説明

プラズマ移行型ワイヤアーク溶射システム

本発明は、第一の電極としての役割を果たすワイヤ(20)を供給するための部分と、プラズマガス(16)を供給するプラズマガス源と、プラズマガス流(16)をプラズマガス源からワイヤ(20)の自由端(21)に向かわせるノズル(10)と、ノズルに向かうプラズマガス流(16)内に位置する第二の電極(30)とを備えたプラズマ移行型ワイヤアーク溶射システムに関する。本発明は、ノズル(10)が少なくとも部分的に電気的に絶縁する材料でできているという特徴がある。本発明の溶射ガンを有する溶射装置は、簡易でより速い開始手順を有し、かつ溶射ノズルは耐久性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、プラズマ移行型ワイヤアーク溶射システムおよび材料を溶射する方法、特に簡易でより速い開始手順を持つ溶射ガン付きの溶射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
溶射は、より抵抗が小さい材料に高性能で耐摩耗性のある被覆を施す用途での高度かつ経済的な技術的ソリューションを提供する。粉末またはワイヤ送給により生成される金属液滴の溶射は、金属表面に皮膜を形成する一般的な手順である。それによって、その用途で劣った特性を持つ材料でできた基板を、より高硬度でその用途について好ましいその他の特性のプラズマ溶射皮膜で被覆して、優れた特性を持つ材料から完全に成り立っている部品を持つ代わりに使用することもできる。また、それによって、高い比重量を持ちうる塗布した被覆材料の硬度と、基板材料の好ましい特性(例えば、軽重量など)を組み合わせることも可能である。
【0003】
溶射のこうした用途の典型的な例は、その用途に限定はされないが、シリンダーボア壁への低摩擦で熱伝導性被覆を持つ軽金属エンジンシリンダーブロックの被覆である。
【0004】
近年、異なるプロセス代案が開発されてきている。
【発明の概要】
【0005】
特に有用な高圧プラズマコーティングプロセスは、プラズマ移行型ワイヤアーク(「PTWA」)プロセスである。PTWAプロセスは、エンジンシリンダーボアの被覆など、様々な用途の高品質の金属性塗膜を形成することができる。PTWAプロセスにおいて、プラズマトーチの出口にある空間の小領域に高圧プラズマが生成される。金属性ワイヤがこの領域に連続的に供給され、そこでワイヤが溶け、霧状になり、液滴がプラズマによって運び去られる。プラズマトーチから出る高速ガスは、溶解した金属を被覆する表面に向かわせる。PTWAシステムは、高圧プラズマシステムである。具体的には、PTWA溶射プロセスは、圧縮したプラズマアークを使用してワイヤまたはロッドの先端を溶かし、溶けた材料をくびれたオリフィスから出る部分的にイオン化したガスプラズマ高速ジェットで取り除くことにより、供給原料の材料を通常は金属のワイヤまたはロッドの形態に溶かす。イオン化ガスは、プラズマとも呼ばれ、それゆえプロセスの名前となっている。プラズマアークは、一般に10.000〜14.000℃の温度で動作する。プラズマアークは、アーク放電によって少なくとも部分的にイオン化された状態に加熱され、電流を導通できるガスである。
【0006】
プラズマは、どのようなアーク放電にも存在するが、この用途の関連では、プラズマアークという用語は、くびれたアークを利用するプラズマ発生器に関連する。プラズマアーク装置をその他のタイプのアーク発生器から区別する機能の一つは、所定の電流およびプラズマガス流速について、くびれのあるアーク装置ではアーク電圧が著しく高いことである。さらに、くびれのあるアーク装置によって、余分なエネルギーを持つ全てのガス流が、くびれたオリフィスを通すように向けられ、その結果、非常に高速の出口ガス速度、一般に超音速の域となる。狭窄のあるプラズマトーチには、非移行モードと移行モードの二つの動作モードがある。非移行型のプラズマトーチには、ノズルの形態の第一の電極および第二の電極がある。一般には、実用的な考慮事項では、プラズマアークをノズル内に、アークが内側ノズル壁で終わるように保つことが望ましい。しかしながら、一定の動作状態下では、アークをノズル穴の外側まで延ばしてから折り畳み、ノズルを狭窄する第一の電極の外側表面にアークの終点を確立することが可能である。移行型アークモードでは、プラズマアーク支柱は、第二の電極からくびれたノズルを通って延びる。プラズマアークはトーチの外側に延び、プラズマトーチ組立品から電気的に間隔があけられ絶縁されている材料供給である第一の電極で終わる。
【0007】
