説明

プラズマCVD成膜装置及びガスバリア性プラスチック容器の製造方法

【課題】本発明の目的は、プラズマの発生が反応室の内部、すなわちプラスチック容器の内部のみで起こるように、排気室又はそれ以降の排気経路でのプラズマの発生を抑制し、同時にプラズマを安定して着火させることである。さらに、装置寿命の短縮の防止、インピーダンスの急激な変化に起因する不良ボトルの偶発の防止及び容器主軸方向に対してガスバリア薄膜の膜厚の均一化を図ることである。
【解決手段】本発明に係るプラズマCVD成膜装置は、反応室3に周波数100kHz〜3MHzの低周波電力を供給し、且つ、プラスチック容器8の内部にスパーク発生部40を有するプラズマ着火手段と配置する。このとき、プラスチック容器8と反応室3の内部空間30との合成静電容量をCとし、絶縁体スペーサー4と排気室5の内部空間31との合成静電容量をCとしたとき、C>Cの関係が成立する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマCVD(chemical vapor deposition)法によってガスバリア膜をプラスチック容器の内壁面に成膜するプラズマCVD成膜装置に関し、特に反応室外でのプラズマ発生を抑制できるプラズマCVD成膜装置に関する。また、その容器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器は、臭いが収着しやすく、またガスバリア性が壜や缶と比較して劣るため、ビールや発泡酒等の炭酸飲料には用いることが難しかった。そこで、プラスチック容器における収着性やガスバリア性の問題点を解決すべく、硬質炭素膜(ダイヤモンドライクカーボン(DLC)等)をコーティングする方法、装置が開示されている。そのうち、例えば対象とする容器の外形とほぼ相似形の内部空間を有する外部電極と、容器の内側に容器の口部から挿入され、原料ガス導入管を兼ねた内部電極を用いて、容器の内壁面に硬質炭素膜をコーティングする装置が開示されている(例えば特許文献1又は2を参照。)。このような装置では、容器内に原料ガスとしてアセチレンガスを供給した状態で、外部電極に高周波電圧を印加する。このとき、原料ガスが両電極間に発生する高周波由来の電力によりプラズマ化し、発生したプラズマ中のイオンは外部電極の高周波由来の電位差(自己バイアス)に誘引され容器内壁に衝突し、膜が形成される。
【0003】
【特許文献1】特許第2788412号公報
【特許文献2】特許第3072269号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、本発明者らは、このような成膜装置において、プラズマの発生は、プラスチック容器が収容されている反応室のみならず、それと連通する排気室まで生じ、さらに場合によっては、排気室から真空ポンプに至るまでの排気経路まで発生することをつきとめた。
【0005】
このような反応室以外で発生したプラズマは、排気室の金属部品、排気経路の配管等の金属部品及び配管継ぎ手等で使用される非金属部品を劣化させる原因となり、装置寿命の短縮を招く。
【0006】
また反応室以外で発生したプラズマは、排気室及び排気経路の壁面に原料ガス由来の炭素系異物を付着させる原因となる。反応室の外にプラズマが漏れていると、プラスチック容器、外部電極及び内部電極によってインピーダンスが決まらず、実際にはプラスチック容器、外部電極、排気室、排気配管及び内部電極との間でインピーダンスが決まると考えられる。したがって、成膜を重ねるごとに絶縁物である前記炭素系異物が付着していくので、インピーダンスは徐々に増加していく。例えば、特許文献1、特許文献2等に開示された成膜装置では、高周波電源を外部電極に直接に接続せずに、自動整合器を介して接続している。これは自動整合器が、出力供給している電極全体からの反射波が最小になるように、インダクタンスL、キャパシタンスCによってインピーダンスを合わせることができるためである。炭素系異物は壁に徐々に堆積するので、ある成膜時とその次の成膜時のインピーダンスの変化はかなり小さい。このような場合、自動整合器は固定整合器とほぼ同じ使われ方となる。一方、インピーダンスの長期的変化については自動整合で対応させる。ところが、前記炭素系異物が厚くなり、内部応力によって壁から剥離する場合がある。このような剥離が発生するとインピーダンスの急激な変化を引き起こしプラズマの着火が起こらなくなる場合があり、その結果、全く成膜がされないか、或いは着火したとしても非常に不安定となる場合がある。こうなると、ガスバリア性が不十分なボトルが予測できずに発生してしまうこととなる。
【0007】
さらに反応室以外で発生したプラズマは、反応室で発生するプラズマの中心部分を排気室側にシフトさせてしまうので、プラスチック容器の肩部及び口部に厚い薄膜が成膜され、容器主軸方向に対して膜厚の不均一の原因となっていた。このような容器主軸方向に対して膜厚の不均一な容器は、美観上好まれない場合がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、プラズマCVD成膜装置において、プラズマの発生が反応室の内部、すなわちプラスチック容器の内部のみで起こるように、排気室又はそれ以降の排気経路でのプラズマの発生を抑制することであり、このときプラズマを安定して着火させることである。さらに、排気室又はそれ以降の排気経路でのプラズマの発生を抑制することで、装置寿命の短縮の防止、インピーダンスの急激な変化に起因する不良ボトルの偶発の防止及び容器主軸方向に対してガスバリア薄膜の膜厚の均一化を図ることを目的とする。また本発明の他の目的は、ガスバリア性プラスチック容器の製造方法において、排気室又はそれ以降の排気経路でのプラズマの発生を抑制することで、容器主軸方向に対してガスバリア薄膜の膜厚が均一な容器を安定して製造することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、プラスチック容器と反応室の内部空間の合成静電容量を、排気室の内部空間と絶縁体スペーサーの合成静電容量よりも大きな装置とし、且つ、原料ガスをプラズマ化させるための電源として低周波電源を使用することで、排気室側のインピーダンスを高くし、これによって排気室又はそれ以降の排気経路でのプラズマの発生を抑制することができることを見出した。他方、低周波電源を使用するとプラズマの不着火又はプラズマが着火したとしても消失が偶発的に生じうることが判明し、それに対する策として、プラズマ着火の補助手段を設けることで、当該偶発的問題を解決できることを見出した。これにより本発明を完成させるに至った。すなわち、本発明に係るプラズマCVD成膜装置は、プラスチック容器を収容する反応室と、排気室と、前記反応室と前記排気室に挟まれて各々を電気的に絶縁させるとともに前記反応室と前記排気室とを連通させる開口部を設けた絶縁体スペーサーと、前記排気室に接続され、前記開口部と前記排気室を経由して前記反応室の内部ガスを排気する真空ポンプと、前記プラスチック容器の内部に配置された原料ガス供給管と、該原料ガス供給管に原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記反応室に周波数100kHz〜3MHzの低周波電力を供給する低周波電力供給手段と、前記プラスチック容器の内部に配置されたスパーク発生部を有するプラズマ着火手段と、を備え、前記プラスチック容器と前記反応室の内部空間との合成静電容量をCとし、前記絶縁体スペーサーと前記排気室の内部空間との合成静電容量をCとしたとき、C>Cの関係が成立することを特徴とする。
