説明

プリプレグ、積層板およびプリント配線板

【課題】エポキシ樹脂硬化物の低熱膨張性と高熱伝導性を両立するプリプレグ、積層板ないしはプリント配線板を提供する。
【解決手段】
エポキシ樹脂と硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物をシート状の繊維基材に含浸し半硬化状態としてなるプリプレグにおいて、当該エポキシ樹脂は、(式1)で示す分子構造を有するエポキシ樹脂化合物とする。エポキシ樹脂と硬化剤を合せた樹脂固形分100質量部に対し熱可塑性の液晶ポリマ粒子を5〜50質量部、エポキシ樹脂と硬化剤を合せた樹脂固形分100体積部に対し熱伝導率が20W/m・K以上の無機充填材を10〜100体積部となるように、これらをエポキシ樹脂組成物に含有させる。これを使用して、プリプレグ、積層板ないしプリント配線板を構成する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導率が高いエポキシ樹脂と熱可塑性の液晶ポリマ粒子とを混合した組成物を適用したプリプレグ、当該プリプレグを用いた積層板ないしはプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
メソゲン構造を有するエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物は、機械的・熱的性質に優れている。
例えば、特許文献1には、ビフェノール型エポキシ樹脂と多価フェノール樹脂硬化剤を必須成分としたエポキシ樹脂組成物の開示がある。このエポキシ樹脂組成物は、高温下での安定性と強度に優れた硬化物を提供でき、接着、注型、封止、成型、積層等の広い分野で使用できる。
また、特許文献2には、屈曲鎖で連結された二つのメソゲン構造を分子内に有するエポキシ樹脂モノマの開示がある。このモノマから製造したエポキシ樹脂はスメクチック構造を持つことが知られている。
【0003】
さらに、特許文献3には、メソゲン基を有するエポキシ樹脂モノマを含む樹脂組成物の開示がある。このエポキシ樹脂は、熱伝導性に優れ、放熱性が求められる積層板用の樹脂として好ましい。
【0004】
しかし、このようなメソゲン構造を有するエポキシ樹脂は熱膨張率が高く、低熱膨張率が求められる基板には使用できない欠点があった。そして、その欠点を補うために無機フィラを大量に添加すると基板の加工性が悪化し、また、低熱膨張性有機化合物の第3成分を添加すると、樹脂の自己配列が乱されて、その硬化物の熱伝導率が低下するという問題が生じた。
【0005】
【特許文献1】特開平07−090052号公報
【特許文献2】特開平09−118673号公報
【特許文献3】特開平11−323162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、熱伝導率が高いエポキシ樹脂と熱可塑性の液晶ポリマ粒子、そして、熱伝導率の高い無機充填材を混合した組成物を適用したプリプレグ、当該プリプレグを用いた積層板ないしはプリント配線板を提供し、エポキシ樹脂硬化物を低熱膨張にし熱伝導率も高くすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するための、本発明の要旨は以下のとおりである。
エポキシ樹脂と硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物をシート状の繊維基材に保持し半硬化状態としてなるプリプレグにおいて、当該エポキシ樹脂は、(式1)で示す分子構造を有するエポキシ化合物であり、エポキシ樹脂と硬化剤を合せた樹脂固形分(以下、単に「樹脂固形分」という)100質量部に対し熱可塑性の液晶ポリマ粒子を5〜50質量部、樹脂固形分100体積部に対し熱伝導率20W/m・K以上の無機充填材を10〜100体積部となるようにエポキシ樹脂組成物に含有することを特徴とする。
【0008】
【化1】

【0009】
本発明に係る積層板は、上述したプリプレグを、一体に積層成形するプリプレグ層の全層ないしは一部の層として加熱加圧成形してなるものである。また、本発明に係るプリント配線板は、上述したプリプレグの層を加熱加圧成形してなる絶縁層を備えたものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、熱可塑性の液晶ポリマ粒子を樹脂固形分100質量部に対し5〜50質量部、熱伝導率20W/m・K以上の無機充填材を樹脂固形分100体積部に対し10〜100体積部となるように含有した低熱膨張性のエポキシ樹脂組成物を適用してプリプレグを構成したものである。
【0011】
熱可塑性の液晶ポリマ粒子を添加することによって、熱などによって積層板にかかる応力が緩和され、エポキシ樹脂硬化物が膨張しにくくなる。また、液晶性のポリマでは、一般の樹脂に比べて熱伝導率が高く、これを添加することによってエポキシ樹脂硬化物全体の熱伝導率も高くなる。熱可塑性の液晶ポリマの添加量は、樹脂固形分100質量部に対し5〜50質量部であることが必須である。5質量部未満では液晶ポリマが少なすぎるため熱膨張係数が高くなり、50質量部より多いと樹脂の接着強度が低下する。
【0012】
無機充填材は、20W/m・K以上の熱伝導率を有するものであり、樹脂固形分100体積部に対し10〜100体積部になるよう添加する。無機充填材の熱伝導率が20W/m・K未満であると、エポキシ樹脂硬化物の熱伝導率が向上しない。
【0013】
上記のプリプレグを加熱加圧成形した硬化物は熱膨張率が低く、しかも熱伝導性のよい積層板ないしはプリント配線板を提供することに寄与する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明においては、熱可塑性の液晶ポリマと熱伝導率の高い無機充填材を用いることが重要である。エポキシ化合物は、ビフェニル骨格あるいはビフェニル誘導体の骨格をもち、1分子中に2個以上のエポキシ基をもつエポキシ化合物全般である。エポキシ化合物は、好ましくは、(式2)で示される分子構造式のものを選択する。ビフェニル基がより配列しやすいため、熱伝導率をより高くすることができる。
【0015】
【化2】