プラズマ移行型ワイヤアーク溶射システムプロセスにおいて、プラズマアークは、第二の電極のオリフィス下流を通って通過することにより圧縮される。プラズマガスがアークを通過すると、高温に加熱されて、膨張し、くびれたオリフィスを通過する際に加速されて、ワイヤの先端に向かってオリフィスを出るときに超音速に達することが多い。一般に、プラズマ移行型ワイヤアーク溶射システムプロセス用に使用されるプラズマガスは、空気、窒素、希ガスで、時には、アルゴンおよび水素の混合物など、他のガスとの混合物である。この混合物において、軽い水素分子が熱輸送を担い、それに対してアルゴン分子は、溶けた材料に対する良好な輸送能力を提供する。プラズマの強度および速度は、ガスの種類、ガス原子/ガス分子の比重量、その圧力、流動パターン、電流、オリフィスのサイズや形状および第二の電極からワイヤまでの距離を含めたいくつかの変数により決定される。従来の技術のプラズマ移行型ワイヤアークプロセスは、いずれかの定電流電源からの直流電流で動作する。
【0008】
第二の電極(銅またはタングステン製であることがよくある)は、第二の電極とくびれたノズルとの間に最初のアーク(パイロットアーク)を発生させるために採用されている高周波発生器を通して電源のマイナス端子に接続されている。先行技術において、回路を開始する高周波アークは、電源のプラス端子からくびれたノズル、電源のマイナス端子へと流れる直流電流を許容することで完了し、一方で、高い割合の軽い熱輸送分子(水素など)を持つプラズマを発生させるためのガス混合が使用される。この作用により、オリフィスを通って流れるプラズマガスが加熱される。オリフィスは、第二の電極からの加熱されたプラズマ流を電源のプラス端子に接続されているワイヤの先端に向かわせる。プラズマアークは、ワイヤチップに付着あるいは「移行」し、そのため移行型アークと呼ばれる。被覆材料を一定に供給するために、モーターにより駆動されるワイヤ送給ロールの手段などにより、ワイヤが前方に送り出される。
【0009】
アークがワイヤの先端を溶かすと、高速のプラズマジェットがワイヤチップに衝突し、溶融金属を運び去り、同時に溶融金属(溶湯)が微細粒子に霧化され、こうして形成された溶融粒子が溶けた微粒子を運び去る高速の溶射流が形成される。先行技術において、移行型プラズマアークを発生させるためには、パイロットアークを確立する必要がある。パイロットアークは、第二の電極と第一の電極として使用されるくびれたノズルとの間のアークである。このアークは、ワイヤへの移行あるいは付着のある移行型アークと比較して、それがないため、非移行型アークと呼ばれることもある。パイロットアークにより、プラズマ移行型ワイヤアークトーチ内の第二の電極間で、ワイヤの先端に向かって導電性経路が提供され、主要なプラズマ移行型アーク電流が流れるようになる。
【0010】
パイロットアークを開始する最も一般的な技術は、第二の電極とその経路にイオン化ガスを導くくびれたノズルとの間で高周波または高電圧の直流電圧(DC)スパークを出すことである。すると、このイオン化された経路にわたりパイロットアークが確立され、熱輸送のための比較的高い含有量の軽い分子を持つ高圧プラズマガスを使用してプラズマ噴流が生成される。このプラズマ噴流は、イオン化ガス流(すなわち、プラズマ)の流れであるため、ノズルの外側にまっすぐに延びる。パイロットアークのプラズマ噴流がワイヤチップに触れると、第二の電極から第一の電極ワイヤチップへの導電性の経路が確立される。くびれのある移行型プラズマアークは、ワイヤチップまでこの経路に従う。プラズマアークを維持するためには、それほど軽くない分子を持つガスプラズマが適切であり、より優れた液滴の輸送能力が提供される。
【0011】
PTWAの方法およびシステムに関する適切な概要は、プラズマトーチ動作に関連した従来のアークにおける数多くの問題に対処したSAE 08M−271:「Thermal Spraying of Nano−Crystalline Coatings for Al−Cylinder Bores(Al−シリンダーボアへのナノ結晶被覆の溶射)」(C. Verpoort et al.)、米国特許第5,808,270号および第6,706,993号にみることができる。上述のSAE 08M−271;米国特許第5,808,270号および米国特許第6,706,993号を参照により本明細書に援用する。こうした問題には、特に、PTWAシステムの開始に関連した問題が含まれる。既知のプラズマトーチの問題は、その寿命が幾分短いことである。パイロットアークの開始により、ノズルの導電材料を腐食させる傾向があり、そのためその劣化につながる。
【0012】