【0010】
本発明に係るプラズマCVD成膜装置では、前記スパーク発生部を、前記プラスチック容器の高さの中央より下方側に配置することが好ましい。容器の底面にガスバリア薄膜を成膜させやすく、膜厚分布を均質化しやすい。
【0011】
本発明に係るプラズマCVD成膜装置では、前記プラズマ着火手段は高圧直流電源を有し、前記スパーク発生部は、前記高圧直流電源に接続されたスパーク電極と、接地電極とを有し、且つ、前記スパーク電極と前記接地電極との間でスパークを発生させることが好ましい。スパークの発生のエネルギー源として、高圧直流電力を使用する形態である。
【0012】
本発明に係るプラズマCVD成膜装置では、前記プラズマ着火手段は前記低周波電力供給手段に接続された分配器を有し、前記スパーク発生部は、前記分配器に接続されたスパーク電極と、接地電極とを有し、且つ、前記スパーク電極と前記接地電極との間でスパークを発生させることとしても良い。スパークの発生のエネルギー源として、低周波電力を使用する形態である。ここで、前記分配器と前記スパーク電極との接続の間に、位相シフタを直列に接続することが好ましい。スパークの発生のエネルギー源として、低周波電力を使用する形態である。
【0013】
本発明に係るプラズマCVD成膜装置では、前記スパーク電極は、モリブデン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、ニッケル、イリジウム又は白金或いはこれらの金属の基合金或いは炭素繊維で形成されていることが好ましい。電極の消耗及び電極物質の容器への汚染を抑制できる。また、電極の材質を炭素繊維とすれば、ガスバリア薄膜として炭素膜を成膜する場合に電極物質の汚染の心配がない。
【0014】
本発明に係るプラズマCVD成膜装置では、前記原料ガス供給管は、導電性材料で形成され、且つ、その管内に、線状若しくは棒状の導電体をその先端を除いて絶縁体で被覆した状態として収容し、且つ、前記導電体の先端に前記原料ガスを吹き付けるガス流路を有し、且つ、前記導電体を前記スパーク電極とし、前記原料ガス供給管を前記接地電極とすることが好ましい。プラスチック容器の口が小さい場合においても、スパーク発生部を容器の内部の主軸上に配置でき、膜厚の不均一を生じさせにくい。
【0015】
本発明に係るプラズマCVD成膜装置では、前記原料ガス供給管は、導電性材料で形成され、且つ、その先端を除いて絶縁体で被覆されてなり、且つ、前記原料ガス供給管を内管として、その外側に導電性材料で形成された外管を配置して二重管の構造を有し、且つ、前記原料ガス供給管を前記スパーク電極とし、前記外管を前記接地電極とすることとしても良い。プラスチック容器の口が小さい場合においても、スパーク発生部を容器の内部の主軸上に配置でき、膜厚の不均一を生じさせにくい。
【0016】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法は、反応室にプラスチック容器を収容する工程と、真空ポンプを作動させて前記反応室の内部ガスを、絶縁体スペーサーによって前記反応室と電気的に絶縁されている排気室を経由して排気する工程と、前記プラスチック容器の内部に原料ガスを減圧された所定圧力下で吹き出させる工程と、前記プラスチック容器と前記反応室の内部空間との合成静電容量をCとし、前記絶縁体スペーサーと前記排気室の内部空間との合成静電容量をCとしたとき、C>Cの関係が成立する状態において、前記反応室に周波数100kHz〜3MHzの低周波電力を供給し、且つ、前記プラスチック容器の内部で強制スパークを行なって前記原料ガスをプラズマ化させ、前記プラスチック容器の内壁面にガスバリア薄膜を成膜する工程と、を有することを特徴とする。容器主軸方向に対してガスバリア薄膜の膜厚が均一な容器を安定して製造できる。
【0017】
本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法では、前記ガスバリア薄膜として、炭素膜、珪素含有炭素膜又はSiO膜を成膜することが含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るプラズマCVD成膜装置では、プラズマの発生が反応室の内部のみで起こるように、排気室又はそれ以降の排気経路でのプラズマの発生を抑制でき、このときプラズマを安定して着火させることができる。さらに、排気室又はそれ以降の排気経路でのプラズマの発生を抑制することで、装置寿命の短縮の防止、インピーダンスの急激な変化に起因する不良ボトルの偶発の防止及び容器主軸方向に対してガスバリア薄膜の膜厚の均一化を図ることができる。また、本発明に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法では、容器主軸方向に対してガスバリア薄膜の膜厚が均一な容器を安定して製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。図1〜図7を参照しながら本実施形態を説明する。なお、共通の部位・部品には同一符号を付した。まず、本実施形態に係るプラズマCVD成膜装置について説明する。
【0020】
図1は本実施形態に係るプラズマCVD成膜装置の第1形態を示す概略構成図である。図3は、図1の詳細を説明するための図であって、(a)はA-A断面図、(b)はスパーク発生部40の部分拡大概略図、を示す。第1形態のプラズマCVD成膜装置100に示すごとく、本実施形態に係るプラズマCVD成膜装置は、プラスチック容器8を収容する反応室3と、排気室5と、反応室3と排気室5に挟まれて各々を電気的に絶縁させるとともに反応室3と排気室5とを連通させる開口部32を設けた絶縁体スペーサー4と、排気室5に接続され、開口部32と排気室5を経由して反応室3の内部ガスを排気する真空ポンプ23と、プラスチック容器8の内部に配置された原料ガス供給管9と、反応室3に周波数100kHz〜3MHzの低周波電力を供給する低周波電力供給手段35と、プラスチック容器8の内部に配置されたスパーク発生部40を有するプラズマ着火手段と、を備え、プラスチック容器8と反応室3の内部空間30との合成静電容量をCとし、絶縁体スペーサー4と排気室5の内部空間31との合成静電容量をCとしたとき、C>Cの関係が成立する。