【0016】
本発明において、添加する液晶ポリマ粒子は熱可塑性の全芳香族および半芳香族のポリエステル樹脂、またはポリフェニレンスルフィド(PPS)などの芳香族スルフィド化合物である。
【0017】
無機充填材は、20W/m・K以上の熱伝導率を有していれば、金属酸化物又は水酸化物あるいは無機セラミックス、その他の充填材を含むことができる。例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、窒化チタン、酸化亜鉛、炭化タングステン、アルミナ、酸化マグネシウム等の無機粉末充填材、合成繊維、セラミックス繊維等の繊維質充填材、着色剤等であり、これをエポキシ化合物と共に用いることで積層板の熱伝導率が向上する。無機充填材の熱伝導率が30W/m・K以上であれば積層板の熱伝導率がさらに高くなるので好ましい。
【0018】
さらに、充填材の形状は、粉末(塊状、球状)、短繊維、長繊維等いずれであってもよいが、球状以外、特に、平板状のものであれば、無機充填材自身の積層効果によって硬化物の熱伝導性はさらに高くなり、これを適用した積層板の放熱性がさらに向上するので好ましい。これら無機充填材は2種類以上を併用してもよい。
【0019】
本発明に適用するエポキシ樹脂組成物は、通常のエポキシ樹脂に硬化剤を配合したエポキシ樹脂組成物に比べて熱膨張率が小さくなるため、より精密な回路加工を必要とする積層板、あるいは液晶用ドライバなどの低熱膨張性が求められる積層用の材料として好適である。
エポキシ樹脂に配合する硬化剤は、エポキシ樹脂モノマの硬化反応を進行させるために従来用いられている硬化剤を使用することができる。例えば、フェノール類又はその化合物、アミン化合物やその誘導体、酸無水物、イミダゾールやその誘導体などが挙げられる。また、硬化促進剤は、エポキシ樹脂モノマとフェノール類又はその化合物、アミン類またはその化合物との重縮合反応を進行させるために従来用いられている硬化促進剤を使用することができる。例えば、トリフェニルホスフィン、イミダゾールやその誘導体、三級アミン化合物やその誘導体などが挙げられる。
エポキシ樹脂と硬化剤、無機充填材、硬化促進剤を配合したエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて難燃剤や希釈剤、可塑剤、カップリング剤等を含むことができる。また、このエポキシ樹脂組成物をシート状繊維基材に含浸し乾燥してプリプレグを製造する際、必要に応じて溶剤を使用することができる。これらの使用が、硬化物の熱伝導性に影響を与えることはない。
【0020】
本発明に係るプリプレグは、上記のエポキシ樹脂組成物を、ガラス繊維や有機繊維で構成されたシート状繊維基材(織布や不織布)に含浸し加熱乾燥して、エポキシ樹脂を半硬化状態としたものである。そして、積層板は、前記プリプレグを、プリプレグ層の全層ないしは一部の層として加熱加圧成形してなるものであり、必要に応じて前記加熱加圧成形により片面あるいは両面に銅箔等の金属箔を一体に貼り合せる。さらに、プリント配線板は、前記のプリプレグ層を加熱加圧成形してなる絶縁層を備えたものであり、片面プリント配線板、両面プリント配線板、さらには、内層と表面層にプリント配線を有する多層プリント配線板である。
【0021】
以上のような構成のプリント配線板は、絶縁層の熱伝導性が良好で優れた放熱性を有する。自動車機器用のプリント配線板、パソコン等の高密度実装プリント配線板に好適である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明に係る実施例を示し、本発明について詳細に説明する。尚、以下の実施例および比較例において、「部」とは「質量部」を意味する。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、本実施例に限定されるものではない。
【0023】
実施例1
エポキシ樹脂モノマ成分としてビフェニル骨格をもつエポキシ樹脂モノマ(ジャパンエポキシレジン製「YL6121H」,エポキシ当量175)100部を用意し、これをメチルイソブチルケトン(和光純薬製)100部に100℃で溶解し、室温に戻した。
硬化剤として1,5−ジアミノナフタレン(和光純薬製「1,5−DAN」,アミン当量40)22部を用意し、これをメチルイソブチルケトン(和光純薬製)100部に100℃で溶解し、室温に戻した。
尚、「YL6121H」は、既述の分子構造式(式1)において、R=−CH,n=0.1であるエポキシ樹脂モノマと分子構造式(式2)において、n=0.1であるエポキシ樹脂モノマを等モルで含有するエポキシ樹脂モノマである。
上記のエポキシ樹脂モノマ溶液と硬化剤溶液を混合・撹拌して均一なワニスにし、さらに熱可塑性の液晶ポリマとしてPPS(日本ポリプラスチックス製)12部と無機充填材として窒化ホウ素(電気化学工業製「GP」,平均粒子径:8μm,熱伝導率60W/m・K,粒子形状:平板状)107部(樹脂固形分100体積部に対し50体積部)を加えて混練しエポキシ樹脂ワニスを調製した。