さらに、パイロットアークの確立およびワイヤ送給へのその移行が厄介であるため、トーチの開始には時間がかかる。主要アークを移行する際に、局部アークがノズルの出口で続けて起こり、その侵食およびワイヤの溶融の不安定性につながることがある。これはさらに、システムの短絡につながり、またトーチの構成要素の早い侵食につながるさらなる局部的なアークにつながることがある。これらの不安定性は、いわゆる「スピッティング(spitting)」(すなわち、不規則なワイヤの溶融)および不規則な被覆につながる。さらに、最近では、最高35 Vol.%の水素が含まれることがよくあり、その伝熱能力が高いため、およびトーチの寿命が短いため、トーチ構成要素への熱負荷が重くなることにつながる。トーチの点火が厄介であるため、被覆の仕上がり後でさえも燃やし続ける必要がある。したがって、プラズマ溶射トーチの改良の必要性が存在する。
【0013】
米国第4762977号は、電気絶縁ノズルを持つフレーム溶射システムを開示している。プラズマトーチの作動中にワイヤ送給が停止することに起因しうるダブルアーク状態を回避するために、ノズルは追加的な供給空気により囲まれている。追加的な供給空気により、機械類および運用のコストが高くなる。さらに、このシステムは、パイロットアークのあるトーチの開始を改善するようには設計されていない。
【0014】
本発明の目的は、上記に考察した問題を克服するために、改善されたプラズマトーチを提供することである。
【0015】
本発明は、請求項1によるプラズマ移行型ワイヤアークトーチ組立品を提供することにより、従来の技術で遭遇する問題を克服する。
【0016】
これは、第一の電極に対して電気的に絶縁され、電気絶縁を備えたノズルによって達成される。
【0017】
この絶縁されたノズルによってプラズマ経路を囲むことにより、開始用スパークが第二の電極と、このとき第一の電極の役割を果たしているワイヤとの間で強制的に確立され、そのため開始段階中にノズル上で発生する磨耗が妨げられる。電気絶縁は、パイロットアークが、トーチの開始中にノズルと接触しないように配置される。それによって、電気絶縁は、ノズルの正面に、ノズルオリフィスに、および/またはノズルの背面に配置できる。どの場合においても、絶縁体の効果は、パイロットアークに沿ってのノズル内の電位の低下がないといったものである。
【0018】
さらに、絶縁されたノズルでは、溶射プロセスのための電流の量は、パイロットアークの点火から直接に最高200A以上に増やすことができ、その一方、従来の技術によるノズルは、開始時には35〜90Aのみに適している。電流が増大するほど、プロセスの能力が高まり、そのため溶射をより早く、かつさらに効率よく実行できる。
【0019】
電気絶縁は、ノズルの正面に配置されることが望ましいが、これはトーチの開始中は、ワイヤ終端の位置が変化しうるためである。電気絶縁により、ワイヤとノズルの正面との間付近には、アーク放電が生じないため、ワイヤとノズルとの間の不安定または局部的なアークが回避される。こうして、安定したパイロットアークが達成される。
【0020】
電気絶縁は、少なくとも部分的に、高い耐熱性を持つ電気絶縁材料でできたノズルによって達成できることが望ましい。ノズルによって、パイロットアークに沿った電位の低下が生じない限り、いかなるデザインも可能である。望ましい実施態様は、電位の低下が全く発生しないように、完全に絶縁材でできたノズルを備えたものである。
【0021】
他の望ましい実施態様において、電気絶縁は、ノズルを少なくとも部分的に、電気絶縁材料で覆うことにより実現される。パイロットアークが接触しうるノズルの全ての領域は、適切な電気絶縁で覆われる。セラミック層で覆うことが望ましい。
【0022】
他の望ましい実施態様において、ノズルは、その背面および/またはノズルオリフィスに電気的に伝導する材料を備え、また導電材料は、電気的に第二の電極と接続されている、および/または第二の電極としての役割を果たす。こうしたノズルは、プラズマ源において、および/またはノズルオリフィスにおいて、プラズマへの電気接点を備えている。プラズマ源を囲んでいるノズルの内面は、渦巻くプラズマ流に晒される可能性が高く、その結果、点火アークが都合よく形成される。
【0023】
ノズル本体または内側部分は、導電材料でできていることが望ましい。ノズル本体が導電材料でできている場合には、ノズルの正面にワイヤに向けた絶縁体が備わることになる。さらに、ノズルオリフィスは、非導電層で覆うことができる。ノズルの内側部分が非導電材料でできている場合、その時点でそれも非導電性のノズルオリフィスを備えることができる。内側部分は、ノズルオリフィス内で非導電層で覆うこともできる。別の方法として、非導電材料でできたノズルの外側部分は、ノズルオリフィスを備えている。あらゆる場合において、ノズルの背面は、単独で、または追加的な、別個に配置された第二の電極と共に、第二の電極としての役割を果たす。
【0024】