【0021】
本実施形態では、スパーク発生部40を有するプラズマ着火手段として、いくつかの形態が示される。第1形態であるプラズマCVD成膜装置100では、スパーク発生部40を有するプラズマ着火手段は、高圧直流電源29による直流放電方式である。
【0022】
本発明では、スパーク発生部40を有するプラズマ着火手段の違いによって、プラズマCVD成膜装置として複数の形態が存在するが、スパーク発生部40を有するプラズマ着火手段以外は共通の構成を有するため、まず共通の構成を説明した後、第1形態におけるインピーダンス増加手段を説明することとする。
【0023】
反応室3は、金属等の導電材で中空に形成されており、コーティング対象のプラスチック容器8、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂製の容器であるPETボトルを収容する内部空間30を有する。内部空間30の内壁は、プラスチック容器8の外壁面にほぼ接する形状に形成されている。反応室3は、プラスチック容器8を取り囲むこととなるため、外部電極の役割を為す。また、反応室3は、上部外部電極2と下部外部電極1からなり、上部外部電極2の下部に下部外部電極1の上部がO−リング10を介して着脱自在に取り付けられるよう構成されている。上部外部電極2から下部外部電極1を脱着することでプラスチック容器8を装着することができる。反応室3は、絶縁体スペーサー4と反応室3との間に配置されたO−リング37並びに上部外部電極2と下部外部電極1の間に配置されたO−リング10によって外部から密閉されている。
【0024】
絶縁体スペーサー4は、反応室3と排気室5との間に配置され、プラスチック容器8の口部の上方の位置に相当する箇所に開口部32aが形成されている。開口部32aは、反応室3と排気室5とを空気的に連通する。絶縁体スペーサー4は、ガラスやセラミックス等の無機材料、或いは耐熱性樹脂で形成されることが好ましい。好ましくは、ポリ四フッ化エチレン、四フッ化エチレン・バーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、四フッ化エチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリフェニレンサルファイド又はポリエーテルエーテルケトンである。
【0025】
排気室5は、金属等の導電材で中空に形成されており、内部空間31を有する。排気室5は、絶縁体スペーサー4の上に配置されている。このとき、排気室5と絶縁体スペーサー4との間はO−リング38によってシールされている。そして、内部空間31と内部空間30とを空気的に連通させるために、開口部32aに対応してほぼ同形状の開口部32bが排気室5の下部に設けられている。排気室5は、配管21、圧力ゲージ20、真空バルブ22等からなる排気経路を介して真空ポンプ23に接続されており、その内部空間31が排気される。
【0026】
絶縁体スペーサー4の上に排気室5が配置されることによって蓋6を形成して、反応室3を密封し、密閉可能な真空チャンバ7が組み上がることとなる。このとき、真空チャンバ7には、反応室3の内部空間30と排気室5の内部空間31の2つの部屋があり、それらは開口部32a,32bを通してつながっている。
【0027】
本発明に係る容器とは、蓋若しくは栓若しくはシールして使用する容器、またはそれらを使用せず開口状態で使用する容器を含む。開口部の大きさは内容物に応じて決める。プラスチック容器8は、剛性を適度に有する所定の肉厚を有するプラスチック容器と剛性を有さないシート材により形成されたプラスチック容器を含む。本発明に係るプラスチック容器の充填物は、例えば、炭酸飲料若しくは果汁飲料若しくは清涼飲料等の飲料、並びに医薬品、農薬品、又は吸湿を嫌う乾燥食品である。
【0028】
本発明のプラスチック容器8を成形する際に使用する樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンテレフタレート系コポリエステル樹脂(ポリエステルのアルコール成分にエチレングリコールの代わりに、シクロヘキサンディメタノールを使用したコポリマーをPETGと呼んでいる、イーストマンケミカル製)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマ樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、アクリロニトリル‐ブタジエン‐スチレン樹脂、を例示することができる。この中で、PETが特に好ましい。
【0029】
原料ガス供給管9は、その内部にガス流路が設けられており、この中を原料ガスが通過する。原料ガス供給管9の先端にはガス吹き出し口9a、すなわちガス流路の開口部が設けられている。原料ガス供給管9の一端は、排気室5の内部空間31の壁で固定され、真空チャンバ7内に配置されている。反応室3内にプラスチック容器8がセットされたとき、原料ガス供給管9は、反応室3内に配置され且つプラスチック容器8の口部からその内部に配置される。すなわち、排気室5の内壁上部を基端として、内部空間31、開口部32a、32bを通して、反応室3の内部空間30まで原料ガス供給管9が差し込まれる。原料ガス供給管9の先端はプラスチック容器8の内部に配置される。原料ガス供給管9は、それ自身が電極となるか、或いは別部品の電極を保持するが、この点については後述する。
【0030】
原料ガス供給手段16は、プラスチック容器8の内部に原料ガス発生源15から供給される原料ガスを導入する。すなわち、原料ガス供給管9の基端には、配管11の一方側が接続されており、この配管11の他方側は真空バルブ12を介してマスフローコントローラー13の一方側に接続されている。マスフローコントローラー13の他方側は配管14を介して原料ガス発生源15に接続されている。この原料ガス発生源15はアセチレンなどの炭化水素ガス系原料ガスを発生させるものである。
【0031】
本発明におけるガスバリア膜とは、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜、Si含有DLC膜、SiO膜、アルミナ膜、AlN膜等の酸素透過性を抑制する薄膜をいう。原料ガス発生源15から発生させる原料ガスは、上記薄膜の構成元素を含む揮発性ガスが選択される。ガスバリア薄膜を形成する際の原料ガスは公知公用の揮発性原料ガスが使用できる。
【0032】
