で覆われた電極を6mm離し、そして10kHzの周波数にて1.1ボルトrms正弦波AC電圧を供給した。
【0078】
これらの条件下で、一様なTiO2コーティング膜が付着された。かくして付着された薄いTiO2膜は260nmの厚さを有し、そして光触媒活性を有していた。TAS試験(10%以内まで正確)は、1時間後に24%ピーク空気低減と共に、8×10-3cm-1・min-1のKを与えた。
【0079】
同様に、ラマン分析は、TiO2がルチル形態にて結晶化したことを示した。
第3の例示的例によれば、TiCl4から得られたTiO2膜が、大気圧にて操作する均質放電により付着された。付着条件は第1の例のものと同一であったが、しかし時間はより大きい膜厚を得るように減じた。例1の条件下で付着された54nm厚のこの薄いTiO2膜は、光触媒活性を有していた。TAS試験(10%以内まで正確)は、1時間後に16%ピーク空気低減と共に、4×10-3cm-1・min-1のKを与えた。
【0080】
下記の表に要約されている光学的測定は、膜が吸収剤でないことを示す(裸ガラスの吸収は1.5と2の間にある)。
【表1】

【0081】
これらの三つの例示的例は、バリヤー層がTiO2膜と基材の間に置かれることなく生成された、ということが留意されるべきである。
【0082】
第4の例示的例によれば、260℃の温度に加熱された清浄なガラス基材上に、TiO2膜が付着された。導入されたガス混合物は、窒素(N2)及び酸素(O2)から成っていた。窒素の流量は10slpmであると共に、O2は150ppmであった。有機金属前駆体すなわち四塩化チタン(TiCl4)を、0.5リットルバブラー中に注いだ。有機金属蒸気を輸送するために、このバブラーを10℃に加熱し、そしてキャリヤーガス(He)を該バブラー中に140sccmの流量でもって注入した。平衡において、反応器中の総圧を1013mbar±50mbarに維持した。アルミナ誘電体バリヤー(0.5mm±0.1mm)で覆われた電極を5mm離し、そして5kHzの周波数にて1.5ボルトrms正弦波AC電圧を供給した。これらの条件下で、一様なTiO2膜が付着され、アナターゼ形態にて結晶化され、そして11×10-3cm-1・min-1の光触媒活性を有しており、また膜厚は約150nmであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング膜に光触媒性質を付与するように、有機物質の酸化を引き起こすラジカル反応を開始することが適当な波長の放射線の影響下で可能であるところの金属酸化物特に酸化チタンをベースとした半導体物質をベースとしたコーティング膜を、基材上に付着する方法において、化学蒸着により、特に該金属酸化物の少なくとも1種の有機金属前駆体及び/又は金属ハロゲン化物を含むガス混合物から、光触媒性質を備えた該コーティング膜を付着し、しかも該蒸着をプラズマ源により増進することを特徴とする方法。
【請求項2】
空気、窒素、ヘリウム及びアルゴンから選ばれた少なくとも1種のキャリヤーガス又はキャリヤーガスの混合物を、前駆体を含有する混合物に並行して注入することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
酸化剤又は酸化剤の混合物をガス混合物中に組み込むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
還元剤又は還元剤の混合物をガス混合物中に組み込むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
反応・付着段階を減圧にて行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
反応・付着段階を大気圧にて行うことを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
光触媒性質を備えたコーティング膜に別の機能性質を付与する及び/又は該コーティング膜の該性質を強化することを可能にするように、光触媒性質を備えたコーティング膜の付着に先だって、少なくとも1層の下層を付着することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも金属酸化物の有機金属前駆体及び/又は金属ハロゲン化物を含むガス混合物中に、少なくとも1つの他のタイプの無機物質、特に無定形又は部分結晶化酸化物の形態の、また混合又はドープド形態であってもよい、酸化ケイ素(又は酸化物の混合物)、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化バナジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化ニッケル又は酸化コバルトを組み込むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
光触媒性質を備えたコーティング膜を実プラズマ放電内で基材上に付着することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
光触媒性質を備えたコーティング膜をプラズマ放電外で基材上に付着することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも部分的に結晶化された酸化チタンを含む光触媒性質を備えたコーティング膜が基材の諸面の少なくとも一つの少なくとも一部上に備えられているところの、ガラス、セラミック、ガラス−セラミック又はプラスチックをベースとした基材であって、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法を実施することにより得られた基材において、該結晶化酸化チタンがアナターゼ形態に、ルチル形態に、ブルッカイト形態に又はアナターゼ、ルチル及びブルッカイトの混合物の形態にあることを特徴とする基材。