これまで、アークを開始するために、プラズマトーチ内の例えば0.6〜1.3cmといった距離で開始用スパークを移動させることは不可能であると考えられていた。驚いたことに、プラズマ流路が絶縁されたノズルで少なくとも部分的に囲まれているとき、開始用スパークはノズル流路を通って延び、供給ワイヤに付着することがわかっている。ノズル自体には少なくとも一つの部品があり、アークは、第二の電極から、最初のアークおよびワイヤと第二の電極との間を移動するワイヤアークを供給するステップなしに、専用の第一の電極として、ノズル内径を通って直接にワイヤに移動する。したがって、本発明のプラズマ移行型ワイヤアークトーチ組立品は、パイロットアークの第一の電極の付着/一次アークストライクによる侵食および過熱によって点火サイクルでノズルが磨耗しないため、従来の技術のそれよりも長い寿命を持つ。さらに、パイロットアークを開始するステップが省略でき、PTWAプロセスのより迅速な開始につながる。
【0025】
具体的には、本発明のノズルは、少なくとも部分的に、高い耐磨耗性、および耐熱性の絶縁(電気的に非導電性)材料、例えばSiN、BN、SiC、Al2O3、SiO2、ZrO2、耐熱性ガラスセラミックスなどのセラミックスでできている。こうした材料は、高温に耐えることができ、また耐摩耗性である一方、より長い寿命の実現と、一次アークの供給に必要な部品の節約により、プラズマ移行型ワイヤアークトーチ組立品のコストが低減される。
【0026】
二つの部品からなるノズルを使用するとき、Al2O3、SiN、BN、ZrO2またはガラスセラミックスの絶縁リングと、銅またはタングステン挿入物を有する銅でできた追加的な金属製入口とを持たせることが有用なことがある。
【0027】
本発明の別の実施態様において、本発明のプラズマ移行型ワイヤアークトーチ組立品を利用して、金属被覆で表面を被覆するためのプラズマトーチを作動させる方法が提供されている。発明の方法には、本発明のプラズマ移行型ワイヤアークトーチ組立品を組み込んだプラズマガン内で、プラズマを発生させ、それを維持することが含まれる。
【0028】
トーチを開始するとき、以下のステップが使用される:
【0029】
プラズマガスを供給し、開回路電圧によって第二の電極への電源を供給する;高電圧をかける;それによって、第二の電極とワイヤとの間の主要アーク用のプラズマガス内に導電性流路を提供する;ならびに主電源から電流の流れを提供し、溶射中のワイヤの送給を開始する。
【0030】
本発明による方法は、開始が簡単であり、そのため、時間のかかる開始方法なしで、トーチは、被覆の後でオフに切り換え、次の加工品の被覆の際に再びオンに切り換えることができる。点火は、溶射ステップで使用するものと同じガス大気内で提供される。それゆえ、最新技術と比較して、プロセスのステップ、時間および材料を削減することができる。ノズルの寿命は、著しく延長され、その一方で溶射プロセスは、複雑な開始ステップを必要としないために、高速度で進行する。
【0031】
さらに、溶射プロセスの安定性および信頼性が向上する。
【0032】
絶縁されたノズルが使用されているという事実により、最適な流速特性とし、ノズルでの残留物の蓄積を最小化する、その新しい幾何学形状が適用可能である。例えば、ノズルは、超音速のプラズマガス流を達成するのに低めのガス圧しか必要としないラバールノズルとして設計することができる。
【0033】
新しい、電気的に分離されたノズルにより、PTWAトーチに新しい第二の電極の形状を使用しうる。例えば、平坦な第二の電極の代わりに、指様の第二の電極を使用して、プラズマガスによる第二の電極の冷却の向上につなげることができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
以下に、本発明について、次のとおり図面を参照しながら詳細に説明する。
【図1】溶射用ガンの図解的に関連性のある構成要素を示す最新型のPTWAガンの概略図である。
【図2】本発明による溶射ガンの一部の断面図である。
【図3】二つの部品からなるノズルを持つ、図2による溶射ガンの一部の断面図である。
【図4】本発明による別の実施態様の溶射ガンの一部の断面図である。
【図5】二つの部品からなるノズルを持つ、図4による溶射ガンの一部の断面図である。
【図6】非導電性カバーを備えたノズルを持つ溶射ガンの拡大断面図である。
【図7】非導電性カバーを備え、第二の電極の役割を果たすノズルを持つ溶射ガンの拡大断面図である。
【図8】第二の電極の役目を果たす導電性カバーを備えた絶縁ノズル付きの溶射ガンの拡大断面図である。
【図9】本発明によるPTWAの手順の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