原料ガスとしては、例えば、DLC膜を成膜する場合、常温で気体又は液体の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、含酸素炭化水素類、含窒素炭化水素類などが使用される。特に炭素数が6以上のベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、シクロヘキサン等が望ましい。食品等の容器に使用する場合には、衛生上の観点から脂肪族炭化水素類、特にエチレン、プロピレン又はブチレン等のエチレン系炭化水素、又は、アセチレン、アリレン又は1−ブチン等のアセチレン系炭化水素が好ましい。これらの原料は、単独で用いても良いが、2種以上の混合ガスとして使用するようにしても良い。さらにこれらのガスをアルゴンやヘリウムの様な希ガスで希釈して用いる様にしても良い。また、ケイ素含有DLC膜を成膜する場合には、Si含有炭化水素系ガスを使用する。
【0033】
本発明でいうDLC膜とは、iカーボン膜又は水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H) と呼ばれる膜のことであり、硬質炭素膜も含まれる。またDLC膜はアモルファス状の炭素膜であり、SP結合も有する。このDLC膜を成膜する原料ガスとしては炭化水素系ガス、例えばアセチレンガスを用い、Si含有DLC膜を成膜する原料ガスとしてはSi含有炭化水素系ガスを用いる。このようなDLC膜をプラスチック容器の内表面に形成することにより、炭酸飲料や発泡飲料等の容器としてワンウェイ、リターナブルに使用可能な容器を得る。
【0034】
また、ケイ素含有DLC膜を成膜する場合には、Si含有炭化水素系ガスを使用する。珪化炭化水素ガス又は珪化水素ガスとしては、四塩化ケイ素、シラン(SiH)、ヘキサメチルジシラン、ビニルトリメチルシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、メチルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等の有機シラン化合物、オクタメチルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)等の有機シロキサン化合物等が使用される。また、これらの材料以外にも、アミノシラン、シラザンなども用いられる。
【0035】
SiO膜(珪素酸化物膜)を成膜する場合には、例えば、シランと酸素の混合ガス、又は、HMDSOと酸素の混合ガスを原料ガスとする。
【0036】
真空ポンプ23は、真空チャンバ7の内部ガスを排気する。すなわち、排気室5に配管21の一端が接続され、配管21の他端は真空バルブ22に接続され、真空バルブ22は配管を介して真空ポンプ23に接続されている。この真空ポンプ23はさらに排気ダクト24に接続されている。なお、配管21には圧力ゲージ20が接続され、排気経路での圧力を検出する。真空ポンプ23を作動させることによって、プラスチック容器8の内部ガス並びに反応室3の内部空間30の内部ガスが開口部32a,32bを介して排気室5の内部空間31に移動し、内部空間31の内部ガスは配管21を含む排気経路を通して真空ポンプ23に送られる。
【0037】
真空チャンバ7は、リーク用の配管17が接続されていて、配管17は真空バルブ18を介して、リーク源19(大気開放)と連通されている。
【0038】
低周波電力供給手段35は、低周波電力を反応室3に供給することで、プラスチック容器8の内部の原料ガスをプラズマ化させるものである。低周波電力供給手段35は、低周波電源27と、低周波電源27に接続された自動整合器26とを備え、低周波電源27は自動整合器26を介して反応室3に接続される。低周波電源27で発生させた低周波電力を原料ガス供給管9(内部電極)と反応室3(外部電極)との間に印加することによってプラスチック容器8の内部に供給された原料ガスがプラズマ化する。低周波電源27の周波数は、100kHz〜3MHzとすることが好ましい。低周波電源27の周波数が3MHzを超えると、反応室3の内部空間30でのみプラズマ発生を生じさせることが困難となる。一方、低周波電源27の周波数が100kHz未満であると、放電困難となる場合がある。
【0039】
次に、低周波電力を反応室3に供給した際に、排気室5の内部空間31におけるプラズマの発生が抑制される原理について説明する。図2に、第1形態のプラズマCVD成膜装置に対応する2極放電型の回路を示す。図2で示した回路の交流電源は低周波電源27に対応する。Cは、プラスチック容器8と反応室3の内部空間30との合成静電容量を表している。Cは、プラスチック容器8と反応室3とにLCRメーターを接続して測定することができる。なお、LCRメーターとは、インダクタンス(L)、キャパシタンス(C)及びレジスタンス(R)などを測定できる機器である。Cは、絶縁体スペーサー4と排気室5の内部空間31との合成静電容量を表している。Cは、絶縁体スペーサー4と排気室5とにLCRメーターを接続して測定することができる。Zp1は、反応室3内で発生するプラズマのインピーダンスを表し、Zp2は、排気室5内で発生するプラズマのインピーダンスを表している。図2の回路において、Zp1とZp2のそれぞれの両側は、シースを表している。回路全体に流れる電流をI、C側に流れる電流をI、C側に流れる電流をIとすれば、I=I+Iの関係が成立している。ここで、CのインピーダンスAは、数1によって示される。CのインピーダンスBは、数2によって示される。ここで、fは低周波の周波数である。
(数1)インピーダンスA=1/(2πfC
(数2)インピーダンスB=1/(2πfC
【0040】
図1の成膜装置100では、C>Cの関係が成り立つように、設計されていることが好ましい。反応室3の内部空間30は、プラスチック容器8の外表面にほぼ接する形状とすれば、その大きさはプラスチック容器8の形状に制限を受けるが、排気室5の内部空間31又は絶縁体スペーサー4の材質や厚さは自由に変更することができる。そこで、あらかじめC>Cの関係が成り立つように、例えば、絶縁体スペーサー4の厚さを大きくする、或いは、絶縁体スペーサー4の材質を比誘電率が小さいもので作製する、或いは、排気室5の内部空間31の容量を大きくとるように装置を製作しておく。そして、低周波電源27から400kHzの低周波電力を出力した場合を考える。図1の成膜装置100において、C>Cの関係、好ましくはC>>Cの関係が成り立つように設計することで、数3で示すようにインピーダンスBを、インピーダンスAを基準として相対的に高めることが可能となる。このとき、反応室3の内部空間30でのプラズマの発生はそのままとして、排気室5の内部空間31でのプラズマの発生のみを抑制することができる。そして図2で示すIを大きくすることができる。
(数3)インピーダンスB(f=400kHz)/インピーダンスA(f=400kHz)=C/C