【請求項12】
結晶化酸化チタンが、0.5と60nmの間好ましくは1から50nmの平均サイズを有する微結晶の形態にあることを特徴とする、請求項11に記載の基材。
【請求項13】
コーティング膜が、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化バナジウム、酸化アンチモン、酸化亜鉛、酸化タングステン、酸化コバルト又は酸化ニッケルタイプの無機物質、特に無定形若しくは部分結晶化酸化物又は酸化物の混合物の形態のものも含むことを特徴とする、請求項11又は12に記載の基材。
【請求項14】
コーティング膜が、特に酸化チタンの結晶格子をドーピングすることによって又はコーティング膜の表面ドーピングによってコーティング膜の吸収バンドを増大することにより及び/又は電荷担体の数を増加することにより並びに/あるいはコーティング膜の少なくとも一部を触媒で覆うことによって光触媒反応の効率及び速度を増加することにより又は材料中の電荷担体の再結合を防止することにより、酸化チタンに因る光触媒効果を拡大することの可能な添加剤を含むことを特徴とする、請求項11又は12に記載の基材。
【請求項15】
酸化チタンの結晶格子が、特に金属又は非金属元素の少なくとも一つにより、ドーピングされていることを特徴とする、請求項14に記載の基材。
【請求項16】
コーティング膜の厚さが、5nmと1ミクロンの間好ましくは5から100nmであることを特徴とする、請求項11〜15のいずれか一項に記載の基材。
【請求項17】
コーティング膜の光触媒活性が、TAS試験により測定して少なくとも5×10-3cm-1・min-1であることを特徴とする、請求項11〜16のいずれか一項に記載の基材。
【請求項18】
光触媒性コーティング膜のrms粗さが、2と20nmの間特に5と20nmの間にあることを特徴とする、請求項11〜17のいずれか一項に記載の基材。
【請求項19】
光触媒性コーティング膜の光反射が、無彩色に関して30%より少なく、好ましくは20%より少ないか又は等しいことを特徴とする、請求項11〜18のいずれか一項に記載の基材。
【請求項20】
光触媒性コーティング膜の吸収が、10%より少ない好ましくは5%より少ないことを特徴とする、請求項11〜18のいずれか一項に記載の基材。
【請求項21】
帯電防止の、熱的若しくは光学的機能を有する又は基材由来のアルカリ金属の移行に対するバリヤーを形成する少なくとも1つの薄膜が、光触媒性質を備えたコーティング膜の下に置かれていることを特徴とする、請求項11〜19のいずれか一項に記載の基材。
【請求項22】
可能的に制御分極でもっての帯電防止機能を有する並びに/あるいは熱的及び/又は光学的機能を有する薄膜が、金属タイプの又はドープド金属酸化物タイプ(ITO、Sb:SnO2、F:SnO2、In:ZnO、F:ZnO、Al:ZnO又はSn:ZnOのような)若しくは酸素が化学量論量未満の金属酸化物(SnO2-x又はZnO2-x(ここで、x<2)のような)の導電性物質をベースとしていることを特徴とする、請求項21に記載の基材。
【請求項23】
光学的機能を有する薄膜が酸化物又は酸化物の混合物をベースとしており、しかもその屈折率がコーティング膜の屈折率と基材の屈折率の中間にあり、特に、次の酸化物すなわちAl23、SnO2及びIn23から選ばれたもの、又はオキシ炭化ケイ素若しくはオキシ窒化ケイ素をベースとしたもの、あるいは高屈折率の物質と低屈折率の物質の混合物をベースとした混合酸化物であることを特徴とする、請求項21に記載の基材。
【請求項24】
アルカリ金属バリヤー機能を有する薄膜が、ケイ素の酸化物、窒化物、オキシ窒化物若しくはオキシ炭化物、F:Al23、窒化アルミニウム、SnO2又は窒化ケイ素をベースとしていることを特徴とする、請求項21に記載の基材。
【請求項25】
基材が、透明で、平らな又は湾曲した基材であることを特徴とする、請求項11〜24のいずれか一項に記載の基材。
【請求項26】
基材が、ガラス基材であることを特徴とする、請求項11〜24のいずれか一項に記載の基材。
【請求項27】
基材が、ポリマー特にPMMA、ポリカーボネート又はPENをベースとした基材であることを特徴とする、請求項11〜24のいずれか一項に記載の基材。
【請求項28】
有機及び/又は無機汚れに関して「セルフクリーニング性」、防曇性及び/又は防汚性である透明板ガラスの製品のために請求項11〜27のいずれか一項に記載の基材が組み込まれている「防汚性及び/又は防曇性」の、モノリシック、多重(二重)又は合わせ透明板ガラスアセンブリー、特に、二重透明板ガラスタイプの建物用窓、自動車、列車及び航空機用のウインドシールド、リヤウインドウ若しくはサイドウインドウタイプの輸送機関用窓、又は水槽用、陳列窓用、温室用、室内装備品用、都市設備用のガラスのような実用透明板ガラス、あるいは鏡、テレビスクリーン、若しくは電気制御可変吸収性を備えた透明板ガラス、又は光電池。

【公表番号】特表2007−516343(P2007−516343A)
【公表日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518268(P2006−518268)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001673
【国際公開番号】WO2005/012593
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】