ここで発明の現時点で好ましい組成または実施態様および方法への言及を詳細に行うが、これは現時点で発明者に既知の発明を実施する最良の形態を構成する。本発明の一実施態様において、改善されたPTWA溶射ガンが提供されている。本発明の溶射ガンは、高密度の金属被覆で表面を覆うために使用しうるプラズマ移行型ワイヤアーク溶射システム装置の一構成部品である。本発明の溶射ガンには、ワイヤをプラズマトーチに供給するためのワイヤ送給ガイド部分、二次ガスをプラズマトーチにより形成されたプラズマ周辺に供給するための二次ガス部分、およびプラズマトーチにより形成されたプラズマを封じ込めるためのノズル部分を持つ組立品が含まれる。
【0036】
図1を参照すると、溶射プロセスの概略図が示されている。ワイヤを使用する溶射において、ワイヤ20は熱源に連続的に供給され、そこで材料が少なくとも部分的に溶解する。電気的に提供されたその熱源は、プラズマまたはアークである。PTWAには、ノズルオリフィス11付きのノズル10を備えたプラズマ発生器またはガンヘッド(頭部)、第一の電極として接続された導電性の消耗品のワイヤ20、および第二の電極30がある。第二の電極30は、絶縁体32によってノズル10に対して絶縁されている。電源Uで表示された電力が直流として印加され、一方、陽電位がワイヤ20に接続され、また負電位が第二の電極30に接続されている。
【0037】
この頭部は、通常は、回転する軸(図示せず)に取り付けられる。ワイヤ20は、ノズル10の中央ノズルオリフィス11に垂直に供給される。第二の電極30は、プラズマガス源15により供給されるガスプラズマ16とも呼ばれるイオン化ガス混合物により循環がなされる。プラズマガス16は、ノズルオリフィス11をプラズマジェット12として、高速、望ましくは超音速で出て、第一の電極としての消耗品のワイヤ20と出会うとき、電気回路を完成する。
【0038】
移動用二次ガス14は、プラズマジェット12を囲むノズル10内の二次ガスオリフィス24を通して追加される。二次ガス14は、ワイヤ20によって形成された溶けた液滴の第二の噴霧器として機能し、標的表面への金属溶射18としての液滴の移動を助ける。二次ガス14は圧縮空気であることが望ましい。
【0039】
プラズマ移行型ワイヤアーク溶射システム装置は、プラズマトーチガンを含めて表示されている。下記の動作中、プラズマジェット12および金属溶射18がプラズマトーチガンから出てくる。組立品には、カップ型の形状を持つノズル10と、そのカップ型の形状の中央部に位置するノズルオリフィス11が含まれる。第二の電極30は、電子の放出が簡単になるよう2%トリウムタングステン、銅、ジルコニウム、ハフニウムまたはトリウムなど、この目的のために専門家にとって既知の任意の材料で構成しうるが、ノズルオリフィス11と同軸で位置し、第二の電極自由端を持つ。第二の電極30は、ノズルオリフィス11から電気的に絶縁され、またノズルによって、第二の電極30とノズル10の内壁と絶縁体の間に環状のプラズマガスチェンバが提供されている。さらに、ノズル10の外側部分内に、二次ガス用の別個の二次ガス入口26が形成されている。二次ガス入口26は、ノズル部分にある二次ガスオリフィス14につながり、プラズマジェット12の周囲を包む二次ガス流を提供する。
【0040】
ワイヤ送給部分22は、ノズル10に機械的に接続され、組立品内に形成されている。絶縁材料または非絶縁材料でできたワイヤ送給部分22は、消耗品のワイヤ20を保持する。装置の作動中、ワイヤ20は、ワイヤ送給ロールなど当技術で既知の手段により送給ガイドを通して絶えず供給される。ワイヤの自由端21は、ワイヤ送給部分22から出て、ノズルオリフィス11の反対側のプラズマジェット12に接し、金属溶射18を形成する。作動中、金属溶射18は被覆される表面40の方に向けられる。
【0041】
電源のプラス端子は、ワイヤ20に接続され、マイナス端子は第二の電極30に接続される。ある一定の条件では、開始段階中に高周波電流を直流に追加できるが、必ずしも必要ではない。同時に、高電圧電源が第二の電極30とワイヤチップ21との間の高電圧アークを出すために十分な時間だけ「オン」に脈動する。こうして形成された高電圧アークは、第二の電極30からワイヤ20へ流れるプラズマ電源からの直流(DC)のための導電性の経路を提供する。この電気エネルギーの結果、プラズマガスが、強烈に加熱されてガスを発生させ、これは渦流の様式となり、ノズルオリフィス11を非常に高速で出て、一般に超音速のプラズマジェット12が、ノズルオリフィス11から延びて形成される。こうして形成されたプラズマアークは、当初、第二の電極30から渦流のプラズマジェット16の中心を通り、最大の延長点まで延びている延長されたプラズマアークである。最大アーク延長点を越えて延びる高速プラズマジェット12は、第二の電極30とワイヤ20の自由端21との間の導電性の経路を提供する。