【0041】
一方、数1と数2より、数4の結果を得る。数4によれば、差分(インピーダンスB−インピーダンスA)は、fが小さくなると、C−Cが正の場合、すなわちC>Cの関係が成り立つときのみ大きくなることがわかる。C>>Cの関係が成り立てば、前記差分がより大きくなる。
(数4)インピーダンスB−インピーダンスA=1/2πf・{(C−C)/C
【0042】
図1の成膜装置100を、C>Cの関係、好ましくはC>>Cの関係が成り立つように設計し、且つ、原料ガスのプラズマエネルギー源として低周波電力を供給することで、インピーダンスBが、インピーダンスAを基準として相対的に高まるため、排気室、さらにはその後の真空ポンプ23に至る排気経路でのプラズマの発生を抑制することができる。これにより、排気室や排気経路のプラズマのアタックによる損傷を少なくし、また、原料ガス系のダストの発生量を低減することができる。しかし、低周波電力により原料ガスをプラズマ化させるとき、プラズマの着火性若しくはその持続性が高周波電力により原料ガスをプラズマ化させたときと比較して悪化することがわかった。そこで、本実施形態においては、プラスチック容器8の内部に、スパーク発生部40を配置することとして、プラズマの着火性若しくはその持続性を確保することとした。このとき、スパーク発生部40を、プラスチック容器8の高さの中央より下方側に配置することが好ましい。容器の底面にガスバリア薄膜を成膜させやすく、膜厚分布を均質化しやすい。
【0043】
本実施形態に係るプラズマCVD成膜装置は、以上説明した構成を基本として、スパーク発生部40を有するプラズマ着火手段を備える。スパーク発生部40を有するプラズマ着火手段(イグナイターユニット)は、複数の形態があり、第1形態のプラズマCVD成膜装置100では、直流放電方式のプラズマ着火手段が備えられている。
【0044】
プラズマCVD成膜装置100において、プラズマ着火手段は高圧直流電源29を有し、スパーク発生部40は、高圧直流電源29に接続されたスパーク電極と、それと対向関係にある接地電極とを有し、且つ、スパーク電極と接地電極との間でスパークを発生させる。スパーク電極と接地電極とは、例えば2〜5mm離されている。高圧直流電源29は、1〜10kV程度の直流高圧電源が好ましい。スパーク電極に電圧を印加することで、プラスチック容器8内でスパークが発生する。スパークは、少なくともプラズマが着火するまでに要する時間の間、発生させることができればよいが、成膜時間を通して発生させ続けても良い。このスパークは、プラズマの着火を補助する。
【0045】
第1形態のプラズマCVD成膜装置100では、原料ガス供給管9は、導電性材料で形成され、且つ、その管内に、線状若しくは棒状の導電体41をその先端を除いて絶縁体42で被覆した状態として収容し、且つ、導電体41の先端に原料ガスを吹き付けるガス流路43を有する。ここで、導電体41をスパーク電極とし、原料ガス供給管9を接地電極としている。接地電極は、外部電極となる反応室3の対向電極の役割(内部電極)をなしている。なお、高圧直流電源29のオン−オフは、スイッチ28によって切りかえられる。
【0046】
導電体41がスパーク電極となるので導電体41は、モリブデン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、ニッケル、イリジウム又は白金或いはこれらの金属の基合金或いは炭素繊維で形成されていることが好ましい。電極の消耗及び電極物質の容器への汚染を抑制できる。また、電極の材質を炭素繊維とすれば、ガスバリア薄膜として炭素膜を成膜する場合に電極物質の汚染の心配がない。
【0047】
直流放電方式のプラズマ着火手段を備えた他形態の成膜装置として、図4に示した第2形態のプラズマCVD成膜装置200がある。図5には、図4の詳細を説明するための図を示した。ここで図5(a)はB-B断面図、図5(b)はスパーク発生部40の部分拡大概略図、を示す。この成膜装置200では、原料ガス供給管9は、導電性材料で形成され、且つ、その先端を除いて絶縁体42で被覆されてなり、且つ、原料ガス供給管9を内管として、その外側に導電性材料で形成された外管44を配置して二重管の構造としている。そして、外管44を接地電極とし、原料ガス供給管9をスパーク電極としている。接地電極は、外部電極となる反応室3の対向電極の役割(内部電極)をなしている。なお、高圧直流電源29のオン−オフは、スイッチ28によって切りかえられる。
【0048】
原料ガス供給管9がスパーク電極となるので、その材質は、プラズマCVD成膜装置100の場合と同様の材料が選択される。
【0049】
次にスパーク発生部40を有するプラズマ着火手段が、低周波放電方式である場合について、成膜装置の形態例を2つ示して説明する。まず、図6に示した第3形態のプラズマCVD成膜装置300がある。なお、図6において、A-A断面図及びスパーク発生部40の部分拡大概略図は図3に示したとおりである。
【0050】
図6にプラズマCVD成膜装置300において、プラズマ着火手段は、低周波電力供給手段35に接続された分配器25を有し、スパーク発生部40は、分配器25に接続されたスパーク電極と、それと対向関係にある接地電極とを有し、且つ、スパーク電極と接地電極との間でスパークを発生させる。スパーク電極と接地電極とは、例えば2〜5mm離されている。スパークを発生させるエネルギー源として、低周波電力供給手段35の低周波電源27を兼用して使用する。なお、別の低周波電源を接続しても良い。スパーク発生部40に低周波電力を印加することで、プラスチック容器8の内部でスパークが発生する。なお、低周波電力のスパーク発生部40への供給のオン−オフは、スイッチ28によって切りかえられる。スパークは、成膜時間を通して発生させ続けるが、スイッチ28によってスパーク発生部40への低周波電力の供給を停止し、少なくともプラズマが着火するまでに要する時間の間、プラズマを発生させることとしても良い。このスパークは、プラズマの着火を補助する。分配器25とスパーク電極との接続の間に、位相シフタ45を直列に接続することが好ましい。これにより低周波放電の持続性が高まる。第3形態のプラズマCVD成膜装置300では、第1形態の成膜装置100と同様の構造の原料ガス供給管9を有していて、原料ガス供給管9を接地電極とし、導電体41をスパーク電極としている。スパーク電極の材質も同様に選択する。
【0051】
低周波放電方式のプラズマ着火手段を備えた他形態の成膜装置として、図7に示したプラズマCVD成膜装置400がある。なお、図7において、B-B断面図及びスパーク発生部40の部分拡大概略図は図5に示したとおりである。この成膜装置400では、図6に示した成膜装置300と同様にスパーク発生部40への低周波電力が供給される。また、図4に示した成膜装置200の原料ガス供給管9と同様の構造の原料ガス供給管が装備されていて、外管44を接地電極とし、原料ガス供給管9をスパーク電極としている。スパーク電極の材質も同様に選択する。