このエポキシ樹脂ワニスを、厚さ0.2mmのガラス繊維織布に含浸し加熱乾燥してプリプレグを得た。このプリプレグ4枚とその両側に銅箔を重ね、温度175℃、圧力4MPaの条件で90分間加熱加圧形成して一体化し、厚さ0.8mmの積層板を得た。
【0024】
実施例1で得た積層板について熱伝導率を測定した結果を、エポキシ樹脂組成物の配合組成と共に表1にまとめて示す。
熱伝導率:積層板から、50mm×120mmの板状試料を切り出し、プローブ法に準拠して室温で測定した。
【0025】
比較例1
PPSを用いず、それ以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。
この積層板の熱伝導率は1.7W/m・Kであり、PPSを使用した場合とあまり変わらないものの、熱膨張率は50ppm/Kであり、実施例1より低い結果となった。
【0026】
実施例2〜3
樹脂固形分100部に対するPPSの配合量を表1に示すように変えたエポキシ樹脂ワニスを用い、それ以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。
この積層板から50mm×120mmの板状試料を切り出し、熱伝導率を測定した結果、樹脂固形分100部に対しPPS5〜50部の範囲(実施例1〜3)では、PPSの添加量が増加すると熱伝導率は向上し、熱膨張率は低下した。いずれも積層板を作製することができ、高い熱伝導率と低熱膨張性が得られた。
【0027】
比較例2
熱可塑性液晶ポリマPPSを使用せず、その代わりに、ゴム状の有機物(武田薬品製「AC−3355」)12部を用いる以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。この積層板の熱膨張率は29ppm/Kであり、PPSを使用した場合とあまり変わらないものの、熱伝導率は1.1W/m・Kであり、実施例1より低い結果となった。
【0028】
比較例3
窒化ホウ素「GP」を使用せず、その代わりに、球形の無機充填材である水酸化アルミニウム(住友化学製「C−302A」,平均粒径2.0μm,熱伝導率3.0W/m・K,粒子形状:球形)115部(樹脂固形分100体積部に対し50体積部)を用いる以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。この積層板の熱伝導率は0.6W/m・Kであり、実施例1より低い結果となった。
【0029】
実施例4
窒化ホウ素「GP」を使用せず、その代わりに、球形の無機充填材である酸化マグネシウム(協和化学製「5301」,平均粒径5μm,熱伝導率30W/m・K,粒子形状:球形)166部(樹脂固形分100体積部に対し50体積部)を用いる以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。この積層板の熱伝導率は1.3W/m・Kであり、実施例1より多少低いものの、熱伝導率の高い積層板が得られた。
【0030】
比較例4、5
樹脂固形分100部に対するPPSの配合量を表1に示すように変えたエポキシ樹脂ワニスを用い、それ以外は、実施例1と同様にしてプリプレグおよび積層板を得た。樹脂固形分に対するPPSの配合を少なくすると熱膨張率は低下せず(比較例4)、多くするとエポキシ樹脂ワニスの粘性が高くなりすぎて基材に均一に含浸しにくく、接着強度(ピール強度)も0.6kN/mと低下した(比較例5)。
【0031】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂と硬化剤を含むエポキシ樹脂組成物をシート状の繊維基材に保持し半硬化状態としてなるプリプレグにおいて、当該エポキシ樹脂は、(式1)で示す分子構造を有するエポキシ化合物であり、エポキシ樹脂と硬化剤を合せた樹脂固形分100質量部に対し熱可塑性の液晶ポリマ粒子を5〜50質量部、エポキシ樹脂と硬化剤を合せた樹脂固形分100体積部に対し熱伝導率20W/m・K以上の無機充填材を10〜100体積部となるようにエポキシ樹脂組成物に含有することを特徴とするプリプレグ。
【化1】

【請求項2】
エポキシ樹脂が、(式2)で示す分子構造を有するエポキシ化合物であることを特徴とする請求項1記載のプリプレグ。
【化2】

【請求項3】
請求項1又は2に記載のプリプレグをプリプレグ層の全層ないしは一部の層として加熱加圧成形してなる積層板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のプリプレグの層を加熱加圧成形してなる絶縁層を備えることを特徴とするプリント配線板。

【公開番号】特開2006−36868(P2006−36868A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−216749(P2004−216749)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】