【0042】
第二の電極30からワイヤ20への間にプラズマが形成され、その結果、プラズマジェット12に連続的に供給されるときに、ワイヤチップが溶ける。ノズル10の開口部24を通して入る二次ガス14(空気など)は、ノズル10の周辺の開口部26を通して高圧で導入される。この二次ガスは、一連の間隔をおいた穴に配分される。この二次ガス14の流れにより、ワイヤ送給部分22、ノズル10を冷却する手段が提供され、また延長されたプラズマジェット12の周りに基本的に円錐状のガス流が提供される。この円錐状の高速二次ガスの流れは、ワイヤ20の自由端21の下流の延長されたプラズマジェット12を横切り、これによってワイヤ20の溶融によって形成された溶融粒子を噴霧化し加速させ、金属溶射18を形成する追加的な手段が提供されている。
【0043】
図2は、本発明による溶射プロセスで使用される本発明によるトーチ頭部の断面を概略的に示す。ここで、ノズル10全体は、セラミックスなどの非導電材料でできている。これにより、それぞれ第一の電極であるワイヤ20に対してノズル10全体が絶縁される。作動中、プラズマガスは、ノズル10と第二の電極30を囲む絶縁体32により形成される内部チェンバに入る。プラズマガスは、チェンバに流入し、ノズルオリフィス11を通して強制される渦流を形成する。
【0044】
適切なプラズマガスの一例としては、88%アルゴンと12%水素で構成される混合ガスなどがある。アルゴンのように比較的重いガス分子は、プラズマの運動エネルギーのために必要で、一方、軽いH2またはHe分子は、熱の移動にとって必要である。水素は熱の移動にとって有用であると考えられるが、爆発のリスクのために危険である。そのためHeで置き換えうる。当技術の専門家に知られている窒素、アルゴン/窒素混合物、希ガス類およびその混合物、窒素/水素混合物など、その他のガスも使用されてきた。ガスは、特に溶射される金属、および装置の形状に依存する。
【0045】
従来の技術のプロセスとは異なり、パイロットプラズマを必要としない。電源は、全出力で活性化でき、これが第一の電極としてのワイヤ20と第二の電極30との間のアーク放電に直ちに通じる。絶縁されたノズル10のために、ノズル10と第二の電極20との間にはパイロットアークはなく、その結果、ノズル10の磨耗が著しく低減される。さらに、パイロット段階が必要とされないため、プロセスの開始手順が加速化される。それは、遅れることなく、溶射プロセスが直ちに開始できることを意味する。こうして、溶射トーチが被覆をする新しい表面上に位置するたびに、溶射プロセスを開始できる。トーチを、例えばエンジンブロックの別の穴に配置する間、アイドリングプロセスは必要でない。プロセスは、それぞれの穴で開始できる。これにより、消費電力、ワイヤ送給およびガス消費を低減できる。
【0046】
図3には、本発明によるプラズマトーチ組立品の別の実施態様を示すが、ここで、ノズル部品10は、二つの部分10a、10bでできており、外側部分10aは、セラミックス製で、ワイヤ20と内側部分10bとの間に位置し、そのためワイヤ20に対してノズル10を絶縁している。内側部分10bは、ノズルオリフィス11を備えている。トーチ支持体に向かう内側部分10bの絶縁を確保するために、ノズル担体はまた、非導電材料でできている。
【0047】
図4は、本発明によるプラズマトーチのノズル10の別の実施態様を示す。ノズル10は、ラバールノズル13として形成され、ノズルオリフィス11の後ろにむしろ小さい直径を持つ。こうして、プラズマ流16は、プラズマガス源内の高圧を必要とせずに、プラズマジェット12内で超音速に加速される。この実施態様において、ノズル10の本体全体は、単一のセラミック材料、例えばSiC、ZrO2、Al2O3などからできている。
【0048】
図5では、図4のラバールノズル14が二つの部分からなり、ラバールノズル13の第一の部分は、絶縁されたセラミック製の外側部分10aに組み込まれ、一方ノズルオリフィス11は内側部分10bに位置する。内側部分10bは、銅でできており、外側部分10aは、ZrO2、Al2O3、SiC、Bなどの絶縁材でできている。内側部分10bは、非導電材料でできているノズル担体31により保持されている。
【0049】
ラバールノズル13のため、図4および図5の実施態様には異なるガス管理がある。一次ガスは、より濃縮度の高いプラズマジェット12内に排出され、および二次ガス流によって包まれ、その結果、図2および図3の形状と比較して、溶射速度がより速くなり、またオーバースプレーが少なくなる。
【0050】