【0052】
第1〜第4のいずれの形態の成膜装置においても、絶縁体42は絶縁碍子とすることが好ましい。
【0053】
スパーク電極又は接地電極となる原料ガス供給管9の表面、導電体41の先端、外管44の表面には、原料ガス由来の異物が付着する場合がある。これを除去するために、拭き取り手段を設けて拭き取るか、或いは通電手段を設けて発熱させて燃焼させることとしても良い。スパーク電極又は接地電極に炭素系異物等の原料ガス由来の異物が析出しても除去できるので、電極クリーニングに起因する稼動停止を低減できる。
【0054】
次に、本実施形態に係るガスバリア性プラスチック容器の製造方法を説明する。以下ことわりがない限り、図1の成膜装置100を用いて、DLC膜をガスバリア薄膜として成膜する場合を説明する。
【0055】
真空チャンバ7内は、真空バルブ18を開いて大気開放されており、反応室3の下部外部電極1が上部外部電極2から取り外された状態となっている。上部外部電極2の下側から上部外部電極2内の空間にプラスチック容器8を差し込み、反応室3の内部空間30内に設置する。この際、原料ガス供給管9はプラスチック容器8内に挿入された状態になる。次に、下部外部電極1を上部外部電極2の下部に装着し、反応室3はO−リング10によって密閉される。
【0056】
次に、プラスチック容器8の内部を原料ガスに置換するとともに所定の成膜圧力に調整する。すなわち、図1に示すように、真空バルブ18を閉じた後、真空バルブ22を開き、真空ポンプ23を作動させ、反応室3の内部ガスを、絶縁体スペーサー4によって反応室3と電気的に絶縁されている排気室5を経由して排気する。これにより、プラスチック容器8内を含む真空チャンバ7内が配管21を通して排気され、真空チャンバ7内が真空となる。このときの真空チャンバ7内の圧力は、例えば2.6〜66Paである。次に、真空バルブ12を開き、原料ガス発生源15においてアセチレンガス等の炭化水素ガスを発生させ、この炭化水素ガスを配管14内に導入し、マスフローコントローラー13によって流量制御された炭化水素ガスを配管11及びアース電位の原料ガス供給管(内部電極)9を通してガス吹き出し口9aから吹き出させる。これにより、炭化水素ガスがプラスチック容器8内に導入される。そして、真空チャンバ7内とプラスチック容器8内は、制御されたガス流量と排気能力のバランスによって、DLC膜の成膜に適した圧力(例えば6.6〜665Pa程度)に保たれ、安定化させる。
【0057】
次に、プラスチック容器8の内部に原料ガスを減圧された所定圧力下で吹き出させているときに、反応室3に低周波電力(例えば、400kHz)を供給する。低周波電力をエネルギー源として、プラスチック容器8内の原料ガスがプラズマ化される。これによって、プラスチック容器8の内表面にDLC膜が成膜される。すなわち反応室3に低周波電力が供給されることによって、反応室3と原料ガス供給管9との間でバイアス電圧が生ずると共にプラスチック容器8内の原料ガスがプラズマ化されて炭化水素系プラズマが発生し、DLC膜がプラスチック容器8の内表面に成膜される。このとき、自動整合器26は、出力供給している電極全体からの反射波が最小になるように、インダクタンスL、キャパシタンスCによってインピーダンスを合わせている。
【0058】
低周波電力の供給とほぼ同時に、スイッチ28をオンとする。これによって、プラズマ着火手段が作動し、スパーク発生部40で導電体41(スパーク電極)と接地されている原料ガス供給管9との間で直流放電によるスパークが発生する。これにより、低周波電力をエネルギー源として原料ガスがプラズマ化される際に、着火不良を低減し、また、着火持続性が付与される。着火の有無は着火モニタ等の検出手段(不図示)で判断する。スパークをプラズマの着火後直ぐに停止させても良い。
【0059】
図1の成膜装置100において、C>Cの関係、好ましくはC>>Cの関係が成立させた状態で、低周波電力を供給することで、図2及び数1〜数4で説明したように、排気室5、さらにはその後の真空ポンプ23に至る排気経路でのプラズマの発生を抑制することができる。これにより、排気室5や排気経路のプラズマのアタックによる損傷を少なくし、また、原料ガス系のダストの発生量を低減することができる。ここで、排気室5の内部空間31でのプラズマの発生が抑制されるに伴って、その分、反応室3の内部空間30でのプラズマの発生にエネルギーの消費がまわされるとともに、プラズマの発生する中心箇所がプラスチック容器8の肩部から口部に至る部分であったところ、プラスチック容器8の中心である胴部に移る。したがって、容器の主軸方向に沿った膜厚分布が均一化される。
【0060】
膜厚分布が均一化されることによって、プラスチック容器8の口部の内壁面でのDLC膜の膜厚が従来と比較して薄くなるため、口部の内壁面にDLC膜に由来する着色が低減され、意匠性の向上がもたらされる。
【0061】
次に、低周波電源27の低周波電力の出力を停止し、プラズマを消滅させてDLC膜の成膜を終了させる。ほぼ同時に真空バルブ12を閉じて原料ガスの供給を停止する。
【0062】
次に、真空チャンバ7内及びプラスチック容器8内に残存した炭化水素ガスを除くために真空ポンプ23によって排気する。その後、真空バルブ22を閉じ、排気を終了させる。このときの真空チャンバ7内の圧力は6.6〜665Paである。この後、真空バルブ18を開く。これにより、真空チャンバ7が大気開放される。
【0063】
いずれも成膜時間は数秒程度と短いものとなる。DLC膜の膜厚は0.003〜5μmとなるように形成する。
【0064】
図4の成膜装置200を使用した場合においては、低周波電力の供給とほぼ同時に、同様にスイッチ28をオンとする。これによって、プラズマ着火手段が作動し、スパーク発生部40でスパーク電極である原料ガス供給管9と接地電極である外管44との間で直流放電によるスパークが発生する。これにより、低周波電力をエネルギー源として原料ガスがプラズマ化される際に、着火不良を低減し、また、着火持続性が付与される。着火の有無は着火モニタ等の検出手段(不図示)で判断する。スパークをプラズマの着火後直ぐに停止させても良い。
【0065】
図6の成膜装置300を使用した場合においては、低周波電力の供給とほぼ同時に、同様にスイッチ28をオンとする。これによって、プラズマ着火手段が作動し、スパーク発生部40でスパーク電極である導電体41と接地電極である原料ガス供給管9との間で低周波放電によるスパークが発生する。これにより、低周波電力をエネルギー源として原料ガスがプラズマ化される際に、着火不良を低減し、また、着火持続性が付与される。着火の有無は着火モニタ等の検出手段(不図示)で判断する。スパークをプラズマの着火後直ぐに停止させても良い。