図6は、図2と類似した本発明によるトーチ頭部の断面を概略的に示す。図2では、ノズル10は非導電材料でできているが、図6のノズル10は、電気絶縁としての絶縁被覆33を備えている。ノズル10cの本体は、銅または黄銅などの導電材料でできている。正面34の表面、背面35の表面およびノズルオリフィス11内、すなわち電極30に向かう全ての表面、ワイヤ20またはノズルオリフィス11は、非導電材料(セラミックが望ましい)でできている絶縁被覆33で覆われる。これによって、プラズマガス流は導電性のノズル本体10cから電気的に絶縁され、またパイロットアークがノズル10と接触しないようにする。ノズル本体10cは、ノズル担体31により保持されるが、これには非導電材料を使用することが望ましい。
【0051】
図7は、図6と類似したトーチ頭部の断面を概略的に示す。ノズル10は、正面34上およびノズルオリフィス11内に電気絶縁として絶縁被覆33を備えている。銅または黄銅などの導電材料でできたノズル本体10cは、電源に電気的に接続され、またその背面35で第二の電極30として作用する。プラズマ源15の中央部分36は、プラズマ流に渦を得るための渦発生器として形成される。ノズル本体10cは、ノズル担体31により保持され、これは非導電材料でできていることが望ましい。二次ガス入口26は、非導電層で覆われていることが望ましい。
【0052】
図8は、図7と類似したノズル10を持つトーチ頭部の断面を概略的に示すが、ノズル10の導電性は逆である。ノズル本体10dそれ自体は、非導電材料でできている。その背面35に、ノズル10は導電層37を備え、これが電気的に第二の中央電極30aに接続され、よって導電層37は、第二のノズル電極30bとしての役割を果たす。こうしたノズル10は、中央の電極30aを全く持たないことも可能である。
【0053】
図9は、上述のプラズマ溶射トーチを利用した本発明の方法を説明する。したがって、本発明の方法は、以下を備えている:
− プラズマガス流16は、ノズル10に向かい、第二の電極30を通過し、ノズルオリフィス11をプラズマガスジェット12として出る。
− 電源をオンにすることで、ワイヤ20の自由端21と第二の電極30との間にプラズマアークが直ちに形成され、こうしてワイヤ自由端21が溶ける。
− ワイヤ20の溶融金属が、プラズマガスジェット12により噴霧化され、噴霧化された金属溶射18が表面40に推進され、その上に金属被覆が形成される。
【0054】
この開始プロセスには、プロセスパラメータの調節は一切必要ない。プロセスは、溶射プロセス時に要求されるワイヤ供給量、電源の電圧または電流、プラズマガス流16の流速および化学的組成で開始できる。これにより、溶射プロセスが直ちに開始されるために、開始プロセスを制御する労力が著しく低減され、開始が加速され、またワイヤ材料、ガスおよび電力が節約される。
【0055】
一般には、圧力のかかったプラズマガスをノズルに接線方向に導入し、第二の電極の周りで渦流を生成させ、制限的なノズルオリフィスを出ることが好ましい。さらに、方法には、ワイヤ自由端を通過させて、ワイヤ自由端の下流に間隔をおいた交点を持つ、環状の円錐型のガス流の形態で、二次ガス流をワイヤ自由端の方向に向けることがオプションとして含まれる。燃焼機関のピストンのシリンダー穴など、内側の窪んだ表面を被覆するとき、方法には、ノズルおよび第二の電極を組立品として、ワイヤの縦軸を中心として回転および平行移動させつつ、ワイヤと第二の電極との間の電気的接続および電位を維持し、それによって、噴霧化した溶けた供給原料を回転させて向かわせ、内部の弓状の表面を高濃度の金属層で被覆することが含まれる。さらに、本発明の組立品および方法は約3cm以上の直径の穴を覆うことができる。さらに望ましくは、本発明のトーチ組立品は、約3cm〜約20cmの直径を持つ穴の被覆で有用である。
【0056】
本発明の実施態様を図示し説明してきたが、これらの実施態様が、本発明の考えられる全ての形態を図示・説明することは意図していない。むしろ、本明細書で使用した文言は、限定ではなく説明の文言であり、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更をなすことができることが理解される。
【符号の説明】
【0057】
10 ノズル
10a ノズル10の外側部分
10b ノズル10の内側部分
10c ノズル本体
11 ノズルオリフィス
12 プラズマジェット
13 ラバールノズル
14 二次ガス
15 プラズマガス源
16 プラズマガス流
18 金属溶射
20 ワイヤ(第一の電極)
21 ワイヤ自由端
22 ワイヤガイド
24 二次ガスオリフィス
26 二次ガス入口
30 第二の電極
30a 第二の中央電極
30b 第二のノズル電極
31 ノズル担体
32 絶縁体
33 絶縁被覆
34 ノズルの正面
35 ノズルの背面
36 中央部分
37 導電層
40 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面(40)に被覆を塗布するためのプラズマ移行型ワイヤアーク溶射システム装置であって、
第一の電極としての役割を果たすワイヤ(20)を供給するための部分(22)、
プラズマガス(16)を供給するプラズマガス源(15)、
プラズマガスジェット(12)を前記ワイヤ(20)の自由端(21)に向けるノズル(10)のノズルオリフィス(11)、および
前記ノズルオリフィス(11)に向かう前記プラズマガス流(16)内に位置する第二の電極(30)を含み、
前記ノズル(10)は、前記第一の電極に対して電気的に絶縁され、また
前記ノズル(10)が電気絶縁を含む装置。
【請求項2】
前記電気絶縁が、前記ノズル(10)の正面、前記ノズルオリフィス(11)内、および/または前記ノズル(10)の背面に配置された、請求項1による装置。
【請求項3】
前記電気絶縁が前記ノズル(10)を完全にまたは少なくとも部分的に非導電性の材料で作ることにより実現される、前記いずれかの請求項による装置。
【請求項4】
前記電気絶縁が前記ノズル(10)のノズル本体(10c)を少なくとも部分的に非導電性の材料(33)で覆うことにより実現される、前記いずれかの請求項による装置。
【請求項5】
前記ノズル(10)が、前記ワイヤ(20)の方向を向き、電気的に絶縁する材料からできた外側部分(10a)と、導電材料からできた内側部分(10b)とを備えた、前記いずれかの請求項による装置。
【請求項6】
前記ノズル(10)が、その背面(35)に導電材料を含み、および/または前記ノズルオリフィス(11)と前記導電材料が前記第二の電極(30)に電気的に接続されている、および/または前記第二の電極としての役割を果たす、前記いずれかの請求項による装置。
【請求項7】
ノズル本体(10c)または内側部分(10b)が前記導電材料でできている、請求項6による装置。
【請求項8】
前記ノズル(10)が前記プラズマジェット(12)の周辺に二次ガス(14)を取り入れる、前記いずれかの請求項による装置。
【請求項9】
前記ノズル(10)に、前記ノズルオリフィス(11)の周りで間隔をおいた複数の合流用二次ガスオリフィス(24)を含む、請求項8による装置。
【請求項10】
前記ノズルオリフィス(11)がラバールノズル(13)として形成される、前記いずれかの請求項による装置。
【請求項11】
前記ノズル(10)が少なくとも部分的に、SiN、Al203、酸化イットリウム、セラミックス、ガラスセラミックスおよびSiCで構成される群から選択される絶縁材でできた、前記いずれかの請求項による装置。
【請求項12】
前記装置に、直流電流、交流電流および/または高周波電流を発生させる、第一および第二の電極に接続された高電圧電源が含まれる、前記いずれかの請求項による装置。
【請求項13】
前記いずれかの請求項によるプラズマ移行型ワイヤアーク溶射システム装置の始動方法であって:
前記第二の電極を通過させ、プラズマガスジェット(12)として前記ノズルオリフィス(11)を出る前記ノズル(10)に向かわせる、プラズマガス流(16)を導くステップと;
前記ワイヤ(20)の自由端(21)と前記第二の電極(30)との間にプラズマアークを形成し、それによって前記ワイヤ自由端(21)を溶かす、電力を切り換えるステップと;
その上に金属被覆を形成するための表面(40)に霧化した金属溶射(18)を噴射する前記プラズマガスジェット(12)による、前記溶けたワイヤ(20)を霧化するステップとを含む方法。
【請求項14】
特にワイヤ供給量、電源の電圧または電流、前記プラズマガス流(16)の流速および化学的組成といった、ある一定の溶射パラメータが、溶射プロセスの開始中および溶射プロセス中で等しい、請求項13による方法。
【請求項15】
請求項13または14による方法で被覆された表面であって、特に燃焼機関のシリンダーボアの表面。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−521878(P2012−521878A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502680(P2012−502680)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2010/054355
【国際公開番号】WO2010/112567
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(503136222)フォード グローバル テクノロジーズ、リミテッド ライアビリティ カンパニー (236)
【Fターム(参考)】