【0066】
図7の成膜装置400を使用した場合においては、低周波電力の供給とほぼ同時に、同様にスイッチ28をオンとする。これによって、プラズマ着火手段が作動し、スパーク発生部40でスパーク電極である原料ガス供給管9と接地電極である外管44との間で低周波放電によるスパークが発生する。これにより、低周波電力をエネルギー源として原料ガスがプラズマ化される際に、着火不良を低減し、また、着火持続性が付与される。着火の有無は着火モニタ等の検出手段(不図示)で判断する。スパークをプラズマの着火後直ぐに停止させても良い。
【実施例】
【0067】
以下、実施例を示して本発明を更に詳細に説明する。実施例で使用したプラスチック容器は、容量500ml、容器の高さ207mm、容器胴部径68mm、口部開口部内径21.74mm、口部開口部外径24.94mm、口部の高さ21.0mm、容器胴部肉厚0.3mm、樹脂量30g/本のPET(ポリエチレンテレフタレート)容器である。
【0068】
評価は次の通りで行なった。
(成膜均一性)
成膜均一性は次のように求めた。容器底面から2cm上(底部)、同8cm上(胴部)、同16cm上(肩部)について、それぞれ周方向に3箇所を選んで膜厚を測定する。膜厚は、Tenchol社alpha−step500の触針式段差計で測定した。それらを平均して、底部、胴部及び肩部の各平均膜厚を求める。底部、胴部及び肩部の各平均膜厚の中から平均膜厚が厚い結果(平均膜厚A)と、最も平均膜厚が薄い結果(平均膜厚B)を選びだし、数5により成膜均一性(%)を求める。成膜均一性(%)が低いほど、均一性が高い。
(数5)成膜均一性(%)=(平均膜厚A−平均膜厚B)/(平均膜厚A+平均膜厚B)×100
【0069】
(成膜速度)
容器の平均膜厚Aを成膜時間で割ることで、単位時間(秒)当たりの成膜厚さを求めた。
【0070】
(排気室の発光量)
排気室の内部空間におけるプラズマ発生の有無及びその程度を調べるため、当該内部空間に光ファイバーの一端(入光部)を設置し、その光ファイバーの他端を放電センサー(フォトーダイオード、株式会社山武製光電センサー、HPX−MA−063)に接続し、光ファイバーに入射する光をモニタリングした。光ファイバーの入光部の位置は、例えば図1の成膜装置において、「D」で示す箇所とした。放電センサーの出力値(V)の大小で、排気室内でのプラズマの発生の有無及びその程度を評価した。出力値が大きいほど排気室内でのプラズマの発生量が多いことを示している。
【0071】
(排気室内でのダストの発生量)
開口部32bの壁面(例えば図1ではEと表記した箇所)にシリコンチップAを取り付け、排気室5の排気口付近(例えば図1ではFと表記した箇所)の壁面にシリコンチップBを取り付け、同一条件で20回、容器に成膜した後、取り出して電子天秤(新光電子製、高精度電子天秤AF-R220)で重量を測定した。成膜前後の重量差から付着ダスト量とした。
【0072】
(試験1)
図1に示したプラズマCVD成膜装置100を用いて、PETボトルの内壁面にDLC膜を成膜した。成膜条件は、原料ガスはアセチレンを使用し、原料ガス流量を120sccm、排気室5の内部空間31の容積を1.2リットル、絶縁体スペーサー4(ポリエーテルエーテルケトン製)の厚さを10mm、低周波電源27(0.4MHz)の出力を600W、成膜時間を2秒間とした。プラズマ着火手段は作動させた。なお、ダストの発生量の評価は、この条件で20回成膜後に行なった。排気室5の発光量は0Vで発光しなかった。ダストの発生量(A)は0.1mg以下、(B)は0.1mg以下であり、反応室3の内部空間のみでプラズマが発生していた。成膜均一性は8%、成膜速度は143Å/sであった。
(試験2)
一方、比較例として、低周波電力の代わりに高周波電源(13.56MHz)を接続し、原料ガス供給管を内部電極とした不図示のプラズマCVD成膜装置を用いて、PETボトルの内壁面にDLC膜を成膜した。成膜条件は、原料ガスはアセチレンを使用し、原料ガス流量を120sccm、排気室の内部空間の容積を1.2リットル、絶縁体スペーサー(ポリエーテルエーテルケトン製)の厚さを10mm、高周波電源(13.56MHz)の出力を600W、成膜時間を2秒間とした。プラズマ着火手段は装備されていない。なお、ダストの発生量の評価は、この条件で20回成膜後に行なった。排気室5の発光量は1.8V、ダストの発生量(A)は1.0mg、(B)は0.6mgであり、反応室3の内部空間及び排気室5の内部空間の両方ともプラズマが発生していた。成膜均一性は36%、成膜速度は176Å/sであった。
【0073】
高周波電力を供給した試験2(比較例)と低周波電力を供給した試験1とを比較すると、低周波電力を供給すると排気室の発光量が0Vで発光せず、排気室内でのプラズマ発生が抑制されたことがわかった。これに伴い、排気室でのダスト付着量も低減した。また、成膜均一性も向上したことがわかった。
【0074】
図8に試験1の条件で100回成膜したボトル(図8(a))と試験2で100回成膜したボトル(図8(b))の外観画像の比較を示した。試験1では容器口部の成膜が抑制されたことがわかる。プラズマ発生の中心部分が下方にずれたためと考えられる。
【0075】
(試験3)
試験1の条件で、プラズマ着火手段を作動させ、スパーク発生部40で常にスパークを発生させ、プラズマが着火するとほぼ同時にスパークを消した。成膜回数を30,000回行なったところ、プラズマの不着火トラブルは0回であった。なお、途中、適時、原料ガス供給管9(内部電極)の外表面と、スパーク電極である線状若しくは棒状の導電体41もその先端を洗浄した。
【0076】
(試験4)
比較例として、試験1の条件で、プラズマ着火手段を作動させずに成膜を繰り返した。成膜回数を30,000回行なったところ、プラズマの不着火トラブルは17回であった。なお、この場合においても、原料ガス供給管9(内部電極)の外表面と、スパーク電極である線状若しくは棒状の導電体41もその先端を洗浄した。
【0077】
試験4では、低周波電力を供給してプラズマを発生させるため、試験1の結果を考慮すれば排気室5の内部空間31におけるプラズマ発生を抑制していることがわかるが、プラズマの着火不良若しくは着火持続不良のトラブルが生じた。これに対して、試験3では、このようなトラブルはなく、試験1で製造されたガスバリア性プラスチック容器が安定して製造された。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】第1形態のプラズマCVD成膜装置を示す概略構成図である。
【図2】第1形態のプラズマCVD成膜装置に対応する2極放電型の回路図を示す。
【図3】図1の詳細を説明するための図であって、(a)はA-A断面図、(b)はスパーク発生部の部分拡大概略図、を示す。
【図4】第2形態のプラズマCVD成膜装置を示す概略構成図である。
【図5】図4の詳細を説明するための図であって、(a)はB-B断面図、(b)はスパーク発生部の部分拡大概略図、を示す。
【図6】第3形態のプラズマCVD成膜装置を示す概略構成図である。
【図7】第4形態のプラズマCVD成膜装置を示す概略構成図である。
【図8】試験1の条件で100回成膜したボトルと試験2で100回成膜したボトルの外観画像の比較を示す図であり、(a)が試験1(実施例)、(b)が試験2(比較例)である。
【符号の説明】
【0079】
1 下部外部電極
2 上部外部電極
3 反応室
4 絶縁体スペーサー
5 排気室
6 蓋
7 真空チャンバ
8 プラスチック容器
9 原料ガス供給管
9a ガス吹き出し口
10,37,38 O−リング
11,14,17,21 配管
12,18,22,真空バルブ
13 マスフローコントローラー
15 原料ガス発生源
16 原料ガス供給手段
19 リーク源
20 圧力ゲージ
23 真空ポンプ
24 排気ダクト
25 分配器
26 自動整合器
27 低周波電源
28 スイッチ
29 高圧直流電源
30 反応室の内部空間
31 排気室の内部空間
32,32a,32b 開口部
35 低周波電力供給手段
40 スパーク発生部
41 導電体
42 絶縁体(絶縁碍子)
43 ガス流路
44 外管
45 位相シフタ
100 第1形態のプラズマCVD成膜装置
200 第2形態のプラズマCVD成膜装置
300 第3形態のプラズマCVD成膜装置
400 第4形態のプラズマCVD成膜装置



【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック容器を収容する反応室と、排気室と、前記反応室と前記排気室に挟まれて各々を電気的に絶縁させるとともに前記反応室と前記排気室とを連通させる開口部を設けた絶縁体スペーサーと、前記排気室に接続され、前記開口部と前記排気室を経由して前記反応室の内部ガスを排気する真空ポンプと、前記プラスチック容器の内部に配置された原料ガス供給管と、該原料ガス供給管に原料ガスを供給する原料ガス供給手段と、前記反応室に周波数100kHz〜3MHzの低周波電力を供給する低周波電力供給手段と、前記プラスチック容器の内部に配置されたスパーク発生部を有するプラズマ着火手段と、を備え、前記プラスチック容器と前記反応室の内部空間との合成静電容量をCとし、前記絶縁体スペーサーと前記排気室の内部空間との合成静電容量をCとしたとき、C>Cの関係が成立することを特徴とするプラズマCVD成膜装置。
【請求項2】
前記スパーク発生部を、前記プラスチック容器の高さの中央より下方側に配置したことを特徴とする請求項1に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項3】
前記プラズマ着火手段は高圧直流電源を有し、
前記スパーク発生部は、前記高圧直流電源に接続されたスパーク電極と、接地電極とを有し、且つ、前記スパーク電極と前記接地電極との間でスパークを発生させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項4】
前記プラズマ着火手段は前記低周波電力供給手段に接続された分配器を有し、
前記スパーク発生部は、前記分配器に接続されたスパーク電極と、接地電極とを有し、且つ、前記スパーク電極と前記接地電極との間でスパークを発生させることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項5】
前記分配器と前記スパーク電極との接続の間に、位相シフタを直列に接続したことを特徴とする請求項4に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項6】
前記スパーク電極は、モリブデン、タンタル、ジルコニウム、ニオブ、ニッケル、イリジウム又は白金或いはこれらの金属の基合金或いは炭素繊維で形成されていることを特徴とする請求項3、4又は5に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項7】
前記原料ガス供給管は、導電性材料で形成され、且つ、その管内に、線状若しくは棒状の導電体をその先端を除いて絶縁体で被覆した状態として収容し、且つ、前記導電体の先端に前記原料ガスを吹き付けるガス流路を有し、且つ、
前記導電体を前記スパーク電極とし、前記原料ガス供給管を前記接地電極としたことを特徴とする請求項3、4、5又は6に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項8】
前記原料ガス供給管は、導電性材料で形成され、且つ、その先端を除いて絶縁体で被覆されてなり、且つ、前記原料ガス供給管を内管として、その外側に導電性材料で形成された外管を配置して二重管の構造を有し、且つ、
前記原料ガス供給管を前記スパーク電極とし、前記外管を前記接地電極としたことを特徴とする請求項3、4、5又は6に記載のプラズマCVD成膜装置。
【請求項9】
反応室にプラスチック容器を収容する工程と、
真空ポンプを作動させて前記反応室の内部ガスを、絶縁体スペーサーによって前記反応室と電気的に絶縁されている排気室を経由して排気する工程と、
前記プラスチック容器の内部に原料ガスを減圧された所定圧力下で吹き出させる工程と、
前記プラスチック容器と前記反応室の内部空間との合成静電容量をCとし、前記絶縁体スペーサーと前記排気室の内部空間との合成静電容量をCとしたとき、C>Cの関係が成立する状態において、前記反応室に周波数100kHz〜3MHzの低周波電力を供給し、且つ、前記プラスチック容器の内部で強制スパークを行なって前記原料ガスをプラズマ化させ、前記プラスチック容器の内壁面にガスバリア薄膜を成膜する工程と、
を有することを特徴とするガスバリア性プラスチック容器の製造方法。
【請求項10】
前記ガスバリア薄膜として、炭素膜、珪素含有炭素膜又はSiO膜を成膜することを特徴とする請求項9に記載のガスバリア性プラスチック容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−126732(P2007−126732A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322063(P2005−322063)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(592079804)三菱商事プラスチック株式会社 (9)
【出願人】(595152438)株式会社ユーテック (59)
【出願人】(000253503)麒麟麦酒株式会社 (247)
【Fターム(参考)】